裁判年月日 令和 3年10月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令元(ワ)15716号・令2(ワ)4369号
事件名 競業行為差止等請求事件、損害賠償請求反訴事件
文献番号 2021WLJPCA10299003
裁判経過
控訴審 令和 4年 6月30日 知財高裁 判決 令3(ネ)10096号 競業行為差止等請求本訴・損害賠償請求反訴控訴、同附帯控訴事件
出典
裁判所ウェブサイト
裁判年月日 令和 3年10月29日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令元(ワ)15716号・令2(ワ)4369号
事件名 競業行為差止等請求事件、損害賠償請求反訴事件
文献番号 2021WLJPCA10299003
本訴原告・反訴被告 A(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 石渡敏暁
本訴被告・反訴原告 B
本訴被告 株式会社ギャラリーアートポイント
(以下「被告会社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 宮﨑まどか
主文
1 Bは,原告に対し,40万6560円並びにうち4960円に対する令和2年10月9日から支払済みまで年5分の割合による金員及びうち40万1600円に対する同日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告は,Bに対し,128万3060円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告は,ウェブページ,パンフレット,チラシ等の広告物又は第三者への通知において,Bからギャラリーアートポイントの営業譲渡を受けた旨を記載し,又は,その旨を告知してはならない。
4 原告は,自己の営業上で用いる看板,ポスター等の掲示物若しくはチラシに別紙6原告標章目録記載の各標章を付して展示し,若しくは頒布し,又は原告が代表者である旨を明記したインターネット上の告知若しくは宣伝に当該各標章を付して電磁的方法により提供してはならない。
5 原告は,「artpoint.jp」のドメイン名を保有し,又は,使用してはならない。
6 原告のBに対するその余の本訴請求,原告の被告会社に対する本訴請求及びBのその余の反訴請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は,本訴反訴を通じてこれを5分し,その3を原告の負担とし,その余をBの負担とする。
8 この判決は,第2項ないし第5項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 本訴請求
(1) Bは,令和19年10月23日までの間,東京都中央区において,貸画廊及び企画画廊,これに類似する営業又は事業をしてはならない。
(2) Bは,貸画廊及び企画画廊を行うに当たり,「GALLERY ART POINT」なる名称,「ギャラリーアートポイント」なる名称又はこれらに類似の名称を使用してはならない。
(3) B及び被告会社(以下「被告ら」という。)は,別紙3被告らウェブページ目録記載の各ウェブページ,Facebook(https://以下省略),Twitter(https://以下省略)),パンフレット,チラシ等に,別紙2被告ら標章目録記載の各標章を付して,展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に同目録記載の各標章を付して電磁的方法により提供してはならない。
(4) 被告らは,別紙3被告らウェブページ目録記載の各ウェブページ,Facebook(https://以下省略),Twitter(https://以下省略)),パンフレット,チラシ等の広告物から,別紙2被告ら標章目録記載の各標章を削除せよ。
(5) Bは,自ら又は第三者をして,別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載の各行為によって,原告の貸画廊及び企画画廊の営業を妨げてはならない。
(6) Bは,原告に対し,403万7900円及びこれに対する令和2年10月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴請求
(1) 原告は,Bに対し,751万5000円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 主文第3項及び第4項同旨
(3) 原告は,「artpoint」を含むドメイン名を取得し,保有し,又は,使用してはならない。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 本訴事件
本訴事件は,「GALLERY ART POINT」という商号(以下,「本件商号」ということがある。)を使用して貸画廊の事業を行い,「GALLERY ART POINT」の文字を含む別紙1原告商標権目録記載の登録商標(以下「原告商標」という。)についての同目録記載の商標権(以下「原告商標権」という。)を有する原告が,同じく,本件商号で貸画廊の事業を行うB及びBが代表者を務める被告会社に対し,以下の各請求をする事案である。
ア Bから本件商号での画廊の営業について営業譲渡を受けた(以下,「本件営業譲渡」といい,本件営業譲渡に係る契約を「本件営業譲渡契約」という。)として,Bに対し,選択的に本件営業譲渡契約又は商法16条1項に基づき,東京都中央区における貸画廊等の営業の差止めを請求するもの(前記第1の1(1)に係る請求)。
イ Bに対し,本件営業譲渡契約に基づき,貸画廊及び企画画廊を行うに当たり,本件商号,その日本語表記である「ギャラリーアートポイント」又はこれらに類似の名称を使用することの差止めを請求するもの(前記第1の1(2)に係る請求)。
ウ 被告らによる別紙2被告ら標章目録記載の各標章(以下,同目録の符号に従って「被告ら標章1」などといい,併せて「被告ら各標章」という。)の使用が原告商標権の侵害に当たるとして,被告らに対し,商標法36条1項に基づく被告ら各標章の使用の差止め及び同条2項に基づく被告ら各標章の削除を請求するもの(前記第1の1(3)及び(4)に係る請求)。
エ Bによって原告の貸画廊の営業が妨害されているとして,Bに対し,選択的に本件営業譲渡契約又は営業権に基づき,別紙4営業妨害目録(差止対象行為)記載の行為によって原告の貸画廊及び企画画廊の営業を妨害することの差止めを請求するもの(前記第1の1(5)に係る請求)。
オ Bに対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,営業妨害行為による損害額合計223万3319円,原告商標権の侵害による損害合計143万7500円(商標法38条3項による使用料相当額の損害)及びこれらの合計額である367万0819円の1割に相当する弁護士費用相当額36万7081円の合計403万7900円並びにこれに対する不法行為の後の令和2年10月9日(同月2日付け訴えの追加的変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求するもの(前記第1の1(6)に係る請求)。
(2) 反訴事件
反訴事件は,本件商号で貸画廊を営み,「GALLERY ART POINT」の文字を含む別紙5被告商標権目録記載の各登録商標(以下,同目録の符号に従って「被告商標1」及び「被告商標2」といい,併せて「被告各商標」という。)についての同目録記載の各商標権(以下,同目録の符号に従って「被告商標権1」及び「被告商標権2」といい,併せて「被告各商標権」という。)を有するBが,原告に対し,以下の各請求をする事案である。
ア 原告がBから営業譲渡を受けたとウェブページ等の広告物や第三者への通知において告知することが,虚偽の事実を告知するものであり,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号の不正競争に該当するとして,不競法4条に基づく損害賠償請求として合計569万5000円(売上減少による損害319万5000円及び信用毀損による無形損害ないし精神的損害250万円)の支払を請求し,原告がBの画廊のインターンの業務を妨害したとして,不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料50万円の支払を請求し,原告とBが交互に使用している画廊の内装費をBが全額負担したことにより,原告に不当利得が生じたとして,不当利得返還請求権に基づき,内装費の半額に相当する132万円の支払を請求するとともに,これらの請求金額合計751万5000円に対する本判決確定の日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求するもの(前記第1の2(1)に係る請求)。
イ 前記アの不正競争について,不競法3条1項に基づき,当該行為の差止めを請求するもの(主文第3項に係る請求)。
ウ 原告による別紙6原告標章目録記載の各標章(以下,同目録の符号に従って「原告標章1」及び「原告標章2」といい,併せて「原告各標章」という。)の使用が,被告各商標権の侵害に当たり,また,別紙7被告著作物目録記載のロゴマーク(以下「本件ロゴマーク」という。)はBが著作権を有する著作物であるから,原告による原告各標章の使用は,Bの著作権(公衆送信権及び複製権)の侵害にも当たるとして,選択的に商標法36条1項又は著作権法112条2項に基づき,原告各標章の使用の差止めを請求するもの(主文第4項に係る請求)。
エ 原告による「artpoint.jp」のドメイン名(以下「原告ドメイン名」という。)の取得,保有及び使用が,不競法2条1項19号の不正競争に該当すると主張して,不競法3条1項に基づき,「artpoint」を含むドメイン名の取得,保有及び使用の差止めを請求するもの(前記第1の2(3)に係る請求)。
2 前提事実(当事者間に争いがない又は後掲の証拠(以下,書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,別紙8事務所所在地目録記載1の所在地(以下,「原告事務所所在地」といい,同所における原告の事務所(展示室及び事務室を含む)を「原告事務所」という。)において,本件商号を使用して,貸画廊の事業を行う個人であり,合同会社GALLERY ART POINTという貸画廊の事業を行う法人を経営している。
イ Bは,別紙8事務所所在地目録記載2の所在地(以下,「被告ら事務所所在地」という。)において,本件商号を使用して,貸画廊の事業を行う個人である。
ウ 被告会社は,平成30年3月23日に設立され,被告ら事務所所在地において貸画廊の事業を行う法人であり,Bがその代表者を務める。
(2) 原告とBとの婚姻関係等
ア 原告とBは,平成26年8月頃知り合い,その後交際を開始し,平成27年2月20日に婚姻の届出をした(甲1)。
イ Bは,原告と婚姻する以前から,「GALLERY ART POINT」という名称の画廊を経営していたところ,原告は,Bとの婚姻当初から,上記画廊の経営をサポートしていた。
ウ 原告とBとは,平成30年1月頃から別居を開始した。
エ 原告は,平成30年8月,Bを相手方として夫婦関係調整調停を申し立て,同年11月,同調停が不成立にて終了したことから,平成31年1月16日,Bに対して離婚を求める訴訟を提起した(東京家庭裁判所平成31年(家ホ)第20号離婚等請求事件。その後,Bからも離婚等を求める訴訟(同庁令和元年(家ホ)第866号離婚等請求反訴事件)が提起された。以下併せて「本件離婚訴訟」という。)。
原告とBとは,原告とBとを離婚する旨の本件離婚訴訟の判決(令和2年8月26日確定)によって離婚した(甲207)。
(3) 原告と被告らによる画廊の営業
原告と被告らは,遅くとも,平成30年1月以降,それぞれ,同一の建物の同じ区画である原告事務所所在地及び被告ら事務所所在地(以下,この場所の展示室及び事務室を併せて「本件事務所」ということがある。)において,いずれも本件商号を使用し,交互に本件事務所を使用する状況で,貸画廊の営業を行っている。
(4) 原告とBの商標権
原告は原告商標権を有しており,Bは被告各商標権を有している(甲13,14,乙43,45,65,66)。
(5) 被告らによる被告ら各標章の使用
ア 被告ら各標章と原告商標との対比
被告ら標章1は原告商標と同一であり,被告ら標章2は,色彩を原告商標と同一にするものとすれば原告商標と同一と認められるものとして,原告商標に類似し(商標法70条1項参照),被告ら標章3ないし5は,いずれも原告商標と類似する。
イ 被告ら各標章の使用
被告らは,平成29年10月24日以降(被告会社については,その設立日である平成30年3月23日以降),画廊の事業を行うに当たり,被告らが運営する別紙3被告らウェブページ目録記載の各ウェブページ(以下これらのウェブページからなる,被告らが運営するウェブサイトを「被告らウェブサイト」という。),ソーシャルネットワーキングサービスであるFacebook,Twitter及びパンフレット・チラシ等において,それぞれ,被告ら各標章を付して,宣伝広告活動を行っているほか,Facebook,Twitter及びYouTubeを用いて,展示会の様子を映像として掲載することにより,電磁的方法による映像面を介した画廊の役務の提供に当たり,その映像面に被告ら各標章を表示している(甲6ないし12,16ないし21)。
(6) 原告による原告各標章の使用
ア 原告各標章と被告各商標との対比
原告各標章は,いずれも被告各商標と類似する。
イ 原告各標章の使用
原告は,令和元年11月9日以降,貸画廊の事業を行うに当たり,その看板,ポスター,チラシ等の広告物に原告各標章を付して展示又は頒布し,また,原告が管理するウェブサイト(後記(7)の原告ドメイン名を用いたもの。以下「原告ウェブサイト」という。),Facebook,TwitterなどのSNS上で貸画廊の役務に関する広告を内容とする情報に原告各標章を付して電磁的方法によって提供している。
(7) 原告による原告ドメイン名の使用
原告は,平成30年初め頃に,原告ドメイン名を取得し,その頃から,これを使用している。
原告ドメイン名の主要部分は「artpoint」であるから,原告ドメイン名は,Bの商号であり,被告各商標の文字部分の日本語表記でもある「ギャラリーアートポイント」と類似する。
3 争点
(1) 本訴請求関係
ア Bに対する営業及び商号使用の差止請求(請求の趣旨1(1),(2))に関する争点(争点1)
(ア) 本件営業譲渡契約の成否(争点1-1)
(イ) 差止請求権の有無及び範囲(争点1-2)
イ 被告らに対する原告商標権に基づく差止及び廃棄請求並びにBに対する原告商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(請求の趣旨1(3),(4),(6))に関する争点(争点2)
(ア) 被告らの役務と原告商標権の指定役務の類否(争点2-1)
(イ) 被告らによる原告商標権の無効の抗弁(商標法39条,特許法104条の3の抗弁)の成否(争点2-2)
a 商標法4条1項7号(公序良俗違反)該当性(争点2-2-1)
b 商標法4条1項10号(他人の周知商標と同一・類似の商標)該当性(争点2-2-2)
(ウ) Bによる商標法29条の抗弁の成否(争点2-3)
a 本件ロゴマークの著作物性(争点2-3-1)
b 本件ロゴマークについてのBの著作権取得の有無(争点2-3-2)
c 本件営業譲渡契約に伴う,Bから原告への本件ロゴマークの著作権の譲渡の有無(争点2-3-3)
d 原告商標の使用がBの著作権の侵害に当たるか(争点2-3-4)
(エ) 原告の被告らに対する原告商標権の行使が権利の濫用に当たるか(争点2-4)
(オ) Bの商標権侵害による原告の損害の発生及びその額(争点2-5)
(カ) 被告らの商標使用についての差止め及び廃棄の必要性(争点2-6)
ウ Bに対する,営業妨害行為の差止請求(請求の趣旨1(5))の当否(争点3)
エ Bに対する,営業妨害行為の不法行為に基づく損害賠償請求(請求の趣旨1(6))の当否(争点4)
(2) 反訴請求関係
ア 原告に対する不競法2条1項21号の不正競争を理由とする損害賠償請求及び差止請求(請求の趣旨2(1),(2))に関する争点(争点5)
(ア) 原告とBとの競争関係の有無(争点5-1)
(イ) 他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知の有無(争点5-2)
(ウ) 不正競争についての原告の故意・過失の有無(争点5-3)
(エ) 不正競争によるBの損害(争点5-4)
(オ) 差止めの必要性(争点5-5)
イ 原告に対する不法行為に基づく損害賠償請求(請求の趣旨2(1))に関する争点(争点6)
(ア) インターンの仕事の妨害等の有無及び不法行為該当性(争点6-1)
(イ) Bの損害の発生及びその額(争点6-2)
ウ 原告に対する不当利得返還請求の当否(争点7)
エ 原告に対する被告各商標権に基づく差止請求(請求の趣旨 2(3))に関する争点(争点8)
(ア) 原告の役務と被告各商標権の指定役務の類否(争点8-1)
(イ) 差止めの必要性(争点8-2)
(ウ) Bの原告に対する被告各商標権の行使が権利の濫用に当たるか(争点8-3)
オ 原告に対する著作権法112条1項に基づく差止請求の当否(争点9)
カ 原告に対する不正競争防止法2条1項19号の不正競争を理由とする差止請求に関する争点(争点10)
(ア) 「ギャラリーアートポイント」が「他人の特定商品等表示」に当たるか(争点10-1)
(イ) 図利加害目的の有無(争点10-2)
(ウ) 差止めの必要性(争点10-3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(Bに対する営業及び商号使用の差止請求に関する争点)について
(1) 争点1-1(本件営業譲渡契約の成否)について
(原告の主張)
ア 本件営業譲渡契約の成立
Bは,婚姻当初から,「将来企画画廊をやっていきたい。それには,800万円程の資金が必要になる。」等と,原告に対して,繰り返し述べていた。
また,この頃,Bは,「企画画廊を始めたら,GALLERY ART POINTの事業を原告に任せて,譲りたい。」等とも述べ,Bの画廊経営をサポートしていた原告に営業譲渡の話を度々持ち掛けていた。
原告は,平成27年2月20日頃,Bとの間で,800万円の支払を対価として,Bが原告に対して,Bが本件商号で行っていた貸画廊(以下「本件画廊」という。)の全ての業務を譲り渡す旨の合意をした(本件営業譲渡契約)。
本件営業譲渡契約は,Bが,原告に対し,本件画廊の業務について,営業権を含む全ての権利,及び,屋号を含む全ての商号を譲渡するという内容であり,商号の譲渡に関しては,当事者の合理的意思として,本件商号のみならず,「ギャラリーアートポイント」等の本件商号に類似する名前も譲渡の対象とするものであった。
イ 本件営業譲渡の代金の支払
原告は,平成27年2月20日から平成28年1月3日にかけて,原告の両親がいわゆるタンス預金として自宅で保管していた現金を原告の母から借り受けて,Bに対し,本件営業譲渡代金として合計571万円を現金で支払った。
その後,原告は,税金対策のためであるとのBの説明を受けて,原告の画廊業務による外注費名目で,平成28年2月から平成29年8月にかけて,原告の毎月の売上げの6割をBに対して支払い,これによって,同月までに,Bに対する本件営業譲渡契約の代金の支払を完了した。
ウ 本件画廊の移転を条件とする本件営業譲渡に基づく権利移転
原告とBは,平成29年9月26日,本件営業譲渡契約の内容に付加して,本件画廊がその当時の所在地から別の場所に移転することを本件営業譲渡による権利移転の条件とすることを合意した。
原告は,同年10月24日,原告は,原告事務所所在地に自身の営業の事務所を移転し,それと同時にBも,自身の営業の準備として,同一の場所である被告ら事務所所在地に事務所を移転し,これに伴い本件画廊も同所に移転した。
したがって,同日,原告とBの間の本件営業譲渡契約の条件が成就し,原告は,本件商号を含む本件画廊の全ての権利を譲り受けた。
エ 甲第4号証の書面(以下「甲4書面」という。)について
(ア) 甲4書面の作成
原告及びBは,平成29年9月26日,前記ウの条件を合意した際に,本件商号や本件画廊の業務全てを原告に譲渡するとの内容の書面(甲4書面)を作成し,Bは,これに署名押印した。
甲4書面には,「私Bは企画画廊の資金800万円をAから受け取りましたのでGALLERY ART POINTの移転場所が決まり移転したらGALLERY ART POINTの名前も事業もすべての権利をAに譲渡します」との記載がある。これは,原告及びBの間で,「GALLERY ART POINT」の名前も権利も全て譲渡する旨,また,その対価が支払済みである旨が記載されたものである。
甲4書面は,当初の営業譲渡の合意後に作成されたものであり,これをもって本件営業譲渡契約が締結されたわけではないとしても,営業譲渡に必要な事実は全て記載されており,処分証書に近い性質の文書である。
(イ) 甲4書面が真正に成立したこと
Bは,甲4書面のB作成部分について,署名を偽造されたものである旨主張する。
しかしながら,甲4書面のBの印影は,Bが押捺した事業用賃貸借契約書(甲5)の印影と同一である。また,甲4書面のBの署名についても,B自身の署名であることに争いのない他の書面の(甲5,乙62)の署名と酷似している。したがって,特段の事情がない限り,甲4書面は真正に成立しているといえる。
(ウ) 甲4書面の記載内容を裏付ける事実
甲4書面の記載内容を裏付ける事実,すなわち,本件営業譲渡契約が成立していることを裏付ける事実としては,以下の点が挙げられる。
a 甲4書面には,571万円が2015年度に支払われた旨が記載されているが,この点に関しては甲第3号証の書面(以下「甲3書面」という。)に,具体的に受領した日付と金額の記載がある。甲3書面について,Bは,金額を自ら記載したことを認めつつ,ここに記載した数字は売上げの予想である旨供述するが,当該供述は信用できない。
b 甲4書面の作成前から,原告は,甲4書面に記載されたとおり,画廊を移転するべく移転先を探している。本件事務所の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」といい,これに係る契約書(甲5)を「本件賃貸借契約書」という。)については,原告とBの双方が,賃借人となっているものの,これは,貸主側の審査が原告のみでは通らなかったためであり,当初は,原告のみが賃借人となることが前提となっていたもので,Bが連帯保証人になることも予定していなかった(甲134)。また,本件賃貸借契約の保証金は原告が支払っており,これは,最終的な原状回復の責任を原告が負うという点について原告とBが予定していたからであり,原告が本来の賃借人であることを示すものである。
c 甲4書面の作成直後から,原告からBへの外注費名目の支払がされなくなっていることも,「私Bは企画画廊の資金800万円をAから受け取りました」との甲4書面の記載内容を裏付けるものである。
d 被告らは,本件訴訟以前に,甲4書面に記載された本件営業譲渡の事実を原告が主張していなかったと主張する。
確かに,原告の以前の代理人弁護士が送ったメール(乙21)等には,本件営業譲渡の事実を主張していないものもあるが,これは,甲4書面が平成30年1月当時見つからなかったため,証拠がないものを主張すべきでないと判断したためである。また,原告が同年2月26日に以前の代理人弁護士に送信したメール(乙13の1)には,原告のBに対する主張内容として,「お母さまが守った画廊エリザベスビルはそちらが解約と保証金を受け取った時点で終わっています。藤和銀座一丁目ビルは私が探して保証金を入れた画廊です」との記載があり,原告は,この当時から,本件画廊が自らの画廊であることを主張している。この主張は,本件営業譲渡があったことを前提としていることは明らかである。また,警察への相談処理経過の概要(乙22)にも,原告が,「夫と離婚して画廊の権利を全て私にしてもらうという条件を夫が飲めば,その他慰謝料を請求するつもりはない」と警察官に述べたことが記載されている。この警察官への相談は,本件営業譲渡契約後,本件画廊の移転前の時期であったところ,本件営業譲渡契約の存在を前提にその実行を求めたものであり,特に甲4書面と矛盾するものではなく,むしろその内容を裏付けるものである。
