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裁判年月日 平成27年 3月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)29040号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容、一部棄却 文献番号 2015WLJPCA03188006
要旨
◆Xが、ものまねタレントのY2、Y3及びY2を代表者とするY1社に対し、Y2及びY3は出演を承諾しながら突然キャンセルしたとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、第1契約につきXとY1社間に出演条件の合意は成立していなかったから、Y2が同契約に伴うイベントに出演しなかったことにつきYらに不法行為は成立しないものの、第2、第3契約は成立しており、第3契約の出演料につき当日現金払の合意はなかったから当日現金払には応じられないとしたXの対応を理由にY3が出演を履行しなかったことに正当理由はなく、Y3の同対応はY2が示唆して行われたものであるとして、Y2及びY3の共同不法行為及びY1社の使用者責任を認めた上、第2契約をY2は一方的にキャンセルしたとして、Y2の不法行為及びY1社の使用者責任を認め、請求を一部認容した事例
出典
参照条文
民法709条
民法715条1項
民法719条
裁判年月日 平成27年 3月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)29040号
事件名 損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容、一部棄却 文献番号 2015WLJPCA03188006
川崎市〈以下省略〉
原告 株式会社三木商会
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 加納小百合
同 枝川充志
東京都目黒区〈以下省略〉
被告 有限会社Y1(以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役 Y2
東京都目黒区〈以下省略〉
被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
東京都国分寺市〈以下省略〉
被告 Y3(以下「被告Y3」という。)
主文
1 被告らは,原告に対し,連帯して10万円及びこれに対する平成25年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告会社及び被告Y2は,原告に対し,連帯して30万円及びこれに対する平成25年9月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原告に生じた費用の10分の1を被告らの負担とし,その余は原告の負担とする。
5 この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告に対し,連帯して159万5000円及びこれに対する平成25年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告会社及び被告Y2は,原告に対し,連帯して247万円及びこれに対する平成25年9月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,ものまねタレントとして活動する被告Y2及び被告Y3並びに被告Y2が代表者を務める被告会社に対し,被告Y2及び被告Y3が原告からの依頼に応じてものまねショー等への出演を承諾しながら,直前になって突然出演をキャンセルしたことにより,損害を被ったと主張して,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。
2 原告の請求原因(以下,日付けは全て平成25年のものを指す。)
(1) 原告は,8月26日,被告会社との間で,出演料を10万円と定めて,被告Y2が9月20日午後7時30分ないし午後9時頃に鹿児島市内の和食居酒屋a(以下「本件居酒屋」という。)で開催されるディナーショーに出演することを内容とする業務委託契約(以下「第1契約」という。)を締結した。
