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裁判年月日　平成27年 2月20日　裁判所名　大阪高裁　裁判区分　判決
事件番号　平２６（行コ）５９号
事件名　風俗案内所営業権確認等請求控訴事件
裁判結果　取消・棄却　上訴等　上告・上告受理申立て　文献番号　2015WLJPCA02206002

新判例体系
公法編 > 憲法 > 憲法〔昭和二一年一一… > 第三章　国民の権利及… > 第二二条 > ○居住、移転の自由 > （二）法令の合憲性 > 京都府風俗案内所の規制に関する条例
◆京都府風俗案内所の規制に関する条例（平成二二年京都府条例第二二号）が学校等の保護対象施設の敷地から二〇〇メートル以内の地域を営業禁止区域と定め、同地域内における風俗案内所の営業を全面的に禁止し、その違反者に対して罰則を科することとしていることは憲法第二二条第一項に違反しない。

公法編 > 行政諸法 > 風俗営業等の規制及び… > 第二章　風俗営業の許… > 第四条 > ○実質的当事者訴訟の… > （一）確認の利益を肯定し、風俗案内所規制条例を合憲とした事例
◆京都府風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例別表所定の第三種地域の内の、京都府風俗案内所の規制に関する条例に係る保護対象施設の敷地から七〇メートルの範囲に含まれない範囲において、風俗案内所を営む法的地位を有すること及び同風俗案内所の内部において接待飲食営業の従事者を表示等する法的地位を有することの確認を求める各訴えにつき、確認の利益があるというべきであるが、風俗案内所を規制する同条例第三条第一項等は、風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に抵触するものではなく、憲法第二二条第一項に反するものともいえない。

公法編 > 行政訴訟法 > 行政事件訴訟法〔昭和… > 第一章　総則 > 第四条 > ○当事者訴訟 > （一）公法上の法律関… > （９）その他
◆風俗案内所の規制に関する条例所定の営業禁止区域において適法に風俗案内所を営む法的地位を有するか否かについての争いは、公法上の法律関係に関する争いである。

公法編 > 行政訴訟法 > 行政事件訴訟法〔昭和… > 第一章　総則 > 第四条 > ○当事者訴訟 > （三）訴えの適法性 > （２）適法としたもの
◆風俗案内所の規制に関する条例所定の営業禁止区域において風俗案内所の営業を望む者に対して、事前にその適法性を確認することを認めず、営業を開始して事業停止命令を受けたり、起訴されたりした後に、取消訴訟や刑事訴訟の中で争うことを求めるのは、酷であり、紛争解決の方法として極めて〓遠であるから、営業禁止区域において風俗案内所の営業を行う蓋然性があると認められる者については、同営業を適法に営む法的地位を有することの確認を求める訴えの利益がある。

裁判経過
上告審平成28年12月15日最高裁第一小法廷判決平２７（行ツ）２１１号風俗案内所営業権確認等請求事件
第一審平成26年 2月25日京都地裁判決平２３（行ウ）４２号風俗案内所営業権確認等請求事件

出典
判時 2275号18頁
判例地方自治 419号84頁＜参考収録＞

評釈
宗宮英俊・NBL 1070号112頁
赤間聡・自治研究 93巻8号132頁
武田芳樹・法セ 729号124頁
南眞二・法政理論（新潟大学） 48巻2･3号213頁
下山憲治・日本不動産学会誌 29巻4号205頁

参照条文
行政事件訴訟法４条
日本国憲法２１条
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律４条
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律２８条
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例３条
京都府風俗案内所の規制に関する条例１条
京都府風俗案内所の規制に関する条例２条４号
京都府風俗案内所の規制に関する条例３条
京都府風俗案内所の規制に関する条例１６条

京都市〈以下省略〉
控訴人・被控訴人（原告）Ｘ（以下「一審原告」という。）
同訴訟代理人弁護士藤居弘之
澤田将樹
後藤周平
京都市〈以下省略〉
被控訴人・控訴人（被告）京都府（以下「一審被告」という。）
同代表者知事Ｂ
同訴訟代理人弁護士置田文夫
三野岳彦
同訴訟復代理人弁護士村田純江
同指定代理人山嵜正三
野間康宏
塩見愛
山本晴保

主文

１　一審被告の本件控訴に基づき，原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
２　上記取消部分に係る一審原告の請求を棄却する。
３　一審原告の本件控訴を棄却する。
４　訴訟費用は，１，２審を通じ，一審原告の負担とする。

事実及び理由

第１　控訴の趣旨
１　一審原告の控訴の趣旨
（主位的請求）
(1)　原判決を次のとおり変更する。
(2)　一審原告が，京都府風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例別表所定の第３種地域において，利用者の求めに応じて風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律２条１項２号所定の接待飲食等営業に係る原判決添付の別紙３記載の１及び２に掲げる事項に関する情報を提供する方法により，風俗案内所を営む法的地位を有することを確認する。
(3)　一審原告が，前項の風俗案内所の内部において，風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律２条１項２号所定の接待飲食等営業に従事する者を表し，若しくはこれを連想させる図画若しくは文字，数字その他の記号を表示し，又は表示したものを掲出し，若しくは配置する法的地位を有することを確認する。
（予備的請求）
(1)　原判決を次のとおり変更する。
