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裁判年月日　令和 3年 3月30日　裁判所名　名古屋地裁　裁判区分　判決
事件番号　平３０（ワ）３０２９号
事件名　建築工事差止等請求事件
裁判結果　一部認容、一部棄却　上訴等　確定　文献番号　2021WLJPCA03306006

出典
判時 2518号84頁

評釈
山里盛文・日本不動産学会誌 36巻3号103頁

参照条文
民法７０９条

当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり

主文

１　被告プレサンスは，原告教会に対し，２５９万２０００円及びこれに対する平成３０年９月１３日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。
２　原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
３　訴訟費用はこれを１２分し，その１を被告プレサンスの負担とし，その余を原告らの負担とする。
４　この判決は，第１項に限り，仮に執行することができる。

事実及び理由

第１　請求
１　被告プレサンスは，別紙物件目録記載１(2)の建物の５階から１５階部分を取り壊せ。
２　被告らは，原告園児ら及び原告園長らに対し，連帯して，それぞれ１１０万円及びこれに対する平成３０年９月１３日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。
３　被告らは，原告教会に対し，連帯して２５９万２０００円及びこれに対する平成３０年９月１３日から支払済みまで年５分の割合による金員を支払え。
第２　事案の概要
１　本件は，(1)原告教会，原告教会が運営するａ幼稚園（以下「本件幼稚園」という。）の園児らであった原告園児らのうち９名（原告園児らのうち，原告Ｘ８，同Ｘ９，同Ｘ１０，同Ｘ１１，同Ｘ１２を除く９名）及び同幼稚園の教諭らである原告園長らが，本件幼稚園の園庭の南隣に別紙物件目録記載１(2)の建物（以下「本件マンション」という。）が建築されたことによって，日照阻害，風害，圧迫感等によって人格権（子どもの権利）侵害が生じているとして，人格権に基づく妨害排除請求（原告教会は，選択的主張として，所有権に基づく妨害排除請求）として，被告プレサンスに対し，同建物の５階ないし１５階の取り壊しを求め，(2)原告園児ら及び原告園長らが，本件マンション建築工事に先立つ旧建物の解体工事の間，代替施設への引越しを余儀なくされ，本件マンションの建築期間中，タワークレーンの倒壊の危険，騒音等にさらされ，本件マンション完成後は上記日照阻害等によって人格権を侵害されていると主張し，不法行為に基づき，被告らに対し，連帯して，それぞれに慰謝料及び弁護士費用として１１０万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成３０年９月１３日から支払済みまで，平成２９年法律第４４号による改正前の民法所定の年５分の割合による遅延損害金の支払を求め，(3)原告教会が，本件マンションの建築によって生じた日照阻害を緩和するために園庭の南側部分に建てられていた牧師館を解体・撤去しなければならず，解体・撤去に要した費用が損害として生じたと主張し，不法行為に基づき，被告らに対し，連帯して，損害金２５９万２０００円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成３０年９月１３日から支払済みまで，平成２９年法律第４４号による改正前の民法所定の年５分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
２　前提事実（争いのない事実，証拠及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実。以下，書証について枝番号があるものは，特に注記しない限り，枝番号を含む。）
(1) 　当事者
ア　原告ら
（ア）　原告教会は，昭和２７年８月２０日に成立した，キリスト教の布教及びそのために必要な業務及び公益事業を行うことを目的とする宗教法人である。
原告教会は，本件マンションの北側に隣接する本件幼稚園を経営している。本件幼稚園は，幼稚園だけでなく，預かり保育と学童保育も行っている。幼稚園は平日の午前９時から午後２まで，預かり保育は午前８時１５分から午後６時まで，学童保育は午後１時から午後７時３５分まで，それぞれの時間帯で保育等が行われている。
（イ）　原告Ｘ１及び同Ｘ２（以下「令和２年卒園児」という。）は，本件マンションの建築工事中に本件幼稚園に通園しており，令和２年３月に本件幼稚園を卒園した。
（ウ）　原告Ｘ３，同Ｘ４，同Ｘ５，同Ｘ６及び同Ｘ７（以下「平成３１年卒園児」という。）は，本件マンションの建築工事中に本件幼稚園に通園しており，平成３１年３月１５日に本件幼稚園を卒園した。
（エ）　原告Ｘ８，同Ｘ９，同Ｘ１０，同Ｘ１１及び同Ｘ１２（以下「平成３０年卒園児」という。）は，本件マンションの建築工事中に本件幼稚園に通園しており，平成３０年３月１６日に本件幼稚園を卒園した。
（オ）　原告Ｘ１３及び同Ｘ１４（以下「学童保育園児」という。）は，平成３０年７月当時，本件幼稚園の学童保育を利用していた小学生であり，原告Ｘ１４は令和元年９月末に退所したが，原告Ｘ１３は現在も学童保育に通所している。
（カ）　原告Ｘ１６は，本件幼稚園の園長であり，原告Ｘ１７，同Ｘ１８及び同Ｘ１９は，本件幼稚園の教諭である。（以上につき，甲２ないし４，３０，３２，３５，弁論の全趣旨）
イ　被告ら
（ア）　被告プレサンスは，不動産の売買及びデベロッパー業務を目的とする株式会社であり，別紙物件目録記載１(1)の土地（以下「本件土地」という。）を所有し，同土地上に施主として被告大鉄工業に依頼して本件マンションを建築し，本件マンションを所有している会社である。（甲５，６，４１）
（イ）　被告大鉄工業は，建築工事の請負を目的とする株式会社であり，被告プレサンスから本件マンションの建築工事を請け負った会社である。（甲７）
(2) 　原告教会は，昭和４１年３月，別紙物件目録記載２(1)の土地を取得した。同土地は，南北に短冊形の土地であり，同土地の北側３分の１程度の範囲に地上４階建ての教会の建物があり，同土地の南側３分の２程度の範囲が本件幼稚園の敷地となっている。本件幼稚園の敷地の西側部分に別紙物件目録記載２(2)の２階建ての園舎があり，東側部分が本件幼稚園の園庭として利用されている。また，園庭の南側部分には，平成２９年９月まで，地上２階建ての牧師館が建っていた。（甲３５，弁論の全趣旨）
(3) 　本件幼稚園は，名古屋市ｂ区○○ｃ丁目に所在している。同地域は，都市計画法上の用途地域は商業地域であり，建築基準法上の日影規制がない地域である。
本件幼稚園周辺の建物の位置関係は別紙写真に撮影された状況のとおりであり，複数のビルが立ち並んでいる。本件マンション建築前には，本件幼稚園の南側に高さ１７．７ｍの地上４階建てのビル（以下「旧建物」という。）が存在していた。（以上につき，甲８，乙１）
(4) 　被告プレサンスは，平成２８年５月，本件土地を取得し，同年１０月から１１月にかけて旧建物を解体した。
被告プレサンスから本件マンション建築工事を請け負った被告大鉄工業は，平成２９年７月に建築工事に着工し，平成３１年２月７日に完成させた。
本件マンションは，地上１５階建て，高さ４３．９５ｍである。（以上につき，甲８，３１，４１）
(5) 　原告教会は，平成２９年８月，牧師館を解体・撤去した。（甲３１）
(6) 　原告らは，名古屋地方裁判所に，本件マンションの建築工事続行禁止の仮処分命令の申立てを行った。同裁判所は，平成３０年９月２６日，本件マンションの建築が，原告らに対して受忍限度を超える侵害を生じさせるものではないとして，原告らの申立てを却下する旨の決定をした。
原告らは，同決定について即時抗告をせず，同決定は確定した。（以上につき，乙１）
３　争点
(1) 　本件マンション建築（旧建物の解体，建築工事を含む。）によって，原告園児らの権利が侵害されたか（権利侵害の有無）。
(2) 　本件マンションの一部取り壊し請求の可否
(3) 　原告園児らの損害賠償請求の可否
(4) 　原告園長らの損害賠償請求の可否
(5) 　原告教会の損害賠償請求の可否
４　争点(1)（権利侵害の有無）についての当事者の主張
(1) 　原告らの主張
ア　園児らの権利
（ア）　子どもの権利条約は，我が国でも批准されているため，法的拘束力を持つところ，同条約３条１項には「児童に関するすべての措置をとるに当たっては，公的若しくは私的な社会福祉施設，裁判所，行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても，児童の最善の利益が主として考慮されるものとする」と規定されている。同条約によれば，子どもの「最善の利益」に反する行為は，原則として違法とすべきである。日照阻害等が問題となる場合，受忍限度を超えるかどうかを，日照阻害の程度，地域性，交渉経過などの要素を考慮しながら，マンション建築業者の経済的利益との利益衡量によって判断されるのが一般であるが，子どもの権利との関係では，マンション建築業者の経済的利益と子どもの権利を対等なものとして利益衡量するのではなく，子どもの発達権や遊ぶ権利などを侵害するものは，原則違法とし，マンション建築業者の経済的利益などは，やむを得ない事情として違法性阻却事由があるか否かという点で検討すべきである。
（イ）　子どもの権利の中心は，人間的に成長・発達する権利，すなわち発達権である。発達権は，憲法１３条及び２５条によって保障されている。
子どもの遊び（あそび）は，子どもの生活の本質をなし，子どもが健全に発達していくために不可欠な営みであることから，子どもには遊ぶ権利も保障される。
そして，子どもの発達権や遊ぶ権利の保障のためには，適切な保育環境を享受することが必要であることから，子どもには適切な保育環境を享受する権利も保障される。
子どもの発達権や遊ぶ権利，適切な保育環境を享受する権利を保障するに当たり，園庭の役割は大きく，その重要性は高い。遊びの本質は「面白い」「楽しい」と心が動くことであり，子どもの成長，発達を促す。子どもの成長のためには，子ども自身が作り出す主体的な「あそび」（幼稚園教諭らから教わり，言われたとおりにする「遊び」とは，異なるもの）が必要であり，四季折々，時々刻々変化する自然がある園庭はそのような「あそび」を発見，創造する場として不可欠である。そのため，園庭の環境を守ることが何より大切である。
イ　園庭の環境が害されたことによる権利侵害
（ア）　日照阻害
ａ　日照阻害の程度
本件マンションの建築により，園庭は秋分から春分にかけて，午後のほとんどの時間帯が日影になった。下記（a）から（d）のとおり，冬至においては，本件マンション建築前後で余り違いがないものの，少なくとも９月２２日から１１月２２日までと，１月２２日から２月２２日までの間は，旧建物が建っていたときと比較して，本件マンション建築後は午後の日影の時間が増えている。なお，午前中の日照については牧師館の解体・撤去によって改善されているが，午前の日照が改善しているから，本件マンション建築によって午後に日影が生じても被害は大きくないとすることは認められない。被害を及ぼされた側の犠牲によって被害が減少すればそれで良しとされるのは，明らかに不公平である。
（a）　１２月２２日
本件マンション建築前も，建築後も，１２時の時点で園庭の北東側の一部に日照が当たるのみであり，１２時３０分以降は園庭全体が日影となっている。
（b）　１月２２日（１１月２２日）
１２時の時点においては，本件マンション建築前も，建築後も，園庭の一部に日照が当たっている。本件マンション建築前は，１３時３０分までは園庭の北側の一部に日照が当たっていたが，本件マンション建築後は，１３時以降，園庭全体が日影となっている。
（c）　２月２２日（１０月２２日）
１２時の時点においては，本件マンション建築前も，建築後も，園庭の半分以上に日照が当たっている。本件マンション建築前は，１４時３０分頃までは園庭の北東側の一部に日照が当たっていたが，本件マンション建築後は，１３時以降，園庭全体が日影となっている。
（d）　３月２２日（９月２２日）
１２時の時点においては，本件マンション建築前も，建築後も，園庭の多くに日照が当たっている。本件マンション建築前は，それ以降も園庭の多くに日照が当たっていたが，本件マンション建築後は，１２時３０分以降１４時３０分まで，園庭全体が日影となっている。
ｂ　日照阻害の保育に対する影響
ａ幼稚園の１日のスケジュールは，別紙ａ幼稚園の一日記載のとおりである。
牧師館の撤去により，午前中の日当たりは多少良くなったものの，午前中は，子ども達が一番集中できる時間帯であることから，机に向かって折り紙をするなど，集中力を必要とする室内作業に充てなければならないことも多い。午後に外遊びを設定する必要性は高い。ところが，本件マンション建築後，午後すぐに園庭が日影になるため，子ども達は外遊びをしたがらなくなった。特に，秋から冬，冬から春にかけての時期は，日影になったことにより，園庭がより一層寒く，暗くなり，ビル風による風が強くなったこととも相まって，子ども達は外遊びをしたがらなくなった。日照阻害により，外遊びに支障が生じることで，在園児らの心身への影響は甚大である。
（イ）　風害
ａ　建物建築による風害とは，周囲の建物より目立って高い建物や大きい建物が建設されることにより，建物周囲に局地的に強い風や乱れた風が発生する「ビル風」と呼ばれる現象である。
ｂ　風害の程度
本件マンションがほぼ完成した平成３１年１月以降，園庭において，風による障害が発生するようになった。園庭の東側ビル付近から風が吹くようになり，園庭に突風が吹いて，土が舞い上がったり，ブランコの安全柵が風に煽られて移動することもあった。強風の影響で外遊びを中断した日は，平成３１年１月から３月までの間で１６日（保育日数の２８％に相当）に上り，４日に１度は，強風を理由に外遊びを中止せざるを得ない状況であった。
