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裁判年月日 平成22年10月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)45235号
事件名 航空券代金等請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2010WLJPCA10278004
要旨
◆原告が、被告に対し、発注を受けた後にキャンセルされた航空券のキャンセル料及び発注を受けた航空券の代金の支払を請求した事案において、同航空券の発注は無権代理人によるものであるが、被告は支払確認書に署名したことにより無権代理行為を追認したなどとした上で、上記署名と引き替えに原被告間において広告掲載契約が成立したとの被告の主張(相殺の抗弁)について、同契約について上記確認書と同様の書面は作成されておらず、また、同確認書に同契約の成立を条件とする旨の記載もないから、同契約の成立は認められないとして相殺の抗弁を排斥し、原告の請求を認容した事例
出典
参照条文
民法116条
裁判年月日 平成22年10月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平21(ワ)45235号
事件名 航空券代金等請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2010WLJPCA10278004
東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 株式会社パーパスジャパン
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 久保田正治
東京都港区〈以下省略〉
原告補助参加人 Z
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 株式会社メディア・クリエイティヴ・リレイションズ
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 依田敏泰
主文
1 被告は,原告に対し,46万1610円及びこれに対する平成21年3月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文と同じ。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,発注を受けたが後にキャンセルされた航空券のキャンセル料及び発注を受けた航空券の代金の支払を請求した事案である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 原告は,旅行業等を業とする会社であり,被告は,広告,宣伝の企画及び製作等を業とする会社である(争いがない。)。
(2) 原告補助参加人は,平成20年11月20日,原告に対し,電話連絡し,同日から同月28日にかけて,スペインのイビサに行く経路や航空運賃等について種々交渉し,最終的に同月28日,下記航空券(以下「本件航空券」という。)の発注をした。その際,原告は,原告補助参加人に対し,「この航空券は,低価格である代わりに,予約後にキャンセルしても,料金は100パーセント支払わなければならないものである。」旨説明し,原告補助参加人はこれを了承した(証人原告補助参加人,被告代表者本人,弁論の全趣旨)。
記
ア 旅程1
(ア) 12月9日 イベリア航空8956便 マドリッド発 イビサ行
(イ) 12月11日 イベリア航空8957便 イビサ発 マドリッド行
搭乗者 被告代表者 料金 5万5000円
イ 旅程2
(ア) 12月9日 イベリア航空8956便 マドリッド発 イビサ行
(イ) 12月12日 イベリア航空8955便 イビサ発 マドリッド行
(ウ) 12月12日 KLMオランダ航空1704便 マドリッド発 アムステルダム行
(エ) 12月30日 KLMオランダ航空1699便 アムステルダム発 マドリッド行
搭乗者 C・D・Zの3名
料金8万8000×3名 合計26万4000円
(3) 原告は,H.I.S.DEUTSCHLAND TOURISTIK GMBHに対し,本件航空券の発券を依頼して購入した。なお,本件航空券は解約不能なものであった(争いがない。)。
(4) 被告は,同年12月1日,原告に対し,イビサの件の進み具合を尋ね,原告が,11月28日に原告補助参加人から本件航空券の発注を受け,手配を行ったところであると返答すると,被告は,原告補助参加人からそのようなことは聞いていないので,どのようなスケジュールなのかスケジュール表を送って欲しいと言ったので,原告は被告にメールでこれを送信した(争いがない。)。
