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裁判年月日 平成29年 3月28日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)8326号・平27(ワ)1191号
事件名 地位確認等請求事件(第一事件)、損害賠償請求事件(第二事件)
裁判結果 一部認容、一部棄却(第一事件)、一部認容、一部棄却(第二事件) 文献番号 2017WLJPCA03288001
平成26年(ワ)第8326号 地位確認等請求事件(第一事件)
平成27年(ワ)第1191号 損害賠償請求事件(第二事件)
奈良市〈以下省略〉
第一事件原告兼第二事件被告(以下「原告A」という。) A
同訴訟代理人弁護士 大前治
同 佐藤真理
同 冨島淳
同 吉村友香
名古屋市〈以下省略〉
第一事件被告兼第二事件原告(以下「被告会社」という。) 株式会社a
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 大津千明
同 近藤圭悟
大阪市〈以下省略〉
第二事件被告(以下「被告C」という。) C
主文
1 被告会社は,原告Aに対し,580万2232円及び別紙1「金額」欄記載の各金員に対する「支払日」欄記載の日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告Aは,被告会社に対し,579万6032円及びこれに対する平成27年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告A及び被告Cは,被告会社に対し,連帯して,122万9300円及びこれに対する平成27年2月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告Aのその余の請求及び被告会社のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,第一事件,第二事件を通じてこれを100分し,その31を被告会社の負担とし,その5を被告Cの負担とし,その余を原告Aの負担とする。
6 この判決は,1項ないし3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 第一事件
(1) 原告Aが,被告会社に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
(2) 被告会社は,原告Aに対し,平成26年8月から本判決確定の日まで毎月25日限り30万5900円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 第二事件
(1) 原告Aは,被告会社に対し,959万8643円及びこれに対する平成27年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 原告A及び被告Cは,被告会社に対し,連帯して126万9300円及びこれに対する平成27年2月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
第一事件は,被告会社の従業員であった原告Aが,解雇が無効であるとして,雇用契約上の地位確認を求めるとともに,解雇後の賃金の支払を求める事案である。
第二事件は,原告Aが赤字受注及び隠ぺい工作を行ったことで損害を被った,原告Aと被告Cが共同して架空請求取引を行ったとして,不法行為又は債務不履行に基づき,損害賠償を求める事案である。
1 前提事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認めることができる。)
(1) 当事者
ア 被告会社は,印刷に関する事業等を業とする株式会社である(甲2)。被告会社は,名古屋市に本社を置き,東京都,大阪市,愛知県清須市に営業所を,同市及び愛知県小牧市に工場を設けている(甲24)。
イ 原告A(昭和45年○月○日生)は,平成20年2月1日,被告会社に就職し,大阪営業所営業部に配属された。原告Aの担当業務は営業であり,平成24年からは大阪営業所のリーダーとして勤務していた。
ウ 被告C(昭和34年○月○日生)は,平成7年6月からb株式会社(以下「b社」という。)に勤務していた。
被告Cの妻はc社(平成28年に法人化)の代表者であったが,それは名目上の代表者であり,実際は,被告Cがc社の業務を行っていた。
(以上につき,被告C尋問調書1,7頁)
(2) 原告Aと被告会社の雇用契約
原告Aと被告会社は,平成20年2月1日,期間の定めのない雇用契約を締結し,後記(3)の解雇時における賃金は,基本給が月額22万円,職能手当が月額8万5900円,支払日が毎月20日締め当月25日払い,勤務時間が午前9時から午後6時(うち90分は休憩)であった。
(3) 懲戒解雇
被告会社は,平成26年7月28日付けで,就業規則33条2項3号,6号(12条④),7号に該当するとして,原告Aを懲戒解雇した(以下「本件懲戒解雇」という。)。
(4) 普通解雇
被告会社は,予備的に,平成28年1月20日の第9回弁論準備手続において陳述した準備書面において,予備的に,原告Aを平成26年7月28日付けでの解雇予告による解雇ないし同日付けで解雇する旨の意思表示をした(以下「本件普通解雇」という。)。
(5) 原告の疾病
原告Aは,平成26年6月17日,吉富クリニックを受診し,うつ病との診断を受け,休職した。
(6) 就業規則
被告会社の就業規則には以下の定めがある(甲3。なお,用字は原文のままとした。)。
・第12条(遵守事項)
従業員は,次の事項を守らなければならない。
①ないし③ (略)
④ 会社の名誉又は信用を傷つける行為をしない事
⑤ないし⑦ (略)
・第27条(普通解雇)
1項 従業員が次のいずれかに該当するときには,解雇するものとする。
1号 勤務成績または業務能率が著しく不良,その他従業員として不適格である場合
2号 精神又は身体に障害があり,業務に耐えられないと認められる場合
3号 事業の縮小その他事業運営上やむをえない事情により,従業員の減員等が必要な場合
4号 その他前号に順ずるやむをえない事情が生じた場合
2項 前項の規定により解雇を行う場合は,少なくとも30日以内に従業員にその旨を予告するか,または平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う。ただし,労働基準監督署の承認があった場合,または次の各号に該当する時には,この限りでない。
1号ないし3号 (略)
・第33条(懲戒事由)
1項 (略)
2項 従業員が,次のいずれかに該当するときは,懲戒解雇とする。
ただし,情況により減給,出勤停止又は降格とすることがある。
1号及び2号 (略)
3号 故意または重大な過失により会社に損害を与えたとき
4号及び5号 (略)
6号 服務規程遵守事項(第12条)に違反した重大な行為があったとき
7号 その他全各号に準ずる重大な行為があったとき
2 争点
本件の主な争点は,①就業規則が周知されていたか(争点1),②原告Aに懲戒事由に該当する架空発注があるか(争点2),③本件懲戒解雇が解雇権の濫用に当たるか(争点3),④本件懲戒解雇に適正手続違反があるか(争点4),⑤本件普通解雇が解雇権の濫用に当たるか(争点5),⑥本件懲戒解雇又は本件普通解雇が労基法19条1項に反するか(争点6),⑦損害額(争点7)である。
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1(就業規則が周知されていたか)について
(被告会社の主張)
ア 被告会社では,就業規則は本社に備え置いてあり,被告会社の従業員であれば,就業規則を管理する総務担当者に連絡をすれば,いつでも内容を確認することができる状態になっていた。
イ 被告会社は,従業員に対し,名古屋本社に就業規則が備え置かれている旨の説明をしており,実際に総務担当者は,従業員から就業規則に関する問い合わせを受けている。原告Aも有給休暇申請時には,就業規則に記載されたとおり,申請書を被告会社に提出し,時季を指定しており,就業規則については認識しているはずである。
ウ 従業員が,常識的に明らかに許されない不正行為を意図的に繰り返していた場合にも,就業規則の有無やその合理性の程度,その周知の程度,手続の適正さの程度等の要素を考慮の上,企業が懲戒解雇をすることができないという結論は,極めて不合理である。判例上,従業員を懲戒解雇するためには,就業規則の合理性,手続の適正さ等が要求されている。しかし,これらの判例の保護の対象は,飽くまでも通常の一般的な従業員を念頭に置いており,常識的に許されないことが明らかな不正行為を意図的に繰り返すような従業員は,念頭に置かれていないと考えられる。労働契約法15条に照らせば,少なくとも,常識的に明らかに許されない不正行為を意図的に繰り返す従業員を懲戒解雇する場合には,就業規則の合理性の程度,周知の程度,手続の適正さの程度等は,弱いもので足りると考えられる。
本件懲戒解雇は,原告Aが行った業務上の不正行為とその隠ぺい工作を理由とするものであり,労働契約法15条,16条にいう解雇が客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当と認められる場合であるので,仮に就業規則の周知性に問題があったとしても,本件懲戒解雇は有効というべきである。
(原告Aの主張)
労働基準法施行規則52条の2は,就業規則を「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付ける」などの方法により周知するよう求めているのであって,名古屋の本社に備え置いたからといって大阪営業所の労働者に「周知」されたとは到底認められない。また,原告Aら大阪営業所の労働者は,本社に就業規則が備え置かれているという説明を受けたことはなく,総務担当者に連絡をすれば内容を確認できるという説明を受けたことなど一度もない。
(2) 争点2(原告Aに懲戒事由に該当する架空発注があるか)について
(被告会社の主張)
ア 総論
(ア) 従業員が,会社に無断で架空発注等を行って,会社に代金を支払わせることにより,外注先である他者の赤字を補てんすることが,どうして会社の利益になるのか疑問である。
(イ) 通常の従業員であれば,会社のためを考えるのであれば,まずはミス等を会社に報告し,相談や指示を仰ぎながら,損失等ができる限り少なくなるように適切に対処するはずである。もとより,売上伝票や請求書等の書類は,実際の事実どおりに記載し,これらの書類に架空や虚偽の記載をしないことは当然のことである。架空の仕事の請求書や金額を偽った請求書等を作成すること等は,会社の営業面,経理面又は税務面等の全般に混乱をもたらすものであり,たとえ目的が会社のためであっても許されないことである。
(ウ) 従業員が,外注先と良好な関係を維持するために,自分だけの判断で,見積りも取らずに赤字の仕事を受注し,取引先に依頼して売上伝票・請求書等に虚偽記載をする等の行為は許されるものではない。また,このような行為で構築された取引先との関係が,被告会社にとって良好なものであるはずはなく,被告会社の利益につながるとも考えられない。
(エ) 良好な取引先を確保しておくこと自体は重要であるが,そのために,外注仕入先の赤字補てんをすることは通常あり得ないことであり,まして,何度も外注仕入先の赤字補てんをすることが不可欠であるとは到底いえない。また,仮に,特別な事情により外注仕入先の赤字補てんをする必要が生じたと仮定しても,それは会社としてすべきことであり,原告個人が勝手にやるべきことではなく,原告Aとしては,まず,会社に対し,事実を報告して了解をとるべきであった。
(オ) 原告A自身も,平成26年4月24日,d社に出向いた際に,「このことが会社にばれたらくびになってしまう。お金については自分が全額払うので,会社には知らせないでほしい」等と発言し,土下座をして懇願し,念書まで提出しており,必死に自分の不正行為を隠ぺいしようと多額の金銭を自腹で支払っていたものである。したがって,原告A自身も,自分の不正行為が常識的に許されないことや,会社を解雇されるような不正行為であることは,十分に認識した上で,不正行為を繰り返していたものである。
(カ) 原告Aは,平成26年6月14日の面談時には,それ以前と同様に,伝票操作,改ざん,取引先に口止めに行ったことなど,自分が行った隠ぺい工作やその非を認めていた。
イ 各論
(ア) 事例①について
a 原告Aは,平成26年2月24日,k協会兵庫支部から案件を赤字受注した。
通常であれば,原告Aは,売上額38万8568円と外注仕入額52万3912円を併記した伝票1通を作成しなければならないはずであった。しかし,原告Aが実際に作成した伝票は,伝票1と成果物の存在しない架空案件である伝票1(2)の2通であり,このように伝票を分割し,金額や外注仕入先を偽ることで,赤字受注が伝票からは発覚しないようにした。また,伝票1(2)を作成することにより,被告会社から,外注仕入先に対し,伝票1だけでは支払われない残りの外注仕入額16万3000円が支払われるように操作した。
b 原告Aの主張どおり,e社に非があるのであれば,被告会社が,何も非がない原告Aを叱責するはずはない。原告Aは,被告会社に対し,e社の非を速やかに報告するべきであり,その後は被告会社とe社との会社同士で対応を協議する問題である。原告A個人が会社に無断で対応するような問題ではない。ところが,当時,原告Aは,被告会社に対し,そのような報告をしなかったし,今になってe社の非を主張し始めており,後で考えた言い逃れと考えられる。
c いうまでもないことであるが,営業担当者は,社内売上伝票に,当該案件ごとの売上,入金,外注仕入額等を正しく計上する必要がある。他の案件での入金を,本案件の入金にすりかえて,伝票の金額を操作すること自体が絶対に許されないことである。
また,当然のことであるが,他の案件による顧客からの入金は,当該案件の入金だけであり,顧客がそれ以上の入金をすることはない。したがって,他の案件でのf社からの入金を本案件の入金にすりかえたとしても,そのままでは損失は残り続けるため,形式上損失を取り戻したようにごまかしただけのことである。原告Aが主張する行為は,正に隠ぺい工作であり許されない。
(イ) 事例②について
a 原告Aは,平成26年3月7日に納品したg社からの「首都高速道路の料金に関する広報パンフレット」についての案件を赤字受注した。
通常であれば,原告Aは,売上額100万円と外注仕入額125万9139円を併記した伝票1通を作成しなければならないはずであった。しかし,原告Aは,予定外の入金により損失を埋め合わせるために,売上伝票を作成しなかった。売上伝票がないと,被告会社は,顧客に対して請求書を発行できないが,原告Aは,被告会社に無断で金額100万円の請求書を発行した。他方で,被告会社から外注仕入先に対して外注仕入額が支払われるようにするために,外注仕入先が被告会社へ発行する請求書等に,虚偽の案件で125万9139円を請求させるように操作した。
b 本案件に関する伝票は本社に届いていないし,そのような伝票は被告会社には存在しない。また,常識的に考えても,原告Aが主張するような本案件の伝票は25万円以上の赤字受注案件の伝票ということになるが,そのような伝票が本社に届いたとすれば,経理担当者をはじめ,被告会社が見逃すわけがない。
c 当初の見積提示額から大幅に金額を上げること自体,仕様の変更でもなければ常識では考えられないことであるが,原告Aの主張からは,その理由が明らかではないし,当時,原告Aからは,b社の非の報告もなかった。
d 被告会社では,東京営業所,大阪営業所,名古屋本社を問わず,営業担当者から社内売上伝票が計上されれば,それに応じて請求書の発行を行っており,大阪営業所だけが遅れるというようなことはない。
また,請求書の所長印は,原告Aにおいて無断で押印したものである。
e 原告Aは,100万円で本案件を受注し,成果物を125万9139円で製造し,顧客に納品することで顧客から100万円の入金を得るが,この案件を社内売上計上しなかった。原告Aから本案件について報告がない以上,被告会社は,本案件を認識,把握することができないが,顧客から100万円の入金だけはある。この100万円の入金について,原告Aが自ら主張するように,他の案件での入金であると偽り,形式上損失を取り戻したかのような操作をしていた。
(ウ) 事例③について
a 原告Aは,平成26年3月25日に納品したg社からの「r社A4巻3折ETC障害者割引の有効期限更新について」の案件を赤字受注した。
通常であれば,原告Aは,売上額19万2500円と外注仕入額41万円を併記した伝票を1通作成しなければならないはずであった。しかし,原告Aは,売上伝票を作成しなかった。売上伝票がないと,被告会社は,顧客に対して請求書を発行できないが,原告Aは,被告会社に無断で金額19万2500円の請求書を発行した。他方で,被告会社から外注仕入先に対して外注仕入額が支払われるようにするために,外注仕入先が被告会社へ発行する請求書等に,虚偽の案件で41万円を請求させるように操作した。
b 当時,原告Aは,被告会社に対し,b社の非を報告しなかったし,本案件の社内売上伝票を作成しなかった。
