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裁判年月日 令和 4年 1月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令元(ワ)20074号
事件名 特許権侵害損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2022WLJPCA01279008
要旨
◆発明の名称を「エアロゾル発生システムのための加熱アセンブリ」とする本件特許権を有するスイス連邦の法人である原告会社が、「jouz 20」、「jouz 12」及び「jouz 20 Pro」という商品名の加熱式タバコ用デバイス(被告製品)はいずれも本件特許の特許請求の範囲の請求項1記載の本件発明の技術的範囲に属するから、被告会社による被告製品の販売、輸入及び販売の申出は本件特許権を侵害すると主張して、被告会社に対し、民法709条に基づき、損害合計額1億4954万8921円の一部である7143万7327円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案において、被告製品は本件発明の技術的範囲に属すると認められ、また、本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものであるとはいえないとした上で、特許法102条2項により推定される額の方が同条3項により算定される額よりも多額となるから、同条2項により推定される同額をもって、原告会社の損害額と認めるべきなどとして、同損害額を5185万2556円と認定し、請求を一部認容した事例
出典
裁判所ウェブサイト
参照条文
特許法29条1項3号
特許法29条2項
特許法36条6項1号
特許法68条
特許法70条1項
特許法70条2項
特許法102条2項
特許法102条3項
特許法103条
特許法104条の3第1項
特許法123条1項2号
特許法123条1項4号
民法709条
裁判年月日 令和 4年 1月27日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令元(ワ)20074号
事件名 特許権侵害損害賠償請求事件
裁判結果 一部認容 文献番号 2022WLJPCA01279008
原告 フィリップ モーリス プロダクツ ソシエテ アノニム
同訴訟代理人弁護士 古城春実
同 堀籠佳典
同 岡田健太郎
被告 ジョウズ・ジャパン株式会社
同訴訟代理人弁護士 小林幸夫
同 木村剛大
同 藤沼光太
同 平田慎二
主文
1 被告は,原告に対し,5185万2556円及びこれに対する令和2年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その3を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
5 原告のために,この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,7143万7327円及びこれに対する令和2年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
本件は,特許第5854394号の特許権(以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」という。また,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。)を有する原告が,「jouz 20」,「jouz 12」及び「jouz 20 Pro」という商品名の加熱式タバコ用デバイス(以下「被告製品」と総称する。)はいずれも本件特許の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属するから,被告による被告製品の販売,輸入及び販売の申出(以下「販売等」と総称する。)は本件特許権を侵害すると主張して,被告に対し,民法709条に基づき,特許法102条2項又は3項により算定された損害額及び弁護士費用相当額の損害の合計額1億4954万8921円の一部である7143万7327円及びこれに対する民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下,書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,加熱式タバコ用の器具等を製造し,販売しているスイス連邦の法人である。
イ 被告は,喫煙具類の企画,製造,販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。
(2) 本件特許権
ア 原告は,次の内容の本件特許権を有している(甲1,2)。
出願日 平成25年12月17日
優先日 平成24年12月28日(以下「本件優先日」という。)
優先権主張番号 12275223.1
優先権主張国 欧州特許庁
登録日 平成27年12月18日
特許番号 特許第5854394号
発明の名称 エアロゾル発生システムのための加熱アセンブリ
イ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりである。
「エアロゾル形成基材を加熱するための加熱アセンブリであって,
電気抵抗式加熱要素及びヒータ基板を含むヒータと,
前記ヒータに結合されたヒータマウントと,
を備え,前記加熱要素は,第1の部分及び第2の部分を有し,該第1及び第2の部分は,前記加熱要素に電流が流れた時に前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成され,前記加熱要素の前記第1の部分は,前記ヒータ基板の加熱領域に位置し,前記加熱要素の前記第2の部分は,前記ヒータ基板の保持領域に位置し,前記ヒータマウントは,前記ヒータ基板の前記保持領域に固定される,
ことを特徴とする加熱アセンブリ。」
(3) 本件発明の構成要件の分説
本件発明は,以下の構成要件に分説することができる(以下,各構成要件につき,頭書の記号に従って「構成要件A」などという。)。
A エアロゾル形成基材を加熱するための加熱アセンブリであって,
B 電気抵抗式加熱要素及びヒータ基板を含むヒータと,
C 前記ヒータに結合されたヒータマウントと,を備え,
D 前記加熱要素は,第1の部分及び第2の部分を有し,
E 該第1及び第2の部分は,前記加熱要素に電流が流れた時に前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成され,
F 前記加熱要素の前記第1の部分は,前記ヒータ基板の加熱領域に位置し,
G 前記加熱要素の前記第2の部分は,前記ヒータ基板の保持領域に位置し,
H 前記ヒータマウントは,前記ヒータ基板の前記保持領域に固定される,
I ことを特徴とする加熱アセンブリ。
(4) 原告による加熱式タバコ用の器具の製造,販売
原告は,「HeatSticks」及び「HEETS」という商品名のタバコスティック(以下「原告タバコスティック」という。)並びに「IQOS」という商品名の加熱式タバコ用デバイス(以下「原告製品」という。)を製造,販売している(甲10)。
(5) 被告の行為
被告は,被告製品のうち「jouz 20」については平成30年6月20日から,「jouz 12」については同年12月14日から,「jouz20 Pro」については平成31年4月9日から,それぞれ遅くとも令和元年12月31日までの間,輸入,販売及び販売の申出をしており,その販売の際,「IQOS専用たばこスティック対応」と,被告製品が原告タバコスティックに対応している旨を表示して,原告タバコスティックとの互換性を有することを被告製品の売り物にしている(甲6の3,7の2,8の3,弁論の全趣旨)。
(6) 被告製品の構成
被告製品は,加熱するとエアロゾルを発生させる加工タバコ葉から成る基材を含むタバコスティックと共に使用される加熱式タバコ用デバイスであり,以下の構成(以下,各構成につき,頭書の記号に従って「構成a」などという。)のうち,少なくとも,構成a,b,d,e及びfを備えており,構成要件A,B,D,E及びFを充足する(被告製品が構成c,g,h及びiを有するか否かについては争いがある。)。
a スティックを加熱するための加熱アセンブリであって,
b 電気抵抗で発熱する電線及びヒータ基板を含む加熱ブレードと,
c 前記加熱ブレードに結合されたヒータマウントと,を備え,
d 前記電線は,ヒータ基板上に第1部分及び第2部分を有し,
e 前記第1部分及び第2部分は,前記電線に電流が流れた時に前記第1部分が前記第2部分よりも高い温度に加熱されるようになっており,
f 前記電線の前記第1部分は,前記ヒータ基板の加熱領域に位置し,
g 前記電線の前記第2部分は,前記ヒータ基板の保持領域に位置し,
h 前記ヒータマウントは,前記ヒータ基板の前記保持領域に固定されている,
i ことを特徴とする加熱アセンブリ。
3 争点
(1) 被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)
ア 被告製品は構成要件Cの「ヒータに結合された」構成を備えるか(争点1-1)
イ 被告製品は,構成要件Gの「保持領域に位置し」及びHの「保持領域に固定される」構成を備え,構成要件Iを充足するか(争点1-2)
(2) 本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点2)
ア 本件発明は乙3公報に基づき進歩性を欠くか(争点2-1)
イ 本件発明は乙5公報に基づき進歩性を欠くか(争点2-2)
ウ 本件発明は乙4公報に基づき進歩性を欠くか(争点2-3)
エ 本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか(争点2-4)
(3) 損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか)について
(1) 争点1-1(被告製品は構成要件Cの「ヒータに結合された」構成を備えるか)について
(原告の主張)
ア 本件特許の特許請求の範囲が規定する加熱アセンブリの全体の構造の中で,構成要件Cは,エアロゾル形成基材を加熱するための加熱アセンブリ(構成要件A)が,ヒータ(構成要件B)と,ヒータに結合されたヒータマウント(構成要件C)を備えていることを規定している。加えて,「結合」の通常の語義によれば,2つの要素が結び付いて,1つのユニット又はアセンブリとなっていれば,それら2つの要素が,後に分離することができたとしても,「結合」されているということができる。そうすると,構成要件Cの「結合」は,ヒータとヒータマウントが組み立てられて1つのユニットになったものを意味すると解すべきであり,本件明細書の記載等に照らしても,ヒータマウントがヒータと一体となって容易に分離できない態様に限られるものとはいえない。
イ 被告製品は構成cを備えており,構成cのヒータマウントは,ヒータに取り付けられて1つの加熱アセンブリを形成し,構成要件Cの「ヒータに結合された」ものに当たるから,被告製品は構成要件Cを充足する。
(被告の主張)
ア 「結合」の「二つ以上のものが結びついて一つになること。また,結び合わせて一つにすること。」などの語義及び本件明細書の段落【0072】(以下,明細書の段落については,単に「【0072】」などと示す。)の「ヒータマウント26は,…保持領域93を取り囲むようにヒータの周囲に射出成形される。」との記載に照らすと,構成要件Cの「ヒータに結合された」は,ヒータマウントがヒータと1つになったものを意味し,ヒータマウントとヒータが容易に分離可能であるものを含まないと解すべきである。
イ 次の各点に照らせば,被告製品のヒータマウントは「ヒータに結合された」ものではない。
(ア) 被告製品のヒータマウントは射出形成により形成されたものではなく,ヒータとは別に形成されたものである。
(イ) ヒータマウントをヒータに被せた後に,ヒータ基板において接続のための外部ワイヤをはんだ付けしている部分にAB樹脂を注入して覆い,AB樹脂を変質させることによって当該部分を保護しているにすぎない。
(ウ) 原告従業員作成の報告書(甲3ないし5)添付の写真でも,ヒータマウントがヒータから取り外されているように,ヒータマウントをヒータから分離することは容易である。
ウ したがって,被告製品は構成要件Cを充足するとはいえない。
(2) 争点1-2(被告製品は,構成要件Gの「保持領域に位置し」及びHの「保持領域に固定される」構成を備え,構成要件Iを充足するか)について
(原告の主張)
ア 「ヒータ基板の加熱領域」及び「ヒータ基板の保持領域」という用語並びに本件明細書【0074】等の記載に照らせば,構成要件G及びHの「保持領域」は,「加熱領域」と共に,ヒータ基板を区分した領域を意味するものであって,ヒータ基板とヒータマウントが直接接触していることを規定するものではない。そして,「保持領域」の常識的な意味及び本件明細書【0059】の記載に照らせば,構成要件G及びHの「保持領域」は,ヒータマウントがヒータ基板を保持する領域を意味すると解すべきである。
イ 被告製品は構成g及びhを備えており,被告製品においてヒータマウントが取り付けられて固定されたヒータ基板の領域は構成要件G及びHの「保持領域」に相当するところ,当該領域は,加熱要素の第2の部分が存する領域と重なっているから,被告製品は構成要件G及びHを充足する。
ウ 前記ア及びイによれば,被告製品は構成要件Iも充足する。
(被告の主張)
ア 次の各点に照らせば,構成要件G及びHの「保持領域」は,ヒータマウントに接触し,ヒータを持ち続けているヒータ領域を意味すると解すべきである。
(ア) 「保持」とは,「保ちつづけること。持ちつづけること。」を意味する。
(イ) 本件明細書の記載によれば,ヒータマウントはヒータを構造的に支持する部材である(【0011】)。
(ウ) 本件明細書に,「第2の部分は,図4に示すヒータマウント26に接触するヒータ領域であるヒータの保持領域93に及ぶ。」(【0069】),「ヒータマウント26は,…保持領域93を取り囲むようにヒータの周囲に射出成形される。」(【0072】)と記載されているとおり,本件明細書には「保持領域」の定義が明確に示されている。
(エ) 本件明細書の図3にも,「保持領域93」は「第2の部分86」と重なる「ヒータマウント26」に接触し,保持されている領域であることが示されている。
(オ) 請求項1及び本件明細書からは,ヒータ基板がヒータマウント以外の部材に保持されていると読み取ることはできない。
イ 被告製品では,ヒータマウントと電線の第2部分の間に緩衝ゴムが装着されており,ヒータマウントと第2部分の間にあそびがあって,両者は接触していないから,第2の部分は「保持領域」に位置しておらず,被告製品は構成要件Gを充足するとはいえない。
また,被告製品では,ヒータと外部ワイヤをはんだ付けしている部分にAB樹脂が注入されており,ヒータと接触しているのはAB樹脂であって,ヒータマウントとは接触していないから,ヒータマウントは「保持領域」でヒータに固定されておらず,被告製品は構成要件Hを充足するとはいえない。
ウ 以上のとおり,被告製品は,構成要件C,G及びHを充足しないから,構成要件Iも充足しない。
2 争点2(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について
(1) 争点2-1(本件発明は乙3公報に基づき進歩性を欠くか)について
(被告の主張)
以下のとおり,本件発明は,本件優先日前に頒布された国際公開第2011/076407号(乙3。以下「乙3公報」という。)に記載された発明(以下「乙3発明」という。)等に基づき,当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性を欠く。
ア 乙3発明
(ア) 乙3公報には,次の構成を有する乙3発明が記載されている。
「エアロゾル生成基体を加熱するための加熱器であって,第1及び第2の導電性要素,電気抵抗部及び電気絶縁部を含む加熱要素と,前記加熱要素に取り付けられたホルダと,を備え,前記加熱要素は,第1及び第2の導電性要素,電気抵抗部及び電気絶縁部を有し,前記加熱要素に電流が流れた時に前記電気抵抗部が前記第1及び第2の導電性要素よりも高い温度に加熱されるように構成され,前記電気抵抗部は,前記加熱要素の加熱部に位置し,前記第1及び第2の導電性要素は,前記加熱要素の取り付け部に位置し,前記ホルダは,前記加熱要素の前記取り付け部に取り付けられる,加熱器。」
(イ) 乙3発明と本件発明を対比すると,本件発明の「ヒータ」は,「ヒータ基板を含む」(構成要件B)のに対し,乙3発明の「加熱要素」は,「電気絶縁部」が基板といえるか明らかでなく,基板を含むとはいえない点で相違するものの,その余の構成で一致する。
イ 容易想到性
以下のとおり,相違点に係る本件発明の構成は,乙3公報【0064】(以下,乙3公報の段落については,訳文に相当する特表2013-515465号公報の段落を示す。)の示唆に基づき,又は,国際公開第2011/050964号(乙4。以下「乙4公報」という。)に記載された発明(以下「乙4発明」という。)を適用することにより,当業者において容易に想到し得た。
(ア) 乙3公報【0064】の示唆
乙3公報【0064】には,絶縁ペーストを保持する壁がない状態で,十分な厚みをもたせた絶縁ペーストを薄板状の第1の導電性要素と第2の導電性要素の間に注入して乾燥させることにより,絶縁ペーストの両面に第1及び第2の導電性要素を形成することが示唆されているところ,絶縁ペーストを保持する壁がない以上,絶縁ペースト自体が保形成を有する薄板状の部材となるものであって,絶縁ペーストが乾燥して形成される電気絶縁部は,そこに第1及び第2の導電性要素を形成するための「基板」に相当するものである。
そして,同段落に,第1及び第2の導電性要素を細長い薄板様の形状とすることが記載されていることにも照らせば,第1及び第2の導電性要素を細長い薄板様の形状としつつ,電気絶縁部を細長い板様の形状とすることが示唆されているということができる。
当業者は,これらの示唆に基づき,乙3発明の電気絶縁部を,その両面に第1及び第2の導電性要素を形成した「基板」に相当する細長い板状の構成とすることにより,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得た。
(イ) 乙4発明の適用
乙4公報には,本件発明の「ヒータ基板」に相当する電気絶縁基体に係る構成が開示されているところ,次の各点に照らせば,乙3発明に乙4発明を適用する動機付けがある。他方,乙3発明に乙4発明を適用した場合においては,細長い薄板様の形状とすることが予定されている乙3発明の電気絶縁部を「基板」とするだけでよく,これは当業者にとっての通常の創作能力の発揮にすぎないものであるから,乙3発明に乙4発明を適用することについて阻害要因は存在しない。したがって,当業者は,乙3発明に乙4発明を適用することにより,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得た。
a 乙3発明と乙4発明は,エアロゾル生成基体を加熱するための加熱器という点で共通の技術分野に属し,電気絶縁部と導電部により加熱要素を構成し,導電部に流れた電流により抵抗加熱を発生させるという点で構造も共通する。
b 乙3発明と乙4発明は,加熱器のサイズを小さくするという点で課題が共通する。
c 乙3発明と乙4発明は,加熱器をエアロゾル生成基体の内部に挿入することにより,エアロゾル生成基体を内部から加熱するという点で作用及び機能が共通する。
d 乙3公報【0064】に,第1及び第2の導電性要素と共に電気絶縁部を細長い薄板様の形状とすることが示唆されている。
e 乙3公報には,エアロゾル生成基体の温度プロファイルのより緻密な制御を可能とするため(【0007】),加熱要素に第1の部分及び第2の部分を設け,加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成し,加熱要素の第1の部分を加熱要素の加熱領域に位置させ,加熱要素の第2の部分を加熱要素の保持領域に位置させ,ホルダを加熱要素の保持領域に固定する(図18等)という技術的思想が開示されている。
