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裁判年月日 平成11年 2月 5日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 決定
事件番号 平10(ヨ)3252号
事件名 地位保全金員支払仮処分命令申立事件 〔新光美術事件〕
裁判結果 一部認容、一部却下 文献番号 1999WLJPCA02056003
要旨
◆資質、性格、能力等において従業員としての適格性に問題があるという理由でなされた、試用期間満了時の解約権行使が、適格性を欠くと認めるに足りる疎明はないとして、許されないとされた事例。〔*〕
出典
労経速 1708号9頁(50巻26号)
裁判年月日 平成11年 2月 5日 裁判所名 大阪地裁 裁判区分 決定
事件番号 平10(ヨ)3252号
事件名 地位保全金員支払仮処分命令申立事件 〔新光美術事件〕
裁判結果 一部認容、一部却下 文献番号 1999WLJPCA02056003
債権者 小林隆司
右代理人弁護士 財前昌和
(他三名)
債務者 株式会社新光美術
右代表者代表取締役 佐藤康造
右代理人弁護士 田邉満
主文
一 債権者が債務者に対し、本案の第一審判決の言渡しに至るまで、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
二 債務者は、債権者に対し、金七六万七一八五円及び平成一一年二月以降本案の第一審判決の言渡しに至るまで毎月二五日限り月額金二四万二二六九円の割合による金員を仮に支払え。
三 債権者のその余の申立てを却下する。
四 申立費用は債務者の負担とする。
理由
第一 申立ての趣旨
一 債権者が債務者に対し、本案の第一審判決の言渡しに至るまで、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
二 債務者は、債権者に対し、平成一〇年一〇月一三日以降本案の第一審判決の言渡しに至るまで毎月二五日限り月額金二五万七五一四円の割合による金員を仮に支払え。
三 申立費用は債務者の負担とする。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1(一) 債務者は、資本金五〇〇〇万円、従業員数一一〇名の株式会社で、大阪府に二箇所(茨木事業所、箕面事業所)、東京都に一箇所(東京事業所)それぞれ事業所を置き、また、各事業所に営業部を置いて、営業活動を行っており、その事業内容は、広告宣伝、セールスプロモーション、パンフレット、ダイレクトメール、ビデオ、イベントなどの企画、制作、実施等であって、マーケティングサービスの専門会社である。
(二) 債権者は、平成一〇年七月八日、債務者の従業員として採用され、同月一三日から、債務者の茨木事業所の営業部第二営業グループに配属された。
(三) 債務者においては、就業規則上、従業員の入社日から三か月は試用期間とされ、試用期間を経過したものについては、所属長の内申を勘案して本採用を決定するとされており、債権者も入社に当たってその旨の説明を受けた。債務者においては、右試用期間が経過して本採用する際に別段の契約書等を作成することはない。
2 債務者は、債権者に対し、平成一〇年一〇月七日付けの文書で同月一二日付けで試用期間が満了し、本採用を拒否する旨予め通知し、同月一四日付けの文書で同月一二日にて試用期間が満了し、雇用関係が終了した旨通知し、これにより債権者を解雇する旨の意思表示をした(以下、右解雇を「本件解雇」という)。
3 債務者から債権者に支給された給与は、平成一〇年七月分が七万〇〇三〇円(通勤手当一万四〇三〇円、食事代二八〇円を含む)、八月分が二五万八〇九七円(通勤手当一万四〇三〇円、食事残業手当四五〇円、食事代一五四〇円を含む)、九月分が二五万六九三二円(通勤手当一万四〇三〇円、食事残業手当三〇〇円、食事代一四〇円を含む)であり、債務者の賃金の支払方法は毎月一七日締め当月二五日払いである。
二 争点
1 本件解雇の有効性
