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裁判年月日 平成30年 4月27日 裁判所名 名古屋地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)267号・平25(ワ)5590号
事件名 朝鮮高校生就学支援金不支給違憲損害賠償請求事件
裁判結果 棄却 上訴等 控訴 文献番号 2018WLJPCA04276001
事案の概要
◇当時、愛知朝鮮高校に在籍していた生徒である原告ら10名が、政治外交上の理由から朝鮮高校の生徒を高校無償化の適用から排除しようとした違法行為により、就学援助が受けられなかっただけでなく、人格権を侵害されるという深刻な被害を受けたなどと主張して、被告に対し、各自55万円の支払を求めた事案
新判例体系
公法編 > 憲法 > 国家賠償法〔昭和二二… > 第一条 > ○公権力の行使に基く… > (三)違法性 > G その他 > (2)違法でないとした事例
◆学校法人愛知朝鮮学園がその設営する愛知朝鮮学校(愛知朝鮮中高級学校の高級部)の在学生を、高等学校等就学支援金の受給対象者とするため、公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律(平成二五年法律第九〇号による改正前のもの)、同法律施行規則(平成二五年文部科学省令第三号による改正前のもの)第一条第一項ハによる指定を求める申請に対して文科大臣がした不指定処分は、朝鮮総連が朝鮮学校の教育内容に強い影響力を及ぼし、校長・教員に対し、北朝鮮の最高指導者を崇拝・絶対視する教育を行うべきことを繰り返し指導しており、愛知朝鮮学校の運営は朝鮮総連ないしその傘下団体による教育本来の目的をゆがめるような不当な支配に服しているものと合理的に疑わせる事情が存在することからされたものであって適法であり、国家賠償法第一条第一項の違法を生じない。
公法編 > 行政諸法 > 教育基本法〔平成一八… > 第三章 教育行政 > 第一六条・旧第一〇条… > ○教育行政 > (五)その他
◆朝鮮高校の学校運営につき、教育基本法一六条一項に違反していると合理的に疑うべき事情があったとし、文部科学大臣の認定判断に裁量権逸脱濫用の違法があるとは認められないとした事例。
公法編 > 行政訴訟法 > 行政事件訴訟法〔昭和… > 第二章 抗告訴訟 > 第一節 取消訴訟 > 第三〇条 > ○裁量処分の取消し > (二)裁量権の限界 > (3)適法とされた事… > (ヨ)学校・生徒関係
◆文部科学大臣が朝鮮中高級学校の高等部について「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則(平成二五年文部科学省令第三号による改正前のもの)」第一条第一項第二号ハの規定による指定をしない処分をしたことにつき、同号ハの規定による指定の基準及び手続等を定める規程に適合すると認めるに至らないとした同大臣の認定判断に不合理な点があったとはいえず、裁量権を逸脱・濫用した違法があるとは認められない。
公法編 > 行政訴訟法 > 行政事件訴訟法〔昭和… > 第二章 抗告訴訟 > 第一節 取消訴訟 > 第三〇条 > ○裁量処分の取消し > (三)裁量処分の審査方法
◆文部科学大臣が朝鮮中高級学校の高等部について「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則(平成二五年文部科学省令第三号による改正前のもの)」第一条第一項第二号ハの規定による指定をしない旨の処分をしたことにつき、文部科学大臣が政治外交上の理由も考慮したとしても、申請が指定要件に適合しなかった以上、それにより不指定処分が違法になるとはいえない。
公法編 > 行政訴訟法 > 行政手続法〔平成五年… > 第二章 申請に対する… > 第八条 > ○理由の提示 > (一)理由の提示 > (2)違法とされた事例
◆文部科学大臣がした朝鮮中高級学校の高等部について「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則(平成二五年文部科学省令第三号による改正前のもの)」第一条第一項第二号ハの規定による指定をしない旨の処分において、処分通知書に「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第一条第一項第二号ハの規定に基づく指定に関する規程」第一三条に適合すると認めるに至らなかったと指摘するのみでは、いかなる事実関係に基づき、いかなる法令違反の疑いを認定して処分がされたかを了知することは困難であるから、理由提示として十分でない。
裁判経過
控訴審 令和元年10月 3日 名古屋高裁 判決 平30(ネ)457号 朝鮮高校生就学支援金不支給違憲損害賠償請求控訴事件
出典
裁判所ウェブサイト
判時 2400号20頁
評釈
德川信治・国際人権 30号91頁
李春煕・国際人権 30号85頁
安達和志・日本教育法学会年報 49号21頁
参照条文
国家賠償法1条1項
公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律2条1項5号
公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則1条1項2号ハ(平25文部科学省令3号改正前)
日本国憲法13条
日本国憲法14条
日本国憲法26条
日本国憲法98条
教育基本法16条1項
行政手続法6条
行政手続法7条
行政手続法8条
裁判年月日 平成30年 4月27日 裁判所名 名古屋地裁 裁判区分 判決
事件番号 平25(ワ)267号・平25(ワ)5590号
事件名 朝鮮高校生就学支援金不支給違憲損害賠償請求事件
裁判結果 棄却 上訴等 控訴 文献番号 2018WLJPCA04276001
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告1ないし原告5各自に対し,55万円及びこれに対する平成25年3月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告6ないし原告10各自に対し,55万円及びこれに対する平成26年1月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,学校法人愛知朝鮮学園(以下「愛知朝鮮学園」という。)が,同学園の設置する愛知朝鮮中高級学校の高級部(以下「愛知朝鮮高校」という。)について,公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律(平成25年法律第90号による改正前のもの。以下「支給法」という。)2条1項5号,同法律施行規則(平成25年文部科学省令第3号による改正前のもの。以下「本件省令」という。)1条1項2号ハによる指定を求める旨の申請(以下「本件申請」という。)をしたところ,文部科学大臣から本件省令1条1項2号ハによる指定をしない旨の処分(以下「本件不指定処分」という。)を受けたことに関して,当時,愛知朝鮮高校に在籍していた生徒である原告らが,本件不指定処分を含む被告の一連の行為は政治外交上の理由により朝鮮高校(各朝鮮中高級学校の高級部をいう。以下同じ。)の生徒を支給法の適用から排除しようとした違法行為であって,これにより就学援助が受けられなかっただけでなく,人格権を侵害されるという深刻な被害を受けた等と主張し,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,各自55万円(慰謝料50万円及び弁護士費用5万円)並びにこれに対する違法行為の後の日である訴状送達の日の翌日(原告1ないし5については平成25年3月20日であり,原告6ないし10については平成26年1月7日である。)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 関係法令の定め等
本件の関係法令及び関係する規程の定めは,別紙「関係法令の定め等」に記載のとおりであるが,支給法に基づく高等学校等就学支援金(以下「就学支援金」という。)の支給制度の概要等は,次のとおりである。
(1) 支給法の目的・制定理由
支給法は,公立高等学校について授業料を徴収しないこととするとともに,公立高等学校以外の高等学校等(以下「私立高等学校等」という。)の生徒等がその授業料に充てるために就学支援金の支給を受けることができることとすることにより,高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り,もって,教育の機会均等に寄与することを目的とするものである(支給法1条)。
高等学校等の後期中等教育段階の学校における教育に係る費用負担については,義務教育と異なり,憲法上無償であることが要求されるものではなく,また,私立学校を含め一律に無償とすることは実際上困難であること等から,受益者である生徒等に授業料等の負担を求めることを原則としつつ,奨学金事業の実施等,主として低所得者層を対象とした支援が行われてきたところであるが,①高等学校等における教育を受けるために保護者には決して軽くはない経済的負担が生じており,進学の意欲のある者が経済的理由で就学が困難になることがないよう,一層の教育費負担軽減を図り,教育の機会均等を確保することが喫緊の課題となっていたこと,②高等学校等の進学率は約98%に達し,その教育の効果は広く社会に還元されるものとなっていることに鑑みれば,その費用について社会全体で負担していくことが適当であると考えられること,③経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)13条2項⒝でも,中等教育における無償化の漸進的導入が規定されているところ,この条項を留保しているのは締約国のうち日本とマダガスカルのみとなっている状況であり,これを撤回するための施策を展開していくことも求められていたこと等から,支給法が制定されたものである。(乙1)
(2) 支給する就学支援金について
私立高等学校等に在学する生徒に対する就学支援金は,都道府県知事等が,国から交付される金銭を原資として,受給権者に対して,原則として月額9900円(年額11万8800円)を限度として支給すべきものとされている(支給法6条1項,7条1項,15条,公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行令(平成26年政令第124号による改正前のもの。以下「支給法施行令」という。)3条1号)。
なお,上記就学支援金の支給額に関しては,いわゆる低所得世帯の生徒の一部について,政令で定める金額が加算され(支給法6条2項),平成25年法律第90号による改正後は,いわゆる高所得世帯の生徒等に対しては,就学支援金が支給されないこととされた(同法による改正後の支給法3条2項3号)。
(3) 就学支援金制度の仕組み
ア 受給権者及びその認定手続
就学支援金は学校に対する助成金ではなく,その受給資格を有する者は,私立高等学校等に在学する生徒又は学生で日本国内に住所を有する者である。受給資格を有する者が就学支援金の支給を受けようとするときは,その在学する私立高等学校等の設置者を通じて,当該私立高等学校等の所在地の都道府県知事に対し,当該私立高等学校等における就学について就学支援金の支給を受ける資格を有することについての認定を申請し,その認定を受けなければならない(支給法4条1項,5条)。
支給法が,就学支援を学校設置者に対する機関助成とせず,生徒個人に対する助成としたのは,学校設置会社等学校法人以外のものが設置する高等学校や専修学校・各種学校に通う生徒を含め,その在学する学校の設置者の種類や意向にかかわらず,より幅広く後期中等教育段階において学ぶ生徒に対して確実な支援を行うことを可能とするためである。(乙1)
イ 就学支援金の支給手続
支給対象高等学校等(在学する生徒等が就学支援金の支給を受ける資格を有することの認定を受けた学校を指す。以下同じ。)の設置者は,受給権者である生徒等に代わって就学支援金を受領することとされ,支給対象高等学校等の設置者において,これを当該受給権者である生徒等の授業料に係る債権の弁済に充てる(支給法8条)。
このような代理受領の方法が定められたのは,①個人に支給した就学支援金が授業料以外に流用されることを防止する必要があること,②地方公共団体等を通じて個人に直接支給する仕組みとする場合には事務的な負担が大きくなるため,極力これを抑制する合理的な仕組みとする必要があることによるものである。(乙1)
ウ 支給法2条1項により就学支援金の支給対象となる高等学校等(以下「支給対象校」という。)について
(ア) 前提
学校教育法1条(平成27年法律第46号による改正前のもの)は,「この法律で,『学校』とは,幼稚園,小学校,中学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校,大学及び高等専門学校とする」と規定している。これはいわゆる「1条校」と言われるものであり,例えば,1条校である高等学校は,①学校の設置に当たり,文部科学大臣の定める設備,編制その他に関する設置基準に従うこと(同法3条),②高等学校の学科及び教育課程に関する事項は,文部科学大臣が定めること(同法52条),③文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の名義を有する教科用図書を使用しなければならないこと(同法62条,34条),④教育職員免許法に基づく免許状を有する教員を配置しなければならないこと(同法2条1項,3条1項,4条ないし6条)などの規律を受けるが,反面,高等学校を卒業した者は,他の特段の要件なく,大学入学資格が認められる(学校教育法90条1項)。
もっとも,教育施設の中には,上記のような範疇に入らないものや上記のような規律を受けることを望まないものもあることから,学校教育法は,1条校以外の教育施設として,①124条で専修学校(1条校以外の教育施設で,職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し,又は教養の向上を図ることを目的として組織的な教育を行うもの)を,②134条で各種学校(1条校以外で,学校教育に類する教育を行うもの。我が国に居住する外国人を専ら対象とするいわゆる外国人学校のほか,予備校,自動車教習所などの様々な教育施設も含まれる。)を定めている。外国人学校は,専修学校の定義から除外されているので,1条校としての認可を受けない限りは,各種学校として認可の対象となる。
(イ) 支給法の対象となる学校及び教育施設
支給法は,1条校に当たる学校(高等学校,中等教育学校の後期課程,特別支援学校の高等部,高等専門学校)については無条件に支給対象校としているが(2条1項1ないし4号),専修学校及び各種学校については,高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものに限り,就学支援金制度の対象となる私立高等学校等に含まれるものとしている(2条1項5号)。このように文部科学省令で定めるものに限定されたのは,専修学校及び各種学校における教育内容が多種多様であると考えられたためである。
これを受けて,本件省令1条1項2号は,支給法2条1項5号に掲げる各種学校のうち高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学省令で定めるものを,「各種学校であって,我が国に居住する外国人を専ら対象とするもののうち,次に掲げるもの」とし,①高等学校に対応する外国の学校の課程と同等の課程を有するものとして当該外国の学校教育制度において位置付けられたものであって,文部科学大臣が指定したもの(同号イ。以下「本件省令イ」という。),②同号イに掲げるもののほか,その教育活動等について,文部科学大臣が指定する団体の認定を受けたものであって,文部科学大臣が指定したもの(同号ロ。以下「本件省令ロ」という。)並びに③同号イ及びロに掲げるもののほか,文部科学大臣が定めるところにより,高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして,文部科学大臣が指定したもの(同号ハ。以下「本件省令ハ」という。)を定めた。
そして,文部科学大臣は,本件省令ハの規定による指定の基準及び手続等を定めるものとして,平成22年11月5日,公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第1条第1項第2号ハの規定に基づく指定に関する規程(以下「本件規程」という。)を決定した。
(以上につき,甲全9,乙1)
2 前提事実(争いのない事実のほかは,後掲各証拠(枝番があるもので,その全てを摘示すべき場合には,その記載を省略する。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により明らかに認められる。)
(1) 当事者
ア 原告ら
原告らは,いずれも日本で生まれ,日本の特別永住資格を有する在日朝鮮人3世又は4世であり,いずれも愛知朝鮮高校に在籍していた者である。
(ア) 原告1,2は,いずれも,平成22年度に愛知朝鮮高校3年次に在籍し,平成23年3月に同校を卒業した者である。(甲A2,甲B2)
(イ) 原告3,6は,いずれも平成22年度に愛知朝鮮高校2年次に在籍し,平成24年3月に同校を卒業した者である。(甲C3,甲F3)
(ウ) 原告4,5は,いずれも平成22年度に愛知朝鮮高校1年次に在籍し,平成25年3月に同校を卒業した者である。(甲D3,甲E3)
(エ) 原告7ないし9は,いずれも平成23年度に愛知朝鮮高校の1年次に在籍し,平成26年3月に同校を卒業した者である。(甲G2,甲H2,甲I2)
(オ) 原告10は,平成24年度に愛知朝鮮高校の1年次に在籍し,平成27年3月に同校を卒業した者である。(甲J2)
イ 愛知朝鮮高校等
(ア) 愛知朝鮮中高級学校は,昭和22年12月19日,愛知県知事から設置認可を受けた各種学校であり,愛知県豊明市に所在している。同校は,「学校教育法に基づき本校に入学する在日朝鮮人子女に対し,中等の普通教育を実施し,朝鮮人として必要な教養を涵養し,併せて朝日両国民の親善に寄与しうる人材を育成すること」を目的としており,中級部と高級部が存在している。愛知朝鮮中高級学校では,朝鮮にルーツがあれば,生徒の国籍及び外国人登録の記載は問わないこととしており,平成22年11月当時の在籍生徒の国籍ないし外国人登録の記載は,韓国籍の生徒81名,朝鮮籍の生徒73名,日本国籍の生徒3名,その他の国籍の生徒1名(合計158名)であった。(甲全4の1,4の2,弁論の全趣旨)
(イ) 愛知朝鮮学園は,愛知朝鮮中高級学校を運営する準学校法人(私立学校法64条4項に定める法人をいう。以下同じ。)であり,昭和42年3月1日,愛知県知事から認可を受けて設立された。(甲全4の1)
(2) 支給法及び本件規程の制定経緯等
ア 支給法は,内閣提出法案として,衆議院及び参議院における審議を経て,平成22年3月31日に公布され,同年4月1日から施行された。
また,本件省令は,同日に公布・施行されたところ,本件省令は,支給法2条1項5号で文部科学省令に委任された「高等学校の課程に類する課程を置くもの」に該当する各種学校の範囲について,前記1(3)ウ(イ)のとおり定めた。本件省令イ及びロに基づく支給対象校は,同月30日に31校が指定された。(乙36,公知の事実)
イ(ア) 文部科学大臣は,本件省令ハに該当する各種学校の指定基準等を決定するため,平成22年5月26日,文部科学大臣の諮問機関として,専門家らを委員とする「高等学校等就学支援金の支給に関する検討会議」(以下「検討会議」という。)を設置した。検討会議は,5回の会議を開催し,同年8月30日,その検討結果を文部科学大臣に報告した。(甲全7)
(イ) 文部科学大臣は,平成22年11月5日,検討会議の報告(以下「検討会議報告」という。)を踏まえて本件規程を定め,同月15日付け官報において,これを公表した。(甲全9,公知の事実)
(3) 愛知朝鮮高校に係る審査等
ア 愛知朝鮮学園は,平成22年11月17日付けで,文部科学大臣に対し,本件規程14条に基づき,指定を受けようとする年度を平成22年度として,愛知朝鮮高校について本件省令ハによる指定を求める申請を行い,同申請書は同月25日に受理された。また,愛知朝鮮学園は,平成23年9月28日付けで,指定を受けようとする年度を平成22年度と平成23年度として指定を求める申請を行い,更に平成24年9月15日付けで,指定を受けようとする年度を平成22年度ないし平成24年度として指定を求める申請を行った。(甲全4,5,乙6,21)
イ 朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)は,平成22年11月23日,大韓民国が統治する延坪島に対して砲撃を行った(以下「延坪島事件」という。)。これを受け,同月24日,高木義明文部科学大臣(以下「高木文部科学大臣」という。)は,菅直人内閣総理大臣(以下「菅内閣総理大臣」という。)の指示に基づき,愛知朝鮮高校を含む全ての朝鮮高校について,本件省令ハによる指定に係る審査手続を停止した。上記審査手続の停止は,平成23年8月29日まで継続した。(甲全16,31,50)
ウ 本件規程15条は,本件省令ハによる指定を行おうとするときは,あらかじめ,教育制度に関する専門家その他の学識経験者で構成される会議で文部科学大臣が別に定めるものの意見を聴くものとしているところ,文部科学大臣は,平成23年7月1日,「高等学校等就学支援金の支給に関する審査会」(以下「審査会」という。)を設置した。
審査会は,同日開催の第1回審査会から同年11月2日開催の第3回審査会まで,ホライゾンジャパンインターナショナルスクール(以下「ホライゾンジャパン」という。)及びコリア国際学園の審査を行い,両校が審査基準を満たしているとの報告を文部科学大臣に行った。文部科学大臣は,これを踏まえ,同年8月30日にホライゾンジャパンについて,同年12月2日にコリア国際学園について,本件省令ハによる支給対象校に指定した。
また,審査会は,同年8月29日の審査手続再開後,同年11月2日開催の第4回審査会から平成24年9月10日開催の第7回審査会まで,愛知朝鮮高校を含む朝鮮高校の指定の可否に関する審査を行ったが,審査会として審査結果を取りまとめるに至らないまま,後記の政権交代を迎えた。
(以上につき,甲全6の2,33ないし36,38ないし47,140ないし143,乙26,37ないし39,184,185)
(4) 政権交代,本件省令の改正と本件不指定処分
ア 平成24年12月16日に衆議院総選挙が実施され,その結果,自由民主党(以下「自民党」という。)が衆議院における第一党となり,それまで与党であった民主党(当時)を中心とした政権から,自民党を中心とする政権へ,いわゆる政権交代が起こった。そして,同月26日,自民党総裁である安倍晋三が内閣総理大臣に就任し,第2次安倍内閣(以下,単に「安倍内閣」という。)が発足した。
安倍内閣において文部科学大臣に就任した衆議院議員下村博文(以下,文部科学大臣としての同人を指す場合には「下村文部科学大臣」といい,野党時代の同人を指す場合には「下村議員」という。)は,同月28日の大臣記者会見において,「朝鮮学校については拉致問題の進展がないこと,朝鮮総連と密接な関係にあり,教育内容,人事,財政にその影響が及んでいること等から,現時点での指定には国民の理解が得られず,不指定の方向で手続を進めたい」旨を閣僚懇談会で提案して総理の了解を得たことを明らかにし,併せて,本件省令ハを削除する方針を明らかにした。
文部科学省は,同日,本件省令ハの削除を内容とした「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則の一部を改正する省令」案を意見公募手続に付した。
(以上につき,甲全55,56,136,乙77,90)
イ 下村文部科学大臣は,平成25年2月20日,本件省令ハの削除を内容とする本件省令改正を公布し,愛知朝鮮高校に対して本件不指定処分を行うとともに,他の朝鮮高校についても,本件省令ハによる指定をしない旨の処分を行った。
愛知朝鮮学園に対する不指定通知書には,処分理由として,「平成22年11月17日付けで申請のあった公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則(平成22年文部科学省令第13号)第1条第1項第2号ハに基づく愛知朝鮮中高級学校の指定については,同号ハの規定を削除したこと並びにこれまで公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第1条第1項第2号ハの規定に基づく指定に関する規程(平成22年11月5日文部科学大臣決定)に基づき,貴校の同規程に定める指定の基準への適合性を審査してきたところ,平成24年度の教員数(15人)が同規程第6条に定める必要な教員数(16人)に満たないこと及び同規程第13条に適合すると認めるに至らなかったことから,認められません。」と記載されていた。
(以上につき,乙4,5)
(5) 本件訴えの提起等
原告1ないし5は,平成25年1月24日,申請から2年が経過しても,愛知朝鮮高校を支給対象校に指定する処分をしないことは違法であると主張し,本件訴え(当庁平成25年(ワ)第267号事件)を提起した(その後,本件不指定処分及び本件省令ハの削除を違法事由として追加した。)。
また,原告6ないし10は,同年12月19日,本件不指定処分,本件省令ハの削除及び本件申請に係る審査に約2年3か月を要したこと(以下「本件審査の長期化」という。)が違法であると主張し,本件訴え(当庁平成25年(ワ)第5590号事件)を提起した。
(以上につき,当裁判所に顕著)
3 争点
(1) 本件不指定処分の違法性
ア 本件不指定処分が支給法に違反するか
(ア) 文部科学大臣が愛知朝鮮高校について本件規程13条に適合すると認めるに至らないとして本件不指定処分をしたことは支給法に違反するか
a 本件規程13条に適合することは本件省令ハによる指定の要件か
b 本件規程13条にいう「法令」に教育基本法は含まれるか
c 本件規程13条の要件適合性の立証責任等
d 愛知朝鮮高校が本件規程13条に適合すると認めるに至らないとした文部科学大臣の認定判断は,同条適合性に係る認定判断を誤ったものとして違法か
(イ) 本件不指定処分は,政治外交上の理由に基づいて行われたもの(他事考慮)として違法か
(ウ) 本件不指定処分は,本件規程15条に違反するものとして,あるいは,審査会の審査過程を考慮することなく行ったものとして違法か
(エ) 本件不指定処分は,本件規程6条の要件に適合しないとの誤った判断を理由として行われたものとして,あるいは同条の要件に関する事実確認・補正義務を怠って行われたものとして違法か
イ 本件不指定処分は行政手続法8条に違反するものとして違法か
(2) 本件省令ハ削除の違法性
ア 本件省令ハの削除は,支給法の委任の範囲を逸脱するものとして違法か
イ 本件省令ハの削除は,政治外交上の理由に基づいて行われたもの(他事考慮)として違法か
ウ 本件省令ハを削除して本件不指定処分をしたことは,行政手続法5条に違反し違法か
(3) 本件審査の長期化は,政治外交上の理由に基づいて行われたもの(他事考慮)として,あるいは,行政手続法6条,7条に違反するものとして違法か
(4) 本件不指定処分,本件省令ハの削除及び本件審査の長期化(以下「本件一連の行為」という。)は,憲法又は国際条約に違反するものとして違憲違法か
ア 本件一連の行為は,原告らの人格権(民族的アイデンティティの確立)を侵害するものとして憲法13条に違反し,違憲か
イ 本件一連の行為は,憲法14条1項に違反するものとして違憲か
ウ 本件一連の行為は,原告らの教育を受ける権利(学習権)ないし民族教育を受ける権利を侵害し,あるいは差別的に取り扱うものとして,憲法26条,国際条約,憲法98条2項に違反し,違憲違法か
(5) 本件一連の行為が,法令違反,国際条約違反又は憲法違反に当たると判断される場合,これらの行為が原告らとの関係で国家賠償法上違法となるか
(6) 原告らの損害
(7) 相互保証の有無
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)ア(ア)a(本件規程13条に適合することは本件省令ハによる指定の要件か)について
(原告らの主張)
ア 被告は,本件不指定処分の理由として,愛知朝鮮高校が本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったことを挙げるが,本件規程13条は支給対象校を指定する際の実質的要件ではなく,「高等学校の課程に類する課程を置く」と認められる学校を支給対象校として指定した後に,就学支援金が確実に生徒のために使われるよう求める一種の訓示規定にすぎない。
イ すなわち,本件省令1条1項2号は支給対象校となる各種学校たる外国人学校の要件について定めているところ,本件省令イ及びロに該当する学校については,客観的に認定し得る外国人学校の教育課程や教育水準が日本の高等学校のそれに大筋において匹敵することが要件とされており,教育課程の大綱的部分(施設設備・学校組織規模・学校教育組織編制)が問われるにすぎず,その細目的な部分や具体的な教育活動は問題とされていない。そうすると,本件省令ハは,本件省令イ及びロと並んで,支給法2条1項5号が定める学校の範囲を規定するものであるから,本件省令ハが再委任する本件規程も,教育課程の大綱的部分を問うものでなければならず,本件規程13条を指定要件とすることは,本件省令イ及びロと異なる要件を加重するものであって不当であって,私立高等学校について,不適切な学校運営が行われていても,就学支援金の支給が停止されないこととも整合性がとれない。支給法の国会審議や検討会議報告においても,「高等学校の課程に類する課程」かどうかは,あくまで客観的基準で判断されるべきとされており,子どもの教育にかかわりのない学校の運営面等に関する要件を課すことは不合理である。
