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裁判年月日 令和 3年 1月21日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平30(行ウ)93号・平30(行ウ)98号・平30(行ウ)99号・平30(行ウ)100号・平30(行ウ)101号・平30(行ウ)102号・平30(行ウ)103号・平30(行ウ)104号
事件名 国籍確認等請求事件
文献番号 2021WLJPCA01216002
出典
裁判年月日 令和 3年 1月21日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平30(行ウ)93号・平30(行ウ)98号・平30(行ウ)99号・平30(行ウ)100号・平30(行ウ)101号・平30(行ウ)102号・平30(行ウ)103号・平30(行ウ)104号
事件名 国籍確認等請求事件
文献番号 2021WLJPCA01216002
当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり
(以下,平成30年(行ウ)第93号事件原告を「原告1」といい,同年第98号事件原告ないし同年第104号事件原告を順に「原告2」ないし「原告8」という。)
主文
1 原告7及び原告8の訴えをいずれも却下する。
2 その余の原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 原告1ないし原告6がそれぞれ日本国籍を有することを確認する。
2 被告は,原告1ないし原告6に対し,それぞれ55万円及びこれに対する平成30年4月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告7及び原告8が外国籍を取得しても日本国籍を失わない地位にあることをそれぞれ確認する。
第2 事案の概要
本件は,日本国籍を有していたものの,その後スイス連邦(以下「スイス」という。)又はリヒテンシュタイン公国(以下「リヒテンシュタイン」という。)の国籍を自己の志望により取得した原告1ないし原告6と,現在日本国籍のみを有しており,スイス国籍又はフランス共和国(以下「フランス」という。)国籍の取得を希望している原告7及び原告8が,国籍法11条1項は憲法の規定に違反して無効であると主張して,①原告1ないし原告6については,それぞれ日本国籍を有することの確認を求めるとともに,同項の改正を行わない立法不作為が国家賠償法上違法であるとして,被告に対し,当該原告らが被った精神的苦痛に対する損害の賠償として各55万円及びこれに対する訴状送達の日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,②原告7及び原告8については,当該原告らが外国籍を取得しても日本国籍を失わない地位にあることの確認をそれぞれ求める事案である。
1 関連法令の定め
国籍法11条1項は,「日本国民は,自己の志望によつて外国の国籍を取得したときは,日本の国籍を失う。」と規定している。
同項を含め,本件に関連する国籍法の定めは,別紙2国籍法の定め記載のとおりである。
2 前提事実(証拠等の引用がない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 原告1
ア 原告1は,昭和18年○月○日,日本人の父の子として出生し,出生により日本国籍を取得した(甲76)。
イ 原告1は,2001年(平成13年)○月○日,自己の志望によりスイス国籍を取得した(弁論の全趣旨)。
(2) 原告2
ア 原告2は,昭和15年○月○日,日本人の父の子として出生し,出生により日本国籍を取得した(甲77)。
イ 原告2は,1997年(平成9年)○月○日,自己の志望によりスイス国籍を取得した。
(3) 原告3
ア 原告3は,昭和17年○月○日,日本人の父の子として出生し,出生により日本国籍を取得した(甲78)。
イ 原告3は,2001年(平成13年)○月○日,自己の志望によりリヒテンシュタイン国籍を取得した(甲5)。
(4) 原告4
ア 原告4は,昭和57年○月○日,日本人の父の子として出生し,出生により日本国籍を取得した。
イ 原告4の両親は,原告4の法定代理人としてスイス国籍取得のための手続を行い,原告4は,1999年(平成11年)○月○日,自己の志望によりスイス国籍を取得した(弁論の全趣旨)。
(5) 原告5
ア 原告5は,昭和59年○月○日,日本人の父の子として出生し,出生により日本国籍を取得した。
イ 原告5の両親は,原告5の法定代理人としてスイス国籍取得のための手続を行い,原告5は,2000年(平成12年)○月○日,自己の志望によりスイス国籍を取得した(弁論の全趣旨)。
(6) 原告6
ア 原告6は,昭和62年○月○日,日本人の父母の子として出生し,出生により日本国籍を取得した。
イ 原告6の両親は,原告6の法定代理人として手続を行い,原告6は,平成12年○月○日,自己の志望によりスイス国籍を取得した(弁論の全趣旨)。
(7) 原告7
原告7は,昭和52年○月○日,日本人の父の子として出生し,出生により日本国籍を取得した。原告7は,現在も日本国籍のみを有している(弁論の全趣旨)。
(8) 原告8
原告8は,昭和26年○月○日,日本人の父の子として出生し,出生により日本国籍を取得した。原告8は,現在も日本国籍のみを有している(弁論の全趣旨)。
第3 争点及び争点に関する当事者の主張
1 争点
(1) 原告7及び原告8の訴えに確認の利益があるか否か(争点(1))
(2) 国籍法11条1項が憲法10条,13条及び22条2項に違反するか否か(争点(2))
(3) 国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するか否か(争点(3))
(4) 国籍法11条1項の改廃に係る立法不作為の国家賠償法上の違法性,損害の有無及び額(争点(4))
2 争点(1)(原告7及び原告8の訴えに確認の利益があるか否か)に関する当事者の主張
(原告7及び原告8の主張)
(1) 原告7は,複数国籍を有する者が珍しくないスイス社会において,スイス国籍を有する複数国籍の同僚らとの競争にさらされており,自分がスイス国籍を有しないことに忸怩たる思いを抱いている。また,原告7は,コロナウイルスなどの国際的な危機状況下においても家族の分断を回避することを望み,そのために台湾籍の妻及びいずれ生まれるかもしれない子どもと共通の国籍を持つために,スイス国籍の取得を必要としている。
原告8は,居住国であるフランスで自分や家族に影響のある法改正に参加できずにいることや,外国人排斥の風潮が強まる居住国で外国人として暮らし続けることに不安を感じており,また,仕事を通じた自己実現を目指す上でフランス国籍があることが有利であると実感していることから,フランス国籍の取得を必要としている。
このように,原告7及び原告8は,居住国での生活の安定や職業生活を通じた自己実現等を図るために居住国の国籍を取得することを必要とし,かつ,切望している。
(2) 原告7及び原告8は,以下のとおり,申請さえすれば確実に居住国の国籍を取得することができる状態にある。
ア 原告7がスイス国籍を取得するためには,形式的要件として,①スイスの永住資格を有していること及び②少なくとも10年以上スイスに居住しており,そのうち3年間が国籍取得申請の前5年間に含まれること,具体的要件として,(a)スイス社会によく統合されていること,(b)スイスの生活様式に慣れていること,(c)スイスの内外社会に危険を生じさせないことが必要であるところ,原告7は,2001年(平成13年)からスイスに居住し永住資格を取得している上,現地企業で管理職として働き,スイスの公用語の一つであるフランス語を使いこなしているから,上記の各要件をいずれも満たしている。したがって,原告7は,申請をすればスイス国籍の取得が認められることは確実である。
イ 原告8がフランス国籍を取得するためには,①フランスに合法的に居住していること,②配偶者がフランス国籍で,婚姻が少なくとも4年以上継続しており,同居していること,③フランス語の読み書きの能力を有していること及び④テロ行為などを行ったとして処罰されたことがないことが必要であるところ,原告8の妻はフランス国籍を保有しており,昭和51年(1976年)の婚姻後40年以上が経過している上に,原告8はフランスで合法的に居住しており,犯罪歴,処罰歴はなく,妻や親族,近隣住民とのコミュニケーションをフランス語で行っており,上記③の基準も十分満たしている。したがって,原告8は,申請をすればフランス国籍の取得が認められることは確実である。
(3) 他方で,原告7及び原告8は,日本国籍の保持も強く望んでいる。ところが,原告7及び原告8が居住国の国籍取得を申請してその取得が実現すると,国籍法11条1項によって原告7及び原告8の日本国籍は自動的かつ機械的に剥奪されてしまう。そのため,原告7及び原告8は,外国籍を志望取得しても日本国籍を失わない地位にあることが確認されない限り,居住国の国籍取得を申請することができない。原告7及び原告8は,国籍法11条1項によって日本国籍か居住国の国籍かという選びようのない二者択一を強いられ,幸福追求権を侵害され,かつ,日本国籍を離脱するか否かを決定する自由,すなわち国籍に関する自己決定権を侵害されている。
(4) 原告7及び原告8が居住国の国籍を取得したために日本国籍を失った場合に受ける損害は,我が国の主権者としての資格を失うことになるなど金銭で代替できる性質のものではないから,事後的な金銭賠償によって償うことは不可能である。
(5) 以上のとおり,原告7及び原告8は,現に幸福追求権や国籍に関する自己決定権を侵害されており,その侵害を取り除くには,外国籍を取得しても日本国籍を失わない地位にあることの確認を求めるしかない。したがって,「事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情」(最高裁昭和41年(行ツ)第35号同47年11月30日第一小法廷判決・民集26巻9号1746頁)があり,確認の利益を有している。
(被告の主張)
(1) 行政事件訴訟法4条所定の公法上の法律関係に関する確認の訴えについては,民事訴訟法下における確認訴訟の確認の利益(①即時解決の必要性,②確認対象選択の適切さ,③確認の訴えを用いることの適否)と同様の観点から,確認の利益の有無が見極められることとなる。しかしながら,原告7及び原告8の訴えは,即時解決の必要性の観点からも,確認対象選択の適切さという観点からも,確認の利益を肯定する余地がない。
(2) 即時解決の必要性の要件を欠くこと
確認の訴えにおける確認の利益が認められるためには,即時解決の必要性(即時確定の現実的利益,解決すべき紛争の成熟性)が存在することが必要であり,現に原告らの有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切であることを要する(最高裁昭和27年(オ)第683号同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁)。当該訴えについてかかる即時解決の必要性があるか否かは,①原告の地位に対する不安・危険が生じているか否か,②その不安・危険が現実的なものであるか否かの両面から検討されるのが通常である。しかし,原告7及び原告8は,現在日本国籍者であって,自らが志望しない限りは,現在有する日本国籍が失われることはないのであるから,現時点において原告7及び原告8の権利又は法律的地位に何らかの危険又は不安が存在するとはいえない。
(3) 確認対象(訴訟物)選択の適切さの要件を欠くこと
原告らの主張する「外国籍を取得しても日本国籍を失わない地位又は権利」なるものは,後述のとおり,そもそも憲法13条及び22条2項によって保障されるような権利・利益ではない。つまり,原告らの確認の訴えは,現行法の下で,全く権利・利益として観念し得ない「公法上の地位」なるものの確認を求める訴えと評価せざるを得ないのであり,原告7及び原告8の訴えが確認対象選択の適切さの要件を欠くことは明らかである。
(4) 以上によれば,原告7及び原告8の訴えは確認の利益を欠き,不適法であるから却下されるべきである。
3 争点(2)(国籍法11条1項が憲法10条,13条及び22条2項に違反するか否か)に関する当事者の主張
(原告らの主張)
(1) 日本国籍の剥奪が制約される根拠
ア 国民主権原理及びそれに基づく代表民主制の原理からの制約
