裁判年月日 令和 4年12月14日 裁判所名 知財高裁 裁判区分 判決
事件番号 令4(行ケ)10070号
事件名 審決取消請求事件
文献番号 2022WLJPCA12149003
出典
裁判所ウェブサイト
裁判年月日 令和 4年12月14日 裁判所名 知財高裁 裁判区分 判決
事件番号 令4(行ケ)10070号
事件名 審決取消請求事件
文献番号 2022WLJPCA12149003
原告 RX Japan株式会社
同訴訟代理人弁理士 高橋孝仁
被告 特許庁長官
同指定代理人 茂木祐輔
森山啓
山田啓之
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2021-6567号事件について令和4年5月19日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、商標登録出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は、商標法3条1項3号該当性である。
1 商標登録出願及び特許庁における手続の経緯等
(1) 原告は、令和元年8月26日、別紙1指定役務目録記載の役務を指定役務として、「名古屋 次世代3Dプリンタ展」の文字を標準文字で表してなる商標(以下「本願商標」という。)の商標登録出願(商願2019-114073号)をしたが(甲59)、令和3年2月15日付けで拒絶査定(甲61)を受けたため、同年5月21日、これに対する不服審判の請求(不服2021-6567号)をした。
(2) 特許庁は、令和4年5月19日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年6月6日に原告に送達された。
2 本件審決の理由の要点
(1) 商標法3条1項3号該当性について
本願商標の構成中の「名古屋」の文字は、愛知県の県庁所在地である。そして、そのほか本願商標を構成する文字の語義や使用事例について、次のとおり確認することができる。
ア 「次世代」の文字の語義及び使用事例について
辞書等における意味や用例からすると、「次世代」の語は、各種製品等に対して「格段に進歩したもの、さらに高性能のもの」の意味で用いられる語である。
また、「3D Printer(プリンター)」の語に対しても、「次世代」の語が「格段に進歩した、さらに高性能の」といった趣旨で使用されていることは、新聞やウェブサイトにおける各種の使用事例から確認できる。なお、「3Dプリンタ」の文字は、「3Dプリンター」の長音を省略して表記したものと容易に理解できる。
イ 展示内容を冠した「○○展」の使用について
「多くの人にひろげて見せる。」等を意味する「展」の語を用い、主たる展示内容(製品や技術等)を冠した「○○展」の文字が、展示会の開催において使用されている実情を各種のウェブサイトで確認することができ、展示会の開催において、展示内容を冠した「○○展」の文字の使用は、展示会の展示内容を端的に表す手法として、業界において一般に行われているということができる。
ウ 「3Dプリンター」を出展する展示会があり、中には「3Dプリンタ(ー)」を冠した展示会があることについて
展示会の開催においては、一定のテーマの下で種々の商品や技術が展示されているところ、「3Dプリンター」についても展示内容とされていることを、ウェブサイトにおける各種の事例から確認することができる。また、「3Dプリンター」を主たる展示内容とし、「3Dプリンタ(ー)」の文字を冠した展示会も存在することが、新聞やウェブサイト等において認められる。
エ 展示会における地名の使用状況について
展示会の開催において、特定の地域における展示会であることを表すものとして、地名が用いられていることを、各種のインターネット情報から確認することができ、展示会の開催において、特定の地域における展示会であることを表すものとして、出展者や参加者等の対象(ターゲット)地域又は展示会の開催地の名称(地名)が、展示会の名称に付されるなどして使用されている実情がみられる。
オ 以上を総合して考慮すると、本願商標の構成中の「次世代3Dプリンタ展」の文字部分(以下「本件文字部分」ということがある。)は、「格段に進歩した3Dプリンター、さらに高性能の3Dプリンター」ほどの意味合いを認識させる「次世代3Dプリンタ」を主たる展示内容とし、当該展示内容を冠した展示会であると認識させるものであるから、「次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」ほどの意味合いを認識させるというべきである。
加えて、前記エの実情がみられることからすると、本願商標は、全体として、「名古屋における次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」ほどの意味合いを認識させるというべきである。
そうすると、本願商標を、その指定役務中、第35類「商品見本市・商品博覧会・商品展示会の企画及び運営、販売促進のためのイベント及びマーケティングイベントの手配及び運営、商業又は広告のための商品見本市の企画・運営、商業又は広告のための展示会の企画・運営」及び第41類「展示会・展覧会・セミナー・会議・ビジネス会議及び協議会の企画・運営又は開催並びにこれらに関する情報の提供及び助言」(以下、上記の第35類及び第41類の各役務を併せて「本件役務」ということがある。)について使用をしても、これに接する取引者、需要者は、「名古屋における次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」を表したもの、すなわち役務の質(内容)を表したものと認識するにとどまるというのが相当である。
したがって、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する。
(2) 原告の主張について
ア 原告は、展示会の分野においては、本願商標を構成する各文字はあくまで造語要素であり、これらを組み合わせて成る「名古屋 次世代3Dプリンタ展」及び「次世代3Dプリンタ展」は、辞書等に掲載なく、新規かつ特徴ある造語と認識されるものである、また、展示対象物に関係する文字を冠した「○○展」の文字が、展示会の「商標」として採択・使用され、現実に、自他役務識別標識として機能している事実がある旨主張する。
しかし、前記(1)のとおり、展示内容を冠した「○○展」の文字が、展示会を実施する業界において、展示会における展示内容を表す手法として使用されていることからすると、本件文字部分についても、提供する役務の内容を表したものと理解させるものである。また、「○○展」が展示会の名称として実際に使用されている実情があるとしても、展示会の開催において集客や出展者募集等のために主たる展示内容(テーマ)を端的に表すことは、同業界において必要不可欠といえるものである。そうすると、本件文字部分は、主たる展示内容を端的に表したものであり、本願商標全体としても、名古屋における展示会の内容を表したものと認識させるにすぎないもので、将来を含め、役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であるといえるから、特定人による独占使用を認めることは公益上適当でないとともに、自他役務の識別力を欠くものというべきである。
したがって、原告が主張するように、これを新規の造語と認識することはないというべきである。
なお、ウェブサイト(イベント)の名称として、「○○展」の文字より大きく表して、又は括弧書きの使用や二段書き等により、「○○展」とは異なる名称を別途使用している事例がみられることからすると、「○○展」の文字以外の文字を使用することにより、差別化が図られている様子がうかがえる。
イ 原告は、本件文字部分からは、例えば、「3Dプリンタに関する、次世代の展示等」、「プリンタに関する、次世代の3D技術による展示等」、「次世代3Dプリンタを利用した展示等」、「3Dプリンタを用いた次世代の展示等」、「次世代3Dプリンタによって製造された造形物の展示」、「次世代3Dプリンタの技術の展示」などの複数の意味が看取できるものである旨主張する。
しかし、「次世代」の語が、製品等に関連して使用されるものであり、また、展示内容を冠した「○○展」の使用例が多くみられることからすると、本件文字部分からは、「次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」ほどの意味合いが自然に生じるというべきであって、「次世代の展示」、「次世代3Dプリンタを利用した展示」といった意味合いが自然に生じることはないというべきである。
