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裁判年月日 平成28年 9月23日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)28163号・平27(ワ)12665号
事件名 地位確認等請求事件(本訴)、(反訴)
裁判結果 本訴一部認容、反訴一部認容 文献番号 2016WLJPCA09238002
要旨
◆原告が、被告会社に対し、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めた事案において、原告と被告会社との間では、本件解雇によって仮に労働契約終了の効力が生じていたとしても、少なくとも被告会社による本件解雇の撤回により、従前の労働契約を復活させる旨の黙示の合意が成立していることなどから、原告の労働契約上の権利を有する地位の存続が認められ、かつ、紛争の過去及び現在の状況からして、確認の利益も否定できないとして、原告の地位確認請求を認容した事例(本訴事件)
◆原告が、被告会社に対し、不法行為にあたる解雇に基づく損害賠償を求めた事案において、被告会社は、原告の欠勤がうつ状態等によるやむを得ないものであるにもかかわらず、職場復帰の可能性を十分に見極めず、原告との協議も尽くさず、配慮不十分のまま拙速に解雇に踏み切っており、本件解雇は、十分に客観的に合理的な理由を備えておらず、その経過も併せて、社会通念上相当なものとはいえないから、解雇権を濫用したものとして無効であり、不法行為としても違法であるところ、事後に本件解雇を撤回したからといって、いったん成立した不法行為は消滅しないなどとして、慰謝料を30万円と認定等して、原告の損害賠償請求を一部認容した事例(本訴事件)
◆原告が、被告会社に対し、被告会社の責めに帰すべき原因による欠勤又は無効な解雇で未払となっている賃金、所定時間外労働等に係る未払賃金の各支払を求めた事案において、本件解雇前の欠勤が被告会社の代表者によるパワハラによるものとは認められないから、私傷病として欠勤に伴う賃金減額を受けることもやむを得ず、また、本件解雇がなくとも欠勤は相当期間継続したものと推認できるから、本件解雇が無効であっても、原告が労務提供能力を欠く以上、被告会社の責めに帰すべき事由によって就労不能が生じているとはいえず、本件解雇後の賃金を請求することはできないとする一方、未払の残業代を認定して、原告の賃金支払請求を一部認容した事例(本訴事件)
◆本訴事件の被告会社(被告会社)が、本訴事件の原告(原告)に対し、本訴提起が違法であり、また、原告には賃金の不正受給があったとして、損害賠償及び不当利得の返還を求めるなどした事案において、本訴提起は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性に欠ける違法なものとはいえないとする一方、原告は実際の通勤経路と異なる定期代を受領しているとして、原告の不当利得を一部認めるなどして、被告会社の請求を一部認容した事例(反訴事件)
出典
参照条文
労働契約法16条
労働基準法37条
民法536条2項
民法703条
民法704条
民法709条
民法710条
民事訴訟法134条
民事訴訟法143条
裁判年月日 平成28年 9月23日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)28163号・平27(ワ)12665号
事件名 地位確認等請求事件(本訴)、(反訴)
裁判結果 本訴一部認容、反訴一部認容 文献番号 2016WLJPCA09238002
本訴平成26年(ワ)第28163号地位確認等請求事件,
反訴平成27年(ワ)第12665号
東京都江戸川区〈以下省略〉
原告(反訴被告) X
同訴訟代理人弁護士 児玉明謙
同 岡田真由子
東京都豊島区〈以下省略〉
(商業登記記録上の住所 東京都豊島区〈以下省略〉)
被告(反訴原告) Y株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 渡邉智宏
同 三浦恵介
主文
1 原告(反訴被告)が,被告(反訴原告)に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告(反訴原告)は,原告(反訴被告)に対し,金33万円及びこれに対する平成26年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告(反訴原告)は,原告(反訴被告)に対し,金1万5582円及びこれに対する平成26年4月5日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
4 原告(反訴被告)は,被告(反訴原告)に対し,金1万7070円及びこれに対する平成27年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告(反訴被告)のその余の本訴請求及び被告(反訴原告)のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は本訴,反訴を通じ,これを2分し,その1を原告(反訴被告)の負担とし,その余を被告(反訴原告)の負担とする。
7 この判決は,第2項ないし第4項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴請求(以下,個々の本訴請求を「本訴請求(2)」などと項番号を用いて略記する。)
(1) 主文第1項に同旨
(2) 被告(反訴原告。以下,単に「被告」という。)は,原告(反訴被告。以下,単に「原告」という。)に対し,金110万円及びこれに対する平成26年3月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告は,原告に対し,金105万9612円及びこのうち別紙第1「各月給与未払額一覧表」の「金額」欄記載の各金額に対する同「遅延損害金発生日」欄記載の年月日から支払済みまで年6分の割合による各金員を支払え。
(4) 被告は,原告に対し,平成26年10月から本判決確定の日まで毎月25日限り金20万3000円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(5) 被告は,原告に対し,金34万8598円及びこれに対する平成26年3月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 反訴請求
原告は,被告に対し,金76万2140円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日(平成27年5月14日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え[なお,被告は,第5回口頭弁論期日において,反訴請求に,金7万4500円及びこれに対する平成26年2月26日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める請求(以下「追加請求」という。)を追加する旨の訴え変更を申し立てたが,後記7のとおり,この訴えの変更は許さない。]。
第2 事案の概要
1 本訴事件は,原告が労働契約上の権利を有する地位の確認(本訴請求(1))並びに不法行為に当たる解雇に基づく損害賠償金(本訴請求(2)),被告の責めに帰すべき原因による欠勤又は無効な解雇で未払となっている賃金(本訴請求(3),(4))及び所定時間外,法定時間外,休日及び深夜の各労働に係る賃金の未払金(本訴請求(5))の各支払を求める事案である。
反訴事件は,本訴事件の提起が違法であり,原告には賃金の不正受給があったと主張して,本訴事件提起による損害の賠償及び賃金不正受給による不当利得の返還を求める事案である。
2 争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は,括弧内に証拠番号等を示す。)
(1) 原告は,中華人民共和国(以下「中国」という。)出身で,日本に帰化した女性(昭和45年○月生)である(乙25,29,弁論の全趣旨)。
(2) 被告は,旅行業,日中経済関係の各種情報の収集及びこれに関するコンサルタント業務などを事業とする株式会社であり,中国,台湾,香港等からの訪日観光客の旅行を多く取り扱っている。被告代表者代表取締役A(以下「被告代表者」という。)は,中国出身の女性である(弁論の全趣旨)。
(3) 原告と被告は,平成24年12月1日,次の要旨を含む労働基本契約書(甲1)を作成して,期間の定めのない労働契約を締結し,原告は,被告の社員となり,個人旅行向けホテルの予約管理等の業務に従事を開始した。被告では,就業規則は定められていない。
ア 給与(毎月20日締め,当月25日払い)
(ア) 基本給19万5000円,役職手当5000円(以下,基本給及び役職手当を一括して「給与」という。)
(イ) 残業手当,時給1000円,午後6時から1か月70時間まで,土曜日の残業手当は午後2時以降支給する(以下「本件残業手当約定」という。)
イ 就業時間
平日は午前10時0分から午後6時0分まで(午後0時30分から午後1時30分までは休憩)。土曜日は午前10時から午後1時まで(休憩なし)又は午前10時から午後2時まで(午後0時から午後1時までは休憩)
ウ 休日
隔週土曜日(交替制),日曜日,祝日
(4) 被告は,原告に対し,通勤のための定期代を支給していた。原告は,千葉県松戸市下矢切〈以下省略〉の住居(以下「松戸市下矢切住居」という。)の最寄駅であるa駅から被告の最寄駅であるb駅までの定期券の写し(乙23の4)を提出して(ただし,原告が実際に松戸市下矢切住居に居住していたか,争いがある。),被告は,平成25年7月29日から本件解雇の日(平成26年3月28日)までの間,月2万7190円の定期代を8か月分支払った。
(5) 被告は,平成26年2月,原告の役職給を金3000円引き上げて,金8000円とし,原告の毎月の給与は基本給及び役職手当の合計で金20万3000円となった(甲2,甲4の15,16,弁論の全趣旨)。
(6) 原告は,平成26年1月以降,被告を欠勤することが多くなり,同年3月12日以降は欠勤が継続している。被告は,欠勤を理由として,原告の平成26年2月分(同月25日支給)の給与から金1万8454円,同年3月分(同月25日支給)から金9万6886円をそれぞれ減額した(甲4の15,16,弁論の全趣旨)。
(7) 原告は,平成26年2月13日から西内科神経内科クリニック(以下「西クリニック」という。)の診療を受けており,同月28日,パニック障害,うつ状態のため,今後も外来での通院加療を要する旨の診断書(乙5)の発行を受けた(以下,原告が罹患しているとされる精神疾患を「うつ状態等」という。ただし,その真偽には争いがある。)。原告は,同年3月25日,被告を訪れて,同診断書及び傷病手当金(健康保険の被保険者が傷病のため就労できず,賃金の支払がないときに健康保険の保険給付として支給される手当金)の支給申請に関する書類(乙6。以下「傷病手当申請書面」という。)を被告に提出した。
(8) 被告は,平成26年3月28日,原告に対し,電話で即時解雇する旨を告げた(以下「本件解雇」という。)。被告は,後日,原告に対し,解雇予告通知書(甲3)を交付して,「①出勤常ならず,改善の見込みのないこと,②会社の許可を受けず,勤務時間中に他社の労務に服していたこと」を理由に原告を同日付けで即時解雇し,解雇予告手当を同年4月4日までに銀行口座振込の方法で支払うことを通知した。
(9) 被告は,平成26年3月28日付けで,原告につき健康保険被保険者資格を喪失させる資格喪失届の手続を取った。原告に対しては,同年4月3日付け書面(甲13)で上記資格喪失届を知らせ,健康保険証の返却を求めるとともに,解雇予告手当として金19万9910円を原告の預金口座に振込入金することを通知し,同年4月4日,上記解雇予告手当を振込入金した。被告は,この解雇予告手当を本訴請求における原告の金銭請求に対する弁済として予備的に主張しており,原告も上記解雇予告手当を弁済として扱うことには異議がなく,平成28年5月2日付け請求の減縮申立書にて,上記解雇予告手当19万9910円を給与の繰り上げ支給として平成26年4月分の金12万9182円の弁済及び同年5月分の給与20万3000円の一部7万0728円の弁済にそれぞれ充当する旨を意思表示して(後記第2の4(2)イ(イ)参照),その分,本訴請求を減縮した(甲10,顕著な事実)。
