裁判年月日 平成27年 2月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)33752号
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2015WLJPCA02269013
要旨
◆意匠に係る物品を「体重測定機付体組成測定器」とする各意匠権を有する原告が、被告による体組成計の生産、譲渡、引渡し、譲渡の申出、輸入及び輸出行為は原告の意匠権を侵害すると主張して、被告に対し、体組成計の生産等の差止め及びその廃棄並びに損害賠償を求めた事案において、本件意匠1と被告意匠は類似していないとしたが、本件意匠2と被告意匠とは、差異点があることを考慮しても、看者に対して共通の美感を与えるものと認められるから、本件意匠2と被告意匠は類似しているというべきであり、被告製品の生産等は、本件意匠権2を侵害すると認められるなどとして、原告の受けた損害金を1億2915万3662円と認定する一方、被告が将来被告製品の生産等をするおそれがあるとはいえないと判断し、請求を一部認容した事例
出典
裁判所ウェブサイト
評釈
牛木理一・特許ニュース 14150号1頁
梅澤修・特許ニュース 14208号1頁
参照条文
意匠法23条
意匠法24条2項
意匠法37条1項
意匠法37条2項
意匠法39条1項
民法709条
裁判年月日 平成27年 2月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平24(ワ)33752号
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2015WLJPCA02269013
京都府向日市<以下省略>
原告 オムロンヘルスケア株式会社
同訴訟代理人弁護士 古城春実
牧野知彦
加治梓子
東京都板橋区<以下省略>
被告 株式会社タニタ
同訴訟代理人弁護士 高橋雄一郎
同訴訟代理人弁理士 望月尚子
同訴訟復代理人弁護士 阿部実佑季
同補佐人弁理士 本多泰介
主文
1 被告は,原告に対し,1億2915万3662円及びこれに対する平成25年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,体組成計「FitScan FS-100」を生産し,譲渡し,引き渡し,輸入し,譲渡の申出をし,又は輸出してはならない。
2 被告は,その占有に係る前項記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,2億8904万0660円及びこれに対する平成24年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,意匠に係る物品を「体重測定機付体組成測定器」とする意匠権を有する原告が,被告による体組成計の生産,譲渡,引渡し,譲渡の申出,輸入及び輸出行為が原告の意匠権を侵害すると主張して,被告に対し,意匠法37条に基づき,体組成計の生産等の差止め及びその廃棄を求めるとともに,不法行為による損害賠償請求権に基づき原告が受けた損害の額とされる意匠権侵害行為を組成した物品の譲渡数量に原告が意匠権侵害の行為がなければ販売することができた物品の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額の損害2億8904万0660円及びこれに対する不法行為の後である訴状送達の日の翌日(平成24年12月7日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)
(1) 原告の意匠権
ア(ア) 原告は,平成23年3月18日,意匠に係る物品を「体重測定機付体組成測定器」とする意匠登録出願をし,同年9月22日,意匠権の設定登録がされた(意匠登録第1425652号。以下,この意匠権を「本件意匠権1」といい,その登録意匠を「本件意匠1」という。)。
(イ) 本件意匠1は,本判決添付の意匠公報(意匠登録第1425652号)の【図面】記載のとおりである。
イ(ア) 原告は,平成23年3月18日,原告が意匠登録出願している本件意匠1を本意匠とする関連意匠として,意匠に係る物品を「体重測定機付体組成測定器」とする意匠登録出願をし,同年9月22日,意匠権の設定登録がされた(意匠登録第1425945号。以下,この意匠権を「本件意匠権2」といい,その登録意匠を「本件意匠2」という。)。
(イ) 本件意匠2は,本判決添付の意匠公報(意匠登録第1425945号)の【図面】記載のとおりである。
(2) 本件意匠1及び2の構成
ア 本件意匠1
(ア) 基本的構成態様
a 四角形の透明ガラス板と正面視で正面透明ガラス板によって完全に隠される本体部とを積層一体とした構造であり,正面視において四角形の板状体として構成されている(なお,原告は,上記ガラス板と本体部との間に挟まれるシートの存在を主張するが,本件意匠1に係る意匠公報の【図面】からこれを認定することはできない。)。
b 透明ガラス板正面の上下左右四隅近傍に4個の電極部分が配置されている。
c 透明ガラス板の正面の中央上部寄りに本体部に設けた液晶表示窓が表れている。
d 透明ガラス板の正面の上記液晶表示窓の下方に複数のスイッチ模様が表れている。
(イ) 具体的構成態様
a 透明ガラス板
隅丸略正方形形状(隅丸半径は横辺の約3.4%である。)である。
b 電極部分
隅丸縦長四角状(幅:長さが約1:2.5,その隅丸半径は縦辺の約12%である。)であり,透明ガラス板の上下左右に対称に配置されている。
c 液晶表示窓
隅丸横長四角形(縦横比は約1:1.4であり,縦辺は電極部分の縦辺よりも短い。)であり,透明ガラス板上側に配置された2つの電極部分に挟まれた領域の中央にあり,かかる電極部分の上辺を結んだ線よりも液晶表示窓の上辺は下側にあり,かかる電極部分の下辺を結んだ線よりも液晶表示窓の下辺は上側にある。
d スイッチ模様(甲1の2)
透明ガラス板上側に配置された2つの電極部分の上辺を結んだ線,左側に配置された2つの電極部分の左辺を結んだ線,下側に配置された2つの電極部分の下辺を結んだ線,右側に配置された2つの電極部分の右辺を結んだ線からなる四角形の対角線の交点を中心として,隅丸四角形からなるスイッチ模様が2行2列の態様で合計4個配置されている。
e 本体部背面
①上下左右の四隅に配置された4つの円柱形状,②各円柱形状を囲んだ上下左右の四隅に位置する隅部厚肉形状,③上辺と左右両側辺に沿って門状に伸び左右の隅部厚肉形状と上下左右の隅部厚肉形状を互いに連結する細幅薄肉形状,④正面の液晶表示窓から表れる液晶表示部,電気回路,電池等を収納する隅部厚肉形状と同じ厚さの本体部を備えている。
f 支持部
本体部裏面の4つの隅部厚肉形状には板状体の隅丸部分のみに対応してそれぞれ4つの突出した支持部がある。
イ 本件意匠2
(ア) 基本的構成態様
本件意匠1と同じ(なお,シートについても本件意匠1と同様である。)。
(イ) 具体的構成態様
以下の点を除き,本件意匠1と同じである(甲2の2)。
a 透明ガラス板
隅丸横長四角形形状(縦横比は約1:1.4であり,その隅丸半径は横辺の約2.7%である。)である。
b 電極部分
電極部分の幅:長さが約1:2.2であり,その隅丸半径は縦辺の約7%である。
c 液晶表示窓
液晶表示窓の縦横比は約1:1.7である。
d スイッチ模様
横一列の態様で合計3個表されている。
(3) 被告の行為
ア 被告は,業として,平成24年10月から,体組成計「FitScanFS-100」(以下「被告製品」という。)の生産,譲渡,引渡し,譲渡の申出,輸入及び輸出(以下「生産等」という。)を開始した。
イ 被告製品は,体組成計であり,本件意匠1及び2に係る物品である体重測定機付体組成測定機と同一である(以下,体重測定機付体組成測定機のことも単に「体組成計」という。)。被告製品の質量は約1.4kgであり,寸法は幅297mm×高さ25mm×奥行き約210mmである。被告製品の意匠(以下「被告意匠」という。)は,別紙被告意匠目録記載のとおりである。(甲4)
