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裁判年月日 令和 2年12月23日 裁判所名 札幌高裁 裁判区分 判決
事件番号 令2(行コ)12号
事件名 議員除名処分取消等請求控訴事件
裁判結果 破棄自判 文献番号 2020WLJPCA12236001
要旨
〔判示事項の要旨〕
◆普通地方公共団体(政令指定都市)の議会がその所属議員に対してした懲罰としての除名処分の取消し等を求める請求について、自らの政治的主張を追求するために臨時議長の職権を濫用して非民主的かつ偏頗な議事運営を行った行為は極めて悪質であり、同議会がこのような元議員の行為についてその自律権の行使として除名の懲罰を選択したことがその裁量権を逸脱又は濫用したものであるとはいえないなどとして、元議員の請求を全部認容した原判決を取り消し、その請求を全部棄却した事例
裁判経過
第一審 令和 2年 6月22日 札幌地裁 判決 令元(行ウ)13号 議員除名処分取消等請求事件
出典
裁判所ウェブサイト
裁判年月日 令和 2年12月23日 裁判所名 札幌高裁 裁判区分 判決
事件番号 令2(行コ)12号
事件名 議員除名処分取消等請求控訴事件
裁判結果 破棄自判 文献番号 2020WLJPCA12236001
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,札幌市議会議員として活動していた被控訴人が,同市議会議員選挙後初めて開催された令和元年第1回臨時会本会議における臨時議長としての議事進行等の言動を理由として,同市議会から同年6月21日付けで科された懲罰としての除名処分が違法であると主張して,控訴人に対し,同処分の取消し並びに同月22日から本判決確定に至るまでの議員報酬(令和2年6月の日割分25万8000円及び同年7月から毎月10日限り86万円)及び期末手当(令和元年12月から毎年6月及び12月の各末日限り208万8725円)の支払を求めた事案である。原審が被控訴人の請求を全部認容したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。
2 前提事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり補正するほか,原判決書の「事実及び理由」欄の第2の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
⑴ 原判決書2頁21行目の「原告は,」の後に「本件選挙で9回目の当選(乙3〔1頁〕)であり,」と加える。
⑵ 原判決書2頁24行目冒頭から末尾までを「ウ 札幌市議会の議員により構成される次の(ア)ないし(エ)の会議ないし会の構成や位置付け等は次のとおりである。」と改める。
⑶ 原判決書3頁17行目の「第25期」を「同年」と改める。
⑷ 原判決書4頁11行目の「札幌市議会に対し」から17行目末尾までを「地方自治法135条2項及び札幌市議会規則(以下「本件規則」という。)107条1項に基づき,札幌市議会議長に対し,被控訴人に懲罰を科する旨の動議(以下「本件懲罰動議」という。)を記載した文書(乙8)を提出した。同文書には,①被控訴人は,13日臨時会において臨時議長に就任したが,議長の選挙方法について,独断で立候補制とする旨を主張し,本件懲罰動議の提出者ら(以下「提出者ら」という。)がその主張に対し異議を唱えても,発言することすら認めず,さらに動議や議事進行の発言を求めても,指名をせず,議事を進行する立場の者としての最低限の責務も果たさなかった,その不当性は,議事録でも確認済みであるが,被控訴人は,その事実の受け入れも拒否している,これは,臨時議長としてだけではなく,議員としてあるまじき行為である,②提出者らは,再三,正常に議事を進行するよう申入れを行ったものの,被控訴人は,各派交渉会の決定には従わないと表明して議長席に居座り続け,事実上の議場占拠という暴挙により,新任期の議会活動に支障を及ぼした,また,市長提出議案の審議ができないことはもとより,第1回臨時会が流会に陥ることで,市民生活に多大な影響を及ぼす危険性もあった,これは,議会の秩序を著しく乱すだけでなく,議会の役割を否定する極めて重大な事犯である,③被控訴人のこのような常軌を逸した言動の数々は,明らかに地方自治法104条,129条及び本件規則99条,101条に違反するものであり,被控訴人に対しては,地方自治法134条の規定により懲罰が科されるべきであると考えるなどとして,13日臨時会における被控訴人の臨時議長に就任してから議長席を退くまでの一連の言動(以下「本件一連の言動」という。)を理由として被控訴人に懲罰を科することを求める旨が記載されていた。」と改める。