(10) 被告は,平成26年4月25日,原告に対し,同月分の給与として金7万3818円を支払った。この金額は,同年3月21日から本件解雇の日である同月28日までを有給休暇取得として扱って日割計算したものであり,原告が解雇されず,通常の勤務を継続したときの金額に比べ,金12万9182円減額されている(弁論の全趣旨)。
(11) 原告の依頼を受けた弁護士(以下「原告代理人弁護士」という。)は,被告に対し,次の要旨の平成26年5月28日付けご通知(乙8。以下「原告5月28日通知」という。)を送付した。
ア 「②会社の許可を受けず,勤務時間中に他社の労務に服していたこと」との解雇理由は全く事実でなく,「①出勤常ならず,改善の見込みのないこと」も,原告は復職に努めている上,休職に至ったことに被告の労務管理に問題があり,いずれの理由も解雇を正当化できるものではなく,本件解雇は正当な理由がなく,無効なものです。
イ 原告は本件解雇で不当に職を奪われたという深刻な精神的衝撃を受けたうえ,収入がなくなったことから生活が立ち行かなくなり,43歳という年齢のため,再就職の見通しも立ちません。そのため原告は現在,毎日の生活や将来の見通しが全く立たないという大変な不安にさいなまれながら毎日を過ごしております。被告は,本件解雇により原告がこのような状況に陥ることを認識していながら,原告に解雇を通告したものであり,本件解雇は優に不法行為に該当します。
ウ 被告は直ちに本件解雇を撤回し,原告を復職させるとともに不法行為の慰謝料100万円及び平成26年3月29日から復職までの賃金(月額20万円)相当額を速やかにお支払いいただくよう通知いたします。
なお,仮に本件解雇を撤回されない場合には,解決金として慰謝料100万円に加えて,賃金1年分(240万円)をお支払い下さい。
エ 原告の時間外労働に対する未払割増賃金につき,労働基準監督署の仲介を得て解決を図りたく,原告自身が手続を進めておりますので,誠実にご対応いただきますよう通知いたします。
(12) 被告は,弁護士(以下「被告代理人弁護士」という。)に依頼して,原告代理人弁護士に対し,平成26年6月12日(木曜日),次の要旨の回答書(乙2。以下「被告6月12日回答」という。)をファクシミリで送信し,同内容の書面も郵送で送付し,同月13日,配達された(乙1,9)。
ア 本件解雇を撤回します。
イ 平成26年6月16日(月曜日)午前10時から出社して勤務に就いて下さい。
ウ 本件解雇の撤回は,本件解雇は正当な理由がなく,無効で,不法行為にも該当するとの原告の主張を認めるものではなく,被告は,原告の出勤状況や勤務態度が著しく不良であったことからして本件解雇が正当であったということに疑いはもっておりません。慰謝料の支払に一切応じるつもりはありません。被告は,従前の原告の勤務態度等からしますと,復職したとしても,これまでの勤務態度等を改めてくれるかどうか,非常に不安があります。後記オのとおり在職中の不正行為も新たに発覚しているところであり,さらに不安が募っています。
このような不安が以前としてあることから,通常の経営者であれば解雇撤回の判断はしないところではありますが,被告代表者が義理人情に厚い性格であることから,今般,原告にもう一度チャンスを与えた上で仕事ぶりを見てみてもよいのではないかと考えるようになりました。このような考えから本件解雇の撤回に至った次第です。
エ 本件解雇の日の翌日から平成26年6月16日までの賃金から支払済みの解雇予告手当を控除した残額については,速やかに支払う用意がありますので,従前の原告の給与振込口座への送金でよいのか,ご指示下さい。
オ 今般の調査により原告が在職中,後記(ア),(イ)の不正行為をしていたと判断せざるを得ない状況になっております。今後の調査により更なる不正行為が判明していく可能性もありますが,ひとまず,被告としては,企業秩序維持のため,後記(ア),(イ)の不正行為に対し,原告から事情を聴取したうえ,必要であれば,しかるべき処分を下すことも検討しなければなりません。もちろん,今後の事情聴取や調査により不正行為はなかったということになれば被告にとっても原告にとっても良いことですが,残念ながら,今のところは不正行為があったとしか考えられない痕跡が残っております。被告としても,原告は,今後真面目に被告で働くつもりであり在職中にも何らの不正行為もないという信念を有しているからこそ代理人弁護士を立ててまで本件解雇の撤回と復職を求めているのだと信じたいのですが,どう見ても,不正行為があったとしか考えられない状況では,事情聴取等を行わざるをえません。そこで是非とも,原告から事情をお聞きしたいと考えております。
よって,出社後は,業務にも就いてもらいますが,被告の指示に従い,事情聴取や調査への協力もしてもらうつもりです。この点,予め要請しておきます。被告としては,この事情聴取や調査は,決して「お願い」などではなく,企業秩序維持のため原告に対し当然にその応諾を命じることができるものと考えております。したがって,原告にこれを拒否する理由はないと考えております。
なお,原告から合理的な期間内に合理的な弁明がなされない限りは,被告としては,後記(ア),(イ)の不正行為があったという最終判断をせざるを得ませんので,この点もご留意下さい。
(ア) タイムカードの不正打刻(有給休暇を申請して半日休んだはずなのにフルタイムで勤務したかのような打刻,第三者による打刻や記入等)
(イ) 通勤経路の虚偽報告と交通費(定期代等)の詐取(平成25年7月以降,本件解雇の日までの間)
(13) 原告代理人弁護士は,被告代理人弁護士に対し,次の要旨の平成26年6月13日付けご連絡(乙9。以下「原告6月13日連絡書」という。)を送付した。
ア 復職提案はお受けいたしますが,被告が何ら争うことなく,早々と本件解雇を撤回されている以上,本件解雇が不当解雇であることは最早明白であり,原告は被告による不当解雇により,精神的に甚だしい傷を負ったばかりか,経済的余裕もない中で,相当額の弁護士費用を支払ってまで,原告代理人弁護士に本件の解決を依頼されております。つきましては,慰謝料の不払いでの復職などは到底,受け入れることはできず,従前のとおり,①100万円の慰謝料を支払うこと,②被告による不当解雇により原告の名誉感情を毀損したことを認め真摯に謝罪すること,③二度と原告に対して不当解雇をはじめとするパワーハラスメント行為に及ばないことをそれぞれ書面にて誓約していただき,かつ,④復職日までの賃金相当額をお支払いいただくことを条件に復職いたします。なお,復職の条件とはしませんが,後日,未払の割増賃金につきましても精査の上,請求の予定ですのでご了承ください。
イ なお,仮に被告が前記アの条件を受諾されず,解雇に固執される場合は原告5月28日通知の解決金をお支払いください。
ウ タイムカードの偽造,経路の不正申告による定期代金の詐取などという事実は一切ございません。原告は,このような主張をされ,精神的被害をさらに深めておりますところ,仮に,被告が御主張を維持されるのであれば,その根拠を早々に原告代理人弁護士までお示しください。疎明資料を頂き次第,原告代理人弁護士の方で原告に調査を致します。
エ 被告代理人弁護士は,被告6月12日回答で1営業日後の6月16日から原告に職場復帰せよなどと常識的でない通告をされておりますところ,原告も当然ながら15日までに前記アの①ないし④の誓約書を頂き,かつ慰謝料100万円及び6月15日までの賃金相当額の合計額の入金が確認されれば,16日より復職いたしますので,速やかにご入金ください。
(14) 被告代理人弁護士は,平成26年6月17日,原告代理人弁護士に対し,次の要旨の回答書(甲11,乙10)を送付した。その中で,被告6月12日回答で主張した不正行為に関する調査に応じるように命じるとともに,更なる不正行為として,原告が平成26年1月8日,被告のファックス機を用いて,私用文書を送信したことを主張し,これにも調査に応じるよう命じた。原告が兼業として不動産仲介業務を行っていたとも主張し,被告での業務に差し支えがないようにし,被告の名称を仲介業務に使うことを禁止し,仲介業務で取り扱っている物件や宅地建物取引業法所定の資格がない仲介業務に違法な点がある疑いも主張した。
ア 原告は,原告6月13日連絡書で前記(13)アの①ないし④の4点が復職の条件であると主張していますが,原告5月28日通知では,そのような条件があるなどとは一言も述べておらず,従前の主張と大いに矛盾しております。
イ 被告は慰謝料を請求される事由は一切ありませんし,また,本件解雇については今でも正当であると考えており,不当解雇であるとは考えておりません。パワーハラスメントに該当するような行為もありません。
ウ 以上のとおりですから,前記(13)のアの①ないし③の条件については一切応じられません。④については,本件解雇の翌日から出社指定日である平成26年6月16日までの賃金から支払済みの解雇予告手当を控除した残額は速やかに支払う用意がありますが,労働基準法24条1項から原告代理人弁護士名義の口座への振込には応じかね,同項に違反しない支払方法を速やかにご指示下さい。
エ 被告は,原告に対し,引き続き,出社して勤務に就くことを求めます。出社されない場合は,正当な理由なき欠勤と取り扱わざるを得ませんので,しかるべき時期に解雇を含めしかるべき処分を下すことになります。被告が,本件解雇を撤回し出社を求めている以上,すなわち原告から労務の提供を受けることを拒絶していない以上は,前記(13)アの①ないし④の条件の当否やその履行の有無にかかわらず,原告としては,出社して労務の提供を行わない限りは,賃金請求権を獲得することにはなりません。
オ 原告が原告5月28日通知で直ちに本件解雇を撤回し,原告を復職させることを,すなわち,とにかく一刻も早く職場に戻りたいという意向を表明していたはずですので,1営業日後の職場復帰が常識的ではないと反論する態度は不可解というほかなく,被告としては,原告は,本当は復職の意思などないのではないかという疑いを持たざるを得ないところです。
(15) その後も,原告代理人弁護士と被告代理人弁護士との間では,書面が交換され,その中で,原告の要請による被告からの原告に係るタイムカードや給与明細の開示,被告が原告から詐取されたと主張する交通費の差額返還請求,これに対する原告の反論や説明が行われたが,原告と被告との間の主張の対立は解消されなかった(乙12ないし22)。
(16) 原告及びその兄であるB(以下「原告兄」という。)は,弁護士(原告代理人弁護士とは別人)に依頼して,平成26年7月,C(以下「C」という。)に対し,次の要旨の事実を主張して,原告,原告兄それぞれに対し,不法行為に基づく金150万円(慰謝料140万円,弁護士費用10万円)の損害賠償を求める訴えを提起した(千葉地方裁判所松戸支部平成26年(ワ)第557号損害賠償請求事件。以下「別件訴訟」という。)。原告兄は,別件訴訟提起に先立ち,Cに対し,ほぼ同様の理由による民事調停を松戸簡易裁判所に申し立てていたが,同調停は成立に至らなかった(以下「別件調停」という。乙25,乙26の1,2)。
ア 原告兄は,松戸市下矢切住居を所有し,Cは,その近隣の住人で原告兄と同じ通路を使用していた者であるが,「中国人禁止入内」という張り紙を付近に掲示し,原告兄依頼の内装リフォーム工事の作業員に対し,釘のついた棒で威嚇するなどして,同工事を妨害した。そのため,原告兄は,平成24年5月から平成25年6月まで松戸市下矢切住居を空家にせざるを得なかった。
イ 原告は,原告兄からの賃貸を受けて,平成25年8月から松戸市下矢切住居に居住していたが,Cは,前記アの張り紙の掲示を継続し,原告が出入りのため通路を通る度にベルが鳴るセンサーも設置し,原告の依頼による警察からの注意や別件調停を経ても,態度を改めない。
ウ 原告は,Cによる前記イの差別で強いストレスを受け,平成26年2月13日から「パニック障害,うつ状態」となって通院治療を受けている。
(17) 被告は,本件解雇の撤回後も原告の健康保険被保険者資格を回復させるための資格喪失届の取消手続をとっていない。原告は,全国健康保険協会に限度額適用認定申請書(医療費の自己負担額が一定の自己負担限度額を超えたときに自己負担限度額を超えた部分が払い戻される高額療養費につき,後日の払い戻しでなく,医療機関の窓口での支払を自己負担限度額までの支払で足りるようにするための健康保険限度額適用認定証の交付を受けるための申請書)を提出したところ,同協会から平成27年10月26日付け「健康保険申請書等の返戻について」で資格喪失の手続がされたままであることを知らされて,これに気付いた。原告代理人弁護士は,被告代理人弁護士に対し,早急に是正の手続を取ることなどを求める同月30日付け御連絡(甲10)を送付した。