(2)　一審原告が，京都府風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例別表所定の第３種地域内の原判決添付の別紙２記載の１ないし４の各施設の敷地から７０ｍ以内に含まれない場所において，利用者の求めに応じて風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律２条１項２号所定の接待飲食等営業に係る同別紙３記載の１及び２に掲げる事項に関する情報を提供する方法により，風俗案内所を営む法的地位を有することを確認する。
(3)　一審原告が，前項の風俗案内所の内部において，風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律２条１項２号所定の接待飲食等営業に従事する者を表し，若しくはこれを連想させる図画若しくは文字，数字その他の記号を表示し，又は表示したものを掲出し，若しくは配置する法的地位を有することを確認する。
２　一審被告の控訴の趣旨
主文同旨
第２　事案の概要
１　本件は，京都府風俗案内所の規制に関する条例（平成２２年京都府条例第２２号。以下「本件条例」という。）が，同条例３条１項各号所定の各施設（以下「本件条例に係る保護対象施設」といい，風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律〔昭和２３年法律第１２２号。以下「風営法」という。〕２条１項所定の風俗営業及び同条５項所定の性風俗関連特殊営業等並びに風俗案内を規制する各種の法令等において，その敷地から一定の距離以内の地域が営業禁止区域と定められている，学校，児童福祉施設，病院，図書館，保健所等の各施設を，総じて「保護対象施設」という。）の敷地から２００ｍ以内の地域を営業禁止区域と定め，同区域内における風俗案内所の営業を全面的に禁止し，その違反者に対して刑罰を科する旨規定しているところ，京都府風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例（昭和３４年京都府条例第２号。以下「京都府風営法施行条例」という。）別表所定の第３種地域（以下，単に「第３種地域」といい，同別表所定の第１種地域，第２種地域も，単に「第１種地域」，「第２種地域」という。）において本件条例２条５号所定の風俗案内所を営んでいた一審原告が，ａ本件条例２条４号ないし６号，３条１項，７条２号，１２条１項，１３条１項，１６条１項１号及び同項３号（以下，これらの規定を併せて「本件各規定」という。）について，風営法に抵触し，憲法９４条に違反する旨，ｂ本件条例２条４号ないし６号，３条１項，１６条１項１号について，明確性の原則に反し，憲法３１条に違反する旨，ｃ本件各規定は，営業の自由を不当に制限するものであって，憲法２２条１項に違反する旨，ｄ本件各規定は，営利的表現の自由を不当に制限するものであって，憲法２１条１項，２２条１項に違反する旨主張して，一審被告に対し，①主位的に，一審原告が，ⅰ第３種地域において，利用者の求めに応じて風営法２条１項２号所定の接待飲食等営業に関する情報を提供する方法により，風俗案内所を営む法的地位を有すること及びⅱ同風俗案内所の内部において，風営法２条１項２号所定の接待飲食等営業に従事する者を表し，若しくはこれを連想させる図画若しくは文字，数字その他の記号を表示し，又は表示したものを掲出し，若しくは配置する法的地位を有することの確認をそれぞれ求めるとともに，②予備的に，一審原告が，第３種地域の内の，本件条例に係る保護対象施設（ただし，同項５号の診療所から患者を入院させるための施設を有しない診療所〔以下，同施設を有する診療所を「有床の診療所」，同施設を有しない診療所を「無床の診療所」という。〕を除く。）の敷地から７０ｍの範囲に含まれない場所において，ⅰ第３種地域において，利用者の求めに応じて風営法２条１項２号所定の接待飲食等営業に関する情報を提供する方法により，風俗案内所を営む法的地位を有すること及びⅱ同風俗案内所の内部において，風営法２条１項２号所定の接待飲食等営業に従事する者を表し，若しくはこれを連想させる図画若しくは文字，数字その他の記号を表示し，又は表示したものを掲出し，若しくは配置する法的地位を有することの確認をそれぞれ求める事案である。
２　原審は，本件訴えのうち，(1)主位的請求について，上記１①ⅱに係る訴え部分を却下し，その余の請求を棄却し，(2)予備的請求について，上記１②ⅱに係る訴え部分を却下し，一審原告が，第３種地域内の原判決添付の別紙１記載の１ないし４の各施設の敷地から７０ｍ以内に含まれない場所において，利用者の求めに応じて風営法２条１項２号所定の接待飲食等営業に係る同別紙３記載の１及び２に掲げる事項に関する情報を提供する方法により，風俗案内所を営む法的地位を有することを確認する請求を認容し，その余の請求を棄却したことから，これを不服とする一審原告及び一審被告がそれぞれ控訴した。
３　関係法令等，前提事実，争点及び争点に関する当事者の主張は，後記４において，原判決２２頁９行目の「代用監獄」を削除し，当審における当事者の補充主張を付加するほかは，原判決「事実及び理由」中の「第２　事案の概要」の「１　法令等の定め」，「２　前提事実」，「３　争点」及び「４　争点に関する当事者の主張の要旨」（原判決４頁１４行目から４０頁２１行目まで）に記載のとおりであるから，これを引用する。
４　当審における当事者の補充主張（なお，以下に記載する各争点は，いずれも原判決で摘示された争点に対応している。）
(1) 　争点(2)（確認の利益の有無）に係る一審原告の主張
一審原告は，外部から見通すことができるか否かにかかわらず，風俗案内所内に接待風俗営業に従事する者等の写真を掲出することを求めている。したがって，これを禁止する本件条例７条２号の合憲性の成否は，当事者間の実質的な争点となっているから，一審原告には，控訴の趣旨の（主位的請求）及び（予備的請求）の各(3)について，確認の利益がある。
(2) 　争点(3)（本件各規定が風営法に抵触するものであるか。）
ア　一審原告の主張
本件各規定は，次のとおり，風営法に抵触し，憲法９４条，地方自治法１４条１項に違反する。
