裁判年月日 令和 2年 9月 2日 裁判所名 知財高裁 裁判区分 判決
事件番号 令元(行ケ)10166号
事件名 審決取消請求事件
裁判結果 棄却 文献番号 2020WLJPCA09029002
関連審決・命令
特許庁 不服2017-8819 令和元年10月29日
出典
裁判所ウェブサイト
評釈
川瀬幹夫・知財管理 71巻10号1382頁
裁判年月日 令和 2年 9月 2日 裁判所名 知財高裁 裁判区分 判決
事件番号 令元(行ケ)10166号
事件名 審決取消請求事件
裁判結果 棄却 文献番号 2020WLJPCA09029002
原告 グンゼ株式会社
訴訟代理人弁護士 山田威一郎
柴田和彦
被告 特許庁長官
指定代理人 石塚利恵
半田正人
小出浩子
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2017-8819号事件について令和元年10月29日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は,平成26年11月26日,別紙1記載の「Tuché」の文字を横書きしてなる標章(以下「本願標章」という。)について,第5類,第18類,第24類及び第35類に属する願書(甲23)記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務とし,別紙2記載の登録第4509260号商標(以下「原登録商標」という。)の防護標章として,防護標章登録出願(商願2014-99711号。以下「本願」という。)をした。
⑵ 原告は,平成29年4月4日付けの拒絶査定(甲27)を受けたため,同年6月16日,拒絶査定不服審判を請求するとともに(甲28),本願標章の指定商品及び指定役務について,第5類「生理用パンティ,生理用ショーツ」に補正する手続補正をした(乙1)。
特許庁は,上記請求を不服2017-8819号事件として審理を行い,令和元年10月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年11月12日,原告に送達された。
⑶ 原告は,令和元年12月11日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は,原登録商標は,平成12年以降,原告の業務に係る女性用靴下,タイツ,ストッキング,女性用下着,ルームウェア等について使用されているとはいい得るものの,原告の業務に係る指定商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識されているとはいえず,他人が,原登録商標をそれに係る指定商品とは非類似の本願の指定商品に使用したとしても,その商品と原告の業務に係る指定商品とが出所の混同を生ずるおそれがあるものとはいえないから,本願標章は,商標法64条1項に規定する要件を具備するものではないというものである。
3 取消事由
本願標章の商標法64条1項の要件の判断の誤り
第3 当事者の主張
1 原告の主張
⑴ 「需要者の間に広く認識されている」ことの要件の判断の誤り
本件審決は,商標法64条1項所定の「登録商標が…需要者の間に広く認識されている」ことの要件は,当該登録商標が広く認識されているだけでは十分ではなく,商品や役務が類似していない場合であっても,なお商品役務の出所の混同を来す程の強い識別力を備えていること,すなわち,そのような程度に至るまでの著名性を有していることを指すものと解すべきであるとした上で,①原登録商標を使用した各種商品が全国的に継続して販売されていると認めることができない,②原登録商標を使用した各商品のシェアに関し,㋐ストッキングについては,2001年(平成13年)の秋冬に500万足が販売されてヒット商品となり,2007年(平成19年)頃には年間平均で1500万足が販売されたことなどからすれば,その当時においては,同種商品の中で一定程度のシェアを占めていたことが推測されるが,それがどの程度であったかは明らかでなく,また,原告の試算による2012年度(平成24年度)ないし2016年度(平成28年度)のシェアは4%前後で推移しているが,その多寡を評価し得る証拠の提出はない,㋑婦人用ソックス・タイツについては,原告の試算による2016年度(平成28年度)のシェアは6.5%であるが,これについても,その多寡を評価し得る証拠の提出はない,㋒インナーウェアや紳士ソックス・タイツについては,原告の試算による2012年度(平成24年度)ないし2016年度(平成28年度)のシェアはいずれも1%に満たない,③原登録商標を使用した各種商品の広告宣伝活動の詳細が不明である,④原登録商標を使用したストッキングについて2012年(平成24年)8月に行われたアンケート結果によれば,ストッキングのブランドとして「知らない」との回答が半数以上を占めており,原告の業務に係るストッキングの他のブランドに比しても,その認知度は低いなどとして,原登録商標は,原告の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至っていると認めることはできない旨判断した。
しかしながら,以下に述べるとおり,原登録商標は,本件審決時において,需要者の間で原告の業務に係る指定商品を表示するものとして周知著名であったから,本件審決の上記判断は誤りである。
ア 原登録商標に求められる周知著名性
