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裁判年月日 平成 3年 4月26日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 判決
事件番号 昭63(ワ)9368号
事件名 製造販売差止等請求事件 〔チョコクリスピー事件・第一審〕
裁判結果 一部認容 文献番号 1991WLJPCA04260022
要旨
◆「チョコクリスピー」、「米チョコクリスピー」、「米フローストクリスピー」及び「ライスクリスピー」なる各標章が、その称呼の要部である「クリスピー」と「KRISPIES」なる登録商標の称呼である「クリスピース」又は「クリスピーズ」とを対比すると、全体の音感が酷似し称呼において紛らわしく、右登録商標に類似するとされた事例
◆穀類を原料とする朝食用食品であるシリアル食品の包装箱に付された前記の各標章が、これらの標章中の「クリスピー」という部分は、英語では「パリパリする」又は「カリカリする」という意味を有するとしても、我が国における右食品の取引者層及び需要者層に属する者の多くにとつては、そのような品質を意味する言葉と理解することはできないなどとして、商標法二六条一項二号にいう「品質を普通に用いられる方法で表示する商標」に当たらないとされた事例
◆「チョコクリスピー」なる商標が、前記の登録商標の商標権者の子会社の商品であることを示す表示として、シリアル食品を取り扱う取引者及び需要者間において広く認識されていると認められた事例
◆前記の各標章が、周知商標「チョコクリスピー」と全体として類似し、右各標章に同標章を使用する会社の商品を表示する商標として著明な「シスコーン」又は「CISCORN」の商標が併記されていても、右各標章を付した食品を販売すると需要者は右周知商標と同一の出所の商品であると誤認混同するおそれがあるとされた事例
裁判経過
上告審 平成 8年12月 6日 最高裁第二小法廷 判決 平5(オ)668号 製造販売差止等請求事件 〔チョコクリスピー事件・上告審〕
控訴審 平成 4年 9月30日 大阪高裁 判決 平3(ネ)1003号 製造販売差止等請求控訴事件 〔チョコクリスピー事件・控訴審〕
出典
知財集 23巻1号264頁
特許と企業 270号62頁
参照条文
商標法26条
商標法37条1号
不正競争防止法1条
裁判年月日 平成 3年 4月26日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 判決
事件番号 昭63(ワ)9368号
事件名 製造販売差止等請求事件 〔チョコクリスピー事件・第一審〕
裁判結果 一部認容 文献番号 1991WLJPCA04260022
原告 ケロッグカンパニー外一名
被告 シスコ株式会社
主 文
一 被告は、シリアル食品の容器包装に別紙標章目録(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)記載の各標章を附し、右食品の容器包装に右各標章を附したものを販売し、又はシリアル食品に関する広告に右各標章を附して展示、頒布してはならない。
二 被告は、その所有するシリアル食品の容器包装及びシリアル食品に関する広告から第一項記載の各標章を抹消せよ。
三 原告両名のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項につき仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告らの請求
一 別紙標章目録(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)及び(ホ)記載の各標章につき主文第一項及び第二項と同旨
二 被告は、別紙広告目録記載の内容の謝罪広告をせよ。
第二 事案の概要
一 原告ケロッグカンパニーの請求は商標権及び不正競争防止法に基づくもの(選択的請求)、原告日本ケロッグ株式会社の請求は同法に基づくものである。
二 原告らの営業(特に証拠を掲記した部分以外は、争いがない。)
原告ケロッグカンパニーは、一九〇六年(甲八の一)に設立されたアメリカ合衆国デラウエア州法人で、設立以来シリアル食品の製造販売を行っており、世界最大のシリアル食品メーカーである。シリアル食品とは、穀類(とうもろこし、小麦、大麦、米、鳥麦など)を原料として製造される、主として朝食用の穀物調整食品の総称である。
原告日本ケロッグ株式会社(以下、原告日本ケロッグという。)は、原告ケロッグカンパニーの全額出資子会社として(甲八の一)昭和三七年に設立されたシリアル食品メーカーであり、原告ケロッグカンパニーの技術援助、商標使用許諾を得て、日本国内向けシリアル食品の製造販売を行っており、日本全国にシリアル食品を供給している。
三 原告ケロッグカンパニーの有する商標権(争いがない。)
原告ケロッグカンパニーは、次の商標権(以下、本件商標権といい、その登録商標を本件商標という。)を有する。
登録番号 〇五二四九七六号
出願日 昭和三二年二月二二日
出願公告日 昭和三三年四月二八日
登録日 昭和三三年八月一日
更新登録日 昭和五三年九月一日及び昭和六三年八月二四日
指定商品 出願当時の第四七類 オートミール、コーンフレークスその他朝食用に供せられる穀物製品
登録商標 別紙商標目録のとおり
四 原告らの商品及び商品表示の態様
1 原告日本ケロッグは、昭和四五年に、「ケロッグ・ライスクリスピー」という商品名の、米を主原料とした粒状のシリアル食品の製造販売を開始し、昭和五六年九月から昭和六二年一月頃にかけて、「ケロッグ・ココアクリスピー」という商品名の、米を主原料とした粒状のシリアル食品を製造販売し、昭和六二年一月には、「ケロッグ・チョコクリスピー」という商品名の米を主原料とした粒状のシリアル食品(以下、三商品を総称して、原告各商品という。)の製造販売を開始し、「ケロッグ・ライスクリスピー」及び「ケロッグ・チョコクリスピー」は、現在まで製造販売を継続している(甲二、甲八の一、甲九の一、甲二八、甲三〇、甲三一、甲三二、甲三七の一、証人田中肇)。
