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裁判年月日 平成17年 6月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平１６（ワ）１５６６４号
事件名 取締役報酬請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2005WLJPCA06280004
要旨
◆被告である親族会社の取締役（原告）の報酬が一方的に減額された後、親会社である持ち株会社（被告株式を一〇〇パーセント保有）の取締役会の決議を経ずになされた被告の株主総会（本件株主総会）における原告の解任の決議につき、取締役であった原告から被告に対する役員報酬減額の無効及び解任の無効を前提とした取締役報酬請求が、報酬の減額について原告の同意が得られていないこと、原告の解任は親会社の取締役会の決議を経ることを要する重要な業務執行行為に当たるのに、それを経ずになされた無効な議決権の行使に基づいてなされ、かつ、招集手続にも重大な瑕疵があるものであるとし、本件株主総会決議は法律上存在しないものと解さざるを得ないことからいずれも認容された事例
出典
新日本法規提供
参照条文
商法２５４条
商法２６９条
裁判年月日 平成17年 6月28日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平１６（ワ）１５６６４号
事件名 取締役報酬請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2005WLJPCA06280004
原告 Ｘ
訴訟代理人弁護士 中村知己
被告 株式会社ｙ
代表者代表取締役 Ａ
訴訟代理人弁護士 原武之
田淵智久
主 文
１ 被告は、原告に対し、２４１６万７７４８円及びうち７５６万円に対する平成１６年７月１日から支払済みまで年６分の割合による金員を支払え。
２ 被告は、原告に対し、平成１７年６月２５日限り１５０万円を支払え。
３ 訴訟費用は被告の負担とする。
４ この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第１ 請求
主文同旨
第２ 事案の概要
本件は、被告の取締役を務めていた原告が、取締役会決議も株主総会決議もなしに取締役報酬を減額され、更に取締役を解任されたとして、
〈１〉訴え提起時までの未払取締役報酬及び遅延損害金
〈２〉主位的にそれ以後の取締役在任期間中の取締役報酬
予備的に商法２５７条１項に基づく同額の損害賠償の支払を求める事案である。
１ 争いのない事実等
(1) 被告は、セールスプロモーションの企画、立案等を目的とし、平成１４年１２月２日にａ株式会社（当時の商号はａ’株式会社、以下「ａ」という。）から会社分割（新設分割）されて設立された株式会社であり、ａの１００％子会社である。
(2) 原告は、平成１４年１２月２日、前記会社分割に際して被告会社の取締役に就任し、平成１５年６月２７日に取締役に重任された。原告の取締役としての任期は平成１７年６月までである。
(3) 原告が被告の取締役に就任する際、その取締役報酬は月額１５０万円と定められ、その支払期日は毎月２５日である。
(4) 被告は、原告に対し、取締役報酬として、平成１５年９月から平成１６年２月までの間月額１２０万円を、同年３月及び４月に月額１２万円をそれぞれ支払い、その後は全く支払をしない。
(5) 被告は、原告に対し、平成１６年５月７日付けの書面で、同年４月２８日に開催された被告の臨時株主総会において原告を取締役から解任した旨通告した。
２ 争点
(1) 平成１５年８月２６日に原告の取締役報酬を減額する旨の被告取締役会決議がされたか
（被告の主張）
平成１５年８月２６日に行われた取締役会兼経営会議において、原告の取締役報酬を２０％減額することを決定した。
（原告の主張）
否認する。被告の主張する日に、被告代表者、原告、Ｂ取締役等が集まり、その席で被告従業員であるＣをセクシャルハラスメント及び不正行為を理由として懲戒解雇することとされたのと関連して、原告の取締役報酬減額の話が出たことは事実であるが、この会合は適法な召集手続きが行われておらず、しかも、被告代表者が一方的に決定を宣言したのみであるから、採決がされているとはいえない。
(2) 原告が同決議による取締役報酬の減額に同意したか
（被告の主張）
平成１５年８月２６日の決議の際、原告は取締役報酬の減額に同意した。原告は、被告から振り込まれた減額後の報酬１２０万円を異議なく受領している。
（原告の主張）
否認する。原告が取締役報酬の減額に同意した事実はない。取締役報酬は原告の生活の糧であり、少ない金額で承服できないものであっても受領せざるを得なかったのであるから、これをもって、減額に同意していたと見なすことは不当である。