ウ また,本件規程13条の文言をみても,「確実な」「適正に」などの不確定概念が用いられており,末尾の文言も指定時における客観的な状況を問うものではないから,その文言からしても,指定の要件として定められたものではないといえる。さらに,本件規程は,就学支援金が授業料債権に充当されない場合において指定取消しを定めるほか(17条),債権充当に関する報告書の提出を求めており(16条),さらには支給法11条には不正利得の徴収の手続が設けられており,本件規程13条に違反するような状況に対しては,事後的措置により対処することが予定されているといえる。加えて,本件規程13条への留意が必要であれば,ホライゾンジャパンやコリア国際学園について行われたように,留意事項を付して指定処分をすることも可能である。よって,本件規程13条に適合することは指定要件ではない。
(被告の主張)
ア ①本件規程13条が,「指定の基準」を定める第2章に設けられていること,②支給法が就学支援金を生徒個人に対する助成としている趣旨は,在学する学校の設置者の種類や意向にかかわらず,後期中等教育段階において学ぶ生徒等により幅広く確実な支援を可能にすることにあるところ,就学支援金が授業料以外に流用されるおそれを否定できない場合には生徒等個人に対する確実な支援にはならないから,支給法が,学校運営を適正に行うことができない学校を支給対象校とすることを許容しているとは考えられないこと,③法令に基づく適正な学校運営がされないおそれや懸念がある場合に,国民全体に経済的負担を課してまで就学支援金を支給するのは,支給法の趣旨に反することからすると,本件規程13条は,支給対象校に指定するための要件である。そして,現に,本件省令ハによる指定がされたホライゾンジャパン及びコリア国際学園についても,本件規程13条適合性の審査は行われていたし,朝鮮高校についても,審査の初期から本件規程13条適合性は問題とされていた。
イ これに対し,原告らは,本件規程13条が指定要件であるとすると,本件省令ハに該当する学校について,本件省令イ及びロに該当する学校より要件を加重することになると主張するが,本件省令イ及びロに該当する学校は,日本の高等学校の課程に相当する課程であることを,大使館や国際的な評価機関を通じて制度的・客観的に確認できることから支給対象校としたものであり,このような制度的・客観的担保のない本件省令ハに該当する学校とは,規定趣旨や指定要件を異にする。したがって,指定要件が異なるのは当然のことである。
ウ また,原告らは,就学支援金流用の疑惑が認められた場合は,本件規程及び支給法が定める事後的措置で対処することが予定されている旨主張するが,これらの事後的措置は,いずれも「第2章 指定の基準」ではなく「第3章 指定の手続等」に規定されていることからもうかがわれるように,指定要件を満たして指定された学校に対する措置であって,当初から法令に基づく適正な学校運営がされているとの確証が得られない学校を支給対象校に指定することを前提とした規定ではない。本件規程18条に定める留意事項も,同様であり,指定要件とは別個の措置であるから,指定要件を満たさない外国人学校について留意事項を付した上で指定処分をすることはあり得ない。
エ さらに,原告らは,支給対象校の指定要件は「教育課程の大綱的部分についてのものにとどめるべき」と主張するが,支給法は,高等学校の「課程」に類する課程を置くか否かの判断基準等を文部科学省令に委任したものであって,判断資料を「教育課程」に限定したものとは解し得ない。学校教育関係法令上「教育課程」と「課程」は別個の概念であり(学校教育法66条,128条4号参照),「課程」とは「教育そのもの」を指す用語であるから,支給法2条1項5号にいう「高等学校の課程」には教育内容,学校の組織及び運営体制が含まれる。
(2) 争点(1)ア(ア)b(本件規程13条にいう「法令」に教育基本法は含まれるか)について
(原告らの主張)
ア 仮に本件規程13条が指定の実質的要件であるとしても,本件規程13条にいう「法令に基づく学校の運営」か否かは,債権の弁済への充当が確実にされるか否かという客観的な観点から判断されるべきものであり,「法令」に教育基本法は含まれない。
イ すなわち,①本件規程13条は本件規程12条に定める情報提供等の補充的規定であること,②本件規程13条が「授業料に係る債権の弁済への確実な充当」を適正な学校運営の例示としていること,③検討会議報告でも,本件省令ハの基準は制度的・客観的に把握し得る内容によることを基本とするとされていること等からすれば,本件規程13条にいう「法令」は会計事務に関する法令に限られるというべきである。
ウ また,以上は本件省令イ及びロに該当する学校との比較からも明らかである。すなわち,本件省令イ及びロに基づく場合は,大使館や国際的な評価機関を通じた確認がされることによって,支給対象校と指定されることになるところ,大使館や評価機関は,外国人学校に対して教育基本法16条1項が禁ずる「不当な支配」が及んでいるか否かを認定するわけではないから,同項適合性は指定の要件とはされていない。また,私立高等学校や専修学校高等課程については,不当な支配が行われていたとしても,就学支援金の支給が停止されるわけではない。以上によれば,本件省令ハによる指定についてのみ,教育基本法に適合することを要件とすることは不当である。このように解すべきことは,本件省令ハにより支給対象校に指定されたホライゾンジャパンやコリア国際学園の審査の際には,「不当な支配」の有無は審査の対象外とされていたことや,朝鮮高校に対する審査の際にも当初は「不当な支配」の有無が審査対象とされていなかったことからも裏付けられる。
エ 仮に,本件規程13条があらゆる「法令」を含む規定であれば,それ自体曖昧不明確で過度に広範であり,定義規定の明確化だけを要求した支給法の委任の範囲を超えるものである。
(被告の主張)
ア ①本件規程13条の「法令」については,その範囲を限定する規定が一切ないこと,②我が国の教育法体系において教育基本法は根本法であり,教育関係法令は教育基本法の理念にのっとり制定されなければならないこと,③本件規程の制定に先立つ検討会議においても,学校教育法や私立学校法等に基づく学校運営の適正性を改めて求めるべきである旨の報告がされていること,④教育基本法16条1項が禁ずる「不当な支配」が及んでいる可能性がある場合に,敢えて財源を捻出し,国民全体に経済的負担を課してまで就学支援金を支給するのは支給法や本件規程13条の趣旨に反することからすれば,本件規程13条の「法令」には教育基本法が含まれる。
イ これに対し,原告らは,本件省令イ及びロに該当する学校との比較を主張するが,これが失当であることは前記(1)(被告の主張)イのとおりである。また,本件省令ハにより指定を受けたホライゾンジャパン及びコリア国際学園についても教育基本法違反の有無は審査されており,ただこれらの学校については,法令に基づく適正な学校運営について特段の疑念を抱く要素がなかったために,朝鮮高校とは確認の程度に差異が生じたにすぎない。朝鮮高校についても,審査の当初から,教育基本法の禁ずる「不当な支配」を受けているか否かは問題となっていた。
ウ そして,本件規程13条が支給対象校は国民の租税負担によって授業料の負担を軽減するにふさわしいものであることが必要であるとの趣旨から規定されたものであること,支給対象校の指定に際して学校教育法その他の関係法令に基づく適正な学校運営がされていることを考慮することは,支給法制定時の国会審議においても十分検討されていたものであることからすれば,本件規程13条にいう「法令」に教育基本法を含むことは,支給法の委任の範囲を超えるものではない。
エ したがって,本件規程13条の「法令」には教育基本法が含まれ,同法違反に係る事情を,本件規程13条適合性の判断に当たって考慮することは許される。
(3) 争点(1)ア(ア)c(本件規程13条の要件適合性の立証責任等)について
(原告らの主張)
ア 朝鮮高校に対する本件規程13条適合性の審査は,法令違反や不適正な学校運営が存在しないことを確認する形で行われてきた。このように,給付処分の要件として,ある事実の「ないこと」が求められており,行政庁がその事実があることを理由として申請を退ける場合には,その事実があることについて行政庁が立証責任を負うべきである。特に本件では,際限なく「法令」への適合性を求める本件規程13条への適合性を原告に立証させることは,「悪魔の証明」を求めるものであるから,上記のとおり解するのが相当である。
イ また,被告は,本件規程との関係で積極的かつ具体的な認定を一切しないまま,愛知朝鮮高校の本件規程13条の適合性について疑念が払拭できなかったとして本件不指定処分をしているが,支給法に基づく原告らの受給資格を取得する権利又は法的利益は,社会権規約を具体化したものであり,子どもの権利条約や憲法26条が保障する教育を受ける権利と分かちがたく結びついており,教育の機会均等(教育基本法4条1項)の趣旨に合致する重要な権利又は法的利益である。そうすると,行政庁がこのような重要な権利利益を侵害する処分を行う場合には,当該判断となる事実認定や要件適合性に当たって,抽象的な可能性に過度に捕らわれたり,判断権者たる行政庁の主観的・恣意的判断に基づくことがあってはならない。処分に係る根拠事実の存在は,「客観的な事実に照らして具体的に明らか」であることまでを要すると解すべきである。
(被告の主張)
指定処分は本件規程の要件に全て適合していると文部科学大臣が判断した場合に初めてされるものであること,指定処分は授益的処分であることからすれば,本件規程13条適合性の立証責任は原告らにある。
(4) 争点(1)ア(ア)d(愛知朝鮮高校が本件規程13条に適合すると認めるに至らないとした文部科学大臣の認定判断は,同条適合性に係る認定判断を誤ったものとして違法か)について
(原告らの主張)
ア 愛知朝鮮高校は,本件規程の裁量のない外形的な基準については全て基準を満たしている(本件規程6条については後記(7)(原告らの主張)のとおりである。)。また,愛知朝鮮高校は,学校教育法134条に基づく各種学校として,私立学校法,学校教育法及び私立学校振興助成法に基づく各種規制を受けているが,過去に所轄庁から法令遵守状況や補助金の執行状況について指導・勧告等を受けたことはなく,法令に基づく適正な学校運営の要件に欠けるところもない。毎年多くの卒業生が国立・公立・私立大学に入学しているという過去の実績からしても,愛知朝鮮高校が「高等学校の課程に類する課程を置くもの」に当たることは明らかであり,審査会においても,朝鮮高校が本件規程13条に適合していないとの議論はされていなかった。
そして,文部科学大臣に本件規程13条の解釈適用について一定の裁量が認められるとしても,その裁量の範囲は,憲法,国際条約,支給法の目的,本件省令により指定される他の学校との均衡,検討会議報告,本件規程の文言,審査会の意見によって著しく限定されている。したがって,上記各事実にもかかわらず,愛知朝鮮高校が本件規程13条に適合すると認めるに至らないとした文部科学大臣の認定判断は,裁量権を逸脱・濫用したものとして違法である。
イ これに対し,被告は,愛知朝鮮高校が在日本朝鮮人総聯合会(以下「朝鮮総聯」という。)と関係を有し,その影響が財政,人事,教育内容に及んでいるとして,本件規程13条の要件に適合すると認めるに至らないと主張する。しかしながら,外国人学校が教育事業を成り立たせるために本国及び民族団体の支援を受けることは一般的なことであり,その影響が外国人学校の教育現場の自主性を損なうなどの問題がない限り,教育基本法16条1項にいう「不当な支配」には当たらない。被告が指摘する疑いは,以下のとおり,失当である。
すなわち,被告は,①産経新聞による報道,②愛知朝鮮高校,愛知朝鮮高校以外の朝鮮高校,朝鮮学園(各朝鮮高校の設置者である準学校法人をいう。なお,各朝鮮学園が設置する学校全般を指すときは「朝鮮学校」という。以下同じ。)に係る事実,③公安調査庁や警察庁の見解,④在日本大韓民国民団(以下「民団」という。)や北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(以下「救う会」という。)等の各種団体の要請内容,⑤朝鮮総聯や北朝鮮が作成した媒体における,朝鮮総聯と朝鮮学校の関係性に関する記載,⑥審査会における審査の過程で収集された情報を根拠に,愛知朝鮮高校について朝鮮総聯からの不当な支配が認められると主張する。
しかしながら,①については,何ら具体的根拠に基づかないものである上に,産経新聞以外の報道機関が被告主張の報道をしていないことからすれば,その真実性には疑義があるから,不指定の根拠とはなり得ない。また,②については,財政面については法人ごとに事情が異なるのであるから,他の朝鮮学園に係る事実を愛知朝鮮学園に対する評価資料とはし得ないし,被告主張の事実は本件審査当時に生じていた事情にも当たらない。さらに,③については教育行政上の専門機関ではない機関による,具体的な事実を伴わない意見にすぎず,学校運営の適正性を審査するに当たって考慮すべきものではない。そして,④については,特定の政治団体の要請にすぎないから,その内容の真実性を確認できない限り,学校運営の適正性の審査資料とはなし得ない。⑤については,被告指摘の朝鮮総聯のホームページの記載は,宗教団体を母体とする学校について,当該宗教団体が運営の母体となっている旨を宣伝する文言と変わらず,それ自体が不当な支配を基礎付けるものではない。さらに,⑥については,審査会においては朝鮮高校に法令に違反する学校運営の事実を確認できていない旨の見解が示されていることからすれば,そもそも「不当な支配」の存在をうかがわせる事実が確認されたとは認められない。
ウ また,被告は,訴訟終盤になって,本件規程13条の要件に適合するというためには,後記(被告の主張)のとおりの4要件を充足する必要があると主張するに至ったが,これらの要件はいずれも抽象的に過ぎ,基準たり得ない。さらに,朝鮮高校での教育内容を問題視する点は,①私立学校についてはその自主性を最大限尊重すべきこととされており(教育基本法8条),私立各種学校である朝鮮学校は,教育基本法14条2項(政治教育の禁止)や同法15条2項(宗教教育の禁止)の適用を受けないこと,②外国人学校の生徒が民族教育を受ける権利は,国際条約や憲法により保障されていること,③検討会議報告でも,各教科等における個々の具体的な教育内容は判断の基準としないとされていることから,失当である。また,朝鮮学校は北朝鮮を祖国として,朝鮮総聯とも協力関係を維持しながら発展してきたものであるから,その教科書に北朝鮮や朝鮮総聯の主張や思想がある程度反映されるのは自然であるが,教科書は,現場の教員たちの意見も反映して改訂を繰り返しており,徐々に北朝鮮の指導者についての記述は減ってきているし,現場の教師達は,子どもの最善の利益のために働いており,多角的な視点を持たせることを意識しながら授業を行っているから,理事や現場の教師による自主的な教育活動が阻害されているものではない。
(被告の主張)
ア 教育関係法令の下では,学校で行われる教育内容はもとより,支給法が前提とするような金銭の出納を含めた学校運営全般について,教育基本法の理念ないし基本原則に適合するものであることが求められ,本件省令ハにおける「高等学校の課程に類する課程」もこれを含意すると解するのが相当である。したがって,本件規程13条に定める「法令に基づく学校の運営」を適正に行うことという要件に適合するためには,少なくとも,①当該学校における教育内容が教育基本法の理念に沿ったものであること,②支給した就学支援金が授業料以外の用途に流用されるおそれがないこと,③外部団体・機関から不当な人的・物的支配を受けていないこと(教育基本法16条1項参照),④反社会的な活動を行う組織と密接に関連していないこと(以下「本件規程13条の4要件」という。)を満たす必要がある。そして,上記①ないし④に該当するか否かの評価は,教育的観点からの一定の専門的・技術的判断を要するものであり,文部科学行政に通暁する文部科学大臣の判断に裁量がある。
イ 以上を前提に,本件不指定処分を見るに,文部科学大臣は,愛知朝鮮高校を含む朝鮮高校は,朝鮮総聯や北朝鮮との密接な関係が疑われ,その関係性等により法令に基づく適正な学校運営がされていることについて十分な確証が得られなかったことから,本件規程13条に適合すると認めるに至らないとして本件不指定処分をしたものであるから,かかる判断は何ら不合理なものではなく,その裁量権を逸脱・濫用するものではない。この点を敷衍すると,次のとおりである。
(ア) 朝鮮総聯は,破壊活動防止法に基づく調査対象団体であり,反社会的組織としての側面を有することが強く疑われる団体であるところ,朝鮮高校は朝鮮総聯と人事面で密接な関係を有している上に(前記ア④要件の不適合),朝鮮高校で使用されている全ての教科書は,「総聯中央常任委員会教科書編纂委員会」で編纂が行われ,朝鮮総聯の事業体である「学友書房」から出版がされている。そして,その教育内容は北朝鮮の指導者や国家体制を唯一絶対の価値として賛美,礼賛するものであり,朝鮮高校においてこのような教育を徹底することについては,朝鮮総聯の議長自身が事あるごとに謳っているところである。以上のとおり,朝鮮高校の教育内容は,教育基本法の理念に沿ったものであることが強く疑われる状況にあった(前記ア①の要件の不適合)。
(イ) また,北朝鮮の報道機関である「労働新聞」,朝鮮総聯発行の「朝鮮総聯」,朝鮮総聯の機関誌である「朝鮮新報」及び民団発行の「民団新聞」のほか,民団,北朝鮮による拉致被害者家族連絡会及び救う会作成に係る申入書等の記載,公安調査庁作成の「内外情勢の回顧と展望」の記載,公安調査庁及び警察庁の国会答弁,産経新聞等の報道からは,朝鮮高校が朝鮮総聯や北朝鮮と不適正なつながりを有していることがうかがわれ,朝鮮高校が朝鮮総聯の支配下にあることは,朝鮮総聯ホームページの記載からも裏付けられた(前記ア③④の要件の不適合)。さらに,産経新聞等の報道や民団作成の申入書によれば,朝鮮総聯が朝鮮高校を利用して資金集めをしていると疑われたほか,愛知朝鮮高校の校地・校舎に付された抵当権の被担保債権たる借入金が学校運営のための借入れか第三者のための負債であるかが判然とせず,朝鮮高校から朝鮮総聯への資金の流出等がうかがわれる事情があった(上記②の要件の不適合)。
(ウ) これに対し,原告らは,外国人学校が本国から支援を受けることは当然であると主張するが,朝鮮高校と朝鮮総聯の関係はこのような単なる支援関係にとどまらず,適正な学校運営が行われていないとの疑いを抱かせるものであり,国民全体を代表する者とはいえない一部の社会的勢力が,党派的な力として教育に不当に介入すること,すなわち教育基本法16条1項にいう「不当な支配」が存在するとの疑念を抱かせるものである。文部科学大臣は,これらの事情を総合的に判断した上で,本件規程13条に適合すると認めるに至らないと判断したものである。
(エ) 以上の判断が不合理なものとはいえないことは,広島地方裁判所平成19年4月27日判決が学校法人広島朝鮮学園について不適正な学校運営を認定していること,平成25年11月に東京都が行った現地調査により,学校法人東京朝鮮学園(以下「東京朝鮮学園」という。)が朝鮮総聯に対して不適正な施設財産の提供を行っていたことが判明していること,朝鮮学校に子女を通わせている保護者に対して行われたアンケートでも,朝鮮学校と朝鮮総聯のつながりや一体性を述べる回答が散見されることなどからも裏付けられる。
(5) 争点(1)ア(イ),(2)イ(本件不指定処分及び本件省令ハの削除は,政治外交上の理由に基づいて行われたもの(他事考慮)として違法か)について
(原告らの主張)
文部科学大臣は,以下に述べるとおり,政治外交上の理由により,本件不指定処分及び本件省令ハの削除を行ったものであるが,これらの行為をするに当たり,政治外交上の考慮をすることは許されないから,これらの行為は,考慮すべきでない事項を考慮した結果なされた違法なものである。
本件不指定処分及び本件省令ハの削除が政治外交上の理由により行われたことは,①下村文部科学大臣が,平成24年12月28日の記者会見で,本件不指定処分及び本件省令ハの削除の理由として,拉致問題に進展がないことや,朝鮮高校の指定に国民の理解が得られないことを挙げていること,②本件省令ハの削除に際して行われた意見公募手続において,文部科学省が本件省令ハ削除の中核的な理由として「拉致問題の進展がないこと」を挙げていること,③社会権規約委員会において日本政府代表団が,拉致問題に起因して朝鮮高校の生徒を就学支援金制度から除外した旨を認めていること,④本件不指定処分時の与党である自民党は,政権交代前から一貫して政治外交上の理由により朝鮮高校を支給対象校に指定すべきでないとの方針をとっており,下村議員は自民党の方針決定に大きな影響を与えていたこと,⑤本件省令ハを削除する内容の省令改正は,政権交代前の自民党が議員立法として国会に提出した支給法改正案に整合しており,政治外交上の理由により本件省令ハを削除しようとした自民党の意向に沿うことから明らかである。
(被告の主張)
ア 本件不指定処分は,愛知朝鮮高校について,本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったこと,平成24年度は本件規程6条の要件を満たしていなかったことのほか,本件省令ハの削除を理由とするものであり,政治外交上の理由に基づくものではない。また,本件省令ハの削除は,文部科学省に事実関係の真偽を判断するための調査権限がないことから,本件省令ハに基づく指定の審査には限界があるという点を踏まえて行われたものであって,政治外交上の理由に基づいて行われたものではない。
これに対し,原告らは,本件不指定処分及び本件省令ハの削除が政治外交上の理由に基づいて行われたとして縷々根拠を主張するが,記者会見における下村文部科学大臣の発言や,意見公募手続における文部科学省の見解は,拉致という犯罪行為をしている北朝鮮の政治体制・最高指導者を賛美する朝鮮高校の特殊性を無視して同校を支給対象校として指定し,公金を支出することには国民の理解が得られないとの見解を示したものであって,本件不指定処分の理由を示したものではない。また,下村文部科学大臣は,政権交代後に改めて朝鮮高校と朝鮮総聯・北朝鮮との関係や同校の指定に係る審査状況を把握して本件不指定処分を行ったものであり,野党時代の下村議員の発言や自民党の主張は,本件不指定処分の理由を推知させるものではない。本件不指定処分の通知には,「拉致問題に進展がないこと」といった政治外交上の理由は記載されていない。原告らの主張はいずれも失当である。
イ 加えて,そもそも本件不指定処分及び本件省令ハの削除に際しての文部科学大臣の主観は,各行為の違法性判断を左右する事情ではない。すなわち,本件規程13条適合性は,処分時に存在した客観的事情により判断されるものであり,これにより指定要件を満たしていないのであれば,判断権者の主観を問題にするまでもなく不指定処分をしなければならないし,逆に,処分時に存在した客観的事情に照らして指定要件を満たすのであれば,指定処分をしなければならず,それにもかかわらず不指定処分がされたのであれば,判断権者の主観にかかわらず不指定処分は違法である。また,本件省令ハの削除についても,省令の改廃の違法性判断に当たっては,法の委任の趣旨を逸脱するか否かを判断すべきであって,所管大臣が省令改廃に及んだ主観的判断の内容は無関係である。したがって,仮に本件不指定処分及び本件省令ハの削除が政治外交上の理由に基づくとしても,これをもって各行為が違法と評価されるわけではない。
(6) 争点(1)ア(ウ)(本件不指定処分は,本件規程15条に違反するものとして,あるいは,審査会の審査過程を考慮することなく行ったものとして違法か)について
(原告らの主張)
ア 本件規程15条は,本件省令ハの規定による指定を行おうとするときは,あらかじめ,審査会の意見を「聴くものとする」と定めている。そして,同条は指定取消し時のように「聴くことができる」旨の定めをしていないこと(本件規程17条2項),本件規程の適合性判断は専門的・技術的判断を伴うからこそ学識経験者の意見を聴く必要があることからすれば,文部科学大臣が支給対象校の指定に係る処分を行うに当たっては,審査会の意見を聴くことが必要条件になる。しかるに,下村文部科学大臣は,審査会の取りまとめた最終意見を聴くことなく本件不指定処分を行ったものであるから,本件不指定処分は本件規程15条に違反し,違法である。
イ また,審査会は,第7回審査会までの間に,①裁量の余地のない外形的な基準については,全ての朝鮮高校が基準を満たしていることと,所轄庁による過去5年間の法令違反の処分実績がないことを確認し,②審査基準に直結する問題及び申請書類の重大な虚偽があった場合には指定自体をしないが,そのほかの不適切な学校運営があったとしても,不指定とするのではなく,留意事項として改善を要請するとの考え方を示し,③調査の結果,朝鮮高校には審査基準に直結する問題及び申請書類の重大な虚偽は認められないことを確認した上で,④今後も継続する方針を確認していた。
以上のような審査経過からすれば,審査会は,愛知朝鮮高校を含む朝鮮高校を支給対象校に指定することを前提として,留意事項の内容を検討していたといえるにもかかわらず,下村文部科学大臣は,予定されていた審査会を開催することも,最終的な意見の取りまとめをさせることもなく,従前の審査会の議論内容を踏まえずに本件不指定処分に及んだものであるから,本件不指定処分は,考慮すべき事項を考慮せずに行われたものとして違法である。
(被告の主張)
ア 支給対象校と指定するか否かの検討は,その性質及び内容からしておのずと専門的・技術的検討を伴うものであり,教育行政に通暁する文部科学大臣の専門的・技術的判断に委ねられているところ,審査会の意見は,文部科学大臣の裁量判断の際の考慮要素にすぎず,本件規程15条は,審査会の意見を聴くことが文部科学大臣の判断に資するとの考慮により設けられた規定である。このことは,支給法が,審査会の意見を聴くことはもとより,審査会を設置すること自体,何ら規定していないことからも明らかである。審査会の意見に拘束される場合には,「意見を聴く」などの文言ではなく,「議により」などの文言が用いられることからすれば,法令用語の観点からも,本件規程15条の審査会の意見は文部科学大臣の判断を拘束するものではなく,審査会の意見を聴くことは処分を決する際の必要条件ではない。また,審査会の審査方法として,必ず意見をとりまとめなければならないとする規定も存在しない。
イ 加えて,審査会においては,愛知朝鮮高校を含む朝鮮高校について本件規程13条に適合するとの積極的な意見は出されておらず,むしろ,朝鮮高校を支給対象校に指定するか否かについて明確な結論を出すことが困難である旨の意見が出されていたこと,文部科学省職員から文部科学大臣に対して朝鮮高校に対する審査に限界がある旨の報告があったことから,文部科学大臣はこれらを踏まえて本件不指定処分を行ったものであって,本件不指定処分は審査会の意見を踏まえて行われたものとして適法である。
(7) 争点(1)ア(エ)(本件不指定処分は,本件規程6条の要件に適合しないとの誤った判断を理由として行われたものとして,あるいは同条の要件に関する事実確認・補正義務を怠って行われたものとして違法か)について
(原告らの主張)
ア 文部科学大臣は,平成24年度における愛知朝鮮高校の募集定員数が合計750名(一学年につき250名)であることを前提に,申請書記載の教員数(15名)が本件規程6条に定める必要教員数(16名)を満たさないとして,本件不指定処分をした。しかしながら,平成24年度における愛知朝鮮高校の募集定員数は合計480名(一学年につき160名)であったから,正しい必要教員数は12名であり,かつ,実際には16名の教員がいたから,愛知朝鮮高校は本件規程6条の要件を充足していた。したがって,本件規程6条への不適合を理由とした本件不指定処分は違法である。
イ そして,本件不指定処分は,愛知朝鮮学園による誤った申請内容を前提としたものであるが,申請書類中の募集定員数の記載が誤っていることは,平成22年及び23年度の申請内容等から明らかであり,文部科学省においてはその誤りを容易に認識できたはずである。また,実際の教員数の記載についても,愛知朝鮮学園が提出した申請書類には明らかに本件規程6条に反する記載のあるものも含まれており,文部科学省は,愛知朝鮮学園がそもそも書類への記載事項等を正しく認識していないと解し得る事情があった。
他方,愛知朝鮮高校に対する審査においては,申請書類の提出がなされた後,申請の内容面にまで及ぶ極めて詳細な事実確認や修正指示等が長期間にわたり繰り返されていたため,文部科学省から補正等の指示がない事項については,補正の必要がないとの信頼が愛知朝鮮学園に生じる状況にあった。また,支給法の制定に際し,朝鮮高校の生徒に対する就学支援金支給の予算措置を講じられた旨の国会答弁がされたほか,文部科学省担当者が愛知朝鮮高校を来訪して授業内容や施設などを見学した際にも,早晩支給対象校に指定される旨の文部科学省の方針が示されており,愛知朝鮮学園において,支給対象校に指定されるとの信頼が生じていた。
以上を踏まえれば,文部科学大臣は,本件規程6条不適合を理由として本件不指定処分をするのであれば,それに先立ち,申請者である愛知朝鮮学園に対し,申請内容が実態に即しているかについて確認を行い,申請内容と実態に齟齬があった場合に補正を行う機会を与える信義則上の義務を負っていたというべきである。しかるに,文部科学大臣は,極めて容易に行うことのできる事実確認を敢えて怠り,事実の確認を行うことも,補正の機会を与えることもなく,本件不指定処分に至ったものである。行政手続法7条の規律も併せ考えると,本件不指定処分は,本来経るべき事実確認等を経ることなく行われた点において違法である。
