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裁判年月日 令和 4年 1月20日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令元（ワ）２６１３１号
事件名 損害賠償請求事件
文献番号 2022WLJPCA01208024
出典
裁判年月日 令和 4年 1月20日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令元（ワ）２６１３１号
事件名 損害賠償請求事件
文献番号 2022WLJPCA01208024
名古屋市〈以下省略〉
原告 Ｘ
同訴訟代理人弁護士 小林弘卓
同 渡邉清
同 奈古屋嘉仁
千葉県松戸市〈以下省略〉
被告 Ｙ
同訴訟代理人弁護士 山口宏
同訴訟復代理人弁護士 山口翔太郎
主文
１ 被告は，原告に対し，５５００万円及びこれに対する平成２６年８月１５日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。
２ 訴訟費用は被告の負担とする。
３ この判決は，仮に執行することができる。
事実及び理由
第１ 請求
主文同旨
第２ 事案の概要
本件は，原告が，被告に対し，被告が，イランからの石油輸入事業への出資金名目で，原告から５０００万円を詐取したと主張して，不法行為による損害賠償請求権に基づき，５５００万円（上記５０００万円及び弁護士費用相当額５００万円）及びこれに対する不法行為後の日である平成２６年８月１５日（損害発生日）から支払済みまで平成２９年法律第４４号による改正前の民法所定の年５分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
１ 前提事実（当事者間に争いのない事実又は後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実）
(1) 被告は，株式会社ａ（以下「ａ社」という。）及び株式会社ｂ（以下「ｂ社」という。）の代表取締役であり，ａ社は，広告代理店業等を目的とする株式会社，ｂ社は，出版物の企画及び編集並びに販売等を目的とする株式会社である（甲１，乙２７）。
(2) 被告は，平成２６年７月，原告に対し，別紙「新事業計画書（案）」（以下「本件計画書案」という。甲２）を交付するなどして，ａ社がイランからの石油輸入に関する新規事業を行う旨説明し，同社への出資を要請した。
(3) 原告は，平成２６年８月１日付けで，原告とａ社を当事者とする「共同事業契約書」（以下「本件契約書」という。甲４）に押印するとともに，同社の株式２５０株の引受申込書（乙２）に押印し，同月１５日，同社名義の預金口座に５０００万円を送金して，同社が発行した新株２５０株を取得した（甲５，６，乙３）。
(4) 本件契約書には，原告とａ社が，「イランの石油権利を輸入し，日本国内の企業に販売すること」を内容とする「イラン石油輸入プロジェクト」を共同して行うこと，同事業の業務執行はａ社の名義で行い，同事業の収益はその１５％を限度として原告及び原告が経営する学校法人ｃ（以下「ｃ学校法人」という。）に分配し，その余をａ社に分配すること等が定められていた（甲４）。
(5) その後，本件契約書に記載された「イラン石油輸入プロジェクト」は実現に至らないまま，平成２８年１２月末にａ社が事実上倒産し，原告が出資した５０００万円は，その頃までに，同社の人件費等として費消された。
２ 争点
本件の争点は，不法行為の成否及び原告の損害である。
（原告の主張）
被告は，平成２６年７月２３日，原告に対し，ａ社がイランから石油（原油）を輸入して東京電力株式会社（以下「東京電力」という。）や伊藤忠商事株式会社（以下「伊藤忠商事」という。）に販売する事業を行う予定であり，売上月額１０００億円，利益月額９億円余りが見込まれるが，年間経費約８０００万円が必要である旨述べ，５０００万円の出資を要請した。被告は，その際，被告には，日本イラン友好議員連盟会長のＡ自由民主党副総裁（当時。以下「Ａ副総裁」という。）や，東京電力及び伊藤忠商事の役員らとの強いパイプがあるので，上記事業は必ず実現される旨説明した。原告は，被告の上記説明を信用し，同年８月１５日，上記事業への出資金として，被告から指定されたａ社名義の預金口座に５０００万円を送金した。ところが，上記事業は実現の見込みのない架空の事業であり，上記５０００万円はａ社の人件費等に費消された。