ｃ　風害の保育に対する影響
本件マンション建築後，園庭において，強風による障害が頻繁に発生するようになり，風の強い日には子ども達の目に砂が入り，眼球が傷つく危険や，風に煽られて転んでしまうなど怪我の危険もあるため，子ども達に外遊びをさせないようにしている。また，子ども達自身，風が強い日には園庭で遊びたがらないことも多い。風害によって外遊びに支障が生じているが，本件幼稚園の園舎は狭いため，園庭で伸び伸び遊ぶことがとても重要であり，風害によって外遊びができなくなったことが保育にもたらす弊害は甚大である。
（ウ）　圧迫感
ａ　圧迫感とは，中高層建築物と対峙した時に，その建築物の外壁面から受ける視覚的な圧迫感をいう。
ｂ　圧迫感の具体的な定量化の方法については，東京理科大学のＥ名誉教授の研究によると，圧迫感の大きさの程度を計測する一つの基準として，「形態率」という当該建物全体が示す天空遮蔽率（当該建物の外形の水平立体角投射率）を用い，当該建物までの距離及び当該建物の物理的な量を測定する方法が示されている。同教授によれば，圧迫感を計量心理学の一つの方法であるマグニチュード推定法により数量化し，統計を取った結果，形態率が８％以上になると，ほとんどの人が圧迫感を強く感じ，耐え難いとの統計が得られたとのことである。子どもに関しては，形態率が４％以上になると圧迫感を強く感じるようになるといわれており，これが，圧迫感の受忍限度であるとの見解も示されている。
園庭の中央地点における本件マンションの形態率は１１％から１３％であり，子どもにおける圧迫感の受忍限度とされる形態率４％を大きく超えている。
ｃ　本件マンション建築によって，子ども達から見える空が小さくなった。本件マンション建築前は，ブランコを漕ぐと空しか見えなかったものが，本件マンション建築後は，かなり高くブランコを漕いでも本件マンションが視界に入り，見上げる空が小さくなった。子ども達は大自然を疑似体験することが出来なくなっており，成育を阻害されている。
（エ）　その他
ａ　本件マンション建築後，外で走っている救急車やパトカーの音などが本件マンションの壁に反響して大きく聞こえるようになった。子ども達が外まで見に行っても救急車やパトカーは見えないため，やがて子ども達は音が聞こえても探さないようになってしまっている。
ｂ　本件マンション完成後，多数の住民らが入居し，その結果，一定の配慮が必要となり，運動会の練習の際，ボリュームを絞って音楽をかけなければならなくなるなど，子ども達の活動も自粛せざるを得なくなっている。
（オ）　小結
本件マンション建築によって，園庭の環境が害され，子ども達の保育に様々な弊害をもたらしており，これらは子どもの「最善の利益」に反するものであり，子どもの発達権，遊ぶ権利，適切な保育環境を享受する権利を侵害し，原則として違法である。
ウ　旧建物解体工事による権利侵害
本件マンション建築工事に先立つ旧建物の解体工事が行われた平成２８年１０月１２日から同年１１月３０日までの間，本件幼稚園は，園児らの騒音・振動・粉じんによる健康被害を回避するため，ｄ駅近くに位置するｅ保育園の旧園舎を借りて，園全体で引越しを行った。
原告園児らは，毎朝決められた時間に集合し，バスでｅ保育園に移動するなど，慣れないバス通園で生活のリズムが狂ってしまった。また，ｅ保育園には園庭がなく，外遊びのためには近くの公園まで行かなければならず，子ども達の外遊びは制限され，旧園舎の部屋数も少なかったため，行事も縮小せざるを得なかった。
被告プレサンスは，引越費用を出したから問題ないという主張をしているが，それらはバス代等の実費に消え，子ども達が十分な保育を受けられなかったことに対する補償は何ら行われていない。
エ　本件マンション建築工事による権利侵害
（ア）　本件マンション建築工事が行われている期間中，原告ら園児のうち年長組であった平成３０年卒園児は，年長組の保育室が園舎の２階南端にあり，工事現場のすぐ隣であったことから，万一クレーンが倒れたり，吊るした部材が落下する危険性があるため，クレーンが活発に動くときには，教会の礼拝堂に移動して保育を受けた。礼拝堂は保育室と異なり，ガランとした大きな空間で，床はコンクリートであったため，子ども達がリラックスして伸び伸びと過ごすことはできなかった。
（イ）　本件マンション建築工事において，タワークレーンが動いているときや，多数の重機が出入りしているときなどは，万一のことを考えて，子ども達は園庭で遊ぶことができなかった。
（ウ）　本件マンション建築工事の間，子ども達は騒音・振動の被害を受けた。「バンバンバン！」という大きな音とともに園舎が揺れ，子ども達の積み上げていた積み木が倒れることも複数回あった。子ども達は，突然の騒音や振動により，集中して遊ぶことができなかった。
オ　プライバシー権の侵害
本件マンションの住民が，階段や窓から本件幼稚園の園児の様子を見ることが可能であり，園児がプールに入る様子をのぞいたり，特定の園児に目を付けて，声を掛けたり，性的いたずらを行ったりする可能性も否定できず，本件マンションの建築によって，園児のプライバシー権が侵害されている状態にある。
カ　本件マンション建設にやむを得ない事情があるといえるか
（ア）　地域性
本件土地は名古屋市ｂ区にあり，その用途地域は商業地域であるが，都心回帰の現象が起こり，ｂ区にも子育て世代が多く住んでいる。ｂ区ではほとんどの幼稚園・保育園がｂ区役所より南側に位置し，同区役所より北側に位置しているのは本件幼稚園の他１園のみである。本件幼稚園がこの地域にある必要性は高い。
また，名古屋市中高層建築物の建築に係る紛争の予防及び調整等に関する条例（以下，「中高層建築物紛争予防条例」という。）は第７条において，中高層建築物の建築主等は，幼稚園等の教育施設や児童福祉施設に日影となる部分を生じさせる場合には，日影の影響について特に配慮し，当該中高層建築物の建築の計画について，当該施設の設置者と協議しなければならないと規定しており，たとえ商業地域であっても同条の適用を受ける。
本件幼稚園の周辺地域が商業地域であることは，日照阻害によって子どもの発達権，遊ぶ権利，適切な保育を享受する権利を侵害してよい理由にはならない。
（イ）　交渉経過
ａ　被告プレサンスは，本件土地の北隣に本件幼稚園があることについて，社内的に何らの検討をすることなく，本件土地を購入している。被告プレサンスは，本件マンションを投資用の賃貸マンションとして計画したものであり，駅近という利便性から，本件土地を選んだと思われるが，本件土地でなければならないという必然性はない。
ｂ　原告らは，平成２８年３月１６日，株式会社生和コーポレーション（以下「生和コーポレーション」という。）から，本件土地に１４階建てのマンションを建築するとの申入れを受けて，本件土地のマンション建設計画撤回を求める運動を開始した。原告らは，ビラ配りや署名運動を展開し，本件幼稚園周辺に幟や小旗を立てる等して，反対の意思であることを明確にした。原告らの活動を受けて，同社は，同年５月６日に，マンション建築を断念する旨を正式に表明した。
被告プレサンスは，同月３０日，本件土地を購入しているが，通常，土地の購入前には事前調査を行っているはずであり，上記原告らの活動状況を認識した上で，本件土地を購入したものと認められる。
ｃ　原告らは，被告プレサンスが本件土地を購入した当初から，本件幼稚園に対する日照阻害等を最小限に抑えるよう配慮して欲しいと繰り返し主張してきたが，被告プレサンスは，原告らの要望を聞き入れることなく，強引に建築工事を進めた。
１度開催された説明会や，２度の協議の場では，被告プレサンスの説明会社の担当者は，本件マンションを建築することは既に決まっており，あとは工事方法等について話し合うだけだとの発言をし，本件幼稚園に及ぼす日影の影響について特に配慮し，建築計画の変更を含めて協議しようという姿勢が欠如していた。また，園庭に及ぼす日影被害を分かりやすく説明するための資料を用意せず，具体的な説明をしないなど，不誠実な態度をとり続けた。被告プレサンスが，名古屋市に提出した協議完了報告書において，保護者らが終始計画反対の意見を感情的に訴え続け，建設的な協議に至らなかった等と事実と異なることを数多く報告した。
（ウ）　加害回避の可能性及び被害回避の可能性
被告プレサンスは，本件マンションを本件土地の西側に寄せる設計変更をしたことにより，日影被害を減少させるように配慮したとする。確かに，この設計変更によって午前中の園庭における日照が一定確保されたことは事実である。しかし，自由な「あそび」を保障するためには，午後の日照こそが重要である。設計変更による日影の回避は極めて限定的な効果しか有しなかった。また，被告プレサンスは，設計変更が採算にどの程度影響を及ぼしたか明らかにしていないが，設計変更によって本件マンションの採算が悪化したことを窺わせる事情は存在しない。したがって，階数を削減するなど加害の回避は，企業活動の計算上も十分可能であった。
一方，原告教会は，布教の根幹をなす牧師館を解体・撤去するという重大な犠牲をはらって午前中の園庭の日照を確保している。また，本件幼稚園における日課は，幼児の生活のリズムにのっとり組まれたものであるから，午前中の園庭の日照が改善されたからといって，被害回避策として日課の変更を考慮することは不適切である。
（エ）　被害建物の用途，加害建物の用途及び加害建物と被害建物の先後関係
本件幼稚園は，１９４９年から長きにわたり，地域の保護者らの子育てを支援してきており，園児らの心身の健康及び発達に寄与する存在であるから，保護されるべき必要性の高い建築物といえる。本件幼稚園は，ダウン症のうえ生まれつき肺機能が弱い原告Ｘ１０のような障害がある子も積極的に受け入れており，障害のある子どもを持つ保護者にとっては，なくてはならない存在である。
他方，本件マンションは，賃貸に出したうえで，それを区分所有にし，一般客に年金商品として販売する営利目的で建築されたマンションであり，本件土地に建築されなければならない必然性はない。
（オ）　小結
以上より，本件マンションを建築するについて，やむを得ない事情はない
(2) 　被告プレサンスの主張
ア　本件マンション建築が原告らの権利を侵害するかについては，判例の基本的な立場である受忍限度論に依拠して判断されるべきであり，不法行為における主張立証責任においても，故意過失，損害，因果関係は，いずれも原告が負うべきである。
イ　被告プレサンスは，本件マンション建築により，原告園児らに受忍限度を超える損害を与えていない。人格権侵害が生じているとの主張は争い，また，原告の主張する子どもの遊ぶ権利については，その権利性の存在についても争う。
（ア）　日照阻害について
本件に先立つ仮処分決定は，本件幼稚園は，従前から既存建物の日影の影響を受けていたこと，本件マンション建築後，午後の日照が阻害される時期があるが，午前中は牧師館を解体したことによって園庭の日照が改善されたと認定し，日照阻害の程度は大きいと評価できないとした上，本件マンションは地域性に整合する建物であり，被告プレサンスは，本件マンションの容積率・建蔽率を建築基準法の上限より抑え，かつできる限り建物を西側に配置する内容の計画を採用して，日照阻害を軽減する配慮をしていることから，本件幼稚園の園児らが被る日照阻害は社会的に受忍すべき限度を超えるものとは認められないと判断している。極めて正当な結論というべきである。被告プレサンスは，園庭において受忍限度を超える日照阻害は生じさせていない。
（イ）　風害について
原告らが主張する強風の発生については，風力計等を用いた客観的なデータに裏打ちされたものではなく，客観的な根拠に欠ける主張である。また，冬季における園庭における外遊びの機会の減少主張についても，本件マンションの完成前後のデータの比較検証が行われていない。
また，園庭において風の流れに変化が生じているとしても，園庭の南側にあった２階建ての牧師館が撤去されており，本件マンションの建築による影響だけでなく，牧師館の解体・撤去も影響を与えていると考えられる。仮に，原告ら主張のように風が吹く回数が増加したとしても，その原因を本件マンションの出現のみに帰着させるのは合理的な根拠のない主張である。
（ウ）　圧迫感について
圧迫感について原告らは形態率を根拠としているが，形態率に関する見解は一つの学説であり，法的判断の基準として妥当するか疑問である。
本件マンションは，近隣に存在する高層建物と比較して，違和感や不快感を生じさせる極端な高層建物ではなく，本件マンション以外にも本件幼稚園の近隣には，高層建物が存在し，高架の高速道路も存在する。このような環境下で生活することで視覚的に慣れ，既視感による圧迫感の軽減も図られる。また，被告プレサンスは，本件マンションを本件幼稚園の園庭の南側にせり出さない範囲にとどまるように建築しており，圧迫感の軽減に最大限努力している。
（エ）　プライバシー権について
本件幼稚園における園児らの活動は，園児らの私生活上の問題ではない。プライバシー権の問題は生じない。
（オ）　地域性について
本件マンションの建築地域は，商業地域であり，日影規制の対象になっておらず，被告プレサンスは，用途地域指定の理念に従って本件マンションを建築したにすぎない。
（カ）　交渉経過について
被告プレサンスは，３回の説明会を実施し，原告ら及び本件幼稚園の関係者に対し，開示可能な日影図等の資料を提示しつつ，十分な協議を実施してきた。原告は，被告プレサンスが誠意をもって協議に応じなかったと主張しているが，被告プレサンスは上記３回の説明会に臨む以前から本件マンションを東側敷地境界線から約１０ｍの間隔を空け，園庭の南側部分を閉塞しないこととしており，説明会の時点で譲歩しなかったことを非難されても筋違いである。加えて，被告プレサンスは，名古屋市建築指導課に対して虚偽の報告を行ったこともない。
（キ）　加害回避の可能性及び被害回避の可能性について
被告プレサンスは，園庭の日影を減少させるために，本件マンションを建築基準法で容認された容積率，建蔽率の上限より抑えた建物とし，かつ，建築基準法上は東側境界から４ｍ確保すれば足りるところ，１０ｍ離れた場所に本件マンションを建築し，できる限り建物を敷地の西側に寄せて建築することで園庭の南側部分を建物で塞ぐような状態となることを回避している。被告プレサンスは営利企業であり，憲法上保障された営業の自由により合法的な利益を追求する存在である。被告プレサンスは，企業として可能な限り譲歩をしており，経済的な利益を無視したような譲歩を強いられるいわれはない。