f 乙4公報【0079】(以下,乙4公報の段落については,訳文に相当する特表2013-509160号公報の段落を示す。)には,導電トラックの熱分布について,望むように柔軟に設計できることが示唆されている。
(原告の主張)
以下のとおり,本件発明は,乙3発明等に基づき進歩性を欠くとはいえない。
ア 乙3発明
乙3発明と本件発明は,少なくとも次の各点で相違する。
(ア) 乙3発明は,本件発明の「ヒータ基板」(構成要件B)に相当する構成を有しない点
すなわち,本件発明の「ヒータ基板」は,その上に加熱要素を配置するための部材であって,加熱要素の形状を定めるとともに,加熱要素を機械的に安定して支持し,エアロゾル形成基材に挿入するのに適した堅固な構造を提供するものであると解すべきところ,乙3発明の電気絶縁部は,粉体のプラグである電気絶縁ペーストによって形成され,その上に他の要素を形成して支持する構造体ではないから,「ヒータ基板」に当たらない。
(イ) 乙3発明は,本件発明の「加熱要素は,第1の部分及び第2の部分を有し」(構成要件D)との構成を有しない点
すなわち,乙3発明の電気抵抗部は,導電性要素の一部と電気絶縁ペーストで形成されるものであり,基板上に位置する加熱要素といえるような独立した構造を有するものではなく,加熱要素の「第1の部分」に当たらないから,乙3発明には,加熱要素の「第1の部分及び第2の部分」に相当する構成はない。
(ウ) 乙3発明は,構成要件EないしHに相当する構成を有しない点
すなわち,乙3発明は,前記(ア)のとおり,本件発明の「ヒータ基板」を有しないから,構成要件F,G又はHに相当する構成を有しておらず,また,前記(イ)のとおり,本件発明の加熱要素の「第1の部分及び第2の部分」を有しないから,構成要件E,F又はGに相当する構成を有しない。
イ 容易想到性
(ア) 乙3公報【0064】の示唆
次の各点に照らせば,相違点に係る本件発明の構成は,乙3公報【0064】に示唆されておらず,当業者において容易に想到し得たとはいえない。
a 乙3公報【0064】に,電気絶縁部を細長いストリップとすることや細長い薄板様の形状とすることは記載されておらず,そのような示唆もされていない。
b 電気絶縁ペーストは,第1及び第2の導電性要素が形成された後にできる空間に充填されているにすぎず,電気絶縁部は,第1及び第2の導電性要素によって支持されているから,他の要素を形成するための部材である「基板」とは性質が異なる。
(イ) 乙4発明の適用
次の各点に照らせば,相違点に係る本件発明の構成は,乙3発明に乙4発明を適用することにより,当業者において容易に想到し得たとはいえない。
a 乙4発明は,少なくとも構成要件CないしHに相当する構成を有しておらず,乙3発明に組み合わせても本件発明の構成に至らない。
b 乙3発明は,2個の導電性要素の端部をペンチカッターなどで切断,結合することで不完全な電気接続を形成し電気抵抗を高くした電気抵抗部を発熱させるものであるのに対し,乙4発明は,ヒータ基板上に形成した導電トラックを発熱させるものである。また,乙3発明は,導電性要素自体に剛性を持たせることでエアロゾル生成基体に挿入可能としているのに対し,乙4発明は,ヒータ基板が板状で剛性を有することによりエーロゾル形成基体内に挿入可能とするものである。このように,乙3発明と乙4発明は,基本的な構成が異なるものであるから,これらを組み合わせる動機付けはない。
c 前記bのとおり,乙3発明と乙4発明は,基本的な構成が異なるため,乙3発明に乙4発明を適用しようとすれば,どちらかの構造の大部分を変えてしまうしかない。このようにいずれかの発明の特徴を変えてしまわなければ適用ができないことは,阻害要因となる。
(2) 争点2-2(本件発明は乙5公報に基づき進歩性を欠くか)について
(被告の主張)
以下のとおり,本件発明は,本件優先日前に頒布された特開2011-135901号公報(以下「乙5公報」という。)に記載された発明(以下「乙5発明」という。)等に基づき,当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性を欠く。
ア 乙5発明
(ア) 乙5公報には,次の構成を有する乙5発明が記載されている。
「フィルター付き紙巻き煙草を加熱するための治具であって,抵抗発熱線,内部リード線及び金属チューブを含むヒーターと,前記ヒーターに結合されたヒータースリーブと,を備え,前記ヒーターは,抵抗発熱線及び内部リード線を有し,該抵抗発熱線及び内部リード線は,前記ヒーターに電流が流れた時に前記抵抗発熱線が前記内部リード線よりも高い温度に加熱されるように構成され,前記ヒーターの前記抵抗発熱線は,前記金属チューブのフィルター付き紙巻き煙草が挿入される領域に位置し,前記ヒーターの前記内部リード線は,前記金属チューブのフィルター付き紙巻き煙草が挿入されない領域に位置し,前記ヒータースリーブは,前記金属チューブの前記フィルター付き紙巻き煙草が挿入されない領域に固定される,治具。」
(イ) 乙5発明と本件発明を対比すると,本件発明の「ヒータ」は,「ヒータ基板を含む」(構成要件B)のに対し,乙5発明の「ヒーター」は,「金属チューブ」が基板といえるか明らかでなく,基板を含むとはいえない点で相違するものの,その余の構成で一致する。
イ 容易想到性
乙4公報には,本件発明の「ヒータ基板」に相当する電気絶縁基体に係る構成が開示されているところ,次の各点に照らせば,乙5発明に乙4発明を適用する動機付けがある。他方,乙5発明のように酸化マグネシュームの粉末を電気絶縁部として使用する場合には湿気が入らないようにする必要があるが,乙4発明の電気絶縁基体のような基板を使用する場合には湿気が入らないようにする必要はないし,乙5発明のヒーターは第1の部分及び第2の部分を備えているから,電気絶縁基体に導電トラックを設けるというヒーターの構造になったとしても,ヒーターの導電トラックが第1の部分及び第2の部分を備える構造とすることは当業者が当然になしうるところであるから,乙5発明に乙4発明を適用することについて阻害要因は存在しない。したがって,当業者は,乙5発明に乙4発明を適用することにより,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得た。
(ア) 乙5発明と乙4発明は,エアロゾル生成基体を加熱するための加熱器という点で共通の技術分野に属し,電気絶縁部と導電部とにより加熱要素を構成し,導電部に流れた電流により抵抗加熱を発生させるという点で構造が共通する。
(イ) 乙5発明と乙4発明は,加熱器をエアロゾル生成基体の内部に挿入することにより,エアロゾル生成基体を内部から加熱するという点で作用及び機能が共通する。
(ウ) 乙5公報【0061】,【0062】には,ヒーターをストレート形状にすること,市販の紙巻き煙草にヒーターを差し込める構造であれば種々の設計変更が可能であることが示唆されており,抵抗発熱線,内部リード線,電気絶縁性の酸化マグネシュームの粉末及び密閉した円筒状の金属チューブから成るヒーターでなければならないとの記載はない。
(エ) 乙5公報には,外側ケースヘの熱の伝導を少なくするため(【0024】),ヒーターに第1の部分及び第2の部分を設け,ヒーターに電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成し,ヒーターの第1の部分をヒーターの加熱領域に位置させ,ヒーターの第2の部分をヒーターの保持領域に位置させ,ヒータースリーブをヒーターの保持領域に固定する(【0042】,図5等)という技術的思想が開示されている。
(オ) 乙4公報【0079】には,導電トラックの熱分布について,望むように柔軟に設計できることが示唆されている。
(原告の主張)
以下のとおり,本件発明は,乙5発明等に基づき進歩性を欠くとはいえない。
ア 乙5発明
乙5発明と本件発明は,少なくとも次の各点で相違する。
(ア) 乙5発明は,本件発明の「ヒータ基板」(構成要件B)に相当する構成を有しない点
すなわち,乙5発明の金属チューブは,抵抗発熱線を収容し,酸化マグネシュームで充填され,湿気が入らないように密閉されたものであり,「ヒータ基板」に当たらない。
(イ) 乙5発明は,構成要件F,G又はHに相当する構成を有しない点
すなわち,乙5発明は,前記(ア)のとおり,本件発明の「ヒータ基板」を有しないから,構成要件F,G又はHに相当する構成を有しない。
イ 容易想到性
次の各点に照らせば,相違点に係る本件発明の構成は,乙5発明に乙4発明を適用することにより,当業者において容易に想到し得たとはいえない。
(ア) 乙4発明は,少なくとも構成要件CないしHに相当する構成を有しておらず,乙5発明に組み合わせても本件発明の構成に至らない。
(イ) 乙5発明の金属チューブは,内部に充填された酸化マグネシュームの絶縁性を低下させないために湿気が入らないように密閉されたものであるのに対し,乙4発明の電気絶縁基体は,その上に導電トラックを形成したものであり,導電ペーストを密閉するものではなく,乙5発明とは基本的な構成が異なるものであるから,これらを組み合わせる動機付けはない。
(ウ) 乙5公報【0061】,【0062】には,金属チューブに酸化マグネシュームの粉末を充填する構成に替えて,導電トラック及び電気絶縁基体を含む加熱器という構成とすることは示唆されていない。
(エ) 乙5発明における,内部に湿気が入らない構造にしなければならないという前記(イ)の要請は,金属チューブを乙4発明の電気絶縁基体に置き換える阻害要因になる。
(3) 争点2-3(本件発明は乙4公報に基づき進歩性を欠くか)について
(被告の主張)
以下のとおり,本件発明は,本件優先日前に頒布された乙4公報に記載された乙4発明等に基づき,当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性を欠く。
ア 乙4発明
(ア) 乙4公報には,次の構成を有する乙4発明が開示されている。
「エーロゾル形成基体を加熱するための加熱器であって,導電トラック及び電気絶縁基体を含む,加熱器」
(イ) 乙4発明と本件発明を対比すると,本件発明は,「ヒータに結合されたヒータマウントと,を備え,加熱要素は,第1の部分及び第2の部分を有し,該第1及び第2の部分は,前記加熱要素に電流が流れた時に前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成され,前記加熱要素の前記第1の部分は,ヒータ基板の加熱領域に位置し,前記加熱要素の前記第2の部分は,前記ヒータ基板の保持領域に位置し,前記ヒータマウントは,前記ヒータ基板の前記保持領域に固定される」(構成要件CないしH)のに対し,乙4発明はそのような構成を有しない点で相違するものの,その余の構成で一致する。
イ 容易想到性
乙3発明及び乙5発明には構成要件CないしHに係る構成が開示されているところ,次の各点に照らせば,乙4発明に乙3発明及び乙5発明を適用する動機付けがある。他方,乙4発明に乙3発明及び乙5発明の技術思想を適用する場合に,剛性を有する2つの導電性要素を組み合わせたり,円筒状の金属チューブの中に抵抗発熱線や内部リード線を配したりする必要はなく,乙4公報の【0079】の記載に基づき,導電トラックを,望ましい熱分布を与えるように電気絶縁基体上に配し,導電トラックの第1の部分と第2の部分から構成されるようにすれば足り,乙4発明の構造を変える必要はないから,当業者が乙5発明に乙4発明を適用することについて阻害要因は存在しない。したがって,当業者は,乙4発明に乙3発明及び乙5発明を適用することにより,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得た。
(ア) 前記(1)(被告の主張)イ,前記(2)(被告の主張)イのとおり,乙4発明と乙3発明及び乙5発明は,技術分野,構成,作用及び機能が共通する。
(イ) 乙3公報及び乙5公報に照らせば,加熱要素に第1の部分及び第2の部分を設け,加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成し,加熱要素の第1の部分を加熱要素の加熱領域に位置させ,加熱要素の第2の部分を加熱要素の保持領域に位置させ,ヒータマウントを加熱要素の保持領域に固定することは周知技術であった。
(ウ) 乙4公報【0079】には,導電トラックの熱分布について,望むように柔軟に設計できることが示唆されている。
(原告の主張)
以下のとおり,本件発明は,乙4発明等に基づき進歩性を欠くとはいえない。
ア 乙4発明
乙4発明と本件発明は,被告の主張する相違点において相違する。
イ 容易想到性
次の各点に照らせば,相違点に係る本件発明の構成は,乙4発明に乙3発明及び乙5発明を適用することにより,当業者において容易に想到し得たとはいえない。
(ア) 前記(1)(原告の主張)ア,前記(2)(原告の主張)アのとおり,乙3発明は,少なくとも構成要件B及びDないしHに相当する構成を有しない点で本件発明と相違し,乙5発明は,少なくとも構成要件B及びFないしHに相当する構成を有しない点で本件発明と相違するから,これらを乙4発明と組み合わせても本件発明の構成に至らない。
(イ) 前記(1)(原告の主張)イ(イ)b,前記(2)(原告の主張)イ(イ)のとおり,乙4発明と乙3発明及び乙5発明は基本的な構成が異なるものであり,これらを組み合わせる動機付けはない。
(ウ) 乙4公報【0079】には,相違点に係る本件発明の構成は示唆されていない。
(エ) 乙4発明に乙3発明及び乙5発明を適用しようとすれば,どちらかの構造を大きく変える必要があり,そのような大きな構造の変更をしなければ適用ができないことは,阻害要因である。
(4) 争点2-4(本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか)について
(被告の主張)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載(【0013】,【0014】,【0070】)に照らし,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるのは,第1の部分が第2の部分よりも大きな単位長当たりの電気抵抗を有するヒータであるから,第1の部分及び第2の部分の単位長当たりの電気抵抗が特定されていない本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えている。
したがって,本件特許は特許法36条6項1号に違反している。
(原告の主張)
本件明細書の発明の詳細な説明の記載には,加熱要素の第1の部分と第2の部分とで加熱温度を異ならせるという技術思想が明確に記載されており,第1の部分と第2の部分を異なる温度に加熱するための具体的な手段も開示されているから(【0013】,【0014】),本件特許は特許法36条6項1号に違反しているとはいえない。
3 争点3(損害額)について
(原告の主張)
(1) 特許法102条2項について
ア 利益の額
(ア) 売上高(●(省略)●円)
被告製品の販売開始から販売終了までの売上高は,●(省略)●円である。
これに対し,被告は,被告製品の売上高は,売上の合計額から売上戻り高(被告製品の不具合による返品費用)を控除した額である●(省略)●円であると主張する。しかし,被告が売上戻り高と主張する費用の内訳は明らかではなく,被告製品の販売等に直接関連して直接的に必要となったとは認められないから,被告製品の売上高を算出する上で売上戻り高を控除することはできないというべきである。
(イ) 控除すべき費用
a 商品原価(●(省略)●円)
被告製品の原価の総額は,●(省略)●円である。
これに対し,被告は,被告製品の原価の総額が●(省略)●円であると主張する。しかし,同額には「仕入戻し高」として計上された●(省略)●円が含まれているところ,実際には,仕入戻し高に対応する商品が販売されず,返品ないしは処分されたことは明らかである。そうすると,当該商品に係る被告製品の原価は被告製品の売上に対応する費用ではないから,この金額は,被告製品の売上高を算出する上で斟酌すべき原価の総額から除外されるべきである。したがって,●(省略)●円から●(省略)●円を控除した標記の額が,控除すべき商品原価の総額となる。
b 租税公課(●(省略)●円)
被告製品に係る租税公課は●(省略)●円である。
これに対し,被告は,租税公課の合計額は●(省略)●円であると主張する。しかし,前記aのとおり,仕入戻し高に対応する商品は販売されていないから,当該商品に対応する租税公課(関税(8%))である●(省略)●円(控除すべき商品原価●(省略)●円の8%に相当する額)は,被告製品の売上高を算出する上で斟酌すべき租税公課の合計額から除外されるべきであるところ,被告が主張する租税公課の合計額には,当該除外されるべき部分が含まれる。したがって,●(省略)●円から●(省略)●円を控除した標記の額が,控除すべき租税公課の合計額となる。
c 支払手数料(●(省略)●円)
被告製品に係る支払手数料の合計額は●(省略)●円である。
これに対し,被告は,上記支払手数料の合計額が●(省略)●円であると主張する。しかし,上記の支払手数料には,ショッピングサイトであるAmazonにおける販売手数料が含まれているところ,その額は売上の15%であり,Amazonにおける被告製品の売上高は●(省略)●円であるから,Amazonにおける販売手数料は●(省略)●円(●(省略)●円×15%)を超えることはない。そうすると,Amazonにおける販売手数料として被告が開示する●(省略)●円のうち,上記の●(省略)●円を超える部分である●(省略)●円(●(省略)●円-●(省略)●円)は,被告製品に係る支払手数料とは認められない。したがって,被告製品に係る支払手数料は,●(省略)●円から●(省略)●円を控除した標記の額にとどまる。
d 荷造運賃(●(省略)●円)
被告製品の利益の額を算出する上で,荷造運賃として●(省略)●円を控除すべきとの被告の主張を認める。
e 直接広告費(0円)
利益の額を算出する上で控除すべき直接広告費があるとは認められない。
この点,被告は,直接広告費として,①「Advertorial」名目で●(省略)●円を,②「MicroAD_DSP」名目で●(省略)●円を,③「Rakuten」名目で●(省略)●円を,④「Store」名目で●(省略)●円を支出したと主張する。
しかし,上記①については,具体的にどのような広告がなされたか不明であったり,広告としてではなく記事として雑誌等に掲載されたものであったりするから,被告が直接広告費に該当すると主張するいずれの支出についても,控除すべき直接広告費と認めることはできない。上記②及び③についても,その支出額の内訳や,具体的な広告の内容が不明であるから,上記①と同様に,控除すべき直接広告費とは認められない。さらに,上記④についてみると,自動車レースのスポンサーになることは具体的な被告製品を宣伝広告するものではないから,当該費用は,被告製品の販売等に関連して直接追加的に必要となったものではない。
このように,被告が直接広告費として主張する上記①ないし④はいずれも控除されるべきではない。
(ウ) 利益の額に関する小括
以上によれば,被告が受けた利益の額は,次の計算式のとおり,●(省略)●円(税別)と認められる。
(式) ●(省略)●円(売上高)
- ●(省略)●円(原価)
- ●(省略)●円(租税公課)
- ●(省略)●円(支払手数料)
- ●(省略)●円(荷造運賃)
= ●(省略)●円
イ 推定覆滅事由
(ア) 被告は,①被告製品に優位性が認められること,②原告タバコスティックを利用できる他の商品(競合品)が存在すること,③本件発明が被告製品の一部分にのみ実施されていること及び④被告による営業努力が被告製品の売上に寄与していることを根拠に,覆滅割合が9割を下らないと主張する。
しかし,被告製品は原告タバコスティックに対応していることを謳って販売されており,被告製品の需要者は原告タバコスティックをそのまま使用できる互換機であるからこそ被告製品を購入するのであって,被告製品の機能やデザイン等に着目して被告製品を購入するわけではない。したがって,仮に被告製品が存在しなかった場合に被告製品の購入者の需要が向かう先は,当然,真正品の原告製品である。