また,原告は,8月26日,被告会社との間で,出演料を20万円と定めて,被告Y2が9月21日午後2時ないし午後3時頃に鹿児島市内のパチンコ店「b」(以下「本件パチンコ店」という。)で開催されるものまねショーに出演することを内容とする業務委託契約(以下「第2契約」という。)を締結し,被告会社に対し,出演料の前払いとして,同月19日,20万円を振込送金した。
(2) その後,被告Y2は,原告に対し,第1契約につき,出演料を20万円とするよう要求し,原告がこれに難色を示していると,9月19日になって,第1契約をキャンセルすると告げた。
そこで,原告は,ショーに穴を空けないため,9月19日,被告Y3に第1契約と同じ内容による出演依頼をしたところ,被告Y3はこれを承諾し,原告と被告Y3との間で,第1契約と同じ内容による業務委託契約(以下「第3契約」という。)が成立した。
(3) ところが,被告Y3と友人関係にあり,上記の経緯を知った被告Y2は,原告に対し,9月19日,被告Y3の出演料を20万円に増額し,増額分を被告Y2に裏金として支払うのでなければ,被告Y3を出演させないと告げるなど,原告と被告Y3の契約に介入してきた。
結局,9月20日,被告Y3は,原告従業員との待合せ時刻に羽田空港に現れず,第1契約及び第3契約は,正当な理由なく一方的にキャンセルされた(以下,この行為を「第1行為」という。)。
(4) また,被告Y2は,9月20日,原告代表者宛てに「明日はキャンセルとみなしました」とのメールを送信して,第2契約も,正当な理由なく一方的にキャンセルした(以下,この行為を「第2行為」という。)。
(5) 第1行為は被告Y2と被告Y3による共同不法行為に該当し,第2行為は被告Y2による不法行為に該当する。そして,被告Y2は,被告会社の事業を行うに当たりこれらの行為をしたものであるから,被告会社も使用者責任を負う。
(6) 原告は,第1行為により,本件居酒屋を運営する株式会社c(以下「c社」という。)に対する損害賠償債務59万5000円,c社に対する信用失墜による損害額100万円の合計159万5000円の損害を被った。
また,原告は,第2行為により,被告会社に前払いした出演料20万円,本件パチンコ店を運営する株式会社d(以下「d社」という。)に対し負担した損害賠償債務147万円,d社に対する信用失墜による損害額80万円の合計247万円の損害を被った。
(7) よって,原告は,被告らに対し,不法行為に基づき,第1行為による損害賠償金159万5000円及びこれに対する不法行為日である平成25年9月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,被告会社及び被告Y2に対し,不法行為に基づき,第2行為による損害賠償金247万円及びこれに対する不法行為日である平成25年9月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 請求原因に対する被告らの認否及び被告らの主張
(1) 第1契約の成立は否認する。第1契約については,出演料の調整がつかなかったため,合意成立に至っていない。
(2) 第2契約及び第3契約の成立は認める。
(3) 被告Y2及び被告Y3は,それぞれ第2契約及び第3契約の締結に際し,出演料の支払はショー終了後に当日現金払いとすることを原告との間で合意していた。ところが,9月20日,被告Y3が羽田空港に向かった後に,原告代表者から被告Y2に対し,出演料を当日支払うことはできない旨の連絡があったため,被告Y2は被告Y3にその旨を伝え,被告Y3は鹿児島に行くのをやめたものである。
一方,被告Y2は,このような状況の下でも,9月21日には鹿児島に行くつもりで,自ら航空券の準備までしていたが,同日の予定について打合せをしようとしても,原告代表者からの連絡はなく,空港からの移動手段等は全く不明のままであったので,同日の出演はキャンセルされたものと考えざるを得ず,同月20日に原告主張のメールを送信したものである。
以上によれば,被告らにつき不法行為は成立しない。
第3 当裁判所の判断
1 前提事実に加えて,証拠(甲1~4,9~11,13~15,17,乙イ1,2,乙ロ1,3,4,7,8。各枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおりの事実が認められる。
(1) 原告は,遊戯施設の建設,経営コンサルティング等を行う会社である。
被告Y2及び被告Y3は,ものまねタレントとして活動している。
被告会社は,芸能タレントのマネジメント等を行う会社であり,被告Y2は,その代表取締役兼所属タレントである。
