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裁判年月日 平成13年 9月 7日 裁判所名 神戸地裁 裁判区分 判決
事件番号 平12(ワ)2097号
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2001WLJPCA09079002
要旨
◆毛皮等の加工販売、家具等の販売等を業とする会社である原告が、絵画等の輸入販売等を業とする会社である被告に対し、原告の「エンバ」なる営業表示を使用する被告の行為は不正競争防止法2条1項2号又は1号所定の不正競争に当たると主張して差止め等を請求した事案において、原告が様々な分野にわたり各種の宣伝方法を用いて、本件表示を使用した全国規模での宣伝・広告活動をしていることに鑑みれば、本件表示は原告の営業を示すものとして著名性を有していると評価できるとして著名表示冒用の不正競争の成立を認め、差止め及び使用料相当額の損害賠償を認めた事例
出典
裁判所ウェブサイト
参照条文
不正競争防止法2条1項1号
不正競争防止法2条1項2号
不正競争防止法3条
不正競争防止法4条
不正競争防止法5条3項1号
裁判年月日 平成13年 9月 7日 裁判所名 神戸地裁 裁判区分 判決
事件番号 平12(ワ)2097号
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判結果 認容 文献番号 2001WLJPCA09079002
主文
1 被告は、「株式会社エンバ」という商号を使用してはならない。
2 被告は,平成11年12月22日神戸地方法務局において商号株式会社エンバコーポレーションを株式会社エンバと変更した商号変更登記の抹消登記手続をせよ。
3 被告は,平成6年12月26日神戸地方法務局において商号株式会社エンバロメント・プランを株式会社エンバコーポレーションと変更した商号変更登記の抹消登記手続をせよ。
4 被告は,その営業上の施設又は活動に「エンバ」の表示を使用してはならない。
5 被告は,その看板,印章,ゴム印,バッジ及び印刷物等の営業表示物件から「エンバ」の表示を抹消せよ。
6 被告は,原告に対し,金2100万円及びこれに対する平成12年9月30日から支払済みに至るまで年5%の割合による金員を支払え。
7 訴訟費用は被告の負担とする。
8 この判決は、第1項,第4項ないし第6項に限り、仮に執行することができる。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
主文同旨
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
(3) 仮執行免脱宣言
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者
ア 原告は,毛皮等の加工・売買・輸出入,家具・室内装飾品・美術品・骨董品・貴金属・宝石の売買及びその関連事業を業とする株式会社である。
イ 被告の営業は多岐にわたり,その中には,絵画・彫刻・美術工芸品の輸入・販売等,広告物のデザイン・制作・広告宣伝業,外国企業の日本市場開発に関する情報提供,これら業務に関するコンサルティング業務,これらの附帯業務も含まれる。
(2) 著名表示の冒用(第1次主張)
ア 原告の使用表示とその著名性
(ア) 原告の使用表示
原告の名称(商号)は,「ジャパンエンバ株式会社」であり,このうち「株式会社」は会社の種類を表す部分であり,「ジャパン」は日本という意味を表す部分であるので,本件表示の要部は「エンバ」である(以下,原告の「エンバ」という営業表示を「本件表示」という。)。
(イ) 本件表示の著名性
原告の本件表示は,以下の事情により,遅くとも平成6年12月時点において,既に全国的に著名なものであった。
a 本件表示の歴史
原告の創始者である故Aは,昭和38年にエンバ株式会社及び大紅物産株式会社を設立し,昭和43年に両者を統合して原告を設立した。
原告は統合前のエンバ株式会社当時から,「エンバ梅田店」,「エンバ京都店」等,「エンバ」の表示による店舗を使用しており,原告も同表示を引き継いだ。