まず,上記①の事情についてみると,被告が,原告製品と比較した場合における被告製品の優位点として挙げる連続喫煙機能,デザイン,温度調節機能及び手動加熱クリーニング機能は,いずれも,加熱式タバコデバイスとしての基本性能を前提とした付随的な要素にすぎず,被告製品が存在しない場合に被告製品への需要が原告製品に向かうことを妨げる事情とはなり得ないから,上記①の事情は推定覆滅事由とはならない。
次に,上記②の事情についてみると,被告が競合品と称するものは本件特許の侵害品である蓋然性が高い上,競合品の販売数量は微々たるものであるから,かかる事情は推定覆滅事情たり得ない。
さらに,上記③の事情についてみると,本件発明は加熱式タバコシステムの中核的な構造である加熱アセンブリを対象とするものであり,それなくしては原告製品も被告製品も成立し得ないから,不可欠な構成要素である。したがって,本件発明が被告製品の一部分にのみ実施されていることをもって,推定覆滅事情と位置付けることはできない。
そして,上記④の事情についてみると,上記のとおり,被告製品が顧客に購入される最大の理由は原告タバコスティックをそのまま使える喫煙器具であるというところにある。被告の営業努力はこの種の商品について通常行われる宣伝・広告の域を出ないものであるし,原告タバコスティックをそのまま使えるというセールスポイントの訴求力に比べれば,その効果は微々たるものにすぎない。したがって,上記④の事情は,推定覆滅事由とはならない。
したがって,推定覆滅事由に関する上記①ないし④の主張は,いずれも理由がない。
(イ) 原告は,被告及びアンカー・ジャパン株式会社に対し,被告製品の販売が本件特許以外の特許発明に係る特許権(特許第6125008号。以下「別件特許権」という。)を侵害するとして,本件訴訟とは別途,損害賠償請求訴訟(東京地方裁判所令和2年(ワ)第4331号。以下「別件訴訟」という。)を提起しているところ,被告は,別件訴訟において損害賠償が命じられる可能性があるという事情が本件における推定覆滅事由に当たると主張する。しかし,特許法102条2項による推定を覆滅する事情となり得るのは,侵害行為と,その侵害行為に起因する権利者の売上減との間の因果関係の存在を阻害する事由であるところ,被告の上記事情は,同項による推定の基礎となる因果関係の存在を何ら阻害するものではないから,被告の主張には理由がない。
さらに,被告は,上記の事情が推定覆滅事由に当たると解さなければ,侵害者に二重払いの危険を負わせることになって妥当ではない旨を主張する。しかし,このような二重払いの危険は,別件訴訟においても損害賠償が命じられた場合において,その債務名義に基づく執行の場面で生じるものにすぎないのであって,未だ生じるか否かが不明な二重払いの危険を考慮して,損害の推定を覆滅させる必要はないから,被告の上記主張には理由がない。
(ウ) 以上によれば,本件において特許法102条2項による損害の額の推定を覆滅させる事情は認められない。
(2) 特許法102条3項について
ア 実施料率
前記(1)イ(ア)のとおり,被告製品はいずれも原告製品と互換性のある加熱式タバコ用デバイスであるから,被告が被告製品を販売等する行為は,原告が多額の投資を行って開拓した原告製品の市場を不当に侵食するものであるばかりか,原告タバコスティックにただ乗りするものにほかならない。このような状況下で,被告製品が販売等されることによって原告が被る損害は甚大であるから,原告が被告製品の販売等を許諾することはあり得ないことである。そうすると,原告の意に反し,被告によって本件発明が実施されたことについて原告が受け取るべき実施料に係る実施料率は,業界の平均的実施料率と比較して,はるかに高いものというべきである。
この点,株式会社帝国データバンクが作成した「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~」(以下「本件報告書」という。)には「食料品,タバコ」及び「健康;人命救助;娯楽」の各技術分野における実施料率平均が記載されているが,これらは,加熱式タバコという全く新しい市場を創造し,平成26年4月の全国発売開始の当初から爆発的な人気を博した商品に関する実施料率ではない上,特許権侵害を前提としない場合も含む実施料率であるから,本件の実施料率は,本件報告書に記載された実施料率よりもはるかに高いものとなる。
以上によれば,本件発明についての相当な実施料率は,被告製品の売上高の少なくとも20%を下らないというべきである。
イ 相当な実施料の額
前記(1)ア(ア)のとおり,被告製品の売上高は●(省略)●円であるから,特許法102条3項による本件発明の相当な実施料の額は,上記売上高の20%である●(省略)●円(税別)を下回らない。
ウ 被告の主張について
(ア) 被告は,本件特許の顧客吸引力は極めて小さいと主張するが,本件特許は,日本において加熱式たばこ喫煙具として他社に先駆けて初めて販売され,その全国発売当初から短期間の間に爆発的な普及を遂げた人気商品である原告製品において,加熱の基本構造を規定するものであるから,本件特許の顧客吸引力が低いなどとは到底いえない。
(イ) 被告は,フィリップ・モーリス・インターナショナルが米国のアルトリア・グループとの間で原告製品の販売をめぐるライセンス契約を締結したことから,本件発明についての相当な実施料率を認定するに際し,上記ライセンス契約における実施料率を参酌すべき旨を主張する。しかし,上記ライセンス契約は日本国外の市場に関するものである上,その契約内容には本件発明に関連しない事項も含まれているから,日本国内に輸入されて販売された被告製品に関する相当な実施料率の認定を左右する事情には当たらない。
(ウ) したがって,被告の前記(ア)及び(イ)の主張にはいずれも理由がない。
(3) 弁護士費用について
被告による本件特許権の侵害行為によって,原告は本件訴訟を提起することを余儀なくされたところ,これに要する費用は,前記(1)の特許法102条2項により推定される損害額の1割に当たる●(省略)●円を下らない。
(4) 小括
以上の次第で,原告は,被告に対し,前記(1)と前記(2)の各損害額のうちより高額な損害額及び前記(3)の弁護士費用相当額の合計額に消費税(8%)相当額を加えた額(1億4954万8921円)の支払を請求することができるところ,原告は,被告に対し,その内金として,7143万7327円及びこれに対する令和2年1月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求するものである。
(被告の主張)
(1) 特許法102条2項について
ア 利益の額
(ア) 売上高(●(省略)●円)
被告製品の販売開始から販売終了までの売上の合計額は●(省略)●円である。この額は,被告製品の不具合による返品費用(売上戻り高)である●(省略)●円と,値引きに係る費用(売上値引高)とを,控除したものである。
これに対し,原告は,売上戻り高の内訳が明らかではないとして,売上高を算出する過程で売上戻り高を控除することを争うが,売上戻り高が商品の返品等により計上された経費であることは証拠(乙45)により明らかであり,このような経費については売上高として計上すべきでないか又は売上高から控除すべきであるから,原告の上記主張には理由がない。
(イ) 控除すべき費用
a 商品原価(●(省略)●円)
被告が被告製品を仕入れるのに要した費用すなわち被告製品の原価の総額は●(省略)●円であるから,利益の額を算出する上では,同額を控除すべきである。
これに対し,原告は,被告が商品原価として主張する上記の総額のうち,仕入戻し高は,実際には販売されずに返品ないし処分された在庫商品に対応する費用の額であるから,控除の対象とならない旨を主張する。しかし,被告では,在庫商品に対応する金額である期末商品棚卸高を,期末において,仕入戻し高として会計上合計0円となるように計上しているにすぎず,仕入戻し高は期末商品棚卸高と同一の内容である。そして,被告は,既に当該期末商品棚卸高を控除して上記の商品原価の額を算出しているから,更に仕入戻し高を控除すべきとする原告の主張には理由がない。
b 租税公課(●(省略)●円)
被告製品を輸入する際の関税の支払のために要した費用は●(省略)●円であり,同額を控除すべきである。
c 支払手数料(●(省略)●円)
Amazonにおける被告製品の販売手数料(支払手数料)の合計額は●(省略)●円であり,同額を控除すべきである。
これに対し,原告は,Amazonにおける販売手数料は売上の15%であるから,被告製品の売上の15%を超える部分は控除されるべき販売手数料とは認められない旨を主張する。しかし,被告が販売手数料として主張する上記の額には,売上の15%によって算出される上記販売手数料のほか,「FBA」名目で計上された費用が含まれている。この点,FBAとは,Amazonフルフィルメントセンター(Amazonの物流拠点)において商品を保管し,注文商品を取り出し,梱包して,出荷するなどのサービスをいい,このサービスを利用するためには,FBA配送代行手数料,在庫保管手数料,購入者返品手数料等を支払う必要があるところ,「FBA」名目で計上された額は上記FBAのサービスの手数料の額として不合理な金額ではない。したがって,「FBA」名目で計上された費用を含め,被告が主張する支払手数料額の全部を控除すべきであるから,原告の上記主張は理由がない。
d 荷造運賃(●(省略)●円)
被告は,被告製品の運送費として●(省略)●円を支出したから,同額を控除すべきである。
e 直接広告費(●(省略)●円)
帳簿上,広告宣伝費として計上されている経費のうち,被告製品のプロモーションのために要した費用は●(省略)●円であるから,同額を控除すべきである。
その内訳として,被告は,①「Advertorial」名目で,通常の記事と同様の構成・体裁で編集された被告製品の広告の広告費用を,②「MicroAD_DSP」名目で,被告製品の広告の効果を最大化するためのプラットフォームの使用料を,③「Rakuten」名目で,楽天市場における被告製品の広告の広告費用を,④「Store」名目で,SUPER GTに協賛した上で被告製品のPRを行った際の費用を,それぞれ支出している。したがって,これらの費用は,いずれも,利益の額を算定する上で控除されるべきである。
これに対し,原告は,①「Advertorial」及び③「Rakuten」の各名目での広告費用については,具体的にどのような広告がされたか不明であること,②「MicroAD_DSP」の名目に係るものは,記事であって広告ではないことを根拠として,④「Store」の名目での広告費用については,自動車レースのスポンサーになったことに関する費用であって,具体的な被告製品を宣伝広告するものではないことを根拠として,いずれも控除されるべきではないと主張する。しかし,上記①ないし③については,被告は,被告製品のみを販売しており,被告製品以外のタバコ用デバイスを販売していないのであるから,被告が支出した宣伝広告のための費用は全て被告製品の販売のために直接必要なものである。そうすると,具体的な広告内容が立証されていなくても,利益の額を算出する上で控除すべき広告費用に該当することは明らかである。また,「Advertorial」とは,記事のような体裁の広告をいい,記事ではない。さらに,上記④については,被告はSUPER GTの会場において,被告製品を試用できるブースを出展しているところ,上記④はその費用として支出したものである。
以上によれば,上記①ないし④は,いずれも,被告製品の販売に直接必要な広告費であるから,控除されるべき経費に該当することは明らかである。
(ウ) 利益の額に関する小括
以上によれば,被告が受けた利益の額は,次の計算式のとおり,●(省略)●円と認められる。
(式) ●(省略)●円(売上高)
- ●(省略)●円(原価)
- ●(省略)●円(租税公課)
- ●(省略)●円(支払手数料)
- ●(省略)●円(荷造運賃)
- ●(省略)●円(直接広告費)
= ●(省略)●円
イ 推定覆滅事由
(ア) 被告製品に優位性が認められること
本件発明の効果は,頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供することにあるところ,被告製品には,その他にも,以下のとおり,原告製品に比較して優位な機能等があり,この点が,被告製品の売上に大きく寄与している。
a 連続喫煙が可能であること
原告製品は,従来,1回喫煙したら充電をしなければならず,連続喫煙をすることができなかった。現在は,原告においても,連続で喫煙することができる端末を販売しているが,その本数は10本連続にとどまる。これに対し,被告製品は,1回の充電で12本連続又は20本連続で喫煙することが可能である。
連続喫煙は,一度に何本も煙草を吸いたいと考える喫煙者には必須の機能であり,加熱式煙草を購入する上で,重要な条件の1つであるから,連続喫煙が可能であり,かつ連続喫煙本数が多い被告製品には優位性が認められる。
b 高いデザイン性を有すること
被告製品は,国際的に権威のあるデザイン賞の1つである「iFデザインアワード2019」を受賞するなど,そのデザイン性は世界でも高い評価を得ており,被告製品のウェブサイトにおいても,被告製品の特徴としてその高いデザイン性を訴求している。
そうすると,被告製品の高いデザイン性が被告製品の顧客誘引につながっていることは明らかである。
c 温度調節が可能であること
被告製品のうち「jouz 20 Pro」では,本体で操作するか,スマートフォンのアプリと連動させることにより,温度の調節が可能となった。これにより,使用者は,好みのフレーバーを好みの温度で吸えることが可能となっている。かかる機能は,原告製品には存在しない。したがって,以上の機能を有することも,被告製品の優位性の1つであると認められる。
d 手動加熱クリーニング機能
被告製品には,手動加熱クリーニング機能が実装されている。加熱クリーニングとは,煙草ホルダー内部に溜まったタバコスティックのカスを浮き立たせてクリーニングするという機能であり,この機能によって,使用者は,タバコスティックのカスを任意のタイミングで除去することができる。現在発売されている原告製品では,手動加熱クリーニングをすることはできないから,被告製品の手動加熱クリーニング機能は,原告製品にはない優位な部分である。
(イ) 競合品が存在すること
被告製品以外にも,原告タバコスティックを利用できる「IQOS互換機」は多く販売されているところ,これらは,本件発明と同様の効果を持つ競合品である。したがって,被告製品の販売がされなかったとしても,必ずしも原告製品が購入されることにはならない。
これに対し,原告は,競合品の販売数量が微々たるものであること,競合品は本件特許権の侵害品である蓋然性が高いことを根拠として,競合品の存在は推定覆滅事由に当たらないと主張する。しかし,競合品の販売数量が微々たるものであるとの証拠はないし,仮に販売数量が微々たるものであったとしても,そのことは,推定覆滅事由に当たらない根拠とはならない。また,競合品が本件特許権を侵害するものであることをうかがわせる事情はないし,競合品が現に市場に流通している以上,競合品が存在することが推定覆滅事由に当たることに変わりはない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
(ウ) 本件発明は被告製品の一部分にすぎないこと
本件発明は,加熱アセンブリの加熱要素の構成に関するものであるから,被告製品の一部分のみに実施されているにすぎない。
これに対し,被告製品は,前記(ア)のとおり,連続喫煙,高いデザイン性,温度調節機能,クリーニング機能等によって顧客誘引力を高めている。
したがって,本件発明が被告製品の部分のみに実施されていることは,推定覆滅事由として考慮されなければならない。
(エ) 被告による営業努力が売上に寄与していること
被告は,被告製品のプロモーションのために,SUPER GTでイベントを行うなどの営業努力をしており,被告製品の売上はこうした営業努力によるところが大きいから,被告が営業努力を行っていることは損害額の推定覆滅事由と評価されるべきである。
(オ) 関連事件の存在
原告は,被告及びアンカー・ジャパン株式会社に対し別件訴訟を提起している。したがって,仮に本件訴訟において被告製品の販売等が本件特許権を侵害すると判断され,損害賠償請求が認容されるとともに,別件訴訟において別件特許権を侵害すると判断され,損害賠償請求が認容された場合,侵害物件とされる被告製品が同一である以上,特許法102条2項により推定される損害の額を超えた損害賠償や,損害賠償金の二重取りを原告に許すことにほかならない。この点について,原告は,損害賠償金の二重取りの危険は,債務名義が取得された後の執行の段階において問題となるにすぎないなどとして,関連事件の存在が推定覆滅事由に当たることを争う。しかし,原告が本件訴訟と別件訴訟のいずれについても債務名義を取得し,それぞれの債務名義に基づいて強制執行を申し立てて,二重に債権回収を図る可能性があることに変わりはない。
したがって,別件訴訟において被告製品の販売が別件特許権を侵害していると判断された場合には,かかる認定がされたこと自体が損害額の推定覆滅事由に当たるというべきである。
(カ) 推定覆滅事由に関する小括
前記(ア)ないし(エ)のとおり,被告製品の優位性,競合品の存在,本件発明が被告製品の一部分にすぎないこと及び被告による営業努力により原告の損害額の推定は覆滅されるべきであり,その覆滅割合は9割を下らない。
また,前記(オ)のとおり,別件訴訟において被告が別件特許権を侵害したと認められた場合には,その一事をもって原告の損害額の推定は覆滅されるべきであり,その覆滅割合は5割を下らない。
(2) 特許法102条3項について
ア 前記(1)イ(ア)ないし(エ)のとおり,顧客は,連続喫煙本数や温度調節といった機能やデザインに基づいて,購入する加熱式タバコデバイスを選択する。そうすると,本件特許の顧客吸引力は極めて小さく,本件特許が被告製品の売上に寄与した度合いは低いというべきであり,実施料率もまた低いものと考えるべきである。したがって,本件発明についての相当な実施料率は,本件報告書の「食料品・タバコ」の技術分野における実施料率平均として記載されている3.8%と認められる。
イ 原告は,原告が被告製品の販売等を許諾することはあり得ないことであり,本件の実施料率は本件報告書に記載された実施料率よりもはるかに高いとした上で,本件発明についての相当な実施料率は,売上高の少なくとも20%を下らないと主張する。
しかし,原告の関連会社であるフィリップ・モーリス・インターナショナルは,米国のアルトリア・グループとの間で,原告製品の販売に関するライセンス契約を締結している。そうすると,本件特許は,第三者にライセンスすることを当然の前提とするものであって,被告に本件発明をライセンスすることもあり得るといえる。そのため,上記ライセンス料率を参考にして本件発明についての相当な実施料率を認定すべきである。
この点,原告が,営業秘密に当たることを理由に上記ライセンス料率の開示を拒否していることを踏まえると,上記ライセンス料率は20%より著しく乖離しているものと推認されるから,少なくとも,相当な実施料率が20%であるとする原告の上記主張には根拠がない。
そして,上記ライセンス料率が具体的に明らかにならないのであれば,前記アのとおり,一般的なライセンス料率を基準として,本件発明についての相当な実施料率を判断すべきである。
(3) 弁護士費用について
弁護士費用に関する原告の主張は否認する。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明について
(1) 本件明細書の発明の詳細な説明
本件明細書の発明の詳細な説明は,概要,次のとおりであり,図2ないし4,6は,別紙「本件明細書の図面」のとおりである(甲2)。
ア 技術分野
【0001】
本明細書は,エアロゾル発生システムで使用するのに適した加熱アセンブリに関する。特に,本発明は,エアロゾル形成基材を内部的に加熱するために喫煙物品のエアロゾル形成基材に挿入するのに適した加熱アセンブリに関する。
イ 背景技術
【0004】