防護標章登録の法的効果(商標法67条,4条1項12号)に鑑みると,防護標章登録出願の登録要件である同法64条1項所定の「登録商標が…需要者の間に広く認識されている」ことにいう「認識」の程度は,防護標章登録出願の指定商品に出願標章を使用した場合に一定の出所の混同が生じるおそれがあると認められるだけの周知著名性があれば足りるというべきであるから,本件においては,原登録商標について,第三者が「Tuché」の商標を本願の指定商品「生理用パンティ,生理用ショーツ」に使用し,出願する行為を禁止するに足りると認めるだけの周知著名性が存在しさえすれば,「需要者の間に広く認識されている」ことの要件は満たすと解すべきである。具体的には,本願の指定商品「生理用パンティ,生理用ショーツ」の需要者と需要者層が重なる原登録商標の指定商品「ストッキング」,「婦人用ソックス・タイツ」,「女性用下着」の需要者(10代から40代の女性)の間で周知著名性があれば足りるというべきである。
イ 原登録商標の使用態様
(ア) 原登録商標の「Tuché」(トゥシェ)とは,フランス語の「Touch(触れる)」と「she(彼女)」を組み合わせたフランス語調の造語である。
原告は,2000年(平成12年),ストッキング,女性用タイツ,ソックスのブランドとして,原登録商標に係る「Tuché」ブランドを立ち上げた。
原告が販売するストッキングのパッケージには,中央に大きく,原登録商標(「Tuché」の文字)が表示されている(以下,原登録商標がパッケージに表示されたストッキングを「原告使用商品」という場合がある。)。原告使用商品のパッケージには,原登録商標のほかに,原告の社名の略称としてコーポレートブランドを示す周知商標である「GUNZE」の文字商標が,パッケージの隅に小さく表示されており,また,サブブランド名として「スマート裏起毛」,「ほっそり引き締め」,「引き締め美脚」等の名称が併記されているものがある(甲1の1ないし51)。
原告使用商品は,日本全国の小売店(大手量販店,デパート,コンビニエンスストア等)で販売されているが,かかる小売店舗で,原告使用商品に接する需要者は,原告使用商品のパッケージの中央に大きく表示された原登録商標に注目し,原登録商標によって商品を識別した上で,商品の選択,購入をしていると考えられる。また,インターネット通販やカタログ通販で,原告使用商品を購入する需要者も,ウェブサイトやカタログに表示された原登録商標を確認した上で,他の商品の中から,原告使用商品を選択しているのであり,原登録商標を出所識別標識として記憶,認識しているというべきである。
(イ) この点に関し被告は,原告使用商品に接した需要者においては,出所識別標識としては原告使用商品のパッケージに表示された周知商標である「GUNZE」の文字部分に着目するので,原告のサブブランド名にすぎない原登録商標が記憶に残る余地や可能性は高くはない旨主張する。
しかしながら,原告使用商品に接した需要者において,「GUNZE」の文字部分に着目することがあるとしても,「GUNZE」の文字部分は原告使用商品のパッケージの隅に小さく表示されているにすぎず,原登録商標に比して明らかに目立ちにくい表示態様であり,また,かかる需要者の大半は,「GUNZE」を商品の製造元を示す社標,原登録商標「Tuché」を主たるブランド名,「スマート裏起毛」,「ほっそり引き締め」,「引き締め美脚」等をサブブランド名と認識するといえるから,主たるブランド名である「Tuché」が需要者の記憶に強く残ることは明らかである。
したがって,被告の上記主張は失当である。
ウ 原登録商標を使用した商品の販売実績
(ア) 販売地域及び売上高
a 原告は,2000年(平成12年)以来,日本全国に店舗を有する大手量販店,大手コンビニエンスストア等,百貨店,専門店,インターネット通販(EC販売),カタログ販売等を通じて,原登録商標を使用した商品を全国で継続的に販売してきた(甲14,15,35,36)。
原告は,2001年(平成13年)に女性タレントAがプロデュースをした「うのコレクション」の柄物ストッキングを,「Tuché」ブランドのアイテムとして発売し,当該商品の販売をきっかけに柄物ストッキングが大ブームになり,「Tuché」ブランドのストッキングは年間約500万足を販売する大ヒット商品となった。「Tuché」ブランドの柄物ストッキングのブームは,その後も続き,最盛期の2007年度(平成19年度)には1年間で約65億1500万円の売上げを上げるまでに成長した。また,「Tuché」ブランドは,当初,ストッキングのブランドとしてスタートしたが,その後,商品ジャンルを拡大し,レッグの分野においては,2007年以降,レギンス,カラータイツ,マットタイツ,ソックス,レギンスパンツ,フットカバー等の商品を順次発売するに至っている。
b 原登録商標を使用したインナーウェア(「婦人肌着」,「ランジェリー」)及びレッグウェア全体(「ストッキング」,「婦人ソックス・タイツ等」,「紳士ソックス・タイツ等」)の2010年度(平成22年度)から2017年度(平成29年度)までの売上高及び販売ルート(甲14の別紙4)は,以下のとおりである。
なお,レッグウェア全体の売上高のうち,原告使用商品(ストッキング)の売上高については,2010年度は約32億8000万円であるのに対し,2017年度は約10億4000万円に減少しているが(甲14の別紙2),これは,ストッキング全体の市場規模の減少によるものであり,ストッキング分野の市場シェアが同様に減少しているものではない。一方で,原登録商標を使用した婦人ソックス・タイツ等の売上高は,2010年度から2017年度の7年間で2倍以上大きくなっている。
(イ) 市場シェア
a 原登録商標を使用した婦人用ソックス・タイツ,ストッキング(原告使用商品)の市場シェアは,以下のとおりである。市場シェアの算出方法は,日本靴下協会が公開する「品種別靴下生産推移(新統計)」記載の生産数量を分母として,原告の販売数量を分子として算出したものである(甲35,43)。