また，被告プレサンスは，旧建物の解体工事に際し，本件幼稚園の移転費用として３５６万円を負担している。
(3) 　被告大鉄工業の主張
ア　本件マンションによる日照阻害等によって原告園児らの権利侵害をしているとの原告の主張については，被告プレサンスの主張を援用する。
仮に，本件マンションによる日照阻害等が受忍限度を超えているとしても，被告大鉄工業は，被告プレサンスとの請負契約に基づき，自らの義務の履行として本件マンション建築の施工を行ったものであり，かつ，被告大鉄工業の施工した本件マンションは建築基準法の規定を遵守して設計されたものであるから，被告大鉄工業に不法行為は成立しない。
イ　被告大鉄工業は，本件マンション建築工事による騒音・振動・粉じんによって原告らの権利侵害を発生させていない。
建物の建築工事に伴い，一定程度の騒音等は必然的に発生するものであり，建築工事による騒音等が不法行為となるかどうかは，被害が一般社会生活上受忍すべき程度を超えるものかどうかによって決すべきであり，その判断に際しては，発生していた騒音・振動の程度，その発生期間の長さや頻度・時間帯，施工者が講じていた防止措置の内容，近隣住民からの要望に対する施工者の対応状況，法令への適合状況等の具体的事情が考慮される。受忍限度を超えることを基礎付けるに足りる具体的事情の主張立証責任は原告にあるところ，本件マンション建築工事による騒音等の具体的な発生状況に関する証拠は原告らの供述以外にはない。原告らの供述によっても，どの程度の騒音又は振動がどの程度の期間にわたって継続して生じたのか明らかではない。粉じんの発生については，原告らから何ら具体的な主張立証がされていない。
被告大鉄工業は，本件マンションの建築工事を騒音規制法及び名古屋市が定める市民の健康と安全を確保する環境の保全に関する条例に基づく規制に適合した建築工事を実施した。被告大鉄工業は，本件マンションの建築現場において，躯体建設の工事に入ってから足場の撤去までの間，防音シートを設置し，加えて本件幼稚園の園舎に面する箇所には防音性能を備えた仮囲いを設置するなど，騒音等の発生による被害を防止するため，最大限の措置を講じていた。加えて，被告大鉄工業は，原告らとの交渉過程において，原告らに対する説明を尽くし，原告らの要望に可能な限り対応した。原告らから騒音及び振動の大きい時期が分かるようにして欲しいとの要望があったため，騒音の程度や時期を示した工事工程表を作成して原告らに交付し，また，入園式等の行事のある時は騒音，振動作業を行わないで欲しいという要望を受け，当初予定していた工程を変更する対応もした。
上記から，本件マンションの建築工事に伴う騒音等が受忍限度を超えるものであったことは原告らによって立証されておらず，実際にも受忍限度を超える騒音等は生じていなかった。
ウ　被告大鉄工業は，本件マンション建築工事において本件幼稚園の園児らの生命・身体を危険にさらしたことはない。
原告らは，タワークレーンが倒れる危険や，部材が落下する危険があったと主張するが，被告大鉄工業は，作業員への教育・注意喚起を行い，吊り荷が本件幼稚園の敷地の上部を通過することのないようにクレーンを稼働させていた。実際に，工事期間中，吊り荷の落下等の事象は生じていない。
被告大鉄工業は，安全確保のための措置を最大限に講じており，原告らの主張は主観的な危惧感を述べるにとどまっている。
５　争点(2)（本件マンションの一部取り壊し請求の可否）についての当事者の主張
(1) 　原告らの主張
ア　本件マンションの取り壊し請求については，原告園児らは，既に卒園しているため，訴えの利益がないと思われる。
イ　原告園長らの主張
原告園長らは，キリスト教の精神に基づき，健全な環境の下で，子どもたちを育み，導き，健やかな成長をもたらすために日々努力しているが，本件マンションの建築により，争点(1)において主張したように園児らの権利が侵害される状況が発生しており，原告園長らはキリスト教の保育の理念に基づいた保育者としての使命を果たすことができなくなり，保育者としての人格権を著しく侵害されている。
よって，原告園長らは，人格権に基づく妨害排除請求として，本件マンションの一部取り壊しを請求することが認められる。
ウ　原告教会は，本件マンションの建築によって争点(1)において主張したように園児らの権利が侵害される状況が発生したことにより，子どもを大切にしてその健やかな成長を支えるという，教会の存在価値及びその主張・活動を著しく阻害された。このことは，原告教会の人格権を大きく侵害するものと言わなければならない。
よって，原告教会も，人格権に基づく妨害排除請求として，本件マンションの一部取り壊しを請求することが認められる。
また，本件幼稚園の敷地内において，十分な日照を確保し，風害や圧迫感等のない生活環境の確保は，原告教会の所有権の一部となるというべきであるから，それを侵害されている以上，所有権に基づく妨害排除請求権として，本件マンションの一部取り壊し請求をすることが認められる。
(2) 　被告プレサンスの主張
本件マンションの建築によって原告園児らに受忍限度を超える権利侵害は発生していない。
原告園長らは，本件幼稚園の運営に関与するスタッフであって，幼稚園の運営自体に独自の利益を有しない。また，本件教会は，本件幼稚園の運営主体であり，本件幼稚園の活動に関して原告教会の人格権が問題となる余地はない。したがって，原告園長ら及び原告教会による人格権に基づく取壊し請求は認められない。
また，原告教会に所有権侵害が生じているとの主張は争う。
(3) 　被告大鉄工業の主張
原告園児ら，原告園長ら及び原告教会に人格権侵害が生じているとの主張並びに原告教会に所有権侵害が生じているとの主張は，いずれも争う。
６　争点(3)（原告園児らによる損害賠償請求の可否）について
(1) 　原告園児らの主張
ア　原告園児らは，本件マンション建築により，子どもの発達権や遊ぶ権利，適切な保育環境を享受する権利を侵害されたことから，不法行為が成立し，被告らに対する慰謝料請求が認められる。
イ　原告園児らのうち，平成３０年卒園児は，旧建物解体工事による権利侵害及び本件マンションの建築工事による権利侵害の被害を被っている。
平成３１年卒園児は，旧建物解体工事による権利侵害，本件マンションの建築工事による権利侵害及び本件マンション建築後の日照阻害等による権利侵害の被害を被っている。
令和２年卒園児は，本件マンションの建築工事による権利侵害及び本件マンション建築後の日照阻害等による権利侵害の被害を被っている。
学童保育園児は，旧建物解体工事による権利侵害の被害，本件マンションの建築工事による権利侵害及び本件マンションの建築後の日照阻害等による権利侵害の被害を被っている。
ウ　よって，原告園児らそれぞれは，被告らに対し，不法行為責任に基づき，適切な保育環境が侵害されたことなどによって被った精神的苦痛に対する慰謝料１００万円及び弁護士費用１０万円の合計１１０万円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成３０年９月１３日から支払済みまで，平成２９年法律第４４号による改正前の民法所定の年５分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
(2) 　被告プレサンスの主張
原告園児らに受忍限度を超える権利侵害は発生していないから，原告園児らによる損害賠償請求には理由がない。
(3) 　被告大鉄工業の主張
本件マンションの建築工事によって原告園児らに受忍限度を超える権利侵害は発生していない。原告園児らが主張するその余の権利侵害と被告大鉄工業の行為との間に因果関係はない。
７　争点(4)（原告園長らの損害賠償請求の可否）についての当事者の主張
(1) 　原告園長らの主張
原告園長らは，本件マンションの建築工事により，日照侵害や，風害，騒音・振動等の被害が生じ，子どもの生育環境が著しく悪化したため，子どもの健やかな成長を支えることができなくなり，自らの理想とする基督教保育の理念に基づいた保育者としての使命を果たすことができなくなり，精神的苦痛を被った。
よって，原告園長らそれぞれは，被告らに対し，不法行為に基づき，被った精神的苦痛に対する慰謝料１００万円及び弁護士費用１０万円の合計１１０万円並びにこれに対する訴状送達の日の翌日である平成３０年９月１３日から支払済みまで，平成２９年法律第４４号による改正前の民法所定の年５分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
(2) 　被告プレサンスの主張
原告園長らに受忍限度を超える権利侵害は発生していないから，原告園長らによる損害賠償請求には理由がない。
(3) 　被告大鉄工業の主張
本件マンションの建築工事によって原告園長らに受忍限度を超える権利侵害は発生していない。原告園長らが主張するその余の権利侵害と被告大鉄工業の行為との間に因果関係はない。
８　争点(5)（原告教会の損害賠償請求の可否）についての当事者の主張
(1) 　原告教会の主張
原告教会は，本件マンション建築によって，本件幼稚園の園庭の日照を確保するために，その宗教活動の中核である牧会活動の拠点としての牧師館の解体・撤去の決断をせざるを得ず，解体・撤去費用として２５９万２０００円の損害を被った。被告らには，原告教会に損害を発生させたことについて少なくとも過失がある。
よって，原告教会は，被告らに対し，連帯して，２５９万２０００円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成３０年９月１３日から支払済みまで，平成２９年法律第４４号による改正前の民法所定の年５分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 　被告プレサンスの主張
原告教会が牧師館を撤去したことは認めるが，被告プレサンスに責任があるとの原告教会の主張は争う。
(3) 　被告大鉄工業の主張
原告教会が牧師館を撤去したことは認めるが，被告大鉄工業に責任があるとの原告教会の主張は争う。
第３　当裁判所の判断
１　認定事実
前記前提事実に加え，末尾に掲げた証拠（特に明記しない限り枝番号を含む。）及び弁論の全趣旨によれば，以下の事実が認められる。
(1) 　本件幼稚園の活動状況
ア　本件幼稚園の在園児数は，本件訴訟提起時（平成３０年７月）は，３９名であり，その内訳は年少クラス（３歳ないし４歳）が１１名，年中クラス（４歳ないし５歳）が１１名，年長クラス（５歳ないし６歳）が１７名であった。令和２年１２月現在の在園児数は，４４名であり，年少クラス（３歳ないし４歳）が１４名，年中クラス（４歳ないし５歳）が１５名，年長クラス（５歳ないし６歳）が１５名である。
本件幼稚園は，預かり保育及び学童保育も実施している。預かり保育は，保護者の就労や家庭の都合に応じて，上記在園時間の前後も園児を預かるというものであり，学童保育は，保護者の就労や家庭の都合に応じて，小学校の授業が終わった後の時間帯に小学生を預かるというものである。
本件幼稚園の１日のスケジュールは，概ね別紙ａ幼稚園の一日記載のとおりである。幼稚園としての園児の受入時間は，平日の８時３０分から１４時までであり，預かり保育の時間は，８時１５分から登園時刻の８時３０分までと，降園時刻の１４時から１８時までである。学童保育は１３時から１９時３５分まで実施している。（以上につき，甲２ないし４）
イ　本件幼稚園における保育は，９時から１０時までの「自由あそび」，１０時から１０時２０分までの「礼拝」，１０時２０分から１１時５０分までの午前の「クラス活動」，１３時から１３時４５分までの午後の「クラス活動」の４つのカリキュラムによって構成されている。自由あそびは，園庭あるいは保育室で実施され，園庭においては季節に応じて虫探しや，落ち葉拾いなどを行い，午前の「クラス活動」においては，雨の降らない限り，園庭を使用して，園庭ピクニック，プール，どろんこ遊びなどを行い，午後の「クラス活動」においては，園庭においての遊びに充てることが一番多く，その他には，絵本，紙芝居などが行われている。
午後２時に園児が降園して預かり保育に入った後も，午後３時までは園庭において外遊びを行い，午後３時以降は，各自好きな遊びをしている。
学童保育のスケジュールは，ほとんどが「自由遊び」であり，屋外での遊びの時間も存在している。（以上につき，甲２ないし４）
(2) 　本件幼稚園の周辺の状況
本件幼稚園の所在する名古屋市ｂ区○○ｃ丁目地区には，８階建て以上の建物が約４０棟，１０階建て以上の建物が約５０棟存在し，これらの大半が，マンション又は事務所ビルである。
本件幼稚園は，その東側には幹線道路である△△通り，その北側には□□通り，□□通りの頭上には高架の名古屋高速ｆ線が存在する利便性の高い場所に位置している。本件幼稚園の園庭の北側には４階建ての教会の建物，東側には６階建てのｇビル，南側は４階建ての旧建物，西側には２階建ての園舎が建っていた。旧建物の南隣には５階建てのｈ会館が建っていた。本件マンションが建築されるまでは，園庭の周辺ではｇビルないしはｈ会館が一番高い建物であり，１０階を超える高層ビルはなかった。
本件マンションは１５階建ての高層マンションであり，ｇビル及びｈ会館よりもかなり高い建物である。（以上につき，甲２，８，９，３５，４１，７１，８４，乙９）
(3) 　本件マンション建築に至る経過
ア　生和コーポレーションは，平成２８年３月，本件幼稚園に対し，本件マンションの敷地に地上１４階建てマンションを建築することを通知した。
これを受けて，本件幼稚園では，緊急保護者集会が開催され，「ａ幼稚園　おひさまを守る会」が立ち上げられた。本件幼稚園に通う園児の保護者や，本件幼稚園の園長らは，生和コーポレーションのマンション建設に反対の意思を示すため，ビラ配りや署名活動を行った。生和コーポレーションは，同年５月上旬，上記１４階建マンションの建築計画を断念し，本件幼稚園にその旨を通知した。（以上につき，甲３１，３２）