日本国籍は,日本国の統治者たる主権者としての資格を意味しているところ,憲法の国民主権原理は,全ての国民に選挙を通じた国政への参加を固有の権利として保障し,国民主権原理及びこれに基づく代表民主制の原理は,全ての国民が代表民主制の過程に参加し続けられることを統治機構の在り方に関する最も根本的な要請として求めている。国民から日本国籍を剥奪することは,主権者としての資格を奪い,代表民主制への参加等の権利を喪失させて代表民主制の過程から追放するものであり,このような事態をもたらす日本国籍の剥奪は,憲法が拠って立つ正統性の淵源を損ない,憲法が定める国民主権原理及び代表民主制の原理に基づく統治の在り方に関する最も根本的な要請に反するものであって,原則として許されない。したがって,日本国籍の剥奪を定める法律は,国民主権原理及びそれに基づく代表民主制の原理に反し,憲法10条の委任の範囲を逸脱し,違憲であると推定される。
イ 基本的人権尊重原理からの制約
基本的人権尊重原理は,日本国憲法制定の目的たる原理である。同原理の実現手段である国民主権原理及びそれに基づく代表民主制の原理は,基本的人権が保障されてこそ有効に機能し,憲法が追求する基本的人権の保障に結実していく。国民から日本国籍を剥奪することは,基本的人権の保障の土台を根こそぎ奪い,日本国籍に結び付いた権利及び自由とそれらの保障を包括的かつ全面的に失わせるものであり,日本国憲法制定の目的の否定ともいえる行為である。したがって,日本国籍の剥奪を定める法律は,基本的人権尊重原理に反して憲法10条の委任の範囲を逸脱し,違憲であると推定される。
ウ 「個人の尊重」原理からの制約
「個人の尊重」原理(憲法13条)は,立憲主義及び基本的人権保障の基盤であり,全法秩序の指針となる憲法の根本原理である。同原理は,国民一人一人の存在の唯一性,代替不能性及び自己同一性を承認した上で,例えば,各人が自認する自己の存在意義や生きる目的(アイデンティティと人格権)を尊重し,各人が自己にとって重要な事項について自由に決定すること(自己決定権の行使)や,各人が自己の存在意義や生きる目的の実現のために自由に活動すること(幸福追求権の行使)を最大限尊重することを求めている。
日本国籍を離脱するか否かについての自己決定権は,幸福追求権の保障に不可欠なものとして,憲法13条によって保障される。国籍は,個人にとって容易に切り捨てることのできない祖国との紐帯であって,アイデンティティの重要な一部,人格権の重要な要素にほかならず,日本国籍の剥奪は,「個人の尊重」原理に反してアイデンティティや人格権,日本国籍離脱に関する自己決定権,幸福追求権を侵害するものであるから,原則として許されない。したがって,日本国籍の剥奪を定める法律は,憲法の根本原理たる「個人の尊重」原理に反して憲法10条の委任の範囲を逸脱し,違憲であると推定される。
エ 憲法22条2項からの制約
国籍離脱は,離脱するかしないかの二者択一であるから,憲法22条2項の国籍離脱の自由とは,日本国籍を離脱するか否かを自己の意思に基づく自由な選択によって決めることができることをいい,同項は,日本国籍を離脱する自由を保障すると同時に,日本国籍離脱を強制されないこと,すなわち,日本国籍を離脱しない自由を原則として無制限に保障している。本人の意思に反して日本国籍を剥奪することは,日本国籍を離脱しない自由を直接に侵害することにほかならないから,日本国籍の剥奪を定める法律は,同項に違反して違憲であると推定される。
オ 被告の主張に対する反論
被告は,原告らの主張する権利の内実は重国籍を保持する利益である旨主張する。しかしながら,日本国籍やその剥奪が意味する憲法上の重大性に比べれば,原告らが複数国籍となるかどうかは本質的問題ではないのであり,原告らの主張する権利の内実は,複数国籍を保持する利益ではなく,日本国籍を奪われないという権利であるから,被告の主張は失当である。
(2) 国籍を剥奪する立法の合憲性審査基準
上記(1)のとおり,日本国籍を剥奪する法律には違憲の推定が働くというべきであるから,その法律が合憲であるかどうかは,単に幾つかの基本的人権を侵害する法律の合憲性を審査する場合に比して,一層厳格に審査されなければならない。具体的には,①立法目的が正当であって国民から日本国籍を剥奪してでも追求すべき重要な利益を促進するものでなければならず,②手段は目的達成のために必要最小限でなければならない。この手段の審査に当たっては,(a)日本国籍の剥奪という手段が立法目的を実際に促進するか,(b)日本国籍の剥奪以外に立法目的を達成する手段がないか,(c)立法目的との関係で手段(日本国籍剥奪の対象)が不足していないか(過小包摂),あるいは過剰ではないか(過大包摂)が重要な要素となる。
(3) 「国籍変更の自由の保障」という立法目的及びこれを達成する手段について
ア 立法目的について
被告は,国籍法11条1項の立法目的に国籍変更の自由の保障が含まれるとするが,誤りである。同項は,明治32年に制定された旧国籍法(同年法律第66号。以下,単に「旧国籍法」という。)20条の規定をそのまま引き継いだものであるが,立法者から同条の立法趣旨に国籍変更の自由の保障が含まれるという説明がされた事実はなく,仮にこれを同条の効用,機能としてみたとしても,それは旧国籍法が一般的に日本国籍の離脱を認めていなかったからこそ有用性を発揮するものであった。現行の国籍法11条1項の規定は,昭和25年に現行の国籍法が制定された際に,国籍変更の自由を保障するという機能があるか否かについて吟味検討がされないまま,漫然と旧国籍法20条を引き継いだものであり(当時は8条),昭和59年法律第45号による国籍法の改正(以下「昭和59年国籍法改正」という。)の際にも何ら吟味検討がされないまま同一の文言で11条1項として存続したものである。したがって,同項の立法目的に国籍変更の自由の保障を含むとする見解は,現行国籍法下においては成り立ちえない。
以上のような立法の沿革はおくとしても,国籍法11条1項が国籍変更の自由を保障する効用・機能を有するのは,①本人が日本国籍を離脱し外国籍を取得することを希望する場合であること,②当該外国の国籍法制において国籍取得と同時に原国籍を離脱することを要件としていること,③国籍取得と同時に原国籍の離脱ができない場合は原国籍を離脱しないで国籍取得を認める旨の救済規定が存在しないことという条件が全てそろった場合に限定されるところ,このような限定された効用・機能を維持するために同項を存続させる必要性は何ら検証されていない。
イ 立法目的を達成する手段について
仮に国籍法11条1項の立法目的に国籍変更の自由の保障が含まれるとしても,同項は,上記ア①から③までの要件を満たさない原告らからも日本国籍を剥奪する。つまり,同項は,日本国籍の離脱を望まない者の日本国籍を剥奪して日本国籍離脱を強制する点で,日本国籍剥奪の対象が明らかに過大包摂である。また,立法技術上,外国籍を自己の志望に基づき取得した者のうち,上記ア①から③までの条件の全てを満たす者についてのみ,外国籍取得と同時に日本国籍を失うという立法をすることは容易である。
ウ したがって,国籍法11条1項に基づく日本国籍の剥奪は,目的達成のために必要最小限の手段ではなく,同項は,国民主権原理,基本的人権尊重原理及び「個人の尊重」原理に反し憲法10条の委任の範囲を逸脱して違憲,無効であり,かつ,憲法13条及び22条2項に違反し違憲,無効である。
(4) 「複数国籍防止」という立法目的及びこれを達成する手段について
ア 立法目的について
(ア) 複数国籍の発生防止自体は,憲法から導かれる要請ではない。被告は,国籍唯一の原則は国籍の存在意義から当然に導かれる原理として国際的に承認されてきたなどと主張するが,どのような者に国籍を与えるかはその国の対人主権の行使にかかわる事項であって他国が介入することは許されないという原則(主権尊重の原則又は国内管轄の原則)からすれば,むしろ複数国籍の発生は避けられない事態である。そして,ヨーロッパ諸国のように比較的広く複数国籍を肯定する国もあれば,中華人民共和国のように明文規定をもって複数国籍を禁止する国も存在しており,各国の国籍法制は多様である。この点に関して,複数国籍の防止が国籍概念の本質から生じる普遍的な要請であるとする被告の主張は誤りであって,複数国籍を防止解消する必要性は各国が置かれた状況によって異なるものである。
(イ) 被告が挙げる我が国における複数国籍の弊害は,以下のとおり,全く根拠がないか,弊害のおそれがあったとしても抽象的・観念的なものにとどまる。
a 外交保護権の衝突について
外交保護権の衝突については,①国籍国同士が互いに相手国に対し外交保護権を主張する場合と,②国籍国の一方が第三国に対し外交保護権を主張した場合であって,当該第三国はその国を本人の帰属国として扱ってよいかが問題となる場合の二つがある。しかしながら,①については,国籍法抵触条約4条が相互に外交保護権を行使できないと定めており,これが国際慣習法化している。②については,いわゆるノッテボーム事件における国際司法裁判所の1955年(昭和30年)4月6日判決で示された「実効的国籍の原則」が国際慣習法となっている。日本がこれらの国際慣習法を無視することは現実的に不可能又は著しく困難である。したがって,複数国籍を理由とする外交保護権が衝突する現実的具体的な危険性は認められない。
b 兵役義務について
徴兵制度を持たない日本と外国との間で,兵役義務の衝突が生じる余地はない。日本が兵役義務を有する外国に対して自衛権を行使せざるを得ない事態になったときに,複数国籍者は,日本の方針に従って当該外国の兵役を拒否するか,当該外国の方針に従ってその兵役義務を履行するかの選択を余儀なくされるというジレンマに立たされるが,これは複数国籍によって生じるものではなく,両国に対する帰属意識によって生じるのであり,本人の選択によって解決が図られるべき問題にすぎない。
c 納税義務について
納税義務は国籍から自動的に発生するものではなく,法律により誰にどのような基準で賦課するかを定めることによって,初めて具体的な納税義務が発生する。したがって,複数国籍であるが故に当然に納税義務に抵触が生じるものではない。また,日本の税制においては国籍を基準に課税する制度は存在せず,そのような議論も現時点では存在しない。
d 適正な入国管理の阻害について
被告は,複数国籍者が外国旅券を使用して日本から出国し,日本旅券を使用して帰国した場合,当該複数国籍者の出入国の事実が明らかにならず,人物の同一性が確認できず適正な入国管理が阻害されると主張する。しかしながら,外国籍者に対する出入国管理と日本国籍者に対する出入国管理はその内容を異にしており,日本国民については居住移転の自由及び出入国の自由が保障されている以上,日本国民に対する入国管理とは,出国及び入国の事実の確認並びに有効な旅券の所持の確認にとどまるのであって,そもそも複数国籍者の出入国について人物の同一性を確認することは予定されていない。複数国籍者が日本の旅券を提示して入国し,入国管理官署において入国の事実と旅券の有効性を確認する限り,日本国民に対する適正な入国管理が阻害されるという事態は生じない。
e 重婚の発生について
戸籍制度を有する日本において重婚が発生するのは,外国で成立した婚姻が速やかに日本人当事者の本籍地に届けられず,戸籍に婚姻が記載されていない状態が利用された場合である。このような事態は,当該本人が日本国籍のみを有する場合であっても生じるのであり,複数国籍と重婚の発生とは無関係である。
f 単一国籍者が得られない利益を享受する者の発生について
被告は,複数国籍者がそれぞれの国から得られる権利保障や利益は単一の国籍のみを有する者には与えられていない利益であり,保護には値しないものであると主張する。しかしながら,複数国籍者が日本国民としての権利利益を保障されるのは日本の法制度によるものであり,他方,国籍国において国民としての権利利益を保障されるのもその国の法制度によるものである。被告の主張が,複数国籍者について日本国民としての権利利益を保障する必要はないとするものであるとすれば,およそ採り得ない暴論である。
(ウ) 上記(イ)のとおり,被告の挙げる複数国籍の弊害はせいぜい抽象的,観念的なおそれにとどまるのに対して,国籍法11条1項による日本国籍の剥奪が,憲法の要請する統治の在り方及び原告ら個人の具体的な人権保障に与える損害は著しく甚大で,確実に生じるものである。したがって,複数国籍の発生防止という同項の立法目的は,憲法が原則として禁止する日本国籍剥奪という手段を用いてまで求めるべき重要な利益を促進するものであるとは到底いえない。
イ 立法目的を達成する手段について
