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裁判年月日　令和 2年 2月28日　裁判所名　東京地裁　裁判区分　判決
事件番号　平２９（ワ）２５４６９号・平３０（ワ）２５４３６号
事件名　損害賠償等請求事件、業務委託料請求反訴事件
裁判結果　請求棄却（本訴）、認容（反訴）　文献番号　2020WLJPCA02288008

要旨
◆被告会社から事業譲渡を受けた原告会社が、被告会社に対し、主位的に、本件事業譲渡契約に基づくソフトウェアに係るソースコード等の本件ドキュメント等の引渡義務を怠ったとし、予備的に、本件ドキュメント等を引き渡すべき同契約に付随する信義則上の義務を怠り、又は、本件ドキュメント等が継承されないことは同契約上の事業継続に重大な支障を生じる瑕疵に当たるのに修補義務を怠ったとして、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めたほか、同ソフトウェアに複数税率機能が実装されているなどの欺罔行為をしたとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた（本訴）ところ、被告会社が、業務委託に係る基本契約等に基づく保守業務を履行したとして、業務委託料の支払を求めた（反訴）事案において、本件事業譲渡契約の対象財産に本件ドキュメントは含まれず、被告会社が信義則により本件ドキュメントの引渡義務を負うともいえず、同社が同ドキュメントを引き渡さないことは同契約上の瑕疵に当たらず、同社のソースコードの引渡遅延により原告会社主張の損害が発生したともいえないほか、被告会社の欺罔行為も認められないなどとする一方、被告会社は保守義務を履行したといえ、両社間で同保守業務を無償で行う旨の黙示の合意はなかったなどとして、本訴請求を棄却し、反訴請求を認容した事例

出典

参照条文
民法１条２項
民法４１５条
民法４１６条
民法５０５条
民法６４８条２項
民法６５６条
民法７０９条

平成２９年（ワ）第２５４６９号　損害賠償等請求事件
平成３０年（ワ）第２５４３６号　業務委託料請求反訴事件

東京都渋谷区〈以下省略〉
原告兼反訴被告株式会社フォーバル（以下「原告」という。）
同代表者代表取締役Ａ
同訴訟代理人弁護士小倉秀夫
同大下信
東京都港区〈以下省略〉
被告兼反訴原告株式会社エスキュービズム（以下「被告」という。）
同代表者代表取締役Ｂ
同訴訟代理人弁護士軸丸欣哉
同大場規安

主文

１　原告の本訴請求をいずれも棄却する。
２　原告は，被告に対し，８５６万９８００円並びにうち６１万５６００円に対する平成２９年７月１日から，うち７６万９５００円に対する同年８月１日から及びうち７１８万４７００円に対する同年９月１日から，各支払済みまで年１４．６％の割合による金員を支払え。
３　訴訟費用は，本訴反訴を通じ，原告の負担とする。
４　この判決は，第２項に限り，仮に執行することができる。

事実及び理由

第１　請求
１(1) 　本訴請求１
ア　主位的請求
被告は，原告に対し，６３８８万５６１８円及びこれに対する平成２８年８月２日から支払済みまで年５％の割合による金員を支払え。
イ　予備的請求
被告は，原告に対し，６３８８万５６１８円及びこれに対する平成２９年２月１６日から支払済みまで年５％の割合による金員を支払え。
(2) 　本訴請求２
被告は，原告に対し，３７６０万５０００円及びこれに対する平成２８年７月１１日から支払済みまで年５％の割合による金員を支払え。
２　反訴請求
主文第２項同旨
第２　事案の概要
１　前提事実（証拠等を掲記したもの以外は争いがない。）
(1) 　当事者
ア　原告は，情報通信コンサルティング及び経営コンサルティングを主たる事業とする株式会社である。
イ　被告は，ＩｏＴ製品の開発及び販売等を主たる事業とする株式会社である。
株式会社エスキュービズム・ホールディングスは，平成２８年１０月１日付けで，株式会社エスキュービズム・テクノロジー外２社を消滅会社とする吸収合併を行い，その商号を被告の現在の商号である「株式会社エスキュービズム」に変更した（以下，吸収合併及び商号変更の前後を問わずに「被告」という。）。
(2) 　原告と被告との間の事業譲渡契約の締結
原告と被告は，平成２８年７月１１日，被告が営むOrange Tablet事業（以下「本件事業」という。）を被告から原告に譲渡することに関し，次のような内容を含む事業譲渡契約（以下「本件事業譲渡契約」という。）を締結した。（甲１）
ア　「Orange Tablet事業」とは，被告が提供するSaaS型の店舗業務支援システム提供事業をいう。（１条(1)）
イ　原告及び被告は，本件事業譲渡契約の各条項に従って，平成２８年８月１日（以下「クロージング日」という。）において，被告が本件事業を原告に譲渡し，原告がこれを譲り受けること（以下「本件譲渡」という。）に合意する。（２条）
ウ　本件譲渡により被告から原告に譲渡する財産（以下「本件譲渡財産」という。）は，原告被告間で別途書面により合意した場合を除き，クロージング日における契約書別紙１記載の財産目録に表示された財産並びに契約書別紙２記載の契約における被告の地位及びこれらに基づく一切の権利及び義務とする。（３条１項）（なお，契約書別紙１は，別紙のとおりである。）
エ　被告は，本件譲渡財産について，クロージング日において現状有姿のまま引き渡すものとする。（同条２項）
オ　本件譲渡財産のうち，別紙記載の財産目録に表示された財産につき，本件事業の継続に重大な支障を生じる瑕疵がクロージング日の翌日から起算して６か月以内に発見された場合，被告は，無償にて当該瑕疵の修補を行うものとする。本項に定めるものを除き，被告は，瑕疵担保責任等，本件譲渡財産の瑕疵につき，一切の責任を負わない。（同条３項）
カ　本件譲渡の対価は，１億５０００万円（消費税，地方消費税額別途）とする。（５条）
(3) 　本件事業に関するソフトウェアに係るソースコードの引渡し
本件譲渡財産に含まれている「Orange Tablet事業に関するソフトウェア一式」には，本件事業に関するソフトウェア（以下「本件ソフトウェア」という。）に係るソースコード（プログラミング言語で記述されたテキストファイル。以下「本件ソースコード」という。）が含まれることは当事者間に争いがないところ，被告は，本件事業譲渡契約に基づき，本件ソースコードを平成２８年８月１日（クロージング日）と，その後の平成２９年７月７日頃，同年８月２９日頃及び同年９月９日頃に，順次，原告に対して引き渡した（したがって，本件ソースコードの一部の引渡しには履行遅滞が生じた。）。（乙１０ないし１３）