（ア）　条例が法律に違反するかどうかについて，最高裁判所昭和５０年９月１０日判決（刑集２９巻８号４８９頁）（以下「昭和５０年判決」という。）は，法律と条例の目的の比較（第１段階），法律が法律による規制以外の規制を条例によって施すことを一切許さない趣旨であるか否かの判断（第２段階）の次に，第３段階として，①法律と条例に矛盾抵触があるか，②条例に特別の意義と効果があるか，③条例が法律よりも重い法定刑を定めることに合理性があるかについての審査をしている。
本件条例についても風営法との関係で上記各事項について審査をする必要がある。そこで，上記②であるが，風俗案内所の影響力が風営法による各種規制の下にある風俗営業所とは比較にならないほど強いというような事情があれば，本件条例に特別の意義と効果があるといえるが，そのような事情はない。上記③であるが，上記のとおり，風俗案内所の影響力が風俗営業所とは比較にならないほど強いとは言えない以上，風営法よりはるかに強い規制を本件条例によって行い得る合理性は認められない。
（イ）　風営法の規制は，風俗案内所にも及ぶところ（甲７７），風営法は，昭和５９年改正以降，風俗営業の広告，宣伝に対して刑罰を科することを慎重に避けている。したがって，条例においても，直接的な形であれ，共犯理論による間接的な形であれ，同広告，宣伝について，刑罰を用いることを禁止していると解される。ところが，本件条例は，風俗営業の広告，宣伝をする風俗案内所に刑罰を科すものであって，風営法の範囲を逸脱している。
イ　一審被告の主張
（ア）　一審原告の上記主張は，否認ないし争う。
本件各規定は，風営法に抵触していない。
（イ）　一審原告は，前記ア（ア）のとおり，前記昭和５０年判決に第３段階の審査がある旨主張する。しかし，当該部分は，それまでの判示のあてはめにすぎず，上記主張は，独自の主張である。なお，風俗案内所の影響力は，個々の風俗営業所よりもはるかに大きい。
（ウ）　一審原告の前記ア（イ）の主張であるが，風営法は，無届けの店舗型性風俗特殊営業等を営むことや接待遊飲営業等で客に性的サービスを提供することを許容するものではない上，風営法の昭和５９年改正における国会の答弁も，このような脱法的な性風俗営業に係る規制の可能性を否定するものではなかった。また，風営法の平成１７年改正の際，その中で風営法による風俗案内所の規制方法について議論がなされたが，都道府県が地域の実情に応じて風俗案内所の規制をすることを否定したものではなかった。
(3) 　争点(5)（本件各規定が営業の自由を不当に制限するものであるか）
ア　一審原告の主張
本件各規定は，次のとおり営業の自由を不当に制限するものである。
（ア）　①京都府警が風俗案内所による違法な性風俗営業店への風俗案内も性風俗店への風俗案内も認めていないこと，②風俗営業の実態は，都道府県ごとに千差万別であるから，他の都道府県の実態から風俗案内所の一般的傾向を導き，京都府にあてはめることはできないこと，③風俗案内所について検挙件数なしの都道府県が３３都道府県（７１．７％）に及ぶことからすると，風俗案内所が違法に性的サービスを提供する役務を提供する店舗と結び付きがちなものであるとはいえない。それにもかかわらず，本件各規定は，違法な性風俗営業店等への風俗案内をしない風俗案内所に対し，同違法な案内への危惧を基に営業の自由を制限する。
（イ）　京都府風営法施行条例は，無床の診療所を第３種地域における保護対象施設としていないが，本件条例は，これを本件条例に係る保護対象施設としている。その結果，無床の診療所の近くでの風俗案内所の営業は，禁止されるが，風俗営業所の営業は，禁止されないという不合理な結果をもたらす。また，本件条例で無床の診療所を同保護対象施設とする立法事実の変化はない。そして，一審被告は，第３種地域から風俗案内所を根絶するため，その手段として無床の診療所を同保護対象施設として加えたに過ぎない。
（ウ）　風俗案内所は，風俗営業所の存在を前提とし，それとの関係では常に従属的な立場に立つところ，風俗案内所のもたらす害悪が風俗営業所のもたらす害悪よりも上回ることがなく，同等と評価することもできない。
（エ）　風営法は，その基本的視座として，性風俗と比較して，接待風俗については寛容である。したがって，接待風俗の係る合憲性判断には，営業であれ，広告であれ，立法事実に即して厳格に判断されなければならない。
（オ）　後記イの一審被告の主張は，否認ないし争う。
なお，一審被告は，①風営法１６条違反の効果が刑事罰ではなく指示処分にとどまるのに，本件条例３条１項違反の効果が刑事罰であることの正当性について，②本件条例３条１項と本件条例１２条２項のと整合性について，合理的な説明をしていない。
イ　一審被告の主張
本件各規定は，次のとおり営業の自由を不当に制限するものではない。
（ア）　本件条例は，「風俗案内所に起因する府民に著しく不安を覚えさせ，又は不快の念を起こさせる行為，犯罪を助長する行為等に対し必要な規制を行うことにより，青少年の健全な育成を図るとともに，府民の安全で安心な生活環境を確保する」という公共の福祉に合致する目的をもって制定されたもので，風俗案内所に対する規制の必要性が認められる。また，次の事情からして，規制目的と規制手段との間に合理的関連性が認められる。
ａ　本件条例３条１項は，店舗型性風俗特殊営業（風営法２８条１項，風営法施行条例１０条１項），店舗型電話異性紹介営業（風営法３１条の１３，同２８条１項），出会い系喫茶等営業（青少年健全育成条例２４条の７）等の営業禁止区域に係る規制を参考として，保護対象施設から２００ｍを風俗案内所の営業禁止区域として規制している。
上記各規制を参考にしたのは，風俗案内所が違法な性風俗営業店とつながっているという実態や風俗案内所と上記規制に係る営業等との性質，業態の類似性等を考慮したものであり，風俗案内所の上記距離制限には合理的理由がある。
ｂ　①風俗案内所は，風営法が定める構造上の規制がないことに起因してその外部発信力が風俗営業所より格段に大きいこと，②風俗案内所が違法な性風俗と結び付き，大量かつ多数・種々雑多な蓄積された情報を提供し，しかも無料で使用できる店舗も存在し，その集客力は個別の風俗営業所の比ではないことなど，情報の発信力は，量及び内容において個別の接待飲食等営業とは，著しく異なる。