(ア) 前記ア(イ)のとおり,被告が挙げる複数国籍の弊害とされる現象は,複数国籍の発生を回避すること以外の方法によって防止できるものであるか,日本国憲法下においては生じ得ない,あるいは弊害であるとの主張自体を採用することができないものである。
(イ) 国籍法の採用している立法政策についてみると,同法は,血統に起因する場合を中心に複数国籍の発生を広く認めている一方,複数国籍の発生を防止する制度については,同法5条2項が帰化における原国籍離脱要件の例外規定を置いているほか,同法12条が国籍留保の意思表示をすれば日本国籍を保持することを許容しているのであるから,複数国籍の発生防止を徹底しているとはいえない。また,一旦発生した複数国籍を解消する制度については,同法11条2項,13条,14条,15条,16条が存在するが,基本的に本人の意思に基づいて行うものとしており,唯一の例外である選択催告(同法15条)についてはこれまで適用された事例はない。このように我が国の国籍法は,複数国籍の発生の解消について,本人の意思を尊重するという制度設計を採用しているのに対し,同法11条1項に限っては,本人の意思にかかわらず,即時かつ自動的に日本国籍を失わせることとしており,同法全体の立法政策とは整合しない。
そして,複数国籍の防止という立法目的を達成するには,より権利侵害的でない手段として国籍離脱制度(国籍法13条)や国籍選択制度(同法14条)があり,立法目的を達成することのできる代替手段がある。
(ウ) 他方で,国籍法11条1項によって複数国籍の発生を防止することができるのは,外国籍の志望取得の場合のみであり,出生や日本への帰化により発生する複数国籍や,身分行為に付随して外国籍を付与される場合に生じる複数国籍は防止できない。このように同項は,立法目的との関係で過小包摂となっており,このことは立法目的の正当性を疑わせるものである。
ウ 以上のとおり,国籍法11条1項については,日本国籍の離脱を望まない者の日本国籍を剥奪せずに立法目的を達成することのできる代替手段がある上に,立法目的との関係で対象が過小包摂であり,必要最小限の手段ではない。
(5) 小括
以上によれば,国籍法11条1項は,昭和25年の立法当初から,憲法10条の委任の範囲を逸脱し,憲法13条及び22条2項に反するものであって違憲,無効である。
また,仮に国籍法11条1項を支える立法事実が立法時に存在していたとしても,その後,同項に相当する制度を有する国は減少し,平成9年当時には過半数の国が外国籍を志望取得しても原国籍を喪失しないとする制度に移行していた。このような国際的な動向に加えて,複数国籍者の増加の実情,複数国籍の弊害や有益性に関する研究の進展等を踏まえると,同項の合理性を支える立法事実は,遅くとも同年頃までに失われていたというべきである。
(被告の主張)
(1) 原告らの主張する権利は,憲法13条,22条2項等により保障されてはいないこと
原告らは,憲法13条及び22条2項によって,日本国籍の離脱を強制されない権利が保障されている旨主張するが,以下のとおり,原告らの主張するような権利が憲法上保障されているとは解されない。
ア 原告らが主張する権利の内実は,重国籍を保持する利益を保有するとの主張にすぎないこと
原告らの主張を前提とすると,日本国籍を有する者は自己の志望により外国籍を取得しても,その意思に反して日本国籍を失わない権利が憲法上保障されていることになる。そうすると,当該外国籍に加えて,日本国籍を二重に保持することになるが,このことは原告らの主張する権利の内実が,重国籍を保持する利益であることを示している。
しかしながら,上記のような原告らの主張を前提とすると,二つの国のいずれにおいても主権者たる地位を与えられ,旅券の発給を受け,参政権を行使し,居住の権利,出入国の権利が保障され,社会保障を受け得る地位を取得し,それらの国により外交保護権によって庇護を受けるという立場を取得する利益があるということになるが,このような便益を求める関係は,国籍概念が前提としている国民と国家との結合関係とは余りにもかけ離れたものである。国籍の得喪の問題は,その者と国家との結合関係をどのように把握するかという問題であって,その者が受けることのできる便益のみを考慮して決まるものではない。
したがって,憲法13条又は22条2項が,日本国籍の離脱を強制されない権利,すなわち重国籍を保持する利益を保障しているとの原告らの主張は,明らかに前提を欠くものである。
イ 日本国憲法は,日本国籍の得喪に関する要件について何ら言及しておらず,この点について広い立法裁量を認めていること
何人を国家の構成員とするのかは国家統治の根幹にかかわる事柄であって,国籍の得喪要件をどのように定めるかは各々の主権国家における自主的な判断に委ねられるのが原則である。現に我が国を始め各国は,その国の歴史的沿革,伝統,社会的・経済的事情,国際社会の状況等の諸般の要因を考慮して国籍の得喪要件を定めているところであり,それゆえ,その得喪要件は各国によって異なる。そして,我が国の憲法は,22条2項において国籍離脱の自由を明確に定めるほかは,10条において「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定するにとどめ,国籍の得喪に係る要件の定立を国会による立法事項として,その裁量に委ねている。加えて,憲法22条2項では「国籍を離脱する自由」を規定するものの,その文理に照らしても,同項が,国籍離脱の自由を超えて,日本国籍を有する者に対して,原告らが主張するような日本国籍の離脱を強制されない権利を具体的に保障しているとは解し難い。
以上のとおり,憲法は日本国籍の得喪に係る要件について国会に広い立法裁量を与えているのであるから,原告らが主張するような権利が憲法上の権利として保障されているとは解し得ない。
ウ 国籍を個人の権利義務の問題としてのみ捉える考え方は誤りであること
そもそも国籍の得喪は,個人の側から見た権利義務の問題として捉えれば事足りるというものではなく,国家の側から見て,どのような者に統治権を及ぼすのが相当であるのかという観点をも考慮して制度が設計されなくてはならない問題である。原告らの主張は,国益という観点を欠き,専ら個人の権利義務の問題と捉えるものであって,国籍の意義や性質に反するものである。
エ 原告らの主張に対する反論
(ア) 原告らは,原告らの主張する権利の内実は重国籍を保持する利益ではなく,日本国籍を奪われない権利であるなどと主張する。しかしながら,国籍の得喪を専ら個人の権利義務の問題と捉えることが誤りであることは上記ウのとおりである上に,原告らが国籍法11条1項によって日本の国籍を失うのは,外国の国籍を取得したときであって,同項によって日本国籍を失った結果無国籍となるものではないから,原告らが主張する権利の内実は,つまるところ,重国籍を保持する利益にほかならない。加えて,憲法が国籍の得喪に係る要件の定立を国会による立法事項としてその裁量に委ねていることは前記イのとおりであって,原告らが主張するような日本国籍の離脱を強制されない権利が憲法上の権利として保障されているとはいえない。
(イ) 原告らは,憲法22条2項は日本国籍を離脱しない自由を保障しているから,本人の意思に反した日本国籍の剥奪は上記自由の侵害に当たり,同項に反する旨主張する。
しかしながら,憲法22条2項に定める国籍離脱の自由は,国家の構成員たる資格からの離脱を自ら意欲する者に対して,国家があえて引き止めず妨害しないという消極的権利にすぎないから,原告らの主張には理由がない。
原告らは,憲法22条2項によって国籍を離脱するか否かの選択の自由が保障されているとも主張するが,結局のところ重国籍を保持する利益を保有する旨主張するものにすぎず,理由がない。
(ウ) 原告らは,国籍はアイデンティティの重要な一部であって,人格権の重要な要素にほかならず,日本国籍を剥奪することは,これら重大な要素を奪い取るものとして人格権を著しく侵害するなどと主張する。
しかしながら,原告らが主張するところの日本国籍を介在させた「アイデンティティ」等の概念は極めて曖昧なものであって,憲法上の権利として法的保護に値するような利益であるとはいえない。
オ 小括
以上のとおり,原告らの主張するような権利は憲法上保障されているとはいえない。
(2) 国籍法11条1項の立法目的は合理的であり,同項は立法目的を達成する手段としても合理性を有していること
ア 国籍法11条1項に係る憲法13条及び22条2項適合性の判断基準
①憲法10条が「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定し,国籍の得喪については,歴史的沿革,伝統,社会的・経済的事情,国際社会の状況等種々の要因を考慮する立法府の合理的な裁量判断に委ねていること,②原告らが主張するような,国籍の得喪に起因する利益は,表現の自由などのような前国家的な権利利益ではなく,上記のような広範な立法裁量を下敷きに定められた国籍制度を前提とした利益にとどまるものであって,性質上,かかる利益に何らかの制約が課せられるとしても,それによる不利益の程度は限定的というほかはないこと,③国籍法11条1項は,自己の志望により外国籍を取得した場合に限って日本国籍を喪失するというにとどまり,同項が適用される前提として日本国籍を喪失する者の自己決定が存在することからすれば,同項の憲法適合性の判断基準を,原告らが主張するように厳格な審査基準で検討するのは明らかに不当であり,立法目的とその立法目的の達成手段について合理性が認められれば足りるというべきである。原告らの主張は,自己の志望により外国籍を取得し,当該外国籍に加えて日本国籍をも二重に保持することにより,二つの国籍国のいずれにおいても主権者たる地位や基本的人権の共有主体を保持することを認めるべきであるというものであって,このような場面においても国民主権原理や基本的人権尊重原理の重要性を理由に,厳格な違憲審査がされなければならないとはいえない。
イ 国籍法11条1項の立法目的は合理的であること
(ア) 国籍法11条1項の立法目的
国籍法11条1項の立法目的は,国籍変更の自由を認めるとともに,国籍の積極的抵触(重国籍の発生)を防止することにある。すなわち,「自己の志望によって」とは,国籍変更の自由を保障する趣旨であるところ,「自己の志望によって」外国籍を取得した者については,国籍変更の自由を保障している以上,重国籍防止の見地から,当然に従来の国籍を放棄する意思があるとみるべきであり,その反射的効果として日本の国籍を失うとしたものである。
(イ) 「国籍変更の自由を認める」という立法目的が合理性を有すること
国家は個人の意思に反して自国の国籍を強制すべきでないとする「国籍自由の原則」は,国籍立法における一つの理想とされており,我が国においては憲法22条2項で国籍離脱の自由が規定され,その国籍離脱の自由の一場面として国籍変更の自由を認めている。
したがって,国籍変更の自由を認めるという立法目的が合理性を有することは明らかである。
(ウ) 「重国籍の発生防止」という立法目的が合理性を有すること
a 重国籍の解消は国籍の本質から導かれる概念であること
国籍が,主権の保持者であり統治権に服する者の範囲を画定するという問題である以上,一人の人間に対して複数の国家が対人主権を持つ,又は,主権在民の国において一人の者が複数の国に対して同時に主権を持つということは,主権国家の考え方とは根本的に相容れないことであって,人は必ず国籍を持ち,かつ,国籍は唯一であるべきであるという考え方は,国籍の本質から導かれるものである。このように,重国籍の発生防止という考え方自体は,国籍の本質から導かれ,国際法上も認められてきた国籍立法の理想であって,国籍の得喪の決定が国内管轄事項とされる中にあって,これを我が国の国籍法が立法目的の一つとして掲げることが憲法適合性の吟味に際して不合理であるとされる余地はない。
b 重国籍が常態化することによる支障が大きいこと
重国籍が常態化することは,国家と国家との間,国家と個人との間又は個人と個人との間の権利義務に重大な矛盾衝突を生じさせるおそれがあるのであって,できる限り重国籍を防止するという理念は合理的なものである。すなわち,重国籍者は,二以上の国家に所属するため,国家が国民に対して有する対人主権が重複して及ぶこととなり,外交保護権の衝突等により国際的摩擦が生じるおそれがある。また,国家は,自国民に対し,兵役義務,納税義務等を課し得るが,重国籍者は,その所属する各国からの義務の履行を要求され,その義務が抵触する事態も生じ得る。さらに,重国籍者は,関係国間の通報制度がない限り,その属する各国において別個の氏名により国民として登録されることも可能であり,別個の旅券を行使し得るから,個人の同一性の判断が困難となり,場合によっては,適正な入国管理が阻害され,重婚を防止し得ないという事態も生じ得る。他方,重国籍者は,その属する各国において国民としての権利を与えられ,複数の本国に自由に往来居住し,各々の国で社会保障の利益,経済活動の自由を享受し得ることになるが,それは単一の国籍のみを有する者は与えられていない利益であり,保護に値する利益とはいえない。このような理由から,国籍唯一の原則は,国籍立法のあるべき姿として国際的に承認されてきたものである。