c 他の案件の入金を本案件の入金することこそが隠ぺい工作であり,許されないことは,前記(ア)cのとおりである。
(エ) 事例④について
a 原告Aは,平成26年1月15日,g社から「中日本高速冬道走行気をつけてガイド」についての案件を赤字受注した。
通常であれば,原告Aは,売上額105万円と外注仕入額130万7035円を併記した伝票1通を作成しなければならなかった。しかし,原告Aは,伝票28では売上額を145万5000円と偽って記載して,社内処理をしようとした。伝票28が計上された場合,本社において,顧客に対する請求金額145万5000円の請求書を発行し,担当者である原告Aに送付し,原告Aが,顧客に対し,当該請求書を送付することになる。ところが,原告Aは,本社から送付された請求書を隠匿し,これとは別の請求金額を105万円とする請求書を無断で発行し,顧客に対して105万円の請求をして,同額の入金をさせた。
b 当時,原告Aは,被告会社に対し,顧客や外注仕入先の非を報告しなかったどころか,伝票を操作,改ざん等して隠ぺいを図り,赤字受注の事実報告を先延ばしにした。
c 原告Aの行為により,被告会社の経理処理や後任の担当者等に混乱が及ぶことは容易に予見でき,実際に混乱が生じている以上,原告Aの行為が被告会社の利益にはつながらないことは明らかである。また,顧客や外注仕入先も,原告Aから強引に頼まれて,被告会社への請求書等に虚偽の案件名,金額を記載しなければならず,手間や混乱が及ぶことは明らかである。結局,原告Aは,自分のミス等が被告会社に発覚することを防ぐこと,従業員としての立場を確保すること等,原告の利益のために行ったと考えるのが自然である。
(オ) 事例⑤について
a 原告Aは,平成26年3月3日,g社から「首都高速道路の料金に関する広報チラシ」についての案件を赤字受注した。
通常であれば,原告Aは,売上額137万円と外注仕入額181万7186円を併記した伝票を作成しなければならないはずであった。しかし,原告Aは,伝票29,29(2),29(3)の3通を作成し,3件合計の売上額を196万8408円と偽って社内処理しようとした。伝票29,29(2),29(3)が計上された場合,本社において,顧客に対する請求書を発行し,担当者である原告Aに送付し,原告Aが,顧客に対し,当該請求書を送付することになる。ところが,原告Aは,本社から送付された請求書を隠匿し,これとは別の請求金額を137万円とする請求書を無断で発行し,顧客に対し,137万円の請求をして,同額の入金をさせた。
b 入金のすりかえが許されないことは前記(ア),cと同様である。
(カ) 事例⑥について
a 原告Aは,平成26年4月2日,f社から「h社会社案内」についての案件を赤字受注した。
通常であれば,原告Aは,売上額12万円と外注仕入額12万2590円を併記した伝票1通を作成しなければならないはずであった。しかし,原告Aは,伝票30では売上額を15万2000円と偽って社内処理をしようとした。また,この件は,原告Aの校正ミスで刷り直しになったにもかかわらず,原告Aは,あたかも増刷になったかのように装うため,伝票30(2)を作成し,売上額12万5800円,外注仕入額9万5589円として社内処理をしようとした。ところが,増刷ではなく,原告Aのミスによる刷り直しのため,顧客からの入金はなかった。
b 当時,原告Aは,被告会社に対し,顧客等の非を報告しなかった。実際には,原告Aに非があったため,被告会社に報告できず,伝票操作,改ざん等をして隠ぺいを図ったものと考えられる。
(キ) 事例⑦について
a 原告Aは,d社に対し,平成26年2月7日から同年3月30日までに納品された10案件について,被告会社への外注仕入額の請求を保留するよう要求していた。これにより,原告Aは,成果物自体は製造し,顧客に納品することで顧客からの入金を得ていた。しかし,原告Aは,売上伝票を作成せず,社内計上しないことで予定外の入金を不正に作出し,原告が生じさせた他の案件での損失を形式上埋め合わすごまかしをしていた。また,原告Aは,d社に対して支払うべき外注仕入額の請求を保留してもらうことで,被告会社への発覚を防ぎ,隠ぺい工作を行った。
d社の保留金額が大きくなってきたため,d社が,原告に対し,これらの隠ぺい工作を被告会社に報告すると告げると,原告Aは,平成26年4月24日,d社の本社を訪れ,自分で全額支払うとして土下座,懇願し,念書まで提出し,その後,平成26年4月28日に50万円,同年4月30日に68万5000円,同年6月12日に15万円の合計133万5000円を個人で支払った。なお,d社の担当者によれば,原告Aは土下座をして請求の保留を懇願した際に,「このことが会社にばれたら首になってしまう。お金については全額自分が払うので,会社には知らせないでほしい」などと言っていたとのことである。
b 前記各支払をしても,まだ,未払い分が200万円程度残っていた。原告Aは,自分で支払う約束をした残りの未払分を被告会社に支払わせるために,d社に対し,架空案件の請求書を作成するように要求し,d社もこれに応じて平成26年5月20日付けの請求書を作成し,被告会社に送付した。同請求書には,〈ア〉「○○冊子」,〈イ〉「生活習慣病チラシ」,〈ウ〉「告知チラシ」の案件が記載され,各代金が請求されている。しかし,d社は実際には〈イ〉,〈ウ〉の商品を製造していなかった。また,〈ア〉の商品は,原告A,d社ではなく,b社に外注した案件として既に社内伝票で処理が済んでおり,被告会社は,b社に外注費を支払っていた。
c 原告Aは,「地デジ・BSコース用eo光テレビご利用ガイド」の取引の頁数を,実際は24頁のところを64頁と偽って社内計上していた。被告会社は,事情を知らないまま,伝票に従い,d社に用紙を多く支給した。原告Aは,余った用紙を,「新コース用eo光テレビご利用ガイド」の取引に流用していた。また,原告Aは,「新コース用eo光テレビご利用ガイド」の取引としてd社に支給した用紙を,「eo光電話オプションサービスガイド」に流用していた。被告会社がd社に支給する用紙の費用は,外注仕入にかかる原価の中でも高額なものである。原告Aは,被告会社が支給する用紙についても不正な操作,改ざんをして,自分の一連の不正行為を隠ぺいしようとしていた。
(ク) 被告Cに関するものついて
a 原告Aは,外注仕入先であるb社の従業員であった被告Cと同人の妻が経営していたc社に対し,簡易なPDFの文字データの修正,DMのデータ修正やギフトチラシによる文字・レイアウトの修正等を依頼していた。原告Aは,c社に対して,c社から被告会社への請求書に,実際の仕事内容とは異なる案件名を記載するよう指示したことが何度もあった。また,原告Aは,被告Cに対し,実際には存在しない案件について架空の請求書を発行するように指示し,これを受けて,例えば,c社が,被告会社に対し,5万円の架空の請求書を発行し,5万円の入金を受け取ると,被告Cは,4万円を原告に手渡し,1万円を手数料として受け取るといった架空請求取引を繰り返し行っていた。この架空取引等により,被告会社がc社に支払った金額は150万円を超えている。
b 平成26年12月4日,被告会社代表者が,b社を訪問した際に,c社の件について確認した。被告会社代表者が登記簿やc社の請求書を示しながら被告Cの住所について確認を求めると,被告Cは住所と氏名の一致を認めた。再度,説明を求めると,それまでは「知らない」と言っていた被告Cが,関与を認め,c社の請求書を作成していたこと,金銭の流れについて説明をし始めたが,つじつまが合っていない点や疑問点があったため,同日の夜に再度面談をすることになった。同日夜の面談において,被告Cが,原告Aと意を通じて,架空請求や水増しを行っていたこと,被告Cが架空請求により被告会社から振り込まれた金銭を引き出し,原告Aに渡していたこと,被告Cも原告Aから見返りとして現金を受け取っていたこと等を説明した。そこで,被告会社は,被告Cに対し,原告Aと共に行ったこれらの架空請求取引等について報告書の提出を求めた。
c 乙11号証は,b社から被告会社に届いた書面で,被告Cが意思に基づいて作成したものであり,被告会社が,被告Cの意に反して作成させたものではない。
被告会社とb社との平成26年12月4日の打合せの際に,原告Aと被告Cによる架空請求取引が発覚した。このことを受けて,b社の専務が,被告Cから事情を聴取し,聴取した内容を書面にして,被告Cに内容をしっかりと確認させた上で作成されたのが,乙11号証である。
d(a) モリキB4チラシについて
当該取引は,被告C自らも架空請求取引であったと報告している取引である。原告Aが計上した伝票によると,被告会社の担当者が制作を10万円,仕入額9万5000円で担当したことに加えて,c社も制作・製版を担当したとして,外注費5万円が計上されていた。
当該チラシは,被告会社の工場で印刷,製造したが,被告会社の工場で印刷する直前のデータは乙44号証の1であった。これに対し,被告会社の製造担当者が制作を行いバックアップしていたデータは乙44号証の2であった。両者を比べると,修正等された点は見受けられない。すなわち,被告会社の担当者が制作を担当した後にc社が修正や編集等の業務を提供した形跡は認められない。
(b) AOポスターについて
当該取引は,被告C自らも架空請求取引であったと報告している取引である。原告Aが計上した伝票によると,c社の外注費として10万円が計上されている。原告Aは,当該取引の売上額として15万4000円を計上しているが,i社からの入金額は6万円であった。
当該取引を含めて,i社との取引は,最初からi社側で写真やデザインを作成して準備し,被告会社にデータを提供する場合が多い。本件でも同様と考えられる。c社が,このポスターのデータを受け取って,10万円以上かけて編集を行うような箇所は認められない。
また,i社からの入金が6万円であるのも,ポスターの印刷に必要な費用程度しか請求できなかったものと考えられる。
(c) KooA3チラシについて
当該取引は,被告C自らも架空請求取引であったと報告している取引である。被告会社の担当者は,チラシの制作を行った(売上額11万円,仕入額10万円)。その後,伝票ではc社が外注費3万5000円で何らかの業務を外注したとされている。
当該チラシを印刷,製造する直前のデータは乙48号証の1であった。これに対し,被告会社の担当者がバックアップしていたデータは乙48号証の2であった。両者を比べると,修正された点は見受けられない。すなわち,担当者が制作を担当した後に,c社が3万5000円以上をかけて修正や編集等の業務を提供した形跡は認められない。
e 被告Cは,正当な請求書としての指示を受けた旨主張するが,正当な請求書とは,業務を行った被告Cが,実際に行った業務とその金額を記載して,被告会社に請求するものである。実際の業務内容・金額を無視して,架空案件の請求書を発行したり,金額を水増しするのは正当な請求書とはいえない。
原告Aが,「他にも支払があるから」と言って,請求書の変更を指示していた事実から,原告Aが,請求金額を水増ししたり,架空の請求書を作成したりして,被告会社から不当に金銭を詐取し,「他の支払」等に流用していたことは明らかである。そして,被告Cが,原告Aが詐取した金銭を,「他の支払」等に流用することを知りながら,これに協力していたことも明らかである。
被告会社の業務で「支払」をするのであれば,所定の手続にのっとり,当該案件に必要な書類が備えられるはずである。被告会社の通常の業務を逸脱していたことは明らかである。
被告Cの主張を前提に考えても,原告Aに「変更して大丈夫ですか」と確認しており,被告Cは請求書を変更,改ざんすることの不正さを十分認識していたというべきである。
f 被告Cは正当な取引であると主張するが,被告会社が正当な取引でないと主張しているのは,飽くまでもc社との架空請求取引である。正当な取引であれば,業務を行ったc社が被告会社へ外注費を請求し,支払われた金銭は全て被告Cが所持するはずである,被告Cが当該金銭を原告Aに渡すようなことは到底考えられない。
(ケ) 被告会社が行った原告Aに対する懲戒解雇処分の解雇理由は,解雇理由証明書に記載した例示行為及び例示行為と同様の行為を繰り返した行為が,就業規則33条2項3号・6号(12条④)・7号の懲戒事由に該当するというものである。そして,例示行為と同様の行為を繰り返した行為の補足説明として,c社の案件やその他の案件についても追加で補足するものであり,これまでと全く別の懲戒事由を主張するものではない。
(原告Aの主張)
ア 総論
(ア) 原告Aの判断で行った外注先赤字の補てん措置は,全て被告会社の営業に不可欠な外注先確保のために行ったものであり,懲戒事由には該当しない。顧客を継続的に確保するためには,納期を守ることが必須であるが,そのためには,相当数の外注先を確保しておくことが必要である。特に,平成26年1月以降,印刷業界は印刷枠の取り合い状態になり,外注先の確保に相当な苦労を伴った。そして,外注先に赤字が出た場合,その赤字の補てんがされないことには,納期を間に合わせること及び将来の外注先確保が困難になり,ひいては顧客確保が困難になるおそれがあった。そこで,原告Aは,被告会社の売上げを上げる必要から,架空発注を行ったのである。実際に,原告Aは,赤字補てん及び納期の遵守によって,外注先及び顧客の信頼を得ることに成功し,その結果,外注先及び顧客を確保,拡大することができた。
原告Aの一連の行為は,終局的には会社の利益になる行為であり,実際にも顧客を拡大することができたのであるから,故意又は重大な過失は認められない。また,原告Aは,自己の行為によって外注先及び顧客の信頼を得ることに成功しているから,「会社の名誉又は信頼を傷つける行為」にも該当しない。
(イ) 外注先の赤字の補てんにより顧客からの赤字受注による損害を補てんできるのは,今後も取引関係を継続することにより双方に利益をもたらす可能性が高まり,さらにその周囲に外注先に協力してもらって仕入れを安くすることも期待できるからである。このように,いわゆる「ギブ・アンド・テイク」の関係を維持することにより,外注先とも顧客とも良好な関係を維持することがいったん生じた損害を回復できるだけの収入増につながるのである。
(ウ) 外注先であるd社に土下座した上で自腹による損失補てんをしたことがあるが,これは被告会社の取引先を確保するために理解を求めたものであり,自らの違法行為を隠ぺいするための行動ではない。また,そもそも原告Aが自腹で損失を補てんする必要はなかったが,取引先を確保しなければならないという責任感をもっていたこと,ことあるごとに被告会社側から被告会社に損害が生じたときは責任をとれといわれていたこと,当時既にうつ病を発症していたことも相まって,適切な説明をできないと考え,不必要な赤字補てんをしてしまった。自己保身のために事実の隠ぺいへの協力を求めた事実はなく,「このことが会社にばれたらくびになってしまう」などと述べた記憶はない。
(エ) 平成26年6月14日の面談において,被告会社側から次々に発せられた批判の全てを原告Aが認めたことはない。被告会社がいう「伝票操作」や「改ざん」とは結局どういうものであるのか,その時点でも明確に特定して指摘されていたわけではなく,原告Aは,被告会社側が罵倒叱責する対象行為に具体的内容を十分には理解できなかった。しかし,極度のストレスを受けて抑うつ状態にあった原告Aは,極度の恐怖心を感じて反論もできないまま,やむなく,「申し訳ありません」などの言葉を発した。
イ 各論
(ア) 事例①について
原告Aは,平成26年2月上旬頃,k協会兵庫支部の案件を獲得する前に,e社に対して見積りを依頼し,36万円という金額を提示された。原告Aは,後で見積書をファックスで送るよう求めていたが,繁忙のためか送られてこなかった。ところが,印刷原版が完成する数日前に,e社に再度確認したところ,「36万円ではできなくなった」と言われた。納品期日が迫っているので新たな外注先を見つけることは困難であり,入札手続により受注した案件を断ると二度と受注できなくなり,印刷業界において悪い風評が広がる不利益もあることから,やむなく36万円で受注するしかないと考えた。被告会社代表者から,厳しく叱責されたり,自腹を切れといわれて給料天引きされることも予想され,それを恐れた。そのため,窮余の策として伝票1及び1(2)を作成した。赤字受注の事実を最後まで報告せず隠し通す意図はなく,そのような隠ぺいが可能であるとも考えていなかった。原告Aは,他の案件でf社から入金があれば,それをk協会兵庫支部の案件での入金であると説明して損失を取り戻すつもりであった。
以上から明らかなとおり,原告Aが,「最初から赤字だと分かっていて受注した」という案件ではなく,発覚が不可能になるよう徹底した隠ぺい工作をした事実もない。
(イ) 事例②について
原告Aは,最初から赤字になると認識して受注したわけではない。g社から見積りの依頼を受けて,b社に見積りを問い合わせたところ,100万円以下で可能であると回答を受けていた。
原告Aは,被告会社が作成しなければならなかったとする内容の伝票を作成して,通常の方法どおり,メールに添付して本社に送信した。
被告会社が主張する「予定外の入金」とは何であるのか意味不明であるし,仮に,「予定外の入金」が存在したとしても,それ自体が何らかの案件についての収入であり,それに対応した費用が発生し,それを記載した伝票が作成されるはずである。したがって,別個の「予定外の入金」によって本件の損失を埋め合わせることなど不可能である。
