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裁判年月日 　令和 3年 3月26日　 裁判所名 　東京地裁　 裁判区分 　判決

事件番号 　平３０（ワ）２９４５１号

事件名 　損害賠償請求事件

文献番号 　2021WLJPCA03268040

 

 

出典

 

 

 

 

裁判年月日 　令和 3年 3月26日　 裁判所名 　東京地裁　 裁判区分 　判決

事件番号 　平３０（ワ）２９４５１号

事件名 　損害賠償請求事件

文献番号 　2021WLJPCA03268040

 

 

 

東京都文京区〈以下省略〉

原告 Ｘ

同訴訟代理人弁護士 知花卓哉

東京都新宿区〈以下省略〉

被告 株式会社スカイキャピタル（以下「被告スカイキャピタル」という。）

同代表者代表取締役 Ａ

同訴訟代理人弁護士 松元優季

同 朝妻健

同 伊﨑健太郎

同訴訟復代理人弁護士 原田智

同所

被告 株式会社テイクオーバーホールディングス（以下「被告テイクオーバー」という。）

同代表者代表取締役 Ｂ

同所

被告 株式会社らくらくプラス（以下「被告らくらく」という。）

同代表者代表取締役 Ｂ

同所

被告 有限会社水野設備工業（以下「被告水野設備」という。）

同代表者取締役 Ｙ１

東京都中央区〈以下省略〉

被告 株式会社ブルーアート（以下「被告ブルーアート」という。）

同代表者代表取締役 Ｃ

東京都中央区〈以下省略〉

被告 Ｙ１

（以下「被告Ｙ１」といい，被告テイクオーバー，被告らくらく，被告水野設備，被告ブルーアートと併せて「被告テイクオーバーら」と総称する。）

上記５名訴訟代理人弁護士 清水卓

 

 

 

主文

 

１ 　被告スカイキャピタル，被告テイクオーバー及び被告Ｙ１は，原告に対し，連帯して８８万００８７円及びこれに対する平成３０年３月９日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。

２ 　原告のその余の請求をいずれも棄却する。

３ 　訴訟費用は，原告，被告スカイキャピタル，被告テイクオーバー及び被告Ｙ１に生じた費用の各１０分の７並びに被告らくらく，被告水野設備及び被告ブルーアートに生じた費用を原告の負担とし，原告に生じた費用の１０分の１及び被告スカイキャピタルに生じたその余の費用を被告スカイキャピタルの負担とし，原告に生じた費用の１０分の１及び被告テイクオーバーに生じたその余の費用を被告テイクオーバーの負担とし，その余の費用を被告Ｙ１の負担とする。

４ 　この判決は，第１項に限り，仮に執行することができる。

 

 

事実及び理由

 

第１ 　請求

被告らは，原告に対し，連帯して，１３３万２３０３円及びこれに対する平成３０年３月９日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。

第２ 　事案の概要

１ 　事案の要旨

本件は，原告が，被告スカイキャピタルは，被告テイクオーバーらと共謀の上，ファンドの出資者を募集する被告スカイキャピタルのホームページに貸付先及び担保に関する虚偽の説明を記載し，これらの記載が真実であると原告に誤信させ，８件のファンドに合計１２５万円を出資させたと主張して，被告らに対し，共同不法行為による損害賠償請求権に基づき，出資合計額１２５万円から償還された３万８８１５円を控除した１２１万１１８５円及び弁護士費用１２万１１１８円の合計１３３万２３０３円及びこれに対する不法行為の後の日である平成３０年３月９日から支払済みまで民法（平成２９年法律第４４号による改正前のもの。以下同じ。）所定の年５分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

２ 　前提事実（争いのない事実，顕著な事実並びに掲記の証拠（枝番号が付された証拠でその記載がないものは全ての枝番号を含む趣旨である。以下同じ。）及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実）

(1) 　当事者

ア　原告は，平成２８年６月から平成２９年３月にかけて被告スカイキャピタルの募集するファンドに出資を行った会社員の男性である。（甲２１）

イ（ア）　被告スカイキャピタル（平成３０年３月２７日変更前の商号を「株式会社みんなのクレジット」といい，商号変更の前後を問わず，「被告スカイキャピタル」という。）は，有価証券の募集又は私募の取扱い等を目的とする非公開会社であり，貸金業者及び第二種金融商品取引業者の登録を受けている。（甲１，５，弁論の全趣旨）

被告スカイキャピタルは，顧客から集めた資金を事業会社に融資し，返済された元利金から手数料等を控除した上で顧客に利益を分配する，ソーシャルレンディングと呼ばれるスキームで投資を募っていた。（甲１，弁論の全趣旨）

（イ）　被告テイクオーバー（平成２９年１０月３１日変更前の商号を「株式会社ブルーウォールジャパン」といい，商号変更の前後を問わず，「被告テイクオーバー」という。）は，インターネットの代金決済システムの導入代行業務等を目的とする非公開会社である。（甲６，弁論の全趣旨）

（ウ）　被告らくらくは，平成２８年５月３１日に被告テイクオーバーからの会社分割により設立されたリラクゼーションサロンの経営等を目的とする非公開会社である。（甲７，乙Ａ３３，弁論の全趣旨）

（エ）　被告ブルーアートは，絵画，美術工芸品，彫刻類の売買，賃貸，受託売買及び輸出入等を目的とする非公開会社であり，被告テイクオーバーの１００％子会社である。（甲８，１７）

（オ）　被告水野設備は，脱臭装置設計，施工等を目的とする有限会社であり，被告テイクオーバーの親会社である。（甲９，１７）

（カ）　被告Ｙ１は，平成２７年３月１日から平成２９年４月２９日まで被告スカイキャピタルの代表取締役を，平成２７年３月１日から少なくとも平成３０年７月９日まで被告テイクオーバーの代表取締役を，平成３０年１１月１６日から現在まで被告水野設備の取締役を務める者である。（甲５～６，弁論の全趣旨）

(2) 　被告スカイキャピタルのホームページ上の記載

被告スカイキャピタルは，同社のホームページ上において，同社を通じたソーシャルレンディングの仕組み及びメリットとして，次の事項を掲げていた。（甲１，乙Ａ５）

ア　ソーシャルレンディングの仕組み

ソーシャルレンディングとは，資金ニーズのある事業者と個人又は法人の投資家をインターネット上の仕組みを使って結び付ける新しいサービスである。

被告スカイキャピタルでは，同社が，複数の個人投資家から投資を受けた出資金を元手に中小企業や不動産事業を営む会社等の融資希望者に対して平均年利１０～１５％で融資を実行し，融資希望者からの返済金を個人投資家に対して平均年利７～１０％で分配するスキームを採用している。

