裁判年月日 令和 3年11月12日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令2(ワ)16590号
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2021WLJPCA11129001
要旨
◆千葉県印旛郡で酒造を営み、商品名「酒々井の夜明け」の日本酒商品(原告商品)を製造、販売等する原告会社が、福井県吉田郡で酒造を営み、商品名「九頭竜の夜明け」の日本酒商品(被告商品)を製造、販売等している被告会社に対し、同社が被告商品に使用している、商品名の表示(被告表示)、別紙被告商品目録記載2の商品容器(被告容器)の図案等、及びこれらを組み合わせた表示は、原告の商品等表示として著名又は周知である、商品名の表示(原告表示)、別紙原告商品目録記載2の商品容器(原告容器)の図案等、これらを組み合わせた表示とそれぞれ類似し、原告商品との間に混同を生じさせているので、不正競争防止法2条1項1号及び2号の不正競争行為に該当するとして、被告商品の製造、販売等の差止めを求めるとともに、損害賠償を求めた事案において、原告表示及び原告容器の図案等の周知著名性はいずれも認められず、これらを組み合わせた表示についても周知著名であると認めることはできず、また、原告表示と被告表示、原告容器と被告容器の図案等は、いずれも類似するものということはできず、したがって商品名の表示と容器の図案等を組み合わせたものが類似しているともいえないなどとして、請求を棄却した事例
出典
裁判所ウェブサイト
参照条文
不正競争防止法2条1項1号
不正競争防止法2条1項2号
不正競争防止法3条1項
不正競争防止法3条2項
不正競争防止法4条
裁判年月日 令和 3年11月12日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令2(ワ)16590号
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2021WLJPCA11129001
原告 株式会社飯沼本家
同訴訟代理人弁護士 山田和男
山田康裕
被告 吉田酒造有限会社
同訴訟代理人弁護士 川村一司
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,別紙被告商品目録記載の商品を製造,販売し,販売のため展示し,又は電気通信回線を通じて提供してはならない。
2 被告は,原告に対し,33万7500円及びこれに対する令和2年2月3日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
原告は,千葉県印旛郡で酒造を営み,別紙原告商品目録記載の日本酒商品(商品名「酒々井の夜明け」。以下「原告商品」という。)を製造,販売等し,被告は,福井県吉田郡で酒造を営み,別紙被告商品目録記載の日本酒商品(商品名「九頭竜の夜明け」。以下「被告商品」という。)を製造,販売等している。
本件は,原告が,被告に対し,被告が被告商品に使用している,①別紙被告商品目録記載1の商品名の表示(以下「被告表示」という。),②同目録記載2の商品容器(以下「被告容器」という。)の図案等及び③これらを組み合わせた表示は,原告の商品等表示として著名又は周知である,(ⅰ)別紙原告商品目録記載1の商品名の表示(以下「原告表示」という。),(ⅱ)同目録記載2の商品容器(以下「原告容器」という。)の図案等,(ⅲ)これらを組み合わせた表示とそれぞれ類似し,原告商品との間に混同を生じさせているので,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項1号及び2号の不正競争行為に該当すると主張して,同法3条1項に基づき,被告商品の製造,販売等の差止めを求めるとともに,同法4条に基づき,損害賠償金33万7500円及びこれに対する不法行為日(被告商品の販売開始日)の翌日である令和2年2月3日から支払済みまで平成29年法律第45号による改正前の商法514条に規定する商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)
(1) 当事者
ア 原告は,日本酒の製造販売を業とする千葉県所在の株式会社である。原告は,原告商品のほかに,「甲子正宗」や「立春朝搾り」などの日本酒商品を製造販売している。
イ 被告は,日本酒の製造販売を業とする福井県所在の有限会社である。
(2) 原告商品の製造,販売等
ア 原告商品の外観は,別紙原告商品目録記載2のとおりであり,透明な容器の正面視右下に,商品名が白い文字で「酒々井の夜明け」と縦書きされ,その下部中央に同目録記載2のとおりの英文字の説明,「飯沼本家 純米大吟醸」との文字,酒々井の田園及び朝日の風景が印刷されている(なお,本判決を通じ,容器の透明性や瓶に印刷された文字及び図柄の位置,配色,デザイン等を総称して「図案等」という。)。(甲1)
イ 原告商品は,その年の一番初めに搾った生酒を24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品である。原告は,従前,同様の商品を「今朝しぼり」の名称で販売していたが,平成28年,「日本酒ヌーボー」プロジェクトとしてクラウドファンディング「Makuake」で資金調達をしたのを機に容器ごとリニューアルし,同年11月,原告表示及び原告容器の図案等を使用した原告商品を初めて販売し,以後,毎年11月に同商品を販売している。(甲5の1,甲6,7の1,甲21)
ウ 原告商品の販売は,オンラインショップによるものが中心であるが,酒店への卸売り又は店頭販売等も行われている。(甲15の7,甲22~45)
(3) 被告商品の製造,販売等
ア 被告商品の外観は,別紙被告商品目録記載2のとおりであり,透明な容器の正面視下部中央に,商品名が青又は黒に近い色で「九頭竜の夜明け」と縦書きされ,その下に同目録記載2のとおりの図案等が印刷されている。(甲2)
イ 被告商品は,2月1日の夜から同月2日の朝にかけて搾った生酒を24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品である。被告は,令和2年2月2日,被告表示及び被告容器を使用した被告商品を初めて販売し,令和3年2月2日にも同商品を販売した。(甲62~65,74,乙1,2)
ウ 被告商品はオンラインショップ等により販売されている。(甲62~65,74)
2 争点
(1) 原告容器の図案等の商品等表示該当性(争点1)
(2) 原告の商品等表示の周知著名性の有無(争点2)
