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裁判年月日 令和 4年 9月27日 裁判所名 知財高裁 裁判区分 判決
事件番号 令4(ネ)10011号
事件名 商号使用差止等請求控訴事件
裁判結果 棄却 文献番号 2022WLJPCA09279002
裁判経過
第一審 令和 3年12月24日 東京地裁 判決 令2(ワ)19840号 商号使用差止等請求事件
出典
裁判所ウェブサイト
裁判年月日 令和 4年 9月27日 裁判所名 知財高裁 裁判区分 判決
事件番号 令4(ネ)10011号
事件名 商号使用差止等請求控訴事件
裁判結果 棄却 文献番号 2022WLJPCA09279002
控訴人 株式会社アノワ
同訴訟代理人弁護士 土門宏
被控訴人 株式会社アノワ
同訴訟代理人弁護士 川野智弘
同 山本奈緒
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙2記載の被告標章1ないし3(以下「被控訴人標章1ないし3」という。)を雑誌・ウェブサイト・テレビ・新聞・広告チラシ・看板等の紙媒体・電子媒体・電波媒体で利用又は表示してはならない。
3 被控訴人は、原判決別紙3記載の被告商品(以下「被控訴人商品」という。)に表示されている被控訴人標章1の表示を削除せよ。
4 被控訴人は、株式会社アノワの商号(以下「被控訴人商号」という。)を使用してはならない。
5 被控訴人は、控訴人に対し、名古屋法務局平成30年6月20日付けをもってしたその商号を株式会社アノワと変更する旨の、登記の抹消登記手続をせよ。
6 被控訴人は、ウェブサイトにおいてドメイン名ANOWA41.JP(以下「被控訴人ドメイン名」という。)を使用してはならない。
第2 事案の概要
1 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、①被控訴人が、被控訴人商品などに被控訴人標章1ないし3を付していることが、原判決別紙1記載の原告標章(以下「控訴人標章」という。)に対する控訴人の著作権(複製権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとして、著作権法112条に基づき、その妨害排除と妨害予防を求めるほか、②被控訴人が、不正の目的をもって、控訴人と同一の商号を使用しているとして、会社法8条2項に基づき、被控訴人商号の使用の差止めと抹消手続を求めるとともに、③被控訴人が、控訴人の特定商品等表示に類似する被控訴人ドメイン名を使用等していることが不正競争防止法2条1項19号に規定する不正競争に該当するとして、同法3条1項に基づき、その使用の差止めを求める事案である。
原判決が控訴人の請求をいずれも棄却したため、控訴人が控訴した。
2 前提事実
前提事実は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」(以下、「事実及び理由」という表示を省略する。)第2の2(原判決2頁21行目から4頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決3頁2ないし3行目の「本件口頭弁論終結日時点における被告代表者であったB(以下「B」という。)は、」を、「B(以下「B」という。)は、被控訴人の代表取締役であったが、令和3年8月16日、代表取締役を辞任し、同月25日、その旨の登記がされた(弁論の全趣旨)。Bは、」と改める。
⑵ 原判決3頁19行目の「現在のものに」を削除する。
⑶ 原判決3頁21行目末尾の次に「令和3年8月16日、法人の目的が現在のものに変更され、同月25日、その旨の登記がされた。なお、「化粧品、美容用品、美容機器等の企画、製造及び販売」は、この変更の前後を通じて、法人の目的に含まれていた(弁論の全趣旨)。」と付加する。
⑷ 原判決3頁22行目から24行目までを「イ E(以下「E」という。)は、被控訴人のために、令和元年5月14日、被控訴人ドメイン名を登録し(甲29)、被控訴人は、現在まで、これを使用したウェブサイト(以下「被控訴人サイト」という。)を運営している(甲30)。」と改める。
3 争点
争点は、原判決第2の3(原判決4頁14行目から19行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における補充主張を付加するほかは、原判決第3の1ないし6(原判決4頁21行目から13頁23行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決5頁4行目の「原告代表者C(以下「C」という。)」を「控訴人の創業者であるD(以下「D」という。)(甲35)」と改める。
2⑴ 争点1(控訴人標章の著作物性の有無)について
〔控訴人の主張〕
ア Bは、控訴人標章に、単なるロゴタイプ・デザインを超えた美の表現・印象を強く感じ、ウェブでの被控訴人商品の販売に利用したいと考えて控訴人標章を模倣したものであり、このことからしても、控訴人標章には個性があり著作物性がある。
イ 不正競争防止法によればTシャツの柄は保護の対象となるから、デザインも保護すべきであり、著作権法によってもデザインを保護すべきである。
ウ 控訴人標章は、文字を用いるものであるが、控訴人のロゴタイプとしての利用を目的としてデザインされたものであり、控訴人の商号と一致するアルファベットを強調している。文字は誰でも使用できるものであるから文字を強調するロゴタイプ・デザインは全て著作物とはなりえないとする合理的理由はない。
エ 控訴人標章はポスターと等価値であり、著作権法制定当時、ポスターは著作物又は著作物の複製として扱われるというのが著作権法の解釈であったから、控訴人標章も著作権法上保護されるべきである。
オ 控訴人標章が一品制作の図又は絵であるとしたら創作性のあることは議論の余地がなく、漫画の特徴的な表現を含む一こまを模倣しても著作権侵害となるのに、ロゴタイプ・デザイン(量産品の原画)であるが故に著作権法の保護の対象とならない、あるいは高度の創作性がなければ著作権法の保護の対象とならないというのは、著作権法上の著作物の定義に反する。
〔被控訴人の主張〕