ウ 原告は、過去の登録例や審決例を挙げて、本願商標も登録すべき旨主張する。しかし、出願された商標が商標法3条1項3号に該当するか否かの判断は、査定(審決)の時点において、事案に即して個別具体的に判断されるべきものであり、過去に登録された事例に拘束されるべきでない。そして、本願商標は、その構成する文字の意味、前後の文字との関係や使用方法、使用例などを考慮すると、前記(1)のとおり役務の質(内容)を認識させるものである。
エ したがって、原告の主張は、いずれも採用することができない。
第3 原告主張の取消事由(商標法3条1項3号該当性判断の誤り)本願商標である「名古屋 次世代3Dプリンタ展」は、本件役務に係る取引の実情の下では、役務の質の表示と認識されるものではなく、商標法3条1項3号に該当しない。したがって、本件審決には誤りがある。具体的には、次のとおりである。
1 「○○展」の文字に係る本件役務の取引の実情
本件役務の分野において、「○○展」は、次のとおり、単に展示会の展示内容を端的に表したもの又は役務の質(内容)の表示として一般に使用されているものではなく、むしろ、特定人が開催等する展示会等の固有の名称、すなわち自他役務識別標識として採択され、使用され、認識されるのが一般的である。
(1) 「○○展」の文字の使用状況
本件役務の分野における「○○展」の文字の使用状況は、別紙2「使用状況一覧」記載のとおりである。それによると、「○○展」の文字は、多くの場合、展示会等の名称、展示会名、催事名などとして使用されている。また、「○○展」の文字は、展示会等のウェブサイトにおいて、その上部の目立つ位置に表示されたり、他の文字よりも大きく表示されたりする上、単独で表示されることも多く、当該文字を見る者の注意を引く態様で使用されている。その上、「○○展」の文字は、ウェブページのタイトルにも用いられているところ、ウェブページのタイトルは、検索エンジンの検索結果の見出しとなる文字列であるから(甲228)、一般に、ウェブサイトを特定するものでもあり、当該タイトルに表示された文字が展示会等の名称に当たる場合、当該展示会等自体を特定する文字であると解するのが自然である(甲1、2、229)。さらに、展示会等主催者以外の者が当該展示会等を紹介するウェブサイトにおいても、各展示会等の紹介ページの上部に、「○○展」の文字が、他の文字より大きく表示されたり、太字で表示されたりしている。
加えて、甲230は、JETROのウェブサイトで紹介されている展示会の会期順一覧(日本開催のもの)の一部であって、そこに掲載されている見出しの表示は各展示会を特定する固有の展示会名称であるところ、そこには、「測定計測展2021」、「TEST2021 第16回総合試験機器展」、「食品開発展2021」、「マンション総合展」、「外食ビジネスウィーク2021 第16回 ラーメン産業展」などの「○○展」との文字が、他の展示会の名称と何ら差異が付けられることなく列挙されている。本件審決が引用するJETROの展示会一覧(甲48)でも、同様に、「○○展」の表示が、他の展示会の名称と並んで記載されている。
他方で、「○○展」の文字が、本件役務の取引の際に、一般に、展示会等に係る役務の内容を表示する箇所に記載されたり、展示会等の性質、内容又は特徴を説明する文脈で用いられたりしている事実はない。
したがって、本件役務の分野において、「○○展」の文字は、単に展示会等の「展示内容を端的に表したもの」として使用されているものではなく、一般に、「特定人が開催等する展示会等の固有の名称」として採択され、使用されていることが明らかである。
(2) 需要者の認識
展示会、見本市、展覧会、博覧会又はイベント等の企画、運営又は開催等に係る本件役務について、取引者及び需要者(以下、併せて「需要者等」という。)は、展示会等に出展する者及び展示会等に来場する者であると解される。
そして、別紙3「需要者等による使用例一覧」記載のとおり、本件役務の需要者等が、「○○展」の文字を、特定人の展示会等を指称する語として用いている事実がある。それらにおける記述はいずれも、展示会等の出展者又は来場者が当該展示会等について言及したものであるところ、「○○展」の文字が、展示会等の展示内容や役務の質(内容)を意味する語としてではなく、それらの者が出展又は来場する特定の展示会等を指称する語として使用されていることは明らかである。換言すると、本件役務の需要者等において、「○○展」の文字を、特定人が開催等する展示会の固有の名称と認識していることは、明白である。
(3) 「○○展」の質表示としての使用の不存在
以上のとおり、需要者等において、「○○展」の文字は、展示会等の固有の名称として使用され、認識されるのが一般的であるが、さらに、本件役務の取引の際に、「○○展」の文字が、一般に展示会等に係る役務の質(内容)の表示として用いられていることを示す証拠もない。
なお、展示会等の内容を説明する記述的な表示については、「○○展」ではなく、別紙4「記載例一覧」記載の例があるところ、例えば、「加工の極限を追及/進化する表面処理技術の総合展」の記載(甲13)や「世界最大規模のロボット専門展」の記載(甲142)は、それぞれ展示会等の内容をそのまま説明したものと理解できるから、役務の内容を表示する役割を担っていることが明らかである。これに対し、「○○展」の文字は、それ単独で、上記各展示会の具体的内容を十分に説明するものではないし(例えば、「お米・穀物産業展」(甲160)という文字のみから、「世界中のものが集まること」、「調理器具も対象であること」、「販売展示会なのか、芸術作品の展示会なのか」等の具体的内容は特定できない。)、役務の内容を説明する態様で使用されているものでもない。したがって、「○○展」の文字が、役務の質(内容)の表示に該当しないことは明らかである。
(4) 識別性判断における取引の実情の考慮について
商標法3条1項3号に規定される「役務の質の表示」に該当するか否かは、指定役務との関係で判断されるものであるから、指定役務の取引の実情が考慮されるべきことは明らかである。
(5) 独占適応性
前記のとおり、展示会の業界において、「○○展」の文字は、それぞれ固有の展示会名称を表しているとの共通認識があるから、役務提供者は、自己の展示会名称の採択に当たり、通常の商標採択手法に従い、事前調査(登録商標の調査だけでなく、現実に他者に使用されている展示会名称の調査を含む。)等によって、他者の展示会名称との重複を避けるのが一般的であり、通常、同一の「○○展」の表示が複数の者に採択され使用されることはない(別紙2参照。なお、「○○」展の文字であっても、偶然に複数の者に同一の商標が使用される可能性はゼロではないが、識別標識たる商標が選択物であり、我が国の商標法が登録主義を採用している以上、それは展示会に係る役務の分野に限らず、全ての商品及び役務の分野について起こり得ることである。)。
したがって、本件役務の取引の実情の下では、個別具体的な「○○展」の文字は、同種の展示会を開催等する取引者にとって、事前の調査検討の対象として容易に使用を回避できるものであり、また実際に他者との重複使用が回避されており、取引に際し必要適切な表示として必ずその使用を欲するものとはいえず、一律に独占適応性を欠くものとは解されない。
(6) 小括
以上のとおり、「○○展」の文字は、本件役務の分野において、単に展示会等の展示内容を端的に表したものとして使用されているものではなく、一般に、特定人が開催等する展示会等の固有の名称として採択され、使用されていることが明らかである。また、本件役務の需要者等が、「○○展」の文字を、特定人が開催等する展示会の固有の名称と認識していることも明白である。展示会等の固有の名称は、特定人の出所に係る展示会等を指称するものであるから、展示会等に係る役務の自他役務識別標識に当たり、商標法3条1項3号が規定する役務の質の表示に該当しないことが明らかである。
2 本願商標の商標法3条1項3号非該当性
(1) 具体的検討の必要性
前記1によると、少なくとも、「○○展」との構成の商標が、一律に、役務の質の表示に該当するとして自他役務識別力を欠くと判断されるべき理由はない。もっとも、本願商標が、個別具体的な事情により、需要者等において役務の質の表示と認識されるのであれば、商標法3条1項3号に該当すると解されるから、以下、検討する。
(2) 具体的検討
本願商標の構成文字は13字であって、外観上まとまりよく一体的に構成され、その構成全体から生ずる「ナゴヤジセダイスリーディープリンタテン」の称呼は、一気一連に容易に発音できる。したがって、本願商標は、需要者等に自然に記憶される外観構成と称呼を備えており、外観及び称呼上、自他役務識別標識として機能しないと解される事情はない。
