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裁判年月日 平成17年12月20日 裁判所名 知財高裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(行ケ)10491号
事件名 審決取消請求事件 〔FEMMIO VALENTINO事件〕
裁判結果 請求棄却 文献番号 2005WLJPCA12200005
要旨
◆本願商標(図「FEMMIO VALENTINO」)はヴァレンティノ・ガラヴァーニの商品と混同するおそれがあるとした事例
関連審決・命令
特許庁 不服2002-12122 平成17年 4月12日
出典
裁判所ウェブサイト
新日本法規提供
参照条文
商標法4条1項15号
裁判年月日 平成17年12月20日 裁判所名 知財高裁 裁判区分 判決
事件番号 平17(行ケ)10491号
事件名 審決取消請求事件 〔FEMMIO VALENTINO事件〕
裁判結果 請求棄却 文献番号 2005WLJPCA12200005
原告 サン・グリーン・リバー株式会社
代表者代表取締役 堀本元哉
訴訟代理人弁理士 佐々木功
同 川村恭子
被告 特許庁長官 中嶋誠
指定代理人 小川有三
同 富田領一郎
同 伊藤三男
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2002-12122号事件について平成17年4月12日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、原告が後記商標の出願をしたものの特許庁から拒絶査定を受けたため、これを不服として審判請求をしたところ、同庁から審判請求不成立の審決を受けたため、その取消しを求めた事案である。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は、平成13年6月21日、後記本願商標につき商標登録出願(以下「本願」という。)をしたが、特許庁から拒絶査定を受けたので、これに対する不服審判を請求した。
特許庁は、同請求を不服2002-12122号事件として審理した上、平成17年4月12日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成17年4月25日原告に送達された。
(2) 本願の内容
(商標)〈省略〉
(指定商品)第21類とする下記のもの
記
「ガラス基礎製品(建築用のものを除く。)、なべ類、コーヒー沸かし(電気式又は貴金属製のものを除く。)、鉄瓶、やかん、食器類(貴金属製のものを除く。)、アイスペール、泡立て器、魚ぐし、携帯用アイスボックス、こし器、こしょう入れ・砂糖入れ及び塩振り出し容器(貴金属製のものを除く。)、卵立て(貴金属製のものを除く。)、ナプキンホルダー及びナプキンリング(貴金属製のものを除く。)、盆(貴金属製のものを除く。)、ようじ入れ(貴金属製のものを除く。)、米びつ、ざる、シェーカー、しゃもじ、手動式のコーヒー豆ひき器及びこしょうひき、じょうご、食品保存用ガラス瓶、水筒、すりこぎ、すりばち、ぜん、栓抜、大根卸し、タルト取り分け用へら、なべ敷き、はし、はし箱、ひしゃく、ふるい、まな板、魔法瓶、麺棒、焼き網、ようじ、レモン絞り器、ワッフル焼き型(電気式のものを除く。)、清掃用具及び洗濯用具、家事用手袋、化粧用具、デンタルフロス、おけ用ブラシ、金ブラシ、管用ブラシ、工業用はけ、船舶ブラシ、ブラシ用豚毛、洋服ブラシ、靴ブラシ、靴べら、靴磨き布、軽便靴クリーナー、シューツリー、ガラス製又は陶磁製の包装用容器、かいばおけ、家禽用リング、アイロン台、愛玩動物用食器、愛玩動物用ブラシ、犬のおしゃぶり、植木鉢、家庭園芸用の水耕式植物栽培器、家庭用燃え殻ふるい、紙タオル取り出し用金属製箱、霧吹き、靴脱ぎ器、こて台、小鳥かご、小鳥用水盤、じょうろ、寝室用簡易便器、石炭入れ、せっけん用ディスペンサー、貯金箱(金属製のものを除く。)、トイレットペーパーホルダー、ねずみ取り器、はえたたき、へら台、湯かき棒、浴室用腰掛け、浴室用手おけ、ろうそく消し及びろうそく立て(貴金属製のものを除く。)、花瓶(貴金属製のものを除く。)、ガラス製又は陶器製の立て看板、香炉、コッフェル、水盤(貴金属製のものを除く。)、風鈴」
(3) 審決の内容
審決の詳細は、別添審決写し記載のとおりである。その要旨とするところは、本願商標は、これを指定商品について使用するときは、その商品があたかも著名なデザイナーであるValentiono Garavani/ヴァレンティノ・ガラヴァーニあるいは同人と何らかの関係にある者の業務に係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生じさせるおそれがあり、商標法4条1項15号に該当するというものである。
(4) 審決の取消事由
しかしながら、審決は、以下に述べる理由により、違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(本願商標に関する認定判断の誤り)
(ア) 審決は、「「VALENTINO」の著名性の程度、商品の関連性及び取引者及び需要者の共通性に照らすと、本願商標がその指定商品に使用されたときは、「VALENTINO」の部分がこれに接する取引者・需要者の注意を特に強く引くものといえる」(審決9頁第4段落)と認定判断したが、本願商標については誤まった判断である。
すなわち、本願商標は、常に「フェミオバレンチノ」の一連の称呼が生ずるような使用態様をもって使用しているのであり、「フェミオバレンチノ」の称呼が冗長であるとはとてもいえるものではなく、かつ、「VALENTINO」、「バレンチノ」のみを表示することはないので、「VALENTINO」の部分が取引者、需要者の注意を殊更に引くということはなく、「バレンチノ」のみを称呼されることもない。「FEMMIO VALENTINO」又は「フェミオバレンチノ」の表示をもって使用している商標に対して、「VALENTINO」の部分のみを抽出することはできない。
また、本願商標は、文字部分と図形部分が常に一体不可分のものとして構成されているものではないが、図形は、縦長の楕円形の中に、「f」と「v」をモノグラム化した特徴的なもので、本願商標の文字部分の上段に、あるいは商品によっては、文字部分の前頭部分に必ず使用しているものであり、自他商品の識別性を有する商標として取引者、需要者の注意を惹起するものとなっている。したがって、本願商標の認定において、図形部分を無視あるいは除外して判断すべきではない。本願商標は、上記形状の図形商標も常に同時に使用しているところから、本願商標全体として、取引者、需要者の注意を惹起する商標となっているものである。