本社は,大阪営業所担当案件の請求書を,本来の発行日より約3週間も遅れて発行するなど,事務停滞が常態化していた。そのため大阪営業所では,本社から請求書が届くのを待たずに,適時迅速に請求書を発行していた。平成26年2月28日付け及び同年3月31日付けの請求書は,いずれも当時の大阪営業所長の了解を得て作成されたものであり,その押印もある。原告Aが無断で作成したものではない。
原告Aは,上記のとおりの伝票を作成しており,最終的に正しい金額の外注先仕入額相当が支払われた。
(ウ) 事例③について
原告Aは,最初から赤字と認識して受注したわけではない。g社から見積りの依頼を受けたときは黒字見込みだった。d社からは「枠が一杯で入りません」と断られたので,b社に対して電話で見積りを依頼した。同社は見積金額を明示しなかったが,納期を優先しなければならないという事情を理解して協力してくれることになった。ところが,納品にあたって,50万円を上回る高額な請求をしてきた。原告Aは,それは非常に困る,通常の相場よりも高すぎると述べて交渉したところ,41万円という金額に応じてくれた。
原告が当該案件について伝票を作成しなかったというような明確な記憶はない。原告Aは,他の案件でg社から入金があれば,それをr社での入金であると説明して損失を取り戻すつもりであった。
(エ) 事例④について
原告Aは,最初から赤字と認識して受注したわけではない。本件においても,外注先から見積りをとっていた。ところが,当初は納品場所は1か所であるとg社から聞いていたが,後になって納品場所は約300か所の高速道路関連施設であることが分かり,外注先からの請求金額が高額化してしまった。これは,g社の担当者が中日本高速側の要望を十分に聴取・把握していなかった落ち度によるものである。ところが,g社の担当者は,自分の責任を棚に上げ,外注先が求めた増額費用分の支払を拒んだ。原告Aは,g社に対しては増額を求めて交渉し,外注先に対しては当初も見積りどおりの金額で我慢をしてくれるように交渉したが,聞き入れてもらえなかった。やむなく原告Aは,伝票28を作成して,一時的に赤字受注の報告を先延ばしにしようとしたものである。
(オ) 事例⑤について
原告Aは,外注先へ事前に見積りを取っていた。ところが,外注先はさらに別の業者へ外注に出したので費用が高くついたなどという理由で,見積額より高い金額を請求してきた。原告Aは,これは約束と違うので応じられないとして交渉したが,外注先は頑なに見積りと異なる請求をしてきた。そのため,やむなく原告Aは,伝票29,29(2),29(3)を作成した。一時的に赤字受注の事実報告を先延ばしにしようとしたのは事実であるが,自己の利益のために虚偽受注や改ざんをしたものではない。
(カ) 事例⑥について
本件は,元々約12万円で受注した。刷り直しによる費用増加がなければ黒字の案件であった。最初に作成したのは伝票30(2)である。
刷り直しが生じた原因は,f社の担当者がh社から説明を十分に聞いていないために,同社の意向に沿わないデザインで印刷が完成してしまったところにある。これは原告のミスではないのに,不当にもf社は,「a社側のミスだから支払わない」という対応をとった。本来であれば,この事実を被告会社に報告すべきであったが,代表者が原告の努力や交渉の難しさを理解せず激怒して「自腹を切れ」と命じることが予想されたので,原告Aは当初作成していた伝票30(2)に加えて,伝票30を作成して一時的に帳尻を合わせようとした。
(キ) 事例⑦について
a d社の関係については,平成26年6月14日のヒアリングの際に報告済みである。
b 原告Aは,自分が被告会社に重大な不利益を与える悪質な行為をしていたという認識はないので,自己保身のために事実の隠ぺいへの協力を求めた事実はなく,「このことが会社にばれたらくびになってしまう」などと述べた記憶はない。
c d社は被告会社が発注した全ての仕事を完成させており,その代金は被告会社が支払うべきである。d社との関係では,受注元(g社)から値下げ要求を受けて交渉したために被告会社への売上計上が遅れるとともに外注先のd社から厳しい請求を受けた経緯があり,そのため,原告Aが133万5000円を支払った経緯がある。これは被告会社が払うべき金額であった。
d g社から受注してd社へ外注した印刷案件について,g社側から値下げや支払時期の先延ばしの要請があった。これは不当な要請なので応じる必要はなかったが,そうした問題が起きていることを本社に報告しても,従来同様に「自分で解決しろ」,「損害が出たら自分で払え」と社長から命じられることが予想された。g社との交渉が長引くとd社への支払も遅れてしまうので,原告Aは,d社への支払が遅れてしまうことを謝罪するとともに,被告会社からd社への支払が早期に実現するために,実際にはd社が受注していない「生活習慣病チラシ」と「告知チラシ」及びb社が受注していた「○○チラシ」を記載した乙32号証の請求明細書を作成してもらったのである。原告Aが乙32号証を作成してもらったのは,外注した仕事内容に見合った金額を被告会社からd社に支払ってもらうためであり,大口取引先であったd社との取引関係を継続するためにしたことであり,原告Aが被告会社代表者から罵倒されたり自腹弁償を命じられることを回避するためにやむを得ずとった行動であった。原告Aが自己の利益を図るために行った不正操作ではない。
e 24頁の発注品を64頁と偽って社内計上したことはない。
納品書は納品と同時に作成されて納品先に交付されるものであり,乙52号証の1の作成日付は平成26年4月15日となっている。つまり,同発注品の印刷が終了して出荷された同年3月25日より21日も後に用紙を納品するというのは順序が逆である。
被告会社が示す証拠は,納期が3月中のもの(乙10号証の3,51号証の1。完成品24頁)と,4月中のもの(乙49,52。完成品64頁)に類別でき,完成品が24頁のものと64頁のものは納期が異なっており,異なる取引である可能性がある。
「eo光電話オプションサービスガイド」(乙10の3④)の取引については,乙10号証の3では出荷日が平成26年2月27日,乙51号証の3では納期が同月28日となっている。ところが,その印刷に流用したとされる用紙の納品書(乙52の2)の発行日付は同年3月19日であり,絶対不可能である。
乙52号証の2の摘要欄には「02用紙」としか記載されていないのに対し,乙52号証の1の摘要欄には「地デジBSコース用eo光」と記載されており,乙49号証の商品名欄と一致している。また,乙52号証の2の受注票No.欄には「A111827」と記載されているのに対し,乙52号証の1の受注票欄には「A111853」と記載されており,乙49号証の右上のNo欄と整合している。
そもそも,原告Aにおいて,用紙の流用をするメリットないし動機は存在しない。
(ク) 被告Cが関与するものについて
c社からの請求書が実際の仕事内容とは異なる記載内容であったことが数回程度あったことは認める。しかし,それは原告Aが求めたものではなく,c社側から要請されたものである。また,その合計金額は,被告会社主張の150万円とは異なり,もっと少ないはずである。
原告Aは,安価で仕事を引き受けてくれるc社には感謝していた。今後も,c社との間で取引を続けることは被告会社の利益になることは明らかであった。そのため,予想よりも工程が増えたこと等によりc社に負担をかけた場合や,c社側が支払額の増額を求めてきたときには,その意向に応じて請求書の項目名を変更して,仕事に見合った金額が支払われるよう調整したことがあった。架空の仕事は一つもなく,原告Aがマージンを取る,あるいは着服するなどといった事実は存在しない。
被告Cが作成した書面の内容は事実に反する。被告Cが真意から内容を了承して作成したものではない。
(ケ) 被告会社は,解雇理由通知書に記載されていない解雇理由(被告Cに関するもの)を新たに追加している。これらは懲戒解雇の理由とされていなかった事実であり,これらの事実を懲戒解雇の理由として後付けすることは許されない。
(被告Cの主張)
ア 原告Aから正当な請求書としての指示を受けたものであり,請求書の発行は架空ではなく名目を変更したものである。
請求書をどのように変更したかは覚えていない。同変更は,原告Aから,「他にも支払があるから」,「会社事情で」との話があり,原告Aが苦慮していたことがうかがわれたことから,原告Aに言われるままに名目を変更したものであり,「変更して大丈夫ですか」と原告Aには確認した。被告Cの都合により名目変更したわけではない。
原告Aとは会社同士の正当な商取引を優先していた。原告Aの過重労働の影響や厳しい取引条件の案件による制作価格調整のため,c社の請求書は事実と異なる項目が数件発生したものと思われる。被告会社に損害を与えるような思いは微塵もなかった。
実際に行った業務や金額とは異なる内容の請求書を依頼してきたのは被告会社側である。被告会社の社員からの正当な依頼によるものと判断し,請求項目が食い違ったとしても,正当な取引をもとに請求したものに関しては架空請求ではない。
被告会社内でどのような経緯で被告会社が主張する品名・金額になったかは被告会社の指示によるものである。品名・金額相当の業務内容は別途主張した記憶はあるが,当時多数の業務依頼を受けたので現在立証不可能である。
イ 乙11号証を書くように指示したのはb社のD専務(以下「D」という。)である。Dから被告Cの認識を書くように言われ,請求書を見ながら記入した。乙11号証作成の際に,b社の代表者から,このようなことが事実であれば懲戒解雇だと言われた。b社の代表者から,乙11号証を作成すれば懲戒解雇を免除するとの約束があったわけではなく,そのように思っただけである。
被告Cは懲戒解雇されておらず,自己都合により退職した。b社に対する背任行為とは,b社を通さずにc社で商取引をしたことである。
(3) 争点3(本件懲戒解雇が解雇権の濫用に当たるか)について
(原告Aの主張)
ア 原告Aは,被告会社が求める売上目標を確保するため,相当数の外注先を確保しておく必要があり,外注先確保及び納期の遵守のためには,外注先の赤字の補てん及びそのための架空発注もやむを得なかった。もっとも,原告Aは,外注先が要求するままの価格の補てんをしたのではなく,外注先との間で,減額交渉を行い,補てんさせた価格を将来の取引で調整することを約束させるなどの努力を行った。被告会社では,大阪営業所について,毎月1200万円から2000万円の営業売上目標を掲げており,これを達成できなければ,一方的にペナルティとして未達成割合に応じた金額が給与から天引きされた。平成25年12月末以降,原告Aは,上記ペナルティを気にしながら,専ら一人でこの売上目標達成に努めてきた。原告Aにとって,顧客及び外注先の確保が大きな重圧になっており,外注の赤字補てん及び架空発注はやむを得なかった。
被告会社のいう成果主義の導入以前から,一方的な賃金の減額・天引が横行していた。平成21年4月分賃金において,本来3万円の職務手当が一方的に1万円減額された。平成23年4月分賃金は,2000円を天引することが記載された紙片が給与明細書とともに交付された。
イ 平成23年初め以降,大阪営業所営業部には原告A及び所長のEしか在籍していなかった。経理担当者がいなかったため,原告Aらは,営業,パソコン入力,外注への発送,配達等の業務を行いながら,経理業務を行わなければならなかった。原告Aらは,何度も被告会社代表者に人員補充を申し出たが,補充されることはなかった。また,業務上の問題を報告・相談しても,代表者は,大阪営業所のことは大阪営業所内で全て処理するようにというだけで,何ら適切な対応をとろうとしなかった。平成25年末,被告会社は,営業の経験に乏しく,まともに仕事ができないFを所長に据え,専ら原告一人で業務を行わなければならない状態に置いた。Fは,平成26年3月中旬に所在不明となり,原告Aは,代表者に人員を補充してほしいと再三申し出たが,「もう少し我慢してほしい」と回答するだけであった。原告Aは,人手が不足する中で業務を行わなければならなかった。印刷業界の繁忙期である1月ないし5月に至っては,一人で種々の業務を行わなければならず,仕事の見積りに十分な時間を割くことが物理的に不可能であった。
被告会社による適切な経営管理がなかったことは明らかであり,適切な経営管理が行われていれば,架空発注は避けることができた。
ウ 請求書の発行は,上司であったEの承諾を得て何年も前から行っていたのであり,E及びFも請求書の発行を自身の判断で行っていた。被告会社代表者もそのことを認識していた。そのような行為について,原告Aに対してだけ懲戒の根拠とすることは明らかに不相当である。
エ 赤字発注につき,原告Aは,着服等の不正は一切行っていない。
個別の外注案件について,外注先の事情により予想外に経費を要したことにより顧客に赤字が生じるケースについて,外注先の協力を得て,架空の仕事に対する請求書を発行したことはある。しかし,これは被告会社の営業活動に不可欠な顧客確保のために行ったものである。自己の営業成績を上げたりミスを隠すために赤字外注をした事実はない。
事実と異なる金額を記載した請求書類を作成したことはあるが,全体として取引先を維持して今後の営業成果につなげるための行為であり,悪質なものではない。また,虚偽の赤字受注をした場合に,それは伝票の内容と入金状況を照合すれば用意〈原文ママ〉に発覚することであり,被告会社に隠し通せるはずがない。原告Aは,隠し通すつもりで実際と異なる金額の伝票を作成したことはなく,むしろ全体として顧客との取引関係を維持して被告会社の利益になることであるから了解を得ることができるはずだと考えて,上記のような行動をとった。
オ 原告Aは,これまでに減給や停職処分を受けたこともなく,大阪営業所の事実上一人だけの営業担当者として幅広く新規顧客を開拓し,高い営業成績をあげてきた。勤務態度は良好であり,歴代大阪営業所長から高く信頼されてきた。これまで被告会社に対して多大な貢献を遂げてきたことを考慮すれば,仮に,懲戒処分をすることが相当であるとしても,労働契約関係から排除することがやむを得ないとまでは認められない。
(被告会社の主張)
ア 被告会社が問題としたのは,無断で行った顧客からの度重なる赤字受注とその隠ぺい工作である。原告Aは,自分の売上金額を上げる目的や見積りミス等により,顧客からの受注金額を,それに必要な外注仕入等の必要経費を下回る金額で受注する行為を繰り返していた。
原告Aは,大阪営業所において,他の従業員が帰宅した夜の時間等を利用し,社内売上伝票に虚偽の金額を記載したり,外注仕入先を偽ったり,成果物が存在しない架空の取引の売上伝票を作成したり,顧客への請求書の金額を改ざんしたりするなどして,隠ぺい工作を行った。これらの隠ぺい工作は,売上額,外注仕入額,請求額(入金額)等,経営の基本である金額に関係するものであり,被告の営業面,経理面,税務面,対外的信用等,あらゆる面で隠ぺい工作が許されない性質のものである。
さらに,原告Aは,取引先に対しても,伝票や請求書の虚偽記載,請求伝票の分割や改ざんを要求し,それについて被告会社への口止めを依頼する等,隠ぺい工作への協力を要求した。調査の結果では,原告Aが,外注先担当者に土下座をして会社への口止めを懇願し,自腹を切って一部を支払ったという事実すら存在している。原告Aによる隠ぺい工作は,200件近い伝票の操作を行い,取引先の二,三社を巻き込んだものなど大量であり,手口も複雑,巧妙で悪質である。
イ 原告Aは,そのような行為を何度も繰り返しているにもかかわらず,自分の行為の正当性を主張し,被告会社,顧客,外注仕入先の非を主張するなど,反省か改善の態度は全く認められない。
ウ 原告Aの伝票操作,改ざん等によって,被告会社の後任者は,過去の案件について,売上金額,案件名,外注仕入先等を正確に把握できなかった。そのため,後任者は,全てをゼロから対応しなければならず,多大な業務上の支障が生じた。原告Aが,営業担当者としての適正な努力を怠り,不正行為を前提とした安直な赤字受注を繰り返した結果,顧客との結びつきも過度に安価な商品・サービスを提供することでしか成り立っていなかった。結果として,原告Aの解雇後,これらの顧客との間では適正な取引ができず,売上げが大幅に減少ないしは消滅してしまったことによる損失が発生した。後任者は,再度顧客基盤を構築しなければならなくなり,多大な労力と時間が必要になった。また,被告会社代表者らは,一連の不正行為の事実関係の調査のために,顧客や外注仕入先に謝罪しながら,調査への協力を依頼して回らざるを得なくなり,多大な労力,時間,精神的負担を被った。印刷業はリピート案件が多いが,原告Aが手掛けた案件に対して,再度顧客から依頼があった場合でも,同条件では引き受けられず,顧客に迷惑をかけてしまうことによる信用の失墜も生じた。
このように,原告Aの一連の不正行為の結果,被告会社は多大な不利益を被っている。また,原告Aの一連の不正行為に起因する被告会社の信用失墜は明らかであり,それによる損害も重大である。顧客や外注仕入先に懇願し,常識的に許されない不正行為を繰り返し,挙句の果てに顧客や外注仕入先の非や落ち度を主張するなど,到底許されない。
したがって,原告Aの一定の貢献度を認めたとしても,他の従業員の貢献度や原告Aの過大評価,原告Aの一連の不正行為の内容,不正行為による被告会社の不利益等を考慮する必要があることは明らかである。