イ　メリット

（ア）　「分散投資」

期間や利率の異なる様々な投資対象案件を用意しており，資金を分散して複数案件に投資ができる。

（イ）　「対象は事業性資金・有担保」

被告スカイキャピタルが融資の対象とする案件は，事業性資金である。事業の収益性や企業の業績，財務状況等について，被告スカイキャピタルの審査を通過した投資案件のみが募集開始となる。

(3) 　匿名組合契約に基づく出資

原告は，被告スカイキャピタルとの間で，同社を営業者とする匿名組合契約を締結し，次の各ファンド（以下「本件各ファンド」といい，ファンドの番号に応じて「９２号ファンド」などということがある。）に合計１２５万円を出資した。（甲２，乙Ａ１，２，弁論の全趣旨。以下，原告の行った出資を併せて「本件各出資」という。）

ア　平成２９年１月２３日

第９２号　Ｍ＆Ａローンファンド　２５万円

第９３号　不動産ローンファンド　２５万円

イ　平成２９年１月３０日

第９４号　不動産ローンファンド　１５万円

第９５号　不動産ローンファンド　２０万円

ウ　平成２９年３月８日

第１０４号　動産ローンファンド　１０万円

第１０５号　不動産ローンファンド　１０万円

第１０６号　不動産ローンファンド　１０万円

第１０７号　不動産ローンファンド　１０万円

(4) 　被告スカイキャピタルからの返金

ア　原告は，平成２９年５月２９日から平成３０年１月２９日までに，本件各ファンドの分配金として，合計３万８０８１円を受領した。このうち，９２～９５号ファンドの分配金に相当する部分は，２万３５１９円であった。（甲２）

イ　原告は，平成３０年３月８日，本件各ファンドにおける貸金債権を第三者に譲渡した被告スカイキャピタルから，同社の取得した債権譲渡代金を原資として，本件各出資に係る償還金３万８８１５円を受領した。（甲４，弁論の全趣旨）

(5) 　関東財務局による行政処分

関東財務局は，平成２９年３月３０日，同月２４日付けの証券取引等監視委員会からの勧告に基づき，被告スカイキャピタルが，金融商品取引契約の締結又は勧誘において重要な事項である貸付先及び担保について誤解を生ぜしめるべき表示をする行為を行い，業務運営について投資者保護上問題が認められる状況にあったとして，同月３０日から同年４月２９日までの業務停止命令及び顧客に対する説明や原因究明を求めること等を内容とする業務改善命令を行った。（甲３）

３ 　争点

(1) 　被告スカイキャピタルの不法行為責任の存否

(2) 　被告テイクオーバーらの共同不法行為責任の存否

(3) 　損害の発生及びその額

４ 　争点に関する当事者の主張

(1) 　争点(1)（被告スカイキャピタルの不法行為責任の存否）

（原告の主張）

ア　貸付先の選定

（ア）　被告スカイキャピタルは，同社のホームページにおいて，「期間や利率の異なる様々な投資対象案件をご用意，資産を分散して複数の案件に投資が出来ます」（乙Ａ５），「弊社では分散投資の強化と安全性に配慮した投資の仕組みを目指しています」（乙Ａ６～１３）といった記載をし，９２号ファンドにつき，「当案件の借り手は，関東圏に展開する都内の投資会社です」（乙Ａ６），９３～９５，１０５～１０７号ファンドにつき，「当案件の借り手は，関東圏，東海圏に展開する不動産開発を手掛ける業者です」（乙Ａ７～９，１１～１３），１０４号ファンドにつき，「当案件の借り手は，東京都渋谷区にて，物品販売を手掛ける業者です」（乙Ａ１０）という記載をした。

（イ）　前記（ア）の記載及び被告スカイキャピタルが約２箇月間に利率や貸付先の異なる案件を１６件作成し，多額の貸付けを予定していたことからすれば，原告において，被告スカイキャピタルは複数の企業に貸付けを行っているので本件各ファンドの信用リスクが分散されていると考えるのが通常であるところ，被告スカイキャピタルは，いずれの案件においても，自らの親会社である被告テイクオーバー，その完全子会社である被告ブルーアート及び被告らくらくに対して貸付けを行っていた。

被告スカイキャピタルは，そのホームページ上において「分散投資」が期間や利率の異なる複数のファンドに投資できると説明しているが，分散投資とは，資産・銘柄，地域，時間等の異なる案件に投資し，リスクの分散を図ることを指して用いられる言葉であり，一般投資家からすれば，そのような意味で捉えるのが当然である。また，被告Ｙ１のインタビュー記事には，貸付先や資金使途が様々であることを強調する記載がある。

（ウ）　以上のとおり，被告スカイキャピタルは，複数の企業への分散投資を行っていなかったにもかかわらず，複数の企業への分散投資を行う旨の虚偽の説明をしていたのであり，当該説明は不法行為に該当する。

イ　担保の確保

（ア）　被告スカイキャピタルは，貸付先に対する担保について，「担保は融資時に融資金額の１２０％以上の価値を保全しており安定的に高い配当が出せる仕組みを作っている」，「全案件に対して１２０％の価値を保全する担保も設定しています」といった文言を用いて宣伝しており，契約締結前交付書面（乙Ａ２）においても，原則として貸付先から不動産又は有価証券の担保を受け入れ，返済が滞った場合には担保権の実行により貸付金の回収を図る旨を表示していた。

（イ）　これらを見た一般投資家からすれば，被告スカイキャピタルは，融資金額の１２０％以上の価値のある担保を取得しており，貸付先の信用リスクが顕在化した場合にも，当該担保を実行することにより貸付金を回収できると考えるのが自然である。

（ウ）　被告スカイキャピタルは，本件各ファンドの案件１について，親会社である被告テイクオーバーの株式のみを担保として取得しており，他には担保を取得していなかった。被告スカイキャピタルは，初年度のグループ会社向け融資比率を９０％とすることを計画し，１９１件の貸付けのうち，３件を除いて被告テイクオーバー及びそのグループ会社への貸付けとなっており，被告テイクオーバーから毎月５０００万円程度の資金がグループ会社に流出していた。このような状況下で，被告テイクオーバーの自社株式を担保として確保したとしても，被告テイクオーバー又はそのグループ会社のいずれかにおいて信用リスクが顕在化した場合には，他のグループ会社も貸付金を返済することが困難となり，担保となっている被告テイクオーバーの株式も価値を大きく毀損され，債権回収が困難となる。このような担保では，融資金額の１２０％以上の価値を保全していたということはできない。