また,原告は,本件表示につき,7件の商標権を有しており,最も古いものは,昭和40年2月20日出願,昭和41年1月24日公告,昭和41年9月19日登録の商標権である。
b 店舗展開
原告の前身であるエンバ株式会社は,昭和38年には大阪市(エンバ梅田店),京都市(エンバ京都店),兵庫県芦屋市(エンバ芦屋店)に本件表示による店舗を展開し,昭和40年には東京都(エンバe町店)に,昭和41年には名古屋市(エンバ名古屋店)に,昭和43年には大阪市(エンバ大阪御堂店)というように,全国的に店舗を展開していった。
原告は,設立当初から本件表示を引き継ぎ,全国的に店舗展開をした結果,平成2年には直営店だけでも全国で80店舗に達した。現在は店舗統合により46店舗になっている。また,これらの店舗は大きく目立つ店舗看板を設置しており,それだけでも有力な宣伝効果が認められる。
そのほかにも,原告商品を取り扱っている店舗は多数存在する。
c ジャパンエンバグループの形成
原告は,国内のみならず,国外にも生産工場等のグループ企業を開設している。
また,国内では,岩手エンバ株式会社(昭和52年操業開始),有限会社ミンク毛皮(昭和53年操業開始),ヒョウゴファー協業組合(昭和62年操業開始),有限会社ファーティアールがジャパンエンバグループに属し,これら各企業の社屋にも本件表示が大きく目に付く形で掲示されている。
d 宣伝・広告
原告は創業以来,店舗及び店舗以外の高層建造物上への本件表示による看板設置,新幹線沿線への本件表示による看板設置,全国の新聞での新聞広告・折込広告,テレビコマーシャル,ダイレクトメール,ホテル等での展示会・催物会,美術コンクール等の文化事業の推進等様々な宣伝・広告手段により全国的に本件表示によるブランドの浸透を図っており,原告が投入した年度ごとの広告宣伝費は別紙広告宣伝費年度別内訳記載のとおりである。
e 各種活動
(a) 国内の展示会等
原告は,全国的なブランドの浸透のため,全国の高級ホテル等における高級品の展示会のほか,普及商品も含めた展示会等,多数の展示会,催物会を開催してきた。
(b) 海外の展示会等
原告は,ヨーロッパの展示会に出展し,海外の有名オークション等に積極的に参加して高い評価を得,そのブランドイメージの向上に努めてきた。
(c) 文化事業の推進
原告は,古くから,著名企業が協賛する文化活動のスポンサーになるなどして,ブランドイメージの向上に努めてきた。
また,原告は,原告の支援により昭和55年に芦屋市に設立した財団法人により,エンバ中国近代美術館の運営をはじめ,各種コンクールを催すなど,文化活動や国内・国際的文化交流にも力を注ぎ,本件表示によるブランドイメージの一層の向上に努めてきた。
イ 被告の使用表示
被告は,「株式会社エンバコーポレーション」の表示を平成6年12月26日から,「株式会社エンバ」の表示を平成11年12月22日から,商号,会社事務所の看板,名刺等に使用している。
ウ 表示の類似性
(ア) 本件表示は,原告の創始者である故Aが営業表示として使用を開始したものであり,「Excellent Mink Breeders Association」の頭のアルファベットを取り出して日本語読みしたものと言われている。
(イ) 被告の営業表示である「株式会社エンバ」のうち,「株式会社」の部分は会社の種類を表すものにすぎず,その要部は「エンバ」にある。
また,「株式会社エンバコーポレーション」のうち,「株式会社」の部分は会社の種類を表すものにすぎず,「コーポレーション」の部分は「会社」を意味する英語であるが,既に同様の意味を持つ日本語として一般化していることから,その要部は「エンバ」である。
(ウ) したがって,「株式会社エンバ」及び「株式会社エンバコーポレーション」は本件表示と類似する。
エ よって,被告の行為は,不正競争防止法第2条第1項第2号の「不正競争行為」に該当する。
(3) 周知表示の冒用(第2次主張)
ア 原告の使用表示と周知性については第1次主張「ア 原告の使用表示とその著名性」記載のとおりである。
