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裁判年月日 令和 2年 2月21日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ワ)10844号
事件名 地位確認等請求事件
裁判結果 一部認容 上訴等 控訴 文献番号 2020WLJPCA02218001
出典
労判 1233号66頁
評釈
山田省三=両角道代・日本労働研究雑誌 748号2頁(対談)
裁判年月日 令和 2年 2月21日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ワ)10844号
事件名 地位確認等請求事件
裁判結果 一部認容 上訴等 控訴 文献番号 2020WLJPCA02218001
京都府木津川市〈以下省略〉
原告 X1(以下「原告X1」という。)
神戸市〈以下省略〉
原告 X2(以下「原告X2」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 乘井弥生
同 竹下政行
大阪市〈以下省略〉
被告 株式会社Y1(以下「被告会社」という。)
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 細井大輔
堺市〈以下省略〉
被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
同訴訟代理人弁護士 池田聡
主文
1 被告らは,原告X1に対し,連帯して55万円及びこれに対する被告会社については平成29年11月25日から,被告Y2については同月24日から,各支払済みまで年5分の割合による金員(被告らの重なり合う範囲について連帯する。)を支払え。
2 被告会社は,原告X1に対し,79万5406円及びうち19万5406円に対する平成29年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員,うち60万円に対する平成30年2月1日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。
3 被告会社は,原告X1に対し,90万円を支払え。
4 原告X2が,被告会社に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
5 被告会社は,原告X2に対し,別紙「未払賃金額」欄記載の各金員及びこれらに対する同別紙「支払期日」欄記載の日の各翌日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告会社は,原告X2に対し,令和元年11月から本判決確定の日まで,毎月25日限り26万8924円及びこれらに対する各支払期日の翌日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は,原告X1に生じた費用の5分の4,被告会社に生じた費用の16分の5及び被告Y2に生じた費用の20分の9を原告X1の負担とし,原告X2に生じた費用の2分の1,被告会社に生じた費用の16分の3及び被告Y2に生じた費用の2分の1を原告X2の負担とし,原告X1に生じた費用の40分の7,原告X2に生じた費用の2分の1及び被告会社に生じた費用の2分の1を被告会社の負担とし,原告X1に生じた費用の40分の1及び被告Y2に生じた費用の20分の1を被告Y2の負担とする。
9 この判決は,1項,5項及び6項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 原告X1
(1) 被告らは,原告X1に対し,連帯して550万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告会社につき平成29年11月25日,被告Y2につき同月24日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 主文2項同旨
(3) 被告会社は,原告X1に対し,465万円を支払え。
2 原告X2
(1) 被告らは,原告X2に対し,連帯して,550万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告会社につき平成29年11月25日,被告Y2につき同月24日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 主文4項同旨
(3) 被告会社は,原告X2に対し,19万4223円及びこれに対する平成28年10月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告会社は,原告X2に対し,平成28年11月以降本判決確定の日まで,毎月25日限り26万8924円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 本件事案の概要
本件は,被告会社の従業員であった原告らが,それぞれ,被告会社での業務従事中に上司である被告Y2からセクシャルハラスメント(以下「セクハラ」という。)に該当する行為を受けた上,原告X1は就労不能となった後に退職を余儀なくされ,原告X2は不当に解雇されたなどと主張して,被告らに対し,以下の請求をする事案である。
(1) 原告X1
ア 被告Y2によるセクハラ行為につき,不法行為(民法709条及び715条)又は債務不履行(職場環境整備義務違反)に基づき,被告らに対し,損害金550万円(慰謝料500万円及び弁護士費用50万円)及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払
イ 退職を余儀なくされたことにつき,不法行為又は債務不履行(職場環境整備義務違反)に基づき,被告会社に対し,損害金465万円(一年分の賃金及び賞与相当の逸失利益)の支払
ウ 雇用契約に基づき,被告会社に対し,被告Y2によるセクハラ行為以降,退職日である平成29年12月31日までの間の就労不能期間に対する未払賃金79万5406円並びにうち19万5406円に支払期日の翌日である平成29年10月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,うち60万円に対する退職日及び支払期日後の日である平成30年2月1日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律所定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払
(2) 原告X2
ア 被告Y2によるセクハラ行為に係る不法行為(民法709条及び715条)に基づき,被告らに対し,損害金550万円(慰謝料500万円及び弁護士費用50万円)及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払
イ 被告会社による解雇が無効であるとして,被告会社に対し,①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,②平成28年10月分の未払賃金19万4223円及びこれに対する同年10月26日(支払期日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,並びに③同年11月以降本判決確定の日まで月額26万8924円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで前同様の年5分の割合による遅延損害金の各支払
2 前提事実(争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 当事者等
ア 被告会社は,経営に関するコンサルティング業務等を目的とする株式会社である。なお,被告会社の平成29年3月25日の変更前の商号は「株式会社a」であった。
平成28年ないし平成29年当時,被告会社の代表取締役は,同年6月19日まではBが,同日からは被告Y2の子であるA(平成10年○月生。以下「A」という。)が,それぞれ務めていた(甲4,乙1,弁論の全趣旨)。
イ 被告Y2は,昭和22年○月生まれの男性であり,被告会社の創業者である。
ウ 原告X2は,平成元年○月生まれの女性であり,平成28年8月25日頃に被告会社に採用された者である。
エ 原告X1は,平成6年○月生まれの女性である。原告X1は,平成29年4月1日に被告会社に採用されたが,同年12月31日をもって被告会社を退職した。
(2) 原告X2の雇用契約等
原告X2と被告会社は,平成28年8月25日頃,以下の内容の期間の定めのない雇用契約を締結した。(甲3の1,2,弁論の全趣旨)
・賃金:基本給(月額)26万8924円
・賃金の締日,支払日:毎月20日締め,当月25日支払
(3) 原告X1の雇用契約等
原告X2〈原文ママ〉と被告会社は,平成29年4月1日頃,以下の内容の期間の定めのない雇用契約を締結した。(甲1,2の1ないし6,弁論の全趣旨)
・就業場所:b事務所及び被告会社の指定する場所
・業務の内容:営業的業務全般
・始業・終業時刻:午前8時30分から午後5時30分まで
・休憩:60分
・賃金:基本給(月額)20万4840円,主管手当(月額)3万5160円,職責手当(月額)6万円
・賃金の締日,支払日:毎月20日締め,当月25日支払
(4) 原告X2の業務の概要及び解雇に至る経過
ア 原告X2は,平成28年8月25日の採用後,被告会社の本社での研修を経て,まもなく被告Y2の下で業務を開始した。
イ 原告X2は,同月26日頃,被告Y2から海外研修の話を受け,同年9月20日からオランダへの出張(以下「オランダ出張」という。)に同行することとなった。(甲15,丙3)
ウ 原告X2は,オランダ出張の前日である同月19日,被告Y2から,被告Y2の居宅兼事務所であるマンション居室(堺市〈以下省略〉所在。以下「本件マンション」という。)に宿泊するよう言われ,翌日の同月20日にかけて,本件マンションに宿泊した。
エ 原告X2は,同月20日から同月28日まで,被告Y2,A及び被告Y2の秘書であるC(以下「C」という。)と共にオランダ出張に同行し,同日,帰国した。
オ 被告Y2は,原告X2に対し,オランダ出張から帰国した同月28日,「合わないですねぇ 基本理念なのか?考え方なのか?歩こうとする道が違うのかな?別々の道を行きましょう。自ら退職届けを出した方が良いと思う。今日までの給料は支給日に支払います。円満退職の方が,次の就職に有利。貸した20万円は,餞別代わりに差し上げます。退職届けを出さない場合は,今日付けで解雇します。この場合,貸した20万円は,給料から差し引きます。しっかりしていて,役に立つと思ったが,残念です。」とのLINEアプリによるメッセージ(以下,単に「LINE」という。)を送信した。(丙3,弁論の全趣旨)
カ 被告会社は,同年10月25日,原告X2に対し,原告X2を同年9月28日付けをもって解雇するに当たり解雇予告手当として30万円を支払う旨の「解雇予告手当支払通知書」を交付し,同年10月25日,30万円を支払った。(甲9,弁論の全趣旨)
キ 被告会社は,同日,原告X2に対し,平成28年10月分の賃金として7万4701円を支給したが,以後,賃金を支給していない。(甲3の2,弁論の全趣旨)
(5) 原告X1の業務の概要及び退職に至る経過
ア 原告X1は,平成29年4月1日,被告会社の営業課に配属され,同月3日頃から同月7日頃まで被告会社の本社において業務に従事し,その後は,被告Y2の下で,主に本件マンションにおいて業務に従事していた。
イ 原告X1は,同年5月,被告Y2に同行して上海への出張(以下「上海出張」という。)に赴いた。
ウ 原告X1は,同年9月20日,被告Y2に同行してローマへの出張(以下「ローマ出張」という。)に赴いたが,ローマに到着した同月21日,単身で帰路につき,同月22日に日本に到着した。
エ 原告X1は,ローマ出張からの帰国後,被告会社の業務に従事することなく,同年12月31日,被告会社を退職した。
オ 被告会社は,同年10月25日,原告X1に対し,平成29年10月分の賃金として10万4594円を支給したが,以後,賃金を支給していない。(甲2の6,弁論の全趣旨)
3 本件の争点
(1) 原告X1の請求について
ア 被告Y2の原告X1に対するセクハラ行為の有無及び違法性(争点1)
イ 被告Y2のセクハラ行為に係る被告会社の使用者責任又は債務不履行責任の成否(争点2)
ウ 被告会社の職場環境整備義務違反による債務不履行責任の成否(争点3)
エ 原告X1の損害及びその額(争点4)