（エ）　以上のとおり，被告スカイキャピタルは，実際には十分な担保を取得していなかったにもかかわらず，１２０％もの担保価値のある担保を取得している旨の虚偽の説明をしていたのであり，当該説明は不法行為に該当する。

（オ）　被告スカイキャピタルは，契約締結前交付書面（乙Ａ２）において，「担保価値が下落した場合には，株式会社みんなのクレジットの本借入人に対する債権が全額担保されない結果，本借入人からの返済が滞った場合に，お客様に元本額が欠損する損失が発生する場合があります。」と記載しているものの，当該記載は，被告スカイキャピタルが宣伝どおりの担保を取得していることが前提となるものであり，原告の請求を妨げるものではない。

（カ）　１０５～１０７号ファンドについては，被告スカイキャピタルのホームページにおいて，「貸付先企業の自社株式」を担保にとることが明記されているものの，貸付先企業の自社株式の価値は被告らの恣意的な業績予測に基づいて定められたものであるから，担保として不適切であるし，被告スカイキャピタルの宣伝の態様からすれば，貸付先企業の自社株式のように無意味な担保を取得しているとは思いもしなかったのであるから，一般投資家に誤解を生ぜしめる記載がなかったとはいえず，不法行為を構成することに変わりない。

（被告スカイキャピタルの主張）

ア　貸付先の選定について

（ア）　分散投資

被告スカイキャピタルは，期間や利率の異なる様々な投資対象案件に投資ができるという意味において「分散投資」という言葉を用いている。分散投資を行う主体は，原告を含む投資家であって，被告スカイキャピタルではない。

また，関東財務局は，「分散投資」という表示について何ら言及しておらず，「貸付先について」の表示についても，誤解を生ぜしめるべき表示をする行為と認定したにとどまり，虚偽の表示をする行為とは認定しておらず，被告スカイキャピタルに故意があったとはいえない。

（イ）　貸付先

ａ　原告の主張する説明は，被告スカイキャピタルが本件各ファンドについて異なる投資先を選定していたことを表示するものではない。貸付金の主たる使途を踏まえて主たる事業内容や事業圏を表示していたのであり，これらは時の経過に伴って変わるものである。

ｂ　９３～９５，１０５～１０７号ファンドについては，その貸付先の表示が共通していることからすれば，原告においても，貸付先が同一であることを認識し，又は認識し得たといえる。

ｃ　ソーシャルレンディングにおいては，貸金業法上，被告スカイキャピタルの貸付先を特定し得る情報を提供できない制約があったところ，９２～９５号ファンドの募集当時，同一の借主である旨を確定的に表示すると，複数のファンド情報が蓄積されることにより，貸付先が特定されるおそれがあった。

９５号ファンドの募集後，金融庁からの指導により，貸付先に番号を付すことにより，投資家において貸付先を区別し得る情報を提供できることとなった。そこで，１０４～１０７号ファンドについては，事業者にそれぞれ０００１～０００４の番号を付すことによって，貸付先を区別できるようになっており，原告において，これを容易に認識し得る状況にあった。

イ　担保の確保について

（ア）　担保を設定していること

被告スカイキャピタルは，中立的な第三者である公認会計士がＤＣＦ法により作成した株式算定報告書（乙Ａ３５）に基づき，平成２８年１１月に被告テイクオーバーの株式を１株当たり１０万円と評価し，本件各ファンドに係る出資金の一部を被告テイクオーバーに貸し付けた際，当該融資額の１２０％以上の価値を有する被告テイクオーバーの株式について担保の設定を受けている。

被告スカイキャピタルは，本件各ファンドに係る出資金の一部を被告らくらく及び被告ブルーアートに対して貸し付けた際，上記同様の評価に基づき当該融資額の１２０％以上の価値を有する被告テイクオーバーの株式についてそれぞれ担保の設定を受けている。

関東財務局は，担保に関する表示について，誤解を生ぜしめるべき表示をする行為と認定したにとどまり，虚偽の表示をする行為とは認定していない。

（イ）　１０５号ファンド以降の担保の表示

被告スカイキャピタルは，１０５号ファンド以降のファンドについて，貸付先企業の自社株式が担保であることをホームページに明確に記載していたのであるから，虚偽の表示がされていたとはいえない。

（被告テイクオーバーらの主張）

ア　分散投資について

被告スカイキャピタルが，同社のホームページにおいて，「分散投資」という言葉を，原告の主張するような意味で用いておらず，記載された文言どおりの投資がされていることは原告も認めるところであり，何ら虚偽の表示はされていない。

また，原告の指摘する文言についても，複数用意されている案件に分けて投資できるということのみならず，複数の事業者に貸付けを行っていると読み取ることはできないし，各案件についての貸付先の説明は，同一名称のファンドにおいては同一の内容であり，貸付先が異なると読むことはできない。

イ　担保について

「１２０％の担保」という表示がされているからといって，確実に回収できる担保を取得しなければならないわけではない。仮にそのような担保を有している者は，貸付金利が高い被告スカイキャピタルではなく，他の金融機関から借り入れることも可能だったというべきであり，原告としては，被告スカイキャピタルの提供するようなハイリターンの取引については，相応のリスクが伴うことを考慮すべきであった。

また，貸付先企業において返済ができないような場合であっても，一時的にキャッシュフローが滞ったにすぎないときは，当該企業の株式価値が大幅に毀損されるとは限らないのであって，担保価値がないと言い切ることはできない。

(2) 　争点(2)（被告テイクオーバーらの共同不法行為責任の存否）

（原告の主張）

被告らの間では，被告スカイキャピタルが虚偽の投資勧誘によって集めた資金を被告テイクオーバー，被告ブルーアート，被告らくらくに流出させ，被告水野設備が被告テイクオーバーの株式を見せ掛けの担保として提供するという詐欺スキームが共有されていた。同スキームにおいて，被告Ｙ１は，被告スカイキャピタルを統括し，被告テイクオーバー，被告らくらく及び被告ブルーアートは，被告スカイキャピタルに対して融資の申込みを行い，被告水野設備は，被告スカイキャピタルに対し，被告テイクオーバーの株式を担保として提供していたのであるから，共同不法行為責任を負う。