発売当初の「ケロッグ・ライスクリスピー」の包装箱には、正面側上部に、大きく、「Kellogg′s」のアルファベット文字を赤字の筆記体で横書きした下に「ライス クリスピー」と黒字の片仮名文字で横書きし、その下に、それよりも相対的に小さく「ケロッグRICE KRISPIES」と横書きした構成の標章が、右側面の上部には、同様に、「Kellogg′s」のアルファベット文字を赤字の筆記体で横書きした下に「ライス」及び「クリスピー」と黒字の片仮名文字を二段に横書きした構成の標章が附されており(甲二、甲九の二の一、二)、その後販売された同商品の包装箱には、正面側上部及び右側側面の上部に、「Kellogg′s」のアルファベット文字を筆記体で横書きした下に「ライス」及び「クリスピー」の黒字の片仮名文字を二段に大きく横書きし、その下に、それらよりも相対的に小さく「ケロッグRICE KRISPIES」と横書きした構成の標章が附されており(甲三の一)、昭和六三年四月頃及び同年一〇月頃販売の同商品の包装箱には、正面側上部に、「Kellogg′s」のアルファベット文字を赤字の筆記体で横書きした下に「ライス」及び「クリスピー」の黒字の片仮名文字を二段に大きく横書きし、その下に、それらよりも相対的に小さく「RICE KRISPIES」と横書きした構成の標章が、右側面の上部には、「Kellogg′s」のアルファベット文字を赤字の筆記体で横書きした下に「ライス」及び「クリスピー」の黒字の片仮名文字を二段に大きく横書きし、その下に、それらよりも相対的に小さく「ケロッグRICE KRISPIES」と「ケロッグ」の部分は赤字で、「RICE KRISPIES」の部分は黒字で、横書きした構成の標章が附されている(甲四の一、検甲一の一)。
また、「ケロッグ・ココアクリスピー」の包装箱の正面側上部には、大きく、「Kellogg′s」のアルファベット文字を筆記体で横書きした下に「ココア クリスピー」と片仮名文字で横書きし、その下に、それらよりも相対的に小さく「ケロッグCOCOA KRISPIES」と横書きした構成の標章が、右側面の上部には、同様に、「Kellogg′s」のアルファベット文字を筆記体で横書きした下に「ココア」及び「クリスピー」と片仮名文字を二段に横書きし、その下に、それらよりも相対的に小さく「ケロッグCOCOA KRISPIES」と横書きした構成の標章が附されている(甲三〇、甲三七の一)。
更に、「ケロッグ・チョコクリスピー」の包装箱には、正面側上部に、「kellogg′s」のアルファベット文字を赤字の筆記体で横書きした下に「チョコ」及び「クリスピー」の黒字の片仮名文字を二段に大きく横書きし、その下に、それらよりも相対的に小さく「CHOCO KRISPIES」と赤字のアルファベット文字で横書きした構成の標章が、右側面の上部には、「Kellogg′s」のアルファベット文字を筆記体で横書きした下に「チョコ」及び「クリスピー」の黒字の片仮名文字を二段に大きく横書きし、その下に、それらよりも相対的に小さく「ケロッグCHOCO KRISPIES」と「ケロッグ」の部分は赤字で、「CHOCO KRISPIES」の部分は黒字で、横書きした構成の標章が附されている(甲五の一、二、検甲二の一)。
五 被告の行為等(争いがない。)
被告は、大阪府堺市に所在し、菓子類の他、朝食用シリアル食品の製造、販売を業とする会社であり、遅くとも昭和六三年八月頃より、「シスコーン 米フローストクリスピー」、「シスコーン 米チョコクリスピー」及び「CISCORN 100チョコクリスピー」という商品名の、米を主原料とし、朝食用に供せられるシリアル食品(以下、総称して被告各商品という。)の製造販売を開始した。
被告は、別紙標章目録(イ)、(ロ)及び(ハ)記載の標章(以下、それぞれイ号標章、ロ号標章及びハ号標章といい、同目録(ニ)及び(ホ)記載の標章をそれぞれニ号標章及びホ号標章といい、これらを総称して被告各標章という。)を本件商標の指定商品に該当する被告各商品の包装箱に附すとともに、商品案内パンフレット等の広告にもこれらの標章を附している。
六 主な争点
1 被告が、「ライスクリスピー」の片仮名文字からなる商標(ニ号標章)及び「クリスピー」の片仮名文字からなる標章(ホ号標章)を使用しているか否か
2 本件商標と被告各標章とが類似すると認められるか否か
(一) 原告ケロッグカンパーの主張
原告日本ケロッグが、本件商標について「クリスピー」の称呼を選択して、その製造販売する商品の包装箱に本件商標と「クリスピー」の文字とを併記し、更に本件商標を附した商品のテレビコマーシャルを反復して放映するなどした結果、「クリスピー」の称呼が需要者間に浸透し、本件商標は「クリスピー」の称呼を得るに至っており、他方、被告各標章は、片仮名「クリスピー」によって構成されるか、それを包含するものからなり、いずれの標章においても、片仮名「クリスピー」が顕著に表示されているため、被告各標章を、その製造、販売にかかる製造に使用した場合、「クリスピー」の称呼を生じるから、被告各商標は本件商標と類似する。
本件商標から生じる称呼が「クリスピース」又は「クリスピーズ」であるとしても、末尾の「ス」や「ズ」は印象に残りにくいから、被告各標章は本件商標に類似する。
本件商標については、昭和四九年八月一日から昭和五九年八月一日までの間、「クリスピー」の片仮名文字を横に並べてなる商標が連合商標として登録されていたが、このことは「クリスピー」の文字からなる商標が本件商標と類似することを裏付けるものである。