仮に,極めて控え目にみたとしても,遅くとも被告が「株式会社エンバコーポレーション」の商号の使用を開始した平成6年までには,少なくとも神戸市,大阪市,東京都において,ファッション,美術関係者,高級ファッションや美術に親しんでいる富裕婦人層,ファッションに関心のある多くの人々に,本件表示が浸透していたことは確実である。
イ 被告の営業と使用表示,表示の類似性については第1次主張「イ 被告の使用表示」,「ウ 表示の類似性」記載のとおりである。
ウ 混同のおそれ
(ア) 近年の営業規模の拡大,企業の多角経営化,交通手段の変革,広告技術の革新等の状況下では,不正競争防止法第2条第1項第1号の「混同を生じさせる行為」には,周知の他人の営業表示と同一又は類似の営業表示を使用する者が,他人と同一の事業グループに属する等,営業上何らかの密接な関係にあると誤認させる行為を含むと解すべきである。
(イ) 原告は,神戸市a区b町に本店機構を置き,ジャパンエンバグループを形成している。被告は,同じく神戸市a区b町に本店を置き,「株式会社エンバ」を名乗っている。第三者の目から見た場合,被告が原告のグループ企業と認識される危険性は極めて高い。
また,被告の営業の中には,絵画・彫刻・美術工芸品の輸入,販売といった,原告の営業と直接に競合するものが含まれている。
さらに,被告の営業のうち,広告物のデザイン・制作やグラフィックデザインの企画・制作・販売についても,広く美術・芸術関係の販売・サービスの供給という点において原告の営業と競合する。
また,被告の営業のうち,広告宣伝業,外国企業の日本市場開発に関する情報提供,海外における流通業務に関する情報提供,各業務に関するコンサルティングについては,原告の営業と極めて密接な関係にある。
このように,被告が「エンバ」という表示を使用することは,被告が原告の事業グループに属する等,原告と営業上何らかの密接な関係にあると誤認させる行為である。
(ウ) また,原告のもとに,被告に宛てた郵便物・宅配便等が多数誤配されてきているほか,被告の取引先と思料される人物が被告の本店と間違えて原告の本店機構の事務所を訪れたことがあるなど,現実にも混同が生じている。
(エ) このように,被告は,原告の周知表示と類似する表示を用いて,あたかも原告と業務上の組織関連性を有するものと誤認を生じさせ,営業主体の混同を惹起している。
エ よって,被告の行為は,不正競争防止法第2条第1項第1号の「不正競争行為」に該当する。
(4) 差止請求
被告の前記行為は,原告が長年の企業努力によって獲得した本件表示の顧客吸引力ないし指標力を希釈化させ,積年の宣伝広告活動によって得られた本件表示の高級イメージにただ乗りし,これを不当に利用利得するものであり,原告の投下資本の回収が阻害され,実質的に原告の利益が害されるおそれがあることは明らかである。
よって,原告は,被告に対し,前記侵害行為の停止,予防及びそれに必要な行為として請求の趣旨記載の各行為を求める。
(5) 損害賠償請求
ア 被告には,以下の理由により故意又は過失が認められる。
(ア) 被告が「株式会社エンバコーポレーション」及び「株式会社エンバ」という商号の使用を開始した時,原告の本件表示は既に著名ないし周知であった。
(イ) 原告は,昭和60年以来,神戸市a区のJRf駅のすぐ前に位置し,メインストリート「フラワーロード」に面する地上8階建てのビル「エンバ神戸本社ビル」1棟全体において,屋上及びビル垂直面に,本件表示による,人目をひく大看板を掲げて営業をしてきた。なお,平成7年1月の大震災により同ビルは被災し,平成10年3月に復旧したが,その間も,建物の外構と大看板は維持してきた。
(ウ) 被告は,商号が「シビル・エンジニアリング株式会社」の時代にも,既に昭和61年5月から平成2年2月までの4年間,神戸市a区に本店を置いており,この時点でエンバ本社ビル及び本件表示による看板について承知していた。
その後,被告は登記簿上の本店を東京都に移したが,それはわずか1年間程度のことであり,平成3年5月には再び神戸市a区に本店を戻した後,平成6年12月に「株式会社エンバコーポレーション」に商号変更した。
このように,被告は,「株式会社エンバコーポレーション」に商号変更する時点までに約7年間,神戸市a区に本店を置いていたのであるから,エンバ神戸本社ビル及び本件表示による大看板について,承知していなかったはずがない。
