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裁判年月日 令和 2年 3月10日 裁判所名 札幌地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)1187号・平25(ワ)1879号・平26(ワ)452号・平26(ワ)1706号・平26(ワ)1763号・平26(ワ)2629号・平27(ワ)1827号・平28(ワ)935号・平28(ワ)2561号・平29(ワ)1397号
事件名 各損害賠償請求事件
文献番号 2020WLJPCA03109004
要旨
◆原告らが、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波の影響で、被告東京電力ホールディングス株式会社が設置し運営していた福島第一原子力発電所において放射性物質が放出される事故(本件事故)が発生したことにより、本件事故当時の居住地から避難することを余儀なくされ、財産的損害及び精神的損害を被ったなどとして、被告国に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を認めるとともに、被告東電に対して原子力損害の賠償に関する法律3条1項に基づき、被告国と連帯して損害を賠償する責任を認め、原告らの主張する損害額の一部を認容した事例
出典
裁判所ウェブサイト
評釈
下山憲治・環境と公害 50巻1号40頁
裁判年月日 令和 2年 3月10日 裁判所名 札幌地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)1187号・平25(ワ)1879号・平26(ワ)452号・平26(ワ)1706号・平26(ワ)1763号・平26(ワ)2629号・平27(ワ)1827号・平28(ワ)935号・平28(ワ)2561号・平29(ワ)1397号
事件名 各損害賠償請求事件
文献番号 2020WLJPCA03109004
主文
1 被告らは,別紙認容額等一覧表の「認容/棄却の別」欄に一部認容との記載がある各原告に対し,連帯して,同一覧表の「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 別紙認容額等一覧表の「認容/棄却の別」欄に一部認容との記載がある原告らのその余の請求及び同欄に棄却との記載がある原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,各原告と被告らとの間にそれぞれ生じた費用のうち,各原告に対応する別紙認容額等一覧表の「訴訟費用の原告ら負担割合」欄記載の各割合を当該各原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
ただし,被告らが,それぞれ,別紙認容額等一覧表の「担保額」欄に金額の記載がある各原告に対し,同欄記載の各金員の担保を供するときは,当該担保を供した被告は,当該原告との関係において,その仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第1章 請求
被告らは,別紙認容額等一覧表の「原告番号」欄記載の各原告に対し,連帯して,各原告に係る同表の「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2章 事案の概要等
以下,略語又は説明の必要な用語を使用する場合の各略語又は各用語の意味は,別紙略語・用語一覧表記載のとおりである。ただし,初出の場合等,理解のため併せて正式名称を用いる場合がある。
第1節 事案の概要
本件は,原告らが,平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(本件地震)及びこれに伴う津波(本件津波)の影響で,被告東京電力ホールディングス株式会社(被告東電)が設置し運営していた福島第一原子力発電所(本件原発)1~4号機において放射性物質が放出される事故(本件事故)が発生したことにより,本件事故当時の居住地(本件事故後出生した者については,その親の居住地。以下同じ。)から避難することを余儀なくされ,財産的損害及び精神的損害を被ったなどと主張して,被告東電に対しては民法709条又は原賠法3条1項に基づき,被告国に対しては国家賠償法1条1項に基づき,それぞれ損害賠償を求める事案である。
なお,原告番号22-2は訴訟係属中に死亡したため,原告番号22-1が訴訟手続を承継し,原告番号72-2は訴訟係属中に死亡したため,原告番号72-1,原告番号72-3,原告番号72-4が訴訟手続を承継し,原告番号74-1は訴訟係属中に死亡したため,原告番号74-2が訴訟手続を承継した。
また,原告番号49-1~3,63-1~3,64-1,65-1~5については,訴えの取下げにより終了した。
第2節 前提事実等
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実である(なお,複数頁にわたる書証又は速記録のうち認定に用いた主な箇所の頁数を〔 〕内に摘示した。以下同じ。)。
第1 関係法令の定め
1 電気事業法
⑴ 電気事業法は,電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによって,電気の使用者の利益を保護し,及び電気事業の健全な発達を図るとともに,電気工作物の工事,維持及び運用を規制することによって,公共の安全を確保し,及び環境の保全を図ることを目的とする法律である(1条)。
⑵ 本件事故当時の電気事業法は,事業用電気工作物を設置する者は事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならないと定め(39条1項),これを受けて経済産業省は,発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令(省令62号)を定めていた。そして,経済産業大臣は,事業用電気工作物が上記技術基準に適合していないと認めるときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができるものとしていた(技術基準適合命令。40条)。
2 省令62号
本件事故当時の省令62号は,原子炉施設及びその附属施設等が想定される自然現象(地すべり,断層,なだれ,洪水,津波,高潮,基礎地盤の不同沈下等をいう。ただし,地震を除く。)により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならないと定めていた(4条1項)。
また,省令62号は,非常用電源設備及びその附属設備は,多重性又は多様性,及び独立性を有し,その系統を構成する機械器具の単一故障が発生した場合であっても,運転時の異常な過渡変化時又は一次冷却材喪失等の事故時において工学的安全施設等の設備がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければならないと定めている(33条4項)。
3 原賠法
⑴ 原賠法は,原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もって被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする法律である(1条)。
⑵ 原賠法は,「原子力損害」とは核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し,又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいうと定義した上(2条2項本文),原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責任を負うものとして(3条1項本文),原子力事業者に無過失責任を負わせている。また,原子力損害については,原賠法3条の規定により損害賠償責任を負う原子力事業者以外の者は損害賠償責任を負わないものとして(4条1項),責任を当該原子力事業者に集中させている。
第2 当事者
1 原告ら(本件事故後に出生した者を除く。)は,本件事故により,福島県内(ただし原告番号81-1~3は栃木県内)の各居住地から,札幌市等に避難したか,あるいは同居していた家族が上記各居住地から上記同様に避難した者らである。
(弁論の全趣旨)
2 被告東電(本件事故当時の商号は東京電力株式会社)は,本件原発の各原子炉の設置許可を受けた株式会社であり,原賠法2条3項所定の原子力事業者である。
(弁論の全趣旨)
第3 本件原発の概要
1 概要
本件原発は福島県太平洋岸のほぼ中央である双葉郡大熊町及び同郡双葉町の境に位置しており,その敷地の東側は太平洋に面している。(甲A1の1〔本文編9〕,乙4の1〔1〕)
2 配置等
本件事故当時,本件原発には1号機から6号機まで合計6基の沸騰水型原子炉(BWR)が稼働しており,1~4号機は福島県双葉郡大熊町に,5号機及び6号機は同郡双葉町に設置されていた。各原子炉は,原子炉建屋(R/B),タービン建屋(T/B),コントロール建屋(C/B),サービス建屋(S/B),放射性廃棄物処理建屋等から構成されていた。(甲A1の1〔本文編9〕,乙4の1〔1〕)
3 敷地高さ等
1~4号機の各原子炉格納容器を格納する原子炉建屋及びタービン建屋の敷地高さは,O.P.(小名浜港工事基準面)+10mであった。各号機の取水のための海水ポンプが設置されている海側部分の敷地高さは,いずれもO.P.+4mであった。本件原発敷地の東側の海岸には,O.P.+10mの防潮堤が同敷地を取り囲むように設置されていた。(甲A1の1〔本文編19〕,乙4の1〔105,107〕)
第4 本件事故に至る経緯
1 地震の発生,津波の到達
平成23年3月11日午後2時46分,牡鹿半島の東南東約130㎞を震源とするM9.0(Mt(津波マグニチュード)9.1)の地震(本件地震)が発生した。本件地震の震源域は,岩手県沖から茨城県沖に及ぶ,長さ約500㎞,幅約200㎞の地域であり,本件地震は複数の震源域が連動して発生したものであった。(乙4の1〔6〕)
平成23年3月11日午後3時27分頃,本件地震による津波の第1波が,午後3時35分頃に第2波が,それぞれ本件原発に到達し,その後も断続的に津波が到達した(本件津波)。本件津波により,本件原発1~4号機海側エリア及び主要建屋設置エリアはほぼ全域が浸水した。1~4号機主要建屋設置エリアの浸水高はO.P.+約11.5~15.5m(浸水深約1.5~5.5m)であった。(甲A1の1〔本文編19〕,乙4の1〔8,9,10,84〕)
2 1号機の状況
1号機の原子炉は,本件地震発生時,運転中であったが,本件地震のため,自動的に緊急停止した。1号機は,本件地震によって発電所側受電用遮断器等が損傷したため,平成23年3月11日午後2時47分,外部電源を喪失した。その後,非常用ディーゼル発電機が起動したものの,タービン建屋(T/B)地下1階に設置されていた2系統の非常用ディーゼル発電機は,本件津波により被水して機能を喪失し,同日午後3時37分,全交流電源を喪失した。前後して,直流電源も喪失し,全電源喪失に至った。このため,非常用冷却設備である非常用復水器(IC),高圧注水系(HPCI)のいずれも機能を喪失し,炉心の冷却が不可能になった。その結果,1号機の原子炉水位が低下して炉心損傷を生じ,更に炉心溶融に至った。
平成23年3月12日午後2時30分頃には,格納容器圧力の異常上昇を防止し格納容器を保護するため,放射性物質を含む格納容器内の気体を一部外部環境に放出し,圧力を降下させる措置(ベント)が実施され,1号機から大気中に放射性物質が放出された。さらに,同日午後3時36分頃,1号機原子炉建屋内で水素爆発が起きたため,建屋が激しく損壊し,放射性物質が大量に放出されるに至った。
(以上につき,甲A1の1〔本文編19~43,77~164〕,甲A140の1〔4-54〕,乙A4の1〔2,84,85,93,118~135〕,弁論の全趣旨)
3 2号機の状況
2号機の原子炉は,本件地震発生時,運転中であったが,本件地震により自動的に緊急停止した。2号機は,本件地震によって発電所側受電用遮断器等が損傷したため,平成23年3月11日午後2時47分,新福島変電所からの外部電源を喪失した。その後,非常用ディーゼル発電機(タービン建屋地下1階,運用補助共用施設1階に各1系統)が起動したものの,これも本件津波により被水するなどしたため,同日午後3時41分,全交流電源を喪失した。前後して,直流電源を喪失し,全電源喪失に至った。このため,非常用冷却設備である高圧注水系(HPCI)及び原子炉隔離時冷却系(RCIC)は機能を喪失し,炉心の冷却が不可能になった。その結果,炉心損傷が発生,進行した。(甲A1の1〔本文編19~43,77~235〕,甲A140の1〔4-54〕,乙A4の1〔2,87,88,93,156~167〕,弁論の全趣旨)
4 3号機の状況
3号機の原子炉は,本件地震発生時,運転中であったが,本件地震により自動的に緊急停止した。3号機は,本件地震により送電線の鉄塔が倒れるなどしたため,平成23年3月11日午後2時47分,外部電源を喪失した。その後,タービン建屋地下1階に設置されていた非常用ディーゼル発電機が起動したものの,これも本件津波により被水するなどしたため,同日午後3時38分,全交流電源を喪失した。直流電源盤は被水を免れため,原子炉隔離時冷却系(RCIC)で原子炉を冷却していたが,その後自動停止し,高圧注水系(HPCI)が自動起動した。しかしながら,同月13日午前2時42分に手動停止された高圧注水系は直流電源の枯渇により再起動ができず,原子炉離隔時冷却系による原子炉注水もできなかったことから,同日午前5時10分には炉心の冷却が不可能になった。その結果,3号機の原子炉水位が低下し,炉心損傷が開始し,更に炉心溶融が生じた。同日午前8時から9時頃にかけて,ベントにより放射性物質が放出された。同月14日午前11時01分頃,3号機原子炉建屋で水素爆発が起きたため,建屋が激しく損壊し,放射性物質が大量に放出されるに至った。(甲A1の1〔本文編19~43,77~217〕,甲A140の1〔4-54〕,乙A4の1〔2,89,90,93,178~190〕,弁論の全趣旨)
5 4号機の状況
4号機は,本件地震発生時,定期検査のため運転停止中であり,全ての燃料は原子炉建屋4,5階の使用済燃料プールに取り出されていた。4号機は,本件地震により送電線の鉄塔が倒れるなどしたため,外部電源を喪失した。その後,運用補助共用施設(共用プール)1階に設置されていた非常用ディーゼル発電機が起動したものの,本件津波により電源盤が被水するなどしたため,平成23年3月11日午後3時38分,全交流電源を喪失した。このため,使用済燃料プールの冷却が不可能となった。同月15日午前6時14分頃,4号機原子炉建屋で,3号機からの水素の流入が原因と思われる水素爆発が起きて建屋が激しく損壊し,4号機原子炉建屋開口部を通じて,3号機由来の放射性物質が大気中に放出された。(甲A1の1〔本文編19~43,77~235〕,甲A140の1〔4-54〕,乙A4の1〔2,90,91,93,204,205,262〕,弁論の全趣旨)
第5 本件事故前に得られていた主な知見
1 津波評価技術
社団法人土木学会の原子力土木委員会津波評価部会は,平成14年2月,「原子力発電所の津波評価技術」(津波評価技術)を作成した。被告東電は,同年3月,津波評価技術に従った数値シミュレーションを行った。これによれば,本件原発における設計津波最高水位は,最大でO.P.+5.7mであった。(甲A1の1〔本文編381〕,甲A7,弁論の全趣旨)
2 長期評価
⑴ 政府の推進本部地震調査委員会は,平成14年7月31日,「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」(長期評価)を公表した。長期評価では,本件原発のある福島県沖を含む三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域において,M8クラスのプレート間大地震が発生する確率は,今後30年以内で20%程度,今後50年以内で30%程度であるとされていた。(甲A6,弁論の全趣旨)
⑵ 被告東電は,平成20年4月,長期評価の見解を踏まえてシミュレーションを実施したところ,本件原発における最大津波高さは敷地南側でO.P.+15.707mであるとの推計結果(平成20年推計)を得た。(甲A85,弁論の全趣旨)
第3節 争点
第1 被告国の責任
1 予見可能性の有無
2 結果回避可能性の有無
3 規制権限不行使の違法性
4 相互保証
第2 被告東電の責任
第3 損害
第3章 当事者の主張
第1節 責任論
第1 被告国の責任
1 予見可能性の有無
(原告らの主張)
⑴ 長期評価について
平成9年3月に農林水産省など4省庁が取りまとめた「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」(4省庁報告書)や,同月に国土庁など7省庁が取りまとめた「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(7省庁手引き)は,将来起こり得る地震や津波につき,過去の例に縛られることなく想定する基本的立場を前提に,既往最大津波と現在の知見に基づいて想定される最大地震による津波を比較し,安全側の発想から,より大きい方を対象津波として設定するという津波予測の手法を採用し,既往最大津波だけを対象津波としていたそれまでの津波想定手法からの脱却を図るものであった。
そして,平成14年7月に公表された長期評価は,地震防災対策特別措置法に基づき,地震に関する専門的な調査研究を推進するための十分な組織を備えた推進本部が,近代的観測に基づく地震・津波についての研究・分析及び歴史記録に基づく歴史地震・津波についての知見を土台として,充実した議論を経て,公表したものである。
⑵ 津波評価技術について
津波評価技術の目的は,津波シミュレーションのための手法・技術の高度化(誤差・バラツキの研究)にあり,波源モデルの設定に関しては,既往最大の地震・津波(文献記録に残っている400年間程度)を想定すれば足りるとの旧来の考えに留まっていた。また,津波評価技術の作成過程においては,個別の地域での地震発生可能性ということは議論されておらず,専門家による入念な検討もされていなかった。さらに,土木学会は,民間の学会(しかも構成員に電力業界が多い。)に留まり,原子力の安全規制については何ら法令上の根拠を持たず,何らの権限も有しない。土木学会・津波評価部会は,電力会社から委託を受けて検討結果をまとめたにすぎず,津波評価技術は,電子力事業者の見解をオーソライズするという目的で作成された。
津波評価技術のこのような性格に照らすと,原子炉施設の津波に対する安全性を確認するためには,津波評価技術の示す「既往最大」による波源モデルによる想定だけでは不十分であった。
⑶ まとめ
平成9年の4省庁報告書や7省庁手引きの策定,平成11年の津波浸水予測図の作成の知見に加えて,長期評価が策定されたことにより,敷地高さを超える津波の襲来を予見することができた。
平成20年推計が,平成14年の長期評価,津波評価技術による津波推計の方法から導かれるものである以上,平成14年当時から同様の推計が可能であり,敷地高さを超える津波の襲来を予見することができた。
(被告国の主張)
⑴ 長期評価について
長期評価には,理学的根拠を伴っているものから,理学的根拠が極めて薄弱なものまで幅広い見解が含まれており,その信頼性については個別具体的な検討が必要である。原告ら主張部分の長期評価における見解は,これと異なる理学的知見が多く示されていたほか(A(丙A11),推進本部(丙A12),B(丙A88),B・C(丙A61),D(丙A59)),その策定に関与した専門家らも一様に理学的根拠に乏しいものであった旨の意見を述べていた(E(丙A73),F(丙A74),G(丙A78),H(丙A79),B(丙A88),I(丙A89),C(甲A103))。また,推進本部地震調査委員会でも長期評価の見解には異論や問題点の指摘が数多くされており(甲A109),中央防災会議(日本海溝・千島海溝報告書)においても長期評価の見解は採用されておらず(丙A8,8の2),土木学会津波評価部会においても長期評価の見解は決定論において取り込むべき知見と判断されなかった。原子力規制の分野においても,長期評価の見解が最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的なものとはされていない。推進本部としても,長期評価について,受け手側において,その理学的知見の成熟性の程度を踏まえた上で規制や防災対策に取り込むか否かを判断する材料としての情報を提供するとの考えを有していたにすぎない。
⑵ 津波評価技術について
津波評価技術は,4省庁報告書及び7省庁手引きが示した考え方を取り入れ,最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆するための知見として策定された。津波評価技術における設計津波水位の評価手法は,新規制基準でも用いられており,現在においても最新の知見として採用されている。津波学・地震学の見地から,領域ごとに過去に津波を引き起こした地震(過去400年間)を基準にしつつ,最も影響が大きくなる条件で津波を算出しており(パラメータステディ),合理性を有するものである。
⑶ まとめ
したがって,平成14年当時において,被告国が,本件事故に至る程度の津波の発生を予見できたとはいえない。
2 結果回避可能性の有無
(原告らの主張)
⑴ 本件事故を回避するため,被告東電は下記の措置を講じるべきであり,下記の措置を講じていれば,本件事故は回避することができた。
ア 非常用電源及び配電盤の浸水対策(敷地高さ2mを超える津波から,非常用電源設備及びその附属設備となる配電盤を防護するための対策工事を行う措置)
(ア) タービン建屋の出入口,大物搬入口の水密化対策として,強度強化扉の2重扉の設置,タービン建屋の換気空調系ルーバーなどの外壁開口部の水密化対策工事,タービン建屋の貫通部からの浸水防止対策工事
(イ) (ア)と重ねて,タービン建屋内に万が一に浸水が発生した場合に備えての,非常用電源及び配電盤等の重要機器が設置されているタービン建屋内「機械室」への浸水防止対策工事
(ウ) 浸入した水を排水するためのポンプの設置
イ 防潮堤設置(1号機から4号機の原子炉・タービン建屋につき,その敷地南側側面から東側全面を囲う10m(O.P.+20m)の防潮堤(鉛直壁),5,6号機の原子炉・タービン建屋を東側全面から北側側面を囲う防潮堤(鉛直壁)を必要な強度で設置)
ウ 非常用電源設備及びその附属設備の独立性,多重性,多様性の確保
(ア) ガスタービン発電機のO.P.+32mの高台への設置
(イ) タービン建屋内の高所又はO.P.+32mの高台に建屋を立てて,計器類のための非常用電池,非常用電源設備やその配電盤を同所に設置・配備する工事の実施
エ 電源融通対策(隣接プラントからの電源融通を効率的に行うための設備工事及びこれに関する具体的手順の整備)
オ 直流電源確保(蓄電池の備蓄,バッテリーの大容量化)
カ 可搬式電源設備の配置(緊急車両の配備,可搬性の高いバッテリーの配備)
キ 冷却機能確保
(ア) 緊急時海水系のポンプを防水構造の建屋に設置する対策工事,緊急時海水系ポンプへの浸水を防護するためのシュノーケル設置工事
(イ) 淡水貯槽及び原子炉建屋までの配管の設置工事,空冷熱交換器の配備,車輌搭載型可搬式注水ポンプ等の配備,可搬型大動力ポンプの確保及びそのための建屋外部接続口・建屋内注水配管の工事
ク 消火系ポンプによる注水手段確保
(ア) 余裕を持った消防車の事前配置,消化系ラインを用いた原子炉への代替注水ラインの設置工事
(イ) 使用済み燃料プールへの代替注水ライン設置工事
ケ 格納容器の減圧機能確保
全電源喪失によりベント弁を開操作することが不可能となった場合に備えて,弁の操作に必要となるバッテリーや可搬式エアコンプレッサー等の機材を備蓄すること及びその際のベント操作の具体的手順を整備すること
⑵ 原子炉の設計に関し,万全の設計裕度を持つのは当然であるところ,工学的に安全率を3以上に設定することは,原子力発電所の重要機器の設計枠内であるから,平成20年推計を前提に,2mの浸水深をもたらす津波に対する水密化,水密扉の設置をしていれば,5mの浸水深をもたらす津波に対しても防護が可能であった。現実に,本件津波によって,主要建屋の外壁や柱等の構造躯体には有意な損傷は確認されておらず,共用プール建屋の外壁等の構造躯体は,本件事故前の基準による強度を保った上で出入口扉の水密化を実施したとしても,本件津波の波圧に耐え得た。そして,本件津波の波圧及び漂流物の衝突力は,本件事故前の基準で設計された主要建屋の外壁等を破壊するほどのものではなかったのであるから,その強度強化扉は,平成20年推計と本件事故前の知見に基づいて設計されていたとしても,本件津波の波圧に耐え得た。万が一タービン建屋建物内への浸水があったとしても,タービン建屋内部は相当な防護ができているのであるから,浸水量は限定的になる。したがって,非常用電源設備及びその附属設備を防護することは可能である。さらに,非常用電源設備及びその附属設備の高所配置等の措置が講じられていれば,より確実に本件津波による炉心融解を回避し得た。
また,1号機から4号機の原子炉・タービン建屋につき,敷地南側側面から東側前面を囲う10m(O.P.+20m)の防潮堤を設置していれば,本件津波をせき止めて,本件原発のO.P.+10m盤への浸水は,十分に防ぐことが可能であった。
(被告国の主張)
⑴ 防潮堤設置以外の措置について
ア 防潮堤設置以外の措置は導き出されないこと
本件事故前の時点で,津波対策に関する適切なリスク評価と当時の知見に応じた工学的判断がどのようなものであったかといえば,それは,安全寄りに不確かさを考慮した決定論的手法である津波評価技術を前提として津波想定を行い,当該想定津波が主要建屋設置エリアへ浸水することを防止する措置を講じることによって,同エリアの重要機器が浸水により機能喪失することを避ける対策を講じていたものであって(ドライサイトコンセプト),本件事故前の時点における適切なリスク評価と当時の知見に応じた工学的判断として,防潮堤に付加した水密化等の要求が導き出される状況にはなかった。
イ 水密化
完全な水密化を達成することは困難であり,実現はできない。防潮堤を前提としないで1号機タービン建屋の水密化をした場合,水密扉が敷地東側からの本件津波の波力に耐えられなかった可能性がある。2号機タービン建屋についても,電源盤が地下1階に設置されていたため,波力の影響を強く受け,地下空間の津波の挙動も解析できないことから,本件津波の波力に耐えられる水密扉を設置することは困難であった。3,4号機タービン建屋では一部水密化がされていたが,水密化は結果回避に役立っていなかった。
ウ 高所配置
非常用電源設備等を高台に設置したとしても,津波やそれに先立つ地震によってケーブル等の設備が破損して機能を喪失したり,地震動で敷地が破損し,電源車が移動できなかったりするなどの事態が生じ得るため,電源の供給が維持できたとは必ずしもいえない。また,非常用ディーゼル発電機そのものが地震により破損する危険性もある。さらに,電源の供給を再開するにはケーブルの敷設を再度行う必要があるが,敷設経路を確保する作業も必要になり,時間がかかる。
⑵ 防潮堤の設置について
本件地震が惹起した本件津波と,平成20年推計で得られた想定津波とでは規模や流入方向が全く異なる。すなわち,平成20年推計によれば,主要建屋の敷地高さを超えて津波が流入してくるのは南側からのみになる。他方で,本件津波は北側,東側,南側の全ての方位から津波が襲来しており,しかも東側からも敷地高さを超えて津波が流入しているのであって,浸水深や津波の継続時間も平成20年推計とは異なっている。そのため,平成20年推計に基づき敷地南北のみに防潮堤を設置しても,東側からの津波の流入を防ぐことはできず,1~4号機の主要建屋付近の浸水深は,本件事故時の現実の浸水深と比べ,ほとんど変化がないことが明らかになっている。
また,被告国が被告東電から平成20年推計の報告を受けたのは,本件地震の4日前であり,4日間で対策を行うことは不可能である。仮に,被告東電が平成20年推計を行った時期を起点としても,被告東電による結果回避措置を完了するまでに優に5年を超える期間を要したといえる。
⑶ したがって,原告らが主張する措置を講じていたとしても,本件事故が回避できたとはいえない。
3 規制権限不行使の違法性
(原告らの主張)
⑴ 規制権限
電気事業法40条は,事業用電気工作物が省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,技術基準適合命令を発することができる旨を定めている。そして,本件原発は,省令62号4条1項,33条4項に違反するものであり,また,改正後の省令62号5条の2に相当する条項を前提とすれば,経済産業大臣が,被告東電に対し,技術基準適合命令を発することが可能であった。
仮に省令62号33条4項が内部事象に関する規定であって自然現象等の外部事象等との関係では適用されないものであったとすれば,長期評価に基づく地震・津波予見を踏まえて,非常用電源設備等について,多重性又は多様性及び独立性を要求するように同条項を改正すべきであった。
長期評価によって原子炉施設敷地高さを超える津波による浸水が予見可能となった以上,敷地への浸水によって非常用電源設備等の機能喪失による重大事故発生の可能性が無視できないものとなったのであるから,非常用電源設備等及び海水による原子炉施設を冷却する設備等が機能喪失した場合においても直ちにその機能を復旧できるよう,その機能を代替する設備の確保等の措置を求めるように,平成23年改正によって新設された5条の2第2項に相当する規定を設けるべく,平成14年までに,遅くとも平成18年までには,省令62号を改正する必要があった。
⑵ 被告国の責任
被告国(経済産業大臣)が,平成14年までに,遅くとも平成18年までに,被告東電に対し,技術基準適合命令を発して,前記2⑴の結果回避措置を講じるよう命じていれば,本件事故を回避することが可能であった。しかるに,被告国は,これを怠ったため,本件事故の発生を回避することができなかったのであるから,被告国の規制権限不行使は著しく合理性を欠くものであって違法である。
(被告国の主張)
本件事故前においては,実用発電用原子炉施設に関する安全規制は段階的な安全規制の考え方を前提としており,原子炉設置許可処分においては基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項の妥当性が審査される一方で,電気事業法39条が定める技術基準適合性については,工事計画の認可を経て設備工事等が終了し,使用前検査を経て現実に使用が開始された実用発電用原子炉施設に係る事業用電気工作物自体の機能,性能等が省令62号の定める技術基準に適合するかどうかが判断されていた。そして,本件事故当時,電気事業法40条に基づき経済産業大臣が発する技術基準適合命令は,事業用電気工作物が技術基準に適合しない状態を是正するためのものであり,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項について,省令62号の改正や,電気事業法40条に基づく技術基準適合命令により規制することはできなかった。
また,省令62号は,原子炉施設の安全確保対策の体系にのっとって規定されたものであり,同体系においては外部事象と内部事象とは区別されているから,省令62号33条は,外部事象に対する考慮を求めた規定ではない。
本件事故当時における安全確保対策の体系においては,地震及び津波という自然現象(外部事象)に対する安全性は,安全設計審査や耐震設計審査において考慮するものとされており,このような体系は裁判例においても合理性を有するものと評価されていた。一方,本件事故に至るまで,本件地震及びそれに伴う津波のような自然現象の発生が予見できたとはいえない。そうすると,経済産業大臣が省令62条を改正しなかったことが著しく合理性を欠くとはいえない。
以上のとおり,経済産業大臣は,被告東電に対し,本件原発について電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を発することはできなかった。
4 相互保証
(被告国の主張)
原告らの中には,中華人民共和国籍の者がいるところ(原告番号24-2,45-2),国家賠償法6条により,これらの原告らが同法1条1項に基づく損害賠償請求権を行使するためには,相互の保証があることを要する。
(原告らの主張)
中華人民共和国には国家賠償法が存在し,同法によれば,重要な点において要件が我が国の国家賠償法と異ならないから,日本と同国との間には相互の保証があるというべきである。
第2 被告東電の責任
(原告らの主張)
被告東電は,本件事故による損害について,本件原発の原子炉を運転する原子力事業者として原賠法3条1項本文に基づく原子力損害賠償責任を負うとともに,民法709条に基づく損害賠償責任を負う。
(被告東電の主張)
被告東電が原賠法3条1項本文に基づく原子力損害賠償責任を負うことは争わないが,本件事故による損害賠償については,原賠法が適用されるから,被告東電が民法709条による損害賠償責任を負うものではない。
第2節 損害論
第1 原告らの主張
1 財産的損害
⑴ 主位的主張
本件事故により,原告らはふるさと・コミュニティにおいて平穏に生活を継続していく利益を侵害された。本件事故によって侵害された原告らの法的利益は,原発事故前のふるさと・コミュニティにおいて平穏に継続していた生活の全体に及ぶものであるから,原告らが受けた被害の実態及び権利侵害の状態を損害としてありのまま包括的に把握すべきである。