2 保全の必要性
三 当事者の主張
各主張書面記載のとおりであるから、ここに引用する。
第三 当裁判所の判断
一 前記第二(事案の概要)の一の事実、本件疎明資料によれば、以下の事実が一応認められる。
1 債務者の茨木事業所は、茨木総務部(従業員一名)、茨木営業部(同二四名)、印刷工場(同二一名)で構成されており、茨木営業部は、松下電器産業株式会社(以下「松下電器」という)の各事業部、ヤマハ発動機等を重要顧客とし、広告宣伝、販売促進等の助成物(印刷物、店舗店頭での助成物、POP)その他マーケティング全般の仕事を企画立案から制作、製造、納品まで一貫して提供している。
茨木営業部は、第一から第六までの営業担当グループのほか、制作室、受注製造課、配送課で構成されており、各グループはグループ長と得意先担当者一ないし二名で編成されている。営業第二グループは松下電器のテレビ、オーディオ、記録メディア、炊飯器、電子レンジ等の各事業部、ヤマハ発動機、株式会社ワコールを得意先として担当している(書証略、審尋の全趣旨)。
2 右営業第二グループが担当する松下電器のオーディオ事業部(以下「松下オーディオ事業部」という)は、債務者創業以来の重要得意先であるが、近年債務者の営業担当者が退職し、その後は、担当者が固定していなかった事情もあって、受注活動が低調になっていた。債務者は、茨木営業部部長兼同営業部第二グループ長丸山勲(以下「丸山部長」という)、制作室所属東裕樹(以下「東」という)を営業第二グループ担当として営業活動を行ってきたが、さらに販売促進するための人材の投入が必要と考え、求人誌で企画営業の担当者を募集した。右募集広告には、「未経験者も一から指導します、ご安心を」と記載されており、待遇は固定給制月額二二万円以上と記載されていた。そして、債務者は、右募集に応じた債権者を採用した。
債権者は、平成一〇年七月一三日に債務者に入社し、同月一四日に右茨木事業所営業第二グループに配属され、松下オーディオ事業部国際部販売推進課を担当することになった。松下オーディオ事業部は、オーディオ商品の販売を拡大するため、販売促進用品(ラジオやテレビのコマーシャル、新聞や雑誌広告、カタログやポスターなどの印刷物、スライドやビデオの映像広告、看板や店舗店頭用品等)を使用しているが、債権者は、同事業部を訪問して各担当者と面談し、債務者の仕事に結び付くきっかけを作った上で、丸山部長、制作室と相談して同事業部の担当者に提案し、ラジオ、テレビ等のマスコミ媒体を除く全ての販売促進商品を受注することがその職務の中心である(書証略、審尋の全趣旨)。
3 債権者は、同月一四日、丸山部長から、松下オーディオ事業部の現況について説明を受け、同事業部に対し毎日二回の訪問活動を行うように指示されるとともに、同部長に同行して同事業部に新任の挨拶と紹介を行った。また、丸山部長は、債権者に対し、印刷工程を習得させるために、進行中の中国向けAV総合カタログ制作(東担当)の手伝いをさせたり、債務者の営業マニュアルを教材として営業についての教育、指導を行った。
同年七月二八日、松下オーディオ事業部の商品説明会があったが、丸山部長は、債権者が営業第二グループに配属されたばかりで、松下オーディオ事業部内の現状や商品構成等の理解もできないといった理由から、右商品説明会に丸山部長と東が出席することにし、債権者は出席させなかった(書証略)。
4 債権者は、その後も、松下オーディオ事業部に日参し、同月三〇日には、同事業部の担当者小宅主事から、基準見積料金の確定の問題が解決していないことや債務者の提案が同事業部において商品説明会で行った説明内容を反映しておらず、前年に提案したものを再度提案したものに過ぎないといった問題があると指摘されて丸山部長にその旨報告した。債権者は、同事業部が夏期休暇であった同月三一日から同年八月七日まで丸山部長の承諾を得た上で、日本橋の電器店などを回って市場調査を行った。債権者は、同月一〇日、同月一一日、松下オーディオ事業部を訪問して小宅主事から説明を受け、その内容(前記同年七月三〇日の指摘と同趣旨のもの)をメモ(書証略)にまとめて丸山部長に提出した。債権者は、その後も、松下オーディオ事業部を訪問し、同年八月二八日、同月三一日、同事業部に対して債務者が基準見積を再考し、再提案すべきであること、同事業部の需要に応じた企画を提案すべきであることを内容とする提案を書面(書証略)にまとめて丸山部長に提出した。しかし、丸山部長からは特段の指示等はなかった。また、同月二七日にも、松下オーディオ事業部で商品説明会が開催されたが、これにも丸山部長と東が出席しており、債権者は出席していない(書証略)。