(エ) さらに,平成10年9月にはエンバ本社ビルから約500mの至近距離に本店を移転,平成11年12月にはエンバ本社ビルと同じb町に本店を移転するとともに,「株式会社エンバ」に商号変更した。このことは,被告が本件表示を知りつつあえて商号変更していることを物語っている。
イ 損害額
(ア) 使用料相当額
原告は被告に対し,本件表示の使用料として通常受けるべき金銭相当額(使用料相当額)を損害額として請求できるところ,その額は,被告の売上高の5%相当額とするのが相当である。
被告の年間売上高は5億円と思料され,侵害期間は平成6年12月末日から平成12年8月末日としても5年8か月である。
したがって,被告の売上高は28億3333万円であり,本件の使用料相当損害額は,1億4166万円となるところ,本件では内金2000万円を請求する。
なお,被告は平成7年1月1日から平成12年8月末日までの被告売上高は23億8978万円であると主張するので,この額を下回らない限度で被告の主張を認める。
(イ) 弁護士費用
本件訴訟は,被告が原告の文書及び面会による名称使用中止請求を無視して不法行為を継続したため,提起を余儀なくされたものである。
本件訴訟は不正競争防止法を理由とする多分に専門的なものであるから,原告は本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人に委任せざるを得なかった。
原告が訴訟代理人に支払いを約した着手金及び原告が本件訴訟提起の準備に要した調査費用等は,少なくとも100万円は下らないところ,同出捐は前記不正競争行為と相当因果関係にある損害として被告が負担すべきものである。
(ウ) よって,原告は,被告の前記不正競争行為により被った損害のうち,合計金2100万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成12年9月30日から支払済みまで,年5%の割合による遅延損害金の支払いを求める。
2 請求原因に対する認否及び被告の主張
(1) 請求原因(1)アは知らず,同イは認める。
(2) 同(2)ア(ア)は争い,同(イ)は知らない。同(2)イは認める。同(2)ウ(ア)は知らず,同(イ)のうち,被告の商号と原告の営業表示が「エンバ」で同じであることは認め,その余は否認する。同エは争う。
被告代表者は,「毛皮のエンバ」は商品の看板としか思っておらず,原告の存在は全く知らなかったし,本件表示が著名であるかどうかも知らなかった。
(3) 同(3)アは知らない。同ウのうち,位置関係については認めるが,その余は否認する。同エは争う。
原告と被告とは,看板の表示(サービスマーク)が異なり,グループ企業と認識される危険性はない。また,営業項目も,美術及び彫刻以外は同一のものはない。原告は美術を物として販売することが目的であるのに対し,被告は役務,製作,管理が目的であり,目的にも同一性はない。
(4) 同(4)は争う。
(5) 同(5)は否認ないし争う。
平成7年1月1日から平成12年8月末日までの被告の売り上げは23億8978万円である。
(6) 被告の主張
ア 被告の基本理念
会社の商号をつける際には,事業の目的,事業の場所,営業先を基本構成とし,会社の社是及び企業コンセプトを重視することが大切である。
被告は,環境アート(Environment Art)を概念としてとらえ,環境をテーマに,環境に優しいビジネスを企業コンセプトとして考え,「株式会社エンバロメントプラン」を商号とした。
その後,コーポレートアイデンティティの観点から,環境のキーワードである「エンバ(Envir)」を商号に取り入れることとし,商号を「株式会社エンバコーポレーション」に変更した。
さらに,IT戦略の観点から,インターネット上で環境を意味する「エンバ(Envir)」を商号とすることとし,商号を「株式会社エンバ」に変更した。
EnvirはEnvironmentのキーワードであり,Envirを日本語表記した「エンバ」も環境のキーワードであり,環境を意味する言葉である。原告が本件表示を使用する以前から,エンバは環境を意味する言葉であった。