オ 不就労期間に係る賃金請求権(民法536条2項)の有無(争点5)
(2) 原告X2の請求について
ア 被告Y2の原告X2に対するセクハラ行為の有無及び違法性(争点6)
イ 被告Y2のセクハラ行為に係る被告会社の使用者責任の成否(争点7)
ウ 原告X2の損害及びその額(争点8)
エ 雇用契約の合意解約の成否(争点9)
オ (合意解約でない場合)解雇の有効性(争点10)
カ 原告X2の就労意思・能力の喪失の有無,中間収入の控除(争点11)
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(被告Y2の原告X1に対するセクハラ行為の有無及び違法性)
(原告X1の主張)
ア 原告X1は,被告会社に入社した平成29年4月1日から同年9月21日にかけて,以下のとおり,被告Y2からセクハラ行為を受けた。
(ア) 原告X1は,被告会社の指示により,本件マンションにおいて,上司である被告Y2の直接の指揮命令のもと,秘書業務や営業業務等に従事していたところ,被告Y2は,原告X1に対し,日常的に,「別嬪さんやな」「去年が不細工ばっかりやったから,今年は別嬪を採用せいと甲山Dに言っといたんや」「君,昔,水商売やってたんと違うのか」「別嬪やから世の中なめてるな」等の発言を行った。なお,甲山D(以下「D」という。)は,被告会社における原告X1の上司である。
(イ) 被告Y2は,同年5月の上海出張の際,上海市内にある馬の競技場で,原告X1に対し,被告Y2の相手をするための女性を誘って連れてくるよう命令した。
(ウ) 原告X1は,同年8月頃,本件マンションの事務所で仕事をしていたところ,被告Y2は,突然,原告X1に対し,被告Y2が呼んだマッサージ師によるマッサージを受けるよう命令し,施術を受けさせた。施術場所は被告Y2の使用する寝室のベッド上であったことに加え,隣のリビングにいた被告Y2から,原告X1が衣類を脱ぎ着し,素足で肌を露出した状態でベッドに横たわっている様子が容易に見られる状態であった。
(エ) 被告Y2は,同年9月20日からのローマ出張の際,ローマ市内の宿泊先ホテルに向う移動中のタクシー内等で,原告X1に対し,「どうや,愛人になるか」「君が首を縦に振れば,全部が手に入る。全部,君次第」といった発言を行った。そして,同月21日昼過ぎにローマに到着し,宿泊予定のホテルのフロントで確認したところ,原告X1が事前に被告Y2に確認したのとは異なり,原告X1と被告Y2のため部屋として1部屋しか予約されていなかった上,原告X1が自分のためにもう1部屋予約するよう懇請したにもかかわらず,被告Y2は拒絶した。原告X1は,やむを得ず部屋に入った後も,自分の分の部屋の予約を頼んだが,被告Y2は拒絶し,原告X1の頼みを無視してシャワーを浴びるなどし始めた。このため,原告X1は被告Y2の思うとおりにされてしまうとの恐怖から,ホテルの部屋から飛び出し,同日夜,帰国便の飛行機を手配して,逃げるように帰国した。
イ 以上の被告Y2による言動は,自らの被告会社内での絶大な権力を背景として性的関係を強要する発言を繰り返し,ホテルの一室に宿泊することを強要するなど,地位と権限を悪用したセクハラ行為であり,原告X1を性によって差別し,性的自己決定の自由等の人格権を侵害し,働く権利ないし生存権も脅かす違法なものである。
(被告会社の主張)
いずれも否認ないし争う。
以下のとおり,被告Y2のセクハラ行為に関する原告X1の供述は信用できない。
ア 本件訴訟は,被告Y2が創業した○○グループ(被告会社,株式会社c,d株式会社,e株式会社,株式会社f,協同組合g等により構成)を,同グループの管理部門(情報戦略部門)の従業員であるE,F及びGが共謀し,被告Y2の親族であるHらを隠れ蓑にして乗っ取ることを計画・実行した事件(以下「乗っ取り事件」という。)の一環として,Eらと原告らが通謀して,被告Y2を排除するべく,セクハラ被害等をでっち上げたものである。したがって,原告らには,被告Y2を排除するために虚偽供述を行う動機がある。
イ 原告X1は,日常的に被告Y2から愛人になるよう言われていたと供述するが,被告Y2と2人でローマ出張に行くことを引き受けていること,しかもLINEのやりとりによれば,被告Y2からのローマ出張の提案に即答しており,前向きであったことに照らせば,不自然である。また,原告X1と被告Y2との間のLINEには性的関係を強要するような内容はなく,上記供述は客観的証拠にも反する。
ウ ローマから帰国する際の原告X1とDとの間のLINEにおいて,Dは,ホテルの部屋は2部屋あり,Aと被告Y2が同じ部屋に泊まる予定であり,もう1部屋が原告X1の部屋である旨を説明して,原告X1の誤解であることを指摘している。なお,このLINEには,原告X1がEに相談した上で帰国を決めたことが表れていること,帰国後,原告X1はDに連絡やセクハラ被害の相談をしておらず,同人もE及び原告らの企みに関与していた可能性が高いことからすれば,このLINEは,むしろ,Eと原告らが通謀して被告Y2によるセクハラ被害を捏造するためのものであったというべきである。
(被告Y2の主張)
いずれも否認ないし争う。
以下のとおり,被告Y2が原告X1に対するセクハラ行為に及ぶことはあり得ず,原告X1の供述も信用できないものである。なお,本件訴訟には乗っ取り事件という特殊な背景があり,その関与者が作成に関わった証拠は意図的に作成された可能性があることを考慮して信用性の評価がなされるべきである。
ア 原告X1は,被告Y2から日常的に受けていたというセクハラ発言について,具体的な日時や場所等の発言状況について全く主張ないし供述をしていない。また,被告Y2は普段「別嬪」という言葉を用いないし,Dを「甲山」と呼んでおり,「甲山D」と呼ぶこともない。
イ 上海出張は被告Y2が長年行っている乗馬の人脈を生かしたビジネスのための出張であり,被告Y2が,そのような目的で訪問した馬術の競技場において,Cや自身の子であるAも同行する場面で,相手をする女性を誘ってくるように指示をすることなどあり得ない。また,Cも原告X1も,被告Y2のした発言の内容や態様,場面や状況について,具体的な内容を一切供述していない。
ウ 被告Y2は,原告X1にマッサージを受けるよう命じておらず,自身がマッサージの施術を受け終わった後,原告X1から不摂生や体調の不安を聞かされるなどしていたため,原告X1にも勧めただけのことである。また,施術の間,原告X1が施術を受けた和室と他の部屋との仕切りは閉めてあり,被告Y2は別の部屋であるAの部屋や台所にいた。施術の際は,半裸になるのではなく服をまくるものであり,露出を避けるためにタオルを掛けて行われた。したがって,被告Y2の言動等に違法なセクハラと評価される点はない。
エ ローマ出張の際,移動中のタクシーでは,被告Y2が後部座席に,原告X1が助手席に座っており,そのような状況で,被告Y2が原告X1に「愛人になるか」等の発言を行うことはあり得ない。また,原告X1の供述は,タクシー車内の状況を説明せず,空港からホテルまでの移動時間も実際の所要時間(27分程度)よりも短い時間(10分か15分くらい)を述べ,ローマ出張に行った理由についても整合性を欠くなど,信用性がない。上記発言に関し,原告X1とDとの間のLINEとして提出された証拠も,一部を恣意的に抜粋したものであるため事実を報告したものかが明らかでなく,被告Y2の発言内容を直接証明するものでもない。Dは乗っ取り事件に関与して退職した者であり,LINEの記載は当時の自然のやりとりでなく,あえて作出されたものと考えるのが合理的である。加えて,原告の供述する時的経過には,このLINEの送信時間との間にも著しい不整合がある。
オ ローマ出張の際,ホテルは2部屋が予約されていたところ,Aが先に1部屋を使っており,後にAと原告X1が部屋を交代して,被告Y2とAが同じ部屋に宿泊する予定であった。このことは,チェックイン時にフロントに通訳をして伝えた原告X1も認識していた。また,その際,原告X1はホテルのロビーにソファが置かれていたことも認識していたから,Aが戻れば自分の部屋が用意されていること,それまでの間はロビーで待つことも可能であることがわかっていたはずである。原告X1自身,被告Y2から同じ部屋に宿泊するよう求められたとの供述はしていないことも踏まえると,当時の原告X1の状況は,被告Y2から同じ部屋に宿泊することを強要されたというものでは全くなかった。
カ なお,ローマ出張は,乗馬の世界大会である「△△」に来場しているスイス人やイスラエル人との間で販売チャネルやコネクションを得ることなどを目的としたビジネスのための出張であり,原告X1を愛人にするための出張ではない。
(2) 争点2(被告Y2のセクハラ行為に係る被告会社の使用者責任又は債務不履行責任の成否)
(原告X1の主張)
ア 被告Y2は,被告会社の創業者であり,被告会社内では「理事長」ないし「CEO」と呼ばれる実質的かつ唯一の経営者であって,自らもそのように名乗って対外的に活動していた。そして,被告Y2は,原告X1の上司として,原告X1の業務を直接指揮命令していた。
したがって,被告会社は,被告Y2の使用者であり,上記(1)「原告X1の主張」のとおり,被告Y2のセクハラ行為は,被告会社の事業の執行につき行われたものであるから,被告会社は使用者責任(民法715条)を負う。
イ また,被告会社は,職場において性的な言動により労働者の就業環境が害されること等がないように雇用管理上必要な措置を講じることにより,就業環境を整備すべき法的義務(職場環境整備義務。男女雇用機会均等法11条参照)を負っているところ,以前から被告Y2による部下の女性従業員に対するセクハラ行為を認識していながら,セクハラ相談に適切に対応するための態勢を全く取ることなく,同義務を怠り,被告Y2によるセクハラ行為を生じさせたものであるから,債務不履行責任を負う。
(被告会社の主張)
否認ないし争う。
ア 被告Y2は,○○グループの創業者であり,長年にわたり同グループの経営を行ってきた者であるが,本件で問題とされている平成28年8月から平成29年9月までの期間においては,被告Y2は被告会社の役員ではない。もっとも,被告会社の代表取締役であるAが未成年であり,被告Y2はAの親権者でもあることから,A等から委託を受けて,被告の経営に関与することもある。
イ 被告会社は,ハラスメントカード制(ハラスメントをされて不快に思った従業員が,ハラスメントをした者に対してカードを提示した後,裏面にその内容を記載して被告会社の戦略情報課のEに提出するというもの。)を導入し,セクハラ防止規定を置いて,セクハラの防止策を講じており,セクハラが継続的に発生する劣悪な職場環境を放置,容認していたということは一切ない。
(3) 争点3(被告会社の職場環境整備義務違反による債務不履行責任の成否)
(原告X1の主張)
ア ローマ出張からの帰国後,原告X1は,このままでは被告会社で仕事を続けることは不可能であると考え,平成29年10月4日,原告ら代理人を通じて,被告会社及び被告Y2に対し,被告Y2のセクハラの調査,同様のことが起こらないための措置,被告Y2及び被告会社代表取締役からの謝罪等を求める文書を送付した。しかし,被告会社及び被告Y2は,同月12日,弁護士を通じ,被告Y2が,原告X1の誤解であり,被告Y2の下で働くのが嫌なら被告会社の□□の本社に戻してもよいが,謝罪をするようなことではない等と述べている旨返答したのみで,原告X1が仕事に行くことができない状態に変わりはなかった。
イ 被告会社は,前述の職場環境整備義務を負っているところ,以前から被告Y2による部下の女性従業員に対するセクハラ行為を認識していながら,セクハラ相談に適切に対応するための態勢を全く取らず,原告X1による上記のセクハラ被害の申出に対して適切な対応(事実関係の迅速かつ正確な確認,事後の適正な措置,再発防止措置等)を全く行わなかったものであり,それ故,原告X1は被告会社の退職を余儀なくされたのであるから,同義務違反は明白である。
ウ よって,被告会社は,職場環境整備義務違反につき,不法行為責任又は債務不履行責任を負う。
(被告会社の主張)
否認ないし争う。
以下のとおり,被告会社がセクハラを放置,容認していたことはなく,被告会社は原告X1に対し職場環境整備義務を履行していた。
ア 被告会社は,前述のとおり,ハラスメントカード制を導入し,セクハラ防止規定を置いて,セクハラの防止策を講じており,職場環境整備義務を果たしていた。