(二) 被告の主張
本件商標の発音は、「クリスピース」又は「クリスピーズ」以外にはありえず、原告日本ケロッグが、本件商標の外に片仮名「クリスピー」の標章を使用したとしても、本件商標とは別個の商標である「クリスピー」を使用したにすぎず、本件商標の称呼として「クリスピー」を使用したものとはいえないから、本件商標が「クリスピー」の称呼を得ることはあり得ない。
そして、「クリスピース」又は「クリスピーズ」は、発音上「クリス/ピー/ス」、「クリス/ピー/ズ」と三音節からなるのに対して、「クリスピー」は「クリス/ピー」と二音節からなるから、発音上の相違が明らかであり、両者が称呼において類似混同することはありえないから、本件商標と被告各標章は類似しない。また、イ号ないしニ号標章のうち、「クリスピー」の部分は、いわゆる要部を構成しない。
3 被告各標章が、商標法二六条一項二号所定の品質を普通に用いられる方法で表示する商標に当たるか否か
(一) 被告の主張
「クリスピー」は英語の「crispy」の字音であって、パリパリすることを意味する形容詞であり、イ号ないしニ号各標章中の「クリスピー」の部分は、「パリパリする」又は「カリカリする」という商品の品質を表示する語として使用しているものであるから、本件商標権の効力は、商標法二六条一項二号により、被告各標章には及ばない。
菓子や穀物加工品において、「クリスピー」や「crispy」の表示は、パリパリするという商品の品質を表す表示として広く使用されており、我が国の食品業界においても極めて一般的な言葉となっている。
商標法二六条一項二号の「品質…を…普通に用いられる方法で表示する商標」が、需要者が品質表示として認識していることを要件とせず、品質を表示する方法として普通の方法を意味することは文理上明白であるところ、被告各標章の「クリスピー」の表示は、右のとおり、被告商品の「パリパリ」「サクサク」した品質、性状を表示するために使用されているものであることは明らかであり、且つその表示方法も、一般の注意を引くに足りるような特別の書体や図形等による技巧を加えたものではないから、被告各標章中の「クリスピー」の表示は、商標法二六条一項二号の「品質…を…普通に用いられる方法で表示する商標」に該当する。
(二) 原告の主張
そもそも、自他商品識別力を有する標章については、商標法二六条一項二号の適用はないと解すべきであり、「クリスピー」は我が国でその意味内容が認識されておらず、需要者が、「クリスピー」なる言葉又は音から英語の「crispy」を想起し、引き続いて「パリパリ、カリカリする」といった商品の品質、性状を認識することは不可能であって、「クリスピー」の語は自他商品識別力を十分に具備するから、その使用態様にかかわらず同号の対象外である。
そのように解し得ないとしても、イ号、ロ号、ハ号及びホ号各標章は、いずれも、被告各商品の包装箱において、通常商標を附する位置に極めて見やすく、しかも他の記載と明らかに区別して大書して記載されており、広告用商品案内パンフレットにおいても各商品の包装箱の前面の写真をそのまま掲載して、包装箱に表示された右標章が各商品の表示として最も大きく直接視覚に訴えるようにデザインされていること、加えて、形容詞である「クリスピー」を品質表示として用いるのであれば、例えば「チョコクリスピー」については「クリスピーチョコ」と用いるのが形容詞としての通常の用法であり、日本語においては、形容詞である英単語の次に「な」の語を用いるのが普通の用法であることからして、被告は、「クリスピー」の語を、品質を普通に表示する態様で用いているものではない。
また、被告は、先行メーカーの商品、商標等の模倣を常とする会社であり、原告らのチョコクリスピーが発売されて販売実績を伸長した直後に被告各商品の発売を企画し、本件商標の存在も認識していたうえ、被告各標章に共通する標章「クリスピー」をもって、被告各商品と他種グループ商品とを識別することを意図しているのであるから、被告は被告各標章を商標として使用しており、品質表示として使用する意図がないことも明らかである。
4 原告商標「ライスクリスピー」、「チョコクリスピー」及び「クリスピー」がいわゆる周知性を取得しているか否か
(一) 原告の主張
原告日本ケロッグは、昭和四五年から順次原告各商品を製造販売するとともに、「ライスクリスピー」及び「チョコクリスピー」について、販売店に対する日常的な商品案内、各種展示会の開催に加え、一般消費者向けのテレビコマーシャルの放映などの各種販売促進活動を行うなどしたことにより、「ライスクリスピー」、「チョコクリスピー」及び米を主原料とした粒状のシリアル食品の共通名称としての「クリスピー」の商標は、遅くとも昭和六三年六月(被告各商品の販売開始の直前)までには、原告らの商品であることを示す商品表示として、需要者間において広く認識されるに至った。
(二) 被告の主張
原告らの商品であることを表示する商標は、原告各商品の包装箱前面に付されたラベル状図形並びにその支持帯の図形と赤色の筆記書体よりなる「Kellogg′s」の表示であって、「ライスクリスピー」、「チョコクリスピー」及び「クリスピー」は原告らの商品であることを表示する商標ではなく、それらが原告らの商品であることを示す表示として需要者に認識されていない。
5 原告らの周知商標と被告各標章との類似性及び出所混同のおそれの有無
(一) 原告の主張
被告各標章は、「クリスピー」を要部とするから、原告らの周知商標である「ライスクリスピー」、「チョコクリスピー」及び「クリスピー」と類似し、被告による被告各標章を使用したシリアル食品の販売は、原告らの販売にかかるシリアル食品であるとの誤認混同を生じさせる危険性が高い。