被告らの共謀を基礎付ける事実関係は，次のとおりである。

ア　被告Ｙ１による支配

（ア）　被告ら相互の関係性

被告テイクオーバーは，被告スカイキャピタル，被告ブルーアート，被告らくらくの完全親会社であり，被告水野設備の子会社である。被告Ｙ１は，平成３０年１１月まで被告Ｙ１の自宅が本店所在地であり，同人の親族が代表者を務める被告水野設備，その子会社である被告テイクオーバーを通じて，被告スカイキャピタル，被告ブルーアート，被告らくらくを支配し得る立場にあった。

（イ）　役員及び従業員の構成が共通すること

本件各出資の当時，被告テイクオーバー及び被告スカイキャピタルの代表取締役は被告Ｙ１が務めており，被告テイクオーバーの役員は，Ｄを除き，全員が被告Ｙ１の親族であった。また，Ｄについても，被告テイクオーバーの取締役と被告らくらくの取締役を兼務していた。

被告スカイキャピタルの取締役であるＥは，被告らくらくの監査役を兼務しており，被告テイクオーバーに在籍する従業員でもあった。

被告スカイキャピタルの代表取締役を務めていたＡは，被告テイクオーバーに在籍する従業員でもあった。

被告ブルーアートの代表取締役を務めるＣは，被告テイクオーバーに在籍する従業員でもあり，被告スカイキャピタルの業務に関与していた。Ｃは，別件の証拠保全手続において，被告スカイキャピタルの担当者として，同社名義の預金口座の所在及び役割並びに資金の流れについて説明していた。

（ウ）　被告Ｙ１による各従業員への指示

被告Ｙ１は，被告スカイキャピタルから被告テイクオーバー及び被告らくらくへの送金につき，被告テイクオーバーの従業員であるＦに対して業務上の指示を内容とするメール（甲１１）を送信し，同メールをＥ，Ａ及びＣに対しても同時に送信していた。

イ　契約手続に不自然な点があること

（ア）　貸出稟議書

被告スカイキャピタルの貸出稟議書（乙Ａ２２～２９）の決裁者として，「審査部」の欄にＥ，「営業部ＧＭ」の欄にＡの押印がされており，いずれも被告テイクオーバーに在籍する従業員が被告スカイキャピタルの被告テイクオーバーに対する融資の審査，決裁を行っていた。

貸出稟議書の記載は簡易な内容であるところ，貸付先から徴求したとされる決算書や事業計画書等の資料も何ら残っていない。

（イ）　金銭消費貸借契約書の記載

１０４号ファンド案件１の貸出稟議書（乙Ａ２６の１）には物上保証人として被告水野設備が記載されていたにもかかわらず，同案件の金銭消費貸借契約書（乙Ａ１８の１）には，同案件における融資の物上保証人として被告テイクオーバーが記載されていた。

（ウ）　物上保証人

本件各ファンドにおいて，被告テイクオーバーに対する貸付けの物上保証人が被告水野設備とされ，被告ブルーアートや被告らくらくに対する貸付けの物上保証人が被告水野設備又は被告テイクオーバーとされている。

（エ）　貸付け後の対応

被告スカイキャピタルは，被告テイクオーバーに資金を貸し付けた後，その資金がどのように使われているのか，確認すら行っていなかった。

（オ）　形式的な貸付け

被告Ｙ１は，一つのファンドを組成するためには複数の貸付先が必要となることから，被告らくらくに依頼して借入れをしてもらっていたほか，被告スカイキャピタルは，資金需要のなかった被告水野設備に対して貸付けを行っていた。

（カ）　借入申込書の記載

被告らくらくと被告ブルーアートが被告スカイキャピタルに提出した借入申込書の中には筆跡が同一のものがあり，被告らくらくと被告ブルーアートの役員の共通性を考えると，被告ブルーアートの借入申込書も被告らくらくにおいて作成されていたといえる。

ウ　本店所在地及びオフィスが共通すること

本件各出資の時点において，被告テイクオーバー，被告スカイキャピタル，被告ブルーアート及び被告らくらくの本店所在地及びオフィスは同一であった。

エ　被告らの融資計画

被告スカイキャピタルは，当初から初年度のグループ会社向け融資比率を９０％とすることを計画しており，ファンド出資金の大部分を被告テイクオーバー及びグループ会社に貸し付けることを計画していた。そして，被告テイクオーバーから毎月合計５０００万円程度の資金が他のグループ会社に流れていた。

（被告テイクオーバーらの主張）

ア　被告テイクオーバーらが不法行為責任を負わないこと

（ア）　被告スカイキャピタルにおける出資者の募集及び勧誘は，借入人による借入れの申込みの後にされるものであって，仮に被告スカイキャピタルによる出資者の募集及び勧誘が事後的に違法と判断されるとしても，借入人がそれを認識することは不可能であった。

（イ）　被告水野設備による担保の提供は，むしろ投資家にとって有利になるものであるから，虚偽の投資勧誘を行うことを幇助するものであるとはいえない。

イ　被告らの共謀のないこと

（ア）　メール（甲１１）について

被告Ｙ１によるメール（甲１１）は，同人が被告スカイキャピタルの業務に関し，同社の代表取締役として，送信したものである。

ａ　Ｆに対しては，体調不良の被告スカイキャピタルの経理担当者の業務代行として，被告スカイキャピタルのレンダーゲート口座からボロワーゲート口座に資金を移すことを指示したにすぎなかった。

ｂ　Ａに対しては，被告スカイキャピタル内部での資金の移動のための支払依頼書の作成を指示したにすぎない。

ｃ　ＥやＣに対してもメールを送信したのは，同人らがかつて被告テイクオーバーに勤めていたことがあり，被告Ｙ１の携帯電話の中にメールアドレスが残っていたからにすぎない。

（イ）　オフィスについて

全ての会社がそれぞれ壁で隔てられ，セキュリティロックが掛けられたドアで隔絶されており，各会社の従業員が同室で執務を行っていたものではないし，各社に出入りできるのは権限者及び関係者に限られる。

（ウ）　役員及び従業員の兼任について

ａ　被告らくらくは，代表取締役のＢと従業員１名がマッサージ店を営む会社にすぎない。

ｂ　Ｄは，被告らくらくの取締役であったものの，月に一度の経営会議に出席するのみで，被告らくらく社内に立ち入る権限は与えられておらず，被告らくらくから役員報酬も支払われていなかった。