また、本願商標は、「名古屋」、「次世代」、「3D」、「プリンタ」及び「展」の5語から成ると解されるところ、「名古屋」は愛知県の県庁所在地を、「次世代」は「格段に進歩したもの、さらに高性能のもの」をそれぞれ意味する語として(本件審決)、「3D」は「立体的であること、三次元」を意味する語として(甲231)、「プリンタ」は「コンピューターで、情報を出力用紙に印字する装置」等を意味する語として(甲232)、それぞれ一般に理解されており、また、「展」は「展覧会の略」(甲60)を意味する語である。したがって、本願商標全体からは、「名古屋の、“次世代の3Dプリンタ”の展覧会」とか、「名古屋の、次世代の“3Dプリンタの展覧会”(3Dプリンタに関する、次世代の展覧会であって、名古屋で開催されるもの等)」とか、「名古屋の、“次世代の三次元”のプリンタの展覧会」等の観念が生ずると解される。もっとも、これらは抽象的な観念にとどまり、例えば「名古屋の、“次世代の3Dプリンタ”の展覧会」という観念に着目しても、本件役務との関係で、「商品としての次世代の3Dプリンタそのものを展示する展覧会」なのか、「次世代の3Dプリンタを利用した展覧会」なのか、「次世代の3Dプリンタの研究に関する展覧会」なのかなど、展覧会の具体的な内容を特定することはできない(なお、商標「音楽マンション」から生ずる「音楽に何らかの関連を有する集合住宅」は抽象的観念であり特定の観念を生じさせるものではないとして、同商標の識別性を肯定した知財高裁平成28年(行ケ)第10191号同29年5月17日判決がある。)。
加えて、「名古屋 次世代3Dプリンタ展」及び「次世代3Dプリンタ展」は、辞書や用語辞典に掲載されている言葉ではなく、本来的に特定の意味や定義を有するものではない。
また、本件役務の分野において、「名古屋 次世代3Dプリンタ展」及び「次世代3Dプリンタ展」の文字が、原告以外の者に取引上一般に使用されている事実も、需要者等の間で特定の具体的な役務の内容や意味を表す言葉として認識されている事実もないから、本願商標が、実際上、特定の役務の質の表示として理解される事情はない。
さらに、前記1のとおり、本件役務の分野において、「○○展」の文字は、自他役務識別標識として採択され、使用され、認識されるのが一般的であり、これが「役務の質の表示」として使用され、認識されると解すべき取引の実情は存在しない。
以上のように、「名古屋 次世代3Dプリンタ展」及び「次世代3Dプリンタ展」の文字が、特定の具体的な意味を有さず、一般にも使用されていない取引状況において、なお役務の質の表示として機能し、理解されると解すべき周辺事実も根拠もない。
したがって、本件役務に関する取引の実情を考慮すると、本願商標は、本件役務に使用された場合に、需要者等によって、「役務の質を表示したもの」と一般に認識されるものでないことが明らかである。
(3) 原告による使用
原告は、本願商標を実際に使用しており、本願商標を表示する際は、他の文字よりも大きく目立つようにしたり、ウェブページのタイトルに記載するなど(甲200)、十分に自他役務識別標識として認識される態様で表示しており、本願商標を単に役務の質の表示するものとして使用した事実はない。また、需要者においても、「第4回名古屋 次世代3Dプリンタ展 イベントレポート」の見出しの下、「2022年4月13日~15日の3日間に開催された「第4回名古屋 次世代3Dプリンタ展」。この記事では、「3Dプリンターでモノづくりを変革」をテーマに出展したリコーブースの内容についてご紹介します。」(甲201)などとして、「名古屋 次世代3Dプリンタ展」の文字のみで原告が開催する展示会を特定しており、需要者等が、本願商標を展示会の固有の名称、すなわち自他役務識別標識として認識していることは明らかである。
したがって、原告による使用により、本願商標の識別性が喪失したといった事実はない。
(4) 将来を含めた独占適応性
独占適応性の観点からも、本願商標の登録を拒絶する理由はない。「○○展」の文字は、本件役務の分野において、一般に、役務の質等の特性を表示するものとして使用され、認識されるものではないし、さらに、前記(2)のとおり、個別具体的な事情を考慮しても、「名古屋 次世代3Dプリンタ展」及び「次世代3Dプリンタ展」の文字は、特定の一般的な役務の質や内容を認識させるにとどまるものとは解されないから、「役務の特性を表示記述する標章」にも、「取引に際し必要適切な表示」にも該当しないことが明らかである。
「名古屋 次世代3Dプリンタ展」及び「次世代3Dプリンタ展」の文字が将来的に役務の質を表示したものや独占不適応な標章に該当するといい得るためには、証拠に基づいた論理的な根拠が必要である(商標「紅豆杉」についての東京高裁平成12年(行ケ)第164号同10月25日判決はこの旨を判示する。)。しかし、「名古屋 次世代3Dプリンタ展」及び「次世代3Dプリンタ展」については、役務の質を表示するものと一般に認識されると解すべき証拠も根拠もなく、将来においてそのような一般認識が形成される蓋然性もなく、当然ながら、将来において需要者等が「名古屋 次世代3Dプリンタ展」及び「次世代3Dプリンタ展」を役務の質の表示と認識すると予測できるだけの証拠も根拠もない。
(5) 登録例
「○○展」との構成の商標は、展示会の開催等の役務を指定役務として、多く登録されている(甲202)。一例として、「分析機器展」(甲203)、「3D造形技術展」(甲204)、「モバイル端末・周辺機器展」(甲205)、「次世代介護テクノロジー展」(甲209)などがある。なお、原告は、単に登録例があることのみに基づいて本願商標を登録すべきと主張するものではなく、「○○展」との構成の商標が一律に識別性を欠くものとは解されないことを、実際の登録例の観点から、念のため申し添えるものである。
(6) 小括
以上のとおり、本願商標は、本件役務に使用された場合に、一般に、需要者等に役務の質の表示と認識されるものではないから、役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標には当たらず、商標法3条1項3号には該当しない。
3 本件審決の認定等について
(1) 本件審決の認定のとおり、展示会と何らかの関係性を有する地域の名称が展示会の名称に含まれることはあるが、地域の名称が固有の展示会名称の構成要素の一部として含まれている場合や固有の展示会名称に付加されている場合に、当該展示会名称が自他役務識別標識として認識されることに変わりはなく、そのことは、展示会の名称が一般に役務の質の表示に該当する理由とはならない。
(2) 本件審決は、本件文字部分は「「次世代3Dプリンタ」を主たる展示内容とし、当該展示内容を冠した展示会であると認識させるものであるから、「次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」ほどの意味合いを認識させるというべきである。」と認定するところ、同認定は同義反復的であるが、いずれにせよ、仮に本件文字部分からそのような意味が生じるとしても、それは抽象的な観念にとどまり、特定の役務の具体的な内容を理解させるものではない。さらに、仮に、使用されている商標が展示会の展示内容を認識させる場合があるとしても、役務に付された一つの標章が常に一つの機能しか果たさないと解すべき理由はなく、一つの商標が、自他識別機能を発揮すると同時に、併せて副次的に、需要者に役務の内容を想起させる場合があるにすぎない(一つの標章が商品の機能を表すと同時に自他商品の識別をもすることを判示する知財高裁平成21年(行ケ)第10141号同10月8日判決がある。)。特に、本件役務の分野において、「○○展」の表示が特定の展示会を指称する名称として採択され、使用され、認識されている取引の実情の下では、特定の展示会を指称する「○○展」の文字が、「○○を内容とする展示会」をも想起させることと、併せて「○○展」の表示が自他役務識別標識として機能することとは、何ら矛盾するものではない。
(3) 本件審決は、①「○○展」が展示会の名称として実際に使用されている実情があるとしても、展示会の開催において集客や出展者募集等のために主たる展示内容(テーマ)を端的に表すことは、同業界において必要不可欠といえるものであること、②そうすると、本件文字部分は、主たる展示内容を端的に表したものであり、本願商標全体としても、名古屋における展示会の内容を表したものと認識させるにすぎないものであって、将来を含め、役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であるといえるから、特定人による独占使用を認めることは公益上適当でないとともに、自他役務の識別力を欠くものというべきであると認定する。