(18) 原告は,平成26年10月24日,被告に対し,本訴を提起した(以下「本訴提起」という。)。被告は,請求棄却を求める答弁書を提出し,同年12月5日の第1回口頭弁論期日で陳述されたものと擬制された。被告は,平成27年5月,反訴を提起した(顕著な事実)。
3 争点
(1) 本訴請求
ア 本件解雇の違法性
イ 欠勤又は本件解雇後の給与
ウ 残業代
(ア) 労働時間及び時間単価
(イ) 既払金
(2) 反訴請求
ア 本訴提起の違法性
イ 原告による金銭詐取
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)ア(本件解雇の違法性)について
ア 原告の主張
(ア) 原告は,ほとんど欠勤することなく,誠実に勤務していた。遅刻や欠勤があっても,必ず電話やメールで連絡をとっており,取引先や同僚に迷惑をかけたことはなく,被告から特に注意や指導を受けたことはない。ところが,被告代表者は,平成25年11月ころから,ホテル視察の際,原告が営業のため「いいところですね,個人でも来たくなります」などとホテル側の担当者と話しているのに「仕事中なのにプライベートの話をするな!」「もしあなたたちが付き合ってXさんが別れたら,Xさんは自殺するよ!」などと怒鳴り,原告の自尊心を傷つける,原告から賞与の支給について尋ねられて「あなたは仕事を頑張っていないからボーナスは支給しない」「私の会社なのだから口を出すな!」「誰にボーナスをあげるかは,自分で決める,あなたは頑張っていないのだから口を出すな!」などと大声で同僚の前で罵倒する,原告は英語を勉強して海外の顧客と英語の電子メールで打ち合わせをしているのに「もっと英語ができないとだめだ,あなたは頑張っていない」と,何かにこじつけては度々同僚の面前で罵倒する,電灯の点灯も原告にさせて,原告をあごで使うといったパワーハラスメント行為を繰り返して,原告を精神的に追い詰めた。被告代表者は,他の従業員に対しても,「できないんだったらやめてしまえ!」と怒鳴りつけるなどしており,職場の雰囲気は始終ピリピリしていた。
(イ) 被告代表者のパワーハラスメント行為のため,原告は,次第にうつ状態となり,平成25年12月ころより体調が優れなくなり,平成26年1月ころには,パニック障害を発症し,体調悪化のため,同月末ころからは欠勤しがちになり(ただし,事前に連絡を取って,被告の了解を得ていた。),同年2月からは呼吸困難に陥ることもあり,同年3月12日以降は全く出社できなくなった。ただ,原告は,同日以降の欠勤を電子メールや電話で被告に連絡しており,「病気がよくなったら復帰したい」との希望も被告に伝えていた。
ところが,被告は,平成26年3月28日,休職や業務内容の調整を試みることもなく,何の前触れもなく,電話で本件解雇を通告した。原告は,本件解雇の通告を受け,頭が真っ白となり,精神的衝撃と絶望感に打ちのめされた。本件解雇で収入を失って,今後の見通しが立たず,生活が極めて不安定になった上,同僚に本件解雇が知れ渡ったことで名誉も著しく毀損された。
(ウ) 原告の欠勤は,被告代表者によるパワーハラスメント行為によるパニック障害及びうつ状態が原因で,被告の責めに帰すべき事由に当たる。Cの差別的言動も影響しているとしても,それは一因に過ぎず,被告代表者のパワーハラスメント行為が大きく寄与し,相当因果関係を有することには変わりない。それにもかかわらず,被告は,原告の職場復帰の希望を無視し,休職で時間をかけて復帰の可能性を見極めたり,パワーハラスメントの再発防止措置を講じたりすることもなかった。原告が勤務時間中に他社の労務に従事したという解雇理由は,全くの事実無根である。原告は,友人に依頼されSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で友人の記事を転送し,その記事を見たと思われる第三者から不動産に関する話をされたことはあるが,友人の連絡先を伝えるなどしただけで,自身で不動産の仲介を行ったことはない。被告主張のSNSサイト(乙30の1ないし6,乙35)は原告作成のものではない。
(エ) 以上によれば,原告が出勤できなくなった原因は被告代表者のパワーハラスメントにあり,継続的な欠勤が始まってから約2週間しか経過していないにもかかわらず,欠勤を理由とし,また,他社の労務に従事したという事実無根の理由も付して,本件解雇を強行しており,本件解雇は客観的に合理的な理由を欠いて,本件解雇撤回を待たずに無効であり,その悪質性に照らして,不法行為にも該当する。被告は,本件解雇を撤回しているが,社会保険の資格喪失届取消しの手続を取っておらず,真実,原告を復職させる意思は疑わしく,本件解雇の撤回は形式的なものに過ぎない。
原告は本件解雇で著しい精神的負担を受け,本件訴訟の長期化や被告代表者から裁判所に出頭した際,厳しい言動を受けたこともあって,精神的負担は軽減されず,現在も被告でも他社でも就労困難な状況にある。これによる精神的苦痛は慰謝料100万円に相当し,その損害賠償を得るために要する弁護士費用は10万円を下らない(本訴請求(2))。
イ 被告の主張
(ア) 原告は,平成25年2月ころ以降,しばしば私用で1日又は半日の欠勤や遅刻をしており,その連絡も当日以降になることがしばしばで,勤務態度は誠実ではなかった。被告の取引先である旅行代理店からは,担当者である原告となかなか連絡が取れず,苦情が寄せられ,取引の減少や打ち切りという結果が生じ,原告の欠勤や遅刻による不在による混乱で他の従業員らも迷惑を受けていた。被告は,欠勤や遅刻の前日までには届け出るよう,旅行代理店からの信頼を失わないよう行動するよう,他の従業員の迷惑になる行動を慎むよう注意・指導を与えていたが,原告の行動は改まらなかった。ただ,被告は,原告が入社からそれほど間が立っていなかったことから,欠勤や遅刻に伴う賃金の控除も,被告代表者の気分よく働いてもらいたいという好意的配慮から控えていた。平成25年12月から平成26年3月までの間,被告の業務が多忙を来した時も,原告の欠勤や遅刻は改まらず,連絡も当日になることが相変わらずで,再度の注意・指導にも改善は見られなかった。
被告代表者が原告にパワーハラスメントを行ったことはなく,原告を怒鳴ったこともない。原告の英語による電子メールの連絡は,打合せというほどのものではなく,予約の日時を確認するだけの簡単なものだった。
(イ) 原告は,平成26年3月12日以降,事前の連絡なく欠勤を始め,被告からの連絡にも応じなかった。同月24日になって連絡が取れ,原告は,同月25日,被告を訪れ,診断書(乙5)及び傷病手当申請書面(乙6)を提出した。被告が「仕事も忙しくなっており,あなたが出社できないとなると,会社は新しい人を雇わなければならない。今後はいつから出社できそうか」と尋ねたところ,原告は,「これまで社会保険料を負担してきたので,傷病手当を申請する権利がある。これから傷病手当を申請して,1年もしくは2年は会社を休む。別に会社を辞めても解雇されてもかまわない。昨年から渋谷の予備校に通っており,宅建の資格を取るつもりだ。自分は不動産関係の仕事が向いており,不動産の仕事がしたい。」などとふてくされた態度で述べて,傷病手当申請書面に押印するよう要求した。うつ状態等にかかっているような様子は全くなかった。うつ状態等の原因に関する原告の主張は,本件と別件訴訟で矛盾しており,詐病と考えられる。仮に原告がうつ状態等にあったとしても,その原因に関する本件訴訟及び別件訴訟における主張はCの差別的言動からの影響の有無や程度に関して変遷しており,信用できない。
(ウ) 原告は,在日中国人向けに不動産(主に寮)を仲介するビジネス(以下「寮仲介ビジネス」という。)を展開しており,携帯電話のSNSサイト(乙30の1ないし6,乙35)に賃借不動産に関する情報を掲載する,被告での勤務時間中に被告の備品を利用する,寮仲介ビジネスのための電話をかけるなどして誠実に業務を遂行すべき義務に違反した。原告は,不動産仲介を行う資格を有しておらず,仲介している寮は一戸建て住宅の内部を複数の部屋に仕切って,それぞれ別人に貸し出す,又は宿泊させるもので,建築基準法,消防法,宅地建物取引業法,旅館業法,旅行業法等に違反する疑いがあるもので,このことが露見すれば被告の信用や評判が著しくおとしめられるおそれがあった。被告は,少なくとも勤務時間中に寮仲介ビジネスに従事することはやめるよう注意指導していたが,原告の態度に改善は見られなかった。
(エ) 以上のとおり,被告代表者によるパワーハラスメントの事実はなく,本件解雇は注意・指導を受けても欠勤,遅刻,勤務時間中の寮仲介ビジネス従事が改まらず,その態度も不良であったことによるものであって,正当なものである。仮に無効だとしても,それなりの理由があったから,不法行為にはならない。
本件解雇は既に撤回されているのであるから,本件解雇が不法行為に当たるか,論じる意義はない。原告は,本件解雇の前から欠勤しており,傷病手当金を受給していたから本件解雇で収入を失い,生活が不安定になったとはいえないし,被告が本件解雇を撤回し復職を指示し,本件解雇の後の賃金支払の用意も申し出ており,生活不安定のおそれは解消されている。被告が社会保険の資格喪失届取消しの手続を取っていなくとも,真意に基づいて本件解雇を撤回していることには変わりなく,上記手続を取った場合の原告負担分の社会保険料回収の問題,本件解雇時に遡って退職合意が成立する可能性もあったことを考慮すれば,上記手続を留保しても不当とはいえない。
(2) 争点(1)イ(欠勤又は本件解雇後の給与)について
ア 原告の主張
(ア) 原告の欠勤は被告代表者のパワーハラスメントによるパニック障害及びうつ状態が原因で,被告の責めに帰すべき労務提供の不能に当たるかから,原告は,平成26年2月分(同月25日支給)及び同年3月分(同月25日支給)の各給与から欠勤を理由に減額された分(同年2月分1万8454円,同年3月分9万6886円)につき,なお,支払請求権を保持している。
(イ) 本件解雇は無効なもので,病気療養中も早期の復職を希望していた原告の復職の途を絶った。被告は,本件解雇の撤回後もパワーハラスメント行為を否定して,本件解雇の正当性を主張し,原告からの不当解雇による慰謝料支払の請求に応じず,復職の日等を打ち合わせることもなく,わずか4日後の復職を唐突に通知しており,何の対応策もとらずに復職しても被告代表者のパワーハラスメントが継続するおそれが大きかった。被告は,社会保険の資格喪失届取消しの手続を取っておらず,真実,原告を復職させる意思は疑わしく,本件解雇の撤回は形式的なものに過ぎない。さらに被告は反訴を提起している。このように原告が復職可能な環境が整えられたとはいえず,なお,被告の責めに帰すべき労務提供の不能に当たる。
したがって,原告は,本件解雇のため減額された平成26年4月分(同月25日支給)の金12万9182円に加え,同年5月分(同月25日支給)以降の毎月20万3000円についても,なお,賃金請求権を保持している。原告は,解雇予告手当19万9910円を給与の繰り上げ支給として平成26年4月分の金12万9182円の弁済及び同年5月分の給与20万3000円の一部弁済(弁済額7万0728円)にそれぞれ充当した。
(ウ) よって,原告は,平成26年2月分から同年9月分までの給与又は同未払額として別紙第1「各月給与未払額一覧表」記載の合計105万9612円(本訴請求(3))及び同年10月分以降の給与として同月から本判決確定の日まで毎月25日限り金20万3000円(本訴請求(4))の各支払を求める。
イ 被告の主張
(ア) 被告代表者にパワーハラスメントの事実はなく,パワーハラスメントが原因で原告はパニック障害及びうつ状態になったこともない。原告の欠勤は被告の責めに帰すべき事由によらないから,欠勤に応じた賃金減額は正当である。