ｃ　Ｅ及びＡは，被告らくらくの経営会議に参加しておらず，被告らくらくの業務に携わったことがなかった。また，被告らくらく社内に立ち入る権限は与えられておらず，被告らくらくから役員報酬も支払われていなかった。

（エ）　融資計画について

被告スカイキャピタルのグループ会社向け融資については，その内容や比率について当局も承知していたのであり，これ自体問題のあるものではない。グループ会社に流れていたとする資金についても，ファンドからの借入金が原資となっているとは限らない。

（オ）　被告水野設備による借入れについて

被告水野設備が被告スカイキャピタルから借入れを行ったことはあるものの，それ以上の関与はしていない。

（カ）　筆跡の共通する借入申込書について

借入申込書の作成に際しては，被告スカイキャピタルにおいて聞き取りを実施した上で被告ブルーアート及び被告らくらくの借入申込書に記載を行っていた場合もあり，そのために筆跡が一致したのではないかと思われる。

(3) 　争点(3)（損害の発生及びその額）

（原告の主張）

原告は，被告スカイキャピタルのホームページに，安全性に配慮して分散投資を行っていること，融資額の１２０％以上の担保を保全していること等が説明されていたことから，被告スカイキャピタルに出資することとした。その結果，本件各出資により，被告スカイキャピタルに対して合計１２５万円を支払ったところ，３万８８１５円の返金を受けたが，１２１万１１８５円の返金を受けていない。原告は，訴訟を提起するためには弁護士に委任せざるを得なかったところ，本件に要した弁護士費用は１２万１１１８円を下らない。

したがって，原告が被った損害は，１３３万２３０３円となる。

（被告スカイキャピタルの主張）

原告が合計１２５万円を出資したこと及び３万８８１５円の返金を受けたことは認めるが，その余は否認し，争う。

原告は，ソーシャルレンディングが安全な投資商品であるとの固定観念を有していたことから，本件各ファンドの有するリスクを誤認して投資したにすぎず，仮に被告スカイキャピタルによる虚偽の投資勧誘があるとしても，本件各出資との間の因果関係は認められない。

（被告テイクオーバーらの主張）

不知であり，争う。

第３ 　当裁判所の判断

１ 　認定事実

前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば，次の事実が認められる。

(1) 　被告スカイキャピタルによる表示

ア　被告スカイキャピタルのホームページには，本件各出資の当時，次のとおりの記載があった。（甲１）

（ア）　融資時に融資金額の１２０％以上の価値の担保を保全しており，安定的に高い配当を出せる仕組みを作っている点にメリットがある。

（イ）　ソーシャルレンディングには元本保証はないというデメリットがあるが，被告スカイキャピタルではこれまで元本割れ案件はない。

（ウ）　被告スカイキャピタルでは，取り扱う案件が担保付きローンファンドであり，次のとおり保全への取組みを行っており，元本割れ案件は０件である。

ａ　厳格な審査・調査の徹底

被告スカイキャピタルは，資金を必要とする事業者の信用力を厳格に評価している。財務分析，代表者の信用調査，連帯保証人の有無，担保評価等，経験豊富な審査チームが念入りに調査を行う。

ｂ　確実な動産，不動産の担保確保

ローンファンドを組成し，融資を実行する際には，原則，不動産や売掛債権等の担保を設定する。万が一，融資先事業者からの返済や利払いが滞った場合でも，担保権を実行することで債権の保全を行う。

イ　被告スカイキャピタルのホームページには，本件各ファンドの募集条件として，別紙「ファンド一覧表」の「ファンド」欄記載の各番号に対応する各ファンドの同表「案件」欄記載の各番号に対応する各案件について，被告スカイキャピタルが，同表「担保の表示」欄記載の各担保を取得して，同表「事業者の表示」欄記載の各事業者に対し，同表「募集金額」欄記載の金額の融資を行う旨の記載があった。（乙Ａ６～１３）

(2) 　匿名組合契約の内容

ア　原告と被告スカイキャピタルとの間で締結された本件各出資に係る匿名組合契約において，営業者である被告スカイキャピタルは，匿名組合契約約款（乙Ａ１）に規定がある場合を除き，匿名組合員の出資する出資金により，次の内容の「金銭消費貸借契約約款」に基づいて締結される貸付契約に基づく貸付け，管理，回収その他営業者が行う個別の金銭貸付けに関する事業を行うこととされていた。（乙Ａ１の２条，５条，別紙金銭消費貸借約款）

借入人は，被告スカイキャピタルに対し，金銭消費貸借契約に基づく借入人の被告スカイキャピタルに対する債務を担保するために，被告スカイキャピタルの指定する内容の担保を差し入れるものとする。

イ　原告に対して示された契約締結前交付書面には，次のとおりの記載があった。（乙Ａ２の２～３頁）

「本案件では，株式会社みんなのクレジットは，原則として本借入人から，その有する不動産もしくは有価証券に対して担保設定を受け，借入人からの返済が滞った場合には，上記担保権の実行等により，貸付金の回収を図って参ります。したがって，当該不動産もしくは当該有価証券に，株式会社みんなのクレジットの担保権に優先する担保権が存在したり，当該不動産については，不動産市況や賃料水準その他の経済的要因，土壌汚染等の不動産に内在する瑕疵，災害や賃貸借関係に係る紛争等の外部的要因等に起因して担保価値が下落した場合，当該有価証券については，諸々の経済的要因や外部的要因等に起因して担保価値が下落した場合には，株式会社みんなのクレジットの本借入人に対する債権が全額担保されない結果，本借入人からの返済が滞った場合に，お客様に元本額が欠損する損失が発生する場合があります。」

(3) 　被告らの営業状況等

ア　被告Ｙ１は，平成２４年１１月２２日に被告テイクオーバーを，平成２７年５月２１日に被告スカイキャピタルをそれぞれ設立し，両社の代表取締役に就任した。被告スカイキャピタルは，平成２９年５月２３日まで，被告テイクオーバーの１００％子会社であった。（甲５，１０，１５の１～２頁，甲１７）

Ｅ及びＣは，被告テイクオーバーの従業員であったが，被告スカイキャピタルに転籍し，同社において，Ｅは審査部長を，Ｃはシステムの保守管理等を担当していた。（甲１５の１２，３９頁）

イ　被告テイクオーバーでは，平成２７年から平成２９年にかけて，被告Ｙ１の妻が監査役を，長男が取締役を，義理の父親が取締役をそれぞれ務めていたが，同人らは被告テイクオーバーでの業務執行には関与していなかった。（甲６，１５の２９頁）