ア 〔控訴人の主張〕アないしオは争う。
イ 〔控訴人の主張〕アについて
Bが控訴人標章を模倣した事実はなく、控訴人の主張は、控訴人代表者らの思い込みによるものである。
⑵ 争点2(被控訴人標章1の依拠性の有無)について
〔控訴人の主張〕
ア 控訴人の商号と被控訴人商号に共通する「アノワ」という部分は三音節からなるところ、五十音図で実際に使用できる音節文字47種による三音節の組み合わせは47の三乗の10万3823通りあるから、Bが控訴人の商号に依拠することなく独自に被控訴人商号を思い至ったというのは不自然である。
イ Bが「アノワ」という語を独自に思い至ったと認定するには、Bが控訴人標章を見ずに被控訴人標章1の図を描いたという認定が前提でなければならない。なぜなら、被控訴人標章1の図にもANOWAの表示があるので、商号「アノワ」を造語したのであればANOWAの表示を含む被控訴人標章1の図も自ら描いたというのでなければ、主張が一貫しないからである。
ウ 控訴人は被控訴人に対し、令和2年2月12日付け「通知書」(甲34の1)により、被控訴人がその商号を「株式会社山神」から、控訴人の商号と同じ被控訴人商号(株式会社アノワ)に変更登記した理由を回答するよう要求した。乙11(Bの陳述書)の記載事項が真実であれば、被控訴人は、乙11に記載された事項を直ちに回答することが可能であったはずであるが、同月21日付けの回答書(甲34の2)において、そのような回答をしなかったのは、Bが「アノワ」という語を思い至ったという、乙11に記載された経緯が虚偽であるからである。
エ 本件訴訟の訴状が令和2年9月初めに被控訴人に送達された後、令和3年2月初旬に被控訴人の第一準備書面(令和3年2月2日付け)が提出されるまで約5か月の期間があり、その間に、訴状や、令和2年8月初旬に提出された甲35(Dの陳述書)の記載事項を参考に、Bが「アノワ」という語を思い至った経緯に関する主張を作出することは容易であったから、被控訴人の第一準備書面や、更にその後に提出された乙11に記載された、Bが「アノワ」という語を思い至った経緯に関する事項は、信用性に乏しい。
オ 「アンネ・フランク」、「ノアの方舟」、「医」とアルファベットの「A」、五十音図の「あ」等の組合せでアノワ(ANOWA)を造語したというBの主張は極めて不自然であり、後付けで考えたものであるか、「現在」という意味が基本の英語「NOW」にアルファベットの最初の文字の「A」を加えて現在最先端のデザインをお客様に提供しようという心構えのもとに造語したという控訴人の主張をもとに作出したものである。
カ Bは、B及び被控訴人の従業員は、被控訴人商品の発売に先立ち、ラベルのデザインを被控訴人の内部で検討し、多くの候補の中から、ANOの文字を上に、WAの文字を下に表示したデザインを選択し、被控訴人がこれを株式会社アゼラン(化粧品製造販売業者、以下「アゼラン」という。)に示し、アゼランがラベルのデザインに仕上げて乙7を作成し、被控訴人に提示した旨証言する。そうであるとすれば、ANOの文字を上に、WAの文字を下に表示するという被控訴人標章1及び2の基本的なデザインは、アゼランが作成したものではなく、被控訴人が、控訴人標章を真似て作成したものである。
〔被控訴人の主張〕
ア 〔控訴人の主張〕アないしカは全て争う。
イ 〔控訴人の主張〕アについて
三音節の各音節に当てはめることのできる音節文字が47種であることには疑問の余地があるし、三音節からなる言葉の選択において偶然一致することはある。
ウ 〔控訴人の主張〕イについて
Bは、控訴人の商号を全く認識せずに独自に「アノワ」という被控訴人商号の名を考案したものであり、被控訴人標章1も、被控訴人から被控訴人商品のデザインを依頼されたアゼランが具体的なデザインを作成し、その後確定したものである。Bが被控訴人標章1の図を自ら描いたことはない。
エ 〔控訴人の主張〕ウについて
被控訴人代理人は、控訴人による商標権侵害の主張に対して法的な反論を行いつつ、意図せずに被控訴人標章1のロゴデザインが控訴人標章に酷似してしまったことなどを踏まえ、話合いによる穏便な解決を求めて令和2年2月21日付けの回答書(甲34の2)を作成し、送付したものであり、そのような対応は不自然ではない。
オ 〔控訴人の主張〕エについて
被控訴人代理人は、不十分な事情聴取に基づいて作成されたものではあるが、令和2年9月16日付けの「ご連絡」と題する書面(甲37)を控訴人代理人に送付した。
カ 〔控訴人の主張〕カについて
被控訴人標章1及び2の作成に当たり、被控訴人が、控訴人標章を真似たことはない。
⑶ 争点4(会社法8条1項の「不正の目的」の有無)について
〔控訴人の主張〕
ア 控訴人標章が著作物でないとしても、被控訴人は、控訴人標章の要部である「ANOWA」(アノワ)を商号・ドメイン名に使用し、営業主体の混同を引き起こす態様で利用しているから、被控訴人による被控訴人商号の利用は、不正な活動を行う積極的意思によるものであり、会社法8条1項の「不正の目的」によるものである。
イ Bが実業家であることに関連する証拠はBの陳述書(乙11)以外にないから、Bが社会的に信用のある実業家であるということはできない。
ウ 被控訴人は、平成30年6月20日に被控訴人商号(株式会社アノワ)に商号変更される前の商号は「株式会社山神」であったが、株式会社山神の営業の実態を示す証拠はなく、被控訴人商品をウェブを利用して無店舗販売するのに商号が「株式会社山神」のままでは不都合であった理由も明らかでない。Bの関与する会社の中心は株式会社よし川(甲48)であり、ドメイン名を「F」(甲32)と登録しているところ、被控訴人商品に「よし川」の表示を使った標章を使用せず、突然被控訴人標章1を使いだしたのは、控訴人標章を被控訴人商品に使用するために、被控訴人の商号を、控訴人標章の「ANOWA」の読みである「アノワ」とし、ドメイン名も「ANOWA」を含む「ANOWA41」としたものである。そのため、被控訴人標章1の使用には不正の目的がある。
エ 会社のロゴタイプと商号とドメイン名を関連させることが一般的な手法であるとはいえても、被控訴人は、控訴人標章を被控訴人の標章として使用する意図がまずあり、ドメイン名、商号を控訴人標章に合わせたと考えるのが自然である。