(3) 平成１６年３月２日に原告を営業統括から解任し、その取締役報酬を減額する旨の被告取締役会決議がされたか
（被告の主張）
平成１６年３月２日に行われた取締役会兼経営会議において、原告を営業統括の職務から解任し、非常勤取締役にすることを決定した上で、営業不振を理由に非常勤取締役の役員報酬２０万円を４０％減額することを決定した。
（原告の主張）
否認する。被告の主張する日に、被告代表者、原告、Ｂ取締役等が集まり、その席で被告の主張するような話が出たことは事実であるが、この会合は適法な召集手続きが行われておらず、しかも、被告代表者が被告の主張するような話を一方的に発表したのみで、採決は行われていない。
(4) 原告が同決議による取締役報酬の減額に同意していたか
（被告の主張）
平成１６年３月２日の決議の際、原告は取締役報酬の減額に同意した。
なお、取締役報酬を減額するということは原告が最初に提案したことである。
（原告の主張）
ア 否認する。原告が取締役報酬の減額に同意した事実はない。
イ 非常勤取締役の報酬が２０万円であるなどということについては何ら社内規定もなく、その場でも全く話にすら出ていなかったことである。
(5) 平成１６年４月２８日の原告を取締役から解任する旨の株主総会決議の存否及び効力
（被告の主張）
ア 平成１６年４月２８日午後１時より被告本店において株主総会が開催され（以下「本件株主総会」という。）、その際に原告を取締役から解任する件が決議された（以下「本件株主総会決議」という。）。
イ 原告は、子会社の取締役の解任に関する議決権の行使は重要な業務執行であって、ａの取締役会決議を必要とする旨主張するが、このような見解は独自の見解であって、「重要ナル業務執行」に該当するか否かの判断は取締役会自らがなすべき事項である。
ウ 以前ａは浅草事務所の業務と新宿事務所の業務を行っていたところ、平成１４年１２月の会社分割により、浅草事務所の業務はａ’株式会社が、新宿事務所の業務は被告が行うこととされ、被告の運営及び管理監督は被告及びａの代表取締役であるＡが行うことが決定された。したがって、被告における取締役の選任、取締役報酬の決定等の株主総会における決議についても、ａの取締役会を経ることなく、それぞれを担当するａの代表取締役による議決権の行使により行われているのであるから、被告における取締役解任に関する議決権の行使は、ａの「重要ナル業務執行」に該当しない。
エ 仮に、被告の取締役解任に関する議決権の行使について、ａの取締役会の決議が必要であり、本件株主総会における議決権行使が無効であったとしても、それにより株主総会決議が無効とはならないのであって、総会決議の取消原因となるにすぎない。
（原告の主張）
ア 被告の主張するような株主総会が開催された事実はない。
イ 仮に、被告代表者が被告の１人株主であるａの代表取締役として、被告の株主総会と称して原告の解任を決定していたとしても、子会社の取締役の解任に関する議決権の行使は重要な職務執行に当たるから、ａの取締役会決議を必要とするところ、このような決議は行われていない。
ウ 「重要ナル業務執行」に当たる事項についての決定を代表取締役に一任することはできないというべきである。
エ 取締役会の決議事項に「支配人其ノ他ノ重要ナル使用人ノ選任及解任」があるが、子会社取締役の任免が支配人等の任免より重要でないとする根拠はない。殊に、本件のように親会社が子会社の１人株主である場合には、子会社取締役の任免に関する議決権の行使は、子会社取締役の任免そのものである。ましてや、親会社が純粋持株会社である場合には、もっぱら子会社の利益を配当という形で受領しているのであるから、子会社の経営状態は親会社の利益に直結する重要事項であり、親会社が子会社をコントロールする最も重要な手段は子会社取締役の任免に他ならない。したがって、少なくとも、親会社が子会社の１人株主かつ純粋持株会社である場合には、子会社取締役の任免に関する議決権行使は、重要な職務執行に該当するというべきである。
オ 被告は、親会社の取締役会決議を経ていないことは、本件株主総会決議の取消原因になるに過ぎない旨主張するが、被告の株主はａのみであり、その議決権行使が無効であるということは、誰も有効に議決権を行使していないということであるから、そもそも株主総会決議があったと評価するに値しない。すなわち、株主総会決議は不存在というべきである。
(6) ａの取締役会は被告による原告の取締役解任を追認したか。
（被告の主張）
ａの取締役である被告代表者、Ｄ、Ｅの３名は、平成１６年６月２１日に開催された被告の株主総会に出席し、原告の解任を承認しているから、本件株主総会における、被告代表者による原告解任の件についての議決権の行使は、ａの取締役会により追認されている。
（原告の主張）