(被告の主張)
ア 原告らは,愛知朝鮮高校が平成24年度においても本件規程6条の要件に適合していたと主張するが,そもそも教員数や募集定員数といった基本的事項について誤記載が生じるとは考え難いことから,実際には必要教員数を満たしていたとする原告らの主張自体,到底信用することができない。また,仮に誤記であったとしても,愛知朝鮮学園が提出した書類の記載が誤記であったなどということは,文部科学大臣において知りようのないことであるから,愛知朝鮮高校が本件規程6条の要件を満たしていないと判断したことに何ら違法はない。
イ さらに,原告らは,被告に事実確認・補正義務があったとも主張するが,申請書やそれに添付する書類を事実に基づき正しく記載する責務は,申請者が負っているものであって,審査の基準に適合しないことが明らかな事項について指摘・補正要求する義務は,支給法はおろか,本件省令上も,本件規程上も存在しない。そして,行政手続法7条等の諸法令も,審査の基準に適合していないことが明らかであった場合に,事実確認を行い,補正を行うことを行政庁に求めているものではない。
そして,審査会の事務を担当していた文部科学省初等中等教育局財務課高校修学支援室(以下「支援室」という。)は,本件規程6条該当性に関する点(教職員編制表等の再提出依頼)も含め,愛知朝鮮高校に対し,数次にわたり照会・補正指示を行ったが,これは,同校が支給対象校の指定要件に適合するか否かの判断の前提として,確認ができない不明確な事項について記載内容の確認を行ったものであり,記載内容が正しいか否かの確認や基準を満たすように指導することなどの働きかけはしていない。したがって,支援室からの確認,書類の提出依頼・修正依頼があったことをもって,補正等の指示がない事項が基準に適合しているとの信頼が生じることはあり得ない。
なお,原告らは,愛知朝鮮学園において支給対象校に指定されるとの信頼が生じていた根拠として,①平成22年度予算に朝鮮高校の生徒に係る就学支援金が予算計上されていたこと,②文部科学省の担当者が愛知朝鮮高校を訪問した際に,早晩支給対象校に指定される旨の発言をしたことを主張するが,①は,朝鮮高校の生徒に対して就学支援金が支給されるとの方向性を示したものとはいえないし,②は,原告らが主張する趣旨の発言自体が存在しない。
(8) 争点(1)イ(本件不指定処分は行政手続法8条に違反するものとして違法か)について
(原告らの主張)
ア 行政手続法8条が理由提示を義務付ける趣旨は,申請者に不服申立ての便宜を与えることと,行政庁による判断の慎重と公正・妥当を担保して恣意を抑制することにある。それゆえ,行政庁は,単に根拠法条を示すのみでは足りず,要件不該当を認定した際に用いた審査基準及び不該当を認定するために認定した事実を併せて提示する必要があり,申請者において,いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して拒否処分がされたかを,その記載自体から了知し得るものでなければならない。
イ しかるに,文部科学大臣は,本件不指定処分に当たって「規程第13条に適合すると認めるに至らなかった」との理由を記載しているが,これでは,いかなる事実が該当することにより,適合すると認めるに至らなかったのかが全く不明である。被告は,本件訴訟に至って初めて教育基本法16条1項に適合しないことを主張したが,本件不指定処分では同法条を摘示せず,またいかなる具体的事実を認定して同項の不適合を判断したのか一切提示しておらず,上記の記載理由のみでは,いかなる事実が問題とされたのか了知することは不可能である。
ウ また,文部科学大臣は,本件不指定処分の理由として,本件省令ハの削除と本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったことを並列して付記しているが,これらはその理由自体が相互に矛盾している。このように,相互に矛盾する理由が付されていることは,処分理由が明確に示されていないことを示すほか,処分の理由自体が存在しないことを示すものである。
エ したがって,本件不指定処分は行政手続法8条が要求する理由提示の程度を満たさず,違法である。
(被告の主張)
行政手続法8条1項の趣旨は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の相手方の不服申立てに便宜を与えることにあり,どの程度の記載をすべきかは,処分の性質と理由提示を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らして決定すべきである。
そして,書面により示さなければならない理由の程度は,当該拒否処分が申請者側において明らかにすべき処分要件に関わる場合と,行政庁側において明らかにすべき申請拒否要件に関わる場合とで異なるところ,本件のように前者の場合には,申請者側において明らかにすべきどの処分要件が認められないかを明らかにすれば,当該申請者において,当該申請拒否処分がされた理由をその記載自体から了知できるから,処分理由としては十分であるといえる。
また,本件不指定処分の通知書においては,処分理由である本件省令ハの削除,本件規程6条を満たしていないこと,本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったことが記載され,どの処分要件が認められないと判断されたかが明示されているのであるから,本件不指定処分に当たって明示されるべき処分の理由としては十分である。なお,被告は,本件不指定処分に当たり,複数の理由を示しているが,これら複数の理由を併せて提示することが,理由提示に当たり矛盾を生じさせるものともいえない。
以上によれば,本件不指定処分は行政手続法8条に違反しない。
(9) 争点⑵ア(本件省令ハの削除は,支給法の委任の範囲を逸脱するものとして違法か)について
(原告らの主張)
ア 本件省令1条1項2号は「高等学校の課程に類する課程を置くもの」をイないしハの3類型に分類しているが,本件省令イとロは,大使館及び国際的な評価機関の判断を尊重して「高等学校の課程に類する課程を置く」外国人学校の一部を簡便な方法ですくい取るものであり,本件省令ハは,こうした簡便な方法ですくい取れなかった外国人学校を漏れなく拾い出すための一般的網羅的規定である。したがって,本件省令ハは,社会権規約13条2項⒝が定める中等教育機関の無償化の漸進的導入の一環として定められた支給法2条1項5号の委任の趣旨を最も色濃く体現する原則的規定というべきであって,支給法にとって必要不可欠な規定であるといえる。
そして,支給法2条1項5号は「高等学校の課程に類する課程を置くもの」に当たる専修学校・各種学校の範囲を省令に委任しているが,これは技術的事項の委任をしているにすぎず,省令に対して「高等学校の課程に類する課程を置くもの」の範囲を拡大縮小するごとき権限を付与するものではない。ところが,本件省令ハの削除は,本件省令イ及びロによってすくい取ることができない類型の教育機関を,文部科学大臣の判断において敢えて取りこぼしたままにすることを意味するから,支給法の委任の範囲を超えることが明らかである。また,文部科学大臣は,一般的・抽象的な基準であるべき本件省令ハについて,朝鮮高校を支給対象校としないことを想定して本件省令ハを削除したものであり,具体的な教育機関を想定し,具体的適用の結果を操作すべく,その根拠である本件省令ハを削除することは法の支配の原則にも違反する。
イ これに対し,被告は,本件省令ハによる指定を求める外国人学校が存在しなかったため,これを存続させる必要性がなかったと主張するが,当時,全国の朝鮮高校が本件省令ハによる指定を求めていたものであるし,将来,本件省令ハの対象となり得る学校が出てくる可能性もあるのだから,被告の主張は失当である。
また,被告は,学校に対する調査権限がなく,審査に限界があると判明したことが本件省令ハ削除の理由であるとも主張するが,支給法を強制調査権限がないものとして立法することは国会審議でも議論されているのであるから,これが審査の過程で判明したなどということはあり得ない。また,検討会は,朝鮮高校について本件省令ハに基づく審査を行うことを念頭に検討会議報告を作成・公表したのであるから,検討会と同一メンバーにより構成される審査会が本件省令ハの削除を検討していたという被告の主張も虚偽である。
ウ そして,本件省令ハの削除は,朝鮮学校の生徒との関係では,「将来において就学支援金の支給を得るために申請を行う権利そのものを剥奪された」あるいは「将来において就学支援金の支給を得る可能性を確定的に剥奪された」という損害を生じさせるものである。原告7番から10番は,本件省令ハが削除された後も愛知朝鮮高校に在籍していたから,本件省令ハの削除がなければ,本件不指定処分の存在にかかわらず,その後,再申請により就学支援金の支給を受けることができた可能性があった。それにもかかわらず,これを確定的に奪われたものであるから,本件省令ハの削除は本件不指定処分とは別個の違法行為を構成する。なお,被告は,朝鮮高校が1条校になるか本件省令イ又はロの指定を受ければ,朝鮮高校の生徒も就学支援金が受給できると主張するが,朝鮮高校が1条校の認定や本件省令イ又はロによる指定を受けようとすれば,朝鮮高校は,同校の民族教育の内容を根本的に転換しなければならないのであり,被告の上記主張は暴論である。
(被告の主張)
ア 支給法2条1項5号が支給対象校となる専修学校及び各種学校を定めるに当たり,その範囲の定めを文部科学省令に委任した趣旨は,高等学校の課程に類する課程を置く専修学校及び各種学校の範囲を画するに当たっては専門的・技術的検討を要することから,その基準や評価方法等の定めを,教育行政に通暁した文部科学大臣に委ねることにある。それゆえ,文部科学大臣には,同号に定める支給対象校の範囲を定める文部科学省令を策定するに当たり,専門的・技術的な観点からの裁量権が認められ,本件省令ハのような包括的な条項を設けるか否かも含めて,支給対象校をいかに定めるかについては,文部科学大臣の判断に委ねられていたと解される。
そして,文部科学大臣は,本件省令イ及びロの方法によっては確認できない後期中等教育に相当する外国人学校が存在し得ると考え,また,その該当性の審査を文部科学大臣が個別に確認する方法によって行うことが可能であると考え,本件省令ハを制定した。しかしながら,朝鮮高校に対する調査を通じ,本件省令ハは,適合性判断に疑念が生じる事情があっても,その事実関係の真偽を判断するための調査権限がなく,この点から本件省令ハの存在自体に問題があることが明らかになった。また,当時,本件省令ハに基づく申請をする学校は,指定済みの2校以外は朝鮮高校しかなく,朝鮮高校については,いずれも本件規程13条に適合すると認めるに至らないと判断されたため,本件省令ハを存続させる必要性もなかった。文部科学大臣は,以上の点を考慮し,今後仮に他の新たな外国人学校が登場したとしても本件省令ハを維持することは相当でないと判断したものであって,本件省令ハを削除したことに,裁量権の逸脱・濫用はない。
イ これに対し,原告らは,社会権規約13条2項⒝などに依拠して,本件省令ハが外国人学校を支給対象校とする原則的な規定であると主張する。しかしながら,本件省令イ,ロ及びハの関係については,本件省令の文言や趣旨から解釈すべきであるところ,高等学校の課程に類する課程を置くと認められる各種学校である外国人学校のほとんどは本件省令イ及びロに当たるものであり,本件省令ハは「イ及びロに掲げるもののほか」に文部科学大臣が個別に指定できることを認める規定にすぎないから,その規定ぶりからして本件省令イ及びロが原則的な規定に当たると解される。また,社会権規約13条2項⒝は,中等教育段階における無償教育の漸進的な導入を規定するものであって,中等教育における無償教育を直ちに完全実施することや,朝鮮高校を支給法の対象校とすることを義務付けているとはいえないし,支給法は,全ての後期中等教育段階にある生徒を就学支援金の受給対象としているとも解し得ない。したがって,本件省令ハが原則的な規定であるとも,不可欠な規定であるともいえないから,本件省令ハの削除が支給法の趣旨に反するともいえない。
ウ なお,文部科学大臣は愛知朝鮮高校が本件規程13条の基準に適合するものと認めるに至らないと判断して本件不指定処分をしたものであるから,本件省令ハの削除の適法性は,いずれにせよ,本件不指定処分の適法性に影響を与えない。また,原告らは本件省令ハの削除により,朝鮮高校の生徒が就学支援金を受給する道が一切なくなるかのように主張するが,朝鮮高校が,1条校になるか,本件省令イ又はロに基づく指定を受ければ,支給対象校となることは可能であるから,原告らの上記主張は誤りである。
(10) 争点⑵ウ(本件省令ハを削除して本件不指定処分をしたことは,行政手続法5条に違反し違法か)について
(原告らの主張)
ア 申請がなされた後,その応答がされない間に,法改正がされあるいは審査基準が申請者に不利に変更され,変更された要件を理由として申請が不許可となった場合には,当該処分は違法である。しかるに,文部科学大臣は,後記(11)(原告らの主張)のとおり審査を違法に遅滞したにもかかわらず,法改正(本件省令ハの削除)を理由として本件不指定処分を行ったものであるから,同処分は違法である。
イ 審査基準を私人に不利益に変更する場合には,変更に先立ち十分な周知期間が設けられるべきであり,関係者への情報提供等により,変更について積極的に国民が知り得る措置が講じられるべきである。しかるに,本件省令ハを削除する省令が公布されるまでの間に十分な周知期間が設けられたことも,申請者に対して情報提供された事実もない。したがって,本件省令ハを削除したという新たな状況を前提に不指定処分をすることはできず,本件不指定処分は行政手続法5条に違反する。
(被告の主張)
行政手続法5条は,行政庁が許認可等をするかどうかの判断に当たって必要とされる審査基準の設定を求める規定であるところ,同条は許認可等の制度の改正自体を制約するものではないし,本件省令ハは省令であって審査基準ではないから,本件省令ハの削除について行政手続法5条違反をいう原告らの主張は,それ自体失当である。なお,文部科学省は,本件省令ハの削除に先立ち,意見募集手続を行っており,本件省令ハの削除省令を公布する前に,一般にこれを周知している。
(11) 争点⑶(本件審査の長期化は,政治外交上の理由に基づいて行われたもの〔他事考慮〕として,あるいは,行政手続法6条,7条に違反するものとして違法か)について
(原告らの主張)
ア 審査停止(不開始)のみをもって違法であるといえること
高木文部科学大臣は,菅内閣総理大臣の指示に基づき,愛知朝鮮高校を含む朝鮮高校に対する審査手続を停止させたが,これは,北朝鮮への制裁又は延坪島事件を端緒として国民の生命財産を守るという安全保障上の理由に基づくものであり,支給法の趣旨に反する理由による審査の停止であるから,違法である。
これに対して,被告は審査の公正性確保のためであったと主張するが,上記審査停止後に政府が提出した答弁書,東京朝鮮学園が行った異議申立てに対する回答,閣僚らの国会答弁等において,政治的配慮に基づく審査停止である旨が繰り返し述べられていたことからすれば,審査の公正性確保という理由は,後付けの理屈にすぎず,仮に審査の公正性という趣旨を含んでいたとしても,政治外交上の理由が併存していたことは明らかである。
そして,仮に審査停止の理由として,付随的に審査の公正性確保という面があったとしても,①審査会を構成する委員や審査会自体は非公開とされており,審査停止せずとも,審査の公正性は確保できたこと,②延坪島事件以降も,朝鮮高校への支給を巡る報道状況にさしたる変化はなかったこと,③審査の公正性を確保するために,生徒の就学支援金受給権を奪う結果を生じさせることは,目的と手段が完全に矛盾していること,④審査開始のタイミングも,菅内閣総理大臣の辞職のタイミングと同じであることからすると,審査の公正性確保は審査停止の正当理由になり得ない。
以上によれば,審査停止は,それ自体が行政手続法6条,7条に違反し,あるいはその趣旨に反する違法行為である。
イ 本件審査の長期化が違法であること
行政庁は,申請を受理した時には,これを迅速に処理し,処分を行う法的義務を負うのであるから,申請を受理した後,処分を行うまでに相当期間を超える期間を費やし,かつ,そのことに正当な理由もない場合には,行政手続法6条,7条に違反することになる。
これを本件について見ると,支給法においては,高等学校等を卒業した者が受給権者から除外されており,在学中に指定処分がされなければ支給金を受給し得なくなること,本件規程が指定の申請期限を指定を受けようとする年度の前年度の5月31日と規定していることからすれば(14条3項),平成22年度において申請を行った愛知朝鮮学園の申請の処理期間としての相当期間は,遅くとも平成23年3月末日までというべきであり,ホライゾンジャパンやコリア国際学園との比較で考えても,申請受理から9か月以内には処理を終えるべきであった。
しかるに,被告は,本件申請から2年3か月余りにわたって審査を継続したものであり,延坪島事件という政治外交上の理由から審査を停止したばかりか,審査再開後にも,教育基本法16条1項が禁ずる「不当な支配」の有無など,審査基準とは関係のない事項について審査を継続したことにより,審査が遅滞したものであり,相当期間の経過について正当理由は存在しない。前記(原告らの主張)のとおり,愛知朝鮮高校が本件規程の基準を満たすことは明らかであったのだから,本件不指定処分までに2年3か月間を要したことは,行政手続法6条,7条に違反する。
(被告の主張)
ア 審査停止(不開始)に違法がないこと
行政手続法7条は,正当な理由による遅滞は許容していると解され,直ちに申請の審査を開始したとしても公正な判断を下せず,申請者の権利利益が害されるおそれがある場合には,当該状況が止むまで審査を開始しなかったとしても,同条には違反しない。
しかして,延坪島事件を契機として,北朝鮮と大韓民国との間で戦争が勃発する可能性も否定できないという,通常想定し難い事態が急遽発生したため,同事件についての報道状況や世論を踏まえると,審査会が,静謐な環境の中で(報道状況や世論にとらわれず),平常時のように客観的かつ公正な審査を行うことができるかについては懸念があった。このため,審査手続を継続すると,かえって,公正な審査が行われない状態で支給対象校の指定の可否に関する判断がなされるおそれが生じ,これによって朝鮮高校に対して審査上の取扱いに関する利益に反する状況が生じる可能性があったため,菅内閣総理大臣は,髙木文部科学大臣に対し,愛知朝鮮高校を含む朝鮮高校に対する支給対象校の指定に係る審査を停止させたものである。審査会の委員や審査会自体が非公開とされ,議事要旨が匿名で作成されていることを考慮しても,上記判断が不合理であるとはいえず,当該措置に何ら違法な点はない。以上の理由により審査が停止されたことは,菅内閣総理大臣及び高木文部科学大臣の国会における答弁からも明らかである。
また,菅内閣総理大臣は,延坪島事件から約9か月の間,北朝鮮が上記砲撃に匹敵する軍事行動を採らなかったこと,北朝鮮と各国との対話の動きが生じていることなどを踏まえ,延坪島事件以前の状況に戻ったと総合的に判断されたことから,客観的かつ公正に審査をすることができないおそれは解消したと判断し,朝鮮高校に対する審査を再開するよう指示を与えているのであり,平成23年8月29日までの間,審査再開の指示を与えなかった点にも違法な点はない。
以上によれば,平成22年11月から平成23年8月まで審査手続を停止したことは,政治外交上の理由によるものではなく,正当な理由に基づく遅滞であるから,行政手続法7条に違反せず,違法ではない。
イ その後の審査に1年6か月弱を要したことに違法がないこと
また,本件規程13条にいう「法令」に教育基本法16条1項を含み,同項の禁止する「不当な支配」を受けていないことが支給対象校の指定要件に当たることは前記(2)(被告の主張)のとおりであるところ,この点を判断するために教育活動を審査することは何ら支給法の趣旨に違反しない。
そして,照会・調査が数次にわたった理由は,支援室による照会に対する朝鮮学校の回答に朝鮮総聯のホームページの記載と矛盾する部分があったことや,朝鮮総聯のホームページの記載,新聞報道,公安調査庁の報告等から,朝鮮高校が朝鮮総聯と密接な関係を有することがうかがわれ,本件規程13条適合性を直ちに判断し得なかったことにあるし,審査会における審査状況をみても,審査に時間を要するとともに,審査が困難な状況にあったといえる。そして,文部科学大臣は,本件申請について,本件規程6条を満たしておらず,本件規程13条に適合すると認めるに至らないとの判断に至った後は,速やかに本件不指定処分を行っている。したがって,審査会が1年6か月弱にわたって審査を行ったことは,行政手続法6条,7条に違反するものではなく,違法ではない。
ウ 原告らの主張に対する反論
なお,原告らは,本件規程14条3項などに依拠し,文部科学大臣が本件申請に対する応答をすべき「相当期間」の末日は平成22年度末であると主張する。しかしながら,同項は,指定を受ける年度の前年度までに審査を終える必要性から,申請の期限を定めているにすぎず,申請年度内に指定をして受給権を喪失しないように配慮するために設けられた規定ではない。また,支給法7条3項は既に卒業した者の申請を明示的に除外しているものでもない。したがって,原告らの上記主張には理由がない。
(12) 争点(4)ア(本件一連の行為は,原告らの人格権〔民族的アイデンティティの確立〕を侵害するものとして憲法13条に違反し,違憲か)について
(原告らの主張)
ア 憲法は,人間性を無視し,個人を無視した戦前の軍国主義の歴史の反省に立って,個人の尊重を根底において基本的人権尊重主義を憲法の基本原理として制定されているところ,憲法13条は,個人の尊重(前段)と幸福追求権を国政上最大限尊重する義務(後段)を定式化したものであって,憲法13条後段が定める幸福追求権は,前段の個人の人格的価値の尊重原理と結びついて,個人の人格的生存に不可欠な権利を人格権として保障するものである。
イ この点,在日朝鮮人は,日本による植民地支配の結果,被支配民族としての関係を経て旧宗主国である日本に定住を余儀なくされたという点,植民地時代から現在に至るまで,日本政府の同化政策により,居住国から常に自己の民族性を否定する政策を受け続けたという点,祖国が南北朝鮮に分断されたという点において特殊な立場にあり,在日朝鮮人にとって,自己の民族的アイデンティティの確立は個人の人格的生存に不可欠なものである。しかし,日本社会では,差別意識や無意識ゆえに周囲からの無意識による同一化圧力にさらされることから,在日朝鮮人の子どもは,自己の民族的出自を隠す傾向がみられ,民族的アイデンティティの確立には困難を伴う状況にある。
したがって,在日朝鮮人が民族的アイデンティティを確立し,自身の人格権を守るためには,差別意識や周囲からの同一化圧力を排除する必要があるところ,朝鮮学校は,このような阻害要因を排除し,在日朝鮮人としての民族的アイデンティティを育む場として,在学する生徒らの人格形成にとって重要な役割を果たしている。すなわち,朝鮮学校においては,朝鮮語による教育を実施するとともに,朝鮮の歴史観から歴史を学ぶなど,祖国である北朝鮮の視点に立った教育を行うほか,祖国である北朝鮮を訪問するなど,自己の民族的出自について正しい知識を与え,朝鮮人としての民族性を養う教育を実施している。また,朝鮮学校では,日本社会における阻害要因を排除した状態で,在日朝鮮人同士のコミュニティ構築を可能とし,何の迷いもなく在日朝鮮人として生きることを可能とする「安全な家」としての役割を果たすほか,部活動を通じた自己実現も可能とする場となっている。このように,朝鮮学校は,原告らにとって,単なる母校であるにとどまらず,故郷や家族のような役割をも果たしており,他の学校には代替し得ない重要な役割を果たしているといえる。
ウ しかるに,本件一連の行為は,朝鮮高校生のみを他の外国人学校に通う生徒よりも劣位に扱うものであり,朝鮮学校を通じて自らの民族的アイデンティティの確立を図ってきた原告らに対し,自らの人格的生存に不可欠な民族的アイデンティティの形成過程を攻撃され,自らの存在自体を国によって否定されたに等しい衝撃を与えるものである。したがって,本件一連の行為は,朝鮮高校生であった原告らの民族的アイデンティティを否定し,人格権を侵害するものとして,憲法13条に違反する。
(被告の主張)
本件一連の行為の理由は既に述べたとおりであり,朝鮮高校を支援するに値しないとして無償化適用から排除したものでもなければ,原告らが確立してきた民族的アイデンティティを否定したわけでもない。また,支給対象校としての指定はいわゆる給付行政であるから,在学する学校が支給対象校に指定されないとしても,当該学校における学習が阻害されるわけではないし,授業料が増額されるわけではない。したがって,本件一連の行為は,原告らが主張するような民族的アイデンティティを否定するようなものではあり得ないから,憲法13条が原告ら主張の権利を保障しているか否かを論じるまでもなく,憲法13条違反には当たらない。
(13) 争点(4)イ(本件一連の行為は,憲法14条1項に違反するものとして違憲か)について
(原告らの主張)
被告が朝鮮高校生を就学支援金制度から排除した本件一連の行為は,「朝鮮高校の生徒」という社会的身分に基づく不平等取扱いであって憲法14条1項前段に違反する上に,同項後段が禁ずる差別にも当たる。
ア 憲法14条1項後段違反について
(ア) 憲法14条1項後段に定める「差別」該当性の判断基準
憲法14条1項が,その前段において法の下の平等を宣言するのみならず,後段において差別の禁止を定める趣旨は,国家が特定の類型に対する差別感情に基づき,国家行為を行った場合には,当該類型に属する者を,他者と同等の価値あるものとして扱わないという明確なメッセージを国民に発することになり,差別を助長する効果を生じ,社会内での差別を再生産する効果を及ぼすから,これを禁止するという点にある。国家による差別がもたらす上記の効果に照らせば,国家の活動が差別感情に基づく場合や,特定の類型に対する差別感情に基づく行為を援助・助長する効果をもたらす場合には,憲法14条1項後段が禁止する「差別」に該当すると解するべきである。
(イ) 本件一連の行為が朝鮮高校生に対する差別感情に基づくこと
これを本件について見ると,被告は,一部世論による度重なる働きかけの後,延坪島事件を端緒として,北朝鮮に対する制裁という政治外交上の理由に基づき朝鮮高校に対する審査を停止し,審査開始後においても,一部世論の要請にこたえて,政治外交上の理由に基づいて審査を遅延させ,更にその後,拉致問題などの政治外交上の理由により,本件不指定処分及び本件省令ハの削除をしたものである。しかし,朝鮮高校生が北朝鮮における参政権を有しないことや,本件不指定処分後も北朝鮮との間の政治外交上の問題は進展していないことからすれば,朝鮮高校生に対して就学支援金を支給しないことは,北朝鮮との間の政治外交上の問題にとって,何らの関連性も有効性も存しない措置である。以上の点を踏まえると,被告が政治外交上の理由を持ち出した上で,本件一連の行為を行ったのは,日本政府自身が朝鮮人及び朝鮮学校に対して有する差別感情に基づくものとしか考えられない。
(ウ) 本件一連の行為が,朝鮮高校生に対する差別感情を助長し,朝鮮高校生の社会内での差別状態を永続させる効果を有していること
被告は,戦前における朝鮮蔑視を理由とした朝鮮人に対する不利益取扱いに始まり,戦後においても,北朝鮮との政治外交上の問題を理由として,在日朝鮮人や朝鮮学校に対して,繰り返し不利益な取扱いを行ってきた。こうした取扱いが繰り返される中で,日本国内においては,いったん北朝鮮とかかわりがあるとされると,その根拠や必要性,損害が冷静かつ公正に検証されることなく,在日朝鮮人に対する権利の制約が許容されるという社会状況が存在している。
このような社会状況の中で被告が本件一連の行為をしたことにより,地方公共団体において,朝鮮学校の生徒・児童に対して防犯グッズの提供が中止されたり,朝鮮学校に対して私学振興補助金が支給されなくなったりする等の影響が生じており,朝鮮高校生に対する差別感情を助長し,朝鮮高校生の社会内での差別状態を永続させる効果が生じている。
(エ) 小括
以上によれば,本件一連の行為は憲法14条1項後段が禁止する差別に当たる。
イ 憲法14条1項前段違反について
(ア) 憲法14条1項前段に係る違憲審査基準等
ある別異取扱いが行われたときに,そのような区別をすることの目的に合理的根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と当該目的との間に合理的関連性が認められない場合,その別異取扱いは,不合理な差別として,憲法14条1項に違反することになる。そして,憲法14条1項は「社会的身分」により差別されない旨を定めているところ,本件一連の行為はいずれも朝鮮高校の生徒であるという社会的身分に基づく区別である上,本件一連の行為によって侵害されたのは,原告らの教育を受ける権利及び人格権という重要な権利であるから,違憲審査に当たっては,以上のとおり,憲法14条1項の列挙事由に基づき重大な利益を侵害されていることを踏まえる必要がある。
(イ) 本件一連の行為が合理的根拠を欠き,又は区別と目的との間に合理的関連性が認められないこと