(5) 被告は,同月6日,原告に対し,「被告代表者が同月9日にロンドンへ行くので,1名分の航空券を手配して欲しい。」と連絡し,同日,原告は,成田発ロンドン行き航空券を代金14万2610円で手配した(争いがない。)。
(6) 原告は,同月8日,上記ロンドン行きの航空料金等14万2610円及び本件航空券のキャンセル料31万9000円につき,支払期日を翌月末日として請求書をファクシミリで送信した(争いがない。)。
(7) 被告は,同年3月11日,旅行代金46万1610万円を同月23日までに原告に支払うことを確約する「支払確約書」(甲2)に署名した(争いがない。)。
2 争点
(1) 被告は,本件航空券の発注に先立ち,原告補助参加人にその旨の代理権を付与したか。
(原告の主張)
被告は,平成20年11月19日,原告に対し,「12月初旬に,5人でスペインのイビサに行く予定なので,航空券を手配して欲しい。詳細に関しては原告補助参加人が担当し,同人から連絡が行くので対応して欲しい。」という電話連絡を受けており,被告はそのころ原告補助参加人に対し上記代理権を付与した。
(被告の主張)
被告は,原告に対し,12月初旬にスペインのイビサに行くことになるかも知れないことに関して電話したが,航空券の手配を依頼したことはなく,航空券の料金がどの程度であるのかを確認しておいて欲しいと依頼したに過ぎない。
また,被告は,原告補助参加人を原告担当者に紹介したが,航空券の手配について代理権を付与したわけではない。
(2) 被告が,本件航空券の発注に先立ち,原告補助参加人にその旨の代理権を付与していなかった場合,被告は原告補助参加人の無権代理行為を追認したか。
(原告の主張)
被告は,前記支払確約書に署名したことにより,原告補助参加人の無権代理行為を追認した。
(被告の主張)
被告が前記支払確約書に署名したのは,原告が被告とのこれまでの良好な取引を継続させるべく,被告が広告を集める責任を負う「○○」と題するムック本に原告も21万円の広告代金を支払い,広告を掲載するという広告掲載契約が締結されたため,被告も今後の良好な関係が維持されることを期待して,原告との無用の争いに終止符を打つべく原告の請求を認め,支払うことを約束したものである。
ところが,原告は,いつまで経っても,掲載申込書に必要事項を記入して送付してこず,平成21年4月に至って広告掲載申込みを否定したので,前記支払確約書に署名した前提が無くなり,同書面は意味を持たないものとなった。
(3) 原告と被告間で広告掲載契約は成立したか。
(原告の主張)
原告は,広告の申込みを保留しており,申込みの意思表示をしていない。
(被告の主張)
原告と被告は,平成21年3月11日ころ,被告が広告を募集していた同年4月17日発刊予定であった「○○」と題するムック本に,原告が21万円にて1頁分の紙面広告を出稿する旨の広告掲載契約を締結した。
しかし,原告は,その後,広告掲載申込書も広告の原稿も出稿しないままで,同月1日に,被告に対し広告掲載の申込みなどしていないと述べるに至ったため,被告は,急遽,代わりの広告主を探す必要が生じ,広告スペースを埋めることを急がなければならなかったことから,無料で代わりの広告主に広告を提供してもらわなければならなくなった。
したがって,被告は,原告の広告掲載申込みの一方的撤回により,21万円の広告収入を得る機会を喪失したから,原告に対して債務不履行に基づき21万円の損害賠償請求権がある。
そこで,被告は,原告に対し,原告代理人が平成21年8月18日に受領した答弁書をもって,上記請求権を自働債権として,原告の被告に対する航空券代金債権14万2610円を受働債権として,対当額にて相殺する意思表示をする。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)及び争点(2)について
(1) 前記前提事実並びに証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる
ア 被告は,平成20年11月19日,原告に対し,12月にイビサに行く件があるのでということで,原告補助参加人を紹介した(被告代表者本人,弁論の全趣旨)。
イ 原告補助参加人は,同月20日,原告に対し,電話連絡し,同日から同月28日にかけて,イビサに行く経路や航空運賃等について種々交渉し,最終的に同月28日,本件航空券の発注をした。その際,原告は,原告補助参加人に対し,「この航空券は,低価格である代わりに,予約後にキャンセルしても,料金は100パーセント支払わなければならないものである。」旨説明し,原告補助参加人はこれを了承した(前提事実(2))。
