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裁判年月日 平成28年11月 7日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)14473号
事件名 人事コンサルティング料支払請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA11078004
要旨
◆被告と締結した基本契約に基づいて人材紹介を行ったとする原告が、同契約に基づく人事コンサルティング料の支払を求めた事案において、被告は、原告代表取締役Aについては辞任登記がありAが原告の代表権を有していた事実は証明されていないから本件訴えは却下すべきと主張するものの、Aが辞任した事実はなく本訴に係る委任状作成時点でもAは原告の代表権を有していたから、本件訴訟代理人に対する訴訟代理権付与は有効に行われたとして被告の主張を退ける一方、本件ではもう1人の原告代表取締役Cにより故意に不実の登記がされAは代表権を有していないかのような登記上の外形が作出されたから、原告は会社法908条2項によりAが原告の代表権を有していたことを被告に対抗できず、不実の登記の抹消登記前に被告は民法115条により本件基本契約を取り消す旨の意思表示をしたから同契約は確定的に取り消されたとして、請求を棄却した事例
出典
参照条文
民法115条
会社法908条2項
裁判年月日 平成28年11月 7日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)14473号
事件名 人事コンサルティング料支払請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2016WLJPCA11078004
東京都港区〈以下省略〉
原告 株式会社Lead Consulting Group
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 芝池俊輝
同 梶田潤
東京都港区〈以下省略〉
被告 インテュイティブサージカル合同会社
同代表者代表社員 インテュイティブサージカル・エス・アー・エール・エル
同職務執行者 B
同訴訟代理人弁護士 左高健一
同 鈴木洋介
同 菊地諒
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金648万円及びこれに対する平成27年3月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告との間で人材紹介に関する基本契約を締結し,これに基づき人材紹介を行った旨を主張する原告が,被告に対し,上記契約に基づき,人事コンサルティング料648万円及びこれに対する平成27年3月24日(催告で定めた支払期限の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は,経営コンサルティング業,労働者,人材派遣事業等を目的とする株式会社である。
(ア) 平成26年4月25日当時,原告の代表取締役としては,C(以下「C」という。)及びA(以下「A」という。)の2名が登記されていた。
(イ) Aについては,平成26年4月25日に辞任した旨の登記が平成27年10月23日にされた。
(ウ) その後,平成28年8月18日に,上記(イ)の辞任登記を抹消する登記がされた。
イ 被告は,医療機器の製造販売業,製造業等を目的とする合同会社である。
ウ D(以下「D」という。)は,株式会社日本ルミナスの役員の地位にあったが,平成26年11月1日付けで,被告の地域営業部長に就任した。
(2) 事実経過
ア 平成26年5月19日付けで,原告と被告を当事者とする「人材紹介に関する基本契約書」(以下「本件基本契約書」といい,本件基本契約書に係る契約を「本件基本契約」という。)及び「守秘義務契約書」が作成された。(甲1,2)
イ 本件基本契約書には,以下の条項が存在する。(甲1)
(ア) 1条
(1項)
原告は,被告の求めに応じて,被告が別途明示する求人条件に合致する人材の募集,探索,調査,面接,選考及び労働条件の決定等に関し,候補者の紹介を含む被告の依頼するサービスを被告に提供する。
(イ) 2条
(1項)
