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裁判年月日 令和 3年10月27日 裁判所名 大阪高裁 裁判区分 判決
事件番号 令3(行コ)56号
事件名 違法公金支出金返還請求控訴事件
裁判結果 控訴棄却 上訴等 確定 文献番号 2021WLJPCA10276006
裁判経過
第一審 令和 3年 4月23日 京都地裁 判決 令2(行ウ)5号 違法公金支出返還請求事件
出典
判例地方自治 481号25頁
参照条文
地方自治法242条の2第1項4号
裁判年月日 令和 3年10月27日 裁判所名 大阪高裁 裁判区分 判決
事件番号 令3(行コ)56号
事件名 違法公金支出金返還請求控訴事件
裁判結果 控訴棄却 上訴等 確定 文献番号 2021WLJPCA10276006
京都市〈以下省略〉
控訴人 X1
京都市〈以下省略〉
控訴人 X2
控訴人ら訴訟代理人弁護士 別紙控訴人ら代理人目録記載のとおり
京都市〈以下省略〉
被控訴人 京都市長 Y
同訴訟代理人弁護士 野﨑隆史
大阪市〈以下省略〉
被控訴人補助参加人 吉本興業株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 原田裕
同 西田伸祐
同 向井義博
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(当審における補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
(以下,特に定義しない限り,略称は原判決の例による。)
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,Y及び被控訴人補助参加人に対し,連帯して420万円及びこれに対する令和元年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
3 被控訴人は,Bに対し,420万円及びこれに対する令和元年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償命令をせよ。
第2 事案の概要
1 本件は,京都市が,被控訴人補助参加人(参加人)との間で,「京都国際映画祭2018」(本件映画祭)及び京都市の重要施策の周知・振興を目的として業務を委託する契約(本件委託契約)を締結し,委託料420万円を参加人に支払ったところ,京都市の住民である控訴人らが,①参加人の所属タレントが本件委託契約に基づき行ったSNS(ツイッター)の発信は,いわゆるステルスマーケティングであり,広告倫理上問題があるから,本件委託契約は違法かつ無効である,②随意契約によることができないにもかかわらず随意契約により,不相当に高額な対価で締結された本件委託契約は違法かつ無効である,③SNSを発信したタレントのツイッターフォロワー数が契約条項に適合しておらず,参加人に債務不履行があったなどとして,当時の京都市総合企画局市長公室広報担当広報課長であるB(相手方B)が京都市長の専決権者として行った委託料の支出命令(本件支出命令)は違法であり,それにより京都市が損害を受けた等と主張して,京都市の執行機関である被控訴人に対し,
(1) 地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき,
ア 本件支出命令の当時,本来的権限を有する京都市長であったY(相手方Y)に対して不法行為に基づき420万円の損害賠償請求をすること(請求①),
イ 本件支出命令に係る相手方である参加人に対して,本件委託契約が違法無効であることを前提に同額の不当利得返還請求をすること,又は,債務不履行に基づき同額の損害賠償請求をすること(請求②),
(2) 同号ただし書に基づき,本件支出命令の当該職員である相手方Bに対して同額の損害賠償命令をすること(請求③)
を求める事案である。
原判決は控訴人らの請求をいずれも棄却したため,これを不服とする控訴人らが控訴した。
2 関係法令の定め及び前提事実
関係法令の定め及び前提事実は,原判決「事実及び理由」第2の2及び3記載のとおりであるから,これを引用する。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
争点及び争点に関する当事者の主張は,次の4において当審における控訴人らの補充主張を加えるほかは,原判決「事実及び理由」第2の4及び5記載のとおりであるから,これを引用する。
4 当審における控訴人らの補充主張
(1) ステルスマーケティング
原判決は,本件各投稿の記載等を勘案すれば京都市の広告であることは理解できるので,消費者の自主的合理的判断を阻害するおそれはないとする。