なお,被告は,同月28日までには,本件航空券の発注については上記のとおりキャンセル料がかかることを知っていた(被告代表者本人(尋問調書15頁))。
ウ 被告は,同日,原告補助参加人から,本件航空券の発注をしたと聞き(丙1,被告代表者本人),同年12月1日,原告に対し,イビザの件の進み具合を尋ね,原告が,11月28日に原告補助参加人から本件航空券の発注を受け,手配を行ったところであると返答すると,被告は,原告補助参加人からそのようなことは聞いていないと述べて,本件航空券のキャンセルを申し出た上,どのようなスケジュールなのかスケジュール表を送って欲しいと述べたので,原告は被告にメールでこれを送信した(前提事実(4),甲15,被告代表者本人)。
エ 被告は,平成21年3月11日,本件航空券の代金を含む旅行代金46万1610万円を同月23日までに原告に支払うことを確約する「支払確約書」(甲2)に署名した(前提事実(7))。
(2) 原告は,被告が,平成20年11月19日ころ,原告補助参加人に対し本件航空券発注の代理権を付与したと主張し,原告代表者はこれに沿う陳述書(甲15)を作成している。
しかしながら,原告代表者は,本人尋問においては,航空券の発注は被告代表者自らが行い,航空券の手配に関する事務的なやりとりを原告補助参加人に委ねたにすぎないと解される供述をするに止まっている上(尋問調書2頁),原告補助参加人は,上記時点での代理権付与について明確に証言することなく,被告代表者との間で,事前にスケジュール等を確認した上で,本件航空券を発注した旨証言するところ(尋問調書6頁,7頁。陳述書(丙1)も同様である。),この証言は,上記認定事実,すなわち,原告補助参加人から本件航空券を発注した旨聞かされた被告代表者が,すぐさま原告にイビサの件の進み具合を尋ね,原告から本件航空券が発注・手配済みである旨の返答を受けると,原告補助参加人からそのようなことは聞いていないと述べて,本件航空券のキャンセルを申し出た上,スケジュール表を送らせた事実に照らし,信用することができない。
そうすると,被告は,平成20年11月19日ころ,原告補助参加人に本件航空券の発注の代理権を付与したとの原告の主張は採用できない。
(3) したがって,原告補助参加人がした被告名義での本件航空券の発注は無権代理行為といわざるを得ないが,上記認定事実によれば,被告は,平成21年3月11日の支払確約書の署名により上記無権代理行為を追認したというべきである。
これに対し,被告は,前記のとおり,上記署名は広告掲載契約の締結が前提となっていたところ,原告が広告掲載契約の申込みを否定したことによりその前提がなくなり,上記署名は意味がなくなったと主張するけれども,後述するとおり,上記署名と引き替えでの広告掲載契約の成立は認められないのであるから,被告の上記主張は採用できない。
2 争点(3)について
被告は,平成21年3月11日ころ,上記署名と引き替えに広告掲載契約が成立したと主張し,被告代表者は,本人尋問において,これに沿う供述をするとともに,陳述書(乙11)を作成している。
しかしながら,被告代表者は,同日,原告代表者との間で,本件航空券のキャンセル料の支払を巡って激しいやりとりとなった末に,広告掲載に応じてもらえるのであればキャンセル料の支払に応じることになったと供述するのであるが,そのような経緯で広告掲載契約が締結されたのであれば,キャンセル料の支払については確約書が作成されたのであるから,広告掲載契約についても同様の書面が作成されるか,少なくとも上記確約書に条件の付記がなされるべきであるのに,そのような書面の作成も条件の付記もなされておらず,しかも,被告から原告に対する広告掲載契約の申込書の送付は同月25日になって初めてなされているのであるから(乙8,11,被告代表者本人),被告代表者の上記供述等は信用できない。
もっとも,被告代表者は,上記申込書の送付が遅れた理由について,原告から申込みを否定されるとは思っておらず送信を忘れていたなどと供述するけれども(尋問調書6頁),同月12,13日ころには,原告担当者から,原告代表者が広告掲載契約の申込みはキャンセル料等が支払われてから検討すると言っている旨聞いたというのであるから(尋問調書23頁),同月11日に激しいやりとりがあったという経過も踏まえて考えれば,その後10日以上も何もしないでいたという被告代表者の供述は不自然で信用することができない。
3 結論
以上によれば,原告の請求は理由がある。
(裁判官 今岡健)
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