(2) 原告は,8月頃,c社及びd社から,それぞれ本件居酒屋及び本件パチンコ店における集客のためのイベントの企画を依頼され,知人から紹介を受けた被告Y2に出演を打診することにし,8月26日に原告代表者と被告Y2が会って打合せをした。
本件パチンコ店のイベントについては,開催日は9月21日(土)と決まっており,提示された出演料の額は20万円で,被告Y2は直ちに出演を承諾した。本件居酒屋のイベントについては,上記イベントの前日である9月20日(金)であれば被告Y2のスケジュールは空いていたが,原告から提示された出演料の額は10万円であったのに対し,被告Y2は15万円以上とすることを求め,原告代表者が主催者に出演料の増額を打診することになった。
その後,本件パチンコ店のイベントについて,被告Y2が原告に対し楽曲の録音データや進行表を送付し,原告が被告Y2のために羽田,鹿児島間の飛行機の座席を予約するなどの準備が進められた。
そして,被告Y2は出演料を出演当日の現金払いとすることを希望したのに対し,原告は後日の振込払いとすることを希望し,結局,振込みによる前払いとすることで合意がされ,原告は,9月19日,同月21日の本件パチンコ店のイベントの出演料として,20万円を被告会社に振り込んで支払った。
(3) 原告代表者は,9月18日,本件パチンコ店のイベントに関する件で被告Y2と連絡を取り,その際に,本件居酒屋のイベントについて,主催者から出演料を15万円に増額することは難しいと言われたと告げた。これに対し,被告Y2は,13万円までなら何とかすると伝えたところ,原告代表者は,主催者に再度打診すると答えた。
被告Y2は,9月19日の夕方,本件居酒屋のイベントについて,原告代表者から電話で「明日お願いします。」と言われたが,出演料に関する打診結果の報告がないままだったので,出演しないと答えた。その後,両者間でメールのやり取りをする中で,原告代表者は,同日午後10時過ぎになって,出演料を13万円とすることにつき主催者から同日の昼前に了解を得ていた旨を告げたが,被告Y2は,翌日には別の打合せを入れてしまったので出演できるか分からないなどと述べた。
(4) 原告代表者は,9月19日の夜,被告Y2の紹介者である知人に依頼して,別のタレントとして被告Y3の紹介を受け,被告Y3に対し,出演料を10万円として,翌日の本件居酒屋のイベントへの出演を依頼したところ,被告Y3は承諾した。一方,原告代表者は,最終的に被告Y2の出演が得られるのであれば,被告Y3への出演依頼はキャンセルする予定で,被告Y2への出演依頼も続けていた。
(5) 被告Y3は,9月20日,午後2時過ぎに羽田空港に向かい,電車で移動中に,原告従業員に対し,午後4時前に同空港到着予定であることをメールで連絡したが,原告従業員が同空港で航空券の受渡しをしようと待っていたところ,被告Y3は予約されていた鹿児島行きの便の出発時刻(午後4時25分)を過ぎても,原告従業員が指定した待合せ場所に現れなかった。
この間に,原告代表者と被告Y2が電話でやり取りをし,被告Y2が被告Y3の出演料を当日現金払いとすることを求めたのに対し,原告代表者はこれに応じられないと答えた。被告Y2は,原告代表者に対し,当日現金払いがされないなら,被告Y3も出演できないと告げ,既に羽田空港に到着していた被告Y3に対し,原告代表者とのやり取りを伝えた。その結果,被告Y3は,原告従業員が指定した待合せ場所に赴かず,飛行機に搭乗せずに帰宅した。
(6) 被告Y2は,9月20日午後9時45分頃に,原告代表者に対し,「明日はキャンセルとみなしました。」などとメールで伝えた。一方,原告代表者は,9月21日午前4時半頃に,被告Y2に対し「鹿児島空港1205着でしたね!お待ちしてます。」とのメールを送信し,その後も,午前9時半頃までに,「本日の進行表は予定通りでよろしいでしょうか?」,「電話出て下さい。」,「空港に迎え待機しておりますのでよろしいお願いします」などとのメールを複数回送信したが,被告Y2は,これらに返答せず,鹿児島に赴かなかった。
2 前記認定事実によれば,第1契約については,出演料を13万円とすることを被告Y2が提示したのに対し,原告がこれを承諾する旨を明らかにしないままとなっていた状況の下で,9月19日夕方に被告Y2が原告に対し出演しない旨を告げたものであって,それまでに原告と被告会社との間で出演条件につき合意が成立していたとは認められない。したがって,第1契約の成立を認めることはできず,被告Y2が9月20日の本件居酒屋のイベントに出演しなかったことにつき,被告らの不法行為が成立するとはいえない。