「ストッキング」や「タイツ」のような一般消費者向けの商品の分野においては,高価な商品から安価な商品まで多数の商品が存在し,5%を超えるような市場シェアを確保する商品はなかなか登場しにくい実情であることからすると,「婦人用ソックス・タイツ」の分野における3.0~6.7%の市場シェア,「ストッキング」の分野における3.0~5.3%との市場シェアは,これらの商品の分野における原登録商標の著名性を裏付ける十分な根拠になるものといえる。
また,「アパレルファッション TREND MEDIA」のウェブサイト(甲34)では,「Tuché」ブランドを紹介する記事の中で,「その中でもモデル契約をしていた老舗メーカー,グンゼから発表したストッキング,インナーブランド『Tuche(トゥシェ)』が大ヒットしました。あるストッキングの3本セットは,300万セット売れたらヒット商品と言われるこの業界で,1200万セットを売り上げました。ヒットの理由としては,芸能人にサンプルを配った話も有名ですが,自身が全面的にモデルを務め,パッケージに美脚のうのさんが登場しているのが目を引き話題になりました。もちろん品質でも大変好評だったので爆発的なヒットとなりました。」との紹介がされている。
b これに対し被告は,原告使用商品(ストッキング)の市場シェアは,レッグウェアの市場全体の1%に満たない旨主張する。
しかしながら,前述のとおり,原登録商標の周知著名性については,本願の指定商品「生理用パンティ,生理用ショーツ」の需要者と需要者層が重なる原登録商標の指定商品「ストッキング」,「婦人用ソックス・タイツ」,女性用下着の需要者(10代から40代の女性)の間で周知著名性があれば足りるというべきであるから,レッグウェア市場全体の中での原告使用商品の市場シェアを論じる被告の上記主張は妥当でない。
エ 広告宣伝実績
(ア) 原登録商標を使用したレッグウェアの2014年度(平成26年度)から2017年度(平成29年度)までの間における広告宣伝費は,以下のとおりである(甲38)。
2014年度 3213万8688円
2015年度 6510万6184円
2016年度 5340万0587円
2017年度 4259万0674円
(イ) 原告使用商品は,2008年(平成20年)から現在に至るまで,毎年,「STORY」,「non-no」,「MORE」,「with」,「Domanani」など多数の雑誌に掲載されている(甲39,40の1ないし184)。このような雑誌への掲載によって,原登録商標は需要者に広く認知されるに至っている。
このほか,原告は,原告使用商品を宣伝するために,原告の取引先に対し,毎年800~100部程度ずつポスターを配布している(甲42)。
(ウ) 被告は,原告使用商品が「A」プロデュース商品である点に関し,原告使用商品を購入する需要者は,出所識別標識としては「GUNZE」の文字部分に着目し,商品情報としてはその他の文字部分に着目するから,それに加えて更に目を引く「A」の名称や写真等があれば,原登録商標が記憶に残る可能性や余地は一層低くなる旨主張する。
しかしながら,原告使用商品のパッケージには,原登録商標が中央に大きく表されており,「A」の名称や写真は,需要者の注意を惹き付ける要素になるものではあるが,原登録商標の印象が薄れるとはいえず,「A」の名称や写真との相乗効果で原登録商標の認知度も高まっていくと考えるのが合理的である。
また,被告が挙げる乙10ないし25には,「A」の名前のほか,「トゥシェ」,「Tuché」のブランド名も表記されており,「A」の知名度と相俟って,原登録商標の認知度も高まっていったことが理解できる。
したがって,被告の上記主張は失当である。
オ アンケートの結果
(ア) 株式会社矢野経済研究所(以下「矢野研究所」という。)が作成した「2012年版 インナーウェア市場白書」に掲載された「『ストッキング』に対する消費者の意識と購買実態 インターネットによる消費者調査結果」と題するアンケート(以下「本件アンケート」という。甲10,12)は,「ストッキング」に対する消費者の意識,購買実態を検証することを目的とし,調査対象者を「首都圏(東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県)の20代~50代の女性」として,2012年(平成22年)8月に実施されたアンケートである。本件アンケートのうち,調査項目の「調査2」は,上記調査対象者のうち,「ストッキング」を1年に1回以上購入し,週に1回以上着用する20~50代の女性各100人に対し,購買実態を調査するものであり,ストッキングの8ブランド(「満足」,「SABRINA」,「MIRACARAT」,「Tuché」等)に関し,認知度及び購買経験度について質問するものである。本件アンケートの結果,調査対象者合計400名のうち47.3%が「Tuché」ブランドを「知っている」と回答した。また,年齢別の認知度をみると,20代の女性に関しては51%で,「SABRINA」に続く2番目,30代の女性に関しては65%で,「満足」,「SABRINA」に続く3番目である。
本願の指定商品である「生理用パンティ,生理用ショーツ」は,生理がある年齢(主に,10代から40代)の女性をターゲットにした商品であり,重視すべきは20代,30代の女性の評価であるといえるが,20代,30代の女性合計200名の中での認知度は,50%~60%という極めて高い数値となっている。
(イ) これに対し被告は,本件アンケートは,日本全国における需要者全般の認識を正確に把握しているものではないこと,原登録商標の需要者の年齢層は10代から高齢者まで幅広いこと,調査時期が8年前であり,現在の認知度はより低下している可能性が高いことなどを理由に,本件アンケートの結果は現在の需要者の原登録商標の認知度を示すものではない旨主張する。