本件における財産的損害を算定するに当たっては,可能な限り個別的事情を捨象し,多くの被害者らに共通して生じた事情や典型的な損害を最低限考慮した上で,被害者と同等の地位に置かれた標準人を基準として,平均値,統計値を用いて算定する抽象的損害計算の手法を基本とすべきである。また,抽象的な損害算定においては,事故前のふるさと・コミュニティにおけるのと同等のレベルの生活を避難先あるいは従前の居住地で回復するための費用が規範的に算定されなければならない。
以上により,原告らに生じた財産的損害の実態を総合すると,その損害額は,原告一人当たり少なくとも500万円を下らない。
⑵ 予備的主張
ア 予備的主張について(総論)
原告らのうち代表的な世帯に生じた具体的な事実を個別に主張立証し,かかる事実を可能な限り反映させた損害計算方法により各グループに属する全世帯について損害認定を行うべきである。世帯主年齢,子供の有無,分離避難の有無によって全世帯をグループ分けし,その代表世帯の損害額を主張,立証し,それをもって,当該世帯グループに属する全世帯について,損害額を主張及び立証する。その対応関係は,別紙代表世帯一覧表のとおりである。
原告らに対しては,本件事故がなければ原告らが本件事故当時の生活地域において送っていたのと同等の状態を保障するに足りる賠償がされるべきであり,物の滅失に関する損害については交換価値ではなく代替物の取得費用により算定すべきであり,代表世帯における具体的事実を損害算定方法に反映させつつも,具体的な算定基準をある程度定式化した上で,同一グループ内の他の世帯についても代表世帯と同程度の損害が生じたものとして損害額を認めるべきである。この意味において,抽象的・規範的な損害計算による損害算定がされるべきである。
そして,原告らは,生活の見通しが困難で,被告らに対する損害賠償請求の帰結も不透明なため,自制した経済生活を送らざるを得ないことによって,原状回復のために本来必要な支出が制限されているのであり,これによる支出の減少分を損害として認めないとすれば,損害の衡平な分担という不法行為法の基本理念に反する。したがって,避難という損害を発生させる原因事実が立証されている以上,予備的主張によっては捕捉しきれない損害や支出が制限された分については,民事訴訟法248条に基づいて裁判所が裁量によって損害額を認定するか,慰謝料の補完的調整的機能の観点からこれを慰謝料の算定において斟酌すべきである。
イ 損害類型及び損害項目について
本件事故後の実情を踏まえ,便宜上,本件事故によって原告らに生じた財産的損害を3つの類型とその他の損害に整理した上で,各類型に応じて,損害項目を挙げた上で,それぞれの算定基準について述べる。
(ア) 財産的損害の類型
a 放射線物質による恐怖や不安から逃れるために生じる損害
(a) 避難交通費
原告らの避難経路を個別に主張し,その移動手段の別により,被告東電が避難指示区域内の住民に対して提示している「標準交通費一覧表」の額を基に算定する。
例えば,福島県・北海道間を移動した場合,自家用車を利用した場合には1台当たり6万3000円,それ以外の交通機関を利用した場合には一人当たり4万1000円となる。
(b) 宿泊費及び宿泊に伴う食費(以下,損害項目として「宿泊費」という。)
原告らが避難の過程において実際に宿泊を余儀なくされた有償宿泊日数及び宿泊に伴う食費が賠償されるべきである。
その算定においては,国家公務員等の旅費に関する法律によるのが相当である。同法別表第一で北海道が属する乙地方の下から2番目の職階(6級以下3級以上の職務にある者)によるとしても,宿泊費は一夜につき9800円,食卓料は2200円である。そこで,一人当たり1泊1万2000円に有償宿泊数を乗じて算出すべきである。
(c) 転居費用(退去費用,処分費用,引越費用及び初期費用)(以下,損害項目として「転居費用」という。)
原告らは,北海道へ避難するに当たり,避難元の住居を退去したり,避難先の住居へ転居したりすることに伴い費用を要した。原告らが退去又は転居に伴い,退去費用,家財道具処分費用及び引越費用を実際に負担した場合は,各単価を以下のとおりとして算定する。
① 退去費用
賃貸か持家かを問わず,原告らが支払った原状回復費用の平均額は,約8万円であるから,8万円が従前の住居の退去費用である。
② 家財道具等の輸送費用
宿泊費同様に国家公務員等の旅費に関する法律別表に基づき,24万8000円となる。
③ 家財道具等の処分費用
リサイクル4品目(エアコン,テレビ,冷蔵庫,洗濯機)については,リサイクル法によりリサイクル料金の負担が必要となる。リサイクル料金は,エアコン3台,テレビ・冷蔵庫・洗濯機各1台分を前提とすると合計1万4910円となる。
④ 避難先での住居確保費用
敷金,礼金等の初期費用を負担した場合,実際の支出額を損害として主張する。
b 避難先又は避難元において,従前のふるさと・コミュニティにおけるのと同等の経済生活を維持するために生じる損害
(a) 家財道具の購入費用(以下,損害項目として「家財道具費用」という。)
原告らが本件事故当時に保有していた家財道具については全て滅失したものと解すべきである。そして,損害保険料算出機構「地震保険研究13 家財の地震被害予測手法に関する研究(その1)家財の所有・設置状況に関する調査」に従った分類を前提に,原告らが保有していた家財道具の個数に同研究において単価が定められているものはその単価を,単価が定められていないものは原告らの申告による購入額を乗じて損害額を算出した。
(b) 食費の増加(以下,損害項目として「食費」という。)
原告世帯ごとに,本件事故により食費が増加した場合には,一人当たり月額5000円増加したとして,これに避難期間(月数)を乗じて算出する。
(c) 住居費(家賃)の増加(以下,損害項目として「住居費」という。)
原告世帯ごとに本件事故による避難に伴い住居費(家賃,駐車場代及び共益費)が増加したか否かを具体的に主張し,増加した場合にその差額を損害として主張する。
(d) 北海道特有の気候に対応するための費用(以下,損害項目として「気候対応費用」という。)
北海道への避難に伴い,スタッドレスタイヤを購入した場合,スタッドレスタイヤは新品タイヤ1本2万円と算定すべきものである。4本購入すると8万円となる。そこで,北海道への避難に伴いスタッドレスタイヤを購入した場合には,1セット当たり8万円に購入したセット数を乗じて算出する。
寒冷地の北海道への避難により冬期間における生活費負担額が増えた場合には,居住地別生活保護費冬季加算額の差額が根拠となる。世帯人数に応じて支給される冬季加算額を,避難期間中の11月から3月までの月数を乗じて算出する。
(e) 就労不能損害
原告ごとに本件事故の前年である平成22年の収入額と平成23年以降の収入額との差額を個別に主張する。
(f) 新たな就職に関連する費用(以下,損害項目として「転職費用」という。)
原告らが避難に伴い就職活動を行った場合には,一人当たり3万7167円とし,世帯ごとに原告数を乗じて算出する。
算定に当たっては,株式会社ディスコによる「就職活動モニター調査結果(2012年10月発行)」を参照する。これによると,北海道における就職活動費用として,資料費1万2141円,備品代7692円,優良講座受講費1412円,その他諸経費5922円が計上されている。また,10回程度の面接回数を要するとすると1回の面接で1000円の交通費がかかるとして,1万円を要する。
以上によれば,原告らが避難に伴い就職活動を行った場合には,一人当たり3万7167円となる。
(g) 分離世帯等の二重生活による生活費用の増加(以下,損害項目として「二重生活費用」という。)
家族が避難元と避難先とに離散して生活している分離世帯について,二重生活によって生活費用が増加した場合には,世帯当たりの増加額に分離期間を乗じて算出する。
算定においては,平成23年総務省統計(全国・地方・年階級別1世帯当たり1か月間の支出(単身世帯)の全国平均による。)を参考とし,世帯当たりの増加額を月額6万円とする。
c 従前のふるさと・コミュニティにおける社会的関係や人間関係を維持するために生じる損害
(a) 通信費
避難に伴い通信費が増加した場合には,世帯当たりの増加額を月額1万円として,避難期間(月数)を乗じて算出する。
(b) 一時帰宅,帰郷のための費用(以下,損害項目として「一時帰宅費用」という。)
原告らが実際に一時帰宅,帰郷した日及び経路を明らかにし,その移動手段の別により被告東電の「標準交通費一覧表」の額を基に算定する。
(c) 分離世帯等の面会費用(以下,損害項目として「面会費用」という。)
母子避難の世帯においては,最低限月に1回の頻度で北海道に避難している家族に面会することが認められるべきである。避難先の家族が年に4回一時帰宅することを考慮すれば,避難元滞在者の面会は年間8回となる。
原告らが実際に面会した日及び経路を明らかにし,その移動手段の別により被告東電の「標準交通費一覧表」の額を基に算定する。
d その他
(a) 検査費用
原告らが本件事故により内部被ばく検査又は甲状腺検査を受診した場合,内部被ばく検査については1回につき1万円,甲状腺検査については1回につき8000円として,これに受診した回数を乗じて実際の支出額を算出する。
(b) その他
原告らが避難に伴い支出せざるを得なかった費用のうち,上記分類に当てはまらない費用について,原告世帯ごとに個別に主張する。
(イ) 代表世帯の損害(平成29年3月31日までに生じた損害。ただし,就労不能損害については,平成27年12月末日までに生じた損害)については,別紙代表世帯の損害額のとおりである。
各代表世帯は,上記別紙の合計額から明らかなとおり,一人当たり500万円を下らない財産的損害が生じている。
2 精神的損害
本件事故によって侵害された原告らの生活継続利益のうち,原告らの生活基盤を前提として展開される人格的利益に係る部分については,精神的損害として賠償額の算定がされなければならない。かかる人格的利益には,原告らが属するふるさと・コミュニティにおける自己実現に向けた自己決定権が含まれるものの,原告らが主張する生活継続利益は,生命・身体に接続する平穏生活権を含む包括的な生活利益であり,かかる自己決定権のみに限定ないし収れんされるものではない。また,原告らに生じた精神的損害には,放射能に対する不安や恐怖に基づく精神的苦痛,避難行動及び避難先での生活において生じた精神的苦痛が含まれるものの,これらに限られるものではなく,各精神的苦痛は相互に密接に関連するものである。
慰謝料額の算定に当たっては,被告東電及び被告国に重大な過失があること,原告らには本件事故を回避する余地がなく落ち度もないこと,本件事故による被害が長期に及ぶこと,被告東電及び被告国の対応が不誠実であったこと,本件事故により原告らに生じた損害は生活基盤を奪う深刻なものであり人格的利益に対する侵害が重大であること等も考慮されるべきである。加えて,原告らの主張する主位的主張及び予備的主張のいずれによるとしても,本件事故による被害は原告らの生活全般に及ぶ広範なものであり,生活基盤そのものを破壊するものであることから,原告らに生じた財産的損害を網羅することは困難である。したがって,主位的主張と予備的主張のいずれを採用するとしても,そのような算定方法によって捕捉することが困難な部分や客観的な金額算定が困難な部分については,慰謝料額において調整,補完することが必須である。
原告らの被った精神的苦痛に対する慰謝料は,仮に被告東電からの既払金を控除した上でも,なお少なくとも一人当たり1000万円を下らない。
3 弁護士費用
原告らは,損害の賠償を求めるに当たり弁護士に依頼して本件訴訟を提起することを余儀なくされた。本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は一人当たり150万円である。
4 避難の相当性,相当因果関係
⑴ 本件事故によって,原告らは,被ばくによる健康被害についての極めて強い恐怖・不安を感じざるを得ない状況を作出され,その状況は今もなお変わらず継続している。原告らは,このような恐怖・不安にさらされたがために従前の生活を捨てて避難したり家族と離れ離れの生活をしたりすることを余儀なくされたものである。原告らの被った多種多様な損害は,この被ばくによる健康被害の恐怖・不安なくしては生じ得なかったのであるから,全ての原告について本件事故と損害との間には,相当因果関係が認められる。
⑵ 被告国による避難指示は,本件原発からの距離,あるいは自治体を単位とした形式的・機械的な切り分けによりされたものであって,放射線被ばくによる健康被害のリスクを正確かつ適正に反映したものではない。避難指示等対象区域外の地域であっても,高い線量が観測され,あるいは除染廃棄物が大量に貯蔵されているなど,住民が放射線被ばくによる健康被害の恐怖・不安を感じざるを得ない地域は多く存在するから,避難指示等対象区域外の地域であっても,原告らの被った損害について本件事故との相当因果関係が認められる。
⑶ 原告らの生活圏における放射線量の数値,チェルノブイリ原発事故に関する情報収集,原告らが接した専門家の知見等,原告らが体験した健康被害への恐怖,除染廃棄物の蓄積,原告らに生じた健康被害,被告らによる情報の隠ぺい,発表情報の変遷等を踏まえれば,原告らが放射線被ばくによる健康被害の恐怖・不安を感じることには合理性が認められるというべきであって,原告らの避難の合理性,相当性が認められる。原告らは,このようにそれぞれが置かれた状況の中で可能な限り情報を集め,最大限の努力を尽くし,そのときその状況において可能な最善の行動をとったというほかないのであるから,全て等しく合理的であると評価されなければならない。そして,本件訴訟の口頭弁論終結時においても本件原発付近において放射線被ばくによる健康被害の恐怖・不安を感じざるを得ない状況は厳然として存在するといわざるを得ないから,原告らが本件事故によって本件訴訟の口頭弁論終結時までに被った全ての損害について相当因果関係が認められるべきである。
⑷ 一般人によるリスク認知は,個人にとってのリスクを認知するために,おそろしさ因子,未知性因子を直感的,自動的に判断することによって成り立っており,専門家による技術的なリスク解釈(集団の中で望ましくない結果が起こる確率でリスクを理解する)とは性質を異にしている。一般人によるリスク認知は,人間がサバイバルのために発達させてきた能力を用いた方法であって,決して単なる主観や思い込みの類ではない。
本件事故は上記二つの因子にいずれもよくあてはまる。放射線災害は,一般人によるリスク認知において恐ろしいと感じられやすく,ゆえに放射線災害に遭遇した一般人は恐怖感や不安感を抱き続けやすく,またリスクを回避するための行動を積極的に取りやすい動機付けがされているといえる。
一般人たる原告らが本件事故の被災地に居住し続けることを危険であると判断し,その判断を現在も維持していることは,専門家のリスク解釈によって否定される誤った判断ではない。
以上のとおりであるから,本件事故とそれに伴う放射性物質の飛散によって原告らが被ばくによる健康被害の恐怖・不安を感じることは極めて合理的なことであり,これによって発生した損害については,被告らが賠償する責任を負う。
5 中間指針等
中間指針等は,原子力損害賠償紛争審査会(審査会)が当事者の自主的解決に資する一般的指針として策定したものであって,あくまで当事者間の自主的な紛争解決のための一般的かつ暫定的な指針にとどまる。また,中間指針等は賠償の迅速化を殊更重視し,その審理経過において十分な審議を尽くすことなく決定されたものであり,被害実態の調査を行わないまま作成されたこと等から,被害の実態を正確に把握した公正妥当な内容とはなっていない。
中間指針等で定められた賠償額は,その決定過程に合理性がなく,その内容も合理的な根拠に欠け,賠償基準としては極めて不十分なものである。そして,中間指針等は,その根拠法令である原賠法18条2項2号の内容,同号に関する確立した解釈及び中間指針の内容(中間指針に明記されない個別の損害が賠償されないということのないよう留意されることが必要であるとのはしがき)から,裁判規範ではないことは明らかである。
さらには,中間指針等が前提とする政府による避難指示等対象区域の設定は,避難による社会的混乱等を考慮した政治的判断であり,放射線被ばくの影響について安全性の観点から設定されたものとは到底いえず,あくまで国が住民に対して避難等を指示する区域を画するものにとどまり,科学的な知見に基づく判断ではなく,専ら政治的判断に基づくものであった。原告らは避難等の指示等こそなかったものの,本件事故の拡大や放射線被ばくによる健康被害といった重大な危険を避けるために避難を強いられたのであり,本件事故により避難を余儀なくされたという点において,避難指示等対象区域の範囲内から避難した者と何ら差異はない。
したがって,本件事故により避難を余儀なくされた原告らについて,極めて政治的な判断に基づく避難指示等対象区域の設定に基づき避難者の立場が区別されるということについて合理的な理由,根拠はない。避難に伴う原告らの損害は原告らの避難実態に鑑みて,中間指針等の基準によることなく,適切に賠償がされるべきである。
6 弁済の抗弁について
⑴ 原子力損害賠償紛争解決センターは,被告東電の直接請求に基づく自主的避難等対象区域の避難者らに対する賠償金に関し,妊婦又は子供に対する支払のうち20万円のみを,それ以外の大人に対する支払のうち4万円のみを,それぞれ精神的損害に対する慰謝料として整理し,その余の賠償金は「実費等」の財産的損害として整理している。なお,原子力損害賠償紛争解決センターが実施している和解仲介手続(原発ADR)において,「避難雑費」として支払われている和解金は,具体的な使途が特定されたものではないが,避難生活において諸々の支出が発生することを考慮して「雑費」名下に支払われているものであるから,財産的損害に関する和解金である。
実際の手続においても,被告東電による支払の多くは,特定の損害項目に対する賠償としてされているものであり,包括慰謝料であるとの主張は,被告東電の一方的かつ独自の解釈によるものにすぎない。
また,原発ADRにおいて原告らと被告東電との間で締結された和解契約書においては,支払義務条項として,損害項目(内訳)及び対象期間並びにこれらに対する金額が明示され,被告東電がその支払義務を認める条項が定められている。すなわち,被告東電は,原発ADRの和解契約において,具体的な対象期間及び損害項目を限定して記載された賠償金の支払を自認している。
⑵ したがって,既払金が包括慰謝料であり,財産的損害及び精神的損害の総額から原発ADRにおける和解金を含む既払金の総額を控除すべきであるとの被告東電の主張は,原発ADRにおける和解契約の内容とも整合しない。本訴訟においては財産的損害と精神的損害を峻別して既払金の控除を行うべきであり,財産的損害及び精神的損害に係る既払金を互いに横断して充当する処理をすべきではない。
⑶ 被告東電から提出された相殺の抗弁については,①まず財産的損害及び精神的損害について,それぞれの損害総額を別々に算定し,②財産的損害に係る損害総額からは,財産的損害に係る既払金のみを控除し,その残存額を算定し,他方,精神的損害に係る損害総額からは,精神的損害に係る既払金のみを控除し,その残存額を算定し,③上記②の結果,財産的損害に係る原告らの請求金額(一人当たり500万円)が財産的損害に係る既払金控除後の残存額の範囲内にあるときはそのまま認容し,残存額を超えるときはその残存額の限度で認容し,同様に精神的損害に係る原告らの請求金額(一人当たり1000万円)が精神的損害に係る既払金控除後の残存額の範囲内にあるときはそのまま認容し,残存額を超えるときはその残存額の限度で認容するという方法で処理すべきである。
⑷ 本訴訟において,財産的損害の総額を世帯単位で認定し,世帯構成員に均等に割り付ける方法により,財産的損害に係る原告一人当たりの賠償額を認定することに異論はない。この場合,既払金控除の判断も世帯単位で行うべきである。
他方,精神的損害は,人格的利益を侵害されたことによる損害であり,実際上の各原告の年齢,就労の有無,世帯内における立場,避難の経過等によって精神的苦痛の具体的内容も異なり得るのであって,極めて属人的性格が強い損害であることから,原告ごとに損害額の認定及び既払金控除の判断がされるべきである。
第2 被告東電の主張
1 財産的損害
⑴ 主位的主張
原告らの主張は,財産的損害の発生の有無自体の立証を不要とする独自の立場に立つものであって,裁判実務上も全く受け入れられる余地のないものである。
財産的損害について原告ら個々の損害の発生及び損害額についての主張,立証は一切不要であるとする原告らの主張は失当である。
⑵ 予備的主張について
ア 原子力損害とは,「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(括弧内省略)により生じた損害をいう」とされている(原賠法2条2項)ことからすれば,被告東電が同法に基づいて原子力損害賠償責任を負うのは,本件事故による上記各作用との間に相当因果関係が認められる損害に限られる。したがって,原告らの避難に係る財産的損害及び精神的損害の賠償請求を検討するに当たっては,このような視点より,本件事故による放射線の作用との間の相当性について十分に考慮される必要がある。
イ 原告らの中には,①政府による避難指示の対象となった区域の住民,②避難指示ではないが,政府による屋内退避や緊急時避難準備の指示の対象となった区域の住民(避難指示等対象区域),さらには,③これらのいずれの対象とされなかった,避難指示等対象区域の周辺に居住していた住民がいるところ,それぞれの区域ごとに,本件事故による放射線の作用による原告ら各人の平穏な生活に対する侵害の有無やその程度には差異があり,そのような相違を踏まえて判断されるべきである。
ウ 審査会は,地域ごとの放射線の影響度や被害者の属性等に応じて損害の類型ごとに「原子力損害」の範囲を客観的に画し,紛争解決のための指針を提示して訴訟等に至るのを可及的に未然に防ぐため,中間指針等を設定しており,それを踏まえ,被告東電は,中間指針等に定める水準以上の十分な賠償を行っている。他方,原告らは本件訴訟において一律に1人1650万円の損害賠償を求めるが,これは低線量の放射線の科学的な影響の有無や各区域の客観的状況を無視するものであり,原告ら各人に未払いの原子力損害が生じていることは何ら裏付けられていない。
エ 代表世帯の原告らと代表世帯ではない原告らでは,政府の避難指示により避難を余儀なくされたかどうかや避難時期,避難後の行動等が大きく異なる。原告ら各人において実際に生じた財産的損害の立証を原告らがいう「代表的な立証」によって行うことはできない。
原告らが,本件事故による財産的損害が生じたと主張するのであれば,原告らごとに被告東電による既払額を超えて,本件事故と相当因果関係のある原子力損害が発生していることを個別具体的に主張・立証する必要があり,代表世帯の立証でこれに代えようとする原告らの主張は失当である。
したがって,本件請求は全て棄却されるべきである。
⑶ 財産的損害の賠償に対する基本的考え方
被告東電による財産的損害の賠償額は本件事故と相当因果関係のある原子力損害の賠償として十分に合理性・相当性を有するものであり,以下で述べるとおり,特段の立証がされない限り,被告東電が公表する財産的損害の賠償の考え方に基づき算出される財産的損害を超えて原告らに本件事故と相当因果関係のある財産的損害が生じているとは評価し得ない。
ア 避難指示等対象区域に居住していた原告ら
避難交通費,宿泊費及び宿泊に伴う食費,転居費用,家財道具費用,食費,住居費,気候対応費用,転職費用,二重生活費用,通信費,一時帰宅費用,検査費用について,賠償請求をするためには,領収書等の客観的な証拠に基づき,具体的に当該費用を支出し又は当該費用が増加したこと,当該支出又は増加が本件事故と相当因果関係のある原子力損害に当たることを個別的に主張,立証する必要があるが,避難指示等対象区域に居住していた原告らはこれをしていない。
仮に,避難交通費,宿泊費及び宿泊に伴う食費,転居費用,家財道具費用,住居費,二重生活費用,通信費,一時帰宅費用,検査費用に係る損害の発生が認められるとしても,特段の立証がされていない以上,少なくとも,避難指示等対象区域に居住していた原告らに対しての被告東電の既払金を超える損害の発生自体を確認できず,理由がない。
さらに,宿泊に伴う食費については,本件事故の有無にかかわらず生ずる支出であり,その支出をしたことをもって原子力損害と評価することはできず,仮に食費の増加があるとしても,生活費増加分については,精神的損害の賠償と併せて包括的に賠償されているものであって,これを超える食費の増加分なる損害が発生したとも評価できない。また,食費については,札幌市での避難を選択した原告らについては,他の地域ではなく札幌市を避難先として選択したことに伴い「通常の生活費の増加分」を超える生活費の増加が生じたのだとしても,かかる超過的な生活費の増加分については,原告ら自身による避難先の選定の結果に起因して生じた増加費用に当たると評価せざるを得ず,本件事故と相当因果関係のある原子力損害には当たらない。本件事故と相当因果関係のある食費その他の生活費の増加分の損害を観念し得るのは,札幌市を避難先に選んだことによる特有の事情については排した上で,本件事故による避難に伴い通常生ずると考えられる生活費の増加分の範囲までであると解するのが相当である。
気候対応費用について,被告東電は,避難等対象者に対する精神的損害の賠償において,避難生活に伴い通常生ずる生活費の増加分についても考慮の上で賠償を行っているところ,北海道への避難を選択した原告らについては,他の地域ではなく北海道を避難先として選択したことに伴い「通常の生活費の増加分」を超える生活費の増加が仮に生じたとしても,かかる超過的な生活費の増加分については原告ら自身による避難先の選定の結果に起因して生じた増加費用に当たると評価せざるを得ず,本件事故と相当因果関係のある原子力損害には当たらない。
イ 旧緊急時避難準備区域に居住していた原告ら
避難交通費,宿泊費及び宿泊に伴う食費,転居費用,家財道具費用,食費,住居費,気候対応費用,二重生活費用,通信費,一時帰宅費用については,緊急時避難準備区域においては区域内の住民に対して強制的な避難が求められたものではなく,平成23年9月30日に同指定が解除されたことや,その後のインフラ復旧や社会的活動の再開状況等を踏まえれば,遅くとも平成24年9月以降において,同区域内で生活を送ることに伴い,本件事故の影響によって法的に保護された権利利益が侵害されている状況が継続しているとは評価し得ないから,中間指針第二次追補及び「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方について」を踏まえると,特段の事情がある場合を除き,平成24年8月末までを賠償の対象とすべきであり,これ以降については本件事故との相当因果関係が認められない。
また,旧緊急時避難準備区域に居住していた原告らの就労不能損害の賠償請求については,勤務先の事業所の所在地が避難指示区域にあった場合,被告東電は平成27年2月までの最大で本件事故後4年間を対象期間として賠償しているところ,収用補償,失業保険,裁判例における賠償期間をいずれも大きく上回る長期間にわたって損害賠償を継続するものであって,本件事故と相当因果関係のある就労不能損害は補填されているというべきである。したがって,旧緊急時避難準備区域の居住者のうち勤務先の事業所の所在地が避難指示区域内にあった原告らについて,遅くとも平成27年3月以降については,本件事故と相当因果関係のある就労不能損害が発生しているとは解することができず,これを超える原告らの請求には理由がない。
他方で,勤務先の事業所の所在地が避難指示区域外にあった場合,被告東電は平成24年12月までを対象期間として賠償しているところ,遅くとも同年9月以降において旧緊急時避難準備区域においては本件事故の影響によって法律上保護された利益が侵害されている状況が継続しているとは評価し得ない。そうすると,それから更に3か月分の賠償をすることで本件事故と相当因果関係のある就労不能損害は補填されているというべきである。したがって,旧緊急時避難準備区域の居住者のうち勤務先の事業所の所在地が避難指示区域外にあった原告らについて,遅くとも平成25年1月以降については,本件事故と相当因果関係のある就労不能損害が発生しているとは解することができず,これを超える原告らの請求には理由がない。
旧緊急時避難準備区域に居住していた原告らの財産的損害の賠償請求について,上記の点以外は避難指示等対象区域に居住していた原告らの財産的損害の賠償請求に対する反論と同様である。
ウ 自主的避難等対象区域に居住していた原告ら
本件事故と相当因果関係のある財産的損害が発生したと主張するのであれば,損害の発生と本件事故との相当因果関係について個別具体的な主張・立証が必要であるが,自主的避難等対象区域に居住していた原告らはこれをしておらず,その損害の発生自体を確認できず,理由がない。
仮に,財産的損害の発生が認め得るとしても,被告東電は中間指針追補,中間指針第二次追補を受けて賠償をしている。
中間指針追補及び中間指針第二次追補に定める自主的避難等対象者に対する賠償額は,審査会における複数回にわたる審議を経て,過去の裁判例も参照しながら慎重に決定された十分合理性を有する基準である。そして,自主的避難等対象者の財産的損害の賠償については,精神的損害と一体としての包括慰謝料方式として考慮された上で相当な賠償額が定められているものであり,自主的避難等対象者が政府による避難指示が出されていない区域の住民であることを踏まえれば,かかる賠償額は自主的避難等対象区域に居住していた原告らの財産的損害を填補するものとして合理性を有する賠償基準である。
自主的避難等対象区域に居住していた原告らが,上記による既払金を超えて本件事故と相当因果関係のある財産的損害が発生したと主張するのであれば,損害の発生及び当該損害と本件事故との相当因果関係について個別具体的な主張・立証が必要であるが,自主的避難等対象区域に居住していた原告らはこれをしていない。したがって,原告らが特段の立証をしない以上,自主的避難等対象区域に居住していた原告らの被告東電の既払額を超える財産的損害の賠償請求は,その損害の発生が認められない。
エ 福島県県南地域に居住していた原告ら
本件事故と相当因果関係のある財産的損害が発生したと主張するのであれば,損害の発生と本件事故との相当因果関係について個別具体的な主張・立証が必要であるが,福島県県南地域に居住していた原告らはこれをしておらず,その損害の発生自体を確認できず,理由がない。
仮に,財産的損害の発生が認め得るとしても,被告東電は中間指針追補等の考え方を踏まえ,本件事故発生時に対象区域に生活の本拠としての住居があった者で18歳以下であった者等に対し,賠償を行った。これらの賠償金は,いずれも生活費の増加分を含む包括慰謝料として賠償している。また,被告東電は本件事故発生時に福島県県南地域に生活の本拠としての住居があった者に対し,追加賠償を行った。
したがって,福島県県南地域に居住していた原告らが,被告東電による上記既払金を超えて本件事故との相当因果関係のある財産的損害が発生したと主張するのであれば,損害の発生及び当該損害と本件事故と相当因果関係について個別具体的な主張・立証が必要であるが,かかる立証はなされていないから,福島県県南地域に居住していた原告らの被告東電の既払金を超える財産的損害の賠償請求は,その損害の発生自体が認められず,理由がない。
オ 避難指示等対象区域,自主的避難等対象区域及び福島県県南地域以外に居住していた原告ら
本件事故と相当因果関係のある財産的損害が発生したと主張するのであれば,損害の発生と本件事故との相当因果関係について個別具体的な主張・立証が必要であるが,原告らはこれをしておらず,その損害の発生自体を確認できず,理由がない。
2 精神的損害
⑴ 避難指示区域(帰還困難区域・避難指示解除準備区域)の原告らの精神的損害について
ア 避難指示区域については,政府による避難指示の対象であり,本件事故によって避難を余儀なくされたものであり,このことによる平穏な生活利益の侵害については賠償の対象となると考えられるが,避難指示が解除された後においては,帰還するか否かを判断し,帰還する場合には帰還のために通常必要とする準備期間等を考慮した上で,避難指示解除後の相当期間が経過した後においては,精神的損害等は賠償の対象とならないと考えることは合理的である。
イ 被告東電は,本件事故により避難指示区域に指定された区域に本件事故時住所地を有する原告らについては,次のとおりの慰謝料の賠償額の認定を行った。
(ア) まず,帰還困難区域並びに大熊町・双葉町の居住制限区域及び避難指示解除区域の住民については,長期にわたって帰還することが困難であり,移住を余儀なくされる状態にあると法的に評価されることから,中間指針第四次追補を踏まえ,将来にわたる精神的苦痛を一括評価し,本件事故により避難を余儀なくされたことによる慰謝料として,平成23年3月11日から平成24年5月末までの15か月について月額10万円,平成24年6月から平成29年5月までの5年間について600万円,更に1000万円の慰謝料が認定され(ただし,前記600万円の賠償額との重複分を将来に向けてのみ控除することとして,700万円の追加賠償を実施することとする。),避難等に係る慰謝料の賠償総額は一人当たり1450万円となる。
