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裁判年月日 平成24年 4月24日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)28327号
事件名 売掛代金請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2012WLJPCA04248010
要旨
◆原告が、被告に対し、パートワークコレクションのための宣伝用リーフレット等の製作を発注されたなどとして、その売掛代金の支払を求めた事案において、本件発注書は、被告の代表者が原告の代表者に宣伝用リーフレット等一式の製作の発注書の作成を依頼され、宣伝用リーフレット等一式の見積書を確認した上で作成したものであることに照らすと、本件発注書には宣伝用リーフレットなどの記載がなく、その記載内容があいまいであることは否めないものの、被告は、本件発注書の作成をもって、原告に宣伝用リーフレット等一式の製作を発注したものであるとしたが、宣伝用リーフレット等一式の代金に係る原告の主張を一部認めず、請求を一部認容した事例
出典
参照条文
民法632条
裁判年月日 平成24年 4月24日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(ワ)28327号
事件名 売掛代金請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2012WLJPCA04248010
東京都江東区〈以下省略〉
原告 スリーエープランニング株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 中山美恵子
同 山口準子
同 戸出健次郎
東京都品川区〈以下省略〉
被告 株式会社サンリオファーイースト
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 石川道夫
同 石井光穂
同 猪山雄央
主文
1 被告は,原告に対し,998万9028円及びこれに対する平成22年1月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを12分し,その7を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,2408万4388円及びこれに対する平成22年1月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,パートワークコレクションのための宣伝用リーフレット等の製作を発注されたなどとして,その売掛代金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば明らかに認められる事実)
(1) 原告は,平成3年1月,物流センターの管理運営及び物流情報の収集処理業務,倉庫業等を目的として設立された会社であり,有限会社トライフィールド(以下「トライフィールド」という。)は,平成14年7月,商品流通システムの企画,運営,管理業務等を目的として設立された会社である。代表者は同じである。(甲1,乙5)
被告は,グリーティングカード,ソーシャルエクスプレッション製品,キャラクター商品,菓子,書籍,鑑賞用植物,ビデオテープ,ビデオディスク等の製品の製造,販売及び輸出入に関する業務等を行う会社である(甲2)。
Hobby Zone HK Limited(以下「HZN社」という。)は,香港の会社であり,有限会社ホビーゾーン・ジャパン(以下「HZNJ社」という。)は,HZN社の日本法人で,平成18年3月14日,出版物,印刷物のデザイン及び編集,出版物の企画及び輸出入,広告宣伝業等を目的として設立された会社である。代表者はいずれもC(以下「C」という。)である。(乙6)
(2) Cは,平成17年ころ,考古学者D監修のパートワークコレクション「週刊○○◇古代エジプト・コレクション」(以下「本件コレクション」という。)を発行するという企画を立ち上げた。
そして,本件コレクションは,HZN社が製造等,HZNJ社が編集等,原告が物流,トライフィールドがHZNJ社からの仕入れ及び被告への販売を,それぞれ担い,平成18年7月,被告が発売元となって,創刊された。パートワーク,オリジナルグッズ,DVD及び古代エジプトについての書籍が1セットになって,毎月4号,全100号が購読者に配本されるというものであった。(甲3,21の2,24)
(3) 被告は,原告に対し,商品名を「2006年4月発行予定『古代エジプトコレクション前100配本』用紙代」,発注金額を149万6250香港ドル,特記事項を「本発注書は上記品目が完成品の一部を構成したときのみ有効とする」とする平成17年12月26日付け発注書(以下「本件発注書」という。)を作成した(甲4)。
(4) 原告は,平成18年3月29日,HZN社に対する支払のために,134万6625香港ドルの輸入信用状を開設した。その支払に充てられるべき商品として,リーフレット250万部,申込書200万部,ポスター3000部が掲げられていた。(甲11)
(5) 原告は,被告に対し,平成21年11月25日,「エジプトコレクション配本用紙代」として,同年12月末日までに,同売掛代金2408万4388円(消費税を含む)を支払うよう請求した(甲9)。これは,上記(4)の輸入信用状の決済日である平成18年11月27日の為替レート(1香港ドル=15.33円)に基づき,本件発注書記載の発注金額を日本の通貨に換算したものである。