(4) 被告意匠の構成
ア 基本的構成態様
(ア) 四角形の透明ガラス板と正面視で正面透明ガラス板によって完全に隠される本体部と上記ガラス板と本体部との間に挟まれる不透明プロテクタ体とを積層一体とした構造であり,正面視において四角形の板状体として構成されている。
(イ) 透明ガラス板正面の上下左右四隅近傍に4個の電極部分が配置されている。
(ウ) 透明ガラス板の正面の中央上部寄りに本体部に設けた液晶表示窓が表れている。
(エ) 透明ガラス板の正面の上記液晶表示窓の下方に複数のスイッチ模様が表れている。
イ 具体的構成態様
(ア) 透明ガラス板
隅丸横長四角形形状(縦横比は,約1:1.43,その隅丸半径は横辺の約5.7%である。)である。
(イ) 電極部分
隅丸縦長四角状(幅:長さが約1:1.43,その隅丸半径は縦辺の約12%である。)であり,透明ガラス板の上下左右に対称に配置されている。
(ウ) 液晶表示窓
隅丸横長四角形(縦横比は約1:1.7であり,縦辺は電極部分の縦辺よりも短い。)であり,透明ガラス板上側に配置された2つの電極部分に挟まれた領域の中央にあり,かかる電極部分の上辺を結んだ線よりも液晶表示窓の上辺は下側にあり,かかる電極部分の下辺を結んだ線と液晶表示窓の下辺は一直線上にある。この液晶表示窓の周囲には,隅丸横長四角形の縁取模様が表され,この液晶表示窓の下方と縁取模様の下外周との間には液晶表示窓の縦の長さの約半分の間隔がとられている。
(エ) スイッチ模様
透明ガラス板上側に配置された2つの電極部分の上辺を結んだ線,左側に配置された2つの電極部分の左辺を結んだ線,下側に配置された2つの電極部分の下辺を結んだ線,右側に配置された2つの電極部分の右辺を結んだ線からなる四角形の対角線の交点を中心として,隅丸四角形からなるスイッチ模様が横一列の態様で合計4個表されている。
(オ) 本体部背面
①上下左右の四隅に配置された4つの円柱形状,②各円柱形状を囲む略四角形状から下左右の3辺にそれぞれ3つの円弧状の切りかけを取り去った隅部厚肉形状,③3つの切りかけに対応する3つの薄肉形状,④3つの薄肉形状の縁に設けられた3つの細幅肉中厚形状,⑤正面の液晶表示窓から表れる液晶表示部,電気回路,電池等を収納する隅部厚肉形状とほぼ同じ厚さの本体部を備えている。
(カ) 不透明プロテクタ体
透明ガラス板と本体部との間にあり正面視において透明ガラス板の外周部から,透明ガラス板の上辺及び下辺からは縦方向にそれぞれ約3mm,左右辺からは横方向にそれぞれ約2.5mm突出している。
(5) 原告製品の販売
原告は,平成23年8月頃から,別紙原告製品目録記載1及び2の体組成計(以下,順に「原告製品1」「原告製品2」という。)の販売を開始した。原告製品1の意匠は本件意匠1と同一であり,原告製品2の意匠は本件意匠2と同一である。原告は原告製品1及び2を製造元から輸入して販売代理店を通して販売しているところ,製造元は原告製品1及び2を1か月に●(省略)●台製造して出荷する能力があるから,原告は,1か月に●(省略)●台の原告製品1及び2を輸入,販売することができる(甲42)。
2 争点
(1) 被告製品の生産等は本件意匠権1を侵害するか(具体的には本件意匠1と被告意匠の類否)
(2) 被告製品の生産等は本件意匠権2を侵害するか(具体的には本件意匠2と被告意匠の類否)
(3) 差止請求の可否
(4) 原告が受けた損害の額
3 争点についての当事者の主張
(1) 本件意匠1と被告意匠の類否
ア 原告の主張
(ア) 本件意匠1の要部
体組成計の需要者,取引者は,体組成計を購入し使用する際に本体正面を注視するが,本体側面については全体が薄いという点を着目するにとどまりその具体的な形状に着目することはないし,本体裏面に着目することもない。本件意匠1の出願時において,本件意匠1が採用する電極部分の形状,液晶表示窓の形状及びそれらの位置関係等を採用した意匠は存在しない。
したがって,本件意匠1の要部は,①隅丸四角形の板状体からなる透明のガラス板の正面において,②上下左右四隅近傍に縦長の隅丸四角形の電極部を配置し,③上側の左右に配置された2つの電極部で囲まれた領域のほぼ中央に横長の隅丸四角形であってその縦方向の長さが電極部の縦方向の長さよりわずかに短い液晶表示窓を大きく存在感をもって配置するとともに,④該液晶表示窓の下側であって,かつ,4つの電極部で囲まれた領域の中心部領域に隅丸四角形からなるスイッチ模様を複数配置して構成されているという構成要素の組合せ全体である。
(イ) 本件意匠1と被告意匠の類否
本件意匠1と被告意匠は要部を共通にしている。本件意匠1と被告意匠とには,正面透明ガラス板の縦横比,電極部分の縦横比,液晶表示窓の縁取模様やスイッチの並び方,本体裏面の形状,不透明プロテクタ体の有無といった差異があるが,これらは微細な差異であり,被告意匠と本件意匠1の要部に係る構成の共通性はそれらの微細な差異を凌駕するものである。
したがって,本件意匠1と被告意匠は,取引者,需要者に共通の美感を生じさせるから,被告意匠は本件意匠1に類似する。
イ 被告の主張
(ア) 本件意匠1の要部について
本件意匠1に係る物品は薄型の体組成計であるところ,薄型の体組成計の需要者,取引者は,本体正面だけでなく本体側面の形状にも注意を惹かれる。また,体組成計は測定時以外には立てかけて収納されることがあるので側面の形状は需要者の注意を惹きやすい部分であり,原告も本件意匠の意匠登録無効審判において側面が要部に当たる旨の主張をしている。
正面視において,隅丸四角形形状の正面透明ガラス板で構成し,電極部分及び液晶表示部を配置するという構成は,本件意匠1の出願時において販売されていた体組成計の意匠(乙1ないし4の各1,10の1,11の1,検乙1ないし4)及び意匠広報に掲載された意匠(乙12ないし16)により採用されているところ,これらは周知の意匠であるから,本体表面がガラスであることと電極部分及び液晶表示窓等の構成との組合せが需要者,取引者の注意を惹くことはない。
体組成計の機能に照らせば本体正面の4隅に電極部分が存在しその中央上部に液晶表示窓が存在することは,機能的必然性に基づくものである。本件意匠1及び同2は関連意匠の関係にあるから,両者で共通する部分である側面の形状と本体背面部の4つの隅部厚肉形状に4つの支持部が付されている部分が要部に当たる。
以上によれば,本件意匠1の要部は,①全体が四角形の透明ガラス板からなる板状体と,この板状体の背面に形成され正面視で板状体によって完全に隠される背面本体部とからなる態様のものについて,②側面の形態は,裏面本体部の4つの隅部厚肉形状には,板状体の隅丸部分のみに対応してそれぞれ4つの突出した支持部が備えられており,③正面の形態は,a 板状体の正面ガラス板は隅丸四角形形状であり,その隅丸半径が横辺の約2.7ないし3.4%であり,b 板状体の正面には,4つの電極部分が上下左右に配置されており,各電極部分は,幅:長さが約1:2.3ないし2.5の隅丸縦長四角形形状であり,c 板状体の正面中央上部には縦:横が約1:1.4の隅丸横長四角形の液晶表示窓がある,以上の組合せである。
(イ) 本件意匠1と被告意匠の類否
a 本件意匠の要部は前記(ア)のとおりであり,被告意匠は外周全てに透明プロテクタ体があり,被告意匠には4つの突出した支持部はなく,被告意匠の板状体の正面ガラス板は隅丸四角形形状であり,その隅丸半径が横辺の約5.7%であり,4つの電極部分が幅:長さが約1:1.43の隅丸縦長四角形形状であり,液晶表示窓の縦:横が約1:1.7である。以上によれば,本件意匠1と被告意匠とは要部を異にするから類似しない。
b 仮に本件意匠の要部が原告の主張するとおりであるとしても,要部の具体的形状が異なるから看者に与える美感を異にするので,本件意匠1と被告意匠とは類似しない。
(ウ) 審決に基づく主張