被告は,原告が紹介した候補者を選考し,候補者が入社に至った場合,本契約の終了後であっても,本件業務に対し被告が原告に支払う対価(以下「人事コンサルティング料」という)を原告に支払うものとする。紹介とは,被告が指定する窓口へ,被告が指定する候補者の情報の登録が完了することをいう。入社とは,被告と採用決定者が労働契約を締結し,採用決定者が被告において勤務を開始することをいう。ただし,原告が被告に対し候補者を紹介した日から1年を超えて,被告が候補者を採用した場合には,被告は原告に対し人事コンサルティング料を支払わない。但し,候補者の選考が一次中止後再開された場合,当該中止期間はこれに算入せず,または紹介後1年を超えて,選考結果が被告の責めにより遅延した場合を除く。
(2項)
原告が被告に対し候補者を紹介した日から1年以内に被告が候補者を採用した場合,以下の場合においても被告は原告に対し,本条第1項に定める人事コンサルティング料を支払うものとする。(ⅰ)候補者が,直接被告の職種に応募した場合,(ⅱ)候補者を原告以外の第三者から紹介された場合,(ⅲ)原告が候補者の情報を第三者に提供し,第三者から紹介された場合。
(3項)
原告が被告に対し候補者を紹介した日から1年以内に被告が候補者を採用した場合であっても,候補者が候補者からの申し出により応募を辞退した場合は,被告は原告に対し,本条第1項に定める人事コンサルティング料は支払わないものとする。
(ウ) 3条
人事コンサルティング料は,候補者の採用初年度基本給年額の30%(消費税別)とし,本件業務に関し,被告の原告に対する債務は名目を問わず一切発生しないものとする。
ウ 原告は,被告に対し,平成27年3月9日到達の書面により,同月23日までに本件基本契約に基づく人事コンサルティング料を支払うよう請求したが,被告は支払を拒否した。(甲7の1・2,8)
エ 被告は,C及び原告代理人に対し,平成28年6月15日までに到達した書面により,民法115条により本件基本契約を取り消す旨の意思表示をした。(乙10から12(枝番を含む。))
2 争点及び当事者の主張
(1) 争点1(原告代理人に対する訴訟代理権付与の成否)について(本案前の争点)
(被告の主張)
前提事実(1)ア(イ)の辞任登記が実体に反し無断で行われたとする原告の主張は信用できない。Aが原告の代表権を有していた事実については書面による証明がされていない。したがって,本件訴えは却下されるべきである。
(原告の主張)
前提事実(1)ア(イ)の辞任登記は,CがAに無断で,社会保険料等の会社経費負担の軽減目的で行った実体に反するものであり,その後,同(ウ)のとおり抹消されている。Aは,上記辞任登記の前後を通じて,原告の代表取締役の地位にあったのであるから,平成27年5月7日にAが原告代表者として行った本件訴訟についての訴訟代理権の付与の効力に問題はない。
(2) 争点2(本件基本契約の効力が原告に帰属するか否か)について
(原告の主張)
争点1において主張したとおり,Aは辞任登記の前後を通じて原告の代表取締役の地位にあったのであるから,同人が平成26年5月19日に原告代表者として行った本件基本契約締結の効果は原告に帰属し,その取消原因は存在しない。
(被告の主張)
ア 争点1において主張したとおり,Aは本件基本契約締結当時,原告の代表者の地位にはなかったのであるから,同契約の効力は原告に帰属しない。また,本件基本契約は前提事実(2)エの意思表示により確定的に取り消されている。
イ 仮にAが原告代表者の地位を有していたとしても,会社法908条1項及び2項により,原告は上記事実について善意であった被告による回復登記前の取消しに対抗することはできない。
(3) 争点3(本件基本契約に基づく人事コンサルティング料支払債務の成否等)について
(原告の主張)
ア 原告は,平成26年7月10日にDから何らの異議なく履歴書の送信を受けたことにより少なくとも黙示的に職業紹介契約を締結して代理権又はこれに相当する権限の付与を受けており,同権限に基づき,本件基本契約において被告の指定する方法に従い「紹介」を行った。ここにいう「紹介」とは,Dの情報を被告が指定する採用管理システムへ登録することのみで足り,被告の主張するような排他的代理権の付与は必要ない。
なお,上記職業紹介契約がDにより撤回されたとは認められないし,仮に撤回されたとしても,本件基本契約2条3項の適用場面には当たらず,原告の被告に対する人事コンサルティング料請求権の成否に影響を及ぼすことはない。
イ その後,被告は1年以内にDを採用し,同人は同年11月に被告に入社したのであるから,本件基本契約2条2項(ⅱ)及び3条に基づき,Dの初年度基本給額の30パーセント及びこれに対する消費税相当額の人事コンサルティング料の支払義務を負うところ,その金額は648万円(後記認定事実(12)における支払額)である。