(6) 本件コレクションの宣伝用リーフレット,申込書,ポスター等一式(以下「宣伝用リーフレット等一式」という。)の納品数量は合計58万部である。
2 争点
(1) 被告は宣伝用リーフレット等一式の製作を発注したか否か。
(2) 被告による宣伝用リーフレット等一式の発注があったとして,原告による購入金額はいくらか。
3 当事者の主張
(原告の主張)
(1) 被告は,原告に対し,平成17年12月26日,宣伝用リーフレット等一式の製作を発注した。
そこで,原告は,HZN社に対し,宣伝用リーフレット等一式の製作を再委託し,HZN社から納品を受けた。そして,原告は,被告から,宣伝用リーフレット等一式の保管業務及び頒布先への配送業務の委託も受けていたから,HZN社から原告に納品された宣伝用リーフレット等一式については,即時に占有改定の方法により被告に引き渡し,以後,被告の指示に従って頒布先に送付するほか,残余を原告の倉庫で保管した。
宣伝用リーフレット等一式の代金は香港の通貨で指定されていたため,前記前提事実(5)のとおり,原告は,被告に対し,平成21年11月25日,支払期限を同年12月31日と定めて,売掛代金2408万4388円(消費税を含む)を支払うよう請求した。
よって,原告は,被告に対し,宣伝用リーフレット等一式の売掛代金2408万4388円及びこれに対する支払期限の翌日である平成22年1月1日から支払済みまで商事法定利率の年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) なお,前記前提事実(6)のとおり,宣伝用リーフレット等一式の納品数量は,合計58万部である。
当初,宣伝用リーフレット等一式は,全国の郵便局に設置する予定であったが,輸入信用状開設後,東京の郵便局のみに限られることになったため,仕様を変更して他に転用できるよう変更することとなった。そして,内18万セットは,郵便局用に当初の仕様通りに製造されたが,内40万セットは,仕様を変更し,ポスティングのため,専用の封筒を作成した上,リーフレットのセットを1部ずつ封入して,顧客宛てのレターを1部追加で作成することとなった。しかも,この封入作業は手作業で行われるため,1セット当たりの製造コストが跳ね上がった。
原告は,HZN社から,数量は減ったが,仕様変更により1セット当たりの単価は上昇し,宣伝用リーフレット等一式の代金総額に変更はないと説明を受けて,HZN社への支払のために開設した輸入信用状の全額を決済した。
(被告の主張)
(1) 被告が原告に対し宣伝用リーフレット等一式の製作を発注したこと,原告がHZN社に製作を再委託したこと,原告は,被告から,宣伝用リーフレット等一式の保管業務及び頒布先への配送業務の委託も受けていたから,宣伝用リーフレット等一式を占有改定の方法により被告に引き渡し,被告の指示に従って頒布先に送付するほか,残余を原告の倉庫で保管したことは否認し,原告がHZN社から宣伝用リーフレット等一式の納品を受けたことは知らず,被告が原告主張の請求を受けたことは認める。
被告は,本件発注書を作成した事実はあるが,宣伝用リーフレット等一式の製作を発注したものではない。本件発注書の作成は,本件コレクションの発行を企画していた原告代表者及びCから,リーフレットの紙の価格が高騰しており平成17年内に発注したい,そのための原告によるHZN社向けの輸入信用状を開設するのに必要な銀行への説明資料にしたいと依頼されたことに基づくものに過ぎない。
また,宣伝用リーフレットと書籍本体の用紙が同一であり,転用が可能であることを前提に,書籍本体についてはいずれ被告が購入することになるため,この用紙が実際に書籍本体に使用された場合にのみ発注を有効とする条件で,本件発注書をもって,書籍本体に使用する用紙を発注したものである。
(2) 仮に,被告による宣伝用リーフレット等一式の製作の発注があったとしても,原告請求金額は見積送り状における数量である250万部が根拠となっているところ,原告がHZN社から実際に購入した数量は,前記前提事実(6)のとおり,58万部である。
そして,単価は0.62香港ドルであるから,平成18年11月27日の為替レート(1香港ドル15.33円)に基づいて計算すると,原告による購入金額は551万2668円に過ぎない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)について
(1) 前記前提事実(2)ないし(4),証拠(甲23,乙15,17,18,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,本件発注書作成の経緯等について,次の事実が認められる。
ア Cは,平成17年ころ,本件コレクションの企画を立ち上げ,被告のコネクションをもとに,考古学者のDに監修を依頼したり,郵便局とのタイアップ計画を進めたりしていた。その中で,被告は,本件コレクションの発売元として関与し,原告は,本件コレクションの物流業務等の担当として関与することとなった。
イ 平成17年秋ころ,平成18年4月20日に本件コレクションの公式発表を行うことが決定され,全国2万4000か所の郵便局に設置する宣伝用リーフレット等一式を用意することとなった。
そして,宣伝用リーフレット等一式の製作費用は,被告が負担し,Cが代表を務めるHZN社に発注することとなった。しかし,被告は,原告に対し,被告とHZN社との直接取引は社内決裁が通らないとして,被告が原告に宣伝用リーフレット等一式の製作を発注し,原告がHZN社から仕入れる形にしてほしいと要望したため,原告は承諾した。