(4) 　原告と被告との間の業務委託
ア　原告と被告は，平成２８年１１月１日，原告がその事業に関連する情報システムに係るソフトウェアの開発業務並びに保守及びアップデート業務等を被告に委託する旨の業務委託に関する基本契約（以下「本件基本契約」という。）を締結した。本件基本契約には，①有効期間は同日から平成２９年１０月３１日まで，②原告が被告に委託する個別の業務の仕様，対価，支払条件その他業務に関わる必要な条件は個別契約によって定める，③被告は，個別契約に定める業務の履行が完了した後，遅滞なく原告に対し，個別契約に定める対価について請求書を発行し，原告は，当該請求書に基づき，個別契約に定める方法により，被告に当該業務の対価を支払う，④原告は，債務の弁済を怠ったときは，弁済すべき金額に対し年率１４．６％（１年を３６５日とする日割計算による）の割合による遅延損害金を被告に支払う旨が定められている。
イ　被告は，原告との間で個別契約を締結して保守業務を行い，原告は，その業務委託料（費用）として，別表１のとおり平成２８年９月から平成２９年３月までの間に３９５万９０００円（税込４２７万５７２０円）を支払った。
ウ　被告は，平成２９年４月以降も，原告との間で個別契約（以下，本件基本契約と併せて「本件基本契約等」という。）を締結して，別表２の項目のとおりの保守業務を履行した。（これが有償か否かについては争いがある。）
２　本訴請求及び反訴請求について
(1)ア　本訴請求１は，原告が，(1)主位的には，被告が本件事業譲渡契約に基づく本件ソフトウェアに係るソースコード（本件ソースコード）及び仕様書，設計書等のドキュメント（以下「本件ドキュメント」といい，本件ソースコードと併せて「本件ドキュメント等」という。）の引渡義務を怠った旨主張して，被告に対し，債務不履行に基づく損害賠償請求として，６３８８万５６１８円及びこれに対する平成２８年８月２日（履行期限の翌日）から支払済みまで民法所定の年５％の割合による遅延損害金の支払を求め，(2)予備的には，被告は，本件ドキュメント等を引き渡すべき本件事業譲渡契約に付随する信義則上の義務を怠り，又は，本件ドキュメント等が継承されないことが本件事業の継続に重大な支障を生じる瑕疵（同契約３条３項）に該当するのに修補義務を怠った旨主張して，被告に対し，債務不履行（上記信義則上の義務違反についてはこれと選択的に不法行為）に基づく損害賠償請求として，６３８８万５６１８円及びこれに対する平成２９年２月１６日から支払済みまで民法所定の年５％の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
イ　本訴請求２は，原告が，被告は，本件ソフトウェアには複数税率機能が実装されていなかったのにこれが実装されている旨の欺罔行為をし，また，本件ソフトウェアのために利用するレンタルサーバの使用料について実際とは異なる情報を提供する欺罔行為をしたため，原告が損害を被った旨主張して，被告に対し，不法行為に基づく損害賠償請求として，３７６０万５０００円及びこれに対する平成２８年７月１１日（不法行為の日）から支払済みまで民法所定の年５％の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 　反訴請求は，被告が，本件基本契約等に基づき別表２のとおり保守業務を履行した旨主張して，平成２９年４月分以降の業務委託料８５６万９８００円並びにうち６１万５６００円に対する同年７月１日から，うち７６万９５００円に対する同年８月１日から及びうち７１８万４７００円に対する同年９月１日から（いずれも支払期限の翌日），各支払済みまで約定の年１４．６％の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
３　争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 　被告が原告に対し本件ドキュメントを引き渡す義務を負うか。また，被告が原告に対し本件ドキュメントを引き渡さないことが，「本件事業の継続に重大な支障を生じる瑕疵」（本件事業譲渡契約３条３項）に当たるか。（本訴請求１関係）
（原告の主張）
ア　本件事業譲渡契約に基づく義務
本件事業譲渡契約による譲渡対象とされた本件譲渡財産に含まれる「著作権，ノウハウその他の知的財産権」には，本件ドキュメントが含まれるから，被告は，原告に対し，本件事業譲渡契約に基づき，クロージング日である平成２８年８月１日までに本件ドキュメントを引き渡す義務を負っていた。
イ　信義則上の義務
原告と被告は，本件事業を相当期間継続する予定で本件事業譲渡契約を締結しており，本件事業が譲渡された後は，原告が主体になり本件ソフトウェアの修正等を行うことが予定されていたことからすると，本件ドキュメントの引渡しが本件事業譲渡契約上の義務でないとしても，同契約に付随する信義則上の義務として，被告は，原告に対し，本件事業を継続して運営するのに必要な情報である本件ドキュメントを引き渡すべき義務を負っていた。
ウ　瑕疵修補義務
被告が本件ドキュメントを引き渡さないために，原告は，本件事業を継続して営むためには不可欠な，本件ソフトウェアをｉＯＳのアップデート等に対応させたり，その不具合を修正したりすることができないから，本件ソフトウェアには「本件事業の継続に重大な支障を生じる瑕疵」が存在し，被告は，原告に対し，本件事業譲渡契約に基づく瑕疵修補義務として，本件ドキュメントを引き渡すべき義務を負っていた。
なお，原告は，平成２８年１０月末頃に上記の瑕疵を発見したが，本件事業譲渡契約には，瑕疵があることを通知すべき旨の商法５２６条２項と同様の定めがないから，瑕疵修補請求権を保全するためには６か月以内に瑕疵を発見すれば足り，原告は，被告に対し，瑕疵があることを通知することまでは要求されない。
（被告の反論）
ア　本件事業譲渡契約に基づく義務について
本件譲渡財産は，本件ソフトウェアであって，本件ドキュメントはこれに含まれない。本件事業譲渡契約においては，被告は，本件譲渡財産をクロージング日において現状有姿のまま引き渡す旨定められているところ，本件ソフトウェアは，誰でも無料で利用，改変することができるオープンソースのＥＣ構築パッケージをカスタマイズし，被告社内で使用する目的で開発されたものであったため，本件ドキュメントは，クロージング日において作成されていなかったから，これが本件事業譲渡契約における譲渡対象に含まれないことは明らかである。