(イ) 審決は、「引用商標は・・・被服等に使用されているものであり、その使用商品は、ファッション関連の商品であって、デザイン性が重要視される商品といえる」(審決8頁下第3段落)と認定し、「他方、本願指定商品は日用品ではあるが、デザイン性が求められる商品であり、また、ファッション業界において著名な標章(ブランド名)であるクリスチャンディオール、ティファニー、エルメス等が、日用品である食器等に使用している事実があることから、両者はともに、ファッション関連の商品であるといえる」(同下第2段落)と認定したが、誤りである。
両者は、同じく「デザイン性」といっても、被服等と日用品である本願指定商品とは比較するレベルが全く異なっている。すなわち、被服、バッグ類、靴類など流行に敏感な商品は、今年の流行、来年の流行などと常に形状、型、色彩、模様など時々の流行に左右されており、「最新流行の何々」の新しいデザインを紹介するキャッチフレーズが消費者を引き付け、常に、「ファッション性」、「デザイン性」が求められるといえる。しかし、本願商標の指定商品である食器類に、陶芸家の個性が反映した作品が展示会を飾ることがあっても、食器という用途がある以上、洋服等と異なり、流行に左右される「ファッション性」や「デザイン性」は求められないし、求める必要もない商品が大半である。
また、上記のような著名ブランドは、大手デパートに入っている専門店等を直ちに想起するのであり、一般の消費者が足繁く行ける店ではなく、ブランド品に関心が高い人であればともかく、店舗の構えからして敷居が高い店であるということを印象付けている。そのため、たとえクリスチャンディオール、ティファニー、エルメス等の著名ブランドを使用した食器であっても、高級品であり高価格であるとの認識から、人々が日常的に購入し、消費するものではない。これに対して、本願商標の指定商品は、なべ類、やかん、食器類、はし、まな板など、毎日の生活に欠かせない用具を始め、日用雑貨品が含まれており、デパートで販売されてはいるが、地域密着のスーパーや金物店、現在では、本願商標を使用した「ランチ用品」が販売されている「100円ショップ」などで手軽に種々の商品を安価に購入することができる。これら商品の中には度々買い求める消耗品もあり、被服等とは異なりファッション性が求められる商品ではない。食器をはじめ、本願商標に係る指定商品は、極めて日常性が高く、子供から高齢者まで男女の差なく、すべての人々に必要な商品であり、食卓や台所での使い勝手のよさ、あるいは商品の耐久性が求められるものであり、ファッション性には関係がない。
(ウ) 審決は、「商品の需要者もともに主として一般消費者であって、本件商標の指定商品が日常的に消費される性質の商品であり、殊にその需要者は特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であって、これを購入するに際して払われる注意はさほど綿密なものではないといえることから、両者はその需要者を共通にするものである」(審決8頁最終段落~9頁第1段落)と認定したが、ブランド品に対する需要者の高い認識や嗜好、日用品に対する消費者の需要などが考慮されていない。すなわち、上記著名ブランドを使用した商品は、例えば、商品としては日常使用する食器であっても、我が国の消費者の中にはブランドに対する専門知識が高く、嗜好もそれぞれであり、これら高級品を購入する際に払われる注意は相当に綿密なものであり、特別な専門的知識を有しない一般大衆というレベルではない。これに対して、本願商標を使用した商品は、現在、幼稚園児や小学生等の子供を対象とした「ランチシリーズ」商品として、全国約1500店舗以上の100円ショップで販売されており、商品を購入するのは大半がそれら子供達の母親であり、この一事をもってしても、著名ブランドを使用した商品とは、商品そのものが異なるのはもちろん、需要者・消費者、販売経路のいずれにおいても共通するところはなく、著名ブランドが使用される商品とは余りにもかけ離れているといわざるを得ない。
イ 取消事由2(引用商標に関する認定判断の誤り)
(ア) 審決は、「同氏の名前は、「VALENTINO GARAVANI」(Valentino Garavani)「ヴァレンティノ ガラヴァーニ」とフルネームで表示され、このフルネームをもって紹介される・・・「VALENTINO」(Valentino)「ヴァレンティノ」といえば同氏を指すものと広く認識されるに至っているというべきである」(審決8頁第2段落)と認定したが、現在のファッション界においてその著名性が継続しているかは疑問であり、この認定は誤っている。
「VALENTINO GARAVANI」(Valentino Garavani)、「ヴァレンティノ ガラヴァーニ」のフルネームが著名であることは争わないが、「VALENTINO」(Valentino)は、イタリアにおけるごくありふれた氏姓であり(甲1)、そのことから「VALENTINO」、「Valentino」、「ヴァレンティノ」を含む、いわゆるブランドが数多く存在しているが(甲2)、我が国の取引者、需要者はブランドに対する関心は高く、ブランドの違いを見分ける確かな目や意識を持っているので、数多くの「VALENTINO」の文字を含むブランドが存在していても、デザインの相違、商品の相違、商標の相違などによって明確に識別することができ、単に「VALENTINO」(Valentino)のみの表示から直ちに「VALENTINO GARAVANI」(Valentino Garavani)を認識することはない。その上、我が国では、平成7年から「VALENTINO GARAVANI」のブランドマーケティングが行われておらず(甲16~19)、このことは、「VALENTINO GARAVANI」の標章が市場で取引者、需要者、特にブランドに関心が高く、ファッション性のある商品の購買層を占める女性の目にふれることがなくなっていることを示すものである。したがって、「その略称として「VALENTINO」(Valentino)「ヴァレンティノ」の商標・・・をもって我が国の取引者、需要者の間に広く知られていたというべきであり、このことは、少なくとも本願商標の登録出願時である平成13年6月21日前においてすでに我が国の取引者、需要者間に広く認識せられていたものであり、また、その状況は現在に至るまでも引き続き同様とみて差し支えないものである」(審決8頁第2段落)とした審決の認定判断は、取引の実情を顧みない誤ったものである。
ウ 取消事由3(出所混同のおそれに関する認定判断の誤り)