しかしながら,本件アンケートは,首都圏の女性を対象にしたものであるが,原告使用商品は日本全国に隈なく販売されているものであるから,首都圏の需要者とその他の地域の需要者の間で,原登録商標の認知度に差が出るとは考えにくいし,調査対象外となっている高齢者や10代の女性の間における認知度に関しても,本件アンケートの結果からある程度推認できるから,調査対象者の年齢が20代~50代に限定されていることは,本件アンケートの結果の有用性を否定する理由にはならない。
また,本件アンケートは,8年前に実施されたものではあるが,「ストッキング」や「タイツ」のような日用品に関しては,日々繰り返し,消費され,店舗等での購入が繰り返されるものであるから,一度,認知されたブランド名は大半の場合,そのまま記憶に残り続けると考えられ,本件審決時においても,本件アンケートが実施されたときとほぼ同程度の認知度が維持されているものと推認できる。
したがって,被告の上記主張は失当である。
カ まとめ
以上のとおりの原登録商標の使用態様,原登録商標を使用した商品の販売実績,広告宣伝実績及び本件アンケートの結果等を総合すると,原登録商標は,本件審決時において,原登録商標の指定商品のうち,「ストッキング」,「婦人用ソックス・タイツ」,「女性用下着」の需要者(10代から40代の女性)の間で周知著名であったといえるから,原登録商標は,原告の業務に係る指定商品を表示するものとして「需要者の間に広く認識されている」ことの要件を具備するものである。
したがって,これを否定した本件審決の判断は誤りである。
⑵ 混同を生ずるおそれの要件の判断の誤り
本件審決は,他人が,原登録商標をそれに係る指定商品とは非類似の本願の指定商品に使用したとしても,その商品と原告の業務に係る指定商品とが出所の混同を生ずるおそれがあるものとはいえない旨判断した。
しかしながら,前記⑴のとおり,原登録商標は,サブブランド名ではなく,主たるブランド名であり,原登録商標を使用した商品のパッケージ上においても,「GUNZE」の社標よりも大きく表示されているから,原登録商標単独でも,十分な周知著名性を獲得している。
また,本件アンケートの結果に鑑みると,本願標章が付された「生理用パンティ,生理用ショーツ」に接する需要者の半数近くが,原登録商標を想起し,その商品を原告の取扱商品又は原告と関連性のある商品であると誤認する可能性が高いといえる。
以上によれば,本願標章の指定商品である「生理用パンティ,生理用ショーツ」について,他人が原登録商標を使用することにより,その商品と原告の業務に係る指定商品とが出所の混同を生ずるおそれがあるというべきである。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
⑶ 小括
以上によれば,本願標章は商標法64条1項の要件を具備するといえるから,これを否定した本件審決の判断は誤りである。
2 被告の主張
⑴ 「需要者の間に広く認識されている」ことの要件の判断の誤りの主張に対し
ア 原登録商標に求められる周知著名性の主張に対し
原告は,原登録商標が需要者の間において広く認識されているか否かの判断においては,「ストッキング」,「女性用靴下・タイツ」,「女性用下着」の需要者である10代から40代の女性の間で周知著名性があれば足りる旨主張する。
しかしながら,防護標章登録制度は,原登録商標の指定商品に係る商標権者の業務上の信用を保護(拡張)する制度であることを鑑みると,防護標章登録の要件として求められている周知著名性は,まずは,保護拡張の基礎となるべき原登録商標の指定商品の全部又は一部に係る高いレベルにおける周知著名性であるというべきであり,さらに,防護標章登録出願に係る非類似の商品と関連してもなお,商品の出所の混同を来すほどの強い著名性を有していることが必要である。
そうすると,原登録商標の指定商品「被服,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」又はその一部の一般需要者層における高いレベルにおける周知著名性の有無をまず検討すべきであって,それに加えて,本願標章の指定商品「生理用パンティ,生理用ショーツ」に係る需要者の間においても,商品の出所の混同を来すほどの強い著名性があるか否かを検討すべきであるから,原告主張の狭い範囲の需要者層における知名度では足りないというべきである。
したがって,原告の上記主張は失当である。
イ 原登録商標の使用態様について
原告使用商品(ストッキング)のパッケージ(甲13の12)には,原登録商標のほか,サイズや色,柄,機能等の商品情報に加えて,原告の著名商標である「GUNZE」の文字が表示されている。
原告使用商品のパッケージの構成においては,原告のハウスマークでもある著名商標「GUNZE」の文字部分が,単にサブブランド名にすぎない原登録商標と比較して,自他商品識別標識として強く支配的な印象を与えるものであり,実質的にも,再度の商品購入の際の目印としては最も機能し得る標識であると考えられる。また,商品情報に係るその他の文字部分は,商品選択の際には重要な役割を果たすことから,商品購入において比較的着目される文字部分といえる。
そうすると,原告使用商品を購入する需要者においては,出所識別標識としては,「GUNZE」の文字部分に着目し,商品情報としてはその他の文字部分に着目するため,原登録商標が記憶に残る余地や可能性は高くはない。
ウ 原登録商標を使用した商品の販売実績について
(ア) 甲14の別紙2によれば,原告使用商品(ストッキング)の売上高は,約32億8千万円(2010年度),約25億5千万円(2011年度),約22億8千万円(2012年度),約17億5千万円(2013年度),約16億6千万円(2014年度),約18億2千万円(2015年度),約12億2千万円(2016年度),約10億4千万円(2017年度)であり,2010年度(平成22年度)から2017年度(平成29年度)まで年々減少傾向にあることが読み取ることができ,その7年間で売上金額は3分の1以下にまで減少している。
