あなたの街の「ポスターPR」貼る(掲示許可交渉)前に知っておきたい地域情報「セールスプロモーション」10

裁判年月日　平成19年 4月24日　裁判所名　神戸地裁尼崎支部　裁判区分　判決
事件番号　平１７（ワ）７６２号
事件名　損害賠償請求事件
裁判結果　請求棄却　上訴等　控訴　文献番号　2007WLJPCA04246004

裁判経過
控訴審平成20年 8月27日大阪高裁判決平１９（ネ）１６０９号損害賠償請求控訴事件

出典
証券取引被害判例セレクト 32巻1頁

兵庫県西宮市〈以下省略〉
原告Ｘ
大阪市〈以下省略〉
被告エース証券株式会社
同代表者代表取締役Ａ
同訴訟代理人弁護士辰野久夫
同尾崎雅俊
同藤井司
同畑知成
同阿部宗成
同和田慎也

主文

1 　原告の請求を棄却する。
2 　訴訟費用は，原告の負担とする。

事実及び理由

第1 　請求
被告は，原告に対して，1億3328万円及びこれに対する平成12年8月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 　事案の概要
本件は，原告が，証券会社である被告に対し，原告が被告における信用取引で多額の損失を被ったのは，被告の担当者が，株式取引に全くの素人である原告に信用取引の強引かつ執拗な勧誘をして取引を開始させ（適合性原則違反），原告との間の実質的な一任勘定取引で（無断売買），手数料取得目的の回転売買をした（善管注意義務違反）からであるとして，不法行為ないし債務不履行に基づき合計1億3328万円の損害の賠償及びこれに対する信用取引が終了した日である平成12年8月28日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 　前提事実（当事者間に争いがないか，証拠（乙1，5ないし8，10の1・2・4，12，13，21の1，25ないし29，31の1・2，32，34，38の1・2，調査嘱託（野村證券株式会社，大和証券株式会社，日興コーディアル証券株式会社，三菱UFJ証券株式会社））によって認められる基本的な事実。）
(1) 　当事者
被告は証券会社であり，原告は被告芦屋支店の顧客であった。原告が信用取引をしていた当時，被告の担当従業員は，Ｂ（以下「Ｂ」という。）であった。
(2) 　取引経過
原告は，平成2年6月19日，被告において保護預り口座を開設し，投資信託や現物株式の取引を行い，平成11年8月17日に信用取引口座を開設し，同月20日から信用取引を開始した。原告が，被告においてした証券取引の内容は別紙1のとおりである。これを銘柄別に整理したものが別紙2である（なお，別紙1，2の「No」欄の数字は，乙26，27（取引明細）の「No」欄の数字と同一である。また，別紙1の保証金維持率欄の数字は，同率が30パーセントを割ったときのものである。）。
また，他の証券会社を含め，原告が行った信用取引以外の証券取引の内容は，別紙3のとおり（なお，「保有日数」欄の数字は，信用取引開始までの取引についてのものである。また，被告における証券取引は別紙1，2の内容と重複する。）で，これを銘柄別に整理したものが別紙4である。
2 　争点
(1) 　適合性原則違反の有無
(2) 　無断売買の有無
(3) 　善管注意義務違反の有無
(4) 　損害額
3 　当事者の主張
(1) 　争点1（適合性原則違反の有無）
（原告）
ア　原告は，平成11年8月中旬に被告の芦屋支店に訪れた際，同支店次長のＣ（以下「Ｃ」という。）から「基本的には現物取引と何ら変わりません。読めばわかりますよ。」と信用取引口座設定約諾書を渡され，「どこの証券会社でも未経験者には一任勘定でやらせてもらっています。任せて下さい。」などと信用取引についての明示・黙示の欺瞞的な説明と強引かつ執拗な勧誘を受け，信用取引を開始した。
原告は，平成5年9月にそれまで勤務していた会社を退職し，海外ビジネスの自営業を始めたもので，株式取引の経験は，以下のとおりであって，それまで勤めていた会社の従業員持ち株制度に加入していた程度の全くの素人であった。被告の勧誘は信用取引について適合性を有しない者に対するもので違法である。
なお，上記勧誘当時の被告担当者はＤ（以下「Ｄ」という。）であったが，Ｃは，Ｄを補助するため，原告の対応をしていた。
イ　原告の証券取引についての経験は，被告においては，平成2年6月から平成7年6月までの5年間に21件の証券取引（投資信託売買，現物株売買，株式の持込売却）があるだけで，取引金額は平均すれば1回100万円程度である。原告が平成2年に被告で保護預り口座を開設したのも，従業員持ち株制度のもとで取得した株式（●●●，●●●，●●●）を売却（持込売却）するためのもので，当時の担当者から投資信託の勧誘を受けて証券取引を開始し，552万9260円の損失を出して一旦取引を終了した。その後，平成11年3月から証券取引を再開したが，原告の取引経験は，信用取引を始めた同年8月までの取引と併せても，持込売却，投資信託を除けば，合計21回の現物株の取引経験があるに過ぎない。原告の証券取引に関する知識，経験は僅かである。
他の証券会社での取引についても，原告が本格的に株式取引を始めたのは，平成10年10月13日にNTTドコモの公募株を購入してからであって，当時，NTTドコモの公募株は安定・確実な投資銘柄として前評判が高く，原告は，相続により得た資金を有効に活用すべく，野村證券株式会社，日興証券株式会社（当時。現在日興コーディアル証券株式会社），大和証券株式会社の3社で応募，購入したものである。被告の口座以外で平成10年10月13日以前に株式取引をしたことはない。
なお，岡三証券株式会社及び国際証券株式会社（当時。現在三菱UFJ証券株式会社）でも取引はあるが，1回当たりの取引金額は平均約123万円に過ぎない（以下，証券会社は，それぞれ「野村證券」「日興証券」「大和証券」「岡三証券」「国際証券」という。）。
（被告）
ア　原告の信用取引口座の開設は，原告自身の判断によるものであって，被告の担当者の勧誘によるものではない。原告については，被告の従業員Ｄが担当していたものであって，店頭顧客一般への対応を行うに過ぎないＣが原告に対して信用取引口座の開設を求めることはない。
イ　また，原告は，その取引経験を見ても，被告において，平成2年から継続的に現物株式等の取引を行っており，日興証券大阪支店や野村証券梅田支店においても，それぞれ昭和58年と昭和59年に取引口座を開設し，平成10年10月13日にはNTTドコモの株式を，上記2社のほか大和証券大阪支店での取引と併せ，合計2730万円購入している。それに加えて，平成11年2月ないし3月からは，岡三証券及び国際証券とも取引があり，岡三証券では，他の4社と比較して最も頻繁に取引をしている。岡三証券及び国際証券における取引は，6か月余りの間に延べ33回にわたり行われている。さらに，原告が被告に入庫した株式の存在に照らせば，原告には，これ以外の証券会社においても取引経験があるはずである。原告は株式取引について素人ではない。
しかも，原告は，利益を得ることに非常に貪欲であり，Ｂにも繰り返し「絶対に儲けさせて欲しい。」と申し入れていた。そして，被告の取引で大きな利益を得たときにはその見返りとして他の証券会社に預託している資産を被告に持ち込むつもりであるとの発言を繰り返し行っている。実際，原告は，他の証券会社から多数の株券を被告に持ち込んでいる。これらの株式の時価は，被告での売却代金ベースで約7000万円に及んでいる。
また，平成11年3月26日の被告における株式取引再開についても，その直前（同月15日）に原告は，大和証券大阪支店での証券取引を手仕舞しており，これは，自宅に近い被告店舗に取引拠点を変更したに過ぎない。
(2) 　争点2（無断売買の有無）
（原告）
ア　被告の担当者Ｂは，信用取引を執拗に勧める一方で，原告が株の素人であったことと仕事の関係で連絡がとれないことを口実に，実質的な一任勘定取引に強引に持ち込み，事後承諾という形で，無断で，過当な回転売買を行った。
無断売買を行った日は，平成11年11月は8，15ないし19の各日を除く毎日，同年12月は6，8，24の各日を除く毎日，平成12年1月は7，11，17，19，20，24，25の各日を除く毎日，2月には全営業日であり，その取引総額を見ても，平成11年8月から平成12年8月までの信用取引は，新規の取引が9億0697万5210円，決済の取引が3億6603万3000円であり，現物取引でも8億2203万3316円である。特に平成12年2月前後を見ると，同年1月21日から同年2月16日までの15営業日に連続して5億7608万0040円，同年2月18日から同年3月17日までの13営業日に連続して5億6000万6155円の無断回転売買をしている。
イ　被告は，無断売買を否定するが，例えば，ファルコバイオシステムの株式については，平成12年3月2日9時4分に2000株，同日13時6分に1000株の買い注文をしているのに対し，被告は，原告宛に同日13時24分，ファルコバイオシステムに関する資料をファックスしている。また，同銘柄の取引を受注番号順に並べ替えると先に売り注文がきて現引注文が後になっており，不自然な操作がされている。また，原告は，同年3月4日から同月12日に商用で欧州に行っているが，その間も，欧州時刻の深夜にわたり，取引がなされている。