(ア) 審決は、「本願商標は、著名なデザイナーである「VALENTINO GARAVANI」の著名な略称「VALENTINO」を含む商標であり、その指定商品も引用商標の使用商品とは、ともにファッション関連の商品であって、両者はその需要者を共通にするものであるから、本願商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者・需要者は、引用商標と綴り字を同じくする「VALENTINO」の文字部分に着目し、容易に引用商標を連想・想起し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるといわなければならない」(審決9頁最終段落)と認定判断したが、誤りである。
まず、「VALENTINO」の文字は、「VALENTINO GARAVANI」の著名な略称であるということはできない。「VALENTINO」は、イタリアにおけるごくありふれた氏姓であり、かつ、「VALENTINO」の文字を含むブランドは数多く存在しているところから、ブランドに対する高い認識をもっている我が国の取引者、需要者が、「VALENTINO」のみに接する時、直ちに「VALENTINO GARAVANI」を想起するとは到底考えられない。
(イ) 仮に、略称として著名であっても、本願商標に係る商品と出所の混同を生ずることはない。すなわち、審決は、「指定商品も引用商標の使用商品とは、ともにファッション関連の商品であって、両者はその需要者を共通にするものである」(審決9頁最終段落)と認定したが、本願商標に係る指定商品はファッション性が求められる「被服」とは異なる。本願商標の指定商品の中で、例えば「食器」にファッション性が取り入れられることがあっても、それは著名ブランドに求められる一部の商品であって、その他のほとんどの商品は、日用品であり、台所用品であり、ファッション性が求められる商品ではない。すなわち、老若男女、すべての人々が必要としている極めて日常性が高い商品ばかりであるので、ファッション性よりも使い心地、使い勝手の良さ、あるいは耐久性が求められるのである。さらに、現在、本願商標を使用して既に市場に受け入れられている商品は、幼稚園児及び小学生などの子供を対象とした「おべんとう箱」を始めとする「ランチ用品」であり、全国約1500店舗以上のダイソーの100円ショップにおいて販売されているから、引用商標に係るファッション性が高い分野の高級品と比較するまでもなく、商品の性質、用途、目的からみても関連性は全くなく、商品の取引者、需要者も異なり、これらの取引の実情を総合的に判断すれば、両者における商品に関して出所の混同を生ずる余地は全くないものである。そして、現在、本願商標を使用している商品、すなわち、トリ、ウサギ、ネコ、などの動物のかわいらしい模様が付いている「ランチ用品」に接する子供達やその両親などが、本願商標をみて「VALENTINO GARAVANI」との関係で、容易に引用商標を連想・想起し、引用商標と何らかの関係があるかのごとく、その商品の出所について混同を生ずることは考えられるはずもない。
(ウ) 本願商標に係る「ランチ用品」は、注目ブランド、キャラクターを内外にプロデュースして市場に送り出している株式会社イングラムに業務委託をしているが、甲3~5に係る登録商標(いずれも「FEMMIO VALENTINO」とする文字商標。登録第4217667号商標、同第4217668号商標、同第4272728号商標。以下、順に「甲3商標」、「甲4商標」、「甲5商標」という。)のライセンス事業から拡大したもので、「ランチ用品」は、全国のダイソー全店のうち、1500店舗以上において商品展開され、その結果、市場に認知され受け入れられており、本願商標には独自の信用、顧客吸引力が生じているのである(甲29)。また、原告の甲3商標ないし甲5商標は、本願商標の出願前、わずか2年ないし3年前に商標登録されたものであり、本願商標に対して正反対の判断をしなければならない事情の変化があったとは到底考えられない。
2 請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の事実はいずれも認め、同(4)は争う。
3 被告の反論
審決の認定判断は正当であり、以下に述べるとおり原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1(本願商標に関する認定判断の誤り)に対し
ア 本願商標は、前記のとおり、上段に縦長の楕円形内にデザイン化した欧文字らしき文字を配した図形部分と、下段に「FEMMIO VALENTINO」を横書きした文字部分の構成からなり、図形部分と文字部分は、視覚上分離した構成となっている。また、文字部分は、「FEMMIO」と「VALENTINO」が半文字程度間隔を空けて表示されていること、全体として15文字からなり称呼も冗長といえること、全体として特定人名や成語として世上一般に知られているものとはいえないことを考慮すると、本願商標は、その外観及び称呼のいずれの点においても、「FEMMIO」と「VALENTINO」と二分して認識され得るものであり、後半部分は引用商標の「VALENTINO」表示と同一の文字構成からなるものである。そうすると、本願商標は、「FEMMIO VALENTINO」全体が常に一体不可分のものとして、取引者、需要者に把握され、認識されるものとはいい難く、むしろ、「VALENTINO」表示の著名性の程度を考慮すると、その構成中の「VALENTINO」の部分が、「VALENTINO GARAVANI」に係る「VALENTINO」表示を表したものと把握され、認識されることによって取引者、需要者の注意を特に強く引くものといえるものである。そうすると、本願商標に接する取引者、需要者は、本願構成中の「VALENTINO」の文字部分をとらえ、これより生ずる「バレンチノ」の称呼、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザイナーブランドである「バレンチノ」の観念をもって取引に当たる場合が少なくないというべきである。原告は、本願商標は、特徴的な図形部分を無視あるいは除外して判断すべきではないと主張するが、図形部分と文字部分が視覚上分離する構成になっているばかりでなく、当該図形部分が、「VALENTINO」表示の著名性を無視し得るほどの著名性を有しているとは認められない。また、一般に、商標を使用するに当たって、自己の取扱う商品の全体に、統一的に使用されるいわゆるハウスマークとともに、その取扱う同種商品のうち他の商品と区別するために、商品ごとにそれぞれの別のマークを併記して使用する傾向があるのが実情である。そうすると、「VALENTINO」表示の著名性に照らせば、たとえ、本願商標の構成中の図形部分に注意が注がれるとしても、それは、「VALENTINO」表示の関連する商品のうちの個別商品(シリーズ商品)であると認識するにとどまるものというべきであって、その図形部分によって、本願商標中の「VALENTINO」が、ヴァレンティノ・ガラヴァーニに係る「VALENTINO」表示を表し、取引者、需要者の注意を特に強く引くことを減殺するものではない。