加熱式喫煙装置のために提案されている1つのタイプの加熱アセンブリは,タバコプラグなどの固体エアロゾル形成基材にヒータを挿入することによって動作する。この構成では,基材を直接かつ効率的に加熱することができる。しかしながら,この種の加熱アセンブリには,小型,頑丈性,低製造コスト,十分な動作温度及び発生する熱の効果的な局所化のための要件を満たすことを含むいくつかの技術課題が存在する。
ウ 発明が解決しようとする課題
【0006】
エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化した,エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供することが望ましいと思われる。
エ 課題を解決するための手段
【0007】
本発明の第1の態様では,エアロゾル形成基材を加熱するための加熱アセンブリを提供し,この加熱アセンブリは,
電気抵抗式加熱要素及びヒータ基板を含むヒータと,
ヒータに結合されたヒータマウントと,
を備え,加熱要素は,第1の部分及び第2の部分を有し,これらの第1及び第2の部分は,加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成され,加熱要素の第1の部分は,ヒータ基板の加熱領域に位置し,加熱要素の第2の部分は,ヒータ基板の保持領域に位置し,ヒータマウントは,ヒータ基板の保持領域に固定される。
【0010】
加熱要素に電流が流れた結果,第1の部分は,第2の部分よりも高い温度に加熱される。1つの実施形態では,加熱要素の第1の部分が,使用時に約300℃~約550℃の温度に達するように構成される。加熱要素は,約320℃~約350℃の温度に達するように構成されることが好ましい。
【0011】
ヒータマウントは,ヒータを構造的に支持し,ヒータをエアロゾル発生装置内に確実に固定できるようにする。ヒータマウントは,ポリマ材料を含むことができ,ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)などの成形用ポリマ材料から形成されることが有利である。成形用ポリマを使用すると,ヒータマウントをヒータの周囲に成形することができ,これによりヒータを確実に保持することができる。また,ヒータマウントを所望の外形及び寸法で安価に製造することもできる。
当然ながら,ヒータマウントには,セラミック材料などの他の材料を用いることも可能である。ヒータマウントは,成形用セラミック材料から形成できることが有利である。
【0012】
ポリマを用いてヒータを保持するということは,ヒータマウント近傍のヒータの温度を,ポリマが溶解燃焼又は別様に劣化する温度未満に制御しなければならないことを意味する。同時に,エアロゾル形成基材内のヒータ部分の温度は,所望の特性のエアロゾルを生成するのに十分な温度でなければならない。したがって,使用中に加熱要素の第2の部分の少なくともヒータマウントに接する箇所が最大許容温度未満に保たれることを確実にすることが望ましい。
【0013】
電気抵抗式ヒータでは,ヒータによって生成される熱が,加熱要素の抵抗に依存する。所与の電流では,加熱要素の抵抗が高ければ高いほどより多くの熱が生成される。生成される熱のほとんどは,加熱要素の第1の部分によって生成されることが望ましい。したがって,加熱要素の第1の部分は,単位長当たりの電気抵抗がヒータ要素の第2の部分よりも高いことが望ましい。
【0014】
加熱要素は,異なる材料から形成された部分を有することが有利である。加熱要素の第1の部分は第1の材料から形成することができ,加熱要素の第2の部分は第2の材料から形成することができ,第1の材料は第2の材料よりも大きな電気抵抗率係数を有する。例えば,第1の材料は,Ni-Cr(ニッケルクロム),白金,タングステン又は合金ワイヤとすることができ,第2の材料は,金,銀又は銅とすることができる。ヒータ要素の第1及び第2の部分の寸法も,第2の部分の方が単位長当たりの電気抵抗が低くなるように異なることができる。
【0019】
ヒータ基板は,電気絶縁材料から形成されることが有利であり,ジルコニア又はアルミナなどのセラミック材料とすることができる。ヒータ基板は,広い温度範囲にわたって加熱要素を機械的に安定して支持することができ,エアロゾル形成基材に挿入するのに適した堅固な構造を提供することができる。ヒータ基板は,加熱要素が配置された平面と,エアロゾル形成基材に挿入できるように構成されたテーパ状の端部とを含むことができる。ヒータ基板は,2ワットパーメートルケルビン以下の熱伝導率を有することが有利である。
【0024】
加熱アセンブリは,加熱要素を覆う材料の1又はそれ以上の層を含むことができる。加熱要素には,例えばガラスで形成された保護層を設けて加熱要素の酸化又はその他の腐食を防ぐことが有利である。この保護層は,ヒータ基板を完全に覆うことができる。ヒータにも,熱的分布を向上させるために保護層又はその他の層を設けることができ,これによってヒータの掃除を容易にすることもできる。加熱要素とヒータ基板の間にも,ヒータ全体の熱的分布を向上させるためにガラスなどの材料の下位層を設けることができる。この材料の下位層を用いて,加熱要素の形成過程を改善することもできる。
オ 発明を実施するための形態
【0058】
図2は,エアロゾル発生装置の前端部の概略断面図であり,この実施形態では,喫煙物品であるエアロゾル形成物品12にヒータ14が挿入されている。
【0059】
エアロゾル発生装置のハウジング10は,消費されるエアロゾル発生物品12を受け入れるための,近位端(又は唇側端部)側が開放されたキャビティを定める。キャビティの遠位端には,ヒータ14とヒータマウント26とを含む加熱アセンブリ24が広がる。ヒータ14は,ヒータのアクティブな加熱領域がキャビティ内に位置するようにヒータマウント26によって保持される。
【0068】
図3に,図2に示すタイプのヒータ要素14をさらに詳細に示す。ヒータ14は,加熱要素14の形状を定める電気絶縁式ヒータ基板80を有する。
【0069】
ヒータ基板80の平面上には,蒸着又は他のいずれかの好適な技術を用いて,導電性材料から形成された加熱要素82が堆積される。加熱要素は,3つの異なる部分で形成される。第1の部分84はプラチナで形成される。
第1の部分は,アクティブな加熱領域91内に位置する。この領域は,使用時に最高温度に達してエアロゾル形成基材に熱を与えるヒータ領域である。
第2の部分86は金で形成される。
第2の部分は,図4に示すヒータマウント26に接触するヒータ領域であるヒータの保持領域93に及ぶ。第3の部分88は銀で形成される。第3の部分は,接続領域95内に位置し,半田ペースト又はその他のボンディング技術を用いて外部ワイヤを固定できるボンディングパッドを提供する。
第3の部分88は,保持領域93の第1の部分とは反対側に位置する。
【0070】
第1の部分は,第2及び第3の部分よりも大幅に大きな単位長当たりの電気抵抗を有し,この結果,加熱要素82に電流が流れた時にほとんどの熱を生成し,したがって最高温度に達するのが第1の部分である。第2及び第3の部分は,非常に低い電気抵抗を有し,したがってほんの少しのジュール加熱しかもたらさないように構成される。
【0072】
図4に,ヒータマウント26に取り付けられて加熱アセンブリを形成するヒータ14を示す。ヒータマウント26は,ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)から形成され,保持領域93を取り囲むようにヒータの周囲に射出成形される。
【0074】
このヒータは,加熱要素の第1の部分に対応するアクティブな加熱領域がヒータマウントから間隔を置くように構成される。
【0075】
図6は,図3に示すヒータの動作中におけるヒータの温度をヒータの長さに沿った距離の関数として示すプロット100である。プロットの下部にヒータを示して,温度のプロットをヒータと位置合わせしている。
実際の温度プロット100からは,加熱要素の第1の部分が位置するアクティブな加熱領域においてヒータが最も高温になることが分かる。エアロゾル発生中のピーク温度は420℃前後である。アクティブな加熱領域と保持領域の間のエネルギー伝達領域では,温度が急速に降下する。この実施形態では,ヒータマウントにおいて,ヒータの温度が,線102で示す200℃未満であることが望ましい。ヒータマウントにおいて許容できる最高温度は,ヒータマウントの形成に使用する材料に依存する。アクティブな加熱領域に最も近いヒータマウント部分の位置は,線104として示している。ヒータは,使用時にヒータのアクティブ領域がその最高温度に達した時に,ヒータマウント26における温度が確実に200℃未満になるように構成される。
(2) 本件発明の概要
前記第2の2(2)イの特許請求の範囲,前記(1)の本件明細書の発明の詳細な説明及び図面並びに弁論の全趣旨に照らすと,本件発明の概要は,以下のとおりであると認められる。
ア 本件発明は,エアロゾル形成基材を内部的に加熱するために喫煙物品のエアロゾル形成基材に挿入するのに適した加熱アセンプリに関するものであり(【0001】),固体エアロゾル形成基材にヒータを挿入するタイプの背景技術に係る加熱アセンブリに,小型,頑丈性,低製造コスト,十分な動作温度及び発生する熱の効果的な局所化といった技術課題があったこと(【0004】)を踏まえ,エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し,エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供することを解決すべき課題とするものである(【0006】)。
イ 本件発明は,次のとおり,上記の課題を解決するための手段として,特許請求の範囲請求項1記載のとおりの構成を採用するものである。
すなわち,本件発明は,エアロゾル形成基材を加熱するための加熱アセンブリであって(構成要件A),電気抵抗式加熱要素及びヒータ基板を含むヒータと(同B),ヒータに結合されたヒータマウントとを備えるものであり(同C),加熱要素が第1の部分及び第2の部分を有し(同D),加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成されたものである(同E)。このうち,ヒータ基板は,その上に加熱要素を配置し,広い温度範囲にわたって加熱要素を機械的に安定して支持するとともに,エアロゾル形成基材に挿入するのに適した堅固な構造を提供するための部材であり(【0019】),ヒータマウントは,ヒータを構造的に支持してヒータをエアロゾル発生装置内に確実に固定するための部材である(【0011】)。本件発明は,上記の加熱要素に係る構成を採用することにより,エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化することを可能とするものである。
また,本件発明は,加熱要素の第1の部分がヒータ基板の加熱領域に位置し(構成要件F),加熱要素の第2の部分がヒータ基板の保持領域に位置し(同G),ヒータマウントがヒータ基板の保持領域に固定されたものであり(同H),これらの構成をも備えることによって,ヒータ基板の加熱領域の温度を,所望の特性のエアロゾルを生成するのに十分な温度にするのと同時に,ヒータ基板の保持領域の温度を,ポリマ材料で構成されたヒータマウントが溶解燃焼又は別様に劣化する温度未満に制御することができるという作用効果を奏するものである(【0012】)。
2 争点1(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか)について
(1) 争点1-1(被告製品は構成要件Cの「ヒータに結合された」構成を備えるか)について
ア 「ヒータに結合された」の解釈
(ア) 構成要件Cは,本件発明の加熱アセンブリが「ヒータに結合されたヒータマウント」を備えることを規定しているところ,一般に「結合」には「二つ以上のものが結びついて一つになること。また,結び合わせて一つにすること。」といった語義があること(乙1)からすると,ヒータと結び付いて1つのユニット又はアセンブリを形成するヒータマウントであれば,それらが不可分一体をなすものとまでいえるか否かにかかわらず,これに該当すると解するのが文言上自然であり,また,そのようなヒータマウントであれば,ヒータを構造的に支持してヒータをエアロゾル発生装置内に確実に固定することができるという前記1(2)イ認定のヒータマウントの作用効果を奏するものと考えられる。
さらに,本件明細書においても,「ヒータに結合された」を限定して解釈すべき旨の説明等は見当たらない。
そうすると,ヒータと結び付いて1つのユニット又はアセンブリを形成するヒータマウントであれば,それらが不可分一体をなすものとなっているか否かにかかわらず,「ヒータに結合された」に該当すると解するのが相当である。
(イ) 被告は,「ヒータに結合された」は,ヒータマウントがヒータと1つになったものを意味し,ヒータマウントとヒータが容易に分離可能であるものは含まないとし,その理由として,①前記(ア)の「結合」の語義及び②本件明細書【0072】の「ヒータマウント26は,…保持領域93を取り囲むようにヒータの周囲に射出成形される。」との記載を指摘する。
しかし,上記①について,上記の「結合」の語義に照らしても,その態様には様々なものがあり得るところ,特許請求の範囲において「ヒータに結合された」の態様は具体的に特定されていないから,ヒータマウントとヒータが一体化して分離困難となったものに限定されるものであるとは認め難い。
また,上記②について,被告の指摘する【0072】の記載は,実施例を示すものにすぎず,「ヒータに結合された」を同段落に記載された形態のものに限定する根拠として十分なものではない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
イ 被告製品
(ア) 証拠(甲3ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品のヒータマウントは,加熱ブレードに取り付けられ,所定の位置で維持されて動かないように固定されており,加熱ブレードとともに1つのユニット又はアセンブリを形成していると認められるから,被告製品は,構成c,すなわち,「加熱ブレードに結合されたヒータマウント」を備えていると認められる。
(イ) 被告は,被告製品のヒータマウントはヒータに「結合された」ものではないとし,その理由として,①被告製品のヒータマウントは射出形成により形成されたものではなく,ヒータとは別に形成されたものであること,②ヒータマウントをヒータに被せた後に,ヒータ基板において接続のための外部ワイヤをはんだ付けしている部分にAB樹脂を注入して覆い,AB樹脂を変質させることによって当該部分を保護しているにすぎないこと,③原告従業員作成の報告書(甲3ないし5)添付の写真でも,ヒータマウントがヒータから取り外されているように,ヒータマウントをヒータから分離することは容易であることを主張する。
しかし,上記①について,前記アのとおり,構成要件Cの「ヒータに結合された」は,ヒータマウントが射出形成により形成されたものに限定されるものではないから,被告製品のヒータマウントが,射出形成によって形成されておらず,ヒータとは別に形成されたものであったとしても,ヒータマウントがヒータに結合されていないとはいえない。
また,上記②について,その趣旨は必ずしも明確でないが,仮に,被告製品のヒータマウントと加熱ブレードの間に樹脂が注入されていることをいうものであったとしても,前記(ア)のとおりの被告製品のヒータマウントと加熱ブレードの接合状況等に照らし,それらが1つのユニット又はアセンブリを形成していることを否定するに足りないというべきである。
さらに,上記③について,被告の指摘する原告従業員作成の報告書(甲3ないし5)は,被告製品の構成を明らかにして本件発明と対比するために,被告製品のヒータマウントと加熱ブレードを分離したものであると認められるものであり,被告製品の通常の使用においてそれらが容易に分離可能であることを示すものであるとはいえず,ほかにそのように認めるに足る証拠はない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 以上に照らせば,被告製品は,「ヒータに結合された」構成を備え,構成要件Cを充足する。
(2) 争点1-2(被告製品は,構成要件Gの「保持領域に位置し」及びHの「保持領域に固定される」構成を備え,構成要件Iを充足するか)について
ア 「保持領域」の解釈
(ア) 構成要件Gは,加熱要素の第2の部分が「ヒータ基板の保持領域」に位置すること,構成要件Hは,ヒータマウントが「前記ヒータ基板の前記保持領域」に固定されることを規定しているところ,一般に「保持」には「保ちつづけること。持ちつづけること。」といった語義があり(乙2),本件発明においてヒータを構造的に支持するための部材はヒータマウントであると認められること(前記1(2)イ)からすると,「保持領域」は,ヒータマウントによって支持されているヒータ基板の領域を意味するものと解するのが文言上自然であり,また,ヒータマウントとヒータ基板の間に別の部材が介在していたとしても,ヒータマウントを固定することによってヒータ基板を構造的に支持するという前記1(2)イ認定のヒータマウントの作用効果を奏することは可能であると考えられる。
さらに,本件明細書においても,「保持領域」を限定して解釈すべき旨の説明等は見当たらない。
そうすると,ヒータマウントによって支持されているヒータ基板の領域であれば,それらが直接接触しているか否かにかかわらず,「保持領域」に該当すると解するのが相当である。
(イ) 被告は,構成要件G及びHの「保持領域」は,ヒータマウントに接触し,ヒータを持ち続けているヒータ領域を意味すると解すべきであるとし,その理由として,①前記(ア)の「保持」の語義,②ヒータマウントはヒータを構造的に支持する部材であること(【0011】),③本件明細書には,「第2の部分は,図4に示すヒータマウント26に接触するヒータ領域であるヒータの保持領域93に及ぶ。」(【0069】),「ヒータマウント26は,…保持領域93を取り囲むようにヒータの周囲に射出成形される。」(【0072】)と「保持領域」の定義が明確に示されていること,④本件明細書の図3にも,「保持領域93」は「第2の部分86」と重なる「ヒータマウント26」に接触し,保持されている領域であることが示されていることを主張する。
しかし,上記①及び②について,前記(ア)の「保持」の語義に含まれ得る態様や,ヒータマウントがヒータを構造的に支持する態様には様々なものがあり得るところ,特許請求の範囲において「保持」の態様は何ら限定されていないから,「保持領域」が,ヒータマウントと直接接触しているヒータ基板の領域に限定されるものであるとは認め難い。
また,上記③について,被告の指摘する【0069】,【0072】の記載は,いずれも実施例を示すものにすぎず,「保持領域」をこれらに記載された形態のものに限定する根拠として十分なものではない。かえって,本件明細書【0024】には,「加熱アセンブリは,加熱要素を覆う材料の1又はそれ以上の層を含むことができる。加熱要素には,例えばガラスで形成された保護層を設けて加熱要素の酸化又はその他の腐食を防ぐことが有利である。この保護層は,ヒータ基板を完全に覆うことができる。ヒータにも,熱的分布を向上させるために保護層又はその他の層を設けることができ,これによってヒータの掃除を容易にすることもできる。加熱要素とヒータ基板の間にも,ヒータ全体の熱的分布を向上させるためにガラスなどの材料の下位層を設けることができる。」として,ヒータマウントとヒータ基板の間に保護層又はその他の層を介在させ得ることが示されている。
さらに,上記④について,被告の指摘する本件明細書の図3も実施例を示すものにすぎず,また,同図において,「保持領域93」が「ヒータマウント26」と直接接触しているヒータ基板の領域であることが示されているとも認め難い。
したがって,被告の上記①ないし④の主張にはいずれも理由がない。
イ 被告製品