(Bの主張)
ア 本件営業譲渡契約の成立について
本件営業譲渡契約の成立は否認する。原告とBとの間で,平成27年2月20日頃,800万円の対価で本件画廊の全ての業務を譲り渡す旨の合意が成立したとの事実はない。
その当時,本件画廊の経営は順調であり,その年間の売上げは確定申告上でも1000万円前後はあったものであり,800万円の対価でBがこれを譲渡することはあり得ない。
また,Bが原告と結婚するタイミングで先の見えない新規事業に手を出そうとすることはあり得なかったし,その当時,原告は画廊については全くの素人であり,原告に本件画廊を譲渡して経営が成功する見通しも全くなかったから,結婚を控えたBと原告がそのような営業譲渡契約をする理由は全くない。
イ 本件営業譲渡の代金の支払について
本件営業譲渡の対価として,原告がBに合計571万円の現金を支払ったとの事実は否認する。この571万円について原告は両親が原告のために貯めていたタンス預金だと主張しているが,そのような現金の存在やBへの支払の事実を裏付ける証拠はない。
また,原告からBに支払われていた原告による画廊売上金の6割に相当する金銭は画廊使用料であり,営業譲渡の代金ではない。
ウ 本件画廊の移転を条件として本件営業譲渡に基づく権利移転が実行されたとの主張について
Bは,原告との間で,本件画廊の移転の際に本件営業譲渡を実行するとの合意はしていない。
本件画廊の移転によって本件画廊についての営業譲渡が完成するとすれば,Bはその後の本件画廊以外の事業の計画を立てていたはずであるが,平成29年9月26日当時,Bにはそのような計画はなかった。かえって,Bは,本件事務所への移転のために264万円を画廊改装費として支出しているが,本件画廊を原告に譲渡するのだとすれば不自然である。
エ 甲4書面について
(ア) 甲4書面は偽造文書であること
a 甲4書面のB名下の署名押印がBによるものであることは否認する。B名下の印影がBの印章によることは不知である。
b 甲4書面は,書面の重要部分が原告の手書きであり,Bの署名がある用紙さえあれば,原告が後から書き加えることは極めて容易である。
また,甲4書面のBの署名は,本件賃貸借契約書を原告が有していたことから,原告がBの署名に似せて書くことは難しくはない。さらに,B名下の押印については,原告とBが,当時夫婦であり,かつ,同じ事務所でデスクを並べて仕事をしていた環境にあったことからすると,原告がBの印章を使用して押印することも極めて容易である。
(イ) 甲4書面の記載内容を裏付ける事実がないこと
甲4書面の記載内容や原告の主張する本件営業譲渡契約は不自然であり,これらの作成や合意がされたことを裏付ける事実はない。
a 甲4書面の内容は,実際には存在しない金額について原告からの支払を認め,本件画廊を譲渡することを約束するとの内容であり,Bにとって一方的に不利なものである。
このような書面を,原告に求められるままに,内容を原告に書かせた上で,Bが署名押印することによって作成することはあり得ない。
b 甲3書面のB作成部分のうち,金額部分を作成したことは認めるが,金額の横の押印がBによるものであることは否認し,その印影がBの印章によることは不知である。甲3書面はBが金額を記載した時点では白紙であった。
甲3書面は,Bが本件画廊の移転先候補地の間取りに合わせて収支のシミュレーションをしたメモ書きであり,営業譲渡の代金の支払に関する書面ではない。
c 原告は,Bに対して画廊使用料を支払うことに不満が大きく,原告とBは,本件画廊の移転後は,家賃や経費を折半することにより,画廊使用料は支払わないようにすることで合意した。本件画廊の移転先を探すことに原告が積極的に参加するようになったのも,本件賃貸借契約を原告とBの共同名義で行ったのも,そのためである。
他方,本件賃貸借契約の保証金については,Bが自ら負担するつもりでいたが,契約締結の窓口となって進めていた原告が自己資金の中からそれを支払っており,退去時に返還されるという保証金の性質上,Bは,あえて折半を主張する必要はないと考えて,これを黙認した。
また,移転後の本件画廊の改装内容については,Bが決め,前記ウのとおり,画廊の改装費については,Bが全額を支払い,保険等,その他の出費についても,Bが自らの画廊に係るものとして支払を行った。
d 原告は,平成30年1月頃から始まった,当時の原告の代理人弁護士を通じたBとの交渉において,Bから暴力や営業妨害をされているなどの多くの主張をしながら,本件営業譲渡を前提とした主張をしていなかった。
(2) 争点1-2(差止請求権の有無及び範囲)について
(原告の主張)
Bは,本件営業譲渡契約及び商法16条1項により,本件営業譲渡の効力として,競業避止義務を負う。
これに反して,Bは,画廊の事業を営み,本件商号を使用している。
本件営業譲渡契約は,本件商号を含めた一切の権利を譲渡するものであるから,本件営業譲渡契約及び商法16条1項の差止請求権は,Bが現在本件商号で営んでいる貸画廊の事業に及ぶことは明らかである。
したがって,原告は,Bに対し,本件営業譲渡契約及び商法16条1項に基づき,前記第1の1(1)の画廊の営業の差止請求権を有するとともに,本件営業譲渡契約に基づき,前記第1の1(2)の本件商号等の名称の使用差止請求権を有する。
(Bの主張)
本件営業譲渡契約は成立していないから,当該契約に基づく差止請求はいずれも認められず,また,本件営業譲渡が存在しないため,商法16条1項に基づく差止請求も認められない。
2 争点2(被告らに対する原告商標権に基づく差止及び廃棄請求並びにBに対する原告商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求に関する争点)について
(1) 争点2-1(被告らの役務と原告商標権の指定役務の類否)について
(原告の主張)
ア 原告商標権の指定役務
原告商標権の指定役務のうち,第35類の「画廊による美術品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」には,画廊として作家のために展示した絵画等の美術品が売れた際に,販売代金のうち一部を手数料として徴収すること等,作家のために美術品等を販売する役務が含まれ,また,第41類の「絵画及び美術品の展示,絵画及び美術品の貸与」には,ウェブサイトや広告媒体等において,作家の絵画を展示する役務が含まれる。
イ 被告らの役務
被告らは,平成29年10月24日以降,現在に至るまで,被告事務所所在地において,業として,作家のために展示した絵画等の美術品が売れた際に販売代金のうち一部を手数料として徴収する役務,作家のために美術品等を販売する役務,及び,ウェブサイトや広告媒体等において作家の絵画を展示する役務(以下,併せて「被告ら役務」という。)を行い,もって,「画廊による美術品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」をし,また,「絵画及び美術品の展示,絵画及び美術品の貸与」をしているから,被告ら役務は,原告商標権の指定役務に含まれる。
ウ 被告らの主張について
被告らは,企画画廊と貸画廊の違いを前提に,原告商標権の指定役務が貸画廊の役務を示すものではない旨主張する。
しかしながら,貸画廊と企画画廊の違いは,一般的に企画画廊においては展覧会を主催するのが画廊であるのに対し,貸画廊においては展覧会を主催するのは画廊のスペースを借りた企画主であるというにすぎない。そのため,貸画廊であっても,画廊での作品の売上げから一定割合の販売手数料が発生することも珍しくなく,その場合,手数料に見合った販売に関する業務を行うことを画廊側としても求められる。
そして,ある時期には画廊の企画展を行い,別の時期には画廊のスペースを貸して使用料を受け取る貸画廊を行うといったように,企画画廊と貸画廊の両者を兼ねる画廊も少なくない。企画画廊であっても,多くの作品は,自ら仕入れ,つまり購入をし,販売しているものではなく,一定期間作品を預かり,それを販売しているのであり,自ら仕入れをしていないものについて委託を受けて販売業務をするという点では,企画画廊であっても,貸画廊であっても異なるものではない。
このように,企画画廊と貸画廊という一応の区別はあるものの,その両者の区別は曖昧な部分があり,企画画廊か貸画廊かにかかわらず,画廊に関する業務については,原告商標権のように,第35類や第41類として登録することが一般的である。
また,原告商標権には,類似群コードとして35A01が付されているところ,この類似群コードには「商業又は広告のための画廊に関する役務の提供」が含まれており,この点からも原告商標の指定役務には広く画廊において提供するサービス一般が含まれることが明らかである。
なお,Bは,被告各商標権の登録をするに当たって第41類についても指定役務として出願していたものの,原告商標の存在を理由に拒絶されたことから,これを指定役務から外しており,このような経緯からすれば,Bも第41類に貸画廊の役務が含まれると認識していたことは明らかである。
エ したがって,被告ら役務は,原告商標の指定役務に含まれ,又は,少なくともこれと類似するものである。
(被告らの主張)
ア 原告商標権の指定役務について
(ア) (原告の主張)アにつき,第35類の一般論としては認めるが,原告商標権の指定役務のうち第35類の類似群コードは,20C01,20C50,20D50,26B01,26C01,35A01及び35K99であり,小売りの業務は含まれるものの,貸画廊の本来業務としての絵画を展示することに対する対価を得ることは含まれない。
原告商標権の指定役務の「画廊による美術品の小売りの業務において行われる顧客に対する便益の提供」とは,小売りをする場合の役務を指し,貸画廊は,美術品の販売の仲介はするが,美術品の小売りはしないから,これに該当しない。
したがって,貸画廊において「画廊として作家のために展示した絵画等の美術品が売れた際に,販売代金のうち一部を手数料として徴収すること等」は,上記類似群コードの指定役務には含まれない。
(イ) (原告の主張)アの第41類についての主張は争う。第41類は,文化,教育,娯楽サービスの区分であり,商業的な貸画廊サービスはこれに含まれない。
イ 被告ら役務について
被告ら役務が,「画廊による美術品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」並びに「絵画及び美術品の展示,絵画及び美術品の貸与」に当たるとの主張は争う。
被告ら役務はスペースを貸して行う貸画廊であり,前記アからすれば,被告ら役務は,原告商標権の指定役務に含まれず,また,これに類似するものでもない。
(2) 争点2-2(被告らによる原告商標権の無効の抗弁(商標法39条,特許法104条の3の抗弁)の成否)について
ア 争点2-2-1(商標法4条1項7号(公序良俗違反)該当性)について
(被告らの主張)
被告ら標章1は,Bがその経営に係る本件画廊の名称や標章として使っていたものであり,現在も被告らが使用しているものである。
原告は,Bと夫婦であったことから,Bの本件画廊の名前を暫定的に借りて,画廊の運営をBと交代で行うことになったものである。そして,原告は,離婚後もBと画廊の経営を交代で行うことになったが,あくまで被告らの経営する本件画廊の名前を暫定的に借りて経営する立場であるにすぎない。したがって,原告が独自に被告ら標章1と同一の原告商標の出願をすることは,社会的相当性を欠くものである。
これに対し,原告は,本件営業譲渡によって本件商号を譲り受けた旨主張するが,本件営業譲渡そのものが虚偽である。
よって,原告商標は公序良俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号)に該当するものであって,その登録は無効であるから,原告は,被告らに対して,原告商標権を行使することはできない(商標法46条1項1号,39条,特許法104条の3)。
(原告の主張)
原告は,本件営業譲渡によって,Bから,本件商号を含め本件画廊に関する全ての権利を譲り受けている。また,原告は,本件営業譲渡後,少なくとも積極的に被告らが本件商号を使用することを認めてはいない。
したがって,原告による原告商標の登録には社会的相当性を欠く目的は認められず,原告商標は商標法4条1項7号に該当するものではない。
イ 争点2-2-2(商標法4条1項10号(他人の周知商標と同一・類似の商標)該当性)について
(被告らの主張)
被告ら各標章は,原告による商標登録出願がされた平成30年1月当時,Bの本件画廊の業務に係る役務を表示するものとして,貸画廊を利用しようと考える作家や画廊関係者の間に広く認識されていた。
よって,被告ら各標章と同一又は類似である原告商標は,「他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標」(商標法4条1項10号)に該当するものであって,その登録は無効であるから,原告は,被告らに対して,原告商標権を行使することはできない(商標法46条1項1号,39条,特許法104条の3)。
(原告の主張)
平成30年1月当時にBが被告ら各標章を使用していた事実は認められるにしても,原告商標の出願時において,被告ら各標章が,一県の単位にとどまらず,その隣接数県の相当範囲の地域にわたって,少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていた事実は到底認められないから,被告ら各商標は需要者の間に広く認識されている商標であったとはいえない。
したがって,原告商標は商標法4項1項10号に該当するものではない。
(3) 争点2-3(Bによる商標法29条の抗弁の成否)について
ア 争点2-3-1(本件ロゴマークの著作物性)及び争点2-3-2(本件ロゴマークについてのBの著作権取得の有無)について
(Bの主張)
(ア) 本件ロゴマークの著作物性
本件ロゴマークはBが作成したものであり,個々の素材としてはありふれた図形や写植文字を使っているが,それらをバランスに配慮して一定の構図に組み立て,画廊のイメージを象徴するものとしてデザインしており,Bの個性が表れているものである。
したがって,本件ロゴマークには創作性が認められ,美術の範囲に属する著作物である。
原告は,単純な図形と文字の組合せにすぎないことから,著作物に当たらないと主張するが,ロゴマークという性質上,当該マークが他と識別できることを条件に,できるだけ単純な形に凝縮させることは,美術的表現の一方法としてしばしばあることである。また,分解した場合に図形と文字に分かれることをもって,著作物に当たらないということはできない。
(イ) 本件ロゴマークについてのBの著作権
a 本件ロゴマークはBが作成したものであるから,Bが著作権を有するものである。
b 原告は,本件ロゴマークの図形部分はBの創作ではないため,当該部分はBの著作物に当たらないと主張する。
しかしながら,単に一般的な三角形や四角形などの図形のみでは,他との識別もできず,独自性も認められないため,本件ロゴマークの図形部分のみではそもそも著作物に当たらない。
仮に,本件ロゴマークの図形部分に著作物性が認められるとすると,当該部分は,本件画廊の前々経営者であるC(以下「C」という。)によって,作成され,画廊のために使用されていたから,その著作権はCにあったといえる。その後,本件画廊の経営権をCからBの母であるDが引き継いだ際に,当該部分の著作権についても,本件画廊に付随するものとしてCからDに譲渡された。その後,Bは,Dから本件画廊の経営を引き継いだ際に,Dから当該部分の著作権の譲渡を受けたものである。
c よって,Bが本件ロゴマーク全体の著作権を有していることは明らかである。
(原告の主張)
(ア) 本件ロゴマークの著作物性について
本件ロゴマークは,平行四辺形の両側に二つの二等辺三角形を配置したものに,「GALLERY ART POINT」の文字を組み合わせたものである。
このうち,図形部分は,いずれも,単純かつ一般的なものを組み合わせたものにすぎず,一般的な表現によるものである。また,文字部分も,一般的な書体で記載し配置したものにすぎない。そして,これらの配置の方法も,図形部分の右又は下に文字を配置したものにすぎないから,単純かつ一般的なありふれた表現といわざるを得ず,思想又は感情の表現とはいえない。
したがって,本件ロゴマークは,創作性を有するものではなく,著作物性があるとは認められない。
(イ) Bが本件ロゴマークの著作権を有するとの主張について
本件ロゴマークは,元々Cが使用していたものであり,Cがいかなる経緯で本件ロゴマークを作成したかは不明である。
仮に本件ロゴマークに著作物性があったとしても,少なくとも,BやDはその著作者ではない。
Dの死亡時点で,Cは生存していたにもかかわらず,BはCを排除して本件画廊を経営するようになったものであり,本件ロゴマークや本件画廊の名称についてBとCとの間には紛争が生じていた。したがって,BがCから同人が有していた本件ロゴマークの著作権を取得したとは到底考えられない。
イ 争点2-3-3(本件営業譲渡契約に伴う,Bから原告への本件ロゴマークの著作権の譲渡の有無)について
(原告の主張)
仮にBが本件ロゴマークの著作権を取得していたとしても,本件営業譲渡の対象には本件画廊の事業に関する有形無形の財産が含まれるから,本件営業譲渡によって本件ロゴマークの著作権はBから原告に移転している。
(Bの主張)
本件営業譲渡の事実はないため,本件ロゴマークの著作権がBから原告に移転したとの事実もない。
ウ 争点2-3-4(原告商標の使用がBの著作権の侵害に当たるか)について
(Bの主張)
原告商標は本件ロゴマークとほぼ同一であるから,原告商標の使用は本件ロゴマークについてのBの著作権に抵触する。
したがって,原告は,商標法29条により,Bに対して,本件ロゴマークについてのBの著作権と抵触する部分については原告商標権(禁止権)を行使できないから,原告商標権に基づく差止請求及び原告商標権の侵害に基づく損害賠償請求は許されない。
(原告の主張)
Bの主張は争う。
(4) 争点2-4(原告の被告らに対する原告商標権の行使が権利の濫用に当たるか)について
(被告らの主張)
仮に,原告商標の登録について無効理由があるとまでいえないとしても,前記(2)ア(被告らの主張)及び同イ(被告らの主張)で述べた事情の下では,原告が被告らに対して原告商標権を行使することは権利の濫用として許されない。
(原告の主張)
原告は本件営業譲渡によってBから本件商号を含め本件画廊に関する全ての権利を譲り受けており,前記(2)ア(原告の主張)及び同イ(原告の主張)で述べた事情によれば,原告の被告らに対する原告商標権の行使は権利の濫用には当たらない。
(5) 争点2-5(Bの商標権侵害による原告の損害の発生及びその額)について
(原告の主張)
まず,原告商標についての使用料相当額は,市場の相場から概算すると売上額の5%を下らない。
次に,被告らウェブサイトの掲載内容から概算すると,商標の登録された後の平成31年1月1日から1年間のBの画廊の売上げは概ね1500万円程度であり,その5%の使用料相当額は年額75万円,月額6万2500円である。
そして,原告商標権は平成30年10月5日に登録されているところ,その翌月である同年11月から令和2年9月(令和2年10月2日付け訴えの追加的変更申立書提出の前月)までの23か月間の原告商標の使用料相当額は143万7500円であり,これがBの商標権侵害によって原告が受けた損害の額となる(商標法38条3項)。
(Bの主張)
原告の主張は争う。
被告らの年間の売上額に係る原告の主張及び使用料相当額がその5%を下らないとの原告の主張は,いずれも裏付けがあるものではない。
(6) 争点2-6(被告らの商標使用についての差止め及び廃棄の必要性)について
(原告の主張)
被告らは,前提事実(5)イのとおり,被告ら各標章を使用しているから,被告らに対して,商標法36条1項に基づき被告ら各標章の使用を差し止め(前記第1の1(3)),同条2項に基づき被告ら各標章の削除する(前記第1の1(4))必要がある。
(被告らの主張)
原告の主張は争う。
3 争点3(Bに対する,営業妨害行為の差止請求の当否)について
(原告の主張)
(1) 原告の営業権及び本件営業譲渡契約
ア 営業権には,他人に妨害されずに正当な営業行為を行い得る「営業行動の自由」の保障が含まれており,特に営業権の主体が個人事業主の場合には,人格的利益としての側面を有している。
そして,個人事業主である原告の正当な営業活動は,営業権を理由として,第三者による侵害から保護されなければならないから,原告は営業権に基づいて営業妨害行為の差止めを求めることができる。
イ Bは,原告に対し,本件営業譲渡契約により,有償で営業を譲渡している。
そして,本件営業譲渡契約の趣旨からは,譲渡人であるBは,譲受人である原告の営業を妨害しない義務を負い,譲受人である原告は,譲渡人であるBに対し,営業妨害行為をしないよう求める権利を有すると解される。
したがって,原告は,Bに対し,営業妨害行為の差止めを求めることができる。
(2) Bによる営業妨害行為
Bは,別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載の各行為に相当する,以下の各営業妨害行為を行っている。
ア 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載1に係る行為について
(ア) Bは,平成30年5月29日頃,原告が本件事務所において自身の顧客であるEと話をしている際に,大声で原告を怒鳴る等の行為を行った。
(イ) Bは,平成30年6月26日頃,原告の顧客作家に対し,原告があたかも病気であるかのように述べて,原告を誹謗中傷した。
(ウ) Bは,平成30年7月11日18時30分頃,原告が本件事務所において自身の顧客と話をしている際に,すぐそばで大きな音を立てながら口笛を吹くなどするのみならず,同日19時頃,原告の顧客であるF及びGに対して,粗雑な物言いで対応した上,両人を睨み付ける等の行為を行った。原告は,平成30年7月18日にも作家に対するBの対応に関して作家からのクレームを受け,この他にも顧客から多数のクレームを受けた。
(エ) Bは,平成30年8月27日,本件事務所において,観覧客である社会福祉法人中央区社会福祉協議会員のHに対して,「帰ってもらってもよいですか。」と述べる等の応対を行った。
(オ) Bは,平成30年11月19日,本件事務所において,原告の顧客作家のいる前で,原告が作成した張り紙をペンチで外すといった行為に及び,原告の画廊業務スタッフであるIに恐怖を与え,原告に対する顧客作家や業務スタッフらの信用を毀損した。
(カ) Bは,平成31年4月17日,原告が本件事務所において仕事をしている際に,原告の前で,事業譲渡書の偽造なんて刑罰だから,刑務所にぶち込まれるから等と述べ,原告を畏怖させ,業務を妨害した。
(キ) Bは,令和元年5月31日,原告が本件事務所で顧客のJと商談をしている最中に,大声で電話をして,あたかも原告が営業譲渡の契約書を偽造して営業し,商標権を無断使用しているかのような発言を行い,さらには,Jに体をぶつける等の行為に及び,原告の営業を妨害した。なお,原告が本件営業譲渡についての説明文を原告ウェブサイト上に掲載したのは,Bによる虚偽の説明や原告を誹謗するメッセージが広く流布されたことから,被害の拡大を止めるため,やむを得ず行ったことである。
(ク) Bは,令和元年11月25日午後3時15分頃,本件事務所内において,原告,原告のスタッフであるK及びBのスタッフであるLがいるところで,平成30年2月18日原告とBとが言い争いになった様子を録音したデータを大音量で再生した。しかも,その再生時間は,2,3秒にとどまるものではなかった。顧客の前で,このような録音データを再生する行為は,原告を誹謗中傷するものに他ならない。
イ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載2に係る行為について
Bは,平成30年5月30日,原告がこれまでのBの妨害行為に対する抗議をした状況を録音して,同日,Mが本件事務所において個展発表をしているまさにそのとき,これを大音量で再生した。なお,同日,原告とBとの間で,Bが再生の理由として主張するようなやりとりはなかった。
ウ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載3に係る行為について