エ ペナルティとして給料を天引きするものではなく,成果主義に基づいて,達成した成果に見合う給与を支給するものである。この評価基準制等に基づいて,原告Aにも平成24年4月分,5月分の賃金について,各3276円の増額がなされている。
(4) 争点4(本件懲戒解雇に適正手続違反があるか)について
(原告Aの主張)
原告Aと被告会社との間で,損害賠償請求について交渉が行われてきたが,被告会社は,架空発注に関する原告Aの説明について検討することなく,また,原告Aの質問に誠実に回答することなく,懲戒解雇通知書を送付した。もちろん,同解雇通知書の送付に先立って,原告Aに対して弁明の機会を付与することもなかった。
(被告会社の主張)
原告Aの行為について,随時説明を求め,弁解の機会を与えてきた。
(5) 争点5(本件普通解雇が解雇権の濫用に当たるか)について
(原告Aの主張)
ア 解雇事由に該当するかについては前記(2)と同じ。
解雇権の濫用に当たるかについては前記(3)と同じ。
イ 解雇予告期間もなく,解雇予告手当の支払もなされていない。
(被告会社の主張)
ア 解雇事由に該当するかについては前記(2)と同じ。
解雇権の濫用に当たるかについては前記(3)と同じ。
イ 解雇の手続については,30日の経過で解雇されることになるといえるし,原告Aが主張する手続面については解雇の有効性に影響を与えるものではない。
(6) 争点6(本件懲戒解雇又は本件普通解雇が労基法19条1項に反するか)について
(原告Aの主張)
ア 原告Aは,入社当初から,Gから,「お前は人間のくずや」,「あほ,ボケ,カス,外道」,「頭腐ってんのか」,「いつでも会社辞めさせたるからな」,「おい,ボケ。掃除しとけよ」,「お前は犯罪者や」などのひどい暴言を受け,精神的に疲弊する日が続いていた。それに加えて,大阪営業所の業務は,従業員2名で全てこなされなければならなかったことから,原告Aは毎日3時間以上の残業を行わねばならない状態であった。
イ 平成25年末以降,原告Aは,慢性膵炎に罹患しながらも,専ら同人が営業活動,パソコン入力,外注への発送,配達,戸締り等に従事することになり,更なる長時間過重労働を強いられることになった。平成26年1月以降,原告Aは,ほぼ毎日終電で帰っていた。終電に遅れ,タクシーで帰宅したことも10回以上あった。
ウ(ア) 原告Aは,平成26年4月16日,被告会社代表者から,自身が獲得した顧客からの支払がないことを責め立てられ,支払がされない場合には原告Aが代位弁済する旨の念書を書くよう強く迫られた。原告Aは,拒否すれば何をされるか分からないと怖くなり,同日付けの念書を作成し,被告会社代表者に交付した。
被告会社のいう与信枠は,被告会社代表者が場当たり的に決めて口頭で述べるだけであり,明確に書面で指示されたり記録されたりしていない。その金額も代表者がコロコロと変化させるなどしており,従業員に周知徹底されていたとは到底いえない。確かに,代表者は,原告Aに対し,与信枠を超えて受注しないよう指示したことがあったが,原告Aはどの会社に対してどの金額の与信枠が設定されているかを正確に知ることができなかった。
乙3号証の報告書(以下「本件報告書」という。)には,従前から与信枠について明確な指示があったかのように読める記載もあるが,それは事実に反する。g社との関係については,遅くとも平成26年3月頃までに,原告Aは実際と異なる金額の請求書を作成したことをFに相談していた。それを聞いたFは,特に原告Aを叱責することもなく,冷静に,「社長には報告しておく」とだけ言っていた。その後,Fは職務を放棄して行方不明となったので本社へ報告されていない可能性があるが,原告Aとしては直属の上司に報告していた。
(イ) 平成26年6月14日以降は,被告会社代表者から,毎日のように架空発注に関し,威圧的な言動を受けるようになった。被告会社代表者は,「お前みたいな頭の悪いやつが改ざんなどできるはずがない。お前の後ろに何人かいて指導してもらって横領してるんだろ」,「早くゲロっちまえよ。警察に突き出すぞ」などと電話で怒鳴った。原告Aが要求された資料を全て提出し,横領の事実がないと確認されると,「悪運の強いやつだな。けど,全額請求するからな。徹底的にやるぞ」と怒鳴った。
エ 原告Aは,平成26年6月17日,吉富クリニックを受診し,うつ病と診断され,7月末までの休職,自宅療養が必要との指示を受けた。原告Aのうつ病の発症は,業務上行われたGによる嫌がらせ行為及び継続的な長時間労働,被告会社代表者の威圧的な言動が原因であると考えられるから,原告Aのうつ病の発症は,労働災害に当たる。
本件懲戒解雇又は本件普通解雇は,業務疾病にかかり療養のために休業する期間中の解雇を禁じた労基法19条違反になり,無効であることは明らかである。
(被告会社の主張)
ア 大阪営業所で営業を担当していたのは所長のFと原告Aであり,Gは制作担当であった。Gと原告Aのやり取りは,仕事上のやり取りが中心であり,原告Aが主張するように,特段何も問題等が生じていないにもかかわらず,Gが,原告Aに対し,ことあるごとに一方的に暴言等を言ったというようなことは考えられないことである。
仮に,原告Aの主張を前提にして,Gとの関係がうつ病発症の原因であるとすれば,二人が大阪営業所で一緒に勤務を始めたのは平成20年2月であるので,もっと早い段階でうつ病を発症していたと考えられ,平成26年6月の段階でのうつ病発症という事実に照らせば,このことが原因であるとは考えられない。
イ 原告Aの仕事内容は営業業務であり,営業活動を始め,それに付随する仕事(パソコン入力,配達,外注への発送等)が含まれていた。これらの仕事内容は,被告会社の他の営業担当が担当している仕事内容と同じであり,原告Aだけが,特に過重な業務を担当していたわけではなかった。
原告Aの仕事量や売上げは,他の従業員と比較して,むしろ少ない方であった。このため,原告Aが主張するような,毎日終電又はタクシーで帰宅しなければならないような仕事量であったとはいえない。
むしろ,原告Aが繰り返し行っていた隠ぺい工作は,複雑,巧妙かつ大量であり,これらの隠ぺい工作を行うためには,多大な時間と労力が必要になると考えられる。また,原告Aが,会社に発覚しないようにこれらの隠ぺい工作を実施しようとすれば,他の従業員がいるところでは行えないため,他の従業員が帰宅した夜の時間帯を利用する必要があったと考えられる。
ウ(ア) 平成26年2月中旬,原告Aが,顧客であるg社との取引に関連して,被告会社が設定し指示をしていた与信枠を大きく超えて仕事を受注していたことが明らかになった。被告会社代表者の確認に対し,原告Aの回答は,受注分が仕掛中であり,今更断ることができないとのことであったので,今後は与信枠を超えて受注しないことと,g社からの支払について確約をとるように指示をして,特別に許可をした。ところが,同年3月20日,g社からの入金が,本来支払われるべきはずの金額よりも少なかった。このため,被告会社が,原告Aに対し,確認を求めたところ,上記のとおり,直前に注意したにもかかわらず,このときも与信枠を超えて受注したことが判明した。さらに,同年4月11日,原告Aから,g社の問題について,以前から赤字受注した案件があることや,請求金額の改ざん等の事実が報告された。被告会社において,g社には信用上の問題がなさそうであることは確認できたものの,上記原告Aの報告内容を受けて,また,原告Aが再三にわたり会社の業務指示を無視したことを考慮し,その旨を十分に反省してもらうために,指導的な意味合いで,念書を提出させた。
(イ) 平成26年4月16日以降の被告会社代表者とやり取りは,被告会社代表者が,原告Aに対し,本件で問題となっている原告Aの赤字受注やその隠ぺい工作等について説明を求めていただけである。被告会社としては,原告Aが担当した取引について不明瞭な部分が多く認められれば,その説明を求めるのは当然のことである。
同年6月14日の面談では,被告会社代表者等が,原告Aに対し,書類を示しながら,書類の不明瞭な点や入金差異が生じた理由等について説明を求めたところ,原告Aは,自身の行為をしっかり説明し,改ざん等をしたことを認めており,畏怖や恐怖から何も反論することができなかったというような状況ではなかった。また,メールのやり取り等からも明らかであるが,原告Aは,自らの行為をしっかりと理解した上で,説明,謝罪を行い,事実関係の調査を約束していたものであり,原告Aが主張するような一方的な罵倒・恫喝というようなやり取りではなかった。
(ウ) 報告書は,原告Aが作成し,被告会社に提出したものであることは明らかである。報告書の内容も,今までのg社とのやり取り,原告Aが行った業務上の行為やミス,その原因と対応を客観的に報告し,反省を伝えるなど,不自然な点は見受けられず,事実にも合致するものである。代表者から罵倒叱責されて,納得する内容を不本意ながら記載したものであるとは到底考えられない。
(エ) 平成26年3月20日にg社からの入金不足を契機として,被告会社代表者が,原告Aに対し,g社との取引について確認すると,手形による決済等,初めて聞く内容が報告されたので,被告会社とg社との間で,同年4月17日に社長同士の協議をすることになった。その協議に先立ち,事情を把握するために,被告会社代表者が,原告Aに対し,今までのg社との取引について報告するよう指示し,これを受けて,原告Aが同月11日付けで本件報告書を作成し,提出したものである。被告会社は,本件報告書を見るまでは,赤字受注があったことなど知る由もなく,原告Aが主張するように,被告会社の意に沿う内容を不本意ながら記載したないし強引に記載させられたなど,あり得ない。
エ 原告Aの赤字受注や隠ぺい工作について被告会社が疑念をもったのが平成26年2月頃であり,この頃から,原告Aに対する事情聴取や調査を本格的に始めたこと,同年4月24日,原告Aが隠ぺい工作をするために,d社に対し,「このことが会社にばれたらくびになってしまう。お金については自分が全額払うので,会社には知らせないでほしい」等と土下座をして口止めを依頼し,その後,合計133万5000円を支払っていたこと,同年6月14日,被告会社の会長,社長らと,原告A,原告Aの姉が直接会って事情聴取が実施されたこと,原告Aが,原告Aの姉やその夫からも叱責を受けていたこと,原告Aがうつ病と診断されたのが同年6月17日であったこと等の時系列等を考慮すると,原告Aのうつ病発症の原因は,原告A自身が繰り返し行ってきた赤字受注とその隠ぺい工作が会社に発覚してしまったため,それに対する責任追及や職を失うことへの不安,ストレス,家族からの叱責によるストレス等が主たる原因であると考えられる。
(7) 争点7(損害額)について
(被告会社の主張)
ア 総論について
(ア) 営業担当者が通常の業務の進め方をすれば,同人が売上伝票に計上した売上額と顧客からの入金額との間に差額は生じない。しかし,原告Aの一連の行為により,被告会社には差額が発生した。
原告Aが計上した社内売上伝票の売上額は,当該取引にかかった外注仕入額等の必要経費に,被告会社の利益分を上乗せすることで計算されており,一般的にも売上額はこのように計算される。このため,売上額と入金額の差額には,原告Aによる赤字受注の損失分と,当該取引により得られるはずである被告会社の利益が含まれているのである。ただ,売上額と入金額の差額には,原告Aがマイナス分を埋め合わせるための伝票操作も含まれているため,実際の損害額はそれ以上になる。
(イ) 原告Aは,営業成績を良く見せたい等という自己保身で赤字受注を行い,被告会社に発覚しないように隠ぺい工作を繰り返してきたのであり,被告会社としても,このような事態を把握したり,防いだりすることは困難であった。そして,原告Aの行為は,被告会社の通常の業務を著しく逸脱している以上,原告Aの行為により生じた損害は,全て原告Aが負担するべき損害である。
(ウ) 実際の受注品目に対する適切な価格とは,一般的に必要経費に被告会社の利益を上乗せした価格であるといえる。そして,原告Aは,赤字受注を隠ぺいするために,伝票の操作,改ざんを行い,このように必要経費に利益を上乗せした適切な価格を計算して,伝票の形式上は問題がないように操作,改ざんしていた。このため,原告Aが社内売上伝票で計上した売上額は,原告Aが当該受注品目について適切と判断し,被告会社も承認した価格である。よって,原告Aが主張する適切な価格は,原告Aが計上した売上額と一致するはずである。したがって,被告会社が主張する損害額は,原告Aが主張する実際の受注品目に対する適切な価格と実際の入金額との比較による金額と一致する。
(エ) 原告Aが主張する値引きのうち,乙17号証の2の番号3については被告会社での一連の手続を経て承認されているから,この値引きについては正当な値引きとして認められる。これに対し,乙16号証の2の番号20の値引きは,原告Aによる社内計上も報告もなかった。そのため,これは原告Aが勝手に行ったものであり,正当な値引きとはいえない。
(オ) 他の営業担当者や後任者との関係では,原告Aのような事態は起こっていない。顧客や外注仕入先からも,原告Aから強く懇願され,やむを得ず架空請求等に協力せざるを得なかったとの回答が得られている。
イ 各論について
(ア) f社分について
原告Aが行った一連の営業行為により,原告Aが被告会社に提出した売上伝票の売上額と,顧客からの実際の入金額の差額235万0856円。
(イ) 株式会社i分について
a 原告Aが行った一連の営業行為により,原告Aが被告会社に提出した売上伝票の売上額と,顧客からの実際の入金額の差額27万2273円。
b 原告Aは,平成26年5月,6件の取引を担当し,社内売上伝票を計上した。被告会社では,原告Aが計上した社内売上伝票に基づき,正規の請求書を作成した。通常の取引では,この請求書は,原告Aが届けることになるが,実際に原告が届けた請求書は乙15号証の4の36であり,案件名は同じであるが,金額が全く異なっている。また,この請求書の金額と同じ金額が被告会社に振り込まれている。
c 入金差異一覧をみると入金額が0の取引が多い。契約成立後の値引きや金額調整でれば,一定額の入金はあるはずである。
(ウ) j株式会社分について
a 原告Aが行った一連の営業行為により,原告Aが被告会社に提出した売上伝票の売上額と,顧客からの実際の入金額の差額60万5887円。
b 被告会社本社とj社との間には直接の取引はなく,原告Aが主張する新入社員の存在も把握していない。
(エ) k協会分について
a 原告Aが行った一連の営業行為により,原告Aが被告会社に提出した売上伝票の売上額と,顧客からの実際の入金額の差額69万2164円。
b 乙17号証の2の番号4・5については支払を停止することができた。しかし,取引が存在しないとしても,事前の発覚により未遂に終わっただけであり,原告Aの不正行為は到底許されない。
(オ) l機構分について
a 原告Aが行った一連の営業行為により,原告Aが被告会社に提出した売上伝票の売上額と,顧客からの実際の入金額の差額のうち,被告会社に繰越残として残っている29万3699円。
b 原告Aが,資料を紛失等しているため詳細は不明であるが,前記ア等と同様,売上額と入金額との差額が生じており,その差額が被告会社に残っていることは明らかである。また,原告Aのメールによる報告と,被告会社に残っている差額が一致すること,このような差額は,通常の業務対応をしていれば生じないこと,原告Aが行ってきた多数の不正行為等を考慮すると,原告Aが,同様の行為を行い,その結果,差額が現在も残っているとしか考えられない。
(カ) m株式会社大阪支社分について
a 原告Aが行った一連の営業行為により,原告Aが被告会社に提出した売上伝票の売上額と,顧客からの実際の入金額の差額のうち,被告会社に繰越残として残っている24万4533円。
b 前記(オ)bと同じ。
(キ) n局分について
a 原告Aが行った一連の営業行為により,原告Aが被告会社に提出した売上伝票の売上額と,顧客からの実際の入金額の差額のうち,被告会社に繰越残として残っている17万0932円。
b 前記(オ)bと同じ。
(ク) o株式会社分について
a 原告Aが行った一連の営業行為により,原告Aが被告会社に提出した売上伝票の売上額と,顧客からの実際の入金額の差額のうち,被告会社に繰越残として残っている5万5957円。原告A自身も自分のミスにより繰越残が残っていると認めている。
b 前記(オ)bと同じ。
c グループ会社の場合には,発注先と入金先が異なる場合がたまに発生することがある。
(ケ) p株式会社分について
a 原告Aが,隠ぺい工作のために,被告会社がp社に対して有する債権を消滅させた25万7040円。
b 原告Aは,被告会社に赤字受注の事実が発覚しないようにするために,隠ぺい工作として,p社に対しても,被告会社への請求伝票等に架空や虚偽の案件,金額等を記載するように強要していた。また,原告Aは,他の取引先で生じた赤字受注を隠ぺいし,被告会社から外注仕入先に赤字分の支払を行わせるため,p社に対し,架空案件を社内売上計上した。そのため,被告会社は,これを相殺勘定し,領収証をp社に送付した。ところが,この相殺勘定に疑問をもったp社が,原告Aに確認を求めたところ,原告Aは,隠ぺい工作のために,この領収証を回収して隠匿していた。
(コ) e株式会社分について