さらに，被告は，原告がIT銘柄を中心に取引していたと主張するが，原告は，IT技術に弱く，こうした分野には全く興味関心もなく，投資に必要な情報に疎かった。被告における証券取引の銘柄は全て被告が当時，必死に勧誘していたものである。被告は，情報バイオ関連銘柄を中心に「エース成長株」「エースコアストック銘柄」を定め，これらを重点的に販売していた。平成11年12月3日のNTTドコモの株式取引（信用買）についても，被告が「本日のイチオシ銘柄」として指示を出し，Ｂが信用買をしている。
また，被告は，原告が被告の芦屋支店に頻繁に出入りしていたと主張するが，原告は，芦屋市に45年間居住し，世間体を人一倍気にする性格で，株式投資をばくち，証券会社を賭場と決めつける市民が多い環境で育ったため，被告芦屋支店に出入りする場面を知人に見られるのを非常に恐れていた。原告の株式取引は一任勘定取引に基づき，ほとんど被告担当者からの電話によるもので，芦屋支店を訪ねることは稀であった。
加えて，被告は，原告が芦屋支店で詳細なメモを取っていたと主張するが，原告は，たまに芦屋支店を訪ねたときに，閉店後の夕刻に他社で取り引きした銘柄の終値を調べるためノートにメモしたことがあったに過ぎず，被告の主張する内容，性格のものではない。その後，2回に及ぶ引っ越しでかなりの家財道具を整理，廃棄しており，現在ノートはない。
ウ　なお，原告は，月次報告書についての回答書を送付しているが，被告の無断，回転売買を追認したものではない。原告は，月次報告書の建玉未決済勘定，諸経費等の計算が何を根拠にどうするのか皆目分からなかった。しかも，月次報告書の記載はＢが無断で回転売買をしたものについてであり，平成12年2月には35件，2億2000万円以上の建玉があり，その内容は，原告の管理能力を大きく超えていた。
（被告）
ア　否認する。原告の取引は，全て原告の投資判断によるものである。
被告は，当初，原告について特に担当者を定めておらず，被告から投資銘柄の勧誘なども行っていない。
このことは，①原告の他社における取引銘柄と被告における取引銘柄が共通している（NTT，NTTドコモなど）こと，②原告は，平成11年3月26日のジャストシステム，富士ソフトABCの株式の購入を始めとして，同年8月の信用取引口座の開設まで，毎月1，2回程度，当時，相場が活況を呈していた情報関連銘柄（いわゆるIT銘柄）を中心とした売買をしているが，原告は岡三証券においてもIT銘柄を多数取引していること，また，③原告は，他社で日本オラクル株式の公募株式を購入し，大きな利益を得たことから，被告担当者に対して，公募株式を購入させて欲しいと執拗に依頼し，新規に募集される株式については自ら情報収集を行っていたことからしても，原告が自己の投資判断に基づいて証券取引を行っていることは明らかで，被告の強引な勧誘により取引に至ったものではない。
原告は，株式取引を行う際には，自ら被告芦屋支店に来店し，1階の店舗フロアに滞在して株価情報を流すボードや株価情報の検索端末（クイック）を利用するなどして注文内容について検討を行い，その後に注文を執行することが多かった。原告は，週に4，5日のペースで自転車で被告芦屋支店を訪問し，同支店に一台しかない顧客向けの株価情報の検索端末（クイック）を使用して株価や相場の情報を収集することが多かった。原告が，非常に長時間にわたって同端末を独占することから，他の顧客から苦情が寄せられることも何度かあった。原告は，大口取引をしているという自負からか他の顧客の目をそれほど意に介していない様子であった。原告は，前場が終わると相当の頻度で午後にも再び来店して同様に投資銘柄の検討をした。原告は，被告芦屋支店に株式投資についての検討結果を記録するためのノートを持参しており，同支店内でそのノートに検討結果を書き込んでいた。
イ　なお，原告は海外出張中の無断取引を主張するが，原告は海外出張に赴く際，担当者のＢに滞在するホテルの電話番号及びファックス番号を伝え，保有株式等の状況を毎日連絡するように要請していた。Ｂは，日本時間の毎朝，原告の滞在するホテルにジャーナル（これには，原告が保有している全ての現物株式の株数，株価の外，信用建玉の株数，株価，値洗い損益，保証金額，金利手数料等が記載され，原告の取引口座の状況がすべて把握できるようになっていた。）と呼ばれる書類を送信していた。原告からは随時取引のための国際電話が入っていたのであり，Ｂから国際電話をしたこともあった。
ウ　さらに，原告の被告における取引では月次報告書方式が採用されており，原則として取引のあった月の翌月に被告から原告に対して前月の取引内容についての報告書が送付され，これにより原告において取引の具体的内容が確認できるようになっている。この月次報告書には顧客が記載内容に不明の点があると考えた場合には，被告本社業務監理室に直接問い合わせることが可能であることが記載されおり，併せて，月次報告書到達後15日内に連絡がない場合には，取引内容を承認したものとして取り扱う旨の記載がなされている。原告からはいずれも取引内容を異議なく認める内容の回答書が被告に返送されている。
(3) 　争点3（善管注意義務の有無）
（原告）
株価動向や銘柄選定は，高度の知識，経験，能力を要する複雑な作業であり，原告は，情報収集や分析能力に劣るために，被告に全てを任せることにした。ただ，信用取引を始めるにあたっては，取引金額について，1取引200万円前後を限度とする旨強く指示した。このことは，それまでの1回当たりの取引金額からしても明らかである。
しかし，前記のとおり，被告の担当者Ｂは，無断で毎日のように大量の売り買いを重ね，多額の追証（委託追証拠金）を発生させた。
被告の芦屋支店は，原告との取引を除けば，売買金額，手数料収入とも支店運営経費を賄えないほどの危機的状況にあり，Ｂは，原告の信用を濫用して，口座を支配し，手数料稼ぎを行ったものである。そして，無断売買の結果，失敗した取引が発覚するのを隠蔽し，さらに手数料を得るために現引，現渡を行った。
証券会社には，顧客の知識，経験，投資目的，資力等に照らし，不適切に多量，頻繁な取引を勧誘してはならない注意義務があるにも拘わらず，被告はこれを怠り，手数料を得るために，上記のとおり，月曜日から金曜日まで年末年始を問わず，毎日のように大量の回転売買を行い，最低保証金維持率が20パーセントを割り込んでも，強制反対売買をせず，損失の拡大を防止しなかった。
（被告）
否認する。Ｂが実質的な担当者になった平成11年8月下旬以降，原告の被告における証券取引の頻度は格段に高まっているが，これは原告が証券取引の積極性を著しく高めたことによる。当時は，いわゆるITバブルが活況を呈していた時期であり（ITバブルは，平成12年4月ころまで続き，そのころを境に一転して株価の急落を招いている。）ここで取引された株式の中には，Ｂが勧めた銘柄と原告が自ら取引することを決定した銘柄が混在している。
また，現引，現渡は，いずれも原告の証券取引に対する課税を軽減するためのものであり，このことは，原告が最もよく知っているものである。
なお，原告は，保証金維持率を問題とするが，ITバブルによって高値を付けた株価が平成12年3月に下落し始め，信用建玉及び代用有価証券の評価損失が徐々に拡大していく傾向が見られるようになると，原告について，保証金維持率割れが生じるようになった。Ｂは，毎日大引け後に手計算で原告の保証金維持率がどのようになるか算出し，原告に報告した。しかし，原告は，評価損になっている信用建玉の処分を嫌い，損失を拡大させた。
(4) 　争点4（損害額）
（原告）
原告は，信用取引開始後の平成11年11月1日から信用取引終了時の平成12年8月28日までの間の損益通算8798万5538円及び追証が発生したため原告が現物株を売却した代金4529万5299円の損失を被った。
（被告）
原告は，IT相場の下落局面において損失を出し，担当者であるＢから，信用建玉を決済して取引規模を縮小することを助言されたにも拘わらず，漫然と信用建玉の決済時期を先送りしたことから，結果的に決済時における損失額を極めて大きくしたものである。
第3 　当裁判所の判断
1 　前記前提事実並びに証拠（甲17，18，25，29，46，48の4～6，50，51，乙1，9の1・6～13，11，14の1～12，15の1～3，16の1～5，17の1～5，18の1～3，19の1～8，21の1・2，23，39ないし42，証人Ｅ，証人Ｃ，証人Ｂ，原告本人）及び弁論の全趣旨によれば，以下の事実が認められる。
(1) 　原告の経歴等
原告は，昭和21年生まれで，昭和43年に大学を卒業し，ａ社，ｂ社，ｃ社などの会社に勤め，主として貿易，通訳，翻訳の仕事をしてきた。
原告は，平成5年に退職して「ｄ」の屋号で，衣料品の輸入仲介などの業務に携わっており，海外出張も多く，仕事柄，契約締結に携わることもあった。被告との信用取引を開始した当時，53歳であった。
原告は，昭和58年5月に日興証券梅田支店（当時），昭和59年4月に野村證券梅田支店において，取引口座を開設しているが，その取引内容については，既に記録もなく，原告も株式取引はしていないと主張するのみで詳細を明らかにしないので不明である。
(2) 　被告での証券取引（平成2年から平成7年）
原告は，平成2年6月19日，被告において，保護預り口座を開設し，同月21日，投資信託（アクティブリバランス）の取引を最初にして被告での証券取引を開始した。
そして，同年7月にアリサワセイサク（以下，銘柄の表記は，被告の顧客口座元帳（乙10の1・2）ないし被告作成の取引明細（乙25）の記載による。ただし，「エヌティーティー」については「エヌティティ」と表記する。），ミツビシデンセンコウ，平成3年2月にトウキュウ，同年8月にナガノトウキュウヒャッカテンの各株式を購入した。しかし，同月にナガノトウキュウヒャッカテンの株式を売却し，約45万円の損失を出し，さらに，平成5年12月にその所有する株式，投資信託を全て売却して，約336万円の損失を出して，そのころ，カプコンの現物株，アジアダイナミックの投資信託を購入したが，平成7年にこれらを売却したときには，更に合計約170万円の損失を出している。