(イ) 本件解雇は正当なものであり,原告を復職させることには不安があったが,被告代表者の義理人情に厚い性格から,原告にもう一度チャンスを与え,仕事ぶりを見てみようという気になり,被告は,原告5月28日通知に応じて,被告6月12日回答で本件解雇を撤回し,平成26年6月16日からの出社を命じ,労務の提供を拒絶せず,受領することを明示した。ところが,原告は,原告6月13日連絡書以降,それまで条件を付さず直ちに復職させることを求める態度を翻して,復職に条件を付けて,復職日までの賃金相当額を振込入金先となる原告名義の預金口座を指定せず,被告からの不正行為に関する調査にも応じないまま,欠勤を継続し,同月16日以降は,被告が本件解雇を撤回し,出社を命じながら,欠勤を続けている。この経過において,うつ状態等による出勤困難に言及することはなく,うつ状態等の裏付けとなる診断書の提出もなく,原告は平成27年12月時点で寮仲介ビジネスに精を出していたから(乙35),うつ状態等が欠勤の理由になっていたとは考えられない。原告が社会保険の資格喪失届取消しの手続が取られていないことを知ったのは,本件解雇撤回からかなり期間が経過した後のことであるから,本件解雇撤回後の欠勤の理由にはならない。反訴提起も同様である。
また,原告は,平成26年3月25日に今後は出社せず,傷病手当金を申請すると宣言していたから,本件解雇がなくとも同月26日以降,欠勤していたと考えられる。
(ウ) したがって,本件解雇撤回後の欠勤が被告の責めに帰すべき事由によるとはいえない。
(3) 争点(1)ウ(ア)(残業代-労働時間及び時間単価)について
ア 原告の主張
(ア) 原告は,タイムカード(甲5の1ないし16)に記録されている通り,平成24年12月から平成26年3月まで別紙第2の1「労働時間一覧表(原告主張)」の「始業時刻」「終業時刻」「休憩時間」「実労働時間」の各欄のとおり勤務した。「所定外」欄は,実労働時間数のうち1日の所定労働時間(月曜日ないし金曜日は7時間,土曜日は3時間)を超えた所定外労働時間数であり,「割増対象時間※1」欄は,「所定外」欄の労働時間数から所定始業時刻(午前10時)までの時間数を控除した残時間数で,「割増対象時間合計(週)」は,週ごとの「割増対象時間※1」欄の合計時間数である。「週残業(40h)」は,実労働時間数のうち法定の週40時間を超える労働時間数である。「割増対象時間合計(週)」と「週残業(40h)」を比較して,労働時間数の大きい方を残業代計算の基礎とする労働時間とし,割増率に応じて,割増率125パーセントになるものは「時間外(25%)」欄に,深夜労働でもあるため,割増率150パーセントとなるものは「時間外+深夜(50%)」欄に,法定休日である日曜日の労働で,割増率135パーセントになるものは「休日(35%)」(平成25年11月に限る。)にそれぞれ時間数を記入している。これらの労働時間数を月毎にまとめた結果は,別紙第2の2「割増賃金が支払われるべき労働時間」のとおりである。
(イ) 残業代の時間単価は,別紙第2の3「割増賃金計算式」の「(1)原告の1時間当たり賃金」のとおり,平成24年12月から平成26年1月までは1261円,同年2月,3月は1279円である。これらの時間単価を前記(ア)の労働時間数に所定又は法定の時間外労働は125パーセント,休日労働は135パーセント,深夜労働にも当たる上記時間外労働は150パーセントの割増率とともに乗じれば,別紙第2の3「割増賃金計算式」の「(2)原告に支払われるべき割増賃金」のとおり,金91万8598円と算定される。
なお,所定労働時間を超えるが,法定労働時間の範囲内の時間外労働(以下「法内残業」という。これに対し,法定労働時間を超える時間外労働,深夜労働及び法定休日労働を一括して「法外残業」という。)であっても労働契約で割増賃金支払の対象に含めている場合には割増賃金の支払義務が生じるべきであり,本件残業手当約定も法内残業と法外残業を区別せずに残業手当を支払うべきことを定めているから,法内残業も割増賃金支払の対象に含めていると解するべきである。本件残業手当約定には「時給1000円」との記載もあるが,割増賃金を支払うべきである以上,前記(ア)の時間単価をもとに割増賃金を計算すべきである。
イ 被告の主張
(ア) 原告主張の労働時間は否認する。
タイムカード(甲5の1ないし16)の打刻には少なくとも6回,7か月にわたって不正なものがあり(後記(6)ア(イ)),また,原告は,勤務時間中,被告の許可を得ずに被告の業務を離れて自己の事業である寮仲介ビジネスに従事していた時間があるから,タイムカードの打刻から労働時間を推認することはできない。むしろ,原告は,業務から離れていた時間についても賃金を受領しており,返還されるべき賃金が多額にのぼる可能性があり,残業代の請求は信義則違反又は権利濫用に当たる。
(イ) 原告の残業代の計算は,法内残業にも労働基準法所定の割増しをしており,失当である。
本件残業手当約定は,残業手当につきその支払対象とする時間とその時給を金1000円とする旨の定めがあり,原告は,本件残業手当約定を超えて残業代は支払われないとの説明を受けて,被告は本件残業手当約定に基づいて「時間外1」(甲4の1)又は「普通残業手当」(甲4の2ないし16)として残業手当を支払い,原告は,異議なく,これを受領しており,これ以上残業代を請求することはできないというべきである。
(4) 争点(1)ウ(イ)(残業代-既払金)について
ア 被告の主張
被告は,別紙第3「残業代既払金一覧表」の「被告主張額」記載のとおり残業代のうち金58万0100円を「普通残業手当」として支払済みである。
イ 原告の主張
平成25年3月分の給与明細(甲4の4)には「普通残業手当」6万2500円との記載があるが,実際には金5万2500円しか支給されておらず,金1万円が未払である。同年4月分の給与明細(甲4の5)には「普通残業手当」4万2600円との記載があるが,実際には金4万2500円しか支給されていない。その余の既払金は認める。
したがって,既払金の金額は,別紙第3「残業代既払金一覧表」の「原告主張額」記載のとおり,金57万円である。前記(3)アの残業代91万8598円から既払金57万円を控除した未払額は,金34万8598円となる。
(5) 争点(2)ア(本訴提起の違法性)について
ア 被告の主張
(ア) 被告は,本件解雇を本訴提起前に撤回して出社を命じ,出社までの賃金支払の用意も伝え,原告も慰謝料,謝罪等の条件を付けながらも復職には応じる意思を示していたから,本訴提起で労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を請求する必要はなかった。労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を請求されたことで,無用に訴額が増加し,被告は,弁護士費用負担額の増加を強いられた。
原告は,本件解雇の撤回後,再度解雇される可能性があることを主張していないのであるから,そのような理由で労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を請求することを正当化することはできない。また,そのような将来の可能性をもって本訴提起を正当化することはできない。
(イ) 原告は,平成26年2月分以降の賃金に未払があると主張して本訴提起を行ったが(前記第1の1(3),(4)),前記(1),(2)各イのとおり,未払があるとされる理由である原告によるパワーハラスメントの主張は虚偽で,うつ状態等は詐病で,事実的根拠に欠ける。本件解雇撤回後の賃金請求も事実的,法律的根拠に欠ける。
(ウ) 以上によれば,本訴提起は,事実的,法律的根拠に欠き,原告がそのことを知りながらあえて請求した部分を含み,この部分は違法で,不法行為に該当する。被告は,この不法行為で,応訴のための弁護士費用64万円の損害を受けた。
イ 原告の主張
(ア) 前記ア(ア)に対し
被告は本件解雇を撤回し,原告の労働契約上の権利を有する地位を認めているのであるから,原告の本訴請求は事実的,法律的根拠を有する。被告の本件解雇の撤回は形式的なもので,推移によっては再度解雇の意思表示をする可能性もあったから,労働契約上の権利を有する地位の確認を求める必要はあった。
(イ) 前記ア(イ)に対し
前記(1),(2)各アのとおり,原告は,被告代表者のパワーハラスメントによるうつ状態等など,被告の責めに帰すべき事由のため就労不能となっている。
(ウ) 前記ア(ウ)に対し
以上,原告の本訴請求は,事実的,法律的根拠があるから,不法行為には当たらない。
(6) 争点(2)イ(原告による金銭詐取)について
ア 被告の主張
原告は,次のとおり,被告から給与の不正受給を受け,金銭を詐取したので,不当利得として,その返還を求める。
(ア) 定期代の詐取
原告は,実際には,平成25年7月から同年12月3日までの約4か月は東京都墨田区〈以下省略〉(最寄駅はc駅。b駅までの定期代は月1万0120円),同月4日から本件解雇の日までの約4か月は東京都葛飾区〈以下省略〉(最寄駅はd駅。b駅までの定期代は月1万5100円)に居住しながら,松戸市下矢切住居からの通勤定期代(月2万7190円)の支給を受けて(前記第2の2争いのない事実等(4)),被告に過大な定期代を支払わせた。その差額11万6640円であり,原告は同額を返還すべきである。
(27,190-10,120)×4+(27,190-15,100)×4=17,070×4+12,090×4=116,640
(イ) 賃金の詐取
原告は,同僚(氏はD。以下「D」という。)と協力しあって,一方が自己のタイムカードに実際とは異なる出勤又は退勤の時刻を手書きで記入し,他方が確認印を押す,一方が他方のタイムカードを用いて機械の打刻を受けるといった方法で,平成25年4月18日の退勤,同年7月5日の退勤及び同年10月3日の出勤の各記録を偽って,金5500円の賃金を詐取した。
イ 原告の主張
(ア) 前記ア(ア)に対し
原告は,平成25年7月末ころから平成26年4月まで,実際に松戸市下矢切住居に居住しており,被告からの定期代の支給も実際の利用区間に応じたものであって,一切不当な利得は得ていない。
(イ) 前記イ(イ)に対し
いずれも否認する。
原告は機械による打刻忘れがあったときは自分の記憶に基づいて手書きでタイムカードに出退勤時刻を記載している。原告以外の者が原告のタイムカードを用いて機械で打刻を受けていたとしても,並べて置いてある従業員らのタイムカードの中から間違えて原告のタイムカードで打刻してしまったものと考えられる。
第3 争点に対する判断
1 原告の労働契約上の権利を有する地位の存否について
(1) 被告は本件解雇を既に撤回し,原告もこれを了承し,自己の労働契約上の権利を有する地位の確認を求めているから(前記第2の2争いのない事実等(12)ないし(15)),原告と被告との間では,本件解雇によって仮に労働契約終了の効力が生じていたとしても,少なくとも本件解雇の撤回により,従前の労働契約を復活させる旨の黙示の合意が成立しているというべきである。また,被告は,他に労働契約終了の原因となる事実(再度の解雇等)も主張していないから,原告は,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にある。
(2) 被告は,本訴提起のうち,労働契約上の権利を有する地位の確認を求める部分につき,本件解雇を本訴提起前に撤回していたことを理由に確認の利益を否定しているが,一方で,被告は,答弁書で,労働契約上の権利を有する地位の確認を含む本訴請求に対し,請求棄却を求める答弁をしている(前記第2の2争いのない事実等(18))。本訴提起に至る経過及び本件提起後の経過を見ても,被告は,いったんは本件解雇で原告の労働契約上の権利を有する地位を否定する態度を示した上,本件解雇を撤回したものの,本件解雇が当初から無効であったことは認めず,その正当性を主張し,撤回までは有効であったことを主張し,本件解雇の撤回後も原告の健康保険被保険者資格喪失の取消手続をとっていないから,被告は,原告の労働契約上の権利を有する地位の存在を完全に認めているとはいえず,被告との間で労働契約上の権利を有する地位の存否に関する争いが再燃する危険が全くなくなったとはいえない。
したがって,紛争の過去及び現在の状況から推して,現時点における労働契約上の権利を有する地位の存在を確認することが,なお原告に現存する不安や危険を除去するため必要かつ適切でないとはいえない。
(3) 以上によれば,原告の労働契約上の権利を有する地位の存続が認められ,かつ,確認の利益も否定できないから,主文において,原告の労働契約上の権利を有する地位を確認すべきである(主文第1項)。
2 争点(1)ア(本件解雇の違法性)及び争点(1)イ(欠勤又は本件解雇後の給与)について
(1) 認定事実