(イ) 次に,居住制限区域及び避難指示解除準備区域(ただし,大熊町・双葉町を除く。)については,いずれも平成29年4月1日までに政府による避難指示は解除されており,同区域内に立入り,居住し,生活することが可能となった。そのような中で,被告東電は,中間指針等及び政府復興方針を踏まえ,平成29年4月から1年間の「避難指示解除後の相当期間」が経過するまで精神的損害の賠償を行うこととしている。この結果,被告東電は,平成23年3月11日から平成30年3月末までの7年1か月分について,一人当たり月額10万円,総額一人当たり850万円の精神的損害の賠償を行っている。
ウ 被告東電が賠償している一人月額10万円の精神的損害の賠償額は,中間指針等を踏まえ,避難を余儀なくされることによって,当該住民がそれまで生活を営んでいた住居を中心とする生活環境からの離脱を余儀なくされ,それまでの生活基盤を失うことによる精神的苦痛を,賠償の対象となる中核的な精神的苦痛として位置づけている。
避難指示等対象区域の居住者に対する被告東電が行う精神的損害の賠償については,1個の加害行為による損害項目が複数にわたる場合でも,それらは実体法上同一の請求権の中の細目に過ぎず,同一の不法行為により生じた財産上の損害と精神上の損害とは,その賠償の請求権は1個であると考えられること,慰謝料の補完的機能からいっても,財産的損害について十分に賠償されている中で,それに追加して避難指示等の期間に応じた慰謝料の支払も実施するものであることからすれば,本件事故による損害については,十分に填補するものとみるべきである。
エ 原告らは,旧避難指示準備区域について,避難指示が解除された場合においても,その後のコミュニティ・生活環境の変容が生じており,かかる事情によって原告らが主張する慰謝料額が基礎付けられるかのように主張するが,避難指示が解除され,帰還が可能であるとしても,当該区域に実際に帰還するか否かは各人が判断することとならざるを得ず,ある地域において他の住民が自らの判断に基づいてどのように行動するかいかんによって,各住民の居住権や平穏な生活に関する法律上保護される利益侵害の有無が左右されると解することは相当ではない。
原賠法に基づく原子力損害の賠償請求の観点からは,政府による避難指示が解除された場合には,住民に対する居住・移転の制限は解除され,帰還し得る状況に至るのであり,これにより本件事故による権利侵害状態は基本的に解消される。そして,そのような中で,帰還するかしないかを判断し,帰還をするとした場合においてもその準備のために必要と認められる相当な期間が経過した場合には,原子力損害としての慰謝料賠償が終期を迎えるとする中間指針等の考え方には合理性がある。他方で,避難指示が解除された区域への帰還はせず,他所に移住すると決断した者に対しては,被告東電は,当該旧避難指示区域内の自宅土地の財物損害の賠償を行うことに加えて,移住を余儀なくされた住民に対する住居確保損害の賠償を行うなどして,そのような移住に伴う損害についても賠償することとしている。
このように,本件事故による原子力損害の賠償の観点からは,政府による避難指示が解除され,放射線の作用による居住制限が解消された後においては,政府復興方針に基づく平成29年3月までの賠償及びその後1年間の相当期間の賠償を継続するとする被告東電の賠償方針は,財産的損害の賠償が別途行われることも相まって,原告らに生じた精神的苦痛を被害者の立場に立って最大限慰謝料額において評価したものとなっていると評価できる。
したがって,空間線量率が大きく低減し,インフラの復旧等を経て,避難指示が解除され,本件事故による侵害行為が除去された後,政府復興方針を踏まえ平成29年3月から更に1年の相当期間が経過した後においては,本件事故による放射線の作用による損害(原子力損害)を賠償するとの観点からは,そのような避難指示解除後の旧居住地の状況それ自体が原告らの人格権に対する侵害を基礎付けるものと解することは相当ではなく,避難指示解除後の旧居住地の状況をもってしても,被告東電が提示している慰謝料額を超える原告らの慰謝料請求が基礎付けられるものではない。
本件事故時に居住していた区域に生じた本件事故発生以前と本件事故以降の状況との比較に基づく変化に対して原告らが抽象的・主観的に抱く心情のありようそれ自体をもって,原告ら各人に法律上保護される利益に当たるとは評価できない。
⑵ 旧緊急時避難準備区域の原告らの精神的損害について
ア 緊急時避難準備区域については,避難指示の対象とはされていないが,本件事故の進展状況等によっては,緊急時に避難することができるような準備等が求められた区域であり,かかる指定の趣旨から,本件事故後に一定の合理的な期間においては同区域からの避難を選択することも合理的であり,避難を実行することの相当性は認められると考えられる。これにより,精神的苦痛が生じ得るものと解される。しかしながら,平成23年9月末には緊急時避難準備区域の指定は解除されていること等からすれば,本件事故の放射線の影響により当該区域の住民の平穏な生活利益に対する侵害が生じたとしても,平成24年8月末頃までには,本件事故時住所地での平穏な生活を再開又は再建し得る状況に至っていたものと解することが相当である。
イ 旧緊急時避難準備区域においては,平成23年4月22日以降,常に緊急時に避難のための立退き又は屋内への退避が可能な準備を行うことが求められていたものの,同区域への立入りに制限はなく,居住も許されている状況にあったのであって,緊急時避難準備区域に指定された区域の住民と強制的な避難を余儀なくされた住民との間には,政府による指示内容に大きな相違があり,それゆえ政府指示に起因する生活の阻害の内容,程度においても大きな相違がある。
しかしながら,中間指針等においては,政府による指示の対象区域であるという点に着目して両者を区別せず,強制的に避難を余儀なくされた住民と同額の基礎額(一人月額10万円)に基づく慰謝料額を旧緊急時避難準備区域の居住者に対しても賠償する旨の指針を定め,被告東電もかかる指針に基づいて旧緊急時避難準備区域の住民の避難慰謝料額を賠償している。
このように,被告東電が提示している避難慰謝料額は,本件事故後に緊急時避難準備区域内の住民が置かれていた状況については,強制的な避難を余儀なくされた住民の状況とは異なる事情があり,旧緊急時避難準備区域の住民の精神的苦痛は強制的にかつ長期にわたって避難指示の対象となった住民に比しても相対的に大きなものではないと評価できる中で,強制的な避難指示の対象者に対する慰謝料の基礎額である月額10万円と同額の基礎額に基づいて算定しているものであり,この点において不合理に低額なものであるとは評価し得ない。
ウ 本件事故発生直後の時期における避難生活等の過酷さやそれに伴う精神的苦痛については,その後の時間の経過に伴い,避難生活の基盤が整備され,避難後の生活環境に徐々に適応すること等により緩和されると考えられるところ,被告東電においては,平成23年9月末までの緊急時避難準備指示期間中のみならず同年10月以降においても指定解除後の相当期間として期間に要する準備期間等も考慮の上で,平成24年8月末までの11か月にわたって一人月額10万円を減額することなく賠償する旨公表している。この結果被告東電が原告らに公表する慰謝料額は180万円となるが,これは旧緊急時避難準備区域が強制的な避難が求められた区域ではなく,平成23年9月末には指定解除されていること,その他インフラ復旧や社会的活動の再開状況等に鑑みても,本件事故と相当因果関係のある原告らの精神的苦痛を充分慰謝するに足りる慰謝料額となっている。
エ 中間指針第二次追補は,旧緊急時避難準備区域の住民に係る精神的損害の賠償終期については平成24年8月末を目安とするとしているが,旧緊急時避難準備区域が緊急時に備えて避難の準備ができるように求めるものであったこと,指定解除に先立って対象自治体が復旧計画を策定し政府(原災本部)に提出しており,これに基づく政府と関係市町村との意見交換や連携を経た上で,原子力安全委員会も指定解除について差し支えないと回答していることも踏まえ,平成23年9月30日をもって指定が解除されていること,その前後を通じて本件事故後には同区域での居住や立入りは禁じられていないこと,旧緊急時避難準備区域においては,平成24年8月頃まではインフラの回復などが進捗しており,空間放射線量も低減していること等を踏まえて上記の終期が定められたものであり,かかる賠償終期には合理性,相当性がある。
オ 旧緊急時避難準備区域の住民に対しては,精神的損害の賠償のみならず,避難費用,一時立入り費用といった財産的損害についても別途賠償される。賠償の全体像から見ても,被告東電が提示している慰謝料額は通常の生活費増加分を超える本件事故と相当因果関係のある財産的損害については別途賠償の対象となることを前提とする損害額として公表されているもので,そのような観点からも不当な賠償額ではない。
旧緊急時避難準備区域の指定の意味内容やその解除時期,南相馬市原町区や田村市内における本件事故後の空間放射線量の状況や社会的活動の再開状況等を踏まえれば,原告らに認められるべき避難慰謝料額としては,被告東電が中間指針等を上回る慰謝料額として原告らに対して提示している180万円を超えるものではない。
カ 本件事故による避難指示に係る精神的損害としては,本件事故当時に享受していた生活の本拠での平穏な生活を損失したことを中核として検討されるべきであり,被告東電はこの点も十分に考慮した上で,政府による避難指示等が解除され,放射線の作用による居住制限が解消され,客観的に帰還し得る状況に至った後においても,避難指示解除後の相当期間として1年間にわたって一人当たり月額10万円の精神的損害の賠償を継続することとしているところ,かかる賠償方針は,避難指示によって阻害された平穏な生活を回復するために必要と考えられる合理的な期間にわたって精神的損害の賠償を行うものとして,十分に合理的である。
また,時間の経過に伴って慰謝料の賠償請求額を低減させないで賠償していることや財産的損害の賠償が別途行われることをも考慮すれば,その精神的損害の賠償額は,原告らに生じた上記精神的苦痛を慰謝するに足りるものである。
⑶ 自主的避難等対象区域及びその区域外の原告らの精神的損害について
ア 本件事故後の状況の下で,避難指示等の対象とされていないものの,避難等対象区域の周辺において,「本件事故による恐怖や不安を抱かざるを得ないという状況に一定期間置かれたことにより正常な日常生活が相当程度阻害されたこと」(平穏生活権の侵害)については法的に保護される権利利益の侵害に当たるということができるものと考えられる。
そして,本件事故後の避難指示等対象区域外における本件事故由来の放射線による健康リスクは,客観的に健康に対する危険が生じていたとまでは評価できないものの,他方で,本件事故発生当初の時期においては,状況は必ずしも明確ではなく,自己の置かれている状況についての情報を正確に把握することが困難な時期があったことも確かであり,また,本件事故の今後の進展について恐怖や不安を覚えることもやむを得ない状況にあったことが認められる。
したがって,本件事故の今後の進展や健康影響が分からないことにより平均的・一般的な人を基準として,感じることがやむを得ないと考えられる恐怖や不安に基づいて,自主的な避難を選択し,またはそのような不安の中で滞在を継続することによって,本件事故が発生しなければ生じなかった日常生活の阻害が生じると考えられる範囲においては,これによる精神的損害は賠償の対象となると解することが可能である。
イ 避難指示の対象となっていない区域については,放射線による客観的な健康への危険が生じているとは評価できず,その旨の情報提供は新聞報道等でもされており,福島県知事も冷静な対応を呼びかけている状況にある。新聞報道においても避難指示等対象区域外の居住者も避難すべきであるという論調は見当たらない中で,避難指示等対象区域外の居住者に生じ得る恐怖や不安については,避難指示等により避難を余儀なくされた避難指示区域の居住者と比較して権利侵害の程度は小さいと考えられる。避難指示等対象区域外等の避難者の損害については,政府の避難指示等によって避難を余儀なくされたことによって生じたものではなく,通常よりも高い放射線量や本件事故の進展の状況に対する不安や恐怖を覚えざるを得ない状況に置かれたことによる日常生活の阻害をもって賠償の対象とみることが相当であり,避難指示により強制的に居住圏の制約を受けた避難等対象者の損害とは異なる。
したがって,このような避難指示等対象区域外からの避難者の被侵害利益の特徴も踏まえて相当因果関係を考えるに当たっては,自主的避難等対象区域内に居住している平均的・一般的な人を基準として相当程度の恐怖や不安を抱いたことにつき,慰謝料や避難の相当性を基礎付ける程度の権利侵害状態が継続しているか否か,そのように評価し得るのはいつまでか,及びその適正な損害額はいくらかについて検討すべきであると考えられる。
そして,自主的避難等対象者の被侵害利益を上記のとおりにとらえることからすれば,本件事故による恐怖や不安を抱かざるを得ないという状況に一定期間置かれたという点において,自主的避難を選択した者であっても,滞在者であっても,その置かれていた状況は共通している。そして,自主的避難者と滞在者の行動の相違に基づき,具体的な精神的苦痛のあり方は異なるものではあるが,いずれも放射線被ばくに対する恐怖や不安を基礎として生じている精神的苦痛であり,本件事故の放射線の作用と相当因果関係のある日常生活の阻害に基づく精神的損害の評価上,自主的避難者と滞在者とで画然とした差異があるということはできないことを考慮すれば,自主的避難者と滞在者の賠償額に差を設けることは公平かつ合理的とはいい難いというべきである。
ウ 自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について
(ア) 大人(妊婦を除く。)について
被告東電は,妊婦・子供以外の大人の自主的避難等対象者に対する精神的損害等の賠償対象期間を本件事故発生当初の時期(おおむね平成23年4月22日頃までを目安としている。)として,一人当たり8万円の賠償を行っている。
①平成23年4月17日には,事故の収束に向けての道筋が公表され,収束に向けての方向性が示されていること,②避難指示等対象区域外における空間放射線量の状況は同年3月16日以降報道されており,時間の経過とともに大きく低減し,汚染水の問題等の本件原発の状況によって30㎞圏外の住民の生活環境中の放射線量が上昇するという状況にはないこと,③平成23年4月22日には避難指示区域と接する20~30㎞圏内において屋内退避区域の指定が解除され,緊急時避難準備区域として再編されるに至っていること,④南相馬市の独自の判断に基づく一時避難の要請についても,平成23年4月22日には帰宅を許容する旨の見解が示されるに至っていること等からすれば,自主的避難等対象区域内に居住する平均的・一般的な人を基準として,平成23年4月22日頃までには,自己の置かれている状況について合理的に判断することができる状況に至っていると評価することができる。
そのため,自主的避難等対象者については,精神的損害の賠償終期は平成23年4月22日頃であると解すべきである。
賠償期間は,自主的避難者と滞在者とを問わず妥当する。滞在者については,滞在に伴い上記のような不安や恐怖を感じるとしても,精神的損害の賠償の対象として評価すべき相当程度の恐怖や不安を抱かざるを得なかったと考えられるのは,上記事情を踏まえれば,おおむね平成23年4月22日頃までと解される。自主的避難者についても,避難の原因となった危険の状況について新聞報道等により情報の提供がされ,自己が置かれている立場について情報がないとはいえない状態となり,社会的にも避難指示等対象区域外においてそのような認識が受け入れられるに至り,社会活動も再開されるという状況に至った場合には,以後の自主的避難を継続することには法的見地から合理性があるとは評価し得ず,以後の自主的避難の継続によって権利侵害が基礎付けられるということはできない。
(イ) 妊婦及び子供について
被告東電は,妊婦・子供は放射線への感受性が高い可能性があることが一般的に認識されていることも踏まえて,平成24年8月末までを対象として精神的損害の賠償を行っている。そして,中間指針第二次追補において,平成23年9月30日に指定が解除された旧緊急時避難準備区域に生活の本拠を有する避難等対象者への精神的損害の賠償の終期が平成24年8月末までを目安とする旨定められていることも踏まえ,避難等対象者ではない妊婦・子供の自主的避難等対象者に対する賠償の対象期間を平成24年8月31日までとすることは,被害者保護の観点にも十分配慮して定められた賠償対象期間であり,合理的かつ相当である。
(ウ) 同伴者である大人について
被告東電は,妊婦・子供の避難に同伴することが必要になる場合が想定される大人の同伴者の同伴費用についても,妊婦・子供自身の損害に含めて賠償額を設定している。特定の家族が妊婦・子供の避難に同伴したとしても,当該同伴者である大人が事故の被ばくに対する不安から避難するものでないことも踏まえると,当該同伴費用については妊婦・子供自身の損害として補填される状況の下で,同伴行為そのものに起因して当該同伴者に固有の慰謝料が発生することはないというべきである。
仮に,同伴者固有の精神的損害が問題となるのであれば,それは妊婦や子供が避難を行ったことにより生ずる損害であって,相当因果関係を欠く。したがって,大人の自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間については,妊婦や子供に同伴したかどうかによって別異に解されるものではない。
エ 賠償額について
(ア) 大人(妊婦,子供以外であり,同伴者を含む。)について
本件事故と相当因果関係のある精神的損害の賠償対象期間は,おおむね平成23年4月22日頃までと解することが相当であり,大人個人に対する当該期間についての精神的損害の賠償額は,以下の事情及び裁判例を考慮すれば,一人当たり8万円が合理的である。被告東電は,これらの事情及び中間指針追補を踏まえて一人当たり8万円の精神的損害の賠償を行うとともに,4万円の追加費用の実費賠償を行っている。
賠償額については,①中間指針において,屋内退避区域の居住者に対し当該指示の期間が約40日間で10万円の慰謝料額が定められているところ,自主的避難等対象者については,政府指示によって屋内退避を余儀なくされた居住者の精神的苦痛を上回る精神的苦痛が生じていると解することは合理的ではないこと,②自主的避難等対象区域においては,本件事故後の空間線量率の情報に照らしても,放射線被ばくによる客観的な健康リスクにさらされているとは評価できず,そのような科学的知見は本件事故発生直後から新聞報道等によって継続的に情報提供がされていたこと,③そのような中で,それでもなお生じる不安や恐怖に基づく日常生活阻害の精神的苦痛がここでの賠償対象であり,具体的な権利侵害を認め得るとしても,その侵害の程度は避難指示により避難を強いられた避難等対象者に比して大きいものではなく,上記のとおり不安を緩和する情報提供がされていることも考慮する必要があること,④妊婦や子供が世帯内にいる場合には,妊婦や子供一人当たり精神的損害と生活費の増加費用等を一括した一定額として,平成23年分として40万円及び平成24年1月から同年8月までの分として8万円(一人当たり合計48万円)を賠償するとともに,そのうち実際に自主的避難を実行した者に対しては追加的費用として平成23年分として20万円及び平成24年1月から同年8月までの分として4万円(一人当たり合計24万円)を賠償しており,このような妊婦・子供に対する賠償において世帯内に妊婦・子供がいることによる精神的苦痛や実費の支出分についてはてん補されること等を考慮すれば,大人個人に対する精神的損害の賠償額としては一人8万円とする賠償額に十分合理性がある。また,審査会は,一人8万円とする自主的避難等対象者の損害額を定めるに当たって,平穏生活権の侵害が問題となったこれまでの裁判例を参考としている。被告東電が公表している大人について8万円という賠償額は,裁判例を踏まえても,また客観的な健康リスクとしては喫煙や肥満,野菜不足よりも小さいとされている年間20ミリシーベルトを大きく下回る放射線量の地域における精神的損害の評価の問題として被害者の視点も十分考慮したものとなっている。
(イ) 妊婦,子供について
被告東電は,妊婦・子供一人当たり①精神的損害と生活費の増加費用等を一括した一定額として,平成23年分として40万円及び平成24年1月から同年8月までの分として8万円(一人当たり合計48万円)を賠償するとともに,②妊婦・子供のうち実際に自主的避難を実行した者に対しては追加的費用として,平成23年分として20万円及び平成24年1月から同年8月までの分として4万円(一人当たり合計24万円)を賠償している。
この点については,政府による避難指示等を受けた避難等対象者についての本件事故発生から平成23年12月31日までの慰謝料額は80万円(中間指針上,平成23年3月から同年8月までは月額10万円,平成23年9月からは月額5万円とされている。)とされていることとの対比で考えても均衡を失するものではなく,妊婦及び子供の自主的避難等対象者に対する平成23年12月末までの期間に対する精神的損害の賠償額を40万円とすることには合理性がある(なお,被告東電は実際に自主的避難を実行した妊婦及び子供に対し,更に20万円の実費賠償を上乗せしている。)。
オ 自主的避難等対象区域においては,放射線による健康への具体的なリスクが生じているものではなく,そのことは本件事故発生直後より新聞報道等において繰り返し報じられ,情報提供されていたものであるから,情報の混乱期を脱し,小・中学校や企業活動その他の社会生活が落ち着きを取り戻した平成23年4月22日頃以降においては,慰謝料を基礎付ける程度の「相当程度の不安や恐怖」がなお生ずべき状況にあるとは合理的に解し得ない。したがって,被告東電が賠償する精神的損害の水準は,十分に自主的避難等対象者の精神的苦痛を慰謝するに足りるものである。
⑷ 県南地域(白河市,西郷村,泉崎村,中島村,矢吹町,棚倉町,矢祭町,塙町,鮫川村)の原告らの精神的損害について
ア 県南地域は,自主的避難等対象区域ですらなく,本件原発からの距離や放射線量等の客観的状況,本件事故による放射線の影響による客観的な危険の程度,放射線やその健康影響に関する情報提供が本件事故直後よりされており,他の圧倒的多数の住民が冷静な対応を取っていること等の事情に鑑みれば,原則として,その住民が本件事故後に居住を継続することによって本件事故により法律上保護される利益の侵害が生じていたとは評価できない。
他方で,少なくとも本件事故直後の時期においては,本件原発の周辺地域において,①本件事故の今後の進展に対する懸念や②環境中の空間放射線量の上昇によりいかなる健康影響が生じるか分からないことにより,一定範囲の地域住民においては,政府による避難指示等の対象とされていなくても,相当程度の恐怖や不安を抱かざるを得なかったという状況が生じていることも認め得るところであり,一定の合理的な範囲内では,当該地域の住民について一定の範囲で慰謝料の発生を首肯することが考えられる(自主的避難等対象者がこれに該当する。)。
しかしながら,そのような地理的範囲にもおのずと合理的な範囲が存するのであり,県南地域にあっては,本件原発からの距離が自主的避難等対象区域に比して遠く,かつ,避難指示等対象区域と近接しているという事情もない。また,自主的避難等対象区域に属する市町村の多くと比べて,県南地域の空間放射線量は相対的に低く,これに応じて住民が感じる恐怖や不安の程度も異なると考えられることから,自主的避難等対象区域に含まれる市町村と県南地域とではその平均的・一般的な住民が抱くであろう恐怖や不安にはかなりの相違があると考えられる。
県南地域の地理的状況,空間放射線量の水準,避難の状況に加えて,放射線等に関する情報提供の状況にも鑑みれば,その住民が本件事故により平穏な日常生活を阻害されるほどの相当程度の距離や不安を感じることが平均的・一般的な人をして合理的な程度に達していたものとは評価できない。県南地域やその住民については,原則として本件事故による法律上保護される利益の侵害を肯定することができない。
イ 審査会においては,本件原発からの距離,空間放射線量,避難者数,ヨウ素剤が配布された事実の有無にも着目しつつ,中間指針追補において自主的避難等対象区域が決定されており,この決定は,法律上保護される利益の侵害の評価に係る基本的な事情を適切に抽出,考慮しており,その地理的範囲を合理的に画したものとして相当である。
ウ 被告東電は,県南地域の住民のうち,子供,妊婦に対して賠償する旨を公表した。
(ア) 県南地域の妊婦,子供について
県南地域の中でも限られた市町村においては,短期間であるが,本件事故直後において毎時1マイクロシーベルトを超える放射線量が計測された時期が自主的避難等対象区域ほどではないものの,一部の場所に見受けられるという事情が認められる。県南地域は,自主的避難等対象区域の全体的な状況に比して相対的に低い空間放射線量で推移しているが,本件事故直後の時期に限れば,その一部において自主的避難等対象区域の全体の状況に近い程度に高い時期もあった。
このような事情を考慮すれば,県南地域においては,その住民一般について法律上保護される利益の侵害は認められないものの,子供,妊婦については一般に放射線感受性が高い可能性があると認識されていたことから,本件事故後に子供・妊婦の健康に対する不安な心理が生ずることはやむを得ない事情が存在したと考える。
このため,本件事故直後の一時期に限った空間放射線量の状況に鑑みて,子供・妊婦については,本件事故による放射線被ばくを受けることによって,相当程度の恐怖や不安を抱くことにより,法律上保護される利益の侵害は認められ得ると考える。他方で,たとえ例外的に子供・妊婦の法律上保護される利益の侵害を肯定するとしても,上記の地理的状況等に鑑みれば,損害の程度として自主的避難等対象区域と同等と評価することはできない。
以上のような事情を考慮の上で,被告東電は,地方公共団体を含む関係各所の意見を聴いて参考にした上で,県南地域の住民のうち子供・妊婦について,一定の範囲において一定の額の精神的損害等の賠償を行うこととした。
(イ) 同伴する大人について
被告東電は,子供・妊婦の避難に大人が同伴した場合の同伴者の同伴費用については,子供・妊婦自身に生じた損害として賠償している。そして,子供・妊婦の避難に同伴者(大人)がいたとしても,それは,自身の被ばくに対する不安から避難するものでないことも踏まえると,当該同伴費用が子供・妊婦自身の損害として填補される状況の下で,同伴行為そのものに起因して当該同伴者に固有の慰謝料が発生することはない。
(ウ) 妊婦・子供に対する被告東電の精神的損害等の賠償額の合理性
a 賠償対象期間の合理性
県南地域の空間放射線量の推移の状況,放射線の健康影響に関する新聞等による情報提供の状況,県南地域における社会的活動の再開状況等に照らせば,県南地域の妊婦・子供の法律上保護される利益が本件事故の放射線の影響によって侵害されていると評価し得るとしても,その期間は,遅くとも平成24年8月31日までであり,これを超えるものではないというべきであって,被告東電の賠償が平成24年8月31日までを賠償対象期間としていることは,被害者保護の観点にも十分配慮して定められたものであり,十分に合理的かつ相当である。
b 賠償額の合理性
審査会における裁判例の検討状況に照らしても,県南地域の子供・妊婦の精神的損害の賠償額として一人当たり24万円を賠償する被告東電の賠償水準は,当該子供・妊婦の精神的苦痛を慰謝するに十分なものといえる。
3 本件事故時住所地が福島県会津若松市及び栃木県那須郡那須町であった原告らの損害論
⑴ 福島県会津若松市及び栃木県那須郡那須町は,自主的避難等対象区域ですらなく,本件原発からの距離,放射線量等の客観的状況,本件事故による放射線の影響による客観的な危険の程度,放射線やその健康影響に関する情報提供が本件事故直後よりされており,圧倒的多数の住民が冷静な対応をとっていること,社会的活動の再開状況等の事情に鑑みても,本件事故後に居住を継続することによって,本件事故により平穏な生活に関する法律上保護された利益に対する侵害が生じていたとは評価できない。
そして,福島県会津若松市及び栃木県那須郡那須町の地理的状況,空間放射線量の水準,避難者数の状況,社会的活動の再開状況等,放射線の健康影響等に関する新聞等による情報提供の状況にも鑑みれば,福島県会津若松市及び栃木県那須郡那須町の住民が本件事故の放射線の影響によって,平均的・一般的な人の視点に立って,本件事故により平穏な日常生活が阻害され,慰謝料の賠償をもって慰謝すべき相当程度の恐怖や不安を感じざるを得ない客観的な状況に置かれていたものとは評価することができない。
したがって,そのような状況の下で自主的な判断に基づき避難したとしても,本件事故と相当因果関係のある原子力損害が基礎付けられるものではない。
⑵ 審査会は,本件原発からの距離,空間放射線量,避難者数,ヨウ素剤が配布された事実の有無にも着目しつつ,自主的避難等対象区域を決定しており,これは,法律上保護される利益の侵害の評価に係る基本的な事情を適切に抽出,考慮しており,その地理的範囲を合理的に画したものとして相当である。
⑶ 福島県会津若松市及び栃木県那須郡那須町の居住者である原告らによる原子力損害賠償請求は,自主的な避難の実行に伴う精神的損害及び財産的損害の賠償請求のいずれについても本件事故との相当因果関係を欠く。
4 中間指針等
⑴ 中間指針等は,①中立的な専門家からなる審査会が,原賠法18条2項2号に定める法律上の所掌事務として,同項3号に根拠を置く調査・評価の権限に基づき,会議の公開の下で多数回にわたる審議を経て,原子力損害の範囲の判定に関する一般的な指針として定めたものであり,法令上の根拠に基づく指針であること,②審査会の審査においては,本件事故による被害について関係省庁・関係自治体からの説明の聴取等が行われており,本件事故による広範かつ膨大な被害の全体像を把握した上で,多数の被害者が生じているという本件事故の特徴にも鑑み,多数の被害者間において公平かつ適切な原子力損害賠償を実現しようとする観点から策定されているものであり,このような中間指針等によることにより,多種多様な損害発生状況について公平かつ迅速な解決が可能となること,③中間指針等の策定の過程においては,審査会における法律専門家による過去の裁判例等の審議・検討も行われており,裁判上の解決の場合をも視野に入れて賠償水準が検討,設定されているものであり,かつ,そのような結果としての中間指針等の内容については裁判上の解決規範としてみても十分に合理性,相当性を有するものとなっていること,④被告東電においては,我が国の損害賠償事例史上も類例のない膨大な被害者に対する公平かつ適切な賠償の実現が求められている状況にあるところ,同様の被害を受けた被害者に対しては同様の賠償が実現されるべきであるという公平の見地からは,本件事故のような事案においては,いかに多数の被害者間の賠償を公平に実現するかという点が極めて重要であり,審査会の定める指針の果たす機能は極めて重要であること,⑤被告東電においては,ADR手続における和解及び裁判上の和解も含めて,中間指針等に基づき,既に多くの被害者との間で合意に至っており,中間指針等は本件事故の賠償規範として既に定着している実情にあること等を踏まえれば,中間指針等の賠償基準は,裁判上の手続においても十分に尊重されるべきものである。
⑵ 上記事実からすれば,本件事故における中間指針等に基づく精神的損害の賠償水準は,各種の精神的苦痛がいずれも相当程度に大きいとの前提に立って,多くの被害者の精神的苦痛を類型的かつ包括的に慰謝するに足りるものとして定められているといえる。
したがって,原告らについても,他の被害者に比して客観的に強度の精神的苦痛を受けたと評価すべき特段の個別事情があり,被告東電が提示し賠償している慰謝料額によっては慰謝し尽くされていないと評価される特段の事情がない限りは,原告らに認められるべき慰謝料額は,中間指針等に基づく被告東電の公表賠償額を超えるものではない。
5 民事訴訟法248条
民事訴訟法248条の適用に係る原告らの主張については,原告らは事実上避難したという事情のみを主張しているにとどまり,具体的な損害の発生を基礎付ける事実関係については何ら主張・立証していないから,そもそも損害の発生自体を確認できない。損害の具体的内容とその発生自体が証拠によって最低限の基礎付けすらされていない以上は,具体的な損害の発生について認めるに足りないと評価するほかなく,民事訴訟法248条を適用する前提を明らかに欠き,同条を適用して裁判所が裁量によって損害額を認定することはできない。仮に,そのような損害認定を行う余地があるとしても,避難等対象者の場合には避難に伴い通常生ずる実費等を充分に填補し得る賠償額をもって定められており,また,自主的避難等対象者についても,本件事故と相当因果関係のあると考えられる生活費増加分や避難費用については通常生ずると考えられる相当な範囲において既に賠償されているから,これらの既払金を超える財産的損害の発生についての特段の個別的立証がされない以上,被告東電が裁判外で原告らに賠償している既払金を超える財産的損害が生じているとは評価し得ない。
したがって,原告らの上記主張,立証の内容,程度に基づいて,被告東電が原告らに提示し賠償している賠償額を超える原子力損害が,原告らに現実かつ具体的に生じているとは評価できない。
6 弁済の抗弁
⑴ 被告東電が避難等対象者,自主的避難等対象者,福島県県南地域に住居があった者で18歳以下であった者及び妊娠していた者について賠償した精神的損害等の賠償金のうち,精神的損害等の賠償として行われているものについては,いずれも生活費の増加分等の損害について斟酌した包括慰謝料としての性質を有する。そして,このような包括慰謝料の考え方は,不法行為に基づく損害賠償請求における訴訟物の考え方とも何ら矛盾しない。