⑸ 原判決書4頁24行目の「①13日臨時会」から5頁5行目の「対象事由として」までを「本件懲罰動議について審議を行い,懲罰特別委員会の委員長による報告及び討論を経て採決が行われ」と改める。
⑹ 原判決書5頁7行目末尾に,改行の上,「ク 被控訴人は,本件選挙においてF区の選挙区(定数7)から立候補し,1万0852票(4位)の得票により当選した者であったが,本件除名処分に伴い,8557票(8位)を得票した自由民主党公認の候補者が繰上当選(公職選挙法112条5項)した(甲8)。」を加える。
⑺ 原判決書5頁22行目,24行目,26行目,6頁3行目,20行目,23行目,25行目,7頁1行目の「項」をいずれも「号」と改める。
⑻ 原判決書8頁14行目冒頭から25行目末尾までを「⑴ 議員は選挙における有権者の投票によってその地位を取得するものであるところ,除名は議会が議員としての身分を奪う最高の懲罰である。そして,議員が除名された場合,補欠選挙が実施されなければ,その懲罰の是非を問うことがおよそできないし,仮に補欠選挙が実施されるとしても定数(F区の選挙区は定数7)分ではなく,欠員分の選挙が実施されるにとどまることから,少数者の民意が反映されにくくなって,本来の選挙とは全く意味が異なってしまう。そうすると,懲罰について議会に裁量権が認められるとしても,上記のような意味を持つ除名処分については,議会が裁量権を有するということはできず,除名の懲罰に比例するよほどの懲罰事由が認められない限り,議会が議員を除名することは違法になるものと解され,他の懲罰より加重された要件を定める地方自治法135条3項所定の議決を経るからといって,議会に裁量権が認められることにはならない。そして,本件除名処分については,後記⑵及び⑶のとおり,除名に比例する懲罰事由があるとはいえない(相当性を欠く)上,手続的にも問題があったというべきであるから,違法である。」と改める。
⑼ 原判決書9頁7行目冒頭から8行目の「ところ」までを「ア 被控訴人は,本件一連の言動については反省しており,議場において土下座するなど陳謝している。そして」と改める。
⑽ 原判決書11頁13行目の「進められていた上」から15行目末尾までを「進められていた。このように,除名の懲罰を課することの是非について,時間をかけて討議を行った上で結論を出すための前提となるような実質的な弁明の機会が被控訴人に与えられていたとはいえないのであり,被控訴人が何を言っても無駄であると感じてしまったのも当然のことである。」と改める。
⑾ 原判決書13頁8行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「(ウ) 議会は,本件一連の言動のこのような問題を深刻に受け止めて本件除名処分を行ったものであり,このような判断が,社会通念上著しく妥当性を欠くと評価することは到底できず,議会がその裁量権を逸脱又は濫用したものとはいえない。
(エ) なお,被控訴人は,臨時議長の職責に反する行動があったのであれば,議会の総意により臨時議長を解任することで足りるのであり,臨時議長としての振る舞いの問題を理由に議員の身分をはく奪することは相当でない旨主張する。しかしながら,本件除名処分に裁量権の逸脱・濫用がないかを検討するに当たり問題となるのは本件一連の言動自体の評価であり,議会が本件一連の言動に対して取るべきであった対応を主張して,自己に有利に斟酌するよう求めることはそもそも失当というほかない。また,臨時議長からの解任は懲罰とは異なるから,臨時議長から解任されたことにより,本件一連の言動に対する懲罰を免れるものでもない。
そのことを措くとしても,臨時議長の解任については地方自治法等にその解任の可否や要件に関する明文の定めがないところ,まずは被控訴人に対して議事進行の正常化の説得を試みたことは議会の自律権に鑑み,尊重されるべきである。そして,13日臨時会の開会の1時間後の時点において,被控訴人以外の出席議員において,被控訴人を臨時議長から解任する法的義務があったとはいえないし,被控訴人を解任する動議を提出したとしても,これを被控訴人が取り上げないことは必至であったから,上記時点において,被控訴人を臨時議長から解任して議長席から退席を求めることはできなかったものである。」
⑿ 原判決書13頁15行目冒頭から末尾までを次のとおり改める。