イ また,ローマ出張からの帰国の際,原告X1はEやDに対し相談していたところ,Dは事実関係の確認や経緯の説明を含めて誠実に対応し,「とりあえず無事帰ったらまた連絡下さい」「いずれにしても心配しているので,また落ち着いたら連絡ください」などと,原告X1からの相談を継続的に受けようとしていた。その後,被告会社は,代理人を通じて,原告X1に対し,職場変更について提案しており,原告X1が勤務しやすいように十分な配慮を行った。しかし,原告X1は,被告会社による説明を拒否し,その後のDに対する相談もせず,一方的に職場に来なくなったものである。
(4) 争点4(原告X1の損害及びその額)
(原告X1の主張)
ア 逸失利益 465万円
原告X1は,被告会社による不法行為又は債務不履行(就業環境整備義務違反)により,退職を余儀なくされ,少なくとも被告に勤務した場合に得ることのできた一年分の賃金を喪失した。
この逸失利益に係る損害額は,被告における約定賃金が月額30万円であり,賞与は1年あたり月額賃金の3.5か月分であるから,合計465万円(30万円×15.5か月)である。
イ 慰謝料 500万円
原告X1は,被告Y2のセクハラ行為又は被告会社の債務不履行により,精神的苦痛を被った。
そして,①被告Y2によるセクハラ行為は日常的になされたものであること,②被告会社における圧倒的な力関係の差,年齢差,社会経験の差を利用してなされたものであること,③特に海外で容易に逃げることが困難な状況を計画的に作出し,愛人として性的関係を持つことを迫るものであることなど,重大かつ悪質なセクハラ行為であることに加え,④被告会社は原告X1からのセクハラ調査及び環境改善要望に対し何ら応答しなかったことにも鑑みれば,慰謝料額は少なく見積もっても500万円である。
ウ 弁護士費用 50万円
原告X1は,被告Y2による本件セクハラ事件の解決を求め,原告ら代理人に対し,弁護士費用として50万円の支払を約束したから,弁護士費用に係る損害は50万円である。
(被告会社の主張)
いずれも否認ないし争う。
被告Y2のセクハラ行為は存在せず,仮に原告X1が誤解をしたとしても,上記(3)「被告会社の主張」のとおり,被告会社は,被告Y2やDから誤解であることを伝えるとともに,その後の職場変更についても提案するなどしており,原告X1が勤務を継続できるように十分な配慮を行った。原告X1が退職したのは被告会社が就業環境整備義務に違反したためではなく,本人の意思である。したがって,原告X1の主張する逸失利益に係る損害は理由がない。
(被告Y2の主張)
否認ないし争う。
(5) 争点5(不就労期間に係る賃金請求権(民法536条2項)の有無)
(原告X1の主張)
ア 原告X1は,被告Y2のセクハラ行為により,ローマ出張からの帰国後,被告会社が適切な対応(事実関係の迅速かつ正確な確認,事後の適正な措置,再発防止措置等)を全く行わなかったため,被告会社での勤務を継続できなくなって休業した後,退職を余儀なくされた。
イ このように,原告X1は,使用者である被告会社の責めに帰すべき事由によって労務提供ができない状態が継続したのであるから,休業期間に係る平成29年10月分ないし同年12月分の賃金請求権を失わず,被告会社はこれを支払う義務がある。
(被告会社の主張)
ア 被告Y2のセクハラ行為は存在せず,仮に原告X1が誤解をしたとしても,上記(3)「被告会社の主張」のとおり,被告会社は,被告Y2やDから誤解であることを伝えるとともに,その後の職場変更についても提案するなどしており,原告X1が勤務を継続できるように十分な配慮を行った。
イ したがって,被告会社の責めに帰すべき事由はなく,原告X1が被告会社に対し労務を提供していない不就労期間について,被告会社に賃金支払義務はない。
(6) 争点6(被告Y2の原告X2に対するセクハラ行為の有無及び違法性)
(原告X2の主張)
ア 原告X2は,被告に入社した平成28年8月25日以降,オランダ出張から帰国した同年9月28日頃にかけて,以下のとおり,被告Y2からセクハラ行為を受けた。
(ア) 被告Y2は,オランダ出張前日である同月19日,原告X2に対し,Aの部屋が空いているから本件マンションで前泊すればよい旨指示し,別の寝室が用意されていると思っており,また,被告Y2の指示命令に応じざるを得ない立場及び心理を利用して,原告X2が本件マンションに宿泊することに応じさせた。
(イ) 被告Y2は,同日,本件マンションにおいて,原告X2に対し,被告Y2が呼んだマッサージ師によるマッサージを受けるよう命令し,マッサージを受けさせた。施術場所は被告Y2の生活領域にあるリビングであったことに加え,被告Y2は同室のソファに座っており,原告X2の肌が露出しているのを見られるほど被告Y2と近接した状態であった。
(ウ) 被告Y2は,同日の夜,原告X2に対し,被告Y2と同じベッドで寝るよう命じ,原告X2が泣き出すと,「だからお前は,ワーカーやねん!俺の言うことが何でわからんのか!」などと大声で怒鳴った。そのため,精神的に混乱した原告X2は,渋々,被告Y2と同じベッドで寝るほかなかった。ベッドに入ると,被告Y2は,原告X2の身体を触ってきたが,原告X2は身体を固くしてこれを拒み,背を向けて寝たふりをし,被告Y2はそれ以上の性的接触はしなかった。
(エ) 被告Y2は,オランダに到着した同月22日,滞在先ホテルの自室で休んでいた原告X2に対し,電話で「自分の部屋に来るように」と命じ,警戒した原告X2が「何の用件でしょうか」と尋ねても答えようとしなかった。なお,原告X2は,「すみません,疲れているので,部屋には行けません」と言って断った。被告Y2は,翌日の同月23日の夕食後にも,原告X2に対し,電話で「自分の部屋にこれから来るように」と命じた。なお,原告X2は,「すみません,疲れていてもう休んでいますので」と言って断った。被告Y2は,その後も,オランダ滞在中,原告X2に対し,何度か,「部屋に来るように」と連絡した。なお,原告X2は,その度に被告Y2に用件を聞いたが納得のいくような説明がなかったため,同室となることを拒絶した。
なお,被告Y2は,オランダ出張以前から,原告X2に対し,LINEによる業務上の指示命令の中で,同年8月29日,「31日PRが終わったあと,会えますか?」「徹夜覚悟で来て下さい」「昼は,大阪名物お好み焼きの作り方伝授。夜は懐石料理をご馳走します」などと送信して,同月31日に自身の宿泊する●●のホテルに来るよう要求したり,同年9月9日にも,被告Y2の自身の宿泊する予定の「hホテル」に来るよう求める内容を送信して,いずれも巧妙に単身でホテルに来るように指示していたものである。
イ 以上の被告Y2による言動は,業務上の必要性や緊急性もないのに,密室であるホテルの部屋に来るよう指示するなどして,性的交渉ないしその類似行為を強要ないしやむなく応諾させようとするセクハラ行為であり,原告X2の性的な自由を侵害する違法なものである。
(被告会社の主張)
いずれも否認ないし争う。
以下のとおり,被告Y2のセクハラ行為に関する原告X2の供述は信用性できない。
ア 上記(1)「被告会社の主張」アのとおり,原告らには,被告Y2を排除するために虚偽供述を行う動機がある。また,原告X2は,被告Y2に対し,反抗的な態度を示したり,恨みを持つなどしており,被告Y2を陥れる明確な動機がある。
イ 原告X2は,パニックに陥ることがあり,精神的にも不安定な状態にあるため,当時の状況を正しく認識できておらず,自分に都合よく解釈する傾向にもある。本件における尋問の際,複数の質問に対して供述の拒否を繰り返しており,供述態度も不誠実である。
ウ 原告X2は,被告Y2との間のLINEに表れているとおり,被告Y2に対して反論や非難ができる関係にあったから,オランダ出張前日の夜に被告Y2に同じベッドに寝るよう命じられたような事実があれば,後に被告Y2にLINEで指摘したり,CやEら第三者に相談していて然るべきであるが,そのような事実はないことからすれば,原告X2の供述は不自然である。
エ 被告Y2からオランダ出張中に繰り返しLINEで部屋に来るよう命じられたとの供述も,被告Y2とのLINEの記録にそのような内容はなく,客観的証拠に反している。そもそも,原告X2の述べる被告Y2のセクハラ行為は,LINEの記録には一切表れておらず,原告X2の供述は不自然である。
(被告Y2の主張)
いずれも否認ないし争う。
以下のとおり,被告Y2が原告X2に対するセクハラ行為に及ぶことはあり得ず,原告X2の供述も信用できないものである。なお,乗っ取り事件という背景事情があることを踏まえた証拠の信用性評価がなされるべきことは前述のとおりである。
ア 被告Y2は原告X2にマッサージを受けるよう命じておらず,自身がマッサージの施術を受け終わった後,原告X2にも勧めただけのことである。また,原告X2が施術を受けたのはリビングの入口から見て左奥であったが,被告Y2はリビング内にはいなかった。施術の際,服は脱がずにまくるものであった上,肌の露出は極力避けるよう意識して行われた。したがって,被告Y2の言動等に違法なセクハラと評価される点はない。
イ オランダ出張前日,被告Y2が原告X2に本件マンションでの宿泊を提案したのは,原告X2がしばしばパニック症状を起こし,電車を途中下車して休息をとることがあり,翌日の出国に際して同様の事態が起こることを危惧したからである。そして,被告Y2は,原告X2に対し,Aの部屋に使われていないベッドがあることから,その部屋を使うよう提案し,原告X2は被告Y2とは別々の部屋に宿泊しており,同じベッドで寝ることを命じた事実はない。そもそも,原告X2の主張するように被告Y2から同じベッドで寝ることを強要され,体を触られたというならば,翌日からのオランダ出張に同行することは通常考えられず,不合理である。また,原告X2は宿泊したという和室の状況についても説明できておらず,原告X2の供述は到底信用できない。
ウ オランダ出張中の原告X2と被告Y2との間のLINEの記録上,被告Y2が原告X2に対して部屋に来るよう強要したことを示すものは一切なく,かえって,被告Y2から原告X2への連絡が取れなくなり,必要な業務指示や会議も行えない状態であったことが読み取れる。なお,オランダ出張は業務であり,業務上の指示・指導や会議を行うことは当然であり,出張先ではホテルの部屋でこれらを行う必要がある場合もあるから,単に部屋に来るように述べたのみで,セクハラと評価することができないことはいうまでもない。
エ そもそも,被告Y2は,風俗店に勤務しながら普通の仕事をしたいという意欲を持っている人を採用するという慈善活動を行っており,その活動の中で原告X2と知り合い,採用したものである。このような活動を行っている被告Y2が,採用した原告X2に対してセクハラを行うということは考えられない。
(7) 争点7(被告Y2のセクハラ行為に係る被告会社の使用者責任の成否)
(原告X2の主張)
上記(2)「原告X1の主張」のとおり,被告Y2は被告会社の実質的経営者であり,自らそのように名乗って対外的に活動していた。そして,被告Y2は,原告X2の上司として,原告X2の業務を直接指揮命令していた。
したがって,被告会社は,被告Y2の使用者であり,上記(6)「原告X2の主張」のとおり,被告Y2のセクハラ行為は,被告会社の事業の執行につき行われたものであるから,被告会社は使用者責任(民法715条)を負う。
(被告らの主張)
否認ないし争う。
上記(2)「被告会社の主張」のとおり,本件で問題とされている平成28年8月から平成29年9月までの期間は,被告Y2は被告会社の役員ではなかった。
(8) 争点8(原告X2の損害及びその額)
(原告X2の主張)
ア 慰謝料 500万円
原告X2は,被告Y2のセクハラ行為により,精神的苦痛を被った。
そして,被告Y2によるセクハラ行為は,①自分と同じベッドで寝ることを強要したり,ホテルの一室に連れ込むものであること,②被告会社における圧倒的な力関係の差,年齢差,社会経験の差を利用してなされたものであること,③特に海外で容易に逃げることが困難な状況を計画的に作出しものであることなど,重大かつ悪質であることに加え,④原告X2の正当な拒絶行為に対する報復として帰国直後に解雇を言渡し,追い打ちをかけるように精神的苦痛を与えたことにも鑑みれば,慰謝料額は少なく見積もっても500万円である。
イ 弁護士費用 50万円
原告X2は,本件訴訟の提起に先立ち,原告ら代理人に対し,弁護士費用として50万円の支払を約束したから,弁護士費用に係る損害は50万円である。
(被告らの主張)
いずれも否認ないし争う。
(9) 争点9(雇用契約の合意解約の成否)
(被告会社の主張)
原告X2と被告会社は,平成28年9月28日をもって雇用契約を合意解約し,これにより雇用契約が終了した。具体的には,原告X2は,オランダ出張からの帰国後,被告会社を退職することについては納得しており,原告X2が金銭的な解決を希望したため,被告会社が解雇予告手当金の名目で30万円を支払い,双方合意の上で雇用契約を終了させることになったものである。