本件意匠1に係る無効審判請求について平成26年12月24日にされた請求不成立の審決(乙99の1)の判断内容によれば,本件意匠1の正面視のレイアウトは創作性が低いが,背面視及び側面視の構成は創作性が高い。したがって,本件意匠1の要部は,正面視ではなく背面視及び側面視の構成にあるから,本件意匠1と被告意匠は類似しない。
(2) 本件意匠2と被告意匠の類否
ア 原告の主張
(ア) 本件意匠2の要部
本件意匠2の要部は,①隅丸四角形の板状体からなる透明のガラス板の正面において,②上下左右四隅近傍に縦長の隅丸四角形の電極部を配置し,③上側の左右に配置された2つの電極部で囲まれた領域のほぼ中央に横長の隅丸四角形であってその縦方向の長さが電極部の縦方向の長さよりわずかに短い液晶表示窓を大きく存在感をもって配置するとともに,④該液晶表示窓の下側であって,かつ,4つの電極部で囲まれた領域の中心部領域に隅丸四角形からなるスイッチ模様を複数配置して構成されているという構成要素の組合せ全体である。
(イ) 本件意匠2と被告意匠の類否
本件意匠2と被告意匠は要部を共通にしている。本件意匠2と被告意匠とには,正面透明ガラス板の縦横比,電極部分の縦横比,液晶表示窓の縁取模様やスイッチの並び方,本体裏面の形状,不透明プロテクタ体の有無といった差異があるが,これらは微細な差異であり,被告意匠と本件意匠2の要部に係る構成の共通性はそれらの微細な差異を凌駕するものである。
したがって,本件意匠2と被告意匠は,取引者,需要者に共通の美感を生じさせるから,被告意匠は本件意匠2に類似する。
イ 被告の主張
(ア) 本件意匠2の要部について
本件意匠2の要部は,①全体が四角形の透明ガラス板からなる板状体と,この板状体の背面に形成され正面視で板状体によって完全に隠される背面本体部とからなる態様のものについて,②側面の形態は,裏面本体部の4つの隅部厚肉形状には,板状体の隅丸部分のみに対応してそれぞれ4つの突出した支持部が備えられており,③正面の形態は,a 板状体の正面ガラス板は隅丸四角形形状であり,その隅丸半径が横辺の約2.7ないし3.4%であり,b 板状体の正面には,4つの電極部分が上下左右に配置されており,各電極部分は,幅:長さが約1:2.3ないし2.5の隅丸縦長四角形形状であり,c 板状体の正面中央上部には縦:横が約1:1.4の隅丸横長四角形の液晶表示窓がある,以上の組合せである。
(イ) 本件意匠2と被告意匠の類否
a 本件意匠2の要部は前記(ア)のとおりであり,被告意匠は外周全てに透明プロテクタ体があり,被告意匠には4つの突出した支持部はなく,被告意匠の板状体の正面ガラス板は隅丸四角形形状であり,その隅丸半径が横辺の約5.7%であり,4つの電極部分が幅:長さが約1:1.43の隅丸縦長四角形形状である。以上によれば,本件意匠2と被告意匠とは要部を異にするから類似しない。
b 仮に本件意匠の要部が原告の主張するとおりであるとしても,要部の具体的形状が異なるから看者に与える美感を異にするので,本件意匠2と被告意匠とは類似しない。
(ウ) 審決に基づく主張
上記(1)イ(ウ)と同様に,本件意匠2に係る無効審判請求について平成26年12月24日にされた審決(乙99の2)の判断内容によれば,本件意匠2の要部は,正面視ではなく背面視及び側面視の構成にあるから,本件意匠2と被告意匠は類似しない。
(3) 差止請求の可否
ア 原告の主張
被告は,本件訴訟係属後も被告製品の輸入,販売を継続していたものであり,今後も被告製品の生産等をするおそれがあるから,本件意匠権1及び2を侵害し又は侵害するおそれがある。
イ 被告の主張
被告は,現在被告製品の生産等をしていないし,今後も被告製品を生産等することはないから,被告は本件意匠権1及び2を侵害し又は侵害するおそれはない。
(4) 原告の受けた損害の額
ア 原告の主張
(ア) 意匠法39条1項により損害の額とされる額
a 被告が被告製品を譲渡した数量
被告は,平成24年10月から平成25年9月30日までの間,被告製品を●(省略)●台譲渡した。
b 原告が被告による意匠権侵害行為がなければ販売することができた物品
被告は本件意匠権1及び2を侵害しているところ,被告の意匠権侵害行為がなければ,原告は原告製品1及び2を販売することができた。
仮に被告製品の生産等が本件意匠権1の侵害に当たらないとしても,原告製品1も被告製品と市場において競合する製品であるから,被告による本件意匠権2の侵害行為がなければ販売することができた物品に当たるというべきである。
c 原告が被告による意匠権侵害行為がなければ販売することができた物品の単位数量当たりの利益の額
(a) 原告製品1の平成23年8月から平成24年3月までの総売上金額は●(省略)●円であり,粗利は●(省略)●円であり,同期間の売上台数は●(省略)●台であった。平成24年4月から平成25年3月までの総売上金額は●(省略)●円であり,粗利は●(省略)●円であり,同期間の売上台数は●(省略)●台であった。平成25年4月から同年10月までの総売上金額は●(省略)●円であり,粗利は●(省略)●円であり,同期間の売上台数は●(省略)●台であった。
原告製品2の平成23年8月から平成24年3月までの総売上金額は●(省略)●円であり,粗利は●(省略)●円であり,同期間の売上台数は●(省略)●台であった。平成24年4月から平成25年3月までの総売上金額は●(省略)●円であり,粗利は●(省略)●円であり,同期間の売上台数は●(省略)●台であった。平成25年4月から同年10月までの総売上金額は●(省略)●円であり,粗利は●(省略)●円であり,同期間の売上台数は●(省略)●台であった。
原告製品1及び2は,平成24年10月に被告製品が発売されたため値下げを余儀なくされたから,その単位数量当たりの利益の額は平成23年度(平成23年8月から平成24年3月までの間)の売上等に基づいて算出すべきである。
(b) 原告製品1の平成23年8月から平成24年3月までの売上等に基づく原告製品1の1台当たりの利益の額は●(省略)●円である。
原告製品2の平成23年8月から平成24年3月までの売上等に基づく原告製品2の1台当たりの利益の額は●(省略)●円である。
(c) 被告が原告製品1及び2の単位数量当たりの利益の額を算出するに当たり控除すべきと主張する経費費目は,原告製品1及び2の販売数の増加に伴い増加するものでなく,販売台数の多寡によらず生じる経費であるから,原告製品1及び2の単位数量当たりの利益の額を算出するに当たり控除する費目に当たらない。
(d) 仮に原告製品1及び2の単位数量当たりの利益の額を平成23年8月から平成25年10月までの売上等により算出するとした場合,●(省略)●
d 原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができないとする事情はないこと
被告製品の売上に対する本件意匠1及び2の寄与の程度は高い。原告製品1及び2には被告製品以外の競合品はない。被告製品の販売台数は注文に対応できなかった個数を控除したものであるからさらに欠品が生じることはない。したがって,被告製品の譲渡数量の全部又は一部を原告が譲渡することができない事情はない。
e 原告の実施の能力
原告は,原告製品1及び2を1か月に●(省略)●台輸入し販売することができた。
f 意匠法39条1項により損害の額とされる額
原告が被告による意匠権侵害行為がなければ販売することができた物品が原告製品1及び2であるから,原告の受けた損害の額は「[被告製品の譲渡数量×(原告製品1の譲渡数量/(原告製品1の譲渡数量+原告製品2の譲渡数量))×原告製品1の1台当たりの利益]+[被告製品の譲渡数量×(原告製品2の譲渡数量/(原告製品1の譲渡数量+原告製品2の譲渡数量))×原告製品2の1台当たりの利益]=原告が受けた損害の額」という計算式により算出すべきである。
そうすると,意匠法39条1項により損害の額とされる額は2億6304万0660円である([●(省略)●台×(●(省略)●台/(●(省略)●台+●(省略)●台))×●(省略)●円]+[●(省略)●台×(●(省略)●台/(●(省略)●台+●(省略)●台))×●(省略)●円]=2億6304万0660円(小数点以下切り捨て))である。
