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裁判年月日 平成28年 1月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)4627号
事件名 商標権侵害行為差止等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2016WLJPCA01299005
要旨
◆「Japan Poker Tour」(標準文字)からなる商標に係る商標権を有する原告が、被告に対し、被告による被告各標章の使用は、原告商標権の侵害とみなされる行為である旨主張して、被告各標章の使用の差止め及び侵害組成物の廃棄等並びに損害賠償金770万円及び遅延損害金の支払を求めた事案において、被告による本件チラシ及び本件ウェブページ1における被告標章1の使用等は、原告商標権を侵害するなどとして、請求の一部を認容した事例
出典
裁判所ウェブサイト
参照条文
商標法36条1項
商標法36条2項
商標法37条1号
商標法38条2項
民法709条
裁判年月日 平成28年 1月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平26(ワ)4627号
事件名 商標権侵害行為差止等請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2016WLJPCA01299005
原告 Aⅰ
同訴訟代理人弁護士 山中雅雄
同 高麗愛子
被告 ハンターサイト株式会社
同訴訟代理人弁護士 岩原将文
主文
1 被告は,ポーカー大会に係る広告に別紙1被告標章目録記載1ないし3の各標章を付して展示若しくは頒布し,又はこれを内容とする情報に同各標章を付して電磁的方法により提供してはならない。
2 被告は,別紙2のとおりのチラシを廃棄せよ。
3 被告は,別紙3ウェブサイト目録記載1のインターネットウェブページから別紙1被告標章目録記載1の標章の表示を,別紙3ウェブサイト目録記載5のインターネットウェブページから別紙1被告標章目録記載3の標章の表示を,それぞれ削除せよ。
4 被告は,原告に対し,10万円及びこれに対する平成26年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,これを30分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
7 この判決は,第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,ポーカー大会に係る参加者に授与するトロフィーに別紙1被告標章目録記載1ないし11の各標章を付し,又は,ポーカー大会に係る広告,価格表若しくは取引書類に同各標章を付して展示若しくは頒布し,若しくはこれらを内容とする情報に同各標章を付して電磁的方法により提供してはならない。
2 被告は,インターネット上でポーカー大会を開催するに当たり,その映像面に別紙1被告標章目録記載1ないし11の各標章を表示してはならない。
3 被告は,別紙1被告標章目録記載1ないし11の各標章を付したトロフィー,チラシ,ポスター,バックボード及び書類一式を廃棄せよ。
4 被告は,被告が管理する別紙3ウェブサイト目録記載の各インターネットウェブページから,別紙1被告標章目録記載1ないし11の各標章の表示を削除せよ。
5 被告は,原告に対し,770万円及びこれに対する平成26年3月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 本件は,別紙4商標権目録記載の商標権(商標登録第5072094号。以下「原告商標権」といい,原告商標権に係る商標を「原告商標」という。)を有する原告が,被告に対し,被告による別紙1被告標章目録記載1ないし11の各標章(以下,それぞれ「被告標章1」ないし「被告標章11」といい,併せて「被告各標章」という。)の使用は,商標法37条により原告商標権の侵害とみなされる行為である旨主張して,同法36条に基づき,被告各標章の使用の差止め及び侵害組成物の廃棄等を求める(訴状が陳述された後,平成26年5月9日付け訴えの変更申立書,同年8月27日付け準備書面(3)及び同年10月31日付け準備書面(4)が順次陳述されたことなど,弁論の全趣旨に照らし,原告の求める差止め及び廃棄等の請求は,最終的に,前記第1の1ないし4のとおり変更されたものと解するのが相当であり,被告標章目録記載1ないし4,6ないし8,10及び11の各標章は,同目録末尾に注記のとおり,鍵括弧内の一連の文字列からなる標章の趣旨とするのが相当である。)とともに,民法709条及び商標法38条2項に基づき,損害賠償金770万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成26年3月13日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,特に断らない限り,書証の枝番の記載は省略する。)
(1) 当事者と原告商標権の保有
ア 原告は,平成19年8月24日の原告商標権の設定の登録以来,原告商標権を保有している(甲2,11,12)。
イ 被告は,インターネットでの広告業務,イベント企画及び広告宣伝業,ゲームセンターの経営,飲食店の経営等を目的とする株式会社である(甲1)。
(2) ポーカー大会の開催
平成23年9月頃から平成25年11月頃にかけて,東京,大阪等にある店舗やオンライン上で,「ジャパンポーカーツアー」又は「ジャパンオープンポーカーツアー」という名称のポーカーの大会(以下「本件ポーカー大会」と総称する。)が開催され,その開催場所には,被告が経営する東京都千代田区所在のメイドカジノ「アキバギルド」(以下「被告店舗」という。)も含まれていた(甲3,7,15,19,21,27,39,40,42,乙6,15,弁論の全趣旨)。
(3) 被告各標章のウェブページ等における表示等
ア 被告標章1について
被告標章1は,平成25年初め頃に被告が作成した別紙2のとおりのチラシ(甲7。以下「本件チラシ」という。)に記載されたほか,少なくとも同年8月23日の時点において,被告が管理する別紙3ウェブサイト目録記載1のウェブページ(以下「本件ウェブページ1」という。また,同目録記載2ないし8の各ウェブページについても同様の呼称を用い,本件ウェブページ1ないし8を併せて「本件各ウェブページ」という。)(甲3)に表示され,また,少なくとも平成26年10月30日の時点において,本件ウェブページ8(甲24)に表示されている。
イ 被告標章2について
被告標章2は,本件チラシ(甲7)に記載された。
ウ 被告標章3について
被告標章3は,本件チラシ(甲7)に記載されたほか,少なくとも平成26年2月12日の時点において本件ウェブページ2(甲13)に,少なくとも同年10月9日の時点において本件ウェブページ5(甲21)に,少なくとも同月30日の時点において本件ウェブページ8(甲24)に,それぞれ表示されている。
エ 被告標章4について
被告標章4は,少なくとも平成26年2月12日の時点において,本件ウェブページ3(甲14)に表示されている。
オ 被告標章5について
被告標章5(別紙1被告標章目録記載5の標章)と色彩を一部異にするほかは同一の標章(以下では,この点をひとまず措き,当該標章を含む概念として「被告標章5」を用いる。)は,本件チラシ(甲7)に記載されたほか,少なくとも同年8月23日の時点において,本件ウェブページ1(甲3)に表示されている。
カ 被告標章6について
被告は,平成25年10月7日,被告標章6について商標登録出願をした(甲4)。
キ 被告標章7について
被告標章7は,少なくとも平成26年2月12日の時点において本件ウェブページ2(甲13)及び本件ウェブページ3(甲14)に,少なくとも同月13日の時点において本件ウェブページ1(甲5)に,少なくとも同年10月30日の時点において本件ウェブページ7(甲23)に,それぞれ表示されている。
ク 被告標章8について
被告標章8は,少なくとも平成26年2月12日の時点において本件ウェブページ2(甲13)に,少なくとも同月13日の時点において本件ウェブページ1(甲5)に,少なくとも同年10月30日の時点において本件ウェブページ8(甲24)に,それぞれ表示されている。
ケ 被告標章9について
被告標章9(別紙1被告標章目録記載9の標章)と色彩を一部異にするほかは同一の標章(以下では,この点をひとまず措き,当該標章を含む概念として「被告標章9」を用いる。)は,少なくとも平成26年2月12日の時点において本件ウェブページ2(甲13)に,少なくとも同月13日の時点において本件ウェブページ1(甲5)に,少なくとも同年10月9日の時点において本件ウェブページ5(甲21)に掲載された写真中に,少なくとも同月30日の時点において本件ウェブページ7(甲23)及び本件ウェブページ8(甲24)に,それぞれ表示されている。