イ 「VALENTINO」表示に係る「婦人服、紳士服、靴、ネクタイ、ベルト、カバン」等は、身にまとい、また履いて装いを整え、着飾る等に用いられるファッション関連商品であって、デザイン性が求められる商品であるといえる。他方、本願商標の指定商品は、日用品ではあるものの、デザイン性も求められる商品といえる。例えば、指定商品中の「化粧用具、洋服ブラシ、靴ブラシ、靴べら、靴磨き布、軽便靴クリーナー」は、美感、装いを整える、着飾る等に用いられる商品である。そうすると、本願商標の指定商品中「化粧用具、洋服ブラシ、靴ブラシ、靴べら、靴磨き布、軽便靴クリーナー」と「VALENTINO」表示に係る「婦人服、紳士服、靴、ネクタイ、ベルト、カバン」等とは、共に、美感、装いを整える、着飾る一連の用途に関わる商品であり、デザイン性やファッション性も求められている商品であるから、関連性の深い商品といえる。さらに、本願商標の指定商品も「VALENTINO」表示に係る「婦人服、紳士服、靴、ネクタイ、ベルト、カバン」も日常的に使用されるものであって、機能性を重視するというよりは、見た目、デザイン性を重視するものであり、殊にその需要者は特別な専門的な知識経験を有しない一般大衆(消費者)であって、これを購入する際に払われる注意はさほど綿密なものでないから、両者はその需要者を共通にし、かつ、その商品や商標に払われる注意力も同等であるといえる。
ウ また、著名商標である「VALENTINO」を含む本願商標は、デパートで販売しようが「100円ショップ」で販売しようが、それはその企業の事業展開の一つにすぎないものである。そして、事業展開は企業の販売戦略によって、しばしば変化することは日常よく見られることであって、現在の販売方法が今後も継続し、固定していくこともない。現に、ジャスコ等の大手スーパーにおいても「100円ショップ」が、進出しているのであり、「100円ショップ」だからといって、著名ブランドを扱わないとは必ずしもいえない。また、「100円ショップ」といっても300円等の他の価格帯の商品が現実に売られている。このように、現代における企業の事業展開は、「100円ショップ」も含めて、様々な事業展開が考えられるものである。さらに、ある業者が、「100円ショップ」で事業展開している商品を別な事業展開、例えば、大手スーパー、デパートで事業を行っていても、それは単に事業展開の戦略の方法であって、本願商標の商品と「VALENTINO」表示に係る商品は、共に日常的に使用されるもので、かつ、一般消費者を相手に販売していることに何ら変わりはない。
(2) 取消事由2(引用商標に関する認定判断の誤り)に対し
ア 「VALENTINO」表示は、ファッション関連商品におけるデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニを示す略称として、また、同氏のデザイナーブランドである「VALENTINO GARAVANI」、「ヴァレンティノ ガラヴァーニ」を示す表示として、昭和51年以来、読売新聞、朝日新聞、日本経済新聞の全国紙や地方紙等の新聞、各種ファッション関連雑誌や書籍に繰り返し掲載され、また、商標「VALENTINO GARAVANI」、「ヴァレンティノ ガラヴァーニ」の使用者自身も「ヴァレンティノ」、「VALENTINO」、「バレンチノ」を使用していることから、「VALENTINO」表示は、「VALENTINO GARAVANI」、「ヴァレンティノ ガラヴァーニ」を示すものとして、優に、わが国の取引者、需要者間に広く認識され周知・著名なものとなっていたものである。そして、「VALENTINO」表示は、ヴァレンティノ・ガラヴァーニがデザインした婦人服、紳士服、靴、ネクタイ、ベルト、バッグ等のファッション関連商品におけるデザイナーブランドとして、少なくとも本願商標の登録出願時である平成13年6月21日前において、既にわが国の取引者、需要者間に広く認識され周知・著名なものとなっていたものであり、かつ、その状態が本願商標の判断時期である審決時(平成17年4月12日)まで継続している。
イ 原告は、「VALENTINO」はイタリアにおけるごくありふれた氏姓であり、かつ、「VALENTINO」の文字を含むブランドは数多く存在しているところから、ブランドに対する高い認識をもっている我が国の取引者、需要者が、「VALENTINO」のみから直ちに「VALENTINO GARAVANI」を想起するとは到底考えられないと主張する。しかし、「VALENTINO」は、我が国においてはありふれた氏姓ないし名前であるとは認め難いものであり、イタリアにおいてありふれた氏姓ないし名前であるとしても、そのことが、我が国において商標として機能することを否定することにはならない。さらに、本願商標中の「FEMMIO VALENTINO」の文字は、全体として特定人名や成語として一般的に知られているものとはいえないし、「FEMMIO VALENTINO」全体が一体不可分のものとして、取引者、需要者に把握され、認識されるものとはいい難く、むしろ、上述した「VALENTINO」表示の著名性を考慮すると、その構成中の「VALENTINO」の部分が、「VALENTINO GARAVANI」に係る「VALENTINO」表示を表したものと把握され、認識されることによって取引者、需要者の注意を特に強く引くものといえるものであり、この点は、「VALENTINO」等を含む商標が他に存在するかにかかわらないというべきである。
(3) 取消事由3(出所混同のおそれに関する認定判断の誤り)に対し
「VALENTINO」表示は、上述したとおり、ヴァレンティノ・ガラヴァーニがデザインした婦人服、紳士服、靴、ネクタイ、ベルト、バッグ等のファッション関連商品におけるデザイナーブランドとして、少なくとも本願商標の登録出願時である平成13年6月21日前において、既に、わが国の取引者、需要者間に広く認識され周知・著名なものとなっていたものであり、かつ、その状態が本願商標の判断時期である審決時(平成17年4月12日)まで継続している。そして、「VALENTINO」表示は、少なくとも我が国においては一定程度の独創性を備えたものである。
