裁判年月日 令和 2年11月30日 裁判所名 知財高裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ネ)10049号
事件名 損害賠償請求控訴事件
文献番号 2020WLJPCA11309003
要旨
◆名称を「チューブ状ひも本体を備えたひも」とする発明に係る特許権の共有者の一人が,特許法73条2項の「別段の定」に反して同発明の実施品を日本において製造販売したことが特許権侵害に当たるとして,他の共有者からの特許権侵害に基づく損害賠償請求及び差止請求が認められた事例
裁判経過
控訴審 令和 3年 6月29日 知財高裁 判決 平29(ネ)10049号
第一審 平成29年 3月29日 東京地裁 判決 平28(ワ)19633号 損害賠償請求事件
出典
裁判所ウェブサイト
判時 2506・2507号122頁
参照条文
特許法73条2項
特許法100条1項
特許法102条2項
裁判年月日 令和 2年11月30日 裁判所名 知財高裁 裁判区分 判決
事件番号 平29(ネ)10049号
事件名 損害賠償請求控訴事件
文献番号 2020WLJPCA11309003
控訴人(一審原告) X
同訴訟代理人弁護士 山内貴博
浜崎翔多
被控訴人(一審被告) 株式会社ツインズ
同訴訟代理人弁護士 鮫島正洋
山本真祐子
森下梓
同訴訟復代理人弁護士 梶井啓順
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人に対し,1億5214万3157円及びこれに対する平成30年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の被告各商品の製造又は販売をしてはならない。
4 被控訴人は,控訴人に対し,特許第5079926号の特許権及び特許第5392519号の特許権につき,それぞれ持分4分の1の移転登録手続をせよ。
5 控訴人の訴えのうち,被控訴人が特許第5079926号の特許権の持分4分の1及び特許第5392519号の特許権の持分4分の1をいずれも有していないことの確認を求める部分を却下する。
6 控訴人のその余の請求を棄却する。
7 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを4分し,その3を控訴人の,その1を被控訴人の負担とする。
8 この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほか,原判決及び中間判決に従う。また,枝番のある書証は,特に表示しない限り,枝番を全て含むものとする。
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,13億3980万円及びこれに対する平成30年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 主文第3項,4項と同じ
4 被控訴人が特許第5079926号の特許権の持分4分の1及び特許第5392519号の特許権の持分4分の1をいずれも有していないことを確認する。
(控訴人は,当審において,上記2の請求額を拡張し,上記3及び4の各請求を追加した。)
第2 事案の概要
1(1) 本件は,控訴人が,被控訴人には次のアからウの債務不履行又は不法行為があると主張して(アとイは選択的な主張),被控訴人に対し,債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき,損害額の合計2億2000万円(ア又はイについて1億円,ウについて1億円,弁護士費用相当額として2000万円)及びこれに対する催告の後の日又は不法行為の後の日である平成28年6月16日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
ア 名称を「チューブ状ひも本体を備えたひも」とする発明についての本件特許権1(請求項の数5)を共有する本件4者は,本件発明1-1の実施について,①Fが中国国内の工場で実施品を製造し,②これをEが梱包し,③これを控訴人が仕入れ,④さらに被控訴人がこれを日本に輸入して販売することとし(本件販売形態),これを唯一の販売形態とする旨の合意(本件実施合意)をしていたのに,被控訴人はこれに反して控訴人からの仕入れを中止し,被告各商品を製造,販売した(本件実施合意の債務不履行)。
イ 被控訴人は,本件発明1-1の技術的範囲に属する被告各商品を製造,販売し,もって本件特許権1(控訴人の共有持分権)を侵害した(特許権侵害による不法行為)。
ウ 被控訴人は,本件4者間に成立した出願に関する合意により,香港への本件発明1-1の特許出願を平成26年5月22日までに行うよう,弁理士へ出願指示をすべきであったのに,これを怠った(出願に関する合意の債務不履行又は不法行為)。
(2) 原審は,①本件4者間において,本件販売形態を唯一の販売形態とする旨の合意は認められない,②本件特許権1について,特許法73条2項の「別段の定」は存在しないから,被控訴人は,他の共有者の同意を得ないで被告各商品を製造,販売することができる,③控訴人の主張するような出願に関する合意は認められないと判断して,控訴人の請求をいずれも棄却した。
(3) 控訴人は,原判決を不服として控訴し,当審において,訴えの変更をし,次の請求をした。
ア 下記の不法行為又は債務不履行に基づく13億3980万円の損害賠償請求及びこれに対する不法行為日の後又は催告した日の後である平成30年8月31日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求
(ア) 被控訴人が平成28年4月1日から平成30年8月31日までの間(29か月間。以下,この期間を「本件対象期間」という。),本件発明1-1の技術的範囲に属する被告各商品を製造,販売したという本件特許権1侵害の不法行為に基づく損害15億8340万円のうち11億1800円の請求
(イ) 被控訴人が本件4者の代表者として香港で本件特許に係る発明(以下,「本件発明」という。)の特許出願手続を誠実に行う旨の合意に違反したという債務不履行に基づく損害1億円のうち5000万円の請求
(ウ) 仮に,本件固定的役割分担合意が認められないとすると,そのような合意がないことを説明することを怠った被控訴人の説明義務違反の不法行為に基づく損害2億円のうち5000万円の請求
(エ) 上記(ア)から(ウ)の損害と相当因果関係のある弁護士費用1億2180万円の請求
イ 特許法100条1項に基づく被告各商品の製造又は販売の差止め
ウ ①被控訴人が本件固定的役割分担合意又は本件共同出願契約に違反したことにより,これらに基づき,本件特許権の持分各4分の1を剥奪されたこと,②被控訴人の本件固定的役割分担合意違反の債務不履行により本件特許を受ける権利の譲渡契約が解除されたこと,③本件固定的役割分担合意の成立が認められないとすると,本件特許を受ける権利の譲渡契約が錯誤無効又は詐欺取消しにより効力を失ったことから,被控訴人が本件特許権の持分各4分の1をいずれも有していないことの確認
エ 上記ウ①の本件固定的役割分担合意又は本件共同出願契約に基づく本件特許権の持分各4分の1の移転登録手続請求,上記ウ②の債務不履行解除による原状回復請求権,又は,特許法74条1項(上記ウ③)に基づく本件特許権の持分各4分の1の移転登録手続請求
(4) 当裁判所は,平成30年12月26日,①本訴請求のうち,特許権(控訴人の共有持分権)侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(上記(3)ア(ア))の原因(数額の点は除く。)は理由がある,②本訴請求のうち,債務不履行に基づく損害賠償請求(上記(3)ア(イ))の原因(数額の点は除く。)は理由がない,③本訴請求のうち,説明義務違反の不法行為に基づく損害賠償請求(上記(3)ア(ウ))の原因(数額の点は除く。)は理由がないとする中間判決を言い渡した。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1) 当事者
ア 控訴人は,「結ばない靴ひも」と称される靴ひも等の雑貨類を被控訴人に対して業として輸出していた者である。
イ 被控訴人は,「結ばない靴ひも」等のスポーツ用品の販売等を業とする株式会社である。
(2) 本件特許権
本件4者は,次の本件特許権を有している。
ア 本件特許権1(甲2)
特許番号 特許第5079926号
発明の名称 チューブ状ひも本体を備えたひも
出願日 平成24年7月4日
登録日 平成24年9月7日
なお,特許公報(甲2)の発明者欄には,控訴人ら3者及び被控訴人代表者が記載されている。
イ 本件特許権2(甲4)
特許番号 特許第5392519号
発明の名称 チューブ状ひも本体を備えた固定ひも
出願日 平成24年8月8日(特願2012-150880の分割)
登録日 平成25年10月25日な
お,特許公報(甲4)の発明者欄には,控訴人ら3者及び被控訴人代表者が記載されている。
(3) 本件特許1の特許請求の範囲
本件特許1の特許請求の範囲の請求項1の記載(本件発明1-1)を構成要件に分説すると,次のとおりである。
A 間隔をあけて繰返し配置され,自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化するこぶを有する伸縮性素材からなるチューブ状ひも本体と,
B ひも本体のチューブ状構造によって構成される中心の管部分に非伸縮性素材からなり,
C こぶのコアを構成し,こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随するようこぶ対応部分にて丸められた中心ひもと,
D を備えたひも。
(4) 本件共同出願契約の契約書の記載
ア 2013年(平成25年)4月15日付け共同出願契約書(甲6契約書)は,中国語で記載され,本件4者の署名があるが,同契約書には,次の記載がある(日本語訳である乙51による。)。
(ア) 頭書
Twins corporation(以下,甲という),X(以下乙という),E(以下丙という),及びF(以下丁という)は,以下第1条に記載の発明(以下「本件発明」という)に係る特許を受ける権利(以下本件特許を受ける権利という)に基づいて,本件特許を受ける権利に基づいて得た特許権(以下「本件特許権」,本件特許を受ける権利とあわせて「本件各権利」という)に関する共同出願について以下のとおり協議した。
(イ) 第1条(発明・発明者の確認)
甲,乙,丙及び丁は,下記枠線内にて特定される前記発明について,その内容及び発明者を確認し,かつ本契約の各種権利を共有する。
(以下,枠線内の記載)
発明の名称:チューブ状型組立基体の紐
発明の内容:間隔をあけて繰返し配置され,自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化するこぶを有する伸縮性素材からなるチューブ状型組立基体の紐
(チューブ状内部に中心紐を備えた紐と備えていない紐の2種類を含む)
発明者 :G
X
E
F
上記計4名
(ウ) 第4条(代表者の選定,協力)
1 本件発明に係る特許出願手続き及び本件特許権の管理手続について,甲,乙,丙及び丁は,甲を代表者として選定する。
2 甲は,代表者として前記手続を誠実に履行することを承諾し,乙,丙及び丁は,甲に協力し,前記手続を履行する。
(エ) 第5条(代理人の選任)甲は,前条に定める手続をH国際特許事務所弁理士H氏に委託し,かつ前記人を代表して本件各項権利内容を取得し連絡する。
(オ) 第7条(本件発明の実施)
甲,乙,丙及び丁は,本件発明の実施に対する協議の後,別途に定める。
(カ) 第8条(権利の譲渡等制限)
甲,乙,丙及び丁は,他の全ての当事者の同意を得なければ,本件特許権を乙,丙及び丁が自ら経営する法人以外の第三者に譲渡し,或いは本件発明の実施を許諾してはならない。
(キ) 第12条(外国出願,分割出願,国内優先権出願)
1 本件発明は,日本国内出願のほか,PCT条約に基づく国際出願,パリ条約に基づく外国出願,及び台湾への出願を行う。
2 PCT条約に基づく国際出願の指定国,及びパリ条約に基づく外国出願の出願国,本件発明の特許出願の分割出願,或いは特許法第41条に定める規定,優先権主張する出願について,甲,乙,丙及び丁は協議の後,別途に定める。
(ク) 第13条(違反行為)
事前の協議・許可なく,本件の各権利(本件特許権)を新たに取得し,又は生産・販売行為を行った場合,本件の各権利は剥奪される。
(甲,乙,丙及び丁の全員が対象である)
(ケ) 第14条(海外販売)
1 日本市場を重視する前提において,日本以外の国で本商品(チューブ状型組立基体のヒモ)を販売する場合,甲,乙,丙及び丁は協議を行った後に,推進することができる。この際の価格は日本市場販売価格の80%以上に設定する。
2 靴に装着された本商品が,OEM形式で提供される場合,甲をあらゆる事務の窓口とする。
(コ) 第16条(協議)本契約に定めのない事項及び本契約に定める事項に関する疑義は,甲,乙,丙及び丁が協議した後,別途に定める。
イ 共同出願契約書(甲5契約書)は,日本語で記載され,作成日付及び本件4者の署名はないが,同契約書には,次の記載がある。
(ア) 頭書
株式会社ツインズ(以下「甲」という。),X(以下「乙」という。),E(以下「丙」という。),およびF(以下「丁」という。)とは,以下の第1条に記載の発明(以下「本件発明」という。)に係る特許を受ける権利(以下「本件特許を受ける権利」という。)に基づく共同出願及び本件特許を受ける権利に基づいて得た特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許を受ける権利とあわせて「本件各権利」という。)に関して以下のとおり合意した。
(イ) 第1条(発明・発明者の確認)
甲,乙,丙及び丁は,下記枠線内にて特定される本件発明につき,その内容及び,本件発明の発明者が,以下のとおりであることを確認し,本件各権利を共有するものとする。
(以下,枠線内の記載)
発明の名称:チューブ状ひも本体を備えたひも
発明の内容:間隔をあけて繰返し配置され,自身に加えられる軸方向張力の大小によって径の大きさが変化するこぶを有する伸縮性素材からなるチューブ状ひも本体を備えたひも
(チューブ状内部に中心ひもを備えたひもと備えていないひもの双方を含む)
発明者 :G
X
E
F
上記計4名
(ウ) 第4条(代表者の選定,協力)
1 本件発明に係る特許出願に関する手続および本件特許権の管理に関する手続については,甲,乙,丙及び丁は,甲を代表者として選定する。
2 甲は,代表者として前記手続を誠実に行うことを約し,乙,丙及び丁は,甲による前記手続に協力する。
(エ) 第5条(代理人の選任)甲は,前条に定める手続を,H国際特許事務所弁理士H氏に委任し,同氏との間で本件各権利に関しなされる全ての連絡を代表する。
(オ) 第7条(本件発明の実施)
甲 乙,丙及び丁は,本件発明の実施について協議の上,別途定める。
(カ) 第8条(権利の譲渡等制限)
甲,乙,丙及び丁は,他の全ての当事者の同意を得なければ,乙,丙及び丁のいずれかが主体となって事業を営む法人以外の第三者に本件各権利を譲渡し,又は本件発明の実施の許諾をすることができない。
(キ) 第12条(外国出願,分割出願,国内優先権出願)
1 本件発明については,日本国内出願のほか,PCT条約に基づく国際出願,パリ条約に基づく外国出願,および台湾への出願を行う。
2 PCT条約に基づく国際出願における指定国及びパリ条約に基づく外国出願における出願国,本件発明の特許出願に基づく分割出願,又は特許法第41条に定める優先権を主張した出願については,甲,乙,丙及び丁協議の上,別途定める。
(ク) 第13条(違反行為)
1 事前に相談 承諾無しに,本件各権利(本件特許権)に関連する特許を新たに取得したり,それに関わる製品販売したりした場合本件各権利を剥奪できる。
(甲,乙,丙及び丁全員対象)
(ケ) 第14条(海外販売)
1 日本市場を重んじて日本以外の他国で本商品(チューブ状ヒモ本体を備えたヒモ)する場合 甲,乙,丙及び丁の合意の元進める事ができる。 その場合日本での市場売価の80%以上とする。
2 靴に装着する本商品をOEM供給する場合の窓口は全て甲を窓口とする。
(コ) 第16条(協議)
本契約に定めのない事項及び本契約に定める事項に関する疑義については,甲,乙,丙及び丁協議の上,別途定める。
(5) 被告各商品の販売
被控訴人は,Fが中国国内の工場で製造し,Eが梱包した本件発明1-1の実施品(以下,「中国産キャタピラン」という。)を控訴人から輸入して,日本で販売していたが,平成28年4月以降,日本において,本件製造会社(同年11月末頃まではスリーランナー,同年12月頃からはモリト)に被告各商品を製造させ,被告各商品を独自に販売している。
(6) 技術的範囲の属否
被告各商品は本件発明1-1の技術的範囲に属する(当事者間に争いがない。)。
(7) 債権譲渡
ア E及びFは,平成29年5月10日,E及びFが被控訴人に対して有する平成28年4月1日から平成29年5月10日までに発生した本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び遅延損害金請求権を控訴人に譲渡し,その旨を被控訴人に通知し,同通知は同年7月3日に被控訴人に到達した(甲63,64,102)。
また,E及びFは,平成31年2月5日,平成29年5月11日から平成30年8月31日までに発生した本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権及び遅延損害金請求権を控訴人に譲渡し,その旨を被控訴人に通知し,同通知は平成31年3月5日に被控訴人に到達した(甲102,103)。
イ E及びFは,平成30年7月31日,本件特許権に係る被控訴人の持分12分の1に係る特許権持分移転登録手続請求権を控訴人に譲渡し,その旨を被控訴人に通知し,同通知は同年8月14日に被控訴人に到達した(甲91~95)。
(8) 相殺
ア 控訴人は,令和元年5月13日,被控訴人に対し,被控訴人が本件特許に係る出願費用及び特許維持費用として平成28年6月28日から平成31年2月25日までに支払った803万8863円に係る請求権について,本件訴訟において請求している特許権侵害に基づく損害賠償請求権を自働債権として相殺する旨の意思表示をした(乙341~343)。
控訴人と被控訴人は,令和元年7月30日の本件第4回弁論準備手続期日において,被控訴人の控訴人に対する上記費用に係る請求権と,控訴人が被控訴人に対して請求している損害賠償請求権を元本どうしで相殺することを認めた。
イ 控訴人は,令和元年9月20日,被控訴人に対し,被控訴人が平成31年4月分から令和元年6月分の本件特許の出願費用及び特許維持費用として支払った40万3832円に係る請求権について,また,同年10月10日,被控訴人に対し,被控訴人が同年7月分から9月分の本件特許の出願費用として支払った70万4573円に係る請求権について,それぞれ,本件訴訟において請求している特許権侵害に基づく損害賠償請求権を自働債権として相殺する旨の意思表示をした(乙414~417)。
控訴人と被控訴人は,令和元年11月5日の第6回弁論準備手続期日において,被控訴人の控訴人に対する上記費用に係る請求権と,控訴人が被控訴人に対して請求している損害賠償請求権を元本どうしで相殺することを認めた。
ウ 控訴人は,令和2年3月3日,被控訴人に対し,被控訴人が令和元年10月分から同年12月分の本件特許の出願費用及び特許維持費用として支払った99万5442円に係る請求権について,本件訴訟において請求している特許権侵害に基づく損害賠償請求権を自働債権として相殺する旨の意思表示をした(乙452,453)。
控訴人と被控訴人は,令和2年9月7日の第12回口頭弁論期日において,被控訴人の控訴人に対する上記費用に係る請求権と,控訴人が被控訴人に対して請求している損害賠償請求権を元本どうしで相殺することを認めた。
(9) 別件訴訟
ア 控訴人は,平成28年12月5日に,株式会社COOLKNOT JAPAN(以下,「訴外会社」という。)を設立し(乙40),その後,同社は,日本において,本件発明1の技術的範囲に属する靴ひもである「COOL KNOT」の販売を開始した。
イ 被控訴人は,平成31年,控訴人及び訴外会社を被告として,控訴人及び訴外会社が日本において結ばない靴ひも「COOL KNOT」を販売していることは,本件共同出願契約13条(以下,「契約13条」という。)に反し,本件特許権1の被控訴人の持分を侵害するなどとして,東京地方裁判所に対し,1億3080万円の損害賠償等を請求する訴訟(以下,「別件訴訟」という。)を提起したが,同裁判所は,令和2年1月30日,被控訴人の請求を棄却する旨の判決をした(甲122)。
知的財産高等裁判所は,同年8月20日,被控訴人の控訴を棄却する旨の判決をした(甲124)。
3 争点
(1) 特許権侵害の不法行為の成否について
ア 本件固定的役割分担合意の有無
イ 本件固定的役割分担合意の解除の成否
ウ 権利の譲渡等制限違反の成否
エ 新特許等を取得しない義務の内容
オ 新特許等を取得しない義務違反の成否
カ 特許出願に関する手続を誠実に行う義務違反の成否
キ 本件発明につき特許を受ける権利の譲渡契約の錯誤無効の成否
ク 本件発明につき特許を受ける権利の譲渡契約の詐欺取消の成否
ケ 特許権の移転登録の要否及び「別段の定」の有無
コ 「別段の定」の解除の成否
サ 「別段の定」違反の主張の可否
シ 通常実施権の有無
ス 過失の有無
セ 無効の抗弁の成否
ソ 控訴人は特許権を有しない旨の主張の成否
(2) 香港での特許出願手続に係る債務不履行の成否について
(3) 説明義務違反の不法行為の成否(説明義務違反の有無)について
(4) 損害の有無及び額
(5) 特許権持分移転登録手続請求の可否
(6) 差止請求の可否
(7) 確認の利益の有無
中間判決において,上記の争点(1)ケに関し,被控訴人が,平成28年4月以降,日本において,本件製造会社に本件発明1-1の実施品である被告各商品を製造させ,被告各商品を独自に販売したことは,特許法73条2項の「別段の定」である契約13条に違反すること,争点(1)コについては,「別段の定」が解除されたものとは認められないこと,争点(1)サについては,控訴人において被控訴人が「別段の定」に違反したことを主張することが信義則に反し許されないものとは認められないこと,争点(1)シについては,被控訴人が通常実施権を有するとは認められないこと,争点(1)スについては,被控訴人には,本件製造会社に本件発明1-1の実施品である被告各商品を製造させ,被告各商品を独自に販売したことが,「別段の定」に違反し,本件特許権1を侵害することについて,少なくとも過失があることから,争点(1)に係る特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)は理由がある,争点(2)に係る債務不履行に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)及び争点(3)に係る説明義務違反の不法行為に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)については,いずれも理由がないとの判断がされた。
また,前記争点(1)セ(無効の抗弁の成否)及び前記争点(1)ソ(控訴人は特許権を有しない旨の主張の成否)に係る被控訴人の主張は,いずれも時機に後れた攻撃防御方法として却下された。
したがって,残る争点は,以下のとおりとなる。
(1) 特許権侵害の不法行為に基づく損害の有無及び額
ア 特許法102条2項に基づく損害額の推定
(ア) 特許法102条2項の適用の可否
(イ) 被控訴人が受けた利益の額
(ウ) 損害の覆滅事由の有無
イ 特許法102条3項に基づく損害額の認定
(ア) 特許法102条3項の適用の可否
(イ) 実施料相当額
ウ 控訴人による損害賠償請求権の放棄の有無
エ 控訴人の損害賠償請求が権利濫用となるか否か
オ 過失相殺の可否
カ 損害の減額事由の有無
(2) 特許権持分移転登録手続請求の可否
ア 特許権持分移転登録手続請求の訴えの追加的変更は適法か
イ 特許権持分移転登録請求訴訟は固有必要的共同訴訟か
ウ 被控訴人が無権利者といえるか
(ア)① 本件固定的役割分担合意又は本件共同出願契約違反により被控訴人の権利は剥奪されることになるのか
② 上記①の権利剥奪効は公序良俗違反等で無効か
③ 控訴人が上記①の権利剥奪効を主張することは権利濫用となるか
(イ) 本件特許につき特許を受ける権利の譲渡契約の債務不履行解除の成否
エ 特許権持分移転登録手続請求権の成否
(ア) E及びFの特許権持分移転登録手続請求権の譲渡は有効か
(イ) 控訴人の請求は中間省略登録となるか
(ウ) 控訴人の請求は訴訟信託となり無効か
オ 控訴人の持分移転登録手続請求が権利濫用となるか
(3) 差止請求の可否
ア 被控訴人に対し,特許法100条1項の適用があるか
イ 差止めの範囲は製造又は販売となるか
ウ 控訴人の差止請求が権利濫用となるか
(4) 被控訴人が無権利者であることの確認の利益の有無
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)ア(ア)(特許法102条2項の適用の可否)
ア 控訴人の主張
(ア) 特許法73条2項は,「別段の定」があるときは,他の共有者の同意が必要となり,その同意がなければ,「特許発明の実施をすること」ができないことを定めているから,「別段の定」違反は,単なる債務不履行ではなく,特許権侵害を構成する。中間判決においても,被控訴人の負う責任が特許権侵害の不法行為責任であることが示されている。したがって,損害額の算定には特許法102条2項が適用される。
(イ) 控訴人ら3者は,被控訴人を通じた本件発明の実施品の日本における販売により利益を得ており,被控訴人の日本への生産移管によりその利益を得る機会が失われたのであるから,特許法102条2項の適用がある。
(ウ) 被控訴人は,控訴人は,契約13条により日本において被控訴人の許諾なく本件発明の実施品を直接販売できないから損害はなく,仮にあるとしても,控訴人の損害は,被控訴人が控訴人から中国産キャタピランを仕入れていた場合と現状との差額に限定されると主張する。
しかし,被控訴人は,結ばない靴ひもの生産を控訴人ら3者に無断で中国から日本に切り替えたことにより,契約13条により本件発明を実施する権限を一切失うのであるから,本件発明の実施に被控訴人の許可は必要ではなく,平成28年4月以降に被控訴人が控訴人ら3者に無断で日本において本件発明の実施品である被告各商品を製造させ,これを独自に販売したことにより得た利益は,全て特許法102条2項により,控訴人の損害と推定される。
「COOL KNOT」を販売しているのは訴外会社であり,控訴人ではない。
(エ) 被控訴人は,被控訴人は特許原簿に登録された持分4の1の共有特許権者であるから,侵害により生じた損害賠償請求権のうち4分の1は,被控訴人に帰属すると主張する。
しかし,特許法73条2項の「別段の定」に違反した特許権の共有者は,当該特許発明を実施する権限を一切失うから,特許権侵害により生じた損害賠償請求権のうち4分の1が被控訴人に帰属することはない。損害賠償請求権はいったん共有者4者に帰属し,そのうち4分の1が債権者と債務者が同一であることにより消滅すると解したとしても,残る共有者3者の持分がその分増加することになるから,控訴人ら3者に帰属する損害賠償請求権が4分の3の限度に限られることはない。
イ 被控訴人の主張
(ア) 特許法102条2項は,特許権者が,特許権者ではない第三者の行為によって損害を被った場合に適用される規定であるところ,被控訴人も特許法98条によって認められた正当な特許権者である。そして,特許法73条2項の「別段の定」によって発生するのはあくまで特許権者間の債権債務関係にすぎず,「別段の定」に違反したことは,特許権者間の債務不履行を構成するにすぎない。
したがって,本件に特許法102条2項の適用はない。
(イ) 控訴人は,Fが製造した中国産キャタピランを被控訴人に輸出する業務を行っていたため,日本に商流を有しておらず,また,控訴人は,契約13条により被控訴人の許可なく日本において本件発明の実施品を直接販売することが禁じられていたから,本件発明の実施品を直接販売することはなかった。したがって,本件では,被控訴人の侵害行為がなければ控訴人が本件発明の実施品を日本で販売することができたという事情はないから,特許法102条2項は適用されない。
また,控訴人が訴外会社を設立したのは平成28年12月5日であり,平成29年6月30日頃に「COOL KNOT」の販売を開始したと推定されるから,平成28年4月1日から平成29年6月30日までの間,控訴人は日本において本件発明を一切実施しておらず,その可能性もなかったものである。したがって,この期間には,特許法102条2項の適用はない。