⑵ 本件事故に基づく避難等に係る精神的損害と財産的損害の損害賠償請権は一つの訴訟物を構成するものであって,弁済としては,仮に特定の項目に対するものとして支払われた場合であっても,それは他の項目には充当しないとの趣旨で弁済されたものでない限り,当然別の損害項目に対する弁済に充てられるものであるから,原告らの精神的損害と財産的損害の請求に対しては,本件事故と相当因果関係が認められる損害の有無及び範囲を判断した上で,その認定額の総額に対して被告東電の既払金の総額が充当され,控除されるべきである。とりわけ,被告東電が賠償した包括慰謝料については,財産的損害の一部の賠償が含まれているものであるが,包括慰謝料としての性質として両者を金額上分別することは不可能であり,また,精神的損害と財産的損害が別個の訴訟物を構成するものではないことに鑑みれば,両者を分別することの実益もないと解される。
⑶ 以下のとおり,被告東電による弁済の抗弁は,世帯単位で提出することが認められるべきである。
避難生活に伴い本件事故と相当因果関係のある生活費増加分等の財産的損害が生じた場合,その損害世帯内の誰に生じたのかを厳密に峻別・特定することが困難な場合が多く,支出の実情としては,世帯全体で生じた損害と評価することが実態に合致している。また,原告らは,原告ら各人の一人一人の財産的損害額を算出するに当たり,原告らの世帯に生じたと主張する各項目の財産的損害の総額を世帯の構成員の人数で機械的に除することによって算出した金額を当該世帯を構成する原告ら各人の財産的損害として請求しており,かかる請求は,世帯に生じた財産的損害を世帯単位で請求しているという実質を有する。
ADR手続においても,財産的損害について,世帯に生じた損害であるとして取り扱った上で,和解認容額の総額から世帯に対して既に支払われた賠償額の総額を控除するという取り扱いがされており,当該原告と被告東電がこのような和解を受諾することにより当該原告は生活費増加分等の財産的損害について世帯に生じた損害として賠償されることを了解している。
また,実際上世帯に生じた損害として個々人に結び付けられずにADR手続上取り扱われている財産的損害について,被告東電としては世帯内のどの原告個人にいくらを割り付けて弁済の抗弁を主張すればよいのかが明らかではなく,個人単位での弁済の抗弁を提出すること自体が不可能である。したがって,ADR合意を経由した世帯については,世帯単位での弁済の抗弁が認められるべき実質がある(なお,乙共331号証において弁済の相手方を記載した「原告」欄には具体的な原告名を記載しているが,これは便宜的に世帯の代表者名を記載したものである。)。また,ADR手続を経由していない原告らについても,原告ら自身が本件訴訟において世帯単位での財産的損害を請求していること,ADR手続における世帯単位での賠償の実績が広く受け入れられており,世帯単位での弁済充当をすることによって当該原告らに不測の不利益が生じるとは解されないこと等からすれば,世帯単位での弁済の抗弁が認められるべきである。
⑷ 原告らは,ADR手続においては,自主的避難等対象区域の避難者らに支払われた賠償金の性質について,大人が4万円,妊婦又は子供については20万円を精神的損害とし,その余を財産的損害として整理しているように,被告東電の直接請求手続における精神的損害等の賠償は,包括慰謝料の性質を有するものではないと主張している。しかしながら,被告東電の自主的避難等対象者に対する損害賠償は,中間指針等に基づく精神的損害等の賠償として行われており,生活費の増加分などの損害も考慮した上での包括慰謝料として賠償されているものであるから,このような裁判外における被告東電の賠償の内容や性質が,ADR手続における和解上の取扱いによって一般に変更されると解されるものではない。したがって,被告東電の直接請求手続における精神的損害等の賠償が包括慰謝料の性質を有するものではないとの原告らの主張は失当である。また,原告らは,本件事故により生活継続利益が侵害されており,その生活継続利益の中には財産的利益と人格的利益の双方が含まれており,それぞれ被侵害利益の具体的内容が異なることから,財産的損害と精神的損害が区別して損害額の算定がされるべきであり,既払金の控除に関しても,両損害を区別して判断すべきであるとも主張するが,原告らの主張は,原告らが従前から主張する被侵害利益を包括的に把握すべきであるとする主張ともそもそも整合しない。
⑸ そして,弁済の抗弁においては,そもそも精神的損害と財産的損害の峻別が不要であるほか,実態としても,慰謝料名目の支払であったとしても賠償は金銭でされ,支払われた金銭は家計や生活基盤の回復に充てられることが想定されるところ,同一世帯は,家計・生活基盤を共通にすることから,賠償された金銭の充当に際して,同一世帯内の別の者に対する既払金であっても,特にその者の固有の損害を上回る部分がある場合には,世帯の構成員全員の損害に填補されるべきである。このような世帯単位での弁済の抗弁が認められるべきであって,原告らと同一の世帯であり本件訴訟で原告となっていない訴外の者に対する被告東電の賠償についても,原告らの請求に対して弁済の抗弁が認められるべきである。
⑹ 被告東電は,原告らの世帯に対して別紙被告東電の賠償金額一覧表の「賠償金額」欄のとおりの賠償を行っているところ,原告らの精神的損害及び財産的損害の請求に対して,同表の「賠償金額」欄記載の金額から,原告らが本件訴訟において請求していない不動産に係る財物損害及びADR手続の弁護士費用を控除した残額として,原告らの世帯に対して同表の「弁済の抗弁額」欄のとおりの金額を賠償した。
したがって,被告東電は,原告らの請求に対して,原告らの各世帯に対して世帯ごとに同表の「弁済の抗弁額」欄記載の各金額の弁済の抗弁を主張する。
第3 被告国の主張
1 財産的損害
⑴ 主位的主張
損害賠償制度はあくまでも被害者に生じた「損害」を填補するものであって,原告らが支出を抑える選択肢を採用したために実際に支出しなかった費用を填補することは,抽象的な算定方法を採用するか否かにかかわらず,「財産的な損害」に対する「損害の填補」とはいえない。原告らが多くの被害者にとって原状回復を図る上で共通するものと主張している損害は,それぞれ交通費等として算定可能なものであるから,抽象的損害算定を可能ならしめる根拠にはなっていないし,それ以外のものも原告らすら具体的に指摘できないような実体を伴わないものでしかなく,およそ損害算定の抽象化という名目で賠償額を上乗せできるような事情とはいえない。
原告らが本件において請求している損害のうち,財産的損害に関しては,個別具体的に主張立証すべきであるにもかかわらず,原告らは独自の見解に依拠してこれを放棄するもので,その主張にはまったく理由がない。この点を措くとしても,原告らの主張する損害項目は,原告らに共通して発生した損害とはいえない上,損害の主張として具体性を欠いており,主張自体失当である。
⑵ 予備的主張
否認する。
原告らが,予備的主張においても,代表世帯を除いて,原告ごとの個別具体的な主張立証が容易な財産的損害に関する主張立証を放棄していることは,主位的主張と同様であって,そのような主張に理由がないことは,主位的主張に対する被告国の主張で述べたとおりである。また,代表世帯以外の各原告世帯の損害額が,当該原告世帯の属するグループの代表世帯における損害額と同一であることについて何ら裏付けがなく,予備的主張の主張立証構造自体に誤りがある。
2 精神的損害
⑴ 自主的避難等対象区域の居住者に対する賠償の考え方について
ア 健康影響のリスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられるような低線量被ばくに対する不安感についての賠償の考え方
低線量被ばくの健康影響のリスクのように他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられる事象に対する不安感が生じたとしても,それは科学的根拠を欠く極めて主観的なものというべきであり,直ちに賠償の対象とされるべきようなものではない。
裁判例は,生命・身体に対する危険について侵害を認めるには,少なくとも危険の現実化する客観的な蓋然性を求めている。すなわち,健康リスクに対する精神的な不安を,人格権や法的保護に値する利益への侵害と認めるに当たっては,抽象的,主観的な危険では足りず,具体的な危険,すなわち,客観的ないし科学的根拠により被害の生じる蓋然性を求めているということができる。
イ 自主的避難等対象区域の住民について,本件事故前以上の放射線に被ばくしたとしても,このような低線量被ばくに対する健康影響は,他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいことからすると,本件事故により自主的避難等対象区域の住民が放射線に被ばくしたことについて不安感を抱き,精神的苦痛を感じたとしても,一般不法行為法のみの観点から検討した場合には,自主的避難等対象区域の住民が受けたであろうと推測される放射線の被ばくは極めて小さいと評価すべきものであるから,慰謝料の発生を認める程度の精神的損害が直ちに発生するとまではいえない。
したがって,自主的避難等対象区域における放射線被ばく量が健康被害を伴わず,健康影響が他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられることのほか,住民のほとんどが避難しなかったこと,自主的避難等対象区域が本件原発から遠く離れており,避難指示等の対象ではなかったこと,本件事故当初については,自主的に避難することが一般的ではなかったことに照らすと,当該区域内の住民が自主的に避難したことにより生じた精神的損害と被告国の規制権限不行使との間に直ちに相当因果関係を認めることはできない。
ウ 自主的避難等対象区域に関する中間指針等の評価について
(ア) 中間指針等の性質
中間指針等は,原賠法18条に基づき,文部科学省に設置された審査会が,福島第一,第二原子力発電所事故に係る原子力損害について策定した,原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針である。中間指針等を踏まえ,多数の和解が成立している現在,中間指針等の果たしている役割は大きく,そして,中間指針等は,原賠法に基づく福島第一発電所事故に関する損害賠償の範囲について,相当因果関係があるものとされる損害の範囲について指針を示している。もっとも,相当因果関係があるものとされる損害の範囲を示すに当たっては,被災者の早期救済のためなどの政策的観点も加味された上でその範囲を示している。
このため,本件においては,中間指針等の前記性質を十分に踏まえた上で,別途,相当因果関係の存否や損害額が認定されるべきであるし,既払金のある場合にはこれを損害額から控除するとともに,慰謝料の算定に当たって,早期に十分な被害回復のされたことが考慮されるべきである。
(イ) 自主的避難等対象区域に関する中間指針等の賠償の範囲や額が被災者に配慮したものであること
中間指針第一次追補は,自主的避難や滞在を行った住民の損害賠償を検討するに当たり,本件原発の状況が安定しない中で,放射線被ばくへの恐怖や不安,本件原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性,自己の居住する市町村の自主的避難の状況等を総合的に考慮し,被災者救済という政策的観点も加味した上で賠償が認められるべき一定の範囲を示している。
(ウ) 本件事故当初の特殊性を踏まえ,自主的避難等対象区域の住民の避難に係る慰謝料を認めるとしても少額にとどまること
自主的避難等対象区域の住民による損害賠償請求については,本件原発の状況が不安定であり,将来的な飛散放射線量の予測ができない状況下において万一の事態を想定して緊急避難的に避難することは正当化できるとしても,自主的避難等対象区域が広域にわたっていること,その範囲が本件原発からの距離や放射線の線量に必ずしも対応していないこと等に照らし,慰謝料を認める対象者については行政区画ごとに一律に考えるべきではなく,細やかな検討を要する。
このような慰謝料額の算定に当たっては,本件事故前以上の放射線に被ばくしたとしても,このような低線量被ばくの健康影響は,他の要因による影響に隠れてしまうほど小さく,自主的避難等対象区域の住民について,客観的にみて,健康被害は生じていないし,肉体的苦痛も受けていないこと,本件原発の状況が刻々と変化し,情報が不足していた期間はわずかであったこと,政府においても,予防的観点に立ちつつ,当初から情報提供をしていたこと等も考慮して慰謝料が算定される必要がある。そして,裁判例等も踏まえると,中間指針第一次追補において,自主的避難等対象区域の滞在者に対し,子供及び妊婦に対しては1人40万円(本件事故発生から平成23年12月末までの損害として),その余の者に対して8万円(本件事故発生当初の時期の損害として)賠償するという考え方は,種々の議論の結果,それまでの裁判例も参照しつつ,低線量被ばくに対する不安を中心に,自主的避難と滞在を分けずに初期の情報が十分でなかったこと等も総合的に考慮したものであって,合理性がある。
(エ) 自主的避難者の精神的損害は4万円を上回らないと考えられること
①自主的避難をした者は,本件事故当初の滞在期間が短い分,滞在者に比し,被ばくによる健康被害に対する不安感は小さいこと,②避難指示等を受けず,避難を余儀なくされているとはいえない上に,避難指示等対象区域の住民に比し帰還が容易なため,避難指示等対象区域内の住民よりも一定期間内に受ける精神的苦痛が小さいことからすれば,自主的避難等対象区域内の住民については,避難指示等対象区域の住民の受ける慰謝料として十分な金額である月額10万円よりは相当に小さくなるはずである。
以上のとおり,自主的避難等対象区域の住民についての賠償は,本件事故当初の特殊性を考慮すべきであり,少なくとも避難に伴う高額な損害の賠償を認めるのは相当ではない。
⑵ 避難指示等の対象区域の居住者に対する精神的損害の賠償の考え方
ア 避難指示等を受けて避難した者は,自主的に避難した者と異なり,避難を余儀なくされたということができる上,避難生活が長期間に渡ったため,相応な精神的苦痛を受けていると考えられるから,これについて慰謝料を認める余地がある。しかしながら,慰謝料額は,精神的苦痛の内容や類似事案における慰謝料額等を踏まえ,適切に算定される必要がある。この点,中間指針等において,避難指示等に係る損害として,精神的損害の賠償に係る指針も示されているが,その内容は,交通事故における損害賠償実務や類似事案の裁判例と比較すると十分な内容となっており,政策的判断も加味されている。このため,本件においては,精神的損害について,中間指針等の内容を踏まえつつも,適切な慰謝料額が算定されるべきである。また,被告国の支援の下,被告東電が中間指針等を尊重し,適切な賠償を早期に行っていることや,対象者の要望に応じて対象者が被告東電から賠償を受けるに当たって必要な請求書類を送付するなどして早期の賠償に努めていることは,慰謝料の算定に当たっても,十分に考慮されるべきである。
イ 避難を余儀なくされたことに伴う精神的損害について(帰還困難区域における一括賠償を除く。)
避難者は突然の事故によって平穏な日常生活とその基盤を失い,避難による不便な生活を余儀なくされるとともに,帰宅の見通しが不透明なことについて不安を抱くため,精神的苦痛を受けると考えられる。
他方,避難者は本件事故による身体的障害や健康被害を負っておらず,また,入通院等を余儀なくされていない。さらに,避難生活の長期化に伴い,当面の間避難を継続することを前提とした生活基盤が整備され,避難者が避難先の生活に徐々に適応することにより,精神的苦痛は相当に軽減されていくと考えられる。これらの事実に照らすと,避難者の受ける精神的苦痛は,交通事故のため入通院を余儀なくされた被害者に比しても相当に小さいはずであり,自動車損害賠償責任保険における慰謝料(日額4200円,月額換算12万6000円)より低額であっても不合理ではない。
中間指針等では,避難指示等の対象区域住民の受けた避難に伴う精神的苦痛の損害額として,本件事故から6か月(第1期)は一人月額10万円,その後の避難指示区域の見直し時点まで(第2期)は一人月額5万円(なお,第2期については実際には一人月額10万円が支払われている。),その後の終期まで(第3期)は避難指示解除準備区域,居住制限区域に設定された地域は一人月額10万円を目安として賠償することとされている。このような中間指針等の内容は,生活費増が費用が含まれているとしても十分なものである。加えて,前記の損害算定期間の終期について,中間指針等では①避難指示区域については,解除等から1年間を当面の目安とする,②平成23年9月に区域指定が解除された緊急時避難準備区域については支払終期は平成24年8月末までを目安とする,③特定避難勧奨地点については,避難指示等の解除後3か月間を当面の目安とするとされており,帰還やその後に安定した生活を営むために一定の期間を要することを踏まえても,中間指針等では十分な慰謝料額が認められているということができる。
ウ 帰還困難区域の住民に対する一括払いの慰謝料について
中間指針等では,帰還困難区域の住民が受けた精神的苦痛の損害額として,前記の第1期及び第2期分に加え,中間指針第二次追補で一人600万円,中間指針第四次追補で一人1000万円を目安とするとされている(ただし,支給調整があり,第3期の始期が平成24年6月の場合の加算額は700万円とされる。)。
このような中間指針等の内容は,交通事故における後遺障害慰謝料等の裁判例に比しても,十分なものと考えられる。
⑶ 区域外居住者の精神的苦痛に対する賠償
避難指示等対象区域及び自主的避難等対象区域以外の区域では,自主的避難等対象区域と同様,1年間の積算線量が20ミリシーベルトに達するおそれがなく,本件事故前以上の放射線に被ばくしたとしても,このような低線量被ばくの健康影響は,他の要因による影響に隠れてしまうほど小さい。このような区域外居住者が放射線被ばくによる健康被害に対する精神的苦痛を感じたとしても,それは危険の現実化する客観的な蓋然性を伴わない漠然とした恐怖感や不安感程度のものにほかならず,慰謝料の発生を認める程度の精神的苦痛とはいえない。したがって,区域外居住者に対する相当因果関係のある損害に基づく賠償として直ちに認めることはできない。
⑷ ふるさと変容慰謝料について
原告らが主張するふるさとの喪失による精神的損害は,中間指針等で示された賠償の対象となっている精神的損害に含まれていると考えられるため,特段の事情がない限り,原告らが中間指針等の範囲を超えて慰謝料の支払を求めることはできない。
3 避難の相当性について
⑴ 避難指示等対象区域について
避難指示等対象区域は,被告国又は地方公共団体により,避難指示が出されたり,計画的に避難を準備したり,緊急時には避難できるように準備することが要請された区域である。
住民が避難指示を受けた場合は通常これに従うべきであり,避難を要請された区域についてもこれに従うことが期待されるため,これらの点を踏まえると,当該区域内の住民は,通常の場合,避難することになると考えられる。被告国は,避難指示区域,計画的避難区域,緊急時避難準備区域に避難元住所を有する原告らが避難指示又は緊急時避難準備の要請に基づいて避難した場合については,損害との関係でその避難の相当性を争うものではない。そのため,仮に,被告国の公務員の行為に違法性が認められた場合には,避難に伴って生じた損害は,避難に必要かつ相当と認められる限り,上記行為との間に相当因果関係のある損害と認められるとしてもあながち不合理とはいえない。
⑵ 自主的避難等対象区域及びそれ以外の避難の指示の対象となっていなかった区域(区域外)について
自主的避難等対象区域や区域外に避難元住所を有する原告らについては,原則として避難ないし避難継続の相当性を争う。
ア 自主的避難等対象区域について
(ア) 基本的考え方
損害賠償における因果関係を論じるときに,その避難が必要かつ相当であったというためには,避難開始時において,本件事故そのものによる不安や恐怖が,一般人を基準としてみた場合においても避難することを決断するに足りる程度に至っていると判断できること,すなわち,放射線被ばくによる健康被害が合理的に懸念される状況があったことを必要とする。
本件事故後,放射線量のモニタリングは,平成23年3月12日又は同月13日頃から,福島県や被告国が実施し,同月16日からそのデータが公表され,同月25日からはそのデータの原子力安全委員会による評価結果が公表された。そして,被告国は,これらのモニタリング情報を踏まえて,同年4月22日に避難指示,計画的避難,緊急時避難準備の指示を行ったところ,これは,住民に対して放射線量や放射線被ばくの影響に関する情報を適切に提供したものであるとともに,避難指示等対象区域がおおむね特定されることで,避難指示等対象区域以外の区域については避難を必要とする状況にないことを示したものである。そうすると,遅くとも平成23年4月22日時点においては,「生活圏内の空間放射線量や放射線被ばくによる影響等に関する情報がある程度入手できるようになった状況」に至ったというべきである。
(イ) 本件事故から平成23年4月21日までの避難開始者について
a 自主的避難等対象区域が避難元住所である者のうち,本件事故から平成23年4月21日までの間に避難を開始した者については,放射線被ばくによる健康被害に対する合理的な懸念が形成される状況であったといえるときに,避難の相当性が認められる。
b 本件事故直後においては,本件原発及び福島第二原子力発電所からの距離を基準に避難指示区域等が設定され,本件事故や本件事故により放出された放射性物質の影響が,基本的に本件原発や福島第二原子力発電所から離れるに従って小さくなることは,一般人においても理解できたものである。したがって,本件事故直後の避難の相当性に関しては,避難元住所と本件原発及び福島第二原子力発電所との間の距離が重要な要素になるというべきである。
そして,避難指示区域や屋内退避指示区域は,緊急時被ばく状況における放射線量の基準値である年20から100ミリシーベルトのうち,その下限値の年20ミリシーベルトを指標として,これを超える地域について計画的な避難を実施するとの方針のもとで適切に設定された。
これに対し,自主的避難等対象区域は,本件原発からの距離が30㎞から約100㎞までの広範囲にわたる地域であり,また,本件事故直後の時期においても,本件原発から半径30㎞より以遠の地域については,放射線量が健康に影響が出るレベルではない旨の専門家の見解等の情報が,新聞報道等によって多数提供されていた。このような事情からすれば,本件事故直後であっても,自主的避難等対象区域からの避難を相当とする合理的懸念が形成されていたとは直ちにはいえず,本件事故直後から平成23年4月21日までの段階においても,自主的避難等対象区域内の住民が避難を選択するのが一般的であったというべきではない。
以上によれば,自主的避難等対象区域を避難元住所とする者については,平成23年4月21日までに避難を開始した者であっても,当然に避難の相当性が認められるものではなく,避難元住所が自主的避難等対象区域のうち屋内退避指示区域に隣接していて本件原発との距離が近いかどうかや,放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されている子供や妊婦が世帯内にいるかどうかなどの諸事情を考慮に入れて,個別的に判断されるべきである。
c 自主的避難等対象区域は年間積算線量が20ミリシーベルトに達しない区域であるところ,年20ミリシーベルトを基準として避難指示等を行った被告国の対応は上記のとおり適切であり,これは,原災本部が平成23年12月には自主的避難等対象区域を含め,避難指示等対象区域外の区域については放射線被ばくによる健康被害を理由とした居住制限が必要ない旨を表明したことによっても裏付けられている。そうすると,自主的避難等対象区域等の避難の相当性が認められる場合であっても,避難を継続する相当性が認められるのは,原則として平成23年4月22日までであり,子供や妊婦である等の個別事情によって,それ以降も避難継続の相当性が認められる余地があるとしても,同年12月末までというべきである。
(ウ) 平成23年4月22日以降の避難開始者について
遅くとも平成23年4月22日には,生活圏内の空間放射線量や放射線被ばくによる影響等に関する情報がある程度入手できる状況に至っていたものであるから,自主的避難等対象区域に避難元住所があり,同日以降に避難を開始した者については,避難開始時における生活圏内の空間放射線量等に照らし,放射線被ばくによる健康被害に対する懸念が合理的に形成される状況にあったと評価し得る場合に限って,避難の相当性が認められる。
この点,自主的避難等対象区域は,本件事故後年間積算線量が20ミリシーベルトを超えたことがない区域であり,そのような年20ミリシーベルト以下の低線量被ばくは健康被害を懸念するレベルのものではない。そして,被告国は,平成23年4月22日,年間積算線量20ミリシーベルトを基準に避難指示等を行うこととしてその旨を公表し,避難指示等対象区域を設定したのであって,翻って,自主的避難等対象区域については避難の必要がないことを示していた。
これらの事情を踏まえると,平成23年4月22日以降,自主的避難等対象区域において,なお放射線被ばくによる健康被害を懸念し,その恐怖や不安から避難を選択するということが,一般人を基準としてみた場合に合理的であるということはできず,避難元住所近傍の放射線量が年間積算線量20ミリシーベルトにどれだけ近い値であったか,それが増大する見込みであったか,子供や妊婦であったかなどの個別事情によって,例外的に避難の相当性を認める余地があるにとどまるというべきである。
したがって,自主的避難等対象区域に避難元住所があり,平成23年4月22日以降に避難を開始した者については,原則として避難の相当性が認められず,避難元住所近傍の放射線量,子供や妊婦であるかなどの個別事情いかんによって,例外的に避難の相当性を認める余地があるにとどまるというべきである。なお,そのような避難につき相当性が認められるとしても,平成24年1月以降については,上述のとおり避難継続の相当性を欠く。
イ 区域外からの避難及び避難継続の相当性
区域外は,年間積算線量が20ミリシーベルトに達しない区域であり,被告国による避難指示・避難要請等がなかった点で自主的避難等対象区域と同じであるから,区域外からの避難及び避難継続の相当性については,自主的避難等対象区域について述べたところが妥当する。
⑵ 一般人のリスク認知は経験的システムによるとの原告らの主張について
原告らは,一般人たる原告らが経験的システムを用いて本件事故の被災地に居住し続けることを危険であると判断し,本件事故とそれに伴う放射性物質の飛散によって,原告らが被ばくによる健康被害の恐怖・不安を感じることは極めて合理的なことであり,これによって発生した損害について被告らが賠償する責任を負うこととなると主張し,その主張に際しU氏の意見書及び証人調書を提出するが,それは人の考え方の傾向を一般化して科学的に分析しただけで,人の考えた内容それ自体が合理的かどうかを直接導き出すものではなく,損害賠償の対象となる損害の範囲を論じるに当たって有益性が乏しいというべきである。
4 被告東電と被告国の賠償責任の範囲
仮に被告国の規制権限不行使について,国家賠償法1条1項の違法性が認められるとしても,これと被告東電の不法行為は,共同不法行為とはならず,単に不法行為が競合しているにすぎないことから,被告国の責任の範囲は第一次的責任者である被告東電に比して相当程度限定されたものになるべきである。
5 弁済の抗弁
被告東電による次の主張を援用する。
被告東電は,原告らの世帯に対して,別紙被告東電の賠償金額一覧表の「賠償金額」欄のとおりの賠償を行い,原告らの精神的損害及び財産的損害の請求に対して,同表の「賠償金額」欄記載の金額から,原告らが本件訴訟において請求していない不動産に係る財物損害及びADR手続の弁護士費用を控除した残額として,原告らの世帯に対して同表の「弁済の抗弁額」欄のとおりの金額を賠償している。したがって,被告東電は,原告らの請求に対して,原告らの各世帯に対して,世帯ごとに同表の「弁済の抗弁額」欄記載の各金額の弁済の抗弁を主張する。
第4章 当裁判所の判断
第1節 被告国の責任
第1 規制権限の有無
1 判断枠組み
経済産業大臣の規制権限の不行使が国家賠償法1条1項の適用上違法となるのは,炉規法や電気事業法の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,権限を行使すべきであったとされる当時の具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くときに限られると解するのが相当である(最高裁平成元年11月24日第二小法廷判決・民集43巻10号1169頁,最高裁平成7年6月23日第二小法廷判決・民集49巻6号1600頁,最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁,最高裁平成16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁,最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799頁参照)。
本件では,経済産業大臣が,本件事故前に,被告東電に対し,原告らが主張する措置を講じるよう技術基準適合命令を発しなかったことは争いがない。そこで,経済産業大臣が技術基準適合命令を発しなかったことについて,①技術基準適合命令を発する権限があったか,②発しなかったことについて著しく合理性を欠くといえるか否かを検討する。
2 法令の趣旨,目的
⑴ 原子力基本法
平成14年当時の原子力基本法は,1条において,「この法律は,原子力の研究,開発及び利用を推進することによって,将来におけるエネルギー資源を確保し,学術の進歩と産業の振興とを図り,もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。」と規定し,2条において,「原子力の研究,開発及び利用は,平和の目的に限り,安全の確保を旨として,民主的な運営の下に,自主的にこれを行うものとし,その成果を公開し,進んで国際協力に資するものとする。」と規定しており,「安全の確保を旨として」原子力を利用することを基本方針としていた。
⑵ 炉規法
平成14年当時の炉規法は,1条において,「この法律は,原子力基本法(昭和30年法律第186号)の精神にのっとり,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行われることを確保するとともに,これらによる災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制等を行うほか,原子力の研究,開発及び利用に関する条約その他の国際約束を実施するために,国際規制物資の使用等に関する必要な規制等を行うことを目的とする。」と規定し,23条1項1号において,実用発電用原子炉を設置しようとする者は経済産業大臣の許可を受けなければならないと定め,24条1項4号において,経済産業大臣は,原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質,原子炉等による災害の防止上支障がないと認めるときでなければ,上記許可をしてはならないと定めていた。このように,同法は,原子力基本法に定める基本方針を受け,災害の防止上支障がないと認められる場合に限って原子炉の設置を認めることとして,原子炉等による災害を防止しようとしていたものであった。
⑶ 電気事業法
電気事業法は,1条において,「この法律は,電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによって,電気の使用者の利益を保護し,及び電気事業の健全な発達を図るとともに,電気工作物の工事,維持及び運用を規制することによって,公共の安全を確保し,及び環境の保全を図ることを目的とする。」と規定し,電気工作物の維持,運用等を規制することによって,公共の安全を確保し,環境の保全を図ることを目的とすることを明らかにしている。そして,平成14年当時の同法は,39条1項において「事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。」と規定し,同条2項1号において,技術基準の要件の一つとして,事業用電気工作物は人体に危害を及ぼさないようにすることを求めていた。これを受けて,平成14年当時の同法40条は,「経済産業大臣は,事業用電気工作物が前条第1項の経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる。」と規定し,経済産業大臣は事業用電気工作物が技術基準に適合していないと認めるときは,いわゆる技術基準適合命令を発することができることとしていた。このように,同法は,技術基準の策定及び適合命令の発令という仕組みを設けることによって,事業用電気工作物の安全性を確保しようとしていた。
⑷ 省令62号
平成14年当時の省令62号は,4条1項において,「原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が地すべり,断層,なだれ,洪水,津波又は高潮,基礎地盤の不同沈下等により損傷を受けるおそれがある場合は,防護施設の設置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない。」と規定し,津波によって原子炉施設等が損傷を受けることのないように,適切な措置を講じることを求めていた。
3 技術基準適合命令の可否