c 国籍唯一の原則は相当数の国において維持されていること
国籍唯一の原則は,現在も一部の主要国を含む相当数の国において維持されている。例えば,中華人民共和国では重国籍は認められておらず,大韓民国では重国籍者が一定の年齢に達するまでにいずれかの国籍を選択しなければならないことを内容とする国籍選択の制度が採用されている。欧米諸国では重国籍に寛容な国もそれなりに多く見られるものの,重国籍を許容しつつもその解消のための方策をとっている国や重国籍を明確に禁止する国もみられる。
(エ) 原告らの主張に対する反論
a 重国籍の弊害を軽視する原告らの主張が誤りであること
原告らは,国家間の協調や自制によって重国籍の弊害が解消され,あるいはその顕在化が抑えられつつあるとして,重国籍の弊害はないことを強調するが,前記(ウ)bで述べた重国籍の弊害は,重国籍という事実状態に内在する問題であり,重国籍の発生がこれらの弊害発生の要因と考えられる以上,その防止を図ることが合理的であることは当然であって,重国籍の弊害の具体的な事象の存在が認められない限り立法目的の合理性が否定されるかのような原告らの主張は失当である。
b 我が国の法制度が重国籍を容認しているとする原告らの主張の誤り
原告らは,国籍法は重国籍の解消を本人の意思に委ねている結果,重国籍が最終的に解消されない事態が不可避的に生じることが当然に予測されるところ,同法はこれを容認している旨の主張をする。しかしながら,原告らの上記主張は,我が国の国籍法の理念に反して事実上の便益を得ている者が存在することを捉えて,その者と原告らとの不均衡を論ずるものであって,このような立論の前提自体が失当である。重国籍の防止という要請は,国籍法下において守るべき他の要請との比較においては後退することもあり得るし,国内法制で重国籍解消を完全に実現することには限界があるため,国民に対して日本国籍の離脱を訓示的規定をもって促し,国籍離脱義務の履行を国民の良心に委ねている部分も存する。しかしながら,上記のような実情があるからといって,我が国の姿勢として重国籍を容認したとは到底いえない。
ウ 国籍法11条1項の立法目的達成の手段が合理性を有すること
日本国籍を有する者が自己の志望により外国籍を取得した場合,日本国籍を喪失させることとしなければ,必ずその者は重国籍者となることになる。そうすると,国籍変更の自由を認めるとともに,重国籍の弊害を回避するためには,その者が外国籍を取得した段階で,日本国籍を喪失させ,重国籍の状態に至るのを防ぐことが合理的であることは明らかである。
エ 以上のとおり,国籍法11条1項の立法目的は合理的であり,その達成の手段が合理性を有することは明らかであるから,原告らの主張する権利の制約が憲法13条及び22条2項に反することにはならない。
(3) 結論
原告らの主張する権利は,そもそも憲法13条及び22条2項並びに原告らの指摘する憲法上の諸原理により保障されているとはいえず,仮に保障されているとしても,その制約は上記各条項に反するものではない。
なお,原告らは,仮に立法時に国籍法11条1項を支える立法事実が存在していたとしても,その後の重国籍者の増加の実情,重国籍の弊害や有益性に関する研究の進展,国際的な制度改変の動向によって,その後失われたと主張する。しかしながら,確かに,国籍の得喪が飽くまでも国内管轄事項とされる中で国際化が進み,重国籍者は不可避的に発生することとなったが,それは重国籍の弊害が発現するおそれが高まっているということを意味しており,重国籍者の数が増加することによって重国籍防止の要請がなくなるわけではない。昭和59年国籍法改正により国籍選択制度が新たに設けられたことにも照らすと,むしろ,重国籍を解消するという立法目的がより一層妥当する状況に至っているとすらいえる。また,諸外国において,自己の志望により外国籍を取得した場合に自国籍を失わせる法制を持たず,望ましくない重国籍の弊害を,重国籍防止の法制ではなく個別的な問題の処理として解消していたとしても,そのことが直ちに我が国における法制を否定するものではない。
4 争点(3)(国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するか否か)に関する当事者の主張
(原告らの主張)
(1) 差別的取扱いが存在していること
ア 差別的取扱いが存在する場面について
国籍法11条1項と対比して,次の場面で複数国籍の発生について差異が生じている。
(ア) 外国籍の当然取得による複数国籍の場合
外国の法の規定によって,婚姻や養子縁組,認知などの身分行為があった際に本人の意思にかかわりなく当然に当該国籍を付与することとされている場合や,ある者の帰化に伴いその配偶者や子に対しても当然に当該国籍を付与することとされている場合など,一定の身分行為等に伴い外国籍を当然に取得すること(以下「当然取得」という。)があり得るが,その場合には国籍法11条1項に該当しないため,その者は日本国籍を喪失せず,複数国籍を保持することとなる。
(イ) 生来的取得による複数国籍の場合
①日本人と外国人(血統主義国の国籍を有する者)の夫婦の子として日本国内で出生した場合,あるいは②日本人と外国人(血統主義国の国籍を有する者)の夫婦の子として日本国外で出生した者や生地主義国において日本人の父母の間に出生した者等が,国籍法12条の国籍留保をした場合には,生来的に日本国籍と外国籍を取得することとなる。
(ウ) 日本国籍の志望取得による複数国籍の場合
国籍法3条1項又は同法17条1項による届出により日本国籍を取得した場合,あるいは同法5条2項の要件を充足して日本への帰化が認められた場合は,外国籍を保有したまま自己の志望によって日本国籍を取得し,複数国籍を有することとなる。
イ 差別的取扱いの具体的内容
(ア) 国籍選択の機会の有無
上記アの(ア)から(ウ)までの場合は,一旦複数国籍となることが認められる。そして,一定の熟慮期間を経て,日本国籍と外国籍のいずれかを選択する機会が与えられる(国籍法14条)。これに対し,同法11条1項の適用を受ける者は,国籍選択の機会を与えられずに当然に日本国籍を喪失させられる。このように,同項は,国籍選択の機会の有無について差別的取扱いを生じさせている。
(イ) 日本国籍を保持する機会の有無
国籍法14条2項に定める日本国籍の選択宣言は,当然には複数国籍を解消しない。そして,国籍選択宣言を行った者に対する国籍離脱の努力義務(同法16条)は訓示規定とされ法的な強制力はないから,その者は複数国籍の保持を継続することができる。これに対して,同法11条1項の適用を受ける者は,国籍選択の機会を与えられない結果,国籍選択宣言を行う機会もなく,複数国籍を保持する機会も与えられない。このように,同項は,最終的に日本国籍を保持する機会の有無について,差別的取扱いを生じさせている。
(2) 国籍法11条1項の憲法14条1項適合性を判断する基準
上記(1)の差別的取扱いが合理性を有するか否かに関しては,立法府に与えられた裁量を行使しても,なおそのような区別することの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合に当たるか否かを検討し,これらが肯定される場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として憲法14条1項に違反するものとなるというべきである。
(3) 「国籍変更の自由の保障」という立法目的について
国籍変更の自由は国籍法13条の定める国籍離脱手続によって実現することが可能であるから,同法11条1項に国籍変更の自由を保障するための制度として固有の存在意義や役割は認められない。また,前記3(原告らの主張)(3)ア及びイのとおり,同項の「国籍変更の自由の保障」という立法目的は,限定された場面を除いてその合理性が認められず,かつ,かかる限定された場面における有用性を前提としても,その適用範囲が過度に広範であるから,立法目的との間の合理的関連性を有しない。
(4) 「複数国籍防止」という立法目的について
ア 当然取得の場面との差別的取扱いについて
複数国籍の防止という観点からすれば,当然取得によって外国籍を取得した者も,自己の志望によって外国籍を取得した者も,その結果生じる複数国籍状態には何ら差異はない。被告は,当然取得の場合には外国籍の取得に本人の意思が介在していないという点を,志望取得の場合と取扱いを異にする根拠として主張する。しかしながら,志望取得の意思は飽くまで当該外国籍の取得に向けられたものであり,日本国籍の離脱に向けられたものではなく,外国籍取得の意思と日本国籍離脱の意思は表裏一体のものでないにもかかわらず,なぜ外国籍を取得する意思を有する者は当然に日本国籍を喪失させることが許容されるのかについて,合理的な根拠は何ら示されていない。また,志望取得か当然取得かは,当該国が国籍取得に当たって取得意思の表明を要件としているか否かという立法政策上の選択によって変わるところ,このような他国の立法政策上の選択によって日本国籍の得喪が自動的に変動するという点についても合理性がない。
イ 生来的取得による複数国籍の場面との差別的取扱いについて
日本国籍と外国籍を生来的に取得した者についても,それによって生じた複数国籍の状態は,外国籍を志望取得したことによって生じた場合と何ら異なるところはない。生来的な複数国籍は本人の意思により生じたものではないが,そのことが志望取得の場合との取扱いを異にする根拠となり得ないことは上記アのとおりである。
なお,被告は,生来的な複数国籍は「重国籍の発生について当該個人に責任がないこと」を理由に,ひとまず複数国籍が発生することを容認するものであると主張する。しかしながら,そこでいう「責任」とは誰の何に対する責任を意味するのか不明である上,そもそも国籍法は個人の帰責性を理由に日本国籍の得喪を左右するという仕組みを採用していないのであるから,被告の主張は根拠を欠いている。また,被告の上記主張が,本人の行為に起因して複数国籍となったことを指摘するものであるとしても,外国籍を志望取得した者が当然に日本国籍を喪失させられることについての説明にはなっていないし,外国籍の当然取得や日本国籍の志望取得による複数国籍の場合も,本人の行為に起因して複数国籍を取得したことに変わりないから,被告の主張が失当であることは明らかである。
ウ 日本国籍の志望取得の場面との差別的取扱いについて
志望取得の手続により日本国籍を取得した外国人と,外国籍を志望取得した日本国民との間で,その結果生じる複数国籍の状態に何らの違いも存在しないことは明白である。のみならず,志望取得によって日本国籍を取得する際に原国籍の離脱を要件とすることは,法技術的に可能である。それにもかかわらず,国籍法3条1項,17条1項,5条2項は,いずれも一旦複数国籍を発生させることを容認している。これらの規定に係る場面と対比すれば,外国籍の志望取得との間の差別的取扱いについて,「複数国籍防止」という立法目的との間で合理的関連性が認められないことは明白である。
エ 以上のとおり,外国籍を当然取得して複数国籍となった者,生来的に複数国籍を取得した者及び日本国籍を志望取得して複数国籍となった者との対比において,国籍法11条1項が外国籍を志望取得した者の意思に反して日本国籍を喪失させることは,立法目的との関係で合理的関連性を有しない。
オ 被告は,制度目的や趣旨が異なることにより重国籍防止を図る方法に差異があるのは当然である旨主張する。
しかしながら,国籍法は,複数国籍が発生するいくつかの場面を予定しつつ,それらの解消を国籍選択制度によって統一的に処理することを予定しているにもかかわらず,同法11条1項に限って,一旦複数国籍が発生することを認めた上で,熟慮期間の経過後に本人の意思に基づく選択により解消させるという制度設計から除外し,日本国籍を強制的に喪失させることとしている。そして,外国籍を志望取得した者に限って国籍選択制度から除外する取扱いをする必要性は見いだせないから,被告の主張は失当である。