a 原告Aは,赤字受注を隠ぺいするため,外注仕入先のe社に対し,被告会社への請求伝票を大阪営業所分と名古屋本社分とに分割するように強要していた。そして,原告Aは,e社から被告会社に対する名古屋本社分の請求伝票については,被告会社の経理にまわして,大阪営業所分の請求伝票については,原告Aが後で隠ぺいするために,自ら隠匿していた。この隠匿分は,被告会社に計上もなく,本来であれば,被告会社が支払うべきものではなかったものの,被告会社において,e社との関係を考慮して支払ったものである。この隠匿分は合計6万4523円(税込6万9685円)である。
b 乙8号証は,e社から,原告Aから指示を受けた内容として報告を受けたものである。
(サ) 株式会社d分について
a 原告Aが,外注仕入先であるd社に対し,隠ぺい工作への協力を求め,原告A自らが支払を約束した金額の未払分(167万5617円)であり,被告会社が,平成27年1月20日時点で,d社から請求を受けている金額である。
b 原告Aとd社の一連の行為は,被告会社が全く認識できないところで秘密裏に行われており,被告会社の正規の取引を逸脱している。
(シ) その他について
原告Aの一連の行為により,被告会社の対外的信用が著しく失墜しただけでなく,被告会社の経理は大混乱となり,経理関係書類の訂正,取引先へのお詫びと対応,出張費用,さらには,原告Aの赤字受注の影響で後任者が大幅な値下げを要求されるなど,その対応に忙殺されて本来の業務に多大な支障が生じているだけでなく,それに要した費用等の損害も発生した。また,原告Aは,本来被告会社内で印刷すべき案件も,隠ぺい工作のため,外注仕入先に依頼するなどしており,外注加工費の損害も発生している。これらの損害は200万円を下らない。
(ス) 弁護士費用(前記(ア)ないし(シ)に係るもの)について
90万円を下らない。
(セ) c社分について
原告Aは,外注仕入先であるb社の被告Cと共謀して,架空請求取引等を行い,被告会社から入手した金銭を被告Cと分配していた。
(ソ) 弁護士費用(前記(セ)に係るもの)について
15万円を下らない。
(原告Aの主張)
ア 総論について
(ア) 見積り後に生じた事情変更や,顧客側の事情によって生じたコスト増やトラブルにより売上額と入金額に差異が生じた場合,それは企業取引において通常起こり得る事態といえるのであり,その差額の全てが労働者の不法行為による損害であるとして賠償負担させることは相当ではない。
(イ) 仮に,損害額を特定するのであれば,実際の受注品目に対する適切な価格と実際の入金額とを比較して得べかりし利益が算出されるべきである。
(ウ) 被告会社作成の一覧表は,入金額の欄に値引額が記載されている。しかし,売上額と入金額の差額を示す一覧表を作成するのであれば,正当な値引額は「売上額」の欄に負の数で記載されるべきである。また,値引きは正当な処理であるから,値引額は記載されるべき差額には含まれないはずである。
イ 各論について
(ア) f社分について
原告Aの故意又は過失によって生じた損害はない。
(イ) i社分について
原告Aが,被告会社作成の請求書を届けなかった理由は前記(2)イ(イ)のとおりである。
金額が異なるケースは,原告Aが取引を本社に報告した後に,i社から異なる金額が記載された発注書が大阪営業所に送られてくることによって生じてしまう。大阪営業所から請求書を送付する前に,i社側が金額調整を求めてくるのである。こうじた場合,相手方担当者の顔を立てて要望に応じつつ,次の機会に元を取らせてくださいとお願いした上で,合意により,翌月以降の取引について金額を上乗せしたり,新規の案件を受注したりするという取引関係を続けてきた。
(ウ) j社分について
大阪営業所が請求書を作成した理由は前記(2)イ(イ)のとおりである。
被告会社側の製作ミスが理由で減額されたため入金額が減らされたり,クレームを受けて値引きに応じてしまうなどの理由により,売上元帳や請求書記載の金額と入金額との間に差異が生じるなどしたことがある。また,被告会社の新入社員が自分のミスを隠すためにj社との間で架空の売上げを計上していたために入金額が不足するようになったこともあった。
(エ) k協会分について
原告Aが平成26年4月24日にd社に頼み込んで被告会社宛の請求書を作成してもらったので売上元帳に記載されてしまった。しかし,同年6月14日に,原告Aは,「この取引は存在しない」と事実を報告した。したがって,被告会社に実質的損害は存在しない。
(オ) l機構分について
原告Aにも詳細な記憶はない。原告Aの記憶によれば,追加費用を求めたが未入金となっている件があったはずである。もし,未入金額があったとしても,原告Aの故意又は過失によって生じた損害とはいえない。
(カ) m社分について
原告Aの記憶によれば,被告会社の商品発送担当者が納品先や納入時期の指示を見落として発送したためにオープンハウス当日までに納品できない事態が起きてしまった。そのために同社から一方的な値下げ指示があった。そのために生じてしまった入金不足分が売上元帳に記載されている可能性があるが,それは原告Aの故意又は過失によって生じた損害とはいえない。
(キ) n局分について
原告Aの記憶によれば,受注後にページ数が増加したことによる費用増加分を支払ってもらえなかったなどの事情により,未入金額が繰越額として残ってしまった可能性があるが,これは,原告Aの故意又は過失によって生じた損害とはいえない。
(ク) o社分について
乙21号証の2は別会社に対する売上元帳であることが一目瞭然である。原告Aの記憶によれば,未入金額はなかった。
(ケ) p社分について
原告Aが,被告会社のp社に対する債権を消滅させたという事実はなく,また,p社に対して,虚偽記載を強要できるような地位や影響力を有していない。
(コ) e社分について
原告Aは,e社に対して,請求伝票の分割を強要できるような地位や影響力を有していない。また,請求伝票を隠匿していた事実はない。被告会社は,実際にしてもらった仕事に見合った金額を支払ったというものであり,元々支払うべきものを支払ったにすぎない。乙8号証は見たことがない。
(サ) d社分について
原告Aが,d社の本社で土下座をした上で請求の留保を懇願し,一時的な損失補てんのために133万5000円を送金した事実は認めるが,これは被告会社との取引継続を願い出たものであり,被告会社の利益に沿った行動である。決して,原告Aの違法行為を隠ぺいするための行動ではない。また,そもそも原告Aが自腹で損失を補てんする必要はなかったが,原告Aは被告会社の取引先を確保しなければならないという責任感を持っていたこと,当時すでにうつ病を発症していたことも相まって,被告会社に適切な説明をできない状態に陥り,不必要な赤字補てんをしてしまったのである。なお,総額286万7252円の支払を約束した事実はない。
(シ) その他について
否認する。
(ス) 弁護士費用(前記(ア)ないし(シ)に係るもの)について
否認し,争う。
(セ) c社分について
原告Aと被告Cが共謀して架空請求取引を行った事実は存在しない。
(ソ) 弁護士費用(前記(セ)に係るもの)について
否認する。
(被告Cの主張)
被告会社の問題点は,「売上額と入金額の差額」をもって損害額としている点である。差額は,通常の企業取引の中で種々の理由によって生じ得るものであり,その全てを労働者の責任に転嫁して賠償を求めることはできないはずである。もし損害があるというのであれば,架空と判断している実際の受注品目に対する適切な価格と実際の入金額とを比較して「逸失利益」が算出されるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実のほか,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)ア 原告Aは,平成26年4月11日付けで,被告会社に対し,「この度は,「株式会社 g」の入金に於きまして,私個人の誤った判断をしてしまいましたこと,誠に申し訳ございませんでした。今回の入金の経緯と原因,対応についてご報告申し上げます。」,「数ヵ月前から,B社長よりg社は評点が悪いので毎月の受注金額枠の指導がございました。今年の3月に入り,過去に見積書を提出していた案件が決まったと都度連絡が入り,前F所長へ相談し,未入金額があるので,綺麗になってから仕事を受ける様に指示があり,その後に再度与信枠を検討すると指示を仰ぎました。」,「仕事を断る事も可能でしたが,以前からg社の各担当より受注出来る可能性が高いと伺っており,私が曖昧な返答をしていた結果,引っ込みが付かない状態になっていました」,「理由としましては,大阪の売上があまりにも少なく,このままでは会社に迷惑を掛けるということと,また売上に関しては私一人でやり繰りしている状態でしたので,少しでも数字が上がればと思いました。(g社の先が良い会社であった為)」などと記載した書面を提出した(乙3)。
イ 原告Aは,平成26年4月16日付けで,被告会社に対し,「この度,株式会社g様の支払に於いて会社へ多大な御迷惑を御掛け致しましたことを深くお詫び申し上げます。請求金額が支払われない場合は,私が弁済致します。」と記載した念書を提出した(甲21)。
(2)ア d社は,平成26年4月19日,原告Aに対し,「お忙しい処恐れ入りますが下記のお値段をお教え下さい。ここで一度精算をお願いします。」などと記載したFAXを送信した(乙10の3)。
イ 原告Aは,平成26年4月24日,d社の本社を訪問し,土下座をして,「この事が会社にばれたら首になってしまう。お金については自分が全額払うので,会社には知らせないで欲しい。」などと頼んだ。
なお,原告Aは,d社で土下座して依頼したことは自認した上で,隠ぺいへの協力を求めた事実はなく,「この事が会社にばれたら首になってしまう」などと述べた記憶はない(原告A準備書面(1)10頁)旨主張し,陳述書において,土下座をした理由について,支払が遅れることについて謝罪したものである旨陳述している(甲35・17頁)。
しかし,d社から度重なる支払の催促がなされており,しかもその態様も激烈なものであったというのであればともかく,d社から原告Aに対してなされた支払の催促は前記アのほかには見当たらず,前記アの文言をみても,通常の取引の範囲内のものであることからすれば,原告Aが,わざわざd社の本社に赴き,土下座してまで謝罪し,しかも,後記ウ,エのとおり,被告会社ではなく,自らが支払う旨の念書を差し入れた上,実際,個人的に合計133万5000円もの金額を支払わなければならないような状態にあったということはできない。かえって,d社からのFAXには,「下記のお値段をお教え下さい。ここで一度精算をお願いします。」との文言があるところ,「下記のお値段をお教え下さい」との文言については,通常の取引であれば,その金額は当然d社も把握しているのだから,原告Aに金額を尋ねる必要はなく,また,「一度精算をお願いします」という文言についても,通常の取引であれば,支払期限が定められていることからすれば,同FAXが通常の取引に係る支払を求めるものではないことをうかがわせるものである。
そして,ほかに,d社との取引が通常の取引であったにもかかわらず,原告Aが土下座をして依頼し,個人的な負担をしてまで支払をしなければならない特段の事情があったことをうかがわせる事情も見当たらないこと,証拠(乙32,33の1ないし4)によれば,原告Aが,d社に対し,実際には製造していない製品,あるいは別の会社の取引として支払済みのものについて請求書を作成するよう求め,d社が,原告Aからの求めに応じて請求書を作成し,被告会社に送付したことが認められることをも併せ考慮すれば,原告Aの陳述を採用することはできず,他方,d社の担当者から,原告Aが上記のような発言をした旨を聴取したとの被告代表者の供述(乙63・6頁)を採用することができ,d社の担当者がそのような発言をしたということは,原告Aがそのような供述をしたという事実を認定することができる。
ウ 原告Aは,平成26年4月24日付けで,d社に対し,「この度,御支払いの件につきまして多大な御迷惑を御掛け致しましたことを深くお詫び申し上げます。私が必ず御支払い致します。」と記載した念書を提出した(乙31)。
エ 原告Aは,d社に対し,平成26年4月28日に50万円,同月30日に68万5000円,同年6月12日に15万円の合計133万5000円を支払った。
(3) e社は,平成26年5月又は6月頃,別紙2のとおり,実際の受注内容・金額とは異なる内容の請求書を作成した(乙8・マーカーを引いた部分が該当部分である。)。
(4)ア 原告Aは,平成26年6月9日,被告会社代表者に対し,「j社は2012.4月頃から請求額の相異が出始め現在,調べております」,「f社は2013年9月頃から相異が出始めこれも調べております。・h社会社案内 ¥125,800 ・○○冊子 ¥545,000 ・JOMO A4チラシ ¥352,500 上記は全て,私のミスで刷り直しとなりました」などと記載したメールを送信した(乙1)。
イ 被告会社代表者は,平成26年6月10日,前記アのメールに対する返信として,「・○○チラシ9店舗 486,772円 ・3月15日○○ B4チラシ 100,000枚 189,000円についてはあなたのミスではなく先方のミスですか?」,「他にも4月3日○○メニュー表199,000円の売りに対して81,900円の入金などの差額のある案件が30件ほどあります。改めて一覧にまとめて提示しますが,これらも全てあなたの操作ですか?」と記載したメールを送信した(乙6)。
ウ 原告Aは,平成26年6月10日,前記イのメールに対し,「3月15日○○ B4チラシ 100,000 189,000円は私のミスです。○○チラシ9店舗 486,722円はミスではないと思います。」,「他の4月3日 ○○メニュー表等30件ほどある差額は私が操作しました。」などと記載したメールを送信した(乙6)。
エ 被告会社代表者は,平成26年6月10日,前記ウのメールに対し,「9店舗チラシ,ミスで無いならなぜ5月の支払い分に入っていないのですか?」と記載したメールを送信した(乙6)。
オ 原告Aは,平成26年6月10日,前記エのメールに対し,「9店舗チラシも私のミスです。」などと記載したメールを送信した(乙6)。
(5)ア 被告会社代表者は,平成26年6月11日,原告Aに対し,「取引の多いf社,i社,j社の3社であなたが作った請求書と会社の請求書を照合しました。全てはさかのぼれていないですが,5月末時点での繰越残から今後振り込まれる予定の金額を差し引いた金額と比較して大差はないのでほぼ合っていると思います。その他の顧客について経理で繰越残が残っていないか確認中ですが,今判明しているものについては,全てあなたが請求金額を改ざんしたという事で間違いありませんか?間違いが無いかどうか,また,この中でまだ回収できる見込みのあるものがあるかどうか確認してください。」と記載したメールを送信した(乙2)。
イ 原告Aは,平成26年6月11日,前記アのメールに対する返信として,「入金差異の件ですが,改ざんしたということで間違いありません。大変申し訳わりません。回収できる先があるか確認し明日中に御返事致します」などと記載したメールを送信した(乙2)。
(6) 原告Aは,平成26年6月12日,被告会社代表者に対し,「土曜日は姉と訪問する予定です。」,「入金差異の件で御報告致します。」,「この分は操作しました。外注に別案件で御願いした物があるのですが(f社分)値段が合わず,上記で計上致しました。」などと記載したメールを送信した(乙7)。
(7) 平成26年6月14日,被告会社会長,被告会社代表者,被告会社専務,原告A,原告Aの姉が被告会社の大阪営業所で面談した。
(8) 被告Cは,b社の担当者として,平成26年6月16日,被告会社に対し,伝票修正依頼を受けたこと及びその内容等を記載したメールを送信した(乙9)。
(9)ア 被告会社代表者は,平成26年6月17日,原告Aに対し,「q社」との件名で,「これも細工していませんか?」と記載したメールを送信した(乙24)。
イ 原告Aは,前記アのメールに対し,「この分は,解りません」などと記載したメールを送信した(乙24)。
(10)ア 被告会社代表者は,平成26年6月18日,原告Aに対し,「未計上分をどう処理したのか添付ファイルに記入してください。」,「e社の5月分請求書,本社へ振り替えた分は来ていますが,大阪分は持っていますか?持っているならH宛に送っておくように。」と記載したメールを送信した(乙25,38)。
イ 原告Aは,前記アのメールに対し,「e社の件ですが,別添,黄色部分は実際にe社で印刷を行って納品しています。」,「わたしが,以前に架空と申したかもしれません。」,「未計上の分については,未だ調べています。」などと記載したメールを送信した(乙25)。
(11) 被告Cは,原告Aとc社との取引内容について,架空請求の取引などを行ったことを記載した文案を作成し,同文案のデータをメールでDに送信した。Dは,被告Cから送信されたデータを基に「元株式会社a・A氏とc社の取引概要の説明」と題する書面(別紙3)を完成させ,被告Cは,同日,別紙3の書面の内容を確認した上で,署名・押印した(乙11,被告C尋問調書8頁)。
(12) 原告Aは,平成27年8月頃,労働者災害補償保険法に基づく給付の請求を行ったが,名古屋西労働基準監督署は,平成28年5月,上記請求について,支給しない旨の処分を行った。