(原告X2の主張)
否認する。
原告X2が退職届を出したことはなく,退職の意思を自ら表明したことはないのであって,原告X2と被告会社が合意解約により雇用契約を終了させた事実はない。原告X2の問合わせに応じて,解雇予告手当が支払われているとおり,原告X2は,平成28年9月28日,被告会社によって解雇されたものである。
(10) 争点10((合意解約でない場合)解雇の有効性)
(被告会社の主張)
仮に合意解約が否定され,被告会社による解雇であったとしても,以下のように,原告X2は,被告Y2に対して,反抗的な態度を繰り返し,被告Y2の指導によっても改善が見られないために解雇したものであり,これは,就業規則上の解雇事由である「従業員が,身体または精神の障害により,業務に耐えられないと認められる場合」(40条2号)又は「その他,前各号に準ずるやむを得ない事由がある場合」(同条7号)に該当し,客観的に合理的な理由もあるから,解雇は有効である。
なお,原告X2が退職に関して直ちに異議を述べなかったにもかかわらず,本件で解雇無効の主張をすることは,原告X1の訴訟に便乗した不当な蒸し返しであり,信義誠実の原則に反するものである。
ア 被告会社は,被告Y2が中心となって,介護施設や老人ホーム・保育園等の福祉施設に関するプロジェクトを進めていたところ,風俗産業で働く一方,短期間に何度も転職を繰り返していたものの福祉施設での勤務経験もあり,「どんなことでも吸収し,常に学ぶ姿勢を忘れないよう努力し続ける」旨述べた原告X2の言葉を信じ,福祉施設の責任者とし,また,○○グループの公益部門を代表するポジションで働いてもらうため,原告X2を採用したものである。そして,被告Y2は,精神的な不調(精神疾患)を訴えたり,突然激高する等情緒不安定になるなどしていた原告X2に対し,ときには厳しい言葉をかけることがありながらも,体調等に配慮し,ゆっくりでもいいから成長してほしいことを告げ,原告X2の希望するマネージャーとしての活躍の実現に向けてサポートしていた。
イ しかし,原告X2は,日が経過するにつれて,被告Y2等から学ぼうとする姿勢や,社会人,マネージャー候補者としての自覚がなくなり,次のとおり,反抗的な態度が明らかになっていった。
(ア) 原告X2は,ワーカーではなくマネージャーとして活躍したいという思いで被告Y2と一緒に仕事をすることを決心していたが,被告Y2の指導に対して,議論をすり替え,被告Y2がワーカーを馬鹿にしているかのような表現をしていると批判し,反抗的な態度を取り始めた。
(イ) 原告X2は,オランダ出張前日に,午後1時10分に到着すると言いながら,遅刻し,午後3時にやってきた。その理由は,少し調べたいことがあるが,自宅にコピー機がないので時間がかかる,知人から頼まれたお土産を購入するためにユーロに変更したいというものであった。
(ウ) 被告Y2は,原告X2に対し,新規事業のマネージャーとして職務遂行を期待しており,自ら考えて自ら行動することを求めており,オランダ出張中も被告Y2のそのような姿勢を見て学んでほしいと思っていた。しかし,原告X2は,平成28年9月26日,被告Y2に対し,「仕事に同行する必要がありますか?」との質問をし,これに対して被告Y2が自分で考え自分で判断するよう指示したところ,原告X2は突然激高し,必死に考えても結局否定しかされない,被告Y2の思い通りにしかならず,結局,自分が必要ない,被告Y2と同じ考えにはなりたいとは思わない,違う意見があるから良い提案が生れるとの言い訳を行い,あからさまに反抗する態度を示した。そして,原告X2は,自分で考えてほしいという被告Y2の言葉を逆手にとって,自分で考えて,同行すべき会議等にも同行しないと言い出し,業務を放棄した。
(エ) 原告X2は,オランダ出張からの帰国直後である同月28日,被告Y2に対し,「明日と明後日はどちらに出勤ですか?」と質問し,自分で考え,自分で行動するという考え方とは正反対の行動を取った。これを受けて,被告Y2は,同日,原告X2に対し,○○グループの考え方と合わないのであれば,原告X2にとっても自ら退職した方が良いのではないかと伝え,「しっかりしていて役に立つと思ったが,残念です」と伝えたのに対し,原告X2は「役に立つと思っておられる考え方自体が,私には合わないと思います」と更に反抗的な態度を繰り返した。
(原告X2の主張)
ア 被告会社による解雇の理由は,「合わないですねぇ」などの被告Y2の主観によるものにすぎず,その内実は,被告Y2が,オランダ出張前日の本件マンション宿泊時に同じベッドで寝た際に,性的欲求を満たすことを拒絶されたこと,オランダ出張中に何度も自分の部屋に来るようにとの命令を拒絶されたことへの報復である。
イ そもそも,被告会社の主張する解雇事由は具体的に特定されておらず,これに該当するような事実はおよそ存在しないし,被告Y2による主観的で恣意的な感情や思惑に原告X2が沿わなかったということにすぎず,客観的に合理的な理由とはなり得ない。
ウ したがって,本件解雇が不当解雇であり無効なものであることは明白である。
(11) 争点11(原告X2の就労意思・能力の喪失の有無,中間収入の控除)
(被告会社の主張)
ア 原告X2は,平成28年9月28日に退職を勧告されて以降,被告会社で働く気持ちを持っておらず,被告会社での労務提供の意思を喪失している。このことは,①同日のLINEにおいて原告X2が無用に被告Y2を挑発する内容を送り,その後,退社に向けて費用精算がないことを伝え,以後出社していないこと,②原告X2が同日以降1年以上も雇用契約の終了について異議を申し立てておらず,原告X1による民事訴訟に便乗して雇用契約上の地位を争っているだけであること,③本件訴訟においても,原告X2が,被告会社で勤務を希望する主張や陳述を一度もしていないこと,④本件訴訟はそもそも乗っ取り事件の一環としてなされたものであることなどからして明らかである。
イ また,少なくとも,原告X2は,平成28年9月28日以降に,別紙「中間収入」欄記載の金額の中間収入があり,これらは未払賃金から控除されるべきである。
(原告X2の主張)
ア 原告X2は,被告会社によって本件解雇が撤回され,セクハラの再発防止策が講じられる等すれば労務提供をする意思を維持している。原告X2は,平成28年11月1日から他社に就職し勤務しているが,本件解雇により収入の途を失った労働者として生活をしていくためのやむを得ざる措置であり,被告における労務提供の意思を喪失したものではない。
イ 原告X2が被告会社において就労できないのは,ひとえに被告会社による無効な解雇に起因するものであり,原告X2は,解雇の日以降の賃金請求権を失わない。なお,被告会社の中間収入の控除の主張は,弁論準備手続終結後になされたものであるから,時機に後れたものとして,取り上げられるべきではない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。なお,以下の認定における日時は全て日本時間である。
(1) 被告Y2の被告会社における地位・権限等
被告Y2は,被告会社の創業者であり,代表取締役を務めていたが,その後,代表取締役を一旦退き,平成28年ないし平成29年当時は,同年6月19日までBが,同日以降はAが被告会社の代表取締役を務めていた。もっとも,平成28年ないし平成29年当時も,被告Y2は,被告会社において「理事長」等と呼称されて,被告会社及びそのグループ会社の業務に携っており,経営や人事に関して大きな影響力を有していた。(前記前提事実(1)ア,イ,丙5,被告Y2,弁論の全趣旨)
(2) 被告会社におけるハラスメント対策等
ア 被告会社では,従業員に対し,「ハラスメントカード」と称するカードを配布し,ハラスメントを受けたと感じた場合に,表面の「退場,離れて下さい」「注意して下さい」「心がブルーです。この話は止めて下さい」の3項目のうち該当する項目を丸印で囲んだ上,同カードを相手に提示し,その後,裏面に具体的内容を記載して,被告会社の情報戦略部の係長のEに対して提出するという制度を導入していた。(乙4,被告Y2,弁論の全趣旨)
イ 被告会社の就業規則(平成6年4月1日制定,平成18年4月1日最終改定)には,セクシャルハラスメントの防止に関して,以下の規定が置かれている。(乙5)
・第32条
1 すべての従業員は,他の従業員を業務遂行上の対等なパートナーと認め,職場における健全な秩序ならびに協力関係を保持する義務を負うと共に,次に掲げる行為をしてはならない。
①むやみに身体に接触するなど,職場での性的な言動によって,他人に不快な思いをさせることや職場の環境を悪くすること。
②職務中の他の従業員の業務に支障を与えるような性的関心を示したり,性的な行為を仕掛けること。
③職責を利用して,交際を強要したり,性的関係を強要すること。
④その他,相手に不快感を与える性的な言動。
2 セクシャルハラスメントに関する相談及び苦情窓口は,社長室とする。会社は,相談または苦情を申し出た従業員のプライバシーに十分配慮して対応するものとする。
3 相談及び苦情を受け付けた場合,人権に配慮した上で,必要に応じて被害者・加害者,所属長,同僚等に事実関係を聴取する。従業員は正当な理由なく拒否できない。
4 会社は,問題を解決し被害者の就業環境を改善するため,加害者に対して制裁措置,人事異動等の必要な措置を講ずる。
(3) 解雇に関する定め
被告会社の就業規則(平成6年4月1日制定,平成18年4月1日最終改定)には,解雇に関して,以下の規定が置かれている。(乙5)
・第40条
1 会社は,次の各号の一に該当する場合に,従業員を解雇することがある。
2 従業員が,身体または精神の障害により,業務に耐えられないと認められる場合。
3 休職期間が満了した時点でなお休職理由が継続し,復職できない場合。(休職期間を更新された場合を除く)
4 正当な理由がなく,14日以上無断欠勤をし,その間に出勤の督促をしても応じないとき。
5 試用期間中に会社が不適当と認めた場合。
6 事業の継続が不可能となり,事業の縮小・廃止をする場合。
7 その他,前各号に準ずるやむを得ない事由がある場合。
(4) 原告X2の業務状況
原告X2は,平成28年8月25日頃に被告会社に雇用された後,約3日間の研修を経て,被告Y2の下で業務に従事するようになった。原告X2は,福祉関係の仕事をしていた経歴を有していたところ,被告Y2は,原告X2に対し,被告会社ないしそのグループ会社において進めている福祉関連施設に関わる仕事に従事させることを予定していた。なお,原告X2は,同年9月1日から同月16日までの間は,国家資格の受験資格を得るため,社外の研修を受けていた。(甲15,乙7,丙5,原告X2,被告Y2)
(5) オランダ出張に関する事実経過
ア 被告Y2は,原告X2の採用前である平成28年8月24日頃より,福祉関連施設の仕事の研修として,同年9月20日頃にオランダに行く予定をするよう伝えており,同年8月26日頃には,原告X2はオランダ出張に同行することとなった。最終的に,オランダ出張には,被告Y2,A,C及び原告X2が参加することとなった。(甲15,丙3)
イ 原告X2は,かねてより早朝の電車での移動中に気分が悪くなり下車するといったことがあったところ,被告Y2は,原告X2に対し,パニック症状を心配しているとして,オランダ出張の前日である同年9月19日は本件マンションで宿泊し,翌日の出国に備えるよう求め,これを受けた原告X2は,同日,本件マンションを訪れた。(甲15,丙3,5,原告X2,被告Y2)
ウ(ア) 被告Y2は,同日,本件マンションにおいて,原告X2に対し,従来からよく自宅での施術を依頼していた鍼灸師であるI(以下「I鍼灸師」という。)による施術を受けるよう勧め,これを受けた原告X2は,I鍼灸師による施術を受けることとなった。
(イ) 原告X2は,本件マンション内のリビングにおいて,40分ないし50分程度,施術を受けた。原告X2は,同リビング内で,マット又は絨毯の上で横になり,背部及び腰部に針を刺さない〓鍼,足の甲にお灸をする施術を受けた。その際,原告X2の衣服をまくることがあったが,I鍼灸師においては,肌の露出を極力避け,露出した部分についてはタオルを掛けて覆うなどの配慮をしていた。
(ウ) 原告X2の施術中,被告Y2は別の部屋に移っており,I鍼灸師は,被告Y2がリビングに入る音を聞いたり,多少うろうろしている気配を感じたことはあったが,被告Y2が原告X2のすぐ近くに来ることはなかった。
(以上につき,甲15,16,乙6,丙4,証人C,同D,原告X2,被告Y2)
(6) オランダ出張中の事実経過
ア 原告X2及び被告Y2ら4名は,オランダ出張において,1日目である平成28年9月21日,認知症の人のための介護施設や小学校等を訪問・見学したが,その後は定まった予定はなかった。(甲15,丙3,原告X2,被告Y2)