カ 昭和59年国籍法改正が複数国籍の発生を広く容認し,国籍選択制度によって本人の意思に基づく複数国籍の解消を期待するという制度を設けたことからすると,同法11条1項は,遅くとも同改正の時点で憲法14条1項に違反する状態となったというべきであるが,仮に,同改正の時点において同項に違反しないものであったとしても,前記3(原告らの主張)(5)のとおり,その後の国際的な動向,複数国籍者の増加の実情及び複数国籍の弊害や有益性に関する研究の進展等を踏まえると,国籍法11条1項の合理性を支える立法事実は平成9年頃には既に失われており,同項は憲法14条1項に違反する状態となっていた。
(5) 以上によれば,国籍法11条1項は,憲法14条1項の定める平等原則に反し,無効である。
(被告の主張)
(1) 国籍法11条1項に係る憲法14条1項適合性の判断基準
憲法10条が国籍立法について広範な立法裁量を認めていること,憲法14条1項が合理的根拠に基づく区別を許容していることを総合すれば,国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するとされるのは,「立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合」(最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁〔以下「平成20年大法廷判決」という。〕)に限られるものというべきである。
(2) 原告らの主張する「差別的取扱い」は国籍法11条1項の憲法14条1項適合性とは無関係であること
原告らは,①当然取得によって外国籍を取得した日本国民,②生来的に外国籍を取得した日本国民及び③日本国籍を志望取得した外国人には,それによって重国籍となることを法が認めているにもかかわらず,国籍法11条1項に基づき自己の志望により外国籍を取得した日本国民のみが,外国籍の取得と同時に日本国籍を喪失するという差別的取扱いは,憲法14条1項に反すると主張する。
しかしながら,国籍法11条1項は,自己の志望によって外国籍を取得した者については,国籍変更の自由を保障している以上,重国籍防止の見地から,当然に従来の国籍を放棄する意思があると認めるべきであり,その反射的効果として日本の国籍を失うとした規定である。これに対し,上記①は,外国人との婚姻等の身分行為又は母の外国への帰化等に伴い,当該外国の法の規定に基づき当然に外国籍を取得するもの(当然取得),上記②は,血統主義を採用する外国の国籍を有する者とその配偶者である日本国民から生まれた場合や,日本国民を少なくとも一方の親として生地主義を採る国で生まれた場合に,生来的に外国籍を取得するもの(生来的取得),上記③は,出生等により外国籍を取得した者が,日本国民を血統上の親として出生したことを前提とする認知又は届出や,帰化によって日本国籍を取得するものであって,日本国民が自己の志望によって出生後に事後的に外国籍を取得する国籍法11条1項の場合とはそもそも制度目的や趣旨が異なるのであるから,重国籍防止を図る方法に差異があるのは当然であり,上記①から③までの制度との対比において同項が合理性を欠くということにならないことは明らかである。
(3) 原告らの主張する各制度と国籍法11条1項との区別には合理性があること
上記(2)の点をおくとしても,以下のとおり,国籍法11条1項と原告らの主張する上記(2)①から③までの制度との区別に合理性があることは明らかである。
ア 当然取得によって外国籍を取得した日本国民との区別
当然取得により外国籍を取得した場合,外国籍の取得には本人の意思が介在していないから,外国籍の取得によって直ちに日本国籍を失うこととすると,何ら本人の意思を介在させることなく日本国籍を失わせることとなる。そこで,外国籍を当然取得した者に対しては,ひとまず重国籍が発生することを容認した上で,自らの意思によりどちらかの国籍を選択することによって重国籍を解消させることが相当である。一方,自己の志望により外国籍を取得した場合,国籍取得の段階で本人の意思が介在しているため,当然取得に見られる上記のような不都合は存在しない。
したがって,当然取得によって外国籍を取得した日本国民と自己の志望によって外国籍を取得した日本国民との間で,取扱いの差を設けることに合理性があることは明らかである。
イ 生来的に外国籍を取得した日本国民との区別
ある個人が,血統主義を採用する外国籍を有する者とその配偶者である日本国民から生まれた場合には,父母の国籍が異なるため法律上当然に重国籍が生じ,日本国民を少なくとも一方の親として生地主義を採る国で生まれた場合においても,生地主義を採用する国が存在することから当然に重国籍が生じるものであって,いずれの場合も重国籍の発生について当該個人に責任がないことは明白である。
したがって,生来的に外国籍を取得した日本人に対しては,ひとまず重国籍が発生することを容認した上で,自らの意思によりどちらかの国籍を選択することによって重国籍を解消させることが相当であり,自己の志望によって外国籍を取得した日本国民との間に取扱いの差を設けることに合理性があることは明らかである。
ウ 日本国籍を志望取得した外国人との区別
(ア) 国籍法3条又は17条1項の規定により日本国籍を取得した者は,日本国民を血統上の親として出生した子であるところ,我が国の国籍法が父母両系血統主義を採用していることの均衡上,日本国籍の取得の際に重国籍防止要件を課していないものである。また,これらの場合には,従来から有する外国籍について,その得喪の決定が各国の国内管轄事項であることからすると,一律に重国籍防止義務を課すことは相当でないため,ひとまず重国籍が発生することを容認した上で,自らの意思によりどちらかの国籍を選択することによって重国籍を解消させることとしたものである。したがって,同法3条又は17条1項のように日本国籍取得前から外国籍を有する状態である場合と,日本国籍取得後に外国籍の取得を自らの意思で行った場合との間で,重国籍防止の取扱いに差を設けることに合理性があることは明らかである。
(イ) 国籍法5条2項は,帰化による重国籍は人為的なものであり,出生による重国籍に比べ重国籍防止の要請が強いことから,昭和59年国籍法改正により,重国籍防止要件(同条1項5号)を備えることを原則としつつ,特別の場合にこれを免除することができるとし,当該外国籍の離脱又は放棄が可能となったときに,事後的に重国籍を解消させることとしたものである。国籍の得喪の決定が国内管轄事項であることから生じる制約上,国内法制で重国籍解消を完全に実現することには限界があることからすれば,同条2項のように自らの意思により外国籍を喪失できない場合と同法11条1項のように自己の志望によって外国籍を取得する場合との間で,取扱いに差を設けることに合理性があることは明らかである。
エ 小括
上記①から③までの場面は,国籍得喪の決定が国内管轄事項とされる原則によって,外国籍の得喪を我が国の法で規律することができないことから,国籍選択制度を設け,重国籍を事後的に解消することとしたものである。その結果として,国籍選択の義務を履行するまでの間,すなわち重国籍を解消するまでの間に一定の猶予期間を設けざるを得ないのに対し,日本国籍を有する者が自己の志望により事後的に外国籍を取得する国籍法11条1項の場面では,我が国の国内管轄事項として日本国籍の喪失を規定することで,重国籍の発生を当初から防止することができ,重国籍を解消するための猶予期間を設ける必要はない。したがって,上記①から③までの場面と同項の場面とでは,前提となる制度の目的や趣旨が異なるのであるから,これらの差異に応じて異なる重国籍防止の方法を設けることに合理性があることは明らかである。
(4) 以上のとおり,国籍法11条1項の取扱いは,合理的な区別をするものにすぎず,原告らが主張するような不合理な差別をするものとは認められない。
なお,原告らは,仮に昭和59年国籍法改正の時点で同法11条1項を支える立法事実が存在していたとしても,その後の重国籍者の増加の実情等によって立法事実が失われたと主張する。しかしながら,前記3(被告の主張)(3)のとおり,重国籍者の数が増加することによって重国籍防止の要請がなくなるわけではなく,むしろ,同改正により国籍選択制度が新たに設けられたことにも照らし,重国籍を解消するという立法目的がより一層妥当する状況に至っているといえることなどからすれば,原告らの主張は理由がない。
5 争点(4)(国籍法11条1項の改廃に係る立法不作為の国家賠償法上の違法性,損害の有無及び額)に関する当事者の主張
(原告1ないし原告6の主張)
(1) 立法不作為の国家賠償法上の違法性
ア 前記3(原告らの主張)のとおり,国籍法11条1項は,昭和25年の立法当初から国民主権原理,基本的人権尊重原理及び「個人の尊重」原理との関係で憲法10条に違反し,かつ,憲法13条及び22条2項に違反していた。さらに,昭和59年国籍法改正により複数国籍の発生を広く肯定する法改正が行われて以降,国籍法11条1項は憲法14条1項にも違反することが一層明らかとなった。
国籍法11条1項は,仮に昭和59年国籍法改正の時点までに憲法14条1項に違反していたとは認められないとしても,その後の①複数国籍者の増大,②複数国籍による弊害のおそれが現実的なものではないことの認識の広がり,③複数国籍の許容可能性に関する調査検討の進展,④外国籍の志望取得を理由に自国の国籍を喪失させる制度を持つ国の減少等の立法事実の変化により,遅くとも平成9年頃までに同項違反となった。
イ そこで,被告が国籍法11条1項の違憲性を認識し得たのがいつであるかを検討すると,以下のとおり,遅くとも平成元年頃までには,同項の違憲性を認識する機会があったといえる。すなわち,被告は,昭和59年国籍法改正の前から,複数国籍の発生防止が現憲法下での立法目的として正当化が困難であると理解し,国籍の積極的抵触の防止がもはや国際的な原則ではなくなっていることや,一旦付与された日本国籍には権利性が生じ,日本国籍は恣意的に奪われてはならないものであること等を認識していた。また,上記改正によって,同法は,複数国籍の発生を広く肯定し,その解消は本人の意思を尊重して行うこととされたから,被告はその過程において,同法11条1項が本人の意思に反して日本国籍を喪失させる規定であることを当然に認識することが可能であった。昭和59年国籍法改正以前の通説的見解は,自己の志望により外国の国籍を取得するということは,その反面,当然に従来の国籍を放棄する暗黙の意思があると認めるべきであるなどとしていたが,平成元年に出版された江川英文ほか著「国籍法新版」は,上記の見解を改め,同項による日本国籍の喪失は,個人の意思に基づく国籍の喪失ではないと述べるに至った。被告は,遅くとも上記書籍が出版された同年以降,同項が本人の意思に反して日本国籍を剥奪し得る規定であり,違憲の問題が生じ得ることを確実に認識することができたといえる。
ウ 以上のとおり,被告は,平成元年頃までに国籍法11条1項の違憲性を認識し,1990年代初頭までに検証を行っていれば,原告らのうち最も早く外国籍を取得した原告2のスイス国籍取得時(1997年〔平成9年〕○月)より前に同項を改廃する立法を実現することができた。ところが,被告は,その検証を怠り,同項によって日本国民が日本国籍を剥奪されるのを漫然と放置し続けたのであるから,被告の立法不作為は国家賠償法上違法である。
(2) 損害の有無及び額
上記(1)の立法不作為により,原告1ないし原告6は,形式上は国籍法11条1項に該当し,祖国の国籍を失ってしまったと考え,著しい精神的苦痛を受けた。その損害を金銭に換算すると,各人につき50万円を下らない。また,上記(1)の立法不作為と相当因果関係のある弁護士費用は,各人につき5万円を下らない。
(被告の主張)
(1) 立法不作為にかかる国家賠償法上の違法性の判断枠組み
国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであるところ,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり,立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして,上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって,仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても,それゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに同項の適用上違法の評価を受けるものではない。
もっとも,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けることがあると解される。