被控訴人が被控訴人商品に被控訴人標章1を使用していないのならば、Bが「アノワ」という語を独自に思い至ったという主張を信用する余地があるとしても、被控訴人が被控訴人商品に被控訴人標章1を使用していることからすると、上記主張は信用できない。
オ 控訴人のドメイン名「ANOWA.JP/ANOWA.CO.JP」と被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)は、いずれも「ANOWA」を要部とするから、被控訴人が控訴人のドメイン名を知らないでEに被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)の登録を依頼したという主張は虚偽である。
カ Bは、自らブライダル事業や飲食店等の経営を行っていたというのであるから、当然、商号・ドメイン名・標章の重要性を知っていたはずであるし、被控訴人商品はウェブのみで販売されるから、被控訴人の商号を「株式会社山神」から被控訴人商号(株式会社アノワ)に変更する前に控訴人のホームページを見たことがないという主張は、信用できない。
〔被控訴人の主張〕
ア 〔控訴人の主張〕アないしカは全て争う。
イ 〔控訴人の主張〕イについて
Bが著名な実業家であることを裏付ける証拠は、乙11の他に乙8、乙9などがある。
ウ 〔控訴人の主張〕ウについて
Bは多数の法人にまたがって多数の事業を手がけており、被控訴人は、過去に飲食事業やブライダル事業の一部を運営していたことがあった。
エ 〔控訴人の主張〕オについて
被控訴人は、被控訴人商品の商品名を「ANOWA41」に決めたことから、Eに被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)の登録を依頼したものであり、その時には控訴人のドメイン名を知らなかったことは事実である。
オ 〔控訴人の主張〕カについて
被控訴人商品は、ウェブのみで販売されているものではない。被控訴人は、被控訴人商品は主として医療機関において医師の指導の下で顧客が購入し使用すべきものと考え、DKSHジャパン株式会社と契約を締結して被控訴人商品を販売してきたものである。
⑷ 争点6(被控訴人ドメイン名による不正競争行為の有無)について
〔控訴人の主張〕
ア 被控訴人が被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)の使用を開始したとき、控訴人は既に控訴人のドメイン名「ANOWA.JP」を使用しており、商号が同一で、被控訴人標章1が控訴人標章に酷似していることから、被控訴人は、被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)を使用すればウェブ利用者に混乱が生じて控訴人に何らかの迷惑が及ぶかも知れないと考え、それを容認して被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)を使用したものであり、「不正の利得を得る目的」を有する。
イ ウェブ検索で「anowa/ANOWA」と入力すると、控訴人のドメイン名(ANOWA.CO.JP)と被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)が必ず並んで表示され、控訴人のウェブサイトでは控訴人の営業活動を示す文章・写真等が掲載され、被控訴人のウェブサイトではBの写真・被控訴人商品等が掲載されている。ウェブ閲覧者は、この二つのホームページを見て、商号が同一で、ドメイン名が酷似しており、控訴人標章と被控訴人標章1が酷似している(特に意識して見ないと同一である)ことからして、両者には人的・資金的な関連、又はウェブでの「ANOWA」という表示の利用に関する何らかの営業上の関連があるとの印象を受け、控訴人と被控訴人の誤認混同を生ずる。そのため、被控訴人には、「不正の利益を得る目的」がある。
〔被控訴人の主張〕
ア 〔控訴人の主張〕アは争う。
被控訴人もBも、被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)を登録したときに、控訴人のドメイン名の存在を全く認識していなかったから、その使用によって控訴人と混同が生じることを予想することはできなかった。
イ 〔控訴人の主張〕イは争う。
ウェブ検索で「anowa/ANOWA」と入力すると、控訴人のドメイン名(ANOWA.CO.JP)と被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)がそれぞれ上位に表示されるが、必ず並んで表示されるというわけではない。控訴人と被控訴人は、本店所在地も業種も全く異なり、それぞれのホームページを閲覧した者が、控訴人と被控訴人が人的・資金的な面を含め何らかの営業上の関連を有するという印象を受けることはない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(控訴人標章の著作物性の有無)について
⑴ 争点1(控訴人標章の著作物性の有無)についての判断は、次のとおり補正し、後記⑵のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決第4の1(原判決13頁26行目から16頁13行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決14頁1行目から7行目までを次のとおり改める。