コ 被告標章10について
被告標章10は,少なくとも平成26年10月30日の時点において,本件ウェブページ6(甲22)に表示されている。
サ 被告標章11について
被告標章11は,少なくとも平成26年10月30日の時点において,本件ウェブページ7(甲23)に表示されている。
3 争点
(1) 被告の被告各標章使用による原告商標権侵害の成否(争点1)
(2) 差止め及び廃棄等請求の当否(争点2)
(3) 損害の発生の有無及びその額(争点3)
4 当事者の主張
(1) 争点1(商標権侵害の成否)について
【原告の主張】
ア 被告は,平成23年7月頃から被告標章1ないし5を,平成25年12月頃から被告標章7ないし9を,平成26年10月頃から被告標章10及び11を,それぞれ用いて,全国各地の店舗やオンライン上で,本件ポーカー大会を開催・運営している。
そして,被告は,本件ポーカー大会を開催・運営するに当たり,本件ポーカー大会の参加者に授与するトロフィーやチラシ,ポスター,バックボード,書類に被告各標章を付し,また,本件ポーカー大会に係る広告,価格表若しくは取引書類に被告各標章を付して展示若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に被告各標章を付して電磁的方法により提供してきた。また,被告は,インターネット上で本件ポーカー大会を開催するに当たり,その映像面に標章を表示してきた。
さらに,被告は,平成25年10月7日に被告標章6について商標登録出願をしているから,ゲーム大会の運営・開催などの役務に関し被告標章6を使用するおそれがある。
なお,被告は,被告標章1,3ないし5,7及び8につき,商標的使用(需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様による使用)でない旨主張するが,上述した被告による被告各標章の使用は,いずれも商標的使用に当たる。
イ 被告各標章は,いずれも原告商標に類似し,被告各標章を用いた被告の役務は,原告商標権の指定役務と同一である。
ウ 以上によれば,被告が,本件ポーカー大会の開催・運営等に当たり,被告各標章を使用した行為は,原告商標権を侵害する(商標法37条1号,2条3項3号・7号・8号)。
【被告の主張】
ア 本件ポーカー大会を開催・運営しているのは,平成23年から平成25年までは合資会社ジ・オー(以下「ジ・オー」という。),平成26年3月15日及び16日においては合同会社PSジャパンサービス(以下「PSJ」という。なお,ジ・オー及びPSJを併せて「ジ・オー等」ということがある。),同月17日以降はNPO法人日本ポーカー協会(以下「日本ポーカー協会」という。)である。被告は,ジ・オー及びPSJからは,それぞれ事務的な処理の委託を受けて,本件ポーカー大会の事務処理を無償で行うとともに,一部大会の会場の提供を行っていたにすぎず,また,日本ポーカー協会には,ディーラーを派遣する協力を行っているにすぎない。したがって,被告が本件ポーカー大会を開催しているものではなく,原告の主張は前提において誤っている。なお,本件ウェブページ8については,ウェブサイトの形式的な登録者は被告代表者でもあるAⅱ個人であるが,同サイトの実質的な保有者はジ・オーである。
また,被告標章4については,被告でもジ・オー等でもない第三者が使用しているものにすぎない。
さらに,被告標章1,3ないし5,7及び8については,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されておらず,本件商標権の効力は及ばない(商標法26条1項6号)。
イ 被告標章5ないし11は,原告商標と類似していない。
ウ 以上によれば,被告が,本件ポーカー大会の開催・運営等に当たり,被告各標章を使用し,それにより原告商標権を侵害したということはできない。
(2) 争点2(差止め及び廃棄等請求の当否)について
【原告の主張】
被告は,前記(1)【原告の主張】アのとおり被告各標章を使用して原告商標権を侵害してきたもので,現在においても被告各標章を使用して原告商標権を侵害し続けており,又は侵害するおそれがある。
したがって,原告は,被告に対し,商標法36条1項に基づき,①ポーカー大会に係る参加者に授与するトロフィーに被告各標章を付すことの差止め,②ポーカー大会に係る広告,価格表若しくは取引書類に被告各標章を付して展示若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に被告各標章を付して電磁的方法により提供することの差止め,及び③インターネット上でポーカー大会を開催するに当たり,その映像面に被告各標章を表示することの差止めを請求することができる。
また,原告は,被告に対し,商標法36条2項に基づき,④被告各標章を付したトロフィー,チラシ,ポスター,バックボード及び書類一式の廃棄,並びに⑤被告が管理する本件各ウェブページからの被告各標章の表示の削除を請求することができる。
【被告の主張】
原告の主張を争う。
(3) 争点3(損害の発生の有無及び額)について
【原告の主張】
ア 原告は,平成23年4月29日,同年7月21日,平成24年6月17日,平成25年10月3日などに定期的に,原告商標を使用してポーカー大会を開催し,参加者から参加費を徴収していた。被告が被告各標章を使用して本件ポーカー大会を開催しなければ,原告は,自己の開催するポーカー大会において多数の集客をし,より多くの収益を得ることができたのであるから,被告の原告商標権の侵害行為により,原告が利益を得る機会を喪失し,損害を受けたことは明らかである。
イ 被告は,本件ウェブページ1(甲3)において,被告が平成23年から開催している本件ポーカー大会全ての出所を識別する標識として被告標章1を使用したところ,被告が同年9月から平成25年11月までの間に開催した本件ポーカー大会は,合計24回にわたる。
そして,被告は,各大会ごとに平均約150万円の売上げを得ているから,合計24回の大会では3600万円以上の売上げを得ていることになる。被告店舗を利用して本件ポーカー大会を運営・開催するときはほとんど費用がかからないため,被告は,少なくとも3000万円以上の利益を得ていると考えられる(なお,被告は,本件ポーカー大会を開催・運営するに当たり,おおむね,店舗での開催の場合には参加者1人当たり500円〔ただし,被告が運営する店舗の場合には参加者1人当たり5000円〕の利益を,オンライン上での開催の場合には参加者1人当たり2.2ドル又は11ドルの利益を,それぞれ得ている。)。
また,被告は,本件ポーカー大会のホームページを開設・運営し,その際,PokerStars社が運営する「PokerStars」のバナーを掲示していた。被告は,被告各標章の広告的機能を利用して,同ホームページの閲覧者をPokerStars社主催のポーカー大会に参加させ,これにより,同社からアフィリエイト報酬を得ていた。
そうすると,被告は,平成23年7月以降,少なくとも約700万円の利益を得ていることは明らかであり,これが,商標法38条2項により,原告が受けた損害の額と推定される。
なお,原告商標は,ポーカー愛好者の間に知られているし,原告商標のような「国名+PokerTour」という形の標章は,顧客吸引力がある。したがって,原告商標に類似した被告各標章の使用が本件ポーカー大会の売上げに寄与したことは明らかである。
ウ 原告は,本件事案が商標権侵害という専門性を要する類型の訴訟であることから,本件訴訟の追行を原告訴訟代理人弁護士に委任せざるを得なかった。この弁護士費用のうち,被告による不法行為(商標権侵害行為)と相当因果関係のある金額は,70万円(前記イの700万円の1割に相当する金額)である。
エ 以上のとおり,原告は,被告の不法行為により合計770万円の損害を受けたものである。
【被告の主張】
ア 原告が平成23年以降に開催したと主張するポーカー大会は,いずれも参加費無料であり,しかも,ごく限定されたメンバーにのみ告知されて開催されたものであったから,仮に被告各標章が本件ポーカー大会に使用されたとしても,原告に損害が発生したとは認められない。
また,仮に原告に損害が発生したとしても,原告が開催したと主張する4大会は,会場の定員等を考慮すると,追加的に合計39名しか参加可能ではなかったものであり,1名当たり3500円の単価を得られたとしても,追加的な売上金額は13万6500円にとどまったとみられるから,原告の損害が13万6500円を超えることは到底考えられない。