また、本願商標は、文字部分が、「FEMMIO」と「VALENTINO」が半文字程度間隔を空けて表示されていること、全体として15文字からなり称呼も冗長といえること、全体として特定人名や成語として世上一般に知られているものとはいえないことを考慮すると、外観及び称呼のいずれの点において、「FEMMIO」と「VALENTINO」と二分して認識されうるものであり、後半部分は「VALENTINO」表示と同一の文字構成からなるものである。そうすると、本願商標は、その構成中、「FEMMIO VALENTINO」の文字部分がその全体を常に一体不可分のものとして、取引者、需要者に把握され、認識されるものとはいい難く、むしろ、「VALENTINO」表示の周知・著名性の程度を考慮すると、その構成中の「VALENTINO」の部分が、「VALENTINO GARAVANI」に係る「VALENTINO」表示を表したものと把握され、認識され、取引者、需要者の注意を特に強く引くものといえるものであり、これより生ずる「バレンチノ」の称呼、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザイナーブランドである「バレンチノ」の観念をもって取引に当たる場合が少なくないものである。そして、本願商標は、その構成中に図形を配した構成であるとしても、当該図形部分が「VALENTINO」表示の著名性を無視し得るほどの著名性が認められない以上、図形部分によって、本願商標中の「VALENTINO」部分が「VALENTINO GARAVANI」に係る「VALENTINO」表示を表すことの識別性に影響するものではない。
さらに、上述したとおり、本願商標の指定商品中「化粧用具、洋服ブラシ、靴ブラシ、靴べら、靴磨き布、軽便靴クリーナー」と「VALENTINO」表示に係る「婦人服、紳士服、靴、ネクタイ、ベルト、カバン」等とは、共に、美感、装いを整える、着飾る一連の用途に関わる商品であり、デザイン性やファッション性も求められている商品であるから、関連性の深い商品である。また、本願商標の指定商品も「VALENTINO」表示に係る「婦人服、紳士服、靴、ネクタイ、ベルト、カバン」も日常的に使用されるものであって、機能性を重視するというよりは、見た目、デザイン性を重視するものであり、殊にその需要者は特別な専門的な知識経験を有しない一般大衆(消費者)であって、これを購入する際に払われる注意はさほど綿密なものでないから、両者はその需要者を共通にし、かつ、その商品や商標に払われる注意力も同等であるといえる。
したがって、以上の点を総合的に判断すれば、本願商標をその指定商品について使用するときは、その取引者、需要者において、「VALENTINO」表示を連想、想起し、その商品がヴァレンティノ・ガラヴァーニ又は同人と営業上の関係又は「VALENTINO」表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信し、その商品の出所について混同を生じるおそれがあるというべきである。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯)、(2)(本願の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
そこで、以下において、原告の主張する取消事由ごとに審決の当否を判断することとする。
2 取消事由1(本願商標に関する認定判断の誤り)について
(1) 原告は、審決の「「VALENTINO」の著名性の程度、商品の関連性及び取引者及び需要者の共通性に照らすと、本願商標がその指定商品に使用されたときは、「VALENTINO」の部分がこれに接する取引者・需要者の注意を特に強く引くものといえる」(審決9頁第4段落)とした判断に対し、本願商標は、常に「フェミオバレンチノ」の一連の称呼が生ずるような使用態様をもって使用しているのであり、「フェミオバレンチノ」の称呼が冗長であるとはとてもいえるものではない等を理由に、「VALENTINO」の部分のみを抽出することはできないと主張する。
本願商標は、前記のとおり、縦長楕円形の中に「f」と「v」の欧文字を一字状に図案化してなる図形部分とその下段に「FEMMIO VALENTINO」の欧文字を表してなる文字部分とから構成されている。そして、その図形部分と文字部分は、視覚上分離した構成となっており、文字部分は、「FEMMIO」と「VALENTINO」が半文字程度間隔を空けて表示されている上、全体として15文字からなり称呼も冗長といえること、我が国において「FEMMIO VALENTINO」全体としては特定人名や成語として一般に知られているものとはいえないことを考慮すると、本願商標は、その外観及び称呼のいずれの点においても、「FEMMIO」部分と「VALENTINO」部分とに二分して認識され得るものである。そうすると、本願商標は、「FEMMIO VALENTINO」全体が常に一体不可分のものとして、取引者、需要者に把握され、認識されるものとは認め難い。そして、後述するように、「VALENTINO」表示は、著名なファッションデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に付されるブランドの表示として、我が国の婦人服、紳士服等のファッション関連分野の取引者、需要者にとって周知・著名であることを考慮すると、その構成中の「VALENTINO」の部分が、「VALENTINO GARAVANI」に係る「VALENTINO」表示を表したものと把握され、認識されることによって取引者、需要者の注意を特に強く引くものと認められる。したがって、「「VALENTINO」の著名性の程度、商品の関連性及び取引者及び需要者の共通性に照らすと、本願商標がその指定商品に使用されたときは、「VALENTINO」の部分がこれに接する取引者・需要者の注意を特に強く引くものといえる」(審決9頁第4段落)とした審決に誤りがあるということはできない。
原告は、本願商標は、文字部分と図形部分が常に一体不可分のものとして構成されているものではないが、図形は、縦長の楕円形の中に、「f」と「v」をモノグラム化した特徴的なもので、本願商標の文字部分の上段に、あるいは商品によっては、文字部分の前頭部分に必ず使用しているものであり、自他商品の識別性を有する商標として取引者、需要者の注意を惹起するものとなっているとも主張する。しかし、本願商標の図形部分は、独創性が強いものとまではいい難く、また、それ自体がファッション関連分野の取引者、需要者にとって周知である「VALENTINO」の文字部分をしのぐ周知性を獲得しているものとも認め難いから、看者の注意をひく程度が強く商品の出所表示機能が強い部分ということはできない。そして、本願商標は、図形部分と文字部分が視覚上分離した構成となっているのであるから、原告主張に係る上記図形部分の特徴を考慮しても、「VALENTINO」の部分が取引者、需要者の注意を特に強く引くとの上記判断を左右しないというべきである。