以上の各法令の規定及び趣旨に照らすと,平成14年当時においても,電気事業法40条所定の技術基準適合命令は,原子力発電所の安全性を確保するために発することが想定されていたというべきである。そうすると,経済産業大臣は,原子炉施設の一部である非常用電源設備が津波により損傷を受けるおそれがある場合には,原子炉施設の設置者に対し,防護施設の設置その他の適切な措置を講じるよう技術基準適合命令を発することができたものと解するのが相当である。
そして,本件原発は,電気事業法にいう「事業用電気工作物」に当たるから,これが省令62号所定の技術基準に適合しない場合には,経済産業大臣は技術基準適合命令を発することができたというべきである。
4 被告国の主張について
これに対し,被告国は,本件事故前においては,実用発電用原子炉施設に関する安全規制は段階的な安全規制の考え方を前提としており,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項について技術基準適合命令により規制することはできなかったと主張する。
しかしながら,炉規法や電気事業法が段階ごとに安全規制をするという仕組みを採用しているからといって,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項について技術基準適合命令を発することができないと解することはできない。その理由は,次のとおりである。
そもそも,技術基準適合命令について定める電気事業法40条は,事業用電気工作物が技術基準に適合することを求めるのみであって,同条には,技術基準適合命令が基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項に限られる旨の文言はない。そして,同条を受けて制定された省令62号においても,このような限定をする旨の文言や規定は存しない。実質的に考えても,一旦設置許可を得た原子炉施設であっても,その後の科学的知見の進展に伴い基本設計ないし基本的設計方針の安全性を見直すべき事態が生ずることは当然に予想されるのであって,このような場合であっても経済産業大臣が技術基準適合命令を発することができないとすれば,原子炉施設の安全性を確保しようとする原子力基本法,炉規法,電気事業法,省令62号の理念が没却されることになり,極めて不合理な結果となる。
そうすると,炉規法や電気事業法が段階的安全規制の仕組みを採用していることは,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項について技術基準適合命令を発することの妨げになるものではないと解するのが相当である。
第2 予見義務及び予見可能性
1 認定事実
⑴ 長期評価公表前
ア 4省庁報告書
農林水産省構造改善局,農林水産省水産庁,運輸省港湾局,建設省河川局は,平成9年3月,4省庁報告書を作成した。
4省庁報告書は,総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討することを目的として,推進を図るため,太平洋沿岸部を対象として,過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を踏まえ,想定し得る最大規模の地震を検討し,それにより発生する津波について,津波数値解析を行い,津波高の傾向や海岸保全施設との関係について概略的な把握を行ったものである。4省庁報告書では,津波防災計画策定の前提となる対象津波については,既往最大の津波を原則としつつ,津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については,想定し得る最大規模の地震津波を検討し,既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から沿岸津波水位のより大きい方を対象津波として設定するものとされていた。もっとも,津波数値解析計算は,計算過程等を一部簡略化しており,精度の高いものではないし,様々な仮定に基づいて計算されたものであった。
4省庁報告書では,本件原発が所在する福島県大熊町の想定地震津波は6.4mとされていた。(以上につき,甲A10の1,2〔148頁〕,甲A75〔2丁,42頁〕)
イ 7省庁手引き,津波浸水予測図
(ア) 国土庁,農林水産省構造改善局,農林水産省水産庁,運輸省,気象庁,建設省,消防庁は,平成9年3月,7省庁手引きを作成した。7省庁手引きは,行政機関が,地域防災計画における津波対策の強化を図るため,津波防災対策の基本的な考え方,津波に係る防災計画の基本方針並びに策定手順等について取りまとめたものである。(甲A8,76〔3〕)
(イ) 7省庁手引きは,津波防災計画の前提として設定される対象津波について,従来は,既往最大の津波を採用することが多かったところ,地震地体構造論,既往地震断層モデルの相似則等の理論的考察の進歩や地震観測技術の進歩に伴い,将来起こり得る地震や津波を過去の例に縛られることなく想定することも可能となってきていることから,既往最大津波と想定地震津波を比較した上で常に安全側になるよう,沿岸津波水位のより大きい方を対象津波として設定したものであった。(甲A8〔30〕,76〔30〕)
(ウ) また,7省庁手引きの別冊として「津波災害予測マニュアル」が作成されており,同マニュアルでは,津波数値計算には至る所で誤差が入り込み得るから,計算結果を利用するに当たっては,その利用目的ごとに判断することが重要であることが指摘されている。(甲A9,115)
(エ) 国土庁と財団法人日本気象協会は,平成11年3月,「津波災害予測マニュアル」に基づき,「津波浸水予測図」を作成,公表した。「津波浸水予測図」は,対象区域ごとに気象庁から発表される量的津波予報で予報された津波の高さ2m,4m,6m,8mに対応する浸水状況を予測したものであり,それによれば,本件原発1~4号機は,津波の高さが6m,8mの場合,建屋のほぼ全体において浸水深さ0~4mで浸水すると予測されていた。(丙A54,弁論の全趣旨)
ウ 電事連ペーパー
電気事業連合会は,平成9年10月15日付けで,7省庁手引き等に対する原子力事業者としての対応方針を定めた「7省庁津波に対する問題点及び今後の対応方針」(電事連ペーパー)を作成した。(甲A144)
電事連ペーパーでは,7省庁手引きにおいて,地震地体構造的見地から想定される最大規模の地震津波を考慮していることから,今後は,必要に応じて地震地体構造の地震津波も検討条件として取り入れる方向で検討・整備していく必要がある旨記載されている。
被告東電は,4省庁報告書の想定地震断層モデルに基づいて数値シミュレーションを実施し,本件原発が立地する双葉町・大熊町において,推計津波高さが平均でO.P.+6.4~6.8m,最大でO.P.+7.0~7.2mであるとの結果が出たことから,本件原発の安全性には問題がないと結論付けた。(甲A153)
エ 津波評価技術
(ア) 平成11年,原子力施設の津波に対する安全性評価技術の体系化及び標準化について検討を行うことを目的として,社団法人土木学会原子力土木委員会に津波評価部会が設置された。津波評価部会の主査はHが務め,委員はC,Gら地震学者や被告東電等の各電気事業者の研究従事者等によって構成されていた。(甲A7の1,弁論の全趣旨)
(イ) 土木学会原子力土木委員会は,平成14年2月,「原子力発電所の津波評価技術」(津波評価技術)を作成した。(甲A7の1~3)
津波評価技術は,既往津波の痕跡高を最もよく説明する断層モデルを基に,津波をもたらす地震の発生位置や発生様式を踏まえたスケーリング則に基づき,想定するモーメントマグニチュード(Mw)に応じた基準断層モデルを設定し,その上で,想定津波の波源の不確定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ),その結果得られた想定津波群の波源の中から評価地点に最も影響を与える波源を選定する。既往津波には,おおむね過去400年間の歴史資料や堆積物調査の結果によって判明しているものを取り込んでいる。この手法によって得られる設計想定津波は,平均的には,既往津波の痕跡高の2倍になっていた。(乙A4の1〔18〕,丙A78〔11〕,弁論の全趣旨)
(ウ) 各電気事業者は,津波評価技術の発表後,これに基づいて自主的に津波評価を行い,保安院に結果を報告した。被告東電は,平成14年3月,「東京電力株式会社 福島第一原子力発電所 福島第二原子力発電所 津波の検討-土木学会「原子力発電所の津波評価技術」に関わる検討-」により,津波評価技術に従った数値シミュレーションを行った結果を報告した。同報告書によれば,最大水位上昇量に朔望平均満潮位を考慮した設計津波最高水位は,本件原発では近地津波でO.P.+5.4~5,7m,遠地津波でO.P.+5.4~5.5mであった。
なお,被告東電が,耐震バックチェックの最終報告書を提出するに当たり,平成21年2月に最新の海底地形と潮位観測データを考慮して津波評価技術に基づく計算を行ったところ,本件原発における津波の潮位はO.P.+5.4~6.1mであった。(以上につき,甲A1の1〔381〕,乙A4の1〔19〕,乙A10,丙A26)
(エ) 原子力規制機関も,原子炉の設置許可処分に先立つ審査の際に,津波評価技術の考え方と同様の考え方を用いて津波に対する安全性を確認していた。保安院が平成18年にバックチェックルールに基づいて耐震バックチェックを指示した際も,津波に対する安全性の確認基準は津波評価技術の考え方を踏まえて作成された。(甲A1の1〔389〕,丙A77の1〔7〕,96〔3〕,180〔4,5,39~41〕,丙B65)
また,本件事故後に策定された原子力発電所の新規制基準である「基準津波及び耐津波設計方針に係る審査ガイド」においても,津波評価技術の考え方が採用されている。(丙C71,弁論の全趣旨)
(オ) 米国原子力規制委員会(NRC)が2009年(平成21年)に作成した報告書では,津波評価技術が「世界で最も進歩しているアプローチ」と評価され,IAEAが2011年(平成23年)11月に公表した報告書においても,基準の例として参照されている。(丙A35〔59〕,36〔113~116〕)
⑵ 長期評価
ア 長期評価の概要
(ア) 平成7年に発生した阪神・淡路大震災を契機とし,地震防災対策特別措置法が成立し,同法に基づき,総理府に推進本部が設置された。(甲A21,丙A43,102)
推進本部は,本部長(文部科学大臣)と本部員から構成され,その下に関係機関の職員及び学識経験者から構成される地震調査委員会と政策委員会が設置されている。地震調査委員会には長期評価部会が設置され,同部会には更に分科会があり,その中の1つである海溝型分科会の当時の委員は,主査がJであり,委員はK,C,Nら地震・津波の研究者が務めていた。推進本部の所掌事務は,地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進について,①総合的かつ基本的な施策の立案,②関係行政機関の予算等の事務の調整,③総合的な調査観測計画の策定,④関係行政機関,大学等の調査研究結果等の収集,整理,分析及び総合的な評価,⑤④の評価に基づく広報の5つである。(甲A21,丙A43,弁論の全趣旨)
推進本部は,平成11年4月23日,「地震調査研究の推進について」と題する報告書において,総合的かつ基本的な施策を策定し,活断層調査,地震の発生可能性の長期評価,強震動予測等を統合した地震動予測地図の作成を,当面推進すべき地震調査研究の主要な課題の一つと位置付けた。その上で,推進本部は,全国地震動予測地図の作成に向け,地震調査委員会において日本全国98の活断層と海溝型地震の長期評価の検討・公表を順次行っていくこととした。(丙A98,102)
(イ) 海溝型分科会での多数回にわたる議論を経て,推進本部地震調査委員会は,平成14年7月31日,「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」(長期評価)を公表した。(甲A6,109の1~5)
その概要は,次のとおりである(以下「長期評価の見解」という。)。(甲A6〔4,9,13,18〕)
a 発生場所
三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域については,過去にM8クラスの地震がいくつか知られている。日本海溝付近のプレート間で発生したM8クラスの地震は17世紀以降では,1611年の慶長三陸地震,1677年11月の延宝房総沖地震,1896年の明治三陸地震が知られている。しかし,過去の同様の地震の発生例は少なく,このタイプの地震が特定の三陸沖にのみ発生する地震であるとは断定できないので,同じ構造を持つプレート境界の海溝付近に,同様に発生する可能性がある。
b 発生確率
M8クラスのプレート間の大地震は,過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合で大地震が発生すると推定される。ポアソン過程により,今後30年以内の発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定される。
c 留意事項
長期評価には,「データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用に当たってはこの点に十分留意する必要がある。」とのなお書きが記載されている。
⑶ 長期評価公表後
ア 被告国の被告東電に対するヒアリング
保安院の原子力発電安全審査課耐震班は,長期評価の公表直後の平成14年8月5日以後,長期評価の見解に対する対応方針等につき被告東電の担当者からヒアリングを行った。その際,保安院の原子力発電安全審査課耐震班が,被告東電の担当者に対し,長期評価の見解に基づき,福島沖から茨城沖の領域で津波地震が発生した場合のシミュレーションを行うべきであると述べたのに対し,被告東電の担当者は,BC論文(下記⑷イ参照)に基づきその必要はないと説明した。その後,被告東電は,Cに長期評価の見解の理学的根拠の程度について問合せを行い,その回答を踏まえ,長期評価の見解を決定論的安全評価には取り入れず,確率論的安全評価の中で取り入れていく方針であると報告し,保安院もこれを了解した。(丙A96〔2~12〕)
イ 信頼度の公表
(ア) 平成14年8月26日開催の推進本部第21回政策委員会において,防災機関が長期評価の利用についての検討を行う際には,その精粗に関する情報が必要であるとの意見が出された。これを契機に,推進本部は,長期評価の信頼度の公表に関する検討を開始し,長期評価に信頼度を付すこととなった。(丙A65,108~110)
(イ) 推進本部は,平成15年3月24日,「プレートの沈込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度について」を公表した。その概要は,次のとおりである。(丙A7)
a 評価の信頼度は,想定地震の発生領域,規模,発生確率のそれぞれの評価項目について与える。
b 評価の信頼度は,評価に用いたデータの量的・質的充足性などから,評価の確からしさを,次のようにAからDの4段階で表す。
A:(信頼度が)高い,B:中程度,C:やや低い,D:低い
c 発生領域の評価の信頼度については,想定地震と同様な地震が発生すると考えられる領域を1つの領域とした場合では,想定地震と同様な地震が領域内で4回以上発生しており今後も領域内のどこかで発生すると考えられる場合がB,1~3回しか発生していない場合がC,0回の場合がDとなる。
d 規模の評価の信頼度については,想定地震と同様な地震が3回以上発生している場合がA,1,2回発生している場合がB,過去に参照できる地震がない場合はCないしDとなる。
e 発生確率の評価の信頼度については,ポアソン過程を適用した場合では,想定地震と同様な地震が領域内で10回以上発生している場合がA,5~9回発生している場合がB,2~4回の場合がC,1回以下の場合はDとなる。
f 三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震については,発生領域の評価の信頼度がC,規模の評価の信頼度がA,発生確率の評価の信頼度がCである。
ウ 中央防災会議
災害対策基本法11条1項に基づき内閣府に設置された機関である中央防災会議は,防災基本計画を作成し,その実施を推進すること,内閣総理大臣の諮問に応じて防災に関する重要事項を審議することなどの事務をつかさどっている。
中央防災会議は,平成15年10月,同年5月に宮城県沖を震源とする地震,同年7月に宮城県北部を震源とする地震,同年9月に十勝沖地震が発生し,東北・北海道地方における地震防災対策強化の必要性が認識されたことから,これらの地域で発生する大規模海溝型地震対策を検討するため,「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」(日本海溝・千島海溝調査会)を設置した。同調査会では,地震学,地質学,土木工学,建築学等の専門家14名を委員として検討が行われた。(丙A8の2〔81〕,丙A44)
日本海溝・千島海溝調査会は,平成18年1月25日,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に着目して,防災対策の対象とすべき地震を選定し,その結果を「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報告」(日本海溝・千島海溝報告書)に取りまとめた。日本海溝・千島海溝報告書では,防災対策の検討対象とする地震については,三陸沖北部の地震,宮城県沖の地震等が検討対象とされたものの,福島県沖海溝沿いの領域については検討対象として採用されなかった。その結果,防災対策の検討対象とした地震による海岸での津波高さの最大値は,本件原発がある福島県双葉郡大熊町においてT.P.(東京湾平均海面)+5mを超えないものと判断された。(丙A8〔14〕,8の2〔59,62,65〕,弁論の全趣旨)
エ 地震動予測地図
推進本部地震調査委員会は,平成17年3月,長期評価等を総合的に取りまとめて,「全国を概観した地震動予測地図」(丙A161の1~3)を公表した。
上記地図は,「確率論的地震動予測地図」と「震源断層を特定した地震動予測地図」から成っている。
「確率論的地震動予測地図」は,ある一定期間内に,ある地域が強い揺れに見舞われる可能性を,確率論的手法を用いて評価し,地図上に確率で表示したものである。基礎資料として用いられる地震は,発生可能性があると考えることができる全ての地震であり,長期評価の見解が示した津波地震も含まれている。
他方,「震源断層を特定した地震動予測地図」は,対象とする地震を特定した上で,その地震の将来の発生確率の大小を考慮せず,あらかじめ想定された形で地震が起きた場合にどのような地震動が生じるかを予測計算し,その計算結果を地図上に表示したものである。これは,長期評価の対象となった地震の中から,発生確率の高さ及び評価に用いられた科学的データの充足性等を考慮して選定された12の地震に対して実施された強震動評価を取りまとめたものであるが,長期評価の見解が示した日本海溝沿いの津波地震は,基礎資料には含まれていなかった。(以上につき丙A161の1〔2,54〕,2,3〔174,221〕,丙A162,弁論の全趣旨)
オ 原子力安全委員会の見解
原子力安全委員会は,平成18年9月19日付けで「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の全面改訂を行った。これを受けて,保安院は,同月20日,全国の電気事業者に対し,同指針に基づく既設原子力発電所の耐震安全性の評価(耐震バックチェック)を行うよう指示した。(丙A77の1〔9〕,3〔1〕)
原子力安全委員会は,耐震設計審査指針の改訂に際して,公衆から寄せられた意見に対する回答として,推進本部の活断層調査結果等については,目的,評価方法,データが異なることから,直接それらを取り入れることは求めておらず,既往の研究成果及び既往の資料等として,安全審査において総合的な検討を行う際に参照されることになると回答している。(丙B70〔38〕)
カ 溢水勉強会
(ア) 平成18年1月から平成19年3月までの間,保安院と独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)は,米国内発電所の内部溢水に対する設計脆弱性の問題やスマトラ沖津波によるインド発電所の海水ポンプ浸水等を踏まえ,溢水勉強会を開催し,電気事業連合会及び各電気事業者は,オブザーバーとして同勉強会に参加した。(甲A34,35の1~10,甲A36,丙A91)
(イ) 平成18年5月11日に行われた第3回溢水勉強会においては,本件原発5号機(O.P.+13m)について,O.P.+14m,O.P.+10mの津波水位を仮定し,これによる建屋,構築物,機器への影響範囲を段階的に整理した結果が報告された。その内容は,①敷地高さを超える津波に対しては建屋へ浸水する可能性があることが確認され,機器については津波水位がO.P.+10m,O.P.+14mのいずれでも非常用海水ポンプが津波により使用不能な状態となる,②O.P.+10mの場合,建屋への浸水はないと考えられることから,建屋内の機器への影響はないが,O.P.+14mの場合,タービン建屋大物搬入口,サービス建屋入口から流入すると仮定した場合,タービン建屋の各エリアに浸水し,電源設備の機能を喪失する可能性があることを確認した,③O.P.+14mのケースでは浸水による電源の喪失に伴い,原子炉の安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失するというものであった。(甲A35の3,弁論の全趣旨)
キ JNESの報告書
JNESは,平成21年5月,既往津波や海底活断層に関する文献を調査して整理した上で,これを考慮して検討すべき津波波源及び解析条件を整備した報告書を公表した。同報告書では,中央防災会議等の波源モデル及び領域区分が採用され,三陸沖北部と福島県沖を一体とみなす長期評価の見解の領域区分は採用されなかった。(丙A186,弁論の全趣旨)
また,JNESは,東北電力女川原子力発電所のバックチェックに対するクロスチェック解析を行い,平成22年11月30日に報告書を公表したが,同報告書でも長期評価の見解の領域区分は採用されなかった。(丙A187,弁論の全趣旨)
ク マイアミ論文
被告東電の従業員4名及び東電設計の従業員1名は,2006年(平成18年)7月17日から同月20日にかけてアメリカのフロリダ州マイアミで行われた原子力工学国際会議において,「日本における確率論的津波ハザード解析法の開発」と題する論文(マイアミ論文)を発表した。(甲A38の1,2)
マイアミ論文では,津波という現象に関しては不確かさがあり,津波高さが,設定した設計津波高さを超過する可能性があるため,津波評価では,設計基準を超える現象を評価することが有意義であるとし,福島県沿岸について確率的津波ハザード解析法を適用している。そして,マイアミ論文には,日本海溝沿いの地域(JTT系列)について,明治三陸地震が発生したJTT1,延宝房総沖地震が発生したJTT3,その間にある福島県沖のJTT2に区分し,「JTT系列はいずれも似通った沈み込み状態に沿って位置しているため,日本海溝沿いの全てのJTT系列において津波地震が発生すると仮定してもよいのかもしれない。他方では,JTT2では既往津波が確認されていないことから,津波地震はJTT1とJTT3のみで発生すると仮定してもよいのかもしれない。」と記載されている。(甲A38の1,2)
ケ ロジックツリーアンケート
土木学会原子力土木委員会津波評価部会は,平成16年及び平成20年に確率論的津波ハザード解析に適用するロジックツリー分岐の重み設定案を作成するため,津波評価部会の委員及び幹事並びに外部専門家に対し,アンケートを実施した。(甲A122,123)
平成16年のアンケートでは,三陸から房総沖海溝寄りの海域で超長期(1万年オーダーの地質学的時間)の間にM8級の津波地震が発生する可能性について,同海域が一体の活動域で活動内のどこでも津波地震が発生するとの回答が,重み合計1.0のうち,全体の平均で0.5,地震学者のグループ平均では0.65であった。(甲A122)
平成20年のアンケートでは,三陸から房総沖海溝寄りの海域で超長期の間にM8級の津波地震が発生する可能性について,重みの合計1.0のうち,活動域内のどこでも津波地震が発生するが,北部領域に比べ南部ではすべり量が小さいとの回答が0.35であり,活動内のどこでも津波地震が発生し,南部でも北部と同程度のすべり量の津波地震が発生するとの回答が0.25であった。(甲A123)
コ 平成20年推計
(ア) 被告東電は,社内で耐震バックチェックにおける長期評価の取扱いについて議論となっていたことから,平成20年2月頃,津波工学の専門家であるGに対し,耐震バックチェックに当たり長期評価の見解を取り込むべきかについて意見を求めた。これに対し,Gは,同月26日,「福島沖の海溝沿いでも大地震が発生する可能性が理学的に完全に否定しきれない以上,波源として考慮した内部的な検討を行ったらどうか。」とアドバイスした。(甲A132〔10,11〕,133,丙A78〔30,31〕)
(イ) これを受け,被告東電は,東電設計に津波評価を委託した。東電設計は,平成20年4月18日付けで,「新潟県中越沖地震を踏まえた福島第一・第二原子力発電所の津波評価委託」を作成した。これに示された津波高さの推計が,平成20年推計である。(甲A85,132〔11〕,乙A26の2・添付資料1,弁論の全趣旨)
(ウ) 平成20年推計は,長期評価の見解を踏まえ,断層モデル(波源モデル)として明治三陸地震の断層モデル(波源モデル)を仮想的に福島県沖海溝沿い領域に置いた上で,パラメータスタディ,すなわち,当該断層モデル(波源モデル)の位置や向きなどの様々なパラメータを合理的な範囲内で変動させた多数の数値シミュレーションを実施したものである。(甲A85,133〔3〕)
その結果,本件原発における最大津波高さは,敷地南側でO.P.+15.707m(浸水深5.707m),4号機原子炉建屋中央付近でO.P.+12.604m(浸水深2.604m),4号機タービン建屋中央付近でO.P.+12.026m(浸水深2.026m)と試算され,1~3号機タービン建屋付近も浸水深1m以上と試算された。また,敷地への津波の遡上は,南側と北側からのみであり,東側からの津波の遡上はないと試算された。(甲A85〔9〕,133〔4,5〕)
サ 本件原発に関する耐震バックチェック
保安院は,平成21年,本件原発の津波に対する評価を行うに当たり,被告東電からバックチェック最終報告書の提出を受けた上でJNESによるクロスチェック解析を実施し,審議会において議論を行い,その評価の妥当性を審議したが,この際,審議に参加した専門家の中から,長期評価の見解に基づいて福島県沖の海溝寄りの領域でMt8.2クラスの津波自身が発生することを想定して解析・評価を実施する必要があるという意見が出されることはなかった。(丙A16〔3~6,24〕,180〔6~8,12,14~19〕,弁論の全趣旨)
⑷ 長期評価に対する意見
ア A論文
Aは,平成15年の論文(A論文)において,延宝房総沖地震について,各地の津波の状況や震度分布によれば,マグニチュードは6.5程度かもしれず,房総沖の海溝寄りで発生したM8クラスのプレート間地震であるとの推進本部地震調査委員会の見解は疑問であり,慶長三陸地震,明治三陸津波地震と一括して,その活動の評価を行った作業は適切ではないかもしれないとの見解を示している。(丙A11)
イ BC論文
B及びCは,平成8年の論文(BC論文)において,①北緯40度から39度の間では典型的なプレート間大地震が起きていないこと,②明治三陸地震が発生した地点は海底面の起伏が大きい「粗い」海底面であることに着目し,津波地震は,明治三陸地震が発生した場所付近の海底のように,限られた領域で発生するとの見解を述べている。(丙A61)
ウ B意見書
Bは,平成29年7月6日付けの意見書(B意見書)において,慶長三陸沖地震や延宝房総沖地震は,津波地震と捉えるべきか否かについて争いがあると述べている。また,Bは,B意見書において,本件地震前も現在も,明治三陸地震のような津波地震は限られた領域でのみ発生する可能性が高いものと考えており,このような地震が福島県沖でも発生する可能性が高いとは思っていない,本件地震は明治三陸地震のような津波地震が福島県沖で発生したものではないと述べている。(丙A88)
エ D論文
Dは,平成14年の論文(D論文)において,海溝軸付近の堆積物の形状等を観測し,①地塁-地溝構造が日本海溝外側斜面の北部で進展する一方,南部では海山が観測される,②北部の海溝軸に平行する等間隔の地形的隆起があるのに対し,南部では海洋プレートに等間隔の地形的特徴はない,③北部の地質構造は大陸プレートの海側端で相対的に低速な楔形ユニットを示しているのに対し,南部の地質構造には楔形構造は見られないと指摘して,三陸沖と福島県沖では,海溝沿いの凹凸地形の状況や堆積物の集積モデルが異なっていることを明らかにした。(丙A59の1,2,弁論の全趣旨)
オ E意見書
平成14年に長期評価の見解を公表した当時の推進本部の委員長であるEは,平成28年9月12日付けの意見書(E意見書)において,長期評価の見解について,三陸沖から房総沖の日本海溝寄りの領域については過去の地震の活動履歴として確認できる資料が極めて乏しいにもかかわらず,過去に津波地震の発生が確認されていない福島県沖や茨城県沖の日本海溝沿いも含めた日本海溝沿いの領域が単に陸側のプレートに太平洋プレートが沈み込んでいる点で構造が同じであるという極めて大雑把な根拠で,三陸沖から房総沖までの広大な日本海溝沿いの領域を一括りにして津波地震が発生する可能性があるとしたものであり,成熟した知見とか,地震・津波の学者たちの統一的見解とか,最大公約数的見解とはいい難いと述べている。(丙A73)
カ FL論文,F論文,F意見書
(ア) 平成16年4月から平成28年3月まで推進本部地震調査委員会長期評価部会の委員を務めたF及びLは,平成15年,「地震観測から見た東北地方太平洋下における津波地震発生の可能性」と題する論文(FL論文)を発表した。FL論文は,津波地震について巨大な低周波地震であるとの考え方が多くの研究者によってされているところ,福島県沖から茨城県沖にかけての領域においても大規模な低周波地震が発生する可能性があるが,福島県沖の海溝近傍では,三陸沖のような厚い堆積物は見つかっておらず,大規模な低周波地震が起きても,海底の大規模な上下変動は生じにくく,結果として大きな津波は引き起こさないかもしれないと結論付けている。(丙A9)
(イ) Fは,平成23年11月,「なぜ東北日本沈み込み帯でM9の地震が発生しえたのか?-われわれはどこで間違えたのか?」と題する論文(F論文)を発表した。F論文では,本件事故前においては,①「比較沈み込み学」(プレートの沈み込み方と地震の起こり方に相関関係があるとする考え方)が展開され,海洋プレートと大陸プレートの固着が強ければ大地震が生じやすいところ,東北地方中央部から南部にかけての領域では,固着は弱いと考えられていたこと,②「アスペリティ・モデル」(地震時に大きな滑りを生じる場所はあらかじめ決まっているとの考え方)によれば,宮城県沖から福島県沖までの海溝付近では,小さなアスペリティ(非常に速度弱化の程度の大きな領域。普段は強く固着しているが地震時には大きな滑りを示す。)さえなく,M9の地震が発生する可能性は低いと考えられていたことが紹介されている。(丙A21)
(ウ) Fは,平成28年9月28日付けの意見書(F意見書)において,長期評価の見解は,発生領域及び発生確率の両方において科学的根拠が薄弱であり,これを新たな知見として取り入れて,切迫性をもって対策を講じるべきとは考えていなかったと述べている。(丙A74)
キ G意見書
津波工学の専門家であり,推進本部地震調査委員会津波評価部会部会長を務めるGは,平成28年12月19日付けの意見書(G意見書)において,三陸沖はプレート間の固着が強く,海溝沿いの堆積物の量も多いのに対し,福島沖・茨城沖はプレート間の固着が弱く,海溝沿いの堆積物の量も少ないという理学的な根拠に基づく違いがあり,長期評価のように,既往津波地震について考慮する以外に,それを超えて,津波地震が,日本海溝沿いのどの地域でも発生すると取り扱うべきとは考えられず,多くの専門家も同様に考えていたとの意見を述べている。(丙A78)
ク H意見書
平成11年から平成24年まで土木学会原子力土木委員会津波評価部会主査を務めたHは,平成29年2月23日付け意見書(H意見書)において,長期評価の見解は,確定論に取り入れ直ちに対策を採らせるような説得力のある見解とは考えられていなかったと述べている。(丙A79)
ケ I意見書
推進本部地震調査委員会委員や中央防災会議日本海溝・千島海溝調査委員会委員を務めた地震学者のIは,平成29年7月24日付け意見書(I意見書)において,長期評価の見解は理学的に否定できないというものであることは間違いないものの,それ以上の具体的な根拠があるものとはいえないとの見解を述べている。(丙A89)
コ C意見書①,②
推進本部地震調査委員会長期評価部会部会長を務める地震学者のCは,平成27年7月3日付け意見書(C意見書①)において,①第9回海溝型分科会において,津波地震は日本海溝沿いのどこでも起こるという考え方と,明治三陸地震の波源域において繰り返し起こるとする考え方のどちらをとるのかが議論になったが,結局,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の波源域が明らかでないことから,過去の津波地震は海溝沿いのどこかで発生したとして評価することとなったこと,②第10回海溝型分科会では,延宝房総沖地震と慶長三陸地震について,津波地震ではないとの指摘がされたことなどを述べた。(甲A102)