イ 仮に被告各標章の使用による原告商標権の侵害があったとしても,それによる被告の利益は,0円である。というのも,被告は,ジ・オー等から業務委託を受けてポーカー大会の事務処理を行っていたが,業務委託料はなく無償であり,被告の売上げはなかったからである。このように,被告自身が本件ポーカー大会によって全く利益を受けていない以上,商標法38条2項の「その者がその侵害の行為により利益を受けているとき」には当たらない。
なお,被告は,PokerStars社からアフィリエイト報酬を受け取ってはいない。
ウ 仮に被告に利益が発生したとしても,それが1万円を超えることは到底考えられない(平成25年2月24日の売上金22万8000円は,通常業務による売上げも含まれているため,営業時間11時間中3時間であることから,3割を乗じると7万円となるが,これに利益率約8%を乗じると,5600円であり,1万円に満たない。)。
エ ①本件ポーカー大会が,日本で最も知られた全国規模の大会であること,②本件ポーカー大会が,世界有数のポーカーサイトであるPokerStars社の協賛を受け,同サイトが開催しているアジア選手権等への日本代表選出大会となっていること,③本件ポーカー大会の集客が,主催者が有する全国店舗のネットワークによるものであること,④他方で,原告が原告商標を使用したポーカー大会は,存在したとしても,極めて小規模な無名のものにすぎないことを考慮すると,原告商標に類似する標章の使用は,本件ポーカー大会そのものの売上げには寄与していないというべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(商標権侵害の成否)について
(1) 原告商標について
原告商標は,①その外観は,頭文字が大文字,後続の文字が小文字の欧文字の標準文字から成り,単語間に1文字の空白を設けた「Japan Poker Tour」を1行で表記したものであり,②「ジャパンポーカーツアー」の称呼を生じ,③「日本で開催されるポーカーのイベント」という観念を生じる。
(2) 被告標章1について
ア 原告商標との類否について
被告標章1は,①その外観は,頭文字が大文字,後続の文字が小文字の欧文字から成り,単語間に空白を設けない「JapanPokerTour」を1行で表記したものであり,②「ジャパンポーカーツアー」の称呼を生じ,③「日本で開催されるポーカーのイベント」という観念を生じる。
そうすると,被告標章1は,原告商標と外観において類似し,称呼及び観念において同一であるから,全体として原告商標と類似するものというほかはない。
イ 被告による商標的使用の有無について
(ア) 本件チラシ(甲7)における使用について
前記前提事実,証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によると,平成25年初め頃に被告が作成した本件チラシには,「JAPANPOKERTOUR/2013 SEASON 1」(「/」は改行を示す。以下同じ。)の表題に続いて,「JapanPokerTourは,全国のポーカースポットで誰でも参加できる日本規模のポーカートーナメントです。」,「JapanPokerTourは4つのイベントで構成されていて,各イベントの上位3名は日本代表プレイヤーとして海外のポーカートーナメントへ参加することができます。」などと,本件ポーカー大会の紹介ないし説明がされていることが認められ,ここでは,被告標章1が,本件ポーカー大会を指す固有名詞として,ポーカー大会の開催という役務に関する広告に付されて頒布されているものと認められる。これは,出所識別機能を果たす態様で使用されたものというべきである。
そうすると,被告は,本件チラシにおいて,被告標章1を商標的に使用したということができ,同チラシにおける同標章は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標(商標法26条1項6号)には該当しない。
(イ) 本件ウェブページ1における使用について
前記前提事実,証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によると,被告が運営する本件ウェブページ1には,少なくとも平成25年8月23日に,「JapanPokerTourとは」との表題に続いて,本件ポーカー大会の紹介ないし説明がされていることが認められ,ここでは,被告標章1が,本件ポーカー大会を指す固有名詞として,ポーカー大会の開催という役務に関する広告を内容とする情報に付されて電磁的方法により提供されているものと認められる。これは,出所識別機能を果たす態様により使用されているものというべきである。
そうすると,被告は,自らが管理する本件ウェブページ1において,被告標章1を商標的に使用しているということができ,同ウェブページにおける同標章は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標(商標法26条1項6号)には該当しない。
(ウ) 本件ウェブページ8における使用について
前記前提事実,証拠(甲24)及び弁論の全趣旨によると,「ジャパンオープンポーカー」の「mixiコミュニティ」のウェブサイトである本件ウェブページ8の「最新情報」欄には,5月10日の「トピック」として「JapanPokerTour 決勝5月11日1」との表示が,1月11日の「イベント」として「JapanPokerTour 大阪(APPT」との表示が,それぞれされていることが認められるが,このような表示のみでは,被告標章1が本件ポーカー大会の広告等として出所識別機能を果たす態様により使用されているとはいえない。
調査嘱託の結果に照らし,被告が上記ウェブサイトの管理人であり本件ウェブページ8において被告標章1を使用したと認められるかという問題があるが,この点を措くとしても,上記によると,同ウェブページにおける同標章は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標(商標法26条1項6号)に該当する。
(エ) 以上のとおり,被告は,本件チラシ(甲7)及び本件ウェブページ1(甲3)において,被告標章1を商標的に使用したものであるが,被告標章1が表示されている他の媒体においては,被告標章1は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されていないものと認められる。
なお,上記において検討した以外に,被告が被告標章1を使用したと認めるに足りる証拠はない。
ウ 役務の同一性について
被告標章1の本件チラシ(甲7)及び本件ウェブページ1(甲3)における使用(前記イ)は,本件ポーカー大会の運営・開催という役務の広告への使用であるところ,この役務は,原告商標権の指定役務である「娯楽に関する競技会の運営・開催,ゲーム大会の運営・開催」と同一である。
エ 小括
以上によれば,被告による本件チラシ(甲7)及び本件ウェブページ1(甲3)における被告標章1の使用は,原告商標権を侵害する(商標法37条1号,2条3項8号)というべきであるが,被告標章1に関し,その余の侵害は認められない。
(3) 被告標章2について
ア 原告商標との類否について
被告標章2は,①その外観は,全て大文字の欧文字から成り,単語間に空白を設けない「JAPANPOKERTOUR」を1行で表記したものであり,②「ジャパンポーカーツアー」の称呼を生じ,③「日本で開催されるポーカーのイベント」という観念を生じる。
そうすると,被告標章2は,原告商標と,頭文字以外の文字が大文字か小文字かという点で相違するものの,外観において類似し,称呼及び観念において同一であって,全体として原告商標と類似するものというべきである。
イ 被告による商標的使用の有無について
(ア) 本件チラシ(甲7)における使用について
前記前提事実,証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によると,平成25年初め頃に被告が作成した本件チラシ(甲7)には,「JAPANPOKERTOUR/2013 SEASON 1」と大きく表示され,この表題に続いて本件ポーカー大会の紹介ないし説明がされていることが認められ,ここでは,被告標章2が,本件ポーカー大会を指す固有名詞として,ポーカー大会の開催という役務に関する広告に付されて頒布されているものと認められる。これは,出所識別機能を果たす態様により使用されたものというべきである。
そうすると,被告は,本件チラシにおいて,被告標章2を商標的に使用したということができ,同チラシにおける同標章は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標(商標法26条1項6号)には該当しない。