ｃ　上記のような違いから，風俗営業所と風俗案内所との間で保護対象施設からの距離制限に差を設けることは合理性があるところ，風俗案内所の設置について，風俗案内所の扱う上記情報量及び性質に加えて，次の事情からして，本件条例で定める規制（本件条例に係る保護対象施設から２００ｍを禁止区域とする。）には合理性があるというべきである
（a）　風営法は，接待飲食等営業について，保護対象施設から７０ｍの，性風俗関連特殊営業について，保護対象施設から２００ｍの各距離制限を設けている。また，接待飲食等営業の広告，宣伝について，営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれがある方法（衣服を脱いだ人の姿態，営業所内で卑猥行為が行われていることを示すなど）での広告又は宣伝を禁止しているところ（１６条），この「営業所周辺」とは営業所周囲１００ないし２００ｍ程度と解されており，また，風営法は，性風俗関連特殊営業について，上記方法による広告又は宣伝を行うことを全面的に禁止している（２８条８項）。
京都府民の安全で安心な生活環境の確保のためには，少なくとも，風営法が定める性風俗関連特殊営業に係る上記距離制限及び風俗営業所に対する広告，宣伝規制と同様の規制が風俗案内所について必要である。
（b）　キャバクラ等，風俗営業の今日的業態は，客の性的好奇心に応じることと無関係ではないため，接待飲食等営業について情報提供を行う風俗案内所に対しても場所的な規制が必要である。
（c）　風営法は，清浄な風俗環境を害するおそれがある方法で行う広告，宣伝について，営業そのものよりも広告，宣伝を広い範囲にわたって規制していること，また，広告，宣伝について接待飲食等営業と性風俗関連特殊営業とを区別して規制し，後者について，広告，宣伝を禁止している。
（d）　仮に，風俗営業所の近くに位置する風俗案内所が接待飲食等営業の許可を得つつ性的サービスを提供する違法な性風俗営業店を風俗案内し，かつ，保護対象施設が１００ないし２００ｍより狭い範囲内にある場合，風俗営業所自身ができなかった広告，宣伝を脱法的にできるようになり，その結果，上記のような風俗案内所により当該保護対象施設周辺の清浄な風俗環境が害されることとなる。
（e）　全国各地で，風俗案内所が違法な性風俗案内を実施している実態があることからすると，純然たる接待飲食等営業の風俗案内のみ行う風俗案内所は，想定し難く，また，そのような風俗案内所について別途距離制限規定を設けたとしても，それを隠れ蓑にして違法な性風俗営業店の風俗案内を行うことが容易に想定される。
なお，風営法は，店舗型電話異性紹介営業において，同営業の客及び会話の申込者が１８歳未満であるかどうかにかかわらず，営業禁止区域及び広告宣伝禁止区域として，一律に保護対象施設から２００ｍを設定しており，同法は，善良な風俗と清浄な風俗環境を保持し，青少年の健全育成を図るという目的のため，必ずしも規制を必要としない対象も規制対象として取り込むことを予定している。本件においても，風俗案内所が純然たる接待飲食等営業の風俗案内をする場合，風俗案内所の営業禁止に係る距離制限がこのような接待飲食等営業を案内する営業の自由を一定程度制限することになるが，風俗案内所の前記ｂで記載した性格等からすると，やむをえない制約というべきである。
（f）　本件条例の規制は，風俗案内所について，届出制を採用せず，人的規制も採用せず，また，同条例３条は，本件条例に係る保護対象施設から２００ｍの区域においては，風俗案内所の営業を禁止するものの，それ以外の区域においては営業を許すものであって，風俗案内所規制に関する他府県の条例と比較すると緩やかである。
（イ）　京都府風営法施行条例１０条は，博物館，都市公園，保健所が，風営法２８条１項に掲げられている学校，児童福祉施設，図書館と価値において同等であるから，店舗型性風俗特殊営業の営業禁止区域を設定するに当たりこれらを保護対象施設とした。本件条例３条は，風俗案内所の実態を考慮して，府民の安全で安心な生活環境を確保するとともに，青少年の健全な育成を図る目的から，博物館，都市公園，保健所を本件条例に係る保護対象施設とした。したがって，これらの施設も保護対象施設とすべきである。
第３　当裁判所の判断
１　当裁判所は，一審原告の本件請求は，理由がないからいずれもこれを棄却すべきものと判断する。その理由は，次のとおりである。
２　争点(1)（本件訴えが「公法上の法律関係に関する確認の訴え」に該当するか（本案前の争点））について
原判決「事実及び理由」中の「第３　当裁判所の判断」の１(1)及び(2)（原判決４０頁２５行目から４１頁２２行目まで）で認定説示したとおりであるから，これを引用する。
３　争点(2)（確認の利益の有無〔本案前の争点〕）について
(1) 　主位的請求(1)及び予備的請求(1)（当審での控訴の趣旨主位的請求(2)及び予備的請求(2)）について
原判決「事実及び理由」中の「第３　当裁判所の判断」の２(1)及び(2)（原判決４１頁２４行目から４５頁１４行目まで）で認定説示したとおりであるから，これを引用する。
(2) 　主位的請求(2)及び予備的請求(2)（当審での控訴の趣旨主位的請求(3)及び予備的請求(3)）について
一審原告は，本件訴えに係る各請求において，風俗案内所の内部において，接待飲食等営業に従事する者を表し，若しくはこれを連想させる図画若しくは文字，数字その他の記号を表示し，又は表示したものを掲出し，若しくは配置する法的地位を有することの確認を求めている（前記第２の１①ⅱ〔主位的請求〕及び同②ⅱ〔予備的請求〕）ところ，同各訴えについて，外部から見通すことができるか否かにかかわらず，風俗案内所内に接待風俗営業に従事する者等の写真を掲出すること等を求める趣旨である旨主張する。そして，本件条例７条２号は，一審原告が主張するような外部から見通すことができる状態での写真の掲出等の行為も禁止していると解するのが相当である。したがって，一審原告には，同各訴えについて，確認の利益があるというべきである。