その間，平成6年には，原告が従業員持ち株制度で取得した，●●●，●●●，●●●の各株式を入庫し，まもなく売却し，売却代金をそのまま出金している。
(3) 　他の証券会社での取引経験等
原告は，平成10年10月にエヌティティドコモの公募株式が発売されると，そのころ相続した遺産を有効に活用しようと，同月13日に大和証券及び日興証券において，それぞれエヌティティドコモの公募株式を3株と2株購入し，同月15日には，野村證券において同株式を2株購入した（単価390万円。合計2730万円）。そして，さらに，同年11月16日には，日興証券に同株を1株（購入した証券会社不明）を入庫している。
原告は，同株式について，値上がりが確実であると考え，その取得に必死だったが，結局，上記株数しか購入できなかった。その後，いずれも売却して合計536万6505円の利益を出し（保有期間57ないし100日），日興証券に入庫したものについては459万8910円で売却している。
原告は，その後，平成11年8月までに，野村證券で1銘柄（パスコ），日興証券で2銘柄（エヌティティドコモ，ニホンオラクル），大和証券でも2銘柄（エヌティティ，タイホウコウギョウ），国際証券でも2銘柄（オラクルコープ，タイホウコウギョウ），岡三証券では24銘柄（フナイデンキ，マルワセラミック，サニックス，テイコクゾウキセイヤク，ショウコウファンド，シンニホンショウケン，ワコウショウケン，エヌティティデータ，ソフトバンク，ニッポンシンパン，ダイニデンデン，ユニデン，シスメックス，ヒガシニホンテツドウ，エイチアイエス，オカサンシヨウケン，クロダデンキ，アオイプロモーション，ニシマツケンセツ，カヤバコウギョウ，コジマ，ヒタチデンセン，マックスバリュトウホク，メイデンシャ）の現物株の取引をしている。
なお，原告は，その取引経験について，上記5証券会社（大和証券，日興証券，野村證券，岡三証券，国際証券）のものを認めるが，上記のとおり，平成10年11月16日に日興証券に1株のエヌティティドコモ株式を入庫して売却しており，他方，原告が取引したことがあるという5つの証券会社について，同株の出庫記録はないこと，同様に被告に入庫したワコウショウケン1000株（平成11年8月23日入庫），ニホンオラクルのうち700株（平成11年11月24日から平成12年2月18日の間に入庫），アルゼ，フジシール，ロームの各100株（いずれも同年3月16日入庫）の株式についても，調査嘱託にかかる上記5社に出庫の記録がないことに照らせば，原告は，他の証券会社でも証券取引をしていると認められる。
原告は，これら証券会社の担当者に対して，メーカーや営業の販売競争を例に挙げて，「どこの証券会社でも同じ商品が同じ価格で取引される。競争に勝つには顧客の利益優先で適切な投資アドバイスが必要ではないか。」などと述べている。岡三証券での取引についても，原告の自宅に同証券の従業員が熱心に訪問してきたことから，取引をするようになったものである。
(4) 　被告との証券取引（平成11年3月から信用取引の開始（同年8月）まで）
原告は，平成11年3月ころ，自宅に勧誘に来たＤが，以前被告において取引したカプコンの現物株が被告の預かりのまま100株残っていることについて，何とかしましょうなどといわれたことから，被告における証券取引を再開した。原告は，同月26日にジャストシステム及びフジソフトエービーシーの各株式を購入したのを始めとして，信用取引を開始した平成11年8月20日まで合計6銘柄（ジャストシステム，フジソフトエービーシー，カネマツ，エヌティティドコモ，エヌティティ，エスケイジャパン）の現物株の取引をしている。
Ｄが原告に対して取引の勧誘をすることは余りなく，原告は，被告の従業員の勧誘などを参考に，芦屋支店の店頭などで，来店する顧客の対応をしていた次長のＣ等に取引の注文をしていた。当時，原告は誰が自分の担当であるかとの認識はなかった。
また，原告は，被告と取引を再開した平成11年3月下旬から信用取引を開始する同年8月までの間，被告，岡三証券，野村證券，国際証券，日興証券の5社でも，現物株の取引をしており，その間，同年4月1日，同年6月25日，同年7月6日には，同じ日に2社と取引をしている。そして，購入した株式については，数日ないしは数か月で売却している。
現物株の取引においては，売買成立の日から4日目（以下「清算日」という。）に顧客が買付代金を渡して株券を受け取り，また，株券を渡して代金を受け取ることになっているが，被告における取引を見ると，原告は，約定日に決まった売買代金を1円の差もなく概ね清算日ないしその前日に入金し，また，売却代金については，概ね清算日ないしその翌日には，出金ないし振込送金させ，証券会社の口座には残金を残さないようにしていた。このようなやり方は信用取引を開始した後も平成11年内は変わらなかった。
(5) 　被告との信用取引の開始
原告は，同年8月ころ，被告芦屋支店を訪れた際，1階フロアにおいて，店頭で顧客の対応をしていた同店の次長Ｃから，信用取引についての説明を受け，信用取引に関するパンフレットを受領した。その際，Ｃは，信用取引は，証券会社から売買代金もしくは株券を借りて行う取引であること，無制限に保有できるわけではなく，決済期限があること，保証金として必要な金額や保証金維持率などについて説明し，信用取引では現物株の2倍，3倍の株式を購入できるから，利益も大きいが，現物株では，仮に（会社が）つぶれれば損はそれだけで済むが，信用取引では3倍を越える株式を購入できるので，損は大きくなるとの説明をした。
被告の信用取引に関するパンフレットには，「信用取引は，お客様に一定の保証金（委託保証金）を当社に担保として差し入れていただき，売付けに必要な株券（※）及び投資信託の受益証券（以下「株券等」と言います。）や買付けに必要な資金を当社からお客様にお貸しして売買を行っていただく取引です。なお，お貸しした株券等や資金は，あらかじめ定められた期限までに返済していただく必要があります。」「信用取引は，お客様の投資した資金に比べて大きな利益が期待できますが，その一方で価格の変動が予想と違った場合には，損失も大きくなります。」「委託保証金　売買代金の40％以上で，かつ100万円以上が必要です。」「委託保証金の現在価値が売買代金の20％未満となった場合には，不足額を翌々日正午までに当社に差し入れていただく必要があります。」との記載がある。
原告は，Ｃから説明を受けたその場で信用取引口座設定約諾書を差し入れることはせず，平成11年8月17日，被告担当者のＤに，署名捺印した信用取引口座設定約諾書を交付して被告に差し入れた。
原告は，同年8月20日にスズキの株式を信用買して信用取引を開始し，同月25日，同月27日にはフジツウビジネス，同月31日にはタカラザケ，同年9月1日フジツウの各株式について，いずれも信用買（新規）をした。信用買した金額は，合計で約1130万円である。
原告は，被告芦屋支店に設置されたクイックと呼ばれる株価情報の検索端末を操作し，他の証券会社の取引分も含めて，株価等を調べて，持参したノートに記載していた。
(6) 　オリックス株の信用取引
原告は，平成11年9月3日，被告芦屋支店を訪れ，Ｃに対し，後場（午後の証券市場）の引ける午後3時前に「オリックスの株1本」と言って　同株式の信用買（新規）の注文をした。
Ｃは，これをオリックスの株式1000株の注文と考えて，カウンターセールスと呼ばれる女性の営業担当者に同株式についてのパソコンでの発注操作を依頼し，成行で1000株信用買（新規）の発注をした。
その結果，単価1万3210円で100株，単価1万3240円で200株，単価1万3250円で700株の取引がそれぞれ成立し，Ｃは，直ちに原告に取引成立の報告をした。
しかし，原告は，「1本」というのは最小取引単位1本というつもりであって，オリックスのそれは100株であって，原告の意図していたところと異なった執行がなされたとして苦情を述べた。
Ｃは，発注取消しなどの操作をしようとしたが，成行注文であり，既に成立した取引であったことから，取り消すことはできなかった。
原告は，誤った発注が行われたことについて，不満に思い，同年8月31日現在の取引についての取引明細書等に対する回答書兼同意書に署名押印をしなかった。
しかし，原告は，その後も信用取引を続け，同年9月9日には，フジツウの株式1000株を信用買（新規）している（代金366万円）。
(7) 　被告担当者の交代
平成11年9月17日ころ，被告担当者がＤからＢに替わった。Ｂは，被告芦屋支店の営業次長であり，支店長に次ぐ地位にあり，営業職としての取扱高も同支店で一番多額であった。当時，Ｂの担当する顧客は300人程度おり，そのうち信用取引をしていた者は5，6人であった。
Ｂは，その営業活動の一環として，顧客の損益一覧表を随時作成していたが，被告芦屋支店で，このようなことをする従業員はＢのみであった。また，Ｂは，顧客の信用取引にかかる税額を軽減するため，現引，現渡といった手法を顧客に推奨した。すなわち，「現引」とは，「品受け」ともいい，買付代金を渡して株券を受け取って決済する方法であり，「現渡」とは「品渡し」ともいい，売付株券を渡して代金を受け取って決済する方法である。Ｂが推奨したのは，現引をして受け取った株券を直ちに売却する手法や，現引した株券を現渡して代金を受け取る手法である。通常の信用取引の決済よりも委託手数料がかかるが，税金の関係で顧客に有利になることがある。