(イ) 他方,被告が他の媒体において被告標章2を使用したと認めるに足りる証拠はない(なお,本件ウェブページ1〔甲6〕の左上及び中央の各写真に写り込んでているトロフィー下部に記載されている標章は,黒字に白い太文字で「JAPAN/POKER/TOUR」を3行で表記した標章であって,原告が本件の審理の対象として別紙1被告標章目録により特定した被告標章2〔同目録記載2の標章〕とは異なる。)。
ウ 役務の同一性について
被告標章2の本件チラシ(甲7)における使用(前記イ)は,本件ポーカー大会の運営・開催という役務の広告への使用であるところ,この役務は,原告商標権の指定役務である「娯楽に関する競技会の運営・開催,ゲーム大会の運営・開催」と同一である。
エ 小括
以上によれば,被告による本件チラシ(甲7)における被告標章2の使用は,原告商標権を侵害する(商標法37条1号,2条3項8号)というべきであるが,被告標章2に関し,その余の侵害は認められない。
(4) 被告標章3について
ア 原告商標との類否について
被告標章3は,①その外観は,全て片仮名から成る「ジャパンポーカーツアー」を1行で表記したものであり,②「ジャパンポーカーツアー」の称呼を生じ,③「日本で開催されるポーカーのイベント」という観念を生じる。
そうすると,被告標章3は,原告商標と外観において類似しないが,称呼及び観念においては同一であり,全体として原告商標と類似するものというべきである。
イ 被告による商標的使用の有無について
(ア) 本件チラシ(甲7)における使用について
前記前提事実,証拠(甲7,27)及び弁論の全趣旨によると,①平成25年初め頃に被告が作成した本件チラシには,本件ポーカー大会の主催として「ジャパンポーカーツアー実行委員会」と表示されていること,②被告は,「JapanPokerTour予選開催のお願い」と題する文書において,「JPT実行委員会事務局 ハンターサイト株式会社 代表取締役 Aⅱ」を名乗っていることが認められ,上記①では,「ジャパンポーカーツアー実行委員会」という名称が,本件ポーカー大会を主催する団体の固有名詞として,ポーカー大会の開催という役務に関する広告に付されて頒布されているものと認められる。そして,「ジャパンポーカーツアー実行委員会」のうち「実行委員会」の部分は出所識別性のない部分であり,その要部は「ジャパンポーカーツアー」の部分すなわち被告標章3であるから,上記①において,被告標章3は,出所識別機能を果たす態様により使用されたものというべきである。
そうすると,被告は,本件チラシにおいて,被告標章3を商標的に使用したということができ,同チラシにおける同標章は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標(商標法26条1項6号)には該当しない。
なお,法人の名称を普通に用いられる方法で表示した商標には商標権の効力は及ばないが(商標法26条1項1号),法人でない団体の名称の使用につき同号により商標権の効力が及ばないとするためにはその名称が著名であることを要すると解されるところ,「ジャパンポーカーツアー実行委員会」の名称が役務の需要者に著名であると認めるに足りる証拠はないから,本件チラシにおける被告標章3は,同号に該当しない。
(イ) 本件ウェブページ2における使用について
前記前提事実,証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によると,①「ジャパンポーカーツアー(ジャパンオープンポーカー)」と題されたフェイスブックページである本件ウェブページ2では,当該フェイスブックアカウントの表示名として被告標章3が使用されていること,②上記フェイスブックアカウントは,本件ポーカー大会を宣伝するためのアカウントであることが認められ,上記フェイスブックアカウントの保有者が被告標章3を上記のとおり使用していることが認められる。
しかしながら,上記フェイスブックアカウントの保有者が被告である(被告が上記フェイスブックページを管理している)と認めるに足りる証拠はない。なお,後記(ウ)のとおり,本件ウェブページ5(甲21)のフェイスブックアカウントの保有者は被告であると認められるが,そうであるからといって,本件ウェブページ2(甲13)のフェイスブックアカウントの保有者まで被告であると推認できるものではない。
したがって,被告が本件ウェブページ2において被告標章3を使用したものということはできない。
(ウ) 本件ウェブページ5における使用について
前記前提事実,証拠(甲18,19,21)及び弁論の全趣旨によると,①「ジャパンポーカーツアー」と題されたフェイスブックページである本件ウェブページ5(甲21)には,少なくとも平成26年10月9日の時点において,当該フェイスブックアカウントの表示名として被告標章3が使用されていること,②上記フェイスブックアカウントは,本件ポーカー大会を宣伝するためのアカウントであること,③ウェブサイトを印刷した際に左上に出る「ジャパンポーカーツアー|Facebook」の表示は,当該フェイスブックアカウントの保有者がタイトルタグとして自ら記載するにせよ,当該フェイスブックアカウントの表示名が日本語版Facebookの運営者であるFacebook Irelandにより自動的に表示されるにせよ,当該フェイスブックアカウントの保有者が表示させているものと評価できること,④上記フェイスブックアカウントは,「ジャパンオープンポーカー実行委員会」が保有していること,⑤その連絡先電話番号は,被告店舗の電話番号と同一であり,「連絡先情報」のウェブサイトとして,被告の運営する本件ウェブページ1が記載されており,「マネジメント ハンターサイト株式会社」との表示もあることが認められる。
上記①ないし③の事実からは,被告標章3は,上記フェイスブックのアカウントの保有者により,本件ポーカー大会の開催という役務に関する広告を内容とする情報に付されて電磁的方法により提供されているものと認められ,これは,出所識別機能を果たす態様により使用されているものというべきである。
そして,上記④及び⑤の事実からは,上記フェイスブックアカウントの保有者は被告であると推認される。これに対し,被告は,上記フェイスブックアカウントの保有者はジ・オーであると主張するが,証拠(甲16,21)によれば,同社は,平成26年4月21日に総社員の同意により解散しているにもかかわらず,同年10月9日にも本件ウェブページ5にアカウント保有者による書き込みがあったことが認められることに照らすと,被告の上記主張を採用することはできない。
以上によると,被告は,自らが管理する本件ウェブページ5において,被告標章3を商標的に使用しているということができ,同ウェブページにおける同標章は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標(商標法26条1項6号)には該当しない。
(エ) 本件ウェブページ8における使用について
前記前提事実,証拠(甲24)及び弁論の全趣旨によると,「ジャパンオープンポーカー」の「mixiコミュニティ」のウェブサイトである本件ウェブページ8の「最新情報」欄には,1月11日の「イベント」として「ジャパンポーカーツアー東京」との表示がされていることが認められるが,このような表示のみでは,被告標章1が本件ポーカー大会の広告等として出所識別機能を果たす態様により使用されているとはいえない。
調査嘱託の結果に照らし,被告が上記ウェブサイトの管理人であり本件ウェブページ8において被告標章3を使用したと認められるかという問題があるが,この点を措くとしても,上記によると,同ウェブページにおける同標章は,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標(商標法26条1項6号)に該当する。
(オ) 以上のとおり,被告は,本件チラシ(甲7)及び本件ウェブページ5において,被告標章3を商標的に使用したものであるが,被告標章3が表示されている他の媒体については,被告による使用とは認められず,また,本件ウェブページ8における使用については,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されていないものと認められる。
なお,上記において検討した以外に,被告が被告標章3を使用したと認めるに足りる証拠はない。
ウ 役務の同一性について
被告標章3の本件チラシ(甲7)及び本件ウェブページ5(甲21)における使用(前記イ)は,本件ポーカー大会の運営・開催という役務の広告への使用であるところ,この役務は,原告商標権の指定役務である「娯楽に関する競技会の運営・開催,ゲーム大会の運営・開催」と同一である。
エ 小括
以上によれば,被告による本件チラシ(甲7)及び本件ウェブページ5(甲21)における被告標章3の使用は,原告商標権を侵害する(商標法37条1号,2条3項8号)というべきであるが,被告標章3に関し,その余の侵害は認められない。
(5) 被告標章4について
ア 被告による使用の有無について