2 争点1(就業規則が周知されていたか)について
(1) 懲戒処分が,企業における服務規律あるいは秩序維持のための制度であり,これらの違反に対する制裁であることからすれば,使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則あるいは雇用契約において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する(最高裁平成15年10月10日第二小法廷判決・集民211号1頁参照)。そして,就業規則は,常時各作業場の見やすい場所へ掲示し又は備え付けること,書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって,労働者に周知しなければならず(労基法106条1項),周知性が欠ける場合には,拘束力が生じない。
本件についてみると,被告会社の主張を前提としても,被告会社は,就業規則を作成し,名古屋市所在の本社には備え付けていたものの,原告Aが勤務していた大阪営業所には就業規則を備え付けていなかったことを自認している。そして,原告Aと被告会社との間の雇用契約において,懲戒解雇に関する条件等が定められていたことを認めるに足りる証拠もない。
そうすると,大阪営業所に勤務していた原告Aとの関係においては,被告会社の就業規則の周知性が欠けていたというほかない。
(2) 被告会社は,①就業規則は本社に備え付けてあることを従業員にも説明しており,従業員は,総務担当者に連絡をすればいつでもみることができた,②原告Aも有給休暇申請時には就業規則に記載されたとおり申請書を提出していた,③仮に,就業規則の周知性に問題があったとしても,従業員が意図的に不正行為を繰り返しているような場合に懲戒解雇できないというのは極めて不合理であるから,意図的に不正行為を繰り返す従業員を懲戒解雇する場合には,就業規則の周知の程度等は弱いもので足りる旨主張する。
しかし,①については,仮に,被告会社が主張するとおり,総務担当者に連絡をすれば就業規則の内容を閲覧することが可能であったとしても,被告会社の大阪営業所では就業規則が備え付けられておらず,また,被告会社の大阪営業所に備え付けられたパソコンを利用すれば,就業規則の内容を閲覧することができたというような事情を認めるに足りる証拠もない以上,周知性を欠くことに変わりはない。
②については,仮に,被告会社が主張するように,被告会社の就業規則において有給休暇を取得する際には申請書を提出することとされており,原告Aが有給休暇を取得する際に申請書を提出していたとしても,それは,原告Aが,有給休暇を取得しようとした際に,上司あるいは同僚等に対し,どのような手続を取ることが必要かを尋ねて,申請書の備付け場所や提出先等の教示を受けたことによるものであることが容易にうかがわれるが,そのような手続の教示がなされたとしても,就業規則の周知がなされたことになるものではない。
③については,確かに,上記のように解した場合,従業員が重大な不正行為を行った場合であっても,就業規則の周知性を欠いていれば懲戒解雇をすることができないことになるが,それは,使用者が,就業規則の周知義務を怠ったという自らに帰責性がある事由の結果である(なお,その場合であっても普通解雇することは可能である。)。被告会社の主張は独自の見解にすぎず,採用の限りでない。
なお,被告会社が引用する最高裁昭和27年10月22日大法廷判決は,就業規則が当該事業場において既に実質的に周知されていた事案であるから,本件とは事案を異にする。
3 争点2(原告Aに懲戒事由に該当する架空発注があるか)について
(1) 前記2説示のとおり,被告会社大阪営業所には就業規則が備え付けられていなかったため,懲戒権を欠くことになるから,懲戒解雇を行うことはできない。しかし,懲戒解雇を相当とする懲戒事由があれば,そのことを理由として普通解雇を行うことは可能であるところ,被告会社は,予備的に本件普通解雇を行っている。そこで,原告Aの行為について検討する(そのため,以下においては,懲戒解雇の有効性を検討するものではないが,「懲戒事由」との用語を用いることとする。)。
なお,原告Aは,被告Cに関する事情を追加することは許されない旨主張するところ,懲戒解雇は懲戒権の行使によるものであるから,懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は,特段の事情がない限り,当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから,その存在をもって当該懲戒の有効性を基礎付けることはできないが(最高裁平成8年9月26日第一小法廷判決参照),当該懲戒の理由とされた非違行為と密接に関連した同種の非違行為の場合は,追加することが許されると解するのが相当である。そして,本件において,被告会社が主張する行為は,同種の行為であるから,追加して主張することも許されるといえる。
また,そもそも,本件では,上記のとおり,懲戒解雇ではなく,普通解雇について検討することになるところ,普通解雇については,懲戒権の行使ではなく,私法上の解雇権の行使であるから,懲戒解雇の場合とは異なり,解雇時に客観的に存在した事実であれば,使用者が認識していなくても解雇を有効ならしめる事由として主張することができるから,やはり被告Cに関する事情を追加することもできる(なお,後記8説示のとおり,本件普通解雇は,そもそも平成28年1月20日に行われたことになるから,解雇の意思表示時に被告会社が認識していた事情であることは明らかである。)。
(2) 原告Aは,架空発注を行っていたことを自認した上で,顧客を継続的に確保するためには納期遵守が必須であり,そのためには外注先を確保しておく必要があるが,外注先に赤字が出た場合に,その補てんがされないと納期遵守及び将来の外注先確保が困難であるから,そのために架空発注を行ったものであり,原告Aの行為は,被告会社の利益になる行為であるから懲戒事由に該当しない旨主張する。
しかし,どのような方法・方針で取引を進めていくかは被告会社が組織として決めるものであって,値引き幅をどうするかなど,個々の取引について担当者である原告Aに被告会社の方針の範囲内で一定の裁量があるとしても,外注先の赤字を補てんするという取引方法の根幹にかかわるような事項について,被告会社の方針となっていないにもかかわらず,担当者である原告Aが自由に決めるようなことになれば,企業秩序の維持を図ることはできず,また,被告会社の経営をゆるがせる事態ともなりかねない。
しかも,実体に合致しない架空の請求書等を用いることとし,そのことを被告会社に秘していたのであれば,被告会社としては,現在の取引の内容・状態を適正に把握することができず,経営判断に誤りを来すこととなる。
また,原告Aが主張するような方法で外注先を確保し,納期を遵守しようとすれば,短期的には良好な結果が得られたとしても,長期的な観点から見た場合には,被告会社の方針で定められた金額での取引を提案しても,従前はその金額よりも低額な金額で取引をしていたとして,値引きを求められたり,取引を行うことができなくなることが容易に想定されるのであり,原告Aが行ってきた方法が,被告会社にとって利益があるといえるかについても疑問を抱かざるを得ない。
そして,仮に,原告Aが主張するとおり,原告Aが外注先の赤字を補てんしたことで外注先を確保でき,また,納期を遵守できたことで取引が継続したというような事例があったとしても,それは結果論にすぎない。
以上からすれば,原告Aの主張を前提としても,原告Aが行っていた行為は,懲戒事由に該当する架空発注・隠ぺい工作である。
(3) 個別の事案について検討すると以下のとおりである。
ア 事例①について
原告Aは,事例①について,納品期日が迫った段階で,e社から当初の金額ではできなくなったと言われ,被告会社代表者からの叱責や給料天引きを恐れて,窮余の策として,伝票1及び伝票1-(2)(甲17号証の3)を作成したもので,(a)当初から赤字受注をしたものではなく,また,赤字受注を隠し通す意図もなかった,(b)他の案件でf社から入金があれば,それをk協会兵庫支部の案件での入金であると説明して損失を取り戻すつもりであった旨主張する。
(ア) しかし,(a)については,仮に,原告Aが主張するとおりの事実経過であったのであれば,原告Aに責められるべき点はなく,e社が約定に反しているのであるから,原告Aとしては,被告会社に報告し,対応を検討すれば足りたものである。また,原告Aは,赤字受注を隠し通す意図はなかった旨も主張するが,原告Aが,被告会社から問い質されるまで,事例①について,赤字受注をしたこと及びそのような赤字受注をした理由等について被告会社に申告したというような事実もなく,申告の準備をしていたというような事実もないこと,後記で説示するとおり,他にも複数の事例について同様あるいは類似の事態となっていることからすれば,原告Aが,事例①に関する事情を被告会社に申告しようとする意思を有していたとはうかがわれない。
(イ) また,(b)については,他の案件についてf社から入金があったとしても,それは,後続の案件に関するものとして入金されるものであり,原告Aが一方的に,事例①に関する入金として扱うことができるものではなく,仮に,原告Aがそのような取扱いをしようとしたとしても,f社からすれば,そのような取扱いをすれば後続案件について未払いが残ることになるのだから,f社がそのような取扱いを許容することは想定し難い。そうすると,原告Aが,他の後続案件での入金をk協会兵庫支部に関する入金として取り扱かったとしても,k協会兵庫支部に関する未払いは解消されるものの,後続案件については未払い状態となるのだから,結局,被告会社の損失が回復されることにはならない。
(ウ) 以上からすると,事例①に関する原告Aの対応は,仮に,原告Aの主張するとおりの経緯であったとしても,赤字受注になったことについて,被告会社に秘したままとするものであり,しかも,報告しなかったという不作為にとどまらず,内容虚偽の伝票を作成するという積極的な行為に及んだものであるから,単に赤字受注をしたというにとどまらず,積極的に隠ぺい工作に及んだものと評価するほかない。
イ 事例②について
原告Aは,事例②について,(a)当初から赤字受注する意図はなかった,(b)被告会社が作成しなければならないと主張する伝票を作成し,メールに添付して本社に送信した,(c)請求書の発行遅れが常態化していたことから,大阪営業所では本社から請求書が届くのを待たずに請求書を発行しており,請求書(甲17の3・3枚目)は,いずれも大阪営業所長の了解を得て作成されたものであり,無断で作成したものではない旨主張する。
(ア) しかし,(a)については,仮に,当初から赤字受注する意図がなかったというのであれば,原告Aとしては,赤字受注になったことについて被告会社に報告する必要があるが,原告Aがそのような報告を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
(イ) (b)については,原告Aが主張するような伝票あるいはメールが存在することを認めるに足りる証拠はない。仮に,原告Aがそのような伝票を作成し,メールに添付して送信していたのであれば,平成26年4月以降に,被告会社から架空の取引ではないかと問い質された際に,当該伝票あるいはメールの存在を指摘することが可能であったが(なお,原告Aが,被告会社の調査に唯々諾々と従っていたものでないことは後記6説示のとおりである。),調査段階において,原告Aがそのような対応をしたというような事情も見受けられない。
(ウ) (c)については,仮に,大阪営業所長が押印したものであるとしても,所長が赤字受注であることや,本社に報告していないことを認識していればそのような請求書の作成を承認することは想定し難いのであって,事実関係を秘した上で,所長の押印を得たとしても,そのことをもって,所長が了解していたことになるものでない。
(エ) 以上からすると,原告Aは,事例②に関して被告会社に売上伝票を送信することなく,無断で請求書を作成し,入金をさせることになるが,かかる原告Aの行為については,原告Aの事例①に関する主張をも併せ考慮すれば,事例②に係る入金をもって,別の取引に係る赤字受注の穴埋めを意図するなど,不正な意図があったことを推認することができる。
ウ 事例③について
原告Aは,事例③について,(a)当初から赤字受注する意図はなかった,(b)伝票を作成しなかったという明確な記憶はない,(c)他の案件で入金があれば,それを事例③の入金であると説明して損失を取り戻すつもりであった旨主張する。
(ア) しかし,(a)については,前記イ(ア)と同様である。
(イ) (b)については,売上げが発生したのであれば伝票を作成しなければならないことはいうまでもないが,原告Aが事例③に係る伝票を作成したことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) (c)については,前記ア(イ)と同様である。
(エ) 以上からすると,原告Aは,事例③に関して被告会社に売上伝票を送信することなく,無断で請求書を作成し,入金をさせることになるが,かかる原告Aの行為については,(c)の主張をも併せ考慮すれば,事例③に係る入金をもって,別の取引に係る赤字受注の穴埋めを意図するなど,不正な意図があったことを推認することができる。
エ 事例④について
原告Aは,事例④について,(a)当初から赤字受注する意図はなかった,(b)やむなく伝票28(甲17の4・4枚目)を作成して,一時的に赤字受注の報告を先延ばしにしようとしたものである旨主張する。
(ア) しかし,(a)については,前記イ(ア)と同様である。
(イ) (b)については,仮に,原告Aが主張するとおりの経緯であったとしても,内容虚偽の伝票を作成し,その伝票を被告会社本社に提出すれば,被告会社本社は同伝票に基づいて請求書を作成することとなるが,その場合,請求書に記載すべき金額が実際の金額とは異なることとなるから,原告Aは,被告本社が作成した請求書ではなく,別の請求書を作成し,取引先に送付したことが推認できる。そして,そのような事態となれば,被告会社はもとより,取引先にも混乱を来すこととなるから,仮に,原告Aが主張するような事情があったとしても,内容虚偽の伝票を作成すること,被告会社に無断で,被告会社が作成したものとは別の請求書を作成し,取引先に送付することが許されるものではない。
(ウ) 以上からすると,原告Aは,事例④について,仮に,原告Aの主張するとおりの経緯であったとしても,赤字受注になったことについて,被告会社に秘したままとするものであり,しかも,報告しなかったという不作為にとどまらず,内容虚偽の伝票や請求書を作成するという積極的な行為に及んだものであるから,単に赤字受注をしたというにとどまらず,積極的に隠ぺい工作に及んだものと評価するほかない。
オ 事例⑤について
原告Aは,事例⑤について,外注先が見積額より高い金額を請求して譲らなかったため,やむなく伝票29,29(2),29(3)(甲17の3・5ないし7枚目)を作成したもので,一時的に赤字受注の事実報告を先延ばしにしようとしたのは事実であるが,自己の利益のために行ったものではない旨主張する。
しかし,仮に,原告Aが主張するような経緯であったとしても,原告Aとすれば,被告会社に事実を報告して対応を検討しなければならなかったのであり,内容虚偽の伝票を作成することとなれば,被告本社が作成した請求書ではなく,別の請求書を作成し,取引先に送付したことが推認できること,そのような行為が許されないことは,前記エ(イ)と同様である。このことは,原告Aが主張するとおり,同行為によって,原告Aが個人的な利益を得ていなかったとしても左右されない。
カ 事例⑥について
原告Aは,事例⑥について,原告Aのミスではないにもかかわらず,取引先であるf社が支払わないという態度をとったことから,当初作成していた伝票30(2)(甲17の3・9枚目)に加えて伝票30(甲17の3・8枚目)を作成して一時的に帳尻を合わせようとしたものである旨主張する。
しかし,そのような伝票等を作成することが,単なる赤字受注にととまらず,隠ぺい工作にまで及んだものとして許されないことは,これまでに説示してきたのと同様である。
キ 事例⑦について
原告Aは,事例⑦に関して,(a)d社に赴いた際に,「このことが会社にばれたらくびになってしまう」などと述べた記憶はない,(b)被告会社代表者から罵倒されたり自腹弁償を命じられることを回避するためにやむを得ずにとった行動で,自己の利益を図るために行ったものではないなどと主張する。
(ア) しかし,(a)については,既に,認定事実(2)で説示したとおりであり,原告Aは,土下座をして被告会社に報告しないよう求め,個人的に弁済を行ってまで被告会社に事態が発覚することを防止しようとしたものであり,かかる一連の経緯に照らせば,原告Aが隠ぺい工作を行ったものと評価するほかない。
(イ) (b)については,被告会社が,事例①ないし⑦以前から,原告Aに非がないにもかかわらず,取引から発生した損害を負担させていたのであれば,原告Aが,そのような支払あるいは給与からの控除を行っていたことになるが,そのような事実を客観的に裏付けるに足りる証拠はない(ペナルティとして給与を減額したと認めることができないのは,後記5説示のとおりである。)。