(ア) Bは,平成30年10月28日頃,原告が利用している事務所の展示スペースに取り付けてあるライトを原告の顧客が観覧している目の前で撤収し,原告に急遽ライトを購入させる等の営業妨害を行った。
さらに,Bは,平成31年4月18日,本件事務所の展示室を使用後,翌日から原告が展示室を画廊業務にて使用することになっていたにもかかわらず,当日中に展示室の画廊の壁を原状に戻さず,Bの作家が使用した荷物をそのままの状態にして,翌日の原告の営業を妨害した。
また,原告の使用する電話は,原告が工事費用を全て負担し,自身の名義で契約したものであり,Bが負担したものではない。それゆえ,原告は,Bに対し,B自身の番号を取得するよう求めたが,Bは,これを無視して,原告名義の電話を使用し,案内状等にもその番号を載せていた。
(イ) 原告事務所においては,令和元年8月19日は,Nが代表を務める団体であるU21世紀美術連立展の会員が多く参加するグループ展の初日であり,その後に会員を交えたパーティーも控えていた。そのような状況であるにもかかわらず,Bは,同日,原告事務所に設置してある表看板の原告の張り紙を無断で剥がすという行為に及んだ。さらに,原告事務所の前の路上からこれを偶々目撃した原告の母親がBの上記行動を撮影しようとしたところ,Bは,原告の母親との間で騒ぎをあえて誘発し,他人に見せつけるかのように,警察を呼ぶなどした。その結果,原告は,警察との対応に時間を割かれ,グループ展の顧客対応ができなくなっただけでなく,Bの行為によって,信用を毀損された。
エ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載4に係る行為について
Bは,平成30年12月10日午後4時15分頃,本件事務所内において,原告が事務室の自席から離れている間,原告専用の電話機(別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載4の番号のもの)にかかってきた電話を,原告に無断で取った上で直ちに切り,その後に原告にその旨も告げなかった。原告は,当該電話機について一定回数呼出し後に自身の携帯電話に転送する設定にすることで事務所不在時でも対応可能にしていたにもかかわらず,Bの上記行為により,電話を取ることができず,また,電話の相手方は,原告の営業に対する不信感を抱くに至ったものである。したがって,Bの上記行為は営業妨害行為に当たる。
また,Bは,平成31年3月21日午後3時34分頃,原告の事務所内において,原告が事務所の自席から離れている間,原告専用の電話機(番号:(省略))にかかってきた電話を,原告に無断で取った上で直ちに切り,再度呼出し音が鳴ると,原告に無断で留守番電話状態とした。Bは,あたかも原告が外出しているかのようにすることで,原告に電話対応をさせず,営業の機会を失わせる等の営業妨害行為を行ったものである。なお,原告は,Bにかかってきた電話に対して「そんな人いません」と答えるなどの対応はしていない。
さらに,Bは,令和元年10月28日午後1時40分頃,本件事務所内において,原告が自席から離れている間,上記の原告専用の電話機にかかってきた電話を原告に無断で留守番電話状態とした。
これに対し,原告は,原告の画廊での展示中に,B側の電話が何度もかかってきて展示室に響き渡ることがあっても,それを留守番電話状態にしておらず,電話に触ることもしてない。
オ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載5に係る行為について
Bは,平成30年7月22日,Pに対して,原告の企画展をキャンセルして被告らの企画展に参加してもらわないと困る等と述べ,原告の企画展をキャンセルするよう勧め,原告の業務を妨害した。
また,Bは,平成31年4月頃,原告と契約している顧客作家であるNに手紙を送り,その手紙の中で,原告がBから本件商号での画廊の運営を乗っ取り,営業をしていると述べ,さらには,原告が心の病を抱えて,精神的に病んでいるとも述べて,誹謗中傷するなどし,顧客に対する原告の信用を低下させて,原告の業務を妨害した。
さらに,Bは,令和元年5月31日,Bの業務スタッフQをして,原告顧客作家であるJに対して,Bが原告に対して暫定的に名前を貸しており,Bが正当な営業権を有しているかのような内容のメールを送らせ,原告の営業を妨害した。
これに対し,Bは,質問を受けた対象者に限って,原告とのトラブルを説明していたと主張するが,Bが原告の顧客に対して一方的にメールを送っていたのは明らかである。
カ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載6に係る行為について
Bは,平成30年11月7日頃,原告が予定していた平成31年1月7日から12日までの大賞展の展示会スケジュールを無断で削除した上,当該予定の欄に被告らの会期を挿入するなどの書き換え行為を行った。なお,同年の大賞展の展示会について,原告とBが共同で行う予定は一切なかった。
キ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載7に係る行為についてBは,平成30年12月3日頃,作家のRとの間に何らの取引もないにもかかわらず,Facebookにおいて,同人に無断で同人の作品を掲示した。
また,Bは,平成30年12月3日,原告の代理人弁護士による警告があったにもかかわらず,原告顧客作家らの「POINT展(平成30年12月7日から22日掲載)」における作品を,被告らウェブサイト,及び,Facebookにおいて,無断で掲載した。
さらに,Bは,原告顧客作家らの「S展」,及び,「T展」における作品を被告らウェブサイト及びFacebookにおいて,無断で掲載した。
ク 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載8に係る行為について
(ア) Bは,平成30年12月10日,原告のDM,原告主催の大賞展募集,展示会募集及びスタッフ募集のチラシに水を掛ける行為を行った。この点,Bは,アロマの機器が壊れていたためと主張するが,壊れていることを知りながら,原告のチラシの上にわざわざ置いて使用したものである。
(イ) Bは,従前から原告が管理していたFacebookについて,離婚をきっかけに,自分自身に管理する権利があるといい出し,不正に原告個人のアカウントにアクセスして,パスワードを変更し,過去に原告が投稿していたFacebookの記事を全て削除した。
原告は,BのFacebookを勝手に使用したことはなく,Bの同意の下,宣伝のためにこれを優先的に使用していたものである。原告は,平成27年頃より,本件画廊のSNSについて管理しており,その当時は,画廊のスタッフも皆投稿できるようパスワードは開示されていた。原告は,平成30年にBから本件画廊の事業を引き継いだため,他人に嫌がらせ等をされることを防ぐ目的で,自身が有するSNSのパスワードを変更していたが,Bは,同年6月13日,原告が有するFacebookの原告個人のアカウントに不正アクセスし,これを経由して,原告が管理運営する画廊のFacebookのアカウントにもアクセスした。
なお,原告は,同年4月,Googleマイビジネスに「GALLERY ART POINT」のオーナーとして登録し,管理していたところ,Bは,令和元年12月以降,オーナー権限を乗っ取り,画廊の営業時間や電話番号等の情報を変更し,原告の登録写真を自身の写真に変更して,画廊ではない場所の写真を掲載したり,原告が掲載した写真を全て削除して自身の写真にすり替えたりする行為を繰り返している。原告は,その度にGoogleに連絡し,オーナー権限を回復してもらうなどの対応を余儀なくされている。
(ウ) Bは,令和元年7月1日,原告の展示中に原告顧客の前で,原告のチラシの前に椅子を何度も置き,チラシを隠す行為をした。
(エ) Bは,令和元年8月2日,本件事務所の展示室において,原告との裁判の証拠書類を広げて,原告に対する誹謗中傷行為を行なった。
Bは,令和元年8月30日,原告と契約のある顧客作家に対して,原告の裁判での証拠書類を見せて「このような証拠は何の効力もないので裁判は年内に終わります。また裁判で判決後すぐ刑事告訴するので原告の所では1月展示はできなくなります」と伝えた。
なお,Bは,原告がBの顧客に対して,Bを誹謗中傷したと主張するが,そのような事実はない。
(3) 差止めの必要性
ア 画廊業務を行うものは,作家の絵画等を展示するギャラリーにおいて,観覧客らが落ち着いた雰囲気の下で絵画を鑑賞できるように,常にギャラリーの環境を静謐に保たなければならない。Bが行った別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載1及び2に係る行為は,上記の環境を阻害し,観覧客が絵画を鑑賞することを著しく困難にさせるものである。
また,画廊の備品,画廊業務の広告用のDM及びチラシ等について,Bが行った同目録3,4及び8に係る行為は,原告の画廊営業そのものや,その営業活動を著しく困難にさせるものである。
さらに,同目録5ないし7に係る行為は,原告が正当な権利の下で,画廊として営業活動を行っていないと原告の顧客作家らに直接的又は間接的に宣伝する行為であり,原告の画廊としての営業活動を妨害するものである。
同目録1及び5に係る行為は,原告に対する誹謗中傷行為や,原告の業務スタッフらを怖がらせる行為でもあり,原告の画廊としての信用を著しく毀損させるものである。
このように,前記(2)のBの行為は,原告の営業活動を妨害するのみならず,原告の信用も毀損するものであって,原告の営業活動の継続を困難にするものである。
イ Bの前記(2)の行為は,原告の画廊の営業を妨害する目的で行われ,その方法も甚だしく悪質で,かつ,執拗なものであって,社会通念上,原告の受忍限度の範疇を超えていることが明らかである。
これらに加えて,Bが,原告に暴力を振るい,警察沙汰になるような行動にも出たという原告とBが別居するに至った経緯も考慮すると,一連の妨害行為以上の行為が今後も想定される。
Bは,原告の代理人弁護士からの警告文が送られた後や,本訴が提起された後も,妨害行為を継続しており,このことからも,Bが将来に渡って同種の妨害行為を続ける高度の蓋然性が認められる。
したがって,原告の正当な営業活動である画廊としての営業権を守るためには,別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載の各行為を差し止める必要性が認められる。
(Bの主張)
(1) 原告の営業権及び本件営業譲渡契約について
一般論として,正当な営業活動が営業権を理由として第三者による侵害から保護されることは認めるが,原告がBに対して営業権に基づく営業妨害行為の差止請求権を有することは争う。また,本件営業譲渡契約は成立していないから,原告が本件営業譲渡契約に基づいて差止請求権を有することもない。
(2) Bによる営業妨害行為について
ア 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載1に関する主張について
Bと原告との間で,平成30年5月29日,本件事務所において言い争いがあったが,Bは大声で怒鳴ってはいない。B自身の画廊内のことであり,原告の顧客であるからといって,大声で怒鳴るなどの行為はしなかった。
Bは,平成30年6月26日頃,原告が病気だと積極的に発言したわけではない。Bは,以前からの顧客から本件画廊の状況についていろいろと質問される中で,原告が病気ではないかと言う者がいたことを話しただけであり,それも,ごく親しい人との話においてだけであった。
Bは,平成30年7月11日に原告主張のようなことはしていない。原告は,Bが普通に行動していても,音を立てたり,話し声がしただけで,粗暴である,にらみつけたなどと話を大きくしている。
Bは,平成30年8月27日には「大賞展」という大きなイベント展示をしており,そこでは顧客に投票をしてもらうことになっていたため,来場したHに対し「投票お願いします。」と声をかけたところ,「原告から言われているので投票には協力できない。」と言われ,「それならば,帰っていただいていいですか。」と言ったことはある。
原告は,平成30年11月19日に商標権登録証の写しと一緒に「GALLERY ART POINT代表 A」と書いた張り紙を本件画廊に貼り出した。そのような張り紙を共有スペースに貼り出せば,画廊の顧客に不安が広がるのは明らかであったため,Bは,これを剥がそうとしたところ,簡単には剥がれないように強力に貼り付けられていたため,ペンチを持ってきて剥がした。それを,原告のスタッフが見ており,原告が警察に通報したが,Bは,ペンチを振り回したりはしていない。Bは,原告による営業妨害物を排除しようとしただけであり,原告らに対して直接の働きかけは何らしていない。
Bは,平成31年4月17日,原告に対し「事業譲渡の証書を偽造することは刑罰に当たる。」とは言ったが,「刑務所にぶち込まれる。」などとは言っていない。
原告が令和元年5月1日に営業譲渡があったこと等を原告ウェブサイトに書き込んだため,Bの事務所に多くの問い合わせが来るようになった。Bは,それらの問い合わせに対して,営業譲渡はしておらず,事業譲渡書は偽造であると事実を説明した。Bは,原告商標については,当時,弁理士に依頼して異議申立てをしている状態であったので,その状況についても説明していた。
Bが,令和元年11月25日に録音データを再生したことは認めるが,パソコンのファイルを整理中にたまたま中身をチェックしたときに再生されただけで,大音量でもなく再生されたのは2,3秒であった。
イ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載2に関する原告の主張について
平成30年5月30日,原告とBが口論をした後,急におとなしくなったので,「ずいぶんおとなしいね。」とBが言うと,原告は「私は,いつもそうです。」と答えたので,Bは録音していた原告の音声を流したことはある。
ウ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載3に関する原告の主張について
(ア) 原告とBは,本件事務所における画廊運営において,電話,ライトなど,多くのものを共用しており,その経費は,基本的にBが支出していたが,電話代については,平成30年1月にBが勾留されている間に,引落し口座が原告名義に変更されていた。平成30年10月頃から,原告はBのスタッフ宛てにかかってきた顧客の電話を切ってしまうようになり,原告とBとが言い争いになった。その結果として,Bは,別の電話を用意し,その代わりにBの展示期間以外はライトを外すことにしたのが,同月28日の出来事である。
本件画廊において,一週間の展示期間のうち,日曜日まで展示期間とするのは,以前からの習慣であった。原告は日曜日の昼のうちに荷物を撤収するようにと主張するようになったが,原告の一方的な主張である。平成31年4月18日についても,Bは,作家の荷物は原告の営業までに撤収しており,原告の営業の妨害にはなっていない。
(イ) 令和元年8月19日の出来事については,Bが,原告による不当な張り紙を剥がしたことで原告の母と口論となり,Bが警察を呼んだことは認めるが,その余は否認する。
エ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載4に関する原告の主張について
平成30年12月10日Bの画廊展示中,原告の電話が大音量で鳴り,Bは,しばらく放置していたが,あまりにも何度も大きな音がするため,観覧客に迷惑を掛けないように一度切り,留守番電話のボタンを押した。
平成31年3月21日頃までに,Bにかかってきた電話を原告が何度か勝手にとって「そんな人はいません」と言ったり,勝手に切ったりという妨害行為をしていたため,Bは,同様のことをされたら原告はどうするのかと思い,原告の電話を留守番電話状態にしたことがある。
令和元年10月28日についても,Bは,原告宛ての電話が何度もかかって本件事務所の展示室に響いていたため,やむなく留守番電話状態にしたものである。
オ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載5に関する原告の主張について
PはもともとBと契約をしている作家であったが,ある時,PはBに対して,今度の展示会は原告の展示担当になっていると言われたため,原告との契約書にサインしたと告げた。Pは原告とBは同一の画廊を運営しているという認識であったため,Bは,原告とBでは営業主体が異なっており,Bと契約するためには原告との契約は一度キャンセルする必要があると説明した。
NはUという作家グループに属していたが,Uに属する作家のうち複数名がBの顧客であるとともに,原告の顧客もいた。原告はBとの話合いなしに,翌年の展示予約をどんどん入れながら,どの日に予約を入れているかの連絡をBにすることもなかったため,Bは予定を入れることができなくなっていた。そこで,Nに手紙を書いて,本件画廊の状況について説明し,このままではU所属作家の間においても,展示会予定が重複してしまう可能性があると注意を促したのである。
原告が,Bが営業していた本件画廊の名前やデザインを勝手に商標登録し,本件営業譲渡があったと公表することは,Bからすると「画廊を乗っ取られるのか」「妻は精神がおかしくなったのか。」等と考えても不思議ではないし,親しい作家であればそのことを相談することもあった。また,原告商標に関することや,本件営業譲渡がないことは,関係者に広く説明する必要性は感じていたが,ウェブサイトなどで画廊としてのトラブルを公開してしまうことのデメリットも考慮し,説明したのは質問を受けた対象者に限定していた。
カ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載6に関する原告の主張について
平成31年1月7日からの大賞展については,本来は原告とBとが共同で行う予定であったが,共同での展示が困難な状況になっていた。双方での展示スケジュールに関しての取り決めもできていない状況で,原告が勝手に自己の展示スケジュールを記載したため,平成30年11月7日頃,それを見つけたBがそれを消して上書きした。それに対して,また原告が消して上書きをする,という行為を繰り返していたが,Bは最終的には展示は入れなかった。
キ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載7に関する原告の主張について
原告が突然営業主体が別だと主張するようになるまで,Bは,原告とBの双方の展示会について,本件画廊のFacebookで展示した作家の作品を紹介することを継続していたが,原告が突然に無断掲載などと主張してきたものである。
ク 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載8に関する原告の主張について
本件画廊では以前から,原告とBが共同で,水蒸気によるアロマの機器を使っていたが,平成30年12月10日,Bが当該機器を使おうとしたところ,どこかにヒビが入っていたのか水漏れがしており,水が滴って,原告が準備していたチラシなどの上にこぼれてしまった。Bはわざと水をかけるようなことはしていない。
Facebookについての原告の主張に係る事実は否認する。原告は,Bが8年間使っていたFacebookのアカウントのパスワードを勝手に変えて,使用していた。原告がFacebook上で被告らウェブサイトを類似ページなどと誹謗中傷したため,Bが警察に届けると主張すると,原告はBにパスワードを教え,Bがパスワードを変更して使用するようになった。しかし,その後,再び原告がパスワードを変更して原告が使用している。
令和元年7月1日の出来事については,Bが椅子を動かしたことは認めるが,原告がした行為を止めるための行為であった。
令和元年8月2日及び同月30日の出来事については,原告が原告ウェブサイトやFacebook上で,営業譲渡があった旨の虚偽の主張やBに対する誹謗中傷を行い,これにより不安になって質問をしてきた個別の作家に対してBが説明したものであり,原告の妨害行為に対する防御行為である。
(3) 差止めの必要性について
Bは,本件画廊を母であるDから受け継ぎ,業績を立て直すために財産及び時間を全て注ぎ込んで現在の信用を築いてきたものである。したがって,原告の営業による展示期間であっても,本件画廊全体の信用を落とすような行為をB自らすることはあり得ない。
別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載に係る行為は,原告による虚偽の主張であるか,又は通常の会話や行為を殊更誇大な表現によって違法であるかのように表現したものである。また,原告のBに対する妨害行為又は挑発行為に対して,Bがこれを排除するために行ったものであり,Bから妨害を仕掛けたことはない。
このように,Bから妨害行為を積極的に行ったものではないため,同目録記載の各行為についての差止めの必要性は認められない。
4 争点4(Bに対する,営業妨害行為の不法行為に基づく損害賠償請求の当否)について
(原告の主張)
(1) 別紙9-1営業妨害行為目録(実損被害)記載のBの行為について
ア Bの行為
Bは,本件営業譲渡により本件画廊の営業を原告に譲渡したにもかかわらず,営業譲渡の事実自体を否定し,原告に対して,別紙9-1営業妨害行為目録(実損被害)の各「原告の主張」欄記載の営業妨害行為を行った(以下,同目録記載の各行為については,同目録の「番号」欄の番号に従って「原告の実損被害1に係る行為」などといい,併せて「原告の各実損被害に係る行為」という。)。
イ 不法行為該当性
Bの上記行為は,器物損壊行為(原告の実損被害1,7,11及び12に係る行為),不正アクセス禁止法違反行為(原告の実損被害2に係る行為),窃取行為(原告の実損被害9に係る行為)に該当し,その違法性は明らかである。
原告の実損被害4及び6に係る行為は,Bが,本来契約をした者が使用すべき電話やインターネット回線を,契約者である原告の許諾を得ずに使用したものであり,これも民事上違法な行為である。Wifi回線はパスワードが設定されており,その場にいる者であっても自由に使用することは予定されておらず,単に什器備品を使用するような行為とは同一視できない。
原告の実損被害3,5,8,10及び13に係る行為は,Bによって,いずれも意図的に原告の営業を妨害する目的で行われたものであり,そのような行為を行う合理的理由や正当性を見出すこともできないものであるから,これらも違法行為といえる。
したがって,原告の各実損被害に係る行為は,いずれもBによる原告に対する不法行為に該当する。
ウ 原告の損害
原告の各実損被害に係る行為によって,原告には,同目録の「被害金額の内訳」及び「被害金額」欄記載の額のとおり,それぞれ費用を支出したり,支出した費用が無駄になったという損害が生じており,同額がBの上記不法行為による損害である。
(2) 別紙9-2営業妨害行為目録(出展キャンセル被害)記載のBの行為について
ア Bは,前記(1)の行為のほか,別紙9-2営業妨害行為目録(出展キャンセル被害)の各「原告の主張」欄記載の営業妨害行為を行った(以下,同目録記載の行為については,同目録の「番号」欄の番号に従って「原告の出展キャンセル被害1に係る行為」などといい,併せて「原告の各出展キャンセル被害に係る行為」という。)。
イ 原告の各出展キャンセル被害に係る行為は,いずれも,Bが原告側の顧客に働きかけを行ったことにより,原告の契約がキャンセルになったものである。
これらのBの行為は,いずれも,原告の顧客に対して意図的に契約をキャンセルさせるために行ったものである上,このような働きかけを行う合理的な理由もないものであったから,違法である。
ウ 原告の各出展キャンセル被害に係る行為によって,原告には,同目録の「被害金額の内訳」及び「被害金額」欄記載の額のとおり,本来得べかりし利益を得ることができなくなったという損害が生じており,同額がBの上記不法行為による損害である。
(Bの主張)
(1) 別紙9-1営業妨害行為目録(実損被害)記載のBの行為について
ア Bの行為について
原告が指摘する各行為についてのBの主張は,別紙9-1営業妨害行為目録(実損被害)の各「Bの主張」欄記載のとおりである。
原告の主張は本件営業譲渡があったことを前提としているが,そもそも営業譲渡の事実はない。本件事務所に本件画廊を移転したのはBであり,移転と同時に,原告とBは,交代で,各自の営業として貸画廊経営をすることとし,同じ場所での営業であることから,Bは原告に対して本件商号や本件商号に係るロゴを使うことを許容していた。