(ア) 証拠(甲3ないし5)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品のヒータマウントは,本件発明の「加熱要素」の「第2の部分」に相当する「電線」の「第2部分」が位置するヒータ基板の所定の領域に維持されて動かないように固定されており,ヒータ基板を支持していると認められるから,被告製品において,ヒータマウントによって支持されているヒータ基板の領域は「保持領域」に相当し,被告製品は,構成g及びh,すなわち,「前記電線の前記第2部分は,前記ヒータ基板の保持領域に位置し,前記ヒータマウントは,前記ヒータ基板の前記保持領域に固定されている」を備えていると認められる。
(イ) 被告は,被告製品では,ヒータマウントと電線の第2部分の間に緩衝ゴムが装着されており,ヒータマウントと第2部分の間にあそびがあって,両者は接触していないから,第2部分は「保持領域」に位置していない旨主張する。
被告の主張の趣旨は必ずしも明確でないが,仮に,上記の「あそび」がヒータマウントと電線の第2部分の間に伸縮性のある緩衝ゴムが介在していることをいうものであれば,緩衝ゴムを介していたとしても,ヒータマウントによって電線の第2部分が位置するヒータ基板が支持され,固定されていることは変わらないと考えられるから,被告製品の電線の第2部分が「保持領域」に相当することを覆すに足りない。
また,前記(ア)のとおり,被告製品のヒータマウントはヒータ基板の所定の領域に維持されて動かないように固定されており,ヒータ基板を支持するものであり,そのようなヒータマウントとヒータ基板の接合状況に照らし,ヒータマウントと電線の第2部分の間に空間が生じていることは考え難いから,仮に,被告の主張する上記の「あそび」がそのような空間の存在を前提とするものであれば,そのように認めるに足る証拠はなく,採用することはできない。
(ウ) 被告は,被告製品では,ヒータと外部ワイヤをはんだ付けしている部分にAB樹脂が注入されており,ヒータと接触しているのはAB樹脂であって,ヒータマウントとは接触していないから,ヒータマウントは「保持領域」でヒータに固定されていない旨主張する。
被告の主張の趣旨は必ずしも明確でないが,仮に,ヒータマウントとヒータ基板の間にAB樹脂が介在していることをいうものであったとしても,ヒータマウントによって電線の第2部分が位置するヒータ基板が支持され,固定されていることは変わらないと考えられるから,被告製品の電線の第2部分が「保持領域」に相当し,ヒータマウントが当該「保持領域」に固定されていることを覆すに足りないというべきである。
(エ) 以上に照らせば,被告製品は,構成要件Gの「保持領域に位置し」及び構成要件Hの「保持領域に固定される」構成を備え,構成要件G及びHを充足する。また,被告製品は,加熱アセンブリであり,構成要件BないしHの特徴を有するから,構成要件Iを充足する。
(3) 争点1についての小括
よって,被告製品は本件発明の技術的範囲に属する。
3 争点2(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について
(1) 乙3発明,乙4発明及び乙5発明の内容等に係る事実認定
ア 乙3発明
(ア) 乙3公報
本件優先日前に公開された乙3公報には,その訳文に相当する特表2013-515465号公報の記載と同内容の記載があると認められるところ,その記載は次のとおりである。また,乙3公報の図10,16,18は,別紙「乙3公報の図面」のとおりである(乙3)。
【0001】
本発明は,加熱要素に関する。詳細には,本発明は,電気加熱式エアロゾル発生システムのエアロゾル生成基体を加熱するための加熱要素に関する。
【0004】
この提案された喫煙システムの1つの問題点は,デバイスの携帯式コントローラの寸法が従来の喫煙物品よりも幾分大きいことである。このことはユーザにとって不都合である。したがって,本発明の目的は,前述の又は従来の他の問題点を解決することにある。
【0006】
本発明の第2の態様によれば,エアロゾル生成基体を加熱するための加熱要素が提供され,加熱要素は,電気絶縁部によって第2の導電性要素から電気的に絶縁された第1の導電性要素を備え,第1及び第2の要素は細長く,電気抵抗部によって相互に電気的に接続され,少なくとも 1つの導電性要素及び電気抵抗部は,少なくも部分的にエアロゾル生成基体と接触するように構成される。
電気絶縁部は,マイカ粉体(MiOx)等の電気絶縁材料とすることができる。
【0007】
使用時,エアロゾル生成基体は,加熱要素の導電部よりも加熱要素の電気抵抗部で温度が高くなる。これにより,加熱時,エアロゾル生成基体の温度プロファイルのより緻密な制御が可能になる。
【0008】
加熱要素は,内部加熱要素又は内部加熱器であることが好ましい。用語「内部加熱要素」又は「内部加熱器」は,少なくとも部分的にエアロゾル生成基体の中に又はその内部に挿入できるものを呼ぶ。好ましくは,加熱要素は,エアロゾル生成材料の中に又はその内部に挿入するのに適している。
【0009】
好ましくは,第1の導電性要素は導電性線材又は複数の線材とすることができる。好ましくは,第2の導電性要素は導電性管体である。
【0010】
好ましくは,導電性管体は少なくとも部分的に第1の導電性要素を取り囲む。
【0011】
好ましくは,電気絶縁部は,電気絶縁プラグである。電気絶縁プラグは,第1の導電性要素の第1の端部を取り囲むことができる。
【0016】
本発明の第3の態様によれば,電気加熱式エアロゾル発生システムにおいてエアロゾル生成基体を加熱するための加熱器を備え,加熱器は,ホルダと,本発明の第2の態様による1つ又はそれ以上の加熱要素と,各加熱要素の取り付け部を電源に接続して各導電性要素を介して電流を供給するようになった接続部とを備え,各加熱要素の第1の端部はホルダから外側に突出する加熱部をもたらし,各加熱要素の第2の端部はホルダに取り付けられる取り付け部をもたらすようになっている。加熱器はピン加熱器とすることができる。
【0027】
別の実施形態において,b)導電性要素の第1の端部を取り囲む導電性管体内に電気絶縁プラグを準備する段階は,導電性要素の第1の端部を取り囲むために電気絶縁ペーストを導電性管体に注入する段階を含み,ペーストは乾燥すると電気絶縁プラグをもたらすようになっている。
好ましくは,本方法は,電気絶縁ペーストを導電性管体に注入する段階の後で,ペーストを加熱して乾燥させてプラグをもたらす段階を含むことができる。
ペーストの乾燥は,結果として得られる絶縁プラグが適正な密度及び構造,結果的に適正な絶縁特性をもつように,注意深く制御することが好ましい。導電性管体に注入される電気絶縁ペーストは,十分に流動性,可塑性,弾力性をもつ必要がある。好ましくは,電気絶縁ペーストは,水等の溶剤に溶解した電気絶縁粉末を含む。
【0045】
導電性要素は,金属製であることが好ましい。好ましい実施形態において,導電性要素は銅線である。
【0046】
導電性管体は金属管体を備えることが好ましい。好ましくは,導電性管体は導電性要素とは異なる金属である。好ましい実施形態において,導電性管体はステンレス鋼管体である。
【0064】
導電性要素の1つは管状又は略管状である必要はない。導電性要素は,抵抗部において他の導電性要素と電気結合可能とすれば,任意の導電性材料とすることができる。例えば,第1の導電性要素は,導電性材料の実質的に細長いストリップとすることができる。更に,第2の導電性要素は,導電性材料の実質的に細長いストリップとすることができる。次に,前述のように,絶縁ペーストは,第1の細長いストリップと第2の細長いストリップとの間に注入できる。次に,ペーストは前述のように乾燥させることができる。ペーストは,2つのストリップの間から漏出しないように十分な厚みをもつ必要がある。これは,第2の導電性要素が管状である実施形態とは異なり,製造プロセス時に絶縁ペーストを保持する壁がないことに起因している。次に,前述のように,ペーストが乾燥すると,第1及び第2の導電性要素は相互に電気結合できる。各要素は,2つの導電性要素を電極115又はペンチカッターで切断及び結合して,要素の第1の端部に抵抗部を形成することで結合できる。
【0065】
図10は,本発明の1つの実施形態による加熱要素の断面を示す。
【0066】
図10に示すように,例えば線材又は細長い線材である,第1の導電性要素105は,少なくとも部分的に電気絶縁ペースト103で取り囲まれる。例えばチューブである第2の導電性要素109は,電気絶縁ペーストを取り囲む。
第1及び第2の導電性要素は,第1の端部102において結合することができる。抵抗部117は,加熱要素の第1の端部に形成できる。
【0067】
加熱要素の第1の端部において2つの導電性要素の間で不完全な電気接続が存在するので,電気抵抗部117の抵抗は第1及び第2の導電性要素の抵抗よりも高い。これは,加熱要素の電気抵抗部において第1の導電性要素と第2の導電性要素とを隔離する電気絶縁ペーストの量が少ないことにある程度起因する。
【0071】
図16は,電気加熱要素に沿った距離を関数とした加熱要素の定常温度プロファイルTを示す。第1の端部の加熱要素の抵抗は,加熱要素の他の抵抗よりも高いので,電流が流れると加熱要素はジュール熱効果で主として第1の端部において昇温する。次に,熱は加熱要素の高温端部(第1の端部)から最初は加熱要素の第1の端部よりも冷たい加熱要素の第2の端部へ移動する。
【0079】
例示的な実施形態において,取り付け部及び接続部125は,円盤形ホルダに取り付けられる。ホルダは金属製又は電気絶縁製とすることができる。加熱部123は,金属ホルダの上側に露出する。金属ホルダの下方で,取り付け部及び接続部125(銅線105)が電気回路に接続される。
ホルダに1つ以上の加熱要素を取り付ける場合,加熱要素は最も効率的に基体を加熱できるように適切な配列で配置される。これは図18に示されており,ここでは4つの加熱要素がホルダに対して略正方形配置で又は格子状に配列されている。
(イ) 乙3発明の概要
前記(ア)によれば,乙3公報には,線材又は細長い線材である第1の導電性要素とその周囲を取り囲むように形成された管状の第2の導電性要素の間,又は,細長いストリップ状の第1及び第2の導電性要素の間に,電気絶縁ペーストを注入して乾燥させることにより,第1の導電性要素と第2の導電性要素を電気的に絶縁させる電気絶縁部を形成すること(【0006】,【0009】ないし【0011】,【0027】,【0064】,【0066】,図10),加熱要素にホルダが取り付けられていること(【0016】,【0079】),電流が流れることで電気抵抗部が発熱し,発生した熱は,加熱要素の温度の低い方へ移動して,図16のような温度分布を生じること(【0067】,【0071】,図16)が記載又は図示されており,本件発明と対比される構成として,次のとおりの構成を有する乙3発明が開示されていると認められる。
「エアロゾル生成基体を加熱するための加熱器であって,第1及び第2の導電性要素,電気抵抗部及び電気絶縁部を含む加熱要素と,前記加熱要素に取り付けられたホルダと,を備え,前記加熱要素は,第1及び第2の導電性要素,電気抵抗部を有し,前記加熱要素に電流が流れた時に前記電気抵抗部が前記第1及び第2の導電性要素よりも高い温度に加熱されるように構成されている加熱器。」
(ウ) 乙3発明と本件発明の対比
a 一致点
乙3発明と本件発明を対比すると,乙3発明の「エアロゾル生成基体」は本件発明の「エアロゾル形成基材」に,乙3発明の「加熱器」は本件発明の「加熱アセンブリ」に,乙3発明の「第1及び第2の導電性要素,電気抵抗部」は本件発明の「電気抵抗式加熱要素」に,乙3発明の「加熱要素」は本件発明の「ヒータ」に,乙3発明の「ホルダ」は本件発明の「ヒータマウント」に,乙3発明の「電気抵抗部」は本件発明の「第1の部分」に,乙3発明の「第1及び第2の導電性要素」は本件発明の「第2の部分」に,それぞれ相当する構成であると認めることができるから,これらは次の点で一致すると認められる。
「エアロゾル形成基材を加熱するための加熱アセンブリであって,電気抵抗式加熱要素を含むヒータと,前記ヒータに結合されたヒータマウントと,を備え,前記加熱要素は,第1の部分及び第2の部分を有し,該第1及び第2の部分は,前記加熱要素に電流が流れた時に前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成されている加熱アセンブリ。」
b 相違点
(a) 他方で,前記1(2)イのとおり,本件発明の「ヒータ基板」は,その上に加熱要素を配置し,広い温度範囲にわたって加熱要素を機械的に安定して支持するとともに,エアロゾル形成基材に挿入するのに適した堅固な構造を提供するための部材であるところ,以下のとおり,乙3発明の「電気絶縁部」は,そのようなものであるとは認められない。
すなわち,前記(イ)のとおり,電気絶縁部は,第1の導電性要素と第2の導電性要素を電気的に絶縁させるためのものであり,第1の導電性要素と第2の導電性要素の間に電気絶縁ペーストを注入して乾燥させることによって形成されるものであって,乾燥後に堅固なものとなるか,またその程度についての開示もないから,このような電気絶縁部の機能及び形成方法に照らせば,電気絶縁部は,その上に第1及び第2の導電性要素,電気抵抗部を配置し,それらを機械的に安定して支持するものであるとは認められない。
また,前記(ア)のとおり,乙3公報において,第1の導電性要素は,好ましくは導電性線材又は複数の線材(【0009】),好ましくは金属,好ましい実施形態においては銅線であり(【0045】),第2の導電性要素は,好ましくは導電性管体(【0009】),好ましくは金属管体,好ましい実施形態においてはステンレス鋼管体等である(【0046】)と説明され,「加熱要素は,内部加熱要素又は内部加熱器であることが好ましい。用語『内部加熱要素』又は『内部加熱器』は,少なくとも部分的にエアロゾル生成基体の中に又はその内部に挿入できるものを呼ぶ。好ましくは,加熱要素は,エアロゾル生成材料の中に又はその内部に挿入するのに適している。」(【0008】)と説明されていることにも照らせば,乙3発明の加熱要素は,少なくとも第2の導電性要素が管体等で構成されることにより全体としてエアロゾル形成基材に挿入するのに適した堅固な構造を有すると認めるのが相当であり,前記のとおり,それ以上に電気絶縁部が堅固なものとなるかに係る開示もないことからすれば,電気絶縁部が堅固な構造を有することは示されていないというべきである。
したがって,乙3発明の「電気絶縁部」は本件発明の「ヒータ基板」に相当するものであるとは認められない。
(b) 以上のとおり,乙3公報には,本件発明の「ヒータ基板」に相当する構成が開示されていないから,これを前提とする「ヒータ基板の加熱領域」及び「ヒータ基板の保持領域」に係る構成も開示されているとはいえない。
(c) そうすると,乙3発明と本件発明は,①本件発明は,ヒータが「ヒータ基板を含む」(構成要件B)のに対し,乙3発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点3-1」という。),②本件発明は,加熱要素の第1の部分が「ヒータ基板の加熱領域に位置」する(構成要件F)のに対し,乙3発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点3-2」という。),③本件発明は,加熱要素の第2の部分が「ヒータ基板の保持領域に位置」する(構成要件G)のに対し,乙3発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点3-3」という。),④本件発明は,ヒータマウントが「ヒータ基板の前記保持領域に固定される」(構成要件H)のに対し,乙3発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点3-4」という。)において相違すると認められる。
c 被告の主張について
被告は,本件発明の「ヒータ基板の加熱領域」は乙3公報記載の「加熱要素の加熱部」に相当し,本件発明の「ヒータ基板の保持領域」は乙3公報記載の「加熱要素の取り付け部」に相当すると主張するが,前記のとおり,乙3発明は,「ヒータ基板」に相当する構成を備えていない以上,「ヒータ基板の加熱領域」,「ヒータ基板の保持領域」に相当する構成を備えているとはいえないから,乙3公報に,相違点3-2ないし4に係る本件発明の構成が示されているとはいえず,被告の上記主張は採用することができない。
d 原告の主張について
原告は,乙3発明の電気抵抗部は,導電性要素の一部と電気絶縁ペーストで形成されるものであり,基板上に位置する加熱要素といえるような独立した構造を有するものではなく,加熱要素の「第1の部分」に当たらないと主張するが,本件発明の加熱要素の「第1の部分」は,電流が流れた時に「第2の部分」より高い温度に加熱される加熱要素の部分であり(構成要件E),独立した構造を有するものに限定されるものとは解されないから,乙3発明の電気抵抗部が独立した構造を有しないとしても,加熱要素の「第1の部分」に相当することは否定されず,原告の上記主張は採用することができない。
イ 乙4発明
(ア) 乙4公報
本件優先日前に公開された乙4公報には,その訳文に相当する特表2013-509160号公報の記載と同内容の記載があると認められるところ,その記載は次のとおりである。また,乙4公報の図4は,別紙「乙4公報の図面」のとおりである(乙4)。
【0001】
本発明は,エーロゾル形成基体を加熱するための加熱器を含む電気加熱式喫煙システムに関する。
【0004】
本発明者は,製造がより簡単でその構成に必要な構成要素がより少ない電気加熱式喫煙システムを提供することが有利であると考えられると認めたものである。
【0024】
本発明のいずれかの態様の第1の実施形態において,電気絶縁基体は,剛体であり,かつエーロゾル形成基体内に挿入されるように配置される。電気絶縁基体は,適切に寸法決めされて剛体である場合,エーロゾル形成基体内に直接に挿入することができる。
【0031】
本発明のいずれかの態様の第1の実施形態において,少なくとも1つの加熱器は,電気絶縁基体を準備し,導電ペーストのパターンを形成するようにテンプレートを使用して電気絶縁基体上に導電ペーストを堆積させ,かつ導電ペーストを乾燥させて導電トラックを形成することによって形成される。
【0073】
図4は,エーロゾル形成基体と共に使用される加熱器の第1の実施形態を示している。図4では,加熱器400は,導電トラック403をその上に有する平坦で剛体の電気絶縁基体401を含む。
導電トラックは,接続部405を通じて電源(図示せず)に接続可能である。加熱器400は,概略407に示したエーロゾル形成基体のプラグ内に直接挿入することができる。
【0079】
加熱器は,かなり柔軟な設計になり,すなわち,導電トラックは,望むようにかつ望ましい熱分布を与えるように電気絶縁基体上に直接に配置することができる。
(イ) 乙4発明の概要
前記(ア)によれば,乙4公報には,エーロゾル形成基体内に直接挿入できるように適切に寸法決めされた剛体である電気絶縁基体の上に,導電ペーストを堆積させ,乾燥させて導電トラックを形成することが記載又は図示されており(【0024】,【0031】,【0073】,図4),本件発明と対比される構成として,次のとおりの構成を有する乙4発明が開示されていると認められる。
「エーロゾル形成基体を加熱するための加熱器であって,導電トラック及び電気絶縁基体を含む加熱器」
(ウ) 乙4発明と本件発明の対比
a 一致点
乙4発明と本件発明を対比すると,乙4発明の「エーロゾル形成基体」は本件発明の「エアロゾル形成基材」に,乙4発明の「加熱器」は本件発明の「加熱アセンブリ」に,乙4発明の「導電トラック」は本件発明の「電気抵抗式加熱要素」に,乙4発明の「電気絶縁基体」は本件発明の「ヒータ基板」に,それぞれ相当する構成であると認めることができるから,これらは次の点で一致すると認められる。
「エアロゾル形成基材を加熱するための加熱アセンブリであって,電気抵抗式加熱要素及びヒータ基板を含むヒータを備える加熱アセンブリ」
b 相違点