イ 同日から同月24日までのオランダ出張中に原告X2と被告Y2との間でやりとりされたLINEの中には,以下の内容のものがあった。(丙3)
(ア) 同年9月21日
・被告Y2(13:56)
「出発前に食堂でミーティングをやる。全員,出発する用意をして朝食に来ること。」
・原告X2(14:05)
「おはようございます。何時でしょうか。」
・被告Y2(14:21)
「適当」
・原告X2(14:54)
「いまどちらですか?フロント前にいます。」
・被告Y2(14:54)
電話 通話時間10秒
・原告X2(14:54)
電話 通話時間9秒
(イ) 同年9月24日
・被告Y2(21:27)
電話 通話をキャンセルしました
・被告Y2(21:39)
電話 通話をキャンセルしました
・原告X2(22:19)
「Wi-Fi環境がないので電話に出られませんでした。どうかされましたか?」
・被告Y2(22:20)
「Cに用があった。」
・原告X2(22:21)
「地下の駐車場にいたので繋がらなかった可能性があります。おそらく今なら連絡とれるかと思います。」
(ウ) 同年9月26日
・被告Y2(02:20)
「もう,帰っているかな?今,一階のレストランで食事している。居るなら来て下さい。」
・原告X2(13:59)
「すみません。Wi-Fi繋がってないまま寝てました 本日は,私は同行しますか?」
・被告Y2(14:35)
「仕事は,自分で考えろ!小学校の子供たちに負けている。」
・原告X2(14:35)
「同行するか聞いています」
「何するかは聞いてません」
・原告X2(14:41)
「何が自分で考えろですか。必死に考えたって否定しかしないし,結局あなたの思い通りにしかならないじゃないですか。それでうまく行くというなら私は必要ないでしょう。同じ考えになりたいとは思っていませんから。それはあなたのいう「ワーカー」でしょう。違う意見を出し合うからもっといい提案が生れる気がします。」
・原告X2(14:44)
「同行はしません。自分で考えて動きます。」
・原告X2(14:48)
「小学校の先生は,ちゃんと必要な事は導いています。それが前提で,可能な教育です。私達と同じにしてはいけないと思います。」
(7) 原告X2の雇用契約の終了に関する事実関係
ア オランダ出張から帰国した平成28年9月28日,原告X2と被告Y2との間では,次のようなLINEのやりとりがあった。(丙3)
・被告Y2(09:18)
「現地解散しましたが,念のため自由解散です。お疲れ様でした。」
・原告X2(09:21)
「お疲れ様です。明日と明後日はどちらに出勤ですか?」
・被告Y2(19:22)
「合わないですねぇ。基本理念なのか?考え方なのか?歩こうとする道が違うのかな?別々の道を行きましょう。」
「自ら退職届けを出した方が良いと思う。今日までの給料は支給日に支払います。円満退職の方が,次の就職に有利。貸した20万円は,餞別代わりに差し上げます。」
「※退職届けを出さない場合は,今日付けで解雇します。この場合,貸した20万円は,給料から差し引きます。」
「しっかりしていて,役に立つと思ったが,残念です。」
・原告X2(19:24)
「役に立つと思っておられる考え方自体が,私には合わないと思います。」
「自己退職しない場合はお金を返せとは,脅しているのですね。」
・原告X2(19:31)
「解雇する場合,30日前に予告しない場合は1ヶ月分の給料を支給しないといけないので,20万円では足りませんけれど。」
イ また,その後,原告X2と被告Y2との間では,次のようなLINEのやりとりがあった。(丙3)
(ア) 同年9月29日
・被告Y2(16:57)
「給料については,X2君のいうとおりらしい。法や規則に基づいて処理するようにEに指示してあるので,後はEと打ち合わせて下さい。」
(イ) 同年10月6日
・原告X2(12:24)
「お疲れ様です。E様より出張仮払いの精算の件でご連絡頂きましたが,仮払いなどして頂いておりませんので宜しくお願い致します。」
ウ 被告会社は,原告X2に対し,同年10月25日,同年9月28日付けをもって解雇するに当たり解雇予告手当として30万円を支払う旨の「解雇予告手当支払通知書」を交付し,同年10月25日,30万円を支払った。(前記前提事実(4)カ)
(8) 原告X2のその後の就業及び収入状況
原告X2は,平成28年11月1日以降,一部の期間を除き,被告会社とは別の会社(計3社)に正社員として再就職して就労し,本件口頭弁論終結時までに,別紙「中間収入」欄記載のとおり,給与収入を得た。(弁論の全趣旨)
(9) 原告X1の業務状況
原告X1は,平成29年4月1日に被告会社に雇用された後,遅くとも同月13日頃以降,被告Y2による指示ないし依頼を受けて,被告会社やそのグループ会社に関する秘書業務や営業業務等に従事するようになった。原告X1は,被告Y2の指示を受けるなどして,主に本件マンションに勤務し,業務に従事していた。(甲14,丙2,5,原告X1,被告Y2)
(10) 上海出張に関する事実経過
原告X1は,平成29年5月,被告Y2から指示を受けて,被告Y2,A及びCとともに上海出張に赴いた。上海出張は,世界的に有名な乗馬の競技大会が開かれる馬術の競技場に赴き,要人との人脈を作ることを目的としたものであった。(甲10,丙5,証人C,原告X1,被告Y2)
(11) 原告X1に対する鍼灸の施術に係る事実経過
ア 被告Y2は,平成29年8月頃,本件マンションに出社して業務に従事していた原告X1に対し,I鍼灸師による施術を受けるよう勧め,これを受けた原告X1は,I鍼灸師による施術を受けることとなった。
イ 原告X1は,本件マンション内のベッドのある和室(被告Y2の寝室)において,40分ないし50分程度,施術を受けた。原告X1は,同和室内で,施術に先立ってスーツのジャケットとストッキングを脱いだ上,ベッド上で横になり,シャツを胸の下あたりまで持ち上げた状態で,背部及び腹部に針を刺さない〓鍼と足の甲にお灸をする施術を受けた。その際,I鍼灸師においては,肌の露出を極力避け,露出した部分についてはタオルを掛けて覆うなどの配慮をしていた。
ウ 原告X1の施術中,被告Y2は本件マンション内にいたが,施術の行われている和室内にはいなかった。
(以上につき,甲14,乙6,丙4,5,証人C,証人D,原告X1,被告Y2)
(12) ローマ出張に関する事実経過
ア 被告Y2は,平成29年9月19日,原告X1に対し,翌日(同月20日)からのローマ出張への同行を打診し,原告X1はこれに応じる旨の返答をした。その際,被告Y2からは,ローマ出張ではAの乗馬の試合及び放射能シェルターの提携先調査等を予定している旨が伝えられていた。(甲7,14,丙2,原告X1,被告Y2)
イ 原告X1は,同月20日,以下のLINEでのやりとりにより,被告Y2に対し,ローマ出張の際の部屋の予約に関して確認した。(甲7,14,丙2,原告X1,被告Y2)
・原告X1(12:08)
「お疲れ様です。一応確認なんですけど,私の分のホテルの部屋も予約済みですか?」
・被告Y2(12:59)
スタンプ(親指を立てた手)
・原告X1(13:18)
「ありがとうございます。」
ウ 原告X1と被告Y2は,同月20日の夜に関西国際空港から出国し,同月21日,ローマの空港に到着した後,タクシーで移動し,宿泊予定のローマ市内のホテルに向かった。(甲14,丙5,原告X1,被告Y2)
エ 原告X1と被告Y2は,現地の昼頃,宿泊予定のホテルに到着した。原告X1は,同ホテルでチェックインの手続をした後,被告Y2とともに部屋に移動したが,被告Y2がシャワーを浴びに行った際に,同部屋を出て,直ちに単身で帰国することとした。(甲12,丙2,原告X1,被告Y2)
なお,同ホテルには,同月20日から同月24日までの4泊で1部屋(スーペリア・ダブルルーム(定員2名)。以下「部屋①」という。)がA名義で,同月21日から24日までの3泊で1部屋(トリプルルーム(定員3名)。以下「部屋②」という。)が被告Y2名義で,予約されていた。Aは,先に部屋①にチェックインして入室済みであったが,原告X1及び被告Y2が到着した際には外出中であった。(甲14,乙3の1,2,丙2,5,原告X1,被告Y2)
オ 原告X1は,同月22日午前0時8分から同日午前0時52分頃にかけて,ローマの空港に向かうタクシーの中で,Dとの間で,以下のとおりLINEのやりとりをした。(甲12,原告X1)
・原告X1(0:08)
「お疲れ様です。新入社員のX1です。いきなりすみません。昨日出張命令が入り今理事長とローマに来ているのですが,愛人になれ,などの発言が続き,来る前にホテルの部屋を予約してくれてますよね?って確認もしましたが,着いたら1部屋しか予約されてませんでした。私の部屋もう一部屋お願いしましたが,して頂けず,部屋に入るとシャワーを浴びると言い出したので怖くなり出ました。同じ部屋には止まれないし,もう怖いので帰国する旨をE係長に伝え今空港に向かっています。D社長に採用して頂きましたので,ご報告させて頂きました。夜遅くに失礼しました。」
・D
不在着信(0:10)
不在着信(0:21)
・D(0:29)
「大丈夫??そんなことがあったんですね。。理事長も海外の空気もあって,少し冗談が過ぎられたのかもしれませんが,X1さんにはとてもショックなことだったかと思います。海外の慣れない地でもあり,大丈夫かとても心配しています。とりあえず無事帰ったらまた連絡下さい。」
・原告X1(0:34)
「ありがとうございます。」
・D(0:52)
「理事長と話をしましたが,部屋は2部屋あり,A君と理事長が同じ部屋に泊まる予定で,もう1部屋がX1さん用だったとのこと。愛人云々という話はいつもの冗談のつもりで,そんなつもりではなかったとおっしゃっていました。実際どんな様子であったのか私には分かりかねますが,理事長は大変驚いた様子で心配されていましたので,もしかしたら誤解があったのかとも思い,取り急ぎ連絡しました。いずれにしても心配しているので,また落ち着いたら連絡下さい。」
・原告X1
「分かりました。とりあえず帰国後にまた連絡致します」
カ 他方,被告Y2は,同日午前0時46分から午前2時4分にかけて,原告X1に対し,以下の内容のLINEを送信した。(丙2,被告Y2)
・被告Y2(00:46)
「ホテルは,シングルとツインを取ってるよ!」
・被告Y2(00:48)
「Aを5階の部屋に居てたが,同じフロアーの部屋に変えてもらった。と言ってる。だから,3階のフロアーに2部屋有る。」
・被告Y2(00:50)
「私がAの部屋に行けば良かったのかもしれないが,少しの間だからイイかと思った。」
・被告Y2(00:51)
「言葉もできないし」
・被告Y2
写真(01:25)
写真(01:26)
・被告Y2(01:29)
「今,Aが帰ってきた。隣の333の部屋に入っている。隣同士の部屋ですよ。1部屋しか取ってないと思ったのは,X1の勘違いですよ」
・被告Y2
写真(01:43)
・被告Y2(02:04)
「333の部屋のカギは,フロントに預けておきます」
キ 原告X1は,同日,単身でローマの空港から日本に向けて出国し,日本に帰国した。(原告X1,弁論の全趣旨)
(13) ローマ帰国後の事実経過
ア 原告X1は,原告ら代理人を通じ,平成29年10月5日,被告会社及び被告Y2に対し,被告Y2によるセクハラ行為について主張し,本件マンションにおける就業が不可能であること,被告会社において被告Y2によるセクハラを社内で調査し,再発防止のための措置とともに説明すること,被告Y2及び被告会社の代表取締役から謝罪すること,セクハラのない職場であることが確認されて出社できるまでの間の給与を支払うこと等を求める内容の通知書を送付した。(甲8の1ないし3)
イ これに対し,被告Y2は,同月12日,相談ないし依頼した弁護士を通じ,原告ら代理人に対し,原告X1が誤解をしてローマから帰ってしまったこと,被告Y2の下で働くのが嫌なら□□の本社に戻してもよいこと,謝罪するようなことではないことを伝えた。(弁論の全趣旨)
ウ 原告X1は,ローマ出張からの帰国後,被告会社の業務に従事することなく,同年12月31日,被告会社を退職した。(前記前提事実(5)エ)
2 被告Y2の原告X1に対するセクハラ行為の有無及び違法性(争点1)について
(1) 日常的なセクハラ発言について
ア 原告X1は,被告Y2から,日常的に,「別嬪さんやな」「去年が不細工ばっかりやったから,今年は別嬪を採用せいと甲山Dに言っといたんや」「君,昔,水商売やってたんと違うのか」「別嬪やから世の中なめてるな」等の発言を受けた旨主張し,同旨の陳述及び供述をしている。