その点をさておくとしても,被告会社代表者が,原告Aが主張するような対応をとっていたのであれば,平成26年4月以降に,原告Aに対して架空発注や隠ぺい工作があったのではないかと問い質す際にも厳しい言動となることが想定されるが,被告会社代表者が,常軌を逸したような態様での追及をしたことを認めるに足りる証拠がないことは後記6説示のとおりである。
(ウ) 以上からすると,原告Aは,事例⑦について,仮に,原告Aの主張するとおりの経緯であったとしても,内容虚偽の請求書を作成してもらったり,個人的な弁済をしてまで口止めするという積極的な行為にまで及んだものであるから,経緯を報告しなかったという不作為にとどまらず,積極的に隠ぺい工作に及んだものと評価するほかない。このことは,原告Aが主張するとおり,同行為によって,原告Aが個人的な利益を得ていなかったとしても左右されない。
ク 被告Cに関するものについて
(ア) 被告Cは,原告Aからの求めを受け,変更しても大丈夫か確認した上で,異なる内容・金額の請求書を作成したものであり,被告Cの都合で変更したものではない,請求書の発行は架空ではなく,正当な取引の名目を変更したものである,乙11号証は,懲戒解雇を免れると思って作成したものである旨主張する。
これに対し,原告Aは,請求書に一部実際の内容とは異なるものがあることを認めた上で,それは,原告Aが求めたものではなく,被告C(c社)から求められたものである,原告Aが被告Cから現金を受領したことはなく,乙11号証は被告Cが真意から作成したものではない旨主張する。
a 乙11号証についてみると,同書面は,被告Cが,自ら文案を考え,Dが被告Cの文案に基づいて完成させたものについて,被告Cが内容を確認した上で署名押印したものであるところ(認定事実(10)),同書面の内容は,被告Cが作成した文案と異なるところは見当たらないものとなっているが(被告C尋問調書8,9頁),同書面の内容は,被告Cが,原告Aと共謀の上,不正な行為を行っていたことを自認するものとなっている。また,被告Cは,Dから事情聴取された際に,記憶にのみ基づいて回答したものではなく,事前に請求書のコピーの交付を受けており,同コピーに付箋をつけるなどして,架空の取引と通常の取引とを区別して回答をしている(乙11,30(枝番を含む。),62・3,4頁,被告C尋問調書9.10頁)。そして,乙11号証の記載内容をみても,架空の取引が合計30件であるのに対し,通常の取引が52件であったと回答しているが,b社が,被告Cの言い分を聞き入れることなく,一方的に文案を指示したのであれば,82件の取引全てあるいはその大多数が不正であった旨の説明をしたことになることが容易に想定されるが,上記のとおり,不正な取引は約36%にとどまっている。また,Dが事前に被告Cに請求書のコピーを渡し,被告Cが同コピーに付箋をつけるなどして架空取引を特定していったという経緯に鑑みれば,その特定過程には被告C以外の者が関与していない。そして,被告Cは,乙11号証は懲戒免職を免れるために作成したものであると主張する一方で,b社の代表者あるいはDから,乙11号証を作成すれば懲戒解雇を免除するとの約束があったけではないとも説明していることからすれば,b社の代表者あるいはDが,不当な誘導を行ったということもできない。
以上からすると,乙11号証は,同書面作成時における被告Cの認識が記載されたものと評価することができる。
b 次に,請求書の記載について,架空の取引であったのか,実在する取引の名目・金額を変更したものであるかはさておき,原告Aか被告Cのいずれからの求めで実際の取引内容と異なる記載をすることになったのかについて検討する。
原告Aについては,これまで説示してきたとおり,被告C(c社)に関するもの以外についても,実際の取引とは異なる内容の伝票や請求書を作成していることが認められるところ,そうであれば,被告C(c社)との関係でも同様の行為に及んだことが容易に推認できる。なお,原告A自身も,自ら,実際の取引とは異なる内容にするよう求めたことがあることは自認している(原告A尋問調書46頁)。
他方,被告Cは,乙11号証作成時から一貫して原告Aから異なる内容での請求書の作成を依頼された旨説明しているほか,乙11号証に記載された異なる内容の請求書を作成するに至る経緯として説明する内容も首肯できる合理的な内容と評価することができる。
以上からすると,被告C(c社)関係で,異なる内容・金額の請求書を作成することとなったのは,原告Aからの要請によるものと認められる。
(イ) また,被告Cは,乙11号証において,例えば5万円の架空請求を計上し,4万円を原告Aに返金し,1万円をc社が取得する(被告Cの妻は名目的な代表者であり,実質は被告Cがc社の業務を行っていたことからすると,被告Cが取得したことになる。)ということを行っていた旨記載しているほか,本人尋問においても,その回数・金額についてはさて措くとしても,上記のように,架空案件について入金された金員について,一部を原告Aに渡し,一部を被告Cが取得したことがある旨供述しているところ(被告C尋問調書9頁),かかる行為は,被告Cにとって不利益な事実であることからすれば,被告Cの供述を信用することができ,そのような事実があったと認めることができる。
(ウ) 以上の説示に照らせば,原告Aの被告Cに関する行為は,内容・金額が実体に合致しない請求書を作成させ,同請求書に基づいて支払われた金員の一部を受領するというものであったことになるが,そのような行為が許されないことはいうまでもない。
なお,仮に,原告Aが被告Cから現金を受領していないとの原告Aの主張を前提としても,原告Aが,被告C(c社)に,実際の取引とは異なる内容・金額の請求書を作成させていたことになるが,そのような行為が行われれば,同請求書に基づいて被告会社が支払を行うことになり,被告会社に損害を与えるものであるから,やはり,積極的な不正行為を行ったものとして許されないものである。
ケ 以上からすれば,原告Aには,懲戒事由に該当する架空発注及び隠ぺい工作があると認められる。
4 争点3(本件懲戒解雇が解雇権の濫用に当たるか)及び争点4(本件懲戒解雇に適正手続違反があるか)について
前記2説示のとおり,被告会社の大阪営業所に勤務していた原告Aとの関係では就業規則の周知性を欠く状態であったことになるから,本件懲戒解雇はその懲戒権を欠く状態で行われたものといわざるを得ない。
そうすると,その余の点について検討するまでもなく,本件懲戒解雇は無効であるから,争点3及び争点4については検討を要しない。
5 争点5(本件普通解雇が解雇権の濫用に当たるか)について
前記3認定説示のとおり,原告Aは,赤字発注や隠ぺい工作を行ったり,被告Cと共謀の上,架空の取引を計上し,同取引に基づき被告会社がc社に支払った金員を分配して受領するなどしていたところ,その経緯,回数,金額,判明した後の原告Aの態度等に鑑みれば,重大な非違行為に当たり,解雇事由に該当するといえる。
原告Aは,①外注先確保及び納期の遵守のためには,外注先の赤字の補てん及びそのための架空発注もやむを得ず,補てんさせた価格を将来の取引で調整することを約束させるなどの努力を行った,②売上目標を達成できなければペナルティとして給与から天引された,③人員不足であり,適切な経営管理が行われていなかった,④請求書の発行は,上司の承諾を得ていた,上司や同僚も同様の行為を行っていた,⑤着服等の不正は行っていない,⑥これまで処分を受けたことはなく,勤務成績も良好であるなどとして,本件普通解雇が解雇権の濫用に当たる旨主張する。
しかし,①については,外注先の確保や納期遵守のためであっても,外注先の赤字の補てんや架空発注が被告会社の利益にならないことは既に説示したとおりであり,そのことは,仮に,原告Aが主張するとおり,将来の取引での調整を約束させていたとしても左右されるものではない。
②については,証拠(乙5)及び弁論の全趣旨によれば,被告においては,成果主義あるいは評価基準制が導入されていたことが認められるところ,原告Aに対する賃金の支給額が変動したのは,上記各制度によるものであることがうかがわれる(なお,原告Aは,平成23年4月分について,2000円を天引する旨記載された紙片が交付された旨主張するが(原告A準備書面(1)・3頁),そのような紙片が存在することを認めるに足りる証拠はない。)。また,その点をさておき,仮に,原告Aが主張するとおり,ペナルティとして減額がされたのであれば,それが懲戒処分としての減給処分であれば,その処分の当否が問題となるものであり,懲戒処分としての減給ではなく,一方的に減給したのであれば,それは賃金の一部が未払いであったことになる。しかし,そのような懲戒処分あるいは賃金の減額があったとしても,そのことをもって,架空発注等を行うことが正当化されるものではない。
③については,仮に,原告Aが主張するとおり,被告会社(特に大阪営業所)が人員不足であり,適切な経営管理が行われていなかったとしても,架空発注等を行うことが正当化されるものではない。
④については,上司や同僚が,原告Aと同様の行為を行っていたことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠はなく,また,上司が,そのような請求書を発行することを了承していたことを認めるに足りる証拠もない。なお,請求書に所長の押印があることをもって,所長が了解していたことになるものではないことは,既に説示したとおりである。
⑤については,仮に,原告Aが,着服等の不正を行っていれば,行為の悪質性がより高くなるにすぎず,着服等を行っていないことをもって,本件普通解雇に解雇権の濫用があることの証左となるものではない。
⑥については,確かに,原告Aは,本件のほかに懲戒処分を受けたことはないが,通常に勤務していれば懲戒処分を受けることはないのであるから,懲戒処分を受けたことがないことをそれほど重要な要素として考慮することはできない。また,勤務成績が良好であったとしても,その評価の根拠となる営業成績の中には,赤字受注等が含まれていることになるから,やはり,重要な要素として考慮することはできない。
以上からすると,原告Aのために酌むべき事情を十分に考慮しても,原告Aが行った行為の重大性・影響等からして,重大な解雇事由に当たるというべきであり,その行為の重大性・影響等に鑑みれば,本件普通解雇が解雇権の濫用に当たるということはできない。
6 争点6(本件懲戒解雇又は本件普通解雇が労基法19条1項に反するか)について
本件懲戒解雇が懲戒権を欠く状態で行われたものであり,無効であることは前記4説示のとおりであるから,争点6のうち本件懲戒解雇に関する部分については検討を要しない。そこで,本件普通解雇に関する部分について検討すると,原告Aは,本件普通解雇は,業務上疾病にかかり療養のために休業する期間中になされたものであるから,労基法19条1項に反する旨主張し,業務上の疾病である根拠として,①被告会社大阪営業所の従業員であるGによる嫌がらせ,②継続的な長時間労働,③被告会社代表者による威圧的な言動が原因である旨主張する。
しかし,①については,Gが,原告Aの入社直後から原告Aに対し暴言を吐いていたことを認めるに足りる証拠はない。
②については,原告Aが送信したメールの時刻(乙1,2,7,25)に照らせば,原告Aが,一定の時間外労働を行っていた可能性があることは認められるが(なお,被告会社は,原告Aが深夜に隠ぺい工作を行っていた旨主張しており,隠ぺい工作に従事していた時間は労働時間に当たらない旨主張しているものと解されるが,その点については,さておく。),それを超えて,原告Aが,その主張するような長時間労働を行っていたことを客観的に裏付ける証拠は存在しない。
③については,確かに,認定事実(1)イのとおり,原告Aが,g社との取引に関し,支払がなければ原告Aが弁済する旨の念書を作成していることが認められる。しかし,実際に,原告Aが,同念書に基づき,弁済をしたというような事情はうかがわれない。また,被告会社代表者が,平成26年4月以降,原告Aに対し,取引に不明瞭な部分があるとして,メールあるいは面談(平成26年6月14日)するなどして説明を求めているが,取引に不明瞭な部分があれば,そのことについて説明を求めるのは当然であるし,その際,常軌を逸したような態様での追及がなされたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,原告Aと被告会社代表者の間でやり取りされたメールの内容に照らせば,被告会社代表者の言動に不適切な文言があるということはできず,また,原告Aも,被告会社代表者から,操作(不正)をしたのではないかと問い質された際に,一部については,「分からない」,「実際に印刷を行って納品している」旨回答するなどしており(認定事実(8)イ,(9)イ),被告会社代表者の追及に唯々諾々として従っていたものではないことが明らかである。
なお,原告Aは,平成26年6月14日の面談について,当日,突然,被告会社代表者から姉と一緒に本社に来て架空発注について説明するよう求める連絡があり,いったんは断ったが,被告会社代表者が,それであれば原告Aの自宅に行くと言って譲らなかったため,同日,大阪営業所で面談することとなった旨主張する(訴状5頁)。
しかし,認定事実(6)のとおり,原告Aは,同月12日(木曜日)に,被告会社代表者に対し,「土曜日は姉と訪問する予定です。」,「入金差異の件で御報告致します。」などと記載したメールを送信していることに照らせば,原告Aは,少なくとも,同月14日の面談の2日前の同月12日の時点で,同月14日に被告会社代表者と面談すること及びその際に問題となる事項(入金差異)を認識していたことが認められるから,面談当日に突然,被告会社代表者から,姉と一緒に本社に来て架空発注について説明するよう求められたものではなく,原告Aの主張は事実に反するものとなっている。
そして,前記3認定説示のとおり,原告Aが,不適切な受注を行ってきていたことに鑑みれば,原告Aがうつ病の発症に関しては,業務に内在する危険性に起因するものではなく,そのような自らの行為が発覚したという他原因が存在するといえる。
以上からすると,原告Aがうつ病を発症したことについて業務起因性を認めることはできず,本件普通解雇が労基法19条1項に反するということはできない。
7 争点7(損害額)について
原告Aは,赤字受注のみならず,取引先(被告会社が受注したものと,被告会社が発注したものの双方がある。)に依頼するなどして,架空の取引を計上したり,実際の取引の内容・金額を変更した請求書を作成・送付してもらったり,あるいは自らそのような請求書を作成・送付するというような行為にまで及んでいるところ,実際の取引の内容が正確に被告会社に報告されない結果,被告会社としては,実際は発注していない製品の製造を発注したものとして代金の支払をしたことで損失を被ったり,当該取引が採算が取れるものとして受注して,下請業者に製品の製造を発注した結果,当該取引を受注したことでかえって損失を被ったりという事態が生じている(架空の取引が計上されることで,取引相手においては,全ての取引の代金が既払となっているのに対し,被告会社においては,いまだ未回収の代金があることになっているというような事態もあるが,その場合,被告会社は,発注者からの入金が得られないにもかかわらず,下請業者には製品の製造代金等を支払わなければならないこととなり,損失を被ることとなる。)。
そして,上記のような原告Aの行為は,過失行為ではなく故意行為である。そうすると,原告Aの行為によって,被告会社に損失が生じたときは,債務不履行あるいは不法行為として損害賠償義務を負うことになる。
そこで,以下,損害額について検討する。
(1) f社分について
証拠(乙14(枝番を含む))及び弁論の全趣旨によれば,被告会社とf社との取引について,原告Aが作成した売上伝票の金額と,実際の入金額(取引額)との差額が,合計234万0856円であることが認められる。
そして,これまで説示してきた事情に照らせば,上記のような差額が生じたのは,原告Aが,架空の取引を計上したり,正規の取引の金額を水増しするなどしたことに起因するものであることがうかがわれる。
そうすると,上記差額の234万0856円が被告会社の損害であると認められる。
(2) i社分について
証拠(乙15(枝番を含む))及び弁論の全趣旨によれば,被告会社とi社との取引について,原告Aが作成した売上伝票の金額と,実際の入金額(取引額)との差額が,合計27万2273円であることが認められる。
原告Aは,i社の担当者の要望に応じて,同担当者と合意の上で,翌月以降の取引に金額を上乗せしたり,新規の案件を受注するなどしていた旨主張する。
しかし,i社の担当者の要望があったとしても,翌月以降の取引に金額を上乗せすれば,それは架空の取引の計上あるいは正規の取引の金額の水増しになるが,原告Aがそのような行為を行うことが許されないことはこれまでに説示してきたとおりである。
そうすると,上記差額である27万2273円が被告会社の損害であることが認められる。
(3) j社分について
証拠(乙16(枝番を含む))及び弁論の全趣旨によれば,被告会社とj社との取引について,原告Aが作成した売上伝票の金額と,入金額(実際の取引額)との差額が,合計60万5887円であることが認められる。
原告Aは,被告会社の新入社員が自分のミスを隠すためにj社との間で架空の売上げを計上していた旨主張するが,そのような事実を認めるべき証拠はない。