ウ　被告スカイキャピタルは，平成２８年４月から，法人向けローンを出資対象事業とする不動産ローンファンドや中小企業支援ローンファンド等と称するファンドの出資持分の取得勧誘を開始した。（甲３）

被告スカイキャピタルは，ソーシャルレンディング事業を開始した平成２８年４月頃，集めた出資金につき，グループ会社を中心に融資することとし，１年目に９０～９５％，２年目に７０％，３年目に５０％といったように，グループ会社に対する融資の割合を逓減していくことを計画していた。もっとも，平成２８年度における融資は，約９７％がグループ会社に対するものであり，グループ会社外への融資は数件にとどまった。（甲１５の４～５頁）

エ　被告らくらくは，平成２８年５月３１日，被告テイクオーバーから会社分割により設立され，被告テイクオーバーの１００％子会社となった。被告らくらくの代表取締役には，マッサージ店を経営していたＢが就任した。被告Ｙ１は，複数の企業に対して融資を行う形式をとるため，Ｂに対し，被告らくらくにおいて，被告スカイキャピタルから最小限度の金額の借入れを受け入れるよう依頼した。（甲７，１５の２９～３０頁，甲１７）

オ　被告Ｙ１は，平成２８年６月頃まで，被告スカイキャピタルのホームページにおける貸付先企業の記載方法につき，東京都から指導を受けたことがあり，その際，記載方法に関する交渉を行った。（甲１５の３７～３８頁）

カ　被告Ｙ１は，平成２８年１１月１１日，６５号ファンドに関し，被告スカイキャピタルの融資営業部のマネージャーであるＡ，審査部長であるＥ，Ｃらに対し，ファンド成立後の資金移動や担保の内容について指示する内容のメールを送信した。（甲５，１５の１２～１５頁，甲１６の１頁）

キ　被告Ｙ１は，平成２９年３月３０日に被告スカイキャピタルが関東財務局から業務停止命令及び業務改善命令を受けた後，同年４月２９日，同社の代表取締役を辞任し，被告テイクオーバーが保有する被告スカイキャピタルの株式は第三者に譲渡された。その後，被告スカイキャピタルの事業は，現在に至るまで再開していない。（甲３，５，１５の１５～１６頁，甲１６の８頁，弁論の全趣旨）

(4) 　被告スカイキャピタルによる融資の状況

ア　被告スカイキャピタルは，本件各ファンドの営業者として，別紙「ファンド一覧表」の「ファンド」欄記載の各番号に対応する各ファンドの同表「案件」欄記載の各番号に対応する各案件について，同表「物上保証人」欄記載の各被告から同表「担保」欄記載の担保の提供を受けて，同表「借主」欄記載の各被告に対し，同表「貸付金額」欄記載の融資を行った。（乙Ａ１４～２１）

９３号ファンド案件１の貸出稟議書（乙Ａ２３の１）には，審査部記入欄に，被告水野設備の連帯保証及び担保提供にて可との記載があったにもかかわらず，９３号ファンド案件１において被告水野設備が連帯保証人にはなっておらず，１０４号ファンド案件１の貸出稟議書（乙Ａ２６の１）には，物上保証人として被告水野設備が記載されていたにもかかわらず，１０４号ファンド案件１において被告テイクオーバーが物上保証人となっていた。（乙Ａ１５の１，１８の１）

イ　被告Ｙ１は，被告スカイキャピタルにおいて，融資判断を行っていたほか，ファンドの募集に先立ち，担保に設定すべき物件の決定，募集状況の管理といった業務全般について指示し，監督していた。（甲１５の１５，３９頁）

ウ　被告テイクオーバーは，グループ会社である被告スカイキャピタル，被告水野設備，被告らくらくにおいて運転資金が不足するなどの資金需要が生じた場合に，各社に対して貸付けを行っており，その金額はグループ全体で１箇月当たり５０００万円前後であった。（甲１５の３９～４０頁）

２ 　争点(1)（被告スカイキャピタルの不法行為責任の存否）

(1) 　担保の表示について

ア　被告スカイキャピタルは，そのホームページにおいて，１２０％以上の価値の担保を保全していること（前記認定事実(1)ア（ア）），確実な動産，不動産の担保を確保し，保全への取組みを行っており，これまで元本割れ案件は０件であったこと（同(1)ア（イ），（ウ））をそれぞれ表示しており，同社のホームページを閲覧し，ソーシャルレンディング投資を検討している者に対し，同社の貸付金の回収可能性が高く，元本を毀損するおそれの低い取引であることを強調していた。

被告スカイキャピタルの募集するファンドが貸付先を明らかにしていないことからすると，担保に関する記載は，投資家が出資の適否を判断するに当たって重要な情報であるところ，本件各ファンドにおける担保の記載である「有価証券」，「商品在庫」は，前記のとおり，取引の安全性を強調する被告スカイキャピタルのホームページの記載からすると，少なくとも，一定程度の担保価値を有する有価証券や商品在庫であると考えるのが通常である。

しかしながら，実際には，担保として貸付先である非公開会社の自社株式が差し入れられているにすぎず，担保の保全が十分であったとはいえない。すなわち，担保は，債権に認められる一般的効力だけでは債権者が満足しない場合に，その債権の実現を確実にするための手段であるところ，貸付先企業が債務不履行に陥り，債権回収が困難になっている場合には，貸付先企業が債権者を満足させるに足りる資産を保有していない状態に陥っているのが通常であるということができ，本件のように，貸付先企業が，株式の価値と同社における純資産の総額との関連性が比較的強く，株式の流動性が低い非公開会社であること（前記前提事実(1)イ）からすると，同社の株式は，貸付先企業が貸金の返済困難な状態に陥ることに伴って，その価値が著しく下落し，極めて担保価値が乏しいものになるというべきである。

そうすると，実際には担保価値が極めて乏しい担保しか確保していないにもかかわらず，本件各ファンドの担保として単に「有価証券」や「商品在庫」と表示することにより，一定程度の担保価値を有する担保を確保している旨を表示していたのであるから（前記認定事実(1)イ），被告スカイキャピタルは，９２～９５号ファンドの各案件１に係る担保の記載について，虚偽の内容を表示していたというべきである。

イ　したがって，被告スカイキャピタルは，９２～９５号ファンドの各案件１に係る担保の記載について，虚偽の内容を表示していたのであるから，９２～９５号ファンドに対する出資につき，原告に対し，不法行為責任を負う。