このように，ａ社による石油輸入事業は実現の見込みのない事業であったのに，被告は，同事業により確実に利益が上がるかのような虚偽の説明をして原告を誤信させ，原告から出資金名下に５０００万円を詐取したものであるから，被告の上記行為については不法行為が成立する。
原告は，被告の上記不法行為により，①ａ社への送金額５０００万円，②本件訴訟の提起及び追行を弁護士に依頼したことによる弁護士費用相当額５００万円の合計５５００万円の損害を被った。
（被告の主張）
被告が原告に対し，ａ社がイランからの石油輸入に関わる事業を行う旨説明して，同社の新株引受けによる出資を要請し，原告がこれに応じて５０００万円を出資したことは認めるが，被告が原告主張のような虚偽の説明をした事実はなく，不法行為は成立しない。
被告は，平成２６年６月頃，Ａ副総裁から，イランに対する欧米と日本による経済制裁解除の時期が近いとの情報を得たことから，ａ社においてイランからの石油輸入に関わる事業を行うことを計画し，その準備資金（国内経費約６０００万円，現地経費約２１１３万円）を新株発行により調達することとした。そこで，被告は，平成２６年７月２３日，原告に対し，ａ社がイランからの石油輸入に関するマネジメントを担当して手数料を得るという趣旨の説明をして，５０００万円分の新株の引受けを要請し，原告は，これに応じてａ社の株式２５０株（１株２０万円）を引き受けた。この時点では，ａ社がどのような立場でイランからの石油輸入に関わるかは未定であったが，被告が原告に対し，同社がイランから石油（原油）を輸入して東京電力や伊藤忠商事に販売するなどと説明したことはない。
被告は，上記事業の実現のため，在日イラン大使館の担当者やイラン石油省幹部を含む関係先との調整を続けていたが，アメリカを始めとする各国の制裁解除が進展せず，現在まで上記事業は実現に至っていない。しかし，平成２６年７月から平成２７年当時，イランに対する制裁解除が間近いと推測された状況において，被告は，上記事業の実現のため様々な作業を行っていた。上記事業は十分に実現可能性があったもので，架空の事業などではない。
第３ 争点に対する判断
１ 認定事実
前提事実，証拠（甲１ないし６，１１，乙１ないし３１，３３ないし４１，原告本人，被告本人。書証は枝番を含む。）及び弁論の全趣旨を総合すれば，次の事実が認められる。
(1) 被告（昭和２２年○月○日生）は，新聞社に勤務した後，昭和５８年にａ社を，昭和６１年にｂ社を設立して両社を経営していたほか，特定非営利活動法人ｄの運営にも関与していた。被告は，これらの活動等を通じて，Ａ副総裁，東京電力のＢ副社長（当時。以下「Ｂ副社長」という。），伊藤忠商事のＣ元常務取締役（以下「Ｃ元常務」という。）らと知り合った。
(2) 被告は，平成２１年頃，知人の紹介により，進学塾「○○」を運営する株式会社ｅ（以下「ｅ社」という。）の代表取締役で，ｃ学校法人の理事長であった原告（昭和２５年○月○日生）と知り合った。その後，原告と被告は，原告がａ社に○○グループのテレビコマーシャルの代理店業務やｃ学校法人が開設する小学校の校歌作曲を委託し，他方，被告がａ社名義でｃ学校法人の小学校開設に際して寄付をし，原告のがん治療に関して国会議員に病院への口添えを依頼するなどの付き合いを続けていた。
(3) ｂ社は，長年にわたり，東京電力から広報誌の出版業務を委託されていたが，平成２３年の東日本大震災後，同誌が廃刊になり，上記出版業務による収入が途絶えたことから，ｂ社及び関連会社であるａ社は資金繰りに窮するようになった。原告は，平成２５年５月頃，被告が資金繰りに窮していることを聞いて，被告に協力することとし，原告個人としてａ社に２０００万円を貸し付けるとともに，ｅ社の広告委託料２０００万円を前払いした。上記貸金２０００万円の返済期限は１年後とされていたが，原告は，平成２６年５月，被告の要請を受けて，返済期限を１年延期することを承諾した。