そうすると,上記差額である60万5887円が被告会社の損害と認められる。
(4) k協会兵庫支部分について
証拠(乙17(枝番を含む))及び弁論の全趣旨によれば,被告会社とk協会兵庫支部との取引について,原告Aが作成した売上伝票の金額と,入金額(実際の取引額)との差額が,合計69万2164円であることが認められる。
もっとも,被告会社の主張を前提とすれば,上記取引のうち2件については,支払前に原告Aの行為が発覚したことで支払を停止することができたというのであるから(原告Aも,架空の取引である旨を申告した旨主張している。),原告Aの行為が許されないものであることはともかく,同2件の取引については,被告会社は損害の発生を食い止めたといえ,ひいては,被告会社には損害は生じていないことになる(なお,被告会社も,この点に関しては,損害が発生していないことを認めていると思われる(被告会社準備書面(8)6頁)。)。
したがって,k協会兵庫支部のうち原告Aの行為により被告会社が被った損害は,合計26万7724円となる。
(5) l機構分について
証拠(乙1,18)及び弁論の全趣旨によれば,l機構に関する繰越しとして29万3699円が残っていること,原告Aが,被告会社代表者に対し,「l機構 見積計算間違いをしました。¥293,699」と記載したメールを送信したことが認められる。
確かに,原告Aの行為に鑑みれば,原告Aがl機構との関係においても,架空の取引を計上するなどしていた可能性はあるといえる。しかし,他方で,上記のとおり,原告Aは,l機構との関係で残額がある理由として見積計算間違いをしたためである旨申告しているところ,何らかの過失により差額・未払いが生じることはあり得るのであり,このことは,原告Aが他の会社との関係で架空計上等の不正行為を行っていたとしても左右されるものではない。そして,仮に,原告Aが申告したとおり,l機構との関係で残額がある理由が計算間違いによるものであるのならば,その全額について直ちに原告Aが負担しなければならないものということはできない。
被告会社は,原告が資料を紛失しているため詳細が不明である旨主張しているが,上記のとおり,被告会社に残存している資料に基づけば,l機構との関係で残額があることになっているのだから,被告会社とすれば,l機構に支払請求をする,あるいは,l機構に対し,取引の確認を依頼するなど協力を求めれば,真に残額があるのか,あるいは残額はない,すなわち,被告会社に存在する資料に残額があることになっているのは原告Aの架空計上等の行為によるものであるのかを明らかにすることが可能であったといえる(実際,被告会社は,後記(9)のとおり,p社との関係では,p社の代表者から事情を聴取し,資料の提供を受けるなどしている。)。
以上からすると,l機構との関係で残額があることになっていることについては,原告Aの架空計上等の不正行為によるものであることの証明がなされているということはできない。
(6) m社分について
証拠(乙1,19))及び弁論の全趣旨によれば,m社に関する繰越しとして24万4533円が残っていること,原告Aが,被告会社代表者に対し,「m社 2012年8月にl機構のB3チラシを納品しましたが納品クレーム(私の指示ミス)で¥244,533を値引きされました。」と記載したメールを送信したことが認められる。
前記(5)で説示したとおり,上記の繰越残額についても原告Aの行為(架空計上等)に起因する可能性はあるが,他方で,前記(5)同様,納品クレームを生じさせる過失により差額・未払いが生じることもあり得るのである。そして,前記(5)同様,被告会社は,m社に対して協力を求めるなどしておらず,その結果,詳細が不明なままとなっている。
そうすると,前記(5)同様,m社との関係で残額があることになっていることについては,原告Aの架空計上等の不正行為によるものであることの証明がなされているということはできない。したがって,被告会社の損害と認めることはできない。
(7) n局分について
証拠(乙1,20)及び弁論の全趣旨によれば,n局に関する繰越しとして17万0932円が残っていること,原告Aが,被告会社代表者に対し,「n局 見積計算間違いをしました。¥170,932」と記載したメールを送信したことが認められるが,同残額があることになっていることについては,原告Aの架空計上等の不正行為によるものであることの証明がなされているということができないのは,前記(5)と同様である。したがって,被告会社の損害と認めることはできない。
(8) o社分について
証拠(乙21の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,o社に関する繰越しとして6万5957円が残っていることが認められるが(なお,メール(乙1)においても,何ら言及されていない。),同残額があることになっていることについては,原告Aの架空計上等の不正行為によるものであることの証明がなされているということができないのは,前記(5)と同様である。したがって,被告会社の損害と認めることはできない。
(9) p社分について
被告会社は,原告Aが,隠ぺい工作としてp社の関係でも架空案件を計上した旨主張する(なお,債権を消滅させたとの主張もあるが,領収証(乙22)を回収したとしても債権が消滅するものではないので,架空案件を計上することで被告会社がp社に対して支払義務を負う債務が増加し,その結果,債権(利益)を消滅させたとの趣旨と解した。)。
証拠(乙40の1ないし10,41の1ないし7,63)及び弁論の全趣旨によれば,p社と被告会社との取引は,1か月ごとに締日が設けられ,毎月20日に請求されることとなっていたこと,同じ月に内容の異なる複数の請求書が存在する月が存在すること,上記請求書のうち,内容が実際の取引と一致しないもの(乙41の1ないし7)が被告会社に送付されていたことが認められるところ,正常な取引を行っていたのであれば,同じ月について複数の請求書が作成されることはなく,内容虚偽の請求書を送付する理由も必要性もない。そうすると,被告会社代表者が,p社の代表者から事情を聴取した際に,原告Aの指示・懇願を受けて内容虚偽の請求書を送付していた,領収書の送付を受けた際に,取引に心当たりがなかったことから原告Aに確認したところ,原告Aが,「領収証の発行自体が間違いであった」として,当該領収証を回収に来た旨を聴取したと陳述していることは,その内容が合理的かつ具体的であり,信用することができ,その陳述するとおりの事実を認定することができる(なお,乙40号証の1ないし10は同聴取の際にp社から交付を受けたものであることがうかがわれる。)。
そして,上記の正規の請求書(乙40の1ないし10)と内容虚偽の請求書(乙41の1ないし7)に記載された売上げを比較すると,正規の請求書には記載がないが,内容虚偽の請求書には記載が存在するもの(これが架空取引となる。)がある一方で,正規の請求書には記載があるが,内容虚偽の請求書には記載がないものがあるところ,正規の請求書に記載があるものについては,被告会社は支払義務を負うものである(なお,双方に記載があるが,金額が異なるものもあるところ,それらについては,被告会社は,正規の請求書に記載された金額について支払義務を負う。)。そこで,双方の請求書に記載された売上げの総額を対比すると,正規の請求書に記載されたものが合計100万3290円であるのに対し,内容虚偽の請求書に記載されたものが合計127万6100円となっている。そうすると,上記の差額の27万2810円が,原告Aの行為(架空取引の計上あるいは正規の取引の名目・金額の操作)によって生じた被告会社の損害ということができる(ただし,本件においては,被告会社がp社に係る損害を25万7040円としているので,同金額の範囲で認めることとする。
(10) e社分について
ア 証拠(乙8)及び弁論の全趣旨によれば,e社が,原告Aの依頼に応じて,①平成26年3月20日締めの取引のうち,実際は「k協会3種,31万部,52万3912円」の取引について,「(a)k協会,31万部,36万0912円,(b)○○チラシ,10万部,16万3000円」と分割した虚偽の取引を記載した請求伝票を作成して被告会社に送付し,被告会社が同伝票に基づいて支払をしたこと,②平成26年5月20日締めの取引について,実際は,「(a)o社ETCマイレージ,34万4000円,(b)○○9店舗,49万7000円,(c)○○5店舗,32万2000円」の合計116万3000円であるにもかかわらず,「(a)○○5店舗,29万9468円,(b)○○9店舗,46万6868円,(c)o社ETCマイレージ,32万2141円」の合計109万8477円という虚偽の金額を記載した請求伝票を作成して被告会社本社に送付し,被告会社が同伝票に基づいて支払をし,差額の6万4523円については,「(d)○○5店舗,2万2532円,(e)○○9店舗,3万0132円,(f)o社ETCマイレージ,1万1859円」という請求伝票を作成し,被告会社大阪営業所に送付したこと,原告Aが,大阪営業所に送付されてきた請求伝票を被告会社本社に報告していなかったこと,被告会社が大阪営業所に送付された請求伝票についても支払ったことが認められる。
イ 被告会社は,原告Aが,e社に対し,赤字受注を隠ぺいするため請求伝票を分割するよう強要していた旨主張するところ,証拠(乙8)からすると,e社が請求金額を被告会社本社分と大阪営業所分に分割したことが認められるのは,平成26年5月20日が締日の取引(3件)のみである。
そこで,同取引についてみると,確かに,請求伝票は分割されているが,被告会社本社分と大阪営業所分を合算すれば,o社ETCマイレージに関する金額は34万4000円となるほか,ほかの二つの取引についても,合算すれば正規の金額となっている(ある取引の金額の一部をほかの取引につけかえるというような行為は行われていない。)。被告会社は,大阪営業所宛の請求伝票については被告会社が支払うべきものではなかった旨主張するが,同取引については,e社と被告会社(担当者:原告A)との間では,合計116万3000円で契約が成立しているのであって,同契約が無効・取消しとなっていないことからすれば,被告会社が上記金額の支払を免れることはないから,被告会社の主張は失当である。
なお,平成26年3月20日が締日の取引についてみても,請求伝票に虚偽の取引・金額が記載されているが,取引総額でみれば金額は一致しており,被告会社が,正規の金額より多額の支払を余儀なくされたというような事情は認められない。
ウ 以上に加えて,平成26年5月20日分が締日の取引が赤字受注であることを認めるに足りる証拠もないことからすれば,原告Aの行為は,被告会社からすれば,取引内容・金額を正確に把握することができないこととなり,適正な経営判断の支障となる行為であって到底許されるものではないが,請求伝票の記載が真実と合致していないことで,被告会社が損失を被ったこと及びその金額を認めることができないから,被告会社が主張するe社分の損害を認めることはできない。
(11) d社分について
認定事実(2)イのとおり,原告Aは,d社との取引について,売上元票を作成することなく,また,d社に依頼して被告会社に対する請求を留保するなどして,d社製造に係る製品を納品した顧客からの入金を別の取引に係る入金として処理するという行為を行っていたことが認められる。そして,原告Aが上記のような行為を行ったのは,顧客からの入金を別の取引(架空の取引等)に係る入金に充当するためであったことからすれば,原告Aの行為によって,被告会社には,正規の取引の金額との差額が残存することになるから,その差額が,原告Aの行為により被告会社が被った損害となる。
証拠(乙23)によれば,d社が,被告会社に対し,平成27年1月20日締めで167万5617円を請求していることが認められるが(請求を留保していたものであることがうかがわれる。),他方で,被告会社の主張を前提とすれば,原告Aが平成26年4月24日にd社の本社に出向き,土下座した際に,未処理金が286万7252円であり,その後,原告Aが合計133万5000円を支払ったというのであるから,被告会社の主張を前提とすれば,その差額は153万2252円となる。
原告Aが,d社に赴いた際にどのような経緯で未処理金が286万7252円であるとされたのか明らかではないが,他方で,d社から被告会社に対する請求の内訳も明らかでないこと(乙23)からすれば,上記差額の153万2252円の限度で被告会社の損害と認めることとする。
(12) その他について
被告会社は,原告Aの行為により,対外的信用が失墜したり,経理が混乱するなど本来の業務に多大な支障・費用が生じた,本来被告会社内で印刷すべき案件を外注したため外注加工費の損害も発生した旨主張する。
確かに,原告Aの行為により被告会社の社内や取引先との関係において大きな混乱が生じ,事後処理に一定の労力・費用を要したであろうことは推察に難くない。しかし,原告Aの行為により生じた損害は,前記(1)ないし(11)のとおりであるところ,それが填補されれば被告会社に生じた損害は填補されるというべきであり,それを超えて,上記のような混乱解消に要した費用等についてまで,被告Aの行為と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。
したがって,被告会社主張にかかるその他の損害を認めることはできない。
(13) (1)ないし(12)にかかる弁護士費用について
本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば,原告Aの行為と相当因果関係のある損害(弁護士費用)は52万円と認めるのが相当である。
(14) c社分について
ア 原告Aは,被告Cと共謀の上で架空請求を行っているところ,そのような行為が被告会社の正当な業務の執行に当たらないことはいうまでもない。また,原告A及び被告Cが上記のような行為に及んだ結果,被告会社としては,本来支払う必要がない架空の取引について支払をしたことになる。そうすると,上記行為により被告会社が架空の取引について支払った金額が被告会社に生じた損害となり,原告A及び被告Cは不法行為に基づく損害賠償義務を負うこととなる。
イ 被告Cは,Dから事前に請求書のコピーの交付を受けた上で,付箋をつけるなどして架空請求を特定し,それに基づいて乙11号証の文案を作成したものであって,乙11号証の記載が,作成当時の被告Cの認識を現したものであることは既に前記3(3)ク(ア)aで説示したとおりである。そうすると,c社にかかる架空取引の金額は,合計111万9300円(乙11,30の1ないし80,36の2)と認めることができる。
(15) (14)にかかる弁護士費用について
本件に現れた一切の事情を総合考慮すれば,原告A及び被告Cの行為と相当因果関係のある損害(弁護士費用)は11万円と認めるのが相当である。
8 小括
(1)ア 前記2説示のとおり,本件懲戒解雇は懲戒権を欠くものとして無効であるところ,被告会社は,平成28年1月20日に陳述した被告会社準備書面(7)において,予備的に平成26年7月28日付けでの解雇予告による解雇ないし同日付けでの解雇の意思表示をしている。しかし,解雇の意思表示は,当該意思表示がなされた時点において効力を生じるものであり,日付を遡及して解雇することはできないから,本件普通解雇は上記準備書面が陳述された平成28年1月20日付けの普通解雇となる。
なお,普通解雇については,解雇予告期間の設定あるいは解雇予告手当の支払が必要となるところ,それらの要件を満たさない普通解雇の通知は即時解雇としては効力を生じない。そして,本件において,被告会社が,普通解雇の通知の後に予告手当の支払をしたことはないことからすれば,本件普通解雇の意思表示から30日が経過した平成28年2月19日の経過をもって,普通解雇の効力が生じることとなる。
イ また,本件懲戒解雇と同日付けでの本件普通解雇をするという被告会社の主張を前提とすれば,懲戒解雇を普通解雇に転換したとの主張をしていると解する余地がある。
しかし,普通解雇は,私法上の解雇権の行使であるのに対し,懲戒解雇は,企業秩序維持の観点から,使用者の懲戒権の行使(処分)として行われるものであり,その性質を異にするものである。そうすると,懲戒解雇を普通解雇に転換することはできないといわざるを得ないから,やはり,平成26年7月28日付けで普通解雇をしたと認めることはできない。
ウ 以上からすると,原告Aは,平成28年2月19日までは,被告会社の労働者としての地位を有していたことになるから,被告会社は,原告Aに対し,同日までの賃金(本件懲戒解雇時における原告Aの賃金は,前提事実(2)のとおり,月額30万5900円(基本給及び職能手当),毎月20日締め当月25日払いであるから別紙1のとおりとなる。なお,平成28年2月分については日割計算となる。)の支払義務を負うことになる。
(2) 損害額については,前記7のとおりである。
第4 結論
以上の次第で,原告Aの請求及び被告会社の請求は,主文掲記の限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第5民事部
(裁判官 佐々木隆憲)
〈以下省略〉
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