(イ) 弁護士費用
原告が本件訴訟に要した弁護士費用は2600万円を下らない。
(ウ) 以上によれば,原告が受けた損害の額は2億8904万0660円である。
イ 被告の主張
(ア) 意匠法39条1項により損害の額とされる額
a 被告が被告製品を譲渡した数量
被告製品の平成23年10月11日までの譲渡数量は,譲渡後に返品された数量を控除すべきであるから,●(省略)●台である。
b 原告が被告による意匠権侵害行為がなければ販売することができた物品
被告製品の生産等が本件意匠権2の侵害に当たるが本件意匠権1の侵害に当たらない場合,原告製品1は侵害の行為がなければ販売することができた物品に当たらない。
c 原告が被告による意匠権侵害行為がなければ販売することができた物品の単位数量当たりの利益の額
(a) 原告製品1及び2が被告製品の販売により値下げを余儀なくされたとはいえないから,単位数量当たりの利益を算出するに当たっては平成23年8月から平成25年10月までの売上等によるべきである。
(b) 原告が単位数量当たりの利益の額の算出に当たり売上額から変動費として控除した費目に加えて,①倉庫保管費用,②販売に際し支払われたリベート,③広告宣伝費(チラシ,雑誌,カタログ,ポスター,パネル,ウェブページ,看板等作製,掲載費用等,売場作りのための費用,展示会等参加費用,ブランドイメージ向上,促進のための費用)を控除すべきである。
(c) ●(省略)●
d 原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができないとする事情
(a) 被告製品の売上には被告ブランドの顧客誘因力が寄与していること,体組成計のデザインは体組成計の購入動機とならないこと,本件意匠1及び2の創作性の程度が低いこと,被告意匠は本件意匠1及び2のごく一部と類似するに過ぎないことなどの事情に鑑みると,被告製品の売上に本件意匠1及び2の寄与の程度はほとんどない。(b) 原告製品1及び2は異例のヒット商品であったことから顧客の注文に応じて納品できない場合がある。(c) 原告製品1及び2には被告製品の他にも競合品がある。以上の事情等を考慮すれば,被告製品の譲渡数量のうちのほぼ100%に当たる数量について原告が販売することができないとする事情がある。
(イ) 弁護士費用相当損害金は争う。
第3 当裁判所の判断
1 本件意匠1と被告意匠との類否について
(1) 本件意匠1と被告意匠との対比
ア 本件意匠1と被告意匠とは次の点で共通する。
基本的構成態様において,①四角形の透明ガラス板と正面視で正面透明ガラス板によって完全に隠される本体部とを積層一体とした構造であり,正面視において四角形の板状体として構成されている点,②透明ガラス板正面の上下左右四隅近傍に4個の電極部分が配置されている点,③透明ガラス板の正面の中央上部寄りに本体部に設けた液晶表示窓が表れている点,④透明ガラス板の正面の上記液晶表示窓の下方に複数のスイッチ模様が表れている点。
具体的構成態様において,①電極部分が隅丸縦長四角状(隅丸半径は12%である。)をしており透明ガラス板の上下左右に対称に配置されている点,②液晶表示窓が隅丸横長四角形(縦辺は電極部分の縦辺よりも短い。)であり,透明ガラス板上側に配置された2つの電極部分に挟まれた領域の中央にあり,かかる電極部分の上辺を結んだ線よりも液晶表示窓の上辺は下側にある点,③透明ガラス板上側に配置された2つの電極部分の上辺を結んだ線,左側に配置された2つの電極部分の左辺を結んだ線,下側に配置された2つの電極部分の下辺を結んだ線,右側に配置された2つの電極部分の右辺を結んだ線からなる四角形の対角線の交点を中心として,隅丸四角形からなるスイッチ模様が4個配置されている点,④本体背面に上下左右の四隅に配置された4つの円柱形状を有する点。
イ 本件意匠1と被告意匠とでは,次の点で相違する。
(ア) 基本的構成態様について,被告意匠には透明ガラス板と背面本体部との間に挟まれる不透明プロテクタ体があるが,本件意匠1には不透明プロテクタ体がない。
(イ) 本件意匠1と被告意匠とでは,具体的構成態様について次の点で相違する。
a 透明ガラス板の形状
本件意匠1が隅丸略正方形形状(その隅丸半径は横辺の約3.4%である。)であるが,被告意匠は隅丸略横長四角形形状(その縦横比は約1:1.43,その隅丸半径は横辺の約5.7%である。)である。
b 電極部分の幅と長さの比(幅:長さ)
本件意匠1が1:2.5であるが,被告意匠は1:1.43である。
c 液晶表示窓の底辺と上側の左右に配置された電極の底辺との関係
本件意匠1は一直線上にないのに対し,被告意匠は一直線上にある。
d スイッチ模様の配置態様
本件意匠1は2行2列に配置されるのに対し,被告意匠は横一列に配置される。
e 本体部の背面の形状
本件意匠1は,①各円柱形状を囲み,上下左右の四隅に位置する隅部厚肉形状と,②上辺と左右両側辺に沿って門状に伸び,左右の隅部厚肉形状と上下左右の隅部厚肉形状を互いに連結する細幅薄肉形状と,③正面の液晶表示窓から表れる液晶表示部・電気回路・電池等を収納する,隅部厚肉形状と同じ厚さの中央部厚肉形状を備えているのに対し,被告意匠は,①各円柱形状を囲む略四角形状から下左右の3辺にそれぞれ3つの円弧状の切りかけを取り去った隅部厚肉形状と,②3つの切りかけに対応する3つの薄肉形状と,③3つの薄肉形状の縁に設けられた3つの細幅肉中厚形状と,④正面の液晶表示窓から表れる液晶表示部・電気回路・電池等を収納する,隅部厚肉形状とほぼ同じ厚さの中央部厚肉形状を備えている。
f 被告意匠には,液晶表示窓の周囲には隅丸横長四角形の縁取模様が表示されているが,本件意匠1の液晶表示窓の周囲には縁取模様がない。
g 被告意匠には,透明ガラス板と本体部との間にあり正面視において透明ガラス板の外周部から,透明ガラス板の上辺及び下辺からは縦方向にそれぞれ約3mm,左右辺からは横方向にそれぞれ約2.5mm突出している不透明プロテクタ体を有するが,本件意匠1には不透明プロテクタ体がない。
h 本件意匠1には,裏面本体部の4つの隅部厚肉形状には,板状体の隅丸部分のみに対応してそれぞれ4つの突出した支持部が備えられているが,被告意匠にはかかる支持部はない。
(2) 本件意匠1の要部
ア 証拠(甲1の2)によれば,本件意匠1に係る物品は,例えば,使用者の身長,性別等の身体的特徴情報を予め入力された状態で,需要者たる消費者が電極部分に裸足で起立すると,両足の裏側から微弱電流を流して使用者の電気抵抗値を測定し,この電気抵抗値と予め入力していた身体的特徴情報と,本体で測定された体重とから体脂肪率を測定し,液晶表示部に表示するなどという,体組成計である。
前記前提事実に証拠(甲3の1・2,6の1・2,15の1ないし9,16の1ないし35,17の1ないし22・24ないし27,18の1ないし6,19の1ないし5,20の1・2,23,27の1・2,31,32,35の1ないし3,36,40の1・2,46,47,乙1の2・3,2の3・4,3の2,4の2・3,6,7,8,10の2,11の2,17,71,72の1・2,73,74,75の1ないし4,76,77の1ないし3,78,79,80の1ないし3,81の1ないし3,83,84,85,93,95,96,97)及び弁論の全趣旨を総合すれば,体組成計の宣伝等のためにウェブサイト,雑誌,包装用箱に掲載されている写真は正面視からのものであること,家電量販店の店頭において体組成計の商品が陳列される場合は需要者である消費者に対して正面を向けておかれていること,本件意匠1と同一の意匠である原告製品1は「厚さ28ミリ薄型の体脂肪計」,「薄型で狭いスペースにも収納できる」ことが特徴であると宣伝されていることが認められる。