しかし,消費者購買への影響において,インターネットでの口コミは,テレビに比肩する影響力を有するに至り,広告費を比べると,インターネット広告は2019年時点においてテレビ広告を上回る規模となっている。このような状況において,広告であることを隠した口コミであるステルスマーケティングは,問題が大きいにもかかわらず,我が国では未だに法規制がなされていない。そこで,口コミ広告業界では自主規制として「WOMマーケティングに関するガイドライン」(以下「WOMガイドライン」という。)を制定し,改訂を重ねている。WOMガイドラインでは,消費者が自主的合理的に判断するために,口コミ広告には主体(広告主)だけでなく便益(を情報発信者が受けていること)を明示すべく,「♯プロモーション」などの「便益タグ」を付することを求めている。消費者庁も便益タグの周知状況,浸透状況を調査の柱とするなど,主体と便益の明示を徹底することは,ステルスマーケティングの弊害を回避し,消費者の自主的合理的判断を阻害しないための鍵となっている。
このように,主体と便益の明示を徹底することは,消費者の自主的合理的判断を阻害しないために重要とされているにもかかわらず,本件各投稿には情報発信者であるCとDが広告主である京都市から便益を受けていることが明示されておらず,本件各投稿がWOMガイドラインの基準を満たしていないことは明らかである。
この点について原判決は,参加人の所属タレントらが結成した「京都市盛り上げ隊」が被控訴人を表敬訪問したとの報道の存在を理由に,本件各投稿についても,広告主である京都市から便益が提供されているであろうことは想像できるとする。しかし,同報道は,本件各投稿の約1か月半前の小さな記事にすぎず,この報道を根拠に,本件各投稿の閲覧者が,CやDが京都市から便益を受けていることを理解できたとするのは無理がある。
以上のとおり,便益が明示されていない本件各投稿は,WOMガイドラインに照らしても,消費者の自主的合理的判断を阻害する危険があると言うほかない。そして,京都市自身が,京都市消費者条例を定めて,消費者の心理を操作して契約締結を勧誘する行為を禁止していることなどからすれば,本件各投稿は公序良俗に違反する違法行為である。仮に本件各投稿自体が公序良俗に違反しないとしても,京都市がこれを行うことは裁量権を逸脱濫用するものであり,違法である。
(2) 随意契約
原判決は,本件委託契約が随意契約で締結されたことについて,本件映画祭の運営が参加人の関連会社に委託され,本件映画祭には主に参加人所属タレントが出演することが予想されるから,本件映画祭の宣伝にも参加人所属タレントを起用することが合目的的であるとして,「その性質又は目的が競争入札に適さない」場合に当たり,随意契約としたことは違法ではないとする。
しかし,消費者保護のために広告業界が定めた自主規制を遵守しない会社が本件委託契約の相手方として条件を満たさないことは明らかである。口コミ広告を計画する以上,依頼先はWOM加盟が最低条件となる。仮に,本件映画祭との関係で参加人所属タレントの起用に一定のメリットが認められるとしても,参加人は契約の相手方として条件を満たさないのであるから,競争入札を排して参加人と随意契約を締結することは違法である。
(3) 債務不履行
原判決は,20万人のフォロワーを有するタレントがSNSで計2回発信することが本件委託契約の内容であり,フォロワーが20万人を超えるDが2回発信しているから,参加人に債務不履行はないとする。
しかし,本件委託契約を受けた見積書では,「SNS発信2回」を1単位として,単価を50万円,数量2とされている。したがって,フォロワーが20万人を超えるタレント2人が各2回発信することが契約内容となっていたと解され,原判決は契約の解釈を誤っている。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,次の2において当審における控訴人らの補充主張に対する判断を加えるほかは,原判決「事実及び理由」第3記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決15頁5行目の「あるから」から6行目の「前提に」までを「あり,参加人に債務不履行も認められないから,」に改める。
2 当審における控訴人らの補充主張に対する判断
(1) ステルスマーケティング
控訴人らは,消費者の自主的合理的判断を阻害しないための鍵となっているWOMガイドラインを遵守していないステルスマーケティングであることを主な理由として,本件各投稿は公序良俗に違反し,仮にそうでなくても京都市消費者条例を定めている京都市が本件各投稿をさせることは裁量権の逸脱濫用であって,いずれにしても違法であると主張する。