「著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)。そして、商品又は営業の出所を表示するものとして文字から構成される標章は、商品又は営業の出所を示すという実用的な目的で作出され、使用されるものであり、その保護は、商標法又は不正競争防止法により図られるべきものである。文字からなる商標の中には、外観や見栄えの良さに配慮して、文字の形や配列に工夫をしたものもあるが、それらは、文字として認識され、かつ出所を表示するものとして、見る者にどのように訴えかけるか、すなわち標章としての機能を発揮させるためにどのように構成することが適切かという実用目的のためにそのような工夫がされているものであるから、通常は、美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性が発揮されているものとは認められない。商品又は営業の出所を表示するものとして文字から構成される標章が著作物に該当する場合があり得るとしても、それは、商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識別機能を超えた顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体が、識別機能という実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視し得る程度の美的鑑賞の対象となり得る創作性を備えなければならないというべきである。」
イ 原判決14頁21行目冒頭から22行目末尾までを次のとおり改める。
「商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識別機能を超えた顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体が、識別機能という実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視し得る程度の美的鑑賞の対象となり得る創作性を備えるものとは認められないから、著作権法により保護されるべき著作物に該当するとは認められない。」
⑵ 当審における控訴人の補充主張に対する判断
ア 控訴人は、Bは、控訴人標章に、単なるロゴタイプ・デザインを超えた美の表現・印象を強く感じ、ウェブでの被控訴人商品の販売に利用したいと考えて控訴人標章を模倣したものであり、このことからしても、控訴人標章には個性があり著作物性があると主張する(前記第3の2⑴〔控訴人の主張〕ア)。
しかし、Bは、被控訴人商品に関する事業を実施するに当たり、同事業に対するBの様々な意図や願望を込め、禅宗の僧侶等にも相談するなどして「アノワ」という語を含む被控訴人商号を考案して商号変更し、さらにそのローマ字表記である「ANOWA」を含む被控訴人商品の名称(「ANOWA41」)を考案したものと認められ(乙11)、控訴人標章を被控訴人商品に使用するために、被控訴人の商号を、控訴人標章の「ANOWA」の読みである「アノワ」とし、ドメイン名を「ANOWA」を含む「ANOWA41」としたものであることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、Bが控訴人標章を模倣したと認めることはできず、控訴人の上記主張は、その前提を欠き、採用することはできない。
イ 控訴人は、不正競争防止法によればTシャツの柄は保護の対象となるから、デザインも保護すべきであり、著作権法によってもデザインを保護すべきであると主張する(前記第3の2⑴〔控訴人の主張〕イ)。
しかし、Tシャツの柄が不正競争防止法による保護の対象となる場合があるとしても、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから、著作権法によって当然にデザインの全てが保護されるべきであるとはいえないし、標章は、Tシャツのデザインと性質を異にするものであるから、控訴人の上記主張に基づいて、控訴人標章が著作権法により保護されるということはできない。
ウ 控訴人は、控訴人標章は、文字を用いるものであるが、控訴人のロゴタイプとしての利用を目的としてデザインされたものであり、控訴人の商号と一致するアルファベットを強調していること、文字は誰でも使用できるものであるから文字を強調するロゴタイプ・デザインは全て著作物とはなりえないとする合理的理由はないことを主張する(前記第3の2⑴〔控訴人の主張〕ウ)。
しかし、控訴人標章は、標章としての機能を発揮させるためにどのように構成することが適切かという実用目的のために工夫がされているものであり、美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性が発揮されているものとは認められないから、美術その他の範囲に属する著作物には該当しないものというべきであり、控訴人の上記主張を採用することはできない。
エ 控訴人は、控訴人標章はポスターと等価値であり、著作権法制定当時、ポスターは著作物又は著作物の複製として扱われるというのが著作権法の解釈であったから、控訴人標章も著作権法上保護されるべきであると主張する(前記第3の2⑴〔控訴人の主張〕エ)。
しかし、控訴人標章は、商品又は営業の出所を表示する標章であり、商標法や不正競争防止法の保護の対象となる余地があり得るとしても、ポスターと等価値であるとはいえないから、控訴人の上記主張は、採用することができない。
オ 控訴人は、控訴人標章が一品制作の図又は絵であるとしたら創作性のあることは議論の余地がなく、漫画の特徴的な表現を含む一こまを模倣しても著作権侵害となるのに、ロゴタイプ・デザイン(量産品の原画)であるが故に著作権法の保護の対象とならない、あるいは高度の創作性がなければ著作権法の保護の対象とならないというのは、著作権法上の著作物の定義に反すると主張する(前記第3の2⑴〔控訴人の主張〕オ)。
しかし、控訴人標章は、商品又は営業の出所を表示する標章であり、商標法や不正競争防止法の保護の対象となる余地があり得るとしても、一品制作の図又は絵や漫画とは性質を異にするから、控訴人の上記主張は、採用することができない。
2 争点2(被控訴人標章1の依拠性の有無)について
⑴ 争点2(被控訴人標章1の依拠性の有無)について、原審における控訴人の主張に対する判断は、次のとおりである。
ア 控訴人は、Bが、控訴人標章に依拠し、被控訴人標章1を作成し、被控訴人商品に係る商品等表示としたことは、次に掲げる(ア)ないし(オ)の事実から明らかである(なお、被控訴人標章2は、下記の(エ)を満たさないが、決定的な相違ではないから、同様に控訴人標章に依拠したものと考えられる。)と主張する。
(ア) 被控訴人標章1は、Dの造語であるANOWAの5文字を使用しており、Bが、控訴人標章に依拠せず、この5文字を選定することは確率からみてあり得ないこと。