5 同年九月五日、債権者、丸山部長、東の三名でミーティングを行い、その際、債権者は、競業他社がパンフレット、カタログを中心に提案していることから、競合しない企画として、タペストリー(垂れ幕)、ラインアップシート、下敷きのアイデアを出し、同月一六日ころまでに提案をまとめ、同事業部に対するプレゼンテーション(企画提案)の日は同事業部と調整することを提案し、丸山部長もこれを承諾した。同月八日、債権者は、東とアイデアを出すための話し合いを行い、翌九日午前一〇時から再び東と会合を持つ予定であったが、同日未明に債権者の父が死亡しているのが判明したため、丸山部長の承諾を得た上で同月一四日まで忌引休暇をとった。同月九日、丸山部長、東は、松下オーディオ事業部に赴き、小宅主事から、競合他社の提案の状況、オーディオ事業部の方針と販売戦略、債務者の提案期限(同月一八日ころまで)、基準見積書の再提出等について説明を受け、その内容を債務者の代表取締役に提出すべく業務週報(書証略)として書面化し、同月一四日、そのコピーと前記松下オーディオ事業部による二回の商品説明会及び右小宅主事による説明をもとにした企画骨子素案(書証略)のコピーを債権者及び東に交付した(書証略)。同日、丸山部長、東、債権者他二名で、提案する商品のアイデアを出し合ったり、松下オーディオ事業部に対するプレゼンテーションの流れについて話し合い、債権者は、丸山部長の指示に従い、右プレゼンテーションの流れについてのメモ(書証略)を右企画書の作成担当者である東に交付した。債権者は、同月一六日、松下オーディオ事業部の小宅主事と会い、その結果、右プレゼンテーションは、同月一九日午後一時三〇分から同事業部の市原主任に対して行うことに決定した。同月一七日、債権者は、キャッチフレーズを考えて外注に出した。同月一八日、右プレゼンテーションの前日であったため、債権者も他のメンバーと共に徹夜に近い状態でその準備に協力し、同月一九日午前一一時ころ、企画書等が完成した。
同日午後一時三〇分ころから、右松下オーディオ事業部の市原主任に対し、右プレゼンテーションが行われたが、その際の総合的な提案は東が行った。債権者は、右プレゼンテーションの報告等をまとめて丸山部長に提出した。同月二一日、松下オーディオ事業部から、債権者宛の電話によって三点の商品の見積依頼がされたが、右商品の中には債権者の提案したタペストリーも含まれていた。債権者は、同月二四日、右見積依頼のあった商品の一つであるデジタルオーディオワールドハンドブックにつき、概要のアイデアを書面にまとめ、これを東に交付した(書証略、審尋の全趣旨)。
6 債務者においては、同月二五日に支払うべき給与を遅配し、同日、従業員及び労働組合(全労連・全印総連大阪地連新光美術労働組合)に対し、同月二九日に支払うと約束したが、同日になっても支払わなかった。そこで、債権者は、債務者の堤総務部長に対し、給与の支払を催促したほか、昼休みに給与の遅配問題で右労働組合の開催した集会に参加した。右集会から帰ろうとしている債権者に対し、右堤総務部長は右労働組合への加入の有無について尋ね、その後も同年一〇月一日までの間、連日、債権者に対し、同趣旨の質問を行った。右労働組合と債務者は、近年紛争状態にあり、大阪府地方労働委員会において、債務者の行った組合旗撤去、チェックオフ廃止や組合員に対する配転につき、それぞれ不当労働行為と認められて救済命令が出されている。