ア 追認の事実は否認する。被告が追認の証拠として提出する乙４号証は、本件紛争が表面化してから作成されたものであり、被告の株主でない被告代表者、Ｄ、Ｅの３名が株主として記載されているなど、形式・内容とも支離滅裂であり、信用性に乏しい。
イ 仮に、被告の主張するとおり追認が行われているとしても、その効果が発生するのは追認時である。
(7) 原告に競業避止義務違反、忠実義務違反という正当な解任事由があったか。
（被告の主張）
平成１６年２月ころ、原告は、被告の取締役の地位にあったにもかかわらず、被告の従業員であったＦ、Ｇ、Ｈを誘い、従来被告が行っていたインターネットによる販促用の文房具等の販売業務を被告とは別の会社を設立して行うことを企て、平成１６年３月１８日には、被告と競業するインターネット等を通じての通信販売業務、文房具用品の販売等を業とするｂ株式会社（現商号ｂ’株式会社）を設立し、自らが代表取締役に就任した。そして、同社は設立後直ちに被告の取引先に対する営業活動を開始した。これらの原告の行為は、明らかに取締役の競業避止義務、忠実義務に違反しており、原告を被告の取締役としたまま原告の行動を放置すれば、原告の設立した会社が被告の関連会社であるとの誤解を生み、被告に損害が生じることも予想されたことから、本件株主総会を緊急に開催し、原告を解任したものである。
（原告の主張）
ア 被告とｂとは、単純に会社の目的の文言のみを比較すると文房具の販売という点では重なるものといえるが、実際には全く異なる業態であって、競業関係にはない。すなわち、被告は、企業が販促等に用いる景品類（ノベルティグッズ）の企画・製造・販売等を行っており、企業に対するプロモーション活動が主なものであるのに対し、ｂが行うこととされていた一般的な市販の文房具類の販売は、ａの別の子会社であるｃ工業が行っていたものである。
イ 被告代表者は、原告からｂ設立の話を聞いた際、一旦は原告による新会社の設立を了承していたにもかかわらず、突如として解任を主張し出したものである。
ウ 原告がｂを設立するに至ったのは、被告代表者によって不当な報酬減額を強行され、自らの地位に危機感を感じたことから、新規に事業を興すことを考えざるを得なかったものである。
(8) 被告が、原告の競業避止義務違反、忠実義務違反を主張することが信義則に違反するか。
（原告の主張）
仮に、原告の取締役解任が有効であり、かつｂが被告と競業関係にあると評価されたとしても、ｂの設立や同社の代表取締役への就任を理由として原告の解任に正当事由がある旨を被告が主張することは、同社の設立の経緯に照らし、著しく信義則に反する。
ア 被告代表者は、平成１４年１２月の会社分割に際し、取締役会による選任のないまま勝手に代表取締役として登記を行い、抗議した原告に対し、取締役を解任すると述べた。
イ 平成１５年８月２６日の経営会議において、合理的理由なく、原告の取締役報酬を２０％減の１２０万円に削減した。
ウ 原告が、ａの株主等に対して、不正行為を理由として、被告代表者の解任を申し入れたところ、それを知った同人は営業不振を理由として、役員全員の報酬の４０％削減及び原告を非常勤取締役とすることを主張するに至り、その結果原告への報酬支給額を不当にも１２万円にまで減額した。しかも、本件訴訟において、現実には報酬を減額されたのは原告のみであって、他の取締役である被告代表者及びＢの報酬は何ら減額されていないことが判明した。
エ こうした一連の原告排除の流の中で、原告は新会社を設立して独立することを考えざるを得なくなり、平成１６年３月４日に被告代表者に了承を求めたところ、同人も一旦は了承した。
オ 被告代表者は、同月２２日頃には、原告のパソコンを使用できなくし、その翌々日には原告の机を撤去するなどして原告に出社を断念させ、新会社への移行を余儀なくさせた。
カ このように新会社に移行せざるを得ないような状況に追い込んでおきながら、さらには一旦了承した新会社の設立を根拠として、原告の解任に正当事由があると主張することは、著しく信義に反し、到底許されない。
（被告の主張）
争う。
(9) 原告が、被告の取締役会決議又は株主総会決議の不存在又は無効を主張することが信義則に違反するか。
（被告の主張）
原告は、〈１〉取締役会召集手続き及び議事録の瑕疵、〈２〉被告の１人株主であるａの代表者でもある被告代表者が被告の株主総会で議長を務めることの違法、〈３〉原告の取締役解任についてのａの取締役会決議の欠如、という違法事由を主張しているが、原告は、被告が〈１〉ないし〈３〉のような方式で運営されてきたことを熟知していたから、これを根拠として自己に不利な決議に関してのみ意思決定の無効ないし不存在を主張することは信義則に反し許されない。
（原告の主張）
信義則違反の主張は争う。本件においては、被告における経営会議についても、株主総会についても、原告自身が議事録の作成に関与したことはなく、また、減額や解任を了承した事実はないのであって、これを信義則違反とされるいわれはない。