(イ) 被控訴人標章1は、ANOWAの5文字が、「ANO」と「WA」の2段に表示されている点において控訴人標章と同様である上、これと標語部分との文字の配置、配列、間隔が控訴人標章と同一であること。
(ウ) 被控訴人標章1は、原判決別紙4のとおり、各段の高さの比率が3:1:3で控訴人標章と同じであり、全体の高さと「WA」の部分の横幅が同一である点も控訴人標章と同じであること。
(エ) 被控訴人標章1は、控訴人標章と同様に、ANOWAの「A」の右下セリフ部分と「N」の左下セリフ部分が連続しており、3段表示における上段と下段の表現が控訴人標章と同一であること。
(オ) 被控訴人標章1と控訴人標章の標語部分の表現の相違は、ANOWAの部分が共通することに比し、見る者に対し決定的印象を与えるものではなく、全く異なる表現にはなっていないこと。
イ しかし、控訴人及び被控訴人以外に、「株式会社アノワ」、「アノワ株式会社」という商号を有する会社は存在し(乙2、3)、「あのわ」という名称でウェブ上で雑貨等の販売を行う事業者も存在すること(乙4)からすると、「アノワ」という文字を商号等として選択することは、控訴人及び被控訴人以外にもあり得るものと認められる。そして、片仮名名の商号等をアルファベットで表記することは取引上よくみられるものであるところ、「アノワ」をアルファベットで表記する場合に「ANOWA」と表記されるのが普通であって、「アノワ」を自らの商号として選択した被控訴人が「ANOWA」いう文字を使用することは何ら不自然ではないから、控訴人標章に依拠せず、ANOWAの5文字を選定することは確率からみてあり得ないとはいえない。
また、控訴人は、被控訴人標章1と控訴人標章の比較において、「ANO」、「WA」の文字と、その間の標語部分との文字の配置、配列、間隔の同一性(前記ア(イ))、各段の高さの比率、全体の高さと「WA」の横幅の同一性(前記ア(ウ))、「A」の右下セリフ部分と「N」の左下セリフ部分の連続性、3段表示における上段と下段の表現の同一性(前記ア(エ))を指摘するが、後記⑵カのとおり、被控訴人が内部で選択してアゼランに示したデザインが、控訴人が指摘するような細かな特徴まで備えていたかどうかは不明であるから、Bの証言を考慮しても、せいぜい、被控訴人標章1及び2が完成するまでの間に、控訴人標章が参照され、又は控訴人標章からヒントを得た可能性があるといえるにとどまり、被控訴人が控訴人標章に依拠し、又は控訴人標章を真似して被控訴人標章1及び2を作成したと認めるに足りる証拠があるとはいえない。
したがって、控訴人の前記アの主張を採用することはできない。
⑵ 当審における控訴人の補充主張に対する判断
ア 控訴人は、控訴人の商号と被控訴人商号に共通する「アノワ」という部分は三音節からなるところ、五十音図で実際に使用できる音節文字47種による三音節の組み合わせは47の三乗の10万3823通りあるから、Bが控訴人の商号に依拠することなく独自に被控訴人商号を思い至ったというのは不自然であると主張する(前記第3の2⑵〔控訴人の主張〕ア)。
しかし、商号の選択の契機は様々であり、全ての音節の単純な組合せを俯瞰した上でその中から選択しているものではないし、前記⑴イのとおり、実際に「アノワ」が商号として選択された例が複数存在することからしても、音節の単純な組合せの数をもとにする控訴人の上記主張は採用することはできない。
イ 控訴人は、Bが「アノワ」という語を独自に思い至ったと認定するには、Bが控訴人標章を見ずに被控訴人標章1の図を描いたという認定が前提でなければならないとし、その理由として、被控訴人標章1の図にもANOWAの表示があるので、商号「アノワ」を造語したのであればANOWAの表示を含む被控訴人標章1の図も自ら描いたというのでなければ主張が一貫しないからであると主張する(前記第3の2⑵〔控訴人の主張〕イ)。
控訴人の上記主張は、Bが、控訴人標章を模倣した被控訴人標章1を使用することとし、そのために被控訴人商号を、「アノワ」という語を含むものに変更したという主張を前提とするものである。しかし、Bが、控訴人標章の存在を知った上で、それを模倣して被控訴人標章1を使用することとしたということを認めるに足りる証拠はないから、そのような主張を前提とする控訴人の主張は採用することができない。
ウ 控訴人は、控訴人が被控訴人に対し、令和2年2月12日付け「通知書」(甲34の1)により、被控訴人が商号を「株式会社山神」から、控訴人の商号と同じ被控訴人商号(株式会社アノワ)に変更登記した理由を回答するよう要求したとし、乙11(Bの陳述書)の記載事項が真実であれば、被控訴人は、乙11に記載された事項を直ちに回答することが可能であったはずであるが、同月21日付けの回答書において、そのような回答をしなかったのは、Bが「アノワ」という語を思い至ったという、乙11に記載された経緯が虚偽であるからであると主張する(前記第3の2⑵〔控訴人の主張〕ウ)。
確かに、控訴人の令和2年2月12日付け「通知書」(甲34の1)には、その末尾近くに、被控訴人がその商号を「株式会社山神」から「株式会社アノワ」に変更した理由を説明することを要求する旨の記載がある。しかし、同通知書(甲34の1)には、控訴人が、控訴人標章を商標とする登録商標第6179030号(指定役務 第42類 店舗内装のデザインの考案)を有する旨、控訴人の商標(著作物)に酷似したマークの使用の中止及びマークが付された容器の表示の削除を要求する旨が記載されているから、前記1で判示したとおり、控訴人標章に著作物性が認められないことも考慮すると、同通知書(甲34の1)は、全体としてみれば、商標権に基づく請求を主眼とするものと解されるものであったと認められる。そして、被控訴人代理人は、同通知書(甲34の1)に対する令和2年2月21日付け回答書(甲34の2)において、控訴人の有する商標の指定役務と被控訴人の役務は類似しないから、被控訴人商品の販売は控訴人の商標権を侵害するものではないと述べ、控訴人との間で円満な形での解決をすることも考えている旨述べたものであって、控訴人の商標権に基づく請求を拒むために、被控訴人がその商号を「株式会社山神」から「株式会社アノワ」に変更した理由を説明することは必要なかったと認められる。このような事情を考慮すると、被控訴人代理人が、令和2年2月21日付け回答書(甲34の2)において、乙11に記載された、Bが「アノワ」という語を思い至った経緯を回答しなかったのは、その必要がなかったためであると推認され、その回答がなかったことをもって、乙11に記載された経緯が虚偽であると認めることはできない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