イ　信義則上の義務について
本件ドキュメントは，上記アのとおり，クロージング日において作成されておらず，本件事業譲渡契約において譲渡の対象にもされていないから，信義則という不明確な基準によって譲渡義務を発生させることは，特に債務者の予測可能性を害する。
ウ　瑕疵修補義務について
本件ドキュメントは，作成されておらず，本件事業譲渡契約に基づく譲渡対象ではないため，原告の主張はその前提を欠く。
また，本件事業譲渡契約は，商法５２６条２項後段の内容を変更するものではないから，原告が，被告に対し，クロージング日から６か月以内に瑕疵を発見した旨を通知していない以上，被告は瑕疵修補義務を負わない。
(2) 　原告の損害（本訴請求１関係）
（原告の主張）
ア　開発費用
原告は，本件訴訟提起後に被告から本件ソースコードの任意開示を受けたものの，被告がいまだ本件ドキュメントを引き渡さないことにより，本件ソースコードを解析して本件ソフトウェアの基本設計，詳細設計等をやり直さなければならず，その開発費用として２９１３万０８４０円の損害を被った。
イ　保守費用
（ア）　原告は，本件訴訟提起後に被告から本件ソースコードの任意開示を受けたものの，被告がいまだ本件ドキュメントを引き渡さないことにより，外部業者に本件ソースコードを基にした初期作業や本件ソフトウェアの保守業務を委託せざるを得ず，これらの費用１００１万７０００円の損害を被った。
（イ）　原告は，被告による本件ソースコードの引渡しが遅れたこと及び本件ドキュメントの引渡しがなかったことにより，被告に本件ソフトウェアの保守業務を委託せざるを得ず，その業務委託料（費用）として，別表１のとおり平成２８年９月から平成２９年３月までの間に３９５万９０００円（税込４２７万５７２０円）を支払い，４２７万５７２０円の損害を被った。
ウ　弁護士費用
原告が被った弁護士費用の損害は，２０４６万２０５８円とするのが相当である。
（被告の反論）
原告の主張は争う。
(3) 　複数税率機能に関する被告の違法な欺罔行為の有無（本訴請求２関係）
（原告の主張）
被告は，本件ソフトウェアには複数税率機能が実装されていなかったにもかかわらず，被告が開設するウェブサイト及びプレスリリース記事を通じて，本件ソフトウェアに既に上記機能が実装されている旨を対外的に表明し，原告にも同様に告知する違法な欺罔行為を行った。また，被告は，本件ソフトウェアに上記機能が実装されていると誤信している原告に対して，本件事業譲渡契約を締結する前にその誤信を解消するべき信義則上の義務を有していたのに，これを怠る不作為による違法な欺罔行為をした。
（被告の反論）
本件ソフトウェアは，本件事業譲渡契約に基づくクロージング日時点で複数税率機能を実装していたから，被告が，本件ソフトウェアが中小企業庁の消費税軽減税率対策補助金制度の対象サービスに指定されたことに係るプレスリリースにおいて，本件ソフトウェアが複数税率機能を標準搭載している旨記載したことが欺罔行為に当たることはない。
(4) 　レンタルサーバの使用料に関する被告の違法な欺罔行為の有無（本訴請求２関係）
（原告の主張）
本件事業譲渡契約においては，本件ソフトウェアを第三者が提供するレンタルサーバ上にインストールした状態で本件事業を営むことが予定されていたところ，上記サーバの使用料がいくらであるかは事業譲渡の対価を算定する上で重要な要素であったから，被告は，原告に対し，信義則上，本件事業譲渡契約の締結に至るまでの交渉過程において上記サーバの使用料について正しい金額を告知する義務を負っていた。
しかし，被告は，原告に対し，実際にはサーバの使用料が月額１１０万円であるにもかかわらず，これが月額３０万円である旨記載された資料を交付するという違法な欺罔行為をした。
（被告の反論）
被告が原告に示したレンタルサーバの使用料は，飽くまで被告が平成２７年４月から平成２８年３月までの間に行った事業実績に基づく数値であり，単なる参考情報として提供したものにすぎず，被告が，原告に対し，本件ソフトウェアを用いて事業を行った場合に被告と同様の業績を計上することができる旨を保証したものではない。また，原告が，本件ソフトウェアを用いて事業を行った場合に，被告が支払っていたサーバ使用料と同額でレンタルサーバを使用できるかどうかは，原告のサーバ使用状況やサーバ提供会社との条件交渉次第である。
したがって，被告は，サーバ使用料につき欺罔行為をしたとはいえない。
(5) 　原告の損害（本訴請求２関係）
（原告の主張）
ア　原告は，複数税率機能に関する被告の欺罔行為により，原告において本件ソフトウェアを複数税率制度に対応させなければならず，その改定費用１６２０万円の損害を被った。
イ　原告は，サーバ使用料に関する被告の欺罔行為により，本件事業の譲渡対価を本来の価格より高く設定してしまい，１６５０万円の損害を被った。
ウ　原告が被った弁護士費用の損害は，４９０万５０００円とするのが相当である。
（被告の反論）
原告の主張は争う。
(6) 　被告の原告に対する本件基本契約等に基づく業務委託料請求権の存否（反訴請求関係）
（原告の主張）
ア　保守業務を無償で行う旨の黙示の合意
原告は，被告に対し，平成２９年４月頃，被告が本件ソースコードを引き渡さなかったために被告に保守業務を委託せざるを得なくなったとして，保守業務を無償で行うように通告していたところ，被告は上記通告にもかかわらず保守業務を履行したのであるから，原告と被告との間には保守業務を無償で行う旨の黙示の合意があった。
したがって，原告は，被告に対し，保守業務につき，本件基本契約等に基づく業務委託報酬の支払義務を負わない。
イ　信義則違反
被告は，本件ソースコードの引渡しが遅れたという自らの債務不履行により，原告が被告に本件ソフトウェアの保守業務を委託せざるを得ない状況を作り出しておきながら，原告に対し，本件基本契約等に基づく業務委託料を請求しているのであり，信義則に反する。
ウ　相殺
原告は，本件ソースコードの引渡しが遅れたという被告の債務不履行により，被告に保守業務を委託せざるを得なかったから，被告に対し，債務不履行に基づき，被告の反訴請求債権（業務委託料請求）と同額の損害賠償債権を有する。原告は，被告に対し，平成３０年１０月４日の本件の第３回弁論準備手続期日において，上記損害賠償債権と被告の反訴請求債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。