イ　被告プレサンスは，平成２８年５月３０日，本件土地を購入した。
原告らは，被告プレサンスが本件土地を購入したことを知り，同年６月２２日，被告プレサンスに対して，同土地の活用方法を照会する旨の文書を送付した。被告プレサンスは，同月２５日付け「回答書」で，同土地に対する具体的な計画については，現在精査中であると回答した。
その後，被告プレサンスは，原告らに対し，旧建物は朽廃しており，地域の安全や環境に害が生じるおそれがあるため，解体すると説明をした。
原告教会は，解体工事中の騒音，振動，粉じんにより，在園児の健康に被害が生じるおそれがあり，解体工事現場の隣で保育を行うことはできないと判断し，解体工事期間の同年１０月１３日から同年１１月３０日まで，ｄ駅近くのｅ保育園の旧園舎を借り，同所において園児らに対する保育を行った。ｅ保育園の旧園舎へは本件幼稚園からバスで移動した。旧園舎には園庭はなく，部屋数も本件幼稚園の園舎よりも少なかった。
学童保育については，本件幼稚園の近くのテナントビルの一室を借り，同室で，学童保育を行っていたが，園庭等がなく，外遊びのできる環境ではなかった。
被告プレサンスは，本件幼稚園の上記一時移転に伴って本件幼稚園に発生した費用３５６万円を負担した。（以上につき，甲６，３１，３２，３８，３９，乙１２）
ウ　被告プレサンスは，平成２８年１２月，本件幼稚園に対し，本件マンションの建築計画を通知した。（甲８，３１）
エ　原告らは，被告プレサンスに対し，平成２８年１２月２９日付け，平成２９年１月２３日付け，同年２月２４日付けの各文書を送付し，①園児たちの健康に及ぼす影響として懸念される日照阻害，風害，圧迫感，建築工事に伴う騒音・振動・粉じんの問題などについて，現時点で考えている対策の説明を求め，②現に環境の変化を心配して入園を断念される保護者が現れるなど，本件幼稚園は存立の危機に立たされており，本件幼稚園が存続できなくなった場合の対応について説明を求めた。
これに対し，被告プレサンスは，原告らに対し，平成２９年１月吉日付け，同年２月１日付け，同年３月７日付けの各回答文書を送付し，①日照問題については，本件マンションの建築による日照の減少は受忍限度内であると考えていること，風害については，本件マンション建築に起因して強風等が発生し，それによって家屋等に損傷を及ぼしたことが証明された場合には，必要な措置を実施する考えであること，圧迫感については，本件土地の東側に法定以上の離隔をとることで本件幼稚園の環境に配慮しており，受忍限度内であると考えていること，建築工事に伴う騒音等については，最良の工法・技術によって施工出来る業者を選定し，施工業者が決まり次第施工方法等について説明すること，②本件幼稚園の存続については，本件マンションの計画が，建築基準法の許容限度より縮小変更した内容のものであり，可能な限り本件幼稚園の環境に配慮したものであって，事業上許されるぎりぎりの調整を行っている旨の回答をした。（以上につき，甲１７ないし２２）
オ　被告プレサンスは，本件幼稚園の関係者に対する本件マンション建築に関する説明会を，平成２９年３月２２日，同月３０日及び同年５月１０日の３回開催した。説明会においては，本件幼稚園の関係者と被告プレサンスとの間で，以下のやり取りがされ，被告プレサンスは，本件幼稚園側からの本件マンションの建築の中止や，計画の変更の要望については，応じられないとの態度に終始した。（甲２３ないし２５，乙８の各枝番）
（ア）　日照阻害について
被告プレサンスは，本件マンションの建築後の春分，夏至，秋分及び冬至の各日に本件幼稚園に生じる日影の一日の移り変わりを表した日影図を示し，その内容を説明するとともに，当初は，本件マンションの戸数を９８戸（ワンルーム）とする建築計画を立てていたが，日影の影響を減らすため，戸数を７０戸（うちワンルームは，２０戸）に削り，マンションの配置を敷地内の西側に寄せて，本件マンションの日影が現状の複合日影の中に入り込むように配慮したこと，本件マンションの建蔽率及び容積率は，いずれも法定の範囲内であり，むしろかなり余裕をもった計画となっていることなどを説明した。
本件幼稚園側は，１年を通じて何時から何時まで日影が生じるのか分かる資料やコンピュータによるシミュレーションなど子どもにも理解できる資料の作成を要望したが，被告プレサンスは，これには応じない旨を回答した。
（イ）　風害について
本件幼稚園側は，風害についての数値化や，風害の実例の有無についての調査を求めたが，被告プレサンスは，風害の数値化は困難であるとして，これに応じない旨の回答をした。
（ウ）　圧迫感について
本件幼稚園側は，圧迫感の数値化を求めたが，被告プレサンスは，圧迫感の有無は，個人の感覚であって数値化になじまず，仮に圧迫感の数値が大きくなったとしても，本件マンションの高さや配置の変更は困難であるとして，圧迫感の数値化には応じない旨を回答した。
カ　被告プレサンスは，上記オの３回の説明会の状況を名古屋市に報告した。その後，被告プレサンスは，本件マンションの建築確認を申請し，平成２９年６月１９日，建築確認を受けた。（甲３４，乙２）
キ　原告教会は，本件マンションが建築された場合，日照阻害等が生じることを考えて牧師館の解体・撤去を検討した。牧師館は，昭和５８年から本件幼稚園の園庭の南側に建築されていた原告教会の基本財産であり，牧師家族の住居であって，牧師と信徒とが触れ合う場として，宣教と牧会のために用いられてきていた。原告教会は，本件マンションによる日照被害や閉塞感など，子どもに与える影響を少しでも緩和するため，やむなく，平成２９年４月の宗教法人責任役員会及び教会総会で牧師館の解体を決議し，同年８月９日から同月１７日にかけて，これを解体・撤去した。本件教会は，牧師館の解体・撤去費用として２５９万２０００円を負担した。原告教会において，牧師館を解体・撤去するに際し，牧師館の代替施設を設置する見通しは立っておらず，現時点でもその見通しは立っていない。（以上につき，甲３１，３７，７７，７８，原告教会代表者［３，４頁］）
ク　被告大鉄工業は，被告プレサンスから本件マンションの建築を請け負い，平成２９年７月に建築工事に着工し，平成３１年２月７日に本件建物を完成させた。
被告大鉄工業は，躯体建設の工事に入ってから足場の撤去までの間，防音シートを設置し，加えて本件幼稚園の園舎に面する箇所には防音性能を備えた仮囲いを設置するなど騒音の軽減に配慮した。また，被告大鉄工業は，本件マンションの建築工事に関して，本件幼稚園の関係者との打合せを，工事期間中，月１回から２回の頻度で実施し，本件幼稚園の行事予定に合わせて工事日程を調整するなどの対応をした。
本件幼稚園は，本件マンションの工事中，年長組の保育室が園舎の２階南端にあり，工事現場のすぐ隣であったため，万一の事故の発生を考慮し，工事現場においてクレーンが活発に動くときには，年長組を保育室から教会の礼拝堂に移動して保育を実施した。また，工事期間中には，工事に伴う振動によって園児らが遊んでいた積み木が崩れたりすることなどもあった。（甲９，原告Ｘ１７［１２ないし１６頁］，丙１ないし７）
(4) 　本件幼稚園の園庭に生じる日影の状況
ア　園庭の周りには，本件マンション建築前にもｇビル等の建物が存在し，園庭にはこれらの周辺建物による複合日影が生じていた。本件マンションは，本件土地の西側に寄せて建築され，園庭の南側にかかっていないため，本件マンションによって生じる日影は，午後の時間帯に園庭の日照に影響を与えている。また，牧師館が撤去されたため，園庭の午前中の日照は本件マンション建築前よりも改善されている。
イ　冬至における日影の状況
冬至における園庭の日影の状況は，本件マンションの建築前は，９時３０分頃に園庭北西側の一部に日が当たり始め，次第に園庭の北側に日照の範囲が広がり，１１時頃には園庭の約半分である北側一帯に日が当たるようになるが，１１時３０分を過ぎると再び日影が広がるようになり，１２時３０分には，ほぼ園庭全体が日影となっていた。
本件マンションの建築後は，９時３０分には，園庭西側の広い範囲に日が当たり始め，１０時から１１時までは園庭の広い範囲に日が当たっているが，１２時頃には園庭の北東部を除いて日影に覆われるようになり，１２時３０分頃には園庭全体が完全に日影となっている。
ウ　１月２２日（１１月２２日）における日影の状況
１月２２日（１１月２２日）における園庭の日影の状況は，本件マンション建築前は，１０時頃に園庭西側の一部に日が当たり始め，次第に園庭の北側に日照の範囲が広がり，１１時３０分から１２時３０分までは園庭の約半分である北側一帯（全体の約２分の１の範囲）に日が当たっているが，１２時３０分を過ぎると次第に北西側から日影に覆われ，１３時には園庭の北東部分（全体の約３分の１の範囲）に日照が残るだけとなり，１４時頃にはほぼ全面が日影となっていた。
本件マンション建築後は，９時３０分には園庭西側に日が当たり始め，次第に日照の範囲が広がり，１０時から１１時３０分までは，園庭ほぼ全面が日照を受けるが，１２時頃には西側から日影が生じ始め，１３時には完全に日影となっている。
エ　２月２２日（１０月２２日）における日影の状況
２月２２日（１０月２２日）における園庭の日影の状況については，本件マンション建築前は，１０時頃に園庭の北西側の一部に日が当たり始め，次第に園庭の北側に日照の範囲が広がり，１１時３０分から１３時にかけては園庭北側の広い範囲（全体の約４分の３の範囲）に日が当たっており，その後西側から日影に覆われ始め，１４時には園庭の北東部分（全体の約４分の１の範囲）に日照が残り，１５時には園庭の北東部に一部（全体の約８分の１）に日照が残る状態になっていた。
本件マンション建築後は，９時には，園庭の西側の一部に日が当たり始め，次第に園庭の北側に日照の範囲が広がり，１０時には園庭の南側を中心に広い範囲（全体の約５分の３の範囲）が日照を受けるようになり，１１時３０分頃には，園庭全体に日照を受けるに至るが，次第に西側から日影が生じ始め，１３時には完全に日影となり，午後３時頃に園庭の北東部に再びわずかに日照が生じる状態となっている。
オ　春分の日（秋分の日）における日影の状況
春分の日（秋分の日）における園庭の日影の状況については，本件マンション建築前は，９時３０分には園庭の西側の一部に日が当たり始め，次第に園庭の東側に日照の範囲が広がり，１１時３０分から１３時までは園庭ほぼ全体が日照を受けるようになり，１３時３０分頃から西側から日影が生じ始め，日照を受ける範囲は，１４時には園庭の北東側一帯（全体の約３分の２の範囲）となり，１５時頃には園庭の北東側（全体の約３分の１の範囲）となっていた。
本件マンション建築後は，９時には，既に園庭の南西部に日が当たっており，次第に園庭の北東側に日照の範囲が広がり，１１時３０分頃には，園庭のほぼ全体に日照を受けるに至るが，次第に西側から日影が生じ始め，１２時には日照を受けているのは東側一帯（全体の約３分の２の範囲）となり，１３時頃にはほぼ全体が日影となり，午後２時頃から園庭の北東部に再び日照が生じ，午後３時頃には，本件マンション建築前とほぼ同様の日照の状態となっている。
カ　夏至における日影の状況
夏至における園庭の日影の状況については，本件マンション建築前も，建築後も，園庭南側の限定的な範囲に日影が生じるのみであり，複合日影の状況にほとんど差はない。
キ　本件マンションの建築後，秋分の日から春分の日までの間は，午後のクラス活動の時間帯には園庭全体が日影となってしまっているため，園庭は暗く，寒い場所になってしまい，園児らが外で遊ぶ時間が減っている。本件マンションの建築前は園児らが行っていたお店屋さんごっこなど静かな遊びがしにくくなり，日なた側がお店屋さん，日影側のお客さんという日なたと日影，両方を使った遊びができなくなっている。（以上につき，甲１０ないし１５，４５，６０，乙１，原告Ｘ１７［３ないし５頁］）
(5) 　本件幼稚園の園庭における風の影響
本件マンションが建築された後の冬季には，園庭において西から南へ強風が吹くことが増え，園舎の園庭側（東側）の窓サッシのレールに舞い上がった園庭の砂が溜まるようになり，園庭に置かれていた木製の安全策が約数十センチ風で移動することもあった。また，風によって舞い上がった砂が目に入って泣く子が増えている。（甲５６，原告Ｘ１７［６，７頁］，原告Ｘ１６［１７頁］）
２　争点(1)（権利侵害の有無）について
(1)ア　日照阻害等によって原告園児らの権利（法的利益を含む。以下，同じ。）が侵害されたか否かの判断に当たっては，その侵害される程度が社会通念上受忍すべき程度を超えているか否かによって決せられ，その受忍限度を超えているか否かの判断については，侵害される権利の性質，被害の内容・程度，地域性，交渉経過，加害・被害の回避可能性等を総合的に考慮して決するのが相当であると解する。
イ　この点について，原告らは，子どもらの権利は重要であって，被告らの経済的利益と対等なものとして利益衡量するのではなく，原告園児らの「最善の利益」を害する行為は違法であることが推認され，被告らが本件マンションを建築するについてやむを得ない事情があったこと（違法性阻却事由）の存在を立証しない限り，違法な権利侵害の存在が認定されると主張する。
子どもは次世代を担う存在であり，その育成については保護者らだけでなく，社会全体が一定の役割を担うべきであり，公的関係にとどまらず，私人間においても，子どもの権利に十分配慮することが求められると解される。しかし，だからといって，原告らの上記主張を採用することはできない。原告らは子どもの「最善の利益」が一義的な基準であると解していると考えられるが，子どもらにとって理想的な状況になければ「最善の利益」を害するというのは現実的ではなく，様々な制約が存在する中においても出来る限り子どもらの利益を優先させて考えることになるのであるから，「最善の利益」を害するか否かについても，侵害される権利の性質，被害の内容・程度，侵害を伴う行為の必要性等総合的な事情を考慮することが必要とならざるを得ない。したがって，子どもらの権利については十分な配慮を行うことが必要であることを考慮しつつ，上記受忍限度論の枠組みの中で権利侵害の有無を判断するのが相当であって，原告らの主張は採用することはできない。