Cは,別件訴訟の証人尋問において,①日本海溝寄りの北部から南部の領域についてはプレートの沈み込み角度はそれほど異ならないが,海溝軸付近の地形や地質に違いがあり,日本海溝北部は海溝付近に凸凹があり海溝軸付近で楔形に堆積物がたまっているのに対し,日本海溝南部は海底地形に凸凹がなく,堆積物は一様な厚さで沈み込んでいる,②日本海溝寄りの北部と南部では微小地震の起こり方や低周波地震,低周波地震の起こり方について明確に違いがあるが,これらの点について,長期評価を策定した海溝型分科会では,そもそも議論していなかった,③本件地震前において,明治三陸地震と同様の津波地震が福島沖を含む日本海溝寄りのどこでも起こるという見解は地震学者の間で統一的な見解ではなく,土木学会津波評価部会で専門家にアンケートを実施したところでも,全体の25%しか,上記見解に賛同する者はいなかった,④長期評価が最終的に日本海溝寄りの領域について北部から南部の領域を1つの領域としてまとめたのは,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の発生領域が特定できなかったからである,⑤比較沈み込み学によれば,福島沖で大規模な地震が起こるとは考えられていなかったと供述している。(甲A103)
Cは,平成29年5月16日付け意見書(C意見書②)において,地震空白域とは,大地震が繰り返し発生している領域であることを前提にしており,将来大地震が発生する有力候補地であるが,三陸沖から房総沖にかけての領域については,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の地震像が不明確であり,慶長三陸地震,延宝房総沖地震及び明治三陸地震をいずれも繰り返し性のある地震と認めることができない以上,同領域を地震空白域に当たるとみる考えには疑義があると述べている。(丙A87)
サ M意見書
東北大学名誉教授で元日本地震学会会長,元地震予知連絡会会長でもあるMは,平成14年8月8日,推進本部の委員長であったEに対し,長期評価の見解に対する意見及び質問事項を記載した書面を送付した。Mは,上記書面において,三陸沖南部海溝寄りの領域に関する長期評価の見解には,タイプの異なる2つの地震データを用いるなど,相当の問題が含まれているとの考えを示し,さらに,長期評価の見解が宮城県沖地震及び南海トラフ地震の長期評価に比べて格段に高い不確実性を持つことを明記すべきではないかとの意見を述べた。(丙A172)
シ Tマップ
Tらは,平成15年,地震地体構造の知見として,「日本列島と周辺海域の地震地体構造区分」(Tマップ)を公表した。Tマップでは,明治三陸地震発生の構造区,福島県東方沖地震発生の構造区,延宝房総沖地震の構造区を異なる区分としており,三陸沖の海溝寄りから房総沖の海溝寄りまでを一体とみなす長期評価の見解とは異なる立場を採用していた。(丙A57,弁論の全趣旨)
ス N意見書
歴史地震の専門家であり,推進本部長期評価部会委員及び津波評価部会委員を務めるNは,平成27年3月10日付け意見書(N意見書)において,①長期評価の見解では,「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」という領域は,明治三陸地震,延宝房総沖地震,慶長三陸地震及び昭和三陸地震がいずれも日本海溝寄りで発生していること,同じ構造を持つプレート境界の海溝付近ではどこでも同様に発生する可能性があることを根拠として設定したこと,②明治三陸地震,慶長三陸地震,延宝房総沖地震はいずれも震害が記録されていないのに津波による甚大な被害が発生していることから津波地震と位置付けたこと,③延宝房総沖地震の震源については,震源を陸寄りに考えるAの見解が検討され,慶長三陸地震については断層の位置が分からないとの意見が出たが,部会での議論の結果,明治三陸地震,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震のいずれも日本海溝沿いの津波地震として括ることとなったことなど,分科会での議論にも言及した上で,学者たちの議論を経て長期評価が示されたことを紹介している。(甲A92)
セ J意見書
地震学の専門家であり,推進本部長期評価部会長や日本海溝・千島海溝調査会の委員を務めていたJは,平成27年3月28日付け意見書(J意見書)において,①長期評価は,FL論文,A論文で示された見解についても議論した上で,これを織り込んだ上で策定されている,②Jは,日本海溝・千島海溝調査会において,長期評価と同様に日本海溝付近のどこでも明治三陸地震級の津波地震が発生することを被害想定に含めるよう主張したが,大勢に押し切られ,Jの主張は受け入れられなかった,③同調査会の地震の選択は歴史地震の資料が限られている点が十分に考慮されておらず,空白域の考え方が取り入れられていないもので,地震学の観点からは疑問の残る判断であったなどと述べている。(甲A96)
⑸ 貞観地震の知見
「日本三代実録」には,869年(貞観11年)に貞観地震が発生した記録が残されている。貞観地震については,本件地震前から東北地方の太平洋域の地質学的な調査が行われており,それによって発生間隔や津波の浸水域を明らかにすることができたものの,本件地震発生前においては,仙台湾に面した宮城県から福島県北部の平野における調査が実施されていたにとどまり,津波堆積物分布域の北限と南限は確定されておらず,南限を決めるための調査は福島県南部から茨城県北部において開始されていたにすぎなかった。(甲A14~19,39~50,丙A19,20,56,67)
2 予見可能性の対象について
原告らは,被告国が予見すべきであった津波について,O.P.+10mを超える津波が予見の対象となると主張するのに対し,被告国は,本件津波(O.P.+15.5m)と同程度の津波の到来が予見の対象となると主張する。
そこで検討すると,本件事故は,本件原発の主要建屋の敷地高であるO.P.+10mを超える津波が到来したことによって1~4号機の主要建屋設置エリアが浸水し,全交流電源を喪失したことによって発生したものであるから,予見の対象は,敷地高であるO.P.+10mを超える津波の到来であると考えるのが相当である。これに対し,本件津波と同程度の津波の到来を予見の対象と考えるとすると,本件事故を発生させ得るO.P.+10mの津波の発生すら予見しなかった場合であっても予見可能性が否定され責任を免れるという不合理な結果となるのであって,このような解釈は採り得ない。
そこで,以下,被告国がO.P.+10mを超える津波の到来を予見することができたか否かについて,検討することとする。
3 津波に関する予見可能性の有無について
⑴ 検討
長期評価は,地震防災対策特別措置法に基づき,政府が設置した機関である推進本部によって公表されたものである(認定事実(2)ア(ア),(イ))。また,長期評価の見解は,海溝分科会において,慶長三陸地震や延宝房総沖地震の発生位置やメカニズム,ポアソン過程で評価することの相当性等について専門家の間で議論をした上で公表されたものであり(認定事実(2)ア(イ),甲A109の1~4),過去の地震に関する資料が十分にないこと等による限界があるにせよ,専門家による十分な議論を経たものであると認められる。
そうすると,長期評価の見解は,一定の信頼性のある知見であるというべきであるから,被告国としては,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域で,今後30年以内は20%程度,今後50年以内は30%程度の確率でM8クラスの地震が発生するとの見解が示された以上,被告東電に対して,本件原発が受ける影響について,長期評価に基づく試算を行わせるべきであったといえる(なお,被告国は,長期評価の見解公表後に,被告東電の担当者に対するヒアリングを行い,長期評価の見解を確率論的安全評価の中で取り入れていくとの被告東電の方針を了承しているが,上記のとおり,長期評価の見解が一定の信頼性のある知見であることからすると,被告国の対応は不十分であったというべきである。)。
そして,被告東電が長期評価の見解を踏まえて行った平成20年推計の結果(認定事実(3)コ(ウ))も併せ考慮すると,長期評価の見解に基づく試算が行われていれば,平成20年推計と同様の試算結果を得ることができたはずであるから,被告国は,平成14年には,O.P.+10mを超える津波が本件原発に到来することを予見することができたと認めるのが相当である。
⑵ 被告国の主張について
ア 被告国は,長期評価の見解は,これと異なる理学的知見が多く示されていたほか,その策定に関与した専門家らも一様に理学的根拠に乏しいものであった旨の意見を述べていたと主張する。
確かに,長期評価の見解に対しては,今日,長期評価の策定に関与した者も含め,複数の専門家からその信頼性について疑問が呈されており(認定事実(4)ウ,オ,カ(ウ),キ~コ,ス),本件地震の発生前において,長期評価の見解とは異なる理学的知見も示されていたことからすると(認定事実⑷ア,イ,エ,カ(ア),サ,シ),長期評価の見解が通説的な見解であったとは認められない。
しかしながら,長期評価は,そのような否定的な見解があることも踏まえつつ,政府の専門機関である推進本部が取りまとめた見解なのであるから,単なる一学説ないし一見解の域にとどまるようなものではなかったというべきである(このことは,長期評価の公表後,被告東電が平成20年推計を行うなど,長期評価を踏まえた対策の検討を行っていたことからも明らかである。)。加えて,平成16年及び平成20年のロジックツリーアンケートにおいても,三陸から房総沖海溝寄りの海域で超長期の間にM8級の津波地震が発生する可能性について,活動内のどこでも津波地震が発生するとの回答が全体の半数であったことからすると,長期評価の見解が少数説であったともいい難い。万が一にも重大事故が発生しないよう,原子力発電所の施設には極めて高度な安全性が要求されることに鑑みると,被告国としては,長期評価の見解を考慮すべき知見として取り込んだ対策を講じるべきであったというべきである。
イ 被告国は,推進本部も,長期評価で示された個々の見解にはその信頼度に大きな違いがある旨の注意喚起をした上で,長期評価の見解の信頼度をCとしていたと主張する。
しかしながら,地震の発生領域や発生確率の信頼度は,既往地震の発生回数によって形式的に定められたものにすぎず,信頼度がCであるからといって長期評価の見解が信頼できない知見であるとはいえない。
ウ 被告国は,平成14年2月に公表された津波評価技術こそが,最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆するための知見であったのであり,これに基づき被告東電が平成14年3月に行ったシミュレーションによれば,本件原発における設計津波最高水位は最大でもO.P.+5.7mにすぎなかったのであるから,本件津波を予見することはできなかったと主張する。
確かに,津波評価技術における評価手法自体は合理的な計算手法であって,その公表当時,おおむね過去400年間の既往津波を評価対象として取り込んで断層モデルを設定したこと自体も,不合理であるとまではいい難い。しかしながら,津波評価技術の公表後,長期評価の見解が明らかにされ,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの区域における地震発生の可能性が指摘されるに至ったのであるから,こうした最新の知見を取り入れたシミュレーションを行うことが求められていたというべきである。そうすると,平成14年2月ないし3月の時点で最大でもO.P.+5.7mの津波が予見されていたにすぎなかったとしても,長期評価の公表後においても敷地高を超える津波の予見可能性がなかったとはいえない。
⑶ まとめ
したがって,被告国は,平成14年には,O.P.+10mを超える津波が到来することを予見することができたと認められる。
第3 結果回避義務及び結果回避可能性
1 認定事実
⑴ 本件津波
本件津波による本件原発への影響は,おおむね次のとおりである。(甲A140の1)
ア 1~4号機付近の流況
本件地震発生より40分後に,港外から南護岸(O.P.+4m)への遡上が始まり,海側エリア(O.P.+4m)を南から北へ浸水し,その1分後には港内からも遡上が始まり,南護岸から遡上した津波と合流した。さらに,本件地震発生より約48分後に最大波が到達し,南防波堤の外側から敷地高O.P.+10mエリア南東側へ高流速で遡上が始まり,その後,流速の速い津波が4号機建屋背後に回り込んだ。(甲A140の1〔4-1〕)
イ 主要建屋への浸水経路
最大浸水深は,1~4号機の建屋があるO.P.+10mの敷地では主要建屋の南側で4~5.5m程度,東側で4~5m程度,西側で1.5~3m程度であった。(甲A140の1〔4-14〕)
津波を受けた主要建屋について,外壁や柱等の構造躯体に有意な損傷は確認されていない。一方で,地上の開口に取り付けられているドア,シャッター,ルーパ及びハッチカバーには,津波あるいは漂流物によるものと思われる損傷が確認されており,地上の開口が津波による建屋内への海水の浸入経路になったと考えられる。また,津波による浸水深が開口下端レベルを上回った際は,主にハッチ開口やルーバ開口から建屋内へ海水が浸入したと考えられる。そのほか地下のトレンチやダクトに接続する開口も浸水経路として考えられる。(甲A140の1〔4-14〕)
⑵ 平成20年推計を踏まえた対策の検討
ア 被告東電は,平成20年推計を前提として,仮に防潮堤を設置することで津波の敷地への遡上を防ぐとすれば,敷地内のどこにどれくらいの高さの防潮堤を設置する必要があるのかについて,東電設計に解析を委託した。東電設計は,平成20年4月18日付け「新潟県中越沖地震を踏まえた福島第一・第二原子力発電所の津波評価委託 資料1 鉛直壁を設置した場合の検討」を作成した。
当該解析結果は,敷地全面にO.P.+20mの鉛直壁を一律仮定し,その鉛直壁が存在した場合の各地点における津波高さや挙動がどのように変化するかを確認したものであり,解析の結果,敷地南側では,鉛直壁があることによる津波の挙動変化により,鉛直壁前面の津波高さが最大O.P.+19.933mとなる,敷地東側では,O.P.+10mを超えないという結果が得られた。(以上につき乙A26の2)
イ 被告東電は,平成20年推計に基づき浸水防止対策を行っていた場合に本件事故を防ぐことができたか否かについて,津波の数値計算を実施し,平成28年7月22日,その結果を取りまとめた「2008年試計算結果に基づく確認の結果について」と題する文書を公表した。同文書では,①敷地南側にO.P.+22m及びO.P.+17.5mの天端高さの防潮堤の設置,②1号機北側にO.P.+12.5mの天端高さの防潮堤の設置,③北側敷地にO.P.+14mの天端高さの防潮堤の設置をした場合でも,敷地(O.P.+10m盤)への浸水は防ぐことができなかったとされている。(丙A84)
⑶ 学者等の見解
ア G意見書
Gは,平成28年12月19日付け意見書(丙A78。G意見書)において,①本件事故前の原子炉施設における津波防護は,主要機器のある地盤高を設計想定津波の高さより高くすることで必要十分であると考えられていたため,津波の越流を前提としたさまざまなレベルでの津波防護に関する工学的な検討はほとんどされておらず,被告国や事業者が防潮堤以外の対策を講じなかったとしても工学的に不合理とはいえない,②平成20年推計は,陸上構造物のモデル化がされておらず,津波の遡上解析が不十分であることから,設備・施設の水密化や機器の高所設置という具体的対策の内容を決定するに足りるだけの情報が得られない,③津波対策に要する時間は,本件事故後の知見によるのではなく,本件事故前の事例を取り上げて検討すべきである,④平成20年推計に基づき防潮堤を設置しても,本件津波の荷重に耐えられたと断言することは困難である,⑤平成20年推計の結果から,本件事故前の知見に基づいて水密扉・強化扉を設計した場合,当該水密扉・強化扉は本件津波の波圧に耐えられなかった可能性がある,⑥水密化をする場合,漂流物の挙動や衝突力を適切に推定する必要があるところ,本件事故前の知見のみに基づいて適切な推定をすることは非常に困難であった,⑦非常用電源等の高所設置という発想は原子力防災関係者のコンセンサスにはなっていなかったとの意見を述べている。(丙A78〔38~58〕)
イ O意見書
原子力発電所の安全研究に従事してきた原子力規制庁技術参与のOは,平成28年12月16日付け意見書(O意見書)において,本件事故前の安全審査においては,敷地の高さが想定される津波の高さ以上にあることをもって津波の影響が生じないことが基本設計での想定だったと思うと述べている。(丙A80〔44〕)
ウ P意見書
原子炉工学とリスク評価を専門とする東京大学大学院教授のPは,平成28年9月29日付け意見書(丙A76。P意見書)において,本件事故前の知見は,主要機器の設置された敷地に浸水するということ自体があってはならない非常事態なので,浸水を前提に対策を講じさせるという知見はなかったし,リソースが有限である中で安全対策を考える以上,余計な設備を増やすことによって,かえって施設全体の安全性に不当なリスクが生じる危険性もあるため,計算上,ドライサイトを維持できる対策のみを講じることの合理性を否定できるものではないと述べている。(丙A76〔6,7〕)
エ Q意見書①,②
原子力工学の専門家であり,東京大学大学院教授のQは,平成28年8月24日付け意見書(Q意見書①)において,①原子力発電所の安全対策に投入できる資源や資金に限りがあることからすれば,あらゆる事態を想定したアクシデントマネジメントを行うというのは工学的な考え方としてはあり得ないのであって,平成20年推計を前提とした場合,敷地の高さを上回る津波が来る敷地の南北のみに防潮堤を建てるという安全対策には合理性が認められる,②本件事故前においては,設定想定の津波を超える津波を想定した対策を講じるという発想はなく,そうである以上は,主要施設の水密化や非常用電源・配電盤・高圧注水系等へ接続するための各種ケーブル等の高所移設などをすべきであったとはとてもいえないとの意見を述べている。(丙A72の1〔14~17〕)
また,Qは,平成28年10月7日付け意見書(Q意見書②)において,①主要施設の水密化をする場合,津波の波力(水圧や漂流物が衝突した際の衝撃力)を設計において考慮するとともに,地震動によって水密性が損なわれることがないようにする必要があること,②非常用電源設備等の高所配置をする場合には,地震等に対する設計上の対応を十分考慮する必要があること,③高所配置には不具合発生のリスクも伴うこと,④高所配置は二,三年では完了しないことなどの意見を述べている。(丙A72の3)
オ R陳述書
本件事故当時,保安院の原子力発電安全審査課耐震安全審査室において安全審査官の業務を行っていたRは,平成28年12月19日付け陳述書(R陳述書)において,本件原発の敷地に津波が浸水することを回避するには,防潮堤の設置が最も抜本的かつ実効的な回避措置として合理的であると述べている。(丙A77の1〔21〕)
カ H意見書
平成11年から平成24年まで土木学会原子力土木委員会津波評価部会主査を務めたHは,平成29年2月23日付け意見書(H意見書)において,本件事故前においては,想定津波を超えた津波としてどのような津波を想定すべきかに関する知見や,当該津波に対する具体的な対応方法に関する知見がなく,これを研究開発している段階であったと述べている。(丙A79〔20~24〕)
キ S意見書
株式会社東芝で本件原発3,5号機の基本設計等を担当したSは,平成28年3月25日付け意見書(S意見書)において,地震動がないという前提条件で,①本件原発において,仮に敷地高を2m超える津波が襲来したときにも,津波から非常用電源設備及びその附属設備等を防護するために,どのような対策工事をしておくべきであったのか,その工期はどのくらいの期間か,②本件原発において,仮に敷地高を2m超える津波が襲来したときにも,海水を使用して原子炉施設を冷却する設備の機能を喪失しないために,どのような対策工事をしておくべきであったのか,その工期はどのくらいの期間か,③敷地高2mを超える津波対策を採っていたならば,仮に敷地高を5m超える津波が襲来したときに,非常用電源設備及びその附属設備等並びに海水を使用して原子炉施設を冷却する設備を防護することができるかなどについて,回答している。その概要は,次のとおりである。(甲B33)
(ア) ①について
タービン建屋大物搬入口等への「構造強化及び水密化」対策などの浸水を防ぐ対策が必要である。この対策としては,強度強化扉と水密扉の二重扉を設置するという対策が適切であり,その工期は3年である。その他,換気空調系ルーバーなどの外壁開口部の水密化対策として自動ルーバー閉止装置の設置工事が適切であり,その工期は2年である。
また,タービン建屋内に浸水が発生する事象に備えて,非常用電源設備及びその附属設備等の重要機器が設置されている機器室の水密化対策をすることが必要であり,その工期は2年である。
さらに,タービン建屋内の非常用電源設備及びその附属設備が設置された機器室内に浸水があるかもしれないことに備えて,計器類のための非常用電池,非常用電源設備としての配電盤を,タービン建屋の高所又は敷地内の高所(O.P.+32m以上の高台)に配置する対策を採ることが適切であり,その工期は2年である。
(イ) ②について
緊急時海水取水ポンプ室の増設をすべきであり,その工期は2.5年である。
(ウ) ③について
敷地高を2m超える津波対策と,敷地高5mを超える津波が襲来したときの対策では,設計強度も比例的に2.5倍に増やさなければならないが,原子炉の設計に関し,万全の裕度を持つのは当然であり,工学的に安全率を3以上に設定することは原子力発電所の重要機器の設計枠内であるから,2m対策をとっていれば,5mの津波にも耐えられたと考えられる。
2 検討
⑴ 防潮堤の設置
ア 前記認定事実によれば,本件津波は,本件原発1~4号機主要建屋設置エリアにおいて最大でO.P.+15.5mであったから,原告らが主張するように,1~4号機の原子炉・タービン建屋につき,その敷地南側側面から東側全面を囲う10m(O.P.+20m)の防潮堤を設置すれば,主要建屋に対する浸水を防ぐことができ,ひいては本件事故の発生を防ぐことができたと認めるのが相当である。そして,平成20年推計では1~4号機の敷地南側でO.P.+15.7mの津波高が予測されていたことからすると,遅くとも平成14年末までに長期評価の見解に基づく推計を行っていれば,平成20年推計と同内容の結果を得ることができ,これを踏まえて本件地震の発生時までに上記防潮堤を設置することは可能であったと認めるのが相当である。
イ これに対し,被告国は,平成20年推計では主要建屋の敷地高を超える津波は南側から流入するとされていたから,これと同様の推計に基づき防潮堤を設置することとなれば,南側に設置することになるところ,本件津波は北側や東側からも襲来していたから,本件津波の敷地への流入を防ぐことはできなかったと主張する。
しかしながら,平成20年推計は一つのシミュレーションにすぎないのであって,長期評価の見解が,本件原発の北側や東側からはおよそ津波が襲来しないことを保証するものでもない。むしろ三陸沖から房総沖の海溝寄りの海域ではどこでもM8クラスの地震が発生する可能性があるという長期評価の見解の趣旨を尊重し,万が一にも事故を発生させないという安全側の発想に立つならば,本件原発の南側のみに防潮堤を建設するのでは,結果回避措置として不十分であるといわざるを得ない。また,そもそも津波は,防潮堤に達すると大量の海水がせき止められ,防潮堤に押し寄せた津波が重なってゆき,その結果防潮堤を超える高さに達することがあると考えられるから,万が一にも津波により全電源を喪失するという事態が起こらないようにするためには,平成20年推計と同様の推計結果を得ていたとしても,敷地南側のみに防潮堤を設置することは,必ずしも合理的な対策とはいえない。実際,前記認定事実のとおり,東電設計は,平成20年推計を踏まえ,1~4号機の原子炉・タービン建屋を東側前面から北側側面を囲うように防潮堤(鉛直壁)を設置するなどの具体的対策を盛り込んだ検討結果を報告しているのである。
そうすると,長期評価の見解を踏まえて本件事故を回避するためには,1~4号機の原子炉・タービン建屋につき,敷地南側側面から東側前面を囲う10m(O.P.+20m)の防潮堤(鉛直壁)を設置するとともに,5号機及び6号機の原子炉・タービン建屋につき東側前面から北側側面を囲う防潮堤(鉛直壁)を設置することが合理的であったというべきであり,これに反する証拠はない。
⑵ 主要建屋の水密化
ア また,上記⑴の防潮堤の設置に加えて,あるいは防潮堤の設置に代えて,非常用電源及び配電盤の浸水対策(いわゆる水密化)を講じていれば,本件津波により全電源を喪失する事態を回避することができたと認められる。すなわち,タービン建屋の出入口や大物搬入口につき,強度強化扉と水密扉の二重扉を設置し,タービン建屋の換気空調系ルーバーなどの外壁開口部の水密化工事を行い,タービン建屋の貫通部からの浸水防止対策工事を行うとともに,万が一タービン建屋内に浸水が発生した場合に備えて,タービン建屋内の機械室出入口に水密扉を設置し,配管貫通部の浸水防止対策工事を行うなど所要の水密化対策を講じていれば,タービン建屋への浸水を防止することができたというべきである。
イ これに対し,被告国は,平成20年推計と同様の試算結果を踏まえて水密扉を設置したとしても,本件津波による波力に耐え得るようなものであったどうかは不明であると主張し,G意見書を提出する。
確かに,G意見書には,平成20年推計に基づいて,本件事故前の知見に基づいて波力評価をした上で水密扉を設計しても,これが本件津波の波圧に耐えられなかった可能性がある旨の記載がある。
しかしながら,G意見書は,そのような可能性があるということを指摘するにすぎず,本件事故前の知見では本件津波の波圧に耐えられる水密扉の設計が不可能であったことをいうものではない。そして,実際,本件津波によっても本件原発の主要建屋の外壁や柱等の構造躯体に有意な損傷は確認されていないのであるから,本件事故前に水密扉を設置したとしても,本件津波による波力に耐えられたものと推認するのが相当であって,上記意見書の指摘を根拠として,結果回避可能性がなかったと結論付けることは相当ではない。
⑶ 非常用電源設備の高所設置
ア さらに,これらの措置によってもタービン建屋内の非常用電源設備等に浸水があった場合に備えて,計器類のための非常用電池や非常用電源設備としての配電盤をタービン建屋の高所に配置していれば,全電源喪失の事態を回避することができたと認められる。
イ これに対し,被告国は,非常用電源設備等を高所に配置しても,同所と建屋との間に敷設されるケーブル等が本件津波によって流されるリスクや,本件地震により非常用電源設備等やこれを格納する建屋が破損するリスクがあったから,本件事故を回避できたとは限らないと主張する。
しかしながら,被告国の主張は,抽象的なリスクの存在を指摘するものにすぎないのであって,非常用電源設備等の高所配置がおよそ功を奏しないと認めるに足りる証拠はない。かえって,S意見書では,計器類のための非常用電池,非常用電源設備としての配電盤を,タービン建屋の高所又は敷地内の高所(O.P.+32m以上の高台)に配置する対策を採ることが適切であるとされており,Q意見書②においても,非常用電源設備等の高所配置が実現不可能であるとはされておらず,リスクも念頭に置きながら,それに応じた更なる対応を考慮することによって全体的なリスクを提言していく必要があるとされている。したがって,被告国の上記主張を採用することはできない。
第4 小括
以上によれば,経済産業大臣が,平成14年末以降,遅くとも平成18年末頃までに,電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を発して,被告東電に対し,所要の防潮堤の設置,主要建屋の水密化,非常用電源設備の高所設置のいずれかの対策をとるよう命じていれば,本件事故が発生した平成23年3月までにはこれらの対策が完了し,本件事故は避けられたというべきであって,これを怠ったことは,その規制権限を付与された目的,権限の性質等に照らし,その許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くというべきである。したがって,経済産業大臣の権限不行使は違法であり,過失も認められる。
よって,被告国は,国家賠償法1条1項により,本件事故によって原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。
第5 相互保証
原告らの中には,中華人民共和国籍の者がいるところ,①同国の国家賠償法においては,公務員の行為によって生じた損害の賠償が認められており,相互保証の規定があること,②同法の対象とならない行政行為についても一般司法の枠内(民法通則や中華人民共和国権利侵害責任法)により国の責任が認められる可能性があることが認められる(弁論の全趣旨)。
そうすると,中華人民共和国においても,重要な点において要件が我が国の国家賠償法と異ならない定めの下で日本人に対して国家賠償請求権の行使が認められているということができるから,同国と我が国との間では,国家賠償法6条1項にいう相互保証があると認められる。
したがって,本件事故を理由とする国家賠償請求については,上記原告らについても国家賠償法の適用があるというべきである。
第2節 被告東電の責任
第1 民法709条の適用の可否
原告らは,本件事故については,原賠法3条のほか,民法709条も適用されると主張している。
しかしながら,原賠法は,原子力事業者に対する無過失責任(3条1項),責任集中(4条),求償権の制限(5条)を定めている。これらの規定に照らすと,原賠法は,被害者の保護及び原子力事業の健全な発達という目的(1条)を達成するため,民法の特則として,原子力事業者の責任を定めたものと解されるから,原賠法3条1項が適用される限りにおいて,民法709条の適用は排除されるものと解するのが相当である。
第2 被告国の責任との関係
前記認定事実によれば,本件事故は,被告国の規制権限の不行使と,被告東電の津波対策の不備とが相まって発生したものと認められるから,被告東電は,本件事故により原告らに生じた損害の全部について,被告国と連帯してこれを賠償する責任を負うというべきである。
第3 まとめ
したがって,被告東電は,本件事故による原子力損害について,原賠法上の責任を負う。
第3節 損害論
第1 認定事実
1 避難指示区域の変遷等
⑴ 本件事故発生から平成23年3月15日までの避難指示等の区域
ア 内閣総理大臣は,平成23年3月11日,原災法15条3項に基づき,本件原発から半径3㎞圏内の住民に対して避難を,本件原発から半径10㎞圏内の住民に対して屋内退避を指示した。(乙共8)
イ 内閣総理大臣は,同月12日,原災法15条3項に基づき,本件原発から半径20㎞圏内の住民及び福島第二原子力発電所から半径10㎞圏内の住民に対して避難を指示した。(乙共9,10)
ウ 内閣総理大臣は,同月15日,原災法15条3項に基づき,本件原発から半計20㎞圏内の住民に対して退避を,本件原発から半径20㎞以上30㎞圏内の住民に対して屋内退避を指示した(屋内退避区域の指定)。なお,後記のとおりこの屋内退避区域の指定は,平成23年4月22日解除された。(乙共11,14)
⑵ 南相馬市による一時避難要請区域の指定
南相馬市は,平成23年3月16日,市民の生活の安全確保等を理由として,南相馬市民に対し一時避難を要請するとともに,一時避難を支援したが,屋内退避区域の指定が解除された同年4月22日には,一時避難要請区域から避難していた住民に対して,自宅での生活が可能な者の帰宅を許容する旨の見解を示した。(乙共1〔8〕)
⑶ 「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」
被告東電は,平成23年4月17日,「福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋」を取りまとめ,「放射線量が着実に減少傾向となっている」ことを「ステップ1」,「放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられている」ことを「ステップ2」とする2つの目標を設定した。なお,ステップ1は3か月程度,ステップ2はステップ1終了後の3~6か月程度を目安として設定されていた。(乙共18)
⑷ 平成23年4月21日の警戒区域の指定等
平成23年(2011年)福島第一及び第二原子力発電所に係る原子力災害対策本部長(原災本部長)である内閣総理大臣は,同年4月21日,原災法20条3項に基づき,避難のための立退きをすべき居住者等の区域を福島第二原子力発電所から半径8㎞圏内に変更するとともに,本件原発から半径20㎞圏内を原災法28条2項,災害対策基本法63条1項の警戒区域に設定し,緊急事態応急対策に従事する者以外の者に対して,市町村長が一時的な立入りを認める場合を除き,当該区域への立入りを禁止するとともに,当該区域からの退去を命ずる指示をした。(乙共12,13)
⑸ 平成23年4月22日の避難指示等の区域の指定
原災本部長である内閣総理大臣は,平成23年4月22日,原災法20条3項に基づき,本件原発から半径20㎞から30㎞圏内の屋内退避指示を解除した。それとともに,原災本部長である内閣総理大臣は,以下のとおり計画的避難区域及び緊急時避難準備区域を指定し,指示をした。(乙共14)
ア 計画的避難区域