さらに,「COOL KNOT」の日本における販売以降において,控訴人に損害は生じていない。本件共同出願契約8条において,各契約当事者は自ら経営する法人に他の当事者の同意なく実施許諾することができるものとされており,各当事者による販売と,各当事者の経営する法人による販売とは,本件共同出願契約において同一視されているから,契約13条の規定も,各契約当事者のみならず,その経営する法人による製造,販売行為についても禁止しているものと読むことができる。
訴外会社は,代表取締役が控訴人であり,他に取締役は存在せず(乙40),資本金も500万円と過小で,本件の紛争が顕在化した後の平成28年12月5日に至って,「COOL KNOT」の販売のみを目的として設立された。したがって,形骸化,濫用いずれの理解によっても法人格否認の法理が適用されるべきであり,訴外会社による平成29年6月30日以降の「COOL KNOT」の販売は,控訴人の行為と評価することができる。
(ウ) E及びFは,日本において結ばない靴ひもの製造販売を一切実施していないから,E及びFに生じた損害賠償請求権(持分4分の2)には,特許法102条2項の適用はなく,損害額は同条3項によって推定される。
(エ) 控訴人と被控訴人は共に本件特許権の共有特許権者であり,共有特許権者はいずれも自由に特許発明を実施することが可能であるから,特許法73条2項の「別段の定」に違反したことによって共有特許権者の一方に生ずる損害は,違反が存在しなかった場合に得られたはずの利益に限定されるべきである。したがって,被控訴人が「別段の定」に違反した場合,控訴人が被控訴人に対して請求できる損害は,被控訴人がキャタピランの製造を中国から日本に切り替えたことに基づく損害,すなわち,被控訴人が引き続き控訴人から中国産キャタピランを仕入れていた場合に得べかりし利益と現状との差額に限定される。
仮に,被控訴人が「別段の定」に違反することなく控訴人から仕入れた中国産キャタピランを日本において販売していたとしても,日本における中国産キャタピランの販売に伴う利益は全て被控訴人に帰属することが予定されていた。
したがって,被控訴人の日本での販売に基づく限界利益を損害として推定することは許されない。
(オ) 被控訴人は特許原簿に登録された共有特許権者であり,特許権侵害が生じた場合,生じた損害賠償請求権の4分の1は被控訴人に帰属することになる。
そうすると,仮に,被控訴人による被告各商品の製造販売行為が本件特許権侵害を構成するとしても,侵害により生じた損害賠償請求権のうち4分の1は,被控訴人に帰属することで混同により消滅し,あるいは,被控訴人に帰属する正当な利益であることになり,控訴人ら3者には,自らの持分である4分の3の限度で損害賠償請求権が帰属する。
したがって,本件において特許法102条2項の適用があるとしても,認められる損害額は,推定損害額から推定覆滅事由を考慮して減額した額の4分の3に限られる。
(2) 争点(1)ア(イ)(被控訴人の受けた利益の額)
ア 控訴人の主張
(ア) 被控訴人が本件特許権1を侵害することによって受けた利益の額は,以下のとおり,15億8340万円であり,同額が控訴人ら3者に生じた損害と推定される。本訴では,その一部である11億1800万円を請求する。
そして,控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求額は,総額12億1800万円(特許権侵害の不法行為の損害賠償請求権として11億1800円,特許出願に関する手続を誠実に行う義務の債務不履行の損害賠償請求として5000万円,説明義務違反〔不法行為〕に基づく損害賠償請求として5000万円)であるから,これらと相当因果関係のある弁護士相当額は,1億2180万円となる。
(イ) 被控訴人の被告各商品の売上げについて
a 被控訴人が,任意に控訴人に交付した平成27年4月1日から同年9月30日までの売上金額が記載されたデータファイル(甲104)には,同期間の売上金額の合計は,●●●●●●円と記載されているから,同期間における1か月当たりの売上金額の平均は,約●●●●●●●●●円となる。この数値に基づいて,本件対象期間における売上金額の合計を試算すると,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となる。
b 被控訴人が作成した乙372(キャタピラン6種類経費〔国産のみ〕)には,本件対象期間(29か月間)中の中国産キャタピラン及び被告各商品の売上数量の合計は●●●●●●●●ペアとされているから,これを前提とすると,1か月当たりの売上数量の平均は,約●●●●●●ペアとなる。しかし,これは,被控訴人代表者が本件訴訟で裁判所に提出した陳述書(乙60)の記載と異なるものである。また,被控訴人は,被告各商品を取り上げた雑誌等で,「2014年度は年間140万個を販売」(平成28年3月17日),「2016年3月期は130万本を販売」(平成28年5月13日),「自社生産に加え他者への委託生産も含め,合わせて月産10万から15万本体制とし,現在の輸入量とほぼ同じ数量を日本産として輸出できるようにする」(平成28年5月13日)などと述べている。さらに,被控訴人の担当者は,控訴人に対し,平成27年4月1日に,同年3月の出荷本数として,実績約12万ペア,欠品がなければ14万ペア程度は出荷できたと報告している(甲105)。これらを前提とすると,本件対象期間中における売上数量の合計は348万ペア(12万ペア×29か月)となる。このうち,問屋を介して小売店に卸すという形で販売される数と問屋を介さず直接小売店に卸すという形で販売される数は半数ずつ程度である(甲106)。
他方,乙372によると,本件対象期間中の被告各商品の売上数量の合計は●●●●●●●●ペアで売上金額の合計は●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●である。しかし,被告各商品の問屋を介して小売店に卸すという形で販売される場合の卸売価格は400円から450円程度であり,問屋を介さず直接小売店に卸すという形で販売される場合の卸売単価は440円から575円程度であり(甲106),また,被控訴人は,小売店を通さずに最終需要者に直接販売する小売も行っており,その際の主要商品であるキャタピランの小売単価は907円(甲10)である(いずれも消費税は含まれない。)。控訴人の父が大量のキャタピランを購入した際の被控訴人の提示価格は,特別な割引価格として単価400円(消費税は含まれない。)であった。したがって,被控訴人が乙372に基づいて主張する本件対象期間中の被告各商品の売上数量及び売上金額は,単価の面からも信用できない。
よって,本件対象期間における被告各商品の売上金額の合計は,15億8340万円(410円×174万ペア+500円×174万ペア)となる。
c 調査嘱託の回答について
① 別紙1「被控訴人の売上一覧表」(以下,「別紙1」という。)のB列は,被告各商品を購入した取引先名である。被控訴人は,赤枠白抜きの取引先については,調査嘱託書の送付先を特定の個人とするよう求めており,これらの取引先と被控訴人は極めて親密な関係があると考えられる(以下,これらの取引先を「被控訴人親密取引先」という。)
② 被控訴人から直接購入した取引先
別紙1の番号1から182の取引先(以下,同別紙の取引先は,「番号1の取引先」などと記載する。)は,被控訴人から直接購入したと調査嘱託に回答した取引先(A列には調査嘱託の際の整理番号を記載したもの)と,被控訴人が提出した売上一覧表(乙409)に記載された取引先のうち,調査嘱託の対象としていなかった取引先(A列には「嘱託外」と記載したもの)である(以下,これらを「グループA」という。)。
別紙1のG列は,調査嘱託の回答を集計した売上金額で,総額●●●●●●●●●●●円となり,これだけで,被控訴人が主張する売上金額を上回っている。
別紙1のI 列は,被控訴人が主張する個別の取引先に対する売上金額(乙409)である。I列の数字が調査嘱託の結果より大きい取引先や,乙409に記載があるのに調査嘱託に回答しなかった取引先が存在する。これらの多くは,被控訴人親密取引先であり,今回の調査嘱託に当たって,被控訴人が働きかけを行い,乙409の記載よりも小さな数字を回答したか,回答そのものを拒否したものと思われる。
そうすると,これらの取引先からの調査嘱託に対する回答は信頼できないと考えられるが,乙409の数字も基本的に信頼に足るものではない。そこで,控訴人の経験に基づき推測した1店舗当たりの1か月当たりの売上個数に店舗数を乗じたものを販売個数とし,単価は,調査嘱託に対する回答にあった金額を数量で除したもの(H列)を参考に推測したものとし,これに本件対象期間である29か月を乗じたものを,控訴人が主張する売上金額とした(L列)。
他方,例えば,番号1の取引先については,同社からの回答が乙409の売上金額を3000万円も上回っており,乙409の数字が虚偽であったことが分かる。番号33の取引先に至っては,乙409に記載がない。このようなケースの場合,乙409(I列)よりは調査嘱託への回答(G列)の方が信頼できそうであるが,調査嘱託先が被控訴人親密取引先の場合は,調査嘱託に対する回答も信用できない。この場合も,前段落と同様の推測を行い,控訴人の主張する売上金額とした(L列)。
最後に,調査嘱託に対し回答した売上金額(G列),乙409記載の売上金額(I列),控訴人の主張する売上金額(L列)を比較検討し,各取引先に対する売上金額をK列に記載した。その合計は,10億9631万7502円である。
なお,番号75の取引先の調査嘱託の回答によると,平成30年1月1日から同年8月31日までの取引数量は●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●●円となるので,平均単価は約●●●円である。同社の回答によると,平成28年3月21日から平成29年12月31日までの取引金額は●●●●●●●●●円で,取引数量の回答がないところ,平均単価を410円と推測すると,この時期の取引数量は●●●●●●ペアとなるから,本件対象期間の取引数量は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となる。
また,調査嘱託の回答によると,番号182の取引先は,「キャタピラン75cm」と安全靴のセット●セットを1セット当たり●●●●円(税込)で購入したとのことである。このうち「キャタピラン75cm」相当分は,卸売価格のおおよその平均である●●●円であると推定し,購入価格を●●●●●●●●●●●●●●円と推定した。
③ 被控訴人以外から購入した取引先
番号183~259は,被控訴人以外から購入したと回答した取引先である。
このうち,番号183の取引先から番号199の取引先までが,グループAに含まれていない業者から購入したと回答した。これらに対する売上げは,グループAに対する売上げと重複しないから,全額を被控訴人の売上金額とすることができる(X列)(以下,これらを「グループB」という。)。
番号200の取引先から番号259の取引先までは,グループAに含まれる取引先から購入したと回答した。これらは,原則として被控訴人からグループAに対する売上げと重複すると考えられる。もっとも,例えば,番号207の取引先は,番号85の取引先から購入したと回答したが,番号85の取引先が被控訴人から購入した販売金額よりも,番号207の取引先が番号85の取引先から購入した金額が上回っている。これはあり得ないから,番号85の取引先からの調査嘱託の回答が何らかの誤りを含んでおり,これと重複していないと考えられる。したがって,番号207の取引先の購入金額は,被控訴人の売上げとすることができる(X列)。
同様に,番号55の取引先の転売先,番号77の取引先の転売先,番号78の取引先の転売先,番号79の取引先の転売先,番号84の取引先の転売先,番号95の取引先の転売先,番号108の取引先の転売先,番号113の取引先の転売先,番号152の取引先の転売先への売上げも,被控訴人の売上げとすることができる(X列)(以下,これらを,「グループC」という。)。
グループBへの売上金額とグループCへの売上金額を合計すると,●●●●●●●●●●●円となる(X列)。
④ グループAへの売上金額10億9631万7502円と,グループB及びCへの売上金額●●●●●●●●●●●円を合計すると,15億4101万5912円となる。
なお,グループB及びCへの売上金額には,被控訴人とこれらの取引先の間に入った中間業者の利益が含まれている。他方で,グループBが購入した調達先(S列)の,その他の取引先に対する売上金額は含まれていないし,番号297の取引先以下の回答がなかった取引先に対する売上金額は含まれていない。したがって,全体としては,被控訴人の売上金額の実相に極めて近い金額であると考えられる。
d 売上げに関する被控訴人の主張及び証拠が信用できないこと
被控訴人は,乙372に基づき,被告各商品の売上数量は,●●●●●●●●ペアであると主張するが,以下のとおり,乙372や被控訴人の主張は信用することができない。
① 被控訴人が乙372に基づいて主張する売上げは,前記aのとおり,信用することができない。
② 被控訴人代表者が,平成27年9月15日に控訴人に提示した資料(甲113)によると,スリーランナーに対する委託製造費は,少なく見積もっても単価が●●●円であると考えられ,乙372に記載された委託製造仕入高から割り出される本件対象期間の委託製造数は,160万6434ペアとなる。また,控訴人から被控訴人に対する販売価格は,円換算して,50cmの商品の場合,195.6円,75cmの商品の場合,205.2円であったから,本件製造会社に対する委託製造費がこれを超えることはあり得ない。仮に,被控訴人から本件製造会社に対する委託製造単価を控訴人から被控訴人に対する販売価格の単純平均値である200.4円とすると,乙372の「委託製造仕入高」から割り出される本件対象期間の委託製造数は,112万2259ペアとなる。
③ 被控訴人が新潟県燕市の自社配送センター(ツインズロジスティックセンター)に併設した工場(以下,「TLC」という。)に設置した製紐機の設置状況(乙362)からすると,被控訴人において平成28年3月から償却を始めた製紐機が3台,同年9月から償却を始めた製紐機が3台(これら6台のうち1台は予備機か試作用と思われる。),同年12月から償却を始めた製紐機が8台あり,平成29年10月に,3台の製紐機を追加で導入している。また,新聞報道(甲115の1)によると,被控訴人は,5本の製造ラインにより,月間約2万から3万ペアを製造するとしていた。
これらによると,TLCにおける製造能力は,本件対象期間の合計で,169万500ペア(1ライン当たり月産5000ペアと仮定した場合)から339万ペア(1ライン当たり月産1万ペアと仮定した場合)を超える数であって不思議ではない。
これに対し,被控訴人は,TLCではキャタピーエアーなど被告各商品以外の商品を多く生産していると主張するが,キャタピーエアーの販売期間は本件対象期間のわずか10か月にすぎず,TLCの製造能力と被控訴人の主張する売上数量の乖離を説明するものではない。
④ 被控訴人によると,被控訴人の営業活動により,被告各商品の取引先は拡大したとのことである。靴ひもは消耗品であるから,いったんリピーターを獲得できれば継続的な売上げが期待でき,販売ルートが拡大すればするほど売上数量もそれに比例して増加する(甲114)。したがって,被控訴人の取引先が増加したにもかかわらず,被告各商品の売上数量が下落することなどあり得ない。
特に,被控訴人の最大の取引先である●●●●●●●●●●は,被控訴人が控訴人に無断で日本での製造を始めた頃の平成28年2月時点での国内店舗数が849店舗であったのに対し,その後も継続して順調に店舗数を増加させており,平成30年2月の時点では939店舗に達している(甲117)。控訴人は,被控訴人と取引のあった平成26年から27年の時点ですら,●●●●●●●●●●のみで週に7000から8000ペア,月に少なくとも3万ペアが売れていたと被控訴人から聞いていた(甲114)。この事実のみからしても,被控訴人が控訴人に無断で日本での製造を始めて以降,被告各商品の売上数量が月3万ペアにまで下落することはあり得ない。
⑤ 調査嘱託の結果,被控訴人がモリトから購入した被告各商品は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,スリーランナーから購入した被告各商品は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,平均単価●●●円であり,控訴人の推測が正しかったことが裏付けられた。また,被控訴人の主張する売上数量及び売上金額は,本件製造会社から調達した分のみであり,TLCでの製造分を除外したものであることも裏付けられている。
⑥ 被控訴人は,乙348において,被告各商品の売上数量及び売上高を,日本産キャタピラン等と中国産キャタピラン等に切り分ける際に,「被控訴人は,在庫を仕入日が古い順に販売していく」ことを前提に,平成28年3月末時点で残っていた在庫数量が全て販売されるまでは中国産キャタピラン等の売上げとして計上し,その後は日本産キャタピラン等の売上げとして計上したと説明しているが,被控訴人が,「在庫を仕入日が古い順に販売していく」方針を例外なく遵守しているとの点についての立証はない。平成28年3月末時点で残っていた在庫数量が全て販売されるまでは中国産キャタピラン等の売上げとして計上すれば,日本産キャタピラン等の売上げは実際よりも少なく計上されているはずであり,被控訴人が主張する被告各商品の売上数量は,実際よりも少なく計上されたものである。
(ウ) 被控訴人の経費について
a 経費に関する被控訴人の主張及び証拠が信用できないこと
① 被控訴人は,乙372に基づいて被告各商品の製造販売の経費を主張するが,前記(イ)dのとおり,被控訴人の主張は信用できないし,被控訴人は,乙372の売上数量及び売上金額について本件製造会社の製造分を過小に主張しているだけでなく,TLC製造分を含んでいないことになる。それにもかかわらず,被控訴人は,TLC製造分に関する経費を控除すべきとして主張しており,経費に関する乙372に記載の数字を信用することはできない。
② 被控訴人は,乙372について,日本産キャタピラン等の製造販売のみに要する費用については,被告各商品の製造販売に要する費用とそれ以外の商品の製造販売に要する費用とが含まれていることから,各月の製造原価比率で按分したこと,中国産キャタピラン等の販売と日本産キャタピランの販売の両方に要する費用については,各月の販売比率で按分したと主張する。
しかし,そもそも被告各商品以外の費用が含まれている時点で,被告各商品の製造販売を開始するに当たって初めて必要となった費用とはいえず,侵害品の「製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」に該当しないことは明らかであるし,上記比率で按分することで算出された数字が侵害品の「製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」の数字として正確であるといえる根拠もない。加えて,各比率の算定の基礎となる被控訴人の主張する売上数量が誤っている以上,各比率自体も誤りであり,当該比率に基づいて算出された数字も誤っている。したがって,この意味においても,被控訴人の主張する数字を正しい数字として扱い,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費として認めることはできない。
③ 被控訴人は,乙421に記載された金額が経費であると主張するが,被控訴人が限界利益額の主張を変遷させたのは2回目であり,この意味でも,被控訴人の経費に関する主張には信用性がない。
b 原材料費
① 原料仕入高について
被控訴人は,「原料仕入高」に計上された原材料は,TLCで用いたものに限られているとしているが,被控訴人は,販売数量についてTLC製造分を除いた主張をしているのであるから,被控訴人の主張によると,そもそも「原料仕入高」が計上されるはずはなく,被控訴人の主張する販売数量に応じた「原料仕入高」の数字を正確に主張しているとは認められない。したがって,「原料仕入高」について,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費であることが立証されているとはいえない。
② 「租税公課(関税)」について
これは,原材料や製紐機の輸入に係る費用のようである(乙350)が,原材料や製紐機の輸入に係る費用はTLC製造分に関する費用であるから,「原料仕入高」と同様に,「租税公課(関税)」についても限界利益を算定する過程で差し引くべき経費であることが立証されているとはいえない。
乙350に,「キャタピラン材料輸入」ないし「ナイロン糸輸入関税」が2回,「製紐機3台輸入関税」が1回計上されている。しかし,前者については乙345に現れた原材料の調達回数と整合しないし,後者については乙362に現れた製紐機の調達回数と整合しない。したがって,これらの数字は信用できず,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
被控訴人は,輸入関税の一部が乙350以外の会計元帳に振り分けられたことを自認しているが,これは被控訴人の会計帳簿が極めて粗雑に作成されていることを示すものであり,このような会計帳簿に基づく被控訴人の限界利益の主張には信用性はない。
③ 「委託製造仕入高(スリーランナー,モリト)」について
乙372において被控訴人が主張する販売数量●●●●●●●●ペアに比して,●●●●●●●●●●●円というのは明らかに過大であり,正確な数字を主張しているとは認められない。したがって,「委託製造仕入高(スリーランナー,モリト)」について,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費であることが立証されているとはいえない。
④ 「包装費(スリーランナー,モリト,TLC製専用)」,「包装費(パッケージ,台紙,JANシール)」,「包装外注工賃(国産製専用)」及び「包装外注工賃」について
これらについても,TLC製造分に係る費用を含んでいると考えられるため,被控訴人の主張する販売数量に応じた正確な数字を主張しているとは認められない。また,これらについては,製造原価比率又は中国産,日本産の販売比率で按分していると考えられるところ,これらの比率を用いて算出された数字は正確な数字ではない。したがって,これらの費用について,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費であることが立証されているとはいえない。
また,これらの各項目は,「国内取引先」を一括計上している乙351から個別に拾ったもののようであるが,これらの中には国内向け製品の経費とは認められない経費も含まれている上,被告各商品の各月の製造数又は販売数との整合性が確認できない。したがって,乙372の記載は信用できず,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
c 個別固定費について
被控訴人の主張は,いずれもTLC製造分に関するものであるが,被控訴人は,販売数量についてTLC製造分を除いた主張をしているのであるから,被控訴人の主張する販売数量に応じた正確な数字を主張しているとは認められず,また,製造原価比率で按分しているとされる点においても正確な数字であるとはいえない。したがって,個別固定費について,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費であることが立証されているとはいえない。
① 「賃金(製造担当者のみ)」,「法定福利費」及び「旅費交通費」について
本来,従業員の雇用は当該企業の責任とリスク負担で行われるべきものであり,当該従業員に支払われた給与等の固定費を売上高から差し引けば,特許権の侵害者がリスクを負担すべき費用を特許権者が負担することになり,不当であるから,これらを限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
また,乙372に記載された「賃金(製造担当者のみ)」を見ると,月ごとに費用が●●●●●●●●●●●円まで大きく変動している。仮に,当該製造担当者が被告各商品の製造を専ら担当しているのであれば,毎月一定額の賃金が発生すると考えられるが,上記のとおり大きく変動していることからすると,当該製造担当者は被告各商品の製造を専ら担当しているものとは考えられず,被告各商品を製造販売するために雇い入れた従業員であることは何ら立証されていない。被控訴人が,これらの費目を製造原価比率で按分していることから,当該従業員が被告各商品以外の商品の製造も担当していることは明らかであり,当該従業員は被告各商品の製造を担当しないのであれば,他の商品の製造等を担当するだけであるから,これらの費目は,被控訴人の侵害行為に関係なく必要となる費用であり,侵害品の「製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」とはいえない。
② 「工場消耗品費」,「製紐機修繕費」及び「地代家賃」について被控訴人は,TLCに設置された製紐機において被告各商品以外の商品を製造していることを自認している。被控訴人は,製造ラインを16本にまで増やしている一方で,TLC製造分は●●●●●●●ペアにすぎないと主張しているから,被控訴人は,TLCにおいて被告各商品以外の商品を相当数製造しているものと考えなければならない。そうすると,被控訴人の侵害行為に関係なく,被告各商品以外の商品の製造のために工場の賃借や製紐機の導入等が行われたといえるから,これらの費用は,侵害品の「製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」とはいえない。
また,地代家賃は,毎月一定額支出されているわけではなく,月ごとに大きく金額が変動しており,何の地代家賃であり,どのような根拠で算出されたかが全く不明である。「ツインズロジスティックセンター」は「自社配送センター」であると報道されており(甲115),その状況を示した写真(乙371)を見ても,はたして賃借部分が存在するのか,その割合はどの程度であるのかが判然としない。したがって,この意味でも,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
d 製造変動費について
① 「外注加工費」について
これについても,被控訴人の主張はTLC製造分に係る費用を含んでいると解され,被控訴人が主張する販売数量に応じた正確な数字であるとは認められない。また,乙356の1には,「キャタピーエアー梱包内職代」と記載されているものもあり,被控訴人が製造原価比率で按分していることから,「外注加工費」には,被告各商品以外の商品の費用も含まれていることは明らかである。
仮に,出来高によって費用が変動するのであれば,その実際の出来高に応じた正確な費用を算出しなければならないが,被控訴人は,そもそも算定の基礎に誤りのある製造原価比率なるものを用いて数字を算出しているのであるから,被控訴人の主張する「外注加工費」の数字は,被告各商品に直接関連するものだけを正しく抽出したものではない。
また,外注加工費の支払先とされる者が,被告各商品を製造する過程でいかなる作業を行ったのかが立証されていない。
したがって,外注加工費を限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
② 「製紐機の減価償却費」及び「水道光熱費等」について
これらの費用は,TLC製造分に関するものであるところ,被控訴人は,販売数量についてTLC製造分を除いた主張をしているのであるから,被控訴人の主張する販売数量に応じた正確な数字を主張しているとは認められない。製造原価比率で按分していると考えられるから,この点においても正確な数字であるとはいえない。
また,被控訴人の侵害行為とは関係なく,被告各商品以外の製造のために製紐機の導入等が行われたから,侵害品の「製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」とはいえない。
さらに,この根拠として提出された乙362は本件訴訟のために作成されたものであり,総勘定元帳といった原資料が提出されていない。
したがって,これらの費用を限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