以上を踏まえて,本件一連の行為を見ると,本件一連の行為は,前記ア(イ)のとおり,政治外交上の理由に基づくものであり,朝鮮高校生に対する差別感情に基づくものであるから,その目的が合理性を有しないことは明らかである。
また,被告が主張する理由を前提としても,①延坪島事件の発生により審査の公正性が害される状況にはなく,その後の審査も,第6回審査会の段階で,被告の主張するような報道等による指摘に関する確認は終了していたこと,②仮に本件省令ハに問題があったとしても,改正等の代替手段を一切検討することなく申請根拠規定を丸ごと削除したことは,原告らの教育を受ける権利や人格権を侵害するものとして明らかに過剰な措置であること,③抽象的な「懸念」のみを根拠に,事後的措置で対応することもせずに本件不指定処分を行ったことは,就学支援金不支給という重大な権利侵害を正当化する根拠たり得ないことからすれば,その目的に合理的根拠は認められず,又はその目的と別異取扱いとの間に合理的関連性を認めることはできない。
(ウ) 小括
以上によれば,本件一連の行為は,いずれも憲法14条1項前段に違反する。
(被告の主張)
本件一連の行為はそもそも政治外交上の理由に基づく措置ではなく,ましてや原告らが主張するような在日朝鮮人に対する嫌悪感情・差別感情によってされたものでもないから,いずれも憲法14条1項には違反しない。
なお,原告らは,地方自治体における施策等を指摘した上で,被告の本件一連の行為は,朝鮮高校生に対する差別感情に基づく行為を援助・助長し,朝鮮高校生に対する社会内の差別状態を永続させる効果を有すると主張するが,地方自治体は,自らの判断で施策等を行ったものであるから,原告らの上記主張は失当である。
(14) 争点(4)ウ(本件一連の行為が,原告らの教育を受ける権利〔学習権〕ないし民族教育を受ける権利を侵害し,あるいは差別的に取り扱うものとして,憲法26条,国際条約,憲法98条2項に違反し,違憲違法か)について
(原告らの主張)
教育を受ける権利(学習権)ないし民族教育を受ける権利は,憲法26条のほか,子どもの権利条約28条,社会権規約13条においても保障されており,その中でも,マイノリティ教育を受ける権利については,子どもの権利条約30条,市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)27条において特に定められている。そして,教育を受ける権利の保護に関し,社会権規約2条,自由権規約26条,人種差別撤廃条約2条1項,5条(e)(v)においては,人種などによる差別的取扱いを禁止しており,社会権規約13条3項,4項,子どもの権利条約28条は,私学助成における差別を禁止している。
しかるに,本件一連の行為は,以下に述べるとおり,上記国際条約において認められた原告らの教育を受ける権利(学習権)を侵害するものであるほか,上記国際条約に違反し,朝鮮高校生である原告らに対する差別的取扱いをするものであって,憲法26条や上記各条約に違反するほか,条約遵守義務を定めた憲法98条2項に違反する。
ア 社会権規約2条,13条違反(憲法98条2項違反)について
(ア) 締約国が社会権規約の規定を具体化するものとして立法を行い,当該立法の目的を実質的に達成した場合には,正当な理由もなく,また正当な手続を経ることなく,権利の実現状況を後退させることは許されず,権利の実現を後退させる措置を採ることは,社会権規約2条1項に違反し,かつ,同規約の個別規定にも違反する。しかるに,支給法は,社会権規約13条の教育への権利を具体化したものであるにもかかわらず,被告は朝鮮高校のみを支給法の適用から除外し,本件省令ハを削除したのであるから,実現された権利状況を後退させるものとして,社会権規約2条1項及び同規約13条に違反する。
(イ) また,社会権規約2条2項は,締約国が同規約に規定される権利が人種,皮膚の色,性,言語,宗教,政治的意見その他の意見,国民的若しくは社会的出身,財産,出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する。しかるに,前記(13)(原告らの主張)のとおり,朝鮮高校生は,同じ中等教育を受けているにもかかわらず,本件一連の行為により,日本学校の生徒や他の外国人学校の生徒と異なる取扱いを受けている。そして,かかる別異取扱いの目的に正当性はなく,また,目的と手段の間に合理的関連性もない。したがって,本件一連の行為は,社会権規約2条2項及び同規約13条に違反する。
(ウ) 社会権規約委員会は,「締約国の公立学校授業料無償制・高等学校等就学支援金制度から朝鮮学校が排除されており,そのことが差別を構成していることに懸念」を表明し,「差別の禁止は教育の全ての側面に完全かつ直ちに適用され,全ての国際的に禁止される差別事由を禁止の事由に包含することを想起し,締約国に対して,高等学校等就学支援金制度は朝鮮高級学校に通学する生徒にも適用されるように要求」している。そして,当該懸念及び勧告は,社会権規約16条及び17条に規定された国家報告審査制度によるものであり,日本はこれを留保なく批准しているのであるから,これを無視して改善に向けた措置を執らないことは,社会権規約,憲法98条2項,憲法前文に違反する。
イ 人種差別撤廃条約2条1項,5条違反について
(ア) 人種差別撤廃条約2条1項は,締約国自身による個人又は集団に対する人種差別行為の禁止を求め,同条約5条(e)(v)は,経済的,社会的及び文化的権利,特に教育及び訓練についての権利について,あらゆる形態の人種差別を禁止し,及び撤廃すること並びに人種,皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに,全ての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する旨を特に規定している。
これを本件について見ると,被告は,在日朝鮮人子女であるという朝鮮高校生の民族的出身を理由として,中等教育における教育の経済的負担を軽減する就学支援金を支給しなかったのであり,本件一連の行為は,原告らの教育についての権利を害する目的をもってなされたものであるとともに,教育についての権利を害する効果を有するといえるから,人種差別撤廃条約2条が禁止する差別に当たり,同条約5条(e)(v)にも違反する。
なお,被告は,人種差別撤廃条約に自働執行力がないと主張するが,憲法は,日本を拘束する国際法にそのまま国内法としての効力を与える一般的受容方式を採用しているから,人種差別撤廃条約も日本の国内法として効力を有している。そして,人種差別撤廃条約2条1項及び5条は,国内法による具体化を必要としない程度の明確性が認められるから,裁判規範性も認められる。
(イ) また,国際連合の人種差別撤廃委員会も,平成22年,朝鮮高校を支給対象校としないことについて,「教育機会の提供において差別がないこと…を締約国が確保すること」を勧告するとともに,平成26年にも,「高等学校等就学支援金制度からの朝鮮学校の除外…を含む,在日朝鮮人の子どもの教育を受ける権利を妨げる法規定及び政府の行動について懸念する」と表明し,「締約国に対し,その立場を修正し,朝鮮学校に対して高等学校等就学支援金制度による利益が適切に享受されることを認め…ることを奨励する」と勧告し,本件一連の行為が差別であることを認めている。それにもかかわらず,被告がこの勧告を無視して改善に向けた措置を採らないことは,人種差別撤廃条約,憲法98条2項,憲法前文に違反する。
ウ 憲法26条違反について
憲法26条は,教育を受ける自由を定めており,子どもの学習権を保障したものであるところ,学習権は,普通教育の絶対的必要性を基礎として認められる権利であって,人権行使の前提条件であると同時に,他の人権を強化し実質化する機能を備えており,種々の人権の中でも最も基礎的かつ重要な権利の一つとして位置付けられているものである。そして,憲法14条が国籍あるいは民族による不合理な差別を禁止していることや,教育が個人の人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を志向するものであることからすれば,在日朝鮮人である原告らに対しても,憲法26条が定める教育の自由の保障は及び,学習権の一つとして,民族教育を受ける権利も保障されている。
しかるに,前述のとおり,本件一連の行為は,いずれも原告らの学習権,民族教育を受ける権利を侵害するものであって,憲法26条に違反する。
(被告の主張)
ア 社会権規約13条2項⒝,2条2項,人種差別撤廃条約2条,5条が国内法的効力(自動執行力)を有さないこと
条約等の国際法を日本の国内法として直接適用するためには,①私人の権利義務を定め直接に我が国裁判所で執行可能な内容のものとするという条約締約国の意思が確認でき,②条約の規定において私人の権利義務が明白,確定的,完全かつ詳細に定められていて,その内容を補完・具体化する法令を待つまでもなく国内的に執行可能であることが必要であり,上記要件を満たさない条約を国内法として適用するためには,国内法による補完・具体化という特別の立法措置が採られる必要がある。
しかるに,社会権規約13条2項⒝,2条2項は,いずれもその文理から上記②の要件を満たさない。また,同規約が,締約国に対し,同規約において認められる権利の漸進的達成を求めていること(2条1項),同規約13条2項⒝,2条2項は,締約国が政治的責任を負うことを宣明したにすぎないものであることからすれば,上記各条項については,いずれも上記①の要件も満たさない。そして,社会権規約13条2項⒝は,支給法制定の背景事情の一つにすぎず,支給対象校となる外国人学校が文部科学省令の定めにより限定され得る旨規定されていることからすれば,支給法は,社会権規約13条2項の効力を国内において直接発生させるために制定された法律ではないから,支給法の制定により社会権規約の国内法的効力が生じるものでもない。
さらに,人種差別撤廃条約2条,5条についても,締約国の政治的責任を定めたにすぎず,上記①の要件を満たさない。
したがって,社会権規約13条2項⒝,2条2項,人種差別撤廃条約2条,5条はいずれも裁判規範性を有さず,本件一連の行為が上記各条項に違反するものとして違法となることはない。
イ 本件一連の行為が社会権規約2条1項,2条2項,13条2項⒝,人種差別撤廃条約2条,5条に違反しないこと
(ア) また,上記アの点を措くとしても,本件一連の行為は,上記各条項に違反しない。支給法は,外国人学校について,単に後期中等教育段階の教育を実施しているというだけで支給対象校となる旨を規定しているものではなく,支給対象校になるためには,本件省令イ又はロによる文部科学大臣の指定を受けるか,本件規程の基準に適合するとの認定を受けて本件省令ハによる文部科学大臣の指定を受ける必要がある。そして,被告は,本件規程に定める指定の基準及び手続等を離れて原告らを差別して不指定としたものではないし,民族,言語,社会的出身・社会的身分を理由として不指定としたわけでも,政治外交上の理由に基づき不指定としたものでもない。被告が本件一連の行為を行った理由は,既に述べたとおり,合理的な理由に基づくものであるから,社会権規約2条1項,2条2項,13条に違反しない。
また,本件一連の行為はいずれも原告らの民族的出身に基づいて行われたものではないから,人種差別撤廃条約2条,5条に違反するものでもない。このことは,就学支援金が,支給対象校に通う生徒に対して,国籍にかかわらず一律に支給されるものである反面,通学先が支給対象校でない生徒には,その国籍にかかわらず,支給されないものであり,生徒自身や生徒の国籍により,受給権の差別をしているわけではないことからも明らかである。
(イ) さらに,原告らは,社会権規約委員会及び人種差別撤廃委員会の懸念及び勧告を無視して改善に向けた措置を採らないことが,条約違反になるとともに憲法98条2項に違反するとも主張するが,これらの委員会の所見等は,勧告ないし懸念を示すものにすぎない上,これらに対して措置を講じていないことが条約違反,憲法98条2項に違反するものではない。また,これらの委員会が示した所見等は,就学支援金制度の仕組みなどを十分に理解せずにされたものであり,被告としても社会権規約委員会及び人種差別撤廃委員会に対して意見を述べるなどの対応をしているところである。
ウ 憲法26条に違反しないこと
支給対象校としての指定は,いわゆる給付行政であるから,在学する学校が支給対象校に指定されないとしても,当該学校における学習が阻害されるわけではないし,授業料が増額されるわけではない。したがって,本件不指定処分は,教育を受ける権利を侵害する効果を有するものではなく,憲法26条には違反しない。
(15) 争点(5)(本件一連の行為が,法令違反,国際条約違反又は憲法違反に当たると判断される場合,これらの行為が原告らとの関係で国家賠償法上違法となるか)について
(原告らの主張)
前記(1)ないし(14)(原告らの主張)で主張したところに照らせば,本件一連の行為は,いずれも原告らに対する違法行為に当たり,国家賠償法上違法である。
(被告の主張)
公務員による行為が国家賠償法上違法であるというためには,客観的に違法(抗告訴訟において問題とされる行政処分の効力要件についての違法)であるだけでは足りず,公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と当該処分をしたと認め得るような事情があることが必要である。しかしながら,前記(1)ないし(14)の(被告の主張)で主張したところに照らせば,文部科学大臣等について,このような違法があるとは認められない。
(16) 争点(6)(原告らの損害)について
(原告らの主張)
ア 慰謝料 各自50万円
被告による違法行為により,原告らは甚大な精神的苦痛を被った。原告らが被った精神的苦痛を慰謝するには,原告ら各自について50万円が相当である。
イ 弁護士費用 各自5万円
原告らは,被告による違法行為により,弁護士に委任して本訴を提起せざるを得なかったところ,本件と相当因果関係のある弁護士費用としては,原告ら各自について5万円が相当である。
(被告の主張)
いずれも争う。
(17) 争点(7)(相互保証の有無)について
(原告らの主張)
原告らは,いずれも北朝鮮と大韓民国の二重国籍を有する者であるところ,大韓民国と日本との間には,相互の保証(国家賠償法6条)がある。
(被告の主張)
大韓民国と日本との間に相互保証があることは認め,その余は不知。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実が認められる。
(1) 支給法制定に係る国会審議の経過
支給法案は,内閣提出法案として提出され,平成22年3月5日から同月12日までの間,衆議院文部科学委員会で審議され,同月19日から同月30日までの間,参議院文教科学委員会で審議された後,可決・成立し,同月31日に公布された。
ア 政府は,国会審議中,支給対象校となる専修学校及び各種学校の範囲に関して,次の内容の答弁を行った。
(ア) 支給対象校となる専修学校及び各種学校の定め方については,対象を定める際の客観性を確保するために,高等学校の課程に類する課程としての位置付けが学校教育法その他により制度的に担保されているものを規定したいと思っている。このような観点から見ると,専修学校高等課程は,学校教育法上,中学校における教育の基礎の上に教育を行うことが制度上担保されていることから,就学支援金の支給対象としたい。これに対し,各種学校は,高等学校の課程に類する課程であることが制度的に担保されていないので,原則として支給対象とはしないが,外国人学校は,学校教育法上専修学校になれないために例外的に各種学校の認可を受けているものであるから,一定の要件を満たすものについては就学支援金の支給対象としたい。その際の要件としては,客観的に我が国の高等学校の課程に類する課程であることが認められるものとすることを考えている。(平成22年3月5日及び同月10日の衆議院文部科学委員会及び同月25日の参議院文教科学委員会における川端達夫文部科学大臣〔以下「川端文部科学大臣」という。〕の答弁)(乙2の1,2の2,2の5)
(イ) 専修学校及び各種学校のうち,支給対象校に当たるものの範囲を画する省令を定めるに当たっての基準はたった一つであり,高等学校の課程に類する課程ということが基準であり,その判断は普遍的・客観的に評価されるものである。(平成22年3月5日の衆議院文部科学委員会における川端文部科学大臣の答弁)(乙2の1)
(ウ) 高等学校の課程に類するかどうかということが,省令で定める内容である。専修学校あるいは各種学校はその内容あるいは形態が非常に多種多様なので,これは極めて技術的・専門的事柄であると考えている。(平成22年3月5日の衆議院文部科学委員会における鈴木寛文部科学副大臣の答弁)(乙2の1)
(エ) 支給法案は,日本国内に住む高等学校等の段階の生徒が安心して教育を受けることができるようにするためのものである。このために,外国人学校の取扱いに関しても,外交上の配慮などにより判断するべきものではなく,教育上の観点から客観的に判断するべきものであると考えている。(平成22年3月12日の衆議院文部科学委員会における松野頼久官内閣官房副長官による政府統一見解)(乙2の3)
イ さらに,政府は,朝鮮高校に関して,次の内容の答弁を行った。
(ア) (支給法案2条1項5号が定める「専修学校及び各種学校」の中に朝鮮高校が含まれるか,予算の積算根拠に朝鮮高校の学生は含まれているかという馳浩衆議院議員〔以下「馳議員」という。〕の質問に対して)
予算案においては,各種学校ではあるが,制度上,専修学校から適用除外とされている外国人学校の高等課程部門を算定の数字として入れている。したがって,朝鮮高校も積算の中には入っているが,どの外国人学校が対象になるかは省令で定められるものであり,支給法成立後に定めることになっているので,積算に入れているということが自動的に対象になっているというものではない。(平成22年3月5日の衆議院文部科学委員会における川端文部科学大臣の答弁)(乙2の1)
(イ) (朝鮮学校については外交上の問題があるが,拉致,ミサイル,核といった外交上の問題を考慮して,省令に含めるかどうかの判断基準とするのかとの馳議員の質問に対して)
各種学校の対象範囲の議論については,民族教育の有無という観点,外交上の配慮という観点,国交の有無という観点で判断するものではない。あくまで高等学校の課程に類する課程ということでの位置付けを制度上どう担保するかである。(平成22年3月10日の衆議院文部科学委員会における川端文部科学大臣の答弁)(乙2の2)
(ウ) (朝鮮学校について,教育内容を確認する手段があるのかとの義家弘介参議院議員〔以下「義家議員」という。〕の質問に対して)
何らかの評価基準を,文部科学省が決めるという前に,客観的に,制度的,専門的に議論をいただいて,中身をどう判断するのか,申し上げたように,国交がない,国際の認証機関の認証を受けていないという人たちを何らかの基準と方法で判断できるかどうかを検討の場を通じて御議論いただいて,それを踏まえて私たちとしては判断をしたい。(平成22年3月30日の参議院文教科学委員会における川端文部科学大臣の答弁)(乙2の6)
ウ なお,国会審議中の平成22年3月11日,自民党は,①無償化の対象となる外国人学校について,いまだ国会審議の中で,客観的・普遍的な基準が示されていないこと,②朝鮮学校が基準に合致しているか否かを判断する方法及び権限がないことを政府も国会答弁で認めていること,③朝鮮学校には北朝鮮が強く関与しており,純粋な教育機関ではなく,北朝鮮の体制を支えるためのイデオロギー学校・対日工作機関の疑いがあることを理由として,「朝鮮学校は無償化の対象とすべきでない事を強く表明する決議」を行った。
また,国会審議において,下村議員は,朝鮮高校においてどのような教育がされているかチェックできないまま対象とすることが立法国家として許されるのか問題である旨や,北朝鮮との間には拉致問題や核問題など重要な課題が存在し,経済制裁を行っている中で無償化による税金投入は結果的に資金援助にもつながりかねず,慎重であるべきである旨などを述べ,朝鮮高校を支給法の対象にすることに反対の姿勢を示していた。
(以上につき,乙2の1,乙2の3)
(2) 本件規程制定の経緯
ア 検討会議における検討
平成22年4月1日,本件省令が公布され,本件省令ハにおいて,「文部科学大臣が定めるところにより,高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして,文部科学大臣が指定したもの」を支給対象校とする旨が定められた。このため,文部科学大臣は,同年5月26日,諮問機関として検討会議を設置し,検討会議に対し,本件省令ハに関して,制度的・客観的な「高等学校の課程に類する課程」としての位置付けを担保し,就学支援金の円滑な支給を行うために,文部科学大臣の指定に当たって必要な事項の検討を依頼した。検討会議は,同日から同年8月19日までの間に,5回にわたり検討会議を開催した。
そして,教育内容を基準の中でどのように位置付けるかに関しては,検討会議において,「朝鮮学校では反日教育をやっていると言う人もいる。教育内容をどこまでチェックすべきかは論点となる。」(第1回),「教育活動を見ないというわけではない。全体として見た上で個別の指導内容までは踏み込まないということ,どういうことを教育されているかという項目・主題は見るのだが,具体的な内容については各校にまかされている,それは他の学校種についても同じだ。」(第4回),「教育活動について何も見ないという誤解を与えないようにすべき。」(第5回),「教育課程の編成・主題は見るのだが,個々の内容にまでは踏み込まないということがはっきり書ければいい。」(第5回)などという意見が出された。
また,学校運営に関しては,「就学支援金を代理受領する以上は,わが国の法令を遵守することはもちろんのこと,学校運営の体制がきちんとしているかどうかという観点が重要。」(第3回)などの意見が出された。
(以上につき,甲全7,32,211ないし215,乙3)
イ 検討会議報告
検討会議は,平成22年8月30日,文部科学大臣に対して検討結果を報告した。検討会議における検討結果は,次のとおりである。(甲全7,32)
(ア) 審査基準について
a 基準の基本的考え方
「高等学校の課程に類する課程を置くもの」に該当するか否かを判断する基準は,専修学校高等課程との均衡を図る観点から,原則として専修学校高等課程に求められている水準を基本とすることが適当である。また,本件省令1条は,対象を定める際の客観性を担保するために,「高等学校の課程に類する課程」としての位置付けが制度的に担保されているものを規定することを基本的な考え方としているから,本件省令ハの外国人学校を指定する際の基準についても,仕組みとして制度的・客観的に把握し得る内容によることを基本とすべきである。
b 基準のポイント
基準のポイントは,大きく分けて,①修業年限,教育課程及び教育水準,②教員の資格,③法令に基づく適正な学校の運営,④適正な学校の情報の提供及び公表に分かれる。
このうち,①に関しては,高度な普通教育に類する教育を施すにふさわしい授業科目が開設されているか否かを審査する必要があるが,その審査は,各学年の年間指導計画表などに基づいて教育課程を確認することにより行うことが適当である。各教科等における個々の具体的な教育の内容については,本件省令イ及びロに該当する外国人学校や専修学校高等課程では教育内容が判断基準とされていないことから,高等学校の課程に類する課程であるかどうかの判断の基準とするものではないと考えられる。
また,③に関しては,就学支援金が,支給法において,生徒が在学する学校が生徒に代理して受領し,生徒の授業料に係る債権の弁済に充てることとされていることや,各種学校の運営については,学校教育法,私立学校法などにおいて諸規定が設けられていることからすれば,就学支援金に係る文部科学大臣の指定を受ける各種学校については,各校が就学支援金の管理を適正に行うとともに,これらの関係法令の諸規定を遵守していることは当然であり,「高等学校の課程に類する課程を置くもの」に求められる基準において,就学支援金の管理その他の法令に基づく学校の運営が適正に行われることを改めて求めることが適当である。
(イ) 留意事項について
前記(ア)の基準は,指定に当たって現段階でその要件を満たすとともに,今後も維持されることが必要な事項であるが,これに加え,「高等学校の課程に類する課程を置くもの」として指定を受けた外国人学校が,それぞれの水準の維持向上や社会的責任を果たすため,本件省令イないしハの規定に基づき指定された全ての外国人学校について,①学校の情報提供,②教員の質の確保,③就学支援金の授業料への確実な充当,④社会の担い手として活躍できる人材育成に努めることの実施を求めることが適当である。
(ウ) 審査体制・手続等について
本件省令ハに関する審査に当たっては,審査対象校や関係都道府県に対して,必要な資料の提供を求めるのが相当である。また,外国人学校の指定については,外交上の配慮等により判断すべきものではなく,教育上の観点から客観的に判断すべきものであることが,法案審議の過程で明らかにされた政府の統一見解である。このため,審査は,教育制度の専門家を始めとする第三者が,専門的な見地から客観的に行い,対象とするか否かについて意見を取りまとめ,最終的には文部科学大臣の権限と責任において,外国人学校の指定がされることが適当である。
ウ 本件規程の制定
文部科学大臣は,前記イの検討会議報告を受け,平成22年11月5日,本件規程を制定した。本件規程の制定に当たり,文部科学大臣は,談話を発表し,今後の審査については朝鮮高校の申請が見込まれるが,朝鮮高校については,我が国や国際社会における一般的認識及び政府見解とは異なる教育が一部行われているとの指摘がある一方,私学の自主性を重んじる私立学校法64条等の趣旨を尊重すべきとの指摘等もあることから,本件規程では,文部科学大臣は,指定に際し留意事項を各学校に通知することができる旨を規定し,主たる教材の記述など各教科の具体的な教育内容について懸念される実態がある場合には,懸念される実態についての自主的改善を強く促すとともに,対応状況についての報告を求めていきたいとの方針を明らかにした。(甲全9,乙29)
(3) 朝鮮高校の審査開始までの状況
ア 愛知朝鮮学園の申請(平成22年度)
愛知朝鮮学園は,平成22年11月25日,愛知朝鮮高校について,指定を受けようとする年度を平成22年度として,本件省令ハによる指定を求める申請(本件申請)をした。また,全国各地にある他の朝鮮学園も,その頃,その設置する朝鮮高校について,本件省令ハによる指定を求める申請をした。(甲全4,乙6,弁論の全趣旨)
イ 朝鮮高校に対する審査不開始
平成22年11月23日,延坪島事件が発生し,同月24日,菅内閣総理大臣の指示により,高木文部科学大臣は,朝鮮高校について,本件省令ハによる指定に係る審査手続を停止した。
同年12月14日,菅内閣総理大臣は,審査手続停止に関する義家議員の質問主意書に対し,「今回の北朝鮮による砲撃は,我が国を含む北東アジア地域全体の平和と安全を損なうものであり,政府を挙げて情報収集に努めるとともに,不測の事態に備え,万全の態勢を整えていく必要があることに鑑み,」指定手続をいったん停止したものである旨答弁した。高木文部科学大臣も,東京朝鮮学園が行った異議申立てに対して,平成23年2月4日,不作為の理由として同様の内容を通知した。
また,高木文部科学大臣は,①平成23年2月9日の衆議院予算委員会において,外交上の理由により手続を停止したのではないかとの下村議員の質問に対し,「(延坪島事件は)我が国の平和と安全,まさに国家の存立そのものを脅かす,そういう事態であったのではないか」「同時に,そういう事態の中で,手続の審査をするという環境にあるのかどうか。やはり審査としては,静ひつな状況の中でしっかり審査をしなきゃならぬ。しかし,そういう異常な事態の中で,これは大変なことだろう,私はそのような思いをしたわけでございます。」との答弁を,②同年3月8日の参議院予算委員会において,朝鮮高校に対する審査停止は本件省令や検討会議報告を自ら否定することにならないかとの又市征治参議院議員の質問に対し,「国家の安全にかかわる事態の中で,審査の手続があのような状況の中で正常に行われるかどうか,これも懸念があったのでございます。なお,審査や指定に当たっては,外交上の配慮などにより判断すべきものではなくて,教育上の観点から客観的に判断すべきものとの考え方については変わっておりません。」との答弁を,③同月9日の衆議院文部科学委員会において,朝鮮学校に対する無償化手続を停止することが,どうして「不測の事態に備え,万全の態勢を整えていく」ことになるのかとの馳議員の質問に対し,「不測の事態というのは,何度も申し上げておりますように,国民の生命財産の安定ということであります。…したがって,…あのときの状況を思い起こしていただければよくわかると思いますが,審査をする,そういう仕事についても,ああいう状況の中で果たして正常な議論ができるのかということの懸念もございました。そういうことも一つの事態でございます。」との答弁をした。
さらに,枝野幸男内閣官房長官は,同年2月9日の衆議院予算委員会において,外交上の配慮による手続停止ではないかとの下村議員の質問に対し,「外交的な配慮をしたのではな(い)」,「決して砲撃事件に対する報復等でこの措置をとっているのではなくて,それを端緒として我が国の国内における不測の事態に備えているもので(ある)」との答弁をした。
(以上につき,甲全10,12,13,16,49,乙24,40)
ウ 審査の再開
菅内閣総理大臣は,平成23年8月29日,延坪島事件から約9か月が経過し,その間に北朝鮮が当該砲撃に匹敵するような軍事力を用いた行動をとっていないこと,北朝鮮と各国との対話の動きが生じていることを踏まえれば,事態は当該砲撃以前の状態に戻ったと総合的に判断できるに至ったとして,愛知朝鮮高校を含む朝鮮高校の申請に係る審査手続の再開を指示した。