また,矢野研究所の調査(乙6ないし9)によれば,レッグウェア(ストッキング,タイツ,靴下など)の市場規模は,2011年(平成23年)が6050億円,2013年(平成25年)が6220億円,2014年(平成26年)が6280億円,2015年(平成27年)が6270億円であることから,これを基に,原告使用商品の売上金額における市場シェアを試算すると,そのシェアは,約0.3%~0.4%程度にすぎない。
さらに,原告主張の原登録商標を使用したレッグウェア全体の売上高(甲14の別紙2)を前提に上記市場規模に基づき,原告使用商品の市場シェアを試算しても,約0.5%~0.7%程度にすぎない。
そうすると,原告使用商品又は原登録商標に係るレッグウェアの市場全体に占める販売実績は,1%にも満たないから,大きいとは評価し難い。
この点に関し原告は,原告の商品の販売数量を基にした市場シェアの主張をするが,市場シェアの算定の基礎となった数値の正確性,信頼性等を客観的に検証できないから,その信ぴょう性は極めて低い。
(イ) 大手通信販売業者や百貨店,量販店のウェブサイトにおけるストッキングの販売・人気ランキングをみても,原登録商標を使用した商品は,高くても63位(乙27,28)にとどまり,上位にランクインしていない(乙29ないし33)。また,日本経済新聞社やSMBCコンサルティングが毎年発表する「ヒット商品番付」において,2001年(平成13年)ないし2019年(令和元年)の期間に特定のストッキングがヒット商品として発表されたが,いずれも原告使用商品とは異なる商品である(乙34ないし37)。
また,原告の取り扱うストッキングやレッグウェアには,原告使用商品のほかに,「SABRINA」,「COSMEDICAL」,「Beauty Shape」,「IFFI」,「COOL MAGIC」,「Leg Beauty」,「Venus Leg」,「Legmode」,「STYLISH PANTS」,「IHR COUTURE」,「BODY WILD」など多数のブランドの商品がある(乙13の1,38)。中でも,「SABRINA」は,「95年デビューのロングセラー商品」(甲32の2葉目)として,原告の主力商品として位置付けられており,原告が自らの事業実績を紹介する株主総会資料等でも,主力ブランドとして紹介されている(甲17の1,2,18)。
このように,原登録商標「Tuché」は,多数ある原告の取扱ブランドの一つにすぎず,原告を代表するようなブランドであるとはいえない。
エ 広告宣伝実績について
(ア) 原登録商標を使用したレッグウェアの広告宣伝費は,2014年度(平成26年度)ないし2017年度(平成29年度)において,年平均で4800万円程度にすぎない。最も広告宣伝費の多い2015年度(平成27年度)の金額(約6500万円)と,同時期の原登録商標を使用したレッグウェアの販売額(約40億9000万円。甲14の別紙2)を用いてその売上高広告費比率を試算すると,約1.6%である。
他方で,例えば,レッグウェアを主力とするアツギ株式会社(乙41。以下「アツギ」という。)の2015年5月から2016年(平成28年)4月における売上高広告費比率は2.5%(乙42),複数ブランドを全国展開する株式会社ファーストリテイリング(乙43)の同時期の売上高広告費比率は4%(乙44)であることと比較しても,原登録商標を使用したレッグウェアの売上高広告費比率は,高いとはいい難く,集中的かつ大規模な広告宣伝活動があったものとはいえない。
(イ) 原告主張の雑誌の紹介記事(甲40の1ないし184)においては,原告使用商品は,モデルが着用等する多数のメーカー商品の中の一つとして紹介されているにすぎず,しかもその掲載方法は,特段原告使用商品に焦点を当てることもなく掲載されていることから,これらの紹介記事によって,原告使用商品のみが需要者に強く印象付けられるとは到底いえない。
また,ブランドクレジット(モデルが着用等した商品のブランド名や値段等の記載欄)においても,原登録商標「Tuché」ではなく,「トゥシェ」と片仮名で表記されているものが多数見受けられる。
さらに,原告使用商品を紹介する記事の中には,例えば,「うのストッキングしかはかない うの信者が大量発生!」,「基本うのストしかはかず,毎シーズン出る新作をいち早くGETするのが信者の証だそう。」(2009年「CanCam」。甲40の10),「うのスト OL」,「OLの絶大なる信頼を得るAさんプロデュースの“うのスト„ 。」(2010年「CanCam」。甲40の25)のように,原告使用商品を「うのスト」と称する記事も見受けられる。これらの記事から,原告使用商品は「A」がプロデュースしたストッキングであることが需要者に強く印象付けられるといえる一方で,原告のサブブランドにすぎない原登録商標が,需要者に記憶される程度は明らかではない。
(ウ) 「A」による広告宣伝に係る契約は,2011年(平成23年)に終了しており,その宣伝活動の中心時期は,本件審決日より10年以上前であり,その後,原告使用商品の売上げが減少傾向にあることを鑑みても,その広告宣伝効果が,現在においても持続しているのかは疑問がある。
また,原登録商標は,原告のサブブランド名にすぎず,原告使用商品のパッケージ構成を鑑みても,ストッキングを購入する需要者は,出所識別標識としては「GUNZE」の文字部分に着目し,商品情報としてはその他の文字部分に着目するから,それに加えて更に目を引く「A」の名称や写真等があればなおさら,原登録商標が記憶に残る余地や可能性は一層低くなる。