3 一方,第2契約及び第3契約については,その成立につき当事者間に争いがない。
そして,第3契約の出演料について,被告らは,出演当日現金払いとする旨の合意がされていたと主張するが,原告はこれを否定しており,これを裏付ける客観的な証拠はない上,前記認定のとおり,第2契約の出演料については,出演当日現金払いとの被告Y2の要望を原告が受け容れずに,振込前払いとすることで合意がされ,実際にその振込前払いがされていることに照らすと,第3契約の出演料につき出演当日現金払いとする旨の合意が成立していたと認めることはできない。そうすると,イベントの当日である9月20日になって,当日現金払いに応じられないとした原告の対応を理由に,被告Y3が現地に赴くことをやめ,本件居酒屋のイベントへの出演を履行しなかったことにつき,正当な理由があるということはできない。そして,前記認定のとおり,このような被告Y3の対応は,被告Y2が原告代表者とやり取りをした上で,被告Y3に対応を示唆したことによって行われたものであることからすると,被告Y2と被告Y3は,共同して,第3契約により約束されていた本件居酒屋のイベントへの被告Y3の出演の実現を妨げたものというべきであって,これにつき被告Y2と被告Y3の共同不法行為が成立する。そして,被告Y2の上記行為は,被告会社の代表者兼所属タレントとして行動するに当たり行われたものであるから,被告会社も使用者責任を免れない。
また,第2契約については,前記認定によれば,既に合意された出演料が前払いされ,イベントの進行についても打合せがされており,イベントの当日である9月21日に被告Y2が原告代表者からの連絡に応答して鹿児島空港での待合せ等につき打ち合わせていれば,予定どおりの出演をすることにつき支障はなかったと認められるのに,被告Y2は一方的にキャンセルとみなすとして現地に赴かなかったものである。このような被告Y2の行為は,正当な理由なく,第2契約により約束されていた本件パチンコ店のイベントへの被告Y2の実現を妨げたものというべきであり,これについても被告Y2の不法行為が成立し,被告会社は使用者責任を免れない。
4 以上によれば,被告らは,被告Y3が9月20日の本件居酒屋のイベントに出演しなかったことにより原告が被った損害を賠償すべき責任を負うが,これにより原告が具体的にいかなる出捐を余儀なくされたかについては十分な主張立証がないこと,第3契約は,イベント開催の前日になって,当初の予定と異なる代替タレントとして被告Y3が出演することになったものであり,被告Y3の出演が実現しなかったこと自体により原告が被った損害はさほど大きいものとは認められないことなどの諸事情を考慮すると,これにより原告が被った損害は,信用失墜等の無形の損害を考慮に入れても,10万円の限度で認められるにとどまる。
また,被告Y2及び被告会社は,被告Y2が9月21日の本件パチンコ店のイベントに出演しなかったことにより原告が被った損害を賠償すべき責任を負うが,これにより原告が具体的にいかなる出捐を余儀なくされたかについては,被告会社に対する20万円の出演料前払いが認められるほかには,的確な立証がないこと(甲6には,主催者であるd社が原告に対し,イベントキャンセル料として,チラシ代30万円,ポスター代10万円,信用毀損料100万円の合計147万円を請求する旨の記載があるが,その記載額は一般的にみて過大であるし,原告が実際にその額の弁済をしたことの主張立証もない。)などの諸事情を考慮すると,これにより原告が被った損害は,信用失墜等の無形の損害を考慮に入れても,30万円の限度で認められるにとどまる。
5 よって,原告の請求は,不法行為(被告Y2及び被告Y3につき民法709条,719条,被告会社につき715条)に基づき,被告らに対し,損害賠償金10万円及びこれに対する平成25年9月20日(本件居酒屋への被告Y3の出演予定日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,被告会社及び被告Y2に対し,損害賠償金30万円及びこれに対する平成25年9月21日(本件パチンコ店への被告Y2の出演予定日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
(裁判官 谷口園恵)
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