イ 不法行為該当性について
原告がBの原告に対する不法行為と主張する内容は,事実に反するものであるか,Bが原告の妨害から業務を守るためにした正当な行為である。また,原告の実損被害1及び11に係る行為のうち原告のチラシへの水漏れについては,事故であり,故意に行ったものではない。
原告は,Bと同じ事務所内において,Bの所有物である看板,ライト,椅子,カウンター,机,冷蔵庫,パーテーション等を当然のように使用しながら,原告自身で購入したWifi回線の使用について,無断使用であるとか,営業妨害である等と主張しているものであり,Bに営業妨害等の不法行為はない。
ウ 原告の損害
原告の主張に係る事実は否認する。
仮に,原告の各実損被害に係る行為に違法性が認められたとしても,当該行為と原告が主張する損害との間に因果関係は認められない。
(2) 別紙9-2営業妨害行為目録(出展キャンセル被害)記載のBの行為について
ア Bの行為について
原告が指摘する各行為についてのBの主張は,別紙9-2営業妨害行為目録(出展キャンセル被害)の各「Bの主張」欄記載のとおりである。
イ 不法行為該当性について
原告が,営業譲渡を受けたという虚偽の告知をして,Bの業務を妨害するばかりか,本件商号そのものの価値を貶め,今後の展示会の継続を危うくしていることを,Bは大変憂慮していた。原告の顧客とはいえ,画廊の顧客としての作家たちに損害が生じる可能性があることを放置できず,事情の説明を行ったものであり,不法行為に該当するような行為ではない。
ウ 原告の損害について
原告の主張に係る事実は否認する。
5 争点5(原告に対する不競法2条1項21号の不正競争を理由とする損害賠償請求及び差止請求に関する争点)について
(1) 争点5-1(原告とBとの競争関係の有無)について
(Bの主張)
原告とBは,同一の建物の同一区画において,一定の期間ごとに交代で貸画廊の業務を行い,その営業形態も同様である。また,両者の顧客は貸画廊を借りて展示会をする可能性のある作家であることから,需要者及び取引者は共通であるといえる。
よって,原告とBとは「競争関係にある」といえる。
(原告の主張)
Bの主張は争う。
原告とBはいずれも画廊を営んでいるが,原告は画廊の場所を貸し,商品を販売するという従来の画廊の営業に加えて,動画配信やオンライン配信を用いるなど従来とは異なるサービスを行っており,原告とBの営業形態が同一とはいえない。
また,原告は,本件営業譲渡により,Bから本件画廊の営業の譲渡を受けており,本来,原告とBとは競争関係にあるものではない。
(2) 争点5-2(他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知の有無)について
(Bの主張)
原告は,原告ウェブサイト,Facebook及び顧客への個別のメールにおいて,Bからの本件営業譲渡があったと公表し,また,Facebookにおいて,被告らウェブサイトが偽物であるかのような表示をしている。
これらの記載は,Bの顧客に対し,Bの営業が違法なものであり,Bの画廊で展示会を行うことで何らかの不利益を被るおそれがあると感じさせる可能性があるものである。顧客である作家にとって,画廊が他の人に与えるイメージや信用は非常に重要であり,内部で経営権に関する争いがある画廊というだけで,その価値は損なわれるから,上記の原告による表示はBの営業上の信用を害するものである。
また,本件営業譲渡の事実がないことは,前記1(1)(Bの主張)のとおりであるから,上記の原告の表示は虚偽の事実を告知し,流布するものである。
(原告の主張)
原告が,本件営業譲渡があったことを公表していることは認める。
前記1(1)(原告主張)のとおり,本件営業譲渡の事実があったことは真実であるから,虚偽の事実を告知し,流布した事実はない。
(3) 争点5-3(不正競争についての原告の故意・過失の有無)について
(Bの主張)
原告には虚偽の本件営業譲渡を主張していることについて当然に故意が認められる。
仮に本件営業譲渡の事実があったと原告が信じていたとしても,原告とBとの間では,営業譲渡をすることや,その対価としていくらをどのように支払うかについて,何ら具体的な取決めもされておらず,合意をうかがわせる書面や覚書も作成されていないことからすれば,原告がそのように信じたことについては過失がある。また,原告は,Bと同一又は類似の業務を行う者であるから,本件営業譲渡があったという告知を行うことでBの営業上の利益が害されることを当然予見し得たものである。
(原告の主張)
Bの主張に係る事実は否認する。
そもそも,原告は適法に本件営業譲渡を受けたとの認識であり,虚偽の事実を告知するとの故意はない。
また,Bが営業譲渡をする旨が明記された甲4書面や甲3書面を作成していたことからすれば,原告が本件営業譲渡の事実を告知することでBの営業上の利益を害するとの認識を有することは不可能であり,原告には過失もない。
(4) 争点5-4(不正競争によるBの損害)について
(Bの主張)
ア 損害の発生
原告による虚偽事実の告知によって,潜在的顧客等が,Bの営業に不安を抱くようになっている他,インターネット上の検索サイトでも本件画廊についての紛争があることが分かる表示が現れるようになっている。
また,原告とBは同じ住所で同じ名称の画廊を経営しているため,Googleマイビジネス(ビジネス情報を登録すると,スマートフォンで検索したときに,顧客に情報を無料で提供できるというGoogleのサービス)において,どちらか片方しか登録されない状態となっており,現在,原告が登録しているため,Bに連絡を取ろうとした場合でも原告の画廊に誘導される状態となっている。しかも,原告は,上記サービスにおいて,Bの営業日を休日と表示するなどしており,その結果,Bの営業が阻害されている。
イ 売上げの減少による損害
前記アにより,Bの画廊において,既に契約をしていた顧客からのキャンセルが相次ぎ,反訴提起前の1年間でキャンセルされた件に係る売上げは約178万円となっており,これらの損害が原告の行為と因果関係があることは明らかである。
このように既にキャンセルされた件に係る金額だけでも年間の売上額(平成27年度の確定申告額987万5924円)の約18%に上るが,その他に,申込自体を控えた人が最低でもキャンセル数の同程度の18%はいると考えられるから,Bは,全体として年間売上げの36%を喪失したことになる。
したがって,Bの年間の売上げを年間約987万円程度として355万円の売上げを失ったといえる。
そして,Bの画廊におけるキャンセル数は,通常は1年に一件程度であること,原告が原告ウェブサイトやメール等で本件営業譲渡を受けたと発信するようになって以降,キャンセルが激増したことから,キャンセルや申込減少のほとんどは,原告による誹謗中傷行為によるものだと見ることができる。よって,355万円の売上減少のうち,9割の319万5000円は,原告の虚偽告知による損害であるといえる。
ウ 信用毀損による無形損害ないし精神的損害
Bの顧客の本件画廊に対する不信感は,原告が不当な表示を止めない限り拡大するものと見られる。画廊経営はその信用の上に成立するものであるから,紛争が解決しても信用回復には長期間を要することとなる。
したがって,前記イの目に見える損害だけではなく,現在までにBが長年にわたって努力して築き上げてきた銀座の老舗画廊としての信頼が大きく損なわれているといえ,今後の営業に与える影響及びBが受けた精神的損害は甚大であり,無形損害ないし精神的損害による損害額は少なくとも250万円を下回らない。
エ したがって,原告の不正競争による損害額は合計569万5000円である。
(原告の主張)
ア 損害の発生について
Bの主張する事実のうち,Googleマイビジネスにおいて,原告のドメインが登録されている事実,原告がBの営業日を休日としている事実は認めるが,その余は否認する。インターネットでの検索については,その端末や検索エンジンの履歴や位置情報によって異なるため一概にいえず,必ず,上位に紛争の事実が表示されるわけではない。
原告は,原告ウェブサイトに自己の契約している電話番号を表示したり,Googleマイビジネスを利用しているが,これらは,いずれも本件営業譲渡に基づいて行っているものであって,何ら違法性はないし,Bの営業日を休日として表示しているのも,原告が営業をしていない日を休日にしているにすぎず,これをもって営業妨害などと評価できるものではない。
イ 売上げの減少による損害について
Bの主張に係る事実は否認する。
原告の行為によってキャンセルが生じたことの裏付けはなく,Bが提出するリスト(乙50)においては,理由が確定していないものについても損害として算定されている。
原告が原告ウェブサイト上に本件営業譲渡の記載を行ったのは,Bが原告の不特定多数の顧客に対して原告の主張が虚偽であるとの説明を行ったことから,その反論としてやむなく行ったものである。その内容も,あくまで本件訴訟での決着がついていないことを明示し,被告らの主催する展示会については被告らに問い合わせるように促すものにすぎず,キャンセルにつながるようなものではなく,特にBの主催する展示について架空の展示であるなどと伝えたりした事実もない。
Bは,令和2年のキャンセルが例年より多いと主張するが,そもそも同年の前半に関しては,新型コロナウィルスの蔓延の影響から,多くのイベントがキャンセルとなっており,来客の減少に伴う損害は全て原告の責任である旨の主張に理由がないことは明らかである。
ウ 信用毀損による無形損害ないし精神的損害について
Bの主張する事実は否認する。
Bは,Bの今後の営業に与える影響及びBの精神的損害が250万円であるとも主張するが,Bが主張する不法行為はあくまで財産的なものであると思われるところ,精神的損害が別途生じるとは思われない。
(5) 争点5-5(差止めの必要性)について
(Bの主張)
前記(2)(Bの主張)記載の原告の行為により,Bは損害を 受けており,これが継続する限り損害の発生は継続する。
よって,原告が,文書,口頭又はインターネットにより,Bから本件画廊を引き継いだとの虚偽の事実を第三者に告知することを差し止めるべき必要性が認められる。
(原告の主張)
Bの主張は争う。
6 争点6(原告に対する不法行為に基づく損害賠償請求に関する争点)について
(1) 争点6-1(インターンの仕事の妨害等の有無及び不法行為該当性)について
(Bの主張)
原告は,Bの画廊の業務を手伝うインターンに対し,「Bはギャラリーを乗っ取った」,「インターンも訴えるよ。」などと言ったり,インターンが帰る時間をみはからって,出口の前で待ち伏せをしたり,「作家からあなたにクレームがあった。」と虚偽の言動をしたり,「あなたがここに来ているってことは,私に訴えられる覚悟で来ているんでしょうね。」と申し向けるなど,嫌がらせを繰り返し,インターンを不安にさせた。
また,原告は,インターンへの嫌がらせをやめさせようとしたBに対し,「何が,警察に捕まった犯罪者が」と本件事務所の展示室内の作家にも聞こえるような声で叫ぶなど,インターンが行う仕事の妨害を繰り返した。
これらの原告の行為は,Bの業務を妨害する行為であり,Bに対する不法行為に該当する。
(原告の主張)
Bの主張する事実はいずれも否認する。
原告が,Bのインターンに対してBが指摘する各発言をした事実はない。
原告が,Bに向かって,「何が,警察に捕まった犯罪者が」などと作家に聞こえるように発言した事実はない。原告がBに対して発言した内容は,Bのインターンが原告の展覧会の際に作家等にあいさつをしなかったことについて,あいさつをするように注意したという程度である。
(2) 争点6-2(Bの損害の発生及びその額)について
(Bの主張)
原告の不法行為により,Bは,インターンのケアに多くの労力を費やすと共に,原告の言動によってインターンが辞めたり,新規に採用することが困難になったことにより,精神的苦痛を受けた。
このことによる精神的損害は50万円を下回らない。
(原告の主張)
Bの主張に係る事実は否認する。
7 争点7(原告に対する不当利得返還請求の当否)について
(Bの主張)
Bは本件画廊の本件事務所への移転に伴って,平成29年7月から平成30年2月にかけて内装費等として合計264万円を支払った。
原告は,本件事務所の営業日の半数において,本件事務所を自己の営業のために使用しているから,内装費等の半額に対応する132万円の利益を得ており,その反面,Bは,原告の営業日については営業できないため,原告の利益に対応する損失が生じている。
(原告の主張)
Bの主張に係る事実は否認する。
Bは,移転の際の内装費等は全額自らが負担すると述べた上で,本件事務所の内装費等を負担した。また,Bが内装費等として支出した金銭の原資には,原告がBに外注費名目で支払った金銭が含まれている。
したがって,厳密にはBが上記内装費等をBが負担したともいえず,また,原告が内装費等の半額を法律上の理由なく利得したともいえない。
8 争点8(原告に対する被告各商標権に基づく差止請求に関する争点)について
(1) 争点8-1(原告の役務と被告各商標権の指定役務の類否)について
(Bの主張)
ア 被告各商標権の指定役務
(ア) 被告商標権1の指定役務は別紙5被告商標権目録記載1のとおりであり,その類似群コードは35B01である。類似群コード35B01には「商業のための画廊に関する役務の提供」,「商業又は広告のための画廊に関する役務の提供」が含まれているから,被告商標権1の指定役務は,商業のための画廊スペースの貸出しや,それに伴う役務の提供を含む。
(イ) 被告商標権2の指定役務は同目録記載2のとおりであり,その類似群コードは42X10である。類似群コード42X10には「展示施設の貸与及びそれに関する情報の提供」,「商品の販売のための展示施設の貸与」が含まれているから,被告商標権2の指定役務は,貸画廊の役務の内容に合致している。
イ 原告の役務
原告は,令和元年11月9日以降,現在に至るまで,原告事務所所在地において,対価を得る目的で画廊の展示スペースを作家等に貸し出すと共に,作家の作品を掲示してオンライン販売をするなど,作家等が展示・販売するための便益を図るという業務を行っている。
これは,被告商標権1の指定役務である「商業のための画廊に関する役務の提供」及び「商業又は広告のための画廊に関する役務の提供」並びに被告商標権2の指定役務である「展示施設の貸与及びそれに関する情報の提供」及び「商品の販売のための展示施設の貸与」に当たる行為である。
したがって,原告の役務は被告各商標権の指定役務と同一又は類似である。
(原告の主張)
ア 被告各商標権の指定役務について
被告各商標権の指定役務は,別紙5被告商標権目録記載のとおりであり,画廊に関する役務は含まれていない。「画廊」という文言で商標検索をしても,概ね41類の「美術品や絵画の展示に関する役務」を中心に登録され,35類についても画廊であることを明示して登録がされていることが多く,他方で,被告商標権2の指定役務である43類で指定されているものは見当たらない。これは,43類がいわゆる商品展示会のようなものを行う場所を想定しているものであり,文化教養関係や美術関係の商品役務が41類に存在しているからである。
Bは類似群コードに基づく主張をするが,類似群コードはあくまで類似を推定するものであって,これに記載の業務が全て類似であるというわけではない。被告各商標権の指定役務は,いずれも,貸画廊に関する役務を含まず,また,貸画廊に関する役務と類似のものではない。
イ 原告の役務について
原告が,原告事務所所在地において,対価を得る目的で画廊の展示スペースを作家等に貸し出し,作家の作品をオンライン販売するなどしていること,原告の役務が「商業のための画廊に関する役務の提供」に該当することは認めるが,原告の役務は,被告各商標権の指定役務と同一又は類似ではない。
(2) 争点8-2(差止めの必要性)について
(Bの主張)
原告による前記前提事実(6)イの原告各標章の使用は,被告各商標権を侵害するものであり,これについて差止めの必要性が認められる。
(原告の主張)
Bの主張は争う。
(3) 争点8-3(Bの原告に対する被告各商標権の行使が権利の濫用に当たるか)について
(原告の主張)
Bは,本件営業譲渡によって,本件商号に関する権利も原告に譲渡しており,原告はこれを受けて原告各標章を使用している。それにも関わらず,Bが,被告各商標権を取得して,原告に対して原告各標章の使用差止めを請求することは,本件営業譲渡と矛盾するものであり,権利の濫用に当たる。
(Bの主張)
本件営業譲渡の事実は否認し,また,被告各商標権の行為が権利濫用に当たるとの評価は争う。
9 争点9(原告に対する著作権法112条1項に基づく差止請求の当否)について
(Bの主張)
Bが本件ロゴマークについての著作権を有しており,Bから原告への著作権の譲渡がないことは,前記2(3)ア(Bの主張)及び同イ(Bの主張)のとおりである。
原告各標章は本件ロゴマークの複製物に当たるから,原告が原告各標章を前記前提事実(6)イのとおり使用することは,インターネット上での利用が本件ロゴマークに係るBの公衆送信権の侵害に,インターネット上での利用以外の看板,掲示物及びチラシ等における利用が本件ロゴマークに係るBの複製権の侵害に,それぞれ当たり,当該行為を差し止める必要がある。
(原告の主張)
Bが本件ロゴマークについての著作権を有していないこと,仮に,Bが本件ロゴマークの著作権を有しているとしても原告に著作権の譲渡がされたことは,前記 2(3)ア(原告の主張)及び同イ(原告の主張)のとおりである。
前記前提事実(6)イの原告各標章の使用が本件ロゴマークについての公衆送信権及び複製権の侵害に当たるとの主張は争う。
10 争点10(原告に対する不正競争防止法2条1項19号の不正競争を理由とする差止請求に関する争点)について
(1) 争点10-1(「ギャラリーアートポイント」が「他人の特定商品等表示」に当たるか)について
(Bの主張)
Bは,「ギャラリーアートポイント」という名称で本件画廊を長年経営し,「株式会社ギャラリーアートポイント」との名称の被告会社を設立した後も,画廊名としては「ギャラリーアートポイント」の名称のみを公表しており,これが本件画廊を象徴する存在として周囲に周知され,独自の存在意義と利益を得ているから,「ギャラリーアートポイント」との商号は,原告にとって「他人」であるBの「特定商品等表示」に当たる。
(原告の主張)
本件営業譲渡によって本件画廊の名称に関する権利も原告に譲渡されているから,「ギャラリーアートポイント」との名称は,Bの「特定商品等表示」ではなく,原告にとって「他人」の「特定商品等表示」に当たらない。
(2) 争点10-2(図利加害目的の有無)について
(Bの主張)
原告は,あえてBの商号と類似の原告ドメイン名を使用しており,①他人の顧客吸引力を不正に利用して事業を行う目的があること,及び,あえてBの営業を中傷し,Bの顧客を自己の画廊に誘導するなどして,②Bの営業に損害を与えようとしていることは明らかであるから,原告には図利加害目的があるといえる。
(原告の主張)
原告は,本件営業譲渡により,「ギャラリーアートポイント」との名称の権利もBから譲り受けているから,その使用に図利加害目的はない。
また,原告は,原告ウェブサイト上でも,Bとの混同を避けるように注意喚起をしており,Bの顧客を自己に誘導するようなことはしていないから,この点でも図利加害目的はない。
(3) 争点10-3(差止めの必要性)について
(Bの主張)
原告が原告ドメイン名を取得,保有及び使用することにより,Bによる本件画廊の顧客や顧客になり得る作家らが原告ウェブサイトに誘導され,Bの顧客が奪われている。また,原告ドメイン名と被告らウェブサイトに係るドメイン名とで,類似のドメイン名が2種類あることから,顧客らが経営権に紛争があるのではないかと不信感を抱くようになっている。
したがって,原告による,原告ドメイン名の主要部分である「artpoint」を含むドメイン名の取得,保有及び使用によって,Bの営業上の利益を侵害するおそれがあるから,これを差し止める必要がある。
(原告の主張)
原告は,原告ドメイン名を使用する原告ウェブサイト上で,類似サイトとの混同を避けるように注意喚起をしており,Bの画廊との混同によって,Bの営業上の利益を侵害するおそれはない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1-1(本件営業譲渡契約の成否)について
(1) 事実経過等
前記前提事実に証拠(甲54,101ないし110,127,128,132ないし134,136,157,206,221,乙13,17,20,21,24,25,38,40,41,61ないし63,67,72,74,原告本人,B本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる(認定事実の末尾に,当該事実の認定に用いた主な証拠を掲記する。)
ア Bは,遅くとも,母であるDが亡くなった平成19年以降,本件商号を用いて,貸画廊である本件画廊を東京都中央区銀座のエリザベスビル(以下「画廊旧所在地」ということがある。)において経営していた(甲101,乙41,74,B本人)。
イ 原告は,平成26年8月頃にBと知り合ったが,それ以前に画廊での勤務経験はなく,画廊の業務についての知識もなかった。
原告は,その当時は会社員として勤務していたが,同年11月頃から休日に本件画廊の仕事を手伝うようになり,平成27年2月20日にBと結婚した後,同年5月頃に上記の勤務先を退職して本件画廊の仕事に専念するようになり,また,その頃からBと同居するようになった(甲221,原告本人)。
ウ 原告とBとは,本件画廊の業務について,平成27年から,いずれも個人事業主の形式で業務を行っていた(甲221,乙40,原告本人)。
原告は,Bに対して,画廊旧所在地での原告の売上げの概ね60%に相当する金額を「外注費」ないし「画廊使用料」の名目で支払っており,少なくとも,以下のとおり,平成28年2月10日から平成29年9月15日にかけて,合計532万8700円を,口座振込み又は相殺処理(平成28年8月6日分)の方法で支払った。原告から,Bへの上記の名目での支払は平成29年9月15日のものが最終となった(甲127,128,乙40,原告本人,B本人,弁論の全趣旨)。
平成28年2月10日 13万5128円
平成28年3月11日 15万5136円
平成28年4月13日 8万8896円
平成28年5月14日 18万9578円
平成28年6月1日 23万5368円
平成28年7月6日 41万6040円
平成28年8月6日 19万4400円(相殺処理による支払)
平成28年9月21日 35万5800円
平成28年10月5日 28万7880円
平成28年11月1日 38万4528円
平成28年12月16日 11万9944円
平成29年1月16日 44万8824円
平成29年2月17日 33万6192円
平成29年3月14日 26万9680円
平成29年4月12日 12万9810円
平成29年5月19日 31万8840円
平成29年6月21日 33万6408円
平成29年7月19日 35万1888円
平成29年9月15日 57万4360円
合計532万8700円
エ 前記ウの当時,本件画廊に係る主な経費及び原告とBの主な生活費については,Bが負担していた(甲136,原告本人,B本人)。
オ 原告とBは,平成28年頃から,画廊旧所在地からの本件画廊の移転先を探しており,平成29年10月24日付けで,双方が賃借人となって,本件事務所についての本件賃貸借契約を締結した(甲5,132ないし134,乙38,61,62)。
上記の本件画廊の移転に関し,原告は,本件賃貸借契約に係る敷金及び保証会社の保証料の合計117万4734円並びに仲介手数料25万3692円を負担し,他方で,Bは,移転後の本件事務所の内装費等として230万円程度を負担した(甲103ないし105,108,110,乙20)。また,原告とBは,本件賃貸借契約に関し,火災保険料及び初回支払分(平成29年12月分)の賃料をそれぞれ半額ずつ負担し,その後の平成30年1月分と2月分の賃料についても1か月分ずつ負担した(甲103ないし107,乙17,20)。
カ Bは,原告への暴行を理由として,平成29年12月下旬に逮捕,勾留され,平成30年1月中旬に罰金の略式命令を受けた。原告とBは,この刑事事件がきっかけとなり,別居を開始した(甲221,乙72)。