e 運賃について
① 「運賃(材料輸入時)」について
これは,TLC製造分に関するものであるところ,被控訴人は,販売数量についてTLC製造分を除いた主張をしているのであるから,被控訴人の主張する販売数量に応じた正確な数字を主張しているとは認められない。また,被控訴人は製造原価比率で按分して数字を算出していることからすると,按分前の費用には被告各商品以外の商品の運賃も含まれていると考えられるところ,そうであれば,被告各商品の製造にかかわらず材料を運搬する必要があるから,侵害品の「製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」とはいえない。さらに,製造原価比率で按分している点においても正確な数字であるとはいえない。
この費用は,「結ばない靴ひも」の原料(主に糸とゴム)を輸入した際の運賃と思われるが,乙349の「材料仕入高」及び乙350の「(原)租税公課」に現れた各項目と突合できるはずである。したがって,被控訴人によって突合の結果が示されない限り,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
② 「荷造り運賃(福山通運)」について
これについても,TLC製造分に係る費用を含んでいると考えられるから,被控訴人の主張する販売数量に応じた正確な数字を主張しているとは認められず,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費であることが立証されているとはいえない。また,「運賃(材料輸入時)」と同様に,被控訴人は製造原価比率で按分して数字を算出していることからすると,按分前の費用には被告各商品以外の商品の荷造り運賃も含まれていると考えられる。被告各商品の製造販売にかかわらず,運搬する必要があるのであるから,侵害品の「製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」とはいえないし,さらに,製造原価比率を用いて算出された数字は,被告各商品に直接関連するものだけを正しく抽出したものともいえない。
f 在庫保管経費について
被控訴人の主張は,TLC製造分に係る費用を含んでいると考えられるから,被控訴人が主張する販売数量に応じた正確な数字を主張しているとは認められない。また,中国産キャタピラン及び日本産キャタピランの販売比率を用いて数字を算出しており,このような数字は正確な数字であるとはいえない。したがって,在庫保管経費について,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費であることが立証されているとはいえない。
乙439に記載のとおり,被告各商品以外の商品も保管されていることからすると,単に自社の在庫保管倉庫に被告各商品を保管しているだけのことであり,被告各商品を製造販売するに当たって初めて倉庫が必要になったとはいえないから,侵害品の「製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」とはいえない。
被控訴人は,「地代家賃」及び「水道光熱費」は,生産された結ばない靴ひもを保管する倉庫の費用と主張するが,その証拠として提出された乙371は単なる写真であり,倉庫の「家賃」及び「水道光熱費」の額を立証できる証拠ではない。
したがって,これらの費用を限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
g 販売管理費について
これについても,TLC製造分に係る費用を含んでいると考えられるから,被控訴人が主張する販売数量に応じた正確な数字を主張しているとは認められない。また,中国産キャタピラン及び日本産キャタピランの販売比率を用いて数字を算出しているところ,このような数字は正確な数字であるとはいえず,被告各商品に直接関連する費用のみが抽出されているとはいえない。したがって,販売管理費について,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費であることが立証されているとはいえない。
① 「支払手数料(販売口銭)」について
これは,総勘定元帳の「支払手数料」(乙360)に大量に計上された項目から人力で抽出されたもののようであるが,支払先が行った業務の内容は示されておらず,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
② 「業務委託費」について
これは,乙365に現れた業者に支払われたもののようであるが,これらの支払先が行った業務の内容は示されておらず,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
③ 「広告宣伝費」について
被控訴人による宣伝広告は通常の範囲のものにすぎない。また,乙372を前提にすると,本件対象期間における1か月当たりの売上金額の平均は,約●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●であって,平成27年4月1日から同年9月30日までの期間の1か月当たりの売上金額の平均約●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●から7割以上も減少しているから,被控訴人の広告宣伝活動は全く功を奏していない。被告各商品の販売に寄与していないため,広告宣伝費が限界利益を算定する過程で差し引くべき経費に当たるということはできない。
また,総勘定元帳の「広告宣伝費」(乙361)の広告内容は示されておらず,限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
イ 被控訴人の主張
(ア) 被控訴人の限界利益は,乙372のとおり,●●●●●●●●●円である。乙372は,資料を改めて精査した結果,控除されるべき費用,誤って多く控除していた費用等が判明したため,乙128を訂正したものである。
調査嘱託の結果に基づき,被控訴人から直接購入したと回答された被告各商品の取引金額を単純に合計すると,●●●●●●●●●●●円となり,乙409の総額●●●●●●●●●●●円と比較すると,6846万8993円少ない。しかし,乙409の●●●●●●●●●●●円は,乙408に示した「中国産キャタピランしか存在しない商品」,及び乙348に示した「被控訴人倉庫に在庫保管されていた中国産キャタピラン」に関する売上げが含まれている。これらの中国産キャタピランの平成28年4月から平成30年8月の売上総額は,乙409の●●●●●●●●●●●円から乙348の被告各商品に係る売上総額である●●●●●●●●●●●円を減じた●●●●●●●●●●●円である。
調査嘱託の結果に基づく取引金額の合計●●●●●●●●●●●円から,中国産キャタピランの売上金額●●●●●●●●●●●円を減じると,●●●●●●●●●●●円となり,ここから,被控訴人の経費合計額●●●●●●●●●●●円(乙372)を減じると,控訴人の有する損害賠償請求権は,相殺額を考慮するまでもなく存在しないことになる。
(イ) 本件対象期間中の被告各商品の売上げについて
a 被控訴人は,会計帳簿に売掛金の金額と取引先名のみを記載しており,取引された商品ごとに区分して記載しているわけではないため,会計資料に基づき被告各商品の売上数量及び売上金額を把握することができない。
そこで,平成28年3月末時点での被告各商品に対応する中国産キャタピランの在庫数量を販売管理用データベースから抽出し(乙345),被告各商品について,本件対象期間の売上数量及び売上金額を同様にデータベースから抽出し(乙346),本件対象期間の被告各商品の仕入数量をデータベースから抽出した(乙347)。
このように抽出した在庫数量,売上数量及び売上金額並びに仕入数量に基づき,被告各商品と中国産キャタピランとに切り分ける作業を行った(乙348)。具体的には,被控訴人は,在庫を仕入日が古い順に販売していくため(乙402),品目ごとに,平成28年3月末時点で残っていた在庫数量が全て販売されるまでは中国産キャタピランの売上げとして計上し,その後は被告各商品の売上げとして計上した。
これによると,本件対象期間中の被控訴人の被告各商品の売上げは,●●●●●●●●ペア,●●●●●●●●●●●円である(乙372)。
b 控訴人は,被告各商品の月間販売数量を約12万ペアであると主張するが,平成26年から平成27年にかけて,キャタピラン等は,テレビ放映などによるブームもあって月間10万ペアを超える売上げを記録し,同年3月の売上げ本数は13万0114ペアであったが,その後,販売数量は減少し,平成28年5月には約3万7000ペアとなっている。被控訴人代表者も,控訴人に対し,平成27年11月には月間売上げが6万ペアである(乙68)とか,平成28年3月には月間売上げが5万ペアから7万ペアである(乙373)などと説明している。控訴人が指摘する雑誌等の記載は,被控訴人がマーケティング活動の一環として述べた不正確なセールストークに基づくものである。また,甲104は,被控訴人の販売する全商品の売上げから第一営業部による売上げを抽出したものであり,この資料に基づき,本件対象期間中の被告各商品の売上げを算定することはできない。
被控訴人が問屋を介さずに小売する販売先として一番の得意先である●●●●●●●●●●への販売単価は345円であり(乙346),被控訴人の乙372に基づく主張は,被控訴人の会計帳簿に基づくもので正しいものである。
c 控訴人は,被告各商品の製造数について主張する。
本件対象期間中,被控訴人のモリトに対する発注数の合計は●●●●●●●ペア,スリーランナーに対する発注数の合計は●●●●●●●ペアであり,その合計は●●●●●●●●ペアである。このうち●●●●●●●●ペアが実際に納品された。
また,本件対象期間中に,被控訴人が自社(TLC)に発注した被告各商品は,●●●●●●●ペアである(乙422)。このうち,平成30年7月に●●●●●●ペアが発注されているから,これを除くと発注総量は●●●●●●●ペアである。被控訴人は,TLCに設置した製紐機では,被告各商品をほとんど生産しておらず,被告各商品以外の商品を生産している。結ばない靴ひもは消費者向けの商品であり,欠品が許されないため,被控訴人は,TLCに十分な生産余力を残すこととしているし,TLCの製紐機を利用して,靴ひもに限らず,様々な商品の開発・生産や,現行商品の改良等の業務を行っている(乙402,418,419)。上記発注数には,協賛品,サンプル品等が含まれており,実際に取引先に販売した数量は,●●●●ペアである。
(ウ) 被控訴人の経費について
a① 乙372について
被控訴人の経費は,乙372記載のとおりであり,乙372の計算根拠は次のとおりである。
被控訴人は,結ばない靴ひもの製造販売事業だけでなく,その他の事業も営んでいるため,本件対象期間の被控訴人の経費から,結ばない靴ひもの製造販売事業とは無関係の経費を除外した。
次に,被控訴人が販売する結ばない靴ひもには,中国産のキャタピラン及びそのバリエーションと日本産キャタピラン等とが存在する。そのため,結ばない靴ひもの製造販売事業に関する経費としては,中国産のキャタピラン等の販売のみに要する費用,日本産キャタピラン等の製造販売のみに要する費用,中国産キャタピラン等と日本産キャタピラン等の販売の両方に要する費用が観念できるが,このうち,中国産キャタピラン等の販売のみに要する費用は実際には存在しない。
被控訴人の製造する日本産キャタピラン等には,被告各商品として特定された商品とそれ以外の商品とが存在する。そこで,日本産キャタピラン等のうち,被告各商品として特定された商品の各月の製造原価比率を算出し,日本産キャタピラン等の製造販売のみに要する費用のうち,製造に関する費目に当該製造原価比率を乗じて,被告各商品の製造のみに要する費用を計上した。
中国産キャタピラン等の販売と日本産キャタピラン等の販売の両方に要する費用については,被告各商品として特定された商品について,各月の中国産キャタピラン等の販売数量と,日本産キャタピラン等の販売数量とを用いて,日本産キャタピラン等の販売比率を算出し,当該費用に日本産キャタピラン等の販売比率を乗じて日本産キャタピラン等の販売に要した費用のみを計上した。
② 乙421について
按分後の乙372の「原料仕入高」,「租税公課(関税)」,個別固定費の全て,製造変動費の全て,「運賃(材料輸入時)」は,TLCから仕入れて取引先に販売した被告各商品(乙407)のほか,各種イベントや提携先に対して無償で提供した協賛品・サンプル(乙420)等,本件訴訟において特許法102条2項の限界利益を計算するに当たり,売上げとして計上した商品以外の被告各商品を含んでいた。
TLCの経費を取引先に販売した被告各商品のみに限って按分すると,被告各商品の限界利益は,●●●●●●●●●円となる(乙421)。
b 原材料費の中の「原料仕入高」について
乙372の「原料仕入高」に計上された原材料は,TLCで用いたものに限られており,本件製造会社で製造された被告各商品の原材料を含まない。
c 個別固定費について
① 「賃金(製造担当者のみ)」について
乙372の「賃金(製造担当者のみ)」に計上した費用は,被告各商品の製造を専ら担当する人員に関するものであり(乙352),毎月一定額の賃金が発生している(乙352,366)。乙372において製造担当者の賃金が月ごとに変動しているのは,結ばない靴ひもに係る製造担当者の賃金を,被告各商品として特定された六つの商品の各月の製造原価比率で按分した結果にすぎない。製造担当者の勤務する工場では,結ばない靴ひもに関する商品以外の製造は行っておらず(乙371),被告各商品の製造販売がなければ,被告各商品以外の結ばない靴ひもの売上げは,仮にあっても,ごく僅かにとどまる。したがって,「製造担当者の賃金」,「法定福利費」及び「旅費交通費」は,被告各商品の製造販売に直接要した費用として控除されるべきである。
② 「工場消耗品費」,「製紐機修繕費」及び「地代家賃」についてこれらも同様に,被告各商品の製造のみを行う工場に関するものであり(乙371),「地代家賃」の変動も,同様に製造原価比率で按分したために発生したものである。
d 在庫保管経費について
「地代家賃」及び「水道光熱費」は,いずれも外注先である本件製造会社及びTLCで生産された結ばない靴ひもの保管に利用する倉庫に係る経費である(乙371)。被告各商品として特定された六つの商品以外の在庫も含まれているため,乙372では控えめに見積り,会計元帳に記載された金額の6割に対して,中国産キャタピランと日本産キャタピランの売上比率を乗じた額を計上した(按分前の額を示す乙366の在庫保管経費の額は,補助元帳である乙363,364の額の6割となっている。)。
e 販売管理費について
① 「支払手数料(販売口銭)」及び「販売支援業務委託費」についてこれらは,被告各商品の販売業務を委託することにより発生する仲介手数料及び業務委託費用であり(乙360,365),被告各商品の販売に直接要する費用であるから,変動費として限界利益の算出に当たって控除すべき費用に該当する。
② 広告宣伝費について
被控訴人は,被告各商品のブランド価値を維持し,乙372の売上げを保つために,結ばない靴ひも以外の商品の売上げも利用して多額の広告宣伝費を捻出しているものであり,売上高の減少を理由に広告宣伝費を控除すべきでないとの控訴人の主張は当たらない。
また,広告宣伝費のうちには,被告各商品の販売に直接要した経費が数多く含まれている。例えば,乙361に記載された広告宣伝費のうち,五色佐倉マラソン,各年の名古屋マラソンEXPO,各年の東京マラソンEXPO,各年のTSO InternationalスポルテックEXPO,北海道日本ハムファイターズランフェスタ等に関連する費用は,当該イベント内で被告各商品を販売するためのブース設置費用や出展料,サンプル出荷費用等であるし,同じく乙361に計上された花咲けピクチャーズに関する費用は,被告各商品を直販するためのウェブサイト設置に係るものである。
(3) 争点(1)ア(ウ)(損害の覆滅事由の有無)
ア 被控訴人の主張
(ア) 控訴人に損害がないこと
控訴人は,契約13条により被控訴人の許可なく日本において本件発明の実施品を直接販売することを禁じられているのであり,被控訴人に対して被告各商品を輸出することができたにすぎないから,損害もその範囲に限定され,日本において被控訴人が販売を行ったことによる利益は,控訴人の損害とは認められない。そして,控訴人ら3者による中国産キャタピランの製造輸出に係る事業は赤字であった(甲57)から,それによって控訴人が利益を得られたという関係にはない。したがって,控訴人に損害は発生しない。
また,前記(1)イ(イ)のとおり,「COOL KNOT」の日本における販売以降において,控訴人に損害は生じていない。
(イ) 控訴人に実施能力がないこと
控訴人は,平成28年12月5日に至って訴外会社を設立し(乙40),その後,平成29年6月30日頃に「COOL KNOT」の販売を開始している(乙88)から,平成28年4月1日から平成29年6月30日までの間,控訴人は日本において「COOL KNOT」を販売することができず,その可能性もなかったものであり,この期間における被告各商品の販売に係る被控訴人の利益に基づく推定は全て覆滅される。
また,控訴人は,被告各商品と「COOL KNOT」を並べて販売したところ,「COOL KNOT」の売上げが被告各商品の売上げを上回ったと主張するが,この事実は,控訴人が被控訴人の営業にフリーライドすることでしか売上げをあげることができないことを示すものであり,控訴人の営業能力が過小であるとの覆滅事由となる。
(ウ) 被告各商品の販売は被控訴人の顕著な営業努力によるものであること
a 被控訴人は,被告各商品の拡販のため,多額の広告宣伝費を費やしている。被控訴人は,販売開始直後で売上げがほとんどない頃から,年間平均して2000万円以上の,累計8000万円にも及ぶ広告宣伝費をキャタピランのために費やしてきた。
b 被告各商品は,購入したユーザーが一般的な靴ひもに代えて利用する商品であり,靴には通常は靴ひもが付属していることから,被告各商品は生活必需品ではなく,むしろ,アスリートやスポーツに造詣を有するユーザーが購入する嗜好品としての用途を有する。また,被告各商品には,一般的な靴ひもよりもかなり割高な980円という小売価格が設定されている。
このように,被告各商品は高額な嗜好品としての性質を持つため,これをユーザーに購入させるためには,かなり周到なマーケティング戦略を要する。このため,被控訴人は,平成25年の販売開始当初から,雑誌,テレビなどの取材や著名人のアンバサダーとしての起用を含めて精力的かつ多面的な宣伝活動を行うほか,「キャタピランランニングクラブ」などのスポーツイベントを定期的に実施するなどして,被告各商品の知名度向上に並々ならぬ努力を続けてきた。
c 被控訴人代表者は,コンサルタント業務を事業とする会社の代表取締役であるIに多数の著名人を紹介してもらい,これらの著名人らに被告各商品の知名度向上,ブランド価値向上に貢献してもらったり,同人の著書において被控訴人代表者を紹介してもらい,被告各商品の開発に至る経緯を紹介してもらった。被控訴人代表者は,J千葉県知事やK船橋市長と密接な関係を有し,同人らにより,被告各商品の知名度は向上した。
被控訴人は,色々な手段で「キャタピラン」を売り込み,キャタピランは数多くテレビで取り上げられた(乙274~285)。
被控訴人は,毎年開催される「東京マラソンEXPO」や「名古屋マラソンEXPO」にキャタピランを出品し(乙286~292),被控訴人の地元千葉を始めとして,様々なマラソンイベントに協賛し,キャタピランを景品として配布するなどして,スポーツ業界におけるキャタピランの知名度向上に努めてきた(乙293~300)。
スポーツの中でも特に競技人口の大きいサッカーと野球については,「SC相模原」及び「北海道日本ハムファイターズ」とスポンサー契約を締結し(乙301,302),当該スポンサー契約を通じてキャタピランの魅力をアピールしている。その他,プロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」,ラグビーチーム「クボタスピアーズ」ともスポンサー契約を締結し,競技場でのイベントやコラボグッズの販売など多面的な広報,営業活動を実施した(乙337)。
被控訴人は,元プロ野球選手のL,プロゴルファーのM,マラソン界で著名なN,女子マラソン選手のOなどのスポーツ業界における著名人にキャタピランアンバサダーに就任してもらい,キャタピランの広告活動を行ってもらっている(乙337)。
被控訴人は,キャタピランの広報マスコットとして「キャタピー君」を考案し,各種イベントにマスコットキャラクターとして登場させるなど一層のブランド価値向上に努力した(乙337)。
被控訴人は,平成26年に「キャタピランランニングクラブ(CRC)」を発足させ,ランニングイベントを定期的に実施するなどして,市民ランナーに対しても,草の根的な営業活動を地道に展開し続けている(乙318)。
d 被控訴人は,流通に関わる卸売業者や小売業者との関係を重要視し,多くの人員を営業活動に投入して,被告各商品の特徴を説明して理解を求めるなど,地道な営業活動を続けてきた。被告各商品は,主にスポーツ用品店での小売を中心に販売されているところ,小売店の店頭に被告各商品が並ぶためには,卸売業者を経由して小売業者に転売される場合と,小売業者に直接販売される場合とが存在する。ところが,被告各商品は,前述のとおりスポーツ用品として必須のものでない上,靴ひもとしては非常に高価であり,さらに,米国企業であるXTENEX社が製造している「XTENEN」を除いて市場に類似品があまり出回っていなかったため,卸売業者の反応は鈍く,思うように市場開拓が進まなかった。そこで,被控訴人は,多くの営業員を導入して小売業者を直接訪問し,被告各商品の魅力をアピールして,市場の開拓に繋げたのである。現在,被控訴人と直接取引を有する小売業者は30社を超える。
e 被控訴人は,福岡大学及び筑波大学と共同実証実験を実施し,伸縮性のある靴ひもを装着することにより,足裏の地面への接地面積が大きくなって安定性が向上するとともに,足裏にかかる圧力が減少して足や膝の関節に負担がかからなくなることを確認した(乙338~340)。これは,筑波大学のP教授により,体力医学会で発表された(乙339)が,靴ひもが歩行時の人間の健康に及ぼす影響を確認した研究は今までに存在せず,このような知見は,今までのどの靴紐メーカーも有していないものであった。この知見を受け,被控訴人は,キャタピランを,装着することによりスポーツ時の身体的負担を軽減し,健康的にスポーツを行うことができる優れた商品として売り出すこととし,マーケティング戦略に活用した。
f 仮に,被控訴人が平成28年4月1日以降,被告各商品を日本で販売しなかったとしても,訴外会社は平成28年12月5日に至ってようやく設立された会社であり,従業員は,代表取締役である控訴人と他の1名であると思われること,控訴人は日本に商流を一切有しておらず,宣伝広告活動を行うコネクションも有していなかったことからすると,控訴人が被控訴人と同程度の販売本数を達成できたとは到底考えられない。被告各商品の販売は,専ら被控訴人の顕著な営業努力によるものであり,特許法102条2項により推定された損害は,全て覆滅されるべきである。
(エ) 市場における競合品の存在
a 特許法102条2項の推定を覆滅させるためには,仮に,侵害品が販売されなかったとしても,侵害品の販売数量に対応する需要が当該競合品に向かうために,権利者製品には向かわなかったであろうとの蓋然性があれば足りる。
b 被告各商品には,「COOL KNOT」以外にも,遅くとも平成28年4月以降,「結ばなくても良い」靴ひもであること,スポーツなどに最適な足へのフィット感を訴求したものであることなどをうたった需要者の購買意欲を満たし得る競合品が多数存在していた(①クイックシューレース〔乙323〕,②ロックレース〔乙324〕,③シュレパス〔乙325〕,④ヒッキーズ〔乙326〕,⑤レースロック〔乙327〕,⑥スリッポン〔乙328〕,⑦ワンタッチ 楽々シューレース〔乙329〕,⑧ハッピーパッチ〔乙330〕,⑨レースロック ストレッチ〔乙331〕,⑩シリコン製 結ばない靴ひも〔乙332〕,⑪ほどけない靴ひも〔HighUP〕〔乙333〕,⑫解けない靴ひも〔XTENEX〕〔乙334〕,⑬モヒート〔乙378の1〕,⑭ズービック〔乙378の1〕,⑮クイックレースキット〔乙378の1〕,⑯コメンサール〔乙378の3〕など)。また,①~⑫の商品は,オンラインの販売だけでなく,実店舗においても競合品として扱われている(乙377)し,①~⑯の商品は,ウェブサイトで対比するなどして比較されている(乙378)。これらの中には特許権を取得した商品もあり,累計販売本数が400万本とされているものや,販売開始から3か月で20万セットの売上げを記録したものもある。このように,被告各商品には,多数の競合品が存在したものであり,その市場占有率も極めて高いことが推察される。
控訴人は,被告各商品と競合品とされるためには,「(B)等間隔にこぶが設けられた伸縮性のある1本の靴ひもであり,引っ張ると全体が細くなって靴のひも穴を通り,手を話すとこぶがひも穴に引っかかることにより簡単に装着できること」が必要であると主張するが,これは,単に「結ばなくても良い」との特徴を実現するための手段にすぎず,他の商品でも,「靴ひもを結ぶ」という面倒な作業が不要となることに変わりはないから,被控訴人が主張する商品が,競合品にならないことの理由となるものではない。
c 控訴人は,「(C)通すこぶの数を調整することにより,足の甲の各部分ごとに締まり具合の調整が手軽にできる」ことが競合品の要件であると主張する。
しかし,上記の点は,業界紙において,被告各商品の特徴をかなり詳細に解説したものである。被告各商品を購入するユーザーの大半は,店頭やウェブサイトにおいて,結ばない靴ひものラインナップを検討した上で購入するのであり,このような業界紙等を熟読して,足の甲の各部分ごとに締まり具合の調整が手軽にできることを必須要件として購入するわけではない。被控訴人が被告各商品を販売する際のリーフレットや店頭POPでも,上記(C)はうたわれていない(乙379,380)。また,被告各商品は,上記(C)の点を満足した商品でもないから,上記(C)は競合品の要件ではない。さらに,上記(C)の「足の甲の場所に応じて靴ひもを縮めたり緩めたりできる」との特徴は,靴ひもをスポーツ用途に用いる際に訴求効果のある特徴であるところ,被告各商品のうち,少なくともキャタピービジネス,キャタピーコード,キャタピーワークスニーカーについては,スポーツ用途に用いるものとはいえないから,上記(C)の要件はこの点からも不要であるといえる。
(オ) 被告各商品の販売には本件発明の寄与が存在しないこと
被控訴人は,被告各商品の販売に当たり,(Ⅰ)「結ばなくても良い」靴ひもであること,(Ⅱ)スポーツなどに最適な足へのフィット感を訴求して営業を行ってきており(乙131から316,335),キャタピランが本件発明の実施品であることや,本件発明の効果である「コアが断裂しにくいこと」(本件明細書の段落【0006】~【0008】)を押し出しているわけでもない。
そして,(Ⅰ)は,前記(エ)の①~⑫の商品全てに共通する特徴である。また,(Ⅱ)は,専ら被告各商品が伸縮性を有することに起因する特徴であるところ,被告各商品と同様に伸縮性を有する商品は,前記(エ)の①,③,⑥~⑫など複数存在し,そのいずれにおいても同様にフィット感が訴求されている(乙323~334)。
したがって,被告各商品の販売に当たって,本件発明の貢献は存在しない。
(カ) 被告各商品が高い性能を有していること
被控訴人は,多岐にわたるユーザーから得た膨大なアンケート結果から判明した「紐穴を通しにくい」,「硬い」などの問題点を踏まえ,こぶに柔軟性を加えて紐穴を通し易くしつつも,耐久性を向上させるべく鋭意努力した。その結果,現在被控訴人が販売している被告各商品の特性は,中国産キャタピランと比較して,性能が格段に向上している(乙321)。これも,被告各商品の好調な販売に結びついているのである。
イ 控訴人の主張
(ア) 控訴人に損害がないとする点について
a 控訴人ら3者は,被控訴人を通じた本件発明1-1の実施品の日本における販売により幾ばくかの利益を得ていたことは事実であり,被控訴人の日本への生産移管によりその利益を得る機会が失われたのだから,明らかに損害が発生している。
b 前記(1)ア(ウ)のとおり,「COOL KNOT」を販売しているのは訴外会社であり,控訴人ではない。また,被控訴人が契約13条により権利を剥奪された後は,本件発明の実施である製造又は販売は,残った本件3者の許可があれば足り,被控訴人の許可は不要であるし,自ら契約13条に規定する特許法73条2項の「別段の定」に違反した被控訴人が,訴外会社による「COOL KNOT」の製造,販売について被控訴人の許可がないことを主張することは,権利の濫用であり,信義則に反し,許されない。