前記第2の2争いのない事実等(1)ないし(18)に加え,証拠(甲1,2,甲4の1ないし16,甲5の1ないし16,甲12,15,乙3の1ないし32,乙5,6,乙7の1,2,乙29,乙30の1ないし7,乙31,33ないし35,37,39,41,乙58の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
ア 原告は,東京都豊島区内に所在する被告の日本事業所に勤務していた。同事業所に勤務する者の人数は約15名である。
イ 原告は,平成25年2月から平成26年3月までの間,32回にわたって欠勤届を提出しているが,うち17回(乙3の1ないし3,5,6,10,12,13,16,17,21,23,25,27,28,30,31)は有給休暇(夏期休暇を含む。)として処理されている。32回の欠勤届には前日までに届けるよう指示を受けているにもかかわらず,当日以降に欠勤届(乙3の4,7,8,9,14ないし16,18ないし20,23,24,26,28,29,31,32)を提出する遅刻や外出が17回あり,うち4回(乙3の7,23,26,32)は通院や体調不良を理由とするものであった。
ウ 被告は,前記イの有給休暇の取得によらない,又は前日までの届出によらない欠勤や遅刻に対して,懲戒その他の処分を与える,賃金の欠勤控除を行う(ただし,平成26年2月分からは欠勤控除を行っている。),書面による注意・指導の措置を講じるといった不利益な取扱い又はこれを警告する措置は特に講じておらず,むしろ,平成26年2月には原告の役職手当を増額した。
エ 「E」又は「F」の名称を使用し,連絡先として原告使用の携帯電話番号(080-〈省略〉)を表示し,原告に酷似した女性の顔写真を掲載したSNSのサイト(乙30の1ないし6)は,平成25年9月から平成26年1月にかけて中国人向けに賃借不動産に関する情報を約4回にわたって,掲載した。上記顔写真は,被告の事業場で原告が使用していたパソコンにも保存されている(ただし,この保存の事実から原告が被告での勤務時間中,業務を離れて寮仲介ビジネスに従事していたとたやすく推認することはできない。)。平成27年12月にも同様のサイトが賃借不動産に関する情報を掲載した(乙35)。掲載された不動産に関する情報には,原告が現在又はかつて住所を置いていた住居(松戸市下矢切住居,東京都葛飾区〈以下省略〉,東京都江戸川区〈以下省略〉)と同一又は周辺の不動産に関するものが含まれている(乙37,39,乙58の1ないし3)。その中には同じ一戸建ての建物の内部につき,部屋ごとにベッドが置かれている状態の写真が含まれている。その各掲載日時(平成25年9月18日午後9時10分,同年10月1日午前9時15分,平成27年12月25日午後8時30分)は,後記3(1)認定の原告の労働時間とは重複しない。
オ 原告は,平成26年1月8日午前9時58分(就業時間は午前10時0分からであるから勤務時間内ではない。),被告のファックス機を用いて,原告兄が水道料金を振り込んだことを千葉県松戸市の水道センター担当者宛に知らせるための振込明細書の写し1枚(乙24,41)を送信し,業務と無関係の私用のために被告のファックス機を使用した。
カ 原告は,平成26年2月13日から松戸市〈以下省略〉所在の西クリニックでの診療を受け始め,月1回ないし数回の診療を継続し,抗うつ剤及び抗不安薬の処方による治療を受けている。診療では,原告から医師に胸や息の苦しさ,動悸,頭痛,不眠,耳鳴等の症状があること,平成25年8月ころから体調が悪く,平成26年1月から更に悪化したこと,会社(被告)で異動があり,対人関係に問題があること(診療録には「女社長キビシイ」とのメモが残されている。また,医師は原告が「英語ができないといわれた」旨を述べていることを覚えている。),心が重くなって会社に行く途中いろいろ思い出して気分が悪くなること,苦しくて会社に行けないこと,会社に足が向かないこと,会社に行こうとするとドキドキすること,土曜日,日曜日になると会社が休みなので気持ちが落ち着くこと,出勤する電車の中ではドキドキするが,途中で出勤をやめて戻るときはドキドキしないこと,出勤のため家を出ても駅までいけないことがあること,本件解雇を受けて気分的に楽になり,耳鳴や動機は改善したこと,本件解雇で会社に行かないので楽になったこと,その後も身体のだるさ,軽い呼吸困難,動悸等の症状は続き,まだ,仕事はできないことが説明された。Cの差別的言動に関しては,明確な説明はなかった。
キ 西クリニックの医師は,原告には,同年1月ころ発病のパニック障害及びうつ状態で,平成26年3月20日時点で動悸,息苦しさ,目まい感,胸部不快感,頭痛等の症状が強く,勤務不能の状態にあると診断していた。その原因に関しては,医師の診断では特定されておらず,「不詳」とされている。
ク 原告は,平成26年3月25日,被告を訪れて,上司及び被告代表者と面談を行った。原告は,傷病手当申請書面を提出して必要な押印を依頼し,被告側では「確認して問題がないようであれば押印を行う」旨を回答した。原告と被告との間の原告の体調不良に関する協議は,この日の面談にとどまり,被告が入手した資料も簡略な診断書(乙5)及び傷病手当申請書面(乙6)にとどまった。これらの資料には,原告が通院加療を要すること,勤務不能の状態にあることの記載はあるが,今後の回復の見込みに関する具体的な記載はない(上記面談の際,原告から解雇を容認するような発言や不誠実な態度があったと認めるに足りる的確な証拠はない。)。
ケ 原告代理人弁護士は,被告代理人弁護士からの照会に答えて,平成26年10月10日,原告からの聴取内容として「別件訴訟において,第三者の言動によりうつ状態等になったと主張していることはないとのことです」と回答した(乙22)。その内容は,別件訴訟における実際の主張内容(前記第2の2争いのない事実等(16))に反していた。
コ 原告は,別件訴訟に提出した平成27年4月13日付け陳述書(乙31)で,Cから中国人お断りという意味の「中国人入内禁止」と記載された張り紙を掲示され,これを毎日のように目にしなければならないことで,大変屈辱的な気持ちにさせられ,中国人の友人との交流も妨げられるなどして,ストレスのため,平成25年11月ころから,呼吸困難の症状が出て,その後,症状がひどくなり,平成26年2月ころに医師の診察を受けることになり,松戸市下矢切住居から引っ越さざるを得なくなった旨を供述していた。
サ 原告は,被告が本件解雇を撤回し,出社を命じた後も,被告代表者がパワーハラスメント行為を認めて再発防止を約束しなければ,怖くて出社できないと考え,出社命令に応じなかった。被告の反訴提起(平成27年5月)や被告が原告の健康保険被保険者資格を回復させる手続をとっていないこと(同年10月判明)でも不信感を強め,本件解雇の撤回は「形だけ」の「裁判対策」に過ぎないと考えている。
シ 原告と被告との間の労働基本契約書(甲1)には,原告の兼業・兼職を禁止する定めはない。被告は,労働基準法89条に基づく就業規則の作成義務を負う使用者に当たるが(前記ア),兼業・兼職の禁止や懲戒処分に関する就業規則は定めていない。
(2) 被告代表者のパワーハラスメントの有無について
ア 原告の陳述書(甲12,乙7の2)には,被告代表者から人格を中傷するような叱責,「もっと英語ができないとだめだ,あなたは頑張っていない」と怒られる,同僚の面前で罵倒されるなどの陰険ないじめ,嫌がらせがあり,そのため,体調が悪化したとの記載がある。
イ この供述内容は,①原告は,平成26年1月以降,体調を崩して欠勤しがちになり,通院治療を受け,医師からパニック障害やうつ状態との診断を受けていること(前記第2の2争いのない事実(6),(7),前記(1)イ,カ,キ),②原告は,医師の診療で,被告代表者の態度に問題があり,被告での勤務が強いストレスになっていることをうかがわせる説明をしており,原告から見て被告代表者との人間関係には問題が生じており,原告は被告に出社して被告代表者と接することに主観的に強い負担を感じていたこと(前記(1)カ),③被告は,原告と十分な話し合いを持つことなく,本件解雇に踏み切っており,一方的で強引な措置と見る余地もあること(前記第2の2争いのない事実(8),(9),前記(1)ウ,ク),④被告は,小規模な会社であり,一社員にとどまる原告でも被告代表者と直接接する機会は少なくなかったと推測されること(前記1(1)ア,乙46の1,2,弁論の全趣旨)に整合し,その信用性は相応に裏付けられているようにも見える。
なお,被告は,原告は業務上の傷病を対象とする労働災害保険に切り替えることもなく,業務外の傷病を対象とする傷病手当金(乙32)を受領し続けているから,被告における業務が原告のうつ状態等と無関係であることは明らかで,また,本訴請求で業務上の傷病であると主張することは禁反言の見地からも許されないと主張する。しかしながら,原告のように特に専門的知識を有しない者にとって労働災害保険の適用対象やその申請を適切に判断することは容易でないし,また,精神疾患につき業務上の傷病との労働基準監督署の認定を受けることは必ずしも容易でなく,認定を受けられるとしてもかなりの期間を要することも少なくなく,被告が被告代表者のパワーハラスメントを認めて労働災害認定のため積極的に協力することを期待できる状況が存したともうかがわれないから,当面の生活費を確保するため,確実に受給を受けられる傷病手当金を受給した上で,労働災害保険の給付申請は当面見送るという経過も不自然とはいえない(後日,業務上の傷病との認定を受けたときは傷病手当金を返還すればよい。)。また,労働災害保険の給付申請をせずに傷病手当金を受領した上で,本訴請求を行うことが被告の何らかの期待を害するわけではないから,禁反言として権利濫用や信義則違反に該当するともいえない。
証拠(甲12,乙4の1ないし9,乙34,38,39,乙52の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,被告における視察旅行や新年会,クリスマス会,食事会の各記念写真には原告及び被告代表者がにこやかな様子で一緒にいる様子が撮影されているものが少なくないことは認められるが,ある特定の場面における状況を示すものに過ぎない上,原告以外の被告の従業員ら又は視察先の関係者も一緒であり,原告と被告代表者との間の仲が険悪でもそれを表面に出さないように振る舞うことも十分にありうる状況であるから,原告と被告代表者の関係がパワーハラスメントを想定できないほど良好であったとは推認するに足りない。
証拠(乙7の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成26年4月,東京労働局に提出したあっせん申請書で被告代表者からのいじめや嫌がらせは「平成26年1月頃」からと主張していたが,本訴事件の訴状では,被告代表者からのパワーハラスメントは「平成25年11月頃」からと主張しており,時期に関する主張に変遷があることが認められるが,いずれも「頃」と幅を持たせた記載になっている上,出来事の存在やその内容に比べ,時期に関する記憶は曖昧になりがちであることを考慮すれば,この変遷からパワーハラスメントの不存在を推認するには足りない。
ウ 他方,一般に,上司が職場において部下を指揮監督する場面においては,叱責など,その態様が厳しくなるときもあるが,その経緯,動機,目的,理由,業務上の指揮監督の必要,態様等に照らして,社会通念上相当とされる限度を超える程度の激烈さや陰湿さが認められなければ,不法行為となる違法性を認めることはできない。原告の受けた負担感やその精神的影響は,その性質上,主観的なもので,個々人の受け止め方,感覚,感受性,人間関係,その言動があった状況(時間,場所等),経緯等に左右されやすい要素でもあって,前記イの①,②のとおり,原告が被告との人間関係に主観的に強い負担を感じ,また,その当時心身の調子を崩しているからといって,それだけで被告代表者の言動が社会通念上相当とされる限度,すなわち業務上の適正な範囲を超えると推認することは容易ではない。
さらに原告は,別件訴訟では,Cの差別的言動にうつ状態等の原因があるかのように主張し,その主張内容は本件訴訟における主張と整合するものではなく,被告に別件訴訟における自己の主張をあえて隠そうとしていたとみられてもやむを得ない様子が見られること(前記第2の2争いのない事実(16),前記(1)ケ,コ),原告は不動産物件情報の紹介するサイトの運営に何らかの形で関与していると推認され(前記(1)エ),上記サイトに関与していることを否定する原告の主張は真実をありのままに述べるものとは考え難いことは,その供述の信用性を検討する上で,たやすく無視できない。