(2) 　原告園児らの被侵害利益等
児童の権利に関する条約（子どもの権利条約）は，子どもの基本的な人権を国際的に保障するために定められた条約であり，既に発効済みの条約であって，我が国も批准している。同条約３条１項には「児童に関するすべての措置をとるに当たっては，公的若しくは私的な社会福祉施設，裁判所，行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても，児童の最善の利益が主として考慮されるものとする」と規定されており，同趣旨に基づき，我が国も児童の最善の利益を考慮した施策を実施する責務を負っているといえる。
そして，児童福祉法には「全て国民は，児童が・・・社会のあらゆる分野において，児童の年齢及び発達の程度に応じて，その意見が尊重され，その最善の利益が優先して考慮され，心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。」（２条），「前２条に規定するところは，児童の福祉を保障するための原理であり，この原理は，すべて児童に関する法令の施行にあたって，常に尊重されなければならない」（３条）と規定されており，児童には最善の利益が保障されなければならないとの趣旨は，本件において，日照阻害等が受忍限度を超えるか否かを判断するに際しても考慮すべきものであると解される。
また，幼稚園は，幼児を保育し，幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えて，その心身の発達を助長することを目的とする施設であり（学校教育法２２条），学校教育法施行規則３８条の規定を受けて定められた幼稚園教育要領（平成２９年文部科学省告示第６２号）には，幼児教育における注意事項として，心と体の健康は，相互に密接な関連があるものであることを踏まえ，十分に体を動かす気持ちよさを体験し，自ら体を動かそうとする意欲が育つようにすること，様々な遊びの中で，体を動かす楽しさを味わい，自分の体を大切にしようとする気持ちが育つようにすること，自然の中で伸び伸びと体を動かして遊ぶことにより，体の諸機能の発達が促されることに留意し，昨今，屋内での遊びの環境が充実化し，戸外で遊ぶ機会が減少していることを受けて，幼児の興味や関心が戸外にも向くようにすることなどが明記されている（同要領第２章参照）。子どもらが戸外での十分な活動を行うことがその心身の健全な発育にとって重要であることは広く一般に認められているところであり，園児らが戸外である園庭において遊びを行うことも，上記幼稚園教育要領に適合するものである。そして，充実した戸外での遊びの環境を実現するには，戸外における適切な環境，園庭における適切な環境が整備・確保されることが必要不可欠である。この意味で，園児らは，第三者がみだりに侵害することは許されない法的利益として，適切な保育環境が整備された状況下での保育を享受する利益を有しているといえる。本件における園庭の日照阻害等が受忍限度を超えるか否かを判断するに際しても，原告園児らが上記利益を有することを考慮すべきものである。
(3) 　日照阻害
ア　園庭における日照の状況
本件幼稚園の園庭における，本件マンションの建築前後の日影の状況は，認定事実(4)のとおりである。
本件マンションの建築前は園庭の南側に２階建ての牧師館があり，本件マンション建築前には，午前中の時間帯，牧師館による日影が園庭にかかり，園庭の日照が阻害されていたものが，本件マンションの建築中に牧師館が解体・撤去されたことから，本件マンションの建築後は，午前中の日照はかなり改善されていると認められる。一方，午後の時間帯については，本件マンションが本件土地の西側に寄せて建築されており，本件マンションの東端は，おおよそ園庭の西端の延長先上に位置していることから，本件マンションによる園庭への日影の影響は１２時前後から現れてきていると認められる。
そこで，午後における園庭の日影の状況，特に本件幼稚園のカリキュラムである午後の「クラス活動」が行われる１３時から１３時４５分頃の状況について検討すると，冬至（１２月２２日）における日影の状況は，本件マンションの建築前も建築後も１２時３０分には園庭全体が日影となっており，本件マンション建築による日照阻害は発生しているとは認められない。
１月２２日（１１月２２日）における午後の園庭の日影の状況は，１２時には園庭の北側一帯（全体の約２分の１の範囲）に日が当たっているが，次第に北西側から日影に覆われ，１３時には園庭の北東部分（全体の約３分の１の範囲）に日照が残り，１４時頃にはほぼ全面が日影となっていたところ，本件マンション建築後は，１３時には園庭全体が日影となっている。
２月２２日（１１月２２日）には，本件マンションの建築前は，１３時には園庭北側の広い範囲（全体の約４分の３の範囲）に日が当たっており，その後西側から日影に覆われ始め，１４時には園庭の北東部分（全体の約４分の１の範囲）に日照が残っていたものが，本件マンション建築後は，１３時から１４時の間は園庭全体が日影となっている。
春分の日（秋分の日）には，本件マンション建築前は，１３時には園庭ほぼ全体が日照を受けており，１４時においても園庭の北東側一帯（全体の約３分の２の範囲）が日照を受けていたところ，本件マンション建築後は，１３時から１４時の間はほぼ園庭全体が日影となっている。
夏至における園庭の日影の状況については，本件マンション建築前も，建築後も，園庭南側の限定的な範囲に日影が生じるのみであり，複合日影の状況にほとんど差はない。
上記検討からすれば，午後の「クラス活動」の時間帯における日照の状況は，本件マンション建築前には，冬至の前後のしばらくの期間は園庭全体が日影の状態となっており，１月２２日（１１月２２日）には１４時には園庭全体が日影となっていたが，１３時の時点では園庭の３分の１程度には日照がある状態となっており，２月２２日（１０月２２日）には，１３時には園庭の約４分の３の範囲が日照を受けており，１４時においても園庭の４分の１が日照を受ける状態になっており，春分の日（秋分の日）には１３時から１４時にかけてはほぼ園庭全体が日照を受けている。これに対して，本件マンション建築後は，少なくとも秋分の日から春分の日までの半年間は，１３時から１４時にかけては園庭全体が日影となっている。午後の「クラス活動」は，その保育の内容としては，園庭での外遊びに充てられることが最も多かった（認定事実(1)イ）ところ，本件マンション建築前は，冬至前後のしばらくの期間を除けば，秋分の日から春分の日までの期間中も「クラス活動」が開始される１３時には園庭に日照がある状態で始められていたのに対し，本件マンションの建築後は，１３時の時点では園庭全体が日影となっており，秋分の日から春分の日までの約半年間は，日差しを受けながら園庭において午後の「クラス活動」を実施することができない状態となっている。午後の「クラス活動」に関しては，本件マンションが建築されたことによって，日差しのもとで保育を実施することに関して，かなりの制約が生じていると評価せざるを得ない。
イ　本件幼稚園の保育への影響
本件幼稚園における保育のカリキュラムは，礼拝を除けば，「自由遊び」，午前の「クラス活動」，午後の「クラス活動」の３つであり，そのうちの１つである午後の「クラス活動」が本件幼稚園の保育の実施において占める比重は小さくはない。そして，先に指摘したように午後の「クラス活動」においては園庭における遊びが一番多く設定されていたのであるから，本件マンション建築前には冬至の前後を除けば日差しがある状態で園庭における活動を行うことができていたものが，少なくとも約半年間は日差しのない園庭で活動せざるを得ない状態になったことは，日差しの下，伸び伸びと遊ぶことの重要性などからすれば，適切な保育環境とは言い難く，子どもらの健全な育成にとって環境がかなり悪化したと評価せざるを得ない。
しかし，日照阻害が受忍限度を超えるか否かを判断するには，午後の「クラス活動」のカリキュラムに対する影響だけで評価すべきではなく，本件幼稚園の１日における保育全体を通じての影響を考慮する必要があるところ，先に認定したように，園庭の午前中の日照に関しては，本件教会が牧師館を解体・撤去するという対応をしたことにより，本件マンション建築前と比較して，本件マンション建築後の方がかなり改善されている。本件幼稚園において午前中に行われる「自由あそび」，午前中の「クラス活動」においても，園庭において保育を実施することが予定されており（認定事実(1)イ），また，「自由あそび」が６０分，午前の「クラス活動」が９０分，午後の「クラス活動」が４５分の時間で設定されており，午前中の２つのカリキュラムの方が午後の「クラス活動」よりも長い時間設定となっていることなどからすれば，本件幼稚園における１日の保育活動を通じてみれば，本件幼稚園における園児らは，本件マンション建築後においても，日差しのある中で園庭における保育を受ける機会が一応確保されていると評価することができる。したがって，本件マンションの建築によって午後の日照は阻害されているものの，１日を通じてみれば，本件マンション建築後においても，本件幼稚園の園児らが受ける日照阻害の程度が著しいとまではいえない。
また，学童保育園児については，利用時間が１４時３０分以降の利用であって，午前中の園庭の日照が改善された利益を受けるものではないが，学童保育の利用前には小学校において授業等を受けるなどしており，それらの活動中に日照を享受する機会を持つことが可能であるから，本件マンションが建築されて園庭の日影が阻害されることによって被る不利益は，本件幼稚園の園児らと比較して限定的なものにとどまっていたといえる。したがって，学童保育園児についても，本件マンションが建築されたことによる日照阻害の程度が著しいとまでは認められない。
ウ　地域性
認定事実(2)によれば，本件土地は，用途地域が商業地域と指定された区域内にあり，本件土地が存在する名古屋市ｂ区○○ｃ丁目には１０階建て前後の建物が約９０棟存在していることも認められ，１５階建ての本件マンションは公的規制に反するものではなく，名古屋市ｂ区○○ｃ丁目という地域でみた場合には，地域性に整合した建物であるといえる。
しかし，本件幼稚園の園庭の日照に影響を与える建物としては，本件マンションが建築されるまでは，５階建てのｈ会館ないしは６階建てのｇビルが最も高い建物であって，１０階建てを超える高層ビルは存在しておらず，本件幼稚園はいわゆるビルの谷間に存在する幼稚園といった状況にはなく，午前，午後を通じて，日差しがある園庭で保育を実施することができる環境にあったことからすれば，１５階建ての本件マンションを本件幼稚園に隣接して建築するについては，本件土地が商業地域と指定された地域内にあるとしても，本件幼稚園の園庭の日照に与える影響について十分な配慮が必要であったと指摘できる。
エ　交渉経過
（ア）　認定事実(3)によれば，被告プレサンスは，本件幼稚園の関係者に対する説明会（協議会）を３回開催し，本件マンションの建築後の春分，夏至，秋分及び冬至の日影図を示して，本件幼稚園の一日の日影の移り変わりについての説明を行うなどしたが，園庭への日照阻害の緩和策については，本件マンションを本件土地の西側に寄せて建築するなど，被告プレサンス内で検討した計画案以上の対応を検討することを拒否したため，原告らと被告プレサンスとの協議は平行線に終わったことが認められる。
（イ）　中高層建築物紛争予防条例は，良好な近隣関係を保持し，健全な居住環境の保全及び形成に資することを目的として制定されており，同条例７条が，中高層建物を建築することによって教育施設等の日照に影響を与える場合に，事業者に教育施設等の設置者との「協議」が必要としているのは，教育施設等を生活の場とする幼児，児童等の心身の育成にとって日照が重要であり，教育施設等周辺での建築については紛争になりやすいことから，建築基準法をクリアーするだけでなく，できる限りの配慮を事業者に求めるものであって，「協議」は単なる説明にとどまらず，当該施設の設置者らとの協議，話し合いを行うことを必要とする規定であると解される。したがって，事業者は，建築業者目線で考えた日照阻害緩和策を単に説明するのではなく，子どもらに対する日照の確保の重要性に鑑み，高層建築物による児童らへの影響について，最も児童らの立場に立ってその影響を検討することができる教育施設の設置者らと話し合いをすることによって，より実効性のある対応策を「協議」することが求められているものである。
（ウ）　被告プレサンスは，本件幼稚園の関係者との協議について，本件マンションの建築によって，本件幼稚園の園児らにどのような影響が生じ得るのか，その対応としてどのような配慮が必要かなどについて，本件幼稚園の関係者から実情を聴き取り，それを踏まえて真摯な対応策を検討するのではなく，事前に自社内で検討した日照阻害の緩和策で本件幼稚園の日照への配慮としては十分であり，それ以上の配慮は必要がないと考え，本件幼稚園の関係者との協議によって本件マンションの建築計画をさらに見直すことは最初から念頭になかったものと認められる。このような被告プレサンスの姿勢は，上記条例の趣旨に沿ったものであったとはいえない。
その結果，被告プレサンスが社内で検討した，建築基準法上の上限値である容積率より抑え，本件土地の西側に寄せて本件マンションを建築して園庭の南側を建物によって塞いでしまうことを避けるという日照阻害の緩和策は，園庭における日照阻害を緩和する一定の効果がある対応策であったとは認められるものの，本件幼稚園における保育の具体的なカリキュラムの実施状況等を踏まえた対応策にはなっておらず，本件幼稚園が午後の「クラス活動」を園庭における遊びに充てており，その時間帯に園庭に日照があることが重要であることについて，十分に配慮した建築計画にはならなかったということにつながったものと認められる。
オ　加害回避の可能性及び被害回避の可能性