イ しかしながら,原告X1は,被告Y2から各発言を受けた日時や場所等について具体的に特定して述べていない。また,原告X1と被告Y2の間のLINEの中に上記発言を窺わせる類似のメッセージは見られず,その他,原告X1の供述等を裏付ける的確な証拠はない。被告Y2が用いられている言葉の不自然さを指摘して上記発言を否定していることも踏まえると,原告X1の上記供述等に十分な信用性を認めることはできない。
この点,原告X1は,被告Y2が以前に女性従業員(J)に対してセクハラに当たる言動を行ったことがあり,被告Y2もこれを自認していたと指摘するが,そのような別の従業員に関する過去の出来事をもって,被告Y2が原告X1に対してもセクハラ発言を行っていたとの推認をすることはできない。
ウ よって,本件証拠上,被告Y2による日常的なセクハラ発言があったとの事実を認定することはできない。
(2) 上海出張における不適切な命令について
ア 原告X1は,上海出張中に訪れた馬の競技場において,被告Y2から相手をするための女性を誘って連れてくるよう命令された旨主張する。そして,この点に関して,原告X1の陳述及び供述のほか,上海出張に同行した証人Cの証言もある。
イ しかしながら,原告X1及び証人Cの供述又は証言について,裏付けとなる客観的な証拠はない。また,原告X1及び証人Cの供述又は証言は,被告Y2から上記命令を受けたという以外,前後の事実経過を含めたその余の内容については具体性の乏しいものにとどまっている。そうすると,原告X1及び証人Cの供述又は証言について,信用性を認めることはできない。
ウ よって,本件証拠上,上海出張中に被告Y2による不適切な命令があったとの事実を認定することはできない。
(3) 本件マンションにおけるマッサージについて
ア 原告X1は,本件マンションでの勤務中に,被告Y2からマッサージを受けるよう命令され,被告Y2の使用する寝室のベッド上で,衣類を脱ぎ着し,素足で肌を露出した状態でベッド上に横たわり,隣のリビングにいた被告Y2から容易に見られる状態で施術を受けることとなった旨主張し,同旨の陳述及び供述をしている。
イ この点,上記1(11)で認定したとおり,①被告Y2が,原告X1に対し,I鍼灸師による施術を受けるよう勧め,原告X1はその施術を受けることとなったこと,②原告X1は,本件マンション内の被告Y2の寝室である和室で,40分ないし50分程度,I鍼灸師の施術を受けたこと,③原告X1は,スーツのジャケットとストッキングを脱いだ上,ベッド上で横になり,シャツを胸の下あたりまで持ち上げた状態で施術を受けたこと,以上の事実が認められる。
しかしながら,I鍼灸師の証言はもとより,原告X1の供述等によっても,原告X1が施術を受けることについて躊躇する様子を見せたり,拒否的な態度を示していながら,被告Y2が施術を受けるよう強く要求したといった事実は認められない。そうすると,被告会社での地位や立場,年齢等の相違等から,原告X1が被告Y2の勧めを断りにくかった面はあるとしても,被告Y2が原告X1に対し施術を受けるよう命令したということまではできない。
また,I鍼灸師は,施術の際には肌の露出を極力避け,露出部分についてはタオルを掛けて覆う等の配慮をしていたのであり,殊更に原告X1に羞恥心をもたらすような方法・態様で施術がなされたとは認められない。この点,原告X1は,和室の入口の襖が開いた状態にあり,隣のリビングにいた被告Y2から見える状態であった旨供述するが,当時の原告X1と被告Y2との関係性(丙2参照)に照らして,被告Y2に入口の襖を閉めるよう依頼することさえ難しい状況であったのかは疑問であるし,原告X1が上記のように述べる一方,被告Y2の動静について明確に述べていないのは些か不自然といわざるを得ない。これらの点に鑑みれば,原告X1の上記供述は直ちに採用することができない。
ウ 以上によれば,本件マンションにおけるマッサージに関して,被告Y2に違法なセクハラ行為と評価すべき言動があったとまでは認められない。
(4) ローマ出張中の言動について
ア タクシー内での発言について
(ア) 原告X1は,平成29年9月21日にローマの空港に到着した後,ローマ市内のホテルに向かう移動中のタクシー内等において,被告Y2から,「どうや,愛人になるか」「君が首を縦に振れば,全部が手に入る。全部,君次第」といった発言を受けたと主張し,同旨の陳述及び供述をしている。
(イ) 上記1(12)オで認定したとおり,原告X1は,同日夜にローマから帰国する際,Dに送信したLINEの中で,ローマに来てから被告Y2による「愛人になれ」等の発言が続いた旨を報告している。また,Dは,原告X1に返信したLINEの中で,「愛人云々という話はいつもの冗談のつもりで,そんなつもりはなかったとおっしゃっていました。」と言及している。これらのLINEには,不自然な点や正確性に疑問を抱かせる点は認められず,原告X1とDが,各々,当時の認識内容を記したものと解される。
(ウ) この点,被告らは,乗っ取り事件や被告Y2を排除するための証拠であるなどと主張してその信用性を否定する。しかし,原告X1が乗っ取り事件に関与していたことを示す的確な証拠は認められない。また,原告X1のLINEには,被告Y2の悪質性を殊更に強調しようとする内容や表現は見られず,DのLINEに至っては,被告Y2の説明を代弁し,原告X1による誤解の可能性を指摘する内容を含んでいる。このことに鑑みれば,原告X1及びDのLINEが,乗っ取り事件や被告Y2の排除に利用するために敢えて作出されたものであるとか,捏造されたものであるとは考えられない。
(エ) そうすると,原告X1の上記供述等は,同日夜の原告X1及びDのLINEの内容と整合し,これらの証拠によって裏付けられているものであり,その内容に一定の具体性・迫真性があることにも鑑みれば,信用性を認めることができる。そして,原告X1の同供述等によれば,被告Y2は,ローマ空港から宿泊予定のローマ市内のホテルへ向かうタクシーでの移動中,原告X1に対し,「どうや,愛人になるか」「君が首を縦に振れば,全部が手に入る。全部,君次第」との発言をした事実が認められる。
(オ) これに対し,被告Y2は,座席の位置関係等のタクシー内の状況から,愛人になれ等の発言をすることはあり得ない旨主張するが,タクシー内には運転手以外に原告X1と被告Y2しかいない状況であり,座席位置が同発言の妨げとなるとは考え難いのであって,被告Y2の主張の論拠は不明である。また,被告Y2は,原告X1がタクシー内の具体的状況を述べていない点やタクシーでの移動時間について実際よりも短い時間を述べている点を問題視しているが,タクシー内の状況や移動時間に関する記憶状況によって,被告Y2の発言に係る供述の信用性が減殺されるものではない。
イ 宿泊予定のホテルでの出来事について
(ア) 次に,原告X1は,到着した宿泊予定のホテルのフロントにおいて,原告X1と被告Y2のための部屋として1部屋しか予約されていなかったため,自分用にもう1部屋予約するよう懇請したが被告Y2に拒絶されたこと,やむなく部屋に移動したところ,被告Y2が原告X1の要請を無視してシャワーを浴びる行動に出たこと,恐怖を感じた原告X1は部屋を出て逃げるように帰国したこと等を主張し,同旨の陳述及び供述をしている。
(イ) 上記1(12)オで認定したとおり,原告X1から送信したLINEには「着いたら1部屋しか予約されてませんでした。私の部屋もう一部屋お願いしましたが,して頂けず,部屋に入るとシャワーを浴びると言い出したので怖くなり出ました。」などと心情を交えた報告がなされており,Dが返信したLINEには,「理事長と話をしましたが,部屋は2部屋あり,A君と理事長が同じ部屋に泊まる予定で,もう1部屋がX1さん用だったとのこと。」などと,原告X1の報告した事実経過を前提としつつ,誤解を指摘する内容が含まれている。これらのLINEについても,上記アと同様,不自然な点や正確性に疑問を抱かせる点は認められず,原告X1とDが,各々,当時の認識内容を記したものと解される。なお,上記アで説示したとおり,これらのLINEが乗っ取り事件や被告Y2の排除に利用するために敢えて作出されたものであるとか,捏造されたものであるとは考えられない。
(ウ) そうすると,原告X1の上記供述等は,同日夜の原告X1及びDのLINEの内容と整合し,これらの証拠によって裏付けられているものであり,その内容に一定の具体性・迫真性があることにも鑑みれば,当時の原告X1の認識を述べたものとして,信用性を認めることができる。そして,原告X1の同供述等によれば,宿泊予定のホテルにおいて,原告X1は,原告X1と被告Y2のための部屋として1部屋しか予約されていないと認識し,自分用の部屋を予約するよう懇請したが被告Y2に拒絶されたこと,やむなく移動した部屋において,被告Y2がシャワーを浴びる行動に出たこと,これに恐怖を感じた原告X1は部屋を出て逃げるように帰国したこと,以上の事実が認められる。
(エ) この点,被告Y2は,ホテルには2部屋が予約されており,Aが先に1部屋を使っていたが,後にAと原告X1が部屋を交代して,被告Y2とAが同じ部屋に宿泊する予定であり,このことは原告X1にも伝えられていたから,1部屋しか予約されていないとの原告X1の認識は誤りである旨主張する。しかし,被告Y2の主張する部屋割りの予定が決められており,そのことが原告X1に伝えられていたと認めるに足りる証拠はない。かえって,被告Y2が,原告X1が部屋を出た後になって,「ホテルは,シングルとツインを取ってるよ!」「私がAの部屋に行けば良かったのかもしれないが,少しの間だからイイかと思った。」「1部屋しか取ってないと思ったのは,X1の勘違いですよ」とのLINEを送信していることからすれば(上記1(12)カ),もともと上記のような部屋割りの予定はなかったか,少なくとも原告X1には伝えられていなかったものと認められる。しかも,原告X1は,前日に被告Y2に尋ねて自分用の部屋が予約済みであることを確認していたのであるから(同(12)イ),チェックイン時になって,入室できる部屋が被告Y2名義で予約された部屋②しかないことを知らされたことにより,1部屋しか予約されていないと認識するのは自然なことであり,原告X1の一方的な思い込みや誤解であるということはできない。
また,被告Y2は,原告X1はホテルのフロントのロビーのソファでAの帰りを待つことができた旨指摘する。しかし,被告Y2が,原告X1に対し,Aが帰るまでロビーのソファで待つことを提案したといった事実は認められず,原告X1が直ちにそのような判断をして行動に移さなければ不合理であるともいえない以上,原告X1が,予約された部屋②への移動を余儀なくされた状況にあったことは変わらないというべきである。
ウ 以上を総合すると,被告Y2が,原告X1に対し,宿泊予定のホテルに向かうタクシー内で,愛人となるよう求める発言を複数回行ったことは,それ自体,セクハラ行為に該当するものである。加えて,被告Y2は,到着したホテルにおいて,別室を希望する原告X1の意向を拒み,一時的であれ同室で過ごすことをやむを得ない状況に置き,更に入室後には早々にシャワーを浴びるという行動に出ているのであり,これらの被告Y2による言動及び対応は,原告X1に対し,意に沿わない性的関係等を要求される危惧を抱かせるものであったと認められる。被告Y2において,このことの認識を持ち得なかった特段の事情がないことも併せ鑑みれば,以上の被告Y2の一連の言動及び対応は,全体として,原告X1に対する違法なセクハラ行為となると評価するのが相当である。
(5) 小括
以上によれば,被告Y2は,ローマ出張中における上記の違法なセクハラ行為につき,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
3 被告Y2のセクハラ行為に係る被告会社の使用者責任又は債務不履行責任の成否(争点2)について
(1) 上記1(1)及び(9)で認定したとおり,被告Y2は,本件当時,被告会社の代表取締役を退いており,役員等の立場にもなかったが,理事長等と呼称されて,被告会社及びそのグループ会社の業務に携わっていたのであり,現に,被告Y2は,原告X1を指揮監督し,被告会社やそのグループ会社に関する秘書業務や営業業務に従事させていたのであるから,被告Y2は,被告会社が事業のために使用する被用者に当たると認めるのが相当である。そして,同(12)アの認定事実によれば,ローマ出張は放射能シェルターの提携先調査等を予定したものであるところ,被告Y2のセクハラ行為は,その業務と密接に関連する同出張における移動中のタクシー及び宿泊予定のホテルでなされており,被告会社の業務の執行につきなされたものと認められる。