４　争点(3)（本件各規定が風営法に抵触するものであるか〔本案の争点〕）について
(1) 　原判決の引用部分について
原判決「事実及び理由」中の「第３　当裁判所の判断」の３(1)ないし(3)（原判決４６頁５行目から４９頁１５行目まで）で認定説示したとおりであるから，これを引用する。
(2) 　当審における一審原告の補充主張に対する判断
ア　本件各規定が風営法に抵触していないことについて
一審原告は，条例が法律に違反するかどうかについて，昭和５０年判決を踏まえ，①法律と条例に矛盾抵触があるか，②条例に特別の意義と効果があるか，③条例が法律よりも重い法定刑を定めることに合理性があるかについて審査する必要があるとして，上記②及び③について，風俗案内所の影響力が，風営法による各種規制の下にある風俗営業所とは比較にならないほど強いという事情が認められないため，本件条例で風営法より強い規制を定めることはできない旨主張するところ，Ｃ立命館大学助教の意見書（甲８５）は，それに沿う内容となっている。
しかし，昭和５０年判決は，条例が国の法令に違反するかどうかは，両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく，それぞれの趣旨，目的，内容及び効果を比較し，両者の間に矛盾牴触があるかどうかによって判断する旨判示した上で，道路における集団行進等に対する道路交通秩序維持のための具体的規制が道路交通法７７条及びこれに基づく公安委員会規則と集団行進及び集団示威運動に関する条例（昭和２７年１月２４日徳島市条例）の双方において重複して施されているところ，その判断基準等として，一審原告が主張する①法律と条例に矛盾抵触があるか，②条例に特別の意義と効果があるか，③条例が法律より重い罰則を定めることに合理性があるか，審査しているものと解される。ところで，風営法は，１７年改正後，風俗案内所を営む者が違法な性風俗営業を行っている者の行為について宣伝，広告等を通じて加巧した場合，その共犯（共同正犯，幇助犯）として処罰対象とするものの，風俗案内所の設置，案内行為それ自体を直接，規制対象としていないところ，本件条例は，風俗案内所について，原判決を引用して認定したとおり，風営法とは一部異なる公益上の目的に基づいて規制している。ところで，風営法は，上記のとおり，風俗案内所の設置，案内行為それ自体を直接，規制対象としていないが，条例によって風俗案内所の設置ないし風俗案内所が行う風俗案内という行為について，規制することを一切禁止している趣旨とまで解することができない。したがって，本件条例により風俗案内所を規制することは憲法９４条，地方自治法１４条１項に反するものとはいえない。なお，本件は，昭和５０年判決に係る事案のように法律と条例との間の重複した規制が問題となるものではない。
ところで，Ｃ助教の上記意見書（甲８５）であるが，風俗営業者は，無料案内所を通じた自己の広告，宣伝に対しては本件条例によって厳格な規制が課されており，風営法と本件条例とが特定事項について規制が併存している場合に当たる旨，また，この見解を前提として本件条例が違憲である旨を指摘する。確かに，風俗営業者が風俗案内所を通じて自己の広告，宣伝を行った場合，本件条例による厳格な規制により刑罰が科される可能性もある。しかし，一審原告は，風俗営業所を営む法的地位等を求めているわけではなく，風俗案内所を営む法的地位やその風俗案内所内部における接待飲食等営業の従事者を表示する法的地位の確認を求めて，風俗案内所を規制する本件条例３条１項，７条２号，１２条１項，１３条１項が違憲である旨を主張していることからして，風俗案内所に対する規制について上記昭和５０年判決の判示に照らして検討すれば足りるというべきである。したがって，上記意見書の意見は，採用できない。
なお，一審原告が主張する本件条例に特別の意義と効果があるか，本件条例が法律より重い罰則を定めることに合理性があるかという点から判断しても，後記６(3)で認定説示するとおり，本件条例に特別の意義と効果があり，風俗案内所について，風俗営業所より重い規制を課すことについて合理的な理由があるから，いずれにせよ，一審原告の上記主張は，採用できない。
イ　一審原告の主張に対する検討について
ところで，一審原告は，風営法は，昭和５９年改正以降，風俗営業の広告，宣伝に対して刑罰を用いることを慎重に避けていることからすると，条例において，直接的な形であれ，共犯理論による間接的な形であれ，刑罰を用いることを禁止している旨主張する。
証拠（甲７５ないし７７）及び弁論の全趣旨によれば，①昭和５９年の風営法改正の際，衆議院地方行政委員会において，政府委員は，ⅰ風俗営業等について，負担を軽くするつもりでの改正を検討する旨，ⅱ風俗営業について，行政処分とし，性風俗営業について，厳格な規制とすることを検討している旨，ⅲ風営法１６条の「清浄な風俗環境を害するおそれのある方法」とは，いわゆる善良の風俗等を害するものであり，ヌードの女性のポスターや，わいせつ行為を示すストリップ劇場のポスター，卑猥な掲示をした看板である旨，ⅳ風俗営業について，従来は行政処分も，刑事罰もかかっていたが，一つ一つ刑事罰で対応するのは妥当でないので，刑事罰から外す形で考えている旨答弁し（なお，当時，風俗案内所という営業形態がほとんどなく，それを前提とした議論はなかった。），②平成１７年の風営法改正の際，参議院内閣委員会において，政府参考人は，ⅰ性風俗営業について，新しく罰則を設けている旨，ⅱ風俗案内所について，風俗営業者の行為に加功していた場合には共犯として刑事罰の対象となり，それによって性風俗関連業者の違法な広告，宣伝活動はかなり抑止できると考えている旨答弁するなど，議論がされたが，風俗案内所それ自体の設置や風俗案内所が行う風俗案内に着目してそれを規制するなどの議論まではなかったことが認められる。以上のとおり，昭和５９年の風営法改正の際及び平成１７年の風営法改正の際の風俗案内所に関する上記認定した議論状況に後記６(3)アのとおり，風俗案内所が風俗営業所よりも外部環境に対して格段に大きな影響を与えるもので，かつ，違法な性風俗営業店と結び付きやすいという性格を備えていることを総合すると，風営法において，従来，直接規制の対象とされていなかった風俗案内所に対して，条例により新たに規制を設け，刑事罰を科すことが風営法上禁止されているとまでは解することができない。