先に指摘したように，被告プレサンスが建築基準法上の上限値である容積率ではなく，若干の余裕を持たせ，本件土地の西側に寄せて建築して園庭に本件マンションの構造物がかからないよう建築するなど，日照阻害を緩和するための措置を講じていたといえる。しかし，被告プレサンスにとって上記の配慮が収益上，どの程度まで切りつめた譲歩であったのか，それ以上の緩和措置を講じることが可能であったか否かについては，本件証拠上は明確ではない。また，被告プレサンスは，本件土地を以前から所有していたのではなく，平成２８年５月にマンション建設目的で購入したものであって，企業活動の維持のために本件土地を購入し，本件マンションを建築しなければならないといった事情があったことを窺わせる事情はなく，被告プレサンスが本件土地にマンションを建設しなければならない必然性はなかったといえる。
これに対して，本件幼稚園は，長年，現在の場所で園児らの保育を実施してきており，本件幼稚園が長年継続されてきていることが，当該場所に本件幼稚園があることについて社会的必要性があることの一つの現れであるといえる。また，本件幼稚園の日照条件が悪化したからといって幼稚園を移転することは容易ではない。原告教会は，教会活動にとって重要な施設である牧師館を解体することにより，園庭における午前中の日照を改善することによって，１日を通じての園庭の日照を確保しようと最大限の対応をしたことが認められる。
これらの事情からすれば，被告プレサンスは，本件幼稚園の園庭に与える日照阻害を緩和する方策が，社内検討した計画で足りているのか，更に一歩踏み込んだ検討を行うことが相当であったと指摘することができる。
カ　被害建物の用途，加害建物の用途及び加害建物と被害建物の先後関係
本件マンションは，長年当該場所において保育を実践してきている本件幼稚園に隣接して建築された建物である。被告プレサンスは，本件マンションを賃貸ないし販売目的で建築したものであるから，被告プレサンスは，本件マンションを建築するに際し，本件幼稚園の日照に与える影響について十分に検討すべき立場にあったといえる。
キ　上記検討からすれば，被告プレサンスの本件幼稚園の関係者との協議は，中高層建築物紛争予防条例の趣旨に沿わないものであったことなどから，被告プレサンスが社内検討した日照阻害の緩和策は，一定の効果がある案ではあったものの，本件幼稚園における保育のカリキュラムの実施状況等に即した検討が十分にされておらず，本件幼稚園における午後の「クラス活動」について，本件マンション建築前は，冬至の前後のしばらくの期間を除き，園庭に日照がある環境で外遊びを中心に保育を行うことができていたものを，少なくとも半年程度，園庭全体が日影の状況で保育を実施せざるを得ない状態とし，園児らが園庭において伸び伸びと遊べる環境を著しく阻害しており，本件教会による牧師館の解体・撤去による午前中の日照の改善がなかったとすれば，受忍限度を超える侵害を生じさせていたと評価し得るが，本件幼稚園における午前中のカリキュラムである「自由あそび」及び午前の「クラス活動」においても，園庭において保育を実施することが予定されており，園庭の南側にあった牧師館を原告教会が解体・撤去したことによって，園庭が広がり，午前中の日照時間がかなり確保されたことからすれば，園児らが本件幼稚園において過ごす１日を通じてみれば，園児らが園庭において日差しの下で保育を受ける環境が何とか確保されていると評価することができる。したがって，本件マンションの建築によって本件幼稚園の園庭に一定の日照阻害が生じており，園児らの保育環境にとって好ましくない制約ではあるものの，受忍限度を超えるものであるとまでは評価することができない。
(4) 　風害
原告らは，本件マンションの建築により，本件幼稚園の園庭に強風が吹き，風害が生じていると主張する。
認定事実(5)によれば，本件マンション建築後，園庭に強風が吹くことが増え，舞い上がった砂が目に入って泣く園児が増えるなどの風による影響とみられる事象が発生していることは認められる。
しかし，本件マンションの建築前後を比較した風力，風向きの実測データによる比較資料は提出されておらず，本件マンション建築後に発生するようになった強風の程度や頻度は必ずしも明らかになっていない。また，本件幼稚園の園庭における風の状況が変わったとしても，本件マンションの建築だけでなく，園庭の南側にあった牧師館が解体撤去されたことによる影響も否定できない。
上記検討からすれば，本件マンション建築により，園児らの本件幼稚園での生活環境に受忍限度を超える程度の風害が生じていることまでは認められない。
(5) 　圧迫感について
原告らは，本件マンションが園庭の隣接地に建築されたことから，園児らが受忍限度を超える圧迫感を感じさせられていると主張する。
確かに，それまで園庭周辺には高い建物でも５階ないし６階建ての建物しかなかったにもかかわらず，１５階建ての高層マンションが園庭の直ぐ脇に建設されたのであるから，園児らが園庭で屋外活動を行う際，本件マンションを見上げて圧迫感を感じさせられている可能性もある。
しかし，本件マンションは，本件土地の西側に寄せて建築され，園庭の南側を見た際，本件マンションによってその視野が塞がれてしまうという状況には至っておらず，圧迫感から園児らに何かしらの具体的な悪影響が発生していることを窺わせる証拠もない。また，原告らは，圧迫感の大きさの程度を計測する一つの手法である「形態率」を根拠としているが，「形態率」については，圧迫感を把握する基準として広く用いられているとまでは認められず（弁論の全趣旨），未だ，受忍限度を画する基準として裁判上確立した基準であるとは認め難い。
したがって，本件マンションの建築により園児らが受けた圧迫感が社会的に受忍すべき限度を超えるものであるとまでは認められない。
(6) 　本件マンションが建築されたことによるその他の弊害
原告らは，本件マンションが建築されたことによって，同マンションの壁に音が反響するようになったことや，同マンションの住民との関係で本件幼稚園における活動を一定制限する必要が発生していると主張する。
原告らが主張する音の反響や，本件マンションの住民への配慮が必要となったことなどが認められるとしても，それによって本件マンションの建築が園児らに受忍限度を超える権利侵害を発生させているとは認められない。
(7) 　幼稚園の一時移転による権利侵害
先に認定したように，旧建物の解体工事中，平成２８年１０月１３日から同年１１月３０日まで，本件幼稚園は，一時的に移転し，制約された状況下で保育が行われ，また，学童保育については，本件幼稚園の近くのテナントビルの一室を借りて行われたことが認められる（認定事実(3)イ）。バス移動や，移転先の旧園舎が本件幼稚園の園舎よりも狭かったことなどから，幼稚園の一時移転によって，園児らが一定の精神的ストレスを感じたであろうとは考えられる。
しかし，移転期間は１か月半程度であり，短期間ではないが，長期間に及んだわけではなく，一時移転に伴うストレスによって園児らに対応に苦慮するほどの問題行動が見られるようになった等の問題が発生したことを窺わせる証拠はない。
旧建物の解体工事に伴う本件幼稚園の一時的な移転によって，原告園児らに社会的に受忍すべき限度を超えるストレスを被らせたとまでは認められない。
(8) 　本件マンション建設工事による権利侵害
原告らは，本件マンションの建築工事によって，原告園児らは良好な環境下で保育を受ける権利を侵害されたと主張している。
確かに，本件幼稚園において，万一の事故の発生に備えて，保育室を工事現場に近い部屋から礼拝堂に変更するなどの対応が執られ，工事に伴う騒音が発生し，積み木が崩れたりすることが発生しており（認定事実(3)ク），工事による影響が一定あったものとは認められる。
しかし，本件マンション工事期間中の騒音の実測データは提出されておらず，本件工事期間中の騒音の程度，頻度等は明確になっていない。被告大鉄工業は，本件マンションの建築工事に関して，本件幼稚園関係者との打合せを，工事期間中，月１回から２回の頻度で実施し，本件幼稚園の行事予定に合わせて工事日程を調整するなどの対応をしたことが認められる（認定事実(3)ク）。また，本件マンションの建築工事期間中の騒音等によって，園児らに対応に苦慮するほどの問題行動が現れたことを窺わせる証拠はない。
上記検討からすれば，本件マンションの建築工事の騒音等が原告園児らにとって社会的に受忍すべき限度を超えるものであったとまでは認められない。
(9) 　プライバシー権の侵害
原告らは，本件マンションの住民から本件幼稚園の園児らの様子をのぞき見される等と主張している。
本件マンションの高層階からは本件幼稚園の様子を見下ろすことが可能であり，原告らが主張するような危険性がないとは言えないが，実際にはそのような被害が発生していることを窺わせる証拠はなく，園児らのプライバシー権が侵害されているとは認められない。
(10) 　以上から，原告らが本件マンションの建築に伴って原告園児らの権利が侵害されたと主張する点については，いずれも受忍限度を超える権利侵害が発生したとまでは認めることはできない。
３　争点(2)（本件マンションの一部取り壊し請求の可否）について
(1) 　原告園児ら９名（原告園児らのうち，原告Ｘ８，同Ｘ９，同Ｘ１０，同Ｘ１１，同Ｘ１２を除く。）は，本件マンションの建築によって受忍限度を超える権利侵害を受けていることを前提に，人格権に基づき本件マンションの一部取り壊し請求をしている。
しかし，争点(1)についての判断で検討したように，原告園児ら９名が主張する権利侵害について，いずれも受忍限度を超えるものであるとまでは認められないから，原告園児ら９名の本件マンションの一部取り壊し請求には理由がない。また，学童保育を利用している原告Ｘ１３を除く原告園児ら８名は，本件幼稚園を卒園するなどして，現在は，本件幼稚園を利用しておらず，その意味においても，原告園児ら８名の請求には理由がない。
(2) 　また，原告園長ら及び原告教会も本件マンションの一部撤去請求をしているが，その主張も，園児らが受忍限度を超える権利侵害を受けていることあるいは園庭に園児らに対する受忍限度を超える権利侵害になる日照阻害等が発生していることを前提とするものであるから，園児らに対して受忍限度を超える権利侵害が発生しているとは認められない以上，その余の点について検討するまでもなく，原告園長ら及び原告教会による本件マンションの一部取り壊し請求には理由がない。
４　争点(3)（原告園児らの損害賠償請求の可否）について
原告園児らの損害賠償請求については，原告園児らが受忍限度を超える権利侵害を被っているとは認められない以上，その余の点について検討するまでもなく，理由がない。
５　争点(4)（原告園長らの損害賠償請求の可否）について
原告園長らの損害賠償請求は，園児らが受忍限度を超える損害を被っていることを前提として，十分な保育を実施できないことによる賠償請求であるから，園児らが受忍限度を超える権利侵害を被っているとは認められない以上，その余の点について判断するまでもなく，理由がない。
６　争点(5)（原告教会の損害賠償請求の可否）について
(1) 　原告教会は，本件マンションが建築されたことによって，牧師館を解体・撤去せざるを得なくなったとして，被告らに対し，牧師館の解体・撤去に要した費用の損害賠償請求をしている。
先に認定したように，被告プレサンスは，本件マンションを建築にするに際し，本件マンションによって発生する日影が本件幼稚園における保育にどのような影響を与えるか十分に配慮した上でマンション建築をすべきであったところ，本件幼稚園への日照について一定の配慮をした社内検討案で，本件幼稚園の日照への配慮としては十分であると判断し，日照阻害が園児らに与える影響を園児らの立場に立って最も考えることのできる原告園長らの意見を聴くなどして，本件幼稚園における保育のカリキュラムに与える影響度合いなどの検討を十分にすることなく，本件マンションを建築することを決め，そのため，午後の「クラス活動」は，半年以上園庭に日差しがない状況で実施せざるを得なくなり，何らの対応策も講じなければ園児らに受忍限度を超える保育環境の悪化が発生することが予測される事態となったため，原告教会は，本件幼稚園における日照を確保するための対応策として基本財産である牧師館を撤去・解体することを行わざるを得なかったことが認められる。被告プレサンスは，本件マンションを建築した場合には，本件幼稚園の園庭の日照が阻害されることは自ら作成した日影図等によって把握しており，その結果，園庭の外遊びを中心に実施されていた本件幼稚園における午後の「クラス活動」に支障が生じることも把握可能であった。そのような状況で本件マンションを建築することにすれば，園児らの最善の利益を重視する原告教会が午前中の日照を改善して１日を通じての日照環境を確保するため牧師館の解体・撤去の決断をせざるを得なくなることについても認識可能であったといえる。
したがって，被告プレサンスは，本件幼稚園の日照について配慮すべき義務を十分に尽くすことを怠ったため，原告教会に牧師館の解体・撤去の費用を負担させるという損害を被らせたものであるから，原告教会は，被告プレサンスに対し，不法行為に基づき，牧師館を解体・撤去するために要した費用２５９万２０００円及びこれに対する不法行為の後（訴状送達の日の翌日）である平成３０年９月１３日から支払済みまで平成２９年法律第４４号による改正前の民法所定の年５分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2) 　原告は，被告大鉄工業に対しても，損害賠償請求をしている。しかし，被告大鉄工業は，被告プレサンスが設計した本件マンションの建築を請け負っただけであり，本件マンションの設計や，本件マンションの建築に関する本件幼稚園との協議には関与していない。したがって，被告大鉄工業には，本件マンションを建築することによって，原告教会が牧師館を解体・撤去せざるを得なくなることを予見することはできなかったと認められるから，原告教会が牧師館を撤去・解体することによって被った損害を賠償する責任は負わない。
第４　結論
よって，原告教会が被告プレサンスに対して牧師館の解体・撤去費用２５９万２０００円の賠償を求める請求には理由があるので，これを認容し，その余の原告らの請求にはいずれも理由がないので，これらを棄却することとして，主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第５部
（裁判長裁判官　唐木浩之　裁判官　片山健　裁判官　髙橋祐二）