原告らは、米を主原料とした粒状のシリアル食品に共通する商品表示として「クリスピー」を採択し、商標として使用しているところ、被告の各標章の使用方法も全く同一であること、原告各商品も被告各商品も中身は米を主原料とした粒状のシリアル食品であり、いずれも小売店で小売する販売方法を取っており、商品の陳列方法も同様で、同一の棚に陳列されることが多いという実情からも、出所混同の危険性は高く、全国の小売店、スーパーマーケットにおいて、顧客が原告の商品と被告の商品とを誤認混同した事例も生じている。
また、原告日本ケロッグが、シリアル食品用容器である「シリアルボール」をプレゼントする宣伝・販促事業を行った際に、被告が「シスコーン」の商標を附した商品について行っていた「シスコーンボールプレゼント」用に被告各商品等のシリアル食品の包装箱に印刷したクーポン券が原告日本ケロッグに誤って送付されており、この中には、被告の「米フローストクリスピー」や「米チョコクリスピー」の包装箱に印刷されていたクーポン券が送付された例が少なくとも三九例存し、うち、原告の「チョコクリスピー」と被告の「米チョコクリスピー」の双方のクーポン券が同一の封筒に混入された例が少なくとも二六例存しており、現実に誤認混同を生じている。
被告各商品の「シスコーン」ないし「CISCORN」の表示は、被告各標章とは分離して表記されており、視覚上、被告各標章と一体として一個の商標として認識されるものではないし、「シスコーン・米・フロースト・クリスピー」等の商標は余りにも冗長であって、このように冗長な表示が全体として一個の商標として記憶、認識されるということは、簡易迅速を旨とする取引の経験則に照らし首肯できず、被告各商品にそれらの表示をすることにより、完全に原告商品と被告商品が識別されるものではない。
現実に「シスコーン」の商品主体を原告と誤認混同している需要者は多数存在し、前記「シリアルボール」のプレゼント事業における混同例は、消費者が「シスコーン」が附された商品は被告のものであることを明確に認識していないことを示しており、「シスコーン」自体に出所表示機能は存しない。
(二) 被告の主張
被告各標章中の「クリスピー」の部分は他の表示に比して大書しておらず、表示の末尾に記載されているし、被告は、シリアル食品について「シスコーン」の商標を統一的に附することにより被告のシリアル食品であることを表示しており、かつ、「クリスピー」は商品の品質、性状を表示するため附されているのであるから、被告各標章中「クリスピー」の部分は要部といえない。
被告は、昭和三八年三月にシリアル食品であるコーンフレークを我が国において初めて製造販売して以来、「シスコ」のコーンフレークという意味で、「シスコーン」の商標を附しており、その後その製造販売するシリアル食品について多大の宣伝広告活動を行っているが、その際には、被告のシリアル食品であることを表示する「シスコーン」を強く印象付ける方法が取られてきたため、需要者が「シスコーン」の商標で直ちに被告の商品であると認識することができるまでにその周知性は高まっている。
被告各商品の包装箱にはいずれも「シスコーン」の商標が大きく表示してあるとともに、原告各商品と被告各商品の包装箱のデザインの相違により、店頭の商品棚に隣接して陳列されても、両者の商品は確実に識別され、「クリスピー」の表示によって被告各商品を原告らの商品であると誤認するおそれはない。
第三 当裁判所の判断
一 原告ケロッグカンパニーの請求について
1 争点1(被告がニ号標章、ホ号標章を使用しているか否か)について
(一) 被告は、業として販売する被告各商品の包装箱背面に印刷した「シスコーン栄養講座」という欄に、「ライスクリスピー一食分(チョコクリスピー三〇g+牛乳一五〇CC)の栄養は」と題し、「いそがしい朝でも手軽に食べられるライスクリスピーには、多くの栄養分が含まれています。」と記載して、「ライスクリスピー」の文字を商品の包装に附して、これを販売しており(甲六の二、検甲三ないし五の各一、二)、右行為は「ライスクリスピー」の文字からなる商標の使用にあたる(商標法二条一項、三項)。
(二) 原告は、被告がイ号ないしニ号各標章の要部として「クリスピー」を選択しこれに商品識別力を付与しているから、被告各標章の共通標章であり要部である「クリスピー」を商標として使用している、と主張するが、被告は、「チョコクリスピー」の片仮名文字を一連に横書きしてなる標章、「チョコ」と「クリスピー」の片仮名文字を上下二段に横書き併記してなる標章、「米」の漢字の横に「チョコ」と「クリスピー」の片仮名文字を上下二段に横書き併記してなる標章、「米」の漢字の横に「フロースト」と「クリスピー」の片仮名文字を上下二段に横書き併記してなる標章や、「ライスクリスピー」の片仮名文字を一連に横書きしてなる標章を使用している(甲六の一、二、甲七、甲五七、検甲三の一、検甲四の一、検甲五の一)のであって、「クリスピー」の片仮名文字は他の部分と右の態様で結合して用いられているにすぎないから、それが、各標章の共通部分であり、原告主張の如く要部であるとしても、そうだからといって、被告が「クリスピー」の片仮名文字のみからなる標章を使用しているとは言えないし、本件全証拠によるも、被告が「クリスピー」の片仮名文字のみからなる標章を使用していることを認めることはできない。
2 争点2(本件商標とイ号ないしニ号各標章との類否)について
(一) 本件商標は、「KRISPIES」のアルファベット文字を横書きしてなるものであるが、全くの造語であって(争いがない。)、本来的な発音を有しないから、取引者層及び需要者層に属する者がそれを読む場合には、その文字に応じて、「クリスピース」或いは「クリスピーズ」と発音すると考えられ、それと同一の称呼を生じるものと認められる。