「⑶ 本件除名処分の手続的な問題について
本件除名処分には,次のとおり手続上の問題があったとはいえないし,仮に被控訴人が手続上の問題として指摘する事実関係が認められたとしても,本件除名処分の法的効力に影響を及ぼすようなものとはいえない。」
第3 当裁判所の判断
1 認定事実については,次のとおり補正するほか,原判決書の「事実及び理由」欄の第3の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
⑴ 原判決書14頁25行目末尾に「同会議には,第24期において被控訴人と同一会派(改革,所属議員数2名の非交渉会派)に所属していたA前議員が出席していたが,上記決定に異論を述べることはなかった。本件選挙後の同年4月11日にも幹事長会議が開催され,慣例に従って各派世話人会を設置し,同月17日及び同月24日の日程で開催することなどが決定された(なお,A前議員は出張を理由に同会議を欠席した)(乙12〔2頁〕)。」を加える。
⑵ 原判決書16頁2行目の「全員協議会」の前に「全員協議会が開催され,被控訴人を除く67名の議員の賛成により,各派交渉会の設置が決定された(乙12〔2頁〕)。」を加える。
⑶ 原判決書16頁14行目の「11の1〔4~6頁〕」の後に「,乙13〔4頁〕」を加え,18頁6行目の「求めたりすることはしなかった」を「求めたりすることはせず,『議事録精査するか,したら,決定の後かどうか。』と述べたものの,結局,決定を宣言する前に動議が出されていたかどうかについて,議事録を精査することもなかった」と改める。
⑷ 原判決書20頁20行目末尾に「なお,13日臨時会(本会議)の終了後,財政市民委員会,文教委員会,厚生委員会及び建設委員会の開催が予定されていたが,本会議の散会が深夜に及んだため,その開催が不可能となったところ,令和元年第1回臨時会の会期は同月14日までとされ,同日午後に開催予定の本会議までに各委員会での審議を終えておく必要があったことなどから,これらの委員会は,急きょ,同月14日午前中に開催されることとなった(乙22の1・2)。」を加える。
⑸ 原判決書21頁19行目の「質疑応答」の後に「(委員からの質問に対し,B議会事務局次長からは,①議員が法令を遵守することを前提としており,臨時議長が議長選挙を妨害することを予想していないため,臨時議長が職務を遂行しない場合を想定した地方自治法上の規定はないこと,②長時間議長席を占拠していた政令指定都市以外の事例として,鹿児島県阿久根市の事例(2人に対して除名,2人に対して出席停止5日間の懲罰)及び大阪府泉南市の事例(臨時議長に陳謝の懲罰)があること,③平成27年第1回臨時市議会においては,50分程度で正副議長選挙を終えたこと,④13日臨時会において議長を選出することができず,日付けをまたいだ場合,令和元年第1回臨時会は流会となり,改めて臨時会を招集することが必要となって,議案を議決すべき期限を超える事態が生じ,その結果,市政や市民生活に大きな影響を及ぼす可能性(例えば,市税条例の一部改正では,一部の納税者において住宅借入金等特別税額控除の適用がおくれ,不利益をこうむる可能性,国民健康保険条例の一部改正や介護保険条例の一部改正では,保険料額の決定がおくれ,納付通知書等が期限どおり市民に届かなくなる可能性)があったこと,⑤13日臨時会(令和元年5月13日は,本会議のほか,常任委員会の開催も予定されていた。)が深夜に及んだことに伴い,議会事務局職員のほか,議案の所管課職員も深夜まで待機することとなり,概算で約170万円の時間外勤務手当のほか,庁舎の光熱費や深夜帰宅に伴うタクシーチケット代等の経費が発生したと思われること,⑥市民の声を聞く課には,一般市民よりも高い報酬をもらって,市民の代表として働くべき議員が議会を停滞させてどういうつもりなのか,臨時議長を解任されても,議長席を立たず,他の行程を停滞させ,無駄に税金を浪費させた罪は大きいなどの意見が寄せられたこと,⑦被控訴人は,臨時議長として,議事の進行を求める動議を議事に先行して取り扱わなければならなかったこと(本件規則17条参照),⑧被控訴人は,臨時議長として,議長選を立候補により行うべきとの提案に複数の異議が述べられていたのであるから,本件規則85条に基づき起立の方法で表決をとらなければならなかったこと,⑨横浜市の事例(甲1の1)について,除名となった2名の議員において,弁明の場においても反省や陳謝の弁を述べるところはなかったこと,⑩議会における正副議長選挙については,議員全員が選挙権及び被選挙権を有しており,立候補制は採用されていないこと,⑪政令指定都市のうち,本会議中に正副議長選挙について所信表明演説が実施されている例はないが,7市(仙台市,新潟市,さいたま市,千葉市,静岡市,名古屋市及び広島市)においては,本会議の開会前や休憩中に所信表明演説が実施されていることなどが説明された。)」を加える。