さらに,乙10ないし26の新聞記事に照らすと,「A」の広告宣伝により,原告使用商品が「A」の印象あるいは同人がプロデュースしたストッキングという印象は記憶に残りやすいとしても,原告のサブブランドにすぎない原登録商標が印象を与え,記憶される程度は明らかではない。
(エ) 以上によれば,原告による原登録商標に係る広告宣伝活動による効果は限定的で,その活動規模は大規模とはいえない。
オ アンケートの結果について
本件アンケートでは,「Tuché」を「知らない」と回答した者が52.8%を占めており,回答者の半数以上は認知していないことが示されているから,本件アンケートの結果は,原登録商標が周知著名性を有していることを示すものといえない。
また,本件アンケートの調査対象者も,「首都圏の20代ないし50代の女性」に限定されているため,日本全国における原告使用商品(ストッキング)の需要者全般(首都圏以外の地域,10代及び60代以上の世代など)の認識を正確に表しているものではない。原登録商標の指定商品(特にストッキング)の需要者層が主に女性が中心になることは首肯できても,その年齢層は10代から高齢者までの幅広い年代が想定できるから,原告が主張するような20代,30代の女性に限る理由はない。
さらに,本件アンケートの調査時期も,8年前のものであるから,そのアンケート結果が,現在の需要者の間における認知度を示すものとはいえないばかりか,原告使用商品の販売実績は減少傾向(1/3以下の減少幅)にある状況を併せ鑑みると,原登録商標の認知度はさらに低下していると考えるのが自然である。
カ まとめ
以上によれば,原登録商標は,原告使用商品との関係において,本件審決時まで約19年間継続して使用されているとしても,あくまで原告のサブブランドの一つにすぎず,その使用態様(パッケージ等における著名商標「GUNZE」に目を引かれ,サブブランドにすぎない原登録商標が記憶に残る余地や可能性は高くない。),販売実績(主力商品であるストッキングの売上げは減少傾向で,市場全体に占める販売実績も大きくない。),広告宣伝実績(広告宣伝活動による効果は限定的で,その活動規模は大規模ではない。)を踏まえると,原登録商標は,本件審決時において,原告使用商品に係る需要者の間において,広く認識されているものではなく,本願標章の指定商品と関連してもなお,原登録商標単独で,原告の業務又はその製造若しくは販売に係る商品であるとの出所の混同を来すほどの強い著名性を有しているものとはいえない。
したがって,原登録商標は,原告の業務に係る指定商品を表示するものとして「需要者の間に広く認識されている」とはいえないとした本件審決の判断に誤りはない。
⑵ 混同を生ずるおそれの要件の判断の誤りの主張に対し
前記⑴のとおり,原登録商標は,原告のサブブランドにすぎず,原告を代表するようなブランドとまではいえないことなどに鑑みれば,原登録商標と同一の本願標章がその指定商品「生理用パンティ,生理用ショーツ」に単独で使用された場合,原告の業務又はその商品との間で,具体的な出所の誤認混同が生じるようなことは考えにくい。
したがって,他人が原登録商標をそれに係る指定商品とは非類似の本願の指定商品に使用したとしても,その商品と原告の業務に係る指定商品とが出所の混同を生ずるおそれがあるものとはいえないとした本件審決の判断に誤りはない。
⑶ 小括
以上によれば,本願標章は商標法64条1項の要件を具備しないから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 「需要者の間に広く認識されている」ことの要件の判断の誤りについて
(1) 認定事実
証拠(甲1ないし22,24,26,32ないし43,乙4,6ないし38(枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
ア 原登録商標の使用態様等
(ア) 原告は,2000年(平成12年),ストッキング,婦人ソックス,タイツ等の女性用レッグ関連商品のブランドとして,原登録商標に係る「Tuché」ブランドを立ち上げ,各商品のパッケージ等に原登録商標の使用を開始した。その後,原告は,「Tuché」ブランドの商品ジャンルを拡大し,婦人肌着,ランジェリー等のインナーウェア,紳士ソックス,タイツ等の男性用レッグ関連商品を順次発売した。
(イ) 「Tuché」ブランドのストッキング(原告使用商品)のパッケージには,ストッキングを着用した女性の脚部の画像の中央のやや左上部に「Tuché」の文字(原登録商標)が表示され,上端の左隅に「GUNZE」の文字及びその横に「M~L」等のサイズが表示されているものや,ストッキングを着用した女性の脚部の画像の中央のやや上部に「黒がきわだつ」,「脚を細くみせる」,「上品な輝き」等の文字が表示され,上端の中央に「Tuché」の文字(原登録商標),上端の左隅に「GUNZE」の文字,上端の右隅に「M~L」等のサイズが表示されているものなどがある(甲13の12等)。
イ 原登録商標を使用した商品の販売状況等
(ア) 販売地域及び販売ルート
原告は,2000年(平成12年)以来,日本全国に店舗を有する大手量販店,大手コンビニエンスストア等,百貨店,専門店,インターネット通販(EC販売),カタログ販売等を通じて,原登録商標を使用した商品を全国で継続的に販売してきた。
(イ) 売上高
a 原告は,2001年(平成13年),「A」がプロデュースをした「Tuché うのコレクション」という名称の柄物ストッキング(スパイダー柄,チェックダイヤ柄等)を「Tuché」ブランドとして発売し,年間約500万足を販売する大ヒット商品となった(甲1の6,1の9,32,乙10ないし15)。その後,原告は,20011年(平成23年)まで「Tuché うのコレクション」シリーズのストッキングを継続的に販売した(甲32)。
b 2010年度(平成22年度)から2017年度(平成29年度)までの原告使用商品(ストッキング)及び原登録商標を使用した婦人ソックス,タイツ等の売上高は,次のとおりである(甲14の別紙2)。