(2) したがって,被告会社は,被告Y2による上記セクハラ行為につき,使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償責任を負う(したがって,選択的主張である被告Y2のセクハラ行為に係る職場環境整備義務違反については判断を要しない。)。
4 被告会社の職場環境整備義務違反による債務不履行責任の成否(争点3)について
(1) 上記1(12)オ,カ及び同(13)の認定事実によれば,被告会社は,平成29年9月21日夜ないし同月22日未明に原告X1から報告を受けた時点で,被告Y2によるセクハラ被害を訴えていることを認識していたということができる。そして,原告X1は,帰国後,被告会社に全く出社していない状態であったところ,被告会社は,同年10月5日,原告ら代理人より,被告Y2のセクハラの社内調査や再発防止のための措置の説明等を求める内容の通知書を受けたものである。
しかるに,被告会社が,直接,原告X1の被害申告や対応要請に対応したことを認めるに足りる証拠はなく,被告Y2において,相談ないし依頼した弁護士を通じて,同月12日,原告X1が誤解をしてローマから帰ってしまったこと,被告Y2の下で働くのが嫌なら□□の本社に戻してもよいこと,謝罪するようなことではないことを原告ら代理人に伝えたにとどまり,その後,原告X1は同年12月31日をもって被告会社を退職するに至ったものである。
このような被告会社の対応は,被告Y2によるものを含めたとしても,従業員からセクハラ被害の申告を受けた使用者として甚だ不十分なものであるといわざるを得ない。また,被告Y2の弁護士による対応後,原告X1の退職までには2か月以上の期間があったにもかかわらず,その間にも,被告会社は何らの対応や措置を講じていない。
以上によれば,被告会社は,原告X1からのセクハラ被害申告に対し,使用者として採るべき事実関係の調査や出社確保のための方策を怠ったものとして,原告X1主張の職場環境整備義務に違反したと認めるのが相当である。
(2) これに対し,被告会社は,ハラスメントカード制の導入やセクハラ防止規定によるセクハラ防止策をもって同義務違反を否定するが,いずれも原告X1のセクハラ被害申告を受けての対応や措置に当たるものではなく(上記1(2)ア及びイ),原告X1からのセクハラ被害申告について,被告会社が実際にセクハラ防止規定に沿った対応を行った事実も認められない以上,同主張には理由がない。
また,被告会社は,ローマからの帰国の際,Dは事実関係の確認や経緯の説明を含めて誠実に対応し,原告X1に帰国後に連絡をするよう伝えて,相談を継続的に受けようとしていたこと,しかし,原告X1はその後相談をすることなく一方的に職場に来なくなったことを主張する。しかし,Dは,原告X1からの報告を受けて当座の対応をしたにすぎず,その後,原告X1から連絡がないからといって(なお,原告X1が,平成29年10月5日に,原告代理人らを通じ,被告会社に対して直接,対応を求める通知書を送付していることは上述のとおりである。),被告会社が対応を要しないということにはならない。しかるに,被告会社が事実関係の調査や原告X1の出社を確保するための具体的な対応や措置を講じたことを認めるに足りる証拠はない。よって,同主張にも理由がない。
(3) 以上によれば,被告会社は,原告X1によるセクハラ被害申告後の対応につき,職場環境整備義務違反による債務不履行責任を負う。
5 原告X1の損害及びその額(争点4)について
(1) セクハラ行為による慰謝料及び弁護士費用について
ア 被告Y2によるセクハラ行為は,被告会社での地位や権限,年齢・社会経験等に大きな格差があることを背景に,海外出張先で愛人になるよう求めた上,一時的であれホテルの部屋に同室を余儀なくさせるという態様のものであること,原告X1は逃げるようにして帰国することを余儀なくされ,その後の出社することなく退職に至っており,少なからぬ精神的苦痛を被ったと考えられること,その他本件に顕れた一切の事情を総合的に勘案すれば,被告Y2のセクハラ行為による原告X1の慰謝料として,50万円を認めるのが相当である。
イ そして,上記アの認容額,事案の難易,その他本件に顕れた一切の事情に鑑みれば,原告X1の弁護士費用5万円を相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
(2) 職場環境整備義務違反に係る逸失利益について
ア 原告X1は,被告会社の職場環境整備義務違反による損害に関し,少なくとも被告会社に勤務して得ることのできた一年分の賃金を喪失した旨主張する。
イ しかし,原告X1がローマ出張から帰国してから退職までの間には3か月余りの期間があることに加え(なお,後記6のとおり,原告X1はこの間の賃金請求権を有している。),原告X1の年齢・経歴等も併せ鑑みれば,退職を余儀なくされたこととの間に相当因果関係のある損害は,約定賃金月額30万円の3か月分に相当する90万円の範囲であると認めるのが相当である。
6 不就労期間に係る賃金請求権(民法536条2項)の有無(争点5)について
(1) 上記4で認定説示したとおり,被告会社は,原告X1からのセクハラ被害申告に対し,使用者として採るべき事実関係の調査や出社確保のための方策を怠ったものであり,そのために,原告X1は,退職に至るまでの間,被告会社において就労することができなかったものと認められる。
そうすると,原告X1が被告会社において労務提供ができなかったのは,使用者である被告会社の責めに帰すべき事由によるものであるから,原告X1は,ローマ出張からの帰国以降,平成29年12月31日までの間における不就労期間についても賃金請求権を失わない。
(2) 原告X1は,同期間における未払賃金として,①平成29年10月支給分として,既払額10万4594円を除く19万5406円,②同年11月支給分及び同年12月支給分として各30万円の合計79万5406円を主張しているところ,上記(1)によれば理由があると認められるから,被告会社は,原告X1に対し,これを支払うべき義務がある。
7 被告Y2の原告X2に対するセクハラ行為の有無及び違法性(争点6)について
(1) オランダ出張前日の本件マンションでの宿泊について
ア 原告X2は,オランダ出張前日である平成28年9月19日,被告Y2からの指示命令により,本件マンションに宿泊せざるを得なかった旨主張し,同旨の陳述及び供述をしている。
イ 原告X2が,同日,本件マンションに宿泊したことについては争いがないところ,その理由について,被告Y2は,原告X2がしばしばパニック症状を起こし,電車を途中下車して休息を取ることがあり,翌日の出国に際して同様の事態が起こることを危惧したため,本件マンションでの宿泊を提案したものである旨供述する。そして,証拠(丙3)によれば,原告X2は早朝の電車での移動中に気分が悪くなることがあったこと,被告Y2は,オランダ出張前日である同日,原告X2に対し,「今日,早い目に来させているのは,パニック対策です。」などと送信していることが認められ,これらは被告Y2の上記主張に沿うものといえる。
このことからすると,被告Y2が原告X2を本件マンションに宿泊するよう指示ないし提案したことは,女性従業員である原告X2を自宅に宿泊させるものであり,些か不自然な面があるものの,直ちに,原告X2に対する違法なセクハラ行為であったと評価することは困難である。
(2) オランダ出張前日のマッサージについて
ア 原告X2は,オランダ出張の前日,本件マンションにおいて,被告Y2から鍼灸師によるマッサージ(鍼)を受けるよう命令され,被告Y2の生活領域にあるリビングで,同室のソファに座っていた被告Y2と,肌が露出しているのを見られるほど近接した状態で施術を受けることとなった旨主張し,同旨の陳述及び供述をしている。
イ この点,上記1(5)ウで認定したとおり,①被告Y2が,本件マンションを訪れた原告X2に対し,I鍼灸師による施術を受けるよう勧め,原告X2はその施術を受けることとなったこと,②原告X2は,本件マンション内のリビングにおいて,40分ないし50分程度,I鍼灸師の施術を受けたこと,③原告X2は,施術の際,衣類をまくることがあったこと,以上の事実が認められる。
しかしながら,I鍼灸師の証言はもとより,原告X2の供述等によっても,原告X2が施術を受けることについて躊躇する様子を見せたり,拒否的な態度を示していながら,被告Y2が施術を受けるよう強く要求したといった事実は認められない。そうすると,先述した原告X1と同様に,被告会社での地位や立場,年齢等の相違等から,原告X2が被告Y2の勧めを断りにくかった面はあるとしても,被告Y2が原告X2に対し施術を受けるよう命令したということまではできない。
また,I鍼灸師は,施術の際には肌の露出を極力避け,露出部分についてはタオルを掛けて覆う等の配慮をしていたのであり,殊更に原告X1に羞恥心をもたらすような方法・態様で施術がなされたとは認められない。この点,原告X2は,施術の間,被告Y2がリビングのソファに座っており,肌が露出しているのを見られるほど近接した状態であった旨供述するが,I鍼灸師は,被告Y2がリビング内にはおらず,リビングに入る音を聞いたり,多少うろうろしている気配を感じたことはあったが,原告X2のすぐ近くに来ることはなかったと証言しており,I鍼灸師にとって被告Y2が顧客であることを踏まえても,被告Y2が原告X2の近接した位置にいる状態で施術を行っていたとは直ちに考え難い。また,原告X2は,上記にように述べる一方,現に被告Y2に施術中の様子を見られていたのか否かについては明確に述べておらず,この点は些か不自然といわざるを得ない。これらの点に鑑みれば,原告X2の上記供述は直ちに採用することができない。
ウ 以上によれば,オランダ出張前日の本件マンションでのマッサージに関して,被告Y2による違法なセクハラ行為があったとまでは認められない。
(3) オランダ出張前日の同じベッドで寝ることの強要等について
ア 原告X2は,被告Y2から,同日の夜,原告X2に対し,被告Y2と同じベッドで寝るよう命じられたこと,原告X2が泣き出すと,「だからお前は,ワーカーやねん!俺の言うことが何でわからんのか!」などと大声で怒鳴られたため,精神的に混乱し,渋々,被告Y2と同じベッドで寝るほかなかったこと,ベッドに入ると,被告Y2から身体を触られたこと等を主張し,同旨の陳述及び供述をする。
イ しかし,原告X2の上記供述等を裏付ける的確な証拠はない。また,同供述は,被告Y2から受けた身体的な接触の内容も明らかでないなど,具体性が乏しいものといわざるを得ない。加えて,原告X2の述べる出来事は,被告Y2との関わり方や信頼関係に大きく影響しかねない重大事であると考えられるが,その後の原告X2と被告Y2との間のLINEにおいて,このことをはっきりと窺わせるやりとりは認められない。これらの点に照らすと,原告X2の上記供述等について,十分な信用性を認めることは困難であるといわざるを得ない。
ウ 以上によれば,オランダ出張前日に同じベッドで寝ることを強要された等の原告X2主張の事実を認定することはできない。
(4) オランダ出張中における同室の指示・命令等について
ア 原告X2は,オランダ出張中,①平成28年9月22日,到着後に滞在先ホテルの自室で休んでいたところ,被告Y2から電話で「自分の部屋に来るように」と命じられたこと,②翌日の同月23日の夕食後にも,被告Y2から電話で「自分の部屋にこれから来るように」と命じられたこと,③その後も,被告Y2から,何度か「部屋に来るように」との連絡を受けたこと等を主張し,同旨の陳述をしている。
イ この点,原告X2は,本人尋問において,〈ア〉同月21日午後2時54分(但し日本時間。以下,本項において同じ。)と〈イ〉同月24日午後9時27分及び午後9時39分に,LINEの電話で被告Y2から自室への呼出があったこと,〈ウ〉同月26日午後1時59分のLINEは被告Y2からの呼出に対して寝たふりをして次の日に連絡をしたものであること,〈エ〉LINEの文字で送られた呼出については証拠(丙3)から削除されていることを供述している。
しかしながら,原告X2の〈ア〉ないし〈ウ〉の供述は,日時や時間帯の点で陳述内容とは一致していない。加えて,上記1(6)イで認定したところによれば,〈ア〉同月21日の電話は,前後のLINEの内容に照らし,ホテルからの出発時の待ち合わせの際の連絡であると解されること,〈イ〉同月24日はそもそも原告X2が電話に出ていないこと,〈ウ〉同月26日のLINEは,被告Y2から一階のレストランへの呼出を受けての返答であり,自室へ呼び出されたものではないことなど,原告X2の主張及び陳述と整合しない。
以上の諸点に鑑みれば,原告X2の陳述及び供述には,信用性を認めることができず,その他,原告X2の主張を認めるに足りる証拠はない。
