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裁判年月日 令和 4年 3月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令3(ワ)19728号
事件名 発信者情報開示請求事件
文献番号 2022WLJPCA03188022
出典
裁判年月日 令和 4年 3月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令3(ワ)19728号
事件名 発信者情報開示請求事件
文献番号 2022WLJPCA03188022
大阪市〈以下省略〉
原告 X1労働組合
同代表者 X2
大阪府池田市〈以下省略〉
原告 X2
上記両名訴訟代理人弁護士 中島光孝
同 吉田恵美子
同 中井雅人
東京都渋谷区〈以下省略〉
被告 Y株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 川﨑友紀
同 八木優大
同 松井将征
主文
1 被告は,原告らに対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,原告らが,氏名不詳の発信者(以下「本件発信者」という。)によってインターネット上の動画サイトに掲載された別紙投稿動画目録記載の動画(以下「本件動画」という。)の投稿により名誉権を侵害されたことから,本件発信者に対する損害賠償請求権の行使のために必要であると主張して,経由プロバイダである被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,別紙発信者情報目録記載の情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実及び後掲各証拠により明らかに認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告X1労働組合(以下「原告組合」という。)は,昭和52年8月に法人登記され,原告肩書住所地に主たる事務所を置く労働組合である(甲1)。原告X2(以下「原告X2」という。)は,原告労働組合の代表者であり,執行委員長の肩書を有する者である(甲1,8)。
イ 被告は,インターネットインフラ事業,インターネット広告・メディア事業等を行い,ユーザーにインターネット接続サービスを提供している株式会社である(争いがない)。
(2) 本件動画の投稿等
ア 本件発信者は,令和2年9月14日,不特定多数の者によって閲覧されることを目的とするインターネットウェブサイトである「○○」(以下「本件サイト」という。)に本件動画を投稿した(弁論の全趣旨)。
イ 原告X2は,本件訴訟に先立ち,本件サイトを管理する事業主であるa社を相手方として,東京地方裁判所に本件動画の投稿に係るIPアドレス等の開示を求める仮処分を申し立て(同裁判所令和2年(ヨ)第3951号),令和3年4月19日,同申立てを認める決定を得て,上記事業主から,本件動画の投稿に係るIPアドレス等の開示を受けた(甲4,9,9の2)。その結果,上記IPアドレスが被告に割り当てられたものであることが判明した(甲5)。
ウ 原告ら代理人吉田恵美子弁護士(以下「吉田弁護士」という。)は,令和3年5月19日付けで,被告に対して発信者情報開示請求について連絡したところ,被告は,同月24日,本件発信者情報を保全する旨回答した(甲6の1)。また,吉田弁護士は,同月28日付けで,被告に対し発信者情報開示請求をしたところ,被告は,同年7月12日,「貴職依頼人の権利を侵害しているものと明確に判断することができませんでした。」と回答し,開示しなかった(甲6の2)。
エ 本件動画の投稿がインターネットを通じて不特定の者が自由に閲覧可能な「特定電気通信」(法2条1号)に当たること,被告のリモートホスト等が「特定電気通信設備」(法2条2号)に当たること,別紙投稿動画目録記載の投稿日時に同目録記載のIPアドレスが割り当てられた特定電気通信設備が被告の管理によるものであることは当事者間に争いがない。したがって,本件動画の流通により他人の権利が侵害されたときは,被告は,特定電気通信設備を用いて本件動画の投稿と閲覧を媒介し,その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者として「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(法4条1項)に該当するものと認められる。
(3) 本件発信者情報の保有
被告は,本件発信者情報を保有している(弁論の全趣旨)。
2 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 権利侵害の明白性の有無(争点(1))
(原告らの主張)
ア 本件動画の摘示事実及びそれにより原告らの社会的評価が低下することは,別表のとおりである。
イ 公共性
本件動画において摘示された事実等は,専ら不特定多数人の利害に関係するとはいえず,むしろ原告らに対して敵愾心を抱く一部の者の単なる好奇心の対象となる事実である。したがって,摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断する限り,公共の利害に関する事実とはいえない。
ウ 公益目的
本件動画は公共性がない上,その表現方法ないし表現内容は原告らに対する侮辱的な表現に満ち,また,十分な事実調査を経ずに断定的に表現するものであるから,公益目的は認められない。
エ 真実性の証明
(ア) 被告は,原告X2が有罪判決を受けたことを理由として,別表番号6及び7のような言動をさせていた可能性は否定できないと主張するが,摘示された事実が真実であることを基礎付ける主張は行っておらず,証明もしていない。