しかし、上記①については、主たる展示内容(テーマ)を端的に表すことが必要不可欠であることを示す証拠はなく、主たる展示内容(テーマ)を端的に表すために「○○展」の表示が必要不可欠であるとの事実もない。現に、展示会「計測展」の「テーマ」は「未来のものづくり社会を支える計測と制御技術の総合展」と記載されており(甲62)、「○○展」の表示ではないし、そのほか、展示内容の端的な説明として「○○展」とは別の表示が用いられていることは別紙4記載のとおりである。
上記②については、前記のとおり、将来を含め、本願商標が役務の質を表示記述するものに該当することの蓋然性を示す証拠はない。そもそも、商標法上、「役務の内容を表したもの」ではなく「役務の内容を端的に表したもの」が、当然に「役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章」に該当するとの明文の規定はなく、上記②に係る本件審決の認定はそれ自体失当である。「役務の内容を端的に表したもの」は、「役務の内容を表したもの」あるいは「役務の質を表示したもの」そのものではないから、個別の「役務の内容を端的に表したもの」が役務の質の表示に該当するか否かは、標章の構成や、役務の質の表示方法に係る取引の実情によって個別具体的に検討されるべきものであるところ、本件役務について、本願商標が役務の質の表示に該当しないことは前記のとおりである。
(4) 本件審決は、ウェブサイト(イベント)の名称として、「○○展」の文字より大きく表して、又は括弧書きの使用や二段書き等により、「○○展」とは異なる名称を別途使用している事例がみられることからすれば、「○○展」の文字以外の文字を使用することにより、差別化を図っている様子がうかがえると認定する。
しかし、展示会の業界においては、展示会に係る表示として、日本語名称、略称、通称、英語名称及び複数の展示会をまとめて表す総称など、様々な名称が使用されることが多く、それらが一つの展示会について同時に使用される場合に、いずれかが識別標識でありそれ以外が質の表示であるといった役割分担がされているわけではなく、いずれも特定人の展示会の出所を示す識別標識として使用されているのである。実際、本件審決が指摘する「TECNO-FRONTIER」と「モータ技術展」及び「電源システム展」との関係は、前者は複数のイベントをまとめて指称する際の名称であり、後者は個別の展示会名称である(甲28、29)。「SUBSEA TECH JAPAN」と「海洋産業技術展」との関係については、当該展示会が外国人需要者をも対象としているところ(甲206)、日本人需要者及び外国人需要者に共通する通称をも採用しているにすぎず、いずれも特定人の展示会の出所表示として使用されていることが明らかである(なお、「海洋産業技術展」については、「海洋技術、海洋ビジネスに関する専門展示会」の表示が併記されており(甲124)、むしろこれが展示内容(テーマ)を端的に表したものである。)。「INTERMOLD」についても、日英両方に通用する通称であり(甲207)、「金型加工技術展」及び「金型展」は、固有の展示会名称の日本語版である。
そもそも、「計測展」(甲1)、「測定計測展」(甲2)、「総合検査機器展」(甲3)、「電子機器トータルソリューション展」(甲5)、「食品開発展」(甲6)、「産業交流展」(甲10)、「鉄道技術展」(甲12)、「高精度・難加工技術展」(甲13)、「表面改質展」(甲14)、「猛暑対策展」(甲18)、「国際ドローン展」(甲20)、「産業用カメラ展」(甲41、132)、「建築・建材展」(甲139)、「農水産業支援技術展」(甲145)、「精密加工測定展」(甲225)、「画像センシング展」(甲226)、「慢性期医療展」(甲227)、「在宅医療展」(甲227)などのように、「○○展」の表示が最も大きく表されていたり、「○○展」以外の表示が存在しない場合も多いのであるから、本件審決の前記認定が誤りであることは明らかである。なお、展示会業界に限らず、広く一般に、特定の役務について、識別標識が常に一つしか使用されないと解すべき理由はなく、同時に2以上の商標が使用されることがないことを示す証拠はない。
(5) 本件審決は、本件文字部分について、「次世代の展示」、「次世代3Dプリンタを利用した展示」といった意味合いが自然に生じることはないというべきであると認定する。
しかし、「次世代3Dプリンタ展」の文字は、「次世代」、「3D」、「プリンタ」及び「展」の4語から成ることが容易に理解できるから、前記2(2)のとおり、複数の抽象的な観念が生じることは否定できず、生じる意味が一つに限定されると解すべき理由はない。本件審決の認定は、本件文字部分を、「次世代3Dプリンタ」と「展」とに分けて把握することを前提としているが、例えば、登録商標である「次世代介護テクノロジー展」(甲209)は、実際の使用態様として、「次世代」の文字のみを図形や記号で装飾するなど(甲79~81)、「次世代」と「介護テクノロジー展」とに分けて把握できるような態様でも使用されており、このような例からも、複数の語からなる展示会名称の構成の分析を一つに断定することは誤りである。
もっとも、仮に本件文字部分について「次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」の意味が生じるとしても、前記のとおり、本件役務の取引の実情の下では、本願商標及び本件文字部分は役務の質の表示と認識されるものではない。
(6) 本件審決は、拒絶査定で示された「3Dプリンタ(ー)」の文字を冠した展示会の事例を引用するところ、それらのうち、「3Dプリンター展」の文字が使用されている、①「プラスチックス・ジャパン・ドットコム」のウェブサイト(甲51の1・2)、②鉄鋼新聞、③日刊工業新聞及び④「MICROJET」のウェブサイト(甲52)については、次の点を指摘できる。
まず、上記①及び②は、展示会の開催レポート及び新聞記事であるが、年度の異なる同一の展示会に係るもので(甲208)、当該展示会の主催者が、自己の展示会を「3Dプリンター展」等とも称していたことからそれらの記事においても「3Dプリンター展」等の文字が使用されているにすぎず、当該文字は、役務の一般的な質や内容を表すものではなく、特定の展示会を指称するものとして使用されている。次に、上記③及び④についても、展示会に係る記事であるところ、「3Dプリンター展」の語は、記事の「見出し」に使用されているにすぎない。上記①~④のような新聞記事やレポート記事の見出しには、限られた文字数の中で、読者の目を引くよう短い表現を用いなければならず、そこで使用された語は、あくまで一時的なものであって、明確に定義されたものでもなく、将来において、需要者等によって一般的に使用されるとも解されない。また、上記①~④は、平成26年から令和元年にかけての記事であるが(しかも、上記④の展示会はドイツで開催されたものである。)、この6年の間に、「3Dプリンター展」の文字はわずかにこれら数件の記事の見出し等に登場したにすぎないし、本件審決の時点で、「3Dプリンター展」の文字が、新聞記事ではなく、我が国の需要者等によって、取引上、一般に使用されていることを示す証拠はない。さらに、本願商標は「3Dプリンター展」ではなく「名古屋 次世代3Dプリンタ展」であり、本願商標又は本件文字部分が他者に使用されている事実はなく、将来的に、取引上、一般に使用されると解すべき証拠もない。
(7) 被告は、「3Dプリンター」の文字を冠した展示会として、平成20年から令和元年までの間で8件の事例を主張するが、うち3件は同一営業主体によるもので、実質的には6主体による展示会にとどまっている。そして、上記期間内に6主体によるものにとどまっているという事情が、むしろ重視されるべきである。
第4 被告の主張
本件審決の認定、判断は、正当であって、本件審決に原告主張の違法はない。
1 本願商標が商標法3条1項3号に該当すること
(1) はじめに
本願商標の構成中の「次世代」の文字及び「3Dプリンタ」の文字部分は、一般に慣れ親しまれた語であること、「次世代」の文字が、各種製品等に対して「格段に進歩したもの、さらに高性能のもの」の意味合いで用いられる語であり、「3Dプリンター」に対しても実際に使用されていること、「展」の文字は、展示会の名称の一部として多数使用されるものであることを併せて考慮すると、本件文字部分は、その構成文字から、「次世代の3Dプリンタの展示会」ほどの意味合いを容易に理解させるものである。