(イ) 控訴人に実施能力がないとする点について
被控訴人が指摘する期間において,控訴人ら3者は日本における販売を控えていたにすぎず,いつでも中国で製造した結ばない靴ひもを日本において販売する能力を有していた。
(ウ) 被告各商品の販売は被控訴人の顕著な営業努力によるとする点について
a 被控訴人は,控訴人ら3者が製造する結ばない靴ひもの販売を開始するまでは,中国等で廉価に製造させた家電製品等を輸入し,日本の量販店に卸売する一商社にすぎず,靴ひもやスポーツ用品の販売について,特に知識経験やノウハウを有していたわけではない。仮に,被控訴人が何らかの営業努力を行ったとしても,それは通常の営業努力の範囲のものにすぎない。
また,被控訴人がかつて取り扱っていた中国産キャタピランが日本においてヒット商品となった理由は,先行する「XTENEX」よりも優れた品質を有する結ばない靴ひもを,控訴人ら3者が開発し,被控訴人に供給していたからである。
被控訴人の主張によると,本件対象期間の1か月当たりの売上高は,平成27年4月1日から同年9月30日までの期間の1か月当たりの売上高よりも7割以上減少していることになるから,被控訴人の営業努力なるものが全く功を奏していないことになる。
b 被控訴人は,各種のスポーツチームとの連携,スポーツ業界における著名人による広報支援,広報マスコット,草の根活動といった営業手法をもって,被控訴人の「顕著な」営業努力であると主張する。しかし,これらの手法も,被控訴人でなければ行い得ないものではない。例えば,控訴人が代表取締役を務める訴外会社も,被控訴人が連携したと主張するスポーツチームと同等又はより著名なスポーツチームと連携している(甲109)。
なお,平成29年に,あるスポーツ用品店の店頭で,被告各商品と「COOL KNOT」を並べて販売するテスト販売がされたことがある。この時期の「COOLKNOT」は,日本における販売が開始された直後であり無名であったにもかかわらず,1か月のテスト販売期間中の売上げは,「COOL KNOT」が被告各商品を上回った(甲109)。
また,被控訴人は,楽天市場で「靴ひも」「結ばない」とのキーワードで検索した結果を証拠として提出しているが,同じキーワードを用いた検索をAmazon.co.jpで行うと,「COOL KNOT」が「ベストセラー」として常時第1位に表示される。被告各商品もAmazon.co.jpで販売されているが,「COOL KNOT」よりも常に低順位である(甲109)。このように,被控訴人の営業活動は,結果に結びついているとはいえず,推定覆滅事由として評価できるものではない。
さらに,被控訴人は,「顕著な営業努力」として,I,千葉県知事及び船橋市長による被告各商品の拡販に対する貢献を挙げるが,仮にそれが事実であったとしても,それは,これら3名の営業努力であって,被控訴人自身の営業努力ではない。推定覆滅事由として考慮することができる事情は,特許権者が理論的になし得ないような侵害者側の営業努力を指すものであって,特定の人物に対する人脈を被控訴人がたまたま有していたといった個別具体的な事情を指すものではない。被控訴人が挙げる3名は,被告各商品が本件特許権の侵害品であることを知っていたならば,被控訴人が主張するような協力を行ったとは思えないから,結局のところ,被控訴人が主張する事情は,被控訴人が得た利益の一部をその手元に残すことを正当化する事情とはなり得ない。
c 被控訴人は,大学との共同研究に基づくマーケティングを行ったと主張する。しかし,大学等の研究機関との共同研究を宣伝広告に利用する手法は,マーケティングの手法としてごくありふれたものであって,被控訴人に独自のものではない。そのようなマーケティングの手法が,一般消費者向けの消費財である「結ばない靴ひも」の売上増加に顕著に貢献するとは思えないが,控訴人ら3者においても,試みようと思えば試みることは可能である。したがって,推定覆滅事由にはなり得ない。
(エ) 市場における競合品の存在という点について
a 被控訴人は,特許法102条2項の推定を覆滅させるためには,仮に侵害品が販売されなかったとしても,侵害品の販売数量に対応する需要が当該競合品に向かうために,権利者製品には向かわなかったであろうとの蓋然性があれば足りると主張するが,被控訴人の独自の見解であり,失当である。
b 被控訴人は,被告各商品の広告やこれに関連する雑誌記事などにおいて,(A)「結ぶ必要がない」靴ひもであること,(B)等間隔にこぶが設けられた伸縮性のある1本の靴ひもであり,引っ張ると全体が細くなって靴のひも穴を通り,手を離すとこぶがひも穴に引っかかることにより簡単に装着できること,(C)通すこぶの数を調整することにより,足の甲の各部分ごとに締まり具合の調整が手軽にできること等を,被告各商品の特徴としてユーザーに訴求している。
そうすると,仮に,被告各商品と一見類似するように見える商品が市場に存在したとしても,上記(A)~(C)の特徴を有していなければ,被告各商品の代替商品にはならず,推定覆滅事由として認められる「競合品」にはならない。被控訴人が競合品であると主張する商品はこれらの特徴を有するものではないから,いずれも,被告各商品の代替商品にはなり得ず,推定覆滅事由として認められる「競合品」ではない。
被控訴人は,被告各商品と,被控訴人が主張する競合品がオンラインや実店舗において並べて販売される例があることをもって,競合品であると主張するが,これでは,例えば,「飲料」「食品」といった大まかなカテゴリにおいて共通することをもって競合品であると認定されかねず,基準として緩すぎ不当である。オンラインや実店舗で並べられている場面を想定するのであれば,需要者は,販売されている商品を詳細に比較検討し,前記(A)~(C)を満たす商品を選別し,被告各商品の代わりにそれを選択するのであるから,被控訴人が主張する競合品が競合品になり得ないことは明らかである。
(オ) 被告各商品の販売には本件発明の寄与が存在しないという点について被控訴人は,被告各商品の販売に当たり,(Ⅰ)「結ばなくても良い」靴ひもであること,(Ⅱ)足へのフィット感を訴求してきたから,本件発明の貢献は存在しないと主張するが,被控訴人が被告各商品の特徴としてユーザーに訴求してきたのは,前記(エ)の(A)~(C)である。仮に,被控訴人が宣伝広告において上記(Ⅰ),(Ⅱ)のような訴求を行っていたとしても,同時に「特許製品である」との訴求も行っていたのであるから,推定覆滅事由にはなり得ない。
(4) 争点(1)イ(ア)(特許法102条3項の適用の可否)
ア 控訴人の主張
(ア) 前記(1)ア(ア)のとおり,被控訴人は,本件特許権を侵害しているので,損害額の算定については特許法102条3項が適用される。
(イ) 特許法102条3項は,特許権侵害における最低限の損害賠償を確保する趣旨のものであるから,共有者間で特許発明の実施許諾を観念できるか否かにかかわらず,同条3項の適用が否定されることはあり得ない。
(ウ) 被控訴人は,被控訴人は特許原簿に登録された共有特許権者であるから,控訴人ら3者には,4分の3の限度で損害賠償請求権が帰属すると主張するが,この主張が失当であることは,前記(1)ア(エ)のとおりである。
イ 被控訴人の主張
(ア) 特許法102条3項は,特許権者が,特許権者ではない第三者の行為によって損害を被った場合に適用される規定であるところ,被控訴人も特許法98条によって認められた正当な特許権者である。また,特許法73条2項の「別段の定」によって発生するのはあくまで特許権者間の債権債務関係にすぎず,「別段の定」に違反したことは,特許権者間の債務不履行を構成するにすぎない。
したがって,本件に特許権侵害に適用されるべき特許法102条3項の適用はない。
(イ) 被控訴人は,本件特許の特許権者として登録されており,控訴人から本件特許の実施権許諾を受け得る立場にない。したがって,控訴人が実施権の許諾によって被控訴人から得べかりし利益を観念することができないから,本件では特許法102条3項の適用もない。
また,控訴人による中国産キャタピランの輸出に係る事業は赤字であり,控訴人には損害が生じていない。特許法102条3項は,特許権者による損害額の立証が功を奏さなかった場合に,最低限の損害賠償を保証する趣旨に出たものであるといえるが,本件のように,特許権者に損害が発生しなかったことが立証されている場合にまで適用があるということはできない。本件は,特許法102条3項適用の前提を欠く事案である。
(ウ) 被控訴人は特許原簿に登録された共有特許権者であり,特許権侵害が生じた場合,生じた損害賠償請求権の4分の1は被控訴人に帰属することとなるから,前記(1)イ(オ)と同様に,控訴人らには,自らの持分である4分の3の限度で損害賠償請求権が帰属する。
(5) 争点(1)イ(イ)(実施料相当額)
ア 控訴人の主張
本件対象期間中の被告各商品の売上高は,15億8340万円であり,控訴人が被告各商品の販売に対し受けるべき金銭の額は,被控訴人の背信性も考慮すると,市場価格の20%である。
控訴人は,E及びFから,両名の被控訴人に対する損害賠償請求権を譲り受けているから,特許法102条3項により算定される控訴人の損害額は,3億1668万円(15億8340万円×20%)となる。
イ 被控訴人の主張
本件発明の技術分野である「繊維または他に分類されない可とう性材料」の分野における一般的な実施料率は,3.3%である(乙114)が,被告各商品の販売実績は被控訴人の類まれな営業努力によるものであること,本件発明の効果の売上げへの関与が低いことなど,多くの推定覆滅事由があるため,実施料率は3.3%よりも極めて低廉なものとなる。
(6) 争点(1)ウ(控訴人による損害賠償請求権の放棄の有無)
ア 被控訴人の主張
控訴人は,平成28年10月23日以降,被控訴人と事前に協議することなく日本において本件発明の実施品である「COOL KNOT」を販売しており(乙36,37),自らも特許法73条2項の「別段の定」に違反している上,控訴人ら3者は,今後は本件4者で独立採算型の製造販売をして価格,販売力で競争する,本件4者で各自の方法で生産,販売していくべきなどの発言を繰り返していた。これらのことからすると,控訴人が日本において本件発明の実施品を販売したことは,純粋に靴ひもビジネスにおいて勝負し,被控訴人による日本生産品の販売について責任を問わないこととする意思表示であると理解することができるから,控訴人ら3者は,同日をもって,それ以降における被控訴人の日本での本件発明の実施品の製造販売行為に基づく損害賠償請求権を放棄するとの意思表示をしたものというべきである。
イ 控訴人の主張
控訴人が損害賠償請求権を放棄するとの意思表示をしたことはない。
(7) 争点(1)エ(控訴人の損害賠償請求が権利濫用となるか否か)
ア 被控訴人の主張
本件4者の独立採算型の採用について明確な発言をしつつ,自らも特許法73条2項の「別段の定」に違反した控訴人が,平成28年10月23日以降の損害賠償請求権を行使することは権利の濫用であり,信義則上許されない。控訴人が「別段の定」違反によって請求することのできる損害は,平成28年4月1日から同年10月22日までの間に限られる。
イ 控訴人の主張
前記(3)イ(ア)bのとおりであり,控訴人の損害賠償請求が権利濫用になることはない。
(8) 争点(1)オ(過失相殺の可否)
ア 被控訴人の主張
(ア) 被控訴人の日本への生産移管は,不当な値上げ等を始めとした控訴人の行為に起因してやむを得ず行われたものであるから,平成28年4月1日から同年10月22日までの間の控訴人の損害は,控訴人の自招侵害行為に等しい。したがって,大幅な過失相殺が認められるべきである。
また,控訴人は,被告各商品と「COOL KNOT」を並べて販売したところ,「COOL KNOT」の売上げが被告各商品の売上げを上回ったと主張するが,この事実は,控訴人が日本において被告各商品の販売店舗のみを集中的に狙い,棚の入替えによってシェアを獲得しようとした証左であり,自由競争を明らかに逸脱したものであるから,過失相殺事由として考慮されるべきである。
(イ) 平成28年10月23日以降については,前記(7)アのとおり,自らも特許法73条2項の「別段の定」に違反した控訴人には著しい過失があるから,同日以降の損害は全て過失相殺されるべきである。
イ 控訴人の主張
控訴人の被控訴人に対するキャタピランの値上げ要求は,被控訴人の過大な販売見込みに基づき控訴人ら3者をして新たな設備を導入させたものの,その後,キャタピランの販売実績がそれまでの実績すら大きく下回る水準にとどまったことと,実際に中国における人件費が高騰していたことによるものであって,何ら不当なものではなく,被控訴人の日本への生産移管が正当化されるものではない。
また,前記(3)イ(ア)のとおりである。
したがって,過失相殺は一切認められない。
(9) 争点(1)カ(損害の減額事由)
ア 被控訴人の主張
(ア) 控訴人は,被控訴人がヤバネスポーツ株式会社(以下,「ヤバネスポーツ」という。)の事業を譲り受けるに当たり,自らに不利益が及ぶことが想定されないにもかかわらず,同社の再生債権者としての地位を利用して,被控訴人への事業譲渡を妨害した(乙101)。さらに,控訴人は,本件訴訟における損害賠償請求権の保全という名目で,知的財産高等裁判所に対し,被控訴人の本社ビルの保全命令を申し立て,仮差押決定を得た(乙117,118)が,この申立ては,民事再生手続におけるヤバネスポーツと被控訴人との事業譲渡契約のクロージング日である平成30年10月31日(乙119)の直前の同月24日に行われており(乙117),本件訴訟の損害賠償請求権を保全する目的ではなく,被控訴人が銀行から事業譲渡資金を借り入れることを困難にさせ,事業譲渡を頓挫させることが目的で行われたものであることが明らかである。被控訴人は,民事再生会社代理人に対し,適切に本件訴訟の状況を伝達していた。
(イ) 控訴人は,中間判決を利用し,キャタピランが特許侵害品であるという印象を取引先に与えて被控訴人から取引先を奪うために,中間判決を終局的な「勝訴判決」と誤認させる目的で「株式会社ツインズに対する勝訴判決のお知らせ」と題するプレスリリースを大々的に行った(甲97)。この中には,控訴人が,共同開発者2名(E及びF)と共に結ばない靴ひもの開発を開始したことや,被控訴人が控訴人と協議せず日本生産を強行したことなど,中間判決では認定されていない事実が記載されている。プレスリリースでは,被控訴人の本社ビルに仮差押えがされていることが触れられているが,これも中間判決とは無関係であり,中間判決の内容を取引先に周知して客観的事実を表明するという目的からは不要な記載である。プレスリリースの最後では,被控訴人の販売する商品であるが,本件訴訟の差止め対象には含まれていない「キャタピーエアー」や「キャタピースマート」などの商品についても特許権侵害の有無を調査して法的措置を検討すると記載されている。控訴人が,中間判決を利用し,一気に取引先の奪取を目論んでプレスリリースを起案したことがこの点からも理解できる。
実際に,このプレスリリースを読んだ被控訴人の取引先は,中間判決によって被告各商品の販売ができなくなるだけでなく,キャタピーエアーやキャタピースマートについても中間判決によって販売が禁止されてしまったものと理解した(乙120,121)。それだけでなく,このプレスリリースの内容が極めて一方的なものであるため,これを読んだ取引先は,本社ビルを差し押さえられた被控訴人が倒産してしまうとまで考えたのである。
控訴人は,自らのウェブサイトに上記プレスリリースを掲載するだけでは飽き足らず,ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルネットワーキングサービス(以下,「SNS」という。)を利用して,広汎にプレスリリースを拡散し(乙122),控訴人訴訟代理人弁護士も,同様に当該プレスリリースを拡散している(乙123)。このように訴訟関係者が一丸となって中間判決を「勝訴判決」と題して一般人に広く拡散する行為は,被控訴人の社会的信用を貶め,経済的信用を毀損するものであり,極めて悪質である。被控訴人が控訴人のプレスリリースに対して抗議したところ,控訴人は,被控訴人もプレスリリースを行うことによって対応すべきとの回答を行い(乙124の2),被控訴人がやむなくプレスリリースを行ったところ(甲98),控訴人は更にこれに対抗して2度目のプレスリリースを行うに至った(乙125)。そのため,被控訴人は釈明を行うためにプレスリリースを行う対応を迫られた(乙126)。さらに,控訴人が行った3度目のプレスリリースには,被控訴人が具体的な反証をしていないなどの虚偽の事実を記載した(乙127)。
控訴人は,自らが経営する訴外会社名義で,令和元年12月27日,本件特許権に関する被控訴人との間の一連の紛争に関し,被控訴人が中間判決に納得せず,キャタピラン等の製造,販売を継続しているとか,被控訴人が本件訴訟に提出したキャタピラン等の売上数量及び売上金額が,訴外会社の知見からするとあまりに少ないものであり,裁判所も,被控訴人から提出された資料だけでは具体的な損害額は認定できないとの見解を示し,被控訴人の取引先に対する調査嘱託を実施したとか,被控訴人は,中間判決後も裁判所の判断を軽視しているなどと記載したプレスリリースを行い,令和2年2月7日にも,別件訴訟の判決を用いて,新たなプレスリリースを行った。控訴人訴訟代理人弁護士は,被控訴人が再三にわたり自粛を求めているにもかかわらず,これらのプレスリリースをSNSを用いて拡散している。
(ウ) 控訴人は,株式会社徳間書店が販売する「週刊アサヒ芸能」において,「裁判スキャンダル」という見出しの下で,本件特許権に関する一連の紛争に関し,数多くの虚偽記載を織り込みながら,自らの正当性を主張する記事を掲載し,フェイスブックメッセンジャー等を用いて,この記事の存在を,被控訴人の関係者に吹聴して回っている。
(エ) 控訴人は,結ばない靴ひもを扱う卸業者らに対し,本件訴訟を含む経緯を詳細に記載したチラシを配布し(乙451),被控訴人代表者が本件発明の発明者ではないことなどの虚偽の事実を広く流布している。
また,控訴人が申し立てた調査嘱託が採用されたことにより,被控訴人の大口取引先Aが被控訴人との取引を中止した。
(オ) 控訴人は,被控訴人との交渉中や,本件訴訟開始後においても,契約13条に一切触れることがなかったため,被控訴人において同条に違反するとの認識は皆無であった。控訴人は,平成28年6月15日に至って本件訴訟を提起したが,訴訟提起前の最後の警告書は同年4月21日付けで被控訴人に送付された(乙129)。これに対し,被控訴人は真摯に対応すべく回答書を準備したものの,交渉を受任していた代理人の事情により,控訴人の指定した日時までに回答書が送付されることはなかった。当該回答書の内容は,控訴人に対して,日本への生産移管が許されないことの根拠の提示を求めるものであり(乙130),被控訴人が本件訴訟の直前においても契約13条について全く意識のないことが明らかである。
(カ) 以上の事情は,損害論において,控訴人に生じた損害を減額する事由として斟酌されるべきである。
イ 控訴人の主張
(ア) ヤバネスポーツの事業譲渡は,民事再生手続内で入札により譲渡されることとなり,被控訴人の他に1名が最終入札を行った。被控訴人は,入札資料において,ヤバネスポーツのスポーツ卸売事業と,結ばない靴ひもビジネスのシナジー効果をうたい,事業譲渡の代金1億2000万円は銀行借入れにより調達するとしていた。控訴人としては,被控訴人がスポーツ卸売事業に対する対価という形で1億2000万円(予定)もの金額を支払い,その後,同事業を継続すれば,本件訴訟で認められる損害賠償義務の支払能力に大きな影響を与えかねないとの具体的な危険を認識した。また,訴外会社としても,本件訴訟の帰趨を銀行が知れば,被控訴人による事業譲渡の代金1億2000万円の調達が困難になることが予想され,また,ヤバネスポーツのスポーツ卸売事業と結ばない靴ひもビジネスのシナジー効果をうたっている以上,再生裁判所及び再生会社代理人において,本件訴訟の帰趨をも踏まえた正しい判断を行ってもらいたいと考えた。そこで,訴外会社は,最新の正確な状況を再生裁判所及び再生会社代理人に伝えたものである。ヤバネスポーツの事業の被控訴人への事業譲渡は裁判所において許可され,実行されており,控訴人は当該事業譲渡の妨害などしていない。これを被控訴人が「妨害」と感じるのは,本件訴訟の帰趨を再生裁判所及び再生会社代理人に対し秘匿しようと考えていたからに他ならない。
(イ) 控訴人による被控訴人の本社ビルの仮差押えは,ヤバネスポーツの事業譲渡が実行されれば,被控訴人から1億2000万円の売買代金が流出すること,被控訴人は,当該売買代金を銀行借入れにより調達することを予定していたことから,被控訴人の資産状況が悪化する現実の危険が迫っており,高い保全の必要性が存在したことから行ったものであって,事業譲渡を頓挫させることを目的として行ったものなどではない。仮差押決定は,知的財産高等裁判所が判断し,発令されたものであって,被控訴人の主張は的外れである。
(ウ) 中間判決について,訴外会社がプレスリリース(甲97,乙125,127)を行ったのは事実であるが,仮に,被控訴人が平成30年8月29日の期日における裁判所の心証開示を受け入れ,その後の和解協議にも誠実に応じていれば,控訴人は,結ばない靴ひもの市場自体に傷をつける可能性のあるプレスリリースなど行わなかった。なぜなら,紛争の存在が公になれば,被控訴人の製品はもちろん,同種の製品は全て小売店により扱われなくなる危険があるからである。しかし,被控訴人は,裁判所の心証開示を受け入れず,同年12月26日の中間判決を受けても,被告各商品の製造,販売を中止する様子は一切見られなかった。被告各商品を取り扱う卸売業者や小売業者がその販売を続ければ,これらの業者も特許権侵害行為を続けることになり,控訴人としては,損害の発生を停止させるために戦線を拡大せざるを得ない事態になりかねないことから,やむなく,中間判決の内容をプレスリリースしたものである。
プレスリリースの文面は,慎重に慎重を重ね,一切問題のない文言としており,控訴人及び控訴人訴訟代理人弁護士がソーシャルメディアにおいてプレスリリースに触れていることも,ソーシャルメディアの通常の使用形態の範囲内のものである。実際には,控訴人及び控訴人訴訟代理人弁護士のソーシャルメディアにおける拡散力などさほどのものではない。
また,アサヒ芸能の記事は,同社の記者によるものであって,控訴人によるものではないから,当該記事について控訴人が何らかの責任を負う余地は一切ない。
(エ) 以上のとおり,被控訴人の指摘する点は,いずれも当たらない。
(10) 争点(2)ア(特許権持分移転登録手続請求の訴えの追加的変更は適法か)
ア 控訴人の主張
特許権持分移転登録手続請求は,原審に現れていた事実関係と同一又は密接に関連する社会生活関係に起因するものであり,従前から控訴人が主張してきた請求原因に実質的な変更を加えるものではないから,請求の基礎の同一性に変更はなく,著しく訴訟手続を遅滞させることもない。
また,平成30年6月18日付け控訴人第10準備書面兼訴えの変更申立書による特許権持分移転登録手続請求の追加は,被控訴人の同年5月1日付け準備書面(5)における主張に沿って行われたものであるし,同年7月25日付け控訴人第12準備書面兼訴えの変更申立書によるE及びFからの債権譲渡を理由とする特許権持分移転登録手続請求の追加は,被控訴人の同年6月22日付け準備書面(8)における特許権持分移転登録手続請求訴訟は固有必要的共同訴訟である旨の主張を踏まえ,余計な争点を避け審理を促進するために行ったものである。
イ 被控訴人の主張
控訴人は,平成30年6月18日付け控訴人第10準備書面兼訴えの変更申立書において,特許権持分移転登録手続請求を追加し,同年7月25日付け控訴人第12準備書面兼訴えの変更申立書において,E及びFからの請求権譲渡を理由とする特許権持分移転登録手続請求を更に追加したが,控訴審の結審直前に至って,このような訴えの変更を行うことは許されない。また,原審において全く争われていなかった事実を請求の基礎とするものであり,被控訴人の審級の利益を保護するため,却下されるべきである。さらに,移転登録手続請求においては,確認請求とは異なり,同時履行の抗弁権の有無など,今まで審理されていなかった新たな争点が存在することは明らかであり,この意味でも請求の基礎を同一にするものといえない。加えて,これらの新たな争点について控訴人と被控訴人との間で主張立証を行う必要があるし,少なくとも特許権持分移転登録手続請求権の譲渡の是非について更に主張立証を行う必要があるから,著しく訴訟手続を遅滞させるものである。
(11) 争点(2)イ(特許権持分移転登録請求訴訟は固有必要的共同訴訟か)
ア 控訴人の主張
特許権持分移転登録手続請求訴訟は,固有必要的共同訴訟ではない。また,控訴人は,E及びFの持分移転登録手続請求権の債権譲渡を受けているから,仮に,固有必要的共同訴訟であるとしても,適法なものとなっている。
イ 被控訴人の主張
最高裁判所昭和42年(オ)第535号同46年10月7日第一小法廷判決・民集25巻7号885頁(以下,「最高裁昭和46年10月7日判決」という。)は,共有者全員が,共有権に基づいて,第三者に対して提起した所有権移転登記手続請求訴訟が固有必要的共同訴訟であるとしており,共有者間における特許権の持分移転登録手続請求も,固有必要的共同訴訟である。また,特許法73条1項は,特許権が共有に係るときは,各共有者は他の共有者の同意を得なければその持分を譲渡するなどできないとしているから,特許権の持分移転登録手続請求は,前記最判よりも,さらに合一確定の要請が高いのであり,共有者全員を原告又は被告として訴訟を提起する必要がある。したがって,控訴人単独での特許権の持分移転登録手続請求は,不適法である。
(12) 争点(2)ウ(被控訴人が無権利者といえるか)
ア 控訴人の主張
(ア) 本件固定的役割分担合意又は本件共同出願契約違反により被控訴人の権利が剥奪されたこと
a 本件4者の間では,平成24年11月22日,当該合意に違反した場合には,特許権を剥奪する旨の合意を含む本件固定的役割分担合意が成立していたところ,本件共同出願契約には,契約13条が規定された。被控訴人は,平成28年4月以降,本件特許の実施品である被告各商品を製造,販売したことにより,本件固定的役割分担合意及び本件共同出願契約に違反した。この効果として,遅くとも同月1日時点で本件特許権の持分が剥奪された。
契約13条は,共有特許権者の持分を一瞬にして奪い,将来にわたって本件特許に基づくビジネスを行うことができないこととするものであって,その効果は,確かに著しく苛烈である。しかし,このような条文を置くことは,被控訴人代表者が提案したものであり,契約13条に違反した者から特許権を剥奪することは,被控訴人代表者が自ら望んでいた効果である。
b 被控訴人は,控訴人も「COOL KNOT」を販売しているから契約13条に違反しており,本件特許権の持分を剥奪されると主張する。しかし,被控訴人が先に本件固定的役割分担合意に違反し,控訴人ら3者に無断で「結ばない靴ひも」を日本で製造,販売して本件特許権の持分を剥奪された以上,本件固定的役割分担合意の実行が不可能となったのであるから,控訴人が日本において本件発明の実施品を自ら販売することは許される。保護されるべきは真の発明者である控訴人ら3者であって,単なる販売者である被控訴人ではない。
c 被控訴人は,契約13条後段の解釈に争いがある以上は,本件共同出願契約16条(以下,「契約16条」という。)に基づき本件4者の協議が必要であると主張するが,仮に,被控訴人の主張するように解釈したとすれば,本件4者において本件共同出願契約に何らかの争いが生じた場合は,全て契約16条によって裁判手続による解決が排除されることとなり,不合理である。同条は,適切な手続によって争いを解決するために努力するという程度のものにすぎず,同契約に関する紛争の裁判手続による解決を排除するものではない。
d 被控訴人は,契約13条に定める特許権の権利剥奪効は故意による違反の場合に限られるなどと主張するが,何らの根拠もない独自の主張にすぎない。被控訴人は,同条の存在を認識しながら,控訴人ら3者との事前の協議及び許可を得ずに,被告各商品の製造,販売を独自に開始したから,故意によるものである。
e 被控訴人は,契約13条の権利剥奪効は,公序良俗違反で無効であり,同条に基づく請求は権利の濫用となると主張する。