(原告ケロッグカンパニーは本件商標が「クリスピー」の称呼を生じるに至っている旨主張するが、本件全証拠を参酌しても右主張事実を認めることはできない。)
(二) イ号標章から「チョコクリスピー」なる称呼が生ずることは明らかであるところ、そのうち、「チョコ」の部分はチョコレートの略語として取引者層及び需要者層に認識されることが明らかであるから、それらの者に、商品の味覚がチョコレート味である、あるいは原材料にチョコレートを用いていると感得させるものであり、ロ号標章から「こめチョコクリスピー」なる称呼が生ずることは明らかであるところ、「こめ」の部分は、商品の原材料に米を用いていると感得させるもので、「チョコ」の部分についてはイ号標章と同様であり、ハ号標章から「こめフローストクリスピー」なる称呼が生ずることは明らかであるところ、「こめ」の部分についてはロ号標章と同様で、「フロースト」の部分は、今日の我が国における英語教育及び社会における英語使用の実情からは、砂糖をまぶしたという商品の性状を示すものとして感得されるものと認められ、ニ号標章から「ライスクリスピー」なる称呼が生ずることは明らかであるところ、「ライス」の部分は、今日の我が国における英語教育及び社会における英語使用の実情からは、英語「rice」の字音であり、商品の原材料に米を用いていることを示すものとして感得させるものと認められる。これに対して、「クリスピー」の部分は、そのような商品の性状や品質等を示すものとは感得されないので、自他商品の識別力を有し、取引者及び需要者の注意を惹く部分(要部)であるというべきである。
この点に関して、被告は、被告販売のシリアル食品グループに対し共通の商標「シスコーン」を使用したうえで、そのほかに原料、材料及び性状を示す表記をしており、原告ら指摘の被告各商品も、「シスコーン・米・フロースト・クリスピー」と表示して、被告のシリアル食品で、米を原料とし、砂糖をコーティングしたサクサクした商品であることを表し、「シスコーン・米・チョコ・クリスピー」と表示して、被告のシリアル食品で、米を原料とし、ココアをコーティングしたサクサクした商品であることを表し、「CISCORN・100チョコクリスピー」と表示して、被告のシリアル食品で、ココアをコーティングしたサクサクした商品であることを表しており、「クリスピー」の部分は、いずれもその商品がサクサクした食品であることを表すために使用しているものであり、このことは、被告各商品の包装箱に「小粒でサクサク、クリスピーなおいしさ。」と表記しており、かつ同包装箱上面に「CRISPY」と表記していることからも明らかであるから、「クリスピー」の部分は原告らの主張する要部を構成するものではない旨主張する。確かに英語の「Crispy」は、「パリパリする」、「カリカリする」という意味を有する形容詞であり、(争いがない。)、アメリカ合衆国において、穀物加工品の商品名に「Crispy Brown RiCe」、「CRISPY CRITTERS」、「Crispy Wheats in Raisins」と、ライスケーキの商品名に「CRISPY CAKES」と、スナック菓子の商品名に「Crispy Lights」と使用した事例や、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国において穀物加工品の商品名に「Crispy Brown RiCe」及び「CRISPY Muesli」と使用し、菓子の商品名に「CRISPY」と使用したうえ、「RICECRISPIES IN MILK CHOCOLATE」と記載した事例、アイルランド共和国において穀物加工品の商品名に「Crispy RiCe」と使用した事例、インドネシア共和国において穀物加工品の商品名に「CRISPY CHOCOLATE」と使用した事例、スイス連邦において菓子の商品名に「Crispy Rondy」と使用した事例が存するほか、我が国の食品業界においても、クッキーの商品名に「バタークリスピー」と「クリスピー」の語を用いた事例や、クラッカーに関して、包装箱に「クリスピーに焼き上げたイギリス伝統のおいしさ」と記載し、商品案内広告に「カリカリ!サクサク!これが本場のクリスピークラッカー」と記載した事例、菓子の包装箱の商品説明の記載中に「クリスピーフレーク」を使用した旨の記載をした事例、菓子の商品名として「Crispy」と記載した事例、ナッツに関して「CRISPY・GOOD・NUTS・BAR」「クリスピー・ナッツ・バー」と使用した事例、フィレ肉を用いたサンドイッチの商品名に「クリスピーフィレサンド」と用いた上、広告中に、「クリスピーな歯ごたえ」、「カリッとクリスピーに揚げました。」、「注クリスピーとは、1ぱりぱりする、かりかりする・2 新鮮な、さわやかな・3 歯切れのよい、という意味です。」と記載した事例、鶏のフィレ肉を用いたスナックの商品名に「ホットクリスピー」及び「HOT CRISPY」と使用した事例が存し(乙一の一ないし一八、乙二〇、乙二一、乙三四、乙三五、)、「最新情報語辞典」に「クリスピー(Crispy)」の項が存し(乙二二の一ないし四)、株式会社ロッテが特許出願に際して提出した明細書中で「クリスピィな食感」と記載した事例も存し(乙二三)、特許庁審査官も、「クリスピー」の片仮名文字からなる商標や、「CRISPY」のアルファベット文字や「クリスピー」の片仮名文字を含む一一件の商標の登録出願について、昭和五八年に、単に商品の品質を表示するにとどまるなどの理由で商標法三条一項三号に基づき拒絶理由通知を発しいる(乙二の一ないし一一の各一、二)。