このように,体組成計を宣伝する際や店舗において陳列する際は正面を購入者となる者に対して見せるように配置していることに加え,需要者である消費者が体組成計を使用する際は,液晶表示窓やスイッチ模様が配置されている本体正面から体組成計を見て操作すると当然考えられることによれば,需要者が体組成計を購入する際には,製品を使用することも想定して,本体正面に電極がどのように配置されているか,電極部分がどのような形状をしているか,スイッチの位置や形状,測定結果が表示される液晶表示窓の位置や形状等,正面視の形状についてまず着目するといえる。また,本件意匠1と同一意匠を有する原告製品1は薄さを特徴として宣伝されていることからすると,需要者は製品の薄さにも注意を払うと考えられるから,側面視の形状についても着目するといえる。他方,背面の形状については,需要者が体組成計を通常の用法で使用する際に見るところではないし,体組成計の販売に際して宣伝されている部分でもないのであるから,需要者が着目しないと認められる。
イ 証拠(乙1ないし4の各1,10ないし16,検乙1ないし4)によれば,本件意匠1の意匠登録出願前において,次の意匠が公知であったと認められる。
(ア) 隅丸横長四角形のガラス板と本体部との2層構造であり,ガラス板の4隅に縦長略長円形の電極部分を有し,上側の電極部分に挟まれる領域の中央に縦の長さが電極部分の縦の長さの約半分の横長四角形の液晶表示窓及び液晶表示窓の下部に丸形スイッチ模様が横一列で合計3個配置されている意匠(乙1の1,検乙1)。
(イ) 隅丸略正方形のガラス板と本体部との2層構造であり,ガラス板の4隅に隅丸縦長四角形の電極部分を有し,上側の電極部分に挟まれる領域の中央に電極部分より面積の小さい横長四角形の液晶表示窓が配置されているが,スイッチ模様が配置されていない意匠(乙2の1,検乙2)。
(ウ) 隅丸略正方形のガラス板と本体部との2層構造であり,ガラス板の4隅に隅丸縦長四角形の電極部分を有し,上側の電極部分に挟まれる領域の中央に縦の長さが電極部分の縦の長さの半分以下の横長四角形の液晶表示窓が配置されているが,スイッチ模様が配置されていない意匠(乙3の1,検乙3)。
(エ) 隅丸横長四角形のガラス板と本体部との2層構造であり,ガラス板の4隅に縦長略長円形の電極部分を有し,上側の電極部分に挟まれる領域の中央に縦長四角形の液晶表示窓が配置され,下側の電極部分に挟まれる領域の中央に丸形スイッチ模様が縦一列で合計3個配置されている意匠(乙4の1,検乙4)。
(オ) 隅丸略正方形の本体部の4隅に隅丸縦長四角形の電極部分を有し,上側の電極部分に挟まれる領域の中央に縦の長さが電極部分の縦の長さの半分以下の横長四角形の液晶表示窓及び液晶表示窓の下部に隅丸四角形スイッチ模様が横一列で合計3個配置されている意匠(乙10,11)。
(カ) 隅丸略正方形の本体部の4隅に隅丸縦長四角形の電極部分を有し,上側の電極部分に挟まれる領域の中央に縦の長さが電極部分の縦の長さの半分程度の略正方形の液晶表示窓並びに液晶表示窓の下部に隅丸四角形スイッチ模様1個及び縦長略長円形スイッチ模様1個が横一列で配置されている意匠(乙12)。
(キ) 隅丸略正方形の本体部の4隅に隅丸縦長四角形の電極部分を有し,上側の電極部分に挟まれる領域の中央に縦の長さが電極部分の縦の長さの3分の2程度の略正方形の液晶表示窓を有し,4つの電極部分に囲まれた領域の中央部分に丸形スイッチ7個及び横長略長円形スイッチ1個が配置されている意匠(乙13)。
(ク) 隅丸略正方形の本体部の4隅に隅丸縦長四角形の電極部分(上側にある電極部分が下側にある電極部分より大きい。)を有し,上側の電極部分に挟まれる領域の中央に縦の長さが電極部分の縦の長さの半分程度の横長四角形の液晶表示窓を有し,4つの電極部分に囲まれた領域の中央部分に横長四角形スイッチ10個が配置されている意匠(乙14)。
(ケ) 隅丸略正方形の本体部の4隅に隅丸縦長四角形の電極部分(左側及び右側の各上下の電極部分は一体化している。)を有し,上側の電極部分に挟まれる領域の中央に縦の長さが電極部分の縦の長さより短い横長四角形の液晶表示窓を有し,4つの電極部分に囲まれた領域の中央部分に丸形スイッチ11個が配置されている意匠(乙15)。
(コ) 隅丸略正方形の本体部の4隅に隅丸四角形の電極部分(上側にある隅丸縦長四角形の電極部分が下側にある隅丸横長四角形の電極部分より大きい。)を有し,上側の電極部分に挟まれる領域の中央に縦の長さが上側の電極部分の縦の長さの半分程度の横長四角形の液晶表示窓を有する意匠(乙16)。
ウ 以上のとおり,本件意匠1に係る物品である体組成計の性質,目的,用途,機能及び使用態様によれば本体の正面視,側面視の形状が需要者の注意を惹く部分であるといえること,公知の意匠をみても本件意匠1の構成(前記第2,1,(2),ア)のうち一部を備えたものはあるが同一の組合せを備えたものはないことを併せ考慮すれば,本件意匠1のうち看者である需要者の注意を最も惹きやすいのは,①正面視において,隅丸略正方形形状の透明ガラス板の上下左右四隅近傍に同一形状の縦長の隅丸四角形の電極部を配置し,上側の左右に配置された2つの電極部で囲まれた領域のほぼ中央に横長の隅丸四角形であってその縦方向の長さが電極部の縦方向の長さより短い液晶表示窓を配置し,上側に配置された2つの電極部分の上辺を結んだ線,左側に配置された2つの電極部分の左辺を結んだ線,下側に配置された2つの電極部分の下辺を結んだ線,右側に配置された2つの電極部分の右辺を結んだ線からなる四角形の対角線の交点を中心として,隅丸四角形スイッチ模様が構成されている構成を組み合わせた点,②側面視において,透明ガラス板と本体背面部とを積層一体とした薄いものであるという点であり,これが,本件意匠1の要部に当たると認められる。
(3) 類否
本件意匠1と被告意匠は,上記第3,1,(1),アのとおり,①正面視において,板状体の正面ガラス板は隅丸四角形形状であり,板状体の正面には,4つの隅丸縦長四角形形状の電極部分が上下左右に配置されており,上側の左右に配置された2つの電極部で囲まれた領域のほぼ中央には隅丸横長四角形の液晶表示窓があり,該液晶表示窓の下側であって,かつ,上側に配置された2つの電極部分の上辺を結んだ線,左側に配置された2つの電極部分の左辺を結んだ線,下側に配置された2つの電極部分の下辺を結んだ線,右側に配置された2つの電極部分の右辺を結んだ線からなる四角形の対角線の交点を中心として隅丸四角形からなるスイッチ模様を複数配置して構成されており,②側面視において,透明ガラス板と本体背面部とを積層一体とした構造であるという構成を有する点で共通している。
しかしながら,本件意匠1と被告意匠では,上記第3,1,(1),イのとおり,透明ガラス板の縦横比が異なることに起因して,本件意匠1は看者に対し略正方形状であるとの印象を与えるが,被告意匠は看者に対し横長の長方形状(その縦横比は約1:1.43)であるとの印象を与えるのであり,この印象の差異は大きい。このことに加え,本件意匠1と被告意匠では,電極部分の幅と長さの比(本件意匠1が1:2.5であるが,被告意匠は1:1.43である。),スイッチ模様の並べ方(本件意匠1は2行2列に配置されるのに対し,被告意匠は横一列に配置される。)も異なっている。そうすると,被告意匠と本件意匠1とでは,透明ガラス板の形状に大きな差異があり,透明ガラス板に配置された電極部分やスイッチ模様の具体的形状の差異等の差異も併せれば,看者に対し異なる美感を与えるものというべきである。
したがって,本件意匠1と被告意匠は類似しているということはできない。
(4) 以上によれば,被告製品の生産等は,本件意匠権1を侵害しない。
2 本件意匠2と被告意匠との類否について
(1) 本件意匠2と被告意匠との対比
ア 本件意匠2と被告意匠は次の点で共通する。
基本的構成態様において,①四角形の透明ガラス板と正面視で正面透明ガラス板によって完全に隠される本体部とを積層一体とした構造であり,正面視において四角形の板状体として構成されている点,②透明ガラス板正面の上下左右四隅近傍に4個の電極部分が配置されている点,③透明ガラス板の正面の中央上部寄りに本体部に設けた液晶表示窓が表れている点,④透明ガラス板の正面の上記液晶表示窓の下方に複数のスイッチ模様が表れている点。