別紙
当事者目録
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ１（以下「原告Ｘ１」という。）
同法定代理人親権者　Ａ１
同　Ａ２
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ２（以下「原告Ｘ２」という。）
同法定代理人親権者　Ａ３
同　Ａ４
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ３（以下「原告Ｘ３」という。）
同法定代理人親権者　Ａ５
同　Ａ６
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ４（以下「原告Ｘ４」という。）
同法定代理人親権者　Ａ７
同　Ａ８
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ５（以下「原告Ｘ５」という。）
同法定代理人親権者　Ａ９
同　Ａ１０
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ６（以下「原告Ｘ６」という。）
同法定代理人親権者　Ａ１１
同　Ａ１２
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ７（以下「原告Ｘ７」という。）
同法定代理人親権者　Ａ１３
同　Ａ１４
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ８（以下「原告Ｘ８」という。）
同法定代理人親権者　Ａ１５
同　Ａ１６
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ９（以下「原告Ｘ９」という。）
同法定代理人親権者　Ａ１７
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ１０（以下「原告Ｘ１０」という。）
同法定代理人親権者　Ａ１８
同　Ａ１９
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ１１（以下「原告Ｘ１１」という。）
同法定代理人親権者　Ａ２０
同　Ａ２１
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ１２（以下「原告Ｘ１２という。）
同法定代理人親権者　Ａ２２
同　Ａ２３
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ１３（以下「原告Ｘ１３」という。）
同法定代理人親権者　Ａ２４
同　Ａ２５
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ１４
（以下「原告Ｘ１４」という。上記１４名を併せて「原告園児ら」という。）
同法定代理人親権者　Ａ２６
同　Ａ２７
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ１５教会（以下「原告教会」という。）
同代表者代表役員　Ｂ
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ１６（以下「原告Ｘ１６」という。）
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ１７（以下「原告Ｘ１７」という。）
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ１８（以下「原告Ｘ１８」という。）
名古屋市〈以下省略〉
原告　Ｘ１９
（以下「原告Ｘ１９」という。上記４名を併せて「原告園長ら」という。）
原告ら訴訟代理人弁護士　内河惠一
同　岩月浩二
同　川口創
同　中谷雄二
同　塚田聡子
大阪市〈以下省略〉
被告　株式会社プレサンスコーポレーション（以下「被告プレサンス」という。）
同代表者代表取締役　Ｃ
同訴訟代理人弁護士　奥野信悟
同　小野宙
大阪市〈以下省略〉
被告　大鉄工業株式会社（以下「被告大鉄工業」という。）
同代表者代表取締役　Ｄ
同訴訟代理人弁護士　西出智幸
同　坂井俊介
同訴訟復代理人弁護士　吉岡沙映