したがって，一審原告の上記主張は，採用できない。
５　争点(4)（本件条例２条４号ないし６号，３条１項，１６条１項１号が明確性の原則に違反するか〔本案の争点〕）について
原判決「事実及び理由」中の「第３　当裁判所の判断」の４(1)ないし(3)（原判決４９頁１８行目から５０頁２２行目まで）で説示したとおりであるから，これを引用する。
６　争点(5)（本件各規定が営業の自由を不当に制限するものであるか〔本案の争点〕）について
(1) 　営業の自由（憲法２２条）について
原判決「事実及び理由」中の「第３　当裁判所の判断」の５(1)（原判決５０頁２５行目から５１頁１３行目まで）で説示したとおりであるから，これを引用する。
(2) 　本件条例の目的について
次のとおり補正するほかは，原判決「事実及び理由」中の「第３　当裁判所の判断」の５(2)ア及びイ（原判決５１頁１５行目から５３頁２２行目まで）で認定説示したとおりであるから，これを引用する。
ア　原判決５１頁１６行目「（ア）　」の次に「風俗営業所（接待飲食等営業）と風俗案内所であるが，風俗営業所（接待飲食等営業）は，接待飲食等のサービスを提供し，その対価を得るのに対して，風俗案内所は，このような風俗営業所が提供するサービスの時間，料金，方法等やその名称，所在地，電話番号等を紹介し，あるいは風俗営業所等に案内等するサービスを無料で提供して，紹介等した風俗営業所から一定の収入を得る。また，風俗営業所は，当該営業所単体についての情報を宣伝，広告等するのに対して，風俗案内所は自ら多数の風俗営業所の情報を集積した上で風俗営業所の客となろうとする者に提供することにより収益を上げようとする（乙１～１０，弁論の全趣旨）。
（イ）　」を加える。
イ　原判決５２頁８行目の「（イ）」を「（ウ）」と改める。
ウ　原判決５２頁１２行目から５３頁２行目までを次の文章に改める。
「　もっとも，一般に，無届けで実質的に店舗型性風俗特殊営業や無店舗型性風俗特殊営業を営む店舗あるいは客の性的好奇心に応じて当該客に接触する役務を，個室を設けない形で提供する店舗が多数存在するところ，京都府において，平成２１年から同２３年までの間，風営法２条１項２号の所定の営業の許可を得た店舗において，京都府風営法施行条例第６条２号にいう『卑わいな行為又は容装その他善良の風俗を害する行為』を行ったとして営業停止命令を受けた店舗は９店舗あり，その中に一審原告が経営していたｈ店があった。なお，各店舗の違反行為の内容は，その多くが店舗型性風俗特殊営業の『異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務』に該当するものであった。（甲７７，乙９２，１１４，１１８，一審原告〔原審〕，弁論の全趣旨）
また，平成２０年９月から平成２３年１月頃までの間で，風俗営業所において，性的サービスを提供したとして，その営業者が逮捕，起訴され，又は警察による捜査の対象となり風俗案内所が集客していた例は，少なくとも３件ある。これらの事例のうち本件条例制定前の事件では，当該風俗営業所とこれを案内する風俗案内所の従業員等が一部共通していたり，当該風俗営業所からこれを案内した風俗案内所に対して案内料が支払われたりしていた。また，本件条例制定後には，一審原告が関与していた風俗案内所のａ店及びｉ店が，いわゆるセクキャバの「△△」，「□□」及び一審原告が経営していた「ｈ」を案内していた。「□□」では女性従業員が，客に露出した胸を触らせ，あるいは，客の膝上に対面となるようにまたがるなど，違法に性的役務を提供していた。（甲７９，乙３７～９０，９２，１０７，１１０，１１１，１１４，１１５，１１８，１４６，１４７〔枝番があるものは枝番を含む。〕）
そして，風営法の平成１７年改正により性風俗営業者の広告，宣伝に対して罰則が適用されることになり，それが一因となって風俗案内所が性風俗営業所の集客施設として機能するようになり，増加したところ，京都府以外で風俗案内所を規制する条例を制定しているのは，東京都，千葉県，愛知県，岐阜県，大阪府，広島県，福岡県及び沖縄県であるが，このうち東京都，愛知県，大阪府，広島県及び福岡県では，風俗案内所と違法な性風俗とのつながりが問題視されている。（甲１５，１８，２２，２６，２９，乙１０７，１１９，１２１，１２９，１３０，１４８，１４９〔枝番があるものは枝番を含む。〕，弁論の全趣旨）」
エ　原判決５３頁５行目の「明らかである。」を「明らかであり，また，後記(3)で認定するとおり，風俗案内所は，案内対象となる性風俗営業を営む店舗を含めて多数の風俗営業所に関する情報が集積し，また，風俗案内業務で収益を上げることもあって，積極的な集客のため，多数の風俗営業所について積極的に広告，宣伝を行うことが推認される。」と改める。
(3) 　規制手段について
ア　本件条例による規制内容について
本件条例３条１項は，第１種地域の全域並びに第２種地域及び第３種地域のうち本件条例に係る保護対象施設の敷地から一定の距離内を営業禁止区域として設定した上で，当該営業禁止区域における風俗案内所によるあらゆる風俗案内という営業を全面的に禁止し，これに違反した者は，本件条例１６条１項１号により直ちに刑事罰の対象となることが予定されている。
イ　規制の合理性について