これに対し，１０４号ファンドについては，借主である被告ブルーアートの親会社である被告テイクオーバーの株式が担保に供されているから（前記認定事実(4)ア），被告ブルーアートの信用状況の悪化により，直ちに被告テイクオーバーの株式の価値が低下するとまではいえず，１０５～１０７号ファンドについては，貸付先企業の自社株式を担保としている旨を表示していたのであるから（同(1)イ），被告スカイキャピタルは，１０４～１０７号ファンドにつき，虚偽の表示を行っていたものとは認められない。そうすると，被告スカイキャピタルは，１０４～１０７号ファンドについて，原告に対して担保の表示を理由とする不法行為責任を負わない。

ウ　なお，９２～９５号ファンドの各案件２については，いずれも借主は被告らくらく，担保は被告テイクオーバーの株式であって，貸付先企業の自社株式が担保に供されていたわけではなかった（前記認定事実(3)エ）。

しかしながら，証拠（乙Ａ４）によれば，投資の対象は各ファンドそのものであり，個別の案件ではないことが認められ，被告らくらくは被告Ｙ１が複数の企業に対して融資を行う形式をとるために借入れの受入れを依頼した企業にすぎず（前記認定事実(3)エ），９２～９５号ファンドの各案件２の貸付金額が各案件１の貸付金額に比して極めて少額であること（同(4)ア）からすれば，９２～９５号ファンドの出資の適否を判断するに当たっては，各案件１が重視されていたというべきであり，各案件２の表示内容が前記アと同様に虚偽であるとは評価されなかったとしても，前記イの結論は左右されない。

(2) 　分散投資について

ア　被告スカイキャピタルは，そのホームページにおいて，分散投資について，「期間や利率の異なる様々な投資対象案件を用意しており，資金を分散して複数案件に投資ができる。」との説明を記載するにとどまっており（前記前提事実(2)イ（ア）），被告スカイキャピタルの募集するファンドの投資先がそれぞれ異なる複数の企業であるとは明示していない。そうすると，被告スカイキャピタルのホームページにおける前記表示が，投資先の信用リスクの点において虚偽の内容であったとまではいえず，分散投資の表示について不法行為は認められない。

イ　したがって，被告スカイキャピタルは，原告に対して分散投資の表示を理由とする不法行為責任を負わない。

(3) 　原告の主張について

ア　原告は，「分散投資」という言葉の一般的な用法からすれば，被告スカイキャピタルが複数の企業に貸付けを行っており，信用リスクが分散されているという意味であると解すべきであると主張する。

確かに，被告スカイキャピタルは，当初，グループ会社に対する融資を基本としており，原告が出資した平成２９年１月から３月頃に行われた融資の９０％以上がグループ会社に対する融資であり（前記認定事実(3)ウ），信用リスクが分散されているものではなかった。このような融資の状況であったにもかかわらず，「分散投資」という言葉を強調することは，信用リスクが分散されているとの誤解を招くおそれのある不適切な表示であると言い得るが，前記前提事実(2)イ（ア）のとおり，被告スカイキャピタルは，同社のホームページにおいて，「分散投資」という言葉が，期間や利率の異なる複数の投資案件を用意しているという意味であることを明示している以上，原告の主張する意味で解すべきであるとはいえない。

したがって，原告の主張は採用することができない。

イ　原告は，被告Ｙ１がインタビューにおいて貸付先や資金使途が様々であることを強調し，複数の企業への分散投資を行う旨の虚偽の説明をしていたと主張する。

確かに，被告Ｙ１は，インタビューにおいて，被告スカイキャピタルの投資先について，「マンションディベロッパー，住宅分譲会社，ノンバンク，投資会社，ＩＴ会社など様々です。」との回答をしている（甲１５の２４～２５頁）ものの，本件全証拠によっても，原告が，本件各出資に先立ち同インタビューに係る記事を読んでいたのかは明らかでない。仮に，原告が本件各出資に先立ち同記事を読んでいたとしても，前記回答の内容は，被告スカイキャピタルの投資先の業種が様々であると理解することができるのであり，本件各ファンドのそれぞれが複数の企業に投資するものであると断定的に述べたものではないし，また，原告が出資した本件各ファンドの投資先に関しては，前記認定事実(1)イのとおり，各投資先の業種はある程度具体的に明示されているのであるから，前記回答の内容をもって，複数の企業への分散投資を行う旨の虚偽の説明をしたものと評価することはできない。

したがって，原告の主張は採用することはできない。

(4) 　被告らの主張について

ア　被告スカイキャピタルは，公認会計士の作成した株式算定報告書（乙Ａ３５）を踏まえて算出された価格に基づき，融資額の１２０％以上の価値を有する担保設定を受けたと主張する。

しかしながら，株式算定報告書（乙Ａ３５）は，平成２８年１０月３１日時点において入手可能な財務資料等を基に，同年４月３０日を算定基準日として，第三者割当増資の際に参考とする株価を算定したものであり，自社の借入れの担保として提供する場合の株式の価値についても妥当するものであるとはいえない。

したがって，被告スカイキャピタルの主張は採用することができない。

イ　被告テイクオーバーらは，「１２０％の担保」という表示がされていたとしても，確実に回収できる担保を意味するものではないと主張する。

しかしながら，前記(1)のとおり，貸付先企業の自社株式は，当該企業に対する貸金債権の担保としては一定程度の担保価値すら有していないのであるから，担保の確実性といった回収の程度の問題とは次元を異にするものである。

したがって，被告テイクオーバーらの主張は採用することはできない。

ウ　被告テイクオーバーらは，貸付先企業が返済できないような場合であって，一時的にキャッシュフローが滞ったにすぎないときは，必ずしも当該企業の株式価値が大幅に毀損されるとは限らないと主張する。

しかしながら，一時的にキャッシュフローが滞ったにすぎない場合であれば，担保を換価するまでもなく貸付金の回収が見込まれる状況にあったといえるから，担保の設定によるメリットを直接的に享受できる場面であるとはいえない。また，仮に被告テイクオーバーらの主張のとおりであるとしても，その主張が妥当するのは限られた場面にすぎない。

したがって，被告テイクオーバーらの主張は採用することができない。

(5) 　小括

したがって，被告スカイキャピタルは，９２～９５号ファンドの各案件１に係る担保の記載について，虚偽の内容を表示していたのであるから，９２～９５号ファンドに対する出資につき，原告に対し，不法行為責任を負う。