また、展示会の開催において、「展」の文字に主たる展示内容(展示される製品や技術等)を冠し、「○○展」と称して、展示会の内容を端的に表したものが、業界において一般に使用されている実情がみられること、実際に「3Dプリンター」を展示内容としたり、「3Dプリンター」を「展」の文字に冠して使用する事例が存在することからすると、本願商標「次世代3Dプリンタ展」の文字は、「次世代3Dプリンタ」を主たる展示内容とする展示会であることを表したにすぎないと認識させるものであるから、「次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」ほどの意味合いを認識させるというべきである。
加えて、特定の地域における展示会であることを表すものとして、地名が使用されている実情がみられることからすると、本願商標は、全体として、「名古屋における次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」ほどの意味合いを認識させるというべきである。
そうすると、本願商標を本件役務について使用しても、これに接する需要者等は、「名古屋における次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」を表したもの、すなわち役務の質(内容)を表したものと認識するにとどまるというのが相当である。
したがって、本願商標は、本件役務との関係で、「名古屋における次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」といった役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、需要者等によって本件役務に使用された場合に、役務の質を表示したものと一般に認識されるというべきである。
(2) 商標法3条1項3号の趣旨について
商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されているのは、このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他役務の識別力を欠くものであることによるものと解される(最高裁昭和53年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁)。
そうすると、商標が、その指定役務について役務の質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるというためには、当該商標が指定役務との関係で役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、当該商標が当該指定役務に使用された場合に、需要者等によって、将来を含め、役務の質を表示したものとして一般に認識されるものであれば足りるのであって、必ずしも当該商標が現実に当該指定役務に使用されていることを要しないと解される(知財高裁令和3年(行ケ)第10100号同4年5月19日判決(「Scrum Master」事件))。
そして、当該商標の需要者等によって当該役務に使用された場合に役務の質を表示したものと一般に認識されるかどうかは、当該商標の構成やその指定役務に関する取引の事情を考慮して判断すべきである(知財高裁令和3年(行ケ)第10113号同4年1月25日判決(「睡眠コンサルタント」事件))。
(3) 本願商標の商標法3条1項3号該当性について
ア 本願商標を構成する各文字の語義及び使用例並びに語義上の意味合いについて
本願商標の構成中の「名古屋」の文字は、「愛知県西部の市。県庁所在地。政令指定都市の一つ。」を意味する語である(乙1)。
そして、本願商標の構成中の「次世代」の文字は、「格段に進歩したもの、さらに高性能のもの」の意味をもって、「次世代の製品」、「次世代型携帯電話」、「次世代インターネット」のように使用される語である(乙2~4)。
また、本願商標の構成中の「3Dプリンタ」の文字は、一般に、「コンピュータ(ー)」、「フォルダ(ー)」、「ウエハ(ー)」等、語尾の長音を省略して表記することがしばしばあることからすると、「3Dプリンター」の長音を略して表記したものと容易に理解できるものであるところ、当該語は「三次元キャド(CAD)のデータを元に、対象の断面図を幾重にも積層させて立体物を作る装置。三次元印刷機。」を意味する(乙5)ものであり、いずれの語も昨今において一般に慣れ親しまれた語であるといえる。
なお、「次世代」の語は、「3Dプリンター」に対しても、「格段に進歩した、さらに高性能の」といった趣旨で使用されている実情がある(甲25~27、53、乙6~8)。
加えて、本願商標構成中の「展」の文字は、「多くの人にひろげて見せる。」等を意味する語であり(乙9)、展示会の開催において、展示会の名称の一部として、「・・・展」のように語尾に付されて多数使用されている実情がある(甲1~24、28~46、62~162)。
以上によると、本件文字部分は、その構成文字から「次世代の3Dプリンターの展示会」ほどの意味合いを容易に理解させるものである。
イ 展示内容を冠した「○○展」の使用例について
展示会を行う業界において、例えば、「モータ技術展」(甲28)、「電源システム展」(甲29)、「電子部品材料展」(甲30)、「海洋産業技術展」(甲32)、「交通インフラ設備機器展」(甲34)のように、主たる展示内容(製品や技術等)を冠した「○○展」の文字が使用されている実情を確認することができる(甲28~46)。すなわち、「○○展」における「展」を除いた「○○」の文字部分が、主たる展示内容を表したものであると無理なく理解できるときは、「○○展」の文字は、展示会の内容(テーマ、主たる出展対象)を表したものとみることができる。
そして、展示会を行う業界においては、「3Dプリンター」を出展する展示会があり(甲47、49、乙10)、中には、「3Dプリンター」の文字を冠した展示会が実施されていることが複数のウェブサイト等で確認できる(①「イプロスものづくり」のウェブサイト及び「富山商工会議所」の「プレスレター」の記載(甲50、乙11)、②「プラスチックス・ジャパン・ドットコム」のウェブサイトの記載(甲51の1・2)、③「所沢なび」のウェブサイトの記載(乙12)、④「プラスチックス・ジャパン・ドットコム」のウェブサイト及び鉄鋼新聞の記載(乙13、14)、⑤日刊工業新聞の記載(乙15)、⑥「MICROJET」のウェブサイト記載(甲52)、⑦「INTAMSYS」のウェブサイトの記載(乙16)並びに⑧「日本印刷新聞」のウェブサイトの記載(乙17))。
ウ 展示会における地名の使用状況について
展示会の開催において、出展者や参加者等の対象(ターゲット)地域又は展示会の開催地の名称(地名)を、展示会の名称に付すなどして、特定の地域における展示会であることを表すものとして地名が用いられている実情がある(甲54~58、乙18)。
そうすると、本願商標において、本件文字部分とスペースを介して配された「名古屋」の文字部分は、特定の地域(名古屋)における展示会であることを表したものとみることができる。
エ 小括
前記アのとおり、本願商標構成中の「次世代」の文字及び「3Dプリンタ」の文字部分は、一般に慣れ親しまれた語であること、「次世代」の文字が、各種製品等に対して「格段に進歩したもの、さらに高性能のもの」の意味合いで用いられる語であり、「3Dプリンター」に対しても実際に使用されていること、「展」の文字は、展示会の名称の一部として多数使用されるものであることを併せて考慮すると、本件文字部分は、その構成文字から、「次世代の3Dプリンタの展示会」ほどの意味合いを容易に理解させるものである。
また、前記イのとおり、展示会の開催において、「展」の文字に主たる展示内容(展示される製品や技術等)を冠し、「○○展」と称して、展示会の内容を端的に表したものが、業界において一般に使用されている実情が見られ、「3Dプリンター」が出展されている展示会の中には、「3Dプリンター」の文字を冠し、「3Dプリンター展」のように称する展示会も存在する。
以上を総合して考慮すると、本件文字部分は、「格段に進歩した3Dプリンター、さらに高性能の3Dプリンター」ほどの意味合いを認識させる「次世代3Dプリンタ」を主たる展示内容とする展示会であることを表したにすぎないと認識させるものといえるから、本件文字部分は、「次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」ほどの意味合いを認識させるというべきである。