しかしながら、「Crispy」という英単語は、我が国で発行されている英和辞典中に登載されていないものもあり、登載があっても、学習基本単語、頻度数の高いものとしての注記はない(甲一一、甲一二、甲五九ないし六五)英単語であるから、シリアル食品の取引者層及び児童やその母親など需要者層に属する者のうちの多くの者にとって学習する機会のない英単語であり、四ないし一二歳の子供をもつ四五歳未満の四〇〇名の女性を対象とした街頭調査の結果でも、「クリスピー」の語の意味を知らないと答えた者が三八六名、「Crispy」という英単語が「パリパリした、カリカリした」という意味を有する形容詞であることを認識していた者は皆無で、類似の回答も、わずかに「カリカリとした食品」の意味と回答した者が一名いたにととまること(甲五四)及び前記使用事例のうち「クリスピーフィレサンド」の広告中ではクリスピーの意味を注記していること(乙二一)に照らすと、前記の使用事例があることを考慮しても、取引者及び需要者層に属する者のうち多くの者にとっては、「クリスピー」なる片仮名文字又は音から英語の「Crispy」を想起し、引き続いて「パリパリ、カリカリする」といった商品の品質、性状を認識することは不可能であり、「クリスピー」の部分は自他商品の識別標識として機能する要部と認められるから、右被告主張は採用できない。
なお、被告各商品の包装箱に現に附している標章の具体的な構成は、「米」や「一〇〇」の部分が他の記載とは明らかに区別して大書してあるのに反し、「クリスピー」の部分はそれらに比して小さく表示してあるが、標章の構成部分中識別力のある部分が識別力のない部分に比較して小さく表示された場合であっても、識別力のある部分から称呼を生じうると解されるから、右大きさの違いは前記認定を左右するものではない。
(三) 本件商標の称呼である「クリスピース」ないし「クリスピーズ」と、イ号ないしニ号各標章の称呼のうち取引者層の注意を惹く部分(要部)である「クリスピー」とを対比すると、両者は語頭からの五音は全く同一であって、一般に複数又は所有を示す文字と考えられている末尾の「ス」又は「ズ」を欠く点で相違するにとどまり、両者は全体の音感が酷似し、いずれも称呼において紛らわしい類似のものであると認められる。したがって、イ号ないしニ号各標章はいずれも全体として本件商標に類似する。
(四) してみると、イ号ないしニ号各標章を、被告各商品の包装箱及び広告に附している被告の行為は、本件商標に類似する商標を本件商標の指定商品について使用する行為にあたる。
3 争点3(被告各標章が、商標法二六条一項二号所定の品質を普通に用いられる方法で表示する商標に当たるか否か)について
被告は、イ号ないしニ号各標章中の「クリスピー」の部分は英語の「Crispy」の字音であって、パリパリすることを意味する形容詞であり、「パリパリする」又は「カリカリする」という商品の品質を表示する語として使用しているものであるから、本件商標権の効力は、商標法二六条一項二号により、被告各標章には及ばない旨主張する。
そこで、同号にいう、「商品の…品質を…普通に用いられる方法で表示する商標」に該当するか否かを検討するに、前示のとおり、英語の「Crispy」は、「パリパリする」、「カリカリする」という意味を有する形容詞であり、我が国の食品業界においても前示の使用例が存する。しかしながら、イ号ないしニ号各標章は、「チョコクリスピー」、「米チョコクリスピー」、「米フローストクリスピー」及び「ライスクリスピー」と、いずれも「クリスピー」を末尾に用いているところ、「パリパリする」又は「カリカリする」という意味を表現するのであれば、形容詞である英単語を用いる場合には、名詞の前に位置させて「クリスピー・ナッツ・バー」などと表現する(乙一の一ないし一〇、一二、一三及び一七、乙二〇、乙二一)か、形容動詞として用いて活用語尾を付して、「クリスピーな歯ごたえ」などと表現する(乙二一)のが、通常の表示方法である。もっとも、同様に形容詞である英単語であっても、例えば、「Light」やその字音「ライト」、あるいは「sweet」やその字音「スイート」の如く、我が国における外国語教育の実情から容易に品質、形状等を表すものとして理解できる語であれば、標章中の末尾に位置しても、品質、形状等を表示するものであることが理解できるから、そのような態様で表示する場合も「普通に用いられる方法で表示する商標」に該当するとみることができるが、「クリスピー」なる言葉は、前示のとおり取引者層及び需要者層に属する者の多くにとって、「パリパリ、カリカリする」といった商品の品質を意味するものであると認識することが不可能であり、イ号ないしニ号各標章の如く、形容詞である英単語を用いる場合の通常の用法とは異なる位置に用いられている場合は、それが、商品の品質、性状を意味するものであると認識する契機すら与えられず、単なる自他商品の識別標識としてのみ機能し、商品の品質表示としての本来の性質に従った働きはないと認められる。このような場合は、同号にいう、「商品の…品質を…普通に用いられる方法で表示する商標」に該当しないと解するのが相当である。
右判断は、イ号ないしニ号各標章の包装箱への具体的な使用態様が、右各標章を附した上部、左部あるいは左上部等に「シスコーン」ないしは「CISCORN」の文字からなる標章が併記されていることを考慮しても何ら変わりない。
4 結論
したがって、原告ケロッグカンパニーのイ号ないしニ号各標章の差止等に関する請求は理由がある。しかし、謝罪広告の請求については、それを必要とするほど、被告の右所偽により原告ケロッグカンパニーの業務上の信用が害されたことを認めるに足りる証拠がない。
二 原告日本ケロッグの請求について
1 争点4(原告商標「ライスクリスピー」「チョコクリスピー」及び「クリスピー」の周知性取得の有無)について
原告各商品は、第二、四に記載のとおり、順次、訴外味の素株式会社を発売元として販売され、同社系の食品問屋と関係菓子問屋を通して、日本全国において販売されている(甲八の一、甲一〇の一ないし三、甲六九、証人田中肇)。