このことは,インターネットの検索用ホームページにおいて「エンバ」又は「Envir」と入力して検索をすると環境に関連するホームページが検索されることからも明らかである。
イ 不正の目的の不存在
原告と被告は,商号も,営業目的も,対象とする需要者も,本店所在地も全く異なっているうえ,被告が「株式会社エンバコーポレーション」及び「株式会社エンバ」の商号登記をする際には,司法書士事務所で相談をし,神戸地方法務局でも確認をし,いずれも問題がないとのことで商号登記をしたのであり,被告には不正競争の意図は全くない。
原告が本件表示を毛皮の商品に対して商標登録したり,ジャパンエンバ株式会社として兵庫県氷上郡c町d町を本店として商業登記をしていることが自由であるのと同じように,被告が「株式会社エンバコーポレーション」,「株式会社エンバ」との商号を使用するのも自由である。
ウ 著名表示の冒用について
著名性とは,男女を問わず幅広く知られていることを意味し,著名性の有無は取引者又は最終需要者を前提に判断されるところ,原告の場合消費者は富裕婦人層が取引対象,最終需要者であるのに対し,被告の取引相手は官庁,ゼネコン等の建築会社,不動産開発等の会社であり,取引対象者,最終需要者が全く異なる。本件表示が原告の商品表示であることは,一部の富裕婦人層及び毛皮に興味のある女性が知っているにすぎない。したがって,本件表示が著名性を有するとはいえない。
また,不正競争防止法の趣旨についても,建築業界では営業システムが規制されており,原告の主張するようなただ乗りや希釈化という概念の入り込む余地はない。
エ 周知表示の冒用について
原告は毛皮の商品を店舗で販売することを主たる営業としているのに対し,被告は建設業及びこれに関連する役務サービスを主たる営業とするものであり,両者の違いは歴然としている。
また,原告の需要者である富裕婦人層が,被告の表示・サービスマーク等をみて原告と営業上の組織的関連性を有するものと誤解するとはとうてい考えられない。
オ 故意・過失の有無について
原告と被告とは,目的も,業種も,対象とする需要者も,営業の成り立ちも異なるのであり,不正競争行為や不法行為をあえて行う必要はない。
カ 損害の不存在
被告は,広く使用されている一般的な言葉である「環境」すなわち「エンバ,Envir」を正規に登記しただけであり,原告の営業表示を使用したわけではない。原告に具体的な損害があるとは考えられない。
理由
1 請求原因について
(1) 当事者
請求原因(1)イの事実は当事者間に争いがなく,証拠(甲1ないし3)によれば同(1)アの事実が認められる。
(2) 原告の使用表示とその著名性について
ア 証拠(各項目ごとに記載のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 本件表示の使用状況(甲1ないし3)
原告は,昭和45年8月10日から「ジャパン・エンバ株式会社」の商号を,昭和54年12月6日以降は「ジャパンエンバ株式会社」の商号を,継続して使用している。
(イ) 商標権の取得(甲83ないし91の各1ないし3,乙7)
原告の前身であるエンバ株式会社は,昭和40年頃から本件表示を商標出願しており,最も古い商標としては,昭和41年9月19日に登録された商標がある。原告は,エンバ株式会社が取得した商標権を承継し,現在まで使用している。
(ウ) 店舗展開(甲1,12ないし26,33ないし51(枝番号省略))
原告は,原告の前身であるエンバ株式会社当時,大阪,京都,芦屋,e町,名古屋にエンバ株式会社の直営小売店を設置した。原告はエンバ株式会社を引き継いだ後も,全国主要都市に直営小売店を設置していき,平成2年頃には,約60店舗以上の直営小売店を有していた。
原告の本店は,登記簿上は兵庫県氷上郡c町d町e番地の1となっているが,昭和60年にはエンバ神戸本店を開店し,本店機構を神戸市a区b町x丁目y番z号に移転した。
各店舗では,テナントビルの屋上,ビル側面,店舗入口等に,本件表示のほか,店舗名,「毛皮エンバ」,「EMBA」等の看板が設置されている。これらの看板は,看板内照明又は外部からの照明により,夜間でも明るく表示されるような仕組みになっているものがほとんどである。
(エ) 広告活動(甲27ないし31,92ないし114(枝番号省略))