原判決を補正の上認定説示したとおり，風俗案内所の前記業務内容の特質（案内対象となる性風俗営業を営む店舗を含めて多数の風俗営業所に関する情報が集積し，また，案内業務で収益を上げることもあって，積極的な集客のため，多数の風俗営業所について積極的に広告，宣伝を行うこと）からして，風俗案内所が行う広告，宣伝の外部環境に対する影響や集客力は，単体の風俗営業所よりも格段に大きくなることが推認される。また，風俗営業所のうち接待遊飲営業（風営法２条１項２号）に対しては，客室の内部が当該営業所の外部から容易に見通すことができないようにする，あるいは騒音又は振動を一定数値に満たないよう維持するために必要な構造又は設備を有することが許可の要件とされているところ，風俗案内所は，その宣伝，広告を提供すること自体を事業の目的とすることから，構造設備に対して風俗営業のような規制を加えることが相当か，議論のあり得るところであり，風俗案内所に対しては，風俗営業所に対する構造設備要件と同様の規制を加えないということも不合理とはいえない。そこで，風俗案内所に対して構造設備要件と同様の規制を設けない場合，建物内部への見通しなど，外部環境に与える影響は，単体の風俗営業所に比べ格段に大きくなることが推認される。そして，前記認定のとおり，風俗案内所が違法な性風俗営業店と結び付きがちであるところ，このような外部環境に与える影響が大きい風俗案内所が違法な性風俗営業店に関する情報を提供した場合には，その悪影響（弊害）の程度は単なる風俗営業所や違法な性的サービスを提供する風俗営業所より一層大きく，一旦，弊害が生じるとその回復に多大な労力と時間を要する危険性がある。さらに，風営法は，２８条２項において，条例によって，地域を定めて，店舗型性風俗特殊営業を禁止することができる旨を定め，店舗型電話異性紹介営業についても同条項を準用しており（第３１条の１３第１項），善良の風俗と清浄な風俗環境保持及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する観点から，いかなる営業の制限をするか（１条参照），地域に密着する地方公共団体において，地域の実情に即して条例で定めることができる旨広い裁量を認めている。
以上の事情を踏まえると，風俗案内所について，その外部の環境に及ぼす影響力やそれによる弊害の大きさからして，学校等の一定の施設を保護対象施設とした上で，その敷地から一定の距離内を風俗案内所の営業禁止区域として設定した上で，そこでの風俗案内所の営業の全部又は一部を禁止し，これを刑事罰で担保するという手段を採用することは，不合理とはいえず，かえって，合理的な規制であるといえる。また，前記のとおり，風俗案内所が風俗営業所よりも外部の環境に対して格段に大きな影響を与え，かつ，違法な性風俗営業店と結び付きやすいものであることからすると，風俗案内所に対して風俗営業所より厳しい規制をすることも，それが合理的な範囲に留まる限り許されると解するのが相当である。
ウ　規制の具体的な内容について
店舗型性風俗特殊営業については，保護対象施設の周囲２００ｍ区域内（風営法２８条１項），店舗型電話異性紹介営業につき保護対象施設の周囲２００ｍ区域内（風営法３１条の１３，２８条１項），京都府では，テレホンクラブ等営業につき，保護対象施設の敷地の周囲５００ｍの区域内（青少年の健全な育成に関する条例（昭和５６年京都府条例第２号。ただし，平成１３年京都府条例第４４号による改正前のもの。）２４条の２），出会い系喫茶等営業の規制につき，保護対象施設の敷地の周囲２００ｍの区域内（同条例（ただし，平成２２年京都府条例第３３号による改正前のもの。）２４の７第１項）をそれぞれ営業禁止区域とするといった例がある。これらの性風俗営業所に対する各種規制内容とともに前記イで認定説示した風俗案内所の特質を総合すると，上記のような内容の営業禁止区域とともにそれを担保するための刑事罰を設けた本件条例を制定したとしても，立法の裁量を逸脱ないし濫用するものとまでいうことはできず，また，規制手段としての合理性がないともいえず，相当な態様であることが認められる。
エ　本件条例に係る保護対象施設について
本件条例で営業禁止区域の起点となる本件条例に係る保護対象施設であるが，その範囲についてどのように定めるかは，合理的範囲で立法者の裁量が認められているところ，保健所及び博物館は，いずれも青少年を含む一般の不特定多数の公衆が訪れる公共施設であって，その果たす役割等からして，当該施設利用者ないし当該街区内に居住する者にとって学校，児童福祉施設，図書館と同等と評価できる。また，無床の診療所であるが，証拠（乙１４２，１４３）及び弁論の全趣旨によれば，無床の診療所も夜間診療を行うところも多くなり，夜間診療に訪れる患者は，年齢に制限がなく，幼児から青少年までが含まれていることが認められるところ，その特質からすると，風俗案内所に対する規制との関係で，有床の診療所に準じた施設として本件条例に係る保護対象施設とすることに合理性が認められないわけではない。以上の事情を踏まえると，無床の診療所，保健所及び博物館もまた，同保護対象施設としたとしても，それらの施設を含めた本件条例（立法）について，裁量権を逸脱濫用しているとまでは認められない。
オ　以上のとおり，本件条例３条１項，１６条１項１号は，風俗案内所に対する規制の必要性と合理性についての立法機関の判断にその裁量の逸脱又は濫用があったと認めることはできないから，憲法２２条１項に反するとはいえない。
(4) 　一審原告の当審での補充主張に対する検討
一審原告は，次のとおりの各主張をして本件各規定が，営業の自由を不当に制限する旨主張する。
ア　風俗案内所が違法な性風俗営業所と結びつきがちといえないことについて
一審原告は，①京都府警が風俗案内所による違法な性風俗営業店への案内も性風俗店への案内も認めていないこと，②風俗営業の実態は，都道府県ごとに千差万別であるから，他の都道府県の実態から風俗案内所の一般的傾向を導き，京都府にあてはめることはできないこと，③風俗案内所について検挙件数なしの都道府県が３３都道府県（７１．７％）に及ぶことからして，風俗案内所が違法に性的サービスを提供する役務を提供する店舗と結び付きがちなものであるとはいえず，それにもかかわらず，本件各規定は，違法な性風俗営業店等への案内をしない風俗案内所に対し，同違法な案内への危惧を基に営業の自由を制限する旨主張する。
しかし，原判決を補正の上引用して認定したとおり，風俗案内所が性風俗営業店の集客施設として機能するなど，違法な性風俗営業店と結びつきがちであることが認められるところであり，現に，一審原告が関与していた風俗案内所のａ店及びｉ店が一審原告が経営していたいわゆるセクキャバの「ｈ」に風俗案内していたことがある。以上の事実を踏まえると，一審原告の上記主張は，認められない。