（被告の反論）
ア　保守業務を無償で行う旨の黙示の合意について
原告は，被告がした本件基本契約等に基づく保守業務につき，発注する業務の内容，単価，数量，合計額や支払条件が記載された検収確認書に，平成２９年７月２８日時点で押印しており，同年９月には保守業務に係る請求書の発行を被告に依頼しているから，上記合意が存在しないことは明らかである。
イ　信義則違反について
原告は，被告に対し，平成２８年９月から平成２９年３月まで本件基本契約等に基づく業務委託料を支払ってきたこと，本件基本契約は，平成２８年１１月１日付けで締結されていること，原告が被告に対し平成２９年２月１５日までに本件ソースコードの引渡しを要求していた事実はないことなどに照らすと，被告が本件ソースコードの引渡しに応じなかったために被告に保守業務を委託せざるを得なかったという関係にはなく，原告の主張は，前提を欠いている。
ウ　相殺について
原告の主張は争う。
第３　当裁判所の判断
１　争点(1)（被告が原告に対し本件ドキュメントを引き渡す義務を負うか。また，被告が原告に対し本件ドキュメントを引き渡さないことが，「本件事業の継続に重大な支障を生じる瑕疵」（本件事業譲渡契約３条３項）に当たるか。（本訴請求１関係））について
(1) 　本件事業譲渡契約においては，本件譲渡により被告から原告に譲渡する財産（本件譲渡財産）は，原告被告間で別途書面により合意した場合を除き，クロージング日（平成２８年８月１日）における同契約書別紙１記載の財産目録に表示された財産並びに同契約書別紙２記載の契約における被告の地位及びこれらに基づく一切の権利及び義務とする旨（３条１項）定めているところ，同契約書別紙１及び同契約書別紙２には，本件ドキュメントは明記されていないし，原告と被告との間で本件ドキュメントを譲渡対象とする旨を別途書面により合意した事実も証拠上認められない。
また，本件事業譲渡契約によれば，被告は本件譲渡財産をクロージング日において現状有姿のまま引き渡すものとされているから（同条２項），同契約においては，譲渡対象である本件譲渡財産を，クロージング日に存在するものに限定しているものと解するのが相当である。原告は，被告において本件ソフトウェアの開発及び保守運用に必要な本件ドキュメントを作成していないということはあり得ない旨主張するが，被告はクロージング日における本件ドキュメントの存在を否定するので，この点について検討する。
証拠（乙２７，被告代表者）及び弁論の全趣旨によれば，本件ソフトウェアは，オープンソース（誰でも無料で利用，改変することが可能）のＥＣ構築パッケージである「ＥＣ－ＣＵＢＥ」をカスタマイズして，被告の社内でのみ利用するために（被告の事業用として）作成されたものであり，カスタマイズ部分について被告以外の第三者に説明することは，本来予定されていなかったことが認められる。そうすると，カスタマイズ部分については被告のエンジニアのみが理解することができれば足りるから，本件ドキュメントを作成していなかったとする被告の主張は不合理とはいえない。しかも，証拠（甲３３，証人Ｃ）によれば，原告側において本件事業譲渡契約の締結に向けた交渉を担当していた，原告社長室Ｍ＆Ａ業務担当部長Ｃ（以下「Ｃ」という。）も，本件事業譲渡契約の締結（平成２８年７月１１日）より前の同年５月か６月頃に，被告側から，本件ソフトウェアに係る設計書がないことを聞かされていた事実が認められる。
これらの事情を併せれば，クロージング日（平成２８年８月１日）において，本件ドキュメントが存在していたとは，本件全証拠によっても認められないから，譲渡対象である本件譲渡財産には，本件ドキュメントは含まれないというべきである。
以上によれば，被告が，原告に対し，本件事業譲渡契約に基づき，本件ドキュメントを引き渡す義務を負うとは認められない。
(2) 　原告は，本件ドキュメントの引渡しが本件事業譲渡契約上の被告の義務でないとしても，被告は，同契約に付随する信義則上の義務として本件ドキュメントを原告に引き渡す義務を負っていた旨主張する。
事業譲渡契約を締結するに際して，譲渡対象となる財産が何かということは当事者間の最大の関心事であることが通常であるところ，上記(1)のとおり，本件ドキュメントは，そもそも作成されて存在していたとは認められず，本件事業譲渡契約による譲渡対象にならないと解されるのである。そうすると，特別の事情の存在が認められない限り，同契約に付随する信義則上の義務として，被告において改めて本件ドキュメントを作成して原告へ引き渡す義務を認めることができないというべきである。
この点につき，原告は，本件事業が譲渡された後は，原告が主体になり本件ソフトウェアの修正等を行うことが予定されていたことからすると，本件事業を継続して運営するのに必要な情報である本件ドキュメントは被告から原告に引き渡されるべきであった旨主張する。
しかし，原告において本件事業譲渡契約締結の交渉を担当したＣは，同契約の締結前に本件ソフトウェアに係る設計書が存在しないことを被告側から聞かされていた（上記(1)）にもかかわらず，証拠（証人Ｃ）によれば，原告は，被告に対し，同契約の締結前に，本件ソフトウェアに係る設計書や仕様書などの本件ドキュメントの引渡しを求めたことはないことが認められる。また，本件事業譲渡契約の当事者である原告と被告との間では，同契約の締結までに，本件ドキュメントの有無や被告から原告への引渡しが検討された形跡すらないのである。しかも，事業譲渡等の企業買収においては，最終の契約締結前に，買収者が対象会社に対する実地調査（デュー・ディリジェンス）を行い，重要な事実等を確認する事例も多いところ，原告は，本件ドキュメントの存在を含む本件ソフトウェアの状況等を確認するための実地調査を行っていないし，これを被告に対して求めた形跡もない。それにもかかわらず，本件事業譲渡契約を締結してクロージング日も経過した後に，信義則を根拠として，被告において改めて本件ドキュメントを作成して原告へ引き渡すことを求めることは，同契約の当事者としては想定外の負担を被告に課するものというほかなく，これを正当化できるだけの特別の事情は，本件全証拠によっても認めることはできないというほかない。
以上によれば，被告は，原告に対し，信義則に基づき，本件ドキュメントを引き渡す義務を負うとは認められない。