しかし,契約13条の下では,結ばない靴ひもの取扱いにつき事前の協議及び許可を経なければ,本件4者のいずれもが本件発明を実施することができないのであり,仮に,被控訴人が控訴人らの製造する靴ひもの取扱いを止めれば,別途事前の協議及び許可を経ない限りは,控訴人は被控訴人以外の者に輸出できない以上,結果として控訴人も日本での販路を失う結果になる。被控訴人を「自由に商流から追い出すことができる」ことにはならない。その意味で,契約13条は,本件4者に平等に拘束を掛けることによりその共同関係を強めようとしたものであって,いずれかの当事者にとって一方的に不利となる内容ではない。したがって,契約13条は,公序良俗に反するものではなく,同条に基づく請求が権利の濫用になることもない。
被控訴人は,控訴人の行為等が独占禁止法に違反するとの主張もするが,本件4者の立場は対等であり,控訴人ら3者が被控訴人より優越的地位にあるといった状況は全くない。また,被控訴人が契約13条を遵守してさえいれば,控訴人は日本市場に参入しなかったのであるから,独占禁止法に関する被控訴人の主張が成り立つ余地はない。
(イ) 本件特許につき特許を受ける権利の譲渡契約の債務不履行解除の成否
本件固定的役割分担合意は,全当事者が遵守すべき事項とともに遵守事項に違反したときの制裁までを内容とした合意である。この取引関係を強化するために,控訴人ら3者が持ち分3分の1ずつの割合で共有する本件発明につき,特許を受ける権利の各一部を被控訴人に無償で譲渡することも併せて合意された。本件固定的役割分担合意には遵守事項に違反したときの制裁までが含まれているから,販売形態の不遵守という債務不履行があったときは,前記の持分譲渡の合意を解除することができる。
E及びFは,控訴人に対し,本件に関する被控訴人との交渉を行う一切の代理権を与えている。控訴人ら3者は,平成29年7月18日の第1回口頭弁論期日において陳述された同年6月11日付け控訴理由書兼訴え変更申立書により,本件発明につき特許を受ける権利の譲渡契約を債務不履行を理由として解除する旨の意思表示をした。
(ウ) 前記(ア),(イ)の結果,被控訴人は無権利者となり,被控訴人が有していた本件特許権に係る持分各4分の1は,控訴人ら3者に移転させるべきこととなる。
イ 被控訴人の主張
(ア) 本件固定的役割分担合意又は本件共同出願契約違反により被控訴人が無権利者になるという点について
a 本件固定的役割分担合意及び本件共同出願契約が特許権の剥奪までを定めていることは否認する。
仮に,契約13条を,本件4者のうち最初に協議,許可なく製造,販売を実施した共有特許権者を排除し,残りの3者において自由に製造,販売の態様を協議することができるものであるとすると,靴ひもの商流において被控訴人の上流に位置する控訴人は,被控訴人から本件特許権を剥奪して自らが日本市場を独占しようと考えた場合,靴ひもの卸売価格を被控訴人において購入不可能なほどに値上げするなどして,自由に商流から追い出すことができることとなる。これは,被控訴人にとって一方的に不利な解釈であり,このような意図で被控訴人が本件共同出願契約を締結するはずがない。また,契約13条によって特許権が剥奪されることを前提とすると,本件では,被控訴人のみならず,被控訴人の協議,許可なく日本で「COOL KNOT」を販売している控訴人ら3者のいずれもが無権利者となるという極めて不自然な結論となる。控訴人は,現在,日本国内において被控訴人の協議,許可なしに「COOL KNOT」との商品名又はブランド名を用いて本件発明の実施品を販売しているため,控訴人もまた本条に違反し,無権利者となる。同条を控訴人の主張どおりに適用すれば,日本国内において現実に事業を行っており,かつ,その能力を有する控訴人,被控訴人について,共に特許権持分が剥奪され事業停止となりかねない。契約当事者がそのような意思の下に合意を行うとは通常は到底考えられないから,控訴人の主張は誤っている。
したがって,契約13条における「本件の各権利は剥奪される」との規定を,文字通り,本件特許権持分を違反者から他の共有特許権者に移転することを定めた規定と考えることは相当でない。この規定は,当事者が,「別段の定」に違反した場合には何らかのペナルティを与えようと考えて導入したものと評価できるのであり,それ以上に本件4者の権利が全て剥奪され,靴ひもビジネスが立ち行かなくなるような結論を取り決めたものということはできない。
b 契約16条は,「本契約に定めのない事項及び本契約に定める事項に関する疑義は,甲,乙,丙及び丁が協議した後,別途に定める」と規定する。一方,契約13条後段の規定は,「事前の協議・許可なく・・・生産・販売行為を行った場合,本件の各権利は剥奪される」というものであり,この規定が何を定めたものであるのかについて控訴人と被控訴人との間に争いがあるから,契約13条後段の解釈について,控訴人と被控訴人間で契約16条にいう「疑義」が生じていることになる。このように,規定の解釈について「疑義」がある場合,その解釈については,契約上,本件4者が協議により定めることが予定されているものといえるから,契約16条の協議を経ることなく,一方的な解釈に従って契約13条後段に基づき被控訴人の特許権が剥奪されると述べる控訴人の主張には,理由がない。契約13条の内容は,契約16条の協議を経なければ空文であり,これを法的請求の根拠とすることはできない。
c 契約13条を文字通り解釈すると,元来共有特許権者であった者の特許権持分を一瞬にして奪い,将来にわたって本件発明に基づくビジネスを行うことができないこととするものであって,その効果は著しく苛烈である。このような重大な効果をもたらす条項は,その効果に応じた重大な違法行為が行われた場合にのみ効力を生ずるものと考えるべきであり(乙113),少なくとも権利剥奪効については,特許権者が故意により契約13条に違反した場合に限って生ずるものというべきである。
被控訴人は日本への生産移管が本件共同出願契約に違反しないことについて十分な注意義務を尽くして判断しており(乙95~103),控訴人も,被控訴人の行為が契約13条違反に該当することについて,控訴審に至るまで一切指摘しなかった。したがって,被控訴人の契約13条違反に故意は存在しない。
d 仮に,契約13条が特許権の移転登録手続請求権までを取り決めたものであるとしても,控訴人にとって一方的に有利な内容を定めて,やむを得ず特許法73条2項の「別段の定」に違反することとなった被控訴人の特許権持分を強制的に奪うものである。また,被控訴人は日本市場を維持し,取引先との関係を保たざるを得ない状況にいるものであるが,控訴人は,被控訴人に対して商品を輸出する役割を担うだけであり,市場に対して責任を持つ立場でないため,被控訴人との取引を停止した場合,影響を受ける者が被控訴人以外に存在しない。本件では,控訴人と被控訴人とでは,取引を停止した場合に生ずる利益状況が全く異なるのであり,契約13条の権利剥奪効は,このような被控訴人に取引を停止させるものである。したがって,契約13条の権利剥奪効は,公序良俗に反して無効であり,同条に基づく請求は,権利の濫用となる。
また,本件において控訴人が被控訴人に対して行ったような,自己以外のメーカーと取引してはならないと要請する行為,すなわち日本でF以外の工場から結ばない靴ひもを調達してはならないと要請する行為は,控訴人が,被控訴人に対し,Fに独占的生産権を持たせ,被控訴人が他社から購入することができないようにしたものであり,一般指定11項の「垂直的取引制限行為」に該当する独占禁止法違反の行為である。独占禁止法上,特許権の行使は適用除外に該当するが,控訴人が被控訴人に上記要請をすることは,特許権の行使に該当しない。さらに,控訴人が,被控訴人に月10万ペアの製品の購入を迫ったことは,一般指定12項の「取引数量の義務付け」に該当する。控訴人は,自ら日本市場に参入することを企図していたのであるから,控訴人は,契約13条を利用して,独占禁止法に違反する行為により日本市場参入を企図したといえる。
e 仮に,契約13条が特許権の剥奪まで定めているとしても,特許権持分の剥奪当事者を決定する際には,本件4者間の秩序ある製造販売行為,事業行為を維持するという本条の趣旨に鑑み,それぞれの当事者の販売行為態様を勘案した利益衡量を行うべきである。控訴人が不正競争的な色彩の強い行為で販売行為を行っているのに対し,被控訴人は,控訴人と十分な協議を行おうとしたが,控訴人による不当な値上げ,品質不良に起因して控訴人から被告各商品の供給を受けることを断念したことからすると,契約13条によって権利を剥奪されるべきは控訴人であって,被控訴人ではない。
(イ) 本件特許につき特許を受ける権利の譲渡契約の債務不履行解除の成否
本件固定的役割分担合意による債務不履行により,本件特許につき特許を受ける権利の譲渡契約が解除されたとの主張も否認し,争う。
(13) 争点(2)エ(特許権持分移転登録手続請求の成否)
ア 控訴人の主張
(ア) 控訴人は,平成30年7月31日,E及びFから,両名の本件特許権に係る持分各12分の1の移転登録手続請求権を譲り受けた。
被控訴人は,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法として却下すべきであると主張するが,上記譲渡が行われたのは平成30年7月31日であり,それを踏まえた上記主張もほぼ同時期に行われたから,時機に後れた攻撃防御方法に当たらないし,訴訟の進行を遅延させるものでもない。
(イ) 被控訴人は,特許権持分移転登録手続請求権は,特許権持分から離れて独立に譲渡の対象となるものではないなどと主張するが,特許権持分の移転は登録が効力発生要件であるから(特許法98条1項1号),特許権持分を取得しようとする者は,移転登録が完了するまでは,特許権持分移転登録手続請求権は有しているものの,特許権持分そのものは保有していない。したがって,特許権持分移転登録手続請求権を,特許権持分とは離れて独立に譲渡することができるかという問題を立てること自体が誤りである。
また,被控訴人は,E及びFの有する本件特許権の持分のうち,控訴人が被控訴人から剥奪したと主張する持分各12分の1の控訴人への移転には,被控訴人の同意が必要であるなどと主張するが,移転登録が完了するまでは,E及びFは,上記持分各12分の1を保有しているわけではないから,それらの持分が控訴人に移転することも観念できず,被控訴人の同意が必要となる余地はない。仮に,通常の特許権譲渡契約等の場合であれば,被控訴人の同意が必要であるとしても,本件固定的役割分担合意においては,役割分担の定めに違反した場合には特許権が剥奪される効果が生じることを事前に合意しているのであって,実際に剥奪が実行される段階に至って改めて同意が必要であるわけがないから,本件4者は,本件固定的役割分担合意を合意した際に,剥奪された特許権が他の3者に移転する場合においては,あらかじめ同意していたか,同意しない権利を放棄していたというべきである。
(ウ) 被控訴人は,被控訴人から控訴人に対する直接の特許権持分の移転登録は,中間省略登録となり,許されないと主張するが,移転登録が完了するまでは,E及びFは,持分各12分の1を保有しているわけではなく,同人らが特許権持分移転登録手続請求権を控訴人に譲渡し,控訴人がこの特許権持分移転登録手続請求権を行使すれば,持分各12分の1は,被控訴人から,E及びFを経由することなく,控訴人に直接移転することになるから,被控訴人から控訴人に対し直接の特許権持分の移転登録を認めることこそ,特許権持分の変動を正しく特許原簿に反映させることになる。
(エ) 被控訴人は,E及びFから控訴人への特許権持分移転登録手続請求権の譲渡は,訴訟信託に該当し,無効であると主張するが,E及びFは,被控訴人から取得する本件特許権の持分各12分の1を控訴人に譲渡する意思を真に有しており,E及びFが本件特許権の持分各4分の1を保有し,控訴人が持分2分の1を保有することになることを真に納得して,特許権持分移転登録請求権譲渡契約書(甲91,92)に署名したものであるから,訴訟行為をさせることを主たる目的として信託したものではない。
イ 被控訴人の主張
(ア) 控訴人は,E及びFから,両名の本件特許権に係る持分各12分の1の移転登録手続請求権を譲り受けたと主張するが,平成29年6月1日付け控訴理由書兼訴えの変更申立書の提出時点において主張可能であったから,少なくとも重大な過失により時機に後れて提出したものであり,次回期日に侵害論の心証開示を控えた段階での提出は訴訟の完結を遅延させることも明らかであるから,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)として却下すべきである。
(イ) 特許権持分移転登録手続請求権は,特許権の持分を取得した者が,その持分に係る移転登録を受けるための権利であるから,その特許権の持分から離れて独立に譲渡の対象となるものではない(特許法98条1項)。この理は,特許権持分移転登録手続請求権が,契約によって生じた場合も同様である。
(ウ) E及びFから控訴人に特許権持分移転登録手続請求権が移転するためには,その前提として,E及びFの有する特許権持分のうち,控訴人が被控訴人から剥奪したと主張する持分各12分の1が控訴人に移転することを要するが,この持分の移転には,現時点において特許権者として原簿に登録されている被控訴人の同意が必要であり,同意のない持分の移転は効力を生じない(特許法73条1項,98条1項)。そもそも登録が効力発生要件である以上,登録されていない特許権の持分の移転は観念できず,E及びFから控訴人への特許権の持分の移転は,被控訴人からE及びFへの持分移転登録が完了した後にのみ可能である。
(エ) 控訴人の主張は,本来であれば,被控訴人からE及F,E及びFから控訴人へと順次持分移転登録手続をすべきであるにもかかわらず,被控訴人からE及びFへの移転登録手続がされていないことを奇貨として,被控訴人から控訴人へと中間省略登録手続を求めるものである。特許権の移転は登録が効力発生要件であることからすると(特許法98条1項),移転登録原因の内容と一致しない中間省略登録が認められる余地はない。
(オ) 本件において,控訴人が,E及びFから特許権持分移転登録手続請求権を譲り受けた理由は,控訴人のみが訴訟当事者であることに鑑み,控訴人に同請求権を一旦移転させ,被控訴人から特許権の移転登録を受けた後に,E及びFに移転登録して,特許権持分の実態と登録とを整合させようとするものであることは明らかである。
そうすると,E及びFにおいて,控訴人との間で,本件訴訟を主たる目的として本件特許権の持分の管理を内容とする契約を締結したものと評価できることになるから,上記譲渡は,訴訟信託に該当し,無効である(信託法10条)。
(14) 争点(2)オ(控訴人の持分移転登録手続請求が権利濫用となるか)
ア 被控訴人の主張
被控訴人は,控訴人が,購入数量の保証要求や法外な値上げ要求などを行ったために被告各商品の独自生産に切り替えざるを得なくなった。控訴人が被控訴人に対する唯一の製品供給元であり,被控訴人が当該製品について日本で販売事業を行っているという関係にあったことに鑑みると,本件では控訴人の行為により被控訴人の事業を容易に困難ならしめ,契約13条違反に誘導することが可能である。控訴人はいくつかの行為によって,被控訴人をして独自生産に切り替えざるを得ない事情を作出しているのであって,被控訴人の債務不履行は控訴人の行為によって誘導された。他方,結ばない靴ひもの市場は日本だけでなく全世界にわたるのであり,本件特許は,各国で対応出願され,特許となり,控訴人は,日本市場以外でも積極的に販売を行っている。被控訴人が日本で生産することとしても,控訴人には広大な市場が残されている。このような状況において,控訴人が被控訴人の債務不履行や,その効果である権利剥奪効を主張することは,信義則に反し,権利の濫用である。
また,前記(12)イ(ア)dのとおり,本件において控訴人が被控訴人に対して行った,①自己以外のメーカーと取引してはならないと要請する行為,すなわち日本でF以外の工場から結ばない靴ひもを調達してはならないと要請する行為,②月10万ペアの靴ひも購入を迫る行為は,いずれも独占禁止法の禁止する行為である。しかも,控訴人は自ら日本市場において販売することを企図していたものであるから,単純な生産者ではなく,日本市場に参入することによって被控訴人の競合者となるという点で,より悪質である。控訴人は,契約13条を利用して,独占禁止法に違反する行為により日本市場参入を企図したと評価されるべきであり,このような控訴人の請求は,権利濫用である。
イ 控訴人の主張
被控訴人は,控訴人の持分移転登録手続請求が権利濫用であると主張するが,否認し,争う。被控訴人が,控訴人ら3者が製造する結ばない靴ひもの取扱いをやめれば,控訴人ら3者は日本での販路を失う結果になるのであって,本件4者の地位はいずれも対等である。控訴人ら3者が被控訴人より優越的地位にあるといった状況はない。
(15) 争点(3)(差止請求の可否)
ア 控訴人の主張
(ア) 前記(1)ア(ア)のとおり,被控訴人は,本件特許権を侵害しているので,本件には特許法100条1項が適用される。
被控訴人は,特許権の共有者の一部が特許法73条2項の「別段の定」をしたという架空の事例に基づく主張をするが,共有特許権者全員で締結した契約に被控訴人が違反したという本件とは全く関係がないし,差止め等を誰が求められるのかという請求主体性の問題と特許権侵害として差止請求ができるかという問題は別の問題であるから,「債権的効力」として一律に決しようとする被控訴人の解釈は誤りである。
(イ) 被控訴人は,差止めの対象範囲について,結ばない靴ひもを日本で販売する行為は,被控訴人が日本に生産移管する以前から行ってきたもので,「別段の定」によっても禁じられていないから,差止めの対象にならないと主張する。
しかし,日本における被控訴人の被告各商品の製造行為のみならず,その販売行為も,契約13条に違反するものであり,本件特許権1の侵害行為に当たる。特許法73条2項によると,「別段の定」に違反した共有者は,あらゆる形態の特許発明の実施権限を喪失する。
したがって,被控訴人の上記主張は,誤りである。
(ウ) 被控訴人は,控訴人の差止請求が権利の濫用であると主張する。
しかし,仮に,被控訴人において,市場に製品を供給することが不可能となり,結ばない靴ひもビジネスにおける売上げ及び市場の信頼を全て失い,会社の存亡にも関わる事態が発生したとしても,特許発明の実施である生産又は販売をすることについて,事前の協議及び許可を要するものとして制限する「別段の定」を結んでおきながら,控訴人ら3者との事前の協議及び許可を経ずに,被告各商品の製造,販売を独自に開始することにより本件特許権を侵害したのであるから,上記のような結果は,当然の結果であり,自ら招いた事態である。被控訴人が控訴人ら3者との協議を一方的に打ち切り,日本への生産移管を行ったのは,日本における結ばない靴ひもの販売による利益を独占しようとした自らの判断によるものであり,控訴人の帰責性はない。
イ 被控訴人の主張
(ア) 仮に,被控訴人が特許法73条2項の「別段の定」に違反したとしても,それは,控訴人と被控訴人との間の債務不履行を構成するにすぎず,特許権侵害を構成するわけではない。特許法98条により登録された正当な特許権者である被控訴人に対し,特許法上特別に認められる物権的請求権である差止請求権が生じる余地はない。
また,特許権侵害に基づく差止請求は特許権の保存行為であり,各共有者が単独で差止請求を提起することができると解されているところ,仮に特許権者としてA,B,C及びDの4者が存在し,そのうちAとBとが契約において特許法73条2項の「別段の定」をした場合,Bによる「別段の定」違反が特許権侵害を構成するとするならば,契約当事者でないCやDもまた,Bに対して差止めを求めることができることとなり不合理である。したがって,この意味においても,「別段の定」違反には債権的効力しか生じないというべきである。
(イ) 仮に,差止請求が認められるとしても,特許法は特許権の実施について「生産」と「譲渡」とを区別しているから(2条3項1号),差止めの対象範囲を論ずる場合も,特許法の規定に従い,製造と販売とを区別すべきである。被控訴人の日本への生産移管は,本件製造会社に被告各商品を製造させる行為と,被告各商品を日本で販売する行為とに区別されるところ,後者については,被控訴人が日本に生産移管する以前から行ってきたものであるから,「別段の定」によっても禁じられていない行為である。「別段の定」が存在する場合に,共有特許権者がどの範囲で発明を実施することができるものであるかは,契約の内容に従って決定される。「別段の定」に違反した場合,当該契約の内容にかかわらず,「別段の定」によって許されていた実施行為までもが一律に禁止されるとする控訴人の主張は,特許法73条2項の明文に反するものである。
したがって,差止請求は,被控訴人の日本での製造行為を禁ずるものにしかなり得ない。
(ウ) 控訴人は,遅くとも平成28年10月23日以降,日本で結ばない靴ひも「COOL KNOT」を販売し,契約13条に定める「別段の定」に違反している。被控訴人は,控訴人との間で十分に協議を重ねた上で日本での生産に踏み切ったものであり,被控訴人が日本への生産移管を行ったことについて,控訴人の帰責性は高い。しかるに,控訴人による差止請求を認めた場合,控訴人のみが日本市場において結ばない靴ひものビジネスを展開することができることになり,被控訴人の作り上げた市場をそのまま独占する結果となるため,判決によって被控訴人ブランドへのフリーライドが是認されることになり,著しく不合理である。また,これについて,被控訴人が控訴人に対して差止請求権を行使することによってしか是正ができないというのでは,あまりにも迂遠である。
以上のとおりであるから,本件において,差止めの必要性は存在せず,控訴人による差止請求権の行使は,権利の濫用として許されないというべきである。
(16) 争点(4)(被控訴人が無権利者であることの確認の利益の有無)
ア 控訴人の主張
「COOL KNOT」を販売したのは訴外会社であり,控訴人ではない。また,訴外会社の設立は平成28年12月5日であって,それ以前の同年10月23日に控訴人及びその関係者が「COOL KNOT」を日本において販売していたことはない。また,被控訴人が,控訴人らの許可なく,同年4月以降,日本において被告各商品の製造,販売を開始した瞬間に,被控訴人の本件特許権の持分は契約13条により剥奪された(控訴人ら3者に移転した)と同時に,被控訴人は本件4者の協調関係から排除されているから,被控訴人に対する事前の協議及び許可は不要である。したがって,控訴人は無権利者ではない。
イ 被控訴人の主張
控訴人は,遅くとも平成28年10月23日以降,日本で,被控訴人に対して協議及び許可を求めることなく,本件発明の実施品である「COOL KNOT」の販売を開始した。
仮に,契約13条後段が特許法73条2項の「別段の定」を規定したものであるとすると,控訴人もまた,「COOL KNOT」の販売により,同日以降,本件特許の持分が剥奪され,無権利者の状態にある。
このような控訴人が現在の被控訴人の本件特許権の持分について確認しても,紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切ではないから,控訴人には,本件特許権持分について確認の利益がない。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は,控訴人の請求(当審において拡張された請求を含む。)のうち,特許権侵害に基づく損害倍賠償請求については,1億5214万3157円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がなく,特許法100条1項に基づく差止請求と本件特許権の持分移転登録手続請求にはいずれも理由があり,被控訴人が本件特許権の持分を有さないことの確認の訴えは,不適法であると判断する。その理由は,次のとおりである。
1 争点(1)ア(ア)(特許法102条2項の適用の可否)について
(1) 被控訴人は,被117控訴人も,特許法98条によって認められた正当な特許権者であること,特許法73条2項の「別段の定」に違反したことは,特許権者間の債務不履行を構成するにすぎないから,本件に特許権侵害に適用されるべき特許法102条2項の適用はないと主張する。
しかし,本件において,被控訴人が契約13条という特許法73条2項「別段の定」に違反し,その結果,被控訴人の日本における被告各商品の製造,販売が控訴人ら3者の特許権を侵害することになり,不法行為を構成することは,中間判決が判断したとおりである。
したがって,被控訴人の主張を採用することはできない。
(2) 被控訴人は,控訴人は,もともと本件発明の実施品を日本で直接販売していなかったから,特許法102条2項は適用されないし,控訴人は平成28年4月1日から平成29年6月30日までの間は,日本において本件発明を一切実施しておらず,その可能性もなかったものであるから,この期間において,特許法102条2項の適用はない,E及びFは,日本における販売を想定していなかったから,同人らの損害賠償請求権については,特許法102条2項の適用はないと主張する。
特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには,特許権者において,損害の発生及び額,これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張,立証しなければならないところ,その立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして,侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは,その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規定である(知的財産高等裁判所平成30年(ネ)第10063号令和元年6月7日特別部判決〔以下,「知財高裁令和元年6月7日判決」という。〕)。そして,特許法102条2項には,特許権者が当該特許発明の実施をしていることを要する旨の文言は存在しないこと,同項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であって,その効果も推定にすぎないことからすると,同項を適用するための要件を,殊更厳格なものとする合理的な理由はなく,特許権者が当該特許発明を実施していることは,同項を適用するための要件とはいえず,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許102条2項の適用が認められると解すべきである(知的財産高等裁判所平成24年(ネ)第10015号同25年2月1日特別部判決)。
控訴人,E及びFも,本件特許権1の共有持分者であり,本件4者は,本件発明1-1の実施について,①Fが中国国内の工場で実施品を製造し,②これをEが梱包し,③これを控訴人が仕入れ,④被控訴人がこれを日本に輸入して販売することとし,そのような販売形態(本件販売形態)で本件発明1-1の実施品の日本における販売が長年続けられてきたことは,当事者間に争いがない。そうすると,控訴人ら3者は,日本における本件発明1―1の実施品に関し,本件販売形態によって利益を得ていたものである。
そして,証拠(乙40,88)及び弁論の全趣旨によると,控訴人は,平成28年12月5日に訴外会社を設立し,訴外会社は,遅くとも,平成29年6月30日には,本件発明の実施品である「COOL KNOT」の販売を開始したことが認められる(被控訴人は,乙37に基づいて,控訴人が平成28年10月23日以降,「COOL KNOT」を販売したと主張するが,乙37は,オンライン市場のAmazonにおいて,「coolknot 特許取得済みno tie Constant」を販売するウェブページの写しであり,Amazon.co.jpでの取り扱い開始日が平成28年10月23日と記載されているものであるが,並行輸入品とも記載されており,この商品の販売と控訴人との関係が不明であるので,これに基づいて,「COOL KNOT」が同日以降,控訴人によって販売されたと認めることはできない。)。後記12(1) (2)アのとおり,被控訴人は,平成28年4月に被告各商品を日本において製造,販売したことによって契約13条に基づいて本件特許権の共有持分が剥奪される者であり,控訴人は,被控訴人との協議や許可を経ることなく,本件発明の実施品を日本において製造販売することができるものである。
これらの事実からすると,控訴人ら3者には,被控訴人による日本における製造,販売行為がなかったならば日本における本件発明の実施品に係る利益が得られたであろうという事情が存在すると認められる。
したがって,控訴人については,本件対象期間の全期間について,特許法102条2項の適用が認められるし,また,E及びFの損害賠償請求についても,特許法102条2項の適用が認められるというべきである。