(ア) 本件ウェブページ3における使用について
前記前提事実,証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によると,①「ジャパンオープンポーカーツアー」と題されたツイッターページである本件ウェブページ3(甲14)において,ツイッターアカウントを示す記載として被告標章4が表示されていること,②上記ツイッターアカウントは,本件ポーカー大会を宣伝するためのアカウントであることが認められ,上記ツイッターアカウントの保有者が被告標章4を上記のとおり使用していることが認められる。
しかしながら,上記ツイッターアカウントの保有者が被告である(被告が上記ツイッターページを管理している)と認めるに足りる証拠はない。なお,前記(4)イ(ウ)のとおり,本件ウェブページ5(甲21)のフェイスブックアカウントの保有者が被告であると認められるからといって,本件ウェブページ3(甲14)のフェイスブックアカウントの保有者まで被告であると推認できるものではない。
したがって,被告が本件ウェブページ3において被告標章4を使用したものということはできない。
(イ) また,被告が他の媒体において被告標章4を使用したと認めるに足りる証拠もない。
イ 小括
以上によれば,被告が被告標章4の使用によって原告商標権を侵害したということはできない。
(6) 被告標章5について
ア 原告商標との類否について
被告標章5は,上部に配された図形部分と下部に配された文字部分から成る結合標章であり,①その外観は,上部に,大文字の「jPT」を図案化した図形部分を配し(なお,別紙被告標章目録記載5では,全て白黒であり,「j」の上の点の部分が判読困難であるが,被告が実際に使用している標章は,例えば,甲第3号証に示されるとおり,「j」の字は,明確に判読できる上,青の背景に,上の点の部分は赤,その下の部分は白と配色されており,「P」の字は,白の背景に黒字で配色されており,「T」の字は,青の背景に白字で配色されている。),その下部に,上記図形部分よりもかなり小さな字で欧文字から成る「JAPAN POKER TOUR.jp」を1行で表記した文字部分を配したものである。そして,被告標章5については,上記のとおり図形部分が文字部分よりもかなり大きく,この部分が強く支配的な印象を与えるものであり,需要者も図形部分に注目するといえるところ,図形部分は「jPT」の欧文字を図案化したものと読み取れるが,それ以上の観念を読み取れないことから,被告標章5からは②「ジェイピーティー」の称呼を生じるが,③特段の観念を生じないものというべきである。
そうすると,被告標章5は,原告商標と,外観,称呼及び観念のいずれにおいても類似しないから,全体として類似しないものというべきである。
イ 小括
以上によれば,被告標章5の使用は,原告商標権を侵害するものではない。
(7) 被告標章6について
ア 原告商標との類否について
被告標章6は,①その外観は,頭文字が大文字,後続の文字が小文字の欧文字から成り,「Japan」と「Open」の間には空白を設けず,「Open」と「Poker」の間及び「Poker」と「Tour」の間には1文字の空白を設けた「JapanOpen Poker Tour」を1行で表記したものであり,②「ジャパンオープンポーカーツアー」の称呼を生じる。また,③証拠(乙3,12,13)及び弁論の全趣旨によると,「open」は,「開かれた」を意味する英語であるが,「ジャパンオープン」は,「日本で開催されるスポーツ競技のオープン選手権大会。出場資格は,プロ・アマ,国籍を問わない。ゴルフ,テニスなど。」を意味する語として,スポーツ大会の需要者には広く知られているところ,「オープン」の語は,ロボットを制作しての競技会である「ロボカップジャパンオープン」,麻雀の大会である「日本オープン」のように,スポーツ大会に限らず,「プロ・アマ等を問わず参加可能な競技会」に広く用いられることが認められるから,被告標章6が本件ポーカー大会の開催という役務について使用されているところに接した需要者は,「日本で開催される,プロ・アマ等を問わず参加可能なポーカー大会」という観念を生じるものというべきである。
原告商標と被告標章6を対比すると,①被告標章6は,原告商標の「Japan」と「Poker」の間に「Open」の4文字が加わっており,この部分には需要者も相応に注目するとみられる上,全体の文字列の長さも異なるから,原告商標と外観において類似しないというべきであり,②被告標章6の称呼は,原告商標の称呼の「ジャパン」と「ポーカー」の間に「オープン」の4音が加わっており,この部分の称呼には需要者も相当に注目するとみられる上,全体の音数も,原告商標が11音であるのに対し被告標章6は15音であるから,被告標章6は,称呼においても原告商標と類似しないというべきであり,③被告標章6は,原告商標から生じる「日本で開催されるポーカーのイベント」との観念にとどまらず,「プロ・アマ等を問わず参加可能な」という観念が新たに生じ,より限定された観念を生じるから,観念においても原告標章と類似しない。そうすると,被告標章6は,全体として原告商標と類似しないというべきである。
なお,証拠(甲4,乙18,27)及び弁論の全趣旨によると,被告標章6は,原告商標の登録日(平成19年8月24日)より後である平成25年10月7日に,指定役務を「娯楽に関する競技会の運営及びこれらに関する情報の提供,ゲーム大会の興行の企画・運営又は開催」等として商標登録出願がされ,拒絶査定不服審判を経て,拒絶理由はないとして登録されるに至っていることが認められ,これは,特許庁の審判体が原告商標と被告標章6とが類似しない旨判断したことを意味するものである。
イ 小括
以上によれば,被告標章6の使用は,原告商標権を侵害するものではない。
(8) 被告標章7について
ア 原告商標との類否について
被告標章7は,①その外観は,全て片仮名から成る「ジャパンオープンポーカーツアー」を1行で表記したものであり,②「ジャパンオープンポーカーツアー」の称呼を生じ,③「日本で開催される,プロ・アマ等を問わず参加可能なポーカー大会」という観念を生じる。
そうすると,被告標章7は,原告商標と,外観において類似しないことはもとより,称呼及び観念においても類似せず,全体として類似しないものというべきである。
イ 小括
以上によれば,被告標章7の使用は,原告商標権を侵害するものではない。
(9) 被告標章8について
ア 原告商標との類否について
被告標章8は,①その外観は,全て片仮名から成る「ジャパンオープンポーカー」を1行で表記したものであり,②「ジャパンオープンポーカー」の称呼を生じ,③「日本で開催される,プロ・アマ等を問わず参加可能なポーカー大会」という観念を生じる。
そうすると,被告標章8は,原告商標と,外観において類似しないことはもとより,称呼及び観念においても類似せず,全体として類似しないものというべきである。
イ 小括
以上によれば,被告標章8の使用は,原告商標権を侵害するものではない。
(10) 被告標章9について
ア 原告商標との類否について
被告標章9は,①その外観は,上部左に太字で大文字の欧文字「JAPAN」,上部右に太字で大文字の欧文字「OPEN」を配し,この語句の間の上部中央にクローバーのような図形を挿入し,下部に,上部よりも小さなやや太字で大文字の欧文字「POKER TOUR」を配したものであり,②「ジャパンオープンポーカーツアー」の称呼を生じ,③「日本で開催される,プロ・アマ等を問わず参加可能なポーカー大会」という観念を生じる。
そうすると,被告標章9は,原告商標と,外観において類似しないことはもとより,称呼及び観念においても類似せず,全体として類似しないものというべきである。
イ 小括
以上によれば,被告標章9の使用は,原告商標権を侵害するものではない。
(11) 被告標章10について
ア 原告商標との類否について
被告標章10は,①その外観は,記号「@」に続けて,全て小文字の欧文字から成る「pokerjapanopen」を1行で表記したものであり,②「アットマークポーカージャパンオープン」の称呼を生じ,③「日本で開催される,プロ・アマ等を問わず参加可能なポーカー大会」ないし「日本で開催される,プロ・アマ等を問わず参加可能なポーカー大会において」という観念を生じる。
そうすると,被告標章10は,原告商標と,外観,称呼及び観念のいずれにおいても類似せず,全体として類似しないものというべきである。
イ 小括
以上によれば,被告標章10の使用は,原告商標権を侵害するものではない。
(12) 被告標章11について
ア 原告商標との類否について
被告標章11は,①その外観は,記号「@」に続けて,全て小文字の欧文字から成る「japanopenpoker」を1行で表記したものであり,②「アットマークジャパンオープンポーカー」の称呼を生じ,③「日本で開催される,プロ・アマ等を問わず参加可能なポーカー大会」ないし「日本で開催される,プロ・アマ等を問わず参加可能なポーカー大会において」という観念を生じる。