(3) 　原告は，被告が本件ドキュメントを引き渡さないために，本件ソフトウェアをｉＯＳのアップデート等に対応させたり，その不具合を修正したりすることもできないとして，本件ドキュメントを引き渡さないことが，「本件事業の継続に重大な支障を生じる瑕疵」（本件事業譲渡契約３条３項）に当たる旨主張する。
しかし，上記(1)で判示したとおり，被告が原告に対して本件事業譲渡契約に基づき本件ドキュメントを引き渡す義務を負うとは認められないから，被告が原告に本件ドキュメントを引き渡さないことが，同契約の内容に適合しないということはできず，本件譲渡財産のうち別紙記載の財産目録に表示された財産につき，「本件事業の継続に重大な支障を生じる瑕疵」（同項）があるということはできない。
２　争点(2)（原告の損害（本訴請求１関係））について
(1) 　原告主張の損害のうち，開発費用２９１３万０８４０円（上記第２の３(2)（原告の主張）ア）及び保守費用の一部１００１万７０００円（同イ（ア））は，被告が原告に未だ本件ドキュメントを引き渡さないことによる損害を主張するものであるところ，上記１で判断したとおり，被告は，原告に対し本件ドキュメントを引き渡す義務を負わないし，また，被告が原告に対し本件ドキュメントを引き渡さないことが，「本件事業の継続に重大な支障を生じる瑕疵」（本件事業譲渡契約３条３項）に当たるとは認められないから，原告が主張する上記損害については，その存否を判断する必要がない。
(2)ア　原告主張の損害のうち，保守費用の一部４２７万５７２０円（上記第２の３(2)（原告の主張）イ（イ））については，被告が本件ドキュメントを引き渡さないこと及び本件ソースコードの引渡しが遅れたことによる損害であると主張するものであるところ，本件ドキュメントの引渡しがなかったことは，上記(1)に判示したとおり被告の責任原因とはならないものの，本件ソースコードの一部の引渡しが，クロージング日（平成２８年８月１日）においては完了せず，それより後の，平成２９年７月，同年８月，同年９月にもその一部が引き渡されたこと（履行遅滞が生じたこと）は当事者間に争いがない（前提事実(3)）。
そこで，原告主張の上記損害が，本件ソースコードの引渡しが遅れたことにより生じたものと認められるか否かについて判断する。
イ　原告は，被告による本件ソースコードの引渡しが遅れたことにより被告に本件ソフトウェアの保守業務を委託せざるを得なかった旨主張するところ，後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば，原告が被告に本件ソフトウェアの保守業務を委託した経緯等については，以下の事実が認められる。
（ア）　原告と被告とが本件事業譲渡契約の締結に向けた交渉をしていた平成２８年４月２７日，被告代表者が，原告のＣに対し，人員について，「サポート人員３名程度のみ移籍。この人員のみ価格に含みます。エンジニア，営業については必要な場合は別途業務委託契約」とするメールを送付した。（乙８）
同年６月２７日，Ｃが，原告に移籍する者は３名を想定している旨のメールを送ったのに対し，被告管理部のＤ（以下「Ｄ」という。）は，「当初予定通り，エンジニアと営業は含まず，サポート人員３名となる予定」とＣに伝えるメールを送付した。（乙２０）
同年７月１１日，原告の取締役会は本件事業譲渡契約の締結を承認したが，その際に取締役会に提出された資料には，譲渡後の運営体制について，「開発人員が移動しないが，事業譲渡後のシステム改修は譲渡事業であるエスキュービズムで対応して頂く。（有償にて）」と記載されていた。（甲３０）
（イ）　本件事業譲渡契約では，被告はクロージング日の前日において本件事業に従事する３名（契約書で特定されている。）との間の雇用契約を終了し，原告は，クロージング日をもって当該従業員を雇用するものと定められた。原告は，移籍する上記３名の従業員について，本件ソフトウェアのカスタマイズや深刻なバグの対応はできないと認識していたが，それ以外の保守業務を処理できるかどうかについて，被告に対して，同契約の締結前に確認をしたことはなかった。（甲１，証人Ｃ）
（ウ）　被告のＤは，平成２８年７月２７日，Ｃに対し，今後カスタマイズ開発などを被告が受注することも想定されるので，基本契約書（案件が発生したら見積りをして発注という流れで個別に条件を決めることを想定したもの）だけを締結しておきたい旨のメール（乙２１）を送付し，同月２９日，開発やサポートなどが発生した場合の基本契約書（案件が発生した場合に個別契約を結ぶ前提のもの）のドラフトを送付（乙２２）した。これに対し，原告のＣは，同年９月１３日，被告のＤに対し，①原告としては事業譲渡の実行の際にシステム改修等は役員会に予算外で経費計上することを報告しているが，ランニングでサポート契約を締結することまでは想定しておらず，月額サポート契約をランニングで予算外申請をすることは困難であるので，当面はショット（掛かった工数）での個別対応依頼としてもらいたいとし，②現状で，ＩＯＳがバージョンアップされることへの検討作業とサーバのディスク容量の空きがなくなってきており容量増設の必要があるので，この２点については，作業依頼の対応と概算見積もりをお願いするとしたメール（乙２３）を送付した。（乙２１ないし２３）
（エ）　これを受けて，原告と被告とは，その都度個別契約を締結し，被告は原告から委託された本件ソフトウェアに係る保守業務を履行し，その対価として，原告は，被告に，別表１のとおり平成２８年９月から平成２９年３月までの間に３９５万９０００円（税込４２７万５７２０円）を支払った。（前提事実(4)イ）
（オ）　原告と被告は，平成２８年１１月１日付けで，原告がその事業に関連する情報システムに係るソフトウェアの開発業務並びに保守及びアップデート業務等を被告に委託する旨の本件基本契約を締結した（実際には，被告が同月２１日に原告へ記名押印した契約書正本を送付し，原告が平成２９年１月３０日に被告へ記名押印したそれを返送した。）。（前提事実(4)ア，弁論の全趣旨）