被告は,小規模な企業で,その組織の運営では,被告代表者の意向が影響するところが大きかったと推認されるところ,原告は有給休暇取得をある程度柔軟に取得しており,被告は,前日までの届出によらない欠勤や遅刻があっても賃金控除を行わないことが少なくなく,明確に指導・監督な措置を講じることなく,むしろ,役職手当を増額しており(前記第2の2争いのない事実等(5),(6),前記(1)イ,ウ),原告に対して,好意的ともいえる態度があったことも,被告代表者に激烈又は陰湿な言動があったこととは必ずしも整合しない。
エ 以上によれば,原告と被告代表者との人間関係には問題が生じており,原告は被告に出社して被告代表者と接することに主観的には強い負担を感じていたことは認められるが,被告代表者に社会通念上相当な範囲を超える程度の激烈さ,陰湿さを伴うパワーハラスメントに当たる言動があったと認めるには足りないから,被告代表者によるパワーハラスメントの存在を前提として本件解雇に違法性があるということはできない。
原告は,被告における原告の業務とうつ病等の発症との間に因果関係が認められるとも主張するが,単に業務との因果関係が認められるだけでは損害賠償請求権の発生原因事実として不十分である。また,うつ病等の発症が被告の業務従事との相当因果関係が認められる「業務上の疾病」(労働基準法75条)に当たるかどうかは,条件関係のみならず,職種,職場における立場や職責,年齢,経験等が類似する同種の労働者が一般的にどう受け止めるかという観点(原告の主観的な受け止め方ではない。)から,業務以外の心理的負荷及び個体側要因も考慮して判断することが相当であり,例え業務従事において,上司との間でトラブルがあり,上司に非が認められるとしても「周囲からも客観的に認識されるような大きな対立」で「その後の業務に大きな支障を来した」とか「人格や人間性を否定するような言動」が「執拗に行われた」ような場合でなければ,にわかに業務従事と精神疾患との間で相当因果関係を認め難く(厚生労働省労働基準局長平成23年12月26日付け「心理的負荷による精神障害の認定基準について」参照),前記ウの認定判断にも照らせば,業務上の疾病に当たると認めるには足りない。
オ また,以上の認定判断によれば,原告の本件解雇前の欠勤が被告代表者によるパワーハラスメントによるものと認めることもできないから,私傷病として欠勤に伴う賃金減額を受けることもやむを得ないというべきである。また,本件解雇がなくとも欠勤は相当期間継続したものと推認できるから,本件解雇が無効であっても,原告は労務提供の能力を欠く以上,被告の「責めに帰すべき事由によって」(民法536条2項),就労不能が生じているとは言えないから,本件解雇後の賃金を請求することはできない。
なお,被告は,原告との交渉で本件解雇の翌日から被告が指定した復職の日の前日までは賃金を支払うかのような意向を示しているが(前記第2の2争いのない事実等(12)エ,(14)ウ),原告の復職に関する諸条件の交渉の中での意向であったことに照らすと,その後の交渉の進展にかかわらず無条件に支払を約する趣旨であったとまでは認めるに足りない。
カ よって,本訴請求のうち,解雇前後の賃金支払請求(前記第1の1の(3),(4))はその余の点を判断するまでもなく理由がない(ただし,本件解雇による精神的衝撃が原告の病状回復に悪影響した可能性については,本件解雇による慰謝料の問題として,後記(4)イで別途検討する。)。
(3) 本件解雇の効力について
ア 被告は,「①出勤常ならず,改善の見込みのないこと,②会社の許可を受けず,勤務時間中に他社の労務に服していたこと」を理由に本件解雇を行っている(前記第2の2争いのない事実等(8))。
イ しかしながら,前記第2の争いのない事実(6),(7)及び前記(1)イ,カないしコの認定事実を総合すると,①原告は,平成26年1月以降,欠勤が多くなり,同年3月12日から欠勤が継続していたが,その理由はうつ状態等であって(前記第2の2争いのない事実等(6),(7),前記(1)イ,カ,キ),やむを得ない理由があるといえること(寮仲介ビジネスが原因であると認めるに足りる証拠はない。),②被告は,原告がうつ状態等にあることを知ることができ,当時,詐病と合理的に疑う根拠を有していたわけでもないのに(前記(1)ケ,コは本件解雇の後の出来事である。),今後の療養,職場復帰の可能性の見込み等につき,原告と十分に協議することもなく,やむを得ず退職を求めるにしても雇用関係の維持が不可能な理由を丁寧に説明して穏便に退職を勧奨するようなこともなく,原告にかなりの精神的な衝撃を与えざるを得ない電話で突然連絡するという方法で本件解雇を告げたこと(前記第2の2争いのない事実等(8),前記(1)イ,ク)が認められる。労働契約では当事者双方が相手方の利益に配慮し,誠実に行動することが要請されているというべきであるが,被告は,原告の欠勤にうつ状態等というやむを得ない理由があったのに職場復帰の可能性を十分に見極めず,原告との協議を尽くすことなく,原告の精神状態に与えるであろう悪影響のおそれにも配慮しないで,強引に本件解雇に踏み切っており,使用者の労働者に対する配慮として不十分である。
ウ 前記(1)エの認定事実によれば,原告は不動産の賃貸借に関する情報を紹介するサイトの運営に何らかの関与を持っていると推認されるが,その賃貸借,サイト運営及びこれらに対する原告の関与の具体的な態様は明らかではなく,兼業・兼職といえる程度の継続性や専従性を持ったものか,定かでない(単に不動産賃貸や貸間を行っていたというだけでは,事業性,職業性があるとはいえない。)。私用でのファックス送信した書類(前記(1)オ)も原告の兼業・兼職を推認させる内容のものとはいえない。勤務時間外とはいえ,ファックスの私的使用は問題であるが,ごく軽微な非違行為に過ぎない。そもそも原告と被告間の労働契約では兼業・兼職は一般的には禁止されていないから(前記(1)シ),仮に兼業・兼職に該当しても,それだけでは問題なく,兼業・兼職を原因として労働契約上の義務の履行を具体的に怠ったときに,その義務の不履行が問題になるにとどまるが,原告が被告での業務従事に支障を来すほど,上記サイトの運営などに注力していたとは認めるに足りる的確な証拠はない。
証拠(乙3の22ないし24,27,乙21,22,25,乙26の1,2,乙40の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,平成26年12月6日,Cとの紛争に関連して被告を遅刻し,「私用のため」と届け出たこと,②原告は平成25年12日11日「病院のため」と称して半日の有給休暇を取得したが,その際,別件訴訟で証拠として提出した別件訴訟で問題となっている張り紙に関する写真(乙40の1,2)を撮影していたこと,③原告は同月17日,別件調停に関して遅刻して,「私用のため」と届け出たこと,④原告は平成26年1月15日付け欠勤届に「病院のため」と記載して同年2月3日午後及び同月4日午前に有給休暇を取得したが,実際には,同月4日,別件調停のため原告兄とともに松戸簡易裁判所に出向いていたことが認められる。しかしながら,後記6(1)のとおり,原告は,平成25年12月当時,松戸市下矢切住宅に居住していたことがうかがわれ,その付近にある別件訴訟で問題となっている張り紙(前記第2の2争いのない事実等(16))を撮影していたからといって,上記②の同月11日の「病院のため」との休暇取得の理由が虚偽とは認めるに足りない。上記④の点も,有給休暇の使用目的は自由であるから別件調停に出向くこと自体は差支えないし,せいぜい身内や自分が民事調停を抱えているという専ら私生活に関する情報を明かさない方便があったというに過ぎない。上記①,③の遅刻も「私用のため」と届け出ており,勤怠管理で虚偽を述べたわけでもなく,解雇理由となるほど,悪質な遅刻ではない。別件調停及び別件訴訟はCとの間の紛争を解決するための法的措置でそれ自体は兼業・兼職に当たらず,兼業・兼職を推認させるものでもない。結局,上記①ないし④の事実は原告が寮仲介ビジネスその他の兼業・兼職で被告での業務従事を怠っていたと推認するに足りるものではない。
証拠(乙43)及び弁論の全趣旨によれば,平成26年1月から3月までの原告の旅行予約件数の成績は芳しくなかったことがうかがわれないではないが,原告は,そのころ体調に優れなかったことも認められるから(前記(2)イ),成績不良の原因が兼業・兼職又は正当な理由のない業務からの離脱であるとは推認できない。
そのほか,原告が被告での勤務中にみだりに業務から離れていたと認めるに足りる的確な証拠はない。
エ 証拠(乙30の1ないし7,乙35,37,53,乙58の1ないし3,乙59)及び弁論の全趣旨を総合しても,原告が不動産情報を紹介するサイトの運営に関与を持っていることにつき,法令違反が存すると具体的に認めるには足りない。被告による法令違反の主張も漠然としたもので,原告のどのような行為のどのような点がどの法令のどの条項に違反するか,具体的に指摘するものではない。原告に法令違反の事実があれば,被告の社会的信用性も悪影響を及ぼすから,被告がその疑いに関心を持つことは正当であるが,解雇に至る経過を見ると(前記(1)ウ,エ,ク),被告は,上記サイトのため,被告の名誉,信用を害する危険が切迫していたわけでもないのに,原告に対する弁明聴取等で法令違反の有無,法令に違反するときはその悪質性の程度,被告での業務に具体的に支障を及ぼす危険性などを確かめ,その結果に応じて,注意,警告,懲戒等の措置(ただし,懲戒のためには懲戒を定める合理的な就業規則の作成・周知を要する。)を講じることなく,また,原告に行動を改める機会を与えることもなく,本件解雇に踏み切っており,その経過は,解雇もやむを得ない事情があるか,慎重に見極めない拙速なものだったと言わざるを得ない。
オ 以上によれば,被告は,原告の欠勤がうつ状態等によるやむを得ないものであるにもかかわらず,職場復帰の可能性を十分に見極めず,原告との協議を尽くしておらず,兼業・兼職のため被告での労務に従事していない状況が認められないのに,被告の信用に悪影響を及ぼすような法令違反の有無,程度等も確かめることなく,原告に対する配慮不十分のまま,拙速に解雇に踏み切っているというべきである。
したがって,本件解雇は,十分に客観的に合理的な理由を備えておらず,その経過も併せて,社会通念上相当なものとはいえないから,本件解雇は解雇権を濫用したものとして無効というべきである(労働契約法16条)。
カ 被告代表者の陳述書(乙34)には,原告の欠勤や遅刻で被告や取引先が多大な迷惑を受けた,被告は,欠勤や遅刻,寮仲介ビジネスにつき,上司を通じて原告に度々注意・指導を加えていたが,改善がなかった,原告にはうつ状態等であるような様子はなかった,被告に出勤する気はなく,辞職や解雇も構わない旨を宣言したとの記載はあるが,裏付けに乏しく,原告に対しては,平成26年2月ころまで不利益な措置が特に講じられていないこと(前記(1)ウ),原告はうつ状態等で医師の診療を受けており,その症状は軽微なものではなく,上司に面と向かって反抗するような言動を取ることは考えにくいこと(前記(1)カ,キ,ク)に照らし,採用することができない。
被告は,本件解雇に先立って労働基準監督署に相談して,解雇もやむを得ないとの見解を得ていたとも主張するが,その相談の状況を具体的に認めるに足りる証拠はないから,本件解雇は有効である,又は有効と誤認してもやむを得ない事情があったとは認めるに足りない。
(4) 本件解雇の違法性及び損害について
ア 前記(2)の認定判断のとおり,本件解雇後の欠勤は,本件解雇前からの欠勤の延長であり,本件解雇による就労拒絶の結果とは認められないから,賃金相当の損害の発生を認めることはできない。
イ ただ,前記第2の2争いのない事実等(11)ないし(15),前記(1)カ,キ,サの認定事実を総合すれば,職業を奪う解雇の告知が労働者に相当な精神的衝撃を与えることは想像に難くないところ,既にうつ状態等で調子を崩していた原告にとって,本件解雇は,追い打ちになったと推認され,本件解雇を発端として原告と被告との紛争が顕在化・激化し,その間の信頼関係が損なわれ,本件解雇の撤回を経ても,円滑な職場復帰に向け,原告が不安を抱かざるを得ない状況になり,それがかねてからのうつ状態等に悪影響を与える可能性もあり,原告は相当の精神的苦痛を受けていることが認められる。本件解雇は,十分に客観的に合理的な理由を備えておらず,その経過も併せて,社会通念上相当なものとはいえないことも考慮すれば(前記(3)オ),本件解雇は,不法行為としても違法であり,精神的苦痛に対する損害賠償を認めるべきというべきである。