キ 前記カの刑事事件の示談交渉等を通じて,原告とBとは,直接,又は弁護士を介するなどして,離婚するか否か,今後の本件事務所の使用方法,経費負担,生活費の負担,前記ウの外注費の返金の要否等について交渉を行うようになり,全面的な合意には至らなかったものの,少なくとも,当面,本件賃貸借契約によって賃借した本件事務所を交互に使用することについては相互に了承した。原告とBは,遅くとも平成30年2月までに画廊旧所在地での本件画廊の営業を終了して,上記の新たに賃借した本件事務所への移転を完了させた(甲54,221,乙13,21,25,原告本人,弁論の全趣旨)。
(2) 甲4書面及び甲3書面の記載内容等
ア 甲4書面の記載内容等
甲4書面の記載内容等については,以下の事実が認められる(甲4,202)。
(ア) 甲4書面には,その上部から中ほどにかけて,次の手書きの記載がある。
「A様
私Bは企画画廊の資金800万円をAから受け取りましたのでGALLERY ART POINTの移転場所が決まり移転したらGALLERY ART POINTの名前も事業もすべての権利をAに譲渡します」
「資金受け取り日
2015年度 合計¥5,710,000- 手渡しにて受領しました
2016年度 合計¥3,053,410- 口座振込にて受領しました
2017年度 合計¥2,317,178- 口座振込にて受領しました」
(イ) 甲4書面の下部には,「2017年9月26日」との手書きの記載があり,その横に「B」との署名があり,署名の横に「B」の印影がある。
(ウ) 甲4書面の前記(ア)の記載と前記(イ)の署名押印との間には空白があり,そこに押印する形で,公証人により,平成30年9月19日の確定日付が付されている。
イ 甲3書面の記載内容等
甲3書面の記載内容等については,以下の事実が認められる(甲3)。
(ア) 甲3書面の最上部には横書きで「BがAから2015年度手渡しで受け取ったお金合計¥5710,000-になります」との手書きの記載がある。
(イ) 甲3書面には,前記(ア)の記載のすぐ下に,概ね以下のような配置で,「36万」等の「万」で終わる数字が手書きされており,これらの数字の上又は左に「2016年1/3」などと日付が手書きされている。
「2016 年 1/3 2015 年 2015 年
36万 2/20 45万 2/28 50万
2015 年
3/22 30万
2015 年 4/26 75万 2015 年 5/24 150万
2015 年 8/3 30万
2015 年 9/12 20万
2015 年 10/2 50万
2015 年 11/9 10万
2015 年 12/6 60万
2015 年 12/20 15万」
また,これらの日付以外の数字のうち,「36万」,「75万」及び「50万」は四角い枠で囲まれ,「45万」は丸で囲まれ,「150万」は四角い枠で囲まれた上で,2重に丸で囲まれている。
(ウ) 前記(イ)の日付以外の各数字には,その右側に「B」の印影がある。
(エ) 甲3書面の「2015 年 12/20 15万」の記載がされた下の部分には切り取られたような痕跡がある(原告本人,B本人,弁論の全趣旨)。
(3) 本件営業譲渡契約の成否の検討
ア 原告は,本件営業譲渡契約が平成27年2月20日頃に成立したと主張するところ,弁論の全趣旨によれば,その当時に作成された営業譲渡に係る合意を内容とする処分証書としての契約書等は存在しないものと認められる。
この点に関し,前記(2)アのとおり,平成29年9月26日付けのB名義の甲4書面には,Bが「GALLERY ART POINTの名前も事業もすべての権利をAに譲渡します」との記載があるところ,原告は,甲4書面は本件営業譲渡に係る処分証書に近い性質の文書であると主張する。そこで,まず,甲4書面及び原告が甲4書面と同時に作成されたと主張する甲3書面の成立について検討し,次に,これらの書面及びその他の証拠から,本件営業譲渡契約の成立が認められるかを検討する。
イ 甲4書面及び甲3書面の真正な成立の推定について
(ア) 甲4書面の真正な成立の推定について
a 証拠(甲4,5,乙41,62)及び弁論の全趣旨によれば,甲4書面における「B」との印影は,本件賃貸借契約書におけるB名下の印影と同一であり,Bの印章によるものと認められる(以下,甲4書面に用いられたBの印章を「本件印章」という。)。なお,Bは,事務所で保管している「三文判」については原告と共有していた旨を述べるが,本件印章について,これを原告が使用していたことを認めるに足りる証拠はない。
b 前記aによれば,甲4書面については,作成名義人であるB名下の印影が,Bの印章によって顕出されているから,反証のない限り,当該印影はBの意思に基づいて顕出されたものと事実上推定され,民訴法228条4項により,甲4書面は真正に成立したものと推定されることになる。
(イ) 甲3書面の真正な成立の真正について
a 証拠(甲3ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,前記(2)イ(ウ)の「B」の印影は,本件賃貸借契約書及び甲4書面におけるB名下の印影と同じく,本件印章によるものと認められる。
b 前記 a によれば,甲3書面については,作成名義人であるBの印章によって顕出されているから,反証のない限り,当該印影はBの意思に基づいて顕出されたものと事実上推定され,民訴法228条4項により,甲3書面は真正に成立したものと推定されることになる。
ウ 甲4書面の成立の推定を覆すべき事情の有無について
(ア) 本件印章について
Bは,本件印章について,自分の印章であるならば,いくつかある「三文判」の一つであり,本件事務所の机の引き出しに入れていたものの一つである可能性がある旨供述する。
そこで検討するに,証拠(甲5,乙38,41,62)及び弁論の全趣旨によれば,本件印章は,Bの印鑑登録された印章ではなく,Bは,確定申告書(乙41)や入居申込書(乙38,62)の作成には本件印章とは異なる印章を用いていたことが認められ,それらの印章と比較して,本件印章が印影の大きさや字体において特徴があるともいえない。そうすると,本件印章が本件事務所において本件画廊の業務に関して日常的に使用していた複数の印章のうちの一つである旨のBの供述は不自然ではなく,また,Bが,その保有する印章のうちで,本件印章を特に厳重に管理保管していたことを窺わせる証拠はない。
そして,前記(1)のとおり,原告とBとは,平成27年5月頃から平成29年12月まで同居し,共に本件画廊の業務に従事しており,同月にBが逮捕,勾留されたことで同居を解消した後も,移転後の本件事務所を交互に使用し,同じ事務室を使用していたものである。これらの事情に照らせば,甲4書面の作成日付である平成29年9月26日当時から,その公証人による確定日付が付された平成30年9月19日までの間において,原告が本件印章に接触することは可能であったものと認められる。
(イ) 甲4書面の体裁について
証拠(甲4,221,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,甲4書面において,「B」との署名及びその横の「B」の印影を除いた部分(前記(2)ア(ア)及び同(イ)のうち「2017年9月26日」との日付)の記載は原告が記載したものと認められる。
そして,証拠(甲4,5,B本人)及び弁論の全趣旨によれば,甲4書面における前記(2)ア(イ)の「B」との署名は,既に記載されていたものをコピーするなどして作出されたものではなく,ペンのような筆記具によって実際に記載されたものであると認められ,また,Bによる自署と認められる本件賃貸借契約書(甲5),確定申告書(乙41)及び入居申込書(乙38,62)におけるBの署名と類似しているものの,その筆跡自体から,甲4書面における署名をB自身が記載したとまでは認めることができない。
(ウ) 甲4書面の記載内容について
甲4書面の内容は,前記(2)アのとおりであり,「私Bは企画画廊の資金800万円をAから受け取りましたのでGALLERY ART POINTの移転場所が決まり移転したらGALLERY ART POINTの名前も事業もすべての権利をAに譲渡します」との記載,Bが原告から手渡しで合計571万円及び口座振込みで合計537万0588円の資金を受領した旨の記載等がされている。
しかしながら,前記(1)オのとおり,原告とBは,甲4書面の作成日付である平成29年9月頃,本件画廊の移転を予定していたところ,その頃の時点で,Bが本件商号を用いた貸画廊の事業を止めて,企画画廊等の他の事業を開始する具体的な準備をしていたことを裏付ける証拠はない。また,前記(1)オのとおり,原告とBは,同年10月には移転先の画廊に係る本件賃貸借契約を締結しているところ,同契約の締結は原告とBとが連名で行い,移転後の本件事務所の内装費等をBが負担するなどしており,本件全証拠によっても,その時点においても,Bが本件商号を用いた貸画廊の事業を終了しようとしていたことを窺わせる事情は認められない。そうすると,Bは,本件画廊の移転後も引き続き本件商号を用いて貸画廊の事業を行うつもりであったと認めるのが相当であり,甲4書面の記載内容は,このような認定事実に反する明らかに不自然な内容を含むものといえる。
原告は,本件賃貸借契約を連名で行ったのは,当時,原告1人では借りられず,Bも自分の事業を始めるために場所を探していたが見つけられなかったので,初めは2人で一緒の場所で事業を行うこととなったためであり,Bは別の場所を借りて企画画廊を行う予定であった旨供述する。しかしながら,上記のとおり,Bが本件商号での事業を終了して,新たに自分の事業を始めることを企図して,その準備をしていたことを認めるに足りる証拠はなく,原告の上記供述は,裏付けを欠くものであって,甲4書面の記載内容がその当時のBの事業方針と整合しないという点を十分に説明できるものではない。したがって,原告の上記供述は採用することができない。
(エ) 甲4書面の作成状況についての原告の供述について
甲4書面の作成状況について,原告は,自宅において,Bから売上げの60%の外注費名目での支払を求められたことに対して,支払を継続するためには,甲4書面及び甲3書面を書いてほしいとBに求め,Bが作成に応じた旨供述する。
しかしながら,①甲4書面及び甲3書面には,原告がこれまで支払った金銭の額についての記載がある一方で,今後,その支払が継続する旨の記載はない。かえって,②甲4書面には,外注費の名目で口座振込み等で支払ったと主張する前記(1)ウの金銭について,Bの企画画廊の資金であって,その受取は完了している旨の記載がある。そうすると,原告が供述する上記の甲4書面の作成状況と甲4書面の記載内容とが整合しているとはいえない。
この点について,原告は,Bには支払を継続すると述べたものの,実際には,甲4書面及び甲3書面を作成してもらえば,その後に支払を継続するつもりはなかった旨供述し,前記(1)ウのとおり,原告からの外注費名目の支払は,その後行われていないものであるが,これらの点を考慮しても,原告が供述する上記の内心は甲4書面の作成時においては説明されていないものであるから,原告が供述する甲4書面の作成状況と甲4書面の実際の記載内容とが整合していないという上記の①及び②の点について,その合理的な説明がされているとはいえない。
(オ) 甲4書面の保管状況等について
a 甲4書面は,前記(2)ア(ウ)のとおり,平成30年9月19日の確定日付が付されているが,それ以前の甲4書面の保管状況を確定し得る証拠はない。
b 前記(1)キのとおり,原告は,平成30年1月頃以降,Bとの間で,弁護士を介するなどして画廊の使用方法等について交渉をしていたが,証拠(甲54,206,221,乙13,15,21,24,25,原告本人,B本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,同年9月19日以前において,上記の交渉の中で,Bに対し,甲4書面及び甲3書面の存在を指摘したことはなく,本件営業譲渡契約が成立しているとの主張や甲3書面に記載されている571万円の現金の交付の事実の主張を明示的に行ってもいなかったものと認められる。このような原告の態度は,甲4書面及び甲3書面が平成29年9月26日当時に作成されていたとすれば,不自然なものといえる。
なお,原告から当時の原告の代理人であったV弁護士に送信された平成30年2月26日付けのメール(乙13)には,原告のBに対する主張内容として「お母さまが守った画廊エリザベスビルはそちらがエリザベスビルの解約と保証金を受け取った時点で終わっております。東和銀座一丁目ビルは私が探して保証金を入れた画廊です。」との記載がある一方,その前後には「GALLERY ART POINTの名前でこちらも活動しておりますしこの画廊の名前はGALLERY ART POINTで2つの個人事業主(ディレクター)が入っているという事でお客様には説明もしております。…私が使ってはいけないという権利はそちらにはございません。」「こちらが画廊名を使用できないのであれば…GALLERY ART POINTの名前事態無くしてもらう事になります」との記載もある。そうすると,上記のメールに記載された原告のBに対する主張内容は,本件商号は原告とBの双方が使用できるものであり,母から本件画廊を受け継いだことを理由としてBが原告に対して本件商号の使用禁止を求めることはできない旨を訴える趣旨と理解できる。したがって,上記のメールは,平成30年2月当時において原告がBに対して甲4書面及び甲3書面に基づき本件営業譲渡契約の存在を主張していたことを裏付けるものではない。
c 原告は,甲4書面及び甲3書面の存在,本件営業譲渡契約の成立及び571万円の現金交付の事実をBとの交渉当初に主張していなかった理由について,当時の原告の代理人であったV弁護士に初めて相談した際に,本件営業譲渡の事実や,手渡しでBに現金を交付したことがあることを伝え,Bに甲4書面及び甲3書面を作成してもらったが,これらの書面が手元にないことを説明したところ,V弁護士から,証拠がなければどうにもならないため,甲4書面及び甲3書面の存在や本件営業譲渡契約及び手渡しでの現金交付の事実についての主張はせず,外注費名目で口座振込みで支払った金銭の返還を求めようとの説明を受けたため,甲4書面及び甲3書面を発見するまでは,これらに基づく主張は控えていた旨供述する。
しかしながら,原告がV弁護士に対して,甲4書面及び甲3書面の存在を伝えていたことを裏付ける証拠はない。また,証拠(乙21)によれば,V弁護士は,遅くとも平成29年12月31日の時点で,Bの弁護人ないし代理人の弁護士と連絡を取っていると認められるから,原告がV弁護士に甲4書面及び甲3書面が手元にないとの上記の説明をしたとすれば,その時点以前であると考えられるが,原告は,これらの書面の紛失に気付いた時期について,平成30年1月中旬にBの勾留が終わることになって原告が引っ越しをする際に紛失に気付いたものであり,それ以前には気付いていなかったとも供述している。そうすると,甲4書面及び甲3書面の紛失に気付いた時期についての上記二つの原告の供述は,互いに矛盾するものといえ,V弁護士の助言により,甲4書面及び甲3書面の存在及び本件営業譲渡契約について,Bとの交渉当初の時点で主張しなかったとの原告の供述は,採用し難いというべきである。
e 甲4書面及び甲3書面の保管場所について,原告は,本人尋問において,甲4書面及び甲3書面を画廊旧所在地の本件画廊に持って行き,自分の机の鍵の掛からない引出しに入れていたものであり,平成30年1月中旬にBの勾留が終わることになり,原告が別居するために引っ越しをする際に紛失に気付いた旨供述するところ,令和3年1月22日付けの原告の陳述書(甲221)においては,甲4書面及び甲3書面をバッグに入れていたところ,上記の別居の際にBの自宅に置いてきてしまった旨の記載がされており,保管場所についての原告の説明内容には変遷が見られる。
また,甲4書面及び甲3書面の発見状況について,令和3年1月22日付けの原告の陳述書(甲221)では,原告の実家である原告の母の家を本件画廊の移転に際してBが倉庫のように利用しており,平成30年9月18日に,原告の実家において,Bの服の中から甲3書面が,Bの本の中から甲4書面が出てきた旨の記載があり,原告は本人尋問においても同様の供述をする。上記のように,甲4書面及び甲3書面の保管場所についての原告の説明内容には変遷があるが,これらの書面が別居の際に置き忘れた原告のバッグに入っていたとすると,別居後にBが原告の実家に自らの荷物を持ち込んだということになるが,別居後の行動としては不自然であるし,そのような事実を裏付ける証拠はない。また,これらの書面を原告が本件画廊の机の引出しに入れていたとしても,Bが,隠匿等のためこれらの書面を原告の引出しから無断で持ち出しながら,自らが確実に管理せず,それを服や本に挟んだまま原告の実家に持ち込んだというのは,やはり不自然である。
f このように,平成30年9月19日以前の,甲4書面の保管状況を裏付ける証拠はなく,その保管,紛失,発見状況に関する原告の供述は不自然なものといわざるを得ない。
(カ) 小活
以上のとおり,本件印章が本件画廊の業務に関して日常的に使用していた複数の印章のうちの一つであり,原告が本件印章に接触することが可能であったことに加え,甲4書面のうち,Bが記入したとされる部分はその署名部分のみであり,筆跡自体から,当該署名をB自身が記載したとまでは認められないこと,甲4書面の記載内容が,その当時のBの事業方針と整合しないものであり,原告が供述する甲4書面の作成状況とも整合しているとはいえないこと,甲4書面の平成30年9月19日以前の保管状況を裏付ける証拠がなく,その保管,紛失及び発見状況に関する原告の供述は不自然といわざるを得ないことを総合すれば,甲4書面についての,前記イ(ア)の真正な成立の推定は覆されるというべきである。
また,前記のとおり,甲4書面におけるB名義の署名について,その筆跡自体からBが行ったとまでは認められない。この点について,原告は,B名義の署名はB自身が行った旨を供述するが,Bは署名の事実はないと供述しており,Bによる署名の事実を裏付ける客観的な証拠はない上,前記(ウ)ないし(オ)で検討した,甲4書面の記載内容が不自然な内容を含むこと,原告が供述する上記の甲4書面の作成状況と甲4書面の記載内容とが整合しているとはいえないこと,甲4書面の保管,紛失,発見状況に関する原告の供述は不自然なものといわざるを得ないことも考慮すれば,甲4書面のB名義の署名をBが行ったとの原告の供述は採用することができない。
その他,甲4書面がBの意思に基づいて成立したことを認めるに足りる証拠はない。
エ 甲3書面の成立の推定を覆すべき事情の有無について
(ア) 本件印章について
前記ウ(ア)のとおり,本件印章は本件画廊の業務に関して日常的に使用していた複数の印章のうちの一つであり,原告が本件印章に接触することが可能であったものと認められる。
(イ) 甲3書面の体裁及び甲3書面の作成状況についての原告の供述について
a 証拠(原告本人,B本人)及び弁論の全趣旨によれば,甲3書面における前記(2)イ(ア)の部分及び同(イ)の記載のうち各日付は原告が記載したものであり,同(イ)の記載のうち日付以外の「36万」等の各数字及びこれらの数字の周囲の四角ないし丸い囲みはいずれもBが鉛筆で記載したものと認められる。
しかしながら,金銭授受の事実を記載する趣旨の押印のある書面において,金額部分を容易に修正可能な鉛筆で記載するというのは不自然であると考えられる。また,金額の記載の配置等についても,平成27年の金額について,「2015 年 2/20」と「2015 年 2/28」及び「2015 年 4/26」と「2015 年 5/24」のみが横に並べられ,その他は,縦1列に記載されている理由や,一部の数字のみが四角や丸で囲まれている理由は,記載上明らかではなく,また,甲3書面の下部に切り取られたような痕跡がある理由も明らかではない。
b 原告は,甲3書面について,原告のメモ帳の記載(甲2。以下「本件メモ」という。)をBに示して,そこに記載されている金額を記載してもらい,署名をしてもらった,日付については記載をしてもらえなかったため,各金額の上又は左の日付は原告が記載し,その上でBが押印をしたと供述する。確かに本件メモには,「2015年2月20日」から「2016年1月3日」までの日付とその横に交付した金額が記載されており,日付と金額の記載内容は甲3書面と一致するものであるが,本件メモにおける日付と金額は上から下に一列に,日付が古い順に記載されているものであって,甲3書面における上記の配置と一致するものではなく,また,甲3書面において四角や丸で囲まれている金額について,本件メモにおいて他の日付における金銭交付と特段異なる記載がされているとも認められない。したがって,この点の原告の供述は,甲3書面における記載の配置と必ずしも一致しないものというべきである。
また,原告は,甲3書面の下部が切除されていることについて,Bに甲3書面の最下部に署名をしてもらい,そこに押印してもらったが,甲3書面を紛失して発見した際には,その署名押印部分が切り取られてなくなっていた旨供述する。しかしながら,前記ウ(オ)のとおり,原告は甲3書面は紛失後にBの服の中から見つかったと供述するものであるから,原告の供述を前提とすると,甲3書面の切除をした者もBであると考えるのが自然であるところ,甲3書面の残存部分にもBの手書きの記載があり,本件印章が押捺されていることも考慮すると,Bがその全体を破棄するのではなく,署名押印部分のみを切除したというのは,不自然といわざるを得ない。したがって,原告の上記供述は,甲3書面の下部が切除されていることを合理的に説明するものではない。
このように,甲3書面の作成状況についての原告の供述は,甲3書面の体裁の不自然さを払拭するものではなく,むしろ,その供述自体に不自然な内容を含むものであるといわざるを得ない。
(ウ) 甲3書面の記載内容について
甲3書面の記載内容は,前記(2)イのとおりであり,「BがAから2015年度手渡しで受け取ったお金合計¥5710,000-になります」との手書きの記載の下に,日付と金額であると考えられる記載があり,記載された各金額の合計は571万円となる。
原告は,これらの金銭の交付について,原告の母親が原告のために自宅において現金で保管していた金銭があり,原告はこれを自由に持ち出すことが許可されていて,原告の実家からその都度持ち出してBに現金で交付していた旨供述するが,そのような現金の持ち出しやBへの交付を客観的に裏付ける記載はない。原告は,手渡しでの現金の交付については,本件メモにその都度記録していたと供述するが,本件メモは,「お母さんからの借入金 Bさんへ 渡したお金」との表題の下に,日時,金額が日付の上から下に整然と記載され,最下部に「合計 5710,000-」との記載があるものであり,各記載に用いた筆記具に違いがあることもうかがわれず,その体裁から,交付の都度記載していたことが分かるものではなく,むしろ一度にまとめて記載した可能性を否定できない。原告は,本件メモ以外には記録を残していなかった旨も供述しており,甲3書面に記載された日時に,それぞれ対応する金額が手渡しで交付されたことについて,他の証拠によって裏付けられているとはいえない。
(エ) 甲3書面の保管状況等について
前記ウ(オ)のとおり,原告は,平成30年9月19日以前には,Bとの交渉の中で,甲3書面の存在を指摘したことはなく,571万円の現金を手渡しした旨の主張もしていなかったものであって,本件営業譲渡契約が成立しているとの主張を明示的に行ってもいなかったものと認められる。このような原告の態度は,原告が主張するように甲3書面が平成29年9月26日当時に作成されていたとすれば,不自然なものであるといえる。また,甲3書面の保管,紛失及び発見状況に関する原告の供述も,不自然な内容を含むものである。
(カ) 甲3書面の作成経緯についてのBの供述について
甲3書面のBの手書部分の作成経緯について,Bは,平成29年の7月か8月頃に,当時移転先として検討していた芦澤ビルでの本件画廊の売上げと経費の収支をシミュレーションし,これを原告に見せて説明したものであり,その際には,甲3書面の他の記載や押印はされていなかった旨供述する。