これに対し,自民党は,同月31日,「朝鮮学校無償化手続き再開に強く抗議し即時撤回を求める決議」を行い,政府に対して,北朝鮮の外交政策・拉致問題の解決に対し,誤ったメッセージを送る朝鮮学校の無償化手続再開を直ちに撤回すること等を求めた。また,自民党のシャドウ・キャビネットにおいて文部科学大臣を務めていた下村議員も,自民党の機関誌のインタビューに対し,審査再開は,北朝鮮の拉致問題について我が国が軟化したとの誤ったメッセージになるばかりか,外交問題に発展しかねないこと,金正日体制を支える思想教育を行う朝鮮学校に国民の血税を投入することは大きな問題であること等を述べて,審査再開に反対の意思を明らかにした。
一方,審査再開を受けて支援室は,各朝鮮高校に対し,同年9月14日,申請書類の再提出等を促し,愛知朝鮮学園は,同月28日,指定を受けようとする年度を平成22年度及び平成23年度として,本件省令ハによる指定申請書を提出した。
(以上につき,甲全5,50,51,57の1,乙25)
エ ホライゾンジャパン及びコリア国際学園に対する審査
平成23年7月1日,文部科学大臣は,本件規程15条及び17条に基づき審査会を設置した。審査会は,同日開催の第1回から同年11月2日開催の第3回まで,ホライゾンジャパン(トルコ人が中心となって開設されたインターナショナルスクール)とコリア国際学園(在日韓国人の生徒を主とする学校)の審査を行った。コリア国際学園の審査では,「コリア近現代史」及び「在日コリアン史」の教育内容についても審査された。
審査会は,両校とも,教育課程等・教員・施設・設備について基準を満たしており,情報の提供(本件規程12条)及び適正な学校運営(本件規程13条)についても,私立学校法に基づく,理事会の開催,財務諸表の作成等が行われており,当該教育施設を所管する都道府県に確認したところ,直近5年間において法令違反を理由とする指導・勧告等を受けたことがないことから,法令に基づく適正な運営が行われているものと判断するとして,両校は審査基準を満たしているとの報告を行った。文部科学大臣は,同年8月30日にホライゾンジャパンを,同年12月2日にコリア国際学園を支給対象校として指定した。
(以上につき,甲全6の2,33,34,38ないし41,46,47)
(4) 朝鮮高校に対する審査の経過
ア 平成23年11月2日に開催された第4回審査会
(ア) 審査会は,第4回から朝鮮高校に関する審査を開始し,この日は,審査のポイント,申請書類の内容等について検討が行われた。
(イ) そして,第4回審査会において,事務局から配布された資料1(「今後の朝鮮学校の審査日程(案)」と題する書面)には,今後,平成23年11月に各朝鮮高校に書面確認事項を送付し,実地調査を行った上で,同年12月に審査会を開催して指定の可否について意見を聴取し,同月末から平成24年1月初旬に文部科学大臣による指定(留意事項の通知)を行うというスケジュールが示されていた。ただし,委員からは,朝鮮高校の審査は,これまで審査を行ってきたケースと異なり,時間がかかる可能性がある,懸念される点が多く指摘されていることもあり,色々な点を明らかにしていく必要があるのではないかとの意見が出された。
(ウ) また,同じく事務局から配布された資料2(「朝鮮高級学校の審査(ポイント)」と題する書面)の「1.主たる教材について」においては,具体的な教育内容は審査の基準としないが,懸念される実態がある場合には,審査の過程で「懸念事項」として学校に伝え,それでも改善の方針が確認できない場合には,指定の際に留意事項として通知し,自主的改善を強く促すとともに対応状況について報告を求める旨の対応方針が記載されていた。
(エ) さらに,資料2の「2.学校経理,就学支援金の適正な使用について」においては,「朝鮮高級学校についても,校地等が仮差押を受けている愛知・九州(中略)については,学校運営の不適正を理由に指定しないこととするか。」との記載があり,委員からは,株式会社整理回収機構(以下「RCC」という。)に対する債務に関し,どのような目的により債務が発生したかについて,学校の説明が不十分な場合は,学校運営の適正さが確認できないため,十分な説明がされるまで指定を行うことはできないのではないかという意見が出された。
(オ) また,資料2の「3.朝鮮総連との関係について」においては,公安調査庁によると,朝鮮総聯は朝鮮学校の教育内容,人事及び財政に影響を及ぼしているとされており,一般論としては,ある団体が教育に対して影響を及ぼしていることのみをもって,直ちに「不当な支配」(教育基本法16条)があるとはいえないが,「不当な支配」に当たるかどうか引き続き検討する必要があるので,過去の報道等に基づき朝鮮学校に確認を行うとの記載がされていた。
(カ) そして,資料2の「4.法令に基づく適正な運営について」では,所轄庁に,過去5年間の法令違反の有無を確認したところ,処分実績はないとの回答を受けた旨の記載があり,参考記載として,「『法令違反』の考え方」について,「学校に関係する法令(教育基本法,学校教育法,私立学校法,その他関係法令)に関する『重大な違反』。(①役員個人の違反,②極めて軽微な違反,他の法令の違反(消防法等)を除く。)」と記されていた。
(以上につき,甲全35,42,140,乙26,73)
イ 第4回審査会を踏まえた支援室からの確認と愛知朝鮮高校の回答等
以上の審査会における議論を踏まえ,事務局である支援室は,平成23年11月9日,各朝鮮高校に対し,①朝鮮総聯との関係(朝鮮総聯が教育内容に影響を及ぼしているか,学校法人の役員に朝鮮総聯や関連団体の役職員がいるか,教育会は朝鮮学校の管理運営にどのように関与しているか等),②今後の対応方針等(授業料の値上げを予定しているか,日本と北朝鮮で見解が異なる事項について生徒にどのように指導しているか等)について確認を行った。なお,同確認に当たっては,①文部科学省としては本件規程に基づいて審査を行う方針に変更はないが,一部報道等により様々な報道がされており,社会への説明責任の観点から,これらの報道の真偽についても事実関係を確認しておかなければならないこと,②具体的な教育内容に関する設問に関しては,懸念がある場合には自主的改善を強く促していくこととしており,現状及び今後の対応方針を確認するための設問であること,③その他の学校の運営に関する設問に関しては,支給対象校は,就学支援金の授業料債権の弁済への確実な充当のみならず,教育基本法,学校教育法,私立学校法等の関係法令の遵守が求められるため,学校の運営が法令に基づき適正に行われていることを確認するための設問であることの説明が付されていた。
愛知朝鮮高校は,上記確認に対し,教育内容について北朝鮮や朝鮮総聯から指導を受けることはないこと,学校法人の役員に朝鮮総聯及びその関係団体の役職員が選出される場合もあるが,理事会の意思決定に従うことを前提条件としており,学園の人事も理事会で検討・決定していること,教育会は日本の学校でのPTAに該当する教育関係団体であり,予算・決算,人事,教育内容には関与できないこと,日本政府と見解が異なる事柄については,国によって色々な解釈・捉え方・考え方があることを踏まえて日本の認識・立場も教えていること等を回答した。
また,支援室は,同月11日,愛知朝鮮高校に対して,学校の校地・校舎に設定された抵当権に関し,被担保債権となる借入れの使途は何かや,抵当権設定の際に理事会・評議員会で意思決定されているか等について確認を行った。これに対し,愛知朝鮮高校は,抵当権の被担保債権の資金使途は各学校の運営費であるが,理事会・評議員会で意思決定をしたか否かについては,当時の書類がないため確認できない旨の回答をした。
さらに,支援室は,同年12月2日,各朝鮮高校に対し,地方公共団体から受給している補助金等に関する情報提供を依頼した。
(以上につき,乙7,8,30,68)
ウ 平成23年12月16日に開催された第5回審査会
(ア) 第5回審査会においては,事務局から今後の審査日程等について説明があり,実地調査の際に撮影した朝鮮高校(4校)の授業風景の映像を視聴したほか,実地調査の内容,主たる教材の記述,各朝鮮高校に対する書面による確認結果等に関する検討が行われた。
(イ) 第5回審査会で事務局から配布された資料1(「朝鮮学校の審査スケジュール」と題する書面)では,平成24年1月以降に,理事会議事録や財務諸表等に関する学校への内容確認や,所轄庁に対する補助金の使途等に関する検査要請,個別の学校の問題点に関する確認を行うとの審査スケジュールが提示されたが,第4回審査会の資料1とは異なり,指定予定時期に関する記載はされなかった。
(ウ) また,同じく事務局から配布された資料3(「高校無償化に係る朝鮮学校の審査状況(概要)」と題する書面)のうち,「1.総連等との関係」については,教育基本法16条の「不当な支配」該当性が審査の観点となること,「2.主たる教材の懸念事項」については,主たる教材に我が国や国際社会における一般的認識及び政府見解と異なる記述があるかが,留意事項との関係で審査の観点となること,「3.各学校の個別事案」については,校地・校舎に対する抵当権が学校の運営資金の借入れのためではなく,第三者の借入れのために設定されている場合には不適切な事案であることが審査の観点となることが記載されていた。
(エ) 委員からは,実地調査の結果では,授業における生徒の様子などに特に懸念されるところは見当たらなかったようだが,朝鮮高校と朝鮮総聯との関係など学校運営に不透明なことがあれば,疑念がないようにクリアにしていく必要があるのではないかとの意見や,朝鮮高校に対する確認は相当大変だろうが,しっかりチェックして,その状況を審査会に報告してほしいとの意見が出された。
(以上につき,甲全36,43,141,乙37,184)
エ 第5回審査会を踏まえた支援室からの確認と愛知朝鮮高校の回答等
以上の審査会における議論等を踏まえ,支援室は,平成24年1月20日頃,各朝鮮高校に対し,理事会・評議員会の開催実績や財務状況に関する確認を行うとともに,愛知朝鮮高校に関しては,更に,抵当権の極度額が約5億2000万円であるのに,昨年度末の借入れが約14億円となっている理由や,過去の借入れの詳細や過去の運営費への充当が確認できる書類の存否等に関する確認を行った。
愛知朝鮮高校は,上記確認に対し,理事会・評議員会の出席者に旅費等は支給していないので,領収書等は存在せず,出欠票・委任状等も取っていないとの回答をし,愛知朝鮮学園の借入金約14億円は,クラブハウス,寄宿舎等の設備建設・校舎補修費や教職員の給与を始めとした運営費に充当したものであるが,過去の借入れの詳細が分かる書類は,RCCに対して借入金に係る債権が譲渡された際に,朝銀愛知信用組合から送付された債権譲渡通知のみであるとの回答をした。
(以上につき,乙32,33)
オ 平成24年3月26日に開催された第6回審査会
(ア) 第6回審査会においては,事務局から各朝鮮高校の審査状況等について説明があり,実地調査の際に撮影した朝鮮高校(6校)の授業風景の映像を視聴したほか,朝鮮高校を仮に支給対象校に指定する場合の留意事項についての検討が行われた。
(イ) 第6回審査会において事務局から配布された資料1(「高校無償化に係る朝鮮高級学校の審査状況(概要)」と題する書面)の「1.審査基準への適合性」には,審査基準のうち,裁量の余地のない外形的な基準(教員数,校地・校舎の面積等)については全校が基準を満たしていること,報道内容のうち,審査基準(法令に基づく学校の運営)に抵触し得る事項,申請内容の重大な虚偽となり得る事項については,教育基本法への適合性を除き,重大な法令違反に該当する事実は確認できていないことが記載されていた。
(ウ) また,資料1の「2.朝鮮総連との関係」においては,朝鮮学校は朝鮮総聯によって教育基本法16条の「不当な支配」を受けているのではないかとの指摘がされており,仮に同法に違反する場合には,重大な法令違反に該当することから,必要な確認を行ったとして,その概要が次のとおり,まとめられていた。
a 教育会
一部報道では,朝鮮学校が,実質的に,朝鮮総聯の直轄組織である教育会によって運営されていると報じられているが,教育会は,朝鮮学校への寄付金の募集等の支援を行う組織であり,教育会が学校運営を支配しているという事実は確認されなかった。
b 教育内容
朝鮮高校で使用されている教科書の内容は,東京朝鮮学園に属する学友書房に設けられた教科書編纂委員会(その委員は,各高級部の教員が多数を占めている。)で決定されており,学校によると,朝鮮総聯から教育内容について指導を受けることはないとの事実が認められた。
c 人事
各学校の理事・監事に朝鮮総聯の役職員が任命されている事例(愛知2名,北海道・九州1名)があるものの,全校とも,人事については,理事会で決定しているとの回答であった。
d 財政
過去5年間の朝鮮高校に関する収支を確認した結果,学校から朝鮮総聯への寄付等の事実は確認できず,朝鮮総聯からの寄付が学校収入に占める割合はわずかであることが確認できた。自治体の補助金に関する問題事案を確認したところ,自治体が補助金執行上の事務ミス等を指摘した例はあったが,各自治体とも,不正受給等の悪質な事案はないとの認識であった。
e 学校運営
全校とも唯一の意思決定機関は理事会であると回答しており,理事会の議事録が適切に作成されていない事例があったが,議事録の偽造等の事実は確認できなかった。なお,愛知朝鮮学園に関しては,学校の支出に係る借入れを教育会名義で行っており,緊急の場合には学校法人理事会の承認を経ない借入れが行われた事例があったが,現時点で同様の問題は確認されていない。
(エ) これに対し,委員からは「教育的な影響力がどの程度生徒に及んでいるかを把握しておく必要があるのではないか。」との意見が出された。そして,事務局から「法令に基づく学校運営が適正になされているかどうかという基準で,問題となるのが,教育基本法第2条第5号の教育の目標と,第16条の不当な支配の禁止に違反しないかどうか。学校と総連の間に一定の関係があるとしても,それが本当に教育基本法違反か否かが,審査における重要な判断基準になる。」との見解が示されたのに対しては,更に,委員から「法令違反とまでは判断しがたい場合でも,適正に学校運営が行われているかどうかは慎重に判断すべきではないか。」との意見が出された。
また,委員からは「いろいろな観点から状況の確認をしており,学校側には負担をかけていることは事実と思うが,いくら確認しても,すっきり指定することができるようにならない。留意事項の内容について検討すること自体はよいが,学校運営などの面で適正かどうか判断しがたいとも思われる。」「そもそも,この審査会において,指定の可否を議論し,結論を出すのは限界があるのではないか。」との意見も出された。
(以上につき,甲全44,142,乙38,75,76,185)
カ 第6回審査会を踏まえた支援室からの確認と愛知朝鮮高校の回答等
その後,支援室から各朝鮮高校に対し,平成24年3月30日と同年8月24日の二度にわたって,①朝鮮初中級学校から選抜された生徒が北朝鮮を訪問し,故金正日氏,金正恩氏に対する忠誠を誓う歌劇を披露したとの報道があるが,学園の生徒等が参加しているか,②金正恩氏の肖像画を掲示しているか,③故金正日氏の葬儀に朝鮮学校の施設が使用され,生徒が動員されたとの報道があるが事実か,④全国の朝鮮学校長を対象として開かれた講習で,教育内容に関して特定の示唆を受けることがあったか等といった確認が行われた。これらの確認に当たっては,「高等学校等就学支援金に係る指定を受ける学校については,教育基本法,学校教育法,私立学校法等の関係法令の遵守が求められます。このため,文部科学省としては,学校の運営が法令に基づき適正に行われていることを確認する必要があります。別添の確認事項に記載されている内容が事実であったとしても,それのみをもって直ちに不適切であるというわけではありませんが,朝鮮学校における教育活動が朝鮮総連により『不当な支配』(教育基本法第16条)を受けているとの指摘もあることを踏まえ,審査に当たっての判断材料の1つとさせていただくものです。」との説明が付されていた。
愛知朝鮮高校は,上記確認に対し,①歌劇には中等部の生徒が8人参加したが,高校生は参加しておらず,中等部の生徒についても学校行事ではなく,生徒の自由意思による参加であること,②金正恩氏の肖像画は掲示しておらず,掲示の検討もしていないこと,③故金正日氏の葬儀に愛知朝鮮中高級学校の施設が使用された事実はないこと,④講習で教育内容について特定の示唆を受けることはなかったことを回答した。
(以上につき,甲全57の9,57の10,乙9ないし12)
キ 平成24年9月10日に開催された第7回審査会
(ア) 第7回審査会においては,事務局から,朝鮮高校への直近の確認事項に対する回答や朝鮮学校への補助金に関する都道府県の動き等に関して説明があった後,審査状況,朝鮮高校を仮に支給対象校として指定する場合の留意事項等について検討が行われた。
(イ) 委員からは,「本審査会として,結論として1つの方向性を示すことが求められているのか。場合によっては,委員の間にいろいろな意見があってまとまらない,ということもありうるのか。」という質問があり,事務局からは,「最終的に,どちらかの方向性は示していただくことになるが,その際に,少数意見を併記することも考えられる。」との見解が示された。また,委員からは,「書面による学校への確認については,報道等で指摘される事実に関して,学校側が一様に否定する結果となっている。こちらも捜査権があるわけではないので,真偽の確証を得ることについては限界がある側面もあるが,審査基準に関わることについては,引き続きしっかり確認してほしい。」との意見が出された。
(以上につき,甲全45,143,乙39)
ク 第7回審査会を踏まえた支援室からの確認と愛知朝鮮高校の回答等
その後,支援室は,平成24年10月5日と同月19日の2回にわたり,各朝鮮高校に対し,①平壌で開かれた青年節慶祝大会に学校の生徒等が参加したとの報道があるが,事実か,②朝鮮総聯が故・金日成主席,金正日総書記の肖像画を新しい肖像画「太陽像」に交換するように指示したとの報道があるが,事実か等といった確認を行った。これに対して,愛知朝鮮高校はいずれについても否定する旨の回答をした。(甲全57の13,57の15,乙13ないし16)
ケ 愛知朝鮮学園の平成24年度に係る申請
支援室は,平成24年9月4日,各朝鮮高校に対し,既に提出されている申請書類について,記載内容に変更がある場合には提出するように依頼した。愛知朝鮮学園は,同月15日付けで,指定を受けようとする年度を平成22年度ないし24年度とする指定申請書を提出した。
その後,審査会は開かれないまま,同年11月16日,衆議院は解散された。
(以上につき,甲全57の11,乙21)
(5) 本件不指定処分及び本件省令ハの削除に至る経緯
ア 平成24年12月16日に実施された衆議院議員総選挙の結果,自民党が衆議院における第一党となり,同月26日,安倍内閣が発足した。
イ 安倍内閣において文部科学大臣に就任した下村文部科学大臣は,平成24年12月26日深夜頃,文部科学省初等中等教育局の担当官から,朝鮮高校の審査状況に関する説明を受け,本件省令ハを削除するとともに,朝鮮高校を不指定にするという方針を決定した。(乙107)
ウ 平成24年12月28日,下村文部科学大臣は,閣僚懇談会において,「朝鮮学校については,拉致問題の進展がないこと,朝鮮総連と密接な関係にあり教育内容,人事,財政にその影響が及んでいることを踏まえると,現時点での指定には国民の理解が得られないと考えている。このため,私としては,朝鮮学校を不指定とする方向で今後手続きを進めてまいりたいと考えている。」と発言し,安倍晋三内閣総理大臣から「その方向でしっかり進めていただきたい。」との指示を受けた。下村文部科学大臣は,同日の記者会見において,上記の内容を述べた上で,本件省令ハを削除する旨の改正を行うこととし,支給対象校の指定の可否を外交上の配慮などにより判断しないという民主党政権時の政府統一見解は廃止をする旨述べた。(甲全55,136,乙102)
エ これを受けて,文部科学省は,平成24年12月28日,本件省令ハの削除に係る意見公募手続を実施した。平成25年2月20日,文部科学省は,上記意見公募手続の結果として,寄せられた主な意見の概要と,これに対する文部科学省の考え方を公表し,「外交上の配慮などにより判断しないと言っていたのに方針を変えるのか。」との意見に対しては,「『外交上の配慮などにより判断』しないとの民主党政権時の政府統一見解は廃止した上で,朝鮮学校については,拉致問題の進展がないこと,朝鮮総連と密接な関係にあり教育内容,人事,財政にその影響が及んでいることを踏まえると,現時点での指定には国民の理解が得られないと判断するものです。」との文部科学省の考え方を示した。(甲全56,乙77,90)
オ 本件省令ハを削除する省令改正に係る決裁原議と朝鮮高校に対する不指定処分に係る決裁原議は,いずれも平成25年2月15日付けで決裁された。不指定処分に係る決裁原議には,不指定処分に係る通知文書の原案が添付されており,愛知朝鮮学園に対する不指定処分の理由としては,本件不指定処分と同一の理由が記載されていた。(乙92,93)
カ 文部科学大臣は,平成25年2月20日,本件省令ハを削除する旨の改正省令を公布するとともに,本件不指定処分をした。本件不指定処分の理由として記載されたものは,前提事実(4)イのとおり,本件省令ハを削除したことのほか,平成24年度の教員数(15人)が本件規程6条に定める必要な教員数(16人)に満たないこと,本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったことの3点であった。(乙4,5,89)
キ なお,本件不指定処分に先立ち,下村文部科学大臣は,審査会に対して意見の取りまとめを指示することも,改めて審査会の意見を聴くこともしなかった。(乙107)
2 本件規程13条に適合することは本件省令ハによる指定の要件か(争点(1)ア(ア)a)及び同条にいう「法令」に教育基本法は含まれるか(争点(1)ア(ア)b)
(1) 原告らの主張の要旨
本件不指定処分は,認定事実(5)カのとおり,本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったことを理由の一つとしているところ,原告らは,本件規程13条は本件省令ハによる指定の実質的要件ではないし,仮に要件であるとしても,本件規程13条にいう「法令」は会計事務に関する法令に限られると主張する。
(2) 本件規程13条の要件規範性
そこで検討するに,本件規程は,支給法2条1項5号に該当する各種学校の範囲を定める本件省令1条1項2号のうち,「文部科学大臣が定めるところにより,高等学校の課程に類する課程を置くものと認められるものとして,文部科学大臣が指定したもの」(本件省令ハ)に係る指定の基準及び手続等を定めるものである。
そして,本件規程は,「指定の基準」と題する第2章において,①修業年限(2条),授業時数(3条),同時に授業を行う生徒(4条),授業科目(5条),教員数(6条),教員の資格(7条),校地等(8条),校舎等(9条),校舎の面積(10条),設備(11条)といった,教育課程等,教員の資格及び施設・設備に関する基準を定めるほか,②法令に基づく情報の提供等の適正な実施(12条)と,③「前条に規定するもののほか,指定教育施設は,高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない」ことを規定している(13条)。
また,本件規程は,指定教育施設が「第2章に規定する指定の基準に適合しなくなったとき」には本件省令ハによる指定を取り消し得る旨を定め(17条1項1号),本件規程13条に違反した場合にも,支給対象校としての指定を取り消し得ることとなっている。
以上のとおり,①本件規程13条が指定基準を定めた「第2章」の中に規定されていること,②本件規程13条違反が支給対象校としての指定取消事由とされていることに加え,③支給法が,就学支援を学校設置者に対する機関助成とせず,生徒個人に対する助成としたのは,より幅広く後期中等教育段階において学ぶ生徒に対して確実な支援を行うことを可能とするためであり(前記第2,1(3)ア),就学支援金が授業料債権の弁済に確実に充当されないおそれのある学校を,支給法の対象として許容しているとは考えられないこと,④検討会議報告においても,本件省令ハによる指定基準として,就学支援金の管理その他法令に基づく学校の運営が適正に行われることを改めて求めることが適当であるとされていること(認定事実(2)イ(ア)),⑤同じく本件省令ハに基づく審査を受けたホライゾンジャパン及びコリア国際学園についても,本件規程13条適合性に関する審査は行われていること(認定事実(3)エ)からすれば,本件規程13条は本件省令ハによる指定の実質的要件であると解すべきである。
(3) 本件規程13条にいう「法令」の範囲
次に,本件規程13条にいう「法令」の範囲について検討するに,同条は,「法令に基づく学校の運営」の例示として,「高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当」を規定するものの,「法令」の範囲については,本件規程12条に規定するものを除いている以外,文言上何らの限定を付していない。
そして,本件規程13条は,法令に基づく学校の運営を適正に行うことを求めているものであるから,同条にいう「法令」には学校運営に関する法令を全て含むと解するのが合理的であるところ,教育基本法は,全ての教育関係法規の基本法としての性質を有し(同法前文,18条参照),教育関係法令の解釈及び運用については,法律自体に別段の規定がない限り,できるだけ教育基本法の規定及び同法の趣旨,目的に沿うように考慮が払わなければならないのであるから(最高裁昭和43年(あ)第1614号同51年5月21日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照。以下「最高裁昭和51年判決」という。),「法令」に教育基本法が含まれないとは考え難い。
さらに,支給法が,国民の租税負担の下に,高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図ろうとするものであることを踏まえると,教育基本法に違反する学校運営が行われている疑いのある学校を公費により支給対象校とすることが予定されているとも解し得ない。そして,審査会においても,「法令」に教育基本法が含まれるとの前提で審査が行われていたことは,認定事実(4)ア(オ),同ア(カ),同ウ(ウ)及び同オ(ウ)のとおりである。
したがって,本件規程13条にいう「法令」には教育基本法が包含されると解すべきである。
(4) 原告らの主張の検討
これに対し,原告らは,①支給法の国会審議や検討会議報告でも,「高等学校の課程に類する課程」かどうかは,制度的・客観的な基準で判断されるべきとされており,「確実な」「適正に」という不確定概念を用いている本件規程13条は要件にはならないと解すべきである,②子どもの教育にかかわりのない学校の運営面等に関する要件を課すことは,支給法の予定しないところである,③支給法や本件規程の条文によれば,本件規程13条違反の行為については,指定取消等の事後的措置で対応することを想定していると解するのが相当であるし,本件規程13条に留意が必要であれば留意事項を付した上で指定処分をすることも可能である,④本件規程13条を支給対象校の指定要件とし,かつ,同条に定める「法令」に教育基本法を含むと解することは,本件省令イ又はロにより指定を受けた学校に比して,要件を加重することになるし,私立高等学校や専修学校高等課程は不適切な学校運営が行われていても支給金の支給が停止されないこととも均衡を失する結果となる,⑤仮に本件規程13条があらゆる「法令」を含む規程であれば,それ自体曖昧不明確で過度に広範であり,定義規定の明確化だけを要求した支給法の委任の範囲を超えるなどと主張する。
ア そこで,まず,原告らの主張①について検討すると,確かに,本件規程は,仕組みとして制度的・客観的に把握し得る内容によることを基本として制定されている(認定事実(1)ア(イ),(2)イ(ア)a)。しかしながら,本件規程は,支給対象校の指定要件として,「高度な普通教育に類する教育を施すにふさわしい授業科目」の開設(5条)などの基準も設けており,指定に当たり,不確定概念を全く用いないことを前提にしているとは解し得ない。また,法令に基づく学校運営の適正についても,後記3のとおり,一般的には,所轄庁からの指導歴・行政処分歴の有無や,私立学校振興助成金等に関する調査における指摘事項の有無・内容等によって判断し得ることが多い上,例外的にそれ以上の審査が必要となる場合であっても,学校運営の適正性は具体的な根拠・資料に基づいて判断されるものであるから,学校運営の適正性を指定要件とすることが,制度的・客観的に把握し得る内容によることを基本とするという本件規程の前提に反するとはいえない。したがって,原告らの主張①は,前記判断を左右しない。
イ 次に,原告らの主張②について検討するに,当該学校が法令に基づいて適正に運営されているか否かは,学校の教育活動に影響を及ぼし得るのであるから(後記4参照),学校運営の適正が,生徒の教育にかかわりがない事柄であるとは解し得ない。また,支給法が,法令に基づく適正な運営が行われていない学校を支給対象校とすることを予定していると理解できないことは,前記(2)及び(3)のとおりであり,学校の運営面に関する要件を指定要件とすることが支給法の趣旨に反するとは考えられない。よって,原告らの主張②は採用することができない。