具体的構成態様において,①透明ガラス板は隅丸横長四角形である点,②電極部分が隅丸縦長四角状をしており透明ガラス板の上下左右に対称に配置されている点,③液晶表示窓が隅丸横長四角形(縦辺は電極部分の縦辺よりも短い。)であり,透明ガラス板上側に配置された2つの電極部分に挟まれた領域の中央にあり,かかる電極部分の上辺を結んだ線よりも液晶表示窓の上辺は下側にある点,④透明ガラス板上側に配置された2つの電極部分の上辺を結んだ線,左側に配置された2つの電極部分の左辺を結んだ線,下側に配置された2つの電極部分の下辺を結んだ線,右側に配置された2つの電極部分の右辺を結んだ線からなる四角形の対角線の交点を中心として,隅丸四角形からなるスイッチ模様が横一列に配置されている点,⑤本体背面に上下左右の四隅に配置された4つの円柱形状を有する点。
イ 本件意匠2と被告意匠は,次の点で相違する。
(ア) 基本的構成態様について,被告意匠には透明ガラス板と背面本体部との間に挟まれる不透明プロテクタ体があるが,本件意匠2には不透明プロテクタ体がない。
(イ) 本件意匠2と被告意匠は,具体的構成態様について次の点で相違する。
a 透明ガラス板の形状
本件意匠2が隅丸略横長四角形形状(その縦横比は,約1:1.4,その隅丸半径は横辺の約2.7%である。)であるが,被告意匠は隅丸略横長四角形形状(その縦横比は,約1:1.43,その隅丸半径は横辺の約5.7%である。)である。
b 電極部分の幅と長さの比(幅:長さ)
本件意匠2が1:2.2であるが,被告意匠は1:1.43である。
c 液晶表示窓の底辺と上側の左右に配置された電極の底辺との関係
本件意匠2は一直線上にないのに対し,被告意匠は一直線上にある。
d スイッチ模様の個数
本件意匠2は3個であるのに対し,被告意匠は4個である。
e 本体部の背面の形状
本件意匠2は,①各円柱形状を囲み,上下左右の四隅に位置する隅部厚肉形状と,②上辺と左右両側辺に沿って門状に伸び,左右の隅部厚肉形状と上下左右の隅部厚肉形状を互いに連結する細幅薄肉形状と,③正面の液晶表示窓から表れる液晶表示部・電気回路・電池等を収納する,隅部厚肉形状と同じ厚さの中央部厚肉形状を備えているのに対し,被告意匠は,①各円柱形状を囲む略四角形状から下左右の3辺にそれぞれ3つの円弧状の切りかけを取り去った隅部厚肉形状と,②3つの切りかけに対応する3つの薄肉形状と,③3つの薄肉形状の縁に設けられた3つの細幅肉中厚形状と,④正面の液晶表示窓から表れる液晶表示部・電気回路・電池等を収納する,隅部厚肉形状とほぼ同じ厚さの中央部厚肉形状を備えている。
f 被告意匠には,液晶表示窓の周囲には隅丸横長四角形の縁取模様が表示されているが,本件意匠2の液晶表示窓の周囲には縁取模様がない。
g 被告意匠には,透明ガラス板と本体部との間にあり正面視において透明ガラス板の外周部から,透明ガラス板の上辺及び下辺からは縦方向にそれぞれ約3mm,左右辺からは横方向にそれぞれ約2.5mm突出している不透明プロテクタ体を有するが,本件意匠2には不透明プロテクタ体がない。
h 本件意匠2には,裏面本体部の4つの隅部厚肉形状には,板状体の隅丸部分のみに対応してそれぞれ4つの突出した支持部が備えられているが,被告意匠にはかかる支持部はない。
(2) 本件意匠2の要部
前記前提事実によれば,本件意匠2は,本件意匠1と同じ体組成計についての意匠であり,本件意匠1の関連意匠であることからすると,需要者の注意を惹く点についても本件意匠1と同様であるというべきである。
したがって,本件意匠2のうち看者である需要者の注意を最も惹きやすいのは,①正面視において,隅丸横長四角形の板状体からなる透明ガラス板の上下左右四隅近傍に同一形状の縦長の隅丸四角形の電極部を配置し,上側の左右に配置された2つの電極部で囲まれた領域のほぼ中央に横長の隅丸四角形であってその縦方向の長さが電極部の縦方向の長さより短い液晶表示窓を配置し,上側に配置された2つの電極部分の上辺を結んだ線,左側に配置された2つの電極部分の左辺を結んだ線,下側に配置された2つの電極部分の下辺を結んだ線,右側に配置された2つの電極部分の右辺を結んだ線からなる四角形の対角線の交点を中心として,隅丸四角形スイッチ模様が構成されている構成を組み合わせた点,②側面視において,透明ガラス板と本体背面部とを積層一体とした構造であるという点であり,これが,本件意匠2の要部に当たると認められる。
なお,被告は,本件意匠2に係る無効審判請求について平成26年12月24日にされた審決の判断内容によれば,本件意匠2の要部は正面視ではなく背面視及び側面視の構成にある旨主張する。しかし,上記審決(乙99の2)の判断は,当業者が公知意匠に基づいて容易に本件意匠2の創作をすることができたか否かという事項についての判断であって,本件で問題とされているような需要者である消費者が本件意匠2のどこに着目し注意を向けるかという事項とは異なる事項についての判断であるし,また,本件意匠2の正面視と同一の構成を備えた公知の意匠が存在することを認めるに足りる証拠もないのであるから,そうである以上,被告の上記主張は,上記判断を左右するものとはいえず,採用できない。
(3) 類否
本件意匠2と被告意匠は,上記第3,2,(1),アのとおり,①正面視において,板状体の正面ガラス板は隅丸横長四角形形状であり,板状体の正面には,4つの隅丸縦長四角形形状の電極部分が上下左右に配置されており,上側の左右に配置された2つの電極部で囲まれた領域のほぼ中央には隅丸横長四角形の液晶表示窓があり,該液晶表示窓の下側であって,かつ,上側に配置された2つの電極部分の上辺を結んだ線,左側に配置された2つの電極部分の左辺を結んだ線,下側に配置された2つの電極部分の下辺を結んだ線,右側に配置された2つの電極部分の右辺を結んだ線からなる四角形の対角線の交点を中心として隅丸四角形からなるスイッチ模様を複数配置して構成されており,②側面視において,透明ガラス板と本体背面部とを積層一体とした構造であるという構成を有する点で共通している。
相違点について検討すると,正面視において,上記第3,2,(1),イのとおり,本件意匠2と被告意匠とでは透明ガラス板の縦横比が異なっている(本件意匠2が約1:1.4であり,被告意匠が約1:1.43である。)ものの,その差異は極めて小さく,いずれも看者に対し横長長方形であるという印象を与えるものというべきである。また,被告意匠には,液晶表示窓の周囲にある縁取模様があることが認められるが,これは液晶表示窓の大きさと比較してさほど大きいものではなく,正面視において目立つ色彩でもない。さらに,透明ガラス板の隅丸半径,電極部分の幅と長さの比,液晶表示窓の底辺と上側の左右に配置された電極の底辺との関係やスイッチ模様の個数に差異があるが,これらは,透明ガラス板の形状がほぼ同じであることから看者に対して与える共通の美感を凌駕するものとはいえない。
本件意匠2と被告意匠とでは,背面視において,上記第3,2,(1),イのとおり,本体部の背面の形状に差異があるが,これは要部における差異ではない。
さらに,上記第3,2,(1),イのとおり,被告意匠には側面視において不透明プロテクタ体があるが,不透明プロテクタ体は本体背面部と同系統の色彩であり厚みも薄いことから,この点も要部における具体的構成の共通性から看者に与える美感の同一性を凌駕するものとはいえない。
したがって,本件意匠2と被告意匠とは上記のような差異点があることを考慮しても,看者に対して共通の美感を与えるものと認められるから,本件意匠2と被告意匠は類似しているというべきである。
(4) 以上によれば,被告製品の生産等は,本件意匠権2を侵害する。
3 差止請求の可否について
証拠(乙22)によれば,被告は,平成25年9月30日,被告製品の輸入及び販売を終了し,既に1年半近くが経過しており,被告は,被告製品の販売目的の在庫を有しておらず,今後も被告製品を輸入販売する予定のないことが認められ,上記認定に反する証拠はない。したがって,被告が将来被告製品の生産等をするおそれがあるということはできず,原告の被告製品の生産等の差止め及び被告製品の廃棄の請求は理由がない。