Ｂは，原告に対しても，個々の取引ごとに計算をして，通常の取引とどちらが有利か比較検討し，その結果を原告に報告していた。これに対し，原告は，暗算が得意であることから，計算については1000円単位でするよう要求していた。
原告は，同年10月1日に，さらにオリックスの株式300株を信用買（新規）し，同月4日には，上記回答書兼同意書に署名，捺印の上，被告芦屋支店に持参した。
原告が苦情を言ったオリックスの株式合計1000株（信用買）は，同年10月25日及び同年11月2日にそれぞれ売却して合計約25万円の利益を出した。
(8) 　信用取引の増加
原告は，平成11年9月に3銘柄の株式について信用取引を行ったが，同年10月には5銘柄，同年11月には13銘柄，同年12月には14銘柄，平成12年1月は5銘柄，同年2月には21銘柄，同年3月には7銘柄，同年4月には11銘柄の信用取引をした。
原告は，Ｂに対して，儲けさせて欲しい旨申し述べ，被告の取引で大きな利益を得たときには，その見返りとして他の証券会社に預託している資産を被告に持ち込むつもりであるとの発言をした。
そして，同年11月12日にエヌティティドコモ1株，同月24日にニホンオラクル100株，12月27日にアイフル，エイチアイエス各200株を入庫し，担保代用証券にした。そのほかにも同年9月22日に購入したシークス1000株，同年10月7日に購入したオービックビジネス500株同年11月24日に現引したソニー100株を担保代用証券にするなどして，信用取引を拡大した。
Ｂに担当が替わってからも，原告は，これまでと同様，現物株を購入するに当たっては，清算日までに売買代金額と一致する現金を持参または振り込みで入金し，株式を売却した代金についても，全額清算日に出金した。信用買（新規）した株式を現引するに当たっても，その株式の購入代金額を被告に入金し，現引した株式を売却した代金や信用取引を決済して得た利益は，清算日に全額出金していた。
Ｂは，原告に対し，取引に関する大量の資料をファクシミリで送信していた。
(9) 　保証金維持率の低下
平成11年12月2日，原告の委託保証金が，30％を割る事態が生じた。信用取引の委託保証金は，取引総額の30％を割ると，決済を除き新たに信用取引をすることができなくなり，20％を割ると，委託保証金の入金ないし担保代用証券を入庫しなければならなくなる（追証）。
Ｂは，原告に連絡を取り，さらに，現在の建玉の合計金額，担保の評価額，金利等から，建玉の余力（あといくら信用取引を新規にできるか）を計算した書類を作成し，後場が終了した午後4時ころ，原告に送信した。その書面には，「明日朝一番ご連絡いたします。今日はご心配かけ，申し分けございませんでした。」との記載がある。なお，委託保証金維持率は，翌日の朝，ジャーナルとなって印刷されるが，随時，被告芦屋支店の端末で見ることができる。
保証金維持率は，その後も30％を割ることがあり，30％を割れたときの同維持率（ただし，約定日のもの。）は，別紙1の「保証金維持率」欄に記載のとおりである。
(10) 　大発会
平成12年1月4日に被告芦屋支店で大発会が行われ，顧客に酒が振る舞われた。原告は，同支店のカウンターの席に座り，Ｂ及び被告の総務課長と3人で酒を飲んだ。酔った原告は，Ｂらに対し，「Ｂ君は非常にいい。こんなにいい担当者は他にはいない。」と褒めた。
原告は，同月5日にニホンオラクルの株式100株を入庫し，翌6日には，約272万円を出金した。
(11) 　平成12年の取引状況
平成12年になると，現引をするに際して，その代金を正確に入金することはなくなり，口座の残高等を利用して，現引等の代金を支払い，現引した株式の売却代金で再び，現引等の取引をするようになった。しかし，信用取引による決済利益及び現引した株式の売却益については，まとまった金員を出金していた。すなわち，原告は，同年2月4日には1000万円，同月10日には1030万8816円の出金をしている。他方で，同月8日には421万0803円，同月14日には600万円（振込手数料込み）を入金している。そのころ，原告が被告の担当者に苦情を言うことはなかった。
(12) 　海外出張前後の取引といわゆるITバブルの崩壊
原告は，平成12年3月4日から同月12日まで欧州に出張した。その1週間前には，原告は，出張に向けての準備に忙しかったが，信用取引については継続して行い，同年2月25日には，カプコンとシバウラメカトロニクスの株式を信用買し，ファルコバイオシステムの株式を現引して売却し，合計271万1337円の利益を出し，同月28日には，アンドウデンキ，ニッツウコウ，インテック，ソフトバンクを信用買し，ハッコウの株式（信用買）を決済して，24万4786円の利益を上げ，さらに，ファルコバイオシステム，ニホンデンパ，カプコンの株式（信用買）を現引して，売却し，140万6990円の利益を出し，その清算日である同年3月2日ころに150万円を振込みで出金している。
そして，平成12年2月29日には，ソフトバンクの株式（信用買）を1189万9751円で現引して売却し，109万8915円の損失を確定している。原告は，その現引の清算日（同年3月3日）に振込手数料を含め1100万円を入金し，同日，1837万3036円を出金している。原告が信用取引で損失を確定させたのは，平成11年12月2日にフジツウの株式（信用買）を決済して25万8719円の損失を確定させて以来2度目である（ただし，そのときは，他の信用取引の決済等と併せて6万3649円の利益となっている。）。
そのころ（平成12年3月初め），原告は，Ｂから，保証金維持率が30パーセントを割り込んだと言われ，100万円を振込入金している。ただ，振込手続をした時間が遅かったため，原告が欧州に出発した後である同月6日に被告の口座に送金された。
また，原告は，同年3月1日にサンリオ，ソフトバンクについて信用買（新規）し，さらに同月2日，同月3日にそれぞれファルコバイオシステムの株式を信用買（新規）し，それに併せて，同月2日にシバウラメカトロニクスの株式（信用買），同月3日にソニー，アンドウデンキの各株式（信用買）を現引している。これが，原告が新規に信用取引をした最後になっている。これと前後して，いわゆるIT銘柄の株式の価額が下落を始め，同月3日の保証金維持率は24.8パーセントになった。すなわち，株価が下落を始めると，委託保証金の代わりに被告に預けている担保代用証券の株式の価値も下落し，保証金維持率が下落したものである。
同月6日には，保証金維持率が20パーセントを割り込み，原告は，Ｂの勧めで，タケダの株式（信用買）を決済して，3万6448円の損失を確定し，他方で，ファーストリテイリングの株式（信用買）を現引して，53万7765円の利益を出した。しかし，最終的に同日の保証金維持率は15.2パーセントとなった。そして，同月7日にもフジツウ，ニッツウコウの株式（信用買）を決済して58万7936円の損失を確定し，他方で，スミデン，フジツウの株式（信用買）を現引して売却し，68万6813円の利益を出して，同日の保証金維持率は22.7パーセントとなった。両日とも損益では通算して黒字となっている。
その後，保証金維持率は，同月8日27.3パーセント，同月9日24.8パーセント，同月10日27.4パーセントと推移した。
原告は，同月12日に帰国し，ワインを土産に，被告芦屋支店を訪れた。Ｂから保証金維持率が下がっていることを聞き，同月13日にアンドウデンキの株式（信用買）を現引して売却し，49万3696円の利益を出した。しかし，同日の保証金維持率は16.6パーセントであり，そのため，翌同月14日にもエヌティティドコモの株式（信用買）を現引するなどし，38万3182円の利益を出した。それでも同日の保証金維持率は13パーセントであったため，原告は，同月15日に400万円を入金し，同月16日にアルゼ，ローム，クロダデンキ，オリジントウシュウ，フジシール，オカサンショウケンの各株式を入庫して，漸く同日の保証金維持率が27.4パーセントに回復した。そこで，原告は，同月17日にソニーの株式を購入した。
この間，Ｂは，損失の出ている株式を売却（以下「損切り」という。）して，保証金維持率を回復させることを勧めたが，原告は，これを拒み，相場の回復を待ち，様子を見ていた。
同月24日に81万3752円を出金したところ，同日の保証金維持率が22.9パーセントとなり，原告は，同月28日に100万円を現金で入金した。
なお，同年2月28日から同年3月7日約定の株取引の発注時間及びその間にＢが原告に送信したファクシミリの送信時間は，別紙5のとおりである。
(13) 　取引終了
平成12年3月27日に再び保証金維持率が低下し，原告は，エヌティティの株式（信用買）を決済し，ソニー，エヌティティの現物株をそれぞれ売却したが，同日の保証金維持率は15.3パーセントであった。
その後，保証金維持率は17.7パーセントから29パーセントの間を推移し，同年4月4日には，14.2パーセントまで割り込み，同月5日，ソフトバンクの株式（信用買）を現引して，保証金維持率の改善を図った。
同月11日にもアオイプロモーションの株式を入庫したが，同月12日には保証金維持率が14.4パーセントとなった。