ウ　原告が主張するように，原告の被告に対する保守業務の委託が，被告の本件ソースコードの引渡しが遅れたためにせざるを得なかったのであれば，そもそも，上記イ（エ）のとおり，原告が被告に対しその対価を支払うことは考え難い。その点は措くとしても，上記イに認定したとおり，被告が原告に対して開発やサポートなどが発生した場合の基本契約（案件が発生した場合に個別契約を結ぶ前提のもの）の締結を提案したのに対し，原告も，ランニングでサポート契約を締結することまでは想定していないので，当面はショット（掛かった工数）での個別対応依頼としてもらいたいとして，原告と被告とは，その都度個別契約を締結して，被告は本件ソフトウェアに係る保守業務を履行し，その対価として，原告は，被告に，別表１のとおり平成２８年９月から平成２９年３月までの間に４２７万５７２０円（税込）を支払っているのであって，被告による本件ソースコードの引渡しが遅れたために原告が被告に保守業務を委託したという因果関係は，証拠上何ら窺うことができない。
以上によれば，原告が被告に本件ソフトウェアの保守費用として４２７万５７２０円を支払ったことと，被告の原告への本件ソースコードの一部の引渡しが遅れたこと（履行遅滞）との間には相当因果関係があるとは認められないから，上記の額は，被告が賠償すべき損害とは認められないというべきである。
３　争点(3)（複数税率機能に関する被告の違法な欺罔行為の有無（本訴請求２関係））について
(1)ア　原告は，本件ソフトウェアには複数税率機能が実装されていなかったにもかかわらず，被告が，ウェブサイト及びプレスリリース記事を通じて，本件ソフトウェアに既に上記機能が実装されている旨を対外的に表明し，原告にも同様に告知する欺罔行為を行った旨主張する。
イ　後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば，以下の事実が認められる。
（ア）　被告は，平成２８年４月１４日，「Orange POSが軽減税率対策補助金対象サービスに指定」と題するプレスリリースにおいて，Orange POSが，中小企業庁の消費税軽減税率対策補助金制度の対象サービスに指定されたこと，Orange POSは複数税率機能を標準搭載しており，税制の決定後，軽減税率に対応できる機能追加を行っていく予定である旨を公表した。また，その後，被告は，そのウェブサイトにおいて，Orange POSが軽減税率対策補助金対象商品であることを示すバナー広告を掲載した。（甲７，８）
（イ）　中小企業・小規模事業者等消費税軽減税率対策補助事業では，中小企業・小規模事業者等の複数税率対応モバイルＰＯＳレジシステムの導入を支援するに当たり，モバイルＰＯＳレジシステムが複数税率対応レジとしての基準を満たしている（つまり，補助対象である）ことを確認し，中小企業・小規模事業者等が安心して購入することができるよう，サービスベンダー，補助対象製品等を事前に軽減税率対策補助金事務局に登録することができることとしていた。そして，複数税率対応の継続的なレジ機能サービスを，タブレット，ＰＣ，スマートフォンを用いて利用し，レシートプリンタを含む付属機器を組み合わせてレジとして導入する場合において，①売上げの区分経理に資する機能を持つもの，②区分記載請求書等保存方式に対応した請求書等の発行機能を持つもの，という機能を有する複数税率対応のサービス及び製品が補助金交付の対象となるとされていた。（乙１４）
（ウ）　被告の作成したOrange POSは，平成２８年３月３１日，消費税軽減税率対策補助金の対象サービスとして登録された。（乙１の１及び２）
ウ　上記イ（ア）のとおり，被告がしたプレスリリース及びウェブサイトでの広告は，①Orange POSが軽減税率対策補助金制度の対象サービス（軽減税率対策補助金対象商品）に指定されたこと，②Orange POSが複数税率機能を標準搭載していること，③税制の決定後に軽減税率に対応できる機能追加を行っていく予定であることという事実を公表したものということができる。
そして，上記イ（ウ）によれば，上記①は虚偽ではないことは明らかである。また，上記イ（イ）によれば，中小企業・小規模事業者等消費税軽減税率対策補助事業では，所定の機能を有する複数税率対応のサービス及び製品であること（補助金交付の対象であること）を確認して，補助対象製品等を事前に登録するものとされており，Orange POSは対象サービスとして登録された（上記イ（ウ））のであるから，上記②も虚偽であるということはできない。
そうすると，税制の決定後に軽減税率に対応できる機能追加を行っていく予定であることを示した上で，本件ソフトウェア（Orange POS）が複数税率機能を標準搭載している旨を示した被告によるプレスリリース及びウェブサイトの広告は，虚偽の事実を告知するものではないから，欺罔行為に当たらず，被告が同様の事実を原告に告知していたとしても欺罔行為に当たらないというべきである。被告の作為による欺罔行為をいう原告の上記主張は，採用することができない。
エ　原告は，被告が，本件ソフトウェアに複数税率機能が実装されていると誤信している原告に対して，本件事業譲渡契約を締結する前にその誤信を解消するべき信義則上の義務を有していたのに，これを怠る不作為による欺罔行為をした旨主張する。
しかし，上記ウで判示したとおり，本件ソフトウェア（Orange POS）に複数税率が実装されているということは虚偽ではないから，原告が，本件ソフトウェアに複数税率機能が実装されていると認識していたとしても，それは誤信に当たらず，原告の上記主張は前提を欠き，失当というべきである。
なお，仮に，本件ソフトウェアに実装されていた機能が，原告が期待していた程度の機能を有する「複数税率機能」に及ぶものではなかったということをもって，「誤信」があったと原告が主張しているのであれば，それは，原告が本件ソフトウェアに対する評価を誤ったというにすぎないのであって，事業者同士の対等な取引である本件事業譲渡契約の相手方である被告において，そのような「誤信」を解消すべき信義則上の義務はないというほかない。
(2) 　以上によれば，複数税率機能に関する被告の欺罔行為をいう原告の主張は，採用することができない。
４　争点(4)（レンタルサーバの使用料に関する被告の違法な欺罔行為の有無（本訴請求２関係））について
(1)ア　原告は，被告が，信義則上，本件事業譲渡契約の締結に至るまでの交渉過程において本件ソフトウェアをインストールしているレンタルサーバの使用料について正しい金額を告知する義務を負っていたにもかかわらず，実際のサーバの使用料よりも僅少な金額が記載された資料を原告に交付したことが，欺罔行為として違法である旨主張する。
イ　後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば，以下の事実が認められる。