葛尾村,浪江町,飯舘村,川俣町の一部及び南相馬市の一部であって,本件原発から半径20㎞圏内を除く区域。
当該区域の居住者等は,原則としておおむね1月程度の間に順次当該区域外へ避難のための立退きをすること。
イ 緊急時避難準備区域
広野町,楢葉町,川内村,田村市の一部及び南相馬市の一部であって,本件原発から半径20㎞圏内を除く区域。
当該区域の居住者等は,常に緊急時の避難のための立退き又は屋内への退避が可能な準備を行うこと。当該区域においては引き続き自主的避難をし,特に,子供,妊婦,要介護者,入院患者等は,当該区域内に入らないようにすること。また,保育所,幼稚園,小中学校及び高等学校は,休所,休園又は休校とすること。しかし,勤務等のやむを得ない用務等を果たすために当該区域内に入ることは妨げられないが,その場合においても常に避難のための立退き又は屋内への退避を自力で行えるようにしておくこと。
⑹ 特定避難勧奨地点の指定
原災本部は,平成23年6月30日から同年11月25日にかけて,本件事故発生後1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超えると推定される次の地点について,住居単位で特定避難勧奨地点を指定した。同地点は,政府が一律に避難を指示したり,産業活動を規制したりするような状況ではないが,該当する住民に対して注意喚起,避難の支援や促進を行うことを表明した地点である。なお,特定避難勧奨地点は,平成26年12月28日までに全て解除された。(甲個17の2,18の2,乙共16,17の1~6)
ア 伊達市霊山町上小国,下小国,石田
イ 伊達市月舘町月舘
ウ 伊達市保原町富沢
エ 南相馬市鹿島区橲原
オ 南相馬市原町区大谷,大原,高倉,押釜,片倉,馬場
⑺ 原子力災害対策本部によるステップ1達成の確認等
原災本部は,平成23年7月19日,モニタリングポスト等が示す放射線量は減少傾向にあること等を確認し,ステップ1(放射線量が着実に減少傾向となっている)が達成されていることを確認した。(乙共19)
原災本部は,平成23年8月9日,ステップ1の達成により原子力発電所の状況が著しく改善したことから,「避難区域等の見直しに関する考え方」を公表した。(乙共230)
⑻ 緊急時避難準備区域の解除
平成23年9月30日,緊急時避難準備区域の指定が解除された。(乙共15)
⑼ 原災本部によるステップ2達成の確認及び避難指示区域等の見直し
原災本部は,平成23年12月16日,原子炉は安定状態を達成し,発電所の事故そのものは収束に至ったことを確認した。そして,原子炉の冷温停止状態の達成,使用済み燃料プールのより安定的な冷却の確保等の目標が達成されていることから,発電所全体の安全性が総合的に確保されていると判断し,ステップ2(放射性物質の放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられている)の目標達成と完了を確認した。(乙共20,21)
また,原災本部は,平成23年12月26日,「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」を発表し,警戒区域は基本的には解除の手続に入ることが妥当であるとし,現在の避難指示区域のうち,①年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であると確認された地域を「避難指示解除準備区域」に,②現時点からの年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり,住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することを求める地域を「居住制限区域」に,居住制限区域のうち,5年間を経過してもなお年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれがあり,現時点で年間積算線量が50ミリシーベルト超の地域を「帰還困難区域」に設定し,避難指示区域等の見直しの方針を示した。(乙共21)
⑽ 平成24年12月14日以降の避難指示区域の解除等
ア 原災本部は,平成24年12月14日,伊達市霊山町,月舘町及び保原町に指定した特定避難勧奨地点を解除した。(乙共17の3)
イ 平成26年4月1日,田村市の避難指示区域の指定が解除された。(乙共103)
ウ 平成26年10月1日,川内村の避難指示解除準備区域の指定が解除された。(乙共121の3)
エ 平成27年9月5日,楢葉町の避難指示解除準備区域の指定が解除された。(乙共104)
オ 平成28年6月12日,葛尾村の居住制限区域及び避難指示解除準備区域の指定が,同月14日,川内村の避難指示解除準備区域の指定が,同年7月12日,南相馬市の居住制限区域及び避難指示解除準備区域の指定が解除された。(乙共105)
カ 平成29年3月31日,飯舘村の居住制限区域及び避難指示解除準備区域の指定及び川俣町の居住制限区域及び避難指示解除準備区域の指定が解除された。(乙共106,107)
キ 平成29年3月31日,浪江町の居住制限区域及び避難指示解除準備区域の指定が,同年4月1日,富岡町の居住制限区域及び避難指示解除準備区域の指定が解除された。(乙共108)
ク 平成29年4月1日までには,避難指示区域のうち,大熊町及び双葉町を除く避難指示解除準備区域及び居住制限区域の指定がいずれも解除された。平成31年4月10日,大熊町の避難指示解除準備区域及び居住制限区域の指定がいずれも解除された。(甲個17の2,18の2,乙共102)
2 避難の概況
⑴ 平成23年3月15日時点における自主的避難者数は以下のとおりである。なお,括弧内の数字は,人口に占める自主的避難者数の割合である。(乙共52,160,268の1)
いわき市 1万5377人(4.5%)
郡山市 5068人(1.5%)
相馬市 4457人(11.8%)
福島市 3234人(1.1%)
須賀川市 1138人(1.4%)
国見町 986人(9.8%)
二本松市 647人(1.1%)
白河市 522人(0.8%)
矢吹町 365人(2.0%)
本宮市 133人(0.4%)
鏡石町 108人(0.8%)
会津若松市 99人(0.1%)
西郷村 92人(0.5%)
泉崎村 60人(0.9%)
天栄村 56人(0.9%)
桑折町 40人(0.3%)
田村市 39人(0.1%)
葛尾村 35人(2.3%)
石川町 16人(0.1%)
玉川村 14人(0.2%)
棚倉町 14人(0.1%)
伊達市 14人(0.0%)
小野町 9人(0.1%)
中島村 9人(0.2%)
大玉村 7人(0.1%)
猪苗代町 3人(0.0%)
川俣町 1人(0.0%)
⑵ 福島県民の自主的避難者数(推計)は以下のとおりである。(乙共52,160,268の1)
3 中間指針等
⑴ 中間指針(乙共1)
ア 平成23年4月,原賠法18条1項に基づき,原子力損害賠償紛争審査会(審査会)が設置された。審査会は,原賠法18条2項2号に基づき,原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針として同年8月5日,中間指針を策定した。その概要は,以下のとおりである。(弁論の全趣旨)
イ 対象区域
以下の区域を政府による避難等の指示等の対象区域(避難指示等対象区域)と定義した。
(ア) 避難区域
(イ) 屋内退避区域
(ウ) 計画的避難区域
(エ) 緊急時避難準備区域
(オ) 特定避難勧奨地点
(カ) 一時避難要請区域(南相馬市が,独自の判断に基づき住民に対して一時避難を要請した区域である。)
ウ 避難等対象者
以下の者を避難等対象者と定義した。
(ア) 本件事故が発生した後に対象区域内から対象区域外へ避難のための立退き及びこれに引き続く同区域外滞在を余儀なくされた者(ただし,平成23年6月20日以降に緊急時避難準備区域(特定避難勧奨地点を除く。)から同区域外に避難を開始した者のうち,子供,妊婦,要介護者,入院患者等以外の者を除く。)
(イ) 本件事故発生時に対象区域外におり,同区域内に生活の本拠としての住居があるものの引き続き対象区域外滞在を余儀なくされた者
(ウ) 屋内退避区域内で屋内退避を余儀なくされた者
エ 避難等対象者の賠償額の目安
政府による避難等の指示等に係る損害について,以下のとおりの賠償すべき損害と認められる一定の範囲の損害類型を示した。
(ア) 検査費用(人)
本件事故の発生以降,避難等対象者のうち避難若しくは屋内退避をした者,又は対象区域内滞在者が放射線へのばく露の有無又はそれが健康に及ぼす影響を確認する目的で必要かつ合理的な範囲で検査を受けるために負担した検査費用(検査のための交通費等の付随費用を含む。)
(イ) 避難費用
避難等対象者が,必要かつ合理的な範囲で負担した①対象区域から避難するために負担した交通費,家財道具の移動費用,②対象区域外に滞在することを余儀なくされたことにより負担した宿泊費及びこの宿泊に付随して負担した費用,③避難等によって増加した生活費
①,②について,避難等対象者が現実に負担した実費を損害額とするのが合理的な算定方法であるが,領収証等による損害額の立証が困難な場合には,平均的な費用を推計することにより損害額を立証することも認められる。③について,原則として後記精神的損害の額に加算し,その加算後の一定額をもって両者を損害額とするのが公平かつ合理的な算定方法と認められる。
避難指示等の解除等から相当期間経過後に生じた避難費用は,特段の事情がある場合を除き,賠償の対象とはならない。
(ウ) 一時立入費用
避難等対象者のうち,警戒区域内に住居を有する者が,市町村が政府及び県の支援を得て実施する「一時立入り」に参加するために負担した交通費,家財道具の移動費用,除染費用等のうち,必要かつ合理的な範囲
(エ) 帰宅費用
避難等対象者が,対象区域の避難指示等の解除等に伴い,対象区域内の住居に最終的に戻るために負担した交通費,家財道具の移動費用等のうち,必要かつ合理的な範囲
(オ) 生命,身体的損害
避難等対象者が本件事故により①避難等を余儀なくされたため,傷害を負い,治療を要する程度に健康状態が悪化し,疾病にかかり,あるいは死亡したことにより生じた逸失利益,治療費,薬代,精神的損害等,②避難等を余儀なくされ,これによる治療を要する程度の健康状態の悪化等を防止するために負担が増加した診断費,治療費,薬代等
(カ) 精神的損害
a 本件事故において,避難等対象者が受けた精神的苦痛(「生命・身体的損害」を伴わないものに限る。)のうち,少なくとも以下の精神的苦痛は賠償すべき損害と認められる。
① 対象区域から実際に避難した上引き続き同区域外滞在を長期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)及び本件事故発生時には対象区域外におり,同区域内に住居があるものの引き続き対象区域外滞在を長期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)が,自宅以外での生活を長期間余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛
② 屋内退避区域の指定が解除されるまでの間,同区域における屋内退避を長期間余儀なくされた者が,行動の自由の制限等を余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛
b 上記a①及び②に係る精神的損害の損害額については,前記避難費用のうち生活費の増加費用を合算した一定の金額をもって両者の損害額と算定する。
そして,上記a①又は②に該当する者であれば,その年齢や世帯の人数等にかかわらず,避難等対象者個々人が賠償の対象となる。
c 上記a①の具体的な損害額の算定に当たっては,差し当たってその算定期間を以下の3段階に分け,それぞれの期間について以下のとおりとする。
① 本件事故発生から6か月間(第1期)
一人月額10万円を目安とする。ただし,この間,避難所・体育館・公民館等(以下「避難所等」という。)における避難生活等を余儀なくされた者については,避難所等において避難生活をした期間は一人月額12万円を目安とする。
② 第1期終了から6か月間(第2期)
一人月額5万円を目安とする。ただし,警戒区域等が見直されるなどの場合には,必要に応じて見直す。
③ 第2期終了から終期までの期間(第3期)
今後の本件事故の収束状況等諸般の事情を踏まえ,改めて損害額の算定方法を検討する。
d 上記a①の損害発生の始期及び終期について
始期は原則として個々の避難等対象者が避難等をした日にかかわらず,本件事故発生日である平成23年3月11日とする。ただし,緊急時避難準備区域内に住居がある子供,妊婦,要介護者,入院患者等であって,同年6月20日以降に避難した者及び特定避難勧奨地点から避難した者については,当該者が実際に避難した日を始期とする。
終期は,避難指示等の解除等から相当期間経過後に生じた精神的損害は,特段の事情がある場合を除き,賠償の対象とはならない。
e 上記a②の損害額については,屋内退避区域の指定が解除されるまでの間,同区域において屋内退避をしていた者(緊急時避難準備区域から平成23年6月19日までに避難を開始した者及び計画的避難区域から避難した者を除く。)につき,一人10万円を目安とする。
(キ) 就労不能等に伴う損害
対象区域内に住居又は勤務先がある勤労者が避難指示等により,その就労が不能等となった場合には,かかる勤労者について給与の減収分及び必要かつ合理的な範囲の追加的費用
⑵ 中間指針追補
審査会は,平成23年12月6日,避難指示等に基づかずに行った避難(自主避難)にかかる損害について,中間指針追補を策定した。(乙共2)
ア 自主的避難等対象区域
福島県内の市町村のうち,避難指示等対象区域を除く以下の区域を自主的避難等対象区域(以下「自主避難区域」ということがある。)とし,本件原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性,政府や公共団体から公表された放射線量に関する情報,自己の居住する市町村の自主的避難の状況(自主的避難者の多寡等)等の要素を複合的に勘案すると,少なくとも自主避難区域においては,住民が放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱いたことには相応の理由があり,また,その危険を回避するために自主的避難を行ったことについてもやむを得ない面があるとした。
(ア) 県北地域
福島市,二本松市,伊達市,本宮市,桑折町,国見町,川俣町,大玉村
(イ) 県中地域
郡山市,須賀川市,田村市,鏡石町,天栄村,石川町,玉川村,平田村,浅川町,古殿町,三春町,小野町
(ウ) 相双地域
相馬市,新地町
(エ) いわき地域
いわき市
イ 自主的避難等対象者
本件事故発生時に自主避難区域内に生活の本拠としての住居があった者(本件事故発生後に当該住居から自主的避難を行った場合,本件事故発生時に自主避難区域外におり引き続き同区域外に滞在した場合,当該住居に滞在を続けた場合等を問わない。)を自主的避難等対象者とした。
ウ 自主的避難等対象者への賠償の目安
(ア) 自主的避難等対象者が受けた損害のうち,以下のものが一定の範囲で賠償すべき損害と認められるとした。
a 放射線被ばくへの恐怖や不安により自主避難区域内の住居から自主的避難を行った場合(本件事故発生時に自主避難区域外におり引き続き同区域外に滞在した場合を含む。)には,①自主的避難によって生じた生活費の増加費用,②自主的避難により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,③避難及び帰宅に要した移動費用
b 放射線被ばくへの恐怖や不安を抱きながら自主避難区域内に滞在を続けた場合における①放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,②放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば,その増加費用
(イ) 自主的避難等対象者のうち,子供及び妊婦については,本件事故発生から平成23年12月末までの損害として一人40万円を目安とする。
(ウ) 上記(イ)以外の自主的避難等対象者については,本件事故発生当初の時期の損害として一人8万円を目安とする。
エ また,本件事故発生時に避難指示等対象区域内に住居があった者については,一定の期間については自主的避難等対象者の場合に準じるものとし,具体的な算定に当たっては次のとおりとした。
(ア) 中間指針の精神的損害の賠償対象とされていない期間については,前記ウ(イ)及び(ウ)に定める金額が前記ウ(イ)及び(ウ)における対象期間に応じた目安であることを勘案した金額とする。
(イ) 子供及び妊婦が自主避難区域内に避難して滞在した期間については,本件事故発生から平成23年12月末までの損害として一人20万円を目安としつつ,これらの者が中間指針追補の対象となる期間に応じた金額とする。
⑶ 中間指針第二次追補(乙共3)
審査会は,平成24年3月16日,中間指針第二次追補を策定し,中間指針及び中間指針第一次追補の対象となった避難等の指示等に係る損害,自主的避難等に係る損害等に関し,次のとおりの指針を示した。
ア 政府による避難指示等に係る損害について
(ア) 避難費用及び精神的損害
a 避難指示区域
平成24年3月末を一つの目途に避難指示解除準備区域,居住制限区域,帰還困難区域が設定されること等を踏まえ,これらの避難指示区域が設定された地域(避難指示区域)内に本件事故発生時における生活の本拠としての住居があった者の避難費用及び精神的損害は以下のとおりとする。
(a) 中間指針の「第2期」を避難指示区域見直しの時点まで延長し,当該時点から終期までの期間を「第3期」とする。
(b) 第3期において賠償すべき避難費用及び精神的損害並びにそれらの損害額の算定方法は,原則として引き続き中間指針のとおりとする。
(c) 前記(a)の第3期における精神的損害の具体的な損害額(避難費用のうち通常の範囲の生活費の増加費用を含む。)の算定に当たっては,避難者の住居があった地域に応じて以下のとおりとする。
① 避難指示解除準備区域については,一人月額10万円を目安とする。
② 居住制限区域については,一人月額10万円を目安とした上,おおむね2年分としてまとめて一人240万円の請求をすることができるものとする。ただし,避難指示解除までの期間が長期化した場合は,賠償の対象となる期間に応じて追加する。
③ 帰還困難区域については,一人600万円を目安とする。
(d) 中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている「避難指示等の解除等から相当期間経過後」の「相当期間」は,避難指示区域については今後の状況を踏まえて判断されるべきものとする。
b 旧緊急時避難準備区域
旧緊急時避難準備区域については,平成23年9月30日に解除されていること等を踏まえ,当該区域内に住居があった者の避難費用及び精神的損害は次のとおりとする。
(a) 中間指針の第3期において賠償すべき避難費用及び精神的損害並びにそれらの損害額の算定方法については引き続き中間指針のとおりとする。
(b) 中間指針の第3期における精神的損害の具体的な損害額(避難費用のうち通常の範囲の生活費の増加費用を含む。)の算定に当たっては,一人月額10万円を目安とする。
(c) 中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている「避難指示等の解除等から相当期間経過後」の「相当期間」は,平成24年8月末までを目安とする。ただし,同区域のうち楢葉町の区域については,同町の避難指示区域について解除後「相当期間」が経過した時点までとする。
c 特定避難勧奨地点
特定避難勧奨地点については,解除に向けた検討が開始されていること等を踏まえ,当該地点に住居があった者の避難費用及び精神的損害は次のとおりとする。
(a) 中間指針の第3期において賠償すべき避難費用及び精神的損害並びにそれらの損害額の算定方法は,引き続き中間指針のとおりとする。
(b) 中間指針の第3期における精神的損害の具体的な損害額(避難費用のうち通常の範囲の生活費の増加費用を含む。)の算定に当たっては,一人月額10万円を目安とする。
(c) 中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている「避難指示等の解除等から相当期間経過後」の「相当期間」は,3か月間を当面の目安とする。
(イ) 就労不能等に伴う損害
中間指針に示したもののほか,次のとおりとする。
a 中間指針の就労不能等に伴う損害の終期は,当面は示さず,個別具体的な事情に応じて合理的に判断する。
b 就労不能等に伴う損害を被った勤労者による転職や臨時の就労等が特別の努力と認められる場合には,かかる努力により得た給与等を損害額から控除しない等の合理的かつ柔軟な対応が必要である。
イ 自主的避難等に係る損害について
第一次追補において示した自主的避難等に係る損害について,平成24年1月以降に関しては,次のとおりとする。
(ア) 少なくとも子供及び妊婦については,個別の事例又は類型ごとに,放射線量に関する客観的情報,避難指示区域との近接性等を勘案して,放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱き,また,その危険を回避するために自主的避難を行うような心理が,平均的・一般的な人を基準としつつ,合理性を有していると認められる場合には,賠償の対象となる。
(イ) 上記(ア)によって賠償の対象となる場合において,賠償すべき損害及びその損害額の算定方法は,原則として第一次追補に示したとおりとする。具体的な損害額については,同追補の趣旨を踏まえ,かつ,当該損害の内容に応じて,合理的に算定するものとする。
⑷ 中間指針第四次追補(乙共7)
審査会は,平成25年12月26日,中間指針第四次追補を策定し,次のとおり指針を示した。
ア 避難費用及び精神的損害について
避難費用及び精神的損害については,中間指針及び中間指針第二次追補で示したもののほか,次のとおりとする。
(ア) 帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域若しくは避難指示解除準備区域については,中間指針第二次追補で帰還困難区域について示した一人600万円に一人1000万円を加算し,右600万円を月額に換算した場合の将来分(平成26年3月以降)の合計額(ただし,通常の範囲の生活費の増加費用を除く。)を控除した金額を目安とする。具体的には,第3期の始期が平成24年6月の場合は,加算額から将来分を控除した後の額は700万円とする。
(イ) 上記(ア)以外の地域については,引き続き一人月額10万円を目安とする。
(ウ) 住居確保に係る損害の賠償を受ける者の避難費用(生活費増加費用及び宿泊費等)が賠償の対象となる期間は,特段の事情がない限り,住居確保に係る損害の賠償を受けることが可能になった後,他所で住居を取得又は賃借し,転居する時期までとする。ただし,合理的な時期までに他所で住居を取得又は賃借し,転居しない者については,合理的な時期までとする。
(エ) 中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている「避難指示等の解除等から相当期間経過後」の「相当期間」は,避難指示区域については1年間を当面の目安とし,個別の事情も踏まえ柔軟に判断するものとする。
4 避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方
経済産業省は,平成24年7月20日,「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」を取りまとめ,公表した。経済産業省は,同考え方において,賠償基準は,被告東電が定めるものであるが,今回の賠償基準は避難指示区域の見直し及び今後の被害者の生活再建に密接に関わるものであるため,政府としても被害を受けた自治体や住民の実情を踏まえて賠償基準に反映させるべき考え方を取りまとめることとし,今後同考え方を受けて被告東電が具体的な賠償基準を策定することとなっているとした。
同考え方では,精神的損害に対する賠償について,以下のような考え方が示された。(乙共38の1,2,3)
⑴ 平成24年6月以降の精神的損害について,帰還困難区域で600万円,居住制限区域で240万円(2年分),避難指示解除準備区域で120万円(1年分)を標準とし,一括払いを行う。
⑵ 居住制限区域,避難指示解除準備区域について,解除の見込み時期が上記⑴の標準期間を超える場合には,解除見込み時期に応じた期間分の一括払いを行う。その上で,実際の解除時期が標準の期間や解除の見込み時期を超えた場合は,超過分の期間について追加的に賠償を行うこととする。
5 被告東電の損害賠償基準
⑴ 被告東電は,平成23年8月30日付けプレスリリースで,中間指針を踏まえ,確定した損害に対する補償について進めること,公正かつ迅速な補償を行う観点から,中間指針で示された損害項目ごとに補償基準を策定したことを公表した。その際示された政府による避難等の指示等に係る損害についての補償基準の中には以下のようなものがある。(乙共36)
ア 避難費用,帰宅費用,一時立入費用
(ア) 補償対象者
避難等対象者の者(本件事故が発生した後に避難等対象区域内から同区域外へ避難のための立退き及びこれに引き続く同区域外滞在を余儀なくされた者,本件事故発生時に避難等対象区域外におり,同区域内に生活の本拠としての住居があるものの引き続き避難対象区域外滞在を余儀なくされた者又は屋内退避区域内で屋内への退避を余儀なくされた者)のうち,避難等のための交通費,宿泊費等を負担した者
(イ) 交通費
同一都道府県内の移動は,原則として1回あたり一人5000円を支払う。都道府県を超える自家用車による移動の場合,移動元,移動先ごとに策定した標準金額(自家用車)を支払う。都道府県を超えるその他の手段による移動の場合,原則として移動元,移動先ごとに策定した標準金額(その他交通機関)を支払う。
(ウ) 宿泊費
実費を基準とするが,原則として1泊当たり一人8000円を上限とする。
イ 避難生活等による精神的損害
(ア) 補償対象者
避難等対象者の者
(イ) 避難した者については,平成23年3月11日から同年8月31日までの避難分として月額10万円あるいは月額12万円,同年9月1日から平成24年2月29日までの避難分として月額5万円をそれぞれ支払う。屋内退避を継続している者については,一人当たり10万円を支払う。
ウ 検査費用(人)
(ア) 補償対象者
避難等対象者のうち,本件事故が生じたことにより,健康診断費用,放射線検査費用等を負担した者
(イ) 検査費用
健康診断については,1回当たり8000円を支払う。放射線検査については,1回当たり1万5000円を支払う。
⑵ 被告東電は,平成23年11月24日付けプレスリリースで,避難生活等による精神的損害に対する賠償について,次のとおり賠償基準を見直すことを公表した。(乙共37)
平成23年9月1日から平成24年2月29日までの賠償金額を,一人当たり月額5万円から,一人当たり月額10万円又は12万円とする。
⑶ 被告東電は,平成24年2月28日付けプレスリリースで,中間指針追補を踏まえ,本件事故発生時に自主避難区域内に生活の本拠としての住居があった者に対する賠償について,以下のとおりの賠償基準を公表した。(乙共56)
ア 18歳以下であった者(誕生日が平成4年3月12日~同年12月31日の者)及び妊娠していた者(平成23年3月11日~同年12月31日の間に妊娠していた期間のある者)
(ア) 対象期間 平成23年3月11日~同年12月31日
(イ) 賠償金額 一人当たり40万円
(ウ) 自主避難(政府による避難等の指示等に基づかずに行った避難)をした場合は,20万円を追加する。
イ 上記以外の者
(ア) 対象期間 平成23年3月11日~同年4月22日
(イ) 賠償金額 一人当たり8万円
⑷ 被告東電は,平成24年3月5日付けプレスリリースで,以下のとおり賠償項目の追加をしたことを公表した。(乙共43)
ア 親戚宅や知り合い宅への宿泊実費分
(ア) 対象者
平成23年3月11日から同年11月30日の間に避難等対象区域からの避難に伴い,親戚宅や知り合い宅に宿泊した者
(イ) 対象となる損害
平成23年3月11日から同年11月30日の間に避難に伴い親戚宅や知り合い宅に宿泊し,実際に負担した宿泊費等の実費分
(ウ) 賠償金額
1世帯当たり1泊につき2000円(目安)
1世帯当たり1月につき6万円まで
イ 自主避難等に係る損害
本件事故発生時に避難等対象区域内に生活の本拠としての住居があった者で,避難等対象区域又は自主避難区域に避難又は滞在していた18歳以下の者及び妊娠していた者について,一人当たり40万円を賠償する(対象期間:平成23年4月23日~同年12月31日)。
⑸ 被告東電は,平成24年6月11日付けプレスリリースで,本件事故発生時に福島県の県南地域(白河市,西郷村,泉崎村,中島村,矢吹町,棚倉町,矢祭町,塙町,鮫川村)に生活の本拠としての住居があった者で,18歳以下であった者(誕生日が平成4年3月12日~同年12月31日の者)及び妊娠していた者(平成23年3月11日~同年12月31日の間に妊娠していた期間のある者)について,次のとおりの賠償基準を公表した。(乙共57)
ア 対象期間 平成23年3月11日~同年12月31日
イ 賠償金額 一人当たり20万円
⑹ 被告東電は,平成24年6月21日付けプレスリリースで,中間指針第二次追補等を踏まえ,本件事故発生時に旧緊急時避難準備区域に生活の本拠としての住居があった者については,避難の有無や帰還の時期にかかわらず,平成24年3月1日から同年5月31日を対象期間とする精神的損害に係る賠償金として一人当たり月額10万円を支払う旨を公表した。(乙共87)
⑺ 被告東電は,平成24年7月24日付けプレスリリースで,中間指針第二次追補及び「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方について」を踏まえ,避難指示区域における賠償を以下のとおり実施する旨を公表した。(乙共22,39)
同プレスリリースにおいて,精神的損害(避難に伴う生活費の増加分を含む)については,以下のとおりとされた。
ア 帰還困難区域
一人当たり600万円(対象期間:平成24年6月1日~平成29年5月31日)
イ 居住制限区域
一人当たり240万円(対象期間:平成24年6月1日~平成26年5月31日)
ウ 避難指示解除準備区域
一人当たり120万円(対象期間:平成24年6月1日~平成25年5月31日)
エ 旧緊急時避難準備区域
一人当たり30万円(対象期間:平成24年6月1日~同年8月31日)。中学生以下については,学校等の再開状況を踏まえ,平成24年9月1日から平成25年3月31日までの精神的損害に係る賠償として一人当たり35万円(月額5万円)
オ 旧緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域及び南相馬市の一部地域に早期に帰還した者や本件事故発生当初から避難せずに当該区域に滞在し続けた者
一人当たり月額10万円(対象期間:旧緊急時避難準備区域については平成23年3月11日~平成24年2月29日,旧屋内退避区域及び南相馬市の一部地域については平成23年3月11日~同年9月30日)
⑻ 被告東電は,平成24年8月13日付けプレスリリースで,旧緊急時避難準備区域等における精神的損害について,以下のとおり損害を賠償することを公表した。(乙共42)
ア 対象者
本件事故発生当時に旧緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域及び南相馬市の一部地域に生活の本拠としての住居があった者のうち,本件事故発生により避難後,以下の対象期間内に帰還し,又は本件事故発生当初から避難せずに当該区域に滞在し続けたことにより以下の対象期間において避難生活等による精神的損害に係る賠償金を受領していない期間のある者
イ 対象期間
(ア) 旧緊急時避難準備区域
平成23年3月11日~平成24年2月29日
(イ) 旧屋内退避区域及び南相馬市の一部地域
平成23年3月11日~同年9月30日
ウ 対象となる損害
避難等によって被った精神的苦痛に対する損害
避難生活等による生活費の増加費用
エ 賠償金額
上記対象期間のうち避難生活等による精神的損害に係る賠償金を受領していない期間に応じて一人当たり月額10万円
⑼ 被告東電は,平成24年12月5日付けプレスリリースで,中間指針追補及び中間指針第二次追補を踏まえ,以下のとおり追加の賠償を実施することを公表した。(乙共59)
ア 自主避難区域
(ア) 精神的損害等に対する賠償
a 対象者
本件事故発生当時に自主避難区域に生活の本拠としての住居があった者のうち,平成24年1月1日から同年8月31日の間に18歳以下であった期間がある者(誕生日が平成5年1月2日~平成24年8月31日の者)又は平成24年1月1日から同年8月31日の間に妊娠していた期間がある者(なお,平成23年3月12日から平成24年8月31日の間に上記対象者から出生した者も対象者とする。)
b 賠償の対象となる損害
平成24年1月1日から同年8月31日の間における①自主避難により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用,②自主避難区域に滞在を続けた場合における放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛及び生活費が増加した分があればその増加費用
c 賠償金額
精神的苦痛,生活費の増加費用を含めて一人当たり8万円