(イ) 被告は,b新聞の報道(乙1)をもって,別表番号3,8ないし12について真実である可能性が否定できないと主張するが,単なる可能性をいうだけであって,真実性を基礎づける主張も立証もしていない。b新聞の報道は,本件動画の投稿より後のものであり,本件動画の違法性を阻却する資料とはなり得ない。
(ウ) 被告は,権利侵害が明白であることが立証されていないと主張するが,本件動画による事実摘示等が原告らの社会的評価を低下させるものであること,本件動画がインターネットを通じて自由に閲覧できる方法により一般に公開されていることを考慮すれば,原告らの権利侵害は明白であるというべきである。
オ 意見ないし論評としての域を逸脱していないとの被告主張について
被告は,本件動画の表現や演出が意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえないと主張するが,仮に意見・論評であるとしても,その前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明がなければ違法性を欠くとはいえず,重要部分について真実であるとの主張も証明もない。
(被告の主張)
本件動画が原告らの社会的評価を低下させるものであるとの主張は争わない。しかし,次のとおり,違法性阻却事由が認められる余地があるから権利侵害が明白であるとはいえない。
ア 公共性
原告組合はその組合員たる労働者の経済的,政治的地位の向上を図ることをも目的とする(甲1)という社会的意義を有し,組合員に関わる企業,個人にとって原告組合の活動は影響力を有するから社会的影響力の大きい団体といえ,原告X2はその執行委員長である。また,本件動画は,その冒頭で語られるように原告らに関する刑事事件(乙1)に関する内容を含んでいる。よって,本件動画は,多数の人の社会的利害に関係する事実で,かつ,その事実に関心を寄せることが社会的に正当と認められるから,公共性が認められる。
イ 公益目的
本件動画には公共性が認められるから,原告らに対する嫌がらせや復讐といった公益以外の目的によるものであることを推認させる特段の事情がない限り,公益目的も認められる。
ウ 真実性の証明
乙1号証に掲載された事件については,原告X2に対して威力業務妨害罪について有罪判決が下されている(大阪地方裁判所令和3年7月13日判決・平成30年(わ)第4725号,令和元年(わ)第4635号)。よって,原告組合が原告X2又はその他組合員をして,別表番号6及び7のような言動をさせていた可能性は否定できない。
また,乙1号証によれば,「大津地検は一部の公判で,同支部(原告組合)が関西一円で生コンクリート製造業者らでつくる協同組合と提携関係を結び,協同組合に加盟していない企業に対して供給先の現場で嫌がらせをして排除する活動を行う見返りに協同組合から現金を得ていたと指摘した。」,「県警は資金の流れなど,組織の全容解明を進めている。」とある。よって,原告組合の資金の流れが不透明である旨の事実の指摘(別表番号3,8ないし12)が真実である可能性は否定できない。
したがって,本件動画の内容が真実であることまで証明されているとはいえないが,権利侵害が明白であることもまた立証されていない。
エ 意見ないし論評としての域を逸脱したものでないこと
本件動画には,本件組合に対する批判的で強烈な表現が散見される(別表番号1ないし4)。また,原告X2を金色のネックレスに胸元のはだけた紫色のワイシャツを着用している容貌で描写する(別表番号5)など,一部不適切な演出が存在する。しかし,このような表現や演出も,原告組合が原告X2又はその他組合員をして被害者の業務を妨害する言動をさせていた可能性が否定できないこと等に鑑みれば,意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえない。
(2) 本件発信者情報の開示を受けるべき「正当な理由」の有無(争点(2))
(原告らの主張)
原告は,本件発信者に対し,権利侵害を理由として不法行為に基づく損害賠償請求をする予定であり,本件発信者情報の開示を求める「正当な理由」がある。
(被告の主張)
争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(権利侵害の明白性の有無)について
(1) 原告らは,別表の番号1から12までの摘示事実について,いずれも原告らの社会的評価を低下させるものであると主張する。
そこで検討するに,本件動画は,原告組合については,同組合が反社会的勢力であるとの事実を摘示するもの(別表番号1。以下「本件摘示事実1」という。),原告らに共通するものとして,原告X2が「これで組合費が,がっぽがっぽだ。」などと発言し,組合活動名目で私利私欲を図っている旨の事実を摘示するもの(別表番号3。以下「本件摘示事実3」という。),原告X2が滋賀県東近江市の商社支店長に対し「生コン,ウチから買えや!!」,「断るんか?大変なことになるぞ。」と恫喝した事実(別表番号7及び8。以下「本件摘示事実7・8」という。)を摘示するものといえ,少なくともこれらについては原告らの社会的評価を低下させるものであると認められる。
(2) 違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の有無
ア 公共性及び公益目的について