(ウ) 市場シェア
2010年(平成22年)から2017年(平成29年)までの原告使用商品(ストッキング)及び原登録商標を使用した婦人用ソックス・タイツの市場シェアは,以下のとおりである。市場シェアの算出方法は,日本靴下協会が公開する「品種別靴下生産推移(新統計)」記載の生産数量を分母として,原告の販売数量を分子として算出したものである(甲35,43)。
(エ) インターネット通販におけるランキング等
a 2020年(令和2年)1月24日時点の「Amazon.co.jp」のウェブサイトの「レディースストッキングの売れ筋ランキング」(乙27)では,1位が「アツギ」の「アツギ ストッキング 引きしめて美しい(3足組)」,2位が「セシール」の「ストッキング10足組」,3位が原告の「ストッキング サブリナ なめらかゾッキPS3足組」であり,原告使用商品は,「Tuché ガーターフリーストッキング」が63位に入っている。
また,同日時点の「楽天市場」のウェブサイトの「ストッキングランキング」(乙28)では,1位が「ピエールマントゥータイツ」,2位が原告の「SABRINA サブリナパンストストッキング」,3位が「弾性ストッキング 着圧ストッキングシリーズ 最高着圧」であり,原告使用商品は,「Tuché脚を細く見せる」が63位に入っている。
b なお,原告の「SABRINA」ブランドのストッキングは,1995年(平成7年)に販売を開始したロングセラー商品である(甲32)。また,原告の平成28年3月期定時株主総会資料(甲17の1)には,「アパレル事業」の「レッグウェア」の項目において,「主力ブランド「SABRINA」が好調に推移 ヒットアイテムの「レギンスパンツ」も売上伸張」(13頁)との記載が,原告の平成30年3月期定時株主総会資料(甲17の3)には,「アパレル事業」の「レッグウェア」の項目において,「18SS新商品「サブリナ」は,主力GMS,ドラッグでフェイス拡大」(13頁)との記載がある。
ウ 広告宣伝
(ア) 雑誌等
2008年(平成20年)9月から2019年(令和元年)12月までの間に,「Tuché」ブランドのストッキング,婦人ソックス,タイツ,インナーウェアの紹介記事が,「STORY」,「non-no」,「MORE」,「With」,「CanCam」,「AneCan」,「CLASSY」,「Domani」,「女性セブン」,「女性自身」等のファッション雑誌,女性雑誌,ウェブサイト(「Web Domani」,「ELLE ONLINE」,「ALL About」)に掲載された(甲39,40の1ないし184)。
このうち,2017年(平成29年)ないし2019年に発行された雑誌における「Tuché」ブランドのストッキングに関する掲載態様としては,①「non-no」(2017年1月発行)(甲40の149)に「賢すぎる♡ ドレスレンタル」との記事の中で,ストッキングが紹介されたもの,②「andGIRL」(2017年3月発行)(甲40の152)に「読モが試着!目的別ベスト・ストッキング選手権」との特集の中で,商品パッケージの画像とともに,ストッキングが紹介されたもの,③「non-no」(2017年3月発行)(甲40の153)に「実力派ストッキング大研究」との特集の中で,商品パッケージの画像とともに,ストッキングが紹介されたもの,④「Domani」(2017年6月発行)(甲40の154)に「千円以下の『優秀ストッキング』ランキング」との特集中,商品パッケージの画像とともに,「ノンストレス部門」で「トゥシェ きゅうくつさゼロ感覚」とのストッキングが第1位にランクインされたことが紹介されたもの,⑤「美人百花」(2017年7月発行)(甲40の155)に「実際にはき比べ!この目的にはこの商品」との特集中,商品パッケージの画像とともに,「キズ・虫刺されが目立たない部門」で,「トゥシェ にごりのない無垢感」がストッキングが第3位にランクインし,「肌がキレイに見える部門」で,「トゥシェ 上品な輝き」とのストッキングが第1位にランクインされたことが紹介されたもの,⑥「PRESIDENT WOMAN」(2017年9月発行)(甲40の156)に「おしゃれ偏差値がぐっと上がる『ストッキングの選び方』教えます」との特集の中で,商品パッケージの画像とともに,ストッキングが紹介されたもの,⑦「non-no」(2018年2月発行)(甲40の168)に「なりたい脚は『自分に合ったストッキング』で叶える!」との特集の中で,商品パッケージの画像とともに,ストッキングが紹介されたもの,⑧「Oggi」(2018年7月発行)(甲40の171)に「防臭靴&ストッキング×洗えるジャケット」の組み合わせ着こなしを紹介する記事の中で,商品パッケージの画像とともに,ストッキングが紹介されたもの,⑨「LEE」(2018年11月発行)(甲40の172)に「冬もスカートであったか!細見え!」との特集の中で,商品パッケージの画像とともに,ストッキングが紹介されたもの,⑩「LEE」(2019年1月発行)(甲40の174)に「進化形[セットアップ]は組み合わせ自在!」との特集の中で,ストッキングが紹介されたもの,⑪「BAILA」(2019年7月発行)(甲40の176)に「真夏の通勤を快適にする涼感ニュース」との特集の中で,商品パッケージの画像とともに,ストッキングが紹介されたもの,⑫「美的」(2019年7月発行)(甲40の177)に「夏のもうイヤ!を解決 100問100答」との特集の中で,商品パッケージの画像とともに,ストッキングが紹介されたもの,⑬「Steady」(2019年10月発行)(甲40の178)に「みんなが求めていたのは美脚&美肌だった!理想の脚になれるストッキングを探せ!」との特集の中で,商品パッケージの画像とともに,ストッキングが紹介されたもの,⑭「Marisol」(2019年10月発行)(甲40の179)に「今年のタイツ新作News!」との特集の中で,商品パッケージの画像とともに,フットカバー付きストッキングが紹介されたもの,⑮「美人百花」(2019年12月発行)(甲40の182)の「技ありストッキングで生脚風でもあったか」との記事の中で,商品パッケージの画像とともに,ストッキングが紹介されたもの,⑯「STORY」(2019年12月発行)(甲40の184)に雑誌記者が小自慢できる持ち物を紹介する記事の中で,商品パッケージの画像とともに,ストッキングが紹介されたものなどがある。