（ア）　原告と被告は，平成２８年３月２５日，原告のＣと被告代表者が面談して秘密保持契約を締結し，本件事業を被告から原告に譲渡することについての交渉を始めた。同月２８日には被告代表者からＣに本件事業の収益に関する資料と顧客リストが送付され，被告から原告に譲渡対価の総額を３億円とする提案がされるなど，被告代表者とＣとの間では，本件事業に関する情報のやりとりが行われていた。同年４月１１日，被告代表者は，Ｃに対し，「他社からの要望で担当が１年分を遡ってＰＬを作成いたしました。ご参考にお送りさせていただきます。」と記載したメールに添付して，本件事業に関する平成２７年４月から平成２８年３月までの１年間（平成２８年３月期）の損益計算書（以下「本件損益計算書」という。）を送付した。本件損益計算書（甲９の２）には，本件事業の売上２億２３４４万６８７４円，営業利益８７４８万４５７０円，営業利益率３９．２％が計上されており，売上原価の一項目であるサーバ使用料（本件ソフトウェアはニフティクラウドというレンタルサーバを利用していた。）としては，１か月当たり３０万円（年間３６０万円）が計上されていた。（甲９の１及び２，３３，乙２７）
（イ）　平成２８年４月２７日，原告が，被告に対し，本件事業の譲渡対価の総額２億７０００万円とする逆提案をし，同月２８日には，被告が，原告に対し，被告開発に係るコンテンツ管理システムについても原告が別途契約を締結する場合には本件事業の譲渡対価の総額を２億５０００万円とするが，そうでない場合には２億８０００万円とする再提案をするなどして，最終的に，本件事業の譲渡代金を１億５０００万円，特許の実施料を１億２０００万円とし，本件事業の譲渡に伴い原告が被告に総額２億７０００万円を支払うことで原告と被告は合意して，同年７月１１日，原告と被告は，本件事業譲渡契約及び特許実施権再許諾契約を締結した。（前提事実(2)，甲４）
同日，原告において，本件事業譲渡契約につき取締役会の承認を得たが，取締役会に提出された資料には，本件事業の同年３月期の損益については，本件損益計算書と同じ数字が記載されていた。（甲３０，３３）
（ウ）　被告が原告に交付した本件損益計算書のサーバ利用料の記載は誤っており，実際は１か月当たり７０万円から９０万円のサーバ利用料が発生していた。これに基づき本件損益計算書を修正すると，営業利益は８０８７万７５１６円，営業利益率は３６．２％となる。（乙３，５）
本件損益計算書のサーバ利用料の記載が誤った理由を，被告代表者は，本件損益計算書を作成した担当者が誤ったことによると説明している（乙２７，被告代表者）
ウ　そこで検討すると，確かに，被告代表者が原告のＣに送付した本件損益計算書には，実際のサーバ使用料よりも少ない金額が記載されていた（上記イ（ア），（ウ））。しかし，それが，被告代表者の説明（上記イ（ウ））と異なり被告の故意によるものであったということを示す証拠は存在しない。
そして，①本件損益計算書は，原告の求めに応じて被告が送付したものではなく，他社の求めで担当者が作ったものを参考に送る旨を明示して，被告代表者がＣに送付したものであること，②本件損益計算書は本件事業譲渡契約において被告が原告に対してその正確性の表明及び保証をした事項には含まれていないこと（証拠（甲１）によれば，被告は，同契約８条１項において，本件事業に係る会計帳簿の正確性を表明及び保証していることが認められるが，本件損益計算書は，当然ながら，当該「会計帳簿」には該当しない。），③本件事業の譲渡は，事業者同士の対等の取引であるから，原告にとって，サーバ利用料が本件事業譲渡契約の締結の判断に当たり重要な事項であるならば，原告は，会計帳簿の確認や実地調査（デュー・ディリジェンス）を求めるなど，その正確性を確認する方策を比較的容易に取り得たにもかかわらず，何らの方策を採った形跡がないこと，④上記イ（イ）のとおり，本件事業の譲渡対価の総額は，当事者双方の様々な事情を踏まえて決まったことが窺え，本件損益計算書のサーバ利用料の記載の誤りが，原告と被告間で合意された２億７０００万円という譲渡対価の総額にどのような影響を与えたのかを的確に認めるに足りるだけの証拠は存しないことといった諸事情に照らすと，被告代表者が原告のＣに送付した本件損益計算書に実際のサーバ使用料よりも少ない金額が記載されていたことの一事をもって，直ちに不法行為法上違法な行為であるということはできないというべきである。
５　争点(6)（被告の原告に対する本件基本契約等に基づく業務委託料請求権の存否（反訴請求関係））について
被告は，原告との間で個別契約を締結して保守業務を行い，平成２９年４月以降も，原告との間で，本件基本契約に基づき個別契約を締結して，別表２記載の項目のとおりの保守業務を履行したとして，本件基本契約等に基づき，別表２記載の金額の支払を求めている。
(1) 　保守業務を無償で行う旨の黙示の合意の有無について
ア　原告は，被告に対し，平成２９年４月頃，保守業務を無償で行うように通告していたところ，被告は，上記通告にもかかわらず保守業務を履行したのであるから，原告と被告との間には保守業務を無償で行う旨の黙示の合意があった旨主張する。
イ　後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば，以下の事実が認められる。
（ア）　原告のＣは，平成２８年９月１３日，被告のＤに対し，原告としては事業譲渡の実行の際にシステム改修等は役員会に予算外で経費計上することを報告しているが，ランニングでサポート契約を締結することまでは想定しておらず，月額サポート契約をランニングで予算外申請をすることは困難であるので，当面はショット（掛かった工数）での個別対応依頼としてもらいたいなどとするメールを送付し，以後，原告と被告とは，その都度個別契約を締結し，被告は原告から委託された本件ソフトウェアに係る保守業務を履行し，その対価として，原告は，被告に，別表１のとおり同月から平成２９年３月までの間に３９５万９０００円（税込４２７万５７２０円）を支払っていた。（上記２(2)イ（ウ），（エ））
（イ）　原告のＣは，平成２９年３月頃から，被告代表者との間で，被告にその都度委託していた保守業務について，被告から移籍した３名のサポート人員で実施可能な部分は原告で行うが，それ以外のロジックの調査やバグの修正等については被告の支援を求めるなどの交渉を行っていた。（甲３２，乙２６の１）