(イ) 追加的費用等に対する賠償
a 対象者
本件事故発生当時に自主避難区域に生活の本拠としての住居があった者(なお,平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記対象者から出生した者も対象者とする。)
b 賠償の対象となる損害
本件事故に起因して負担した①自主避難区域での生活において負担した追加的費用,②前回の賠償金額を超過して負担した生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用等のうち,一定の範囲
c 賠償金額
一人当たり4万円
イ 福島県県南地域(白河市,西郷村,泉崎村,中島村,矢吹町,棚倉町,矢祭町,塙町,鮫川村)
(ア) 精神的損害に対する賠償
a 対象者
本件事故発生当時に福島県県南地域に生活の本拠としての住居があった者のうち,平成24年1月1日から同年8月31日の間に18歳以下であった期間がある者(誕生日が平成5年1月2日~平成24年8月31日の者)又は平成24年1月1日から同年8月31日の間に妊娠していた期間がある者(なお,平成23年3月12日から平成24年8月31日の間に上記対象者から出生した者も対象者とする。)
b 賠償の対象となる損害
平成24年1月1日から同年8月31日の間における①自主避難により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用,②福島県の県南地域に滞在を続けた場合における放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛及び生活費が増加した分があればその増加費用
c 賠償金額
精神的苦痛,生活費の増加費用等を含めて一人当たり4万円
(イ) 追加的費用等に対する賠償
a 対象者
本件事故発生当時に福島県の県南地域に生活の本拠としての住居があった者(なお,平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記対象者から出生した者も対象者とする。)
b 対象となる損害
本件事故に起因して負担した①福島県の県南地域での生活において負担した追加的費用,②前回の賠償金額を超過して負担した生活費の増加費用並びに避難及び帰宅に要した移動費用等のうち,一定の範囲
c 賠償金額
一人当たり4万円
⑽ 被告東電は,平成25年2月13日付けプレスリリースで,避難等対象区域の者に対する追加の賠償を以下のとおり行うことを公表した。(乙共60)
ア 精神的損害等に対する賠償
(ア) 対象者
本件事故発生時に避難等対象区域に生活の本拠としての住居があり,平成24年1月1日から同年8月31日までの間に避難等対象区域又は自主避難区域に避難又は滞在した者のうち,平成24年1月1日から同年8月31日の間に18歳以下であった期間がある者(誕生日が平成5年1月2日~平成24年8月31日の者)又は平成24年1月1日から同年8月31日の間に妊娠していた期間がある者(なお,平成23年3月12日から平成24年8月31日の間に上記対象者から出生した者も対象者とする。)
なお,本件事故発生当時に旧屋内退避区域及び南相馬市の一部地域に生活の本拠としての住居があった者のうち,これらに該当する者については,避難の有無及び避難先を問わず支払の対象となる。
(イ) 対象となる損害
平成24年1月1日から同年8月31日の間における①自主避難により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛等,②避難等対象区域又は自主避難区域に滞在を続けた場合における放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛等のうち,一定の範囲
(ウ) 賠償金額
一人当たり8万円
イ 追加的費用等に対する賠償
(ア) 対象者
本件事故発生当時に旧屋内退避区域及び南相馬市の一部地域に生活の本拠としての住居があった者(なお,平成23年3月12日から平成24年8月31日までの間に上記対象者から出生した者も対象者とする。)
(イ) 対象となる損害
本件事故に起因して負担した避難等対象区域での生活において負担した追加的費用等のうち一定の範囲
(ウ) 賠償金額
一人当たり4万円
⑾ 被告東電は,平成26年3月26日付けプレスリリースで,中間指針第四次追補を踏まえ,以下のとおり賠償することを公表した。(乙共40,41)
ア 移住を余儀なくされたことによる精神的損害について
(ア) 対象者
本件事故発生時点において,生活の本拠が帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域若しくは避難指示解除準備区域にあり,避難等を余儀なくされ,かつ避難指示区域見直し時点又は平成24年6月1日のうちいずれか早い時点において避難等対象者である者
(イ) 賠償金額
一人当たり700万円
イ 避難指示解除後の相当期間(1年間)に発生する損害について
(ア) 対象者
本件事故発生時点において居住制限区域若しくは避難指示解除準備区域(ただし,いずれも大熊町及び双葉町を除く。)のうち,避難指示が解除された区域に生活の本拠があった者
(イ) 対象となる損害
避難生活等による精神的損害
その他実費等(避難・帰宅等にかかる費用相当額及び家賃にかかる費用相当額)
(ウ) 賠償金額
一人当たり120万円(相当期間分を一括で支払う場合)
一人当たり月額10万円(相当期間終了までに3か月ごとに支払う場合)
⑿ 被告東電は,平成27年8月26日付けプレスリリースで,避難指示解除準備区域及び居住制限区域における精神的損害等に係る賠償を以下のとおり実施する旨を公表した。(乙共111)
ア 対象者
本件事故発生時点における生活の本拠が避難指示解除準備区域・居住制限区域(大熊町・双葉町を除く。)にあった者で避難継続を余儀なくされている者(既に避難指示が解除された田村市,川内村の旧避難指示解除準備区域についても,避難指示解除後の避難継続の有無にかかわらず対象となる。)
イ 対象となる損害
避難生活等による精神的損害
その他実費等(避難・帰宅等にかかる費用相当額,家賃にかかる費用相当額)
ウ 対象期間
平成30年3月まで
エ 賠償金額
一人当たり月額10万円
⒀ 以上の賠償基準等によれば,帰還困難区域,旧居住制限区域,旧避難指示解除準備区域,旧緊急時避難準備区域及び自主的避難等対象区域に本件事故当時に生活の本拠があった者に対する被告東電の精神的損害に対する賠償額は,おおむね以下のとおりとなる。
ア 帰還困難区域
(ア) 平成23年3月11日から平成24年5月31日
一人当たり月額10万円
(イ) 平成24年6月1日から平成29年5月31日
1人600万円
(ウ) 中間指針第四次追補に基づく700万円
(エ) 合計 1450万円
イ 旧居住制限区域,旧避難指示解除準備区域
(ア) 平成23年3月11日から平成30年3月31日まで一人月額10万円
(イ) 合計850万円
ウ 旧緊急時避難準備区域
(ア) 平成23年3月11日から平成24年8月31日まで月額10万円
(イ) 合計180万円
エ 自主的避難等対象区域
(ア) 平成23年3月11日以降本件事故発生当初の時期(平成23年4月22日頃まで)について,子供及び妊婦以外の者に対して8万円
(イ) 平成23年3月11日から同年12月31日まで,18歳以下であった者及び妊婦に対して40万円
(ウ) 平成24年1月1日から同年8月31日までの間に18歳以下であった期間がある者及び妊娠していた期間がある者に対して8万円
第2 避難の相当性,避難継続の相当性について
1 帰還困難区域
前記認定事実によれば,被告国は平成23年3月11日に本件原発から半径3㎞圏内に避難指示を出して以降,屋内退避区域及び計画的避難区域等を設定して避難指示等を出したこと,原災本部が同年12月26日に「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」を公表し,その中で,5年間を経過してもなお,年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのある,前記時点で年間積算線量が50ミリシーベルトを超える地域を帰還困難区域に設定したことが認められる。
そうすると,帰還困難区域に居住していた者は,避難指示等により避難を余儀なくされたものであるから,避難を行ったこと及び避難を継続していることにも合理性があるといえる。
2 旧避難指示解除準備区域
前記認定事実によれば,被告国は平成23年3月11日に本件原発から半径3㎞圏内に避難指示を出して以降,屋内退避区域及び計画的避難区域等を設定して避難指示等を出したこと,原災本部が同年12月26日に「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」を公表し,その中で年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であると確認された地域を避難指示解除準備区域に設定したことが認められる。そうすると,本件事故時に旧避難指示解除準備区域に居住していた者は,いずれも避難指示等により避難をしたのであるから,避難開始の相当性が認められる。そして,避難指示解除準備区域のうち,平成29年4月1日までに大熊町及び双葉町を除く避難指示解除準備区域の指定がいずれも解除されたが,避難指示解除までに6年もの長期間避難をしていたことからすれば,避難先から帰還するに当たっても,相当程度の期間を要すると解されるから,平成30年3月31日までは避難の継続の相当性が認められるというべきである。
3 旧緊急時避難準備区域
前記認定事実によれば,被告国は平成23年3月11日に本件原発から半径3㎞圏内に避難指示を出して以降,屋内退避区域及び計画的避難区域等を設定して避難指示等を出したこと,被告国は同年4月22日,原災法20条3項に基づき,本件原発から半径20㎞から30㎞圏内の屋内退避指示を解除するとともに,原災本部長である内閣総理大臣は,緊急時避難準備区域を指定したこと,同区域の居住者等は,常に緊急時の避難のための立退き又は屋内への退避が可能な準備を行うこと,当該区域においては引き続き自主的避難をし,特に,子供,妊婦,要介護者,入院患者等は,当該区域内に入らないようにすること,また,保育所,幼稚園,小中学校及び高等学校は,休所,休園又は休校とすること,しかし,勤務等のやむを得ない用務等を果たすために当該区域内に入ることは妨げられないが,その場合においても常に避難のための立退き又は屋内への退避を自力で行えるようにしておくことを求められたことが認められる。そうすると,本件事故時に旧緊急時避難準備区域に居住していた者は,緊急時には立退き等を行う必要があることを想定しながら生活をする必要があったといえる。そのような不安定な状況下での生活を余儀なくされた者が,放射性物質の影響から身を守るために避難を開始することには相当性が認められる。そして,平成23年9月30日に緊急時避難準備区域の指定が解除されたことからすれば,遅くとも平成24年8月31日までには帰還することが可能であったといえるから,避難継続の相当性が認められるのは,平成24年8月31日までである。
4 自主的避難等対象区域
自主的避難等対象区域から避難した者(自主避難者)は,避難指示等によって避難をせざるを得なかったとはいえない。しかしながら,中間指針追補において,避難指示等対象区域の周辺地域で,①本件事故発生当初の時期に自らの置かれている状況について十分な情報がない中で,本件原発の原子炉建屋において水素爆発が発生したこと等から,大量の放射性物質の放出による放射線被ばくへの恐怖や不安を抱き,その危険を回避しようと考えて避難を選択した,②本件事故発生からしばらく経過した後,生活圏内の空間放射線量や放射線被ばくによる影響等に関する情報がある程度入手できるようになった状況下で,放射線被ばくへの恐怖や不安を抱き,その危険を回避しようと考えて避難を選択した場合に自主避難に至った者が相当数いることが確認され,また,当該地域において自主避難をせず滞在を続けている者も放射線被ばくへの不安や恐怖等を抱き続けたと考えられる現状を踏まえて,自主的避難等対象区域が定められ,当該区域に居住していた者に対する賠償が行われている。そして,自主的避難等対象区域は,本件原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性,政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,居住する市町村の自主的避難の状況(自主的避難者の多寡等)等の要素を考慮して,放射線被ばくへの恐怖や不安を抱いたことには相当の理由があり,また,その危険を回避するために自主的避難を行ったことについてやむを得ない面がある地域として定められていることからすれば(乙共2〔3〕),当該指定は合理的であると認められる。
そうすると,本件事故時に自主的避難等対象区域に居住していた者については避難の相当性が認められる。そして,前記認定事実によれば,平成23年4月22日には屋内退避が解除されるとともに,計画的避難区域及び緊急時避難準備区域が設定され,同年8月9日には,ステップ1の終了により原子力発電所の状況が著しく改善したことを踏まえた避難区域の見直しに関する考え方が示され,同年9月30日には緊急時避難準備区域が解除され,同年12月16日にはステップ2の目標達成と完了が確認され,原災本部において原子炉は安定状態を達成し,本件事故そのものは収束に至ったことが確認され,同月26日にはそれを受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方が示されたことが認められる。そうすると,本件事故後,徐々に避難指示が解除され,同年12月16日以降にはステップ2が完了し,本件事故が収束に向かっていることが確認できる状況にあったといえるから,その後一定程度の期間が経過した同月31日までの間は避難の継続の相当性が認められるというべきである。
5 区域外
当該区域から避難した者は,避難指示等によって避難せざるを得なかったものではない。また,中間指針等で自主避難区域にも指定されていない。しかしながら,本件事故当時の居住地と本件原発との距離,避難指示等対象区域との近接性,政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,居住する市町村の自主的避難の状況(自主的避難者の多寡等),避難時期,避難者の年齢や家族構成等を総合的に考慮して,個別具体的事情により避難及び避難の継続に合理性が認められる場合には,その相当性が認められるというべきである。
第3 財産的損害(主位的主張)について
1 原告らは,財産的損害に関する主位的主張として,本件事故の特質からすれば,原告らの生活が侵害された状態をありのままに損害として包括的に把握すべきであるとして,本件における財産的損害を算定するに当たっては,可能な限り個別的事情を捨象し,多くの被害者らに共通して生じた事情や典型的な損害を最低限考慮した上で,一定の基準に基づく抽象的な計算方法を基本的に用いるべきであると主張する。
2 しかしながら,原告らに生じた損害とは,本件事故がなければ存在したであろう状態と現在の状態との差を金銭評価したものであると解されるところ,その差を金銭的に把握するには,原告らに生じた個別的損害項目ごとにその額を算定してこれを積算するのが,簡明かつ合理的であるというべきである。原告らは,損害を抽象的に算定すべきであるとして,原告らに生じた財産的損害は,一人当たり少なくとも500万円を下らないと主張するものの,他方で,その損害額が正当であることを論証するため,本件において賠償されるべき財産的損害を項目立てし,各損害項目について損害額を算定しているのであって,そうであれば,上記のとおり,損害項目ごとに差額を算定してこれを積算するという,現在の裁判実務において採用されている考え方を否定する合理的な理由はないというべきである。
3 これに対し,原告らは,本件事故によって原告らの生活全体が侵害されたことからすれば,抽象的な計算方法が相当であると主張するが,個別的損害項目を積算する方法によっても,被害者に生じた財産的損害を適切に算定することは可能であって(それでも評価し切れない無形の損害が生じたといえる場合には,慰謝料の額において考慮されることになる。),本件事故の特殊性を理由に原告らの主張すべき損害算定方法を採用すべきであるということはできない。また,原告らは,本件事故のように同一の事故によって同種の損害を受けた被害者が多数存在する場合には,損害は抽象的に算定して均一化するのが公平であるとも主張するが,本件事故についていえば,被害者に生じた損害の内容や程度は様々であるから,個々の被害者の個別事情を捨象して抽象的に損害額を算定することとすれば,かえって被害者間の公平を害することになりかねない。
したがって,原告らの主張は独自の見解をいうもので,これを採用することはできない。
第4 財産的損害(予備的主張)について
1 避難交通費
本件事故による避難の際に要した交通費のうち,必要かつ合理的な範囲の交通費が本件事故と相当因果関係のある避難交通費と認められる。原則として,避難元から,避難継続の相当性が認められる期間満了時に居住している避難先までに要する交通費(多くの原告の場合は,福島県から北海道への交通費となる。)は,必要かつ合理的な範囲であるとして本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。また,これに加えて,本件事故直後の避難に要する交通費も本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。
そして,当該避難交通費の算定に当たっては,原告らが負担した実費が賠償されるべきではあるが,原告らの避難は本件事故直後混乱の中行われたものも多く,領収証等による立証が困難な場合が多い。また,原告らが避難をするには,何らかの移動手段を用いて避難をし,そのために費用が発生することが明らかであることから,領収証等による個別の立証がなくとも,避難をしたことが認められる場合には,その際に要した交通費のうち必要かつ合理的な範囲で,一般的に相当と認められる額を損害と認める。
その額を算定するに当たっては,被告東電が直接請求において使用している標準交通費一覧表(自家用車,その他交通機関)(乙共86〔136~145〕)の額を参照することとする。その際,自家用車の場合の交通費は,自家用車1台当たり5名まで乗車できる前提とし,5名以内で避難した場合には,複数台で避難した場合においても,原則として自家用車1台分に相当する額を当該避難の際に要する交通費として必要かつ合理的な範囲であるとして損害として認める。
また,自家用車以外の公共交通機関で避難する場合,北海道へ避難するには飛行機を利用することが想定されるところ,通常飛行機を利用する場合には子供(12歳未満)は大人料金の半額,幼児(3歳未満)で座席を使用しない場合には費用は発生しないから,避難時3歳以上11歳以下の子供については大人料金の半額を避難交通費と認め,避難時2歳以下の子供については避難において費用は発生しなかったと認める。
2 宿泊費
避難に当たって宿泊費を支出した場合には,必要かつ合理的な範囲で宿泊費を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。そして,当該宿泊費の算定に当たっては,原告らが負担した実費が賠償されるべきではあるが,原告らの避難は本件事故直後混乱の中行われたものも多く,原告らが負担した実費について領収証等による立証が困難な場合が多い。一方で,有償宿泊した場合には,それに伴って費用が発生することが明らかである。したがって,領収証等による個別の立証がなくとも,避難に当たって有償宿泊をしたことが認められる場合には,一泊当たり1万円を損害と認める。
なお,子供については,大人と同程度の料金を要しない場合があり,特に2歳以下の幼児については,宿泊に当たり個別に費用を要しないことも想定される。そこで,避難時2歳以下であった子供については,避難の際の宿泊に当たって宿泊費を要しなかったと認め,避難時に3歳以上11歳以下であった子供については,一泊当たり5000円を損害と認める。
3 転居費用・家財道具費用
避難するに当たっては,引越業者等を利用して家財道具を運搬する費用(転居費用)や,避難先で家財道具を購入する費用(家財道具費用)を負担する必要があると認められる。もっとも,転居費用については,避難時の混乱により領収証等の証拠を有していない原告らも少なくないと考えられるし,家財道具費用についても,原告らが避難元で有していた家財道具の評価額が上限となると考えられるところ,これを正確に認定することは困難である。そこで,転居費用・家財道具費用,すなわち避難に伴って家財道具をそろえるために要した費用として,避難した原告の数が1名の場合には15万円,2名以上の場合は30万円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
4 食費
本件においては,避難によって食費を含む各種費用が増加することも考慮して慰謝料の額を算定している。そのため,食費については,個別の項目として本件事故と相当因果関係のある損害が発生したとは認定しない。
5 住居費
避難前は持ち家に居住するなどして家賃負担が無かったが,避難先で家賃を支払うこととなった場合については,支払った家賃のうち必要かつ相当な範囲で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。また,避難前賃貸住宅に居住していたが,避難後の住居において従来より家賃負担が大きくなった場合については,従前の家賃との差額のうち必要かつ相当な範囲で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
6 気候対応費用
本件においては,避難によって,避難先で各種費用が増加することも考慮して慰謝料を算定している。そのため,気候対応費用については,個別の項目として本件事故と相当因果関係のある損害が発生したとは認定しない。
7 就労不能損害
本件事故前の収入を基礎として,本件事故がなければ得られたであろう収入については,相当な範囲で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
8 転職費用
避難に伴い,従前の勤務先を退職し,その後新たに就職した場合,就職活動に当たり,面接に向かうための交通費等の一定の費用を要したといえる。そこで,新たに就職するために要した費用のうち必要かつ合理的な範囲は,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。また,避難前は無職であったが,避難後,避難生活に伴う生活費用の増加の負担軽減のため等で新たに就職している場合についても,新たに就職するために要した費用のうち必要かつ合理的な範囲は,本件事故と相当因果関係のある損害と認める。そして,新たに就職するために要する費用の額は,就職活動期間,就職活動開始時期等の個別の事情によるものが大きいため,必要かつ合理的な範囲として,原則として1人1万円を本件事故と相当因果関係のある損害と認め,1万円以上の損害が生じている場合には,損害の発生及び損害額については,領収証等の証拠から個別に認定する。
9 二重生活費用
避難前は同居をしていた世帯が,世帯内の一部の者による避難によって別居し,世帯が分離した場合には,水道光熱費,通信費等の生活費が避難元と避難先とで必要となり,生活費用が増加すると考えられる。そこで,世帯が分離した場合には,増加した生活費用として1世帯1か月当たり2万円を損害と認める。
なお,分離期間の算定に当たり,1か月未満の日数が生じる場合には,当該日数が15日以上の場合は1か月とみなすこととする。
10 通信費
原告らは,避難に伴い,避難前のコミュニティとの関係性を維持するために通信費用が増加したと主張する。
避難に伴い,従前同居していた家族が分離して生活をすることとなった場合,従前は必要のなかった通話等に伴い通信費が増加することが考えられるが,この点については,二重生活に伴う生活費用の増加として,二重生活費用の中で評価済みである。そのため,別途個別の項目として本件事故と相当因果関係のある損害が発生したとは認定しない。
また,原告らは,分離していない家族については,避難により,避難元の近隣に居住していた親族又は知人等との関係維持のために通信費用が増加したと主張するが,本件では,そのような事情も含めて慰謝料を算定しているため,別途個別の項目として本件事故と相当因果関係のある損害が発生したとは認定しない。
11 一時帰宅費用
避難先から避難元の居住地に一時立入り又は帰省するために要した費用のうち,必要かつ合理的な範囲を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
もっとも,原告らの多くは自主避難区域から避難しているところ,その場合,避難指示等によって避難しているのではないから,一時立入り(帰宅)について制約がない。そこで,一時帰宅の相当性が認められるのは,原則として避難者一人当たり年4回(3か月に1回の頻度)とする。そして,一時帰宅の際に要する費用としては,移動のための交通費及び一時帰宅中の宿泊費が想定されるところ,交通費の算定については被告東電が直接請求において使用している標準交通費一覧表(自家用車,その他交通機関)の額を参照することとする。なお,一時帰宅の際の移動手段が明らかでないものについては,標準交通費一覧表(その他交通機関)を参照する。一時帰宅中の宿泊費については,宿泊費と同様の基準に基づいて算定することとする。
12 面会費用
避難に伴い,未成年の子と親が別居し,世帯が分離して生活している場合に,未成年の子と親の面会は,子の健やかな成長のために必要であり,また子の権利として当然認められるべきである。そこで,避難に伴い未成年の子と親が分離して生活している期間中に面会するために要した費用は,必要かつ合理的な範囲で本件事故と相当因果関係のある損害であると認める。その場合,子は,放射線による被ばく被害を懸念して避難したことに鑑みれば,避難元に残った親が避難先に居住している未成年の子に面会に行くことが相当であるから,その際に要した交通費,すなわち避難元住所地から未成年の子の避難先居住地までの往復の交通費を本件事故と相当因果関係のある損害として認める。その際の交通費については,被告東電が直接請求において使用している標準交通費一覧表(自家用車,その他交通機関)の額を参照することとする。
そして,必要かつ合理的な範囲として認められる頻度として,原則として月1回の面会を相当と認める。また,避難している未成年の子が一時帰宅をした場合には,通常避難先に滞在している親と面会をすると考えられることから,未成年の子に一時帰宅が認められる回数分は面会がされたものとみなした上で,面会回数として必要かつ相当な回数を算定することとする。
13 検査費用
被ばく検査費用として原告らが実際に支出した費用を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。原告らが受けた検査の中には無料の検査もあったことから,損害の発生及び損害額については,領収証等の証拠に基づいて個別に認定する。
14 その他
上記損害項目以外で,個別に原告らが主張立証するその他本件事故により生じた支出について,個別具体的に本件事故と相当因果関係のある損害を認定する。
第5 精神的損害(慰謝料)
1 帰還困難区域
本件事故当時,帰還困難区域に居住していた者は,避難を余儀なくされ,避難元住所地で営まれていた平穏な生活を喪失し,本件事故に対する恐怖,放射性物質による身体への影響に対する不安等を抱えたまま,長期間にわたって帰還できず,避難生活の継続を余儀なくされたことからすれば,その精神的苦痛は大きい。これらの事情に加えて,後記2,3のとおり,旧避難指示解除準備区域及び旧緊急時避難準備区域に居住していた者の慰謝料との均衡も併せ考慮すると,帰還困難区域に居住していた者の慰謝料は,1000万円とするのが相当である。
2 旧避難指示解除準備区域
本件事故当時,旧避難指示解除準備区域に居住していた者は,避難を余儀なくされ,避難元で営まれていた平穏な生活を喪失し,本件事故に対する恐怖,放射性物質による身体への影響に対する不安等を抱えたまま,避難生活の継続を余儀なくされたと認められる。そして,避難指示解除準備区域は平成29年4月1日までにおおむね解除されたものの,事故後6年もの長期間にわたっていたことに鑑みれば,その精神的苦痛は,大きいといえ,旧避難指示解除準備区域に居住していた者の慰謝料は,避難継続の相当性が認められる平成30年3月31日まで月額10万円(合計850万円)が相当である。
3 旧緊急時避難準備区域
本件事故当時,旧緊急時避難準備区域に居住していた者は,緊急時の避難のための準備を求められ,妊婦や子供は事実上立入りを制限されていたものであり,そのような状況に置かれたことによる不安,放射性物質による身体への影響に対する不安,精神的苦痛は,帰還困難区域,居住制限区域及び避難指示解除準備区域に準じて大きいものであったといえる。旧緊急時避難準備区域から避難した者は,避難元で営まれていた平穏な生活を喪失し,避難生活による不便を被っていたといえる。そして,緊急時避難準備区域の指定は平成23年9月30日に解除されたが,いまだ本件事故の収束の見通しがついていない状態にあったのであり,指定解除後も上記不安,精神的苦痛は一定期間継続していたといえる。
そうすると,旧緊急時避難準備区域に居住していた者の慰謝料は,避難継続の相当性が認められる平成24年8月31日まで月額10万円(合計180万円)が相当である。
また,避難をせず旧緊急時避難準備区域に滞在していた者についても,常に緊急時の避難のための準備が求められるという緊張を強いられ,行動の自由が制限される状態での生活が継続していたことからすれば,避難した者と同程度の精神的苦痛を被ったと認められるから,滞在していた者の慰謝料も避難した者と同額を認める。
4 自主的避難等対象区域
本件事故当時,自主的避難等対象区域に居住していた者は,被告国の指示によって避難を余儀なくされたものではない。しかしながら,中間指針追補において本件原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性等から自主的避難等対象区域が設定されたことからすれば,当該区域に居住していた者が本件事故に対する恐怖,放射性物質による身体への影響に対する不安を感じたことについては,社会通念上相当であるといえる。そして,そのような不安から避難した者については,避難生活による不便を被ったことによる精神的苦痛についても考慮される必要がある。
上記事情に鑑みれば,自主的避難等対象区域に居住していた者の慰謝料は,30万円が相当である。
また,避難せずに滞在し続けた者についても,上記不安の中で生活を継続したことによる精神的苦痛は避難をした者と同程度であったといえるから,避難した者と同額の慰謝料を認める。
5 区域外
避難及び避難継続の相当性が認められる場合には,自主的避難等対象区域に居住していた者に対する慰謝料額を参考に算定する。
第6 弁済の抗弁
被告東電は,既に原告らの一部に対して賠償しているが,それは,本件事故により原告らに生じた財産的損害と精神的損害に対して支払われたものであり,当事者の合理的意思を解釈すると,仮に特定の項目に対するものとして支払われた場合であっても,それは他の項目には充当しないとの趣旨で弁済されたものでない限り,別の損害項目に対する弁済に充てられるものとするのが相当である。そして,本件においては,他の項目には充当しないとの趣旨であったとはうかがわれない。
また,被告東電が既に支払った金銭は,いずれも各原告に対して支払われたものであり,各原告に既払金を充当すべきであるから,世帯ごとに弁済の抗弁を主張する被告東電の主張は採用できない。
そこで,各原告に生じた損害の総額から,被告東電が既に各原告に対して賠償した金額をそれぞれ控除することとする。
そして,被告東電は,既に各原告に対し,別紙個別損害認定表の各「既払額」欄記載のとおり賠償したと認められる(乙共331の1~4,弁論の全趣旨)。
第7 弁護士費用
上記第6のとおり認定した,各原告に生じた損害の総額から各原告に対する既払金の額を除いた額の1割を本件事故と相当因果関係のある弁護士費用と認める。
第8 各原告についての認定損害額
各原告に対する判断は,別紙個別損害認定表のとおりである(ただし,「原告の主張する額」欄は,原告らの主張する損害額を記載した。なお,原告らは財産的損害及び精神的損害の合計額として1500万円,弁護士費用として150万円を請求しているため,同欄のうち,「損害額合計」欄には原告一人当たりを1500万円とした世帯の損害額の合計額を,「弁護士費用」欄には原告一人当たりを150万円とした世帯の弁護士費用の合計額を記載した。)。
第5章 結論
以上の次第であって,原告らの被告らに対する請求のうち,別紙認容額等一覧表の「認容/棄却の別」欄に一部認容との記載がある各原告の被告らに対する請求は,当該各原告に係る同表の「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり,同各原告らの被告らに対するその余の請求及び同表の「認容/棄却の別」欄に棄却との記載がある各原告の被告らに対する請求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第1部
(裁判長裁判官 武藤貴明 裁判官 亀井佑樹 裁判官 亀井直子)
別紙1
別紙2
別紙3
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