⑹ 原判決書23頁26行目の「選出された議員であること」を「選出された議員であり,地方自治法上,当選後1年間は有権者であってもリコール(同法79条,84条)を請求することはできないとされていることとのバランス」と改める。
2 本件除名処分の違法性について
⑴ 除名の懲罰の違法性の判断枠組みについて
憲法は,地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則として,その施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則を採用しており,普通地方公共団体の議会は,憲法にその設置の根拠を有する議事機関として,住民の代表である議員により構成され,所定の重要事項について当該地方公共団体の意思を決定するなどの権能を有する。そして,議会の運営に関する事項については,議事機関としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく,その性質上,議会の自律的な権能が尊重されるべきであるところ,議員に対する懲罰は,会議体としての議会内の秩序を保持し,もってその運営を円滑にすることを目的として科されるものであり,その権能は上記の自律的な権能の一内容を構成するものである。
他方,普通地方公共団体の議会の議員は,当該普通地方公共団体の区域内に住所を有する者の投票により選挙され(憲法93条2項,地方自治法11条,17条,18条),議会に議案を提出することができ(同法112条),議会の議事については,特別の定めがある場合を除き,出席議員の過半数でこれを決することができる(同法116条)。そして,議会は,条例を設け又は改廃すること,予算を定めること,所定の契約を締結すること等の事件を議決しなければならない(同法96条)ほか,当該普通地方公共団体の事務の管理,議決の執行及び出納を検査することができ,同事務に関する調査を行うことができる(同法98条,100条)。議員は,憲法上の住民自治の原則を具現化するため,議会が行う上記の各事項等について,議事に参与し,議決に加わるなどして,住民の代表としてその意思を当該普通地方公共団体の意思決定に反映させるべく活動する責務を負うものである。
そして,普通地方公共団体の議会が,その所属議員に対して懲罰を科した場合,その懲罰の種類が除名であったとしても,当該懲罰は議会の自律的な権能に基づいてされたものとして,その裁量権の範囲内にとどまる限りは尊重されるべきものである(最高裁平成30年(行ヒ)第417号令和2年11月25日大法廷判決・裁判所ウェブサイト掲載参照)けれども,懲罰事由に該当する行為の動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該行為の前後における当該議員の態度,除名による影響(公選の議員の資格をはく奪し,上記責務を果たすことを不可能にするという重大な結果をもたらすことを含む。)等に鑑みて,議会がその裁量権を逸脱又は濫用したと認められる場合には,当該除名の懲罰は違法の評価を免れないものと解される(最高裁昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁参照)。
⑵ 本件一連の言動の懲罰事由該当性及びその態様等について
ア 被控訴人は,13日臨時会の開会に際し,出席議員中最年長の議員であったことから,地方自治法107条に基づき臨時議長に就任し,同臨時会の開会を宣言した後,①全員協議会で設置が決定された各派交渉会において,正副議長選挙の方法については事前に調整済みであったにもかかわらず,これと異なる立候補制による議長選挙の実施を提案し,これを賛成者なく議題と扱ったこと(本件規則15条参照),②被控訴人から指名を受けたC議員からは,議事進行について各派交渉会で決定された選挙方法により議長を選出することを求める旨の発言があったにもかかわらず,これを動議として取り扱わなかった上,「私的雑談の行為」などと揶揄するような発言に及ぶなどしたこと,③出席議員3人以上に異議があることが明らかな状況であったにもかかわらず,起立等の方法により表決をとることなく,上記提案のとおり決定