エ 控訴人は、本件訴訟の訴状が令和2年9月初旬に被控訴人に送達された後、令和3年2月初旬に被控訴人の第一準備書面(令和3年2月2日付け)が提出されるまで約5か月の期間があり、その間に、訴状や、令和2年8月初旬に提出された甲35(Dの陳述書)の記載事項を参考に、Bが「アノワ」という語を思い至った経緯に関する主張を作出することは容易であったから、被控訴人の第一準備書面や、更にその後に提出された乙11に記載された、Bが「アノワ」という語を思い至った経緯に関する事項は信用性に乏しいと主張する(前記第3の2⑵〔控訴人の主張〕エ)。
しかし、被控訴人代理人が控訴人代理人に送付した令和2年9月16日付けの「ご連絡」と題する書面(甲37)は、その日付からして、本件訴訟の訴状が同月初旬に被控訴人に送達された後、程なく作成されたものと推認されるところ、同書面(甲37)には、アルファベットの最初の文字である「A」や五十音の最初の文字である「ア」がトップや始まりを示すこと、ノアの箱舟から着想を得た上で「ノア」から「ノワ」にしたこと、被控訴人商品「ANOWA41」の「41」は国道41号線に由来することなど、乙11に記載されたのと同様の事項が記載されているから、被控訴人の第一準備書面(令和3年2月2日付け)が提出されるまで約5か月の期間において、Bが「アノワ」という語を思い至った経緯に関する主張が作出されたという控訴人の上記主張は、採用することができない。
オ 控訴人は、「アンネ・フランク」、「ノアの方舟」、「医」とアルファベットの「A」、五十音図の「あ」等の組合せでアノワ(ANOWA)を造語したというBの主張は極めて不自然であり、後付けで考えたものであるか、「現在」という意味が基本の英語「NOW」にアルファベットの最初の文字の「A」を加えて現在最先端のデザインをお客様に提供しようという心構えのもとに造語したという控訴人の主張をもとに作出したものであると主張する(前記第3の2⑵〔控訴人の主張〕オ)。
しかし、控訴人が被控訴人に送付した令和2年2月12日付けの通知書(甲34の1)には、控訴人が商号を「アノワ(ANOWA)」にした理由や、控訴人標章の文字配列の意図等が記載されているところ、それらには、控訴人の商号や控訴人標章を一般人が一瞥しただけでは推し量れないような様々な意図や願望が込められていることが認められ、そのように、商号や標章に様々な意図や願望が込められていることからすると、「アノワ」という語を思い至った経緯としてBが乙11等で述べ、主張することが一概に不自然で信用できないとはいえない。また、「アノワ」という語を思い至った経緯としてBが乙11等で述べ、主張することは、「現在」という意味が基本の英語「NOW」にアルファベットの最初の文字の「A」を加えて現在最先端のデザインをお客様に提供しようという心構えのもとに造語したという控訴人の主張と共通するところは余りないから、控訴人の主張をもとに作出したものであると認めることはできない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
カ 控訴人は、B及び被控訴人の従業員は、被控訴人商品の発売に先立ち、ラベルのデザインを被控訴人の内部で検討し、多くの候補の中から、ANOの文字を上に、WAの文字を下に表示したデザインを選択し、被控訴人がこれをアゼランに示し、アゼランがラベルのデザインに仕上げて乙7を作成し、被控訴人に提示した旨Bが証言していることからすれば、ANOの文字を上に、WAの文字を下に表示するという被控訴人標章1及び2の基本的なデザインは、アゼランが作成したものではなく、被控訴人が、控訴人標章を真似て作成したものであると主張する(前記第3の2⑵〔控訴人の主張〕カ)。
確かに、Bは、B及び被控訴人の従業員は、被控訴人商品の発売に先立ち、ラベルのデザインを被控訴人の内部で検討し、多くの候補の中から、ANOの文字を上に、WAの文字を下に表示したデザインを選択し、被控訴人がこれをアゼランに示し、アゼランがラベルのデザインに仕上げて乙7を作成し、被控訴人に提示した旨証言する(Bの証人尋問調書の速記録32~38頁)。これによれば、ANOの文字を上に、WAの文字を下に表示したデザインは、被控訴人の内部で検討された多くのデザインの候補の中に含まれていたものと認められ、それが作出される過程において、控訴人標章が参照され、又は控訴人標章からヒントを得た可能性はある。しかし、Bの上記証言により、ANOの文字を上に、WAの文字を下に表示したデザインが被控訴人の内部で選択されたことは認められるとしても、それがどの程度具体化されたものであったか、どのような態様のものであったか、ANOの文字を上に、WAの文字を下に表示したという以外に、どのような特徴や形態を備えるものであったかは明らかでなく、被控訴人標章1又は2と全く同じであったかどうかも明らかではない。むしろ、アゼランがラベルのデザインに仕上げたことによって乙7のようになったことからすると、乙7に示された標章に比べて大まかな概略を示すにとどまるものであったとも考えられる。被控訴人が内部で選択してアゼランに示したデザインが、控訴人が前記⑴ア(イ)ないし(エ)に指摘するような細かな特徴を備えていたどうかは不明であるから、Bの証言を考慮しても、せいぜい、被控訴人標章1及び2が完成するまでの間に、控訴人標章が参照され、又は控訴人標章からヒントを得た可能性があるといえるにとどまり、被控訴人が控訴人標章に依拠し、又は控訴人標章を真似して被控訴人標章1及び2を作成したと認めるに足りる証拠があるとはいえない。
3 争点4(会社法8条1項の「不正の目的」の有無)について
