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裁判年月日 平成16年 1月28日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平15(ネ)1960号
事件名 各損害賠償請求控訴事件
文献番号 2004WLJPCA01286011
裁判経過
第一審 平成15年 2月27日 東京地裁 判決 平11(ワ)3946号・平(ワ)23373号 損害賠償請求事件
出典
証券取引被害判例セレクト 23巻320頁
評釈
田端聡・全国証券問題研究会
裁判年月日 平成16年 1月28日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平15(ネ)1960号
事件名 各損害賠償請求控訴事件
文献番号 2004WLJPCA01286011
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は,控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人X1及び控訴人X2に関する部分を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は,平成9年12月23日,東京地方裁判所に破産申立てをし,平成10年9月30日破産宣告を受けた丸荘証券株式会社(丸荘証券)との間で,平成9年中に外国債券の取引を行い,損害を被った者及びその相続人である被控訴人ら(訴え提起後の訴訟承継人を含む。)が,損害を被ったのは丸荘証券の取締役らの悪意又は重大な過失によるものであるとして,控訴人らほか6名の取締役らに対し,商法266条の3に基づき,各自の損害の4割及びこれに対する訴状送達の日の後である平成11年11月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた2件の訴訟が併合された事案である。
原審は,代表取締役であった控訴人らのほか1名の取締役について請求を全部認容し,3名の取締役について請求を一部認容してその余の請求を棄却し,2名の取締役について請求を全部棄却したところ,控訴人らのほか,請求を全部ないし一部認容された取締役らが控訴したが,控訴人ら以外の取締役については弁論が分離されて和解が成立している。
2 「争いのない事実等」,「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は,控訴人らの当審における主張を次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」第2の1ないし3の関係部分に記載のとおりであるから,これを引用する。
(控訴人らの当審における主張)
(1) 丸荘証券においては,販売員は全て外務員資格を有し,大蔵省の外務員登録原簿に登録されており,社内教育等を通じて顧客に対する説明の重要性は十分理解していた。社内体制としても,セールスプロモーション(SP)委員会を組織するなどして販売員に本件販売債券の商品性やリスク等を伝達し,本件販売債券の原資産の発行会社であるインドネシアのダーマラ・インティウタマに関する企業情報もファックスにより各営業店に伝達していた。外国証券販売説明書も作成されており,販売員もその内容は理解しており,被控訴人等の本件販売債券の購入者に対してもこれを交付し,投資確認書を徴求していた。控訴人らに取締役として任務懈怠はない。
(2) 被控訴人ら等本件販売債券の購入者らは,本件販売債券が,国債等と同様に安全な商品でも,元本が確実に保証される債券でもないことを十分に理解していた。「ペレグリン」も「ING」も国の名前ではない。なお,外国証券販売説明書に発行体であるペレグリングループの財務内容が記載されていても,他方で発行体は担保証券について債務保証を行っていないことが明記されていたのであるから,本件債券の安全性について誤解を招くおそれはなかった。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人らの控訴人らに対する請求はいずれも理由があると判断する。その理由は,次のとおり,原判決を訂正し,控訴人らの当審における主張に対する判断を付加するほか,原判決「事実及び理由」第3の関係部分に説示されたとおりであるから,これを引用する。
(原判決の訂正)
(1) 原判決31頁17行目の「39」を「39の1ないし32」に改める。
(2) 同38頁13行目の「販売員に対して周知されていなかった」を「格付会社の格付けがないか,格付けがあってもBB-以下の格付けしかない債券のリスクとして,販売員に具体的に認識されてはいなかった」に改める。
(3) 同40頁25行目の「これらの陳述書」から同41頁1行目までを次のとおり改める。