原告日本ケロッグは、昭和四五年に、前記の発売当初の「ケロッグ・ライスクリスピー」の包装箱を映し出すとともに、「ケロッグ・ライスクリピー」の語を二度反復するテレビ・コマーシャルの放映を開始し、昭和四六年にも、同様の包装箱を映し出すとともに、「ケロッグ・ライスクリスピー」の語を流すテレビ・コマーシャルを放映し、昭和六二年六月から同年一二月にかけてほぼ隔月、首都圏において「ケロッグ・チョコクリスピー」のスポット広告を行い、昭和六三年二月からは、全国ネットワークによる番組提供広告を開始し、幼児・学童に人気がある番組を提供して、同番組中で、「ケロッグ・チョコクリスピー」の前記包装箱を映し出すとともに、「チョコクリスピー」の語を二度、「ケロッグ・チョコクリスピー」の語を一度反復して宣伝広告している(甲九の一ないし甲九の五の一〇、甲四四)。
そのほか、原告日本ケロッグは、原告各商品について、販売店ないし卸店向けの商品案内パンフレット、各種店頭販売促進用資材等の広告販売資材を多種類かつ大量に制作して、「ケロッグ・チョコクリスピー」のポスターやジャンボ・ボックス等を店頭に陳列するなど、前記各商品を直接的に需要者の視覚に訴える広告宣伝活動を積極的に行ってきた(甲二八、甲二九、甲三五の一ないし六、甲三六の一ないし六、甲三七の一及び二、甲三八ないし甲四一、甲四七、甲四八、甲四九の一及び二、甲六九、証人田中肇)。
原告日本ケロッグの、昭和六二年度(昭和六一年一二月から昭和六二年一一月まで)の「ケロッグ・チョコクリスピー」の直接の宣伝広告費(人件費その他の間接費は含まれていない。)は一億三六八二万円余り、販売促進費用は一五一〇万円余り、「ケロッグ・ライスクリスピー」の直接の宣伝広告費は約二万円、販売促進費用は六五万円余りであり、昭和六三年度(昭和六二年一二月から昭和六三年一一月まで)の「ケロッグ・チョコクリスピー」の直接の宣伝広告費は二億八九四〇万円余り、販売促進費用は三七〇三万円余り、「ケロッグ・ライスクリスピー」の販売促進費用は五三万円余りであり(甲四二、甲四三、証人田中肇)、「ケロッグ・チョコクリスピー」の昭和六二年六月から昭和六三年一二月までのテレビ・コマーシャルでは、制作費用一五六〇万円、テレビ広告媒体費用約四億五〇〇〇万円もの大金を投じてその宣伝広告をした(甲四四、甲六九)。
「ケロッグ・ライスクリスピー」の昭和四五年度における純売上高は約四八一七万円で、昭和五五年度から昭和六二年度までの純売上高は毎年度千数百万円で推移し、昭和六三年度における純売上高は約二〇四九万円で、発売当初から昭和六三年一一月までの総純売上高は約四億五四五〇万円に達し(甲四三、甲五〇)、「ケロッグ・チョコクリスピー」の昭和六二年度の純売上高は約二億〇三〇〇万円、レギュラーサイズの商品の販売量が約一一二万箱、昭和六三年度の純売上高は約九億〇八〇〇万円、レギュラーサイズの商品の販売量が約四六二万箱に達し(甲四二、甲五一、証人田中肇)、日本エー・シー・ニールセン株式会社の調査によれば、そのまま食べることができるように調整されたシリアル食品全体の日本国内における売上中に占めるシェアは、金額ベースで、昭和六三年六月及び七月の二か月間では、「ケロッグ・ライスクリスピー」が約〇・一パーセント、「ケロッグ・チョコクリスピー」は約六・八パーセント、同年一〇月及び一一月の二か月間では、「ケロッグ・ライスクリスピー」が約〇・一パーセント、「ケロッグ・チョコクリスピー」は約七・八パーセントであり、重量比では、昭和六三年六月及び七月の二か月間では、「ケロッグ・ライスクリスピー」が約〇・一パーセント、「ケロッグ・チョコクリスピー」は約七・一パーセント、同年一〇月及び一一月の二か月間では、「ケロッグ・ライスクリスピー」が約〇・一パーセント、「ケロッグ・チョコクリスピー」は約八・一パーセントに達している(甲五二の一、二、甲五三、証人田中肇)。
以上の諸事実及び本項掲記の各証拠を総合して考えると、原告日本ケロッグの「チョコクリスピー」の商標は、シリアル食品を取り扱う取引者及び需要者間においては、遅くとも昭和六三年六月ころ(被告各商品の販売開始の直前)には、同原告の商品であることを示す表示として広く認識されており、現在においても同様であると認めるのが相当である。
なお、被告は、原告日本ケロッグの商品であることを表示する商標は、包装箱前面に付されたラベル状図形並びにその支持帯の図形と赤色の筆記書体よりなる「Kellogg′s」の表示であって、「チョコクリスピー」等は原告らの商品であることを表示する商標ではない旨主張するが、前示のとおり、包装箱正面側上部等に筆記書体よりなる「Kellogg′s」の部分は赤字で表示されているのに対して、「チョコクリスピー」は段を別にして黒字で書かれており、テレビコマーシヤルにおいても「ケロッグチョコクリスピー」という他、単に「チョコクリスピー」とも言って宣伝広告しているのであるから、被告指摘の表示が存しても、「チョコクリスピー」部分も同原告の商品であることを表示する商標にあたることは明らかである。
2 争点5(原告日本ケロッグの周知商標と被告各標章との類似性及び出所混同のおそれの有無)等について
(一) 被告が、被告各商品の包装箱及び商品案内パンフレット等にイ号ないしハ号各標章を附して被告各商品を販売していることは争いがなく、ニ号標章を被告各商品の包装箱に附していると認められることは前示のとおりであり、右事実に一3に認定した事実を総合すれば、イ号ないしニ号各標章の使用は被告の商品表示であり、不正競争防止法一条一項一号の商標の使用にあたると認められる。他方、ホ号標章を用いていると認められないことは前示のとおりである。
(二) 原告日本ケロッグの周知商標「チョコクリスピー」とイ号標章とは、称呼において同一であり、外観において類似することは明らかである。