証拠(甲8・1頁)によれば,原告X2を含む原告組合の執行委員や組合員らが,平成30年8月以来,威力業務妨害罪,強要(未遂)罪,恐喝(未遂)罪などにより,延べ89名及び原告らと協力関係にあった生コン事業者らが運営している生コンクリート協同組合の役員らが逮捕されるという事件(以下「関西生コン事件」という。)が発生したこと,逮捕された者のうち,原告X2を含む原告組合の組合員67名が大阪地方裁判所,大津地方裁判所,京都地方裁判所,和歌山地方裁判所にそれぞれ起訴され,既に数名が有罪判決を受けていることが認められる。また,証拠(乙1)によれば,b新聞は,平成31年2月頃,準大手ゼネコンが滋賀県東近江市で進めていた倉庫建設工事をめぐり,原告組合の幹部らが,提携する協同組合の加盟企業と供給契約を結ぶようゼネコン側を脅したとされる事件で,滋賀県警が恐喝未遂容疑で原告組合の組合員16人の逮捕状を請求したことが捜査関係者への取材で分かった旨,捜査関係者によると,逮捕状が請求されたのはいずれも別の威力業務妨害事件で起訴されている原告組合執行委員のBらである旨,同人らは平成29年3月から同年7月頃に原告組合の他の幹部らと共謀し,ゼネコンが手掛ける建設現場で因縁をつけるなどの嫌がらせを繰り返した疑いが持たれている旨,事件をめぐってはこれまでに原告組合執行委員長の原告X2をはじめ原告組合や協同組合幹部ら9人が起訴され,2人が有罪判決を受けている旨,大津地方検察庁が一部の公判で原告組合が関西一円で生コンクリート製造業者らで作る協同組合と提携関係を結び,協同組合に加盟していない企業に対して供給先の現場で嫌がらせをして排除する活動を行う見返りに協同組合から現金を得ていたと指摘した旨,県警が資金の流れなど組織の全容解明を進めている旨をインターネット記事で報じたことが認められる。
本件動画は,その題名及び内容に照らし,原告ら及び原告組合の組合員が関与したとされる関西生コン事件の内容を紹介するものであると認められ,同事件においては実際に恐喝未遂容疑や威力業務妨害容疑で逮捕・起訴されているというのであるから,犯罪行為に関するものである。よって,本件動画の摘示事実は,いずれも公共の利害に関するものと認められる。
また,本件動画の投稿は,原告X2ら組合員の被疑事実について広く社会に伝えることを主たる目的とするものといえるから,専ら公益を図る目的でされたものと認められる。
イ 真実性について
(ア) 原告X2及びその他の原告組合の組合員らは,実際に恐喝未遂容疑や威力業務妨害容疑で逮捕・起訴されている(なお,被告は,乙1号証で報道された事件について,原告X2に対して威力業務妨害罪について有罪判決が下されていると指摘しているところ,原告らもこれを否定していない。)のであるから,原告X2が自身又はその他の組合員と通じて,被害者企業に対して本件摘示事実7・8のような恫喝をしたことがうかがわれる。
したがって,本件摘示事実7・8については真実である可能性があり,違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情が存するものと認められる。
(イ) 他方で,被告組合が反社会的勢力であるという本件摘示事実1については,確かに,関西生コン事件において原告組合の組合員から延べ89名もの逮捕者が出ていること,政府の犯罪対策閣僚会議幹事会が平成19年6月19日付けで公表した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」において,「反社会的勢力」は「暴力,威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」であると定義され,暴力団,暴力団関係企業,総会屋等の属性要件に着目するとともに,暴力的な要求行為,法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要であるとされていることに照らすと,原告組合も,上記事件からうかがえる組合員の行為のみに着目すれば,そのような評価を受ける余地が全くないとはいえない。
しかし,国語辞典によれば,反社会的勢力とは「暴力団など」とその用例が紹介されており,基本的には暴力団又はその関係者(関係企業)といった属性を念頭に置いているものと思われる。また,少なくとも本件証拠上は,乙1号証の記事が提出されたのみで関西生コン事件の全容(詳細)が明らかにされていないこと,原告組合の法人設立登記は昭和52年であり,普段は組合員の生活や雇用を維持するために通常の組合活動に従事し,事件に関与していない組合員も多数存するものと推察されることも併せ考慮すると,乙1号証の記事に記載された事件の概略のみから直ちに原告組合が「反社会的勢力」であるとまでは認められない。
(ウ) また,本件摘示事実3については,被告から真実性の主張・立証は何らされていない。
(3) 小括
したがって,少なくとも本件証拠上は,本件摘示事実1及び3については原告らの名誉を毀損するものといえるから,その点で権利侵害が明白であることをいう原告らの主張は理由がある。
2 争点(2)(本件発信者情報の開示を受けるべき「正当な理由」の有無)について
本件動画は,前記1で説示したとおり,少なくとも本件訴訟においては,原告らに対する名誉権侵害を構成するといえるから,原告らが本件動画を投稿した本件発信者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することが一応可能である。そうすると,本件発信者に係る契約者情報(本件発信者情報)は,原告らの損害賠償請求権の行使のために必要であると認められるから,原告らは,本件発信者情報の開示を受けることにつき「正当な理由」(法4条1項2号)を有しているというべきである。
第4 結論
以上によれば,原告らの請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第44部
(裁判官 金久保茂)
【別紙】
発信者情報目録
別紙投稿動画目録記載のIPアドレスを,同目録記載の各投稿日ころに被告から割り当てられていた契約者に関する以下の情報。
① 氏名または名称
② 住所
③ 電子メールアドレス
以上
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