(2) 国籍法11条1項の改正を行わなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法と評価することはできないこと
前記3(被告の主張)及び4(被告の主張)のとおり,国籍法11条1項の立法目的は合理的であって,憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるなどとはいえないのであるから,同項の改正を行わなかったことが国家賠償法上違法であるなどといえないことは明らかである。
(3) 損害の発生及び額については争う。
第3 当裁判所の判断
1 原告7及び原告8の訴えに確認の利益があるか否か(争点(1))について
(1) 原告7及び原告8は,自己が外国籍を取得しても日本国籍を失わない地位の確認を求めているところ,これらの各訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴えに当たる。したがって,原告7及び原告8の各訴えが適法であるといえるためには,確認の利益が存在することが必要であるところ,確認の訴えにおける確認の利益は,判決をもって法律関係の存否を確定することがその法律関係に関して現に存する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位の不安,危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる(最高裁昭和44年(オ)第719号同47年11月9日第一小法廷判決・民集26巻9号1513頁,最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁参照)。
(2) そこで検討すると,前記前提事実,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,①原告7は,2001年(平成13年)以降現在に至るまでスイス国内に居住し,永住資格を取得しているものの,日本国籍以外の国籍は取得しておらず,スイスへの帰化申請もしていないこと(前記前提事実(7),甲146,弁論の全趣旨),②原告8は,1976年(昭和51年)にフランス人女性と婚姻し,1987年(昭和62年)以降現在に至るまでフランス国内に居住しているものの,日本国籍以外の国籍は取得しておらず,フランスへの帰化申請もしていないこと(前記前提事実(8),甲122,弁論の全趣旨)が認められる。そして,原告7はスイス国籍の取得を,原告8はフランス国籍の取得を希望しており,前記各訴えを提起して,自己の志望により外国籍を取得した場合に日本国籍を失うことを定める国籍法11条1項の憲法適合性を争っている。
しかしながら,国家がどのような者に対して国籍を付与するかは,当該国の国内管轄事項であるところ,スイス及びフランスの国籍法は,帰化申請をした者について,一定の要件を満たした場合に自国の国籍を付与する旨を定めており(甲59の4の1及び2,甲60の2の1及び2),帰化申請を行わない限り,原告7及び原告8がスイス国籍及びフランス国籍を取得することはなく,したがって,国籍法11条1項によって日本国籍を喪失することもない。そうすると,スイス及びフランスに対する帰化申請を行っていない原告7及び原告8の法律上の地位については,いまだ何らの変動も生じていないといわざるを得ない。
(3)ア これに対して,原告7及び原告8は,それぞれスイス国籍及びフランス国籍の取得を必要としており,申請さえすれば確実に当該国籍を取得することができる状態にあるが,外国籍を志望により取得しても日本国籍を失わない地位が確認されない限り帰化申請をすることができないから,前記各訴えにつき確認の利益を有している旨主張する。
しかしながら,仮に原告7及び原告8が,申請をすればスイス及びフランスの国籍を取得することができる蓋然性が高い状況にあるとしても,自ら当該外国籍取得に係る申請を行っていない段階では,いまだ自己の日本国籍を保有する地位について不安,危険が生じているとはいえない。したがって,原告7及び原告8の主張には理由がない。
イ また,原告7及び原告8は,国籍法11条1項によりいずれか一方の国籍を選択されることを迫られていること自体が幸福追求権及び自己決定権を侵害するものであるところ,その侵害を取り除くには,外国籍を取得しても日本国籍を失わない地位にあることの確認を求めるしかないから,「事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情」(前掲最高裁昭和47年11月30日第一小法廷判決)があり,前記各訴えにつき確認の利益が認められると主張する。
しかしながら,原告7及び原告8が引用する上記最高裁判決は,平成16年法律第84号による改正前の行政事件訴訟法の適用がある場合において,将来の不利益処分の予防を目的として当該処分の前提となる公的義務の不存在確認を求める訴えについて,当該不利益処分を受けたのちに当該公的義務の存否を争うことによっては回復しがたい重大な損害を被るおそれがあるなど,事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がない限り不適法であるとしたものであって,本件とは事案を異にするものであるから,原告7及び原告8の主張には理由がない。
(4) 以上によれば,原告7及び原告8の訴えに確認の利益があると認めることはできず,上記各訴えはいずれも不適法である。
2 国籍法11条1項が憲法10条,13条及び22条2項に違反するか否か(争点(2))について
(1) 日本国籍の離脱を強制されない権利の保障について
憲法10条は,「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定し,これを受けて,国籍法は,日本国籍の得喪に関する要件を規定している。憲法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解される(平成20年大法廷判決,最高裁平成25年(行ツ)第230号同27年3月10日第三小法廷判決・民集69巻2号265頁参照)。他方で,憲法は,22条2項において,「何人も〔中略〕国籍を離脱する自由を侵されない。」と規定して,国籍離脱の自由を定めているものの,国籍の取得及び保持に関する権利が保障されるか否かについては何らの定めも置いていない。そして,上記のとおり,日本国籍の得喪に関する要件の定立が立法府の裁量判断に委ねられていることからすれば,同項の定める国籍離脱の自由は,日本国籍からの離脱を望む者に対して,その者が無国籍者となるのでない限り,国家がこれを妨げることを禁止するという消極的権利を定めたものにすぎないということができ,同項の規定を根拠に,憲法上,日本国籍を積極的に取得又は保持することができる権利が保障されているということはできない。また,上記のとおり,憲法10条が,日本国籍の得喪に関する要件を立法府の裁量判断に委ねている以上,そのような立法府の裁量によって付与される地位について,憲法13条に基づいて直ちに何らかの権利が保障されるものとは解し難いというべきである。そうすると,原告らの主張する日本国籍の離脱を強制されない権利が憲法13条及び22条2項によって保障されるものと解することは,困難といわざるを得ない。
もっとも,日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある(平成20年大法廷判決参照)。しかしながら,このことに鑑み,仮に,日本国籍を意思に反して奪われないという利益又は法的地位が,上記の基本的人権の保障等の観点から原告らの主張する憲法の規定等の精神に照らして尊重されるべきものであることにより,憲法10条に基づき国籍の得喪に関する要件について立法府に与えられた裁量に一定の制約が及び得るとしても,同条が国籍の得喪に関する要件の定めを立法府の裁量判断に委ねていることからすれば,国籍の喪失を定める立法については,当該立法に係る立法目的及びその目的を達成する手段が合理的である場合には,裁量の範囲を逸脱又は濫用したものということはできないと解するのが相当である。そして,以下に述べるとおり,国籍法11条1項は,その立法目的や当該立法目的と手段との関連性の観点から合理性を欠くものであるとは認められないことから,同項が憲法10条に基づき立法府に与えられた裁量の範囲を逸脱又は濫用したものであるということはできない。
(2) 国籍法11条1項の合理性について
ア 国籍法11条1項の立法目的について検討すると,後掲の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 旧国籍法は,出生による国籍の取得については父系血統主義を採用するとともに,無国籍防止の見地から補充的に生地主義を採用した。他方で,同法20条は,国籍喪失事由として,「自己ノ志望ニ依リテ外國ノ國籍ヲ取得シタル者ハ日本ノ國籍ヲ失フ」と定めており,その趣旨については,国籍の積極的衝突が生じるという弊害を回避するためであるなどと説明されていた(甲17,乙17,18)。
また,旧国籍法は,他の国籍喪失事由として,外国人の妻となった場合等,一定の身分行為又は身分関係に基づいて当然に日本国籍を喪失する場合があることを定めていた。もっとも,国籍の喪失については,17歳以上の男子は既に陸海軍の現役に服したとき又はこれに服する義務がない場合でなければ日本国籍を失わないなどの一般的制限が設けられていた(乙17)。
(イ) 昭和25年に旧国籍法を廃止した上で制定された国籍法(同年法律第147号)は,現行憲法が国籍離脱の自由を保障したこと(22条2項)を受けて,上記(ア)の国籍離脱に関する一般的制限を撤廃し,外国の国籍を有する日本国民は届出により日本国籍を離脱することができるものとした。一方,自己の志望によって外国の国籍を取得した者は日本国籍を失うと定めていた旧国籍法20条は,国籍法8条(現行11条1項)として引き継がれた(甲21〔3頁〕,119,乙17)。
上記国籍法制定の際の法案審議における立法担当者の説明によれば,新たな国籍法においても,国籍の積極的抵触(二重国籍)及び消極的抵触(無国籍)の発生防止等の原則そのものには変更がないとされ,また,同法8条(現行11条1項)の趣旨は,国籍変更の自由を認めるとともに,国籍の抵触を防止することを目的とする規定であるとされた(甲21〔1頁,3頁〕,22〔8頁〕)。
(ウ) 昭和59年国籍法改正では,昭和55年に政府が署名した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の批准に備えること,昭和25年の国籍法制定以降の国際情勢及び社会情勢の変化に対応すること等を理由に,出生による国籍の取得について,従来の父系血統主義が改められ,父母両系血統主義が採用された。また,父母両系血統主義の採用等により重国籍者が増加する事態が想定されることを受けて,重国籍者は成年に達した後,所定期間内にいずれかの国籍を選択しなければならないものとする国籍選択制度(同法14条から16条まで)が新設されるとともに,従来は生地主義国での出生によって重国籍となる者のみに適用されていた国籍留保制度の対象範囲を拡大し,出生により外国の国籍を取得する子で,日本国外で生まれた者全てに適用することとされた(同法12条)。また,昭和59年国籍法改正においても,自己の志望によって外国の国籍を取得した者は日本国籍を失う旨の規定は,同法11条1項として存続した(乙2,19)。
イ(ア) 以上の沿革を踏まえて検討すると,国籍法11条1項は,旧国籍法20条の規定を踏襲したものであって,その趣旨は,自己の志望によって外国籍を取得したときには従前の日本国籍を当然に喪失することとして,重国籍の発生を防止するとともに,憲法22条2項が国籍離脱の自由を保障するに至ったことを受けて,国籍離脱の一場面として国籍変更の自由を保障したものと解される。このように,国籍法11条1項の立法目的は,①重国籍の発生を可能な限り防止しつつ,②国籍変更の自由を保障するというものであって,両者は相互に密接に関連したものであるといえる。
(イ) これに対して,原告らは,上記②の目的について,旧国籍法はそもそも国籍離脱の自由を認めていなかったこと,現行国籍法の制定時や昭和59年国籍法改正の際に,同法11条1項に国籍変更の自由を保障するという機能があるか否かについて吟味検討されていなかったこと,同項が国籍変更の自由を保障する機能を有するのは,日本国民が従前の国籍を喪失することを帰化の条件とする国に対して帰化し,これに伴い日本国籍を喪失させることを希望しているという極めて限定的な場面に限られること等を指摘して,上記②の国籍変更の自由の保障は同項の立法目的には含まれない旨主張する。