〈以下省略〉

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■どぶ板選挙ドットウィン！にしかできない「地獄のどぶ板PR代行」の強み
(１)「地獄のドブ板」に特化した広報PR支援会社ですので、一番しんどい部分のみご相談ください
 (２)候補(予定)者の認知度拡大に向けて、貼る場所(箇所)に差をつける！どぶ板PRマーケティング
 (３)どぶ板実績No.1 ポスタリストの豊富な経験と実績で、候補(予定)者の選挙区をPRで完全包囲
 (４)政治活動に必須となる地域密着型どぶ板PRで候補(予定)者と有権者を繋ぐご挨拶回り握手代行
 (５)選挙立て札看板(後援会連絡事務所)の設置交渉代行で、半永久的に絶対的な知名度を確立する
 (６)ご挨拶回り！ビラ手渡し！ポスター貼り(掲示交渉)！街頭演説！で、どぶ板の相乗効果を狙え

■どぶ板選挙PR代行の流れ
■どぶ板OJTとは？
■どぶ板同行OJT内容(座学研修および実地特訓)
■どぶ板OJT当日配布資料
■どぶ板の学校オンライン
■ドブ板選挙にはじまり、どぶ板選挙で終わる！

以下の「ポスターPR党」画像をクリックし、全国における弊社の掲示交渉実績をご覧いただけます。
【実績一覧】地域ポスター広告PRのための【ポスターPR党】新規掲示許可交渉代行

ポスターPR党許可貼り(1)	ポスターPR党許可貼り(2)	ポスターPR党許可貼り(3)

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ポスターPR党許可貼り(28)	ポスターPR党許可貼り(29)	ポスターPR党許可貼り(30)

以下の「政治選挙ポスター」画像をクリックし、全国選挙区における弊社の掲示交渉実績をご覧ください。
【実績一覧】選挙立候補予定者のための【政治選挙ポスター】新規掲示許可交渉代行

政治選挙ポスター掲示許可交渉(1)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(2)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(3)

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政治選挙ポスター掲示許可交渉(13)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(14)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(15)

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メディア関係者様向けのプレスリリース記事 


ポスタリング	掲示交渉実績	お問い合わせ

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①新規開拓PR	②他党多党PR	③一戸建てPR

⑧政策ビラPR	ポスタリング	④集合住宅PR

⑦意外注目PR	⑥公的公共PR	⑤独占単独PR

【よくある質問 Q&A 一覧】
■街頭ポスター貼り(掲示交渉)代行について
Q&A【1】街頭ポスター貼付(掲示交渉代行)サービスとはどのようなものですか？
Q&A【2】どのくらいの期間で何枚くらいの街頭ポスター貼付ができるのですか？
Q&A【3】街頭ポスターを貼る際は先方(許可承諾者)に許可をいただいて貼るのですか？
Q&A【4】ポスターの①貼付依頼～②貼付開始～③貼付完了等の流れについて教えていただけますか？
Q&A【5】ポスターの料金は１枚いくらで貼ってくれるのですか？
Q&A【6】ポスターの貼付エリアや貼り付け枚数等は指定できますか？
Q&A【7】ポスター貼付後のメンテナンス(貼り替え・剥がし)も依頼できますか？
Q&A【8】最低何枚から街頭ポスター貼りを依頼できますか？
Q&A【9】ポスター貼り替え期間の指定はできますか？貼りっぱなしではないですか？
Q&A【10】街頭ポスターの貼付交渉(新規掲示)の実績や事例はありますか？

■政治活動における広報支援について
Q&A【11】「ドブ板選挙プランナー」とはどのようなお仕事ですか？
Q&A【12】「ポスタリング」とはどのようなサービスですか？
Q&A【13】政治活動等の特殊な業界についてのポスター掲示交渉は難しいですか？
Q&A【14】政治活動用の街頭ポスター(二連|三連)貼りをお願いしたいのですが、特定政党の支援は可能ですか？
Q&A【15】政治活動におけるポスターについて公職選挙法や政治資金規正法等の知識はありますか？
Q&A【16】街頭で無料の「ウィン！ワッポン」をよく見かけますが、これで選挙の勝率が上がりますか？
Q&A【17】二連ポスターや三連ポスター製作前に「弁士の相手」のご提案もしてくれますか？
Q&A【18】ポスター「掲示責任者代行」とはどのようなものでしょうか？
Q&A【19】選挙妨害やその他クレーム対応等の代行も可能でしょうか？
Q&A【20】政治活動(選挙運動)における広報支援プランはどのようなものがありますか？

■営業専門会社による広報PR支援について
Q&A【21】飛び込み訪問、戸別訪問、挨拶回り代行等、ポスター貼り以外でもお願いできますか？
Q&A【22】飲食店や実店舗等の店内やトイレ等にポスターを貼ったり、ビジネスカード設置、チラシ配布等は可能ですか？
Q&A【23】全国どこでもポスター貼りが可能なのですか？

■ご検討中の方々に
Q&A【24】お問い合わせについて
Q&A【25】資料をダウンロード
Q&A【26】ノウハウ・テクニックを大公開！

■ご依頼(お申し込み)の前に
Q&A【27】お申し込みの流れ
Q&A【28】ご用意いただきたいもの

■ご依頼(ご契約)の後に
Q&A【29】進捗報告について
Q&A【30】お友達ご紹介キャンペーンについて

【ポスター【制作前の】候補予定者様】のメニューです。

「政治活動用ポスターのデザイン」は、こちらです。
公職選挙法規定の法的審査(レギュレーションチェック)対応済みの、個人ポスター、２連ポスター、３連ポスター等のデザインを制作！

「弁士相手探しマッチング」は、こちらです。
「探して、交渉して、お隣りへ！」理想の有名人や著名人の弁士相手を探して、地域有権者に対して認知度拡大の相乗効果を狙う！

「ポスターの掲示責任者代行」は、こちらです。
【全国対応】ポスターを掲示した選挙区からのクレーム対応・妨害等の「総合窓口」として、ポスター掲示責任者の代行をいたします。

【ポスター【制作後の】候補予定者様】のメニューです。

政治活動期間における「どぶ板専門！ポスター貼り(掲示交渉)代行」は、こちらです。

【稼働の流れ】
①新規ご挨拶回り|戸別訪問代行|握手代行
選挙区(指定エリア)の有権者(民家・飲食店・その他施設)に対して、候補予定者に代わって選挙ドットウィン！が直接ご訪問致します。

②名刺|ビラ|リーフレット等の手渡し配布
候補予定者と有権者を繋ぐため、名刺・ビラ・政策レポート・討議資料・リーフレットなど活動報告資料の直接手渡し配布を致します。

③留守宅|候補者PR資料ポスティング投函
ご訪問先がご不在の場合には、配布物を郵便受け等にポスティング投函致します。(想定ターゲットに完全100パーセントのリーチ率！)

④政治活動ポスター貼り(新規掲示交渉！
【完全成果報酬】地獄のドブ板活動に必須となる、政治活動用ポスター貼り(新規掲示交渉代行！)(貼れた分だけの枚数課金となります)

⑤掲示(貼付)後のフォロー|クレーム対応
ポスター掲示(貼付)完了後における掲示許可承諾者へ、フォローやクレーム対応等のストレスな部分は選挙ドットウィン！が致します。