(3) 商品等表示の類否(争点3)
(4) 混同の有無(争点4)
(5) 損害額(争点5)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告容器の図案等の商品等表示該当性)について
〔原告の主張〕
(1) 原告容器の図案等の特徴(以下,符号に従い「特徴A」などという。)は,以下のとおりである。
A 透明な瓶の下部に,全体として見たときに白色と青色の配色となる,以下のB~Dの印刷がなされ,
B 瓶の印刷の中では一番高い部分から,白色の文字で,漢字の,縦書きにより,「の夜明け」で終わる商品名が記載され,
C Bの記載の近くに,Bの記載よりも小さな白色の文字で,英字の,横書きにより,商品に関する記載があり,
D 瓶の印刷の底部に,青色で描かれた基礎部分から,白色で描かれた下部の欠けた太陽が昇る様子が描かれている
(2) 原告容器の図案等は,Makuake 等においても宣伝されており,平成30年3月にはあらゆる商品の中からアジアの優れたパッケージデザインを表彰する「トップアワードアジア」を受賞するなどして,需要者に広く知られている(甲19)。
原告商品のように図案等を瓶に直接プリントした日本酒商品は他に存在しないわけではないが,一般に日本酒は色の付いた瓶に入れられ,商品名が印刷された紙のラベルが瓶に貼付されていることが多く,図案等を瓶に直接プリントした日本酒商品は珍しい。まして,朝日ないし朝の情景を透明の瓶に描いた日本酒商品は他にない(乙6~33)。
(3) したがって,原告容器の図案等は,他の商品とは異なる顕著な特徴を有し,需要者の間に広く知られている。
〔被告の主張〕
(1) 原告は,原告容器の特徴として配色,文字,図柄などを挙げるものの,原告容器に顕著な特徴といえるほどの特徴はない。また,原告は,透明な瓶に図案等を直接印刷したものを日本酒の瓶として使用すること自体が原告の斬新なアイデアであるとも主張するが,図案等を直接印刷した透明な瓶を日本酒の瓶として使用すること自体はありふれており,他に多数の例がある(乙6~33)。
したがって,原告容器の図案等は特別に顕著なものではない。
(2) 原告商品の宣伝広告において原告容器が表示されていたとしても,原告容器に顕著な特徴はない上,日本酒の宣伝広告において容器を一緒に表示することは通常であり,原告容器の特徴やその図案等に関する賞の獲得を前面に押し出した宣伝広告がされているわけでもない。また,原告が提出する証拠をみても,原告容器の図案等に対する需要者の特段の評価は窺えない。
これらの事情を踏まえると,原告容器の図案等が原告の出所を表示するものとして周知であったということはできない。
(3) したがって,原告容器の図案等が商品等表示に該当するということはできず,原告容器の図案等が商品等表示に該当しない以上,原告表示と原告容器の図案等を組み合わせた表示が,独自の商品等表示を構成することもない。
2 争点2(原告の商品等表示の周知著名性の有無)について
〔原告の主張〕
以下のとおり,①原告表示,②原告容器の図案等,③原告表示と原告容器の図案等を組み合せた表示は,遅くとも被告商品の販売前である令和2年2月1日までに,需要者の間において,原告の商品等表示として周知著名であり,その状況は,現在に至るまで継続している。
(1) 需要者の範囲
原告商品は,搾ってから24時間以内に瓶詰め及び出荷するという営業態様によって販売される日本酒商品であるので,その需要者は,①搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品の酒販店,飲食店,一般消費者,又は②インターネット上で買い物をする日本酒需要者の中で Makuake の日本酒関連のプロジェクトに関心を持つ者である。
(2) 周知著名性を基礎付ける事実
ア クラウドファンディングの成功
原告は,約380万円の費用を投じ「日本酒ヌーボー」プロジェクトと題して,Makuake で原告商品の資金を募ったところ,目標獲得金額の10倍を超える1059万円ものプロジェクト資金を集め,原告商品を9164本販売するという大成功を収めた(甲5の1,甲6,7の1,甲8,15の1〔2頁〕)。日本酒関連のプロジェクトにおいて,1000万円を超える資金を獲得できたのは,原告が初めてであった。
イ メディアでの紹介,宣伝広告,口コミ等
(ア) メディアにおける紹介
原告商品は,「日本酒ヌーボー」,「搾りたての日本酒」という衆目を引く特徴や,クラウドファンディングで資金を調達するという真新しさから注目され読売新聞等に取り上げられた(甲9,10の1等)ほか,クラウドファンディングで大成功を収めると,成功例として東洋経済等の各種ウェブサイトのネット記事に紹介されるようになった(甲11〔1,2頁〕,12の1,甲15)。その結果,原告商品は,「Makuake Award 2017」において,平成28年8月7日から平成29年8月7日までの1年間に行われたプロジェクト約1000件を対象に調達金額,サポーター数,話題性などを考慮して選出された15プロジェクトの1つとして,表彰された(甲5の3)。原告商品は,その後も毎年,新聞雑誌やネット記事に取り上げられている(甲9~18)。
(イ) 周知・宣伝活動等
原告商品は,酒々井町のふるさと納税の返礼商品に登録されたほか(甲20の1・3),原告のウェブページやSNSへの掲載,チラシ配布や会員へのダイレクトメールの送付(甲21),多数の販売店(卸酒屋)のホームページ(甲22~40)や飲食店のブログ等(甲41~45)において宣伝されている。
(ウ) 口コミ等における紹介・評価
原告商品は個人の口コミサイトでも評判が良く(甲5の2,甲22の2,甲46~56),中でも原告容器の図案等に対する需要者の評価の高さは,「『酒々井の夜明け』は透明。それだけでなくラベルもなく,日本酒には珍しいシンプルで洗練されたデザインです」とのネット記事(甲12の2〔2頁〕)や,「ボトルのデザインも,私は気に入ってます!」(甲49〔6頁〕),「綺麗なパッケージでしょ!」(甲51〔2頁〕),「瓶がかわいいのがお気に入り」(甲56の1〔3頁〕)などの口コミ等に表れている。
ウ 原告商品の販売状況
(ア) 原告商品の販売本数及び市場占有率
原告商品の販売本数は,Makuake で資金を募った平成28年が9164本であったところ,その後,平成29年が1万1019本,平成30年が1万5157本,令和元年が1万5878本,令和2年が1万7751本と,順調に増加している(甲76~79)。特に,搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒の販売を毎年10月末~11月初め頃に行っているのは原告商品のみであり,この時期の販売は現在原告の独占状態にある。
搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品を販売している蔵元の数は68程度であり,そのうち44蔵元が「立春朝搾り」企画に参加する蔵元である。平成30年~令和2年の「立春朝搾り」の販売本数の平均は28万4408本であり(甲4の2,甲87,88),「立春朝搾り」以外の年間総販売本数は8万6400本程度であると推測されるので(乙57,60,63~65),これに原告商品の平成30年以降の販売本数である1万5000本を加えると,搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品の年間販売本数は,約38万5000本となる。
上記のとおり,原告商品の販売本数は,平成30年以降,1万5000本を下回らない本数であることからすると,搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品の年間販売本数に占める原告商品の販売本数の割合は,約3.9%となる。原告商品のように,販売日や販売数量を絞ることによって希少価値を高める限定商品の場合,一般大衆向けの大量に生産消費される商品と比べて,相対的に販売数が少なくなるのは当然であり,原告商品が3.9%のシェア率を有していることは,原告商品が周知著名であることを裏付けるものである。
また,原告商品は,例えばフェラーリの製造販売する自動車などと同様,販売日や販売数量を絞ることによって希少価値を高める限定商品であり,その周知著名性の判断に当たっては,年間販売本数を重視すべきではない。
(イ) 原告商品の販売地域
原告商品は,会計上,原告の販売部門「酒々井 まがり家」(以下「まがり家」という。)扱いのもの(オンラインストアは,まがり家扱いであり,個人的な顧客への販売が多い。)と原告自身の直接の売上げとして扱われるもの(業者への販売が多い。)とに分かれている。
このうち,まがり家以外の販売状況については,平成29年は関東地方への業者への販売が大多数であったものの,令和元年及び令和2年については,千葉県を含む関東地方への業者への販売が80%程度(千葉県の業者への販売は全体の50%程度),それ以外の業者への販売が20%程度となっている。
また,まがり家扱いのオンラインストアでの販売状況については,平成29年は千葉県を含む関東地方への配送が77%程度(千葉県への配送は全体の35%程度)で,それ以外の配送が23%程度であったところ,令和2年は千葉県を含む関東地方への配送が80%程度(千葉県への配送は全体の51%程度),それ以外への配送が20%程度であった。
このように,原告商品の販売は千葉県に限られず,その販売本数の半数は千葉県外に配送され,20%程度は関東地方以外へ配送されている。実際,原告商品は九州の酒屋にも販売されており(甲39,40),また,SAKETIMES のネット記事には,原告商品がシンガポールにあるレストラン3店舗及びロンドンにあるレストラン1店舗において提供されたことが紹介されている(甲15の1〔13頁〕)。
エ 原告容器の図案等について原告容器の図案等は,前記1〔原告の主張〕(2)のとおり周知著名であり,そうすると,原告表示と原告容器の図案等を組み合わせた表示も周知著名である。
〔被告の主張〕
以下の事情によれば,①原告表示,②原告容器の図案等,③原告表示と原告容器の図案等を組み合わせた表示は,原告の商品等表示として需要者の間に周知著名であるということはできない。
(1) 需要者の範囲
原告は,原告の商品等表示の需要者について,搾りたての日本酒を嗜好する需要者, Makuake において日本酒関連のプロジェクトに関心を持つ需要者であると主張するが,原告の主張するとおりの需要者を前提としたとしても,原告の主張する商品等表示が周知著名であるということはできない。
(2) 原告の主張する周知著名性を基礎付ける事実について
ア 搾りたての日本酒商品について
いわゆる「しぼりたて」と一般的に呼ばれる日本酒は,季節限定酒の一種であり,10月末頃から4月中頃にかけて製造販売されるが,日本名門酒会に加盟している「しぼりたて」を製造販売する酒造メーカーだけでも76銘柄ある(乙3の1)。そのうち44銘柄が立春の朝に搾った生酒を24時間以内に瓶に詰め,出荷する「立春朝搾り」と呼ばれる商品を製造販売し,その市場規模は平成30年当時において約31万本である(甲4,乙50~55)。この「立春朝搾り」と同様の企画として,現在では,元旦に発送又は届けるという銘柄が全国で多数存在し(乙56~66),そのほか,11月から3月にかけて,搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品が全国各地に多数存在し(乙67~78),原告商品のように11月頃に販売されるものも複数存在する(乙67~69)。
イ 原告商品の販売状況について
搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品には,「立春」などの特別の時期を祝う縁起ものないしイベントとして,搾りたてで火入れをしない生原酒をその日のうちに飲む酒蔵の地元及び近郊地域の地域限定酒という特徴があるところ,原告商品も,他の同種商品と同様,その年の初物を「日本酒ヌーボー」として11月初旬の特定の日に飲む地域限定酒であり,時期や地域が限定された需要者ないし市場を対象とするものである。現に,原告が証拠として提出した原告商品の販売状況に関する証拠(甲76~79)をみても,千葉県や東京都を主要な販売地域としており,関東以外の地域での販売は限定的となっている。
原告商品の販売本数及びシェアについては不知であるものの,仮に,原告商品の販売本数が,他のしぼりたての販売本数より多いとしても,「立春朝搾り」の43蔵元が約31万本を出荷予定との記事(甲4の2)によれば,1蔵元当たりの年間出荷本数は約7200本となり,原告の主張する9164本という販売数量は周知といえるほどの数量ではない。また,原告商品が同種商品よりも販売本数の多い大きな要因は,大市場である千葉県や東京都を含む関東圏を商圏とすることにあると考えられるから,原告商品の出荷本数は,原告の商品等表示の著名周知性を裏付けるものではない。
ウ クラウドファンディングの成功について
Makuake において,現在,日本酒関連プロジェクトとしてウェブページに掲載されているものは372件もあり(乙46),その中の一つで既に4年以上前に終了した原告商品のプロジェクトが,現在においても,需要者の記憶にとどめられているということはできない。