原告は,遅くとも昭和52年には新聞紙面上に広告を掲載しており,以後,全国紙だけでなく地方新聞の紙面上にも広告を掲載してきた。
また,原告の直営小売店でのセールや,直営小売店の存在しない主要都市での特別展示会等の折込広告を遅くとも昭和48年頃から行っている。
さらに,平成9年から平成12年までの間,主に女性週刊誌を中心として,各種雑誌に1頁ないし見開き2頁の広告を掲載している。
そのほか,原告は昭和48年以降,ファッションショーを開催しており,ファッションショーの案内,価格表等を作成し,顧客に配布している。
これらの宣伝広告のために,昭和54年ころから昭和63年頃までは概ね10億円程度の,平成元年以降は3億から7億程度の年間宣伝広告費を支出している。また,求人費として,少ない時でも500万円,多い時には5000万円程度の費用を一年間に支出している。
これらの広告,案内書面等にも,本件表示のほか,店舗名,「毛皮エンバ」,「EMBA」の表示が使用されている。
(オ) 各種文化活動(甲32,52ないし79,129(枝番号省略))
原告は,昭和52年にチャリティ舞踏会の協賛会社となっており,チャリティ舞踏会の案内冊子には本件表示を使用した原告の広告が掲載された。
また,原告は,財団法人を設立し,エンバ中国近代美術館を運営し,原告の創業者である故Aの所持していた美術品等を飾るなどするとともに,昭和50年頃から中国美術や陶磁器美術を中心とした美術展を開催したり,昭和53年頃からエンバ賞美術展(ジャパンエンバ美術コンクール)を毎年開催するなど,美術分野での活動を行ってきた。
この美術展や美術コンクールのポスターには本件表示が使用されているほか,エンバ中国近代美術館の名称,入館券等にも本件表示が使用されている。
イ 現代の情報化社会において,様々なメディアを通じて商品表示や営業表示が広められ,そのブランドイメージが極めてよく知られるものとなると,それが持つ独自のブランドイメージが顧客吸引力を有し,個別の商品や営業を超えた独自の財産的価値を持つに至る場合がある。かかる財産的価値を有するに至った商品表示等を著名表示という。
このような著名表示を冒用する行為がなされると,たとえ混同が生じない場合であっても,冒用者は自らが本来行うべき営業上の努力を払うことなく著名表示の有している顧客吸引力にただ乗りすることができる一方で,長年の営業上の努力により高い信用・名声・評判を有するに至った著名表示とそれを本来使用してきた者との結びつきが弱められることになる。
そこで,同著名表示のもつ財産的価値への侵害を防止するために,不正競争防止法2条1項2号は著名表示の冒用を禁止したものである。
そして,本号が,混同を要件とすることなく不正競争行為の成立を肯定していることにかんがみれば,当該商品表示が著名性を有するといえるためには,通常の経済活動において,相当の注意を払うことによりその表示の使用を避けることができる程度にその表示が知られていることが必要であると解するのが相当である。
ウ これを本件についてみると,前記認定事実によれば,原告は,本件表示のほか,「毛皮エンバ」,「EMBA」等の表示を使用しており,前掲各証拠によれば,このうち,「EMBA」の表示を使用する場合にはたいてい「エンバ」の表示が併記されている。また,「毛皮エンバ」の表示は「毛皮」部分が細字明朝体で記載されているのに対し,「エンバ」部分は太字ゴシック体様の字体で記載されており,一般人の注目を惹く点は「エンバ」部分であるといえる。これらの事実からすれば,原告の使用表示の要部は本件表示であるといえる。
そして,原告は,昭和41年頃には本件表示を商標登録するなどして自己の営業表示として使用している。その後,全国の主要都市に設けられた原告の店舗に設置された看板での宣伝のほか,全国紙・地方紙紙面への広告掲載,折込広告による宣伝,女性誌を中心とした各種雑誌への広告掲載,ファッションショー等各種催物の開催・協賛,エンバ中国近代美術館における文化活動等,本件訴訟において提出された証拠だけをみても,様々な分野にわたり,各種の宣伝方法を用いて,本件表示を使用した全国規模での宣伝・広告活動が行われている。