そこで，同月13日に50万円入金し，ハママツホトニクスの株式（信用買）を決済し，120万5459円の損失を確定，同月14日には同株式（信用買），トウヨウテクニカの株式（信用買）をそれぞれ決済し，合計で115万4092円の損失を確定したが，同月17日の保証金維持率は1パーセントになった。
その後，原告は，信用買した株式を次々と決済し，現物株も処分した。最終的には，同年8月28日にソフトバンクの株式（信用買）を決済し，1116万3457円の損失を確定して，信用取引を終了し，平成13年3月23日にオリジントウシュウの株式を出庫して，被告との取引を終わらせた。
原告は，信用取引が終了した平成12年8月31日までの取引について，取引明細書等に対する回答書兼同意書を被告に送付している。
2 　争点1（適合性原則違反の有無）について
証券取引法は，投資家の保護を目的として，証券会社に対し，投資者に対する投資勧誘をするに際しては，投資者の知識，経験及び財産状況等に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることのないよう，業務を営むことを定めている（証券取引法43条参照）。そして，本件のような信用取引は，提供される担保の数倍の取引が可能となるので，現物株の取引と比較して多額の利益が得られる可能性がある反面，損失が多大となる危険性も大きく，こうした投資家保護の要請は高いということができる。もっとも信用取引それ自身は，投資家の自己責任に委ねられるべき経済取引であるから，信用取引の仕組みについて理解能力を欠き，仮に適切な説明をされても理解が困難な者に対して勧誘するような特別な場合を除き，証券会社に対し信用取引を勧誘すること自体を回避すべき広範な注意義務を課すべきではない。上記のような証券取引法の規定等を考慮すると，証券会社が投資家に対し，信用取引を勧誘するに当たって，投資勧誘の方法，態様が投資家の投資目的，財産状況及び投資経験に照らして社会通念上著しく不適合であり，その結果として，当該投資家に損害を及ぼした場合には，私法上違法の評価を否定することはできず，証券会社は投資家に対して，不法行為責任を負うというべきである。
そこで，本件において，被告が原告に対して行った信用取引の勧誘及び態様が，原告の能力，投資目的，財産状況及び投資経験に照らして著しく不適合であったか検討する。
前記認定のとおり，原告は，大学を卒業後，ａ社などの会社に勤務し，平成5年に退職して，衣料品の輸入仲介等の自営業を営んでおり，信用取引開始当時は53歳であった。平成2年から7年にかけて被告において現物株の取引を行い，合計で，約550万円の損失を出して株式取引を中断し，その後，平成10年10月にエヌティティドコモの公募株式が発売されると，そのころ相続した遺産を有効に活用しようと，少なくとも2730万円を出して，これを取得し，数か月で売却して，500万円以上の利益を上げている。そして，平成11年8月までに被告を含め6社以上の証券会社と取引し，証券会社の担当者には，「競争に勝つには顧客の利益優先で適切な投資アドバイスが必要ではないか」などと述べ，同じ日に複数の証券会社で取引するなどし，信用取引を開始する平成11年8月までに岡三証券においては，24銘柄の現物株の取引をし，購入した株式については，その多くを数日ないし数か月で売却したことがそれぞれ認められる。
そうすると，原告の年齢，学歴，職業，投資目的，数千万の株式投資を行った財産状態，数百万の損失を被って株式取引を止めた取引経験，さらに，被告を含め少なくとも6社において並行的に行ってきた株式取引と岡三証券での多数の銘柄についての取引経験に照らせば，被告が，原告に対し，株の信用取引を勧誘したことが，著しく不適合であったということはできず，他にこれを認めるに足る証拠もない。
また，前記認定のとおり，原告は，Ｃから信用取引の説明を受けているものの，同人に信用取引口座設定約諾書を差し入れることはせずに，別の機会に被告の担当者であるＤにこれを交付して，被告に差し入れていること，Ｄは原告に執拗に投資の勧誘をしたことはなかったこと，さらに，原告は，信用取引を開始してから，少なくともオリックスの株式（信用買）については，自分で銘柄を選定し注文していること，原告は，信用取引を開始した後も，その所有する株式を入庫して，また購入した現物株をもって，信用取引の委託保証金に代わる担保代用証券とするなどして，信用取引を拡大していったことがそれぞれ認められ，原告が被告従業員から，強引かつ執拗な説明を受け，信用取引を開始したとも認められない。
さらに，原告は，Ｃが店頭での説明の際，「未経験者には一任勘定でやらせてもらっています。任せて下さい。」と説明したと主張するが，証券会社の従業員が他の顧客もいる店頭でそのような説明をあからさまにするとはにわかに考え難く，原告の信用取引開始後の入出金の状況を見ると，前記認定のとおり，信用買した株式を現引するにあたっては，その代金を1円単位で正確に入金し，その株式を売却した代金も全額出金していることが認められ，原告が主張するＣの説明と齟齬し，原告の主張は理由がない。かえって，前記認定のとおり，Ｃは，原告に信用取引に関するパンフレットを交付し，信用取引の仕組みや弁済期限，委託保証金について説明し，現物株では，つぶれれば損はそれだけで済むが，信用取引では3倍を越える株式を購入できるので，利益も大きいが，損も大きくなるとの説明をしたことが認められるのであるから，Ｃが明示黙示の欺瞞的な説明をして，取引を勧誘したとも認められない。
3 　争点2（無断売買の有無）について
原告は，Ｂが，原告が株の素人であったことと仕事の関係で連絡が取れないことを口実に，実質的な一任勘定取引に強引に持ち込み，事後承諾という形で無断で過当な回転売買を行ったと主張し，これに沿った証拠として，原告本人も，Ｂとは最初から連絡が取れずに，預り金が足りなくなると連絡が来るだけで，どの取引をしているのかの結果の報告もなかった旨供述する。しかし，前記認定のとおり，原告は，信用取引開始前である平成11年3月から同年8月までの被告での現物取引の際には，株式購入代金を1円単位で正確に入金し，売却代金については，全額を出金しており，当時，原告は，被告従業員の勧誘などを参考に店頭で注文をするなどしていたこと，その後，信用取引を開始した後も，その入出金状況に変わりはなく，取引する銘柄を自分で選定することもあり，現引するための代金については，1円単位で正確に入金し，現引した売却代金及び信用取引によってあげた利益についても，全額出金していること，入出金状況はＢが担当になってからも変わりはなかったこと，Ｂは，取引に関する資料を大量に原告にファクシミリで送信してきたことがそれぞれ認められ，原告が主張するように，信用取引開始当初から，被告の従業員が一任勘定取引を行って，無断で売買したとは認められない。
また，原告は，現引，現渡など全くわからなかった，被告が手数料取得目的のために勝手に行った旨主張するが，上記のとおり，原告は，現引に必要な株式購入代金については，1円単位で正確にその清算日ないしその前に入金し，その株式を売却した代金については全額出金しており，しかも，現引，現渡といった手間のかかる取引手法は，当時被告の担当者であったＢが顧客の利益を図って，営業成績を上げるために行っていたのであるから，原告に何の説明もせずに勝手に行うはずがなく，原告主張は認められない。
さらに，前記認定のとおり，被告の担当者であったＢは，顧客の損益一覧表を作成し，また，顧客に現引，現渡を推奨して，個々の取引について計算して通常の決済とどちらが有利か比較検討するなど，営業熱心で，さらに，原告は，信用取引の決済ないしは現引などの取引に併せて，1円単位で入出金を繰り返していたのであり，また，原告は，信用買と同時並行的に行っていた信用取引の決済や現引した株式の売却等の取引によって，利益を上げていたことがそれぞれ認められ，営業熱心なＢが，取引で利益を上げたことやその金額の報告を原告にしないはずがなく，また，株式の購入に必要な正確な金額は，Ｂ以外に説明する者が見当たらず，そうすると，それと並行してなされた信用買についてのみＢが無断で行ったとは認められず，原告の主張は理由がない。
以下，100万円以上の損失が出た信用買（新規）の取引（別紙1の「銘柄」欄に網掛けした取引。その損失額は同「備考」欄に記載のとおり。）に絞って個別に検討する。
平成11年11月11日約定のベル24の株式の信用買（決済時の損失242万7559円）は，同日，ヒタチソフトの株式（信用買）の現引及びそれに引き続く売却を行って，11万5863円の利益を上げている。営業熱心なＢが，利益を上げた取引について何ら報告しないとは考えられず，その現引の株式購入代金については，1円単位で正確に清算日の前日に入金されており，Ｂが，同じ日に行われた信用取引について何の説明もしないとは考え難い。また，前記認定のとおり，Ｂは，大量の資料をファクシミリで送信しており，そのようなＢの行動に照らしても，原告の主張は理由がない。
同月12日約定のセシールの取引（信用買。決済時の損失額347万6530円）についても，同日エヌティティの株式（信用買）の現引を行っており，その結果，35万5600円の利益を上げており，現引の購入資金は，前日の株式売却代金と信用取引の決済利益を充て，売却代金については，前日の信用取引の決済利益と併せて，これまた1円単位で正確に出金しており，同日に行われたセシールの取引についてＢが無断で取引をしたとは認められない。