また,原告商品のプロジェクトは,「今年初物の搾りたて純米大吟醸が絞ったその日に届く!『日本酒ヌーボー』限定販売!」というものであるところ,仮に原告商品のプロジェクトに一定の知名度があるにしても,クラウドファンディングの性質上,あくまでも「日本酒ヌーボー」という言葉に象徴されるプロジェクトの内容に興味を持たれ,賛同を得たのであって,直ちに原告商品の知名度に結び付くものではない。
エ メディアでの紹介,宣伝広告,口コミ等について
原告が提出する記事等(甲9~45)は,そのほとんどが費用を負担するなどして記事の掲載を依頼するいわゆるPR記事と考えられ(例えば,甲15の1〔14頁〕には,「sponsored by株式会社飯沼本家」との記載がある。),その内容も原告商品のコンセプト(甲5の1)をほぼそのままなぞり,「日本酒ヌーボー」としてその販売時期の早さを強調するものやクラウドファンディングの成功を内容とするものがほとんどであって,肝心の風味や味わいなどの品質等について客観的に評価したものは見当たらない。したがって,これらの記事等は,原告商品について第三者の評価を示すものではない。
また,検索サイトで「日本酒 しぼりたて おすすめ」とのキーワードで検索すると,数えきれない銘柄の宣伝や記事が表示されるものの,原告商品に関連する宣伝や記事は全く表示されず(乙35~45),原告商品が需要者の間で評判を呼んでいるということはできない。
原告商品が需要者に一定の評価を受けているとしても,「地元千葉のお酒」(甲5の2),「ワインのヌーボーと同じで,美味いかと言われればまあそれなり,くらいではあるけど,搾りたてをその日に飲めるってのが千葉県民ならではかな」(甲56)などの口コミからも明らかなように,その評価は,千葉県及びその近郊の者による「千葉の地酒応援」が主流である。
オ 原告容器の図案等について
前記1〔被告の主張〕(2)のとおり,原告容器の図案等が需要者の間で周知著名であるということはできず,そうすると,原告表示と原告容器の図案等の組み合わせた表示が周知著名ではないことは明らかである。
3 争点3(商品等表示の類否)について
〔原告の主張〕
(1) 商品名の表示の類否
ア 商品等表示が類似か否かの判断は,取引の実情の下において,取引者,需要者が,両者の外観,呼称,又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かが基準とされる(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)。
イ 原告表示と被告表示は,「夜明け」との部分が共通するところ,原告商品と被告商品は,いずれも搾りたての生酒を24時間以内に瓶に詰めて出荷することを特徴とする商品であり,「夜明け」という商品名は「朝搾った日本酒を発送する」ことを連想させ,その容器にも朝日のデザインが付されている。他方,「酒々井」や「九頭竜」は単なる地名にすぎないので,原告及び被告表示の要部は「夜明け」という部分にある。
被告表示の要部が「九頭竜」であるとすると,福井県には「九頭龍」という著名な日本酒商品が存在するので,被告商品の販売は不正競争行為になるが,そのような主張をすることは信義に反するものである(民法1条2項)。
ウ 取引の実情として,取引者,需要者も,原告商品が深夜0時から搾り始めて「夜明け」とともに完成・発送されるとの宣伝(甲1,6,7)を受けて,「夜明け」という商品名に着目し,朝の澄んだ空気感から「酒々井の夜明け」の澄んだ味わいを想起,連想する。
エ したがって,原告表示と被告表示は,類似する。
(2) 容器の図案等の類否
ア 商品の容器の図案等が類似か否かについては,対比すべき二つの商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるか否かを考慮して決すべきであるが,一般需要者は,商品購入の際過去に購入した商品の容器の図案等の詳細を記憶しているものではないし,二つの商品が常に同時に並べられ,容器包装の細部にわたり比較可能の状態で販売されるわけでもないから,全体的に,隔離的に考察すべきであって,容器の形状・記載等が取引者又は需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その容器のイメージを構成する主要な特徴部分において共通すれば,その容器の図案等は全体として混同されるおそれがあり,類似すると解すべきである(東京地裁平成6年4月8日判決(甲71))。
イ 原告容器と被告容器の図案等は,前記1〔原告の主張〕(1)記載のA~Dの外観の特徴が共通しているところ,これらの共通点は容器のイメージを構成する主要な部分である。
そして,上記のとおり,原告表示と被告表示が,要部である「夜明け」の部分において共通することや,デザイン等を直接瓶にプリントした日本酒商品は珍しく,朝日ないし朝の情景を透明な瓶に描いた日本酒商品が原告商品と被告商品の他にはないこと等も併せ考えると,原告容器と被告容器の図案等の細部に違いがあったとしても,全体的,隔離的に考察すれば,両容器の図案等は類似するものである。
(3) 商品名の表示と容器の図案等を組み合わせた表示の類否
上記のとおり,原告表示と被告表示,原告容器と被告容器の図案等が類似することからすれば,原告表示及び原告容器の図案等を組み合わせた表示と,被告表示及び被告容器の図案等を組み合わせた表示とは類似する。
〔被告の主張〕
(1) 商品名の表示の類否について
ア いわゆる結合商標について,その一部を抽出して比較することは,①その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,②それ以外の部分から出所識別標識としての呼称,観念が生じないと認められる場合に限られるとされており(最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・集民228号561頁),この判旨は不競法の事案にも妥当する。
イ 地酒市場では,地名が商品を連想させる重要な要素となる。このことは,原告が,「千葉の地酒」(甲3の8),「千葉・南酒々井と生きる酒蔵」,「地元・酒々井と共に生きる」(甲3の9)などと強調していることからも明らかである。そうすると,原告表示では「酒々井」という地名が,被告表示では土地を代表する河川である九頭竜川の「九頭竜」という部分が要部となり,他の商品と識別する機能を発揮する。