このような原告のなした宣伝・広告,数々の営業・文化活動にかんがみれば,遅くとも平成元年までには,本件表示は原告の営業を示すものとして著名性を有していると評価できる。
(3) 表示の類似性について
証拠(甲7,8,乙32)によれば,被告は,平成6年12月9日から「株式会社エンバコーポレーション」の商号を,平成11年12月14日から「株式会社エンバ」の商号を,それぞれ使用していた事実が認められる。
また,証拠(乙10の1及び2,29の1及び2)によれば,被告は事務所等に,サービスマークに青色で「Envir」の表示をするとともに黒色で商号を併記している事実が認められる。
被告の商号である「株式会社エンバ」のうち,「株式会社」の部分は会社の種類を表示するにすぎないことから,被告の商号の要部は「エンバ」であるといえる。また,被告の旧商号である「株式会社エンバコーポレーション」についても,「株式会社」の部分は会社の種類を表示するにすぎず,また,「コーポレーション」は「会社」又は「株式会社」を意味する英語が,年月により同様の意味を持つ日本語になっていると評価できることから,その要部は「エンバ」であるといえる。
そして,本件表示も被告の各商号の要部も呼称が「エンバ」であること,表示方法としても,被告は事務所等に,「Envir」の表示とともに商号を併記しており,配色,配置関係からすれば,視覚的にも類似していると評価できることから,本件表示と被告の各商号とは類似性を有するといえる。
(4)ア 以上によれば,被告が「株式会社エンバ」及び「株式会社エンバコーポレーション」の商号を使用することは,不正競争防止法2条1項2号の著名表示の冒用にあたる。
イ 被告の主張について
(ア) 被告は原告の営業内容と被告の営業内容とは全く異なるものであるから,被告が被告商号を使用していることは不正競争にあたらない旨主張する。
しかし,前記のとおり,不正競争防止法2条1項2号は混同を要件としておらず,被告の主張は失当である。
(イ) 次に,被告は,被告の商号は適法に登記できたのであるから,商号の使用は適法である旨主張する。
しかし,商業登記法,商標法,不正競争防止法はその立法目的,対象となる行為等をそれぞれ異にするものであるから,商号を適法に登記できたことをもって不正競争防止法上違法でないとすることはできない。
(ウ) また,被告は,「Envir」及びその日本語表記である「エンバ」はいずれも環境を意味する言葉として一般的に使用されている旨主張し,これに沿う証拠を提出している(乙9の1ないし4,18,31の1)。
確かに,インターネットのホームページ検索サイトで「Envir」又は「エンバ」と入力したうえで検索をすれば,環境に関連したホームページが検索されることは事実であるが,これは「Envir」又は「エンバ」という文字が使用されているホームページを機械的に検索しているにすぎない。このことは,「エンバ」と入力して検索をした場合に,チェンバロ,エンバミングなど,環境とは無関係な用語に関するホームページが検索されていることからも明らかである。
同様に,電子辞書において「Envir」と入力したうえで検索をすると「Environment」が検索されるのも「Envir」とのアルファベットの配列が含まれる英単語を機械的に検索しているにすぎない。
したがって,これらの事実をもって,「エンバ」又は「Envir」が環境を意味する日本語として一般的に使用されていると認めることはできない。
(エ) 被告のその余の主張も,以上の認定・判断を覆らせるものではない。
(5) 差止請求権について
証拠(甲119の1及び2,120の1及び2,121の1ないし7,122,123の1ないし4,126の1及び2,127,130,131,乙4,10の1ないし7,20の3及び4,26,29の1及び2,30の3,32)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,看板,印章,ゴム印,名刺,ホームページなどに「株式会社エンバ」又は「株式会社エンバコーポレーション」の表示を使用していること,被告宛の郵便物等が原告に届けられるなど,現実に原告と被告との間に混同が生じていることの各事実が認められる。