ウ 以上によれば,オランダ出張中における同室の指示・命令等の原告X2主張の事実を認定することはできない。また仮に,原告X2が,被告Y2からのそのような呼出の連絡を受けたことがあったとしても,それが業務上の打合せ等のためのものであった可能性も否定できない。
エ なお,原告X2は,オランダ出張以前より,被告Y2から,2度,宿泊するホテルに来るよう巧妙に指示されたとも主張し,証拠(丙3)上,関連が窺われるLINEのやりとりが見られるものの,その目的や前後の経過について具体的に認定できるだけの証拠はなく,直ちに被告Y2によるセクハラ行為であるとは認められず,また,オランダ出張中の同室の指示・命令等の事実を推認させる事実であるとも認められない。
(5) 小括
以上によれば,その余の点(争点7及び同8)について判断するまでもなく,原告X2の被告Y2によるセクハラ行為を理由とする被告らに対する損害賠償請求には,理由がない。
8 雇用契約の合意解約の成否(争点9)について
(1) 被告会社は,原告X2と被告会社は,平成28年9月28日をもって雇用契約を合意解約し,これにより雇用契約が終了した旨主張する。
(2) しかしながら,上記1(7)ア及びイで認定したとおり,オランダ帰国日の平成28年9月28日の原告X2と被告Y2との間のLINEのやりとりにおいて,原告X2が退職に納得していた様子はなく,その後のLINEのやりとり(同月29日,同年10月6日)を含めても,原告X2が明確に退職の意思表示をしたとは認められず,他に,退職の意思表示があったことを認めるに足りる証拠はない。
むしろ,同月28日のLINEにおいて,被告Y2は,原告X2に退職するよう求め,退職しない場合には同日付けで解雇する旨を明言しているところ,原告X2が解雇予告手当に言及しているのは,退職を受け容れる意思はなく,同日付けで被告会社により解雇されることを前提とした対応であると解するのが合理的である。そして,その後,被告会社は,原告X2に対し,同日付けの解雇を前提とした同年10月25日付け解雇予告手当支払通知書を交付し,これに沿った解雇予告手当の支払をしているのであり(同(7)ウ),このことも併せ鑑みれば,被告会社は,原告X2に対し,同年9月28日付けでの解雇の意思表示をしたものと認められる。
したがって,原告X2が,オランダ出張からの帰国後,被告会社を退職することについては納得しており,原告X2が金銭的な解決を希望したため,被告会社が解雇予告手当金の名目で30万円を支払い,双方合意の上で雇用契約を終了させることになった旨の被告会社の主張は,採用できない。
(3) 以上によれば,原告X2と被告会社は,平成28年9月28日をもって雇用契約を合意解約し,これにより雇用契約が終了したとの被告会社の主張には,理由がない。
9 解雇の有効性(争点10)について
(1) 被告会社は,原告X2は,被告Y2に対して,反抗的な態度を繰り返し,被告Y2の指導によっても改善が見られないために解雇したものであり,これは,就業規則上の解雇事由である「従業員が,身体または精神の障害により,業務に耐えられないと認められる場合」(40条2号)又は「その他,前各号に準ずるやむを得ない事由がある場合」(同条7号)に該当し,客観的に合理的な理由もあるから,解雇は有効である旨主張する。
(2)ア 被告会社は,解雇事由に該当する具体的出来事として,まず,①原告X2が,ワーカーではなくマネージャーとして活躍したいという思いで被告Y2と一緒に仕事をすることを決心していたが,被告Y2の指導に対して,議論をすり替え,被告Y2がワーカーを馬鹿にしているかのような表現をしていると批判し,反抗的な態度を取り始めた点を主張する。
しかし,証拠(丙3)に表れた原告X2と被告Y2との間のやりとりを踏まえると,被告会社の主張は,要するに,原告X2が被告Y2の指導に対して反対意見を述べた点を捉えているに過ぎず,このことをもって,原告X2が「身体または精神の障害により,業務に耐えられないと認められる場合」又はこれに「準ずるやむ得ない事由がある場合」に当たると解する余地はない。
イ 次に,被告会社は,原告X2が,オランダ出張前日,本件マンションに午後1時10分に到着すると言いながら,遅刻し,午後3時にやってきたこと,その理由が,少し調べたいことがあるが,自宅にコピー機がないので時間がかかる,知人から頼まれたお土産を購入するためにユーロに変更したいというものであったことを主張する。
しかし,証拠(丙3)によれば,原告X2は被告Y2に対して遅れる理由を説明していること,被告Y2は原告X2が電車移動時に体調不良になるなどして遅れることについては従前より許容していたことからすれば,このことをもって,原告X2が「身体または精神の障害により,業務に耐えられないと認められる場合」又はこれに「準ずるやむ得ない事由がある場合」に当たると解する余地はない。
ウ さらに,被告会社は,被告Y2は原告X2に対して新規事業のマネージャーとして職務遂行を期待しており,自ら考えて自ら行動することを求めており,オランダ出張中も被告Y2のそのような姿勢を見て学んでほしいと思っていたが,平成28年9月26日,被告X2は被告Y2に対し,「仕事に同行する必要がありますか?」との質問をしたこと,これに対して被告Y2が自分で考え自分で判断するよう指示したところ,原告X2は突然激高し,必死に考えても結局否定しかされない,被告Y2の思い通りにしかならず,結局,自分が必要ない,被告Y2と同じ考えにはなりたいとは思わない,違う意見があるから良い提案が生まれるとの言い訳を行い,あからさまに反抗する態度を示したこと,自分で考えてほしいという被告Y2の言葉を逆手にとって,自分で考えて,同行すべき会議等にも同行しないと言い出し,業務を放棄したことを主張する。
しかし,かかる原告X2の対応は,被告Y2の不明確な指示ないし対応が契機となったとみられるものであり(上記1(6)イ(ウ)),その後に反抗的な態度を示したとしても,原告X2にのみ責められるべき点があるとは認め難いから,このことをもって,原告X2が「身体または精神の障害により,業務に耐えられないと認められる場合」又はこれに「準ずるやむ得ない事由がある場合」に当たると解することはできない。
エ 加えて,被告会社は,原告X2は,オランダ出張からの帰国直後である同月28日,被告Y2に対し,「明日と明後日はどちらに出勤ですか?」と質問し,自分で考え,自分で行動するという考え方とは正反対の行動を取ったこと,被告Y2は,自ら退職した方が良いのではないかと伝え,「しっかりしていて役に立つと思ったが,残念です」と伝えたところ,原告X2は「役に立つと思っておられる考え方自体が,私には合わないと思います」と更に反抗的な態度を繰り返したことを主張する。
しかし,原告X2の上記質問には何ら問題があるとは解されず,また,その後の態度に反抗的な点があるとしても,先の被告Y2による退職要求等を受けてのものであり,やむを得ない面があるというべきであるから,原告X2が「身体または精神の障害により,業務に耐えられないと認められる場合」又はこれに「準ずるやむ得ない事由がある場合」に当たると解することはできない。
オ 以上によれば,被告会社が解雇事由として主張する各点は,いずれも就業規則上の解雇事由に該当せず,また,解雇に客観的に合理的な理由があるとも到底認められない。
(3) よって,被告会社による原告X2に対する解雇の意思表示は,解雇権を濫用したものとして,無効である。
なお,被告会社は,原告X2が直ちに異議を述べなかったにもかかわらず,本件で解雇無効の主張をすることは,原告X1の訴訟に便乗した不当な蒸し返しであり,信義誠実の原則に反するものであるとも主張するが,解雇無効を主張するまでに時間的隔たりがあることや,原告X1とともに提訴した本件訴訟において解雇無効の主張をするようになったことをもって,直ちに信義誠実の原則に反するものとはいえず,同主張には理由がない。
10 原告X2の就労意思・能力の喪失の有無,中間収入の控除(争点11)について
(1) 就労意思・能力の喪失の主張について
ア 被告会社は,原告X2は,平成28年9月28日に退職を勧告されて以降,被告会社で働く気持ちを持っておらず,被告での労務提供の意思を喪失している旨主張する。
イ しかし,上記1(6)イ(ウ)及び同(7)で認定したとおり,①オランダ出張からの帰国日である平成28年9月28日,原告X2は,被告Y2に対し,「明日と明後日はどちらに出勤ですか?」と尋ねて,就労を前提とする行動をとっていること,②その後,原告X2は被告会社に出社せず,また,出社の意向を伝えていないが,これは被告会社による無効な解雇が原因であり,被告Y2とのLINEに照らしても,原告X2自身,解雇を不当なものであると感じていたことは明らかであること,③原告X2は解雇から約1か月後の同年11月1日から他社に正社員として就職し勤務しているが,被告会社による解雇を受けて収入の途を失ったためのやむを得ない措置であったとみられること,以上の点に照らせば,原告X2が,解雇の時点において,被告会社における就労の意思を喪失していたとは認められない。
なお,被告会社は,原告X2が本人尋問において,解雇されてからは被告会社に戻ってまた働く気持はないと述べていることを指摘するが,上記①及び②の点に照らせば,これをその言葉どおりに解することはできず,被告会社の主張は採用できない。
ウ そして,原告X2は,上述のとおり平成28年11月1日に再就職して以降,計3社で正社員として勤務を行っているが,被告会社への復職を妨げる事情があるとまでは認められないこと,上記3社における賃金額は被告会社との雇用契約に基づく賃金額の約60%ないし66%にとどまっていることからすれば,原告X2において,その後,被告会社における就労意思・能力を失うに至ったものとも認められない。
これに対し,被告会社は,本件訴訟が乗っ取り事件の一環としてなされたものであると主張するが,原告X2と同事件との関わりを具体的に示す証拠があるとは認められず,また,原告X2の被告会社における就労意思の有無と必然的に結びつくものとも認められない。被告会社によるその余の主張についても,上記説示した諸点に照らせば,原告X2の就労意思の喪失を認めるに足りるものではない。
エ 以上によれば,原告X2が被告会社における就労の意思・能力を喪失したとの被告会社の主張は採用できない。
(2) 中間収入の控除について
ア 上記8ないし同10において認定説示したところによれば,原告X2は,被告会社における雇用契約上の地位を失っておらず,また,被告会社において就労できなかったのは,無効な解雇によるものであるから,同解雇以降,本判決確定の日までの間における各月の賃金請求権を有している。
イ この点,被告会社は,この間に原告X2が得た中間収入を控除すべき旨を主張するところ,使用者の責めに帰すべき事由により解雇された労働者が解雇期間中に他の職について給与収入(中間収入)を得たときは,使用者は,当該労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり中間収入の額を賃金額から控除することができる(民法536条2項後段)。但し,労基法26条の趣旨からすれば,賃金額のうち労基法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当である(最高裁昭和37年7月20日第二小法廷判決・民集16巻8号1656頁,最高裁昭和62年4月2日第一小法廷判決・裁判集民事150号527頁)。
上記1(8)の認定事実によれば,原告X2は,平成28年11月1日以降,被告会社以外の雇用主の下で就労し,同月から令和元年10月までの間に,別紙「中間収入」欄記載のとおり給与収入を得たことが認められる。そして,前記前提事実(2)によれば,原告X2の賃金額は26万8924円(なお,平成28年10月については既払分を除く19万4223円[前記前提事実(4)キ])であるところ,対応する中間収入を平均賃金の4割の限度で控除すると,平成28年10月から令和元年10月までの間について,原告X2が被告会社に対し請求できる賃金額は,別紙「未払賃金額」欄記載のとおりとなる。
ウ なお,原告X2は,被告会社による中間収入の控除の主張が時機に後れた攻撃防御方法の提出である旨の主張をするが,本件訴訟の審理経過及び上記主張の性質に照らし,採用の限りでない。
11 結論
以上のとおり,原告らの請求は,それぞれ,主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第5民事部
(裁判官 大和隆之)
〈以下省略〉
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