(4) 原告は，平成２６年５月から６月頃，日本イラン友好議員連盟の会長でもあったＡ副総裁と面会した際，同副総裁から，イランに対する欧米と日本の経済制裁解除の時期が近い旨示唆された。イランの核開発問題を巡っては，いわゆる６か国協議において，イランが核開発を一部停止する見返りに，各国が制裁を一部緩和し，凍結されていたイランの国外資産（総額４２億ドル）をイランに送金することが合意されていたところ，同年２月には，アメリカが上記資産の一部の送金を開始したとの報道がされていた（乙３９）。
(5) 被告は，伊藤忠商事のＣ元常務や東京電力のＢ副社長らと親交を持っていたことから，イランに対する制裁解除を見越して，ａ社が調整役となり，伊藤忠商事及び東京電力を中心とするイランからの石油輸入スキームを構築することにより，伊藤忠商事等から口銭を取得するという事業を計画した。そして，被告は，同事業の実現のための資金を，ａ社の新株発行により調達することとし，原告に同社への出資を要請することとした。
(6) 被告は，平成２６年６月２４日，Ａ副総裁の秘書であるＤ（以下「Ｄ秘書」という。）との会食に原告を誘い，その席で，原告に対し，イランからの石油輸入に関わる事業の計画がある旨説明した。
(7) 被告は，平成２６年７月２３日，ａ社の事務所において，原告に対し，イランに対する制裁解除に伴い，ａ社がイラン産の石油（原油）の独占販売権を取得し，東京電力や石油会社に販売する事業を行う旨説明し，その事業資金として年間約８０００万円が必要であるとして，新株引受けによるａ社への出資を要請した。被告は，その際，原告に対し，本件計画書案及び事業のスケジュールを記載した書面（甲３）を交付した上，上記事業について，Ａ副総裁及びＤ秘書の紹介により駐日イラン大使との面会予定が決まっており，イラン大使館を通じてイラン政府との交渉が可能であること，Ｂ副社長，Ｃ元常務及びＤ秘書にａ社の役員就任を要請する予定であり，原告には社長に就任してもらう予定であること，上記事業の売上げは月額１０００億円，利益は月額約９億円と見込まれること等を述べた。なお，原告は，平成２６年３月，暴力団関係者に対し合計６億円を融資していたなどと報道されたことから，その頃，ｅ社の代表取締役及びｃ学校法人の理事長を辞任していた。
原告は，ａ社の社長就任についてはその場で断ったが，従前の被告との付き合いを通じてＡ副総裁，Ｂ副社長，Ｃ元常務らと面識を有しており，被告とＡ副総裁らとの親交を知っていたこともあって，上記事業についての被告の説明を信用し，ａ社に出資することを承諾した。
(8) 原告は，平成２６年８月１日頃，ａ社の株式２５０株の募集株式申込証（乙２）に押印して被告に送付し，同月１５日，ａ社名義の預金口座に５０００万円を送金して，同社の新株２５０株を取得した。また，原告は，その頃，被告から交付された本件契約書に押印して被告に送付した。
原告の新株取得により，ａ社の発行済株式総数は２００株から４５０株に，資本金の額は１０００万円から６０００万円に変更された（甲１，乙３）。
(9) 被告は，平成２６年７月３１日，Ｄ秘書とともに，在日イラン大使館を訪問して大使らと面会し，ａ社においてイランからの石油輸入事業に参加したい旨伝え，同事業への協力を要請した（乙５）。被告は，その後，在日イラン大使館の職員を通じたイラン石油省との協議や，来日した同省幹部らとの面談を行い，伊藤忠商事の理事及び執行役員らと面談して石油輸入事業への参加を要請するなどした（乙６ないし９）。さらに，被告は，平成２７年６月１３日から１８日まで，Ｄ秘書らとともにイランに渡航し，伊藤忠商事の現地法人社長の案内により，同国の石油コンビナートや港湾施設等を視察し，関係者と面談するなどした（乙１０ないし１３，１７）。
(10) その頃，いわゆる６か国協議が制裁解除に向けた最終合意に達し，平成２８年１月２２日，日本においても，上記合意の履行を踏まえ，イランに対する経済制裁の解除が決定された（乙２３）。ところが，アメリカによる具体的な制裁解除が進捗せず，平成２８年１１月の大統領選挙において，制裁解除に反対するトランプ候補が当選したことにより，アメリカによる制裁解除の見通しが立たなくなったことから，イランから日本への石油輸入事業も頓挫することとなった。