ウ また,原告らの主張③について検討するに,支給法11条は,偽りその他不正の手段により就学支援金の支給を受けた者に対する不正利得の徴収を定めているが,かかる規定があるからといって,不正利得の恐れのある学校に対する支給が許容されているとは考え難い。また,本件規程は,定期的な書類の提出等(16条)や指定の取消し(17条)を定めているが,これらはいずれも支給対象校の指定時に本件規程第2章の指定基準を満たしていると判断されたことを前提に,その後も基準に適合していることの確認や,基準に適合しなくなった場合等の指定取消しについて定めたものである。したがって,これらの事後的措置の規定があることをもって,第2章の指定基準を満たさない学校を支給対象校として指定することが許容されているとは解し得ない。留意事項を付して指定処分をすれば足りるとの原告らの主張についても,留意事項は「第3章 指定の手続等」の中に規定された18条で定められており,第2章の指定基準を満たす学校について付されるものであることが明らかであるから(検討会議報告の内容も同旨。認定事実(2)イ(イ)),原告らの主張③は採用することができない。
エ 続いて,原告らの主張④について検討するに,本件省令イ,ロ及びハに該当する学校はいずれも,「高等学校の課程に類する課程を置くもの」であるか否かによって支給対象校となるか否かが定まるものであるから,本件省令イ及びロに該当する学校と,本件省令ハに該当する学校とで,支給対象校として求められる内容が異なるのは不合理であるとの原告らの主張は首肯し得る。しかしながら,支給法が,法令に基づく学校運営が適正に行われていない疑いのある学校を,国民の租税負担の下で支給対象校とすることを予定していると解し得ないことは,前記(2)及び(3)で述べたとおりである。
以上を踏まえると,本来,「高等学校の課程に類する課程を置くもの」と認めるためには,本件省令イ及びロに該当する学校についても,本件規程第2章の指定基準(13条を含む。)の内容が求められてしかるべきところ,国内に多数ある外国人学校の全てについてこうした個別審査を行うことは煩瑣であることから,本件省令は,教育行政に通暁した文部科学大臣の専門的・技術的判断に基づき,大使館を通じた確認や国際的な評価機関による認証が得られる学校については,外国政府や評価機関への信頼を前提として,その認証等をもって,本来求められる基準を満たすと「みなす」としたもの(いわば,みなし規定をおいたもの)であると解するのが合理的である(したがって,本件省令イ及びロに該当する学校については,本件規程2条ないし12条の要件についても,個別審査は予定されていない。)。このように解すれば,本件省令イ及びロに該当する学校についても,抽象的には法令に基づく学校運営の適正は求められているものの,その認定方法が,本件省令イ及びロと同ハとでは異なるだけであると考えられ,支給法,本件省令及び本件規程を整合的に理解することができる。
そして,本件省令イ及びロに該当する学校については,大使館を通じた確認や国際的な認定機関による認証があればそれで「高等学校の課程に類する課程を置く」とみなされるのに対し,本件省令ハに該当する学校については,個別立証が必要となるが,本件省令イ及びロに該当する学校のような制度的担保がない以上,要件(基準)の認定方法が異なることは何ら不合理ではない。以上の認定審査の構造は,私立高等学校や専修学校高等課程について,法令に基づく学校運営の適正が個別的に求められていないことにも妥当する。
したがって,本件規程13条を指定要件と解し,同条の「法令」に教育基本法が含まれると解しても,本件省令ハに該当する学校に,本件省令イ及びロに該当する学校と異なる内容を要求するものとはいえない。原告らの主張④も前記判断を左右しない。
オ 最後に,原告らの主張⑤について検討するに,本件規程13条にいう「法令」に教育基本法が含まれると解することが,支給法の趣旨に沿うとともに,教育関連法の法体系とも整合的であることは,前記(3)のとおりである。また,原告らはあらゆる法令が含まれるとすると,基準が曖昧不明確かつ過度に広範になると主張するが,本件規程13条の「法令」に学校運営とおよそ無関係の法令が含まれるとまでは解されないし,学校教育法に基づいて設置されている各種学校が,教育基本法,学校教育法等の法令に基づき適正な学校運営を行わなければならないことは当然であるから,それを求めることが曖昧不明確で過度に広範であるとは解し得ない。よって,本件規程13条を実質的指定要件とし,同条にいう「法令」を会計事務に関する法令に限定しなくとも,本件規程13条が支給法の委任の範囲を超えるとはいえない。原告らの主張⑤は採用することができない。
カ したがって,本件規程13条該当性は本件省令ハによる指定の実質的要件であり,かつ,同条にいう「法令」には教育基本法を含むと解するのが相当である。
3 本件規程13条の要件適合性の立証責任等(争点(1)ア(ア)c)
(1) 本件規程の要件適合性の立証責任の所在
次に,本件規程の要件適合性の立証責任について検討するに,後期中等教育段階において学ぶ生徒が就学支援金を受給するためには「私立高等学校等に在学する」ことが必要であるところ(支給法4条1項),ここでいう「私立高等学校等」に該当するためには支給法2条1項にいう「高等学校等」に該当する必要があるから,本件省令ハに基づく指定は,申請者である各種学校に対して,在学する生徒に就学支援金の受給資格が与えられる学校としての地位を付与する,いわゆる授益処分であると解される。また,本件規程の要件に合致するかどうかの資料は,一般的には,申請する学校の支配領域内に存在するものがほとんどであると考えられる。以上を考慮すると,本件規程の要件適合性については,申請者側(本件訴訟では原告ら)が立証責任を負うと解するのが相当である。
(2) 本件規程13条の要件適合性の具体的な審理の在り方
ア 本件規程の要件適合性の立証責任についての考え方は前記(1)のとおりであるが,さらに本件規程13条に着目して見ると,各種学校及びその運営主体である準学校法人は,都道府県知事の認可を受けて設立されたものであり(学校教育法134条,4条1項,私立学校法64条5項,30条1項,31条1項),学校教育法又は私立学校法に基づき,所轄庁による監督に服するとともに(学校教育法134条,13条1項,私立学校法64条1項・5項,62条1項,6条),その内部統制に関しても一定の規律がされている(私立学校法64条5項,第3章)。また,各種学校や準学校法人は,支給される助成金・補助金の内容等に応じ,法令ないしは条例の定めるところにより,所轄庁から報告の徴求,質問,検査等を受けることとなっている(私立学校振興助成法16条,12条等)。このように,準学校法人により設置された各種学校は,所轄庁による監督等に服するとされているのであるから,その監督下において何らかの指導や行政処分を受けていなければ,「法令に基づく学校の運営を適正に」行っていること(本件規程13条適合性)が事実上推認され,このような事実上の推認を破る合理的疑念がない限り,特段の立証を要することなく,同条適合性が認められることになると考えられる。このように解すべきことは,本件省令ハにより指定を受けたホライゾンジャパン及びコリア国際学園に対する審査に当たり,法令に基づく学校運営の適正性につき合理的疑念を抱かせる事情がなかったことを前提として,理事会の開催,財務諸表の作成等,過去5年間の指導・勧告歴の不存在といった程度の確認で指定が行われたこと(認定事実(3)エ)とも整合する。
イ したがって,原告らは本件規程13条の要件適合性について立証責任を負うものの,まずは,愛知朝鮮高校が準学校法人により設置された各種学校であって,所轄庁による監督下において特段の指導や行政処分を受けたりしたことがない旨を立証すれば,第一次的な立証責任は果たしたこととなる。
そして,これに対して,被告が本件規程13条の要件適合性を争う場合には,被告において,愛知朝鮮高校に関し法令に基づく学校運営が適正に行われていないことを合理的に疑うべき事情があること(すなわち,前記アの事実上の推認を破る事情があること)を具体的根拠・資料に基づいて主張・立証する必要があり,被告がこのような主張立証を尽くさない場合には,本件規程13条の要件を満たすと判断するに至らないとしてされた本件不指定処分に不合理な点があることが事実上推認されると解するのが相当である。実質的に考えても,どのような根拠・資料をもって,法令に基づく学校運営の適正性に疑念があると判断したかは,被告が最もよく知るところであるから,主張・立証の必要性については,上記のとおり解するのが合理的である。
ウ そして,被告が,愛知朝鮮高校に関し法令に基づく学校運営が適正に行われていないことを合理的に疑うべき事情があることを具体的根拠・資料に基づいて主張・立証し,これにより前記アの事実上の推認が破られた場合には,本件規程13条の要件を満たすと認めるに足らない状態に陥ることになる。このため,被告から前記イの主張・立証が行われた場合には,原告としては,被告が主張する合理的疑念の基礎付け事実の存在を争うほか,被告が主張する事実は学校運営の適正さを疑う根拠とはならないとして評価を争い,本件規程13条の要件適合性の立証を行うことになると考えられる。
(3) 原告らの主張の検討
これに対し,原告らは,被告が法令違反や不適正な学校運営がされていることの立証責任を負うと主張するが,前記(1)で述べたとおり,指定処分の処分要件の存在は原告らが立証責任を負うものである。そして,本件規程13条は,法令に基づく学校運営が適正に行われて「いる」ことを指定の積極要件として規定しており,法令に基づく学校運営が適正に行われて「いない」ことを指定の消極要件(除外事由)として規定しているものではないから,学校運営の適正性は原告らが処分要件の一つとして立証しなければならない。
また,原告らは,就学支援金の受給権は社会権規約を具体化したものであり,子どもの権利条約や憲法26条が保障する教育を受ける権利と分かちがたく結びついており,教育の機会均等の趣旨に合致する重要な権利であるから,本件規程13条不適合を理由とした不指定処分をなし得るのは,処分に係る根拠事実の存在が客観的な事実に照らして具体的に明らかである場合に限定されると主張する。しかしながら,既に述べたとおり,支給法に基づく就学支援金の支出が国民の租税負担の下に行われるものであることからすれば,支給法及び本件省令が,支給対象校の要件適合性が不明な各種学校に在籍する生徒についてまで,就学支援金の支給対象とする旨を定めたものとは解し得ないし,本件規程の文言上も,原告らが主張するような限定解釈をすべき根拠は見出し難い(本件不指定処分と憲法・国際条約との関係は後記9のとおりである。)。原告らの上記主張は,採用することができない。
4 愛知朝鮮高校が本件規程13条に適合すると認めるに至らないとした文部科学大臣の認定判断は,同条適合性に係る認定判断を誤ったものとして違法か(争点(1)ア(ア)d)
(1) はじめに
前記3の立証責任の構造を前提に,本件不指定処分の違法性について判断するに,被告は,愛知朝鮮高校について本件規程13条に適合すると認めるに至らないとした理由として,①朝鮮高校における教育内容が教育基本法の理念に沿ったものになっていないこと,②朝鮮高校に就学支援金を支給した場合に,これが授業料に係る債権の弁済に確実に充当されることについて十分な確証が得られないこと,③朝鮮高校が北朝鮮及び朝鮮総聯から不当な支配を受けていること(教育基本法16条1項違反),④朝鮮高校が破壊活動防止法に基づく調査対象団体である朝鮮総聯と密接な関連性を有していることを指摘する。
そこで,以下では,このような懸念を前提として「本件規程13条に適合するものと認めるに至らない」とした文部科学大臣の認定・判断が,客観的に違法であるか(すなわち,抗告訴訟において問題とされる行政処分の効力要件についての違法が認められるか否か。)について検討する。
(2) 本件規程13条適合性の認定判断に係る裁量の有無
本件省令ハに基づく指定要件を定めた本件規程第2章の中には,一義的に要件が規定されており,裁量判断の余地がない要件も存在するものの,本件規程13条のように,要件適合性の判断に評価が伴い,一義的には決し得ないものも存在する。そして,後者の要件適合性の認定判断については,教育行政に通暁した文部科学大臣の専門的・技術的判断に基づく合理的裁量に委ねられていると解するのが相当であるから,このような要件適合性に関する文部科学大臣の認定判断が違法と判断されるのは,文部科学大臣において,上記裁量権を逸脱・濫用した場合に限られると解するのが相当である。
ただし,本件規程13条適合性に関する判断は,要件適合性の判断に当たって考慮されるべき諸要素が多岐にわたり,政策的観点から総合的な判断が要求されるというような類型の裁量判断ではなく,当該学校が法令に基づく学校運営を適正に行っているか否かを,専門的・技術的見地から認定・評価するという類型の裁量判断である。したがって,文部科学大臣は,当該学校が合理的疑念を差し挟まない程度に法令に基づく学校運営を適正に行っているといえるかの認定・評価について裁量を有するものの,その裁量の範囲は比較的狭いと解するのが相当である。また,支給法,本件省令及び本件規程によれば,文部科学大臣は,本件規程の指定要件に適合する学校については本件省令ハによる指定をしなければならず,本件規程の指定要件に適合すると認めるに至らない学校については本件省令ハによる指定をすることはできないのであって,この点に裁量はない(いわゆる効果裁量はない)と解される。
(3) 愛知朝鮮高校に対する所轄庁による監督等の状況
そこで,まず,愛知朝鮮高校に対する所轄庁による監督等の状況について見るに,前提事実(1)イのとおり,愛知朝鮮中高級学校は各種学校として愛知県知事の認可を受けて設立され,愛知朝鮮学園は準学校法人として愛知県知事の認可を受けて設立されているから,学校教育法,私立学校法の定めるところにより,所轄庁である愛知県知事の監督に服している。
また,証拠(乙31)によれば,愛知朝鮮高校は,愛知県から私立学校経常費補助金を受給していることが認められるところ,同補助金を受給しているため,毎年,貸借対照表,収益計算書を作成して公認会計士等の監査報告書を添付し,これを愛知県知事に提出しなければならないほか,収支予算書及び収支計算書等の会計関係書類の作成・提出が義務付けられるとともに(甲全132〔5条1項4号ないし6号,17条2項,私立学校振興助成法14条〕),会計帳簿・書類等の検査を受け,予算に関する必要な変更の勧告を受け得る立場にあり(私立学校振興助成法16条,12条),毎年,愛知県による立入り調査を受け,領収書等との照合等の検査が行われている(本件不指定処分直前の平成24年度につき,甲全173)。しかるに,愛知朝鮮高校は,本件不指定処分までの間,愛知県から私立学校経常費補助金の支給を停止されておらず,平成23年時点で,過去5年間の法令違反による行政処分歴もなかった(認定事実(4)ア(カ),同オ(ウ)d)。
以上の事実は,愛知朝鮮高校が,本件規程13条の要件に適合していることを事実上推認させる事実である。そこで,以下では,上記推認に合理的疑念を差し挟むべき事情が存在するか否かについて検討する。
(4) 法令に基づく適正な学校運営に対する合理的疑念の存否
被告は,愛知朝鮮高校が本件規程13条の4要件を満たしていないと主張するが,この4要件は本件訴訟の終盤になって被告が主張するに至ったものであり,審査会による審査において主に問題となっていたのは,朝鮮高校が朝鮮総聯や北朝鮮から教育基本法16条1項にいう「不当な支配」を受けているか否かである(認定事実(4))。そこで,以下,愛知朝鮮高校が教育基本法16条1項を遵守していることについて合理的疑念があるといえるかについて,検討する。
ア 教育基本法16条1項が禁ずる「不当な支配」の主体及び意義
まず,教育基本法16条1項が禁止する「不当な支配」の主体について検討するに,平成18年法律第120号による改正前の教育基本法10条は,教育が国民から信託されたものであり,教育は,その信託にこたえて国民全体に対して直接責任を負うように行われるべく,その間において不当な支配によってゆがめられることがあってはならないとして,教育が専ら教育本来の目的に従って行われるべきことを示したものである。そして,同項は「不当な支配」の主体を限定していないから,「不当な支配」と認められる限り,その主体のいかんは問うところでないと解するのが相当であり(最高裁昭和51年判決参照),この理は,現行の教育基本法16条1項においても異なるところはないというべきである。したがって,「不当な支配」の主体には朝鮮総聯や北朝鮮も含まれ得ると解される。
続いて,現行の教育基本法16条1項の立法趣旨も踏まえて,同項が禁ずる「不当な支配」の意義について検討するに,教育は,国民各自が,一個の人間として,また,一市民として,成長,発達し,自己の人格を完成,実現するために必要不可欠な営みであり,本来,人間の内面的価値に関する文化的な営みとして,党派的な政治的観念や利害によって支配されるべきものではない。特に,子どもの教育に関しては,教育内容が子どもに与える影響力・支配力が強いことから,子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような介入(例えば,誤った知識や一方的な観念を子どもに植え付ける内容の教育を施すような介入)による弊害は顕著である。そして,現行の教育基本法16条1項は,このように中立性・不偏不党性が教育全般における基本的な原則であることを踏まえ,教育が国民全体の意思とはいえない一部の勢力に不当に介入されることを排除して,教育の中立性・不偏不党性を求めるために規定されたものであるから(教育基本法の平成18年改正時における国会審議参照(乙69)),教育基本法16条1項が禁ずる「不当な支配」とは,一部の社会的勢力が教育に不当に介入することにより,党派的な政治的観念や利害によって支配されるべきものではない教育が,その本来の目的に従って行われることをゆがめられるような支配をいうと解するのが相当である。
イ 朝鮮高校と朝鮮総連や北朝鮮との関係性
前記アに述べたところによれば,朝鮮総聯や北朝鮮も教育基本法16条1項にいう「不当な支配」の主体として除外されるものではないから,朝鮮高校と朝鮮総聯や北朝鮮との関係について検討するに,後掲各証拠によれば,次の各事実が認められる。
(ア) 朝鮮総聯と朝鮮高校の関係全般
a 公安調査庁は,破壊活動防止法の規定による破壊的団体の規制に関する調査及び処分の請求等を行い,もって,公共の安全の確保を図ることを任務とする国家機関であるところ(公安調査庁設置法3条),朝鮮総聯は破壊活動防止法に基づく調査対象団体である。したがって,朝鮮総聯は公安調査庁の調査対象となっているところ,公安調査庁及び警察庁は,国会答弁において,朝鮮総聯は,朝鮮学校と密接な関係にあり,同校の教育を重要視し,教育内容,人事及び財政に影響を及ぼしているとの見解を繰り返し示している。(乙20,55,70の1,96,111,112)
b また,朝鮮総聯のホームページには,「朝鮮総聯は,日本の都道府県ごとに47の地方本部をおいている。」,「地方本部は,中央本部の決定と方針にしたがって…学校を指導する。」と記載されている。(乙17)
(イ) 朝鮮総聯や北朝鮮と朝鮮高校の人的・財政的結びつき
a 愛知朝鮮学園の理事・監事は,平成23年11月当時,全員朝鮮総聯関連団体の役職員であり,その中には,朝鮮総聯の役職員も含まれていた。また,評議員にも,朝鮮総聯関連団体の役職員が多く,朝鮮総聯の役職員も含まれていた。さらに,愛知朝鮮高校の学校長は,朝鮮総聯の傘下団体である在日本朝鮮人教職員同盟(以下「教職同」という。)の役員となっており,同校の教職員にも教職同に加盟している者がいる。加えて,愛知朝鮮学園の現在の理事長(平成22年度と平成23年度の愛知朝鮮高校の校長)は,朝鮮総聯愛知県本部の教育部長,同副委員長,愛知県教育会の会長も務めていた。(乙8,証人A)
b 北朝鮮は,長年にわたり,朝鮮学校に対して資金援助を行っており,その金額は平成26年4月時点で日本円にして総額470億円以上に達している。現在ではその金額は少なくなっているが,資金援助は続いている。(甲全147,乙18,56の2,179)。
(ウ) 理事会・評議員会による自律的学校運営の有無
a 教育会は,学父兄を中心として組織される朝鮮総聯の傘下団体であるところ,朝鮮総聯が平成3年に作成した冊子には,「朝鮮学校の管理運営は,朝鮮総聯の指導のもとに,教育会が責任をもって進めている」との記載があり,朝鮮総聯のホームページにおいても,平成24年3月当時,「朝鮮学校の管理運営は,朝鮮総聯の協力のもとに,教育会が責任をもって進めている」との記載があった。
また,朝鮮総聯中央常任委員会の機関誌である「朝鮮新報」(平成22年2月10日付)には,総聯中央責任副議長が教育会中央理事会を指導し,これを受けて,「会議参加者は,将軍様に対する火のような忠誠心と,後代に対する愛の精神で心に火を燃やしながら,…教育会事業で明確な前進を成し遂げる固い決意をした」との記事が掲載されている。
(以上につき,乙47,56の1,72,187)
b また,愛知朝鮮高校について見ると,愛知朝鮮学園がRCCに対して負担する借入債務は平成23年当時約14億円となっており,支援室からの確認に対して,愛知朝鮮高校は,上記借入金は学校運営費に充てたと説明しているが(認定事実(4)エ),その中には教育会名義での借入債務が多く含まれる。しかも,まだ多額の債務が残っているにもかかわらず,愛知朝鮮高校は,支援室に対して,借入れの詳細が分かる書類は,債権が朝銀愛知信用組合からRCCに譲渡された時の通知書しか存在せず,借入時に理事会・評議員会の意思決定があったか否かも確認できないとの回答をしていた(認定事実(4)イ,同エ)。(乙33)
(エ) 朝鮮総聯の朝鮮学校の教育内容への影響
a 朝鮮高校で使用される教科書の編纂
全国の朝鮮高校においては,同一の教科書が使用されており,平成22年以前に発行された教科書の奥書には,「総聯中央常任委員会 教科書編纂委員会」が編纂者である旨の記載がある。平成11年11月3日付けの「朝鮮新報」には,総聯中央副議長が総聯中央常任委員会教科書編纂委員会の責任者となり,教育局長が副責任者となった旨が記載されている。
また,本件省令ハによる指定に係る審査手続開始後の平成24年以降に発行された教科書の奥書に記載された編纂者は,「学友書房 教科書編纂委員会」に改められているが,学友書房も朝鮮総聯の事業体である。そして,平成21年7月1日付けの「朝鮮新報」には,「(学友書房社長は)学友書房は総連中央の指導の下に6回にわたって教科書編纂事業を円満に保障してきたし,最近にも将軍様の綱領的お言葉を徹底的に具現し,新しい時代の要求と日本の実情,同胞の志向を反映した教科書を作り出すことによって民族教育に対する支持と信頼を高めることに寄与していると述べた。」との記事が掲載されている。
(以上につき,甲全216ないし249,乙72,132ないし134,137ないし167,証人A)
b 朝鮮高校で使用されている教科書の内容
朝鮮高校で使用されている教科書は,日本の学校と共通する科目については,学習指導要領を参考にして編纂されているが,「朝鮮歴史」「現代朝鮮歴史」「社会」「国語」「音楽」においては,北朝鮮の最高指導者を絶対視する個人崇拝的な表現が多数みられる。公安調査庁も,国会において,「朝鮮人学校におきます教科書を見てみますと,朝鮮総連の傘下事業体であります学友書房が作成した教科書を用いて,北朝鮮の発展ぶりあるいは金正日総書記の実績を称賛する内容が含まれていると…承知いたしております。」と答弁している。
平成23年12月から行われた東京都による調査では,高級部の「現代朝鮮歴史」には,「敬愛する金日成主席様」「敬愛する金正日将軍様」等の記述が409頁中353回,金日成・金正日の写真が43回登場することが確認された。そのほか,朝鮮高校で使用されていた教科書(いずれも平成21年のもの)においては,例えば次の記載が見られる。
[社会]
「敬愛する金正日将軍さまを,国防委員会委員長として高く仰ぎお仕えしていることは,我が祖国と人民の大きな栄光であり幸福である。」「我々は同胞社会と総聯組織を愛し,尊さを認めなければならない。」
[国語-掲載されている小説]
「私たちは,抗日烈士たちから譲り受けた偉大な首領様に対する無限の忠誠心を,幸福に対する革命的な見解とともに責任をもって後代に譲り渡さなければならない。ここに私たちの時代の責務があり,幸福がある。」
[音楽-掲載されている歌の歌詞]
「将軍様を高く頂き歓呼の声響かせる 太陽の威厳輝く人民の領導者万歳万歳 金正日将軍」(題名は「金正日将軍の歌」)
「我らは首領の歌 誇らしく歌う…この歌は敵に死を与え 勝利した祖国の地に響き渡る (サビ)ああ いつも親しみやすい我らが首領金日成元帥」(題名は「金日成元帥に捧げる歌」)
(以上につき,乙20,72,173ないし175)
c 在日本朝鮮青年同盟(以下「朝青」という。)を通じた教育活動
(a) 朝青は,青年期の在日朝鮮人によって構成される朝鮮総聯の傘下団体であるところ,愛知朝鮮高校においては,生徒全員が朝青に加盟している。
公安調査庁は,国会において,朝鮮高校の生徒は朝鮮総聯の傘下団体である朝青に加盟し,朝青の各種活動に参加しているものと承知している旨を答弁している。また,公安調査庁作成の平成22年1月の「内外情勢の回顧と展望」には,「朝鮮総聯は,朝鮮人学校での民族教育を『愛族愛国運動』の生命線と位置付けており,学年に応じた授業や課外活動を通して,北朝鮮・朝鮮総聯に貢献し得る人材の育成に取り組んでいる。」「朝鮮総聯は・・・教職員や初級部4年生以上の生徒をそれぞれ朝鮮総聯の傘下団体である在日朝鮮人教職員同盟(教職同)や在日本朝鮮青年同盟(朝青)に所属させ,折に触れ金総書記の『偉大性』を紹介する課外活動を行うなどの思想教育を行っている。」と記載されている。
(以上につき,乙19,96,証人A)
(b) 東京都における調査時において,朝青のホームページに掲載されていた「朝青規約」には,朝青の目的,義務,組織について,以下のとおり規定されていた。(乙72)
1条 朝青は,朝鮮民主主義人民共和国政府の政策を高く奉じ,在日本朝鮮人総聯合会の綱領を固守し,総聯の諸般の決定執行において先頭に立つ。朝青は,自己の全ての事業を総聯の指導の下に進める。
5条 朝青員の義務は次のとおりである。
① 朝青員は,共和国政府の路線と政策,それを具現した総聯の決定を深く学習し,それを先頭に立って擁護貫徹し,広く解説宣伝しなければならない。
③ 朝青員は,祖国を熱烈に愛し,主体社会主義祖国を内外反動らの策動から堅実に擁護するために献身しなければならない。
⑭ 朝青員は,内外の敵の策動から総聯組織を堅固に守らなければならない。
38条 朝鮮高級学校(中略)内には,朝鮮中央委員会の批准を受けて,朝青朝高委員会を組織する。朝青朝高委員会は,学内の朝青事業に責任を負い,該当地方県本部団体に直属する。
d 教員等を通じた教育活動
教職同は,朝鮮学校の校長や教員によって構成される朝鮮総聯の傘下団体であり,各朝鮮学校の校長は教職同に必ず加盟し,役員となっている。そして,公安調査庁作成の平成22年1月の「内外情勢の回顧と展望」において,朝鮮総聯が教職同を通じて思想教育を行っている旨の記載がされていることは,前記c(a)のとおりである。
また,①平成17年11月1日付けの「朝鮮新報」には,教職同中央常任委員会で,委員長が民族教育事業に関し,「何よりも教職同分科会の組織・思想生活が一層深化されることで,盟員たちの中で,金正日将軍様さえいらっしゃれば必ず勝利するという信念を確固不動のものにするところで大きな前進を成し遂げることができた」と報告した旨の記事が,②平成20年8月18日付けの「朝鮮新報」には,朝鮮総聯責任副議長が,総聯教育局長,教職同中央委員長とともに,東京朝鮮中高級学校を訪れて教員の会議を指導し,責任副議長が,「敬愛する金正日将軍様が民族教育事業を在日朝鮮人運動の生命線,組織建設と愛国活動の出発点だと教えられたが,将軍様の思想と意図どおりに新世紀の総連事業と在日朝鮮人運動を切り開いて行こうとするなら,民族教育事業から強化発展させなけれなら(ない)」と強調した旨の記事が,③平成21年5月22日付けの「朝鮮新報」には,総聯京都府本部の委員長が教職同京都府委員会模範創造決起集会に参加し,「最近将軍様が休むことなく続けておられる現地指導強行軍に込められた崇高な志と祖国人民の不屈の闘争について言及し,総聯も祖国の人民と呼吸を合わせ,一大全盛期を迎えるための闘争においてすべての教育幹部が先頭に立つように訴えた」との記事が掲載されている。
(以上につき,乙19,72,124,証人A)
ウ 朝鮮総聯や北朝鮮が愛知朝鮮高校に「不当な支配」を及ぼしているとの合理的疑念があるといえるか
以上の認定事実を踏まえて,朝鮮総聯や北朝鮮が愛知朝鮮高校に「不当な支配」を行っているとの合理的疑念があるといえるか検討する。
(ア) まず,前記イ(イ)によれば,朝鮮高校は,朝鮮総聯と人的に密接な関連を有し,北朝鮮から多額の資金援助を受けていることが認められる。
しかしながら,証拠(甲全37,60ないし70,194ないし199,201)によれば,外国本国や在日民族団体が在日外国人学校に対して支援を行うことは一般的なことであり,我が国,領事館又は在外邦人団体も,在外邦人の教育を行うための教育機関に対して,教科書の供与を含む支援を行っていることが認められる。また,証拠(甲全259の1,259の7)及び弁論の全趣旨によれば,朝鮮学校は,太平洋戦争後,日本において定住することとなった在日朝鮮人らが,朝鮮民族としての民族教育を行うために自主的に設立した学校であり,その設立当初は,日本の法令上の教育機関としての認定を受けられない状況にあったことから,朝鮮総聯や北朝鮮などの支援を受けつつ,朝鮮学校における教育を成り立たせてきたという歴史的経緯があることが認められる。