⑴ 争点4(会社法8条1項の「不正の目的」の有無)についての判断は、次のとおり補正し、後記⑵のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決第4の2(原判決16頁15行目から19頁17行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決16頁15行目末尾の次に行を改めて、次のとおり付加する。
「会社法8条1項の『不正の目的』は、他の会社の営業と誤認させる目的、他の会社と不正に競争する目的、他の会社を害する目的など、特定の目的のみに限定されるものではないが、不正な活動を行う積極的な意思を有することを要するものと解するのが相当である。」
イ 原判決17頁10行目の「これらの事情の下においては、」の次に「被控訴人は、不正な活動を行う積極的な意思を有していたものと認めることはできず」を加える。
⑵ 当審における控訴人の補充主張に対する判断
ア 控訴人は、控訴人標章が著作物でないとしても、被控訴人は、控訴人標章の要部である「ANOWA」(アノワ)を商号・ドメイン名に使用し、営業主体の混同を引き起こす態様で利用しているから、被控訴人による被控訴人商号の利用は、不正な活動を行う積極的意思によるものであり、会社法8条1項の「不正の目的」によるものであると主張する(前記第3の2⑶〔控訴人の主張〕ア)。
しかし、控訴人と被控訴人は、本店所在地、業種が全く異なる上、控訴人標章は、著名であって誰でもその出所を認識しているようなものでもないから、商号が同一であり、ドメイン名の「ANOWA」の部分が共通しているとしても、被控訴人による被控訴人商号、ドメイン名は、営業主体の混同を引き起こす態様で使用されているものとは認められない。
また、前記2⑵カのBの証言を考慮しても、被控訴人商品の発売に先立ってラベルデザインを検討する際に、被控訴人の内部で、ANOの文字を上に、WAの文字を下に表示したデザインが採用されたということが認められるにとどまり、被控訴人標章1又は2を使用するために被控訴人の商号が被控訴人商号(株式会社アノワ)に変更されたということまでは、到底認めることはできないから、被控訴人に会社法8条1項の「不正の目的」があると認めることはできない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 控訴人は、Bが実業家であることに関連する証拠はBの陳述書(乙11)以外にないから、Bが社会的に信用のある実業家であるということはできないと主張する(前記第3の2⑶〔控訴人の主張〕イ)。
しかし、乙8、9、11によれば、Bは、長年にわたって様々な事業を手がけ、テレビに多数回出演するなどして広く知られるに至っており、社会的な信用を得ていることが認められるから、控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 控訴人は、被控訴人は、平成30年6月20日に被控訴人商号(株式会社アノワ)に商号変更される前の商号は「株式会社山神」であったが、株式会社山神の営業の実態を示す証拠はなく、被控訴人商品をウェブを利用して無店舗販売するのに商号が「株式会社山神」のままでは不都合であった理由も明らかでないこと、Bの関与する会社の中心は株式会社よし川(甲48)であり、ドメイン名を「F」(甲32)と登録しているところ、被控訴人商品に「よし川」の表示を使った標章を使用せず、突然被控訴人標章1を使いだしたのは、控訴人標章を被控訴人商品に使用するために、被控訴人の商号を、控訴人標章の「ANOWA」の読みである「アノワ」とし、ドメイン名も「ANOWA」を含む「ANOWA41」としたものであること、そのため、被控訴人標章1の使用には不正の目的があることを主張する(前記第3の2⑶〔控訴人の主張〕ウ)。
さらに、控訴人は、会社のロゴタイプと商号とドメイン名を関連させることが一般的な手法であるとはいえても、被控訴人は、控訴人標章を被控訴人の標章として使用する意図がまずあり、ドメイン名、商号を控訴人標章に合わせたと考えるのが自然であること、被控訴人が被控訴人商品に被控訴人標章1を使用していないのならば、Bが「アノワ」という語を独自に思い至ったという主張を信用する余地があるとしても、被控訴人が被控訴人商品に被控訴人標章1を使用していることからすると、上記主張は信用できないことを主張する(前記第3の2⑶〔控訴人の主張〕エ)。
しかし、Bは、被控訴人商品に関する事業を実施するに当たり、同事業に対するBの様々な意図や願望を込め、禅宗の僧侶等にも相談するなどして「アノワ」という語を含む被控訴人商号を考案して商号変更し、さらにそのローマ字表記である「ANOWA」を含む被控訴人商品の名称(「ANOWA41」)を考案したものと認められ(乙11)、控訴人標章を被控訴人商品に使用するために、被控訴人の商号を、控訴人標章の「ANOWA」の読みである「アノワ」とし、ドメイン名も「ANOWA」を含む「ANOWA41」としたものであることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、被控訴人標章1の使用には不正の目的がある旨の控訴人の上記主張は採用することができない。
エ 控訴人は、控訴人のドメイン名「ANOWA.JP/ANOWA.CO.JP」と被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)は、いずれも「ANOWA」を要部とするから、被控訴人が控訴人のドメイン名を知らないでEに被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)の登録を依頼したという主張は虚偽であると主張する(前記第3の2⑶〔控訴人の主張〕オ)。
しかし、被控訴人の商号が考案され、更に被控訴人商品の名称が決定されたことは、上記ウのとおり認められ、控訴人のドメイン名と被控訴人ドメイン名がいずれも「ANOWA」を要部とすることから、被控訴人が控訴人のドメイン名を知らないでEに被控訴人ドメイン名の登録を依頼したという主張が虚偽であると認めることはできないから、控訴人の上記主張は採用することができない。