ウ 他方,「夜明け」は,「夜が明けること」又は「明け方」を指し,比喩的に新しい時代や事物が始まろうとする時という意味で使用される普通名詞であり,この語から搾りたての日本酒が連想されることはない。原告自身も,原告商品の商品名の一部である「夜明け」という言葉と,深夜から搾って夜明けとともに発送される日本酒商品とを結び付けるような宣伝広告活動は特段しておらず,需要者が,原告表示や被告表示の「夜明け」の部分から,夜明けとともに発送されてくる日本酒商品を連想することはない。
なお,「夜明け」を商品名に含む地酒としては,「夜明け前」(乙4),「若手の夜明け」(乙5)などがあるが,これらの商品も搾りたての日本酒であることを特徴とするものではない。
エ したがって,原告表示と被告表示は類似しない。
(2) 容器の図案等の類否について
原告容器にデザインされたブルーで表現されたシルエットの風景は,原告自身が説明するとおり,米作りを行っている酒々井の田園を描いたものであり,夜が明けていく様子をドットのグラデーションで象徴的に表現し,組み合わせたものである(甲7の1〔7頁〕)。
これに対し,被告容器の図案等は,厳寒期の九頭竜川に白龍(被告の代表的な商品の銘柄にもなっている。)と日の出の太陽を組み合わせたデザインであり(甲2,乙2),原告容器の図案等とは一見して異なっている。
仮に,両容器の図案等が「夜明け」を想起させるものであるとしても,上記(1)で主張したとおり,「夜明け」自体を要部ということはできないから,この点をもって両容器の図案等が類似しているということはできない。
したがって,両容器の図案等は類似しない。
(3) 商品名の表示と容器の図案等を組み合わせた表示の類否について上記(1)(2)のとおり,原告表示と被告表示,原告容器と被告容器の図案等は,いずれも類似しないから,商品名の表示と容器の図案等を組み合わせた表示の場合であっても,類似しないことは明らかである。
4 争点4(混同の有無)について
〔原告の主張〕
被告商品は,需要者に対し,原告商品又は「夜明けシリーズ」の日本酒商品であるとの誤信を生じさせるものである。
(1) 被告は,「立春朝搾り」の販売日(2月4日)の前々日を被告商品の販売日とした上で,被告商品の販売直前の令和2年1月19日, Makuake のウェブサイトにおいて「『九頭竜の夜明け』プロジェクト」などと銘打った被告商品の宣伝を行い,まるで「酒々井の夜明け」プロジェクトと関連するかのような体裁を作り出した(甲62)。
また,被告は,自社のウェブサイトにおいても,朝日を基調とした写真を掲載して搾りたての発送であることを前面に押し出し,職人が酒を作っている様子を掲載してアピールする(甲63,64)など,原告のインターネット上の宣伝手法(甲5の1,甲15,16等)と似た手法を用いて被告商品を宣伝している。
さらに,被告は,被告商品の販売についても,宣伝活動により集客した顧客から自社のウェブサイトで申込みを受けて宅配等により発送するという原告と同様の手法を用いてこれを行っている(甲21の1,甲23の3,甲62)。
(2) 原告は,搾ってから24時間以内に瓶に詰め,出荷する日本酒商品について,他社と協力し,「夜明けシリーズ」化することを企画している。被告は,このような動きを知って,原告と密接な営業上の関係があるとの広義の混同を生じさせる類似商品の販売を意図して被告商品を製造販売したものである。
(3) 搾ってから24時間以内に瓶に詰め,出荷する日本酒商品で直接ペイントがされた透明な瓶を使用するものがほとんどない中で,原告容器と被告容器の特徴が酷似していることからすると,需要者は,被告商品を原告商品と混同するおそれがある。
(4) 実際上,被告商品について「酒々井の夜明けかと思った」とコメントする投稿がフェイスブックにある(甲47)ほか,インスタグラムで「#酒々井の夜明け」と検索すると,被告商品の画像もまぎれて表示される状態になっており(甲46),原告は被告商品が原告商品の関連商品なのかとの問合せも受けている(甲66の1)。
〔被告の主張〕
以下の事情によれば,被告商品は,需要者に対し,原告商品との混同を生じさせるものではない。
(1) 原告商品は,搾ってから24時間以内に瓶に詰め,出荷する日本酒という特性上,配送範囲が千葉県周辺に限られており,販売時期も限定されている(11月初旬の初しぼりの日)のに対し,被告商品は,原告商品とは販売時期も地域も異なるから,需要者に対し,原告商品との混同を生じさせることはない。
(2) 地酒市場において土地の要素は自他識別機能又は出所表示機能として極めて重要であるところ,地酒市場の需要者が,「九頭竜」という土地を象徴する河川の名称が付された被告商品を,「酒々井」という地名が付いた原告商品と混同するとは考えられない。
(3) 原告は,「『酒々井の夜明け』だけでなく,他地域の『夜明けシリーズ』をやってくれるところがあるといいですね。」(甲6の1〔5頁〕)などと,「夜明けシリーズ」との言葉を「日本酒ヌーボー」の意味で使用している。
そうすると,需要者が,「日本酒ヌーボー」とは全く関係のない被告商品を「夜明けシリーズ」に属するなどと誤解し,被告と原告との間に密接な営業上の関係が存在すると誤信するはずがない。
(4) 原告は,フェイスブックにある投稿(甲47)を混同の実例として挙げるものの,同投稿にあるコメントの内容は,「酒々井の夜明けかと思った」ではなく「酒々井の夜明けかと思ったけど違った」というものであり,需要者は被告商品を原告商品と区別して認識している。また,Makuake の被告商品の宣伝ページ(甲62)に,「新春の新酒,『九頭竜の夜明け』素晴らしいネーミングですね。」とコメントが投稿されているとおり,原告商品と被告商品との混同は全く見られない。
5 争点5(損害額)について
〔原告の主張〕
被告商品の販売単価は1500円である(甲63)ところ,原告商品の販売初年度の販売本数が9000本であったことからすると,被告商品の販売本数は,その半分の4500本は下回らないものと考えられるから,被告商品の販売初年度(令和2年度)の売上げは,675万円程度と解される。
また,我が国における商標権のロイヤルティ料率(甲68〔58頁(第33類),107頁((4)「食品」,「国内アンケート結果」=5.5%),109頁((2)(ⅰ)①「食品」,「最大値」=5%〕)を踏まえると,被告商品の販売に対する実施料は,売上額の5%を下回ることはない。
したがって,原告が被告の不正競争行為に対して受けるべき金銭相当の損害額は,33万7500円(675万円×5%)となる。
〔被告の主張〕
否認ないし争う。
そもそも,原告商品は,千葉県周辺において,「日本酒ヌーボー」として,一定の評価を受けたにとどまるものであり,かつ,その商品の性質及び生産能力から予約限定販売とされているのであるから,被告商品の存在やその販売数量等によって全く売上等に影響を受けないことは明らかであり,原告に損害は発生していない。