したがって，一審原告の上記主張は，採用できない。
イ　無床の診療所を第３種地域において本件条例に係る保護対象施設とすることについて
一審原告は，京都府風営法施行条例は，無床の診療所を第３種地域における保護対象施設としていないが，本件条例は，これを本件条例に係る保護対象施設とし，その結果，無床の診療所近くでの風俗案内所の営業は禁止されるが，風俗営業所の営業は，禁止されないという不合理な結果をもたらし，また，本件条例で無床の診療所を同保護対象施設とする立法事実の変化はない旨，無床の診療所を同保護対象施設に含めたのは第３種地域から風俗案内所を根絶するための手段に過ぎない旨主張する。
しかし，無床の診療所を同保護対象施設に含めたことについて立法裁量に逸脱濫用がなく，合理性が認められないことがないことも前記(3)エで認定説示したとおりである。また，本件全証拠によるも，本件条例により第３種地域から風俗案内所を根絶させる意図があったことは認められない。
したがって，一審原告の上記主張は，採用できない。
ウ　風俗案内所の従属性について
一審原告は，風俗案内所が風俗営業所の存在を前提とし，それとの関係では常に従属的な立場に立つところ，風俗案内所のもたらす害悪が風俗営業所のもたらす害悪よりも上回ることがなく，同等と評価することもできない旨主張する。
確かに，風俗案内所は，風俗営業所の存在を前提としている。その意味では従属していると言ってもいいかもしれない。しかし，風俗案内所が行う広告，宣伝は，前記(3)イで認定説示したとおり，風俗案内所の業務内容の特質（案内対象となる性風俗営業を営む店舗を含めて多数の風俗営業所に関する情報が集積し，また，案内業務で収益を上げることもあって，積極的な集客のため，多数の風俗営業所について積極的に広告，宣伝を行うこと）や，風俗案内所が風俗営業所と同様の構造設備要件に係る規制を受けないことなどからして，外部環境に与える影響とともに集客力が単体の風俗営業所に比べ格段に大きくなる上，一旦，違法な性風俗営業店と結びついた態様で広告，宣伝が行われると，その弊害は著しく大きくなることが想定される。以上の事実を踏まえると，その広告，宣伝の質及び量ないし外部への影響力は，風俗案内所が風俗営業所に従属しているとはいえない。
したがって，一審原告の上記主張は，採用できない。
エ　接待風俗に対する規制について
一審原告は，風営法がその基本的視座として，性風俗と比較して，接待風俗については寛容であるとして，接待風俗の係る合憲性判断には，営業であれ，広告であれ，立法事実に即して厳格に判断されなければならない旨主張する。
一審原告の上記主張は，風俗案内所が性風俗営業所と結びつかず，接待風俗営業所とのみ結びついていることを前提として主張する趣旨と思われる。しかし，前記ア，ウで認定説示した風俗案内所の業務の特質，違法な性風俗営業店と結びつきがちであること，風俗案内所が行う広告，宣伝態様を踏まえると，その前提が，認められない。
したがって，一審原告の主張は，採用できない。
オ　本件条例３条違反に対する刑罰の適用，１２条２項との整合性について
一審原告は，①風営法１６条違反の効果が刑事罰ではなく指示処分にとどまるのに，本件条例３条１項違反の効果が刑事罰であることの正当性が不明であり，②本件条例３条１項と本件条例１２条２項との整合性について，合理的な説明がない旨主張する。
しかし，本件条例３条違反について刑事罰が適用されることの合理性については，前記(3)アないしエで認定説示したとおりである。また，本件条例３条１項と本件条例１２条２項の整合性についてであるが，１２条２項は，公安委員会が，風俗営業者が３条の規定に違反する風俗案内所を利用して広告又は宣伝をし，かつ，それによって善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害し，又は青少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認められるとき，すなわち，指示処分を行おうとする時点での違反状態（不都合な状態）の現在性が認められる場合に，風俗営業者に対して，指示処分を行いうることを規定したものである。したがって，同条項は，一審原告が主張するような，保護対象施設から２００ｍ以内にある風俗案内所を使った広告，宣伝が行われた場合でもそうしたおそれがない場合があることを自認した規定とまでいうことはできない。
したがって，一審原告の上記主張は，採用できない。
７　争点(6)（本件各規定が営利的表現の自由を不当に制限するものであるか〔本案の争点〕）について
営利的表現の自由も憲法上保護されていると解されるが，公共の福祉による必要かつ合理的な制限は許されるべきである。
そして，前記６における認定説示に照らせば，本件条例の規制は，営利的表現の自由との関係でも，必要かつ合理的な制限というべきである。
したがって，一審原告の上記主張は採用できない。
８　結論
以上の次第で，一審原告の本件請求は，理由がないからいずれもこれを棄却すべきである。
よって，これと異なる原判決中主文１項及び３項については取り消すべきところ，一審原告の主位的請求の(2)及び予備的請求の(2)（前記第１の１主位的請求の(3)及び予備的請求の(3)）については，すでに相当程度実体審理がされていることが明らかで，第一審裁判所に差し戻さなくても審級の利益が害されるとは認められないから，民事訴訟法３０７条ただし書を適用して当審で自判することとし，一審原告の上記各請求については理由がないからこれを認容することができないところ，その棄却の判決は訴え却下の判決より一審原告にとって不利益な判決であるから，不利益変更禁止の原則を適用して，原審における同請求に係る訴え却下判決を維持した上，原判決中一審被告の本件控訴に基づき一審被告敗訴部分を取り消し，同部分の一審原告の請求を棄却し，一審原告の本件控訴は，理由がないからこれを棄却することとして，主文のとおり判決する。
（裁判長裁判官　中村哲　裁判官　和久田斉　裁判官　山田健男）

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