(3) 被控訴人は,被控訴人も共有特許権者であるため,侵害によって生じた損害賠償請求権のうち4分の1は,被控訴人に帰属することで混同により消滅すると主張する。
しかし,後記12(1)のとおり,被控訴人は,平成28年4月に被告各商品を日本において製造,販売したことにより,契約13条に基づいて本件特許権の共有持分が剥奪されることになる者であり,特許法73条2項の「別段の定」に反することによって,他の共有者らに対し,本件特許権の侵害者となる者であるから,このような被控訴人が未だに本件特許権の特許権者として登録されているからといって,他の共有者である控訴人ら3者との間で,特許権侵害の損害賠償請求権が被控訴人に帰属すると認めることはできない。
したがって,被控訴人の上記主張を採用することはできない。
(4) 被控訴人は,控訴人が被控訴人に対して請求できる損害は,被控訴人が被告各商品の生産を中国から日本に切り替えたことに基づく損害,すなわち,被控訴人が引き続き控訴人から中国産キャタピランを仕入れていた場合に得べかりし利益と,現状との差額に限定される,控訴人による中国産キャタピランの輸出に係る事業が赤字であったから,控訴人には損害が生じていない,訴外会社は,日本において「COOL KNOT」を販売しているから,控訴人には損害がないと主張する。
特許法102条2項の趣旨は,前記(2)のとおりであり,特許法102条2項の上記趣旨からすると,同項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額とは,原則として,侵害者が得た利益全額であると解するのが相当であって,このような利益全額について同項による推定が及ぶと解すべきである(知財高裁令和元年6月7日判決)。
もっとも,侵害者の側で,侵害者が得た利益の一部又は全部について,特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合には,その限度で上記推定は覆滅されるものということができる(知財高裁令和元年6月7日判決)。
しかし,後記12(1),(2)アのとおり,被控訴人が日本において被告各商品を製造,販売したことにより,被控訴人は本件特許権の持分を剥奪されることになる者であり,控訴人は,被控訴人との間で,日本において本件発明の実施品を販売することを禁じられることはないから,控訴人の利益が上記差額に限られる理由はない。また,仮に,控訴人が本件販売形態により被控訴人に中国産キャタピランを販売していた間,その事業が赤字であったとしても,控訴人が日本において本件発明の実施品を直接販売することができるようになったときに,控訴人が利益を受けることができなかったということはできない。さらに,訴外会社が日本において「COOL KNOT」を販売しているからといって,控訴人に損害がないということができないことは明らかである。したがって,被控訴人が得た利益の一部又は全部について,控訴人が受けた損害との相当因果関係が欠けるということはできない。
(5) 以上から,本件においては,本件対象期間について,E及びFから譲渡を受けた部分を含め,控訴人の損害賠償請求権について,特許法102条2項の適用が認められる。
2 争点(1)ア(イ)(被控訴人の受けた利益の額)について
(1) 本件対象期間中の被告各商品の売上げについて
ア(ア) 後掲の証拠及び調査嘱託の結果によると,グループA(被控訴人から直接購入したと回答した取引先〔A列は,調査嘱託の際の整理番号〕)の本件対象期間中の取引数量及び金額は,別紙1の番号1~182の「裁判所の認定」の「⑤ツインズから直接購入分」の「数量(ペア)」及び「税抜き金額(円)」欄記載のとおりと認められ,合計●●●●●●●●ペア,総額●●●●●●●●●●●円となる。
(イ) 上記認定の補足説明
a 同一の会社であると認められるもの
証拠(乙409,調査嘱託の結果)によると,番号114の取引先は,番号296の取引先と同じ会社であり,番号296の取引先は,本件対象期間内に被控訴人との取引がない旨回答していることが認められる。
また,証拠(乙409,調査嘱託の結果)によると,番号158の取引先の調査嘱託の回答と,番号159の取引先の乙409記載の取引金額が一致しているため,両社は同じ会社であると認められる。
さらに,証拠(乙409,調査嘱託の結果)によると,番号168の取引先は,番号271の取引先と同じ会社であり,番号271の取引先は,本件対象期間内に被控訴人との取引がない旨回答していることが認められる。
b 取引金額の回答がなかった取引先について
調査嘱託の結果によると,番号182の取引先は,「キャタピラン75cm」と安全靴のセット●セットを1セット当たり●●●●円(税込)で購入したと回答していることが認められる。控訴人は,番号182の取引先「キャタピラン75cm」の取引金額の算定において,単価を調査嘱託の回答の平均単価●●●円を下回る●●●円と主張しているため,この単価を用いると,取引価格は,●●●●●●●●●●●●●●●●と認められる。
c 消費税の加算について
以下の取引先は,調査嘱託の取引金額の回答が,いずれも消費税を含んだ金額であることが認められるため,割戻し計算を行った(1円以下四捨五入。以下の計算において同じ。)。
① 番号11の取引先●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
② 番号23の取引先●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
③ 番号34の取引先●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
④ 番号67の取引先●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
⑤ 番号132の取引先●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
⑥ 番号134の取引先●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
⑦ 番号138の取引先●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
⑧ 番号167の取引先●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
⑨ 番号169の取引先●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
d 返品処理について
調査嘱託の結果によると,以下の取引先には返品があることが認められるため,これらを反映すると,本件対象期間中の取引数量及び取引金額は,それぞれ以下のとおりとなる。
① 番号5の取引先
取引数量●●●●●●ペア
取引金額●●●●●●●●●円
② 番号37の取引先
取引数量●●●●ペア
取引金額●●●●●●●●円
③ 番号41の取引先
取引数量●●●ペア
取引金額●●●●●●●円
④ 番号46の取引先
取引数量●●ペア
取引金額●●●●●●●円
ただし,上記金額は消費税込みの金額なので,それを割り戻すと●●●●●●●円となる。
⑤ 番号135の取引先
取引数量●●●ペア
取引金額●●●●●●円
e キャタピーエアーの取引分を含んでいるか否か等について
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の取引先については,次のとおり認められる。
① 番号11の取引先
乙454には,番号11の取引先の調査嘱託の回答には,平成30年9月18日の売上げであるキャタピラン75cmとキャタピーエアーの合計●●●本が含まれているとの記載がある。
証拠(乙409,乙455の22)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人の会計帳簿には,平成30年9月18日の被告各商品及びキャタピーエアーの取引数量は●●●ペア,取引金額は●●●●●●●円と記載されていることが認められるが,番号11の取引先の調査嘱託の回答は,「キャタピラン(75cm)」について,数量●●●ペア,金額●●●●●●●円(税込み)というものであるから,番号11の取引先の調査嘱託の回答に本件対象期間外の取引やキャタピーエアー分が含まれていると認めることはできない。
② 番号30の取引先
証拠(乙409,454,乙455の11,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によると,番号30の取引先の調査嘱託の回答に記載された「キャタピラン(その他)」の取引数量及び取引金額が,被控訴人の会計帳簿に記載された本件対象期間中のキャタピーエアーの取引数量●●●●ペア及び取引金額●●●●●●●円とそれぞれ一致することが認められるため,番号30の取引先の調査嘱託の回答の「キャタピラン(その他)」はキャタピーエアーの取引分であると認められる。これを控除すると,取引数量は●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●●円と認められる。
なお,乙454には,調査嘱託の回答に記載された単価が高額であるため,番号30の取引先の調査嘱託の回答に記載されたキャタピーアスリートは他社から購入した分である旨の指摘があるが,番号30の取引先は,調査嘱託に対し,被控訴人から購入したものと被控訴人以外から購入したものについてそれぞれ別に回答しているから,被控訴人の上記指摘を採用することはできない。
③ 番号40の取引先
調査嘱託の結果によると,番号40の取引先の調査嘱託の回答の「キャタピラン(その他)」には「キャタピーエアー」と記載されていることが認められるから,これを控除すると,被告各商品の取引数量は●●●ペア,取引金額は●●●●●●●円であると認められる。
④ 番号75の取引先
調査嘱託の結果によると,番号75の取引先の調査嘱託の回答には,平成28年3月21日から平成29年12月31日までの仕入高は●●●●●●●●●円,品別は不明との記載があることが認められるところ,証拠(乙409,454,乙455の12)及び弁論の全趣旨によると,上記期間の取引として,キャタピーエアーの●●●●ペア,●●●●●●●円が含まれていると認められる。
平成28年3月21日から平成29年12月31日までの取引期間について,控訴人は,この期間の被告各商品の単価を調査嘱託の回答の平均単価を上回る410円として取引数量の算定をしているため,控訴人の主張に基づいて単価410円とすると,平成28年3月21日から平成29年12月31日までの取引数量は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となる。これに,平成30年1月1日から同年8月31日までの購入数●●●●ペアを加えると,平成28年3月21日から平成30年8月31日までの取引数量は,●●●●●●●ペアとなる。
ここから,キャタピーエアーの取引数量及び金額を控除すると,取引数量は●●●●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●●●円と認められる。
さらに,番号75の取引先の調査嘱託の回答は,上記のとおり,平成28年3月21日から同月31日までの分も含んだものであるところ,証拠(乙455の13)によると,この期間の取引数量は●●●●本,取引金額は●●●●●●●●円となることが認められる。
これを控除すると,取引数量は●●●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●●●円となる。
⑤ 番号85の取引先
乙454には,番号85の取引先について,キャタピーエアーの回答が混ざっている可能性があるとの指摘があるが,これを認めるに足りる証拠はない。
⑥ 番号94の取引先
証拠(乙409,乙455の3,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によると,番号94の取引先の調査嘱託の回答に記載された「キャタピラン(その他)」の取引数量及び取引金額が,被控訴人の会計帳簿に記載された本件対象期間中のキャタピーエアーの取引数量●●●ペア及び取引金額●●●●●●●円とそれぞれ一致することが認められるため,番号94の取引先の調査嘱託の回答の「キャタピラン(その他)」はキャタピーエアーの取引分であると認められる。これを控除すると,取引数量は●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●●円と認められる。
⑦ 番号105の取引先
調査嘱託の結果によると,番号105の取引先の調査嘱託の回答には,「キャタピラン(その他)」に「キャタピーエアー」と記載されていることが認められるから,これを控除すると,被告各商品の取引数量は●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●円と認められる。
⑧ 番号107の取引先
証拠(乙409,乙455の1,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によると,番号107の取引先の調査嘱託の回答に記載された「キャタピラン(その他)」の取引数量及び取引金額が,被控訴人の会計帳簿に記載された本件対象期間中のキャタピーエアーの取引数量●●●ペア及び取引金額●●●●●●円とそれぞれ一致することが認められるため,調査嘱託の回答の「キャタピラン(その他)」は,キャタピーエアーの取引分であると認められる。これを控除すると,取引数量は●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●円と認められる。
⑨ 番号110の取引先
調査嘱託の結果によると,番号110の取引先の調査嘱託の回答には,「キャタピラン(その他)」に数量●●●ペア,●●●●●●円と記載されていると認められるところ,この金額は,数量に比して極めて低額である(単価が43.6円となる。)。証拠(乙409,乙455の6)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人の会計帳簿には,本件対象期間中のキャタピーエアーの取引数量が●●●ペア,金額●●●●●●●円と記載されていることが認められるから,番号110の取引先の調査嘱託の「キャタピラン(その他)」の回答は,キャタピーエアーの取引分であると認めるのが相当である。
そうすると,取引数量は●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●円であると認められる。
⑩ 番号119の取引先
証拠(乙409,乙455の16,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によると,番号119の取引先の調査嘱託の回答に記載された「キャタピラン(その他)」の取引数量及び取引金額が,被控訴人の会計帳簿に記載された本件対象期間中のキャタピーエアーの取引数量●●ペア及び取引金額●●●●●●円とそれぞれ一致することが認められるため,番号119の取引先の調査嘱託の回答の「キャタピラン(その他)」は,キャタピーエアーの取引分であると認められる。これを控除すると,取引数量は●●●ペア,取引金額は●●●●●●●円と認められる。
f 調査嘱託の回答が本件対象期間以外のものを含んでいるか否か等について
① 番号1の取引先
調査嘱託の結果によると,番号1の取引先は,本件対象期間における被控訴人との取引について,取引数量●●●●●●●ペア,取引金額●●●●●●●●●●●円と回答していることが認められる。
他方,証拠(乙409,乙455の4)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人の会計帳簿では,番号1の取引先と被控訴人の間の平成27年12月から平成30年8月のキャタピーエアーを含んだ取引数量は●●●●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●●●●●円(平均単価344円)となることが認められる。
被控訴人の会計帳簿に基づく番号1の取引先と被控訴人の間の取引金額は,調査嘱託の回答と近似していること,取引本数には乖離があるが,調査嘱託の回答によると,単価が259円とかなり安価となるため,調査嘱託の回答に記載された取引本数には無償のサンプルなどが含まれている可能性もあり,取引本数の乖離を重視することはできないことからすると,調査嘱託に対する番号1の取引先の回答は,被控訴人の会計帳簿にあるとおり,平成27年12月から平成30年8月までのキャタピーエアーを含んだ取引の内容である可能性が高い。
したがって,番号1の取引先と被控訴人の取引については,乙409,454に基づき,取引数量は●●●●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●●●円と認めるのが相当である。
② 番号31の取引先
証拠(乙409,乙455の21)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人の会計帳簿には,平成27年9月の被告各商品の取引数量は●●●ペア,取引金額は●●●●●●●円と記載されており,乙454には,番号31の取引先と被控訴人の取引はこの1件のみであるとの指摘があることが認められるが,番号31の取引先と被控訴人との間の取引が平成27年9月の取引だけであると認めるに足りる証拠はないから,番号31の取引先の調査嘱託の回答●●●●●●●●●●●●に平成27年9月の取引が含まれていると認めることはできない。
③ 番号109の取引先
証拠(乙409,乙455の2)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人の会計帳簿では,平成27年9月から平成30年8月までの被告各商品の取引数量は●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●円と記載されていることが認められる。これらは,番号109の取引先の調査嘱託の回答と一致するため,この回答は,本件対象期間以外の取引を含んでいると認められる。
証拠(乙455の2)によると,別紙2「番号109の取引先について」記載のとおり,平成27年9月から平成28年3月までの取引数量は●●●ペア,取引金額は●●●●●●●円となることが認められるため,これを控除すると,取引数量は●●●ペア,取引金額は●●●●●●●円となる。
④ その他,乙454には,以下の取引先について,調査嘱託の回答には,本件対象期間外の取引が含まれていると指摘がある。しかし,調査嘱託の回答が本件対象期間の取引としたものが,各取引先における被控訴人への発注日であるのか,被告各商品の納品日であるのか,被控訴人への代金支払日であるのかは明らかではないから,被控訴人の会計帳簿における請求日や売上日がそれぞれ下記のとおりであるとしても,調査嘱託の回答が本件対象期間に含まれないものを含んでいると認めることはできない。
ⓐ 番号37の取引先
請求日 平成28年4月1日,売上日 平成28年3月31日(乙455の8)
ⓑ 番号48の取引先
請求日・売上日 平成28年3月30日(乙455の5)
ⓒ 番号76の取引先
請求日・売上日 平成30年9月5日,同月21日(乙455の17)
ⓓ 番号106の取引先
請求日・売上日 平成28年3月31日(乙455の10)
g 単価が違うとの指摘について
① 番号25の取引先
乙454には,番号25の取引先は,キャタピラン50cmの取引をキャタピラン75cmの取引として回答している上,単価が高額であり不正確であるとの指摘がある。
調査嘱託の結果によると,番号25の取引先は,本件対象期間における被控訴人とのキャタピラン75cmの取引について,取引数量●●ペア,取引金額●●●●●●円と回答していることが認められ,単価は●●●円となる。この単価は,不合理なものとまではいえないから,乙454が指摘することは,番号25の取引先の調査嘱託の回答の信用性を失わせるものであるとはいえない。
② 番号39の取引先
乙454には,番号39の取引先の調査嘱託の回答のキャタピーゴルフの取引数量及び取引金額によると,単価が●●●●円となるため,回答にキャタピラン50cm及び75cmの分を含めていると考えられるとの指摘がある。
しかし,証拠(乙409,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によると,番号39の取引先が回答する取引金額は,乙409に記載された取引金額の範囲内にあることが認められるから,乙454が指摘することは,番号39の取引先の調査嘱託の回答の信用性を失わせるものであるとはいえない。
③ 番号47の取引先
乙454には,番号47の取引先の調査嘱託の回答の単価が誤っているとの指摘がある。
証拠(乙454,乙455の7,調査嘱託の結果)によると,番号47の取引先が回答した取引数量の総数●●本は,被控訴人の会計帳簿に記載された取引数量と一致するが,番号47の取引先が回答した取引金額は,被控訴人の会計帳簿に記載された取引金額よりも高額となっていることが認められる。
しかし,番号47の取引先の調査嘱託の回答によると,同取引先が被控訴人から購入したキャタピラン(75cm)及びキャタピラン(50cm)の単価は●●●円となることが認められ,この単価は,不合理なものとまではいえないから,乙454が指摘することは,番号47の取引先の調査嘱託の回答の信用性を失わせるものであるとはいえない。
④ 番号68の取引先
乙454には,番号68の取引先の調査嘱託の回答は単価が不自然であるとの指摘がある。
番号68の取引先の調査嘱託の回答によると,キャタピービジネスの単価が●●●●●●●●●●●●●●●●及びキャタピーゴルフの単価が●●●●●●●●●●●●●●●●と高額になることは認められるが,取引金額はいずれも乙409に記載された金額と一致するため,同取引先の調査嘱託の回答における取引数量の記載は不正確なものであると認められる。したがって,番号68の取引先と被控訴人の取引数量は,乙454に基づき,●●ペアと認めるのが相当である。
⑤ 番号69の取引先
乙454には,番号69の取引先の調査嘱託の回答のキャタピービジネスの単価が●●●●円となり不自然であるとの指摘がある。
調査嘱託の結果によると,番号69の取引先は,本件対象期間における被控訴人とのキャタピービジネスについて,取引数量●ペア,取引金額●●●●円,キャタピーアスリートについて,取引数量●ペア,取引金額●●●●円と回答しており,単価が高額となっており,不正確なものであると認められる。したがって,番号69の取引先と被控訴人の取引については,乙409,454に基づき,取引数量は●ペア,取引金額は●●●●円と認めるのが相当である。
⑥ 番号116の取引先
乙454には,番号116の取引先の調査嘱託の回答は単価が誤っているとの指摘がある。
証拠(乙455の18,調査嘱託の結果)によると,番号116の取引先は,キャタピラン75cmの取引数量を●●ペア,取引金額を●●●●●●●円と回答しているところ,この取引数量は,被控訴人の会計帳簿に記載された取引数量と一致するが,取引金額は一致しないことが認められる。
番号116の取引先の調査嘱託の回答によると,キャタピラン75cmは,単価が●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となるため,同取引先のキャタピラン75cmの取引金額の回答は不正確なものであると認められる。
そして,番号116の取引先の調査嘱託のキャタピーコードとキャタピーワークスニーカーの取引金額の回答が,いずれも乙409に記載された取引金額と相違しているところ,上記のとおり,同取引先の回答は不正確なものであることからすると,番号116の取引先と被控訴人との取引については,乙409,454に基づき,取引数量は●●●ペア,取引金額は●●●●●●円と認めるのが相当である。
⑦ 番号169の取引先
乙454には,番号169の取引先の調査嘱託の回答のキャタピラン50cmの単価が誤っているとの指摘がある。
調査嘱託の結果によると,番号169の取引先は,キャタピラン50cmの取引数量●●ペア,取引金額●●●●●●円(税込)と回答していることが認められ,単価は●●●円(税込み。税抜きであると●●●円)となるところ,この単価は,それ自体不合理なものとまではいえないから,乙454が指摘することは,同取引先の調査嘱託の回答の信用性を失わせるものであるとはいえない。
⑧ 番号104の取引先及び番号113の取引先
乙454には,番号104の取引先及び番号113の取引先の調査嘱託の回答が,いずれも単価を誤っているとの指摘がある。
証拠(乙455の9・14,調査嘱託の結果)によると,番号104の取引先の調査嘱託の回答における取引数量は,被控訴人の会計帳簿に記載された取引数量と一致するが,取引金額は一致しないこと,番号113の取引先の調査嘱託の回答における取引数量は,被控訴人の会計帳簿に記載された取引数量と一致するが,取引金額は一致しないことが認められるが,いずれも,取引金額の違いはそれほど大きいものではなく,これらの取引先の調査嘱託の回答が信用できないものということはできない。
h その他の乙454の指摘について
① 番号52の取引先
乙454には,番号52の取引先の平成27年10月からの集計が●●●●●●●円であり,調査嘱託の回答●●●●●●●●●●に近いとの指摘はあるが,平成27年10月からの集計が●●●●●●●円であると認めるに足りる証拠はないから,上記指摘を採用することはできない。
② 乙454には,番号44の取引先及び番号133の取引先は,被控訴人との取引履歴はない旨の指摘はある。しかし,両社とも,調査嘱託に対し,被控訴人から購入したものと被控訴人以外から購入したものについてそれぞれ別に回答し,被控訴人から購入したものを回答していることが認められるから,上記指摘を採用することはできない。
③ 番号82の取引先
乙454には,番号82の取引先の調査嘱託の取引数量の回答には,サンプル分が含まれている可能性があるとの指摘がある。
証拠(乙455の19)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人の会計帳簿には,被控訴人は,番号82の取引先に対し,サンプル分として被告各商品を交付しているとされていることが認められるものの,調査嘱託の回答に,特に不自然な点が認められないことからすると,番号82の取引先の調査嘱託の回答に基づいて,取引数量及び取引金額を認定するのが相当である。
i その他
上記a~hに判示したもののほか,調査嘱託の回答の取引金額が,乙409に記載された取引金額と異なる取引先については,これらの取引先の調査嘱託の回答の取引数量及び取引金額が不正確なものであるとは認められないため,調査嘱託の回答の取引数量及び取引金額を採用し,乙409に記載された取引金額を採用しないこととする。
イ(ア) 控訴人は,被控訴人が主張する個別の取引先に対する売上高(乙409)と調査嘱託の回答が異なることや,調査嘱託に回答しなかった取引があることなどから,被控訴人親密取引先の調査嘱託の回答は信用することができず,乙409の記載も信用することができないとして,別紙1の「④控訴人の主張(円)」欄のとおりの推計計算をすべきであると主張する。
しかし,乙409に記載された各取引先への売上高が調査嘱託の回答と一致するか,近似したものが多くある。そして,調査嘱託の回答が本件対象期間の取引としたものが,各取引先における被控訴人への発注日であるのか,被告各商品の納品日であるのか,被控訴人への代金支払日であるのかは明らかではないことなどを考慮すると,乙409に記載された各取引先の売上高と調査嘱託の回答に記載された各取引先の購入代金が一致しないとしても,このことから直ちに,乙409の記載が信用できないとか,調査嘱託の回答を信用できないとすることはできない。
控訴人が別紙1の「④控訴人の主張(円)」において主張する推計計算は,その根拠に乏しいものであり,控訴人の主張する推計計算を採用することはできない。
(イ) 控訴人は,番号183の取引先から番号199の取引先まで(グループB)は,グループA(被控訴人から直接購入したと調査嘱託に回答した取引先と,被控訴人が提出した売上一覧表〔乙409〕に記載された取引先のうち,調査嘱託の対象としていなかった取引先)に含まれていない業者から購入したと回答しており,これらに対する売上高は,グループAに対する売上高と重複しないから,これらの取引先(グループB)の取引金額全額を被控訴人の売上高とすることができると主張する。