されたものと宣言したこと(本件規則85条参照),④その後も多数の出席議員から,同決定に対して,異議や動議を提出するなどの声が上げられ,議事を正常に進行するよう求める意見が出されたにもかかわらず,上記提案のとおり決定済みであるなどとして,動議を取り上げないばかりか,これらの声を上げた議員に発言の機会を与えず,同決定を宣言する前に動議が出されていたかどうかについて,議事録を精査することもなかったこと,⑤自らの議事進行が出席議員から全く支持されていないことを認識しながら,これを改めようとするどころか,臨時議長の解任について規定がないことを奇貨として,被控訴人を臨時議長から解任することはできないはずであるなどと述べたこと,⑥被控訴人以外の出席議員が立候補の受付に応じようとしなかったことを受けて,事前に立候補表明している被控訴人自身が議長に選出されることになると述べるなど,自らの議事進行に対する反対意見を封じ込め,上記提案に従った議長選挙の実施を押し進めようとしたこと,⑦休憩の動議に賛同した被控訴人以外の出席議員全員が議場から退出し,被控訴人が正常に議事を進行し得ていないことが明確になり,休憩に入った後も,各会派の代表から各派交渉会の決定に従って議長選挙を行うことなどを求められたにもかかわらず,その説得に応じることはなかったこと,⑧被控訴人以外の出席議員全員により,臨時議長の職を解かれ,被控訴人を除く出席議員の中で最年長であるD議員が臨時議長に就任した後も,E議員が議長に選出されるまで,議長席から退かなかったことが認められ,これらの被控訴人の言動は本件除名処分に係る懲罰事由に含まれると解される。
イ 臨時議長は,議長の選挙を行うための議事を行う範囲で,年長の議員が議長の職務を行うこととされているものであり,その範囲で,議長と同様に,議場の秩序を保持し,議事を整理すべき立場にあり,中立かつ公平な立場において職務を行い,民主的な議会運営を行うことが求められているのであって(地方自治法104条,107条,129条,本件条例7条1項),偏頗な議事運営が許されないことは言うまでもない。そして,議長が中立かつ公平な立場で誠実に民主的な議事運営を行うべきことは,会派に所属しているか否かや所属する会派の構成員の多寡等にかかわらず要請されているものである。ところが,被控訴人の本件一連の言動(前記①ないし⑧)は,中立かつ公平な立場において職務を行うどころか,臨時議長に就任したことを奇貨として,立候補制ないし所信表明演説を行わせた上で議長選挙を実施すべきであるという自らの政治的主張を通し,自ら議長に立候補するためにその職権を濫用し,本件規則等に従って表決をとることもなく,自らの提案が決定されたものと扱ったり,動議を提出すると声を上げた議員に発言の機会を与えなかったりなど,非民主的かつ偏頗な議会運営を行って議事を混乱させ,被控訴人を除く出席議員65名の活動を妨害し,議場の秩序を保持すべき立場にありながら,自ら議場の秩序を乱したものであって,極めて悪質な行為というほかなく,これが本件規則101条に違反することは明らかである。
そして,このような本件一連の言動により,13日臨時会においては議長の選出ができない状態が続き,被控訴人が臨時議長である限りは議事進行の正常化が見込めないことが明らかとなった結果,被控訴人以外の出席議員全員によって被控訴人を臨時議長から解任する事態に至り,さらにD議員が臨時議長に就任した後も被控訴人が議長席から退かなかったため,D議員は臨時に設けられた議長席から議事を進行することとなったものであり,開会から約9時間後の午後10時30分頃にようやく,E議員が議長に選出された後,議長席から被控訴人が退いて議場の秩序が回復するに至ったものである。これによって,13日臨時会(本会議)の議事が著しく遅延して散会が深夜に及んだことに伴い,多数の職員が深夜まで待機を余儀なくされ,上記本会議終了後に予定されていた財政市民委員会,文教委員会,厚生委員会及び建設委員会の開催も同月14日の午前中になるなど著しい混乱が生じたことが認められる。また,札幌市議会においてこのような混乱が生じたことについては広く報道されるに至っており(乙25,弁論の全趣旨),札幌市の有権者や国民一般において,札幌市議会の議会運営に対する疑念を生じさせかねない事態を招いたということもできる。