ウ Cは,平成17年12月26日,紙の価格が高騰しているため,宣伝用リーフレット等一式の用紙を発注したいということで,原告代表者とともに,被告代表者を訪れた。
そして,原告代表者は,被告代表者に対し,原告宛てに宣伝用リーフレット等一式の製作の発注書を発行するように依頼した。
被告代表者は,Cが持参した,宣伝用リーフレット等一式を250万部,代金額を合計149万6250香港ドルとする見積書(乙18添付の資料1)を確認し,その上で,同日付けで,商品名を「2006年4月発行予定『古代エジプトコレクション前100配本』用紙代」,発注金額を149万6250香港ドル,特記事項を「本発注書は上記品目が完成品の一部を構成したときのみ有効とする」とする本件発注書が作成された。
エ 原告は,HZN社に対し,宣伝用リーフレット等一式の製作を発注し,平成18年3月29日,宣伝用リーフレット等一式の代金支払のために,上記ウの発注金額のうち10パーセントを原告のマージンとした上で,134万6625香港ドルの輸入信用状を開設した。
(2) 上記認定事実によれば,本件発注書は,宣伝用リーフレット等一式の製作の発注書の作成を依頼され,しかも,宣伝用リーフレット等一式の見積書を確認した上で作成されたものであることに照らすと,本件発注書には宣伝用リーフレットなどの記載がなく,その記載内容があいまいであることは否めないものの,被告は,本件発注書の作成をもって,宣伝用リーフレット等一式の製作を発注したものであると認めるのが相当である。
(3) これに対し,被告は,前記のとおり主張するところ,これを裏付ける証拠としては,被告は,本件発注書でもって,本件コレクション中の書籍資材を先行発注したものであって,宣伝用リーフレット等一式の製作を発注したものではないとする被告代表者の供述等がある。
しかしながら,被告代表者も自認するように,本件発注書作成時点では,書籍本体の用紙はまだ決まっておらず,そうすると,宣伝用リーフレットの用紙と書籍本体の用紙が同一であり,転用が可能であることを前提に,本件発注書でもって書籍本体に使用する用紙を発注したという被告の主張はそもそも成り立たない。
そして,本件発注書作成時点では,原告は単に物流業務等を担うこととなっており,当然に,宣伝用リーフレット等一式の代金を負担すべきという立場にはなかったし,トライフィールドは本件コレクション発行に関わることすら想定されていなかった(乙15)。他方,被告は,本件コレクションの発売元であるから,宣伝用リーフレット等一式の代金を負担することとなったとしても不自然ではないし,そもそも,被告が宣伝用リーフレット等一式に関係ないのであれば,Cが見積書を持参して被告を訪れるはずもないし,被告は宣伝用リーフレット等一式の仕様の決定にも関与し(甲19の1の1,2),関係ないとは言い難い。被告がトライフィールドと本件コレクションの売買契約を締結して,原告と代表者が同一であるトライフィールドに広告費用を負担させているという事実(乙3,7ないし9の4)も,本件発注書作成後の事情に過ぎない。
また,Cの陳述書(乙16)には,被告代表者の上記供述等と同旨の供述記載部分があるが,上記のとおり,本件発注書作成時点では,本件コレクション発行に関しトライフィールドは何らの業務も担うことは想定されていなかったのに(乙15),被告代表者は本件発注書の宛先をトライフィールドに指定したなどの供述記載部分があり,信用しうるものではない。
以上によれば,被告代表者の上記供述等は採用できないというべきである。
(4) また,被告がリーフレットとポスターの輸入代行をしたことがあること(乙4),前記前提事実(4)の輸入信用状によって,原告はHZN社に対し輸入信用状の表示額の50パーセントの金額まで,商品の製造出荷という目的以外に使用することを許容していること(乙19)などの事実はあるが,これらをもって上記(2)の認定は左右されない。
2 争点(2)について
(1) 前記前提事実(6)によれば,宣伝用リーフレット等一式の納品数量は合計58万部にとどまった。
そして,証拠(甲23,26,27,乙18)及び弁論の全趣旨によれば,上記納品数量のうち,郵便局設置用の宣伝用リーフレット等一式の納品数量は合計18万セットであり,1セット当たりの単価は0.62香港ドルであること,郵便局設置用の仕様は他の宣伝ルートにも転用できるよう変更されることとなり,その結果,ポスティングのために専用の封筒を作成した上,宣伝用リーフレット等一式を封入し,顧客宛てのレターを1部追加することとなったこと,この仕様変更後の宣伝用リーフレット等一式の納品数量は40万セットであること,封入作業が手作業であったため,1セット当たりの単価は上昇し,1セット当たりの単価は1.35香港ドルであることが認められる。
そうすると,宣伝用リーフレット等一式の代金は,合計65万1600香港ドルであり,これを,前記前提事実(5)の為替レートで換算すると,998万9028円となる。
よって,原告は,HZN社から,宣伝用リーフレット等一式の代金総額に変更はないと説明を受けた旨主張するも,上記認定事実によれば,原告が宣伝用リーフレット等一式の売掛代金として請求できるのは,998万9028円とこれに対する遅延損害金の限度であると認めるのが相当である。
(2) これに対し,被告は,仕様変更後の宣伝用リーフレット等一式の1セット当たりの単価も従前の仕様のものと同様,0.62香港ドルである旨主張するが,乙18添付の資料3の記載と相違し,上記主張は採用できない。
3 以上,主文のとおり判決する。
(裁判官 大野昭子)
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