(2) また、原告は、審決の「引用商標は・・・被服等に使用されているものであり、その使用商品は、ファッション関連の商品であって、デザイン性が重要視される商品といえる」(審決8頁下第3段落)、「他方、本願指定商品は日用品ではあるが、デザイン性が求められる商品であり、また、ファッション業界において著名な標章(ブランド名)であるクリスチャンディオール、ティファニー、エルメス等が、日用品である食器等に使用している事実があることから、両者はともに、ファッション関連の商品であるといえる」(同下第2段落)とした認定に対し、本願商標と引用商標とは、同じく「デザイン性」といっても、被服等と日用品である本願指定商品とは比較するレベルが全く異なっている、著名ブランドを使用した食器等は、高級品であり高価格であるとの認識から人々が日常的に購入し、消費するものではないのに対して、本願商標に係る指定商品は、極めて日常性が高く、子供から高齢者まで男女の差なく、すべての人々に必要な商品であり、食卓や台所での使い勝手のよさ、あるいは商品の耐久性が求められるものであり、ファッション性には関係がない、などと主張する。
しかし、本願商標の指定商品は上記第3の1(2)記載のとおりであり、このうち、例えば、「化粧用具」、「洋服ブラシ」、「靴ブラシ」、「靴べら」、「靴磨き布」、「軽便靴クリーナー」は、美感、装いを整える、着飾る一連の用途に関わる商品で、デザイン性やファッション性も求められている商品であるから、本願商標の指定商品についてファッション関連の商品でもあるといえるとした審決の認定に誤りがあるということはできない。原告は、本願商標に係る指定商品は、極めて日常性が高く、子供から高齢者まで男女の差なく、すべての人々に必要な商品であり、食卓や台所での使い勝手のよさ、あるいは商品の耐久性が求められるものであると主張するが、本願商標の指定商品は上記のとおりであり、原告が主張する商品に限られるものではないから、原告の主張は前提において誤りであるというほかない。
(3) さらに、原告は、審決の「商品の需要者もともに主として一般消費者であって、本件商標の指定商品が日常的に消費される性質の商品であり、殊にその需要者は特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であって、これを購入するに際して払われる注意はさほど綿密なものではないといえることから、両者はその需要者を共通にするものである」(審決8頁最終段落~9頁第1段落)との認定に対し、著名ブランドを使用した商品のような高級品を購入する際に払われる注意は相当に綿密なものであるのに対して、本願商標を使用した商品は、現在「ランチシリーズ」商品として100円ショップで販売されており、需要者・消費者、販売経路のいずれにおいても共通するところはないなどと主張する。
しかし、商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」を判断するに当たっては、出願に係る商標の指定商品全部、すなわち上記第3の1(2)記載の商品すべてについて、これを一般的に検討すべきであり、出願人固有の取引の実情を混同を否定する方向に斟酌することは許されないというべきである。なぜならば、原告が現在本願商標を上記のように使用していたとしても、それは原告の事業展開の一つにすぎないものであり、事業展開がしばしば変化することは日常よく見られることであって、現在の販売方法が今後も継続し、固定していくとは限らないからである。そして、本願指定商品全体についてこれを一般的に検討すれば、上記審決の認定に誤りはないというべきであるから、原告の上記主張も採用することができない。
(4) 以上検討したところによれば、本願商標に関する認定判断の誤りをいう原告の取消事由1の主張は、理由がない。
3 取消事由2(引用商標に関する認定判断の誤り)について
(1) 原告は、審決の「同氏の名前は、「VALENTINO GARAVANI」(Valentino Garavani)「ヴァレンティノ ガラヴァーニ」とフルネームで表示され、このフルネームをもって紹介される。・・・「VALENTINO」(Valentino)「ヴァレンティノ」といえば同氏を指すものと広く認識されるに至っているというべきである」(審決8頁第2段落)との認定に対し、現在のファッション界においてその著名性が継続しているかは疑問であり、この認定は誤りであると主張する。
(2) 証拠(乙1~42、甲15)によれば、次の事実を認めることができる。
ア ヴァレンティノ・ガラヴァーニは、1932年(昭和7年)イタリア国ボグヘラで生まれ、パリ洋裁学院でデザインの勉強をし、フランスの有名なデザイナー「ジーン・デシス、ギ・ラ・ロシュ」の助手として働いた後、1959年(昭和34年)、ローマで自分のファッションハウスを開設した。1967年(昭和42年)にはデザイナーとして最も栄誉ある賞といわれる「ファッションオスカー(Fashion Oscar)」を受賞し、ライフ誌、ニューヨークタイムズ誌、ニューズウィーク誌など著名な新聞、雑誌にヴァレンティノ・ガラヴァーニの作品が掲載された。これ以来、ヴァレンティノ・ガラヴァーニは、イタリア・ファッションの第一人者としての地位を確立し、国際的なトップデザイナーとして知られるようになった。
イ 昭和51年10月2日発行「日刊ゲンダイ」(乙1の1)及び昭和51年10月1日発行「センイ・ジャァナル」(乙1の8)には、我が国において、ヴァレンティノ・ガラバーニのデザインによる紳士・婦人服装、雑貨の輸入・販売を目的とする「株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパン」が昭和49年7月輸入専門商社アオイ、サンフレール及び三井物産の協同出資により設立され、東京・大阪を中心に全国に20店舗を設ける事業展開を行い、昭和51年7月期決算(11か月決算)では年商8億2000万円、昭和52年8月決算では12億円を予定している旨の記載がある。株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパンの広告宣伝費、販売促進費及び展示会費の合計金額は、本願商標の登録出願前の平成5年(1993年)に1億3500万円、平成6年(1994年)に2億0400万円、平成7年(1995年)に7000万円、平成8年(1996年)に9500万円、平成9年(1997年)に1億0900万円であり、また、商品の売上高は、平成5年(1993年)が55億6000万円、平成6年(1994年)が49億2000万円、平成7年(1995年)が39億6900万円、平成8年(1996年)が41億3100万円、平成9年(1997年)が41億4400万円である(乙40~42)。