(10) 原告はそもそも取締役報酬請求権を有していないか。
（被告の主張）
原告の取締役選任及び取締役報酬の決定自体がａの取締役会決議を経ずに行われたものであるから、原告はそもそも被告の取締役報酬請求権を有していない。
（原告の主張）
被告は、設立以来原告を取締役として登記し、月額１５０万円の取締役報酬を支払ってきたのであって、原告が被告の取締役となること及び月額１５０万円の取締役報酬を受領することに関係者全員が同意していたものである。
(11) 原告の解任に正当な理由がないとした場合の原告の損害額
（原告の主張）
原告の解任には正当な理由がないが、それによって原告は、取締役を解任されなければ取締役の残存在任期間中に得られたであろう利益、すなわち、残存期間中の役員報酬相当額の損害を被った。
（被告の主張）
争う。
第３ 当裁判所の判断
１ 本件の事実関係について
証拠（甲１ないし４、５の１ないし８、１０、乙１ないし３、５、６、８、１２ないし１４、１８の１及び２、原告、被告代表者）及び弁論の全趣旨により認められる本件の事実関係は以下のとおりである。
(1) 原告と被告代表者の父であるＩは、昭和２２年７月、その兄弟たちとともに文房具等の販売等を業とするａ（設立時の商号はａ’株式会社）を設立した。
(2) 原告と被告代表者は、昭和５８年１２月、ともにａの取締役に就任し、平成２年８月には代表取締役に就任した。また、Ｉの兄弟の子、すなわち、原告及び被告代表者の従兄弟に当たるＪ及びＤもａの代表取締役に就任していた。
(3) ａの発行済株式１００万株は、すべて創業者の一族によって所有されているところ、被告代表者はそのうちの約１３％に当たる１２万８９３３株を所有する筆頭株主であり、原告は約１０％に当たる１０万２０００株を所有する第２位の株主である。
(4) ａは、浅草と新宿に事務所を置き、浅草事務所においてはＪ及びＤが文房具の製造販売の業務を、新宿事務所においては原告及び被告代表者がセールスプロモーションやノベルティグッズの販売の業務を、それぞれ独立に行っていた。
(5) ａのこのような業務の実体に合わせるために、平成１４年１２月２日に会社分割が行われ、浅草事務所が行っていた業務を新たに設立されたａ’株式会社が、新宿事務所が行っていた業務を同じく新たに設立された被告がそれぞれ承継するとともに、それまでのａ’株式会社はａ株式会社に商号を変更した上で、ａ’株式会社と被告のそれぞれ１００％の株式を所有する持株会社となった。
(6) それと同時に、原告は、ａの取締役を退いて被告の取締役に就任した。また、被告代表者も被告の代表取締役に就任して、被告とａの代表取締役を兼任することとなった。このほか、ａの取締役であったＢも被告の取締役に就任した。また、ａの取締役には被告代表者のほか、ＤとＥが残留し、被告代表者とＤが代表取締役となった。
(7) 被告における取締役の報酬は、株主総会においてその最高限度額を定め、取締役会において各取締役への具体的支給額を定めるという方法で決定されており、これに基づいて原告は、月額１５０万円の取締役報酬を受領していた。また、被告における取締役報酬の支給日は毎月２５日であった。
(8) 被告においては、毎週火曜日午前中に経営会議と称する会議が開催され、取締役３名（原告、被告代表者、Ｂ）のほか、Ｋ業務統括、Ｌらが参加して、営業報告、予算、決算、経営方針等の被告運営上の重要な問題について報告や協議が行われていた。
(9) 原告は、被告代表者について、子会社を通じての不正請求、被告代表者が経営する会社への不正貸付け、被告の粉飾決算等の不正行為があるとして、かねてからその業務運営を批判していた。
(10) 平成１５年８月２６日の経営会議において、被告代表者及びＢから、被告従業員のＣが部下にセクシャルハラスメントを行ったことなどを理由として、同人を懲戒解雇するとともに、その上司に当たる原告について、監督不行届を理由として２０％の減給処分を行う旨の提案がされ、原告の反対を押し切って、その旨の決定がされた。それ以後、被告から原告に対し、それまでの取締役報酬の８０％に当たる１２０万円が支給されるようになった。
(11) 平成１６年３月２日の経営会議において、被告代表者から、営業不振により役員報酬を同月から４０％カットする旨、及び、原告を営業統括から解任し、非常勤取締役とする旨の提案がされ、原告の反対を押し切って、その旨の決定がされた。同月以後、被告から原告に対し、役員報酬として月額１２万円が支給されるようになった。
(12) その直後ころ、原告が被告代表者と協議したところ、被告代表者は原告に対し、来期以降原告を被告の取締役に選任しない旨を告げたので、原告は、知人から持ちかけられていた企業向けのオフィス用品等の調達システムの販売を目的とする新会社を設立する旨を被告代表者に告げた。同月１８日、原告は、各種企業の物品（事務機器、紙類、文具等）の共同調達業務及び調達代行業務等を目的とするｂ株式会社を設立し、その代表取締役に就任した。