以上によれば,愛知朝鮮高校が,北朝鮮から財政上の援助を受け,朝鮮総聯との間で密接な人的関係を有するということのみをもって,朝鮮総聯や北朝鮮から「不当な支配」を受けていると合理的に疑うべき事情が存在するとはいえない。朝鮮総聯や北朝鮮が愛知朝鮮高校に対して及ぼす影響が,外国本国や在日民族団体が在日外国人学校に対して行う一般的関与を超える介入であり,人間の内面的価値に関する文化的な営みとして,党派的な政治的観念や利害によって支配されるべきものではない教育本来の目的をゆがめるようなものに至っている合理的疑念があるかを,さらに検討する必要がある。
(イ) そこで,以上の観点から検討するに,次に述べる点によれば,愛知朝鮮学園については,朝鮮総聯ないしその傘下団体の介入により,理事会・評議員会による学園運営が自律的に行われていないのではないかという合理的疑念が存在するといわざるを得ない。
a すなわち,愛知朝鮮学園の理事会は,同学園の業務を決し,理事の職務の執行を監督するとともに理事長を選任する機関であり(私立学校法64条5項,36条2項,35条2項,愛知朝鮮学園寄附行為〔甲全4の10〕5条2項,17条),評議員会は,理事を選任するほか,予算や事業計画など学園の業務に関する重要事項に関する諮問を受ける機関である(私立学校法64条5項,38条,42条1項,愛知朝鮮学園寄付行為〔甲全4の10〕6条1項,22条)等,いずれも愛知朝鮮学園の運営に関して重要な役割を果たすべき存在である。
b しかしながら,前記イ(ウ)aのとおり,朝鮮総聯のホームページには,平成24年3月まで,「朝鮮学校の管理運営は,朝鮮総聯の協力のもとに,教育会が責任をもって進めている」との記載が存在していたのであり,この記載は,朝鮮学校の運営が朝鮮総聯の傘下団体である教育会において実質的に行われているのではないかとの合理的疑念を生じさせるものである。
c また,準学校法人が学校の運営費のために行う借入金は,評議員会に諮問した上で(私立学校法64条5項,42条1項1号),理事会において決すべき事項であるところ(同法64条5項,36条2項),前記イ(ウ)bのとおり,平成23年時点で愛知朝鮮学園がRCCに対して負っていた約14億円の借入債務は,学校運営費のための借入金であるとの説明がされているにもかかわらず,その多くが教育会名義での借入れとなっている。しかも,支援室からの確認に対し,愛知朝鮮高校は,上記借入債務について,理事会・評議員会の意思決定の有無を確認できない旨の回答をしているほか,借入れの詳細が分かる書類も学園内には存在しない旨を回答するなど(認定事実(4)イ,同エ),理事会・評議員会において意思決定を自律的に行っている準学校法人とは考え難い回答をしている。
そして,上記借入れが行われたのは平成9年から13年頃のことではあるが,愛知朝鮮学園は,現在の理事会の開催状況についても,理事会開催を裏付ける書類(出欠票や欠席者の委任状等)は特に存在しないと回答している上(認定事実(4)エ),役員名簿と理事会等の出席者が一部合致していないことも確認されており(乙184),さらには,平成24年3月時点で前記bのとおりのホームページの記載もあったのだから,本件不指定処分時に,愛知朝鮮学園の理事会・評議員会が法令に従って自律的な意思決定を行っていると合理的疑念なく認められる状況ではなかったといえる。
(ウ) 次に,愛知朝鮮高校における教育内容について見るに,この点においても,朝鮮総聯が愛知朝鮮学園に「不当な支配」を及ぼしているのではないかとの合理的疑念が存在するといわざるを得ない。
a まず,前記イ(エ)aのとおり,朝鮮高校が使用している教科書は,平成22年以前まで朝鮮総聯中央常任委員会に置かれた「教科書編纂委員会」によって編纂されており,総聯中央副議長が責任者になるなど,朝鮮総聯の意向を色濃く反映した教科書編纂がされていたことがうかがわれる。その後,教科書の編纂者は「学友書房 教科書編纂委員会」と改められたが,学友書房も朝鮮総聯の事業体である上,学友書房が朝鮮総聯中央の指導の下で教科書編纂を行っていたことは,「朝鮮新報」の記事から認められる。
b もっとも,前記(ア)のとおり,在日外国人学校が外国本国ないし在日民族団体から教育内容について影響を受けること自体は一般的にもあり得ることであるから,上記aの事実のみをもって「不当な支配」が合理的に疑われることにはならない。しかしながら,朝鮮高校で使用されている教科書には,北朝鮮の最高指導者を絶対視し,これを賛美・礼賛する表現が多数見られるのであって(前記イ(エ)b),その内容は,授業内容に対する批判能力が未だ十分とはいえない後期中等教育段階にある生徒に対して,一方的に偏った観念を植え付けるものなのではないかとの疑いを抱かせるものである。
c また,このような教育は,その規約上,北朝鮮の政策を高く奉じ,朝鮮総聯の綱領を固守することを任務としている朝青を通じて,朝青の加盟員である愛知朝鮮高校の生徒に対し,課外でも行われているのではないかとの疑いが存在する(前記イ(エ)c)。さらに,朝鮮総聯は,朝鮮学校において,北朝鮮の最高指導者を崇拝し,その考えや言葉を絶対視するような教育を行うべきことを,教職同等を通じて,校長や教員に繰り返し指導していることも認められる(前記イ(エ)d)。
(エ) 以上を考慮すると,本件不指定処分当時,朝鮮総聯の介入により,愛知朝鮮高校は理事会等による学校運営が自律的に行われず,その教育内容が,北朝鮮の政治指導者を個人崇拝し,その考えや言葉を絶対視するような内容のものとなっていると合理的に疑わせる事情が存在したと認められる。
(5) 合理的疑念に対する原告らの反論等
ア 前記(4)に対し,原告ら及び証人Aは,①「朝鮮学校の管理運営は,朝鮮総聯の協力のもとに,教育会が責任をもって進めている」との朝鮮総聯のホームページの記載は誤っていたことから,その後に訂正されていること,②教育会は,日本の学校でいうとPTAのようなものであり,寄付金の声掛けなど学校に対する支援を行っているにすぎず,愛知朝鮮学園の運営は理事会により行われていること,③教科書は,朝鮮学校の教員らの意見も反映して改訂を繰り返していること,④朝青は,地域の在日同胞青年たちのコミュニケーションを図ったり,様々な催しをしたりする団体であるところ,朝鮮高校内の朝青は生徒会のような活動をしており,高校の朝青活動と高校外の朝青活動は相互に関係がない上,朝青が朝鮮総聯から指示を受けることはないこと,⑤教職同についても,朝鮮総聯からその活動等について指示を受けることはないこと,⑥私立各種学校である愛知朝鮮高校については,教育基本法を含む教育関連法上,教育内容を規制することはできず,検討会議報告においても,各教科における個々の具体的な教育内容については判断基準としないとされているから,教育内容の当否を問うことはできないはずであること,⑦教育内容に,北朝鮮や朝鮮総聯の影響がある程度存在するとしても,それは一部にすぎないし,教師は,教科書の内容をそのまま教えるのではなく,子どもたちに多角的な視点を持たせるように意識しており,愛知朝鮮高校の理事や現場の教師による自主的な教育活動が阻害されているわけではないこと,⑧仮にある学校が「不当な支配」を受けているとしても,不当な支配者ではない生徒や保護者が平等に扱われずに不利益を受ける(あるいは利益を享受できない)のは筋違いであること等を主張ないし証言する。
イ しかしながら,原告らの主張等①については,確かに,後にホームページの記載が訂正されていることが認められるものの(甲全174),訂正されたのは審査会による審査が始まった後である上,誤った記載がされた理由について,証人Aは,歴史的経緯に照らすと,学園設立までは朝鮮総聯が中心となり,教育会が各学校の母体となって自主運営してきた経緯があるから,そのような記載が残ったと思う旨を証言するにとどまる。しかしながら,愛知朝鮮学園が認可されたのは昭和42年であるところ(前提事実(1)イ(イ)),ホームページが開設されたのは,それより相当後であると考えられるから,これが学園設立前の状況を誤って記載したものであるとは到底考え難く,証人Aの証言は信用することができない。したがって,審査開始後にホームページの記載が訂正されたことは,前記(4)ウの合理的疑念を払拭し得るものではない。
ウ 次に,原告らの主張等②については,証人Aが,教育会は日本の学校でいうPTAのような存在であると証言しているが,PTAが何億円にものぼる学校運営費を金融機関から借り入れるとは考え難い上,PTAのような存在であるならば,なぜ朝鮮総聯中央責任副議長が教育会中央理事会に出席して,「指導」を行うのかも不可解である(前記(4)イ(ウ)a)。以上の事実に照らすと,愛知朝鮮学園の運営は理事会によって行われているとの同学園の回答(認定事実(4)イ)のみをもって,合理的疑念を払拭することは困難であるといわざるを得ない。
なお,原告らは,審査会において事務局が配布した資料に,教育会が学校運営を支配しているという事実は確認されなかったとの記載がある点を指摘するが(認定事実(4)オ(ウ)a),同資料を精査しても,教育会による支配の不存在を認定できるような資料が収集されていたことはうかがわれず,各朝鮮高校から教育会による支配を否定する回答が得られたという以上に,審査会が教育会による支配の不存在を積極的に認定したとは認められない(そもそも資料は事務局が議論の便宜のために作成したものであって,審査会の意見そのものではない。)。よって,配布資料における上記記載は,前記判断を覆すものではない。
エ 原告らの主張等③については,前記(4)イ(エ)aの認定事実に照らし,朝鮮高校の教科書が教員によって自主編纂されていると認めることは困難である。平成24年以降に編纂者が「学友書房 教科書編纂委員会」となった後も,総聯中央の指導の下に教科書編纂が行われていることは,朝鮮総聯の機関誌である「朝鮮新報」の記事から認められる(なお,原告らは,自ら発行したわけではない「朝鮮新報」の記載をもって不利益事実と認めることは許されないと主張するが,愛知朝鮮高校は,「朝鮮新報」を3年生の社会の副教材として使用しているのであるから(甲全4の6,5の6),同高校においても,「朝鮮新報」は信用すべき資料として位置付けられているものと解される。)。
オ 続いて原告らの主張等④のうち,まず,高校外の朝青活動が在日同胞青年の親睦団体にすぎないかのような証人Aの証言は,朝青の機関誌(乙182)において,朝青の課業の筆頭項目が「青年同盟を金日成-金正日主義化」することとされていること(「金日成-金正日主義化」とは,金日成主席と金正日総書記の思想を指針として運動を推進することを意味する。)からして,採用し難い。
また,高校外の朝青活動と高校の朝青活動に関連性がないとの証人Aの証言は,朝青規約が,高校内の朝青(朝青朝高委員会)を朝青の一部として規定していることと整合しない(前記(4)イ(エ)c⒝)。なお,朝青規約に関して,東京朝鮮学園は,古いものであって実態とかけ離れている旨説明したことが認められるが(乙72),規約が改訂されずに有効なものとして存続していること自体,合理的疑念を生じさせるものといわざるを得ず,東京朝鮮学園の上記説明を踏まえても,高校外と高校の朝青活動が無関係であるとの証人Aの証言は直ちに信用することができない。
さらに,高校における朝青活動について朝鮮総聯からの指示はないとの証人Aの証言についても,朝青規約の内容や,公安調査庁が,朝鮮総聯は生徒を朝青に所属させて思想教育を行っているとの見解を明らかにしていること(前記(4)イ(エ)c)に照らせば,合理的疑念を払拭するものではない。この点について,原告らは,公安調査庁の見解は教育行政上の専門機関でない機関による意見にすぎないし,その調査内容は信用性が低いと主張するが,合理的疑いを基礎付ける根拠が教育行政上の専門機関の意見に限られる理由は見当たらない。また,文部科学大臣が,設置目的に応じた調査権限を付与されている国家機関の見解を信用性の高いものと評価することが不合理であるとはいえないから,原告らの上記主張は採用できない。
カ 原告らの主張等⑤についても,朝鮮総聯の幹部が教職同等の集会で指導を行ったとの「朝鮮新報」の記事があること(前記(4)イ(エ)d),公安調査庁が,朝鮮総聯は教職同を通じて思想教育を行っているとの見解を明らかにしていること(前記(4)イ(エ)c(a))からして,朝鮮総聯からの指示や指導がないとの証人Aの証言は採用することができない。
キ 次に,原告らの主張等⑥について検討する。
(ア) まず,私立各種学校については,自主性が尊重され(教育基本法8条),政治教育の禁止を定める教育基本法14条2項は適用されず,授業等について法令違反等の事実がある場合に都道府県知事等が変更命令を行うことができる旨規定した学校教育法14条も適用されない(私立学校法5条,64条1項)。また,検討会議報告においては,各教科等における個々の具体的教育の内容は指定基準としないとの見解が示されている(認定事実(2)イ(ア)b)。したがって,本件規程が,各教科等における個々の具体的な教育内容自体を支給対象校の指定要件としているとは解し得ず,朝鮮高校で使用されている教科書に,例えば,大韓航空機爆破事件に関して日本政府の見解と異なる見解が記載されていたとしても,それ自体を理由として不指定処分をすることができないことは,原告らが主張するとおりである。
(イ) しかしながら,教育基本法に基づく学校運営が適正に行われていることは指定要件の一つであるところ,前記(4)アのとおり,教育基本法16条は,国民全体の意思とはいえないような一部の社会的勢力が教育に不当に介入することを排除し,教育の中立性・不偏不党性を求めているのであるから,このような「不当な支配」の有無を判断するに当たって,教育内容が一切判断材料にならないとは考えられない。むしろ,教育内容に過度の偏りがある場合には,一部の社会的勢力の不当な介入により,教育が本来の目的に従って行われることがゆがめられているのではないかとの疑念を生じさせるのであるから,教育内容は,「不当な支配」の有無を判断に当たっての指標の一つとなるというべきである。
(ウ) これに対し,原告らは,私立各種学校においては自主性と学問の自由が尊重されるべきであり,特に外国人学校の教育内容に対する日本の公権力の介入は抑制的であるべきであると主張する。確かに,「不当な支配」の判断に当たって,行政の過度の介入を許せば,それは逆に教育行政による私立各種学校への「不当な支配」に結びつきかねないから,上記判断は慎重に行われるべきである。
しかしながら,授業内容を批判する能力が未だ十分ではない後期中等教育の段階にある生徒に一方的な観念を植え付けるような教育を施すことは,教育本来の目的にそぐわないものであるし,私立学校も公の性質を有し,その教育は国民全体のために行われるという性格を有するのであるから(教育基本法8条),原告らが主張する私立各種学校の自主性や学問の自由も,無制約に保障されるわけではない。
また,朝鮮高校において民族教育が行われていることが,原告ら生徒の民族的アイデンティティ確立に極めて重要であることは十分首肯し得るが(詳細は後記9のとおり。),「不当な支配」の有無の判断で問題となるのは,前記のとおり,一部の社会的勢力の不当な介入により,教育が本来の目的に従って行われることがゆがめられていないかという点のみであるから,これを問うことが,朝鮮高校における民族教育(朝鮮語・朝鮮文化等の継承)の実施を制約したり,その価値を否定したり,被告による同化教育の強要につながるとは考えられない。
そして,検討会議報告で,各教科等における個々の具体的教育の内容は指定基準としないとの見解が示されたのは前記のとおりであるが,検討会でも,「全体は見た上で個別の指導内容までは踏み込まないということ」「教育課程の編成・主題は見るのだが,個々の内容にまでは踏み込まない」との意見が出されていたのであるから(認定事実(2)ア),上記のように教育内容の全体的な方針・傾向について見ることは,検討会議報告に反するものではない。
(エ) したがって,「不当な支配」の有無を判断するに当たり,教育内容を見ることは支給法及び本件規程に違反するものではなく,原告らの主張等⑥を採用することはできない。
ク 続いて,原告らの主張等⑦について検討する。
(ア) まず,朝鮮高校で使用している教科書の中に,日本の学習指導要領を参考にして教科書が編纂されているものも含まれることは,前記(4)イ(エ)bのとおりであり,全科目の全内容において,北朝鮮の最高指導者を絶対視し,これを賛美・礼賛する教育が行われているわけではないことは,原告らの主張するとおりである。また,朝鮮高校における教育水準が決して低くないことは,朝鮮高校の卒業生の多くが,様々な国立・公立・私立大学に入学していること(甲全4の1,5の1,147)から認められる。さらに,証拠(甲全88,146,乙105)によれば,朝鮮高校に通う生徒や父兄の全てが,朝鮮高校と朝鮮総聯の強いつながりを是としているわけではなく,その多くは,在日朝鮮人同胞とともに朝鮮語を含む民族教育を受けられるという点を重視して朝鮮高校を進学先として選択していることもうかがわれる。
しかしながら,朝鮮総聯による指導の下,愛知朝鮮高校の一部の科目や課外活動において,北朝鮮の最高指導者を絶対的なものとして崇拝する教育が行われているとの合理的疑念があることは前記(4)のとおりであり,かつ,「朝鮮新報」の記事等によれば,朝鮮総聯はこのような教育方針を朝鮮学校における教育の最も重要な要素の一つとして教育現場に徹底しようとしている様子がうかがわれるのであるから,この教育内容が全教科の全内容に及んでいないからといって,「不当な支配」がないとはいえない。
また,朝鮮高校の教育水準が決して低くないことや,生徒や父兄の多くが,在日朝鮮人同胞と民族教育が受けられる点に着目して朝鮮高校を進学先として選択していることは,朝鮮総聯が朝鮮高校に対して「不当な支配」を及ぼしている疑いがあることと特に矛盾するものではない。むしろ,朝鮮高校が,一般的な後期中等教育や思想的要素のない民族教育を行う機関としての側面と,朝鮮総聯からの「不当な支配」を疑われる機関としての側面の両方の側面を有していることこそが,本件の問題の難しさの要因の一つであり,前者の側面の価値を尊重すべきことと,後者の側面が本件規程13条に抵触することは,別個の問題として考えざるを得ない(前者の側面の価値を尊重すべきであるから,後者の側面の問題性を問わないという解釈は,支給法,本件省令及び本件規程の規定上採り得ない。)。
(イ) さらに,原告らは,生徒に多様な視点を持たせるように教師も工夫をしており,教育現場の自主性は損なわれていないとも主張するが,既に認定したとおり,朝鮮総聯は様々なチャネルを利用して教育内容に関する指導を繰り返し行っているのであり,その態様及び内容は,教育現場の自主性を奪っているのではないかとの合理的疑念を優に生じさせるものである。そして,前提となる教科書や朝鮮総聯の方針による教育内容に,北朝鮮の最高指導者を絶対的なものとして賛美・礼賛することが根幹的内容として含まれている中で,各教師の工夫でその影響を排除できているとは直ちに考え難く,それを認定するに足りる証拠もない。原告らの上記主張は合理的疑念を払拭するものとはいえない。
(ウ) 以上によれば,原告らの主張等⑦も,朝鮮総聯から愛知朝鮮高校に対して「不当な支配」が及んでいるとの合理的疑念を払拭し得るものではない。
ケ 最後に,原告らの主張等⑧について検討するに,確かに,愛知朝鮮高校について朝鮮総聯からの「不当な支配」が疑われることは,何ら,原告ら生徒の責に帰すべき事由ではない。しかしながら,前記2のとおり,支給法,本件省令及び本件規程が,学校運営が適正に行われているか否かにかかわらず,後期中等教育段階にある生徒全員を就学支援金の受給権者とするとの立法政策を採っていない以上,原告ら生徒に帰責性がないことは前記判断を左右しないといわざるを得ない。
(6) 小括
以上によれば,前記(4)の合理的疑念は,愛知朝鮮高校が本件規程13条の要件に適合しているとの前記(3)の事実上の推認を覆すに足りるものであり,前記(5)の原告らの主張等を踏まえても,愛知朝鮮高校の学校運営については,教育基本法16条1項に違反していると合理的に疑うべき事情があったと認められる。したがって,本件規程13条に適合すると認めるに至らないとした文部科学大臣の認定判断に不合理な点があったとはいえず,その裁量が比較的狭いことを考慮しても,裁量権を逸脱・濫用した違法があるとは認められない(なお,本件規程13条に適合すると認めるに至らないと判断したことについて,他事考慮を理由とした違法性を認めることができない点は,後記5のとおりである。)。
5 本件不指定処分は,政治外交上の理由に基づいて行われたもの(他事考慮)として違法か(争点(1)ア(イ))
(1) 原告らの主張の要旨
原告らは,本件不指定処分は拉致問題が進展しないことなどの政治外交上の理由に基づくものであるところ,このような事項は,本件不指定処分に当たって考慮すべき事項ではないから,これを考慮して支給対象校としての指定をしなかった本件不指定処分は違法であると主張する。
(2) 拉致問題についての考慮の有無と本件不指定処分への影響
ア そこで検討するに,①下村文部科学大臣は,平成24年12月28日の閣僚懇談会及び記者会見において,朝鮮高校を不指定とする理由について,朝鮮高校と朝鮮総聯との関係以外に,「拉致問題の進展がないこと」も挙げていたこと(認定事実(5)ウ),②政権交代前にも,自民党及び下村議員は,朝鮮高校を支給法の対象とすることに反対し,その理由の一つに拉致問題を挙げていたこと(認定事実(1)ウ,(3)ウ),③文部科学省も,本件省令ハの削除に当たり行った意見公募手続において示した同省の考え方の中で,拉致問題を理由の一つに挙げていたこと(認定事実(5)エ),④平成25年4月30日に開かれた国連・社会権規約委員会における審査においても,文部科学省は,朝鮮高校を対象外とした理由は,朝鮮総聯と密接な関係にあって本件規程13条に適合するとの確証が得られないことと,拉致問題に進展がないことを踏まえ国民の理解が得られないことの2点にあると述べていること(甲98)に照らすと,下村文部科学大臣が本件不指定処分をした背景には,朝鮮高校と朝鮮総聯の関係から本件規程13条適合性を認めるに至らなかったという理由だけではなく,朝鮮高校を支給対象校とすることが拉致問題との関係で相当ではないとの考えもあったと認めるのが相当である。そして,拉致問題は,愛知朝鮮高校を支給対象校とすべきか否かの指定要件と無関係の事項であるから,これが不指定の理由とならないことは原告らの主張のとおりである。
イ しかしながら,愛知朝鮮高校が,本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったことが本件不指定処分の理由であったこと自体は,下村文部科学大臣の平成24年12月28日の前記発言等からも処分理由通知書からも明らかであり(前提事実(4)イ),この判断が違法といえないことは前記4のとおりである。そして,本件申請が指定要件に適合しなかった以上,文部科学大臣としてはいずれにせよ不指定処分をせざるを得ないのであるから(前記4(2)のとおり,支給法,本件省令及び本件規程上,指定要件に適合しないのに指定処分を行う裁量は文部科学大臣に認められていない。),これに付加して下村文部科学大臣が拉致問題との関係でも指定は相当でないとの考えを有していたとしても,それにより不指定処分が違法になるとはいえない。
(3) 原告らの主張の検討
これに対し,原告らは,本件不指定処分に当たり,下村文部科学大臣が政治外交上の理由を考慮したことのみをもって,本件不指定処分が違法になると主張する。
しかしながら,一般に,行政庁が裁量に基づき行政処分を行う場合において,考慮すべき事情を考慮しなかったり,考慮すべきでない事項を考慮したりすることが直ちに裁量権の逸脱・濫用になるわけではなく,これが違法となると評価されるためには,その結果,例えば処分内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものになるなど,当該行政処分の結論に影響を与えたと認められることが必要である(最高裁平成16年(行ヒ)第114号同18年11月2日第一小法廷判決・民集60巻9号3249頁参照)。しかるに,本件においては,愛知朝鮮高校は本件規程に基づく指定要件を満たさなかったのであるから,いずれにしても不指定処分がされたと認められる。したがって,下村文部科学大臣が拉致問題との関係でも朝鮮高校を支給対象校とするのが不相当であるとの考えを有していたとしても,それによって処分の結論が左右されたと認められない以上,本件不指定処分の違法性が基礎付けられるとはいえない。
原告らの上記主張は採用することができない。
6 本件不指定処分は,本件規程15条に違反するものとして,あるいは,審査会の審査過程を考慮することなく行ったものとして違法か(争点(1)ア(ウ))
(1) 本件規程15条違反の有無
原告らは,下村文部科学大臣が審査会の取りまとめた最終意見を聴かずに本件不指定処分を行ったことが違法であると主張する。
しかしながら,支給法及び本件省令において,本件省令ハによる指定に当たって第三者の意見を聴かなければならない旨の規定は設けられていないところ,本件規程15条においても,審査会の意見を「聴くものとする」旨が規定されているにすぎず,審査会等の議を経ることが義務付けられていると解すべき法令用語は使用されていないのであるから,審査会の議を経ることが法令上の義務であるとまでは認められない。そして,本件規程の制定に際しても,最終的な指定の判断は文部科学大臣の権限と責任において行われることが前提とされており(認定事実(2)イ(ウ),審査会の意見は文部科学大臣の判断の参考に供されるにすぎない性質のものとして位置付けられているのであるから,文部科学大臣の判断に先立ち,審査会の取りまとめた最終意見が聴取されなかったとしても,そのことをもって,本件不指定処分が,本件規程15条に違反するものとして手続上の瑕疵を帯びるとは解し得ない。
したがって,本件不指定処分に,本件規程15条に違反した違法があるとは認められない。
(2) 審査会の意見を考慮していない違法の有無
次に,原告らは,審査会は朝鮮高校を支給対象校に指定することを前提として審議を進めていたにもかかわらず,下村文部科学大臣は,審査会の従前の議論内容を踏まえずに本件不指定処分に及んだものであるから,同処分は違法であるとも主張する。
しかしながら,認定事実(4)によれば,事務局が審査会における議論の便宜のために作成・配布した資料には,朝鮮高校を支給対象校とすることについて前向きな記載も見られるものの,資料は審査会の意見そのものではない上,委員からは,慎重な意見も多く出されており,最後の審査会となった第7回においては,結論を取りまとめることが困難ではないかという趣旨の意見も出されていたのであるから(認定事実(4)キ),審査会が朝鮮高校を支給対象校に指定することを前提とする議論をしていたとは認められない。本件不指定処分当時,文部科学省大臣官房長であった前川喜平は,陳述書(甲全180)において,審査会においては,朝鮮高校を就学支援金の対象として指定することを前提に議論が進んでいたとの陳述をしているが,反対尋問を経ていない陳述である上,審査会の議事要旨の記載と齟齬する部分もあるから,上記認定を左右するものとはいえない。
したがって,本件不指定処分は,当時の審査会の審査状況に反するものではなく,審査会の意見を考慮しなかった違法があるとは認められない。
7 本件不指定処分は,本件規程6条の要件に適合しないとの誤った判断を理由として行われたものとして,あるいは同条の要件に関する事実確認・補正義務を怠って行われたものとして違法か(争点(1)ア(エ))
(1) 本件不指定処分の実体的違法
まず,原告らは,客観的には,愛知朝鮮高校の平成24年度の教員数は本件規程6条に定める必要教員数を満たしていたと主張するが,前提事実(4)イによれば,本件不指定処分は,本件規程6条の要件不適合のみならず,本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったことも理由として行われたものである。そして,前記4及び5で認定説示したところによれば,愛知朝鮮高校について本件規程13条に適合すると認めるに至らないとした文部科学大臣の認定判断に裁量権の逸脱・濫用があるとは認められないから,本件規程6条の要件適合性にかかわらず,愛知朝鮮高校に対する本件不指定処分は実体的には適法である(なお,本件不指定処分が憲法や国際条約に違反しないことは,後記9のとおりである。)。
したがって,仮に,愛知朝鮮高校の平成24年度の教員数が本件規程6条に定める必要教員数を満たしていたとしても,そのことは,本件不指定処分の実体的違法を導くものではない。
(2) 本件不指定処分の手続的違法
次に,原告らは,文部科学大臣には本件規程6条の要件に関する事実確認・補正義務に違反した違法があると主張するところ,これが本件不指定処分の実体的違法を基礎付けるものではないことは前記(1)と同様である。ただし,原告らの主張は,本件不指定処分の手続的違法を主張する趣旨とも解し得るので,念のため検討する。
ア まず,許認可等を求める申請において,自らが許認可等の要件を満たす旨を申請書類に正しく記載すべき責任は,申請者にあるというべきである。行政庁が,申請者に対し,申請された書類に誤記載がないかどうかを確認する義務を一般的に負っていると解すべき法令上の根拠は存在しないし,支給法,本件省令及び本件規程上も,そのような義務を根拠付ける規定は存在しない。実質的に考えても,通常,許認可等に係る処分要件に関する事実は,申請者が最もよく認識し,かつ,容易に把握し得る事実であるのに対し,行政庁が一般的に知り得る事実ではないのであるから,申請者に正確な記載をすべき責任を負わせても不合理ではない。