しかしながら,国籍法の制定又は改正時に同法11条1項の立法目的について必ずしも明示的な説明がされていなかったからといって,直ちに上記②の目的が同項の立法目的に含まれないということはできない。また,上記(ア)のとおり,同項の立法目的である上記①及び②の目的は相互に密接に関連したものであるところ,原告らの主張は,上記①の目的と上記②の目的がそれぞれ独立した立法目的であることを前提に,上記②の国籍変更の自由の保障に資する場面が限定的であるなどと論じるものであって,このようなことから上記②の目的が同項の立法目的に含まれないということはできない。
ウ 立法目的の合理性について
そこで,国籍法11条1項の立法目的の合理性について検討すると,重国籍の防止という点についてみれば,国籍は,国家の基本的構成要素である国民,すなわち,国家の主権者たる地位ないし権利と共に国家の統治権に服する地位ないし義務を持つ者の範囲を画するものであって,個人に対して複数の国家が対人主権を持つ場合,又は個人が複数の国家に対して主権を持つ場合には,国家間の摩擦を生じるおそれがあるほか,国家と個人との間又は個人と個人との間の権利義務に矛盾衝突を生じさせるおそれがあるといえる。具体的には,重国籍者に対しては,複数の国家が対人主権を持つことになるから,国家間の外交保護権の衝突を招くおそれがある。また,国家は,自国民に対し,納税義務,兵役義務等の種々の義務を課し得るところ,重国籍者については,これらの義務が衝突したり抵触したりする事態が生じ得る。さらに,重国籍者は,関係国間の通報制度がない限り,その属する各国において別個の氏名により国民として登録されることも可能であり,個人の同一性の判断が困難となる結果,別個の旅券を行使することが可能となって入国管理が阻害されたり,重婚を防止し得ない事態が生じたりする可能性も否定することができない。
このように,重国籍が常態化した場合には,国家間の外交保護権が衝突し,国家と個人との間又は個人と個人との間の権利義務に矛盾衝突を生じさせるおそれがあるから,できる限り重国籍を防止し解消させるべきであるという理念は合理性を有するものといえる。
そして,国籍法11条1項は,重国籍の発生をできる限り防止しつつ,憲法22条2項により保障される国籍離脱の自由の一場面として外国籍への変更を認めることにより,国籍変更の自由を保障したものであるから,その立法目的は合理的であるということができる。
エ 立法目的を達成する手段について
次に,上記立法目的を達成する手段についてみると,重国籍を可能な限り防止するという観点からは,志望による外国籍の取得に伴って当然に日本国籍を喪失させることが相当であるといえるから,国籍法11条1項は立法目的を達成する手段として合理的であるということができる。
これに対し,原告らは,重国籍を解消するためのより権利侵害的でない手段として国籍離脱制度(国籍法13条)や国籍選択制度(同法14条)があるから,同法11条1項が志望により外国籍を取得した者につき当然に日本国籍を喪失する旨定めていることは,手段として合理性を欠く旨主張する。しかしながら,国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかは各国の国内管轄事項に属しているため,重国籍が生じる原因としては様々なものがあり得るところ,重国籍をできる限り解消するための手段としてどのような制度を設けるのが相当であるかは,重国籍が生じた原因によって異なり得るものといえる。そして,自己の志望によって外国籍を取得する場合以外に重国籍の問題が生じる場合,例えば,出生によって重国籍を取得する場合や,外国人との婚姻等の身分行為によって当然に重国籍を取得する場合には,何ら自己の意思によらずに重国籍を取得する場合もあり得るのであるから,国籍離脱制度や国籍選択制度のように,自己の意思によって事後的に重国籍を解消させる制度を採ることには合理性があるといえる。これに対して,自己の志望によって外国籍を取得した者については,事前にいずれかの国籍を選択する機会が与えられているのであるから,一旦重国籍の発生を認めた上で,自己の意思によって事後的に重国籍を解消させる制度を採る必要性は乏しい。したがって,同項の規定が,自己の志望によって外国籍を取得した者について,重国籍を解消するための手段として国籍離脱制度や国籍選択制度を採用せず,当然に日本国籍を喪失することとしたことが不合理であるとは認められないから,原告らの主張には理由がない。
(3) 原告らのその余の主張について
ア 原告らは,①日本国籍を剥奪することは主権者としての資格を奪い,代表民主制への参加等の権利を喪失させて代表民主制の過程から追放するものであること,②日本国籍の剥奪は,基本的人権保障の土台を根こそぎ奪い,日本国籍に結びついた権利及び自由とそれらの保障を包括的かつ全面的に失わせるものであること,③日本国籍の剥奪は,「個人の尊重」原理(憲法13条)に反してアイデンティティや人格権,日本国籍離脱に関する自己決定権,幸福追求権を侵害するものであること,④憲法22条2項は日本国籍を離脱しない自由を無制限に保障していることなどからすれば,日本国籍を剥奪する立法には違憲の推定が働き,立法目的は正当であって国民から日本国籍を剥奪してでも追求すべき重要な利益を促進するものでなければならず,手段は目的達成のために必要最小限でなければならないなどと主張する。
しかしながら,日本国籍からの離脱を強制されない自由が憲法13条及び22条2項によって保障されると解することが困難であることは,前記(1)のとおりである。また,そもそも憲法10条は,国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかについて,立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであるから,国籍の喪失を定める立法について違憲の推定が働くと解することはできず,日本国籍を意思に反して奪われない利益又は法的地位が原告らの主張する憲法の規定等の精神に照らして尊重されるべきものであることから立法府の裁量に一定の制約が及び得るとしても,前記(1)のとおり,当該立法に係る立法目的及びその目的を達成する手段が合理的である場合には,裁量の範囲を逸脱又は濫用したものということはできないと解するのが相当である。
したがって,原告らの主張には理由がない。
イ 原告らは,重国籍による弊害について,外交保護権の衝突,兵役義務,納税義務の抵触,適正な入国管理の阻害,重婚の発生等を例に挙げて,他に重国籍による弊害を回避する方法があること,当該弊害が他の要因により生じるものであること等を指摘し,これらの弊害は全く根拠がないか,弊害のおそれがあったとしても抽象的・観念的なものにとどまるとして,重国籍の発生を防止するという立法目的には合理性は認められない旨主張する。
しかしながら,そもそも重国籍によって生じ得る種々の弊害について,他に弊害を回避する方法があり得るとしても,あるいは,必ずしも重国籍のみが原因でその弊害が生じるものではないとしても,弊害の原因となる重国籍それ自体について,可能な限りその発生を防止しようとする立法目的自体が直ちに不合理になるとはいえない。また,重国籍による弊害の中には,納税義務の抵触のように国家間の条約等によって解決することが可能な事項があるとしても,全ての国との間においてそのような弊害の防止等を目的とする条約等を締結することは現実的であるとはいえず,現に我が国がそのような条約等を締結している状況にあるわけでもない。さらに,例えば外交保護権の衝突について,原告らの指摘するように,重国籍によって生じる国家間の紛争を解決する国際慣習法上のルールが存在するとしても,その解釈や適用等を巡る紛争を未然に防ぐ必要性があることを否定することはできない。
そうすると,原告らの主張を踏まえても,重国籍から生じる弊害をできる限り解消するという立法目的が不合理であるとはいえない。
ウ 原告らは,国籍をどのような者に与えるかが当該国の国内管轄事項である以上,重国籍の発生は避けられない事態であって,各国の国籍法制も多種多様であるから,重国籍の防止が国籍概念の本質から導かれるとする考えは誤りであるなどと主張する。
この点,証拠(甲20,29,乙6,7,30の1~6)及び弁論の全趣旨によれば,確かに欧州諸国の中には重国籍に対して寛容な態度を採る国も存在するものの,重国籍自体を容認していない国や重国籍の発生自体は容認しつつもその解消のための方策を採る国も存在していることが認められ,重国籍から生じる弊害を防止する必要性自体が低下しているとはいえない。また,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たっては,それぞれの国の政治的環境や社会的環境等を考慮する必要があるところ,上記イのとおり,我が国が全ての国との間で重国籍から生じる弊害を防止する国際条約等を締結することは現実的でないのであるから,原告らの指摘する点をもって重国籍から生じる弊害をできる限り解消するという立法目的が不合理であるということはできない。
エ 原告らは,国籍変更の自由を保障するという立法目的からすれば,国籍法11条1項は,日本国籍の離脱を望まない者に対しても日本国籍を剥奪する点で,その適用対象が過大であって,合理性を欠く旨主張する。
しかしながら,前記(2)イのとおり,国籍法11条1項は,重国籍を防止しつつ,国籍変更の自由を保障するという二つの趣旨を含み,これらは相互に密接に関連したものであるといえるから,国籍変更の自由の保障という観点のみから同項の適用対象が過大であるか否かを判断することは相当でないというべきであって,原告らの主張には理由がない。
オ なお,原告らは,仮に昭和59年国籍法改正の時点において,同法11条1項の合理性を支える立法事実が存在していたとしても,その後の重国籍者の増加の実情等によって上記立法事実は失われた旨主張するが,重国籍者の増加等の事情が生じたからといって,できる限り重国籍を防止し解消させるべきであるという前記(2)ウで述べた理念そのものが否定されるものではないことからすれば,上記主張を採用することはできない。
(4) 小括
以上のとおり,原告らの主張する日本国籍の離脱を強制されない権利が憲法13条及び22条2項により保障されるものとは解し難く,また,仮に日本国籍を意思に反して奪われない利益又は法的地位が原告らの主張する憲法の規定等の精神に照らして尊重されるべきものであることから,憲法10条により国籍の得喪に関する要件について立法府に与えられた裁量に一定の制約が及び得るとしても,国籍法11条1項の規定が立法府に与えられた裁量権の範囲を逸脱又は濫用するものとは解されない。したがって,同項が憲法10条,13条及び22条2項に違反するということはできない。
3 国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するか否か(争点(3))について
(1) 前記2(1)のとおり,憲法10条は,国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかについて,立法府の裁量判断に委ねる趣旨であると解される。もっとも,このようにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別が,合理的な理由のない差別的取扱いとなるとき,すなわち,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,憲法14条1項に違反するものと解すべきである(平成20年大法廷判決,前掲最高裁平成27年3月10日第三小法廷判決参照)。
原告らは,国籍法11条1項について,①外国籍の当然取得によって日本国籍との重国籍が生じる場合,②出生によって日本国籍と外国籍の重国籍を取得する場合及び③日本国籍を志望取得することによって外国籍との重国籍が生じる場合との間の各区別について,合理的な理由のない差別に当たる旨主張していることから,以下,原告らの主張する各区別について,立法目的に合理的な根拠が認められるか否か,及び当該区別と立法目的との間に合理的関連性が認められるか否かを検討する。
(2) 外国籍の当然取得により生じる重国籍について