３ 　争点(2)（被告テイクオーバーらの共同不法行為責任の存否）

(1) 　被告Ｙ１について

ア　被告Ｙ１は，被告スカイキャピタル及び被告テイクオーバーを設立して，本件各出資の当時も両社の代表取締役を兼務し（前記認定事実(3)ア），被告スカイキャピタルの代表取締役として，融資判断を行っており（同(4)イ），各融資における担保の内容も把握していたと認められる。そして，両社の代表取締役として，両社の業務全般について指示，関与し（同(3)イ，カ，(4)イ），被告スカイキャピタルのホームページにおける貸付先企業の表示方法に関する交渉を東京都との間で行うなどしていたのであるから（同(3)オ），被告スカイキャピタルがそのホームページにおいて取引の安全性を強調していたこと（同(1)ア）を踏まえると，被告スカイキャピタルの募集するファンドに出資する投資家が重視するであろう担保の表示方法についても関与し，必要に応じて指示を行っていたものと認めるのが相当である。

イ　そうすると，被告Ｙ１は，９２～９５号ファンドの各案件１につき，担保の内容及びホームページにおける担保の記載の双方を認識した上で，担保の記載を含む業務全般について指示を出し，ファンドの募集を実施してグループ会社間における資金の融通を行っていたと認められるのであるから，前記２の不法行為につき，これを認識した上で，被告スカイキャピタルと共に不法行為を行っていたというべきであって，共同不法行為責任を負う。

(2) 　被告テイクオーバーについて

ア　被告テイクオーバーの代表取締役である被告Ｙ１が，本件各出資の当時，被告スカイキャピタル及び被告テイクオーバーの業務全般に関与していたことは前記(1)のとおりであり，これに加えて，被告テイクオーバーの従業員であったＥ，Ｃが被告スカイキャピタルに転籍するなど（前記認定事実(3)ア），両社の間では人材交流が行われ，業務内容については相互の従業員において相当程度理解していたことがうかがわれる。

そして，前記１(1)のとおり，９２～９５号ファンドの各案件１において担保として提供されている貸付先企業の自社株式が担保価値の極めて乏しいものであったにもかかわらず，これについて被告スカイキャピタルが異議を述べたり，調査を実施したりした形跡はなく，また，貸出稟議書において要求された連帯保証人が契約書上記載されていなかったり，貸出稟議書に物上保証人として記載された会社とは別会社が契約書上物上保証人となっていたりするファンドがあるなど（前記認定事実(4)ア），融資審査がずさんなものであったこと，被告スカイキャピタルがグループ会社を中心とした融資を計画していたこと（同(3)ウ，(4)ウ）からすれば，両社間における融資審査は形骸化しており，適切な融資審査を経ることなく，被告テイクオーバーを含むグループ会社間における資金の融通が予定されていたというべきである。

以上のとおり，被告テイクオーバーは，グループ会社間における資金の融通の一環として，９２～９５号ファンドの各案件１につき，主たる借主として不可欠の役割を担っていたほか，融資に関する業務全般に関与していた被告Ｙ１がその代表取締役を務め，被告スカイキャピタルに従業員を転籍させていることからすると，両社の組織的な一体性が強く推認される。そうすると，ファンドの出資者の募集及び集めた資金による融資の実行という一連の貸付けに係るスキームの実行について，少なくとも，被告スカイキャピタルと被告テイクオーバーとの間では，組織的に共同する旨の合意があったというべきであり，被告テイクオーバーにおいても，当然，担保の内容及びホームページにおける担保の記載の双方を認識した上で，ファンドの貸付先企業としてファンドの募集に関与していたと認められる。

イ　そうすると，被告テイクオーバーは，９２～９５号ファンドに関する前記２の不法行為につき，これを認識した上で，組織として，被告スカイキャピタルと共に不法行為を行っていたというべきであって，共同不法行為責任を負う。

(3) 　その余の被告らについて

本件全証拠によっても，被告らくらく，被告水野設備及び被告ブルーアートが，被告スカイキャピタルの行った９２～９５号ファンドの各案件１に関する担保の記載につき，組織として関与したとは認めるに足りないから，同被告らは，共同不法行為責任を負わない。

(4) 　小括

したがって，被告Ｙ１及び被告テイクオーバーは，被告スカイキャピタルと共に，共同不法行為責任を負う。他方，被告らくらく，被告水野設備，被告ブルーアートについては，前記２の不法行為における担保の表示の方法について，これを具体的に認識して，ファンドの募集に関与していたとは認めるに足りないから，共同不法行為責任を負わない。

４ 　争点(3)（損害の発生及びその額）

原告は，被告スカイキャピタルに対し，９２～９５号ファンドに係る出資金として，合計８５万円を支払ったところ（前記前提事実(3)），被告スカイキャピタルから，９２～９５号ファンドの分配金として２万３５１９円を受領し（同(4)ア），債権譲渡代金の償還として受領した３万８８１５円（同(4)イ）のうち，９２～９５号ファンドに対応する２万６３９４円（３万８８１５円÷１２５万円〔本件各出資の合計額〕×８５万円〔９２～９５号ファンドに係る出資金の合計額〕＝２万６３９４円。１円未満切捨て）を受領したから，８０万００８７円（８５万円－２万３５１９円－２万６３９４円＝８０万００８７円）の損害を被ったと認められる。

また，原告は，弁護士に対し，本件訴えの提起及び訴訟追行を委任していると認められる（弁論の全趣旨）ところ，本件の事案の性質・内容，請求額，前記のとおりの損害額その他諸般の事情をしん酌すると，本件訴えの提起及び訴訟追行に係る弁護士費用のうち８万円をもって不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

したがって，原告が被った損害の合計額は，８８万００８７円となる。

５ 　総括

原告は，被告スカイキャピタル，被告テイクオーバー及び被告Ｙ１に対し，不法行為による損害賠償請求権に基づき，８８万００８７円及びこれに対する不法行為を行った日の後の日である平成３０年３月９日から支払済みまで民法所定の年５分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めることができる。

第４ 　結論

以上の次第で，原告の請求は，被告スカイキャピタル，被告テイクオーバー及び被告Ｙ１に対し，８８万００８７円及びこれに対する平成３０年３月９日から支払済みまで年５分の割合による金員の連帯支払を求める限度で理由があるから，その限度で一部認容し，その余の請求は理由がないから，これを棄却することとして，主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第３７部

（裁判長裁判官　三輪方大　裁判官　村田つかさ　裁判官　下山雄司）

 

 

〈以下省略〉

 

 

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