(11) 被告は，平成２７年から平成２８年にかけて，ａ社及びｂ社の新株発行や借入れ等により資金を調達したが，資金繰りが改善することはなく，ａ社は，平成２８年１２月末頃，事実上倒産した（甲１，乙２５ないし２７）。原告が出資した５０００万円は，そのうち約２５０万円がイランへの渡航費用に充てられたが，その他は主としてｂ社及びａ社の人件費や家賃等の経費に充てられ，平成２８年１２月末頃までに全て費消された（乙２ないし２９）。また，ａ社が原告から借り入れた２０００万円は，平成２８年１２月末頃の時点でも，７００万円が返済未了であった。
２ 争点（不法行為の成否及び原告の損害）について
(1) 上記のとおり，被告は，制裁解除後のイランからの石油輸入に関わる事業として，ａ社が調整役となって，伊藤忠商事や東京電力による石油輸入スキームを構築して口銭を取得することを計画していたところ，原告に対しては，本件計画書案を交付して，ａ社が石油の独占販売権を取得し，東京電力や石油会社に販売する事業を行い，月額約９億円の利益を見込んでいるなどと説明して，ａ社への出資を要請し，これを信用した原告から５０００万円を受領したことが認められる。また，被告は，ａ社が得られる口銭の額については，原告に出資を要請した当時，５％程度と考えていたが，具体的な数字は考えていなかった，あるいは月額約９０００万円程度と想定していたなどと述べている（被告本人３４頁から３５頁）。
そうすると，被告は，原告にａ社への出資を要請するにあたり，同社が行う予定であった事業の内容や当該事業により見込まれる利益の額といった重要な部分について虚偽の事実を述べ，原告を誤信させて出資金５０００万円を支払わせたものと認められるから，被告の上記行為については，原告に対する不法行為が成立する。
そして，原告は，被告の上記不法行為によって，ａ社への出資金相当額５０００万円の損害を被ったほか，上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用として５００万円の損害を被ったものと認められる。
(2) これに対し，被告は，原告に出資を要請した際，ａ社がイランからの石油輸入に関するマネジメントを担当して手数料を得るという趣旨の説明をしており，ａ社が輸入元となって事業を行うなどの説明はしていない，本件計画書案は，商社や石油会社等を含む事業全体を説明したもので，「事業の見通し（月平均）」の欄外下部に記載された「１０％（９，１８８．４２）万円」が，ａ社の得る手数料（口銭）を示すものであるなどと主張し，被告の陳述書（乙３４）にも同主張に沿う記載がある。
しかし，原告は，被告から，ａ社が輸入元となって石油輸入事業を行うとの説明を受けた旨供述しており，被告も，本人尋問においては，当時，ａ社が石油の輸入元になることは考えていなかったにもかかわらず，原告に対し，本件計画書案を示して，ａ社が石油の輸入元となって事業を行う旨説明したことを認めている（被告本人９頁，１９頁から２２頁）。本件計画書案は，「取扱商品・サービス」の項目に「石油販売権利（売上シェア１００％）」と記載され，「取引先・取引条件」の項目には，ａ社が，石油会社を外注先としてイランから石油を輸入し，東京電力等に販売するとの内容が記載されていること等から，被告本人も認めるとおり（被告本人１９頁），ａ社を輸入元とする事業計画書であると認められる。本件計画書案の「１０％（９，１８８．４２）万円」との記載の趣旨は判然としないが，本件契約書に定められている収益の分配額（原告及びｃ学校法人は上限１５％）の目安を示したものとも解し得るものであり，上記記載から，本件契約書の内容を被告主張のように解することはできない。また，被告は，本件契約書を作成して原告と同契約書による共同事業契約を締結したことも認めているが（被告本人３５頁），前提事実(4)のとおり，本件契約書は，原告とａ社が，「イランの石油権利を輸入し，日本国内の企業に販売する」事業を共同して行うというものであり，本件契約書も，ａ社が石油の輸入元として事業を行うことを内容とするものである。
以上によれば，被告が原告に説明した内容は，上記認定のとおり認められるというべきであり，これに反する被告の主張及び陳述書の記載は採用することができない。
第４ 結論
よって，原告の請求は理由があるからこれを認容することとし，主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第４２部
（裁判官 澤田順子）
〈以下省略〉
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