同月22日約定のベル24の取引（信用買。決済時の損失額242万7559円。）についても，同日現引したセブンイレブン株式の購入代金について，同日約定のソニーの現物株の売却代金との差額をその清算日である同月26日に1円単位で正確に入金しており，また，セブンイレブンの売却により233万5310円の利益を上げており，前記同様Ｂがこれを報告しないはずがなく，同日行われたベル24の取引についてもＢが無断で取引したとは認められない。
同年12月13日のワールドの取引（信用買。決済時の損失額104万9367円）については，同日トランスコスモスの株式を現引しており，同月16日にその購入代金を正確に入金しており，これも，信用買の取引だけＢが無断で行ったとは認められない。
平成12年1月5日のフジツウの取引（信用買。決済時の損失合計535万4043円）については，同日タカラザケの株式（信用買）について現引し，100万6116円の利益を上げており，Ｂがその報告をしないとは考え難く，同日の取引も無断とは認められない。
さらに，同年2月3日約定のソフトバンク（信用買，信用売。決済時の損失額合計109万8915円）の取引についても，同日ニホンオラクルの株式を入庫しており，またその決済日（同月8日）に421万0803円を入金しており，当時，信用取引の損失が表面化していたわけではないことに照らしても，上記取引についてＢが無断で行ったとは認められない。
同年2月9日約定のセガの取引（信用買。決済時の損失額1773万4764円）についても，同月9日決済のソフトバンクの株式（信用買，信用売）の現引，現渡の取引により，158万1437円の利益を上げ，翌同月10日に同株式の売却代金1030万8816円をそのまま出金していること（そのころ，原告は，現引した株式の売却代金をそのまま出金することを当然には行っていない。），セガの株式の決済日（同月15日）に合わせて，ニホンオラクルの株式を入庫していることに照らせば，Ｂが，同月9日の取引について何らの説明をせず，無断で行ったとは認められない。
同月18日約定のフナイデンキ，ハママツホトニクス，セガの各取引（いずれも信用買。決済時の損失額合計782万1411円）については，同日，トランスコスモスの株式（信用買）を現引し売却して88万4994円の利益を上げたことからすれば，Ｂが，同日の信用取引についてのみ何ら説明をしないとは考え難く，また，同じ清算日の取引であるフナイデンキの現物株が公募株式であること，原告は平成10年にエヌティティドコモの公募株で多額の利益を上げたこと，公募株の入手は必ずしも容易ではないことに照らせば，上記フナイデンキの株式の信用買の際，原告とＢがその公募株の購入について何ら話をしないとは考え難く，Ｂがこれらの取引を無断でしたとは認められない。
また，同月28日約定のインテック，ソフトバンクの各取引（いずれも信用買。決済時の損失額合計1508万7916円。）については，同日のファルコバイオシステム，ニホンデンパ，カプコンの各株式（いずれも信用買）を現引して売却し，合計207万8729円の利益を上げており，その決済日に150万円を出金していることに照らせば，同日行われた上記信用取引についてＢが何ら説明せず，無断で行ったとは認められない。なお，ソフトバンクの取引については，前記認定のとおり，同日午前9時46分に注文をしているのに対し，Ｂは，同日午前11時10分にソフトバンクの資料を送付していることが認められるが，原告は，その後である同年3月1日の午前10時及び午後1時にも同銘柄の信用取引をしていることが認められるから，Ｂが，継続的にソフトバンクの資料を送付していたことは否定できず，これをもって無断取引であったと認定することはできない。また，そのような資料を送信しているということは，その前に電話ないし口頭で，同株式の購入を勧め，その後，裏付け資料を送信した可能性も否定できず，いずれにしても，無断売買があったということできない。
さらに，同年3月2日約定のファルコバイオシステムの取引（信用買。決済時の損失額1315万6126円）については，同日シバウラメカトロニクスの株式（信用買）を現引して，売却し，33万2296円の利益を上げており，これをＢが報告しないはずがなく，Ｂが同日行われた上記信用取引について何ら説明せず，無断で行ったとは認められない。なお，原告は，Ｂが同取引について売買注文後に同株式の資料をファクシミリで送信していることを指摘するが，原告は，ファルコバイオシステムの株式を同月2日午前9時，午後1時，翌同月3日の午前9時にも信用買しており，上記ソフトバンクと同様，2回目の購入直後に資料を送信したことをもって，無断売買であると断定することはできない。
次に同月3日約定のファルコバイオシステムの取引（信用買。決済時の損失額302万8263円）については，同日ソニー及びアンドウデキンの各株式（いずれも信用買）について，現引して，売却し，合計295万1323円の利益を上げており，これをＢが報告しないはずがなく，同日行われた上記信用取引について何ら説明せず，無断で行ったとは認められない。
なお，平成11年11月25日約定のセシールの取引（信用買。決済時の損失額347万6530円），同年12月9日約定のベル24の取引（信用買。同321万5055円。），平成12年2月22日約定のソフトバンクの取引（信用買。同2237万2389円），同年3月1日のサンリオ，ソフトバンクの各取引（いずれも信用買。同2388万6466円）については，いずれもその日には信用取引しか行われていないが，前記認定のとおり，Ｂがその他の大きな損失を出した信用取引について無断で行ってはいなかったこと，原告には，細かい金額についても随時報告をして，原告は，信用取引開始当初，数か月は，現引に必要な株式購入代金を1円単位で正確に入金し，その売却代金を全額出金しており，さらに，原告は，Ｂに対し，計算書類については，暗算が得意なので1000円単位で正確に記入するよう要請していたこと，原告が欧州に出張に行く前までは，原告の信用取引はいずれも利益を上げていて，Ｂが隠し立てする必要がなかったことに照らせば，これらが無断取引であったとは認められない。
また，原告は欧州出張中の平成12年3月4日から同月12日の取引についても，いずれも無断取引であると主張するが，前記認定の同期間中の保証金維持率に照らせば，これらの取引は保証金維持率が低下したため，その率をあげるために行われた信用取引（信用買）の決済と株式（信用買）の現引，売却の取引であって，緊急の必要があってなされたものと窺えること，その出張は原告が9日間にわたり日本を離れるものであり，それまで頻繁に信用取引を行っていた原告が，連絡先も告げずに出張に行くとは考えがたいこと，原告は，同年2月29日約定のソフトバンクの現引，現渡の取引で109万8915円の損失を確定させ，その決済日である同年3月3日に振込手数料込みで1100万円を送金し，1837万3036円を出金していることからすれば，この取引で損を出したと知っていたこと，他方，欧州出張中の取引については通算で損失が出ないように，信用取引の決済と現引，売却の取引が組み合わされており，Ｂから原告に対する報告に支障があるとは考えがたいこと，そして，前記のようなこれまでの原告の取引経過，態度に照らせば，Ｂが，全く説明しないまま，無断でこれらの取引をしたとは考え難く，原告の主張は理由がない。
なお，原告は，信用取引を開始した平成11年8月から同年12月までの取引においては，現引のための株式購入代金を1円単位で正確に入金し，その売却代金を全額引き出していたが，同年1月からは，そのようなことはなくなり，同年2月からは信用取引の銘柄数が増えているが，前記認定のとおり，原告のこれまでの入出金状況，原告が1000円単位での計算を求めていたこと，上記認定のとおり，同年2月まではいずれの信用取引も利益を上げており，その上で所有する株式を新たに入庫するなどして，担保代用証券を増やして，取引を拡大していることが認められ，これらからすれば，平成12年に入ってからの入出金状況と取引の拡大のみをもって，被告が無断で取引をしたとは認め難く，また，原告は，信用取引開始当初から一任勘定取引の無断売買をしていた旨，実際の取引内容と明らかに矛盾する虚偽の供述をしていることからしても，平成12年に入ってからの取引が無断売買であったとは認められない。
また，原告は，顧客口座元帳の記載によれば，平成11年9月21日にトランスコスモスの株式について，単価3万6650円，2000株の取引が成立し，取引成立後，取り消し処理がなされているが，原告には，かかる取引の報告がなされておらず，これは，約定ミスの発覚をおそれて取引報告書の送付を怠ったものであり，また，同年12月17日のトランスコスモスの株式について取消しの取引報告書が原告に送付されているが，これに対応する顧客口座元帳の記載がなく，これは，被告が大量のトランスコスモス株式の決済するに際し，決済相手を間違ったために発生した誤発注とその取消処理であって，被告が原告の口座を支配していたことの証左であると主張する。確かに，上記各取消処理がなされたことに争いがないが，これについて，被告は，前者については顧客口座元帳への入力ミスであり，システム上抹消できないため，取消処理がなされたに過ぎず，証券市場に発注されたものではなく，後者については，同じ機会になされた複数の取引について，その一部についてあたかも決済損失が生じたような体裁になったため，原告主張のとおり，決済相手の信用売をどの分にするか変更したものであって，証券市場への注文内容と関係するものではなく，証券市場に対する誤発注は存在しないと説明し，上記説明を覆す証拠は見当たらない。結局のところ，上記処理は，被告の事務処理上の訂正処理ないし体裁を整えるための処理であって，無断売買とは関係がなく，原告の主張は理由がない。