同年一〇月七日、債務者は、債権者に対し同月一二日付けで本件解雇を行う旨の通知をしたが、丸山部長は、同月八日、債権者に対し、債務者にとって債権者はこれから必要な人材であると債務者の上層部に主張したが、自己の力が及ばなかった旨説明した(書証略、審尋の全趣旨)
二 そこで、争点1(本件解雇の有効性)について判断する。
前記第二(事案の概要)の一の事実によれば、本件試用契約は、解約権留保付き労働契約というべきであり、その留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的(採用決定の当初には把握できなかった労働者の資質、性格や能力等を試用期間中の観察等により把握する趣旨・目的)に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認される場合のみ許されるというべきであるところ、債務者は、債権者に留保解約権を行使した理由として、債権者が営業員としての資質・能力面で必要な適性を欠いていること、債務者に差し入れるべき誓約保証書も提出せず、入社から一〇日後に給与額変更の上申書を提出し、債務者の規則に反して大型のRV車を無断で債務者の構内に乗り入れて工事作業に支障となるようなことをしたことを指摘する。そして、債権者が営業員としての資質・能力面で必要な適性を欠いている点については、具体的には松下オーディオ事業部に対する営業活動における債権者の勤務態度及び勤務成績が不良であること、特に、債権者が松下オーディオ事業部から、同事業部に対する提案に必要な得意先情報を入手し、これを丸山部長等に連絡し、自らも右提案についての企画書の骨子案をまとめてこれを丸山部長等に提出するという役割を果たさなかったこと、見積価格の積算についての基礎知識が欠如していること、株式会社ワコール通販事業部宛の提案趣旨及び企画書の作成を指示されながらこれに関する作業を放棄したことを主張する。
しかし、債権者が丸山部長から企画書の骨子案をまとめる役割を与えられていたと認めるに足りる疎明はないというべきである。前記一で認定したとおり、債権者は、第二営業グループに配属されたばかりであるということもあって、松下オーディオ事業部の行った商品説明会にも二回とも出席しておらず、丸山部長等が出席している。債務者は、丸山部長は、二回の商品説明会の資料をコピーして債権者に交付しているとか、右説明会で聞いた事項について、自己の作成したノートの写しを交付していた旨主張するが、右企画書は、右商品説明会で説明された商品の販売促進物についてのものであるから、債権者に対しその骨子を作成する役割を与えていたのであれば、債権者を右商品説明会に出席させるのが通常であると考えられる。(書証略)によっても、丸山部長が作成した企画骨子素案(書証略)に基づいて東が右企画書を作成することになっており、債権者が企画書の骨子案を作成する必要はないことが窺われる。また、債務者は、当初〈1〉平成一〇年九月八日の丸山部長等の出席した企画提案会議において、債権者に松下オーディオ事業部での情報収集と企画案の骨子をまとめることを指示した、〈2〉しかし、同月一一日、制作チーム五名で各自の作業進捗状況確認の会議を実施したところ、債権者はこの三日間何らの作業を行っていなかった事態が判明したが、債権者は企画書の骨子を作成すると明言したので、企画書を作成させることとした、〈3〉丸山部長は、同月一四日、債権者に企画案骨子の進捗状況を確認したが、この時点でも何の準備もできておらず、作業を放棄していたことが判明した旨主張し(平成一〇年一一月三〇日付け主張書面)、丸山部長の同旨の陳述書(書証略)を提出しており、債権者から前記二で認定したとおり同月九日から同月一三日まで忌引休暇をとっていたことを指摘されると、債務者は、同月一一日に債権者が企画書の骨子を作成すると明言したと主張していないとか、右陳述書に「九月一一日に私を除く制作チーム五名で各自の作業進捗状況の会議を実施した」とあるのは「九月一一日に小林(債権者を指す)を除く制作チーム五名で各自の作業進捗状況の会議を実施した」とのワープロミスであった旨弁解しているが、債務者の主張する事実経過によれば、債務者において、債権者が同月一一日の会議に出席し、企画書の骨子を作成すると明言した旨主張し、その旨の陳述書を提出していることは明らかであり、債務者の主張はこの点で事実と相違しているし、債権者が忌引休暇をとっており、この間の作業を行っていないことは債務者も知悉していたのであるから、同月一一日までの三日間何らの作業を行っていた事態が判明したとか、同月一四日の時点で債権者に何の準備もできていないことが判明したとかといった債務者の主張も事実と相違していることが明らかである。