そうすると,被告標章11は,原告商標と,外観,称呼及び観念のいずれにおいても類似せず,全体として類似しないものというべきである。
イ 小括
以上によれば,被告標章11の使用は,原告商標権を侵害するものではない。
(13) 商標権侵害の成否についての結論
以上の次第で,①被告による本件チラシ(甲7)及び本件ウェブページ1(甲3)における被告標章1の使用,②被告による本件チラシにおける被告標章2の使用,③被告による本件チラシ及び本件ウェブページ5(甲21)における被告標章3の使用は,原告商標権を侵害するものであるが,それ以外には,被告各標章に関し,原告商標権の侵害は認められない。
2 争点2(差止め及び廃棄等請求の当否)について
(1) トロフィーに被告各標章を付することの差止請求について
原告は,被告に対し,ポーカー大会に係る参加者に授与するトロフィーに被告各標章を付することの差止めを求めている。
しかし,本件ウェブページ1(甲6)の左上及び中央の各写真に写り込んでいるトロフィーの下部に付されている標章は,前記1(3)イ(イ)のとおり,原告が本件の審理の対象として特定した被告標章2ではなく,また,同トロフィーの上部に付されている被告標章5が原告商標と類似しない標章であることは,前記1(6)アで説示したとおりである。他に,被告がポーカー大会のトロフィーに被告標章1ないし3を付するおそれがあると認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告がポーカー大会のトロフィーに原告商標権を侵害する標章を付するおそれがあるということはできず,上記差止請求には理由がない。
(2) ポーカー大会に係る広告等に被告各標章を付すること等の差止請求について
原告は,被告に対し,ポーカー大会に係る広告,価格表若しくは取引書類に被告各標章を付して展示若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に被告各標章を付して電磁的方法により提供することの差止めを求めている。
前記1(2)ないし(4)で認定,説示したとおり,被告は,本件ポーカー大会に係る広告である本件チラシ(甲7)において被告標章1ないし3を使用し,本件ポーカー大会の広告を内容とし,被告が管理する本件ウェブページ1(甲3)において被告標章1を使用し,本件ポーカー大会の広告を内容とし,被告が管理する本件ウェブページ5(甲21)において被告標章3を使用したことにより,原告商標権を侵害したのであるから,上記差止請求中,商標法36条1項に基づき,ポーカー大会に係る広告に被告標章1ないし3を付して展示若しくは頒布し,又はこれを内容とする情報に被告標章1ないし3を付して電磁的方法により提供することの差止めを求める部分には理由がある。
他方で,被告がポーカー大会に係る価格表若しくは取引書類に原告商標権を侵害する標章を付して展示若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に原告商標権を侵害する標章を付して電磁的方法により提供するおそれがあると認めるに足りる証拠はないから,これらの差止めを求める部分には理由がない。
(3) 映像面に被告各標章を表示することの差止請求について
原告は,被告に対し,インターネット上でポーカー大会を開催するに当たり,その映像面に被告各標章を表示することの差止めを求めている。
しかしながら,証拠(乙6,7,11)及び弁論の全趣旨によると,本件ポーカー大会の主催者は,平成26年以降,本件ポーカー大会の名称として,「ジャパンオープンポーカー」,「ジャパンオープン」等の名称を用いており,被告標章1ないし3は使用していないものと認められる。そうすると,前記1(4)イ(ウ)のとおり被告が本件ウェブページ5(甲21)においてフェイスブックアカウントの表示名として被告標章3を使用していることを考慮しても,被告が,今後,インターネット上で新たにポーカー大会を開催して,その際,その映像面に被告標章1ないし3を表示するおそれがあるとは認められない。
したがって,被告が,インターネット上で新たにポーカー大会を開催するに当たり,その映像面に原告商標権を侵害する標章を付するおそれがあるということはできず,上記差止請求には理由がない。
(4) 被告各標章を付したトロフィー,チラシ等の廃棄請求について
原告は,被告に対し,被告各標章を付したトロフィー,チラシ,ポスター,バックボード及び書類一式の廃棄を求めている。
前記1(2)ないし(4)で認定,説示したとおり,被告は,本件チラシ(甲7)に被告標章1ないし3を使用し,原告商標権を侵害したのであるから,被告標章1ないし3を付した本件チラシを廃棄することは,侵害の行為を組成した物の廃棄として,侵害の予防に必要な行為ということができる(なお,本件チラシの記載内容に照らせば,原告が同チラシから被告標章1ないし3を抹消することにとどまらず,同チラシそれ自体の廃棄を求めても,不相当ではない。)。したがって,上記廃棄請求中,商標法36条2項に基づき,本件チラシの廃棄を求める部分には理由がある。
他方で,本件チラシ以外の物については,被告が商標権侵害行為を行っていたとはいえないから,廃棄の必要性は認められない。なお,乙第1号証の1ないし10のような過去の業務委託契約書については,被告標章1又は3が記載されていたとしても,契約書の保存の必要性等にも鑑みると,原告商標権の侵害を排除するために廃棄させるまでの必要があるとは認められない。したがって,トロフィー,ポスター,バックボード及び書類一式の廃棄請求には理由がない。
(5) 本件ウェブページからの被告各標章の表示の削除請求について
原告は,被告に対し,本件各ウェブページからの被告各標章の表示の削除を求めている。
前記1(2),(4)で認定,説示したとおり,被告は,自らが管理する本件ウェブページ1において被告標章1を,自らが管理する本件ウェブページ5において被告標章3を,それぞれ使用し,原告商標権を侵害したのであるから,本件ウェブページ1から被告標章1の表示を削除し,本件ウェブページ5から被告標章3の表示を削除することは,侵害の予防に必要な行為ということができる。したがって,上記削除請求中,商標法36条2項に基づく上記各表示の削除請求には理由がある。
他方で,その余の部分については,当該ウェブページにおいて被告標章1ないし3が使用されているとは認められないか,又は当該ウェブページにおいて使用されている被告各標章の使用が原告商標権を侵害するものとは認められないものであるから,削除請求には理由がない。
(6) 小括
以上のとおり,原告の被告に対する商標法36条に基づく差止め及び廃棄等請求のうち,①ポーカー大会に係る広告に被告標章1ないし3を付して展示若しくは頒布し,又はこれを内容とする情報に被告標章1ないし3を付して電磁的方法により提供することの差止請求,②本件チラシの廃棄請求,③本件ウェブページ1からの被告標章1の表示の削除及び本件ウェブページ5からの被告標章3の表示の削除の請求には理由があり,その余の請求には理由がない。
3 争点3(損害の発生の有無及び額)について
(1) 認定事実
前記前提事実に掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。
ア 原告によるポーカー講座及びポーカー大会の開催
(ア) 原告は,平成21年4月3日,同年6月25日,同年7月15日,同年10月7日,同年11月11日及び平成22年3月10日に,原告商標を用いて,ポーカー講座を開き,延べ27名以上の参加者から,1名当たり1500円の受講料を徴収した(甲8,38,弁論の全趣旨)。
(イ) 原告は,平成23年4月29日,「練習会兼 Japan Poker Tour in Shibuya」ないし「Japan Poker Tour トーナメント」という名称のポーカー大会を開催し,15名がこれに参加した。原告は,これに先立つ同年3月29日,この大会の開催を告知するメールを発信したが,その中で,「会場の都合上,先着30名様まで」,「会費:3500円」,「お食事,飲み物ご用意しております。」としていた(甲33,弁論の全趣旨)。
(ウ) 原告は,平成23年7月21日,「Japan Poker Tour in Roppongi」ないし「JapanPoker Tour トーナメント」という名称のポーカー大会を開催し,13名がこれに参加した。原告は,これに先立つ同月3日,この大会の開催を告知するメールを発信したが,その中で,「会場の都合上,先着20名様まで」,「会費:3500円」,「お食事,飲み物ご用意しております。」としていたが,同大会の開催を告知するポスターにおいては,「参加費:無料」としていた(甲34,弁論の全趣旨)。