Ｃは，平成２９年４月２０日，被告代表者に対して，「保守業務を１～１１に細分化。１～５については単純作業が多いので弊社でなるべくするようにする。引継ぎは７月末をめどに完了させる。６～１１までは御社にて今後は無償対応でお願いしたい。４月以降から引継ぎ完了までは現行発生している保守業務を無償でお願いしたい。」などとするメールを送付した。（甲３２，乙２６の１及び２）
これに対し，被告代表者は，同月２１日，Ｃに対し，１～５は引継ぎ後は御社でされるべき項目である，６は無償対応に７月末までという期限を切らせてほしい，７～１０は御社でされるべき項目である，１１も７月末までとさせてほしい，保守業務は，引継ぎにかかわるものは無償で行うが，運用にかかわるものは今までどおり請求する，という旨の回答のメールを送付した。その後もやりとりが続いたが，Ｃは，同月２６日，被告代表者に対し，これ以外の着地はなく弊社の意思は固いとした上で，①１～５についてサポートメンバーで対応可能な項目は引き継いで原告で対応するが，対応できない項目は御社にて無償で対応してほしい，②６～１１は御社にて原則期限は設けずに無償で対応をしてほしい，③４月から保守業務は無償でお願いしたいとするメールを送付した。被告代表者は，同日，Ｃに対し，「下記了解いたしました。それではそれにそって合意書か契約書なりをご用意いただけますか？合意事項として整えてください。」などと返信した。（甲３２，乙２６の１及び２）
しかし，その後，原告と被告との間で，合意書や契約書が作成されることはなかった。（弁論の全趣旨）
（ウ）　被告は，平成２９年５月３１日から同年７月２８日まで，本件基本契約等に基づいて実施した業務につき，発注する業務の内容，単価，数量，小計及び合計のほか，支払金額及び支払条件等が記載された検収確認書を原告に提示して，原告から，「下記のとおり検収確認致します。」との文言下に確認印を得た上で，原告に対し，検収確認を得た業務について，委託料の請求書を発行してきた。（乙６の１ないし１２，７の１ないし１２）
同年９月には，原告において，被告が発行した請求書に過去分と重複があったことに気付いて被告に指摘し，原告と被告とで相談の上，重複の請求書を破棄し，新たな請求書（乙７の２）を発行した例もあった。（乙９）
ウ　上記イ（ア）のとおり，原告と被告とは，平成２８年９月以降，保守業務については，掛かった工数での個別対応依頼とすることとし，その都度個別契約を締結して，被告は，原告から委託された本件ソフトウェアに係る保守業務を履行し，平成２９年３月まではその対価の支払を受けていたのであって，被告が有償で保守業務を行う旨の合意がされていたのである。
なるほど，同月以降，原告のＣが被告代表者に対して同年４月以降の保守業務を無料とすることなどを求めており，被告代表者が，同月２６日，Ｃに対し，その要求に沿った合意書又は契約書の用意を求めた事実はあるものの，結局，そのような合意書等は作成されるに至っていないのであって（上記イ（イ）），将来にわたる保守業務の費用の取扱いという事柄の性質やそれまでの交渉の経緯に照らすと，被告代表者が求めたように，最終的に合意書等を作成するなどして双方の意思が具体的に合致したことが明らかになっていない以上，同日時点で，保守業務について，従前の有償という取扱いを改めて無償で行うという合意があったとはいえない。しかも，その後も，原告は，同年５月３１日から同年７月２８日まで，本件基本契約等に基づく業務につき支払金額及び支払条件を記載した検収確認書に押印し，被告も，検収確認に対応した請求書を発行しているのである（上記イ（ウ））。
そうすると，同年４月頃に，原告と被告との間で保守業務を無償で行う旨の黙示の合意があったとは，本件全証拠によっても認められないというほかない。
(2) 　信義則違反について
原告は，被告は，本件ソースコードを引き渡さなかったという自らの債務不履行により，原告が被告に保守業務を委託せざるを得ない状況を作り出しておきながら，原告に対し，本件基本契約等に基づく業務委託料の支払を請求しているのであり，このような請求は信義則に反する旨主張する。
しかし，上記２(2)で判示したとおり，被告による本件ソースコードの引渡しが遅れたために原告が被告に保守業務を委託したという因果関係は証拠上何ら窺うことができないのであるから，原告の上記主張は，その前提を欠き，採用することができない。
(3) 　相殺の主張について
原告は，被告の本件ソースコードを引き渡さないという債務不履行により被告に保守業務を委託せざるを得なかったから，被告に対し，債務不履行に基づき，被告の反訴請求債権（業務委託料請求）と同額の損害賠償債権を有するとして，上記債権と被告の反訴請求債権とを対当額において相殺する旨主張する。
しかし，上記２(2)で判示したとおり，被告の本件ソースコードを引き渡さないという債務不履行により，原告が被告に保守業務を委託せざるを得なかったとは認められず，原告は，その主張する損害賠償請求権（自働債権）を取得しないから，原告の上記の相殺主張は採用することができない。
(4) 　小括
以上検討したところに，証拠（乙６の１ないし１２，７の１ないし１２）及び弁論の全趣旨を併せれば，被告は，本件基本契約等に基づき，別表２記載の項目のとおりの保守業務を履行し，別表２記載の金額及び支払期限の委託料請求権を取得したものと認められる。
第４　結論
以上によれば，原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし，被告の反訴請求は理由があるからこれを認容することとして，主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第１０部
（裁判長裁判官　德岡治　裁判官　木地寿恵　裁判官　安陪遵哉）

〈以下省略〉

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候補予定者と有権者を繋ぐため、名刺・ビラ・政策レポート・討議資料・リーフレットなど活動報告資料の直接手渡し配布を致します。

③留守宅|候補者PR資料ポスティング投函
ご訪問先がご不在の場合には、配布物を郵便受け等にポスティング投函致します。(想定ターゲットに完全100パーセントのリーチ率！)

④政治活動ポスター貼り(新規掲示交渉！
【完全成果報酬】地獄のドブ板活動に必須となる、政治活動用ポスター貼り(新規掲示交渉代行！)(貼れた分だけの枚数課金となります)

⑤掲示(貼付)後のフォロー|クレーム対応
ポスター掲示(貼付)完了後における掲示許可承諾者へ、フォローやクレーム対応等のストレスな部分は選挙ドットウィン！が致します。