ウ 田中千代著同文書院昭和56年(1981年)発行「服飾辞典」(乙36)及びディビィド・クルンタル編集株式会社岩波書店平成9年(1997年)発行「岩波=ケンブリッジ世界人名辞典」(乙38))には、「ヴァレンティノ」の項が設けられていて、その項に「ヴァレンティノ」の語がヴァレンティノ・ガラヴァーニを示すことや「ヴァレンティノ」の語が単独で説明に記載され、また、本願商標の登録出願前の昭和51年9月30日ないし平成5年8月28日にわたり発行された日刊「ゲンダイ」、読売新聞、日経流通新聞、繊研新聞、「センイ・ジャァナル」、朝日新聞、秋田さきがけ、河北新報、東奥日報、山陰中央新報、サンケイ新聞、宮崎日日新聞、日経産業新聞、福島民友新聞、ディリースポーツ、徳島新聞、公明新聞、夕刊フクニチ、千葉日報、日本経済新聞及び報知新聞の記事や見出し中には、「ヴァレンティノ」又は「バレンチノ」等と略称して、ヴァレンティノ・ガラヴァーニに関する記事が掲載される(乙1の1~25)など、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの名前は、「VALENTINO GARAVANI」、「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」とフルネームで表示されるほか、単に、「VALENTINO」、「Valentino」、「ヴァレンティノ」、「バレンチノ」等と略称として、又は同人のデザインに係る商品群に使用されるブランドの略称を表すものとして使用されている。
また、「VALENTINO GARAVANI」及び「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」並びにその略称である「VALENTINO」、「Valentino」、「ヴァレンティノ」及び「バレンチノ」の表示は、「世界の一流品大図鑑」1981年版(乙2)、「世界の一流品大図鑑」1983年版(乙3)、「世界の一流品大図鑑」1985年版(乙4)、「男の一流品大図鑑」1985年版(乙5)、「世界の一流品大図鑑」1988年版(乙6)、「男の一流品大図鑑」1988年版(乙7)、「世界の一流品大図鑑」1990年版(乙8)、「男の一流品大図鑑」1991年版(乙9)、「ヴァンサンカン(25Ans)」1987年10月号、1989年5月号、1994年4月号及び同10月号(乙10~13)、「SUPR」1989年11月号及び同12月号(乙14、15)、「ミス家庭画報」1989年5月号、1990年5月号、同7月号、1994年4月号及び同6月号(乙16~20))、「ミセス」1994年5月号(乙21)、「ヴァンテーヌ」1994年10月号及び同12月号(乙22、23)、「JJ」1990年6月号(乙24))、「Oggi」1993年10月号(乙25)、「CLASSY」1993年10月号(乙26)、「マリ・クレール」1993年10月号(乙27)、「ル・クール」1993年10月号(乙28)、「ELLE」1997年8月号(乙29)、「エル・ジャポン」1997年8月号(乙30)、「ドンナ ジャポーネ」1998年4月号(乙31)、「世界の一流品大図鑑」1977年版(乙32)、「EUROPE一流ブランドの本」1977年12月号(乙33)、「朝日新聞」1982年11月20日発行(乙34)、「nonno」1989年12月号(乙35)等の各種ファッション関連雑誌及び新聞において、ファッション関連商品におけるデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニを示す略称として、また、同人のデザイナーブランドである「VALENTINO GARAVANI」、「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」を示す表示として、繰り返し掲載されている。
エ 加えて、日本法人である株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパンは、「ヴァレンティノ」(乙1の1)及び「VALENTINO」(甲15)の商標を使用し、また、山田政美著株式会社研究社1991年発行「英和商品名事典」(乙37)には、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの店の名称について、「Roma、Firenze、Milanoなどにあるその店の名称はValentino(Vは小文字で書くこともある)」と紹介されている。
(3) 以上認定したところによれば、「VALENTINO」、「Valentino」、「ヴァレンティノ」、「バレンチノ」の表示は、著名なファッションデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に付されるブランドの表示として、我が国の婦人服、紳士服等のファッション関連分野の取引者、需要者にとって、遅くとも平成9年ころまでには周知・著名となったものと認められ、その周知・著名性は、本件出願時(平成13年6月21日)を経て不登録事由の判断時期である本件審決時(平成17年4月12日)に至るまで継続していたものと推認される。
原告は、現在のファッション界において上記著名性が継続しているかは疑問であると主張するが、「VALENTINO GARAVANI」及び「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」並びにその略称である「VALENTINO」、「Valentino」、「ヴァレンティノ」及び「バレンチノ」の表示が各種ファッション関連雑誌及び新聞において、ファッション関連商品におけるデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニを示す略称として使用され、また、同人のデザイナーブランドである「VALENTINO GARAVANI」、「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」を示す表示として、各種ファッション関連雑誌及び新聞に繰り返し掲載されてきたことは上記(2)のとおりであり、その後上記推認を覆すような「VALENTINO」表示の周知・著名性の継続を阻害する事情が存したことを認めるに足りる証拠はなく、原告の上記主張は採用することができない。