(a) 他方で,乙4公報には,本件発明の「ヒータマウント」,加熱要素に「第1の部分」及び「第2の部分」があり,「第1の部分」が「第2の部分」より高い温度に加熱されること,「第1の部分」がヒータ基板の「加熱領域」に位置し,「第2の部分」がヒータ基板の「保持領域」に位置すること,「ヒータマウント」がヒータ基板の「保持領域」に固定されることに相当する構成は開示されていない。
(b) そうすると,乙4発明と本件発明は,①本件発明は,「ヒータに結合されたヒータマウント」を備える(構成要件C)のに対し,乙4発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点4-1」という。),②本件発明は,加熱要素が「第1の部分及び第2の部分」を有する(構成要件D)のに対し,乙4発明は,これに相当する構成を有していない点(以下「相違点4-2」という。),③本件発明は,加熱要素の第1及び第2の部分が「加熱要素に電流が流れた時に前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成され」ている(構成要件E)のに対し,乙4発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点4-3」という。),④本件発明は,加熱要素の第1の部分が「ヒータ基板の加熱領域に位置」する(構成要件F)のに対し,乙4発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点4-4」という。),⑤本件発明は,加熱要素の第2の部分が「ヒータ基板の保持領域に位置」する(構成要件G)のに対し,乙4発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点4-5」という。),⑥本件発明は,ヒータマウントが「ヒータ基板の前記保持領域に固定される」(構成要件H)のに対し,乙4発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点4-6」という。)において相違すると認められる。
ウ 乙5発明
(ア) 乙5公報
本件優先日前に公開された乙5公報には,次の記載があり,図4ないし6は,別紙「乙5公報の図面」のとおりである(乙5)。
a 技術分野
【0001】
本発明は,煙草の葉を燃焼させずに,煙草の葉を直接加熱することにより該煙草の葉より蒸発するニコチンを吸引する治具に関するものである。
b 発明が解決しようとする課題
【0018】
本発明はこのような従来の実情に鑑みて提案するものであり,一般的に市販されている紙巻き煙草や葉巻を,そのままの形で使用しながら,煙草の葉を燃焼させること無しに,吸引可能な適温で,煙草の葉からニコチンを蒸発させ,それを吸引することができる治具を考案することを目的とする。
c 課題を解決するための手段
前述の課題を解決するために,市販されている紙巻き煙草や葉巻に先端を尖がらせた細いヒーターを挿入し,煙草の葉のみを直接加熱することにより,比較的低温で,煙草の葉からニコチンを蒸発させ,それを吸引することができるようにしたものである。
d 発明の効果
【0024】
さらに,本願発明によれば,加熱部分が,紙巻き煙草や葉巻の中心近くにあるために,外側ケースヘの熱の伝導は少なく,その結果,治具の外側の温度は,低く,喫煙者が本願発明治具を手で持っていても,熱いと感じないという特徴をも有している。
e 図面の簡単な説明
【0032】
【図4】
本実施形態のフィルター付き煙草を挿入した時の断面図である。
【図5】
本願治具に使用されているヒーターの断面図である。
【図6】
本願治具に使用されているヒーターの先端拡大図である。
f 実施例
【0042】
図5に一般的な細いヒーター1の内部構造断面図を示す。金属チューブ22は内部に湿気が入らないように先端封止部21で,封止されている。この金属チューブ22の中に,抵抗発熱線24(この部分が,ヒーターとして発熱する。)と,抵抗発熱線24と熔接で接続された内部リード線25を有し,酸化マグネシュームの粉末23で内部を充填したものである。ヒータースリーブ7から引き出された内部リード線25は,外部で,半田付可能な線材のリード線8に繋ぎ変えられる。先端封止部21は,金属で金属チューブ22に熔接で附けられているが,封止部28は,ガラス封止してあるために,ヒーター1 を使用する場合,封止部28の温度は,250℃以下で使用する必要がある。もし,150℃以上で使用すると,ガラス封止部28にクラックが入り,内部に湿気が侵入し,MgOと反応して,MgOの絶縁性を低下させる。
【0043】
構造上ヒーター1の封止部21は,ほぼ平坦であり,このままでは,容易にフィルター付き紙巻き煙草90の中に挿入することはできない。そこで,本願発明者は,図6に示すように金属でできた先端30を,先端封止部21に熔接して,ヒーター1の先端をとがらせた。これにより,ヒーター1は,容易にフィルター付き紙巻き煙草90に挿入することができる。
【0061】
また,本願発明の治具はいままで説明してきた構成に限らず,ヒーター1を途中で曲げることなくストレート形状で使用しても,治具100の形状が,細長くなるだけであり,本願の発明の中に含まれることは明らかである。
【0062】
また,本願発明の治具は,今まで説明してきた構造に限らず,市販の紙巻き煙草や葉巻に直接細いヒーター1を差し込める色々な構造品が考案可能である。
(イ) 乙5発明の概要
前記(ア)によれば,乙5公報には,ヒーターが,円筒状の金属チューブの中に抵抗発熱線及びこれに接続させた内部リード線を配し,金属チューブの内部を酸化マグネシュームの粉末で充填する構造を有すること,金属チューブの先端は,内部に湿気が入らないように先端封止部で封止されていること,先端封止部に金属でできた尖った先端を溶接することにより,金属チューブを紙巻き煙草に挿入しやすくなっていること,ヒーターにヒータースリーブが結合していること,抵抗発熱線は,金属チューブのフィルター付き紙巻き煙草が挿入される領域に位置し,内部リード線の一部は,金属チューブのフィルター付き紙巻き煙草が挿入されない領域に位置すること,ヒータースリーブは,金属チューブのフィルター付き紙巻き煙草が挿入されない領域に固定されることが記載又は図示されているほか(【0042】,【0043】,【図5】,【図6】),弁論の全趣旨にも照らせば,ヒーターに電流が流れた時に抵抗発熱線が内部リード線よりも高い温度に加熱されることが認められるから,本件発明に対比される構成として,次のとおりの構成を有する乙5発明が開示されていると認められる。
「フィルター付き紙巻き煙草を加熱するための治具であって,抵抗発熱線,内部リード線,金属チューブを含むヒーターと,前記ヒーターに結合されたヒータースリーブと,を備え,前記ヒーターは,抵抗発熱線及び内部リード線を有し,該抵抗発熱線及び内部リード線は,前記ヒーターに電流が流れた時に前記抵抗発熱線が前記内部リード線よりも高い温度に加熱されるように構成され,前記ヒーターの前記抵抗発熱線は,前記金属チューブのフィルター付き紙巻き煙草が挿入される領域に位置し,前記ヒーターの前記内部リード線の一部は,前記金属チューブのフィルター付き紙巻き煙草が挿入されない領域に位置し,前記ヒータースリーブは,前記金属チューブの前記フィルター付き紙巻き煙草が挿入されない領域に固定される,治具。」
(ウ) 乙5発明と本件発明の対比
a 一致点
乙5発明と本件発明を対比すると,乙5発明の「フィルター付き紙巻き煙草」は本件発明の「エアロゾル形成基材」に,乙5発明の「治具」は本件発明の「加熱アセンブリ」に,乙5発明の「抵抗発熱線,内部リード線」は本件発明の「電気抵抗式加熱要素」に,乙5発明の「ヒーター」は本件発明の「ヒータ」に,乙5発明の「ヒータースリーブ」は本件発明の「ヒータマウント」に,乙5発明の「抵抗発熱線」は本件発明の加熱要素の「第1の部分」に,乙5発明の「内部リード線」は本件発明の加熱要素の「第2の部分」に,それぞれ相当する構成であると認めることができるから,これらは次の点で一致すると認められる。
「エアロゾル形成基材を加熱するための加熱アセンブリであって,電気抵抗式加熱要素を含むヒータと,前記ヒータに結合されたヒータマウントと,を備え,前記加熱要素は,第1の部分及び第2の部分を有し,該第1及び第2の部分は,前記加熱要素に電流が流れた時に前記第1の部分が前記第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成された加熱アセンブリ」
b 相違点
(a) 他方で,前記(ア)認定の乙5公報の記載及び弁論の全趣旨によれば,金属チューブは,円筒状の部材であり,抵抗発熱線,内部リード線をその内部に収納し,酸化マグネシュームの粉末で充填して電気的に絶縁するとともに,湿気が入ることを防止するために先端封止部で封止されたものであり,先端封止部に溶接された金属でできた尖った先端によって紙巻き煙草に挿入しやすくなっていると認められるものであって,このような金属チューブの構造及び機能に照らせば,金属チューブは,その上に抵抗発熱線,内部リード線を配置し,それらを機械的に安定して支持するものであるとは認められず,エアロゾル形成基材に挿入するのに適した堅固な構造を有するものとも認められない。
したがって,乙5発明の「金属チューブ」は本件発明の「ヒータ基板」に相当するものであるとは認められない。
(b) 以上のとおり,乙5公報には,本件発明の「ヒータ基板」に相当する構成が開示されていないから,これを前提とする「ヒータ基板の加熱領域」及び「ヒータ基板の保持領域」に係る構成も開示されているとはいえない。
(c) そうすると,乙5発明と本件発明は,①本件発明は,ヒータが「ヒータ基板を含む」(構成要件B)のに対し,乙5発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点5-1」という。),②本件発明は,加熱要素の第1の部分が「ヒータ基板の加熱領域に位置」する(構成要件F)のに対し,乙5発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点5-2」という。),③本件発明は,加熱要素の第2の部分が「ヒータ基板の保持領域に位置」する(構成要件G)のに対し,乙5発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点5-3」という。),④本件発明は,ヒータマウントが「ヒータ基板の前記保持領域に固定される」(構成要件H)のに対し,乙5発明は,これに相当する構成を備えていない点(以下「相違点5-4」という。)において相違すると認められる。
c 被告の主張について
被告は,本件発明の「ヒータ基板の加熱領域」は乙5公報記載の「金属チューブのフィルター付き紙巻き煙草が挿入される領域」に相当し,本件発明の「ヒータ基板の保持領域」は乙5公報記載の「金属チューブのフィルター付き紙巻き煙草が挿入されない領域」に相当すると主張するが,前記bのとおり,乙5発明は,「ヒータ基板」に相当する構成を備えていない以上,「ヒータ基板の加熱領域」,「ヒータ基板の保持領域」に相当する構成を備えているとはいえないから,乙5公報に,相違点5-2ないし4に係る本件発明の構成が示されているとはいえない。
(2) 争点2-1(本件発明は乙3公報に基づき進歩性を欠くか)について
ア 乙3公報【0064】の示唆
(ア) 被告は,乙3公報【0064】には,①絶縁ペーストを保持する壁がなく,絶縁ペースト自体が保形成を有する薄板状の部材となること,②電気絶縁部は,第1及び第2の導電性要素を形成するための板状の構成であり「基板」に相当すること,③加熱要素を構成する第1及び第2の導電性要素を細長い薄板様の形状としつつ,電気絶縁部を細長い板様の形状とすることが示唆されており,当業者は,これらの示唆に基づき,乙3発明の電気絶縁部を,その両面に第1及び第2の導電性要素を形成した「基板」に相当する細長い板状の構成とすることにより,本件発明の構成を容易に想到し得た旨主張する。
(イ) しかし,以下のとおり,乙3公報【0064】に電気絶縁部を本件発明の「ヒータ基板」に相当する構成とすることについて記載又は示唆がされているとは認められないというべきである。
すなわち,前記(1)ア(ア)のとおり,乙3公報【0064】は,「導電性要素の1つは管状又は略管状である必要はない。導電性要素は,抵抗部において他の導電性要素と電気結合可能とすれば,任意の導電性材料とすることができる。例えば,第1の導電性要素は,導電性材料の実質的に細長いストリップとすることができる。更に,第2の導電性要素は,導電性材料の実質的に細長いストリップとすることができる。次に,前述のように,絶縁ペーストは,第1の細長いストリップと第2の細長いストリップとの間に注入できる。次に,ペーストは前述のように乾燥させることができる。ペーストは,2つのストリップの間から漏出しないように十分な厚みをもつ必要がある。これは,第2の導電性要素が管状である実施形態とは異なり,製造プロセス時に絶縁ペーストを保持する壁がないことに起因している。」などというものであり,第1及び第2の導電性要素を細長いストリップとすることや,製造時に絶縁ペーストを保持する壁がないことは記載されているものの,絶縁ペーストの形状は明確に記載されていないほか,電気絶縁部が本件発明の「ヒータ基板」に相当するものであること,すなわち,電気絶縁部の上に第1及び第2の導電性要素を配置することや,電気絶縁部が第1及び第2の導電性要素を機械的に安定して支持し,エアロゾル形成基材に挿入するのに適した堅固な構造を提供することは記載されていない。
また,前記(1)ア(ウ)b(a)のとおり,乙3発明の加熱要素は,少なくとも第2の導電性要素が管体等で構成されることにより全体としてエアロゾル形成基材に挿入するのに適した堅固な構造を有しているのに対し,電気絶縁部は,堅固なものといえるかやその程度についての開示はなく,第1の導電性要素と第2の導電性要素を電気的に絶縁させるために,それらの間に電気絶縁ペーストを注入して乾燥させて形成されることが示されているにすぎないものであり,このような乙3発明の加熱器の構成,電気絶縁部の機能及び形成方法に照らせば,電気絶縁部は,形状にかかわらず,その上に第1及び第2の導電性要素を形成することは想定されていないものというべきであって,乙3公報【0064】によって,電気絶縁部を本件発明の「ヒータ基板」に相当する構成とすることが示唆されていると認めることもできない。電気絶縁部が形成された結果,電気絶縁部が薄板様の形状になることがあるとしても,上記認定を左右するものではない。
(ウ) また,乙3公報【0064】に,構成要件FないしHに係る構成が記載又は示唆されていると認めることもできない。
(エ) 以上に照らせば,当業者において,乙3公報【0064】に基づき相違点3-1ないし4に係る本件発明の構成を容易に想到し得たと認めることはできず,そのように認めるに足る証拠もない。
イ 乙4発明の適用
(ア) 相違点3-1
a 被告は,乙4公報には本件発明の「ヒータ基板」に相当する電気絶縁基体に係る構成が開示されているところ,当業者は,乙3発明に乙4発明を適用することにより,本件発明の構成を容易に想到し得たとし,その動機付けを基礎付ける事情として,①乙3発明と乙4発明は,いずれも,エアロゾル生成基体を加熱するための加熱器という点で共通の技術分野に属し,電気絶縁部と導電部により加熱要素を構成し,導電部に流れた電流により抵抗加熱を発生させるという点で構造も共通すること,②乙3発明と乙4発明は,加熱器のサイズを小さくするという点で課題が共通すること,③乙3発明と乙4発明は,加熱器をエアロゾル生成基体の内部に挿入することにより,エアロゾル生成基体を内部から加熱するという点で作用及び機能が共通すること,④乙3公報【0064】に,第1及び第2の導電性要素と共に電気絶縁部を細長い薄板様の形状とすることが示唆されていることなどを主張する。
b しかし,以下のとおり,乙3発明の電気絶縁部を乙4発明の電気絶縁基体に変更し,本件発明の「ヒータ基板」に係る構成を想到することが容易であったとは認められないというべきである。
すなわち,乙3発明の加熱要素は,少なくとも第2の導電性要素が管体等で構成されることにより全体としてエアロゾル形成基材に挿入するのに適した堅固な構造を有し,電気絶縁部は,第1の導電性要素と第2の導電性要素を電気的に絶縁させるために,それらの間に電気絶縁ペーストを注入して乾燥させて形成されるものであるのに対し,前記(1)イ(イ)のとおり,乙4発明の加熱器は,エーロゾル形成基体内に直接挿入できるような剛性を有する電気絶縁基体の上に導電トラックが形成されたものであり,乙3発明の加熱要素とは基本的な構造,各部材の機能が異なっているというべきであるから,乙3発明と乙4発明の技術分野,課題,作用及び機能が上記①ないし③の程度で共通するからといって,乙3発明の加熱要素のうち,電気絶縁部のみを乙4発明の電気絶縁基体の構成に変更することが容易であったということはできない。
また,上記④について,乙3公報【0064】に,本件発明の「ヒータ基板」に係る構成が示唆されているとは認められないことは前記
ア(イ) で認定,説示したとおりである。
以上に照らせば,乙3発明の電気絶縁部を乙4発明の電気絶縁基体に変更し,本件発明の「ヒータ基板」に係る構成を想到することが容易であったとは認められない。
(イ) 相違点3-2ないし4
a また,前記(1)ア(ウ)b,イ(ウ)bのとおり,乙3発明は,構成要件FないしHに係る構成を有しない点(相違点3-2ないし4)でも本件発明と相違しているところ,乙4発明も,これらの構成を有しないものであるから(相違点4-4ないし6),これらを単純に組み合わせたとしても,少なくとも,構成要件FないしHに係る構成には到達しない。
b この点につき,被告は,①乙3公報には,エアロゾル生成基体の温度プロファイルのより緻密な制御を可能とするため(【0007】),加熱要素に第1の部分及び第2の部分を設け,加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成し,加熱要素の第1の部分を加熱要素の加熱領域に位置させ,加熱要素の第2の部分を加熱要素の保持領域に位置させ,ホルダを加熱要素の保持領域に固定する(図18等)という技術的思想が開示されていること,②乙4公報【0079】には,導電トラックの熱分布について,望むように柔軟に設計できることが示唆されていることなどを主張する。
しかし,上記①について,乙3公報に,本件発明の「ヒータ基板」に相当する構成が示されていない以上,乙3発明の加熱要素,すなわち,第1及び第2の導電性要素,電気抵抗部とホルダの固定箇所の位置関係が図示されるなどしているからといって,加熱要素とヒータ基板の位置関係やヒータマウントの固定箇所とヒータ基板の位置関係を規定する構成要件FないしHに係る構成を容易に想到し得たと直ちにはいえない。
また,上記②について,乙4公報【0079】は,導電トラックの熱分布を望むように柔軟に設計できるというにとどまるものであり,構成要件FないしHに係る構成を示唆するものであるとは認められない。
ウ 争点2-1についての小括
以上に照らせば,本件発明は,当業者が乙3発明に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められず,乙3公報に基づき進歩性を欠くとはいえない。
(3) 争点2-2(本件発明は乙5公報に基づき進歩性を欠くか)について
ア 相違点5-1
(ア) 被告は,乙4公報には本件発明の「ヒータ基板」に相当する電気絶縁基体に係る構成が開示されているところ,当業者は,乙5発明に乙4発明を適用することにより,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得たとし,その動機付けを基礎付ける事情として,①乙5発明と乙4発明は,いずれも,エアロゾル生成基体を加熱するための加熱器という点で共通の技術分野に属し,電気絶縁部と導電部とにより加熱要素を構成し,導電部に流れた電流により抵抗加熱を発生させるという点で構造が共通すること,②乙5発明と乙4発明は,加熱器をエアロゾル生成基体の内部に挿入することにより,エアロゾル生成基体を内部から加熱するという点で作用及び機能が共通すること,③乙5公報【0061】,【0062】に,ヒーターをストレート形状にすること,市販の紙巻き煙草にヒータを差し込める構造であれば種々の設計変更が可能であることが示唆されており,抵抗発熱線,内部リード線,電気絶緑性の酸化マグネシュームの粉末及び密閉した円筒状の金属チューブから成るヒーターでなければならないとの記載はないことを主張する。