(被告の主張)
ア Dは原告に対して履歴書を送信したのみで,原告のいう職業紹介契約は締結しておらず,何らの権限も与えてはいない。原告が行ったDのシステム登録は,重複登録となっていたから,本件基本契約において被告が指定する方法には当たらないし,これのみをもって人事コンサルティング料の発生要件である「紹介」があったともいえない。そして,原告は上記登録以外の業務は何ら行っていない。
なお,仮にDが原告に対して何らかの授権をしていたとしても,平成26年7月24日までにはこれを撤回しており,本件基本契約2条3項により人事コンサルティング料は発生しないことになる。
イ 人事コンサルティング料の発生要件としては,人材紹介会社が排他的な代理権を有していること,すなわち,候補者が他の人材会社を通じて求人会社と転職の交渉をすることはしないことを明確に約していることが必要であるところ,Dが原告に対して上記の排他的代理権を与えていなかったことは明らかである。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実が認められる。
(1) 平成26年1月付けで被告が作成した「人材紹介に関する契約内容明確化および採用業務に関するご案内」と題する書面には,「『紹介』とは,候補者の情報をISGKが指定する採用管理システムへ登録することを指します。当該管理システムへの登録に際しては,候補者氏名,生年月日,連絡先情報(本人のメールアドレスおよび電話番号)等をマニュアルで入力いただく必要がありますので,予めご了承下さい。」「候補者のオーナーシップ期間は1年とします。オーナーシップは,職種とは関係なく,候補者本人に紐付くものとします。但し,候補者本人から御社経由の選考を辞退する旨の意思表示があった場合には,紹介後1年以内であっても御社へのコンサルティング料は発生しません。また,選考中断等,弊社都合による理由で,採用が紹介後1年を超えた場合はこの限りではありません。」「昨今の人材紹介に関する情報量・チャネルの増加により,重複応募のケースが多くみられます。同一候補者による重複応募(紹介)を避けるために,弊社へご紹介いただく前に,応募歴の有無やどの紹介会社を通して応募する意思があるのか等,候補者との意思確認を徹底いただけますよう宜しくお願いいたします。」との記載がある。上記内容は,被告の採用管理システムに掲示され,人材紹介会社が同システムを利用する際には閲覧することが可能であった。(乙3)
(2) 本件基本契約書は,原告側はAの,被告側は職務執行者Fの名義で作成された。(甲1,Aの尋問結果(以下「A」と表記する。))
(3) 人材紹介会社であるシーディーエスアイ株式会社(以下「CDS社」という。)の担当者であるEは,平成26年6月上旬頃,Dに対して被告への転職を打診した。Dはこれを断ったが,CDS社の求めに応じて履歴書は送信した。(乙8,証人D(以下「証人D」という。))
(4) 平成26年6月27日頃,CDS社はDに無断で,被告の採用管理システムにDの情報を登録しようとしたが,奏功しなかった。その後,被告はCDS社との契約関係を事実上解消したため,同社は被告に対してDを紹介する業務をすることができなくなった。(乙7,証人G(以下「証人G」という。))
(5) Aは,平成26年7月10日にDに電話し,被告への就職について興味があるか否かを打診した。その後,AがDに対し,「私はあなたを代理し,あなたの新しいエージェントとして手続を管理するために最善を尽くします。」「クライアントにあなたを正式にご紹介できますように,ご都合付き次第履歴書の更新版をお送りください。」「他の人材紹介・斡旋会社から連絡を受けることもあると存じます。さらなる混乱を防ぎ,上手く前進できますように,既に代理されていることをお伝え下さい。」などとのメールを送信したのに対し,Dは同日中に自身の履歴書をメールで返信した。これに対しAは,「履歴書をお送り下さり,有難うございます。私はインテュイティブサージカルに正式に紹介しました。何か進展がありましたら,ご連絡します。」などと返信した。(甲3の1から3,11,乙8,証人D,A)
(6) 原告は,平成26年7月10日,Dの氏名等の情報を被告から委託を受けたレジェンダ・コーポレーション株式会社の管理登録ページに登録する手続を行い,上記情報は同月14日に「Selection」タブに移行された。被告は,同月18日頃にはこのことを認識した。(甲5,乙7,証人G,A)