また、原告は、「VALENTINO」(Valentino)は、イタリアにおけるごくありふれた氏姓であり(甲1)、そのことから「VALENTINO」、「Valentino」、「ヴァレンティノ」を含む、いわゆるブランドが数多く存在している(甲2)、我が国では、平成7年から「VALENTINO GARAVANI」のブランドマーケティングが行われていない(甲16~19)、などと主張する。しかし、「VALENTINO」(Valentino)がイタリア人の氏姓としてありふれたものであるとしても、そのことが我が国において商標としての識別力を備えることの妨げになるとは解されないし、まして、我が国においては「VALENTINO」(Valentino)は氏姓としてありふれたものであるとはいえず、これが上記使用等の事実の蓄積によって取引者、需要者にとって周知・著名となることを何ら妨げるものということはできない。また、甲2によれば、「ルドルフ・バレンチノ」、「ステファノ・ヴァレンチノ」、「ヴァレンチノクリスティー」(VALENTINOCHRISTY)等の「VALENTINO」、「バレンチノ」、「ヴァレンチノ」を含む商標が使用されていること、株式会社矢野経済研究所作成の2001年(平成13年)版ないし2003年(平成15年)版「ライセンスブランド全調査」(甲17~19)には「VALENTINO」ブランドに関するマーケティング調査が行われていないことが認められるが、これらの事実は、ヴァレンティノ・ガラヴァーニに係る「VALENTINO」表示の上記周知・著名性の成立及び継続を阻害するものであるとまでは認めることはできない。
(4) 以上検討したところによれば、引用商標に関する認定判断の誤りをいう原告の取消事由2の主張は、理由がない。
4 取消事由3(出所混同のおそれに関する認定判断の誤り)について
(1) 原告は、審決の「本願商標は、著名なデザイナーである「VALENTINO GARAVANI」の著名な略称「VALENTINO」を含む商標であり、その指定商品も引用商標の使用商品とは、ともにファッション関連の商品であって、両者はその需要者を共通にするものであるから、本願商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者・需要者は、引用商標と綴り字を同じくする「VALENTINO」の文字部分に着目し、容易に引用商標を連想・想起し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるといわなければならない」(審決9頁最終段落)との認定判断に対し、「VALENTINO」の文字は、「VALENTINO GARAVANI」の著名な略称であるということはできないから、我が国の取引者、需要者が「VALENTINO」のみに接する時、直ちに「VALENTINO GARAVANI」を想起するとは考えられないと主張する。
しかし、「VALENTINO」表示が、著名なファッションデザイナーであるヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に付されるブランドの表示として、我が国の婦人服、紳士服等のファッション関連分野の取引者、需要者にとって周知・著名であり、本願商標の構成中の「VALENTINO」の部分が、「VALENTINO GARAVANI」に係る「VALENTINO」表示を表したものと把握され、認識されることによって取引者、需要者の注意を特に強く引くものと認められることは、既に前記1、2に述べたとおりであり、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は、「VALENTINO」表示が略称として著名であっても、本願商標に係る指定商品のほとんどは、日用品であり、ファッション性よりも使い心地、使い勝手の良さ、耐久性が求められるのであり、現在、本願商標を使用して既に市場に受け入れられている商品は「ランチ用品」であり、100円ショップにおいて販売されているから、引用商標に係るファッション性が高い分野の高級品と関連性は全くなく、商品の取引者、需要者も異なり、これらの取引の実情を総合的に判断すれば、両者における商品に関して出所の混同を生ずる余地は全くないと主張する。
しかし、本願商標の指定商品中「化粧用具」、「洋服ブラシ」、「靴ブラシ」、「靴べら」、「靴磨き布」、「軽便靴クリーナー」は、美感、装いを整える、着飾る一連の用途に関わる商品であり、デザイン性やファッション性も求められている商品であることは、前記2(2)のとおりであり、また、現在、本願商標を使用して既に市場に受け入れられている商品は「ランチ用品」であり、100円ショップにおいて販売されているとしても、商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」を判断するに当たっては、出願に係る商標の指定商品全部について一般的に検討すべきであり、出願人固有の取引の実情を混同を否定する方向に斟酌することは許されないことは、前記2(3)のとおりであり、原告の上記主張も採用することができない。
(3) 原告は、甲29を援用し、本願商標に係る「ランチ用品」は、甲3商標ないし甲5商標のライセンス事業から拡大したもので、本願商標には独自の信用、顧客吸引力が生じているのであると主張する。しかし、甲29を含め、本件全証拠によるも、本願商標が、ヴァレンティノ・ガラヴァーニに係る「VALENTINO」表示との混同を生じさせないほどの独自の出所識別力を獲得しているものとは認められない。また、原告は、甲3商標ないし甲5商標が本願商標の出願前わずか2年ないし3年前に商標登録されたものであり、本願商標に対して正反対の判断をしなければならない事情の変化があったとは到底考えられないとも主張するが、本願商標の商標法4条1項15号該当性の判断は、本願商標につき個別具体的になされるべきであり、これとは別に甲3商標ないし甲5商標が商標登録された事実は、本願商標に係る上記判断を左右するものではなく(甲3商標ないし甲5商標の商標登録が確定判決により適法とされたわけでもない。)、採用することができない。
(4) 以上検討したところによれば、本願商標は、その指定商品について使用するときは、その商品があたかも著名なデザイナーであるValentiono Garavani/ヴァレンティノ・ガラヴァーニあるいは同人と何らかの関係にある者の業務に係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるというべきであり、これに関する認定判断の誤りをいう原告の取消事由3の主張も、理由がない。
5 結論
以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、本願商標は商標法4条1項15号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中野哲弘 裁判官 岡本岳 裁判官 上田卓哉)
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