ところで,地方自治法及び本件規則等に議長や臨時議長の解任に関する明文規定はなく,臨時議長を解任することの可否やその要件が明らかであるとはいえないところ,被控訴人においては,13日臨時会において,被控訴人の議事進行が他の出席議員の支持を得られていないことを認識しながら,被控訴人を臨時議長から解任することはできないとの見解を示した上,自らの行動を改めようとしなかったものである。このような状況においても,被控訴人以外の出席議員は,被控訴人に対し,粘り強く議事進行の正常化を求め続けていたものであるが,被控訴人はその説得を受け入れようとはしなかった上,被控訴人以外の出席議員全員により臨時議長から解任された後も,「法律に基づいてやっているんだ。」と述べるなどして議長席から退かなかったものであり,確信的に臨時議長の職権を濫用したものと認めることができる。そもそも,令和元年5月7日に実施された全員協議会において,被控訴人を除く67人の議員の賛成により各派交渉会の設置が決定され,その各派交渉会において議長の選挙方法について事前に調整が行われていたのであり,自分が上記各派交渉会の設置に反対の立場であったとしても,議長の職務を行う者としては,このような議会の自律的な調整の結果を尊重すべきであったといえる。議会における議長選挙の透明性を高めるという観点から立候補制等により議長選挙を実施すべきであるという被控訴人の政治的主張が検討に値するものであるとしても,被控訴人は,地方自治法107条の規定により臨時に議長の職務を行う者であるから,その職務を誠実に追行しなければならないのであり,このような政治的主張は,臨時議長の職務遂行とは離れたところで追求されるべきものであって,自らの政治的主張を追求するために臨時議長の職権を濫用して非民主的かつ偏頗な議事運営を行う行為が正当化される余地のないことは当然のことであり,その動機に汲むべき事情があるとはいえない。
このような被控訴人の本件一連の言動の態様等に照らせば,本件一連の言動が札幌市議会の品位を著しく損ねるものであって,本件規則99条に違反することも明らかである。
ウ 以上によれば,被控訴人の本件一連の言動は地方自治法134条1項所定の懲罰事由に該当するものと認められる(被控訴人も,本件一連の言動が懲罰事由に該当することについては争っていない。)。
⑶ 本件除名処分が裁量権を逸脱又は濫用するものであるか否かについて
ア 前記⑵イにおいて説示したとおり,被控訴人は,臨時議長に就任したことを奇貨として,自らの政治的主張等のためにその職権を濫用し,非民主的かつ偏頗な議会運営を行って議事を混乱させ,被控訴人以外の65名の出席議員の活動を妨害し,自ら議場の秩序を乱したものであって,本件一連の言動は極めて悪質な行為であると言わざるを得ないし,その動機に汲むべき事情はなく,議会運営や他の議員の活動に影響を及ぼしたという観点からは,議会の自律権が尊重されるべき性質の非違行為であるということができる。
イ 被控訴人は,本件選挙後,当選者中,自らが最年長の議員であることを確認しており,平成31年4月25日には,議長に立候補する旨の記者会見も開いているのであって,臨時議長に就任することを見越して,立候補制により議長選挙を実施すべきであるという自らの政治的主張を打ち出し,これを強引に通した上,自ら議長に立候補するために,その権限を利用しようとしていたことが窺われる。そして,被控訴人は,本件除名処分に先立つ弁明の機会において,本件一連の言動に及んだ理由について,知識不足であったなどという弁明を繰り返していたものであるけれども,本件選挙における当選が9回目である被控訴人において,臨時議長の立場でこのような言動に及ぶことが許されないものであることは容易に認識することができたというべきである。また,仮に,被控訴人において,知識不足であったために,臨時議長から解任されることはないと軽信していたとしても,解任されないことを奇貨として臨時議長としての職権を濫用して非民主的かつ偏頗な議事運営を行うことが正当化される余地のないことは明らかである。
ウ 前記ア,イのような本件除名処分に係る諸事情を考慮すると,被控訴人が本件一連の言動が懲罰事由に当たることを認め,弁明の機会において陳謝するなど反省の弁を述べていること,結果的には市政や市民生活に重大な影響が及ぶことは回避されたこと,除名が有権者の投票によって与えられた被控訴人の議員としての地位をはく奪する重大な懲罰であり,しかも本件除名処分が被控訴人の当選した本件選挙の直後になされたものであることなど被控訴人に有利となる事情を十分に考慮しても,札幌市議会がその自律権の行使として除名の懲罰を選択したことがその裁量権を逸脱又は濫用したものであるとはいえないし,手続的な瑕疵があることも全く窺われないから,本件除名処分が違法であると認めることはできない。