(13) 同年４月２８日付けで、同日被告の臨時株主総会が開催され、被告代表者から、取締役の競業避止義務違反及び忠実義務違反を理由として、原告を被告の取締役から解任したいとの提案がされ、それが可決されたとの記載がされた株主総会議事録が作成されている。
(14) 同年６月２１日付けで、被告の株主総会が開催され、原告を取締役から解任した旨が報告された旨の記載がされ、被告代表者、Ｄ及びＥの記名押印がされた被告株主総会議事録が作成されている。
(15) 原告の被告取締役としての任期は、平成１７年６月までである。
２ 争点(2)及び(4)（原告が取締役報酬の減額に同意していたか）について
株式会社において、定款又は株主総会決議ないしこれに基づく取締役会決議により取締役の具体的報酬額が定められた場合には、その報酬額は会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会ないし取締役会が、取締役の報酬についてこれを無報酬とする旨、あるいはこれを減額する旨を決議したとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、前記報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。
そこで、本件においては、平成１５年８月２６日及び平成１６年３月２日の経営会議における決定を被告の取締役会決議と見なすことができるか否かについて検討するに先立ち、まず原告が取締役報酬の減額に同意していたか否かについて検討する。
被告は、平成１５年８月２６日及び平成１６年３月２日の決議の際、原告は取締役報酬の減額に同意していた旨主張し、被告代表者の本人供述及び陳述書（乙１２）並びにＭ及びＢの陳述書（乙１３及び１４）中にはこれに沿う部分がある。しかしながら、原告は、その本人供述及び陳述書（甲１０）において、前記各経営会議の席で、取締役報酬の２０％減額及び４０％減額の提案に対して反対した旨の、前記被告代表者らの供述等に反する供述をしている。また、被告において出席取締役の了解を取ることなく作成した前記各経営会議の議事録（乙１、２）においてすら、原告が前記各決議に同意したとの記載はない。これに加えて、本件において、原告が前記各会議における大幅な取締役報酬の減額に同意せざるを得ない状況にあったとの事情は何らうかがわれない。以上の事情を総合すると、前記各会議において、原告が２０％ないし４０％もの大幅な報酬の減額に同意していたとは到底認めるに足りないというべきである。
また、被告は、原告が被告から振り込まれた減額後の報酬を異議なく受領していたとも主張するが、被告において減額後の取締役報酬を一方的に原告の口座に振り込み、これに対して原告が特段の措置を執らなかったからといって、特段の事情のない限り、これをもって直ちに原告が報酬の減額に同意していたとすることができないことは明らかであり、本件全証拠をもってしても、前記特段の事情の存在は認められない。
そうすると、仮に前記各経営会議を被告の取締役会議と見なすことができるとしても、原告は、前記各会議における取締役報酬の減額に同意していたとは認められない以上、原告は減額にかかる取締役報酬請求権を失わないのであるから、この点についての被告の主張は理由がない。
３ 争点(5)（原告を被告の取締役から解任する旨の株主総会決議の存否及び効力）について
(1) 原告を被告の取締役から解任するに際してａの取締役会決議を要するか
被告は、平成１６年４月２８日に開催された本件株主総会において、原告を取締役から解任する件が決議された旨主張するところ、原告は、子会社の取締役の解任に関する議決権の行使は重要な職務執行に当たるから、これについてはａの取締役会決議を必要とするところ、このような決議は行われていない旨主張する。
そこで検討するに、前記認定の事実、殊に、被告の全株式を所有するａは、原告及び被告代表者の先代がその兄弟たちと設立した株式会社であり、その全株式を創業者の一族が所有する同族会社であること、原告はａの発行済み株式の１０％を超える株式を所有し、被告代表者に次ぐ２番目の大株主であること、原告はかつてａの代表取締役を務めていた者で、会社分割により被告が設立された際に被告の取締役に就任した者であること、以上の事実に照らすと、被告において原告をその意に反して取締役から解任した場合には、それ自体が、かつてａの代表取締役を務め、現在でもａの第２の大株主である原告に重大な不利益を与えるものであるのみならず、それによりａの筆頭株主である被告代表者と第２の大株主である原告との間に深刻な紛争が生じることが容易に予測されるのであるから、原告を解任することは、被告はもとより、その持株会社であるａの業務にも重大な影響を及ぼす決定であると考えられる。以上の事情を考慮すると、子会社の取締役をその意に反して解任することが常に親会社の取締役会の承認を要する事項であるといえるか否かという点はさておき、本件において原告をその意に反して被告の取締役から解任することは、ａの取締役会の決議を経ることを要する重要な業務執行行為に当たるものというべきである。