4 原告が受けた損害の額について
(1) 意匠法39条1項により損害の額とされる額
ア 被告が被告製品を譲渡した数量
証拠(乙68)によれば,被告は平成24年10月から平成25年10月までの間,被告製品を●(省略)●台譲渡したことが認められる。
被告は,譲渡数量から返品を受けた台数を控除すべきと主張する。しかしながら,返品は製品を消費者に譲渡した後に生じる事象であるから,被告が被告製品を譲渡した時点において,既に原告が被告による意匠権侵害がなければ販売することができた物品との間で競合が生じているのである以上,被告製品の譲渡の後に返品があったとしてもこれを控除する必要があるということはできない。被告の上記主張は,採用することができない。
イ 原告が被告による意匠権侵害がなければ販売することができた物品
前示のとおり,被告製品の生産等は本件意匠権1を侵害しない。
しかしながら,前記前提事実に証拠(甲19の3ないし5,乙29)及び弁論の全趣旨を総合すれば,原告製品2は原告製品1をコンパクト化した製品として紹介されていること,平成24年9月から平成25年8月までの平均販売単価は原告製品1が約3414円であり被告製品が約2502円であって両者は競合価格帯にあること,原告製品1の質量は約1.6kg,寸法は幅285mm×高さ28mm×奥行き280mmであり,被告製品の質量は約1.4kg,寸法は幅297mm×高さ25mm×奥行き約210mmであり,原告製品1と被告製品の質量及び寸法の差異は大きくないことが認められる。また,前記前提事実によれば,原告製品1の意匠は本件意匠1と同一の意匠であり,原告製品2の意匠は本件意匠2と同一の意匠であり,本件意匠2は本件意匠1の関連意匠であることが認められる。上記認定の事情によれば,被告製品を購入しようとした者は,原告製品2だけでなく原告製品1の購入も検討すると認めることができるから,被告製品は,原告製品1とも競合するというべきであり,原告製品2のみならず原告製品1も,原告が被告による本件意匠権2の侵害がなければ販売することができた物品に当たるというべきである。
ウ 原告が被告による意匠権侵害がなければ販売することができた物品の単位数量当たりの利益の額
(ア) 対象期間について
原告製品1及び2の単位数量当たりの利益の額は,それらの売上等の認定が証拠上可能な全期間である平成23年8月から平成25年10月までの間の原告製品1及び2の売上等に基づき算出することが相当である。
原告は,平成24年10月の被告製品の発売により値下げを余儀なくされたため,平成23年8月から平成24年3月までの原告製品1及び2の売上等に基づき単位数量当たりの利益の額を算出すべきと主張する。しかしながら,前記前提事実によれば,被告が被告製品を発売したのは,原告製品1及び2が平成23年8月頃に市場に出てから既に1年以上経過した後であると認められ,原告製品の値下げの要因がそのような被告製品の発売以外の要因であることもうかがわれる状況であるところ,原告は,被告製品が発売された時期の販売価格について平成23年8月から平成24年3月までの期間と平成24年4月から平成25年3月までの期間,平成25年4月から同年10月までの期間についての平均販売価格を主張,立証するにとどまり,被告製品が平成24年10月に発売された前後の価格の変動を具体的に主張,立証していないし,証拠(甲41の1ないし6,42)によれば,平成23年8月から平成24年3月までの期間の平均販売価格と平成25年4月から同年10月までの期間の平均販売価格との差をみると原告製品1は●(省略)●円であり,原告製品2は●(省略)●円に過ぎないことが認められる。これらの事情に照らせば,原告が原告製品1及び2を値下げした要因が被告製品の発売であると認めることはできない。原告の上記主張は,採用することができない。
(イ) 原告製品1の1台当たりの利益の額
前記前提事実に証拠(甲41の4ないし6,42,45,48の1ないし50の3)及び弁論の全趣旨を総合すれば,a 原告製品1は平成23年8月から平成25年10月までの間,●(省略)●台販売され,その売上は●(省略)●円であったこと,b 原告製品1は製造元から輸入して倉庫に保管してから販売しているため仕入原価,輸送費,輸入諸費用,倉庫保管費が発生していること,c 原告製品1の販売について販売店にリベート(●(省略)●)が支払われていること,d 仕入原価,輸送費,輸入諸費用,倉庫保管費,リベートの総額は●(省略)●円であったことが認められる。仕入原価,輸送費,輸入諸費用,倉庫保管費,リベートは,原告製品1の単位数量当たりの利益の額を算出するに当たり控除することが相当であるから,原告製品1の1台当たりの利益の額は,●(省略)●円と認められる((●(省略)●円-●(省略)●円)/●(省略)●台=●(省略)●円)。
(ウ) 原告製品2の1台当たりの利益の額
前記前提事実に証拠(甲41の1ないし3,42,45,48の1ないし50の3)及び弁論の全趣旨を総合すれば,a 原告製品2は平成23年8月から平成25年10月までの間,●(省略)●台販売され,その売上は●(省略)●円であったこと,b 原告製品2は製造元から輸入して倉庫に保管してから販売しているため仕入原価,輸送費,輸入諸費用,倉庫保管費が発生していること,c 原告製品2の販売について販売店にリベート(●(省略)●)が支払われていること,d 仕入原価,輸送費,輸入諸費用,倉庫保管費,リベートの総額は●(省略)●円であったことが認められる。仕入原価,輸送費,輸入諸費用,倉庫保管費,リベートは,原告製品2の単位数量当たりの利益の額を算出するに当たり控除することが相当であるから,原告製品2の1台当たりの利益の額は,●(省略)●円と認められる((●(省略)●円-●(省略)●円)/●(省略)●台=●(省略)●円)。
(エ) なお,被告は,原告製品1及び2の単位数量当たりの利益の額を算出するに際し控除する仕入原価について,●(省略)●しかしながら,単位数量当たりの利益の額を算出するに当たっては原告が実際の取引に当たり使用していた換算レートを使用することが相当であるところ,証拠(甲45)によれば,原告は実際に輸入元との間で上記の換算レートを用いていたことが認められ,特にそれが不合理であるといえる特段の事情を認めるに足りる証拠もないから,原告製品1及び2の単位数量当たりの利益の額を算出するに際して●(省略)●は相当というべきである。被告の上記主張は,採用することができない。
また,被告は,原告製品1及び2の単位数量当たりの利益の額を算出するに際しては広告宣伝費(チラシ,雑誌,カタログ,ポスター,パネル,ウェブページ,看板等作製,掲載費用等,売場作りのための費用,展示会等参加費用,ブランドイメージ向上,促進のための費用)を控除すべきと主張する。しかしながら,単位数量当たりの利益額は,意匠権侵害により減少した利益額,すなわち意匠権侵害がなければ追加的に得られた利益額を,意匠権侵害により減少した販売数量,すなわち,意匠権侵害がなければ追加的に販売し得た数量で除したものをいうのが相当であるところ,被告が主張する上記費用は原告製品1及び2の販売台数に関わりなく支出が見込まれるものであり,原告製品1及び2の売上台数が増加する度に増加するという性質のものということはできないから,原告製品1及び2の単位数量当たりの利益の額を算出するに当たり控除すべきものということはできない。被告の上記主張は,採用することができない。
エ 原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができないとする事情
(ア) 被告は,被告製品の売上への被告意匠以外の要因が寄与していると主張する。