さらに,Bは,芦澤ビルでは3つのスペースが取れるところ,甲3書面の中央の一番上の上記「36万」,「45万」及び「50万」は「中スペース」での月間売上予測であり,平均的には中央に記載した「45万円」と予測し,「45万円」の下の「30万」及び「75万」は他の2つのスペースでのそれぞれの月間売上予測であり,これらの3つのスペースの月間売上予測を合算した150万円(45万円+30万円+75万円)が「75万」との記載の右側に記載された四角と二重丸に囲まれた「150万」であって,また,「75万」の下部の記載については,支出の予測を記載したものであり,そのうち「30万」及び「20万」は順にB及び原告の給与であって,その下の四角く囲まれた「50万」はその合算であり,その下部の「10万」は原告の母への仕送り分,「60万」は賃料や管理費,「15万」は雑費である旨供述する。
Bの上記供述は,前記(イ)aで検討した,Bの記載した金額の配置が揃っていないことや,一部の数字に丸や四角での囲みが記載されていることを一応説明し得るものであり,原告に示すためのシミュレーションであったとすれば,B作成部分が鉛筆で記載されていることも不自然ではない。また,証拠(乙38,59,61,62)及び弁論の全趣旨によれば,Bは平成29年夏頃に,実際に芦澤ビルへの移転を検討していたことが認められ,この事実はBの上記供述に符合するものである。原告は,Bが作成した入居申込書(乙62)に記載された芦澤ビルの賃料は,月34万円,共益費は10万1939円であるから,賃料を60万円とする上記のシミュレーションとは開きがある旨指摘するが,当該入居申込書は平成29年8月2日付けのものであり,それ以前の同年4月20日付けのBによる入居申込書(乙38)においては,賃料について賃料40万7760円(税別),共益費10万1940円(税別)と記載されていたから,Bがシミュレーションにおいて賃料を60万円程度とするのが不自然とはいえない。
そうすると,甲3書面について,Bの手書部分は移転後の本件画廊の売上げと経費の収支をシミュレーションしたものであり,原告に甲3書面を示した際には,原告による記載や本件印章による押印はされていなかった旨のBの供述を排斥することはできず,甲3書面について,Bがシミュレーションのために作成した文書に原告が加筆して作成した可能性を否定することはできない。
(キ) 小括
以上のとおり,本件印章が本件画廊の業務に関して日常的に使用していた複数の印章のうちの一つであり,原告が本件印章に接触することが可能であったことに加え,甲3書面の体裁には被告作成部分が鉛筆で記載されていることや,各記載の配置,甲3書面の下部に切り取られたような痕跡があるといった不自然な点があること,甲3書面の作成状況についての原告の供述は,甲3書面の体裁の不自然さを払拭するものではなく,かえって,供述内容自体に不自然な内容を含むものであること,甲3書面に記載された現金の交付が,他の証拠によって十分に裏付けられているとはいえないこと,甲3書面の保管,紛失及び発見状況に関する原告の供述は不自然な内容を含むものであること,他方で,甲3書面の作成経緯についてのBの供述を排斥することはできず,Bがシミュレーションのために作成した文書に原告が加筆して作成したものであった可能性が否定できないことからすれば,甲3書面についての前記イ(イ)の真正な成立の推定は覆されるというべきであり,その他,甲3書面が,原告の主張するような趣旨の文書として,Bの意思に基づいて成立したことを認めるに足りる証拠はない。
オ 本件営業譲渡契約の成否について
(ア) 前記イないしエで検討したとおり,甲4書面及び甲3書面について,それが原告が主張する趣旨の文書として,Bの意思に基づいて成立したと認めることはできないから,その他の証拠によって,本件営業譲渡契約の成立が認められるかを検討する。
原告は,Bが企画画廊を始めるために,その資金として必要な800万円で,本件商号での本件画廊の営業を譲渡するとの本件営業譲渡契約が平成27年2月20日頃に成立した旨を主張し,平成26年11月頃から本件営業譲渡の話をBから持ち掛けられ,平成27年2月20日の婚姻までの間に本件営業譲渡契約が成立した旨,当該主張に沿う供述をする。しかしながら,前記アのとおり,その当時において,原告とBとの間で,本件営業譲渡について作成された契約書等はない上,前記(1)イのとおり,原告は平成26年11月から本件画廊の業務を休日に手伝うようになったばかりであり,それ以前に画廊の業務の知識経験はなかったことからすれば,原告とBが結婚を予定していたことを考慮しても,平成27年2月頃に,Bが原告に対して,本件商号での本件画廊の営業を全て譲渡するとの内容の契約を締結したというのは不自然である。また,Bが,その当時において本件商号での貸画廊を終了して,企画画廊の事業を行うことを具体的に計画していた事実や,企画画廊を開設する資金が800万円であるとの事実を認めるに足りる証拠もなく,この点に係る原告の供述は裏付けに欠ける。また,原告の供述を前提としても,原告とBとの間で,平成27年2月20日頃までに,本件営業譲渡代金を800万円とする理由やその具体的な支払時期についてのやりとりはなく,原告に本件商号での貸画廊の営業を譲渡した後のBの事業計画についての具体的な話はされていなかったものであり,そのような状況下で,本件画廊の営業譲渡という重要な資産についての取引が行われたとしいうのは不自然である。
そうすると,原告の供述から,原告とBとの間で,平成27年2月20日頃に,本件営業譲渡契約が成立したとは認められず,その他,本件営業譲渡契約の成立を認めるに足りる証拠はない。
(イ) なお,甲4書面及び甲3書面について,それが真正に作成されたことの証明がされていないことは前記のとおりであるが,仮に,原告が供述するとおり,これらの書面をBが作成した事実があったとしても,甲4書面をBが作成した経緯や,前記(ア)で指摘した事項を考慮すれば,原告とBとの間で本件営業譲渡契約が成立したとは認められない。
すなわち,前記ウ(エ)のとおり,原告がBに対して説明した甲4書面の作成趣旨は,Bがその作成に応じれば,原告は今後も「外注費」名目での支払を継続するというものであり,「外注費」名目の金銭が企画画廊の資金であり,それは既に支払済みであるとの甲4書面の記載内容と整合していない。したがって,甲4書面及び甲3書面の書面は,原告からBに対するそこに記載された金銭交付の事実を裏付ける証拠とはなり得るとしても,それによって,直ちに,金銭交付の趣旨が本件営業譲渡契約の代金であったと認めることはできないというべきである。
そして,甲4書面及び甲3書面の作成の真否にかかわらず,本件営業譲渡契約が成立したとされる平成27年2月頃の状況について前記(ア)の指摘は同様に当てはまるから,この点を考慮すれば,前記(ア)同様に,原告とBとの間で,本件営業譲渡契約が成立したとは認められない。
(4) 争点1についてのまとめ
前記(3)のとおり,本件営業譲渡契約の成立は認められないため,Bが,本件営業譲渡契約及び商法16条1項により競業避止義務を負うことはなく,また,本件営業譲渡契約に基づいて本件商号やその類似の名称を使用しないとの義務を負うこともない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,争点1に係るBに対する営業及び商号使用の差止請求は理由がない。
2 争点2-4(原告の被告らに対する原告商標権の行使が権利の濫用に当たるか)について
(1) 権利濫用該当性について
事案に鑑み,争点2(被告らに対する原告商標権に基づく差止及び廃棄請求並びにBに対する原告商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求に関する争点)については,まず,原告の被告らに対する原告商標権の行使が権利の濫用に当たるかを検討する。
証拠(乙4,75)及び弁論の全趣旨によれば,原告商標は被告ら標章1と同一であること,Bは,遅くとも,母であるDが亡くなった平成19年以降,本件商号を用いて貸画廊を運営しており,平成21年以降は,被告ら標章1を使用していたこと,原告において本件営業譲渡契約が締結されたと主張する平成27年2月当時,本件商号及び被告ら標章1には原告独自の信用が化体しておらず,むしろ,それらが正当に帰属すべきはBであったと認められる。
これに対し,原告は,本件営業譲渡によって,Bから本件商号を含め本件画廊に関する全ての権利を譲り受けていると主張するが,前記1のとおり,本件営業譲渡契約の成立は認められないから,平成30年1月30日の原告商標の登録出願がされた時点においても,本件商号及び被告ら標章1に原告独自の信用が化体していたとは認められず,これらが正当に帰属すべきはBであったと認めるのが相当である。
そうすると,原告が,Bに対して,原告商標権に基づく差止及び廃棄請求並びに商標権侵害による損害賠償請求を行うことは,権利の濫用に該当して許されないというべきである。また,弁論の全趣旨によれば,被告会社は,Bが代表者を務め,Bと一体になって被告ら標章1を使用しているものと認められるから,原告が,被告会社に対して,原告商標権に基づく差止及び廃棄請求を行うことも,同様に権利の濫用に該当するというべきである。
(2) 争点2についてのまとめ
前記(1)によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告らに対する原告商標権に基づく差止及び廃棄請求並びにBに対する原告商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない。
3 争点3(Bに対する,営業妨害行為の差止請求の当否)について
(1) 本件営業譲渡契約に基づく差止請求について
前記1のとおり,本件営業譲渡契約が成立したとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,本件営業譲渡契約に基づく原告のBに対する営業妨害行為の差止請求は理由がない。
(2) 営業権に基づく差止請求について
ア 営業権に基づく差止請求権について
以下,営業権に基づく差止請求として,別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載の各行為の差止請求が認められるかを検討する。
前記前提事実(3)のとおり,原告とBは,平成30年1月以降,それぞれ,いずれも本件商号を使用し,交互に本件事務所を使用する状況で,画廊の営業を行っており,前記1(1)キのとおり,当面,本件事務所を交互に使用すること自体については相互に了承していたものであって,また,弁論の全趣旨によれば,一方が展示室を使用している日であっても,他方が事務室内での作業等のため本件事務所に立ち入ることは,相互に容認していたものと認められる。
本件においては,前記1のとおり,本件営業譲渡の事実は認められず,本件商号は原告に帰属するものではないが,上記のとおり,原告が本件事務所において貸画廊の業務をすること自体についてはBが了承していたものであるから,Bの行為により,同じ場所を共用する事業者として相互に受忍すべき限度を超えて,原告の人格的利益を内包する平穏に営業を遂行する権利が侵害される蓋然性があり,事後的な損害賠償では回復の困難な重大な損害が発生すると認められるような場合には,上記の権利に基づき,当該権利を侵害する行為の差止めを求めることができると解するのが相当である。
イ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載1の行為(原告事務所所在地において,原告及び原告の顧客作家に対して,大声を上げ,暴言を吐き,誹謗中傷をすること)について
証拠(甲22,23,25,28,29,64,82,86,87,114)及び弁論の全趣旨によれば,原告とBとの間では,平成30年以降,本件画廊の経営権や本件商号の帰属についての紛争が継続しており,その中で,少なくとも,平成30年5月29日頃,原告の顧客が本件事務所にいる状況で,原告とBとが口論になったこと,同年6月26日頃,Bが,原告の顧客作家に対し,原告が心の病を抱えるような状態である旨を述べたこと,同年8月27日,Bが,Bの展示期間中に本件事務所に原告を訪ねてきた顧客に対し,展示への投票を求め,当該顧客がこれを断ったところ,同人に帰るように述べたこと,同年11月19日,原告が本件事務所に,原告商標権を取得している旨の張り紙や原告商標権に係る登録証の写しを本件事務所の壁に貼ったところ,Bが,これらを剥がし,原告に貼らないように求めたこと,原告がこれに応じず再び接着剤で上記の張り紙等を壁に貼り付けたことから,Bがペンチでこれを外したこと,平成31年4月17日,Bは,原告と事務室内で口論となった際に,事業譲渡書の偽造は刑事罰の対象になり,刑務所にぶち込まれる等との発言をしたこと,令和元年5月31日頃,Bは,原告の顧客であるJが本件事務所にいる状況で,自身の顧客等に対する電話で,本件営業譲渡の事実はなく,営業譲渡の契約書は偽造である旨を説明したこと(なお,原告は,同日にBが原告の顧客であるJに体をぶつけたと主張をし,原告からV弁護士に宛てた同年6月2日付けのメール(甲30)には,Bが席を立った際にJにぶつかったが,何も言わずに出て行ったとの記載があるが,BがあえてJにぶつかったとの事実を認めるに足りる証拠はない。),同年11月25日,Bは,事務室内において,原告,原告のスタッフ及びBのスタッフがいる状況で,原告とBとが言い争いになった際の録音データを数秒間再生したことが認められる。
原告が同目録記載1の行為に関して主張するその余の事実については,これを認めるに足りる証拠がなく,令和元年11月25日より後に,Bが,本件事務所において上記と同様の行為を継続したことについての具体的な主張立証はない。
また,前記1のとおり,Bから原告への本件営業譲渡の事実は認められないところ,後記5(2)のとおり,原告は,本件営業譲渡の事実があったことを原告ウェブサイト上で公表し,個別に顧客に告知するなどの行為を継続しており,これはBの信用を害する虚偽の事実の告知ないし流布(不競法2条1項21号)に該当するものである。そうすると,原告が本件営業譲渡によって本件商号での貸画廊の営業を承継したと主張することに対して,Bが本件営業譲渡の事実がなく,原告が本件商号を使用する権利がない旨を原告に対して反論することや,その旨を原告及びBの顧客に説明すること自体が直ちに不当とはいえない。
したがって,同目録記載1の行為である,本件事務所で大声を上げることや,原告の顧客に対して暴言を吐くことなどは,原告の営業に対する妨害となり得るものではあるが,上記の各点を考慮すれば,本件口頭弁論終結時において,将来,受忍限度を超えた侵害行為が行われる蓋然性があるとは認められないから,同目録記載1の行為について原告が営業権に基づく差止請求権を有すると認めることはできない。
ウ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載2の行為(原告とBとのやりとりを録音して,これを第1項の事務所所在地にて,原告の営業時間中,大音量にて流すこと)について
証拠(甲31)及び弁論の全趣旨によれば,平成30年5月30日頃,Bが原告との口論の際の原告の発言を録音し,原告の顧客が本件事務所にいる時間に,本件事務所においてこれを再生したことが認められる。
しかしながら,それ以降の時期において,Bが,原告とBとの口論を録音して,原告の営業時間中に再生することを継続的に行ったことの主張立証はないから,本件口頭弁論終結時において,将来,受忍限度を超えた侵害行為が行われる蓋然性があるとは認められず,同目録記載2の行為について原告が営業権に基づく差止請求権を有すると認めることはできない。
エ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載3の行為(事務所に備え付けられたライト等の備品を取り外すこと,画廊展示室を使用後,展示室を原状に戻さないままにすること)について
証拠(甲32ないし36,90)及び弁論の全趣旨によれば,Bは,平成30年10月28日頃,展示スペースに取り付けてあるライトを撤収したことがあったこと,平成31年4月18日頃にBの顧客の展示が終了した際,壁の塗装が剥げており,補修が翌日になったことが認められる。
上記のライトについて,原告は,本件営業譲渡によってBから権利を譲り受けたと主張するところ,前記1のとおり,本件営業譲渡の事実は認められないから,これをもって,Bが原告所有の備品を取り外したとはいえないし,その後,Bが原告所有の備品を取り外すことを繰り返したとの主張立証もない。また,Bが展示室を使用した後の荷物の搬出や,その他の原状回復についても,Bがこれを殊更に遅らせることが継続しているとの主張立証もないから,同目録記載3の行為について,口頭弁論終結時において,将来,受忍限度を超えた侵害行為が行われる蓋然性があるとは認められず,原告が営業権に基づく差止請求権を有すると認めることはできない。
原告は,同目録記載3の行為の差止めに関して,それ以外にも,Bが原告名義の電話を使用したことがあったことや,令和元年8月19日にBが表看板の原告の張り紙を無断で剥がし,原告の母親との間でも騒ぎを起こした等と指摘するが,原告が主張するこれらの事情は,同目録記載3の行為の差止請求権を基礎付けるものとはいえず,上記の判断を左右するものではない。
オ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載4の行為(原告専用電話番号が付してある固定電話を無断で使用する,又は,留守番電話設定にすること)について
証拠(甲36ないし39,119ないし122)及び弁論の全趣旨によれば,Bは,平成30年12月,平成31年3月及び令和元年10月に,原告と共用している本件事務所内の事務室において,原告が自席から離れている間に,原告の電話機にかかってきた電話を取った上で直ちに切ったこと,また,留守番電話設定にすることがあったことが認められる。
原告宛ての電話の着信音がBによる展示その他の業務に与える影響も考慮すると,上記のような行為をBが取ったことが原告の業務に対する積極的な妨害行為であるとはいい難い上,それ以降の時期において,Bがこれらの行為を継続的に行ったことの主張立証はないから,口頭弁論終結時において,将来,受忍限度を超えた侵害行為が行われる蓋然性があるとは認められず,同目録記載4の行為について原告が営業権に基づく差止請求権を有すると認めることはできない。
カ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載5の行為(原告の顧客作家に対して,原告があたかもGALLERY ART POINTの運営を乗っ取ったかのような内容,原告が心の病を抱え,精神的に病んでいる等と誹謗中傷するかのような内容,又は,原告が正当な営業権を有していないとの内容の手紙,若しくは,メールを送ること,及び,原告主催の企画展に応募した原告の顧客作家に対して,これをキャンセルするよう勧めること)について
前記イのとおり,原告が本件営業譲渡によって本件商号での貸画廊の営業を承継したと主張することに対して,Bが本件営業譲渡の事実がなく,原告が本件商号を使用する権利がない旨の反論を行うことや,その旨を原告及びBの顧客に説明すること自体が不当であるとはいえない。
また,証拠(甲43)によれば,BのスタッフであったQは,令和元年5月27日,原告との間で展示の打合せを進めていたJに対し,Bが原告に対して暫定的に名前を貸している旨を記載したメールを送信したことが認められるが,同証拠によって認められるJとQとの前後のメールのやり取りからすれば,Qがそのような説明をしたのは,Jが原告とBとが同一の営業主体であると認識していたため,営業主体が別である旨を説明する趣旨であったものと考えられる。そして,前記1のとおり,本件営業譲渡の事実が認められず,本件商号についてはBに帰属していたものと認められる。そうすると,原告とBがいずれも本件商号を用いて営業をしている状況について,Bが原告に暫定的に本件商号を貸している旨の説明をすることが不当であるとはいえないから,上記のJとのメールのやり取りがBによる原告の受忍限度を超えた営業妨害行為とまではいえない。
さらに,証拠(甲41,42)によれば,Bは,平成31年4月にNに対して手紙を送付し,その中で原告の行動に対して「一種の心の病を抱えているものと思い,落ち着くまで様子をみるつもりで静観していた」などと記載していたことが認められるものの,それ以後,Bが,原告の顧客に対して,原告が心の病を抱え,精神的に病んでいる等との発言を継続していたことについての主張立証はない。
この点,原告は,Bが,平成30年7月22日に,Pに対して,原告の企画展をキャンセルして,被告らの企画展に参加してもらわないと困る等と述べ,原告の企画展をキャンセルするよう勧めたと主張するところ,証拠(甲40,91,乙69)及び弁論の全趣旨によれば,平成30年7月22日頃に,Pが,原告とBの双方の展示会への参加を検討しており,原告とBが了承するのであれば双方の展示会に参加したいと述べていたこと,Bは,両方に参加することに反対して自らの展示会にのみ参加するように求め,最終的には,Pが双方の展示会への出品をキャンセルしたことが認められる。そして,Pの展示会への申込みについて,Pと原告又はBとのメール(甲91,乙69)からは,Pは,Bと原告とが同一の経営主体であるとの認識で原告の展示会への参加申込みをしており,さらには,原告に対する申込みをするより前に,Bに対してBの展示会に参加する意向を示していたことがうかがわれ,このような事情をも考慮すれば,本件証拠上,Bが,原告とBの両方の展示に参加することを反対して自らの展示に参加するように求めたことについて,原告の受忍限度を超えた営業妨害に当たる行為があったとまでは認められない。加えて,それ以後,Bが,原告の顧客に対して,個別に連絡を取り,原告主催の企画展への応募をキャンセルするように求めることを継続していたことについての主張立証はない。
以上によれば,同目録記載5の行為について,口頭弁論終結時において,将来,受忍限度を超えた侵害行為が行われる蓋然性があるとは認められず,原告が営業権に基づく差止請求権を有すると認めることはできない。
キ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載6の行為(原告の展示会スケジュールを含めた一切の予定を原告に無断で書き換えること)について
原告は,Bが平成30年11月7日頃に原告の展示会のスケジュールを無断で書き換えた旨主張するところ,証拠(甲44)によれば,平成30年12月3日頃にV弁護士はBに対する警告書を作成しており,その内容として,原告とBとが共用していたスケジュール管理のソフトウェアにおいて,Bが原告の展示会の予定を削除し,自らの予定に差し替えたことを指摘し,今後書換えをしないように求める記載があったことが認められる。
しかしながら,上記の警告書記載の行為があったとしても,平成30年12月以降の時点で,Bが,原告のスケジュール管理ソフトウェアの記載内容の書換えを継続的に行ったことの主張立証はなく,口頭弁論終結時において,原告とBがスケジュール管理のソフトウェアを共用している事実を窺わせる証拠もないから,同目録記載6の行為について,口頭弁論終結時において,将来,受忍限度を超えた侵害行為が行われる蓋然性があるとは認められず,原告が営業権に基づく差止請求権を有すると認めることはできない。
ク 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載7(原告顧客作家に関する情報を無断で,被告らウェブサイト等にアップロードすること)について
証拠(甲44ないし50)及び弁論の全趣旨によれば,前記キのV弁護士が作成した警告書には,Bが原告の顧客の作家の作品をFacebookやダイレクトメールにおいて掲載していることを指摘し,これらの掲載を行わないように求める記載があったこと(甲44),Bが,少なくとも平成30年12月中までは,原告の顧客による展示の情報やその作品についてBが管理する被告らウェブサイト等に掲載していたことが認められる。
しかしながら,それ以降の時期において,Bが原告の顧客による展示の情報やその作品の掲載を継続的に行ったことの主張立証はないから,同目録記載7の行為について,口頭弁論終結時において,将来,受忍限度を超えた侵害行為が行われる蓋然性があるとは認められず,原告が営業権に基づく差止請求権を有するとは認められない。
ケ 別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載8の行為(その他原告の業務を妨害する一切の行為)について
証拠(甲51,52)及び弁論の全趣旨によれば,平成30年12月10日,Bが,原告のチラシ等が置かれた棚の上部に加湿器を設置し,当該加湿器の故障による水漏れのため,原告のチラシ等が濡れることがあったものと認められるが,Bが当該加湿器からの水漏れを認識しながら,あえて設置したことを認めるに足りる証拠はない。