第4 当裁判所の判断
1 争点2(原告の商品等表示の周知著名性の有無)について事案に鑑み,まず争点2について判断する。
(1) 認定事実
前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 搾りたての日本酒商品
いわゆる「しぼりたて」と一般的に呼ばれる日本酒は,季節限定酒の一種であり,10月末頃から4月中頃にかけて製造販売されるが,日本名門酒会に加盟している酒造メーカーの令和元年から令和2年にかけての新米仕込みのしぼりたては76銘柄ある。(乙3の1)
そして,日本名門酒会の企画により平成10年に販売が始まった「立春朝搾り」は,立春の朝に搾り上がったばかりの日本酒をその日のうちに届けるというものであり,37都道府県の44蔵元が参加し,令和2年に合計28万8254本,令和3年に合計25万4970本(いずれも720ml換算)が出荷された。(甲4の1,87,88,乙50)
そのほか,元旦に発送又は届けるという銘柄(乙56~66)も含め,11月から3月にかけて,搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品が全国各地に相当数存在し(乙67~78),その中には原告商品のように11月頃に販売されるものも存在する(乙67~69)。
イ 原告商品の販売状況
(ア) 原告は,平成28年,株式会社アンカーマンにコンサルティング業務を依頼し,「日本酒ヌーボー」プロジェクトと題して,Makuake のウェブページにおいて,原告容器の画像を掲載するなどして原告商品の資金を募ったところ,1018人のサポーターから1059万円の資金を集め,同年11月,原告商品の販売を開始した。(甲5~7)
(イ) 原告商品は,原告の会計上,原告の販売部門であるまがり家(甲75)扱いのもの(オンラインストアによる販売を含む。)と原告自身の直接の売上げとして扱われるものがあるところ,平成28年から令和2年までの販売本数の合計は,以下のとおりである。(甲15の1〔2頁〕,甲75,甲76~79の各1)
平成28年 9164本
平成29年 1万1019本
平成30年 1万5157本
令和元年 1万5878本
令和2年 1万7751本
(ウ) 平成29年から令和2年までの間における原告自身の直接の売上げとして扱われた原告商品とまがり家扱いの商品のうちオンラインストアで販売された原告商品について,関東地方と関東地方以外の各販売本数の合計と割合は,以下のとおりである。(甲76~79)
平成29年 関東地方 6108本(91%)
うち千葉県 4238本(63%)
関東地方以外 572本(9%)
平成30年 関東地方 8818本(90%)
うち千葉県 5550本(56%)
関東地方以外 1034本(10%)
令和元年 関東地方 9727本(80%)
うち千葉県 6394本(53%)
関東地方以外 2366本(20%)
令和2年 関東地方 1万1519本(80%)
うち千葉県 8339本(58%)
関東地方以外 2798本(20%)
(エ) 原告商品は,搾った生酒を24時間以内に出荷する商品であるが,関東地区以外の地域の場合,注文者に配送されるのは翌日又は翌々日となる。(甲5の1,甲21の1・3)
ウ メディアによる原告商品の紹介,宣伝広告等
(ア) 原告商品は,平成28年11月の販売開始前から,「ネット出資者に日本酒ヌーボー」と題する新聞記事(同年9月30日付け読売新聞(甲9)),「日本酒ヌーボーお届け!! 出資者募る飯沼本家 酒々井」と題するネット記事(同年10月17日付け千葉日報。甲10の1),「純米大吟醸の『生酒』が,しぼったその日のうちに届く。」と題するネット記事(同年10月3日付けTABI LABO(甲16の1)及びTRILL(甲16の3))に取り上げられ,一部の記事(甲16の1・3)には原告商品の写真も掲載されていた。
(イ) 原告商品は,平成28年11月の販売開始後も,被告商品の販売までに,ネット記事(甲10の2・3,甲11~15,甲17,18)で取り上げられ,平成31年3月24日付けの千葉日報の記事(甲10の3)と令和元年5月22日付けの東洋経済の記事(甲11)を除く記事には原告商品が掲載されていた。
(ウ) 原告商品は,被告商品の販売前に,酒々井町のふるさと納税の返礼商品としてふるさと納税サイトに原告容器の写真とともに掲載された(甲20)ほか,原告や千葉県酒造組合,酒販売店,飲食店等のウェブページ(甲21~45)において,原告商品の写真とともに(ただし,一部の証拠を除く。)宣伝された。
エ 原告商品の受賞歴
(ア) 原告商品の「日本酒ヌーボー」プロジェクトが,「Makuake Award 2017」において,平成28年8月7日から平成29年8月7日までの1年間に行われたプロジェクト約1000件を対象に調達金額,サポーター数,話題性などを考慮して選出された15プロジェクトの1つとして,Makuake 賞を受賞した。Makuake 賞は,Makukake ゴールド賞(1プロジェクト),Makukake シルバー賞(1プロジェクト),Makukake ブロンズ賞(1プロジェクト)に次ぐ賞である。(甲5の3)
(イ) 原告容器は,平成30年3月,アジアにおける傑出したパッケージデザインを毎月表彰する賞である「トップアワードアジア」を受賞し,審査員の一人から,「透明度の高いボトルとロゴとイラストレーションの関係が秀逸なデザイン」と評価された。(甲19)
オ 原告商品に関する口コミ
個人の口コミサイトにおいては,原告商品に関し,「ボトルのデザインも,私は気に入ってます!」(甲49〔6頁〕),「まさに出来立てを頂いている感ハンパないです!!」,「綺麗なパッケージでしょ!」(甲51〔2頁〕),「『酒々井の夜明け』を呑む。超強烈に美味い。」(甲52〔3~4頁〕),「瓶が可愛いのがお気に入り」(甲56の1〔3頁〕)などと評価されている。
(2) 本件の需要者について
原告は,原告商品及び被告商品の需要者は,①搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品の需要者,②Makuake の日本酒関連のプロジェクトに関心を持つ者であると主張する。