(2) ａの取締役会決議を欠いた被告代表者の行為の効力
本件において、原告を被告の取締役から解任するに際して、ａの取締役会が事前にこれを了承する旨の決議を行った事実のないことは被告も争わないところであるから、被告代表者が本件株主総会において行った、原告を取締役から解任する旨の議決権の行使には、被告の１００％の株式を所有するａの取締役会の決議を欠いたという瑕疵が存在するということになる。そして、株主である会社の代表取締役による議決権の行使は、多数の相手方が存在するために当該行為の効力を画一的に定めることを要するという場合には当たらないと考えられるから、取締役会の決議を経ないでされた代表取締役による議決権の行使は、当該議決権行使の相手方である株式会社において取締役会決議を経ていないことを知り又は知ることができたときでない限り、有効であると解するのが相当である（最高裁判所昭和４０年９月２２日第三小法廷判決民集１９巻６号１６５６頁参照）。
そこで検討するに、本件株主総会における議決権行使の相手方である被告が、ａにおける取締役会決議の欠如という瑕疵について善意であるか否かは、その代表者である被告代表者の認識に基づいてこれを決すべきである（民法１０１条１項）ところ、同人は取締役会決議を欠いた議決権行使を行ったその当人であるから、被告代表者すなわち被告は、被告代表者が株主であるａの代表取締役として行った議決権の行使について、ａの取締役会決議を経ていないという瑕疵があることを知っていたものと解せざるをえないこととなる。
したがって、被告代表者が本件株主総会においてａの代表取締役として行った議決権の行使は、法律上必要とされるａの取締役会決議を経ておらず、しかもその相手方である被告もそのような瑕疵があることを知っていたものと解される以上、法律上無効なものというべきである。
(3) 本件株主総会決議の存否
以上のとおり、本件においては、被告の株主総会において、被告代表者がａを代表して、原告をその意に反して取締役から解任する旨の決議をするためには、株主であるａの取締役会の決議を経ることを要すると解されるところ、本件ではそのような決議を経ておらず、しかも、その相手方である被告もその事実を知っていたと解すべきであるから、結局、被告代表者による前記議決権の行使は効力を有しないということになる。
次の問題は、このように無効な議決権の行使に基づいてされた、本件株主総会決議の効力をどのように解すべきかということになる。そして、商法２４７条１項３号において、決議に特別の利害関係を有する株主が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされた場合を、株主総会決議の取消原因として規定していることなどを考慮すると、本件株主総会において被告代表者がａを代表して行った議決権の行使が無効である場合にも、それは本件株主総会決議の取消原因たるにとどまるものと解するのが相当であるとも考えられる。
ところで、株主総会は、取締役会の決議に基づいて代表取締役が召集すべきものであるが、本件においてはそのような召集手続きが採られたとの事情はうかがえない。もとより、被告のような株主が１人だけの会社、いわゆる１人会社においては、その１人の株主が出席すればそれで株主総会は成立するのであって、それ以上に特段の召集手続きを必要とするものではない（最高裁判所昭和４６年６月２４日第一小法廷判決民集２５巻４号５９６頁参照）。しかしながら、この法理は、問題となっている株主総会に出席した者自身が株主であることを前提としたものであって、株主総会の召集手続きが株主に対して相当の準備のもとに株主総会に出席する機会を保障することを目的としていると解される以上、その株主自身がその利益を放棄して、株主総会の開催に同意した上で、決議をしたという場合には、これを無効とすべき理由がないという根拠に基づくものと解されるのである。しかるに、本件において議決権を行使した被告代表者は、被告の株主ではなく、被告の１００％の株式を所有しているのはａであり、被告代表者はその代表取締役の１人であるというに過ぎない。そして、本来株主総会が、会議の目的たる事項を明示した書面による事前の通知に基づいて、それに対する準備に要する相当な期間を置いた上で開催されるべきものである（商法２３２条）以上、当該決議事項が株主たる会社の取締役会の承認を要する事項であって、そのような取締役会の承認が得られていないために、株主たる会社を代表して株主総会に出席した者が、これについて議決権を行使する権限を有しないという場合には、そのような代表者が行った当該決議事項についての全員出席総会開催に対する同意も、当該決議事項についての議決権の行使と同様に、無効たるを免れないものというべきことになる。