「これらの陳述書は,アンケートの形式によって作成されているためにそれ自体回答の正確性には限界があり,客観的にも外国債券の購入を含む投資経験や購入原資の記載について不正確なものがあることが認められるが(丙52),購入者である被控訴人ら等の素朴な印象や記憶が記載されたものとして,控訴人らの主張を排斥する証拠資料足り得るものである。」
(4) 同48頁4行目の「販売員に」の次に「本件販売債券の格付けに相応する」と加える。
(控訴人らの当審における主張に対する判断)
(1) 控訴人らは,丸荘証券においては,顧客に対する説明義務の重要性を十分認識した販売体制をとっていたとして,控訴人らには取締役としての任務懈怠はないと主張し,控訴人X2(控訴人X2)は,丸荘証券における外国債券の販売は,バブル崩壊後の株式相場の低迷と利回りの低下という状況のもとで顧客のニーズに合った商品提案を行ったものであり,為替リスクの現実化という経験を踏まえて為替リスクをヘッジした外国債券として売り出された外国債券の一つが本件販売債券であり,営業担当者は全て証券外務員資格を持ち,SP委員会を通じて商品性やリスクの理解を徹底させる体制を整えていたものであり,外国証券販売説明書を交付していないとか,投資確認書を事後的に受け入れるようなことが慣習化していたはずはない旨述べている(乙402,405,原審控訴人X2本人)。
しかしながら,SP委員会は,それまでの部店長会議に加えて,当時の社長であった控訴人X1が平成5年ころ発案して行われるようになった営業の第一線での販売担当者を中心とした新しい金融商品の販売促進のための勉強会であり,特に顧客に対する説明義務を意識したものとは認められず,控訴人らが主催したり,出席していたものではないことが認められる(乙405,406)。SP委員会においては,本店国際部において外国債券を担当していたAが,本件販売債券を含む外国債券について講師として説明したことはあったことが認められるが(丙49),それは一般的な仕組みの説明にとどまり,本件販売債券の格付けに相応したリスクについて特に説明が行われたものとは認められない。
また,外国証券販売説明書の交付や投資確認書の徴求の実情は,原判決認定のとおりであり,控訴人らも特にその履行状況について注意を払っていたわけではないことが認められる(乙405)。
一般に,債券の格付けについては,投資適格があるのはBBB格以上とされており,BB格以下は投機的等級とされているところ,本件販売債券は,格付会社の格付けがないか,あってもBB-以下であったのであるから,このような債券を証券会社が一般顧客に販売する場合には,単に一般的な外国債券の仕組みとリスクについて説明するだけでは足りず,安全性の程度が,インドネシアという発展途上国の企業の,一般には投機的とされる格付けのものであることについて明確に説明すべき義務があったというべきである。原判決認定の事実及び挙示の証拠によれば,控訴人らは,かかる説明を行う体制を構築する職責を,少なくとも重大な過失により怠ったものと認めざるを得ない。
したがって,控訴人らに取締役として任務懈怠はないとする控訴人らの主張は採用できない。
(2) 控訴人らは,被控訴人ら等本件販売債券の購入者らは,本件販売債券のリスクを十分認識していたと主張するが,原判決認定の事実及び挙示の証拠によれば,本件販売債券の購入者らは,一般的な外国債券の仕組みと本件販売債券が国債とは法的性質を異にするものであることについて抽象的な理解はあったものと推認されるが,上述した本件販売債券のリスクについて具体的な認識があったものとは到底認められない。なお,本件販売債券の外国証券販売説明書に発行体であるペレグリングループの財務内容が記載されていたことは,他方で発行体は担保証券について債務保証を行っていないことが記載されていても,ペレグリングループの財務内容があたかも本件販売債券の安全性にかかわるかのような印象を与えるものであり,本件販売債券の安全性について誤解を招くおそれがあったことは,原判決に説示されたとおりである(この点はINGユーロ円債についても同様である。)。
その他,控訴人らは,るる主張するが,いずれも上記判断を左右するものではない。
2 よって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大藤敏 裁判官 髙野芳久 裁判官 佐藤道明)
(別紙)
当事者目録
東京都大田区〈以下省略〉
控訴人 X1
東京都世田谷区〈以下省略〉
控訴人 X2
2名訴訟代理人弁護士 松下照雄
同 宮崎拓哉
122名訴訟代理人弁護士 田中清治
同 藤村眞知子
同 青木秀樹
同 井口多喜男
同 木之瀬幹夫
同 坂勇一郎
同 桜井健夫
同 佐藤淳
同 中野和子
同 花輪弘幸
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