ウ なお,原告は,本件解雇を受けて,被告に出勤できなくなったことで,かえって被告に出勤することによる精神的負担に直面する必要がなくなって気分が楽になった面があることがうかがえないではないが(前記(1)カ),それは人間の複雑な感情の一面を示したものに過ぎず,本件解雇の精神的衝撃等による精神的苦痛の存在を否定するものとはいえない。
また,被告は,本件解雇を撤回しているが,事後に解雇を撤回したからといって,いったん成立した不法行為が消滅することはない。
エ その他本件口頭弁論に現れた事情に照らすと,原告の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は金30万円と定めることが相当であり,これを請求するための弁護士費用は金3万円の範囲内で相当因果関係が認められるというべきである。
オ 以上によれば,原告は,損害賠償金33万円及びこれに対する本件解雇の日である平成26年3月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるというべきである。ただし,解雇予告手当による弁済充当(前記第2の2争いのない事実(9))を後記4(3)で検討する。
3 争点(1)ウ(ア)(残業代-労働時間及び時間単価)について
(1) 労働時間について
ア 証拠(甲4の10,11,甲5の1ないし16,甲12,乙27,乙28の1ないし5,乙34)及び弁論の全趣旨によれば,①被告は,労働時間を機械の打刻によるタイムカードの記載で管理していたこと,②被告では,出退勤の際,タイムカードを機械で打刻することを忘れた際は,手書きで出退勤時刻を記載し,上司の確認印を受けることになっていたが,実際には上司に限らず,同僚の確認印でも特段問題視されないで運用されていたこと,③原告のタイムカードの出退勤時刻の記載には,手書きのもので,かつ,記載された時刻には不在であったDの確認印を受けたもの(平成25年4月18日の退勤)があり(乙28の1),Dは深く考えず,原告を信じて確認印を押していたこと,④原告は,自分より早く出勤したとされるDの手書きで記載された出勤時刻の確認印を押したこともあること(乙28の2,5),⑤原告とDは,タイムカード(乙28の3)に手書きで記載された平成25年7月5日の同じ退勤時刻につき互いに確認印を押しあっていたこと,⑥原告のタイムカード(乙28の4)には,原告から提出された平成25年10月3日に有給休暇を半日,14時14分まで取得する旨の欠勤届(乙3の16)と食い違って,平成25年10月3日に午前9時23分との出勤時刻の打刻が記載されているが,同月4日の出勤時刻の打刻も14時14分で「半休」との手書きの記載があることに照らして,上記欠勤届で日の記載を誤ったことが原因である可能性が高いこと,⑦被告の賃金計算では,平成25年10月に半日の有給休暇を取得した扱いになっており,上記⑥の過誤の点は賃金計算の結果に誤りを生じさせるものではなかったこと(甲4の10,11),⑧Dは,被告代表者に対し,上記②,③,⑤の押印は不適切であったと反省を表明しているが,原告との間で虚偽の時刻を記載する共謀があったことや上記④の手書きで記載した自身の出勤時刻が虚偽であったと認めているわけではないこと(乙27)が認められる。
これらの事実を総合すると,タイムカードの記載は機械による打刻部分に加え,手書きの記載も記憶が新鮮なうちに通常の業務の過程で記入されたもので,確認印が上司でなく,また,記載された時刻には不在であった者によるものがあることも確認手続の厳格さを意識しないまま他意なく実施された結果と推認されるから,タイムカードに記載された出退勤の記載は信用に値するものといえる。ただし,所定の始業時刻である午前10時0分(前記第2の2争いのない事実等(3)イ)よりも早く出勤した分(以下「早出分」という。)に関しては,原告が被告から所定の始業時刻前からの就労から指示されており,出勤時刻から所定の始業時刻までの早出分も労働時間に当たると認めるに足りる証拠はない(原告も別紙第2の1「労働時間一覧表(原告主張)」において,「週残業(40h)」は早出分を含めて計算しているが,「割増対象時間※1」は早出分を除いている。)。
したがって,平成24年12月から平成26年3月までの出退勤の状況は,タイムカード(甲5の1ないし16)に記録された時刻に基づいて,別紙第4の1「労働時間一覧表(認定)」の「始業時刻」欄(ただし,あくまで出勤時刻であり,就労開始の時刻とは限らない。)及び「終業時刻」欄のとおりであり,その間の労働時間数は,早出分及び「休憩時間」欄の時間数を除き,「実労働時間(早出を除く)」欄のとおりと推認される。このうち法内残業に当たる労働時間数は,右側の「法内超勤」欄のとおりである(左側の「法内超勤」欄は1日の法定労働時間の範囲内の法内残業の時間数であり,右側は,更に週40時間の法定労働時間の範囲内にも収まる法内残業の時間数である。)。法外残業の時間数は「法外超勤」欄及び「割増対象時間合計(週)※1」欄のとおりである。「割増対象時間合計(週)※1」欄と週40時間の法定労働時間数を超える「週残業(40h)」欄を比較して,法外残業労働時間数の時間数の大きい方を法外残業に係る残業代を計算の基礎とする労働時間とすると,法外残業で割増率125パーセントとなる労働時間数は「法定外(25%)」欄に,深夜労働でもあるため,割増率150パーセントとなる労働時間数は「法定外+深夜(50%)」欄に,法定休日である日曜日の労働で,割増率135パーセントになる労働時間数は「休日(35%)」欄(平成25年11月に限る。)に,それぞれ記載された労働時間数を下らないことになる。これらの労働時間数を月毎にまとめた結果は,別紙第4の2「残業代が支払われるべき労働時間」のとおりである。
イ 被告は,原告が勤務時間中に寮仲介ビジネスに従事していたと主張するが,そのような事実を認めることはできない(前記2(3)ウ)。そのほか,原告がタイムカードの出勤時刻と退勤時刻との間で被告の指揮監督から離脱していたことをうかがわせる的確な証拠はない。被告の信義則違反又は権利濫用の主張も前提となるタイムカード打刻の不正や業務からの離脱の事実を認めるに足りないから採用できない。
(2) 時間単価について
ア 前記第2の2争いのない事実等(3),(5)に加え,弁論の全趣旨によれば,労働基準法,同法施行規則所定の方法で計算される法外残業に係る残業代(割増賃金)の基礎となる賃金の時間単価は,別紙第2の3「割増賃金計算式」の「(1)原告の1時間当たり賃金」のとおり,平成24年12月から平成26年1月までは1261円,同年2月,3月は1279円であると認められる。
イ 法内残業に係る残業手当は,労働基準法32条の法定労働時間を超えた労働につき割増賃金の支払義務を定める同法37条の適用を受けず,法内残業に係る賃金額は,最低賃金法,労働基準法,就業規則等に違反しない限り使用者と労働者間の労働契約で自由に定めることができ(昭和23年11月4日基発1592号参照),本件残業手当約定では所定労働時間外労働の時給を金1000円と明確に定めているから,所定労働時間外労働に係る賃金は時給1000円で割増しを行うことなく計算すべきである。
原告は,本件残業手当約定は,法内残業を割増賃金支払の対象に含めていると主張するが,本件残業手当約定をそのような趣旨と解釈することは文理上不可能である。原告援用の大阪地判平成11年5月31日判例タイムズ1040号147頁(甲14)は,就業規則で法内残業,法外残業を区別することなく,時間外労働に125パーセントの割増賃金を支給する旨を明記して,法内残業の残業代を法外残業の割増賃金と同額に定めていたと解される事案であって,本件とは事案が異なる。
他方,法外残業については,本件残業手当約定が労働基準法37条より割増賃金の発生を制限することは,労働基準法の最低基準に反するものとして無効であり(同法13条),同法37条に基づく割増賃金請求権が認められる(最判平成14年2月28日民集56巻2号361頁参照)。
(3) 残業代の算定
前記(1)アで認定した労働時間数に前記(2)ア,イの時間単価を乗じ,法外残業にはさらに法定の割増率を乗じると,別紙第4の3「残業代計算」のとおり,金78万4814円の残業代が算定される。
4 争点(1)ウ(イ)(残業代-既払金)について
(1) 平成25年3月分の給与明細(甲4の4)には「普通残業手当」6万2500円との記載があるが,その余の項目と合算して合計額は金28万8440円となるべきところ,「合計」欄には金1万円少ない金27万8440円と記載されている。同年4月分の給与明細(甲4の5)には「普通残業手当」4万2600円との記載があり,その余の項目と合算して合計額は金26万8540円となるべきところ,「合計」欄には金100円少ない金26万8440円と記載されている。
したがって,平成25年3月分,4月分の給与明細(甲4の4,5)での各「普通残業手当」の金額は正確なものとは認めるに足りず,「合計」欄の金額と矛盾しない範囲(平成25年3月分は金1万円少ない金5万2500円,同年4月分は金100円少ない金4万2500円)を超えて「普通残業手当」の支払があったとは認めることはできない。
(2) 平成25年3月分,4月分を除く既払金の金額には争いがない。
(3) 以上によれば,既払金の金額は,別紙第3「残業代既払金一覧表」の「原告主張額」記載のとおり金57万円となる。前記3で算定した残業代78万4814円から,これを控除した残額は,金21万4814円であり,原告は,残業代未払金及びその遅延損害金として,残業代未払金21万4814円及びこれに対する最終の支払日の翌日である平成26年3月26日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を請求できることになる。
ただ,被告は,原告の金銭請求に対し,支払済みの解雇予告手当19万9910円を弁済に充当することを主張し,原告もこれに異議がない(前記第2の2争いのない事実等(9))。原告は,上記解雇予告手当を給与の繰り上げ支給として平成26年4月分の給与及び同年5月分の給与の一部に弁済充当する旨を意思表示しているが,その各給与に係る債権の発生は認められないから(前記2(2)カ),この弁済充当の指定は無意味に帰し,法定の弁済充当に従うことにする。法定の弁済充当では,まず遅延損害金に充当すべきであるから(民法491条1項),本件解雇による損害賠償金33万円に対する本件解雇の日である平成26年3月28日から同年4月4日までの年5分の割合による遅延損害金361円及び残業代未払金21万4814円に対する同年3月26日から同年4月4日までの遅延損害金317円の合計678円にまず充当し,残額19万9232円を遅延損害金の利率の点で弁済の利益が大きい残業代未払金の元本21万4814円に充当し(民法489条),残業代未払金の残金は金1万5582円となる。
以上によれば,解雇予告手当を弁済充当した結果,本件解雇による損害賠償金及びその遅延損害金は金33万円及びこれに対する平成26年4月5日から支払済みまで年5分の割合による金員(主文第2項)と,残業代未払金及びその遅延損害金は金1万5582円及びこれに対する平成26年4月5日から支払済みまで年6分の割合による金員(主文第3項)とそれぞれ算定される。
5 争点(2)ア(本訴提起の違法性)について
(1) 違法性の判断基準
訴えの提起が不法行為を構成するのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる。
(2) 労働契約上の権利を有する地位の確認請求について
前記1の認定判断のとおり,本訴提起における労働契約上の権利を有する地位の確認請求は,確認の利益が否定されるわけではなく,これを認容すべきであるから,不法行為に当たるとはいえない。
仮に確認の利益を否定する見解に立ったとしても,確認の利益の有無は,訴訟要件に関する訴訟法上の法律解釈に関する問題に属する上,本件全証拠に照らしても,被告に嫌がらせをする,裁判所に明らかな真実に反する事実認定をさせるその他の不当な目的で本訴提起に労働契約上の権利を有する地位の確認請求を加えたとは認められず,紛争解決のための手段の選択として著しく不相当とはいえない。
(3) 賃金請求について
前記2の認定判断によれば,被告代表者によるパワーハラスメント及び原告の欠勤との因果関係を認めるには足りないが,それをうかがわせる根拠になりうる事実が全くないわけではなく,原告の主張が事実的根拠に欠けるものと認めることはできない。医師の診断書等(乙5,6)や診療録(甲9)を覆して,詐病の事実を認めるに足りる証拠もない。