(7) 平成26年7月18日頃,従前から被告との間で契約関係を有していた人材紹介会社であるTitan Consulting株式会社(以下「Titan社」という。)と被告との間で,Dの存在に関するやりとりが行われた。(乙7,証人G)
(8) Titan社の担当者であるHは,平成26年7月頃,Dに対し,被告への転職に興味がないかを打診した。Dは当初これを断ったが,以前の勤務先の同僚であったIが被告に在籍している旨の説明を受け,被告への転職に向けた活動をTitan社が行うことに同意した。(乙8,証人D)
(9) Dは,平成26年7月23日付けで,Titan社宛に,「私は,Titan社が被告の採用候補者として私を紹介することに同意いたします。」「私はTitan社が被告との契約に従って私を同社に紹介することを理解しており,仮に,これまでに私が,その他のリクルーターに,私を同社に紹介することを許可していた場合も,私は当該許可をすみやかに撤回し,Titan社のみを通じて,被告による雇用を求めることにします。」などとの内容の書面を作成,提出した。その後,Titan社は同書面を被告に提出した。(乙1,7,証人G)
(10) 被告における人事,採用担当者であった証人Gは,平成26年7月24日,A及びC宛に,Dとの間ではTitan社を経由してやり取りや面接の手配が始まっていること,Dは原告経由で被告に応募したことはないと述べていること,Titan社から前項の書面が提出されたこと,被告としては原告に対していかなるサービス料も支払うことはできず,紹介の取下げを求めたいことなどをメールで送信した。これに対して返信はされなかった。(乙2,7,証人G,A)
(11) 被告の担当者は,平成26年7月25日,同年8月8日及び同月19日に,Titan社のアレンジにより,Dとの面接を行い,同人は同年11月1日付けで被告に入社した。(乙7,証人G)
(12) 被告は,Titan社に対し,Dの紹介に係る人事コンサルティング料として,648万円を支払った。(乙7,証人G)
2 争点1(原告代理人に対する訴訟代理権付与の成否)について(本案前の争点)
(1) 原告の登記上の役員の変遷は前提事実(1)ア(ア)から(ウ)のとおりであるが,証拠(甲12の1・2)によれば,平成26年4月25日にAが代表取締役を辞任した旨の登記に係る登記申請書等は,Aの氏名が正確に表記されておらず,用いられた訂正印もCのものと考えられるなど,A自身により手続が取られたとは考え難いものである。さらに,平成28年8月18日に上記辞任登記の抹消登記がされていることからすれば,同日時点において登記上唯一の代表取締役であったCにおいても,上記申請手続は自身が無断で行った実体に反するものであったことを認めているものと考えられる。以上の事情を総合すれば,Aが平成26年4月25日に原告の代表取締役を辞任した事実はなく,平成27年5月7日の本件訴訟についての委任状作成時点においても,Aは原告の代表権を有していたものと認められる。
(2) そして,上記事実は書面(甲13)により証明されたものということができるから,原告から本件訴訟代理人に対する訴訟代理権の付与は有効に行われたものと認められる。
3 争点2(本件基本契約の効力が原告に帰属するか否か)について
(1) 争点1における認定を前提とすれば,Aは平成26年5月19日の本件基本契約締結時点において原告の代表権を有していたものの,これについて原告代表者であるCにより故意に不実の登記がされ,Aは代表権を有していないかのような登記上の外形が作出されたことになる。したがって,原告は,会社法908条2項により,上記外形が不実であること,すなわち,Aが原告の代表権を有していたことを被告に対抗できないことになる。
(2) そして,上記不実の登記を抹消する登記がされる以前に前提事実(2)エの意思表示がされたことにより,本件基本契約は確定的に取り消されたものと認められる(民法115条)。したがって,原告は被告に対し,同契約に基づき人事コンサルティング料を請求することはできない。
第4 結論
よって,原告の請求は,その余の争点につき判断するまでもなく理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第28部
(裁判官 阿保賢祐)
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