オ 控訴人は、Bは、自らブライダル事業や飲食店等の経営を行っていたのであれば、当然、商号・ドメイン名・標章の重要性を知っていたはずであるし、被控訴人商品はウェブのみで販売されるから、被控訴人の商号を「株式会社山神」から被控訴人商号(株式会社アノワ)に変更する前に控訴人のホームページを見たことがないという主張は、信用できないと主張する(前記第3の2⑶〔控訴人の主張〕カ)。
しかし、被控訴人商品の販売方法は、ウェブを利用したもののみではなく、DKSHジャパン株式会社との契約に基づいて医療機関を通じて行われているものもあると認められ(甲30、乙11)、また、一般に商号・ドメイン名・標章の重要性を認識していることから、直ちに、被控訴人の商号変更前に控訴人のホームページを見たと推認することもできないから、控訴人の上記主張は採用することができない。
4 争点6(被控訴人ドメイン名による不正競争行為の有無)について
⑴ 争点6(被控訴人ドメイン名による不正競争行為の有無)についての判断は、次のとおり補正し、後記⑵のとおり当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決第4の3(原判決19頁19行目から20頁7行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決19頁19行目冒頭の前に次のとおり加える。
「不正競争防止法2条1項19号にいう『不正の利益を得る目的』とは、公序良俗に反する態様で、自己の利益を不当に図る目的をいい、『他人に損害を加える目的』とは、他人に対して財産上の損害や信用失墜などの有形無形の損害を加える目的を指すと解すべきである。」
イ 原判決19頁24行目の「上記事情を踏まえると、」の後に、「被控訴人は、公序良俗に反する態様で、自己の利益を不当に図る目的を有していたとは認められないし、他人に対して財産上の損害や信用失墜などの有形無形の損害を加える目的を有していたとも認められないから、」を付加する。
⑵ 当審における控訴人の補充主張に対する判断
ア 控訴人は、被控訴人が被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)の使用を開始したとき、控訴人は既に控訴人のドメイン名「ANOWA.JP」を使用しており、商号が同一で、被控訴人標章1が控訴人標章に酷似していることから、被控訴人は、被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)を使用すればウェブ利用者に混乱が生じて控訴人に何らかの迷惑が及ぶかも知れないと考え、それを容認して被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)を使用したものであり、「不正の利得を得る目的」を有すると主張する(前記第3の2⑷〔控訴人の主張〕ア)。
しかし、前記3⑵ウのとおり、Bは、被控訴人商品に関する事業を実施するに当たり、同事業に対するBの様々な意図や願望を込め、禅宗の僧侶等にも相談するなどして「アノワ」という語を含む被控訴人商号を考案して商号変更し、さらにそのローマ字表記である「ANOWA」を含む被控訴人商品の名称(「ANOWA41」)を考案したものと認められ(乙11)、控訴人標章を被控訴人商品に使用するために、被控訴人の商号を、控訴人標章の「ANOWA」の読みである「アノワ」とし、ドメイン名も「ANOWA」を含む「ANOWA41」としたものであることを認めるに足りる証拠はない。被控訴人が、被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)を使用すればウェブ利用者に混乱が生じて控訴人に何らかの迷惑が及ぶかも知れないと考え、それを容認して被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)を使用したものであることを認めるに足りる証拠もない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 控訴人は、ウェブ検索で「anowa/ANOWA」と入力すると、控訴人のドメイン名(ANOWA.CO.JP)と被控訴人ドメイン名(ANOWA41.JP)が必ず並んで表示され、控訴人のウェブサイトでは控訴人の営業活動を示す文章・写真等が掲載され、被控訴人のウェブサイトではBの写真・被控訴人商品等が掲載されているとし、ウェブ閲覧者は、この二つのホームページを見て、商号が同一で、ドメイン名が酷似しており、控訴人標章と被控訴人標章1が酷似している(特に意識して見ないと同一である)ことからして、両者には人的・資金的な関連、又はウェブでの「ANOWA」という表示の利用に関する何らかの営業上の関連があるとの印象を受け、控訴人と被控訴人の誤認混同を生ずるとし、そのため、被控訴人には、「不正の利益を得る目的」があると主張する(前記第3の2⑷〔控訴人の主張〕イ)。
しかし、控訴人と被控訴人は業種が全く異なる上、ホームページの外観や内容も大きく異なる(甲5、6、30、乙6の1、2)から、ドメイン名の「ANOWA」という部分が共通しているとしても、それによって直ちに控訴人と被控訴人の誤認混同を生ずるとは認められない。また、前記⑴アのとおり、不正競争防止法2条1項19号にいう「不正の利益を得る目的」とは、公序良俗に反する態様で、自己の利益を不当に図る目的をいうと解すべきであるところ、本件においては、上記のとおり、控訴人と被控訴人の誤認混同を生ずるとは認められないし、その他に、被控訴人が、公序良俗に反する態様で、自己の利益を不当に図る目的があったことを認めるに足りる証拠もない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することできない。
5 その他、控訴人は縷々主張するが、それらは、いずれも採用することができない。
6 結論
以上によれば、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであるところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
(裁判長裁判官 東海林保 裁判官 中平健 裁判官 都野道紀)
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