また、同原告の周知商標「チョコクリスピー」のうち、自他商品の識別という観点からは、「クリスピー」の部分が右商標を見る者や、その称呼を聞く者の注意を惹く要部と認められ、同様に、イ号ないし二号各標章とも、自他商品の識別という観点からは、「クリスピー」の部分が称呼及び外観において取引者及び需要者の注意を惹く要部と認められる。したがって、同原告の周知商標「チョコクリスピー」と、ロ号、ハ号及びニ号各標章とは、それぞれの要部「クリスピー」の部分が、称呼において同一であり、外観において類似する。
したがって、原告日本ケロッグの周知商標「チョコクリスピー」と、イ号ないしニ号各標章とは、それぞれ全体として類似しているものと認められる。
(三) 原告の「チョコクリスピー」と被告各商品は、米を主原料とするシリアル食品である点で同一である。
(四) 被告は、被告各商品におけるイ号ないしニ号各標章の具体的な使用態様は、「シスコーン」あるいは「CISCORN」の文字からなる商標をイ号ないしニ号各標章とともに附しており、「シスコーン」あるいは「CISCORN」の文字からなる商標は、被告の商品であることを示すものとして周知であるから、原告らの商品と被告各商品と誤認混同するおそれはない旨主張する。
確かに、被告は、昭和三八年三月にコーンフレーク製造工場を竣工して、その頃、「シスコーン」という商標を附してコーンフレークの販売を開始し、以後多額の宣伝費をかけて「シスコーン」の宣伝をし、「シスコーン」の商標を付した各種の商品を販売した結果、昭和三八年から平成元年までの二七年間の「シスコーン」の商標を附した各種の商品の総販売額は約六四七億円で、うち、昭和六二年度は、五七億円余り、昭和六三年度は六九億円余りにのぼり、その結果、「シスコーン」あるいは「CISCORN」の文字からなる商標が、被告の商品であることを表示する商標として著名となっていることは認められる(乙一六の一ないし一二九、乙一七の一ないし一二九、乙一八、乙一九、乙二七ないし三二、証人中野耕一)。しかしながら、原告日本ケロッグの周知商標「チョコクリスピー」を需要者が認識、記憶するに際しては、「Kellogg′s」ないし「ケロッグ」の表示とともに認識、記憶する場合もあれば、「チョコクリスピー」やその要部の「クリスピー」の表示のみを記憶する場合もありうるところ、特に後者の場合には、時と所とを異にして被告各商品を見た場合には、「シスコーン」あるいは「CISCORN」の商標によってそれが被告の商品であることを認識しても、それが周知の「チョコクリスピー」と別個の出所の商品であるとは判断できず、同一の出所にかかる商品であると誤認するおそれがあることは明らかであり、著名な商標を併記しているからといって直ちに誤認混同の恐れがないとすることはできない。原告日本ケロッグが、シリアル食品用容器である「シリアルボール」をプレゼントする宣伝・販促事業を行った際に、被告が「シスコーン」の商標を附した商品について行った「シスコーンボールプレゼント」用に被告各商品等のシリアル食品の包装箱に印刷されたクーポン券が、同クーポン券には「CISCORN」の文字が明示されているにもかかわらず、原告日本ケロッグに送付された事例が少なくとも三九例あり(甲七〇の一ないし三九、証人田中肇)、現実に誤認混同が生じている。
したがって、被告がイ号ないしニ号各標章を附した被告シリアル食品を販売するとき、需要者はそれが右周知商標と同一の出所の商品であると誤認混同して購入するおそれがあり、その結果、原告日本ケロッグの売上がその分減少して同原告の営業上の利益が害されるおそれがあるといわざるをえない。
3 結論
したがって、原告日本ケロッグのイ号ないしニ号各標章の差止等に関する請求は理由がある。しかし、謝罪広告の請求については、それを必要とするほど、被告の右所為により原告日本ケロッグの業務上の信用が害されたことを認めるに足りる証拠がない。
(裁判官 庵前重和 長井浩一 辻川靖夫)
標章目録
(イ) チョコクリスピー
(ロ) 米チョコクリスピー
(ハ) 米フローストクリスピー
(ニ) ライスクリスピー
(ホ) クリスピー
広告目録
大阪府堺市石津北町八〇番地
シスコ株式会社
代表取締役 播磨伊之助
アメリカ合衆国ミシガン州 バトルクリーク市 ワン ケロッグスクウェア
ケロッグ カンパニー
代表者 ブリジェット・エー・ヘフナー 殿
東京都新宿区西新宿一丁目二六番二号 新宿野村ビル
日本ケロッグ株式会社
代表取締役 神 伸明殿
謝罪広告
当社は昭和六三年、貴社の登録商標「KRISPIES」の称呼「クリスピー」を使用した標章であるチョコクリスピー、米チョコクリスピー、米フローストクリスピー、ライスクリスピー等を付したシリアル食品の製造、販売を開始致しましたが、右各標章はいずれも貴社の商標権を侵害し、また、貴社の商品たることを示す表示と同一である為、当社の右製品が貴社の製造、販売にかかる商品であるかのごとき印象を一般消費者に与え、現に競争関係にある貴社の営業上の利益を害することになりました。今後は、このような貴社の商標権を侵害し又は貴社の営業上の信用を害する若しくはそのおそれのある行為は、厳に行わないことを誓い、貴社の営業上の信用を回復する為、謝罪の意を明らかに致します。
備考 右内容の謝罪広告を朝日新聞、読売新聞全国版社会面に各一回ずつ掲載
商標目録
商標出願公告 昭三三-八三一四
公告 昭三三・四・二八
出願 昭三二・二・二二
商願 昭三二-五二一三
指定商品 四七
オートミール、コーンフレークスその他朝食用に供せられる穀物製品
出願人 ケロッグ、コンパユー アメリカ合衆国ミシガン州バットルクリーク、ポーターストリート二三五
代理人弁護士 浅村成久 外一名
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