イ また,本件における具体的な事実関係を前提としても,愛知朝鮮高校は,申請書(乙21)の各学年の「定員250」との記載について,支援室から,「学則上の定員のみならず募集定員についても教えていただきたい。」との問い合わせを受けたにもかかわらず,「学則上の定員と募集定員は同じである。」との回答をしたのであるから(甲全57の14,乙22,23),これ以上に,文部科学省において,募集定員は250名ではないのではないかとの確認をすべき信義則上の義務があったとは解し得ない。
さらに,愛知朝鮮高校の教員数についてみても,支援室は,愛知朝鮮学園の作成した「教職員編制表」や「教員の略歴を記載した書類」に不整合があったことから,平成24年10月13日と同月22日の二度にわたり,その記載方法を説明した上で補正を指示し(甲全57の14,57の17,乙22),その結果として,教員数が15名である旨の回答が得られたため,これを前提とした審査を行ったものであって,申請内容自体が明確になり,書類の記載上の不整合もなくなっている以上,更に申請内容の真偽を確認する信義則上の義務を負うとは考えられない。なお,この間に,支援室が愛知朝鮮高校に対して,不明確で不正確な誤った補正指示をした事実も認められない。
ウ これに対し,原告らは,①本件においては,教育内容等,本来考慮すべきでない事項についても繰り返し審査が行われ,技術的な部分についても補正指示などがされていたのであるから,客観的に定まる要件に関し,書類上の不備は存在しないという期待が愛知朝鮮学園に生じていた上,②朝鮮高校の生徒を就学支援金の受給権者として予算措置が講じられたことや,③文部科学省の担当者が愛知朝鮮高校を来訪した際に早晩支給対象校に指定される旨の発言をしたことによって,支給対象校に指定されるとの期待が愛知朝鮮学園に生じていたから,被告は,信義則上,事実確認・補正義務を負うと主張する。
しかしながら,原告らの主張①については,支援室による愛知朝鮮高校に対する数次の照会・補正指示等は,申請に際して提出された書類上,不明確な点や不整合な点に関する補正を指示したり,申請書類の不足部分の追加や記載の更新を依頼したり,本件規程13条適合性判断のために必要な追加調査を行ったりするものにすぎないのであって(甲57の4ないし57の11,57の13ないし19),これらの補正指示が,申請者である愛知朝鮮学園に対して,法的保護に値する合理的期待を抱かせるものであったとは認められない。また,原告らの主張②については,予算の積算に含められたことは支給対象校になることを直ちに意味しない旨の国会答弁がされているし(認定事実(1)イ(ア)),原告らの主張③は,これを認めるに足りる証拠がないから,いずれも愛知朝鮮学園に保護すべき合理的期待が生じていたことを基礎付けるものではない。
エ したがって,文部科学大臣が,本件規程6条不適合を理由に本件不指定処分を行うに先立ち,愛知朝鮮学園に対して事実確認・補正義務を行う義務を負うとはいえず,本件不指定処分が手続的に違法であるとは認められない。
(3) 小括
以上によれば,文部科学大臣が本件規程6条不適合を理由に本件不指定処分を行ったことについて,違法性は認められない。
8 本件不指定処分は行政手続法8条に違反するものとして違法か。仮に行政手続法8条に違反すると判断される場合,本件不指定処分は原告らとの関係で国家賠償法上違法となるか。原告らに損害があるか(争点(1)イ,(5),(6))
(1) 原告らの主張の要旨
原告らは,本件不指定処分に際して示された理由提示は,行政手続法8条に違反するものであるから,本件不指定処分は違法であると主張する。
(2) 行政手続法8条1項本文の趣旨・内容
そこで検討するに,行政手続法8条1項本文が,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合に,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならないとしているのは,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を申請者に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして,同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは,上記のような同項本文の趣旨に照らし,当該処分の根拠法令の規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分の性質及び内容,当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである(最高裁平成21年(行ヒ)第91号同23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)。
(3) 本件不指定処分への当てはめ
以上の見地から,本件について検討すると,愛知朝鮮学園に対する不指定通知書には,不指定処分の理由として「(本件)規程第13条に適合すると認めるに至らなかったこと」が記載されているが,本件規程13条適合性に当たって問題となる「法令」には複数の教育関連法が含まれる上,法令違反の具体的内容も様々なものがあり得るのであるから,単に要件適合性が認められない条項が本件規程13条であることを指摘するのみでは,いかなる事実関係に基づき,いかなる法令違反の疑いを認定して本件不指定処分がされたのかを了知することは困難である。
そして,認定事実(4)によれば,愛知朝鮮学園は,審査会の審査経過や支援室からの確認内容を通じ,朝鮮高校と朝鮮総聯の関係が教育基本法16条1項の「不当な支配」に当たる可能性があるとの疑念を抱かれていることを認識し得たと認められるが,理由提示の趣旨が,処分の相手方の不服申立てに便宜を与えることだけでなく,処分自体の慎重と公正妥当を担保することにもあることからすれば,不指定処分の理由は通知書の記載自体において明らかにされていることを要し, 相手方の知,不知にはかかわりがないというべきである(最高裁昭和45年(行ツ)第36号同49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3号405頁参照)。よって,愛知朝鮮学園が,通知書の記載以外から本件不指定処分の理由を認識し得たことは,上記認定判断を覆すものではない。
したがって,本件不指定処分の理由のうち,本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったとする部分については,行政手続法8条1項本文の要求する理由提示として十分でないといわざるを得ない。
(4) 原告らによる国家賠償請求の可否
もっとも,本件不指定処分について行政手続法8条1項本文違反が認められるとしても,そのことをもって,原告らが被告に対して,国家賠償法に基づいて慰謝料請求をなし得るか否かは別途検討する必要がある。
すなわち,行政手続法8条1項本文違反は行政処分の違法性を基礎付けるものの,本件不指定処分が実体的に適法であることは前記4及び5のとおりであるから(憲法や国際条約との関係は後記9のとおり。),理由提示が不十分であることによる瑕疵は手続的瑕疵にとどまる。そして,手続的瑕疵は,処分の取消理由にはなるものの,当該行政処分が取り消され,適法な手続で行政処分が再度されることによって,手続瑕疵によって侵害された申請者の手続的利益は回復するのが通常である。しかも,本件における理由提示の違法性は,本件申請の申請者である愛知朝鮮学園との関係における手続上の瑕疵であり,原告らは本件申請の申請者ではない。さらに,本件不指定処分の理由は通知書自体から明らかでないことから,行政手続法8条1項本文の要請を満たさないが,愛知朝鮮学園(及び原告ら)が,本件不指定処分の理由となる事実及び根拠法令(朝鮮高校が朝鮮総聯と密接な関係にあり,教育内容,人事,財政にその影響が及んでいることから,教育基本法16条1項の「不当な支配」が疑われるものとして,本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったこと)を認識し得たことは前記(3)のとおりであり,訴訟提起に当たって,原告らに特別な支障があったとも認められない。
以上によれば,本件不指定処分の理由提示が不十分であったことにより,原告らの法的保護に値する権利利益が侵害されたとまでは認められず,国家賠償請求は認められない。
9 本件不指定処分は憲法又は国際条約に違反するものとして違憲違法か(争点(4))
(1) 本件不指定処分が,原告らの人格権(民族的アイデンティティの確立),教育を受ける権利(学習権)ないし民族教育を受ける権利を侵害するものとして,憲法26条,13条,98条2項,社会権規約(2条1項及び13条)等に違反するか。
ア 憲法26条,13条違反について
(ア) 憲法13条は,個人の尊厳と人格の尊重を宣言する規定であるところ(最高裁昭和22年(れ)第201号同23年3月24日大法廷判決・集刑1号535頁参照),自身の民族の歴史に触れ,民族の文化を享有し,あるいは自民族の言語を使用することは,当該民族に属する者としての自覚と誇りを醸成して自己のアイデンティティを確立するという意味で,個人の人格的生存にとって必要不可欠なことといい得るものであるから,このような機会を妨害されない権利は,憲法13条の趣旨に照らしても十分に尊重されるべきものであるといえる。
また,憲法26条は,福祉国家の理念に基づき,国が積極的に教育に関する諸施設を設けて国民の利用に供する責務を負うことを明らかにするとともに,子どもに対する基礎的教育である普通教育の絶対的必要性にかんがみ,親に対し,その子女に普通教育を受けさせる義務を課し,かつ,その費用を国において負担すべきことを宣言したものであるところ,この規定の背後には,国民各自が,一個の人間として,また,一市民として,成長,発達し,自己の人格を完成,実現するために必要な学習をする固有の権利を有すること,特に,みずから学習することのできない子どもは,その学習要求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有するとの観念が存在している(最高裁昭和51年判決参照)。そして,自己の民族の歴史・文化を享有することが自己の人格を完成,実現するために必要不可欠であることは上記のとおりであるから,自身の所属する民族の歴史,文化を学び,母国語に触れる教育を受ける機会を妨害されない利益は,憲法26条1項の趣旨に照らしても,尊重に値するものであるといえる。
(イ) 以上を前提に,本件不指定処分が上記利益を侵害するものとして,憲法13条・26条に違反して違憲であるかについて検討するに,在日朝鮮人である原告らにとって,同胞が共に学ぶ朝鮮高校において民族教育を受け,自己の民族的アイデンティティを確立することが,その人格形成に当たって極めて重要なものであることは十分首肯し得る。また,朝鮮高校が不指定処分を受けた場合には,同校を進学先として希望していた生徒も,就学支援金を受けるために,朝鮮高校以外の支給対象校への進学を検討せざるを得ない事態となり得るから,本件不指定処分が学校選択の自由に間接的に影響を与える側面を有することも否定できない。そして,朝鮮語を公式言語とする学校が朝鮮高校以外に存在しないとすれば,朝鮮高校が不指定処分を受けた場合に,これに代替する学校が見つけることが困難であることも理解できる。
しかしながら,本件不指定処分の法的効果は,愛知朝鮮高校で学ぶ生徒に年額11万8800円の就学支援金の受給資格が認められないというものにとどまり,愛知朝鮮高校において民族教育を行う自由を法的に規制する効果を伴うものでも,原告らが愛知朝鮮高校にて学ぶ自由を法的に規制する効果を伴うものでもない。また,就学支援が国民の租税負担の下に行われるものであることに鑑みれば,法令に基づく学校運営が適正に行われていない疑いのある学校における就学を,公費による支援対象とすることができないという本件不指定処分の理由は合理的であり,朝鮮高校が朝鮮総聯から「不当な支配」を受けているのではないかとの疑念の存在が,何ら朝鮮高校に通う生徒の責めに帰すべき事由ではないことを考慮しても,本件不指定処分はやむを得ないものと考えられる。そして,本件不指定処分が民族教育を受ける自由(学校選択の自由)に与える影響が,間接的で事実上のものにとどまることに照らせば,本件不指定処分が,憲法13条,26条に違反すると認めることは困難である。また,上記に述べたところによれば,憲法26条等を根拠に本件規程13条を合憲限定解釈すべきであるとも解し得ない。
イ 社会権規約違反等について
また,原告らは,本件不指定処分が国際条約に違反するとも主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。
(ア) 原告は,本件不指定処分が社会権規約13条2項⒝に違反すると主張するが,同条項は,締約国に対して中等教育における無償化の漸進的導入を求めるにとどまり,支給対象校を支給法2条1項に掲げる学校と限定したことが前記条項に違反するとは解し得ないから,指定要件に適合すると認めるに至らなかった愛知朝鮮高校を支給対象校としないことが,社会権規約13条2項⒝に違反するとは解し得ない。
なお,原告らは,被告には民族的マイノリティの子ども達の教育の権利を保障するため教育事業に対して積極的な条件整備を行う義務があるとも主張するが,就学支援金制度は,公費を用いて教育助成を実施するものであり,就学支援金を支給する具体的立法を策定するに当たっては,国の財政事情等の多方面にわたる政策的判断を必要とし,支給法において支給対象校をどのように画するかは立法府の広範な裁量に委ねられているから,就学支援に当たって民族教育を実施している学校に特別な配慮を行っていないことが憲法,国際条約に違反するとは解し得ない。
(イ) また,原告らは,本件不指定処分が社会権規約2条1項に違反すると主張するが,朝鮮高校は,支給法の制定により直ちに支給対象校となったものではないから,朝鮮高校に対する不指定処分が,社会権規約2条1項が禁ずる後退措置に当たるとは認められない。
(ウ) さらに,原告は,被告が社会権規約委員会の勧告に従わないことが社会権規約及び憲法98条2項に違反するとも主張するが,社会権規約上,締約国が社会権規約委員会の勧告に従う法的義務を負っているとはいえないから(原告らが指摘する社会権規約16条,17条は,締約国に対して,社会権規約委員会の勧告に従う法的義務を負わせるものではない。),被告において,社会権規約委員会の勧告に沿う対応を行わなかったことが,社会権規約,憲法98条2項違反に当たるとは認められない。
(エ) 以上と同様の理由により,本件不指定処分が子どもの権利条約30条や自由権規約27条に違反するとも認められない。
ウ 小括
したがって,本件不指定処分が,原告らの人格権(民族的アイデンティティの確立),教育を受ける権利(学習権)ないし民族教育を受ける権利を侵害し,憲法又は国際条約に違反するとは認められない。
(2) 本件不指定処分は,憲法14条1項,社会権規約(2条2項及び13条),人種差別撤廃条約違反等(差別的取扱いの禁止)に違反するものとして違憲違法か
ア 憲法14条1項は,法の下の平等を定めているが,この規定は合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって,各人に存する経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは,その区別が合理性を有する限り,何らこの規定に違反するものではない(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁平成10年(オ)第2190号同14年11月22日第二小法廷判決・集民208号495頁参照)。しかして,前記4の認定判断のとおり,本件不指定処分は,愛知朝鮮高校について本件規程13条の要件に適合すると認めるに至らなかったこと,すなわち,朝鮮総聯が愛知朝鮮高校に対して不当な支配を行っているとの合理的疑いが存在することを理由としてなされたものであり,合理的な理由に基づくものであるから,憲法14条1項に違反するとは認められない。同様の理由により,社会権規約(2条2項及び13条),自由権規約26条,子どもの権利条約28条に違反するとも認められない。
イ これに対し,原告らは,①国家の活動が差別感情に基づく場合や,②特定の類型に対する差別感情に基づく行為を援助・助長する結果をもたらす場合には,憲法14条1項後段が禁止する「差別」に当たり,人種差別撤廃条約等にも違反するところ,本件不指定処分は上記①,②の場合に当たると主張する。しかしながら,本件不指定処分の理由は既に述べたとおりであって,これが差別感情に基づくものであるとは認められないし,本件不指定処分が,差別感情に基づく行為を援助・助長させる効果を生じさせたと認めるに足りる証拠もない(各地方公共団体が本件不指定処分を受けて朝鮮学校に対する補助金支給を見直す動きに出たこと等が,朝鮮学校生に対する差別感情に基づく行為であることを裏付けるに足りる証拠はない。)。したがって,本件不指定処分が,人種差別撤廃条約に違反するとも認められない。
また,原告らは,被告において国際連合人種差別撤廃委員会の勧告を無視し,愛知朝鮮高校が支給対象校となるための措置を採らなかったことが,人種差別撤廃条約,憲法98条2項に違反すると主張するが,同委員会の勧告が締約国に対して何らかの法的拘束力を有するとは解し難いから,同委員会の勧告に従わないことによって,人種差別撤廃条約に違反するとも,憲法98条2項に違反するとも認められない。したがって,この点に関する原告らの主張も採用することができない。
(3) 小括
以上によれば,本件不指定処分が憲法及び国際条約に違反するとは認められない。
10 本件不指定処分に関する小括
以上述べたところによれば,文部科学大臣が愛知朝鮮高校に対して本件不指定処分を行ったことが違憲違法であるとはいえない。
11 本件審査の長期化は,政治外交上の理由に基づいて行われたもの(他事考慮)として,あるいは,行政手続法6条,7条に違反するものとして違法か。また,憲法又は国際条約に違反するものとして違憲違法か(争点(3),(4))
(1) 審査停止(不開始)は政治外交上の理由に基づくものとして違法か
ア 原告らは,高木文部科学大臣が,延坪島事件発生により,菅内閣総理大臣の指示に基づいて朝鮮高校に関する本件省令ハに基づく審査手続を停止させたことは,政治外交上の理由によるものであり,行政手続法6条,7条に違反するから違法であると主張する。
イ しかしながら,認定事実(3)イ及びウによれば,北朝鮮による延坪島への砲撃は,我が国を含む北東アジア地域全体の平和と安全を損なうものであり,このような異常事態の中,本来静謐な環境の下で議論を行うべき審査会の審査が正常に行われるのかについては懸念があったことから,政府は,指定に係る審査手続を一時停止したものと認められる。以上によれば,審査停止のきっかけは延坪島事件であるが,審査停止の理由が,北朝鮮への報復等の政治外交上の理由によるものであるとは認められず,合理的理由なく審査を遅滞させたものでもないから,行政手続法6条,7条に違反するとは解し得ない。
なお,高木文部科学大臣は,平成23年1月5日,記者会見において,菅内閣総理大臣が審査停止を指示した理由について,「(北朝鮮に対して)自制を促す意味において,総理の判断であったと,私はそのように思っております。」と述べたことが認められるが(甲全14),その発言内容から明らかなとおり,これは同大臣の推測に基づく発言にすぎない上,このような見解が政府から公式見解として述べられたことはないのであるから,高木文部科学大臣の上記発言をもって,審査停止が北朝鮮への制裁目的であったと認めることはできない。
ウ これに対し,原告らは,仮に審査の公正性担保が目的であったとしても,審査会を構成する委員や審査会自体は非公開とされており,審査停止せずとも,審査の公正性は確保できた等と主張する。
しかしながら,委員や審査会自体が非公開であっても,北朝鮮が延坪島に砲撃を行ったという異常事態の中で,委員が報道や世論に影響を受けることなく冷静な議論をなし得るか懸念があったとの判断が不合理であるとはいえない。菅内閣総理大臣が,延坪島事件以降の情勢を踏まえて,客観的かつ公正な審査を行う環境が確保されるに至ったと判断し,平成23年8月29日に指定に係る審査手続の再開を命じたことについても不合理な点があるとは認められず,原告らの主張は採用することができない。
(2) その後の審査に約1年6か月を要したことが違法か
ア 次に,審査開始から本件不指定処分まで約1年6か月を要したことについても,原告らは,教育基本法16条1項が禁ずる「不当な支配」の有無など,審査基準とは関係のない事項の審査を継続したことにより遅延したものであって,行政手続法6条,7条に違反すると主張する。
イ この点,本件省令ハによる指定を受けたホライゾンジャパン及びコリア国際学園の審査期間は,前者が9か月(甲全46),後者が約6か月(甲全6の2,47)であることが認められるから,審査開始後に限っても,朝鮮高校に対する審査が長期にわたっていたことは否定できない。
しかしながら,認定事実(4)によれば,審査開始から約1年6月の期間を要したのは,主に,①朝鮮総聯が朝鮮高校を利用して資金集めをしている等といった報道等がなされたり,公安調査庁や警察庁においても朝鮮学校が北朝鮮又は朝鮮総聯と密接な関係性を有するとの見解を述べたりするなど,朝鮮高校について教育基本法16条1項が禁ずる「不当な支配」を疑わせる根拠が存在したため,更なる調査の必要が生じたこと,②審査会の委員においても,本件規程13条適合性を認めて朝鮮高校を指定するか否かについて意見が割れ,議論が繰り返されていた状況にあったことに起因するものと認められる。
そして,本件規程13条の要件適合性を判断するに当たって,教育基本法16条1項違反の有無を検討する必要があることは前記2のとおりであるから,文部科学省(審査会)において,審査基準と関係のない事項についての調査を行い,正当な理由もないにもかかわらず審査を遅延させたとは認められず,審査に約1年6か月を要したことが,行政手続法6条,7条に違反するとはいえない。
ウ これに対し,原告らは,申請が行われた年度内に支給対象校としての指定がされない場合には,在学する生徒らの就学支援金の受給権が侵害される可能性があることを理由として,愛知朝鮮学園が本件申請を行った平成22年度の末日(平成23年3月31日)までに,本件不指定処分を行うべきであったとも主張する。
しかしながら,支給法,本件省令及び本件規程に,申請を受けた年度内に指定を行わなければならない旨の明文の定めはない。本件規程14条3項が,指定を受けようとする年度の前年度の5月31日までに申請を行わなければならない旨規定しているのは,通常,前年度の5月31日までに申請すれば当該年度の4月1日までに指定が受けられるであろうことを想定した規定であるとはいえるが,同規定は処理期間そのものを定めた規定ではなく,正当な理由のある審査の長期化を違法とする趣旨まで含んでいるとは解し難い。したがって,原告らの上記主張は,前記認定判断を左右するものではない。
(3) 本件審査の長期化が憲法,国際条約に違反するか
また,原告らは,本件申請から本件不指定処分まで,2年3か月余りを要したことは,憲法や国際条約に違反するとも主張するが,既に述べたとおり,本件審査の長期化は,原告らの出自や民族等を理由として行われたものではなく,合理的な理由に基づくものと認められるから,憲法及び国際条約に違反するとは認められない。
(4) 小括
したがって,本件申請から本件不指定処分に至るまで2年3か月余りを要したことが違憲違法であるとはいえない。
12 本件省令ハ削除の違法を理由とした国家賠償請求が認められるか(争点(2),(4),(5),(6))について
(1) 本件省令ハの削除の違法が本件不指定処分に与える影響について
前提事実(4)イのとおり,本件不指定処分は,①本件省令ハの削除,②平成24年度の教員数が本件規程6条に定める必要教員数に満たないこと,③本件規程13条に適合すると認めるに至らなかったことの3点と理由とするものであるところ,このうち,③を理由とする不指定処分が適法であることは既に述べたとおりである。したがって,本件省令ハの削除が仮に違法であったとしても,本件不指定処分の実体的違法を基礎付けることにはならず,この点に関する原告らの主張には理由がない。また,行政手続法5条は審査基準の設定に関する規定であり,省令の改廃を規律するものではないから,本件省令ハを削除したことが,行政手続法5条に違反して,本件不指定処分が手続的に違法となるとの原告らの主張も採用することができない。
(2) 本件省令ハの削除が本件不指定処分とは別個の違法行為を構成するか
ア 次に,原告らは,本件省令ハの削除は,「将来において,就学支援金の支給を得るために申請を行う権利そのものを剥奪された」,あるいは「将来において就学支援金の支給を得る可能性を確定的に剥奪された」という損害を生じるものとして,本件不指定処分とは別個の違法行為を構成するとし,本件省令ハの削除後も愛知朝鮮高校に在学していた原告7番ないし10番は,本件省令ハの削除により,このような将来における権利獲得の可能性を確定的に奪われたと主張する。
イ そこで,本件省令ハの削除が本件不指定処分とは別個の違法行為を構成するかについて検討をするに,まず,支給法2条1項5号は,外国人学校である各種学校が当然に支給対象校となる旨を規定しているものではないから,原告らは,支給法の規定のみをもって,直ちに具体的な権利利益(受給資格や受給権)を付与されているわけではない。原告らは,その在学する愛知朝鮮高校が本件規程14条に基づく申請を行い,文部科学大臣が本件省令ハによる指定を行うことによって初めて支給法4条による受給資格を得ることができるものであり,それ以前に原告らが有する利益は,愛知朝鮮高校の申請が認められれば受給資格が得られるという抽象的な地位(期待権)にとどまる。
以上を前提に考えると,原告7番ないし9番は本件省令ハが削除された後である平成25年度にも,原告10番は平成25年度及び平成26年度にも愛知朝鮮高校に在学していたことが認められるが(前提事実ア),愛知朝鮮高校が平成25年度及び平成26年度に本件規程が定める指定要件(特に本件規程13条)に適合していたと認めるに足りる証拠はないから,本件省令ハが削除され,愛知朝鮮高校が本件規程14条に基づく申請がなし得なかったことにより,原告7番ないし10番について,本来得られるべき就学支援金の受給資格や受給権が侵害されたとは認められない。
次に,受給資格や受給権に至らない抽象的地位(期待権)であっても,当時,申請をすれば就学支援金を得られる相当程度の可能性があった場合には,当該期待権は法的保護に値するものと解する余地がなくはないが,愛知朝鮮高校が,本件不指定処分を受けた平成25年2月20日当時,朝鮮総聯から「不当な支配」を受けているとの合理的疑いを払拭できない状況にあったことは,前記4で認定説示したとおりである。そして,前記4のとおり,朝鮮総聯が,北朝鮮の最高指導者を絶対的なものとして賛美・礼賛することを民族教育の最も重要な要素の一つとして教育現場に徹底しようとしていたことに照らすと,本件省令ハが削除されなかった場合において,原告10番が卒業する平成27年3月までの僅か約2年の間(前提事実(1)ア)に,愛知朝鮮高校と朝鮮総聯の関係が劇的に変化し,愛知朝鮮高校が朝鮮総聯から「不当な支配」を受けているとの合理的疑いを文部科学大臣が抱かない可能性が相当程度あったと認めることは困難である(平成28年及び29年にも,朝鮮総聯幹部は,朝鮮学校ないしその教職員に対し,組織思想生活の強化や北朝鮮の最高指導者の遺訓や言葉の徹底等を指示していることが認められる(乙168ないし170)。)。
以上によれば,本件省令ハの削除の違法性について判断するまでもなく,本件省令ハの削除により,原告らの就学支援金に関する法的利益が侵害されたとは認められない(なお,本件規程14条に基づく申請権は,原告らの権利ではなく,申請者たる学校の権利であるから,就学支援金に関する実体的な権利利益を離れた手続上の申請権侵害の有無が,原告らとの関係で問題となることはない。)。
ウ 最後に,本件省令ハの削除によって,就学支援金に関する法的利益以外の原告らの権利利益が独立して侵害されたかどうかについても検討する。
まず,本件省令ハの削除が,原告らの就学支援金に関する法的利益を侵害するものではなく,原告らが愛知朝鮮高校で教育を受ける自由を何ら制約するものではないことに照らせば,同行為が,原告らの教育を受ける権利を侵害するものであるとは認められない。
また,本件省令ハの削除が,朝鮮高校生に対する差別意識に基づいて行われたものであるとか,朝鮮高校生に対する差別感情を助長させる効果を有するものである場合には,就学支援金に関する法的利益とは別に,原告らの人格権を独立して侵害する可能性があるが,本件省令ハの削除に至る下村文部科学大臣の発言等(認定事実(5))及び関係証拠を精査しても,本件省令ハの削除が,このような目的・効果を有するものであると認めることはできない。
したがって,本件省令ハの削除が,就学支援金に関する法的利益以外の原告らの権利利益を独立して侵害したとも認められない。
(3) 小括
以上によれば,本件省令ハの削除の違法性について判断するまでもなく,これによって原告らの法的利益が侵害されたと認めることはできない。よって,本件省令ハの削除の違法性を理由とした原告らの請求はいずれも理由がない。
第4 結論
したがって,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第10部
(裁判長裁判官 福田千恵子 裁判官 小林健留 裁判官 川内裕登)
別紙
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