(イ) しかし,以下のとおり,乙5発明の金属チューブを乙4発明の電気絶縁基体に変更し,本件発明の「ヒータ基板」に係る構成を想到することが容易であったとは認められないというべきである。
すなわち,前記(1)ウ(ウ)b(a)のとおり,乙5発明のヒーターは,円筒状の部材である金属チューブの内部に抵抗発熱線及び内部リード線を収納し,酸化マグネシュームの粉末で充填して電気的に絶縁するとともに,湿気が入ることを防止するために先端封止部で封止されたものであり,先端封止部に溶接された金属でできた尖った先端によって紙巻き煙草に挿入しやすくなったものであるのに対し,乙4発明の加熱機は,密閉される構造を有しない板状の部材である電気絶縁基体の上に導電トラックを形成したものであり,乙5発明のヒーターとは基本的な構造,各部材の機能が異なっているというべきであるから,乙5発明と乙4発明の技術分野,作用及び機能が上記①及び②の程度で共通するからといって,乙5発明のヒーターのうち,金属チューブのみを乙4発明の電気絶縁基体の構成に変更することが容易であったということはできない。
また,上記③について,乙5公報【0061】,【0062】には,ヒーターをストレート形状にすること,市販の紙巻き煙草にヒータを差し込める色々な構造品を採用可能であることは記載されているものの,金属チューブの上に加熱要素を配置することや,金属チューブが加熱要素を機械的に安定して支持することは記載されておらず,本件発明の「ヒータ基板」に係る構成が示唆されていると認めることはできない。
以上に照らせば,乙5発明の金属チューブを乙4発明の電気絶縁基体に変更し,本件発明の「ヒータ基板」に係る構成を想到することが容易であったとは認められない。
イ 相違点5-2ないし4
(ア) また,前記(1)イ(ウ)b,ウ(ウ)bのとおり,乙5発明は,構成要件FないしHに係る構成を有しない点(相違点5-2ないし4)でも本件発明と相違しているところ,乙4発明も,これらの構成を有しないものであるから(相違点4-4ないし6),これらを単純に組み合わせたとしても,少なくとも,構成要件FないしHに係る構成には到達しない。
(イ) この点につき,被告は,①乙5公報には,外側ケースヘの熱の伝導を少なくするため(【0024】),ヒーターに第1の部分及び第2の部分を設け,ヒーターに電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成し,ヒーターの第1の部分をヒーターの加熱領域に位置させ,ヒーターの第2の部分をヒーターの保持領域に位置させ,ヒータースリーブをヒーターの保持領域に固定する(【0042】,図5等)という技術的思想が開示されていること,②乙4公報【0079】には,導電トラックの熱分布について,望むように柔軟に設計できることが示唆されていることを主張する。
しかし,上記①について,乙5公報に,本件発明の「ヒータ基板」に相当する構成が示されていない以上,乙5発明の加熱要素,すなわち,抵抗発熱線,内部リード線とヒータースリーブの固定箇所の位置関係が図示されるなどしているからといって,加熱要素とヒータ基板の位置関係やヒータマウントの固定箇所とヒータ基板の位置関係を規定する構成要件FないしHに係る構成を容易に想到し得たと直ちにはいえない。
また,上記②について,乙4公報【0079】が構成要件FないしHに係る構成を示唆するものであると認められないことは前記(2)イ(イ)bで認定,説示したとおりである。
ウ 争点2-2についての小括
以上に照らせば,本件発明は,当業者が乙5発明に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められず,乙5公報に基づき進歩性を欠くとはいえない。
(4) 争点2-3(本件発明は乙4公報に基づき進歩性を欠くか)について
ア 被告は,乙3発明及び乙5発明には構成要件CないしHに係る構成が開示されているところ,当業者は,乙4発明に乙3発明及び乙5発明を適用することにより,相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得たとし,その動機付けを基礎付ける事情として,乙4発明と乙3発明及び乙5発明の技術分野,構成,作用,機能の共通性等を主張する。
イ しかし,乙4発明の加熱器は,エーロゾル形成基体内に直接挿入できるような剛性を有する電気絶縁基体の上に導電トラックが形成されたものであり,「ヒータマウント」や加熱要素の「第1及び第2の部分」に相当する構成が示されていないなど本件発明とは構成が大きく異なるものであって,①乙3発明及び乙5発明を単純に組み合わせたとしても,少なくとも,構成要件FないしHに係る構成には到達しないこと,②乙3発明の加熱要素及び乙5発明のヒーターとは基本的な構造,各部材の機能が異なっているというべきであるから,乙4発明の加熱器のうち電気絶縁基体のみを,乙3発明の加熱要素又は乙5発明のヒーターの一部の構成と組み合わせることが容易であったといえないことは,前記(2)イ,(3)で認定,説示したとおりである。
したがって,乙4発明に乙3発明及び乙5発明を組み合わせることにより,相違点4-1ないし6に係る本件発明の構成を容易に想到し得たとは認められないというべきである。
ウ この点につき,被告は,①乙3公報及び乙5公報に照らせば,加熱要素に第1の部分及び第2の部分を設け,加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるように構成し,加熱要素の第1の部分を加熱要素の加熱領域に位置させ,加熱要素の第2の部分を加熱要素の保持領域に位置させ,ヒータマウントを加熱要素の保持領域に固定することは周知技術であったこと,②乙4公報【0079】に,導電トラックの熱分布について,望むように柔軟に設計できることが示唆されていることをも主張する。
しかし,上記①について,乙3公報及び乙5公報に本件発明の「ヒータ基板」に相当する構成が示されていない以上,それらによって加熱要素とヒータ基板の位置関係やヒータマウントの固定箇所とヒータ基板の位置関係を規定する構成要件FないしHに係る構成が周知技術であるとは認めることはできず,これらの構成を容易に想到し得たと直ちにはいえない。
また,上記②について,乙4公報【0079】が構成要件FないしHに係る構成を示唆するものであると認められないことは前記(2)イ(イ)bで認定,説示したとおりである。
エ したがって,本件発明は,当業者が乙4発明に基づいて容易に発明することができたものとは認められず,乙4公報に基づき進歩性を欠くとはいえない。
(5) 争点2-4(本件特許は特許法36条6項1号に違反しているか)について
ア 特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するか否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
イ これを本件についてみると,前記1(2)のとおり,本件発明は,エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化し,エアロゾル発生装置のための頑丈でコストの低い加熱アセンブリを提供することを課題とし,構成要件Eのとおり,加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されることによって,エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化することを可能とするものであると認められる。
また,前記1(1)エのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,課題を解決するための手段として,「加熱要素に電流が流れた結果,第1の部分は,第2の部分よりも高い温度に加熱される。1つの実施形態では,加熱要素の第1の部分が,使用時に約300℃~約550℃の温度に達するように構成される。加熱要素は,約320℃~約350℃の温度に達するように構成されることが好ましい。」(【0010】),「電気抵抗式ヒータでは,ヒータによって生成される熱が,加熱要素の抵抗に依存する。所与の電流では,加熱要素の抵抗が高ければ高いほどより多くの熱が生成される。」(【0013】)と記載されているところ,これらの記載は,加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるようにするための方法に係るものとして,ヒータによって生成される熱が加熱要素の電気抵抗に依存するため,加熱要素の抵抗が高ければ高いほどより多くの熱が発生されること,すなわち,加熱要素の第1の部分の電気抵抗を第2の部分よりも高くすることを説明するものであると認識することができる。
さらに,本件明細書の発明の詳細な説明には,上記の【0013】の説明に続けて,「生成される熱のほとんどは,加熱要素の第1の部分によって生成されることが望ましい。したがって,加熱要素の第1の部分は,単位長当たりの電気抵抗がヒータ要素の第2の部分よりも高いことが望ましい。」(【0013】),「加熱要素は,異なる材料から形成された部分を有することが有利である。加熱要素の第1の部分は第1の材料から形成することができ,加熱要素の第2の部分は第2の材料から形成することができ,第1の材料は第2の材料よりも大きな電気抵抗率係数を有する。例えば,第1の材料は,Ni-Cr(ニッケルクロム),白金,タングステン,又は合金ワイヤとすることができ,第2の材料は,金,銀又は銅とすることができる。ヒータ要素の第1及び第2の部分の寸法も,第2の部分の方が単位長当たりの電気抵抗が低くなるように異なることができる。」(【0014】)とも記載されているところ,これらの記載は,加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるようにするための望ましい方法に係るものとして,生成される熱のほとんどは,加熱要素の第1の部分によって生成されることが望ましいこと,加熱要素の第1の部分は単位長当たりの電気抵抗がヒータ要素の第2の部分よりも高いことが望ましいこと,第1の部分を形成する第1の材料は第2の部分を形成する第2の材料よりも大きな電気抵抗率係数を有するようにすることができること,第1の部分及び第2の部分の寸法によって第2の部分の方が単位長当たりの電気抵抗が低くなるようにすることができることなどを説明するものであると認識することができる。
以上に照らせば,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載により,加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されることによって,エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化するという本件発明の課題を解決することができると認識することができると認められるから,本件特許に係る特許請求の範囲に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決することができると認識し得る範囲を超えるものであるとはいえない。
ウ 被告は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載(【0013】,【0014】,【0070】)に照らし,当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるのは,第1の部分が第2の部分よりも大きな単位長当たりの電気抵抗を有するヒータであるから,第1の部分及び第2の部分の単位長当たりの電気抵抗が特定されていない本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えている旨主張する。
しかし,加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高温に加熱されるように構成された加熱アセンブリであれば,単位長当たりの電気抵抗の大小にかかわらず,エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化することは可能であると考えられるところ,前記イで認定,説示したとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,加熱要素に電流が流れた時に第1の部分が第2の部分よりも高い温度に加熱されるようにするための方法が説明されており,加熱要素の第1の部分が第2の部分よりも大きな単位長当たりの電気抵抗を有するものは,その望ましい態様として説明されているものにすぎないと認められるから,そのような態様を有する加熱要素でなければ,エアロゾル形成基材を加熱するための熱源を局所化することができないと認識されるとはいえない。
エ 以上に照らせば,本件特許は特許法36条6項1号に違反しているとはいえない。
(6) 争点2についての小括
よって,本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものであるとはいえない。
4 争点3(損害額)について
(1) 特許法102条2項について
ア 特許法102条2項の適用の可否
(ア) 特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには,特許権者において,損害の発生及び額,これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張,立証しなければならないところ,その立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして,侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは,その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規定である。そして,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。
(イ) 前記2のとおり,被告製品は本件発明の技術的範囲に属するから,被告が被告製品を販売等する行為は,本件発明に係る本件特許権の侵害行為に該当するものと認められる。
そして,前記前提事実(4)のとおり,原告製品は「IQOS」を商品名とする加熱式タバコ用デバイスであり,原告製品の使用者は,原告製品に原告タバコスティックを挿入し,加熱して,原告タバコスティックから生じるエアロゾルを吸引する(甲10,弁論の全趣旨)。他方,前記前提事実(5)及び(6)のとおり,被告製品は,いずれも,「IQOS専用タバコスティック対応」と銘打った,原告製品と互換性のある加熱式タバコ用デバイスである。そうすると,被告製品は,原告タバコスティックを使用するための加熱式タバコ用デバイスである点において原告製品と同種の製品であり,原告製品と競合する関係にあるといえるから,原告に,被告が被告製品を販売しなければ,原告製品を販売することによる営業上の利益が得られたであろうという事情が認められる。
以上によれば,本件において,特許法102条2項の適用が認められる。
(ウ) 前記(ア)の特許法102条2項の趣旨からすると,同項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは,原則として,侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって,このような利益全額について同項による推定が及ぶと解すべきである。したがって,被告が被告製品を販売したことにより受けた利益(限界利益)の額は,同項により,原告が受けた損害額と推定される。
もっとも,上記規定は推定規定であるから,侵害者の側で,侵害者が得た利益の一部又は全部について,特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合には,その限度で上記推定は覆滅されるものということができる。
そこで,以下,本件特許権の侵害行為により被告が受けた利益の額について検討し,次に,侵害者すなわち被告による推定覆滅事由に関する主張の当否について検討する。
イ 侵害行為により被告が受けた利益の額
(ア) 利益の意義
特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,侵害者の侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を販売等することによりその販売等に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり,その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。
(イ) 売上高
a 証拠(乙45)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の売上高は●(省略)●円であると認められる。
b 原告は,前記aの売上高の額は,売上戻り高として計上された額が控除されて算出されたものであって,被告が売上戻り高と主張する費用の内訳は明らかではないから,売上戻り高を控除すべきではないと主張する。
しかし,証拠(乙45,47)及び弁論の全趣旨によれば,被告が支出した売上戻り高名目の費用は,被告製品の返品等により計上された支出であることが認められる。そうすると,売上戻り高に相当する部分については,被告製品が被告に返品等されたことにより,実際には売上げ確保されていない以上,この部分を被告製品の売上高に算入することは相当でないから,売上戻り高として計上された支出を控除した前記aの額をもって被告製品の売上高の額と認めるべきである。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
(ウ) 控除すべき経費
a 商品原価
(a) 弁論の全趣旨によれば,被告製品の原価は,●(省略)●円と認められ,同額を被告製品の売上高から控除すべき経費と認めるのが相当である。
(b) 原告は,前記(a)の原価には,被告において仕入戻し高として計上した●(省略)●円が含まれており,仕入戻し高に対応する商品(在庫)は返品又は処分されて実際には販売されていないから,上記の金額は被告製品の原価の総額から除外されるべきであると主張する。
しかし,証拠(乙45)及び弁論の全趣旨によれば,仕入戻し高として上記の額が計上されたのは,被告製品の売上高を集計した期間中である令和元年(2019年)12月31日であること,仕入戻し高として計上された額と期末商品棚卸高として計上された額が一致しており,在庫商品に対応する期末商品棚卸高が0円となるように仕入戻し高として会計処理されていることが認められる。以上によれば,仕入戻し高として計上された額は期末商品棚卸高として計上された額と同一のものであることが認められるから,期末商品棚卸高として計上された額を控除して算出した前記(a)の原価から更に仕入戻し高として計上された額を控除すべきではないというべきである。したがって,原告の上記主張には理由がない。
b 租税公課
(a) 弁論の全趣旨によれば,被告が被告製品を輸入する際に支出した関税の額は,●(省略)●円と認められ,同額を被告製品の売上高から控除すべき経費と認めるのが相当である。
(b) これに対し,原告は,前記a(b)の仕入戻し高に対応する租税公課は被告製品の販売等の経費とは認められないと主張する。
しかし,前記a(b)の仕入戻し高を前記a(a)の商品原価から除外するべきでないことは前記a(b)のとおりであるから,租税公課についても,仕入戻し高に対応する部分の租税公課を除外すべきとはいえず,前記(a)の租税公課の全額が被告製品の販売等に直接関連して追加的に必要となったものと認められ,同額を経費として控除するのが相当である。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
c 支払手数料