ア 日本国籍を有する者が,外国人との婚姻等の身分行為によって外国籍を取得した場合や親族の外国への帰化等に伴って外国籍を取得した場合など,自己の志望によらずに外国籍を当然取得した場合には,国籍法11条1項は適用されず,当該重国籍を有するに至った者は,同法14条1項に基づき,重国籍となった時から2年以内(重国籍となった時が20歳に達する前であれば22歳に達するまで)にいずれかの国籍を選択しなければならないとされている。そして,日本国籍の選択の方法は,外国の国籍を離脱することによるほか,日本の国籍を選択し,かつ,外国の国籍を放棄する旨の宣言(選択の宣言)をすることによって行うものとされている(同条2項)。
原告らは,この点について,重国籍の防止という観点からすれば,当然取得によって外国籍を取得した者も自己の志望によって外国籍を取得した者も何ら差異はないはずであるにもかかわらず,前者については国籍選択の機会が与えられる上,選択の宣言を行った場合であっても重国籍を継続することができる一方,後者の場合には,自己の志望による外国籍の取得に伴って当然に日本国籍を喪失することとなることから,両者の間の区別は不合理な差別的取扱いに当たる旨主張する。
イ(ア) そこで検討すると,外国籍を当然取得した日本人は,国籍の得喪が各国の国内管轄事項に属しており,外国籍の得喪を我が国の法律で規律することができないところ,身分行為等によって何ら本人の意思を介在することなく外国籍を取得したのであるから,そのような者について,直ちに日本国籍を失うものとはせずに,国籍選択の機会を与えることは合理的であるといえる。そして,国籍法14条1項が,いったん重国籍が生じることを前提として,重国籍を取得した時から2年以内(重国籍となった時が20歳に達する前であれば22歳に達するまで)にいずれかの国籍を選択しなければならないものとして猶予期間を設けていることには,上記のとおり外国籍を取得した者に国籍選択の手段を与えるという目的との間の合理的関連性を認めることができる。
他方で,自己の志望によって外国籍を取得した者については,当該外国籍を取得する前に日本国籍か外国籍かを選択する機会が与えられているのであるから,外国籍の取得後にあえて国籍選択のための猶予期間を設ける必要は乏しく,反面において,重国籍から生じる弊害をできる限り防止し,解消させる観点からは,速やかに日本国籍を喪失させることが望ましいところ,その実現を図るという国籍法11条1項の立法目的は合理的であるといえる。また,そのための手段として,同項が外国籍の志望による取得によって日本国籍を当然に喪失すると定めていることは,上記立法目的のための手段として合理的関連性を認めることができる。
そうすると,上記アの区別については,合理的な立法目的によるものであり,かつ,立法目的との間に合理的関連性を有する手段により生じたものであるということができる。
(イ) これに対して,原告らは,選択の宣言を行った場合であっても,国籍離脱の努力義務を定める国籍法16条が訓示規定とされ,法的な強制力がないから重国籍を継続することができるという点で,不合理な差別的取扱いが生じている旨主張する。しかしながら,国籍の得喪が各国の国内管轄事項に属する以上,外国籍の離脱に法的な強制力を持たせることはそもそも不可能であるから,国籍離脱の義務に法的な強制力がないからといって,不合理な差別的取扱いが生じているとはいえない。また,国籍離脱の義務に法的な強制力がないことから,これを履行しない結果として重国籍を保持している者が事実上存在するとしても,そのことをもって同法が11条1項以外の場面で重国籍を容認しているとみることはできず,同項が適用される場合とそうでない場合との間に不合理な差別的取扱いが生じているということもできない。したがって,原告らの主張には理由がない。
ウ したがって,国籍法11条1項により,外国籍を当然取得した者と外国籍を志望取得した者との間に生じる前記アの区別は,合理的な理由のない差別には当たらないというべきである。
(3) 生来的取得により生じる重国籍について
ア ある者が血統主義を採用する外国の国籍を有する者とその配偶者である日本国民との間に生まれた場合や,一方の親が日本国民であって生地主義を採る国で生まれた場合(国籍法12条の規定により出生の時に遡って日本の国籍を失った者を除く。)には,その者は出生によって日本国籍及び外国籍を取得することとなる。このように,生来的に重国籍を取得した者については,同法14条1項により,22歳に達するまでにいずれかの国籍を選択しなければならないとされている。
原告らは,複数国籍の防止という観点からすれば,上記のように生来的に外国籍を取得した者も自己の志望によって外国籍を取得した者も何ら差異はないはずであるにもかかわらず,前者については国籍選択の機会が与えられる上,選択の宣言を行った場合であっても重国籍を継続することができる一方,後者の場合には,自己の志望による外国籍の取得に伴って当然に日本国籍を喪失することとなることから,両者の間の区別は不合理な差別的取扱いに当たる旨主張する。
イ しかしながら,生来的に外国籍と日本国籍を取得する者は,自らの意思によらずに重国籍を取得することになるのであるから,外国籍の当然取得の場合と同様,国籍選択の機会を与え事後的に重国籍を解消するものとすることは合理的であり,その手段として22歳に達するまで猶予期間を設けることには合理的関連性がある。他方で,志望による外国籍の取得の場合,重国籍の発生防止の観点から速やかに日本国籍を喪失させるのが望ましく,その実現を図る国籍法11条1項の立法目的は合理的であるといえること,及び同項の定めが上記立法目的を達成する手段として合理的関連性があることは,前記(2)イ(ア)のとおりである。そうすると,上記アの原告らの主張するような区別については,合理的な立法目的によるものであり,かつ,立法目的との間に合理的関連性を有する手段により生じたものであるということができる。また,国籍離脱の努力義務を定める同法16条に法的な強制力がなく,上記義務を履行しない者がいる結果として重国籍を保持している者が事実上存在することをもって,不合理な差別的取扱いとはいえないことも,前記(2)イ(イ)のとおりである。
ウ したがって,国籍法11条1項により,生来的に重国籍を取得した者と外国籍を志望取得した者との間に生じる前記アの区別は,合理的理由のない差別には当たらないというべきである。
(4) 日本国籍の志望取得により生じる重国籍について
ア 国籍法3条1項は,出生後に日本国民である親から認知された子について,認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合であって,その父又は母が現に日本国民であるとき,又はその死亡の時に日本国民であったときは,届出によって日本国籍を取得することができることを定めている。また,同法17条1項は,国籍留保制度によって日本国籍を失った者で20歳未満の者は,日本に住所を有するときは届出によって日本国籍の再取得ができると定めている。さらに,同法5条2項は,帰化を許可するに当たっては従前の国籍を喪失させることが必要であるところ,本人の意思にかかわらずその国籍を失うことができない場合,特別の事情があると認めるときは,帰化を許可することができる旨を定めている。
原告らは,上記のような届出による日本国籍の取得及び帰化による日本国籍の取得によって重国籍が生じ得るところ,重国籍の防止という観点からすれば,日本国籍の志望取得によって重国籍を取得した者も自己の志望によって外国籍を取得した者も何ら差異はないはずであり,しかも,志望取得によって日本国籍を取得する際に原国籍の離脱を要件とすることは法技術的に可能であるにもかかわらず,一旦重国籍を発生させることを容認している点について,両者の間の区別が不合理な差別的取扱いに当たる旨主張する。
イ しかしながら,そもそも国籍法11条1項は,日本国籍を有する者が自己の志望によって外国籍を取得した場合に元々有していた日本国籍を喪失する旨を定めているのに対し,原告らが指摘する同法3条1項,17条及び5条2項が適用される場面では,いずれも元々外国籍を有していた者が届出や帰化によって日本国籍を取得した場合に,いかなる方法で元々有していた外国籍を喪失させるかが問題となるのであって,両者は全く異なる場面を想定した規定であるから,単純に比較することはできない。
そして,外国籍の得喪について我が国の法律で規律することができない以上,日本国籍を志望によって取得した者について,一旦重国籍を発生させた上で,事後的に当該外国籍の離脱を努力義務として課すことが不合理であるとはいえない。
したがって,上記アの主張をもって,国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するということはできない。
(5) 原告らのその余の主張について
ア 原告らは,国籍法が,複数国籍が発生するいくつかの場面を想定しつつ,それらの解消を国籍選択制度によって統一的に処理することを予定しているにもかかわらず,同法11条1項に限って上記の制度設計から除外する必要性はない旨主張する。しかしながら,前記(2)及び(3)並びに前記2(2)エで述べたとおり,重国籍をできる限り防止するという観点からすれば,自己の志望によって外国籍を取得するという,改めて国籍選択のための猶予期間を与える必要に乏しい場面において,当然取得等の他の場面と異なり直ちに日本国籍を失うものとすることが不合理であるとはいえないから,原告らの主張を採用することはできない。
イ 原告らは,国籍法11条1項と同様の制度を採る国が減少したことや重国籍者が増加したこと等を指摘して,同項の立法事実は失われた旨主張するが,原告らの指摘する事情によっても,自己の志望によって外国籍を取得する場面について,改めて国籍選択のための猶予期間を与える必要に乏しいという点に変わるところはないから,上記主張には理由がない。
(6) 小括
以上のとおり,原告らの主張する各区別については,いずれも差別的な取扱いであるとは認められないから,国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するということはできない。
4 国籍法11条1項の改廃に係る立法不作為の国家賠償法上の違法性,損害の有無及び額(争点(4))について
(1) 国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり,立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきものである。そして,上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって,仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのことから直ちに国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法の評価を受けるものではない。
もっとも,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,前掲最高裁平成17年9月14日大法廷判決,最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照)。
(2) 原告1ないし原告6は,国籍法11条1項が,憲法10条,13条及び22条2項に違反するとともに,憲法14条1項にも違反しており,国籍法11条1項により日本国籍を喪失したものとして扱われたことにより精神的損害を被ったとして,被告の立法不作為の違法を理由に,国家賠償法1条1項に基づき慰謝料等の支払を求めている。
しかしながら,国籍法11条1項が,憲法10条,13条及び22条2項に違反するものでないこと並びに憲法14条1項に違反するものでないことは,前記2及び3のとおりである。したがって,国籍法11条1項を改正しない立法不作為が国家賠償法上違法であるとはいえない。
よって,上記原告らの国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
第4 結論
以上によれば,本件訴えのうち,原告7及び原告8の訴えは不適法であるからいずれも却下し,その余の原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
(裁判長裁判官 森英明 裁判官 三貫納有子 裁判官 廣瀬智彦)
別紙1
当事者目録
〈中略〉
原告ら訴訟代理人弁護士 近藤博徳
椎名基晴
仲晃生
仲尾育哉
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 国
同代表者法務大臣 A
同指定代理人 W1
同 W2
同 W3
同 W4
同 W5
以上
〈以下省略〉
*******
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