なお，被告は，原告が，市場が開いている前場後場を通じて，最高で1日5時間被告芦屋支店に滞在していたと主張し，それに沿った証人Ｂ証人Ｅの供述も存し，原告は，この事実を否定するが，仮に，これらの供述が虚偽のものであったとしても，上記のとおりの取引経過に鑑みれば，無断取引が認められないことに変わりはない。
4 　争点3（善管注意義務違反の有無）について
証券取引は，投資者の責任と判断によって行うものであるが，その投資判断には，高度の証券投資に関する知識，情報収集，分析能力等を必要とするのであって，広範に情報を収集し，その情報を的確に分析することは一般投資家が容易になし得るものではなく，そのため，一般投資家は，証券取引の専門家である証券会社の勧誘ないし助言，指導に依存して証券取引を行うことも少なくない。他方，証券会社は，こうした一般投資家を証券取引に誘因することによって，手数料収入を得ており，一般投資家の取引頻度や取引金額が多いほど自己の利益が多くなり，顧客を過当な取引に誘う危険が内在している。
こうした一般投資家と証券会社の利害関係，投資家保護に関する証券取引法の規定の趣旨等に照らすと，証券会社が顧客の取引口座に対して支配を及ぼし，顧客の信頼を濫用して，顧客の利益を犠牲にして手数料稼ぎ等の自己の利益を図るため，顧客の資産状況，投資目的，投資傾向，投資知識，経験に照らして，過当な頻度，数量の証券取引を勧誘することは，顧客に対する背任的行為として，私法上も違法と評価すべきである。
前記認定のとおり，原告は，平成2年から平成7年の被告における現物株の取引によって，多額の損失を被り，一旦証券取引から遠ざかっていたものであり，その後，遺産を相続したことから，これを運用しようと考え，当時公募されていたエヌティティドコモの株式の取得に奔走し，合計約2700万円を投じて，同株式を取得して証券取引を再開したものであり，同株式についても数か月で売却し，500万円以上の利益を得たものである。その後も証券会社5社において現物株の証券取引を続け，平成11年2月から取引を開始した岡三証券においては，同年8月までに24銘柄の取引を行ってきたもので，株式の保有期間も数日から数か月であり，被告においても，同年3月に取引を再開し，同年8月まで6銘柄の株式の取引を行ってきたものである。そして，原告は，証券会社を訪れ，クイックと呼ばれる端末を操作して，株価情報を入手し，被告従業員の勧誘などを参考にその購入を検討し，信用取引を開始してからは，自らの判断でオリックスの株式の発注をしたりしていたものである。原告は，当該オリックスの株式についてＣによる誤発注があったと苦情を述べた後も，信用取引を続け，Ｂが担当になった後も，新たにその所有する株式を入庫し，また，被告において購入した株式を担保代用証券にするなどして，信用取引を拡大してきた。しかも，その取引は，一定金額を証券会社に預け，その運用を証券会社の担当者に任せ切りにするのではなく，株式購入代金については，その都度，清算日の前日ないし当日に，1円単位で入金し，売却代金は，即日出金していたものである。担当者のＢも，証券投資の資料をファクシミリで随時送信するなどして，情報提供をしてきたもので，これに対し，原告もＢに対し，1000円単位の正確な情報の提供を要求してきたものである。平成12年に入り，取引ごとに細かく入出金するのを止め，1000万円といった大きな金額の入出金をするようになってからも，被告の担当者に苦情を言うことなく，信用取引を拡大し，平成12年3月にいわゆるIT銘柄の株価が下落傾向になり，同月8日には保証金維持率が30パーセントを切るようになったが，原告は，信用買した証券を売却し，さらに，その所有する株式を入庫したものの，損失が出ていた信用取引を決済して，ないしは現引した株式を売却して損失を確定させたのは，同年4月13日約定のハママツホトニクスの株式の決済が最初であり，その保証金維持率が1パーセントになった同月17日から，信用取引の決済及び現物株式の売却を本格化させたことがそれぞれ認められる。
確かに，原告は一般投資家であり，原告の信用取引の取引額は，原告の試算によると1年間で新規の取引が9億0697万5210円，決済の取引が3億6603万3000円と個人投資家としては相当多額であるが，上記のとおり，原告は，既にエヌティティドコモの株式などで多額の証券投資を行ってきており，資産状況が証券投資に耐えられないものとはいえず，その投資目的も遺産の運用であって，証券投資に適合しないともいえず，また，その取引内容も短期での取引が中心であって，自ら情報収集を行い，その判断で証券取引を行ってきており，細かく入出金も行い，被告担当者には1000円単位の計算を求め，その中で担保代用証券を増やしてきたもので，これは証券会社担当者の動静に注意しながら，取引を拡大してきたと評価しうる。そうすると，原告が証券会社の担当者の言いなりに取引を続けてきたとはいえない。原告は，平成12年に入り，取引ごとに入出金することを止め，取引回数が増え，1000万円近い金員の入出金を繰り返したころにも，被告の担当者であるＢに何ら苦情を言っていない。
したがって，本件において，被告の従業員であるＢが，原告の取引口座に対して実質的に支配を及ぼして，顧客の信頼を濫用し，顧客の利益の犠牲の下に手数料の利益を得るために，顧客の資産状況，投資目的，投資傾向，投資知識，投資経験に照らして過当な頻度，数量の証券取引を勧誘したと評価することはできない。
原告の損失は，短期反復売買及びこれに対する手数料の支払に原因があるのではなく，平成12年2月までに増加させた信用取引について，株価の下落した同年3月以降も，これを損切りすることをせず，利益の出る株式のみを処分し，その所有する株式を入庫するなどして，相場状況を窺っているうちに，さらに，株価が下落して，損失額が膨らみ，保証金維持率が1パーセントとなってから，信用株式の決済，現物株の処分などの損切りを本格化したところ，最終的には，原告主張の損失額になったというのが相当である。
なお，原告は，Ｂに対し，200万円前後を1取引の限度額とするよう強く指示していたと主張するが，前記認定の別紙1記載のとおり，Ｂに担当が替わる（平成11年9月17日）前である同月1日のフジツウの株式の信用買（新規。代金328万円），同月9日の同株の信用買（新規。代金366万円）はいずれも代金額が200万円を大きく超えており，さらに，Ｂに担当が変わった直後の同月22日，原告は，シークスの現物株（代金504万9875円）を購入しており，これも代金額が200万円を大きく超えており，また，原告はその清算日である同月28日に同額（振込手数料込み）を入金しているから，原告がこれを知らないはずがなく，上記主張は，その取引内容と矛盾し，理由がない。
また，原告は，平成2年から平成7年の取引は平均1回103万円であり，平成11年3月から同年8月までの取引も1回平均63万円であり，原告には，株式取引の知識，経験がないと主張する。しかし，前記認定のとおり，原告は，平成3年8月のナガノトウキュウヒャッカテンの株取引，平成5年12月のカプコンの株取引では，270万円を超える株式を購入しており，前者の取引で約46万円，後者の取引で約155万円の損失を出すなどし，その後の取引で更に損失を出してからは，証券取引を中断しており，平成10年10月にはエヌティティドコモの株式に2730万円以上の金額を投資して証券取引を再開し，これを数か月で処分して530万円以上の利益を受けており，さらに，平成11年2月からの岡三証券での株取引では，多数の銘柄の株式について数日ないし数か月で転売し，利益を上げており，平均取引額のみをもって，原告の取引経験を判断することは相当ではなく，原告の主張は理由がない。
さらに，原告は，平成12年4月の無断売買により，多額の損失を被ったとの主張もしているが，原告の損失が確定した同月13日以降の売買をみると，既に保証金維持率が20パーセントを割り込んだ後の取引であって，原告自身も被告が，強制反対売買せずに損失の拡大を防止しなかったと主張しており，平成12年4月以降の無断売買の主張は理由がない。なお，原告は，その主張するところの強制反対売買（これは，顧客が委託保証金を定められた日までに預託しないなど，信用取引の約定に違約した場合に，証券会社が任意に顧客の計算において，反対売買（信用売（新規）に対しては買戻し，信用買（新規）に対しては転売して，それぞれ差額の受払を行うこと。）できることを指すものと考えられる。）を被告がしなかったことを違法と主張するが，証券会社が顧客のために上記反対売買をしなければならない根拠は見当たらないから，その主張も理由がない。
また，原告は，Ｂが，平成12年12月2日に，建て余力が「－224万8107円」であるとファクシミリで送信したにも拘わらず，同月3日には，335万円のエヌティティドコモ株を信用買しており，これは，信用取引口座設定約諾書に反するものであると主張するが，前記認定のとおり，原告は，委託保証金に代えて入庫した株式を担保代用証券にしており，これは，株価の変動により，保証金維持率が変動することを意味し，そうすると，前日の取引終了時に保証金維持率が30パーセントを割り込んでも，翌日には，回復することはあり得るものであって，原告の主張は，被告の違法な取引を直ちに推認させるものではない。
5 　結論
以上のとおり，その余の点を判断するまでもなく，原告の請求は理由がないから，これを棄却することとし，よって，主文のとおり判決する。
（裁判官　松葉佐隆之）