さらに、前記ウのとおり、特定の地域における展示会であることを表すものとして地名が使用されている実情がみられることからすると、本願商標は、全体として、「名古屋における次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」ほどの意味合いを認識させるというべきである。
そうすると、本願商標を、その指定役務中、本件役務について使用をしても、これに接する需要者等は、「名古屋における次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」を表したもの、すなわち役務の質(内容)を表したものと認識するにとどまるというのが相当である。したがって、本願商標は、本件役務との関係で、「名古屋における次世代の3Dプリンターを内容とする展示会」といった役務の質を表示記述するものとして取引に際し必要適切な表示であり、需要者等によって本件役務に使用された場合に、将来を含め、役務の質を表示したものと一般に認識されるというべきであるから、本願商標は、商標法3条1項3号に該当する。
2 原告の主張について
(1) 「○○展」の文字の使用について
ア 「○○展」の名称が役務の質(内容)を表すか否かは、当該名称を構成する文字とその使用状況等から判断すべきであって、展示内容を冠した「○○展」の文字が、展示会のウェブサイトの目立つ部分に表示されたり、大きく表示されてたりしているからといって、直ちに役務の内容を表したものではないということはできないし、自他役務の識別標識として機能する固有の名称であると捉えることもできない。また、主催者が、出展者の募集や集客のために、展示内容が端的に分かる展示会の名称をウェブサイトの目立つ部分に表示させたり、大きく表示させたりすることは、極めて自然なことというべきである。
イ 本願商標については、前記1のとおり、本件文字部分は、主たる展示内容を「展」の文字に冠して、展示会の内容を表したものとして無理なく看取、理解されるものであり、商標全体としても、役務の質を表示したものと認識させるものである。
ウ 原告提出の証拠においても、主たる展示内容を冠した「○○展」の文字の使用が多数みられる(例えば、「橋梁・トンネル技術展」(甲11、87、89)、「鉄道技術展」(甲12、90、92)、「高機能化部品展」(甲101)、「関西物流展」(甲17、102、104)、「国際ドローン展」(甲110、112))。
エ JETROのウェブサイト(甲230)において、主たる展示内容を冠した「○○展」よりなる展示会の名称が、固有の名称よりなる展示会等と並列に紹介されているとしても、JETROが様々な展示会を紹介する上で、主催者が使用する展示会の名称をそのまま用いて紹介することは当然のことである。また、展示会等主催者以外の者が展示会等を紹介するウェブサイト(例えば、甲89、92、95、97、99等)において、「○○展」の文字が大きく目立つように表示されているとしても、集客等の支援、促進等のために、展示会の名称を大きく目立つように表示することは自然に行われることであって、当該ウェブサイトで大きく目立つように表示されているからといって、直ちに「○○展」の文字が、内容を表したものではないとか、自他役務の識別標識として機能する固有の名称であるということにはならない。
(2) 需要者等の認識について
ア 例えば、出展企業が自己の顧客やウェブサイトを訪れる者等を想定して、自己のウェブサイトにおいて当該展示会に出展することを情報発信する際に、主催者が用いる展示会の名称を、会場名や開催日時、ブース位置(小間番号)とともに、そのまま使用し、案内することは当然のことであって、出展者又は来場者が、自己のウェブサイト等で展示会へ参加することについて言及する際に、展示会の名称をそのまま使用したからといって、「○○展」の文字が、直ちに自他役務の識別標識として機能する固有の名称であると捉えられるとはいえない。
イ 本願商標については、本件文字部分である「次世代3Dプリンタ展」は、前記1のとおり、主たる展示内容を「展」の文字に冠して、展示会の内容を表したものとして無理なく看取、理解されるものであり、商標全体としても、役務の質を表示したものと認識させるものである。
ウ 原告提出の証拠の記載からも、需要者(出展者又は来場者)において、「○○展」が展示内容を表したものであると認識している様子が見受けられる(例えば、「計測展」についての甲164の記載、「測定計測展」についての甲165の記載、「総合検査機器展」についての甲166の記載、「西日本国際福祉機器展」についての甲172の記載)。
(3) 「○○展」の文字が役務の質(内容)の表示に該当しないとの主張について
主たる展示の内容を冠した「○○展」の文字が、役務の質を表示するものであることは、前記1のとおりであって、主たる展示内容以外の、より詳細な展示内容の情報が記載されている他の記述があるとしても、そのことによって、本願商標が役務の質を表したものと認識されないというべきことにはならない。
(4) 識別性判断における取引の実情の考慮について
展示会の業務における取引の実情は、前記1(3)イのとおりであって、主たる展示内容を冠した「○○展」の文字が、本件役務を提供する業界において、複数の事業者によって多数使用されている実情がある。そして、本件文字部分は、主たる展示内容である「次世代3Dプリンタ」を「展」に冠して、展示会の内容を表したものと無理なく認識できるものである。
(5) 独占適応性について
前記1のとおり、本願商標を構成する「名古屋」の文字は、特定の地域における展示会であることを表すための地名であること、「次世代3Dプリンタ」の文字部分は、「展」の文字との関係で、主たる展示内容を表すものと無理なく理解できるものであり、実際に「3Dプリンター」を展示内容としたり、「3Dプリンター」を「展」の文字に冠して使用する事例が存在すること等からすると、名古屋において、次世代の3Dプリンターを内容とする展示会を企画又は開催しようとする事業者においては、「名古屋 次世代3Dプリンタ展」の文字からなる本願商標の使用を欲するというべきである。そうすると、たとえ、展示会名称の事前調査等によって他者の展示会名称との重複を避けることがあるとしても、本願商標は、取引に際し必要適切な表示としてその使用を欲するものというべきであるから、独占適応性を欠くものである。
(6) 本願商標の商標法3条1項3号非該当性の主張について
本願商標が役務の質を表示するものであることは、前記1のとおりであり、原告の主張の前提についても前記(1)~(5)のとおり失当であり、また、本願商標が商標法3条1項3号に該当するか否かの判断は個別具体的になされるべきであって、過去の登録例に左右されるべきではないから、原告の主張は、いずれも失当である。
(7) 本件審決に対する主張について
ア 本願商標が、役務の質を表したものであることは前記1のとおりであって、自他役務の識別標識として機能する固有の名称ということはできないから、これを前提にした原告の主張は失当である。
イ なお、例えば「TECHNO-FRONTIER 2022(2023)」と各展示会の名称(甲28~31、乙19)や、「SUBSEA/TECH JAPAN/第4回海洋産業技術展 2022」(甲32)、「INTERMOLD 2022(第32回金型加工技術展)/金型展2022 大阪」(甲33)、「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2022」と各展示会の名称(甲34~37、甲110、乙20)、「九州アグロ・イノベーション2022」と各展示会の名称(甲45、46)において、「○○展」の名称とは別の名称が併記されている態様をみると、当該別の名称が固有の名称であるのに対し、「○○展」の文字が展示会の内容を表したものであると認識できることは、一見して明らかといえる。
また、このように異なる名称を併記した事例は、上記以外にも多数見られる(甲3、4、17、22、23、39、40、42~44、67、70、115~121、124~127、129、130、133~138、148~151、154、157)。
第5 当裁判所の判断
1 認定事実等
(1) 語の意義等