ア 本件における原告商品及び被告商品は,前記前提事実のとおり,搾りたての生酒を24時間以内に容器に詰めて出荷するという特徴を有する商品であるところ,一般に,日本酒は,酒米の種類,精米歩合の程度,仕込水の硬度,酵母の種類,醸造アルコールの混入の有無,火入れの有無など,様々な観点から分類することができるが,日本酒の愛好者には,特定の種類以外の日本酒は一切飲まないという者はそれほど多くなく,それぞれ好みはあるものの,日本酒を全般的に嗜好する者が少なくないものと考えられる。原告商品は,オンラインショップ,店頭販売,卸売りなどを通じて販売されており,原告商品を購入するのは,日本酒を嗜好する者で,かつ,搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品に関心を有する者又はその愛好者であると考えられる。
そうすると,原告商品の需要者は,日本酒を嗜好する者で,搾る時期にかかわらず,搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品に関心を有する者又はその愛好者であるというべきである。
イ 原告は,Makuake の日本酒関連のプロジェクトに関心を持つ者(上記②)も原告商品の需要者であると主張するが,原告商品は,オンラインショップ,店頭販売,卸売りなどを通じて販売されており,その購入者等は Makuake の日本酒関連のプロジェクトに関心を有する者には限られず,また,Makuake は資金調達のためのクラウドファンディングであり,その日本酒関連のプロジェクトに関心を持つ者と日本酒を嗜好する者の範囲が一致するとは限らない。
そうすると,Makuake の日本酒関連のプロジェクトに関心を持つ者をもって,原告商品の需要者であるということはできない。
(3) 原告表示の周知著名性について
ア 原告商品の販売状況
(ア) 搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒の市場規模については必ずしも証拠上明らかではないが,上記(1)アのとおり,日本名門酒会の企画する「立春朝搾り」に参加する44蔵元の出荷本数に限っても,令和2年において合計28万8254本であると認められる一方,上記(1)イのとおり,原告商品の令和2年における販売本数は1万7751本であったと認められる。原告商品のこの販売本数は周知著名性を有すると認めるに足りる数量ではなく,「立春朝搾り」に参加する44蔵元の出荷本数と対比しても,原告商品の市場占有率が高いとは認め難い。
この点,原告は,販売日や販売数量を絞ることによって希少価値を高める限定商品である原告商品の周知著名性の判断に当たり,年間販売本数を重視すべきではないと主張するが,日本酒商品のように消費者が比較的購入しやすい価格で入手し,短期間で費消する商品については,その販売本数が周知著名性の判断において考慮されるべきである。また,原告商品がその希少価値により需要者の間で周知著名になっていたことをうかがわせる証拠もない。
(イ) 原告商品は,その年の一番初めに搾った生酒を24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒商品であることから,その販売時期はごく短期間に限定されており,また,その販売地域は,上記(1)イ(ウ)のとおり,千葉県内が5割を超え,関東地方以外の販売先は多くて2割程度にとどまっていることが認められる。これによれば,原告商品の商品名(原告表示)が千葉県内の需要者には比較的知られていたとしても,全国における知名度はそれほど高くなかったというべきである。
イ メディアにおける原告商品の紹介や宣伝広告活動
原告は,原告商品が数多くのメディアに取り上げられたと主張するが,原告商品が全国紙において継続的に多数回取り上げられ,あるいは,全国的に視聴されるテレビ番組やCM等で紹介又は宣伝されるなどして,全国の多数の需要者にその存在や内容を認識されたと認めるに足りる証拠は存在しない。原告が挙げる証拠は,その多くがインターネット上の記事等であるが,これらの記事が全国の多数の需要者に閲読されたことを示す証拠はなく,その掲載回数や期間も限られたものであって,これらの記事や宣伝広告等をもって,原告表示が需要者の間で周知著名であったということはできない。
また,原告は,口コミサイトにおける評価,酒々井町のふるさと納税の返礼商品への登録,原告のウェブページやSNSへの掲載,チラシ配布や会員へのダイレクトメールの送付,卸酒屋のホームページや飲食店のブログ等における宣伝などを周知著名性の根拠として挙げるが,これらは,限られた地域内における宣伝広告であったり,多数の需要者から閲読されたと認めるに足りないものであり,かかる宣伝活動等をもって,原告表示が全国的に周知著名であったと認めることはできない。
ウ 「日本酒ヌーボー」プロジェクトの周知著名性
原告は,Makuake における「日本酒ヌーボー」プロジェクトが大成功を収め,1000人以上のサポーターから1000万円を超える資金を集めたことや,「Makuake Award 2017」において,同プロジェクトが表彰されたことなどを指摘する。
しかし,そもそも Makuake が原告商品の需要者に広く知られていたと認めるに足りる的確な証拠はない上,Makuake が対象とする事業分野は多岐にわたり(甲5の3),日本酒関連プロジェクトとしてウェブページに掲載されているものだけでも300件を超えると認められる(乙46)。これに加えて「日本酒ヌーボー」プロジェクトは被告商品の販売開始時期の数年前には終了していることに照らすと,原告の行ったプロジェクトが平成29年に Makuake から表彰されたことがあったとしても,被告商品の販売開始当時,原告商品が「日本酒ヌーボー」プロジェクトを通じてその需要者の間で周知著名になったということはできない。
他に,原告表示が需要者の間で周知著名であったと認めるに足りる証拠はない。
エ したがって,被告商品の販売開始当時,原告表示が原告の商品等表示として需要者の間で周知著名であったということはできない。
(4) 原告容器の図案等の周知著名性について
原告は,特徴A~Dを備えた原告容器の図案等が,需要者の間で周知著名であったと主張する。
ア しかし,日本酒商品の容器は,商品名を付した外観が写真として掲載されるなどして,商品名とともに宣伝広告され,需要者に認識されるのが一般的であり,その容器の図案等のみが取り上げられて周知著名になることは例外的であると考えられる。原告商品についても,その容器の写真は商品名とともに記事等に掲載されており,その容器の図案等のみが宣伝広告され,あるいはメディアに取り上げられたことをうかがわせる証拠はないところ,原告商品の商品名である原告表示が周知著名といえないことは前記判示のとおりであり,原告容器の図案等のみが周知著名であったと認めるに足りる証拠もない。