〈以下省略〉

*******

売れる！ビジネスPR

勝てる！政治選挙PR

★お問い合わせ★

■どぶ板選挙ドットウィン！にしかできない「地獄のどぶ板PR代行」の強み
(１)「地獄のドブ板」に特化した広報PR支援会社ですので、一番しんどい部分のみご相談ください
 (２)候補(予定)者の認知度拡大に向けて、貼る場所(箇所)に差をつける！どぶ板PRマーケティング
 (３)どぶ板実績No.1 ポスタリストの豊富な経験と実績で、候補(予定)者の選挙区をPRで完全包囲
 (４)政治活動に必須となる地域密着型どぶ板PRで候補(予定)者と有権者を繋ぐご挨拶回り握手代行
 (５)選挙立て札看板(後援会連絡事務所)の設置交渉代行で、半永久的に絶対的な知名度を確立する
 (６)ご挨拶回り！ビラ手渡し！ポスター貼り(掲示交渉)！街頭演説！で、どぶ板の相乗効果を狙え

■どぶ板選挙PR代行の流れ
■どぶ板OJTとは？
■どぶ板同行OJT内容(座学研修および実地特訓)
■どぶ板OJT当日配布資料
■どぶ板の学校オンライン
■ドブ板選挙にはじまり、どぶ板選挙で終わる！

以下の「ポスターPR党」画像をクリックし、全国における弊社の掲示交渉実績をご覧いただけます。
【実績一覧】地域ポスター広告PRのための【ポスターPR党】新規掲示許可交渉代行

ポスターPR党許可貼り(1)	ポスターPR党許可貼り(2)	ポスターPR党許可貼り(3)

ポスターPR党許可貼り(4)	ポスターPR党許可貼り(5)	ポスターPR党許可貼り(6)

ポスターPR党許可貼り(7)	ポスターPR党許可貼り(8)	ポスターPR党許可貼り(9)

ポスターPR党許可貼り(10)	ポスターPR党許可貼り(11)	ポスターPR党許可貼り(12)

ポスターPR党許可貼り(13)	ポスターPR党許可貼り(14)	ポスターPR党許可貼り(15)

ポスターPR党許可貼り(16)	ポスターPR党許可貼り(17)	ポスターPR党許可貼り(18)

ポスターPR党許可貼り(19)	ポスターPR党許可貼り(20)	ポスターPR党許可貼り(21)

ポスターPR党許可貼り(22)	ポスターPR党許可貼り(23)	ポスターPR党許可貼り(24)

ポスターPR党許可貼り(25)	ポスターPR党許可貼り(26)	ポスターPR党許可貼り(27)

ポスターPR党許可貼り(28)	ポスターPR党許可貼り(29)	ポスターPR党許可貼り(30)

以下の「政治選挙ポスター」画像をクリックし、全国選挙区における弊社の掲示交渉実績をご覧ください。
【実績一覧】選挙立候補予定者のための【政治選挙ポスター】新規掲示許可交渉代行

政治選挙ポスター掲示許可交渉(1)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(2)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(3)

政治選挙ポスター掲示許可交渉(4)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(5)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(6)

政治選挙ポスター掲示許可交渉(7)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(8)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(9)

政治選挙ポスター掲示許可交渉(10)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(11)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(12)

政治選挙ポスター掲示許可交渉(13)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(14)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(15)

政治選挙ポスター掲示許可交渉(16)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(17)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(18)

政治選挙ポスター掲示許可交渉(19)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(20)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(21)

政治選挙ポスター掲示許可交渉(22)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(23)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(24)

政治選挙ポスター掲示許可交渉(25)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(26)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(27)

政治選挙ポスター掲示許可交渉(28)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(29)	政治選挙ポスター掲示許可交渉(30)

メディア関係者様向けのプレスリリース記事 


ポスタリング	掲示交渉実績	お問い合わせ

無料ワッポン	どぶ板MENU	握手挨拶代行

よくある質問	各種資料一覧	お申込み流れ

ポスターPR党	どぶ板OJT	弁士相手探し

党員獲得代行	選挙妨害対策	立札看板交渉

①新規開拓PR	②他党多党PR	③一戸建てPR

⑧政策ビラPR	ポスタリング	④集合住宅PR

⑦意外注目PR	⑥公的公共PR	⑤独占単独PR

【よくある質問 Q&A 一覧】
■街頭ポスター貼り(掲示交渉)代行について
Q&A【1】街頭ポスター貼付(掲示交渉代行)サービスとはどのようなものですか？
Q&A【2】どのくらいの期間で何枚くらいの街頭ポスター貼付ができるのですか？
Q&A【3】街頭ポスターを貼る際は先方(許可承諾者)に許可をいただいて貼るのですか？
Q&A【4】ポスターの①貼付依頼～②貼付開始～③貼付完了等の流れについて教えていただけますか？
Q&A【5】ポスターの料金は１枚いくらで貼ってくれるのですか？
Q&A【6】ポスターの貼付エリアや貼り付け枚数等は指定できますか？
Q&A【7】ポスター貼付後のメンテナンス(貼り替え・剥がし)も依頼できますか？
Q&A【8】最低何枚から街頭ポスター貼りを依頼できますか？
Q&A【9】ポスター貼り替え期間の指定はできますか？貼りっぱなしではないですか？
Q&A【10】街頭ポスターの貼付交渉(新規掲示)の実績や事例はありますか？

■政治活動における広報支援について
Q&A【11】「ドブ板選挙プランナー」とはどのようなお仕事ですか？
Q&A【12】「ポスタリング」とはどのようなサービスですか？
Q&A【13】政治活動等の特殊な業界についてのポスター掲示交渉は難しいですか？
Q&A【14】政治活動用の街頭ポスター(二連|三連)貼りをお願いしたいのですが、特定政党の支援は可能ですか？
Q&A【15】政治活動におけるポスターについて公職選挙法や政治資金規正法等の知識はありますか？
Q&A【16】街頭で無料の「ウィン！ワッポン」をよく見かけますが、これで選挙の勝率が上がりますか？
Q&A【17】二連ポスターや三連ポスター製作前に「弁士の相手」のご提案もしてくれますか？
Q&A【18】ポスター「掲示責任者代行」とはどのようなものでしょうか？
Q&A【19】選挙妨害やその他クレーム対応等の代行も可能でしょうか？
Q&A【20】政治活動(選挙運動)における広報支援プランはどのようなものがありますか？

■営業専門会社による広報PR支援について
Q&A【21】飛び込み訪問、戸別訪問、挨拶回り代行等、ポスター貼り以外でもお願いできますか？
Q&A【22】飲食店や実店舗等の店内やトイレ等にポスターを貼ったり、ビジネスカード設置、チラシ配布等は可能ですか？
Q&A【23】全国どこでもポスター貼りが可能なのですか？

■ご検討中の方々に
Q&A【24】お問い合わせについて
Q&A【25】資料をダウンロード
Q&A【26】ノウハウ・テクニックを大公開！

■ご依頼(お申し込み)の前に
Q&A【27】お申し込みの流れ
Q&A【28】ご用意いただきたいもの

■ご依頼(ご契約)の後に
Q&A【29】進捗報告について
Q&A【30】お友達ご紹介キャンペーンについて

【ポスター【制作前の】候補予定者様】のメニューです。

「政治活動用ポスターのデザイン」は、こちらです。
公職選挙法規定の法的審査(レギュレーションチェック)対応済みの、個人ポスター、２連ポスター、３連ポスター等のデザインを制作！

「弁士相手探しマッチング」は、こちらです。
「探して、交渉して、お隣りへ！」理想の有名人や著名人の弁士相手を探して、地域有権者に対して認知度拡大の相乗効果を狙う！

「ポスターの掲示責任者代行」は、こちらです。
【全国対応】ポスターを掲示した選挙区からのクレーム対応・妨害等の「総合窓口」として、ポスター掲示責任者の代行をいたします。

【ポスター【制作後の】候補予定者様】のメニューです。

政治活動期間における「どぶ板専門！ポスター貼り(掲示交渉)代行」は、こちらです。

【稼働の流れ】
①新規ご挨拶回り|戸別訪問代行|握手代行
選挙区(指定エリア)の有権者(民家・飲食店・その他施設)に対して、候補予定者に代わって選挙ドットウィン！が直接ご訪問致します。

②名刺|ビラ|リーフレット等の手渡し配布
候補予定者と有権者を繋ぐため、名刺・ビラ・政策レポート・討議資料・リーフレットなど活動報告資料の直接手渡し配布を致します。

③留守宅|候補者PR資料ポスティング投函
ご訪問先がご不在の場合には、配布物を郵便受け等にポスティング投函致します。(想定ターゲットに完全100パーセントのリーチ率！)

④政治活動ポスター貼り(新規掲示交渉！
【完全成果報酬】地獄のドブ板活動に必須となる、政治活動用ポスター貼り(新規掲示交渉代行！)(貼れた分だけの枚数課金となります)

⑤掲示(貼付)後のフォロー|クレーム対応
ポスター掲示(貼付)完了後における掲示許可承諾者へ、フォローやクレーム対応等のストレスな部分は選挙ドットウィン！が致します。