この点に関し,ステルスマーケティングの弊害は国の機関も含めて広く認識されるに至っており,とりわけインターネット広告において消費者の自主的合理的判断を阻害しないことは,国際的にも,我が国においても,重要な社会的課題となっていることが認められる(甲11,12,14~16,弁論の全趣旨)。しかし,WOMガイドラインは,現時点においては広告業界における自主規制にとどまり,その基準を満たさないSNSへの投稿が公序良俗違反として直ちに違法となるわけではない。そして,SNSへの投稿者が広告主から報酬を得て投稿しているにもかかわらず,主体(広告主)と便益(を投稿者が受けていること)を明示しないでなされた投稿を公序良俗に反する違法なものとして評価すべきか否かは,当該投稿の具体的な内容を踏まえ,消費者の自主的合理的判断が阻害される蓋然性を考慮して判断すべきである。
これを本件についてみると,本件各投稿は,確かに,WOMガイドラインが基準とする主体と便益が明示されておらず,消費者による自主的合理的判断を阻害しないための配慮に欠ける点があったことは否定できず,京都市も,多くの批判を受けたことを認め,今後はよりわかりやすい広報に努めるとしている(甲3,7)。しかしながら,本件各投稿に付された「♯京都市盛り上げ隊」,「♯京都市営地下鉄」,「♯コラボポスター」,「♯京都市ふるさと納税」等のハッシュタグや写真(京都市交通局とのコラボレーションによるポスターを○○の2名が掲げるもの)を見れば,本件各投稿の閲覧者において,投稿者(又はその所属エージェント)が京都市から何らかの便益を受けていることを推測し得ることは,1において原判決を引用したとおりである。加えて,本件各投稿は,広告の内容としても,京都市営地下鉄の利用や京都市へのふるさと納税(所得や税額の控除を伴う京都市への寄付)を閲覧者に呼びかけるものであるところ,高額の商品や役務の購入と異なり,市営地下鉄の利用やふるさと納税が閲覧者にとって不合理な判断となることは,通常は想定できない。
したがって,本件各投稿が公序良俗に反して違法であるとは評価できず,本件委託契約は京都市が裁量権を逸脱濫用した違法なものであるとも言えない。控訴人らの主張は採用できない。
(2) 随意契約
控訴人らは,倫理上の問題が指摘されている口コミ広告を京都市として計画する以上,依頼先はWOM加盟が最低条件であり,消費者保護のために広告業界が定めた自主規制を遵守しない会社が本件委託契約の相手方として条件を満たさないことは明らかであると主張する。
しかし,本件各投稿がWOMガイドラインの基準を満たしていないことから,直ちに参加人を相手方とする本件委託契約の締結が違法となるわけではなく,本件各投稿が違法とは評価できないことは既に認定説示したとおりである。本件委託契約の内容に照らして,委託先がWOM加盟業者に限られるということはできず,被控訴人において,参加人の関連会社が運営を受託している本件映画祭と関連させて,京都市における重要施策を周知・振興しようとすれば,参加人の所属タレントを広報活動に起用するのが合目的的であること,その場合,契約の相手方は参加人以外には想定し難い上に,本件委託契約に基づくSNSによる発信委託(本件SNS発信委託)の報酬100万円が相場に比して低額であることは,1において原判決を引用したとおりである。したがって,本件委託契約の締結は「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」(地方自治法施行令167条の2第1項2号)の要件を満たし,適法であると評価できる。
よって,控訴人らの主張は採用できない。
(3) 債務不履行
控訴人らは,本件委託契約を受けた見積書では,フォロワーが20万人を超えるタレント2人が各2回発信することが契約内容となっていたと解されるから,参加人による本旨弁済がなされていないと主張する。
しかし,契約書が交わされた場合における契約上の権利義務は,その内容が契約書の文言から一義的に明らかでないなど特段の事情がない限り,当該契約書の記載を基礎として判断すべきところ,本件委託契約における契約書(甲4の4)では,「20万人のフォロワーを有するタレントがSNSで計2回発信すること」と明記されているのであるから(引用した前提事実(2)ア(イ)),参加人において,20万人を超えるフォロワーを有するタレントであるDをして,代表的なSNSの一つであるツイッターを使い,計2回発信させている以上,本旨弁済がなされている。なお,見積書の記載が上記認定を左右するものではないことは,1において原判決を引用したとおりである。
したがって,控訴人らの主張は採用できない。
第4 結論
以上によれば,控訴人らの請求はいずれも理由がなく,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第1民事部
(裁判長裁判官 山田明 裁判官 川畑公美 裁判官 柴田義人)
別紙
控訴人ら代理人目録
奥村一彦,大河原壽貴,尾﨑彰俊,岡根竜介,中村和雄,塩見卓也,諸富健,井関佳法
以上
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