また,原告は,原告が管理していたFacebookのページをBが管理しようとしたことを妨害行為として主張するが,原告は当該Facebookの管理権限について本件営業譲渡によってBから承継した旨を主張しているから,前記1のとおり,本件営業譲渡が認められない以上,これらの管理権限が専ら原告に帰属するものであったとはいえず,Bがこれを管理しようとしたことが直ちに原告の受忍限度を超えた営業妨害行為に当たるとはいえない。さらに,証拠(甲144ないし146)及び弁論の全趣旨によれば,原告とBとの間では,どちらが本件商号を用いてGoogleマイビジネスに登録するかを巡って紛争があり,双方が自らの画廊を本件商号で登録することを繰り返したことが認められるが,この点についても,本件営業譲渡の事実が認められず,本件商号がBに帰属することを考慮すれば,Bによる原告の受忍限度を超えた営業妨害行為に当たる行為があったとまでは認められない。
なお,同目録記載8の行為は「その他原告の業務を妨害する一切の行為」であるが,前記イないしクのとおり,同目録記載1ないし7の各行為についての差止請求権が認められない上,同目録記載8の行為の差止めに関して,原告が特に主張した事情を考慮しても,上記のとおり,いずれも侵害行為が将来継続することを示すものとはいえないから,本件口頭弁論終結時において,同目録記載8のような一般的な差止めをする必要性があるとはいえない。
したがって,同目録記載8の行為について,原告が営業権に基づく差止請求権を有すると認めることはできない。
コ 小括
以上によれば,原告の,営業権に基づく別紙4営業妨害行為目録(差止対象行為)記載の各行為の差止請求はいずれも理由がない。
4 争点4(Bに対する,営業妨害行為の不法行為に基づく損害賠償請求の当否)について
(1) 別紙9-1営業妨害行為目録(実損被害)記載のBの行為について
ア 原告の実損被害1に係る行為について
証拠(甲60,212)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成30年2月頃から令和2年4月頃までに,複数回にわたって本件事務所に防犯カメラを設置したものと認められる。
しかしながら,証拠(甲212)によれば,原告による最初の防犯カメラの発注(合計17万8000円)は,本件事務所への移転が完了する前である平成29年11月23日以前になされているものであり,1度目の追加の発注(合計11万3400円)も平成30年10月頃であって,原告が原告の実損被害1に係る行為として具体的に指摘するBの行為よりも前のものであって,原告がBの営業妨害行為によってこれらの購入をせざるを得なかったとは認められない。
また,証拠(甲212)によれば,原告は,平成31年2月頃及び令和2年2月頃に防犯カメラを追加で発注しているが,原告の実損被害1に係る行為として具体的に指摘されているBの行為の内容及び上記のとおり原告が平成30年10月頃までに既に相当な費用を投じて防犯カメラを設置していたことに照らせば,原告がBの行為によって,防犯カメラの更なる追加設置を余儀なくされたとは認められないというべきである。なお,原告の指摘するBの行為のうち,①平成30年11月19日の行為については,前記3(2)イのとおり,原告が本件事務所の壁に貼り付けた張り紙等をBがペンチで外したことは認められるが,ペンチを原告のスタッフに向けて脅したとの事実を認めるに足りる証拠はなく,②同年12月10日の行為についても,前記3(2)ケのとおり,Bが水漏れを認識しながら,あえて加湿器を設置したことを認めるに足りる証拠はない。また,③同日以降に行われたとされる原告専用電話を無断で取った等の行為については,前記3(2)オのとおり,原告の業務に対する積極的な妨害行為とはいい難いものである。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の実損被害1に係る行為についてBは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
イ 原告の実損被害2に係る行為について
証拠(甲23,65,66,70,81,136,213)及び弁論の全趣旨によれば,原告とBとは,平成30年2月以降,本件事務所に設置されていたパソコンを共用していたこと,同年5月末頃,原告とBとの間では,共用しているパソコンの使用方法を巡ってトラブルが生じることがあったこと,原告は,同年6月13日頃,FacebookアカウントのパスワードをBに知られたと疑い,パソコンの共用をやめようと考えたこと,原告は,同月15日及び同年7月24日に原告専用のノートパソコンを2台購入したことが認められる。
前記1のとおり本件営業譲渡の事実は認められない上,原告とBとが平成30年当時に本件事務所において共用していたパソコンが原告の所有に係るものであったことを認めるに足りる証拠はないから,原告が,Bとの紛争を契機にパソコンの共用を止めようとして,自己の専用パソコンを購入したとしても,これをもって,原告にBの行為と相当因果関係のある損害が発生したとは認められない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の実損被害2に係る行為についてBは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
ウ 原告の実損被害3に係る行為について
原告は,Bに不審な行動があり,防犯のため鍵付き金庫を購入せざるを得なくなったと主張するが,原告が具体的に指摘するBの行動は,いずれも金庫を購入したとする平成31年1月10日(甲177)よりも後の行動であって,原告が金庫の購入したこととの相当因果関係があるとはいえず,その他,Bの行動によって,金庫を購入せざるを得なくなったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の実損被害3に係る行為についてBは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
エ 原告の実損被害4に係る行為について
証拠(甲32,36,54,89,214,乙24)及び弁論の全趣旨によれば,本件画廊が移転した際,電話及びインターネット回線の契約は原告が行っており,Bは,独自の電話回線の契約をしておらず,平成30年11月頃まで,原告名義で契約した電話番号を自身の番号として使用し,原告名義のインターネット回線を使用していたこと,平成30年2月頃に原告とBとが協議をした際,原告は,電話及びインターネット回線についての費用の清算について協議が必要である旨は述べたが,Bがこれを使用することを禁止する旨は述べていなかったこと,原告は,遅くとも平成30年10月末頃にまでにはBに対して原告名義で契約している電話回線の使用を拒絶する旨を明確に伝え,その後,原告は,遅くとも,同年12月頃までには,独自の電話回線の契約をしたことが認められる。
原告は,平成30年1月から同年11月にかけてのBによる電話及びインターネットの使用が不法行為に該当し,契約料金の全額(甲214)に相当する損害が発生したと主張するが,上記の経緯に加え,前記3(2)エのとおり,平成30年10月頃まで,原告とBがスポットライトなどの本件事務所の備品を共用していたことも考慮すれば,Bによる上記の電話及びインターネット回線の使用については,原告の黙示の許諾があったと認めるのが相当であり,原告に対する不法行為に該当すると認めることはできない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の実損被害4に係る行為についてBは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
オ 原告の実損被害5に係る行為について
前記2(1)のとおり,原告がBに対して原告商標権に基づく差止請求等を行うことは,権利の濫用として認められない。
そうすると,原告がBに対して原告商標権の侵害を理由として通知書及び警告書(甲15)を作成,送付することが必要であったとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の実損被害5に係る行為についてBは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
カ 原告の実損被害6に係る行為について
証拠(甲178)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成31年1月10日と同月24日に,本件事務所におけるインターネット回線の調査整理や無線LANの設定を依頼し,その出張費用等として4万3200円を負担したものと認められる。
しかしながら,平成30年11月までの期間にBが原告のインターネット回線を使用することがあったことを考慮しても,前記エの経緯を踏まえれば,平成31年1月の時点においてBによる原告の回線の使用のおそれが具体的に存在したとは認められず,Bによる平成30年11月までの使用によって,上記の出張費用等の支出をせざるを得なくなったとまでは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の実損被害6に係る行為についてBは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
キ 原告の実損被害7に係る行為について
証拠(甲62,63)及び弁論の全趣旨によれば,Bが,平成30年8月13日及び同月16日に,本件事務所の外看板に掲示していた原告の掲示物を剥がして持ち去ったり,見えないようにしたりしたことが認められる。
Bは,この点について,原告がBの業務を妨害する内容のチラシを貼り出したため,それを剥がしたものにすぎず,正当な行為であったと主張するが,原告の掲示物の内容やそれらの全てがBの業務を妨害するものであったことを含め,Bの行為が正当行為に当たり得ることについて具体的に主張立証していないから,Bの上記行為は,原告の業務を妨害するものとして不法行為に該当するというべきである。
そして,証拠(甲62,63,216)及び弁論の全趣旨によれば,Bの上記行為によって,原告はチラシの作成費用が無駄になった結果,少なくとも1728円の損害を被ったものと認めるのが相当であり,Bは,不法行為に基づく損害賠償として同額の支払義務を負う。
ク 原告の実損被害8に係る行為について
原告の実損被害8に係る行為については,原告の外出中にBが本件事務所で待機すべき義務を負っていたことを認めるに足りる証拠はなく,原告の外出中にBが本件事務所の戸締りをして本件事務所から出たことがあったとしても,それが原告に対する受忍限度を超える営業妨害に当たるとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の実損被害8に係る行為についてBは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
ケ 原告の実損被害9に係る行為について
原告の実損被害9に係る行為は,本件営業譲渡によってBからスポットライトの所有権が原告に移転したことを前提とした主張であるが,前記1のとおり,本件営業譲渡の事実は認められず,原告が自らが使用するスポットライトの購入費用を負担したことについて,Bの不法行為による損害が発生したとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の実損被害9に係る行為についてBは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
コ 原告の実損被害10に係る行為について
証拠(甲218)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成31年7月頃,パーテーション1枚を1万2528円で購入して,事務室内に設置したものと認められる。
前記3(2)アのとおり,原告とBは,平成30年1月以降,一方が展示室を使用している日であっても,他方が事務室内での作業等のため本件事務所に立ち入ることは相互に容認していたものと認められるところ,1つの事務室を双方が同時に使用する状況の下で,いずれかが,上記のようなパーテーションを購入することは一般的な備品の購入と考えられ,Bの行為によって,原告が本来不必要な費用の負担をしたとの事情を認めるに足りる証拠はないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の実損被害10に係る行為についてBは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
サ 原告の実損被害11に係る行為について
証拠(甲51,52)及び弁論の全趣旨によれば,平成30年12月10日,Bが,原告のチラシや原告の顧客のダイレクトメールの葉書等が置かれた棚の上部に加湿器を設置し,当該加湿器の故障による水漏れのため,これらのチラシやハガキ等が濡れることがあったものと認められる。
Bが当該加湿器からの水漏れを認識しながら,あえて設置したことを認めるに足りる証拠はないが,当日の加湿器の設置状況について,Bは,加湿器が普段置かれている棚の上になく,洗面所に置かれていたのを発見し,おかしいと思いながらも棚に戻して使用したら水漏れが発生したと主張しているところ,Bの主張を前提としても,加湿器が撤去されていた理由を確認せずに,これを再び設置して水漏れ事故を発生させたというものであるから,上記の水漏れによる原告のチラシやハガキ等の棄損について,Bには過失があったものと認めるのが相当である。
そして,証拠(甲51,52,219)及び弁論の全趣旨によれば,水に濡れたダイレクトメールは全体で2732円の費用を掛けて発注したものであり,水に濡れた部分を再発注すると同程度の費用が発生すること,それ以外にも原告が作成したチラシの一部が水に濡れて使用できなくなったことが認められ,これらの点からすれば,上記の水漏れ事故によって原告は少なくとも上記の2732円の損害を被ったものと認められる。
したがって,Bは,不法行為に基づく損害賠償として同額の支払義務を負う。
シ 原告の実損被害12に係る行為について
証拠(甲76ないし79,220)によれば,Bが,令和元年10月24日,本件事務所において,原告が陳列していた原告の顧客の展示会の案内の葉書等を回収して,事務室内の原告の机の上に置いたこと,その際に葉書が陳列棚から展示室の床面に落ちたことが認められる。
しかしながら,このようなBの行為によって上記の葉書等が使用できなくなったことを認めるに足りる証拠はないから,上記の葉書等を再度作成するための費用相当額の損害が原告に発生したとは認められず,その余の点について判断するまでもなく,原告の実損被害12に係る行為についてBは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
ス 原告の実損被害13に係る行為について
証拠(甲181)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成31年2月頃,絵画等美術品を保険の対象とし,保険金額を300万円とする賠償責任保険に加入し,その保険料として年間4万5050円を負担したものと認められるが,画廊の運営において上記のような保険に加入することが特段不必要なこととはいえず,Bが鍵のかけ忘れの事実があったことを認めていることを考慮しても,当該保険料について,Bの行為によって原告が本来不必要な費用の負担をしたと認めることはできないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の実損被害13に係る行為についてBは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
(2) 別紙9-2営業妨害行為目録(出展キャンセル被害)記載のBの行為について
ア 原告の出展キャンセル被害1に係る行為について
証拠(甲88)によれば,原告の顧客であるWが,平成30年5月31日,原告に対し,申込済みの展示会への出展をキャンセルしたい旨のメールを送信したが,そのキャンセルの理由は明示されていなかったことが認められる。
そして,前記3(2)ウのとおり,Bが,同月30日頃,原告との口論の際の原告の発言を録音し,原告の顧客が本件事務所にいる時間に,本件事務所において,これを再生したことがあったものと認められるが,原告が同日の出来事をV弁護士に報告したメール(甲31)では,上記の録音を再生した際に本件事務所内にいた作家としてWとは別の作家の名前が記載されており,同人についての言及はなかった。
以上に照らせば,原告の出展キャンセル被害1に係る行為について,原告の主張するような経緯でキャンセルが発生したとの事実を認めることはできないというべきであり,その余の点について判断するまでもなく,Bは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
イ 原告の出展キャンセル被害2に係る行為について
原告は,平成30年7月11日のBの対応により,原告の顧客であった「G」からその後展示予約をしてもらえなくなったと主張するが,同人がその後に原告との契約を結ばなくなった理由についての主張立証はなく,同人と原告との取引がBの行為によって終了したとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の出展キャンセル被害2に係る行為について,Bは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない
ウ 原告の出展キャンセル被害3に係る行為について
前記3 (2)カのとおり,本件証拠上,Bにおいて,Pが原告とBの両方の展示に参加することを反対して自らの展示に参加するように求めたことについて,原告の営業妨害に当たる行為があったとまでは認められない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の出展キャンセル被害3に係る行為について,Bは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
エ 原告の出展キャンセル被害4に係る行為について
証拠(甲182ないし184,乙35)及び弁論の全趣旨によれば,B及びそのスタッフであったQが,平成31年3月31日頃,原告の画廊での展示希望を有していたI’に対して,同人が本件事務所を訪問した際に本件画廊の営業権に関して説明したことが認められる。
しかしながら,Bらが同人に上記のような説明をした経緯や,その説明内容を確定し得る証拠はなく,前記3(2)イのとおり,原告が本件営業譲渡によって本件商号での貸画廊の営業を承継したと原告の顧客に説明することに対して,Bが,本件営業譲渡の事実がなく,原告は本件商号を使用する権利がない旨を原告の顧客に説明すること自体が直ちに不当とはいえない。そうすると,I’に対するBの対応について,原告に対する営業妨害の不法行為に該当する行為があったとは認められない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の出展キャンセル被害4に係る行為について,Bは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
オ 原告の出展キャンセル被害5及び7に係る行為について
原告は,Bとの紛争に関する説明を原告ウェブサイト上に掲載したところ,原告の顧客であった「X」及び「Y」が,この原告ウェブサイトの記載を見たことを理由に原告との契約をキャンセルしたと主張する。そして,証拠(甲185,186)によれば,令和元年6月23日に「X」が,同月22日に「Y」が,それぞれ原告に対してキャンセルのメールを送っていることが認められる。
そこで検討するに,証拠(乙48)によれば,原告は,令和元年6月20日頃,原告ウェブサイト(乙48)において,「【重要なお知らせ】」と題するページを設け,Bから原告への本件営業譲渡があった旨を公表し,Bとの間で本訴請求に係る裁判を行っていることなどを公表したことが認められるが,前記1のとおり,本件営業譲渡の事実は認められず,原告が上記のような原告ウェブサイト上での公表をする必要があったとは認められないから,上記の原告ウェブサイトの記載を理由として顧客が契約をキャンセルしたことがあったとしても,それがBの業務妨害行為によるものとはいえない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の出展キャンセル被害5及び7に係る行為について,Bは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
カ 原告の出展キャンセル被害6に係る行為について
前記3(2)イのとおり,令和元年5月31日頃,Bは,Jが本件事務所にいる状況で,自身の顧客等に対して電話で,本件営業譲渡の事実はなく,営業譲渡の契約書は偽造である旨を説明したことが認められるが,Bが原告とJとの打合せを殊更に妨害したとの事実を認めるに足りる証拠はない。また,前記3(2)カのとおり,BのスタッフであったQが,令和元年5月27日,Jに対して,Bが原告に暫定的に本件商号を貸している等と記載したメールを送信したことについても,Bによる営業妨害とまではいえない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の出展キャンセル被害6に係る行為について,Bは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
キ 原告の出展キャンセル被害8に係る行為について
証拠(甲41,160,165,172)及び弁論の全趣旨によれば,東北芸術工科大学が支援する卒業生の展示会が令和2年2月に原告の画廊において開催予定であったこと,令和元年12月3日,同大学のZが原告との打合せのために本件事務所を訪問した際,Bが,帰途についたZを追いかけて路上で呼び止め,上記展示会の開催予定を確認し,原告に事業譲渡書を偽造され,刑事告訴も考えているため,上記展示会については保証できないなどと述べたこと,令和2年2月5日,BがZに対してメールを送信し,Bが,そのメール中で,原告が原告ウェブサイト上で公表している本件営業譲渡は事実無根であることを説明した上,本件営業譲渡の事実はなく,事業譲渡書は偽造されたものである旨を説明した文書を,同大学の生徒を含む本件画廊の関係者2000名に送付する予定であること,この送付によって同月開催予定の展示会に影響が出るかもしれないこと,今後,原告とBとの間の係争中の裁判の判決が出るまでは,原告の画廊で同大学の支援や協賛による展示会を行うことは控えてもらいたいこと,この要望が通らない場合には,Bが同大学の学長に直訴する予定であることなどを記載したこと,その後,Zは,同大学の方針として,同月の展示会を開催する代わりに,係争中の裁判の判決がでるまでは原告の画廊で同大学の支援や協賛による展示会を行うことは控えることとし,その旨をBに伝えたことが認められる。
前記1(1)キのとおり,本件営業譲渡の事実は認められないものの,Bは,原告が原告事務所所在地において貸画廊の業務をすること自体については了承していた上,BのZに対する上記の働きかけは,単に,本件営業譲渡の事実がないといった,本件画廊の経営権に関するBの立場を説明するにとどまらず,原告の画廊で開催が決定している具体的な展示会について,その開催が危ぶまれる旨を伝えたり,今後,同大学の支援や協賛による展示会を行うことを控えるように求めるものであって,働きかけの態様も,原告を訪問したZを路上で呼び止めたり,要望が聞き入れられなければ学長に直訴すると述べるなど,穏当なものとはいえない。したがって,Bの上記行為は,原告の営業権を侵害する不法行為に該当すると認めるのが相当である。
そして,証拠(甲41,172及び196)及び弁論の全趣旨によれば,上記の令和2年2月の展示会における売上金は合計36万2100円であったと認められるところ,Bの上記の不法行為による損害として,原告には,少なくとも同額程度の逸失利益が生じたものと認めるのが相当であり,Bは,不法行為に基づく損害賠償として同額の支払義務を負う。
ケ 原告の出展キャンセル被害9に係る行為について