3 被控訴人の主張について
⑴ 被控訴人は,被控訴人に臨時議長としての職責に反する行動があったのであれば,議会の総意により被控訴人を臨時議長から解任することで足りるはずであり,臨時議長としての振る舞いの問題を議員の身分としての問題に直結させるのは相当でないなどと主張する。
しかしながら,被控訴人以外の出席議員から,議事進行の正常化を粘り強く求められ続けていたにもかかわらず,被控訴人がその説得を受け入れようとしなかったために議事の混乱が続いたものであり,より早期に被控訴人を臨時議長の職から解かなかったことによって,混乱が継続したなどと評価することは到底できない。そして,議員の臨時議長としての言動について,地方自治法134条1項所定の懲罰事由が認められる場合に,除名を含めた懲罰の対象となり得ることは明らかであるところ,札幌市議会が懲罰の種類として除名を選択したことに裁量権の逸脱又は濫用がないことは前記2において説示したとおりである。したがって,被控訴人の上記主張は理由がない。
⑵ また,被控訴人は,本件除名処分の審議において実質的な討議がされず,多数派である3会派の意向により,被控訴人を除名するという結論ありきで手続が進められ,各議員は所属会派の決定に従って除名の懲罰を科することに賛成しただけであり,個々の議員が熟慮した結果であるとはいえず,被控訴人に対して実質的に弁明の機会が与えられたとはいえないから,本件除名処分は手続的にも問題があったなどと主張する。
しかしながら,本件懲罰動議については,令和元年5月15日に提出された後,27日臨時会において,懲罰特別委員会の設置が決定され,その後,同委員会において,慎重に審査を行うため,閉会中継続審査とすることが決定され,同年6月4日に開催された第2回懲罰特別委員会においては,13日臨時会の録画映像が視聴された後,議会事務局が調査した関係法令及び政令指定都市における議員の懲罰事例の説明や質疑応答が行われ,同月11日に開催された第3回懲罰特別委員会においては,被控訴人からの弁明の聴取及び被控訴人に対する質疑応答が行われ,同月17日に開催された第4回懲罰特別委員会では各委員から意見表明が行われて,被控訴人に対して除名の懲罰を科するべきとの結論が決定され,同月21日に開催された本件定例会において,同委員会の委員長からの報告及び同報告の結論に反対の立場からの討論が行われた後,本件除名処分を科することが決定されたものである。そうすると,本件除名処分については,被控訴人に弁明の機会が与えられており,その手続に瑕疵があるとはいえないし,懲罰特別委員会等における本件懲罰動議の審議経過に鑑みれば,本件除名処分が不当な動機・目的等に基づき決定されたと認めることもできない。したがって,被控訴人の上記主張は理由がない。
⑶ さらに,被控訴人は,除名は議会が有権者の投票によって与えられた議員としての身分を奪う最高の懲罰であることから,これに比例するよほどの懲罰事由が認められない限り,除名の懲罰は違法になるものと解されるなどと指摘した上,本件一連の言動が除名の懲罰に比例しないとして,本件除名処分は違法であることを主張する。
しかしながら,前記2において説示したとおり,除名が有権者の投票によって与えられた議員としての地位をはく奪する重大な懲罰であることなど被控訴人に有利となる事情を十分考慮したとしても,被控訴人は,臨時議長に就任したことを奇貨として,自らの政治的主張等のためにその職権を濫用し,非民主的かつ偏頗な議会運営を行って議事を混乱させ,被控訴人以外の65名の出席議員の活動を妨害し,自ら議場の秩序を乱すなどしたものであって,本件一連の言動は議会制民主主義を否定するに等しい極めて悪質な行為であると言わざるを得ないものであるから,このような懲罰に値するものというべきで,札幌市議会がその自律権の行使として除名の懲罰を選択したことがその裁量権を逸脱又は濫用したものであるとはいえない。したがって,被控訴人の上記主張は理由がない。
⑷ 以上のほか,被控訴人が種々主張するところを検討しても,前記2において説示したところによれば,本件除名処分が違法であると認めることはできないとの判断は左右されない。
4 よって,被控訴人の請求はいずれも理由がないから,本件控訴に基づき,被控訴人の請求を全部認容した原判決を取り消した上,同請求を全部棄却することとして,主文のとおり判決する。
札幌高等裁判所第2民事部
(裁判長裁判官 長谷川恭弘 裁判官 片山信 裁判官 井出正弘)
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