ア 「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店(平成30年1月12日発行)によると、「名古屋」は、「愛知県西部の市。・・・県庁所在地。政令指定都市の一つ。」であって、「次世代」は、「①次の世代。子供の代。」、「②次の時代。次の段階。」を意味する語であり(同1286頁)、「スリーディー【3D】」は、「①立体的であること。三次元。さんディー。②3D映画の略。」を意味する語であり(同1589頁)、「プリンター」は、「①印刷工。印刷機。②写真の焼付機。③コンピューターで、情報を出力用紙に印字する装置。印字機。」を意味する語であり(同2599頁)、「スリーディー・プリンター【3D printer】」は、「三次元キャド(CAD)のデータを元に、対象の断面図を幾重にも積層させて立体物を作る装置。三次元印刷機。」を意味する語である(同1589頁)(甲231、232、乙2、5)。また、上記「広辞苑 第七版」によると、「展」は、「展覧会の略。」を意味する語であって、用例として「ピカソ展」があり(同2017頁)、そして、「展覧会」は、「美術品・工芸品などを並べて見せる会。」を意味する語であって(同2037頁)、そのうち「展覧」の語が「物品・作品などを並べて見ること。また、見せること。」を意味する語であること(同2037頁)も考慮すると、「品物・作品をならべて一般の人々に見せること。」を意味する語である「展示」(同2024頁)と「①人々が集まってする行事。集まり。つどい。」等を意味する語である「会」(同472頁)から成る「展示会」と、ほぼ同義と解される。
なお、一般に、「プリンター」が「プリンタ」とも表記されることは、公知の事実と解される。
イ 「次世代」は、「大辞泉【第二版】 上巻」株式会社小学館(平成24年11月7日発行)によると、「①次の世代。子供の代。」、「②次の時代。また、技術や製品の機能などが格段に進歩した段階。」を意味する語であり(乙3)、「大きな活字の新明解国語辞典 第八版」株式会社三省堂(令和3年2月1日発行)では、「〔次の世代がその担い手になる意で〕今の段階につぐ次の進んだ段階。最尖端の技術をとり入れ、現在よりもさらに高性能のものを目指して、開発を進めているものについて言う。」とされる語である(乙4)。
また、上記「大きな活字の新明解国語辞典 第八版」によると、「展」は、「多くの人にひろげてみせる。」等を意味する語であるとともに、「展覧会。」の略語であるとされる(乙9)。
(2) 使用例等
ア 「次世代」の語を「3Dプリンタ」の語に付した使用例
次のように、「次世代」の語が、「3Dプリンタ」に対し、「次の段階」といった意味を示す趣旨で付されて用いられている例がある。
(ア) 「JOEL」のウェブサイトでは、「もの作りを変える次世代型3Dプリンターが新生日本電子の象徴的製品になる」など、一般的な3Dプリンターとは異なり電子ビームを使って金属粉末を溶かすという画期的な製品を紹介する記載において、「次世代型3Dプリンター」の語が用いられている。(甲25)
(イ) 「近畿大学次世代基盤技術研究所」の「3D造形技術研究センター」のウェブサイトでは、次世代の「ものづくり」に欠かせない金属系材料を中心とした3D積層造形技術に関する技術開発等の例の一つとして、「三次元造形技術を核としたものづくり革命プログラム(次世代型産業用3Dプリンタ等技術開発)」研究開発プロジェクト(経済産業省受託事業)の説明が記載されている。(甲26)
(ウ) 「TRAFAM」のウェブサイトでは、事業の説明において、世界一の造形速度、造形精度を有する「次世代型産業用3Dプリンタ技術開発」について記載されている。(甲27)
(エ) 「iguazu」のウェブサイトでは、「フランスのAM技術と日本の熱処理・加工技術で新たなモノづくりの世界を切り拓かれている」事例の紹介において、「Additive Manufacturing(以下AM)は、樹脂や金属素材で高精度の積層造形が可能な次世代3Dプリンターを用い、航空宇宙や自動車、原子力等の先端産業製品の開発製造を行おうというもの。」と説明されている。(甲53)
(オ) 平成31年2月15日の毎日新聞の記事には、「次世代3Dプリンターなど新分野に取り組む国内メーカーとの取引」といった記載がある。(乙6)
(カ) 平成30年8月9日の日経産業新聞の記事には、「世界最大級の装置に加え、20年には1辺が130センチの立方体を製造できる次世代3Dプリンターの販売を日本で開始する計画」という記載がある。(乙7)
(キ) 平成26年6月25日の日経産業新聞の記事には、「開発は2013年度から始まった次世代3Dプリンター開発の国家プロジェクト」についての記載がある。(乙8)
イ 「〇〇展」の語の使用例
(ア) 次のように、「〇〇展」の語が、「〇〇」の部分に当該展示会の主たる展示内容(製品、技術等)やそれに係る共通の特徴を示す語を置く形で用いられている例がある。
「モータ技術展」(甲28)、「電源システム展」(甲29)、「電子部品材料展」(甲30)、「熱設計・対策技術展」(甲31)、「海洋産業技術展」(甲32)、「金型加工技術展」、「金型展」、「金属プレス加工技術展」(甲33)、「交通インフラ設備機器展」(甲34)、「建設資材展」(甲35)、「地盤改良展」(甲36)、「インフラ検査・維持管理展」(甲37)、「テロ対策特殊装備展」(甲39)、「コンバーティングテクノロジー総合展」(甲40)、「産業用カメラ展」(甲41)、「自動車技術展:人とくるまのテクノロジー展」(甲42)、「農業資材展」(甲45)、「畜産資材展」(甲46)、「下水道展」、「東京・下水道展」、「表面改質展」、「高精度・難加工技術展」、「おかやまテクノロジー展」、「サステナブル マテリアル展」、「名古屋 ものづくりODM/ESM展」、「名古屋 製造業DX展」、「名古屋 計測・検査・センサ展」、「名古屋ものづくりAI/IoT展」(甲48)
(イ) そして、前記(ア)のような「〇〇展」の語の使用例の中には、「3Dプリンタ」と「展」から成る例がある。
a 「富山商工会議所会員事業所プレスレター」では、平成30年11月15日及び同月16日に開催される北陸初となる国内外4社の次世代3Dプリンタ総合展示会が、「北陸初となる複数メーカー合同の3Dプリンタ展示会開催」などという記載をもって紹介されている(甲50)。そして、「イプロスものづくり」のウェブサイトには、同展示会について、北陸初の「3Dプリンター展」が開催されたことの記載がある(乙11。なお、同サイトには、平成31年2月6日から開催される「次世代プリンター展」についての記載もある。)。
b 「プラスチックス・ジャパン・ドットコム」のウェブサイトには、平成28年1月27日から同月29日まで開催された3Dプリンターに関する展示会である「3D Printing 2016(3Dプリンター展)」についての記載があり(甲51の1)、平成29年2月15日から同月17日まで開催された同様の展示会である「3Dプリンター展(3D Printing 2017)」についての記載がある(甲51の2)。
c 「MICROJET」のウェブサイトでは、令和元年11月19日から同月22日まで開催された3Dプリンターの展示会である「formnext 2019」について、「世界最大の3Dプリンター展」といった記載がある(甲52)。
d 「所沢なび」のウェブサイトには、平成29年4月16日から同年5月13日まで「.Makeところざわ2017」イベント内で開催された「3Dプリンター展」についての記載がある(乙12)。
e 「プラスチックス・ジャパン・ドットコム」のウェブサイトには、平成31年1月30日から同年2月1日まで開催された「TCT Japan 2019」について、同展示会が「3Dプリンター展を前身とする展示会」であることの記載がある(乙13)。そして、平成31年1月24日付けの鉄鋼新聞の記事でも、同展示会が「東京の3Dプリンター展」として記載されている(乙14)。
f 平成26年9月18日付け日刊工業新聞の記事では、同月17日に開幕した3Dプリンターの展示会が「3Dプリンター展開幕-アスペクトなど5社、装置や活用法を提案」との見出しをもって紹介されている(乙15)。
g 「INTAMSYS」のウェブサイトでは、令和元年上半期のまとめの記事において、「付加製造業展(3Dプリンター展)」が急速に発展したこと、上海で開催された「TCT Asia 付加製造業展(3Dプリンター展)」で高性能な大型造形産業用3Dプリンターを発表したこと、アメリカ・デトロイトで開催された「Rapid+ TCT 付加製造業展(3Dプリンター展)」に出展したことの記載がある(乙16)。
h 「日本印刷新聞」のウェブサイトでは、3Dプリンターに関する企画展が、「印刷博物館、3Dプリンター展開催中」の見出しをもって紹介されている(乙17)。
2 取消事由について
(1) 本願商標の商標法3条1項3号該当性の検討