イ 原告は,原告容器の図案等が,平成30年3月にはあらゆる商品の中からアジアの優れたパッケージデザインを表彰する「トップアワードアジア」を受賞したことを指摘するが,このような賞の存在及び原告商品による受賞が,報道等により需要者の間にどの程度知られていたかは証拠上明らかではなく,この事実をもって,原告容器の図案等が全国の需要者に広く知られていたと認めることはできない。
ウ 原告は,原告容器のように図案等を瓶に直接プリントした日本酒商品は珍しく,まして,朝日ないし朝の情景を透明の瓶に描いた日本酒商品は他にないと主張する。
しかし,日本酒の瓶詰めにガラス容器を使用することは一般的であり,透明なガラス瓶に図案等を直接印刷することもありふれており,実際上,そのような商品は相当数存在すると認められる(乙6~33)。また,原告容器の図柄は,瓶の最下部に描かれたものであり,田園風景や朝日などの図柄も,上記の他の商品と比較して目立つものということはできない。
そうすると,原告容器の図案等が,透明なガラス容器に図案等を直接印刷した他の同種商品と比較して,際立った特徴を有するということはできず,また需要者からそのように認識されていたと認めるに足りる証拠もない。
エ 原告は,原告商品は個人の口コミサイトでも評判が良く,中でも原告容器の図案等に対する需要者の評価が高いと主張する。
しかし,このような口コミサイトにおける評価をもって原告容器の図案等が需要者の間で広く知られていたと認めることはできず,また,原告が指摘する原告容器への言及は,原告商品に対する評価や感想のごく一部にすぎず,その内容も一般的・抽象的な評価や感想にとどまるものというべきである。
オ 以上によれば,原告容器の図案等が需要者の間で周知著名であったということはできないので,原告容器の図案等は不競法2条1項1号及び2号の「商品等表示」に該当せず,またこれらの規定における周知性又は著名性の要件を充足しない。そして,原告表示及び原告容器の図案等の周知著名性はいずれも認められないので,これらを組み合わせた表示についても周知著名であると認めることはできない。
2 争点3(商品等表示の類否)について
上記1のとおり,被告商品の製造販売が不競法2条1項1号及び2号の不正競争行為に当たるとの原告主張は理由がないが,以下,商品等表示の類否についても検討する。
(1) 商品等表示の類似性
ある商品等表示が不競法2条1項1号及び2号にいう他人の商品等表示と類似のものか否かを判断するに当たっては,取引の実情のもとにおいて,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両表示を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁,最高裁昭和56年(オ)第1166号同59年5月29日第三小法廷判決・民集38巻7号920頁参照)。
(2) 商品名の表示の類否について
ア 原告表示は「酒々井の夜明け」という7文字から構成される商品名の表示であり,被告表示は「九頭竜の夜明け」という7文字から構成される商品名の表示であるところ,両表示は,終わりの4文字の「の夜明け」と部分が共通する一方,最初の3文字の地名の部分が異なっている。
イ 原告表示と被告表示が一致する部分である「夜明け」という語は,夜が明けること,あるいは,比喩的に新しい時代の始まりを意味する普通名詞であって,日本酒商品の出所の識別力を有するものではなく,搾ってから24時間以内に瓶に詰めて出荷する日本酒を連想させるものということもできない。
ウ 他方,原告商品や被告商品のような日本酒商品においては,その生産地の名称やその土地を代表する山や川などの名称が,需要者に日本酒商品の出所を連想させ,自他商品を識別させる一定の機能を有するものと認められる。このことは,「南部美人」(乙39〔6頁〕),「出羽桜」(乙36〔3頁〕),「木曽路」(乙45〔3頁〕),「鳴門鯛」(乙50〔4頁〕),「信濃錦」(乙50〔4頁〕),「成田霊水」(乙60〔2頁〕),「八海山」(乙39〔1頁〕),「磐梯山」(乙42〔5頁〕),「長良川」(乙50〔4頁〕)などの銘柄があることからも明らかである。
また,原告容器に印刷された図柄は,原告が「米作りを行っている酒々井の田園を描いたもの」(甲7の1)であり,原告自身が原告商品の生産地をその容器に表示することにより,自他商品の識別を図っている上,被告も,被告商品の名称について,被告の酒蔵の春がその横を流れる九頭竜川の夜明けとともに訪れることから想起されたものであるとした上で,「米・水・人そして酵母にいたるまで,完全に福井県産にこだわって醸されたお酒」(甲63〔4頁〕)であると紹介している。
そうすると,原告表示及び被告表示のうち生産地を意味する部分,すなわち,原告表示における「酒々井」及び被告表示における「九頭竜」という部分は,一定の自他商品の識別力を有するということができる。
エ 以上によれば,原告表示及び被告表示の要部が「夜明け」であるということはできず,両表示はその全体を一体のものとして対比すべきであると考えられるところ,両表示を全体として対比すると,その外観,称呼,観念が異なることは明らかである。
したがって,被告表示が原告表示に類似するということはできない。
(3) 容器の図案等の類否について
原告容器と被告容器の図案等は,縦書きの商品名のロゴと朝日が昇る図柄が透明な瓶に直接印刷されている点において共通する。
しかし,両容器の図案等のうち,需要者に出所識別標識として強い印象を与えるのは,瓶の中央部から下に縦書きで表示された商品名の部分であると考えられるところ,原告商品と被告商品の商品名の表示が類似すると認められないことは,前記判示のとおりである。
また,両容器の図柄についても,原告容器には山と田圃などの田園風景のシルエット及びドットのグラデーションで表現された朝日が描かれているのに対し,被告容器においては,2匹の白い龍が川面から昇る様子と横線模様の朝日が描かれており,そのデザインは異なる。
このように,両容器の図案等の共通点から受ける印象は相違点から受ける印象を凌駕するものではなく,そうすると,両容器の図案等が類似するということはできない。
(4) 商品名の表示と容器の図案等を組み合わせた表示の類否について
上記(2),(3)のとおり,原告表示と被告表示,原告容器と被告容器の図案等は,いずれも類似するものということはできないので,商品名の表示と容器の図案等を組み合わせたものが類似しているということはできない。
(5) まとめ
以上によれば,原告の商品等表示と被告の商品等表示が類似するということはできない。
3 結論
よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
(裁判長裁判官 佐藤達文 裁判官 小田誉太郎 裁判官 齊藤敦)
別紙