(エ) 原告は,平成24年6月17日,「Japan Poker Tour」の名称を用いたポーカー大会を開催し,18名がこれに参加した(甲35,弁論の全趣旨)。
(オ) 原告は,平成25年10月3日,「JPT in Shibuya」という名称のポーカー大会を開催し,15名がこれに参加した。原告は,これに先立つ同年9月17日,この大会の開催を告知するメールを送信したが,その中で,「豪華賞品!?乞うご期待!!」,「参加費:無料」,「軽食ご用意いたします。」,「尚,有志から寄付金をいただければ,ありがたいです。」としていた(甲36,37,弁論の全趣旨)。
イ 取消審判事件における原告の陳述等
(ア) 被告は,平成24年5月30日,「本件商標は,その指定役務について,継続して3年以上日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから,その登録は,商標法50条1項の規定により,取り消されるべきものである。」旨主張して,特許庁に商標登録の取消しの審判を請求した(取消2012-300455)。被請求人である原告は,この審判事件について平成25年3月6日に行われた口頭審理において,「原告は,『Japan PokerTour』との名称のポーカーイベントを定期的に開催した。原告は,開催に当たり,会員などに対して,メールなどで宣伝して参加者を募り,参加者からは,会費,参加費等を受け取らず,食事代の実費分のみを受け取っていた。このように,原告において,会費,参加費等を受け取らなかったのは,同イベントにおいては参加者が賭博をすることを当然禁止していたところ,ポーカー競技の場を提供するに当たり参加者から対価を受けたり利益を得ることが,賭博場開帳図利罪(刑法186条2項)に該当すると考えていたからである。」旨陳述した(甲8,11)。
(イ) 原告は,平成21年及び平成22年に前記(ア)のとおりポーカー講座の受講料を得たことについて,税務申告をしていたが,平成23年については,ポーカー講座に係る売上げがなかったとして税務申告をしなかった。また,原告は,ポーカー大会に係る収入について税務申告をすることもなかった(甲8,弁論の全趣旨)。
ウ 本件ポーカー大会の開催
(ア) 本件ポーカー大会は,平成23年9月頃から,東京,大阪等にある多数の店舗やオンライン上で開催され,2000名以上が参加する日本最大級のポーカートーナメント大会であり,平成26年に,大会名が「ジャパンポーカーツアー」という名称から「ジャパンオープンポーカー」という名称に変更された。本件ポーカー大会の上位者は,日本代表選手として,大会スポンサーであるPokerStars社が開催するアジア選手権等(マカオで開催される Asia Championship of Poker,Asia Pacific PokerTour,Macau Poker Cup や,ソウルで開催される Asia Pacific Poker Tour)への出場権が与えられ,同社から宿泊費や交通費に関する補助を受けて招待される。本件ポーカー大会については,主催者が有する全国各地の店舗のネットワークにより集客されていた(甲3,7,15,21,27,39ないし41,乙6,7,11,14,32ないし35,弁論の全趣旨)。
(イ) 本件ポーカー大会のうち,大阪における平成25年1月5日から同年2月10日までの予選及び同月11日の本選並びに東京における同年1月3日から同年2月23日までの予選及び同月24日の本選等について告知したチラシ(甲7)においては,「主催」としてジャパンポーカーツアー実行委員会,「協賛」としてPokerStars.net,「後援」として日本ポーカー協会ほか13団体が表示されており,これらに被告は含まれていなかった。
また,平成25年8月の本件ウェブページ1(甲3)においては,「運営」としてJPT実行委員会事務局と表示された上,被告が「協賛」,PokerStars Live Macau及び株式会社バグースが「特別協力」ないし「スポンサー」,日本ポーカー協会が「協力」などと表示されていた。
他方,平成26年の本件ポーカー大会のウェブサイト(乙11)においては,「主催」として日本ポーカー協会,「マネジメント」としてPSJ,「協賛」としてPokerStarsLIVE Macau及び株式会社バグース,「特別協力」として被告やNPO法人日本ポーカー倶楽部が表示されていた。
もっとも,平成26年7月の本件ポーカー大会のフェイスブック(甲18)においては,「所属」としてジャパンオープンポーカー実行委員会が表示された上で,「マネジメント」は被告,「協賛」としてPokerStars Live Macau及び株式会社バグース,「特別協力」として日本ポーカー協会が表示されていた。
エ 被告店舗の営業,売上状況等
被告店舗は,平日は午後3時から午後10時30分頃まで,土日・祝日は午後1時から午後10時30分頃まで営業されている,ポーカーを行うことができる店舗であるが,平成23年12月13日,同月22日,同月29日,平成24年1月5日,同月21日,同月22日,同月26日,同年2月5日,同月9日,同月12日,同月17日,同月19日,同年5月27日,同年6月10日,同月14日,同月30日,同年7月1日及び平成25年2月24日に,本件ポーカー大会の予選又は本選の開催会場となった(甲19,27,28,40ないし42,乙15,29,弁論の全趣旨)。
被告店舗が上記開催会場となった日の各売上金額は,別紙「被告店舗の本件ポーカー大会開催会場日の売上げ」記載のとおりであったが,被告店舗においては,開催会場とならなかった日においても,1日におおむね十数万円から三十数万円の売上げが得られており,本件ポーカー大会の開催会場となった日の売上金額が,通常の営業がされた日に比べて特段高いという相関関係は見られなかった。なお,被告の平成23年度から平成25年度にかけての平均営業利益率は,約5.4%であった(乙30,31,弁論の全趣旨)。
(2) 損害の発生の有無について
ア 原告は,被告が原告商標に類似した被告各標章を使用して本件ポーカー大会を開催しなければ,自らが開催するポーカー大会において多数の集客をし,より多くの収益を得ることができたとして,被告の原告商標権の侵害行為により,原告が利益を得る機会を喪失し,損害を受けたことは明らかである旨主張する。
そこで検討するに,前記(1)で認定した事実によると,①原告は,平成23年4月29日に原告商標を用いてポーカー大会を開催したものであり,その開催に当たっては,「会費:3500円」と告知していたが,他方で,開催のために食事代・飲み物代を支出したこと,②原告は,同年7月21日に原告商標を用いてポーカー大会を開催したものであるが,その開催に当たっては,「会費:3500円」と告知したり「参加費:無料」と告知したりしており,結局,会費ないし参加費を徴収したのかどうか(徴収を徹底していたのかどうか)は不明である一方,開催のために食事代・飲み物代を支出したこと,③原告は,平成24年6月17日,原告商標を用いてポーカー大会を開催したものであるが,会費ないし参加費を徴収したのかどうかは不明であること,④原告は,平成25年10月3日,ポーカー大会を開催したものであるが,「参加費:無料」,「有志から寄付金をいただければ,ありがたいです。」と告知していたこと,⑤原告は,同年3月6日,原告商標の不使用を請求理由とする取消審判事件の口頭審理において,「原告商標を用いたポーカーイベントを定期的に開催したが,参加者からは,会費,参加費等を受け取らず,食事代の実費分のみを受け取っていた。」旨明言したこと,⑥原告の開催したポーカー大会は,定員20名ないし30名程度の小規模なイベントであったのに対し,本件ポーカー大会は,2000名以上が参加する大規模なものであったことが認められる。
まず,原告が開催したポーカー大会のうち,被告の商標権侵害行為より前に開催されたものについては,大会の売上げに係る損害の発生を肯認することができないことはいうまでもない。この点,前記1で原告商標権を侵害すると判断した被告による被告標章1ないし3の使用行為については,チラシ(甲7)における使用行為は平成25年初め頃にされたものである。また,本件ウェブページ1における使用行為は少なくとも同年8月23日,本件ウェブページ5における使用行為は少なくとも平成26年10月9日にされたほか,それぞれ,ある程度以前から継続して同様の行為がされていたと推認する余地があるものの,前記(1)ウのとおり本件ポーカー大会が平成23年9月頃から開催されていることに照らすと,同年7月以前に被告による原告商標権の侵害行為があったと認めることはできない。そうすると,原告が同年4月29日に開催した上記①のポーカー大会及び同年7月21日に開催した上記②のポーカー大会については,被告による原告商標権の侵害行為により集客数が減少し利益を逸失したといえないことは明らかである。