ア 本願商標の「名古屋 次世代3Dプリンタ展」については、「名古屋」と「次世代3Dプリンタ展」との間に空白があること及び「名古屋」が愛知県の県庁所在地を示す語であることを踏まえると、その構成上、「名古屋」の文字部分と「次世代3Dプリンタ展」の本件文字部分の二つの部分に区分されることが明らかである。
イ(ア) 前記1(1)からすると、本願商標のうち本件文字部分である「次世代3Dプリンタ展」は、「次の段階」等を意味する「次世代」の語、「三次元印刷機」等を意味する「3Dプリンタ」の語及び「展覧会」ないし「展示会」の略語である「展」の語から構成されるといえる。
そして、「ピカソ展」の用例からもうかがえるように、「展」の語が、当該展示会等で取り扱われる内容やそれに係る共通の特徴を示す語を冠して「○○展」という形で使用されることがあることは、公知の事実である。
(イ) 前記1(1)イによると、「次世代」の語は、「次の段階」等をいう場合に特に「技術」等に関して用いられることが多いとの事情もうかがわれるところ、同(2)アのように、「次世代」の語が、「3Dプリンタ」に対し、「次の段階」といった意味を示す趣旨で付されて用いられている例があることも考慮すると、本件文字部分に接した者は、本件文字部分が「次世代3Dプリンタ」の語と「展」の語とから成るものと理解するというのが自然である。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)の点に加え、前記1(2)イ(ア)のように、「〇〇展」の語が、「〇〇」の部分に当該展示会の主たる展示内容(製品、技術等)やそれに係る共通の特徴を示す語を置く形で用いられている例があり、同(イ)のように、そのような「〇〇展」の語の使用例の中に「3Dプリンタ」と「展」から成る例があることも考慮すると、本件文字部分については、「次の段階の3Dプリンタを内容又はそれに係る共通の特徴とする展示会」という意味合いを容易に認識させるものであるということができる。
ウ 前記イの点に加え、「名古屋」の語の意義や、行事の名称を含む特定の名称に地域を付記してその所在地や開催場所等を示すことが広く行われていることは公知の事実であること(なお、展示会等についても同様であることは、証拠(甲48、54~58、乙18)によっても裏付けられている。)も踏まえると、本件審決時である令和4年5月19日の時点において、本願商標である「名古屋 次世代3Dプリンタ展」は、展示会等に係る本件役務について使用されるときは、これに接する需要者等において、「名古屋における、次の段階の3Dプリンタを内容又はそれに係る共通の特徴とする展示会」を表したものと認識されるというべきであるから、役務の提供の場所を表示するとともに、役務の内容を認識させるものとして役務の質を表示する標章に当たるということができる。
エ そして、本願商標は、「名古屋 次世代3Dプリンタ展」のみからなり、「名古屋 次世代3Dプリンタ展」の語を標準文字で記すという、普通に用いられる方法で表示する商標であるから、商標法3条1項3号に該当するというべきである。
なお、以上に関し、仮に、本願商標に接した需要者等において、本件文字部分が「次世代」の語と「3Dプリンタ展」の語とから成るものと理解することがあったとしても、その場合、「次世代3Dプリンタ展」は、本件役務について使用されるときは、「3Dプリンタを内容又はそれに係る共通の特徴とする次の段階の展示会」を表したものと認識され、役務の質を表示するとともに、役務の提供の態様、提供の方法又は時期その他の特徴を表示する標章に当たるというべきであるから、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとの前記判断は左右されない。
(2) 原告の主張について
ア 原告は、本件役務の分野において、「○○展」の語が、一般に、「特定人が開催等する展示会等の固有の名称」として採択され、使用されていることが明らかであると主張する。
しかし、原告の主張する使用例(別紙2)全てを前提としても、前記(1)の判断は左右されない。前記1(1)及び(2)イ(ア)の認定事実等を踏まえると、原告が主張する使用例についても、「○○」展という展示会等の名称のうち「○○」の部分が展示会等の内容又はそれに係る共通の特徴を示すものである場合には、当該名称に接した者においては、当該展示会等の固有の名称という意味合いと同時に、当該展示会の内容等を「○○」が示すものと認識するというべきであり、「○○展」が特定人が開催等する展示会等の固有の名称を示すものであるということから、直ちに、当該「○○展」が当該展示会等の内容等を示すものであるということが否定されるものではない。
この点、原告は、JETROのウェブサイト(甲48、230)において「○○展」の表示が固有の展示会名称として掲載されている旨を主張するが、展示会等の内容等を示す語であっても個々の展示会等の名称とされている以上は上記ウェブサイトに当該名称をもって掲載されることは当然であるといえ、上記ウェブサイトに「○○」の部分が直ちに展示会等の内容等を十分に示す語ではない「○○展」の使用例とみ得るものが掲載されているとしても、そこに掲載されている他の「○○展」について「○○」の部分が展示会等の内容等を示すものであることを否定すべきものとはならない。
したがって、原告の前記主張は、前記(1)の判断に影響しない。
イ 原告は、需要者等の認識に係る使用例(別紙3)について主張するが、前記アで述べたところに照らし、需要者等が「○○展」の文字を特定人の展示会等を指称する語として用いている例があるとしても、そのことは、前記(1)の判断に影響しない。
ウ 原告は、独占適応性に関し、展示会の業界において、本件役務の取引の実情の下で、個別具体的な「○○展」の文字は、同種の展示会を開催等する取引者にとって、事前の調査検討の対象として容易に使用を回避できるものであり、また実際に他者との重複使用が回避されており、取引に際し必要適切な表示として必ずその使用を欲するものとはいえないと主張する。
しかし、そもそも、商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くと規定されているのは、このような商標は、指定役務との関係で、その役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないという理由も有するものであって(前掲最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決参照)、単に、同種の展示会を開催等する取引者が事前の調査検討によって他者との重複使用が回避されれば足りるというものではない。加えて、展示会等の内容等を示す語を冠して「○○展」の名称が用いられる場合、当該名称を使用する者において、複数の一般的な語から成る名称であるため特に問題を生じないであろうと考えることは相応に合理的であるといえ、そのような場合に、その者に、当該名称の使用例が他に存在するかどうかについて、登録商標の有無を調査する場合と同程度の法的な調査義務を課すことは合理性を欠くというべきである。本件全証拠によっても、展示会に係る業界において、一般に、「○○展」の文字の使用に当たり標章の使用と同程度の注意が払われていると認めるには足りず、展示会等を開催等する者が同種の展示会の名称を調査するなどしているという実態が仮にあるとしても、それは、基本的に、集客力や独自性の発揮といった観点や、商標法3条2項により保護され得る標章の使用を避けるといった観点から、事実上行われているとみるのが相当である。
したがって、原告の前記主張も、前記(1)の判断を左右するものではない。
エ 原告は、他に「○○展」という商標の登録例があることからして、「○○展」との構成の商標が一律に識別性を欠くものとは解されないと主張するが、同主張は、前記1(1)の「次世代」や「3Dプリンタ」の語の意義や、同(2)の使用例を踏まえた本願商標についての前記(1)の判断に影響するものではない。
オ その余の原告の主張は、いずれも、既に認定判断したところに反するか、前提とする事情を欠くか、あるいはそもそも前記(1)の判断に影響しないものであって、いずれも同判断を左右するものではない。
3 まとめ
以上によると、原告主張の取消事由は認められない。
なお、本願商標がその指定役務である別紙1指定役務目録記載の役務のうち本件役務以外の役務について使用される場合に、本件役務について使用される場合と異なって解すべき事情は見当たらない。
第6 結論
以上の次第で、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
(裁判長裁判官 本多知成 裁判官 中島朋宏 裁判官 勝又来未子)
別紙