そうすると、本件株主総会については、原則に立ち返って、召集手続きを行うべきであったのにこれが行われていないという瑕疵が存することになり、しかも、既に説示したとおり、そこで行使された議決権もすべて効力を有しないことになるというのである。このように、本件株主総会における本件株主総会決議には、法律上必要とされる召集手続きが執られておらず、しかもそこで行使された１００％株主である会社の代表者による議決権の行使は法律上無効であるという重大な瑕疵が存することになるのであるから、これを法律上の意味における株主総会と見なすことは困難であるというべきであり、結局、本件株主総会決議は法律上存在しないものと解さざるを得ないというべきである。
実際上も、本件株主総会においては、取締役解任決議の対象となる取締役である原告への事前の通知が全くされておらず、現実にも原告はこれに出席していないのであるから、このような適法な招集手続を欠く株主総会による解任決議を取消し得べきものにとどまると解するときは、解任される取締役は自己の知らないうちに解任され、かつ、出訴期間の経過によりこれを争う途を閉ざされることにもなりかねないのであって、著しく妥当性を欠くというべきである。
(4) 小括
以上のとおり、原告を被告の取締役から解任する旨の本件株主総会決議は、法律上存在しないというべきであるから、原告は同決議によっては被告の取締役の地位を失っていないものと解される。
４ 争点(6)（ａの取締役会は被告による原告の取締役解任を追認したか）について
被告は、ａの取締役である被告代表者、Ｄ、Ｅの３名は、平成１６年６月２１日に開催された被告の株主総会に出席し、原告の解任を承認しているから、本件株主総会における被告代表者による原告解任の件についての議決権の行使は、ａの取締役会により追認されている旨主張し、被告代表者の本人供述及び陳述書（乙１２）並びにＭ及びＢの陳述書（乙１３及び１４）中にはこれに沿う部分があるほか、被告の株主総会議事録と題する書面（乙４）には、平成１６年６月２１日に被告の株主総会が開催され、その第３号議案として、取締役人事報告と承認と題する案件が掲げられ、原告に不穏当な行動が続いた為適法な手続の上取締役を解任した旨が記載された上、出席株主欄に被告代表者、Ｄ、Ｅの記名押印がされている。しかしながら、乙第４号証は被告の株主総会議事録であって、そもそもａの取締役会議事録ではない。しかもそこに株主として記載されている者たちはａの取締役であって、被告の株主ではなく、さらにＥはａの株主でもない。以上のとおり、被告が追認の証拠として提出する乙第４号証には種々の疑問が指摘できるのであって、被告の主張するように、ａの取締役たちが被告の株主総会に出席して、本件株主総会決議における議決権の行使を承認したといえるのかそもそも疑わしいといわざるをえないし、仮にそのような事実があったとしても、これをもってａの取締役会が開催されたということも困難であるというべきである。しかし、仮にこの点を措くとしても、本件株主総会決議が不存在とされるのは、既に説示したとおり、そこでの被告代表者による全員出席総会開催についての同意及び議決権の行使に、株主であるａの取締役会の承認を欠くという重大な瑕疵があり、そのために法律上必要とされる招集手続を欠いた本件株主総会を法律上の意味における株主総会とみなすことは困難であるという理由に基づくものである。したがって、仮に、被告の主張するように、平成１６年６月２１日に開催された被告の株主総会に、被告代表者を含むａの取締役が出席して、原告を被告の取締役から解任したことを承認し、これをａの取締役会による承認とみることができるとしても、それに基づいて新たに原告を解任する旨の決議を行うというのであればともかく、法律上の意味における株主総会と見なすことはできないとされた本件株主総会決議が、それにより法律上存在することになるいわれはないものといわなければならない。
したがって、この点についての被告の主張は理由がない。
５ 争点(9)（原告が被告の取締役会決議又は株主総会決議の不存在又は無効を主張することが信義則に違反するか）
被告は、原告は、被告の１人株主であるａの代表者でもある被告代表者が被告の株主総会で議長を務めるという違法事由や、原告の取締役解任についてのａの取締役会決議の欠如という違法事由があることを熟知していたから、これを根拠として意思決定の無効ないし不存在を主張することは信義則に反し許されない旨主張する。