これらの事実に前記認定事実を合わせて考慮すれば,原告の営業上の利益を保護するため,被告による本件表示の使用の禁止及び侵害行為組成物件の廃棄を認めるべきである。
(6) 損害賠償について
ア 被告の故意・過失
(ア) 証拠(甲4ないし8)及び弁論の全趣旨によれば,被告の商号及び本店所在地の変更状況は以下とおりであることが認められる。
被告は昭和59年4月9日に扶桑グラウト株式会社として設立され,昭和61年3月22日に商号をシビル・エンジニアリング株式会社に変更するとともに,同年4月20日には本店を神戸市a区f通g丁目h番i号jビルに移転した。
平成2年1月9日に本店を東京都練馬区に移し,同年3月15日には商号を株式会社環境設計に変更した。
その後,平成3年4月23日に商号を株式会社エンバロメント・プランに変更すると同時に本店を神戸市a区j町k丁目l番地のm n-o号に移転した。
平成6年12月9日に商号を株式会社エンバコーポレーションに変更し,平成10年9月1日に本店を神戸市a区p町q丁目r番s号に移転した。
その後,平成11年12月14日に商号を株式会社エンバに変更するとともに本店を神戸市a区b町t丁目u番v号に移転した。
(イ) 以上認定した事実及び先に認定した事実によれば,被告が昭和61年4月20日に本店所在地を神戸市a区内に移転した時点で原告は既に本店機構を神戸市a区b町x丁目y番z号に移転しており,同所には神戸本店が存在していたこと,その後被告は何度か本店所在地を変更しているが関西に本店を置いている場合には神戸市a区内に本店所在地を設定しており,原告の本店機構の所在地と近接していること,前記認定のとおり,本件表示は,遅くとも平成元年ころまでには原告の営業を示すものとして著名性を有していたのであり,特に神戸地区では,神戸本店のほか,f店,芦屋店,姫路店,宝塚店の各店舗が存在し(甲12),芦屋にはエンバ中国現代美術館があること(甲52,54)などから,原告の発祥の地として,各種活動に力を傾けていたものと推認される。
また,被告自身その主張において,毛皮のエンバは商品の看板としか思っていなかったと述べており,少なくとも本件表示が原告の商品の表示に使用されていた事実は認識していたことが窺われる。
これらの事実からすれば,被告には,原告の営業上の利益を侵害したことについて,少なくとも過失が認められる。
イ 損害額
(ア) 当事者間に争いのない事実,前記認定事実及び弁論の全趣旨によって認められる原告及び被告の営業内容,本件表示と被告商号の使用状況等諸般の事情を総合的に考慮し,本件では被告の売上額の5%をもって原告の損害額と考えるのが相当である。
平成7年1月1日から平成12年8月末日までの間の被告の売上高は少なくとも23億8978万円であることは当事者間に争いがないから,同売上高の5%である1億1948万円が原告の損害というべきである。
また,本件事案の性質,内容、訴訟の経過、認容額等に照らせば、被告の前記不正競争行為と相当因果関係にある原告の弁護士費用に関する損害は、100万円と認めるのが相当である。
(イ) この点被告は,原告には具体的な損害が生じていない旨主張しているものと思われる。
確かに,不正競争防止法5条2項は民法709条の特則規定として損害に関する被害者の主張立証責任を軽減したものにすぎず,損害の発生していないことが明らかな場合にまで侵害者に損害賠償義務があることを認めるものではない。したがって,著名表示に類似する表示を第三者がその商品・役務等に使用した場合であっても,当該著名表示に顧客吸引力が全く認められず,著名表示に類似する表示を使用することが第三者の利益に全く寄与していないことが明らかな時は,使用料相当額の損害も生じていないというべきである。
もっとも,本件においては,損害が発生していないことを認めるに足りる証拠はない。
2 結語
以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を、仮執行宣言につき民事訴訟法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 前坂光雄 裁判官 永田眞理 裁判官 藤倉徹也)
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