しかし,グループBの取引先とグループAの取引先の間に,他の取引先が介在している可能性もあるのであるから,控訴人の主張を採用することはできず,グループBの売上げを,被控訴人の売上げに含むことはできない。
(ウ) 控訴人は,番号207の取引先は,番号85の取引先から購入したと回答したが,番号85の取引先が被控訴人から購入した販売金額よりも,番号207の取引先が番号85の取引先から購入した金額が上回っているため,番号207の取引先の購入金額は,被控訴人の売上高とすることができると主張するが,番号85の取引先が番号207の取引先に本件対象期間中に販売した被告各商品が,番号85の取引先が本件対象期間中に被控訴人から購入したものであると認めるに足りる証拠はないから,控訴人の上記主張を採用することはできない。控訴人が同様の主張をする各取引先についても,同様の理由により控訴人の主張を採用することはできない。
したがって,被控訴人以外から被告各商品を購入したと調査嘱託に回答した取引先(グループB及びグループC)について,被控訴人の売上げと認めることはできない。
ウ(ア) 被控訴人は,本件対象期間中に各取引先に売却した中国産キャタピランと被告各商品の合計金額を乙409のとおり記載しているところ,①調査嘱託の対象となっていないが,被控訴人が乙409に記載した取引先(別紙1のA欄に「嘱託外」と記載された取引先)に係る数量及び金額,②調査嘱託に回答しなかったが被控訴人が乙409に記載した取引先(別紙1のE欄に「回答なし」と記載された取引)に係る数量及び金額は,乙409の記載に基づき,本件対象期間内の被控訴人の売上げに計上すべきである。また,③被控訴人が乙409に記載したが,調査嘱託の回答には取引なしと記載している取引先(別紙1のE欄に「購入なし」と記載)については,調査嘱託の回答が,被控訴人への発注日,被告各商品の納品日,被控訴人への代金支払日のどの時点を基準として回答しているのかが不明であるものの,被控訴人は,これらの取引先からの売上げを本件対象期間内の売上げとして計上しており,乙409に照らすと,調査嘱託の回答は不正確なものであると認められるため,乙409の記載に基づき,これらも本件対象期間内の被控訴人の売上げとして認定すべきである。
上記①~③を計上すると,別紙1の「裁判所の認定」の「⑦乙409のみに記載されている取引先の取引額(円)」記載のとおり,合計●●●●●●●●●●●円となる。
この金額と,調査嘱託の結果から認定される被控訴人の売上金額●●●●●●●●●●●円を加えると,合計●●●●●●●●●●●円となる。
(イ) 本件対象期間の取引数量については,調査嘱託の結果に基づいて認定した売上金●●●●●●●●●●●円について,数量は●●●●●●●●ペアであるから,単価は●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となる。そうすると,別紙1の「⑦乙409のみに記載されている取引先の取引額(円)」の合計●●●●●●●●●●●円に相当する取引数量は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となり,上記(ア)の●●●●●●●●●●●円に相当する取引数量は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となることが認められる。
(ウ)a 前記(ア),(イ)の取引金額及び取引数量は,中国産キャタピランも含むものであると認められるところ,証拠(乙347,348,402)及び弁論の全趣旨によると,本件対象期間内の中国産キャタピランの取引数量は●●●●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●●●円であり,これらは日本産キャタピラン(被告各商品)よりも先に販売されたと認められるから,これを前記(ア),(イ)の取引数量及び取引金額から控除すると,本件対象期間中の被告各商品の取引数量は●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,取引金額は●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●と認められる。
b これに対し,被控訴人は,中国産のキャタピランの取引数量及び取引金額は,調査嘱託の結果等から認定される取引数量及び取引金額から乙348に記載された日本産のキャタピランの取引数量及び取引金額を控除したものであると主張する。
乙348に記載された本件対象期間中の中国産キャタピランと日本産キャタピラン(被告各商品)の取引数量及び取引金額の合計額は,いずれも,乙408,409に記載された本件対象期間中の売上数量(中国産+日本産)及び売上金額(中国産+日本産)よりも少ないものであるから,乙348には,本件対象期間中の中国産キャタピランと日本産キャタピラン(被告各商品)の売上数量及び売上金額が全て反映されているとは認められない。そして,中国産のキャタピランについては,平成28年4月に被控訴人が被告各商品の製造,販売を開始した時点では,既に在庫として存在しており,被控訴人は,本件対象期間中の取引数量及び取引金額を乙348において,●●●●●●●ペア,●●●●●●●●●円としていたのであるから,本件対象期間中の中国産キャタピランの取引数量及び取引金額は,乙348に基づいて,上記のとおり認めるのが相当である。
なお,本件対象期間中の中国産キャタピランの取引数量及び取引金額が乙348に記載された●●●●●●●ペア,●●●●●●●●●円であるとして,乙408,409の取引数量及び取引金額からこれらを控除すると,本件対象期間中の被告各商品の取引数量は●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●,取引金額は●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●となる。
c 調査嘱託の結果によると,本件対象期間において,被控訴人がモリトから購入した被告各商品は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●であり,スリーランナーから購入した被告各商品は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●であることが認められる。この数量は,上記aで認定した被告各商品の取引数量を上回るものであるが,ある期間に委託製造先から購入した商品が全てその期間に販売されるとは限らないから,上記aの取引数量の認定を左右するとまでいうことはできない。
エ(ア) 控訴人は,被控訴人の本件対象期間中の被告各商品の売上げに関する主張が,被告各商品の単価やTLCでの製造能力などからしても信用できないと主張するが,前記ウ(イ)で認定した調査嘱託の結果に基づく平均単価401円が不合理であるというべき事情は認められない上,TLCでは被告各商品のみを生産しているとは認められないことからすると,控訴人の主張を採用することはできず,前記ウの被告各商品の取引数量及び取引金額の認定が左右されることはない。
(イ) 控訴人は,被控訴人の被告各商品の売上げに関する主張は,被控訴人代表者が本件訴訟で裁判所に提出した陳述書(乙60)の記載や,被控訴人代表者が雑誌などにおいて,被告各商品の売上数について述べたことや,被控訴人が控訴人に説明していたこと(甲104,105)と異なるものであるから,被控訴人の主張や証拠は信用できないと主張する。
しかし,被控訴人代表者が作成した陳述書(乙60)には,本件発明1-1の実施品(中国産キャタピラン)は,平成26年2月にテレビ番組で紹介されたことで1か月当たりの売上げが約4万ペアから12万ペアに伸び,月平均10万ペア程度を順調に販売していたが,平成27年当時,月平均として8万4000ペアになっていたなどと記載されているが,本件対象期間の被告各商品の売上げについての記載はない。また,甲104についても,平成27年4月1日から同年9月30日までの売上金額が記載されているものであるし,甲105も,平成27年4月1日時点の出荷本数についての報告であるから,これらを基に,本件対象期間の被告各商品の売上げを推定することは相当ではない。
また,証拠(乙254~259,263,265,270,273,280,306,308~310,313,315,316)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人代表者は,キャタピランの過去の販売実績や,今後の販売数の見込み,累計販売数などについて新聞や雑誌のインタビューに答えるなどしており,「2014年度は年間140万個を販売」(平成28年3月17日付け新聞記事・乙255),「新潟県内で7月から生産を始めるほか,国内で他にも生産を委託し,月産10万~15万本作る。」,「2016年3月期は130万本を販売した。」,「自社生産に加え他社への委託生産も進め,合わせて月産10万~15万本体制とし,現在の輸入量とほぼ同じ数量を日本産として輸出できるようにする。」(平成28年5月13日付け新聞記事・乙256),「2013年3月から1セット980円で発売」,「3年目は120万セットという火が付いたような人気ぶりだ。」(平成29年の雑誌記事・乙270),「13年の発売以降,ランナーなどの間で人気が高まり,今では年間約120万セットを売り上げる同社の主力製品に成長した」(平成29年3月22日付け新聞記事・乙315),「15年度は100万本を突破,16年度は140~150万本の売り上げを予測する。」(平成29年夏号の雑誌記事・乙308),「現在,年間で販売するキャタピランは120万本,約4億円を売り上げている。」(平成29年12月号の雑誌記事・乙309),「今や年間約130万セットを売り上げるヒット商品に成長。」(平成29年12月21日付け新聞記事・乙316),「キャタピラン年間120万個を販売」,「デビューから5年が経過したキャタピランの販売個数はここ数年,年間120万個前後で推移しています。」(平成30年5月7日付け新聞記事・乙306)などの記載があることが認められる。
しかし,これらの記事などに記載された年間販売個数及び累計個数は,いずれも被告各商品以外のキャタピランも含むものであると考えられる上,セールストークとして実際の数よりも大きい数を述べている可能性もあるから,これらの記載があるからといって,前記ウの被告各商品の取引数量及び取引金額の認定が左右されることはない。
(ウ) 控訴人は,被控訴人の取引先が増加したにもかかわらず,被告各商品の売上数量が下落することはあり得ないと主張し,それに沿った陳述書(甲114)を提出し,被控訴人の取引先であるエービーシー・マートの店舗数が増加していることを指摘する(甲117)が,同社の店舗数が増加したからといって,被控訴人の取引先や取引数が増加したということはできず,甲114の記載を採用することはできないから,前記ウの被告各商品の取引数量及び取引金額の認定が左右されることはない。
(2) 被控訴人の経費について
ア 控訴人は,被控訴人が乙372に基づいて主張する被控訴人の経費は信用できないと主張する。
しかし,乙372は,それを裏付ける書証(乙349~365,423~434,439,440)が提出されており,その内容を積極的に疑うべき事情も認められないから,乙372に基づいて経費を認定することが相当である。
なお,乙421は,自社分(TLC)の経費について,サンプル品などとして用いられ,実際の販売には用いていない被告各商品の経費を差し引いて計算したものであるというのであるが,被告各商品は,結ばない靴ひもとして,その性能を特徴として販売するものであることからすると,サンプル品なども被告各商品を販売するために必要なものであると認められ,被控訴人の経費には,取引先に販売したものの他,サンプル品などとして取引先に交付したものの製造に係る経費も認めるのが相当であるから,乙421ではなく,乙372に基づいて経費を認定することが相当である。
イ 乙372に記載された各経費の金額は,本件対象期間中の被控訴人の経費から,結ばない靴ひもの製造販売事業とは無関係の経費を除外し,結ばない靴ひもの製造販売事業に関する経費を計上した上で,日本産キャタピラン等の製造販売のみに要する費用,中国産キャタピラン等と日本産キャタピラン等の販売の両方に要する費用を計上し,売上本数に応じて,日本産キャタピラン等の経費を計上し,他方,日本産キャタピラン等の製造に関する費目についても,被告各商品と被告各商品以外の日本産キャタピラン等に要する費用を製造原価で按分し,被告各商品の経費を計上したものであるところ,被控訴人は,本件対象期間内に販売した被告各商品の数量は●●●●●●●●ペアであると主張し,乙372に基づいて主張する被控訴人の経費について,この数量を用いて,中国産キャタピランと日本産キャタピラン(被告各商品)の双方に共通する経費を按分していることが認められる。
しかし,本件対象期間中の被告各商品の取引数量は●●●●●●●●ペアと認められるから,乙372における中国産キャタピランと日本産キャタピランの双方に係る経費の上記按分計算は正確ではないことになる。
そこで,まず,乙372において,中国産キャタピランと日本産キャタピランの双方に係る経費とされているもの(別紙3「経費一覧表」〔以下,「別紙3」という。〕の黄色のセルの部分)について,別紙3の「売上」の「日本産売上比率」に記載された各月の比率に基づき,各月毎に中国産キャタピランと日本産キャタピランの双方に係る経費として算定すると,各月の該当欄に記載の金額となることが認められる。そして,これらについて,本件対象期間中の合計額を,中国産キャタピランの売上数●●●●●●●ペアと,日本産キャタピラン(被告各商品)の売上本数●●●●●●●●ペアで按分すると,それぞれ別紙3記載の「裁判所の認定額」欄記載のとおりとなる。
以上の点を除いて,被控訴人の経費の算定方法は,製造原価で按分している点も含めて相当なものであると認められる。
ウ 次に,別紙3に記載された各項目及びその金額が,特許法102条2項の「侵害者に生じた利益」,いわゆる限界利益を算定する過程で差し引くべき経費として認められるか否かについて検討する。
(ア) 原材料費について
a 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,「原料仕入高」(乙349,372,423),「租税公課(関税)」(乙350,372,423),「委託製造仕入高(スリーランナー,モリト)」(乙351,372),「包装費(スリーランナー,モリト,TLC製専用)」(乙351,372,424),「包装費(パッケージ゙,台紙,JANシール)」(乙351,372),「包装外注工賃(国産製専用)」(乙351,372,424)及び「包装外注工賃」(乙351,372,424)は,いずれも,被告各商品を製造販売するために追加して必要となった費用であると認められるから,別紙3に記載された金額を限界利益を算定する過程で差し引くべき経費として認めるのが相当である。
なお,証拠(乙404~406)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人の発注書などの帳票に基づくと,本件対象期間中に被控訴人が発注した被告各商品の数量は,モリトに対する●●●●●●●ペア(合計額●●●●●●●●●ペアから合浸剤●●を差し引いたもの),スリーランナーに対する●●●●●●●ペア(合計額●●●●●●●●●から合浸剤●●個と,ランニングスピライザー等の●●●●●●を差し引いたもの)の合計●●●●●●●●ペアとなり,乙372では,本件対象期間中の本件製造会社に対する委託製造仕入高は●●●●●●●●●●●円とされていることが認められる(これによると単価は●●●円となる。)。これに対し,調査嘱託の結果によると,本件対象期間中の本件各製造会社との取引数量は合計●●●●●●●●ペア,取引金額は●●●●●●●●●●●円(これによると単価は●●●円となる。)であることが認められるが,調査嘱託の回答が,本件対象期間の取引としたものが,被控訴人からの発注日であるのか,被告各商品の納品日であるのか,被控訴人からの代金支払日であるのかは明らかではないことなどを考慮すると,上記乙372の委託製造仕入高が信用できないとまでいうことはできず,委託製造仕入高については,上記の乙372の金額を採用するのが相当である。
b 控訴人は,乙350の輸入関税の記載が乙345や乙362の記載と一致しないと主張するが,乙350の記載は,乙345の原材料の調達回数や,乙362の製紐機の調達回数よりも回数は少ないから,乙350の記載に基づいて,経費を認定するのが相当である。
また,控訴人は,「包装費(スリーランナー,モリト,TLC製専用)」,「包装費(パッケージ,台紙,JANシール)」,「包装外注工賃(国産製専用)」及び「包装外注工賃」について,乙351(補助元帳)には国内向け製品の経費とは認められない経費が含まれていると主張するが,根拠に乏しい主張であり,採用することはできない。
(イ) 個別固定費について
a 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,個別固定費としての「賃金(製造担当者のみ)」(乙352の1・2,乙372),「法定福利費」(乙352の3・4,乙372),「工場消耗品費」(乙353,372),「製紐機修繕費」(乙354の2,乙372)及び「旅費交通費」(乙355,372)は,いずれも被告各商品を製造するために追加して必要となった費用であると認められるから,別紙3に記載された金額を限界利益を算定する過程で差し引くべき経費として認めるのが相当である。
控訴人は,「賃金(製造担当者のみ)」,「法定福利費」及び「旅費交通費」について,当該従業員は被告各商品の製造を担当しないのであれば,他の商品の製造等を担当するだけであるから,これらの費目は,被控訴人の侵害行為に関係なく必要となる費用であると主張する。しかし,被控訴人の従業員が他の商品の製造,販売を行うとしても,それぞれの時期において商品の製造数に応じて,雇用する従業員の数や勤務時間は変動すると考えられる上,乙372に記載されたこれらの経費は,被告各商品の製造に関するものとして算定されたものであるから,これらは,侵害品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費と認めるのが相当である。
また,控訴人は,被控訴人の侵害行為に関係なく,被告各商品以外の商品の製造のために工場の賃借や製紐機の導入等が行われたといえるから,これらの費用は,侵害品の「製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」とはいえないと主張するが,工場の賃借や製紐機の導入等とは異なり,「工場消耗品費」及び「製紐機修繕費」は,被告各商品を製造することにより増加する経費であると考えられるし,乙372に記載されたこれらの経費は,被告各商品の製造に関するものとして算定されたものであるから,これらも,侵害品の「製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」と認めるのが相当である。
b 他方,証拠(甲115,乙354の1,乙371,439)及び弁論の全趣旨によると,「地代家賃」については,被控訴人は,TLCの製造ラインで,被告各商品だけでなく,被告各商品以外の結ばない靴ひもを製造したり,試作品を製造するなどしていることが認められるから,TLCに製造ラインを設置し,その製造ラインのために工場を賃借する費用が,被告各商品を製造販売するために追加して必要となった費用であると認めることはできない。したがって,これを限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
(ウ) 製造変動費について
a 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,「外注加工費」(乙356の1,乙372)及び「水道光熱費等」(乙356の2,乙357,372)は,いずれも被告各商品を製造するために追加して必要となった費用であると認められるから,別紙3に記載された金額を限界利益を算定する過程で差し引くべき経費として認めるのが相当である。
b もっとも,「製紐機の減価償却費」(乙362,372,425)については,前記(イ)bの「地代家賃」と同様に,製紐機を使用して,被告各商品だけでなく被告各商品以外の商品も製造していることからすると,被告各商品を製造するために追加して必要となった費用であると認めることはできないから,これを限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
(エ) 運賃について
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,「運賃(材料輸入時)」(乙358,372,423)及び「荷造り運賃(福山通運)」(乙359,372)は,いずれも被告各商品を製造販売するために追加して必要となった費用であると認められるから,別紙3に記載された金額を限界利益を算定する過程で差し引くべき経費として認めるのが相当である。
控訴人は,製造原価で按分する前の費用には,被告各商品以外の運賃も含まれているから,侵害品の「製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」ということはできないと主張するが,製造原価で按分した後の運賃は,侵害品の「製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費」ということができることは明らかである。
(オ) 在庫保管経費について
a 証拠(甲115,乙363,371,372,439)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人は,同一建物内に工場部分と倉庫部分を設けており,倉庫部分には,TLCにおいて製造したキャタピランや,中国から輸入したキャタピラン,その他の商品などを保管していることが認められる。
前記(イ)bのとおり,被控訴人は,TLCの製造ラインで,被告各商品だけでなく,被告各商品以外の結ばない靴ひもを製造したり,試作品を製造するなどしていることが認められる上,倉庫部分が工場部分と同一建物内に設けられていることからすると,被控訴人が当該建物を倉庫部分として賃借して使用することは,被告各商品を保管するかどうかにかかわらず,被控訴人にとって必要な経費であると認められる。
したがって,在庫保管のための「地代家賃」が被告各商品を製造販売するために追加して必要となった費用であると認めることはできず,これを限界利益を算定する過程で差し引くべき経費と認めることはできない。
b もっとも,証拠(乙364,371,372)及び弁論の全趣旨によると,在庫保管経費としての「水道光熱費」は,被告各商品を製造販売することによって,追加して必要となった費用であると認められるから,別紙3に記された金額を限界利益を算定する過程で差し引くべき経費として認めるのが相当である。
(カ) 販売管理費について
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,「支払手数料(販売口銭)」(乙360,372,426,440),「業務委託費」(乙365,372,428)及び「広告宣伝費」(乙318,361,372,427,429~434)は,いずれも被告各商品を製造販売するために追加して必要となった費用であると認められるから,別紙3に記載された金額を限界利益を算定する過程で差し引くべき経費として認めるのが相当である。
控訴人は,被控訴人の主張に基づく売上げの減少からすると,「広告宣伝費」は功を奏していないから限界利益を算定する過程で差し引くべき経費に当たらないと主張するが,被控訴人が広告宣伝を行わなかったときには実際の被告各商品の売上げが確保できなかった可能性があるから,被控訴人が行った広告宣伝が功を奏していないと直ちにいうことはできない。したがって,広告宣伝費が限界利益を算定する過程で差し引くべき経費ではないということはできない。
(キ) その他の控訴人の経費に関する主張で上記認定に反するものに理由がないことは,既に判示したところから明らかである。
エ 以上によると,本件対象期間の被告各商品に係る経費は,別紙3のとおり,●●●●●●●●●●●円と認められる。
(3) 上記(1)及び(2)によると,本件対象期間中の被告各商品に係る被控訴人の限界利益は,●●●●●●●●●●●円と認められる。
3 争点(1)ア(ウ)(損害の覆滅事由の有無)について
(1) 控訴人に損害がないという点について
被控訴人は,控訴人は,契約13条により日本において本件発明の実施品を販売することを禁じられていたのであり,控訴人が中国産キャタピランを被控訴人に輸出していたときには当該事業は赤字であったから,被控訴人が被告各商品を日本において製造販売したことに関し,控訴人には損害がないと主張するが,この主張が認められないことは,前記1(2),(4)で判示したとおりである。
また,訴外会社も日本において「COOL KNOT」の製造販売を開始していることは認められるが,そうであるからといって,訴外会社が「COOL KNOT」を製造販売したことが,損害の推定の覆滅事由に当たると認めることはできないことは明らかである。
(2) 控訴人に実施能力がないという点について
被控訴人は,平成28年4月1日から平成29年6月30日までの間,控訴人に本件発明の実施能力がないと主張するが,控訴人が日本において本件発明1-1の実施品の販売を行っていなかった期間があるからといって,その間に控訴人が本件発明の実施品の販売を行うことができなかったというべき事情は認められないから,被控訴人が得た利益と控訴人が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情となると認めることはできない。
また,被控訴人は,控訴人は被控訴人の営業にフリーライドすることでしか売上げを立てることができないのであり,控訴人の営業能力が過小であると主張するが,被控訴人が主張する,被告各商品と「COOL KNOT」を並べて販売したという事実によって,控訴人の営業能力が過小であると認めることはできず,これを損害推定の覆滅事由と認めることはできない。
したがって,被控訴人の上記主張を採用することはできない。
(3) 被控訴人の顕著な営業努力について
被控訴人は,被告各商品の販売は被控訴人の顕著な営業努力によるものであると主張する。
証拠(乙131~321,337~340,374,381~397,399,400,420,429~432)及び弁論の全趣旨によると,①キャタピランは,平成25年2月頃から,新聞,雑誌やその他マスメディアにおいて,当初はひもを結ばない靴ひもという画期的な商品であるとして,後には,これに加えてヒット商品であるなどとして取り上げられており,平成26年2月2日の「がっちりマンデー」(乙275),同年3月の「シューイチ」(乙276),平成27年1月の「ヒルナンデス」(乙277),同年2月の「Nスタ」(乙278),同月の「ZIP」(乙279),同年11月の「おはよう日本」(乙281)や「ウラマヨ」(乙280)などの情報番組で取り上げられ,反響を得たこと,②被控訴人代表者は,被告各商品の販売のため,Iの著書において被控訴人代表者やキャタピランの開発に至る経緯を紹介してもらったり,その他の著名人に紹介してもらい,このような著名人と被控訴人代表者との交流をSNSを通じて発信するなどし,また,千葉県知事や船橋市長とも知り合いとなり,被告各商品の認知を得たこと(乙337,381~397,399),③被控訴人は,サッカーチームである「SC相模原」,プロ野球の「北海道日本ハムファイターズ」,プロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」,ラグビーチーム「クボタスピアーズ」などとそれぞれスポンサー契約を締結し,競技場でのイベント,コラボグッズの販売や協賛品の配布などによってキャタピランを宣伝していること(乙240,297,301,302,337,374),④被控訴人は,東京マラソンEXPOや名古屋マラソンEXPOなどのスポーツイベントにキャタピランを出品したり,協賛品としてキャタピランを配布したり,ランニングイベントに協賛するなどしたこと(乙286~293,295,296,298~300,374,420,429,431,432),⑤被控訴人は,元プロ野球選手のL,プロゴルファーのM(乙178,179),マラソン界のN(乙286),女子マラソン選手のOなどにキャタピランアンバサダーに就任してもらい,同人らにキャタピランの広告活動を行ってもらっていること(乙337,384),⑥被控訴人は,平成26年に「キャタピランランニングクラブ(CRC)」を発足させ,ランニングイベントを定期的に実施し,市民ランナーにキャタピランの宣伝をしていること(乙318),⑦被控訴人は,ユーザーから回収したアンケート結果をマーケティング戦略や商品の改良に利用したり,福岡大学及び筑波大学との共同研究を通じてキャタピランの商品価値を検討し,これに基づいたマーケティング戦略を行っていること(乙317,338~340),⑧「結ばない靴ひも」の「キャタピーくん」というキャラクターを作り,これを宣伝活動に利用していること(乙337),⑨宣伝広告費として平成24年10月から平成25年3月までに約212万円,同年4月から平成26年3月までに約2000万円,同年4月から平成27年3月までに約3200万円,同年4月から平成28年3月までに約2475万円をそれぞれ支出したこと(乙319),⑨被告各商品の取引先として,エービーシー・マート,イトーヨーカドー,東急ハンズ,ヨドバシカメラ,ビックカメラなどの取引先を獲得することができるようになったこと(乙320)などが認められる。