しかしながら、本件全証拠によっても、原告において、被告の１人株主であるａの代表者でもある被告代表者が被告の株主総会で議長を務めて株主総会を開催しているということや、原告の取締役解任についてのａの取締役会決議の欠如という違法事由があることを熟知していたとの事実はうかがえないが、仮にこの点を措くとして、本件において原告が取締役報酬の減額や取締役からの解任に同意していないことは既に認定したとおりであり、そうである以上、原告において自己に不利な取締役報酬減額決議や解任決議の効力を争うことが信義則に反するということはできないというべきである。
６ 争点(10)（原告はそもそも取締役報酬請求権を有していないか）について
被告は、原告の取締役選任及び取締役報酬の決定自体がａの取締役会決議を経ずに行われたものであるから、原告の取締役報酬請求はその前提を欠くものであるとも主張するが、この被告の主張は、被告における原告を含む全取締役及び代表取締役の選任、原告を含む全取締役の報酬の決定がａの取締役会決議を経ずにされたことを理由として、それらの取締役選任及び報酬の決定がすべて無効であると確定的に主張するものとは解されないのであり、原告の求める本件請求を理由あらしめる事実を減殺する事実を主張しているものとは解されないから、主張自体失当である。
７ 被告の未払報酬額
以上説示のとおり、原告は、被告の経営会議における取締役報酬の減額に同意していたとは認められないから、減額にかかる取締役報酬請求権を失っておらず、また、原告を被告の取締役から解任したとする被告の本件株主総会決議は、法律上の意味における株主総会決議とみなすことはできないのであるから、原告は被告の取締役の地位を失っていない。しかも、仮にａの取締役会がこれを事後的に承認したとしても、それにより有効な株主総会決議が存在することになるわけではない以上、原告は現在に至るまで被告の取締役の地位を失っていない。したがって、原告は、被告に対して、被告の取締役としての任期が終了するまでの間の取締役報酬を請求することができる。
そこで、原告が被告に対して請求することのできる取締役報酬の額について検討するに、平成１６年６月末時点での未払取締役報酬及び確定遅延損害金は、別紙未払報酬額一覧表記載のとおり、未払報酬合計７５６万円、確定遅延損害金１０万７７４８円の合計７６６万７７４８円となる。また、口頭弁論終結時までに支払期限の到来した、同年７月から平成１７年５月分までの１１か月分の報酬の合計は１６５０万円となるから、原告は、被告に対し、未払取締役報酬として、以下の金員の支払請求権を有する。
(1) ２４１６万７７４８円及びうち７５６万円に対する平成１６年７月１日から支払済みまで年６分の割合による遅延損害金
７５６万円＋１６５０万円＝２４０６万円
２４０６万円＋１０万７７４８円＝２４１６万７７４８円
(2) 平成１７年６月２５日限り１５０万円
このうち、(2)に係る請求は、当審口頭弁論終結時点においては期限未到来であるが、以上に認定したところから、あらかじめその請求をする必要があることは明らかである。
８ 結論
以上の次第で、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。
（裁判官 藤下健）
（別紙）未払報酬額一覧表
支払年月 支払期日 未払額 基準日 遅延日数 損害金額
H15.9 H15..9.25 300,000円 H16.6.30 279 13,758円
H15.10 H15.10.24 300,000円 H16.6.30 250 12,328円
H15.11 H15.11.25 300,000円 H16.6.30 219 10,800円
H15.12 H15.12.25 300,000円 H16.6.30 188 9,271円
H16.1 H16.1.23 300,000円 H16.6.30 159 7,841円
H16.2 H16.2.25 300,000円 H16.6.30 126 6,213円
H16.3 H16.3.25 1,380,000円 H16.6.30 97 22,004円
H16.4 H16.4.23 1,380,000円 H16.6.30 68 15,425円
H16.5 H16.5.25 1,500,000円 H16.6.30 36 8,876円
H16.6 H16.6.25 1,500,000円 H16.6.30 5 1,232円
合計 7,560,000円 合計 107,748円
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※貼付箇所につきましては、弊社掲示交渉スタッフが当該ターゲットにアプローチをした際の先方とのコミュニケーションにて、現場での判断とさせていただきます。
■訪問アプローチ手段
【徒歩圏内】
駅周辺の徒歩圏内における、商店街や通行人の多い目立つ場所でのPR
【車両移動】
広範囲に車移動が必要な、幹線道路沿いや住宅街等の目立つ場所でのPR
※全国への出張対応も可能ですので、ご要望をお聞かせください。
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