証拠(甲188)によれば,平成30年11月28日,A’が原告に対して個展の申込みのメールを送信したこと,同年12月4日,A’が,Bからも個展開催の勧誘のメールを受け取ったために,原告の画廊の運営に不信感を持ったとして,個展をキャンセルする旨のメールを原告に送信したことが認められる。
しかしながら,Bが,A’が既に原告に対して個展の申込みをしていたことを知りながら,あえて,原告との取引を止めて,Bと契約するように勧誘したとの事実を認めるに足りる証拠はないから,BがA’に対して勧誘のメールを行ったことが,原告に対する営業妨害行為に当たるとはいえない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の出展キャンセル被害9に係る行為について,Bは不法行為に基づく損害賠償義務を負わない。
(3) 争点4についてのまとめ
以上のとおり,Bの原告に対する不法行為による損害として,原告の実損被害7に係る行為につき1728円,原告の実損被害11に係る行為につき2732円,原告の出展キャンセル被害8に係る行為につき36万2100円の合計36万6560円が発生している。
そして,Bの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は4万円と認めるのが相当である(原告の実損被害7及び11に係る行為につき合計500円,原告の出展キャンセル被害8に係る行為につき3万9500円と割り付けるものとする。)。
以上によれば,原告のBに対する不法行為に基づく損害賠償請求は,上記の各金額の合計40万6560円及びこれに対する令和2年10月9日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
なお,遅延損害金の利率は,原告の実損被害7及び11に係る行為による損害並びにこれに対する弁護士費用の合計4960円について,令和2年3月末日までに発生した損害として平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合によるものとし,原告の出展キャンセル被害8に係る行為による損害及びこれに対する弁護士費用の合計40万1600円について,遅くとも同年10月9日までに発生しているものとして民法所定の年3%の割合によるものとするのが相当である。
5 争点5(原告に対する不競法2条1項21号の不正競争を理由とする損害賠償請求及び差止請求に関する争点)について
(1) 争点5-1(原告とBとの競争関係の有無)について
ア 原告とBは,平成30年1月以降,同一の建物の同一区画において,一定の期間ごとに交代で貸画廊の業務を行っているものであり,その需要者又は取引者を共通にする可能性があると認められるから,原告とBとは「競争関係にある」といえる。
イ 原告は,自らの業務について,画廊の場所を貸し,商品を販売するという従来の画廊の営業に加えて,動画配信やオンライン配信を用いるなど従来とは異なるサービスを行っているから,原告とBの営業形態が同一とはいえないと主張するが,少なくとも,上記の従来の画廊の営業についてはBと同様の営業を行っているものと認められるから,原告の上記主張は,前記アの判断を覆すものではない。
また,原告は,本件営業譲渡によりBから本件画廊の営業の譲渡を受けているから,原告とBとは競争関係にないとも主張するが,前記1のとおり,本件営業譲渡契約の成立は認められないから,当該主張は採用することができない。
(2) 争点5-2(他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知の有無)について
ア 証拠(甲187,乙23,28,32,48及び49)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,令和元年6月20日頃,原告ウェブサイト(乙48)において,「【重要なお知らせ】」と題するページを設け,Bから原告への本件営業譲渡があった旨を公表しており,また,Facebook上においても,同月頃,Bからの営業譲渡があった旨を公表したことがあったこと(乙23,28),また,原告は,Facebookにおいて,被告らウェブサイトのURLを明示した上で「※類似サイトにご注意ください」,「公式サイトGALLERY ART POINTと誤認するようなサイトが確認されております」との表示をし,さらに「GALLERY ART POINTの公式サイト」が原告ドメイン名による原告ウェブサイトである旨を表示したこと(乙32),このような原告ウェブサイト等での公表のほか,本件営業譲渡があった旨を原告が顧客に対して個別にメール等で通知したこと(甲187,乙49)が認められる。
イ 前記1(3)のとおり,本件営業譲渡契約の成立の事実は認められないから,Bから原告への本件営業譲渡があったとの事実を公表ないし告知することは,原告が本件商号及びそれを用いる貸画廊の営業の権利主体であり,Bはこれらについての権利を有しないとの事実を公表等するものとして,Bの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知ないし流布(不競法2条1項21号)に当たるというべきである。
また,被告らウェブサイトのURLを明示した上で,「GALLERY ART POINTの公式サイト」が原告ドメイン名によるものである旨を記載し,「※類似サイトにご注意ください」といった記載をすることも,Bが本件商号についての権利を有しない旨を公表するものとして,同様にBの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知及び流布(不競法2条1項21号)に当たるといえる。
(3) 争点5-3(不正競争についての原告の故意・過失の有無)について
前記1(3)オで検討したところからすれば,甲4書面及び甲3書面の作成の真否にかかわらず,本件営業譲渡があったとの事実は認められず,弁論の全趣旨によれば,Bは,平成30年以降,一貫して本件営業譲渡の事実を認めていなかったものと認められることも併せ考慮すれば,原告が,Bとの間に本件営業譲渡契約が成立していると信じることには少なくとも過失があるというべきである。
したがって,前記(2)の不正競争については,少なくとも原告の過失が認められる。
(4) 争点5-4(不正競争によるBの損害)について
ア 売上げの減少による損害について
(ア) 証拠(乙33,49,50)及び弁論の全趣旨によれば,原告が前記(2)のとおり本件営業譲渡の事実を原告ウェブサイト等で公表していることを理由として,顧客からBに対して本件画廊の利用のキャンセルの連絡が入ったことがあったものと認められるところ,これらのキャンセルによる逸失利益は,前記(2)の不正競争による損害に当たり得るものといえる。
Bは,平成30年から反訴提起がされた令和2年2月17日までの間にキャンセルされた契約に係る売上げが総額約178万円に上ると主張し,キャンセルされたとする取引の一覧表(乙50)を証拠として提出する。これらの一覧表に記載された合計178万0050円の取引の中には,キャンセルの理由が不明なものも含まれているが,当該一覧表のうち,Bに対するメールの内容から,キャンセルの理由が原告による本件営業譲渡又はBが権利者でないとの事実の告知又は公表であることが明らかといえるものが,少なくとも,「B’」(乙49の1),「C’」(乙49の5,6),「D’」(乙49の7,9),「E’」(乙49の10),「F’」(乙49の11),「G’」(乙49の12)及び「H’」(乙49の14)との契約であり,その展示会への参加費の売上げは合計28万3060円であると認められ,これらの作家が展示会に参加しなかったことによってBが展示会に係る経費の支出を抑えられたことをうかがわせる証拠はない。したがって,反訴事件の提起までにキャンセルされた取引に係る逸失利益は,上記の28万3060円と認めるのが相当である。
(イ) Bは,前記(2)の不正競争と因果関係のある損害として,実際にキャンセルされた取引に係る売上げの減少のほか,顧客が申し込み自体を控えたことによる売上げの減少も同程度あったと主張するが,Bの平成30年以降の売上げや申込み状況についての証拠は提出されておらず,どの程度の申込みの減少があったかについての具体的な主張立証もないから,この点については,後記イの無形損害として考慮するのが相当である。
(ウ) したがって,Bは,前記(2)の不正競争により,売上げの減少による逸失利益として28万3060円の損害を被ったものと認めるのが相当である。
イ 信用毀損による無形損害ないし精神的損害について
前記(2)のとおり,原告による営業誹謗行為は,Bと契約をした顧客のみを通知の対象としたものではなく,原告ウェブサイト等で,一般に本件営業譲渡の事実を公表するというものであったから,原告の営業誹謗行為によって,Bの営業上の信用が毀損されたものと認められる。
前記ア(ア)の一覧表に記載されたキャンセル分の取引について,キャンセルの理由が原告による本件営業譲渡又はBが権利者でないとの事実の告知又は公表であることが明らかといえる取引のほかに,原告とBとの間で権利の帰属を巡って紛争が生じていることを原因としてキャンセルしたと考えられるものが,少なくとも,「J’」(乙49の2),「K’」(乙49の3),「L’」(乙49の8)及びM’(乙33の1)の4名(同人らとの契約に係る参加費の額は合計31万5080円)存在しているものと認められ,このような事情も考慮すれば,Bの営業上の信用が毀損されたことによる損害額は,反訴事件提起までの事情に基づいても,100万円と認めるのが相当である。
Bは,無形損害のほか,精神的損害についての損害賠償も請求するが,原告の不正競争により上記の無形損害に加えて賠償すべき精神的損害が生じたとは認められないから,当該主張は採用することができない。
ウ したがって,Bの原告に対する不競法4条に基づく損害賠償請求は,損害額合計128万3060円及びこれに対する,本判決確定の日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する限度で理由がある。
(5) 争点5-5(差止めの必要性)について
ア 前記(2)のとおり,原告は,原告ウェブサイト等でBから原告への本件営業譲渡があった旨を公表しており,本件口頭弁論終結時において,原告によるこの事実の公表や告知が終了しているとは認められないから,当該事実の公表ないし告知を差し止める必要があると認められる。
イ したがって,Bの不競法3条1項に基づく営業誹謗行為の差止請求は理由がある。
6 争点6-1(インターンの仕事の妨害等の有無及び不法行為該当性)について
(1) Bは,原告がBのインターンに対して嫌がらせを繰り返したと主張するところ,証拠(甲182ないし184,乙35)及び弁論の全趣旨によれば,原告が,Bの業務を手伝うインターンであったQに対して原告の顧客に対するQの対応について非難したり,原告の画廊での展示希望を持っていたI’に対してQやBが応対している様子を撮影したりしたことが認められる。
さらに,Qの陳述書(乙35)には,原告から睨まれた,原告から原告の顧客からQからクレームがあったとして,原告から注意を受けた,I’との対応の際に,原告からQを訴える旨を告げられたとの記載があるが,I’が本件事務所を訪問した理由やI’に対してQが対応した経緯については具体的な記載はない。また,原告の顧客に対するQの対応について原告が非難したとの点については,本件全証拠によっても,実際には顧客からのクレームがないにもかかわらず,原告が虚偽の事実を理由にQを非難したとまでは認めることができない。
前記1(1)の事実経過等も踏まえれば,平成30年以降,原告とBとは,本件事務所を交互に使用しながらも,その関係が相当に悪化しており,原告とBのインターンとの関係も悪化していたことが認められるものの,本件証拠上,原告のQに対する対応について,Bに対する積極的な営業妨害行為があったとまでは認められない。
(2) Bは,Bのインターンの面接に来た者が,原告から内部がもめているので他で働く方がいい等の働きかけを受けた旨をBに報告したとのメール(乙33の5)を提出するが,当該メールに記載されたやりとりの有無やその経緯を裏付ける証拠はなく,この点についても,Bに対する不法行為に該当する行為があったとまでは認められない。
また,Bは,原告がBに「何が,警察に捕まった犯罪者が」と画廊内の作家たちにも聞こえるような声で叫ぶなどしていたと主張し,Qの陳述書(乙35)にも,原告とBとの口論の中で,原告がそのような発言をした旨の記載がある。しかしながら,そのような発言の有無や経緯,発言がされた際の周囲の状況を確定し得る証拠はないから,この点でも,Bに対する営業妨害行為として不法行為に該当する行為があったとは認められない。
(3) 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,Bの原告に対する,インターンの仕事の妨害等の不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
7 争点7(原告に対する不当利得返還請求の当否)について
証拠(乙20,63)及び弁論の全趣旨によれば,Bは本件画廊の本件事務所への移転に伴って,平成29年7月から平成30年2月にかけて,旧画廊所在地の画廊の修繕費や,移転先の本件事務所の内装費等を負担したことが認められる。
しかしながら,弁論の全趣旨によれば,旧画廊所在地の画廊の契約当事者はBであったと認められるから,その修繕費についてBが負担したことにより,直ちにBが損失を被ったとはいえず,原告がBに対して不当利得返還義務を負うとは認められない。
また,前記1(1)オのとおり,Bは本件賃貸借契約の賃借人であり,前記1(3)のとおり,営業譲渡契約によって原告に本件画廊の営業を譲渡したとの事実もなく,平成30年以降,移転後の本件事務所を使用しているのであるから,Bが内装費等を負担したことによって,直ちにBが損失を被ったとはいえない。Bは,営業日の半数を原告の営業のために使用していることで,原告は,内装費等の半額に相当する利益を得ており,Bには,原告の営業日については営業できないため,原告の利益に対応する損害が生じているとも主張するが,前記1(1)キのとおり,原告とBとは,当面,本件事務所を交互に使用することについては相互に了承していたものであり,弁論の全趣旨によれば,本件賃貸借契約に基づく賃料についても折半しているものと認められるから,Bが,原告の営業日に営業できないことで,内装費等の半額に相当する損失を被ったとは認められない。
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,Bの原告に対する不当利得返還請求は理由がない。
8 争点8(原告に対する被告各商標権に基づく差止請求に関する争点)について
(1) 争点8-1(原告の役務と被告各商標権の指定役務の類否)について
原告が,原告事務所所在地において対価を得る目的で画廊の展示スペースを作家等に貸し出しており,また,作家の作品を掲示してオンライン販売をしていることは争いがなく,このような原告の役務は「商業のための画廊に関する役務の提供」と評価されるものを含むといえる。
他方で,被告商標権1の指定役務は,「第35類 商取引の媒介・取次ぎ又は代理,商品の売買契約の仲介・代行,商品の売買契約の仲介に関する情報の提供,展示施設の提供に係る事業の運営」であるところ,指定役務に含まれる「展示施設の提供に係る事業の運営」と原告の役務である「商業のための画廊に関する役務の提供」とは,展示の対象が主に美術品であるかという点は違いがあるといえるものの,販売の対象となる物品を展示する役務という点では共通性があるといえ,これらの役務が提供される場所や,需要者にも重なりがあるものと考えられるから,指定役務である「展示施設の提供に係る事業の運営」に使用される標章と同一又はこれに類似する標章を,原告の役務である「商業のための画廊に関する役務の提供」に使用することは,役務の提供者が同一であるとの出所の混同を招くおそれがあるといえる。したがって,原告の上記役務は,被告各商標権の指定役務と類似する役務というべきである。
原告は,被告商標権1の審査時に先願に係る原告商標の存在を指摘されていないことを指摘し,被告商標権1の指定役務について,画廊に関する役務に類似するとの判断はされていなかったとも主張する。しかしながら,原告商標に係る類似群コード(甲14)と被告商標権1に係る類似群コード(35B01)は一致しておらず,被告商標権1の審査において原告商標の存在を指摘されなかったことが,直ちに被告商標権1の指定役務の解釈に影響するともいえないから,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 争点8-2(差止めの必要性)について
前記前提事実(6)のとおり,原告各標章は被告商標1と類似し,原告は,令和元年11月9日以降,画廊の事業を行うに当たり,その看板,ポスター,チラシ等の広告物に原告各標章を付して展示,又は頒布し,また,原告が管理する,原告ウェブサイト,Facebook,TwitterなどのSNS上で役務に関する広告を内容とする情報に原告各標章を付して電磁的方法によって提供しているから,原告の上記各行為は,被告商標権1の指定役務に類似する役務について,被告商標1と類似する商標を使用するものとして,被告商標権1を侵害するものとみなされる(商標法37条1号,2条3項8号)。
弁論の全趣旨によれば,原告は,本件口頭弁論終結時においても,上記の各行為を継続しているものと認められるから,当該各行為を差し止める必要があると認められる。
(3) 争点8-3(Bの原告に対する被告各商標権の行使が権利の濫用に当たるか)について
原告は,本件営業譲渡の事実を権利濫用の評価根拠事実として主張するが,前記1のとおり,本件営業譲渡の事実は認められず,被告商標権1の行使について,原告の権利濫用の抗弁は理由がない。
(4) 争点8及び9についてのまとめ
以上によれば,Bは,原告に対して,被告商標権1に基づき,前記(2)の原告各標章の使用の差止めを請求することができるから,Bの原告各標章の使用差止請求は理由がある。
Bによる原告各標章の使用の差止請求は,商標法36条1項に基づく差止請求と著作権法112条2項に基づく差止請求を選択的に行うものであり,そのうち商標法36条1項に基づく差止請求については,被告各商標権に基づく請求が相互に選択的な関係にあるものと解されるところ,前記のとおり,被告商標権1に基づく請求が全て認容できるから,被告商標権2に基づく請求及び著作権法112条2項に基づく請求については判断を要しない。
9 争点10(原告に対する不正競争防止法2条1項19号の不正競争を理由とする差止請求に関する争点)について
(1) 争点10-1(「ギャラリーアートポイント」が「他人の特定商品等表示」に当たるか)について
前提事実(7)のとおり,Bは,本件画廊の営業に当たり,本件商号と共に,それを片仮名で表記した「ギャラリーアートポイント」を商号として使用していたものと認められるから,「ギャラリーアートポイント」との商号は,Bの特定商品等表示(不競法2条1項19号)に該当するといえる。
原告は,本件営業譲渡が存在することを前提として,「ギャラリーアートポイント」との商号が原告にとって「他人」の特定商品等表示に当たらないと主張するが,前記1のとおり,本件営業譲渡の事実は認められないから,原告の当該主張は理由がない。
(2) 争点10-2(図利加害目的の有無)について
ア 前提事実(7)のとおり,原告ドメイン名は,Bの特定商品等表示である「ギャラリーアートポイント」と類似するところ,証拠(乙48,52)によれば,原告は,原告ドメインを用いたウェブサイトにおいて,Bから原告に対する本件営業譲渡があった旨を公表し,また,Bは本件商号で画廊を経営することができないのに本件営業譲渡契約に反してこれを使用している旨を記載しており(乙48),他方で,同じウェブサイトにおいて,原告の画廊の沿革について,元々は昭和44年にCが設立した「ギャラリーアートポイント」であり,画廊旧住所地での営業を経て,平成30年2月に移転し,同時に原告が代表に就任した旨の記載をしていることが(乙52)認められる。また,前記5(2)のとおり,原告は,Facebook(乙32)上において,「※類似サイトにご注意ください」「公式サイトGALLERY ART POINTと誤認するようなサイトが確認されております」として,被告らウェブサイトのURLを表示した上で「GALLERY ART POINTの公式サイト」は原告ドメイン名によるものである旨を表示することもあった。
イ 前記アの原告の行動からすれば,原告は,「ギャラリーアートポイント」との商号が持つ顧客吸引力を利用する目的で,原告ドメイン名を取得及び使用しているものと認めるのが相当である。
そして,前記1のとおり,本件営業譲渡契約の成立は認められず,本件商号及びそれを片仮名で表記した「ギャラリーアートポイント」との商号の顧客吸引力はBの営業に帰属すると認められ,これが唯一原告の営業に帰属するとの事実はなかったものと認められるから,上記の原告ドメイン名の取得,使用について,原告は,不競法2条1項19号にいう「不正の利益を得る目的」を有していたものと認めることができる。
原告は,原告ドメインを用いた原告ウェブサイト上において,Bとの混同を避けるように注意喚起をしており,Bの顧客を自己に誘導するようなことはしていないから,図利加害目的はないと主張する。確かに,原告ウェブサイト上では,Bの事業とは共同経営ではなく,同じ場所でそれぞれが別々に経営している旨の記載があるが(乙48),前記アのとおり,上記記載と併せて,Bは本来は本件商号で画廊を経営することができない旨の記載がされているものであって,全体としては,「ギャラリーアートポイント」との商号を使用できるのは原告のみであるとの趣旨が記載されているものといえるから,原告とBとが営業主体として別である旨を表示していることは,上記の「不正の利益を得る目的」を否定するものではない。
(3) 争点10-3(差止めの必要性)について
弁論の全趣旨によれば,原告は,本件口頭弁論終結時においても,原告ドメインを用いた原告ウェブサイトの使用を継続しているものと認められるから,原告ドメイン名の保有及び使用を差し止める必要があると認められる。
Bは,原告ドメインの主要部分が「artpoint」であるとして,原告ドメイン名に限らず,「artpoint」を含むドメイン名全てについての取得,保有及び使用の差止請求をするが,原告が原告ドメインのほかに「artpoint」を含むドメイン名を取得したことや,将来取得する予定があることを認めるに足りる証拠はないから,本件口頭弁論終結時点において,原告ドメイン名以外の取得,保有及び使用の差止めの必要性があるとは認められず,また,原告ドメイン名の取得の差止についても必要性は認められない。
したがって,Bの不競法3条1項に基づくドメイン名の取得,保有及び使用の差止請求は,原告ドメイン名の保有及び使用を差し止める限度で理由がある。
10 結論
(1) 本訴請求について
以上によれば,原告のBに対する本訴請求は,不法行為に基づく損害賠償請求として主文第1項記載の金額の支払(前記4(3)参照)を求める限度で理由があり,Bに対するその余の本訴請求及び被告会社に対する本訴請求はいずれも理由がない。
(2) 反訴請求について
以上によれば,Bの反訴請求は,不競法2条1項21号の不正競争につき,不競法4条に基づく損害賠償請求として主文第2項記載の金額の支払(前記5(4)参照)及び不競法3条1項に基づく差止請求として主文第3項記載の行為の差止め(前記5(5)参照)を求め,被告商標権1に基づく商標法36条1項の差止請求として主文第4項記載の行為の差止め(前記8(4)参照)を求め,不競法2条1項19号の不正競争につき,不競法3条1項に基づく差止請求として主文第5項記載の行為の差止め(前記9(3)参照)を求める限度で理由があり,その余の反訴請求はいずれも理由がない。
なお,前記8(4)のとおり,主文第4項に係る原告各標章の使用の差止請求は,選択的にされた各請求のうち,被告商標権1に基づく請求として認容するものである。
(3) よって主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
(裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 小川暁 裁判官 矢野紀夫)
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