(a) 弁論の全趣旨によれば,被告は,インターネット通販ウェブサイトを通じて被告製品を販売する際に当該ウェブサイトの運営者に対し手数料等として合計●(省略)●円を支払ったものと認められ,同額を被告製品の売上高から控除すべき支払手数料と認めるのが相当である。
(b) 原告は,前記(a)の支払手数料には被告がAmazonに支払った販売手数料●(省略)●円が含まれているところ,被告がAmazonを介して販売した被告製品の売上高は●(省略)●円であり,かつ,Amazonの販売手数料は売上の15%であるから,被告がAmazonを介して被告製品を販売した際に生じる支払手数料は●(省略)●円×15%)を超えることはないとして,前記(a)の支払手数料の額のうち●(省略)●円)の部分を経費として控除すべきではないと主張する。
しかし,証拠(甲17,乙45,46)及び弁論の全趣旨によれば,前記(a)の手数料等の額には,Amazonを介して被告製品を販売した際に生じる販売手数料のほか,Amazonが提供する商品の保管,注文商品のピッキング,梱包,出荷等を行うサービスである「FBA」の利用手数料が含まれていること,「FBA」の利用手数料の一部である配送代行手数料は,被告商品1個当たり434円ないし514円であると認められる。以上によれば,経費として控除することが争われている上記●(省略)●円の部分についても,被告が被告製品の販売のために支出した手数料とみて矛盾がないから,前記(a)の全部が被告製品の販売に要した支払手数料に当たるものと認めるのが相当である。したがって,前記(a)の全額が,被告製品の販売等に直接関連して追加的に必要となった費用の額であると認められるから,原告の上記主張は採用することができない。
d 荷造運賃
被告製品の販売等に要した荷造運賃は●(省略)●円であること,これが被告製品の販売等に直接関連して追加的に必要となったものであり,被告製品の売上高から控除すべき経費とすべきことについては,当事者間に争いがない。
e 直接広告費
(a) 「Advertorial」
被告は,PR会社に支払った広告費として「Advertorial」に係る費用(●(省略)●円)を計上しているところ,これは,記事広告,すなわち広告の一種で媒体の通常の記事と同様の構成・体裁で編集された広告に関する費用であり,①ウェブページに記事広告を掲載したり,②動画投稿サイトであるYouTube上にインフルエンサーが登場する広告動画を投稿したりしており,このような広告活動に対応するものとして,上記広告費を控除すべき経費と扱うべきである旨を主張する。
そこで,まず,上記①についてみると,被告製品を紹介する内容の記事(甲15,乙7ないし10及び乙27ないし36)のうち,「日本先行発売の加熱式タバコデバイス『jouz』にロシア美女が興奮「モスクワに持ち帰りたい」」と題する記事(乙9)については,記事の冒頭に「広告企画」と,記事の冒頭及び末尾に「提供:jouz」と記載されており,かつ,記事の内容として「重さが58グラムと非常に軽いのに,1度の充電で最大20回使用可能(※jouz20の場合)」と記載されていること等から,被告製品のうち「jouz 20」の記事広告であると認められる。また,「さらに快適,スタイリッシュに!jouzが巻き起こす“Eスモーク革命”」と題する記事(乙30)については,「GQ」というウェブサイトのウェブページであるところ,記事の冒頭に「GQ PROMOTION」と記載されており,かつ,記事の内容として「加熱式たばこデバイス「jouz 20」(ジョウズ 20)の新製品,「jouz 20 Pro」が発表されたのは2019年4月8日。」,「「jouz 20」は期待を裏切らないどころか,想像のさらに上をいく商品だった。」等の記載があり,「jouz 20 Pro 販売サイト(Amazon)はこちら 製品サイトはこちら」とのリンクが添付されていることから,被告製品のうち「jouz20 Pro」の記事広告であると認められる。他方,それ以外の記事については,被告製品に関するものであることは認められるものの,被告製品の広告を目的として作成されたことをうかがわせる記載はないから,被告が広告費を支出して作成させた記事広告であると認めることはできない。
次に,上記②についてみると,被告が指摘するYouTubeの動画(乙37)は,被告商品のうち「jouz 12」及び「jouz 20」に関するものであることは認められる。そして,上記動画のうち「【jouz20 jouz12】iQOS互換機の決定版をレビュー!」というタイトルの,投稿者を「TourbillonCafe」とする動画(URLは,https://以下省略)については,動画に「提供:ジョウズ・ジャパン株式会社」と記載されているほか,動画の説明文として「Jouz様からサンプル品を提供いただきました」と記載されていることに照らすと,この動画は,被告が,被告製品の広告を目的として作成したものと認められる。他方,その他に,被告製品の広告を目的として動画が作成されたことは認められない。
そして,上記のとおり,被告製品の記事広告が2本,広告のために作成された動画が1本存在する事実が認定できるものの,同事実から,被告が「Advertorial」として計上した費用(●(省略)●円)の全額が被告製品の広告費として控除されるべき広告活動の費用であると推認することもできない。
以上によれば,被告の販売等に直接関連して追加的に必要となった広告費は,上記の2本の記事(乙9,30)及び上記の1本の動画(乙37)のために要した費用にとどまるものというほかはない。
そして,証拠(乙38ないし40)及び弁論の全趣旨によれば,それらの記事に要したものとして被告製品の売上高から控除されるべき広告費用は合計●(省略)●円(税抜)と認められる。
(b) 「MicroAD_DSP」及び「Rakuten」
被告は,「MicroAD_DSP」として,DSP(広告主が広告効果を最大化にするためのプラットフォームであり,広告効果を最大化させるためのサービス)に●(省略)●円の費用を支出したと主張するとともに,インターネット通販サイトである楽天市場における被告製品の広告費用として●(省略)●円を支出したと主張する。
しかし,本件全証拠によっても,被告が「MicroAD_DSP」として支出した費用と被告製品との関連は明らかでなく,被告が楽天市場において行った広告の具体的な内容は明らかでない。そうすると,被告が「MicroAD_DSP」及び「Rakuten」名目で支出した費用について被告製品の販売等に直接関連して追加的に必要となったと認められず,かかる費用を経費として控除することはできないというべきである。
これに対し,被告は,被告製品以外のデバイスを販売していないから,被告が「MicroAD_DSP」及び「Rakuten」名目で支出した費用は全て被告製品に直接関連するものであるとして,これらの費用を経費として控除すべきであると主張する。しかし,被告が「MicroAD_DSP」及び「Rakuten」名目で支出した費用に対応するサービスないし広告の内容が具体的に明らかでない以上,被告が被告製品以外の製品を販売していないという事情のみにより,「MicroAD_DSP」及び「Rakuten」名目で支出された費用を経費として控除することができないとする上記の認定が左右されるものではない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(c) 「Store」
被告は,「Store」名目の費用について,被告製品の宣伝を行った際に支出した経費であるから,これを控除すべきであると主張する。
しかし,証拠(乙11,12)によれば,当該費用は,被告がモーターレースである「SUPER GT」に参加するレーシングチームである「Audi Team Hitotsuyama」とスポンサー契約を締結したことに伴い支出したものであり,被告製品を直接宣伝するものではなく,被告自身又は被告が展開する「jouz」ブランドに関する宣伝のために支出されたものと認められる。したがって,上記費用は,被告製品の販売等に直接関連して追加的に必要となったとは認められず,被告製品の売上高から控除すべき経費とみることはできない。
これに対し,被告は,被告製品以外の製品を販売していなかったこと,レースの会場で被告製品を試用できるブースを設けたことを根拠に,「Store」名目の費用を経費として控除すべきであると主張する。しかし,上記のとおり,当該費用は,被告自身又は「jouz」ブランドに関する宣伝を行う目的でなされたものと認められ,たとえ被告製品以外の製品が販売されていなかったとしても,その一事をもって,直ちに被告製品自体の宣伝のための費用ということにはならない。また,被告製品を試用できるブースが設けられたことによっても,これが被告製品の販売に具体的にいかなる影響を与えたかは,証拠上明らかではないし,当該ブースも被告自身又は「jouz」ブランドに関する宣伝の一環と評価することができるから,当該事実によっても,上記の費用が直ちに被告製品自体の宣伝のためのものということにはならない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(エ) 利益の額に関する小括
以上の次第で,被告製品の売上高は●(省略)●円であると認められる。そして,上記の売上高の額から控除すべき費用の額については,被告製品の原価●(省略)●円,租税公課●(省略)●円,支払手数料●(省略)●円,荷造運賃●(省略)●円及び直接広告費●(省略)●円の合計●(省略)●円と認められる。
したがって,被告が被告製品を販売することにより得た利益の額は●(省略)●円と認められるから,原告が被った損害の額は同額と推定される。
ウ 推定覆滅事由
(ア) 推定覆滅の事情
特許法102条2項における推定の覆滅については,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。また,特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することができるが,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である。
(イ) 被告製品の優位性について
被告は,被告製品について,①12本又は20本連続して喫煙することができる機能がある点,②高いデザイン性がある点,③温度調節が可能である点及び④手動クリーニング機能がある点で,原告製品より優位性があると認められるから,原告が被った損害の額についての推定が覆滅されると主張する。
確かに,証拠(甲6,7,乙8ないし10,14ないし17,21ないし24)によれば,被告製品には被告が主張する上記①,③及び④の機能が存在し,これらの機能に対する肯定的な評価がされているものと認められ,上記②については,被告製品がiFデザインアワード2019を受賞するなど,そのデザイン性について一定の肯定的な評価がされているものと認められる。
しかし,侵害品である被告製品が原告製品よりも優れた機能やデザイン性を有するとしても,そのことから直ちに推定の覆滅が認められるのではなく,推定の覆滅が認められるためには,当該優れた機能やデザインが侵害者である被告の売上げに貢献しているといった事情がなければならないというべきである。そして,上記①ないし④の機能等については,本件全証拠によっても被告製品の売上に具体的にどのように貢献したか明らかではないから,前記イの推定を覆滅する事情と認められないというべきである。
(ウ) 競合品の存在について
被告は,原告タバコスティックを利用できる「IQOS互換機」が被告製品の他にも数多く販売されているから,被告製品の販売がされなかったとしても,必ずしも原告製品が購入されることにはならないとして,上記のような競合品の存在は原告が被った損害の額についての推定を覆滅させる事情に当たる旨を主張する。
しかし,被告において,電子タバコ端末の市場における原告製品,被告製品及び被告が競合品と主張する製品の市場占有率等の具体的な事情は何ら主張立証されておらず,仮に,原告タバコスティックとの互換性がある被告製品以外の製品が存在するとしても,当該製品が原告製品及び被告製品と競合関係に立つ製品であると直ちに評価することはできないから,そのような製品の存在を前記イの推定を覆滅する事情として考慮することはできないというべきである。
(エ) 被告による営業努力について
被告は,被告製品のプロモーションのために,「SUPER GT」でイベントを行うなどの営業努力をしており,被告製品の売上げにはこうした営業努力が大きく貢献しているとして,その営業努力が原告が被った損害の額についての推定を覆滅させる事情に当たる旨を主張する。
しかし,事業者は,製品の販売等に当たり,製品の利便性について工夫し,営業努力を行うのが通常であるから,通常の範囲の工夫や営業努力をしたとしても,推定覆滅事由に当たるとはいえないところ,本件全証拠によっても,被告の営業努力が通常の範囲を超えるものとは認められず,そのような営業努力を前記イの推定を覆滅する事情として考慮することはできないというべきである。
(オ) 本件発明が被告製品の一部分にのみ実施されていることについて
被告は,本件発明が加熱アセンブリの加熱要素の構成に関するものであって被告製品の一部分のみに実施されているにすぎず,被告製品においては,その余の部分に顧客吸引力が認められるとして,当該事由は推定覆滅事由に当たると主張する。
そこで検討すると,証拠(甲3ないし8,11)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の使用者は,まず,被告製品に原告タバコスティックを挿入し,加熱アセンブリの一部である,先端が尖った加熱ブレードに差し込んだ上,ファンクションボタンを押して原告タバコスティックの加熱を開始し,原告タバコスティックからエアロゾルを発生させて,これを吸入することが認められる。
そして,本件発明は,原告タバコスティックを加熱し,エアロゾルを発生させるための機能を有するものであって,その機能は,被告製品により原告タバコスティックを使用してエアロゾルを吸引するために不可欠であり,被告製品の構成において極めて重要な意義を有するものというべきである。
また,原告製品と被告製品を比較すると,前記(イ)の①ないし④の機能等は被告製品にのみ備わっていると認められるものの,前記(イ)のとおり,本件全証拠によってもそれらの機能等の顧客吸引力の程度は明らかではない。むしろ,前記前提事実(5)のとおり,被告製品は,原告タバコスティックとの互換性を有することを売り物にして販売されていたものであるから,原告タバコスティックを使用することができるという特色が,被告製品が顧客吸引力を有する重要な一因となっていたと認めることができる。そして,被告製品は,上記の形状を有する加熱ブレードを含む加熱アセンブリを備えることにより,原告タバコスティックを使用することができることから,被告製品において実施されている本件発明は,被告製品に顧客吸引力を生じさせることに大きく貢献していると認めるのが相当である。
そうすると,本件発明が被告製品の一部分にのみ実施されているものではあるものの,これを根拠として推定の覆滅を認めることはできないというべきである。
(カ) 関連事件の存在について
被告は,別件訴訟において被告製品の販売が原告の別件特許権を侵害していると判断され,損害賠償請求が認容された場合,かかる認定がされたこと自体が,原告が被った損害の額についての推定を覆滅させる事情に当たると主張する。
しかし,別件訴訟は,現在,東京地方裁判所において審理されている段階にあるから,別件訴訟において,原告の被告に対する損害賠償請求権の存在及びその損害額が確定しているものではない。このことは,別件訴訟において,受訴裁判所により別件特許権の侵害を認める心証が開示されたとしても同様である。このように,別件訴訟の審理が途上にあり,その最終的な判断がいかなるものとなるのかがいまだ確定していない段階にある以上,別件訴訟において被告製品の販売が別件特許権を侵害していると判断される可能性をもって,本件訴訟における推定覆滅事由と扱うことはできないというべきである。
(キ) 推定覆滅事由に関する小括
以上の次第で,本件において特許法102条2項の推定を覆滅する事由は認められない。
エ 特許法102条2項に関する小括
よって,被告による本件特許権の侵害について,特許法102条2項により算定される損害額は,●(省略)●円となる。
(2) 特許法102条3項について
ア 特許法102条3項による損害額の算定方法
特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許権…を侵害した者に対し,その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨規定する。そうすると,同項による損害額は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
イ 被告製品の売上高
前記アの売上高についてみると,前記(1)イ(イ)のとおり,被告製品の売上高は●(省略)●円であると認められる。
ウ 本件発明の実施に対し受けるべき料率
(ア) 前記アの実施に対し受けるべき料率については,①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
(イ) 本件訴訟において,本件発明の実際の実施許諾契約における実施料率は現れていないところ,証拠(甲14)によれば,本件報告書には「食料品,タバコ」の技術分野における実施料率の平均が3.8%であること,「健康;人命救助;娯楽」の技術分野における実施料率の平均が5.3%であることが記載されていると認められる。
(ウ) 前記(1)ウ(オ)のとおり,本件発明は,被告製品の一部分にのみ実施されているものではあるが,原告製品と互換性を有する加熱式タバコ用デバイスとして不可欠な部分であるエアロゾル発生システムの加熱アセンブリに関するものであるから,被告製品における本件発明の意義は重要なものというべきであり,本件発明を被告製品に用いることが被告の売上げ及び利益に大きく貢献していると認めるのが相当であって,他のものによる代替可能性はうかがわれない。
(エ) 原告と被告は,いずれも原告タバコスティックを使用することができる加熱式タバコ端末を販売しているから,その市場において競業関係にある。
(オ) 本件訴訟に現れた前記(イ)ないし(エ)の各事情に照らすと,特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,本件での実施に対し受けるべき料率は,10%を下らないものと認めるのが相当である。
エ 特許法102条3項に関する小括
よって,被告による本件特許権侵害について,特許法102条3項により算定される損害額は,被告製品の売上高である●(省略)●円に本件発明の実施に対し受けるべき料率である10%を乗じた●(省略)●円(1円未満四捨五入)となる。
(3) 総括
以上のとおり,被告による本件特許権侵害についての損害額は,特許法102条2項により推定される額(●(省略)●円)の方が多額となるから,同項により推定される同額をもって,原告の損害額と認めるべきことになる。
そして,被告の特許権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用については,上記の損害額の1割を下らないと認めるのが相当であるから,これを●(省略)●円と認める。
したがって,原告の損害額は,特許法102条2項により推定される損害額である●(省略)●円と弁護士費用相当額である●(省略)●円とを合計した●(省略)●円に,消費税相当額として,同額の8%(●(省略)●円)を加算した5185万2556円となる。
5 結論
以上の次第で,原告の請求は,前記4(3)の損害額5185万2556円及びこれに対する被告製品の販売等の終了の後の日である令和2年1月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
(裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 矢野紀夫 裁判官 佐々木亮)
別紙
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