証拠(甲30の1,乙23,24,26,28,86)及び弁論の全趣旨によれば,a 被告は,原告に先んじて体組成計の販売を開始し,平成15年までは体組成計の年間シェア(数量)の62.9%以上を占めていたこと,b 平成23年の体組成計の年間シェア(数量)は被告が38.7%で1位,原告が32.3%で2位あり,3位の企業は14.5%であること,c 被告が販売する体組成計を購入した者の25.77%が被告ブランドを理由に購入していること,d 日経BPコンサルティングが実施している「ブランドジャパン2011」において消費者からみた総合力の上昇ランキングで9位とされていること,e 「ブランドジャパン2013」においてコンシューマー市場編総合力と因子指数において60位とされたこと(原告は同ランキングで183位であった。),f 被告が,平成23年7月19日,平成24年6月11日及び平成25年5月28日にMDBネットサーベイを利用して行ったアンケートによれば,体組成計や体脂肪計のメーカーのイメージが強い最も強い企業を選ぶ問いに対し被告と答えた者が順に68.2%,71.6%,71.8%であったことが認められる。
以上の事実によれば,被告は体組成計のシェアを長期間にわたり安定的に有しており,被告が製造する体組成計を購入した者の中には被告のブランド力を理由とする者も多数おり,被告がブランド力の調査において上位にされることがあったのであるから,被告製品の売上に被告のブランド力の有する顧客吸引力の貢献もあるというべきである。
しかしながら,一方で,証拠(甲8の2ないし4,27の1・2,38)によれば,a 原告製品1又は2を購入した者に対するアンケート結果では,商品を選択した理由として「デザイン(見た目)が良い」という回答をしている者が順に●(省略)●%,●(省略)●%に上っていること,b 一方,同アンケート結果では,「メーカー名」を挙げる者は各●(省略)●%に過ぎなかったこと,c 体組成計を取り上げたテレビ番組でも,原告製品1について「従来無かったデザイン性の高さが人気といいます。」,原告製品2について「コンパクトなタイプ。デザインとカラーで人気を集めています。」などと報道されたこと(平成24年12月18日放送・ワールドビジネスサテライト)が認められるから,デザインが体組成計の購入動機とならないとはいえない。
なお,前示のとおり,本件意匠2はその出願時点における公知意匠とは異なる構成を有するものであるから,被告が本件意匠2について無効審判を請求していることを考慮しても,その創作性の程度が低いということはできない(なお,上記無効審判請求については,平成26年12月24日に請求不成立の審判がされた〔乙99の2〕)。また,本件意匠2は,部分意匠ではないし,被告意匠は全体として本件意匠2と類似するのであるから,被告意匠が本件意匠2の一部と類似するに過ぎないということもできない。
したがって,被告製品の売上には被告意匠以外の要因として被告ブランドの顧客吸引力も寄与しているといえるから,このような事情については原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができないとする事情として考慮することができるというべきである。
(イ) 被告は,原告が原告製品1及び2を追加的に販売する際に注文に対応できない台数の割合があることを考慮すべきと主張する。しかしながら,原告は1か月に●(省略)●台の原告製品1及び2を輸入,販売することができると認められるところ(甲42),原告が原告製品1及び2が売れすぎたために品切れを起こし販売を中止した期間があると認めるに足りる証拠はない。したがって,原告が原告製品1及び2を追加的に販売する際に注文に対応できない台数の割合があることを原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができないとする事情として考慮することはできないというべきである。
(ウ) 被告は,原告製品1及び2には被告製品の他に競合品があると主張する。確かに,体組成計について,原告製品1及び2の他に原告や被告の他多数の企業から多数の製品が販売されていることは当事者間に争いがないが,証拠(甲30の1)によれば,平成23年の体組成計の年間シェアは被告が38.7%で1位,原告が32.3%で2位あり,3位の企業は14.5%であることが認められ,被告と原告とで体組成計の年間シェアの71%を占めていることからすると,被告製品がなかった場合,被告製品の購入者の大部分は被告が販売する製品か原告が販売する製品を購入するものというのが相当である。そして,前示のとおり被告製品を購入した者はメーカー名よりもデザインに着目して購入しているところ,証拠によっても,平成24年10月から平成25年9月30日までの間に被告が販売する被告製品以外の体組成計にその意匠が本件意匠2と同一又は類似するものがあるとは認められないのである。そうすると,原告製品1及び2には被告製品の他にも競合品があるという事情は,被告製品が販売されていた期間において原告製品1及び2か被告製品しか選択肢がないという状況ではなかったから,被告製品がなかったとしても被告製品の譲渡数量の全てについて原告製品1又は2が購入されたということはできない(しかし,大部分は原告製品1又は2が購入されたといえる。)という程度において,原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができないとする事情として考慮することができるにとどまるというべきである。
(エ) 以上によれば,被告製品の売上には被告ブランドの顧客吸引力の寄与もあるという事情,原告製品1及び2には被告製品の他に競合品があり,被告製品が販売されていた期間において原告製品1及び2か被告製品しか選択肢がないという状況ではなかったという事情は,上記説示の範囲で,原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができないとする事情として考慮することができる。また,前示のとおり,被告製品の生産等は本件意匠権1を侵害しないという事情があり,これも原告が被告製品の譲渡数量の全部又は一部を譲渡することができないとする事情として考慮することができる。これらの諸事情を考慮すれば,被告製品の譲渡数量のうち50%に当たる●(省略)●台(小数点以下切り捨て。)について原告が譲渡することができない事情があるというべきである。
オ 前記前提事実のとおり,原告は,1か月に●(省略)●台の原告製品1及び2を輸入,販売することができたから,平成24年10月から平成25年9月までの間,原告製品1及び2を併せて●(省略)●台を輸入,販売することができた。
カ 以上によれば,意匠法39条1項により損害の額とされる額は1億1741万3662円である。
●(省略)●台×(●(省略)●台/(●(省略)●台+●(省略)●台))×●(省略)●円+●(省略)●台×(●(省略)●台/(●(省略)●台+●(省略)●台))×●(省略)●円=1億1741万3662円(小数点以下切り捨て)。
(2) 弁護士費用
本件訴訟の経過に照らし,被告による本件意匠権2の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用は1174万円とするのが相当である。
(3) したがって,原告が受けた損害の額は1億2915万3662円と認められる(1億1741万3662円+1174万円=1億2915万3662円)。
5 以上によれば,原告の請求は損害金合計1億2915万3662円及びこれに対する不法行為の後である平成25年9月30日(前記第3,3認定のとおり,被告は平成25年9月30日に被告製品の輸入及び販売を終了したから,同日までに上記認定の損害が発生したことは認められるが,それ以上に損害の発生時期の詳細を認めるに足りる証拠はない。)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
よって,上記の限度で原告の請求を認容し,その余は理由がないからこれをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 沖中康人 裁判官 三井大有 裁判官 藤田壮)
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