しかし,これらのうち,被控訴人が中国産キャタピランを販売していた頃の営業活動は,本件4者の共同事業に基づくものであるともいえるから,これをもって被控訴人のみの固有の営業活動であると評価するのは相当でない。
また,被控訴人の上記の宣伝活動は,広範囲にわたって行われているものの,スポーツ用品として用いることができる被告各商品の営業活動としては,通常考えられるものであって,特に顕著なものであるとは認められない。
被控訴人は,控訴人及び訴外会社が十分な営業活動をすることができなかった旨も主張するが,被控訴人の営業活動が特に顕著なものとは認められない以上,被控訴人が被告各商品の製造販売により得た利益を控訴人に得させるのが不当であるとはいえない。
したがって,被控訴人の営業活動を覆滅事由として認めることはできない。
(4) 市場における競合品の存在について
ア(ア) 被控訴人は,市場における被告各商品の競合品の存在を主張し,証拠(乙322~334,377,378,401)及び弁論の全趣旨によると,「結ばなくても良い」靴ひもであること,スポーツなどに最適な足へのフィット感を訴求したものであることなどをうたった商品が,被告各商品以外に存在しており,これらの商品は,被告各商品と比較されることや同じ場所で販売されることがあったことが認められる(なお,乙398は,鍵や身体などに使用する落下防止用コードの商品が掲載された検索結果であり,靴ひもが掲載されているとは認められないから,この書証が競合品の存在を示すものであるとは認められない。)。
(イ) これらの商品には,それぞれ,以下の特徴があると認められる。
①クイックシューレース(乙323)は,靴ひもの先端に付されたリングを引っ張り,これをくつ紐の穴に固定した付属の専用ピンに引っ掛けることによってひもを結ぶ必要がないものである。
②ロックレース(乙324,乙378の1・2),⑤レースロック(乙327),⑪ほどけない靴ひも(乙333),⑫解けない靴ひも(乙334)のタイプ2及び⑮クイックレースキット(乙378の1)は,靴ひもにロック装置(留め具)を付け,このロック装置を動かすことで靴ひもを固定させ,靴ひもを結ぶ必要がないものである。
⑥スリッポン(乙328),⑬モヒート(乙378の1)及び⑯コメンサール(乙378の3)は,伸縮性のある靴ひも,⑧ハッピーパッチ(乙330)は,超強力ゴムで伸びる靴ひも,⑨レースロック ストレッチ(乙331)は,ゴム等の素材で作られた靴ひもであるため,いずれも,一度靴ひもを靴に通せば,その状態で靴の脱着ができるものである。
④ヒッキーズ(乙326,乙378の1)は,対向する靴ひもの二つの穴ごとに当該製品を一つずつ使用し,甲側に近い靴ひもの穴に使用したこの製品を開閉することで,靴を脱着するというものであり,③シュレパス(乙325,乙378の1),
⑦ワンタッチ 楽々シューレース(乙329)及び⑩シリコン製 結ばない靴ひも(乙332)は,上記④と同様に,靴ひもの二つの穴ごとに当該製品を一つずつ使用するものであるが,伸縮性があるため,製品の開閉という動作が不要となっている。
⑭ズービッツ(乙378の1)は,靴ひもの末端部分に取り付けた左右の留め具が強力な磁石によってくっつくために靴ひもを結ぶ必要がないものである。
(ウ) 本件発明1は,伸縮性素材によって作られたくつ紐にこぶを作ることにより,結ぶ必要がないことを特徴とするもの(甲1)であり,被告各商品もこの特徴を有すると認められるところ,上記①~⑯の商品(⑫のタイプ1を除く。)は,靴ひもを結ばないための仕組みが,上記(イ)認定のとおり被告各商品の上記特徴とは全く異なるのであるから,「結ばない靴ひも」などと表記され,被告各商品と比較されたり,同じ場所で販売されることがあるとしても,上記①~⑯の商品(⑫のタイプ1を除く。)が,覆滅事由としての被告各商品の競合品であると認めることはできない。
また,⑫解けない靴ひも(乙334)のタイプ1は,くつ紐にこぶがついており,部分締めができるため,好みのフィット感で調整でき,伸縮性のあるくつ紐であるため,靴を簡単に脱いだり履いたりすることができるとうたわれていることが認められるところ,被控訴人は,これが「XTENEX」であると主張する。
証拠(甲18,25,110,111)及び弁論の全趣旨によると,「XTENEX」は,被告各商品が開発される前から日本において販売されていたものであり,靴ひもの穴に通すときに,力が必要となり,指が痛くなるなどの問題点が指摘されていることが認められる上,日本におけるその販売数量等も明らかでないから,これが,覆滅事由としての被告各商品の競合品であるとは直ちに認められない。
(エ) 以上によると,被告各商品に競合品が存在するため,損害が覆滅されると認めることはできない。
(5) 被告各商品の販売には本件発明の寄与が存在しないとする点について
被控訴人は,被告各商品の販売には本件発明の寄与が存在しないと主張する。
しかし,被告各商品が本件発明1-1の実施品であることは争いがないのであり,被告各商品が(Ⅰ)「結ばなくても良い」靴ひもであること,(Ⅱ)スポーツなどに最適な足へのフィット感を得られることは,本件発明1の,伸縮性素材によって作られたくつ紐にこぶを作ることにより,結ぶ必要がないという特徴によって得られるものであると認められるから,被告各商品の販売に本件発明の寄与がないとは認められない。
したがって,被控訴人の主張を採用することはできない。
(6) 被控訴人は,中国産キャタピランと被告各商品を比較すると,商品特性が格段に向上していると主張する。
証拠(乙321,336)及び弁論の全趣旨によると,平成26年3月と平成29年11月に行われた第三者機関による試験結果によると,被告各商品と,中国産のキャタピランを比較すると,被告各商品の方が紐の引っ張り強さ,ゴムの耐久性,保持力に優れていることが認められ,被控訴人はこの事実をもって,被告各商品の宣伝に利用していたことが認められる。
しかし,上記宣伝の結果,被告各商品の売上げ等が増加したと認めるに足りる証拠はないため,被控訴人の主張する事実をもって覆滅事由に当たると認めることはできない。
(7) 以上によると,本件において,特許法102条2項の損害の推定について覆滅事由を認めることはできない。
4 争点(1)イ(ア)(特許法102条3項の適用の可否)について
本件においては,前記3のとおり,特許法102条2項による損害の推定において,損害の覆滅事由は認められないから,控訴人の損害額は,特許法102条2項により推定された額が認められることになる。これに加え,控訴人が,更に本件特許1の実施許諾をすることによる損害を被ったと認めることはできないから,その余の点を判断するまでもなく,特許法102条3項に基づく控訴人の主張には理由がない。
5 争点(1)ウ(控訴人による損害賠償請求権の放棄の有無)について
被控訴人は,控訴人が日本において本件発明の実施品である「COOL KNOT」を販売したことにより,被控訴人による日本生産品の販売について責任を問わないこととする意思表示をした旨主張する。
(1) 中間判決において,本訴請求のうち,特許権(控訴人の共有持分権)侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)は理由があると判断されているから,中間判決後にされた被控訴人の上記主張は,失当である。
(2) また,仮に,控訴人が,被控訴人と事前に協議することなく日本において本件発明の実施品である「COOL KNOT」を販売しており,控訴人らが,今後は4者で独立採算型の製造販売をして価格,販売力で競争する,本件4者で各自の方法で生産,販売していくべきなどの発言を繰り返していたとしても,これらによって,控訴人が,被控訴人の不法行為に基づく損害賠償請求権を放棄したとは認めることはできない。
6 争点(1)エ(控訴人の損害賠償請求が権利濫用となるか否か)について
(1) 中間判決において,本訴請求のうち,特許権(控訴人の共有持分権)侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)は理由があると判断されているから,中間判決後にされた被控訴人の上記主張は,失当である。
(2) 被控訴人は,自らも特許法73条2項の「別段の定」に違反した控訴人が,平成28年10月23日以降の損害賠償請求権を行使することは権利の濫用であり,信義則上許されないと主張する。
しかし,控訴人が「別段の定」に反したとの主張が認められないことは,後記12(2)アのとおりであり,控訴人の本件請求が信義則に反するとか権利濫用であると主張する被控訴人の主張は理由がない。
7 争点(1)オ(過失相殺の可否)について
(1) 中間判決において,本訴請求のうち,特許権(控訴人の共有持分権)侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)は理由があると判断されているから,中間判決後にされた被控訴人の上記主張は,失当である。
(2)ア 被控訴人は,被控訴人の日本への生産移管は,不当な値上げ等を始めとした控訴人の行為に起因してやむを得ず行われたものである旨主張する。
しかし,被控訴人が日本において被告各商品の生産,販売を開始するに至る経緯は,中間判決(58頁~63頁)が認定するとおりであり,控訴人と被控訴人の間で,控訴人が被控訴人に販売する中国産キャタピランの数量や単価についての交渉がまとまらない中で,被控訴人が日本において被告各商品の製造,販売を開始したと認められ,その経緯において,控訴人に過失相殺を認めるべき帰責性があると認めることはできない。
イ 被控訴人は,自ら「別段の定」に違反した控訴人には著しい過失があるから,平成28年10月23日以降の控訴人の損害について過失相殺されるべきとも主張する。
しかし,控訴人が「別段の定」に反したと認めることはできないことは,後記12(2)アのとおりである。
ウ 被控訴人は,控訴人が被告各商品と「COOL KNOT」を並べて販売したとしていることが,控訴人が日本において被告各商品の販売店舗のみを集中的に狙い,棚の入替えによってシェアを獲得しようとした証左であり,自由競争を明らかに逸脱したものであると主張するが,控訴人が,被告各商品と「COOL KNOT」を並べて販売したとしても,そのことが,直ちに自由競争を逸脱したものということはできず,控訴人側の過失として評価すべき事情であるとは認められない。
エ 以上から,本件において過失相殺を認めることはできない。
8 争点(1)カ(損害の減額事由の有無)について
(1) 被控訴人は,民事再生事件における控訴人の対応や,控訴人が仮差押決定を得たこと,中間判決等に関するプレスリリース,雑誌記事の掲載やチラシの配布などが損害の減額事由であると主張する(前記第2の4(9)ア(ア)~(エ))。
しかし,これらの事情は,被控訴人の本件特許権侵害の不法行為と直接関係するものではなく,本件特許権侵害の不法行為の損害賠償請求権に関し,損害の公平な分担の観点から考慮すべき事情とは認められないから,被控訴人の主張を採用することはできない。
(2) また,被控訴人は,被控訴人が契約13条について意識がなかったことを主張する(前記第2の4(9)ア(オ))が,被控訴人のこのような主張が認められないことは,中間判決(67頁)記載のとおりであり,被控訴人の主張は失当である。
9 小括
以上によると,本件特許権侵害の損害額は,1億4828万5867円と認められる。控訴人と被控訴人は,控訴人の被控訴人に対する上記損害賠償請求権と,被控訴人が控訴人に対して有する本件特許に係る出願費用及び特許維持費用の総額1014万2710円を,元本どうしで相殺することを合意しているから,控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権の額は,1億3814万3157円となり,被控訴人の特許権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,1400万円を認めるのが相当である。
そして,香港での特許出願手続に係る債務不履行に基づく損害賠償請求及び説明義務違反の不法行為に基づく損害賠償請求に理由がないことは,中間判決のとおりであるから,控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求は,1億5214万3157円の限度で理由があることになる。
10 争点(2)ア(特許権持分移転登録手続請求の訴えの追加的変更は適法か)について
被控訴人は,控訴人による特許権持分移転登録手続請求の訴えの追加的変更が許されないと主張する。
しかし,控訴人が特許権持分移転登録手続請求の請求原因として主張していることは,被控訴人が本件固定的役割分担合意や本件共同出願契約に違反し,その結果無権利者となったというものであり,これは,従前から控訴人が請求していた,被控訴人が本件特許権の持分を有していないことの確認を求める請求(同請求を追加する訴えの変更に被控訴人は異議を述べておらず,適法に訴えの変更がされたものと認められる。)と請求原因を共通にするものであるから,請求の基礎を同一としている。また,これによって,著しく訴訟手続を遅滞させることになるとは認められない。
したがって,控訴人の訴えの追加的変更は適法である。
11 争点(2)イ(特許権持分移転登録請求訴訟は固有必要的共同訴訟か)について
被控訴人は,特許権持分移転登録手続請求は固有必要的共同訴訟であると主張する。
しかし,本件の訴訟は合一確定が必要なものではないから,固有必要的共同訴訟であると認めることはできない。被控訴人が指摘する最高裁昭和46年10月7日判決は,共有者全員が,共有権に基づいて,第三者に対し所有権移転登記手続請求訴訟を提起した事案であり,共有持分権に基づく移転登録手続請求をした本件とは事案を異にするものである。
また,被控訴人は,特許権が共有に係るときは,各共有者は他の共有者の同意を得なければその持分を譲渡するなどできない(特許法73条1項)から,特許権持分移転登録手続請求は,前記最判よりも,さらに合一確定の要請が高いと主張するが,各共有者は他の共有者の同意を得さえすれば持分を譲渡等することができるのであるから,全ての共有者において,合一確定する必要は認められない。
12 争点(2)ウ(被控訴人が無権利者といえるか)について
(1) 本件4者は,甲6契約書をもって,本件共同出願契約を締結したと認められること,被控訴人が,平成28年4月以降,日本において,本件製造会社に本件発明1-1の実施品である被告各商品を製造させ,被告各商品を独自に販売したことが契約13条に違反するものであることは,中間判決(53頁~56頁)が認定したとおりであるから,契約13条により,同月に,被控訴人の本件特許権の持分は剥奪され,被控訴人は無権利者となり,その者の持分が他の共有者に帰属することになる。
そして,特許の移転,放棄による消滅は,登録しなければその効力を生じないとされていること(特許法98条1項1号)からすると,契約13条は,権利を剥奪された共有者の持分を取得することになる他の共有者に対し,違反者に対する持分移転登録手続請求権を付与するとの内容をも含むものであると解される。
したがって,被控訴人が契約13条に違反したことにより,被控訴人の本件特許権の各持分を取得することになる者は,被控訴人に対する持分移転登録手続請求権を有することになったと認められる。
(2)ア これに対し,被控訴人は,契約13条の「本件の各権利は剥奪される」との規定は,本件特許権持分を違反者から他の共有特許権者に移転することを定めた規定ではないと主張する。
しかし,契約13条には「権利を剥奪する」との記載がある。証拠(甲19,46)及び弁論の全趣旨によると,本件特許権を剥奪するとの契約13条は,無断で本件特許権を実施したと判明したときのペナルティとして控訴人が提案し,被控訴人代表者がそれに同意して,合意されたものであると認められるから,このような経緯に照らしても,この規定に被控訴人に不利益な点があるとしても,この規定は,文言どおり本件特許権の持分を剥奪することを定めたものであると認めるのが相当である。
なお,被控訴人は,控訴人も本件固定的役割分担合意に違反しているから無権利者となると主張するが,被控訴人は,平成28年4月に被告各商品の日本における生産,販売を開始した時点で,契約13条により本件特許権の持分を剥奪されることになったのであるから,仮に,本件特許権に権利者として登録されていたとしても,それ以後,控訴人が,契約13条に基づいて,被控訴人と協議したり被控訴人の許可を得る必要があるとは認められず,そのような協議,許可がないからといって,控訴人が「別段の定」に反し,無権利者になることはない。
イ 被控訴人は,契約13条の規定の解釈に疑義があるのであるから,契約16条に基づいて協議が必要であると主張するが,契約16条は,訴訟外における紛争解決の方法を定めたものと解され,同条の協議を経なければ契約13条に基づく法的効果が生じないということはできない。
ウ 被控訴人は,権利剥奪効が著しく苛烈であることからすると,特許権者が故意により契約13条に違反した場合に限ってその効果が生じると主張する。
しかし,契約13条その他の本件共同出願契約の条項にそのような限定を加えるような文言は記載されていないし,契約13条の文言が定められた経緯が前記アのとおりと認められることからすると,契約書に記載のない条件を付加することは認められず,被控訴人の主張を採用することはできない。
エ 被控訴人は,契約13条が公序良俗違反で無効であり,同条に基づく請求は権利濫用であると主張する。
(ア) 本件共同出願契約締結時に,契約13条に基づき本件特許権を剥奪されることによって不利益を受けるのが被控訴人のみであると確定していたわけではない。控訴人が,契約13条により,本件特許権が剥奪されるということも,この規定上,あり得るのであり,そうすると,控訴人にも不利益が生じることになる。契約13条が,被控訴人にとってのみ不利益なものであるとは認められない。
したがって,契約13条が,被控訴人にとってのみ不利益なものであるから,公序良俗に反するとか,同条に基づく請求が権利に濫用であると認めることはできない。
(イ) 被控訴人は,控訴人が,Fに独占的生産権を持たせ,被控訴人が他社から購入することができないようにしたことは,昭和57年6月18日公正取引委員会告示「不公正な取引方法」(以下,「一般指定」という。)11項に該当する独占禁止法違反の行為であると主張する。
本件販売形態において,Fは,本件発明の実施品について,独占して生産することになり,被控訴人は,他社から購入することができないことになるが,本件4者が本件共同出願契約を締結するに当たり,このような約定をすることが不当な条件設定として,独占禁止法(一般指定11項)に違反するとは認められない。
また,被控訴人は,控訴人が,被控訴人に月10万ペアの製品の購入を迫ったことは,一般指定12項の「取引数量の義務付け」に該当すると主張する。
しかし,控訴人と被控訴人の間の中国産キャタピランの販売数量及び単価に係る交渉の経緯は,中間判決(58頁~63頁)のとおりであり,この交渉の中で,控訴人が,被控訴人に月10万ペアの購入を求めたことが認められるが,本件共同出願契約の下で,日本に対する輸出を担当していた控訴人が日本において販売を担当する被控訴人に対して求めた要求であり,被控訴人が主張することが不当な条件設定として,独占禁止法(一般指定12項)に違反するとは認められない。
したがって,控訴人に独占禁止法に違反する行為があったとは認められない。
(ウ) 被控訴人は,控訴人の行為と被控訴人の行為を利益衡量すべきとも主張するが,被控訴人が日本において被告各商品を生産,販売するに至った経緯は,中間判決(58頁~63頁)に認定したとおりであり,この経緯からしても,契約13条の権利剥奪効を制限しなければならないような事情はない。
13 争点(2)エ(特許権持分移転登録手続請求の成否)について
(1) 前記12(1)のとおり,契約13条は,違反者の本件特許権の持分を剥奪し,その違反者を無権利者とし,その者の持分を他の共有者に帰属させ,他の共有者に対し,違反者に対する持分移転登録手続請求権を付与するとの内容をも含むものであると解されるところ,違反者の特許持分を最終的に誰に取得させるかについては,他の共有者らの協議によって定めることができると解される(民法250条参照)。
前提事実のとおり,控訴人は,平成30年7月31日,E及Fびから,両名の本件特許権に係る持分各12分の1の移転登録手続請求権を譲り受けたことが認められるところ,特許の移転,放棄による消滅は,登録しなければその効力を生じないとされている(特許法98条1項1号)から,控訴人ら3者の上記債権譲渡契約は,契約13条に基づいて被控訴人が剥奪される本件特許権の持分について,共有者であるE及びFは,各12分の1ずつの持分を控訴人に取得させる旨のものであると解することができる。
そうすると,控訴人は,契約13条並びにE及びFとの合意に基づいて,被控訴人の本件特許権の持分各4分の1を被控訴人から取得することとなり,被控訴人に対する本件特許権の持分各4分の1の移転登録請求権を取得したことになる。
(2) これに対し,被控訴人は,特許権持分移転登録手続請求権は,特許権持分から離れて独立に譲渡の対象となるものではなく,また,控訴人が被控訴人から剥奪したと主張する持分各12分の1の控訴人への移転には,被控訴人の同意が必要であると主張する。
しかし,E及びFから控訴人に対する特許権持分移転登録請求権の債権譲渡は,上記(1)のとおり,被控訴人が剥奪された本件特許権の持分各4分の1を控訴人一人に帰属させる趣旨で行われたものであると認められるから,特許権持分移転登録手続請求権のみを特許権持分から離れて独立に譲渡の対象としたものではない。
また,被控訴人は,契約13条により権利を剥奪されるのであるから,このような場合には,権利の移転に関する被控訴人の同意(特許法73条1項)は不要であると解される。
(3) 被控訴人は,控訴人の請求は,中間省略登録として無効であると主張するが,前記(1)によると,本件特許権の4分の1の各持分は,被控訴人から控訴人に直接移転することになるのであるから,被控訴人の主張は,前提を欠くものである。
(4) 被控訴人は,E及びFからの譲渡が訴訟信託であると主張するが,それを認めるに足りる証拠はない。
(5) 被控訴人は,控訴人がE及びFから本件特許権に係る移転登録手続請求権を譲り受けたとの主張が時機に後れた攻撃防御方法であると主張するが,上記事実は,証拠(甲91~95)により容易に認定することができるものであり,訴訟の完結を遅延させるものではないから,時機に後れた攻撃防御方法として却下すべき理由は認められない。
14 争点(2)オ(控訴人の持分移転登録手続請求が権利濫用となるか)について
(1) 被控訴人が日本において被告各商品を製造,販売するに至った経緯は,中間判決(58頁~63頁)で認定したとおりであり,被控訴人の日本における被告各商品の製造,販売が控訴人によって誘導されたということはできない。また,控訴人の行為が独占禁止法に違反するとの主張については,前記12(2)エ(イ)のとおりである。
そして,その他,控訴人の持分移転手続請求が権利濫用に当たるとする事情は認められないから,被控訴人の主張を採用することはできない。
15 小括
以上によると,被控訴人は,契約13条により,本件特許権の持分各4分の1を剥奪され,控訴人は,控訴人ら3者の合意によって,被控訴人の上記持分を被控訴人から取得し,被控訴人に対する持分移転登録手続請求権を取得したと認められるから,控訴人の被控訴人に対する本件特許権の持分各4分の1の持分移転登録手続請求には理由がある。
16 争点(3)(差止請求の可否)について
(1)ア 被控訴人が日本において被告各商品を製造,販売したことは,特許法73条2項の「別段の定」に反するものであり,控訴人の特許権を侵害するものであるから,特許法100条1項に基づく控訴人の被告各商品の製造又は販売の差止め請求には理由がある。
イ これに対し,被控訴人は,仮に特許権者としてA,B,C及びDの4者が存在し,そのうちAとBとが契約において「別段の定」をした場合,Bによる「別段の定」違反が特許権侵害を構成するとするならば,契約当事者でないCやDもまた,Bに対して差止めを求めることができることとなり,不合理であるとして,「別段の定」には債権的効力しか生じないと主張する。
しかし,仮に,被控訴人が主張するように,AとBのみが「別段の定」を合意しているのであれば,契約当事者でないCやDとBとの間には「別段の定」がない以上,Bの行為が,C及びDにとって特許権侵害になるとは認められないから,不合理ではない。
したがって,被控訴人の上記主張は失当である。
(2) 被控訴人は,差止めの対象範囲は日本における生産に限定されると主張するが,被控訴人は,契約13条により,本件特許権を剥奪されることになり,その場合には,本件発明の実施品の製造のみならず販売もできないのであるから,差止めの対象は,日本における販売にも及ぶと認めるのが相当である。
(3) 被控訴人は,被控訴人が日本への生産移管を行ったことについて帰責性の高い控訴人が,自ら「COOL KNOT」を販売し,被控訴人に対して差止請求をすることで,被控訴人が作り上げた市場をそのまま独占する結果となるから,控訴人の差止請求は権利の濫用であると主張する。
しかし,控訴人の差止請求は,被控訴人が特許法73条2項の「別段の定」に違反したことによって生じたものであり,被控訴人が日本において被告各商品を製造,販売するに至った経緯は,中間判決(58頁~63頁)のとおりであり,控訴人の差止請求を制限しなければならないような事情はない。また,被控訴人は,平成28年4月に被告各商品の製造販売を開始したことにより,本件特許権を剥奪される者であり,控訴人又は訴外会社が「COOL KNOT」を販売することに対してそれを差し止めることはできない。以上のようなことからすると,被控訴人に対して被告各商品の製造,販売の差止めを求める控訴人の請求が権利の濫用であると認めることはできない。
17 争点(4)(被控訴人が無権利者であることの確認の利益の有無)について
控訴人は,被控訴人が本件特許権の持分を有していないことの確認を求める。
しかし,特許の放棄,移転の効力は登録をしなければ効果を生じないところ(特許法98条1項),本件特許権の被控訴人の各持分について,移転登録手続をすれば,被控訴人の本件特許権の持分の喪失という効力が生じることになるから,持分移転登録手続請求が最も適切な手段であって,被控訴人が無権利者であることの確認を求める利益があるとは認められない。
したがって,被控訴人が本件特許権持分を有していないことの確認の訴えは,不適法として却下されるべきである。
第4 結論
以上によると,本件訴えのうち,被控訴人が本件特許権の特許権者でないことの確認を求める部分は不適法であるから却下すべきであり,その余の請求のうち,本件特許権侵害の損害賠償請求は,1億5214万3157円及びこれに対する最終不法行為日である平成30年8月31日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による金員の支払を認める限度で理由があり,その余は理由がなく,本件特許権の移転登録手続請求及び被告各商品の製造,販売の差止請求はいずれも理由がある。また,仮執行宣言については,主文第2項及び3項については相当であるからこれを付すこととする。
なお,控訴人の本件実施合意の債務不履行の損害賠償請求は,控訴の対象ではないし,この請求は,特許権侵害の不法行為の損害賠償請求と選択的併合であり,特許権侵害の不法行為の損害賠償請求については,前記第3の9のとおり,認められるから,判断不要である。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 眞鍋美穂子 裁判官 熊谷大輔)