そして,上記④の大会については,「参加費:無料」,「有志から寄付金をいただければ,ありがたいです。」と告知していたもので,原告が参加費を徴収していなかったことが明らかであるし,上記③の大会については,原告が会費ないし参加費を徴収したのかどうかは不明であるところ,上記⑤のとおり,原告自身が平成25年3月に「参加者からは,会費,参加費等を受け取っていなかった。」旨明言していることからすると,原告が,これらのポーカー大会を開催することより利益を得ていたと認めることはできない。
また,そもそも,上記⑥のとおり,原告の開催したポーカー大会と本件ポーカー大会とは,その規模が格段に異なるのであって,ポーカー大会の性質等に照らしても,両者が競合する関係にあったということはできない。
以上によれば,原告商標に類似した被告標章1ないし3が広告に使用された本件ポーカー大会が開催されたことによって,原告のポーカー大会による売上げが減少し,その結果原告が利益を逸失したという事実は認められない。
イ また,前記(1)ア(ア)で認定した事実によると,原告は,平成21年に5回,平成22年に1回,原告商標を用いてポーカー講座を開き,参加者から1500円の受講料を徴収したというのであるが,これは,ポーカー講座における教授という役務に原告商標を使用したものであり,ポーカー大会の開催という役務に原告商標を使用したものではない。原告商標に類似した標章を使用して本件ポーカー大会が開催されたとしても,原告による原告商標を使用してのポーカー講座における教授と何ら競合するものではないから,上記の事実が,被告の原告商標権の侵害行為による原告への損害の発生を基礎付けるものでないことは明らかである。
他に,被告の原告商標権の侵害行為によって原告が利益を得る機会を失い損害を受けたとの主張立証はない。
ウ ところで,原告は,商標法38条2項により,本件ポーカー大会の開催・運営による利益700万円が原告の損害と推定される旨主張するが,同項を適用するには,商標権者に,侵害者による商標権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在することが必要であると解される(知財高裁平成25年2月1日判決・判時2179号36頁参照)。前記ア,イで説示したとおり,被告による原告商標権の侵害行為がなかったとしても,これと原告開催のポーカー大会及びポーカー講座とが競合する関係にあったとはいえないことなどに照らすと,原告において,原告商標を使用したポーカー大会・ポーカー講座による利益が得られたであろうとは認められない。そして,他に,原告に,被告による商標権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在するとはうかがわれないから,結局,本件においては,商標法38条2項を適用する前提を欠くといわざるを得ない。
(3) 商標法38条2項の利益等について
上記のとおり,本件においては商標法38条2項を適用する前提が認められないものであるが,審理の経過等に鑑み,念のため,同項の利益等についても検討しておく。
ア 本件ポーカー大会の開催による被告の利益の有無について
被告は,本件ポーカー大会については,ジ・オー等から業務委託を受けて,予選会場となる全国各地の各店舗との連絡等の業務を行ったが,業務委託料は受け取っておらず無償であった旨説明するところ,前記(1)ウで認定した主催者等の表示に照らし,被告自身が本件ポーカー大会を開催したとはいい難く,その運営業務についても,被告が委託を受けて行っていたという可能性を排除し得る証拠はない。
そして,前記(1)エの認定事実によると,被告の平成23年度ないし平成25年度の売上げについて,被告店舗が本件ポーカー大会の開催会場となった日に,通常の営業がされた日に比べ,売上額が特段高いという相関関係は見られないというのであるから,被告が本件ポーカー大会により利益を受けたと直ちに認めることはできないところ,本件ポーカー大会の開催による被告の売上げ増加及びその金額を認定するに足りる的確な証拠はない。
イ 被告のアフィリエイト収入の有無について
原告は,①被告が,本件ポーカー大会のホームページとして本件ウェブページ1(甲3)を開設・運営し,その中で,PokerStars社が運営する「PokerStars」のバナーを掲示していたこと,②PokerStars社のホームページ(甲42)に「同社が提供する宣伝用のバナーをウェブサイトに掲載してブランドをプレイヤーに紹介すると,報酬として紹介料が発生する。」旨記載されていることから,被告は,被告各標章の広告的機能を利用して,同ホームページの閲覧者をPokerStars社主催のポーカー大会に参加させ,これにより,同社からアフィリエイト報酬を得ていた旨主張する。
しかしながら,被告は,上記②の点について,被告のホームページ上で「PokerStars」のバナーを掲示していたのは,PokerStars社と被告との間に相互協力的な関係があったからであって,一般のウェブサイト向けである上記②の記載は当てはまらない旨説明しているところ,被告が本件ウェブサイト1に前記(1)ウ(イ)のとおり「スポンサー」である「PokerStars」のバナーを掲示していたことは,上記②の記載が前提とする状況とは異なる可能性が排除できない。したがって,上記①及び②の事実から,被告がPokerStars社からアフィリエイト収入を得ていたことを直ちに推認することはできず,他に,これを認めるに足りる証拠はない。
また,被告標章1ないし3を使用したことがアフィリエイト収入にどこまで結び付くかは不明というほかなく,原告商標権の侵害行為とアフィリエイト収入との間の相当因果関係も認め難いものといわざるを得ない。
ウ 以上によれば,被告が,被告標章1ないし3の使用により利益を受けたとは認められない。
なお,仮に,被告が,被告標章1ないし3の使用により何らかの利益を受けたとしても,前記(1)で認定したとおり,①本件ポーカー大会が,参加者2000名以上の大規模なもので,PokerStars社が開催するアジア選手権等への日本代表の選出大会となっていること(このような大会の性格は,参加者を誘引する上で重要性が高い要素とみられる。),②本件ポーカー大会の集客が,主催者が有する全国各地の店舗のネットワークによるものであること,③他方で,原告が原告商標を使用して開催したポーカー大会は,定員30名以下の小規模なものにすぎないこと,また,④本件全証拠によっても,原告商標がさほど広い範囲で知られていたとは認められないことなどの諸点を考慮すると,原告商標及び被告標章1ないし3が「国名+PokerTour」という形の名称であることを斟酌しても,原告商標に類似する被告標章1ないし3の使用が被告の利益に貢献した度合いはごく低いものといわざるを得ないし,原告が被告と同様の利益を獲得し得る状況にあったとはいい難いから,商標法38条2項による推定が覆されるところが非常に大きいというべきである。
(4) 過去の商標権侵害による損害について
以上によれば,被告が被告標章1ないし3を使用したこと自体による原告の損害は,これを認めることができない(なお,原告は,本件訴訟において,商標法38条3項に基づく損害については主張しない旨明言している。)。
(5) 弁護士費用相当額の損害について
弁論の全趣旨によると,原告は,前記1において認定,説示した被告による原告商標権の侵害という不法行為があったことから,その侵害の停止・予防等を求める請求(前記2において認容すべき旨説示した差止め及び廃棄等請求)を含む本件訴訟を提起することになったものであり,そのために弁護士に訴訟代理を委任することを余儀なくされたものと認められる。本件の事案の内容・性質等に鑑みると,上記侵害行為と相当因果関係を有する弁護士費用相当額の損害としては,10万円を認めることが相当である。
(6) 損害賠償請求についての結論
以上の次第で,原告の被告に対する商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は,弁護士費用相当額の損害10万円及びこれに対する不法行為の後である平成26年3月13日から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
第4 結論
よって,原告の請求は,主文第1項ないし第4項に掲げた内容を求める限度で理由があるから,これを認容し(なお,主文第1項ないし第3項についての仮執行宣言は相当でないから,これを付さない。),その余の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 笹本哲朗 裁判官 天野研司)
別紙
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