前記第2の2争いのない事実等(8)ないし(15)及び前記2(1)サの認定事実を総合すると,原告と被告との間では本件解雇撤回後も紛争が継続しており,被告が解雇を撤回した一事で直ちに関係が正常化したわけではなかったから,原告において,本件解雇撤回後も復職できず,賃金を得られないのは,発端となった本件解雇に原因があると主張することに全く理由がないとはいえない。
原告は,訴状において,本件解雇が既に撤回され,被告から出社が命じられている経緯に言及しておらず(顕著な事実),その限りでは自己の認識する事実関係とも異なる事実関係を主張していたと言わざるを得ないが,被告代理人弁護士が訴訟代理人に選任されることが予想される状況であり(前記第2の2争いのない事実等(8)ないし(15)),訴状作成に際し,自己が主張立証責任を負う請求原因をまず記載し,被告からの抗弁や反論は訴訟での主張を待つというのも,訴訟追行の在り方として是認できないものではなく,その後の訴訟経過でも原告は上記経緯の事実関係を無理に争っているわけではない。
(4) 以上によれば,本訴提起は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性に欠ける違法なものとはいえず,反訴請求のうち本訴提起に係る損害賠償を求める部分は認容できない。
6 争点(2)イ(金銭詐取)について
(1) 定期代
ア 前記第2の2争いのない事実等(4),(16),前記2(1)カ,コの認定事実に加え,証拠(甲6,7,甲8の1,甲8の2の1ないし4,甲8の3の1ないし6,甲12,乙5,乙23の1ないし4,乙26の1,乙31,33,34,42)及び弁論の全趣旨によれば,①原告は,平成25年7月19日から同年12月4日まで友人の住居があり,最寄駅はc駅(b駅までの定期代は月1万0120円)である「東京都墨田区〈以下省略〉」に,同日から平成26年4月24日に「東京都葛飾区〈以下省略〉」に転出するまでは松戸市下矢切住居にそれぞれ住民票上の住所を置いていたこと,②原告は,松戸市下矢切住居でのガス供給契約の名義人であり,平成25年8月26日までは使用量が全くなかったが,同日以降は相応の量を使用していること,③原告は,松戸市下矢切住居で電気供給契約の名義人であり,少なくとも同年10月ころには相応の電気使用量があったこと,④原告は,松戸市下矢切住居での水道供給契約の名義人であり,平成25年9月7日までの約2か月間の使用水量は2立方メートルにとどまったが,同日以降は相応の使用実績があったこと,⑤原告は,別件訴訟における訴状(乙26の1)及び陳述書(乙31)で平成25年8月から松戸市下矢切住居を原告兄から賃借したと記載していたこと,⑥原告は,平成25年7月29日から同年8月28日まで有効期間1か月の松戸市下矢切住居から被告に通勤するための区間(a駅・b駅間)の定期券(2万7190円)を購入して,その写し(乙23の4)を被告に提出していたこと,⑦被告は,上記⑥の定期券の写しの提出を受けて,原告が松戸市下矢切住居から被告に通勤していると信じて,平成25年7月29日から本件解雇の日(平成26年3月28日)までの間,月2万7190円の定期代を8か月分支払っていたこと,⑧原告は,平成26年2月13日から松戸市下矢切住居のすぐ近くに所在する西クリニックでの診療を開始し,同月28日付けで作成された西クリニックの診断書(乙5)でも松戸市下矢切住居の番地が原告の住所として記載され,2月には2回,3月には4回も通院していること,⑨原告兄は松戸市下矢切住居を平成23年11月から所有していたが,平成26年2月25日,これを第三者に売却して,同日,その旨の不動産登記手続をしたことが認められる。
これらの認定事実を総合すると,原告は,別件訴訟で松戸市下矢切住居での居住は平成25年8月からと主張し,住民票も同年12月になってようやく異動された上,外食,旅行,外出等のため松戸市下矢切住居で過ごす時間が少なかった可能性を考慮してもガス及び水道の使用実績があまりに少な過ぎ,そこで通常の生活を営んでいたとは考え難いから,前記⑥の平成25年7月29日から同年8月28日までの定期券は,実際にはほとんど通勤には用いられていないと推認できる。また,その当時,住民票を置いていた東京都墨田区内の友人方の最寄駅であるc駅から通勤していた可能性がうかがえる。
また,原告は,原告兄から松戸市下矢切住居を賃借し,その賃貸借関係は原告と原告兄との間の親族関係を基礎とするものであったところ,原告兄は平成26年2月25日をもって松戸市下矢切住居を売却して所有者ではなくなっており,住民票上「東京都葛飾区〈以下省略〉」の転出日は同年4月24日であるが,原告は,松戸市下矢切住居に住民票を異動させる際,異動日を正確に届け出ておらず,月単位の遅れもあることに照らせば,原告が平成26年2月25日以降も松戸市下矢切住宅に居住していたか,疑問の余地もないではないが,同月13日から松戸市下矢切住居のすぐ近くに所在する西クリニックでの診療を開始し,同月28日付けで作成された西クリニックの診断書(乙5)でも松戸市下矢切住居の番地が原告の住所として記載され,2月には2回,3月には4回も通院していること,不動産の引渡しは,売買及び所有権移転登記手続と近接して行われることが多いと考えられるのが,事情によって2か月程度の引渡しが遅れることがあっても不自然ではないことにも照らすと,原告が平成26年2月25日ころ,既に東京都葛飾区〈以下省略〉に転居していたと推認するには足りない。平成25年8月26日から平成26年2月25日ころまでの間に関しても,平成25年8月26日以降は,水道,ガス及び電気の使用実績が認められ,同年12月には住民票上の住所も移転しており,別件訴訟も含めて,居住の主張に一貫性も認められるから,松戸市下矢切住居での原告の居住実態がないと推認するには足りない。
なお,平成25年8月26日以降は,実際に松戸市下矢切住居で生活を営んでいたようにうかがわれるから,定期券が通勤に用いられていない期間は約1か月にとどまり,定期券をすぐ払い戻して,新たに実際の通勤経路に応じた定期券を購入しても,手数料も控除されて差額が多額になるわけではなく,原告自ら松戸市下矢切住居でのガス及び水道の使用実績がほとんどないことを示す証拠(甲6,甲8の1,甲8の3の1)を漫然と提出していることに照らすと,単に不注意で転居の時期よりも早く定期券を購入したに過ぎないとも考えられるから,意図的な詐取とは認めるに足りない(したがって,この限度で原告の主張が事実と相違するからといって,これまでの認定判断を左右するものとはいえない。)。
被告は,平成26年2月,被告代表者が松戸市下矢切住居を訪れたが,空家で,近隣住民にも原告を知る者はいなかったと主張し,平成26年6月に近隣の精肉店(乙57)に聞き込みをした会話と称する録音(乙56の1,2)を提出するが,近くにはスーパーマーケットもあり,上記精肉店を必ず利用するとは限らず,相当回数にわたって利用するなじみの客でなければ店員が顔を思い出せなくても不自然ではないから,原告が松戸市下矢切住居に居住していなかったと認めることはできない。上記精肉店の近くには中国人が居住するシェアハウスがあったが,引っ越していったかのような会話もあるが,近隣住民の発言は,曖昧な部分が多く,聞き込みに来た被告代表者の発言に適当に合わせているようにも見えなくもないから,確実な証拠としての証明力を有するものとは言い難い。
イ 以上によれば,原告は,a駅とb駅間の定期代(月2万7190円)のうち,1か月分に限っては,通勤の実態に応じたものとは認めることができないから,原告は,実際の通勤経路である可能性が高いc駅とb駅間の月1万0120円の定期代(原告の実際の通勤に要した定期代がこれより高額であったことをうかがわせる主張立証はない。)との差額1万7070円を不当利得として被告に返還すべきである。その余の定期代の返還請求には理由はない。
遅延損害金は,意図的な詐取ではなくても,原告は実際の通勤経路と異なる定期代を受領していることを認識していたと推認できるので,反訴状送達の日の翌日(平成27年5月14日)から民法704条所定の利息を付するのが相当である(主文第4項)。
(2) 賃金
前記3(1)アの認定判断したとおり,原告がタイムカードの労働時間の記録を偽ったとは認めることはできないから,反訴請求のうち詐取された賃金の返還を求める部分に理由はない。
7 追加請求を追加する訴え変更の許否
(1) 追加請求は,①原告が遅刻をしながら,所定の終業時刻の後の就労につき本件残業手当約定に基づいて1時間1000円の残業代が支払われている日があるが,遅刻のため始業が遅かった以上,上記終業時刻の後に就労しても,遅刻した時間分は所定労働時間内の労働であるから,残業代は発生せず,残業代に金4万5000円の過払いがある,②旅行先の視察は自由参加であったから就労に当たらず,少なくとも所定の終業時刻以後は就労に当たらないから,視察のあった日に所定の終業時刻の後も就労があったものとして支給されている残業代2万9500円は過払いに当たるという旨の請求原因に基づく不当利得返還請求である。
(2) ①本件訴訟は,平成28年2月5日の第9回弁論準備期日で弁論準備手続を終結したこと,②弁論準備手続の終結後の同年3月25日の第2回口頭弁論期日で弁論終結の可能性があることは裁判所及び各当事者の共通認識であったが,同口頭弁論期日で同年5月6日までに各当事者が主張立証の補充を行う旨の審理方針が裁判所及び各当事者で了承されたこと,③原告は,同月13日の第3回口頭弁論期日で訴え変更を行ったが,これは支払済みの解雇予告手当を本訴請求に係る請求債権の一部に弁済として充当したことによる請求の減縮にとどまること(前記第2の2争いのない事実等(9)参照),④被告は,同年6月15日,追加請求に係る請求原因の記載を含む被告準備書面(7)を提出したが,印紙の追納及び原告に送達すべき副本の提出がなく,裁判所が著しく訴訟手続を遅滞させる訴え変更でないか,疑義を呈したため,同月17日の第4回口頭弁論期日では,被告準備書面(7)は,追加請求の請求原因に係る部分を除いて陳述されるにとどまったこと,⑤同口頭弁論期日で各当事者は同年7月20日までに追加の主張立証を提出することとされ,裁判所は,次回弁論終結予定であることを当事者に告げたこと,⑥被告は,同年8月10日,反訴請求の趣旨変更申立書を提出し,同月19日の第5回口頭弁論期日で,被告準備書面(7)の追加請求の請求原因に係る部分と併せて陳述したこと,⑦原告は,同口頭弁論期日で民事訴訟法143条1項ただし書,4項に基づき請求の変更を許さない決定を申し立てたことは,当裁判所に顕箸である。
(3) 前記(1),(2)の事実を総合すれば,追加請求は,残業代の返還を求める不当利得返還請求という点で従前の反訴請求と共通性はあるが(争点(2)イ参照),不当利得発生の具体的な原因事実は異なり,原告の新たな認否を要する上,本件残業手当約定の解釈,視察旅行の業務性,賃金の取扱いに関する原告と被告間の事前又は事後の合意内容(黙示のものを含む。),賃金の計算等の事実に関する新たな審理を要する。追加請求は,9回にわたる弁論準備期日を経て争点の整理を終え,その後も2回にわたって口頭弁論期日が重ねられた後になって,その請求原因が初めて準備書面に現れたが,訴え変更の手続には至らず,結局,訴え変更の申立書は弁論終結予定の口頭弁論期日の10日前にようやく提出されており(それまでの間に被告が追加請求につき訴え変更の手続をとることに困難があったような事情はうかがわれない。),追加請求の当否を判断するためには,弁論終結の予定を延期して,相当な期間をかけて,新たな審理を要するから,追加請求に係る訴え変更は,著しく訴訟手続を遅滞させるというべきである(民事訴訟法143条1項ただし書)。
(4) よって,追加請求を追加する被告の訴えの変更は,これを許さない。
8 結語
よって,本訴請求を原告の労働契約上の権利を有する地位の確認,損害賠償金33万円及びその遅延損害金並びに残業代1万5582円及びその遅延損害金の各支払を求める限度で,反訴請求を定期代の一部1万7070円の返還を求める限度で認容し,その余の本訴請求及び反訴請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 若松光晴)
〈以下省略〉
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