さらに、債務者は、丸山部長が同月八日に債権者に対し、企画骨子素案(書証略)を示して、これに基づいて企画書の骨子をまとめるように指示した旨主張するが、(書証略)によれば、右企画骨子素案には、「第一回 七月二八日」、「二回 八月二七日」という右商品説明会の開催された日時の記載と並んで「九月九日小宅さん」との記載がされており、これは、右商品説明会での説明及び同月九日に松下オーディオ事業部で小宅主事から受けた説明に基づいて作成されたものであることが明らかである。債務者は、同月九日に右小宅主事と会って話を聞くことになっていたので、それをメモしたと弁解するが、右のようなメモを右企画骨子素案に記載する意味はなく、右弁解は不自然であることが否定できない。これらの点に照らしても、松下オーディオ事業部に対する営業活動における債権者の勤務態度及び勤務成績が不良であると認めるに足りる疎明はないというべきである。
また、前記一で認定したとおり、債務者は、経験者に限った従業員の応募をしていないのであって、債権者が見積価格の積算についての基礎知識が欠如しているために営業員としての適性、能力を欠いていると認めるに足りる疎明はないし、債権者が株式会社ワコール通販事業部宛の提案趣旨及び企画書の作成を指示されたことについては、この主張に沿う丸山部長の陳述書(書証略)は、債権者の陳述書(書証略)に照らして直ちに採用することができず、他に右事実を認めるに足りる疎明はない。債権者が債務者に差し入れるべき誓約保証書を提出しなかったのは、給料についての合意がなかったからに過ぎないし(書証略)、入社から一〇日後に給与額変更の上申書(書証略)を提出していることも債権者の資質、性格に疑問をさしはさませるものではないし、債務者の規則に反して大型のRV車を無断で債務者の構内に乗り入れさせたことも、それが債務者の留保解約権の行使を正当化させるものと認めるに足りる疎明はない。他に、債権者の資質、性格や能力等において従業員としての適格性に問題があると認めるに足りる疎明はない。
以上によれば、債務者の債権者に対する留保解約権の行使につき、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認される場合に当たると認めるに足りる疎明はないというべきである。むしろ、前記一で認定した本件解雇に至る経緯によれば、債権者は、丸山部長によって行われた指示についてはこれを誠実に履行しており、債務者は、債権者が自己の労働契約上の権利を主張することを嫌い、かつ、債権者が前記労働組合に加入するのではないかとの疑念を抱いたことから、本件解雇に至ったのではないかと推認するのが相当である。
したがって、本件解雇は無効であるというべきである。
三 次に、争点2(保全の必要性)について判断する。
疎明資料(書証略)及び審尋の全趣旨によれば、債権者は、その収入が債務者から支払われる賃金のみであり、特段の資産も有していないことが一応認められ、毎月平成一〇年八月分と九月分の平均賃金(ただし、現実にされた通勤、勤務に伴う費用を弁償するために支給される通勤手当、食事残業手当、食事代を除く)である二四万二二六九円(円未満切捨て)につき、右給与の仮払いの必要性が一応認められる。
四 よって、本件事案の性質に照らし、債権者に担保を立てさせないで、主文のとおり決定する。
(裁判官 中村也寸志)
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