これらの雑誌においては,「Tuché」ブランドのストッキングは,他のブランドのストッキング等と共に紹介されているものが多く,また,紹介記事の中でブランド名が欧文字表記されているものは⑫,⑮及び⑯の3誌のみであり,他の雑誌では片仮名で「トゥシェ」と記載されている。
(イ) 広告宣伝費
2014年度(平成26年度)から2017年度(平成29年度)までの「Tuché」ブランドのレッグウェア事業における広告宣伝費は,以下のとおりである(甲38の表1)。
このうち,雑誌広告費は,2015年度(平成27年度)は241万5000円,2016年度(平成28年度)は973万5515円である。
2014年度 3213万8688円
2015年度 6510万6184円
2016年度 5340万0587円
2017年度 4259万0674円
エ 本件アンケートの結果
(ア) 「2012年版 インナーウェア市場白書」に掲載された「『ストッキング』に対する消費者の意識と購買実態 インターネットによる消費者調査結果」と題する本件アンケート(甲10,12)は,矢野研究所が,「ストッキング」に対する消費者の意識,購買実態を検証することを「調査目的」として実施したものである。
本件アンケートの概要は,①「調査対象」は首都圏(東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県)の20~50代の女性,②「調査期間」は2012年(平成24年)8月末,③「調査方法」は「インターネットモニタシステムによるアンケート調査」,④「調査項目」のうち,「調査2」は,「ストッキング」を1年に1回以上購入し,週に1回以上着用する20~50代の女性各100人に対し,購買実態を調査するというものである。
具体的には,「Q8.あなたは,以下のブランドのストッキングをご存知ですか。」との質問に対し,回答者が,「知らない」,「知っているが購入したことはない」,「買いたい」又は「買ったことがある」の4つの選択肢から回答する質問形式の調査であり,「以下のブランド」として,「満足」,「SABRINA(サブリナ)」,「MIRACARAT(ミラキャラット)」,「Tuché(トゥシェ)」,「ASTIGU(アスティーグ)/肌・魅・輝…(全11種類)」,「Relish(レリッシュ)」,「f-ing(エフィング)」及び「Mirica(ミリカ)」の8ブランドが対象とされている。
(イ) 本件アンケートの結果は,以下のとおりである。
a 各年代の全体の認知度については,第1位が「満足」,第2位が「SABRINA(サブリナ)」,第3位が「MIRACARAT(ミラキャラット)」であり,「Tuché(トゥシェ)」は第4位であった。
年代別では,20代は,「SABRINA(サブリナ)」,「Tuché(トゥシェ)」及び「満足」の順に認知度が高く,購買経験度は「SABRINA(サブリナ)」,「満足」及び「Tuché(トゥシェ)」の順であり,30代は,「満足」,「SABRINA(サブリナ)」及び「Tuché(トゥシェ)」の順に認知度及び購買経験度が高かった。また,40代・50代は,「満足」,「SABRINA(サブリナ)」及び「MIRACARAT(ミラキャラット)」の順に認知度及び購買経験度が高かった。
b 「Tuché」については,各年代の全体では,「買ったことがある」が24.8%,「買いたい」が7.5%及び「知っているが購入したことはない」が15.0%(合計47.3%)であるのに対し,「知らない」が52.8%である。
また,年齢別の認知度では,20代は,「買ったことがある」が25%,「買いたい」が12%,「知っているが購入したことはない」が14%(合計51%),30代は,「買ったことがある」が40%,「買いたい」が10%,「知っているが購入したことはない」が15%(合計65%),40代は,「買ったことがある」が19%,「買いたい」が4%,「知っているが購入したことはない」が20%(合計43%),50代は,「買ったことがある」が15%,「買いたい」が4%,「知っているが購入したことはない」が11%(合計30%)である。
⑵ 商標法64条1 項の「需要者の間に広く認識されている」の意義等について
ア 商標法64条1 項は,商標権者は,商品に係る登録商標が自己の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合において,その登録商標に係る指定商品及びこれに類似する商品以外の商品又は指定商品に類似する役務以外の役務について他人が登録商標の使用をすることによりその商品又は役務と自己の業務に係る指定商品とが混同を生ずるおそれがあるときは,そのおそれがある商品又は役務について,その登録商標と同一の標章についての防護標章登録を受けることができる旨規定し,同法67条各号は,指定商品又は指定役務についての登録防護標章の使用等の行為は,商標権を侵害するものとみなす旨規定している。
これらの規定によれば,同法64条1 項の趣旨は,「商品に係る登録商標」(原登録商標)が商標権者の業務に係る指定商品を表示するものとして「需要者の間に広く認識されている」場合には,第三者によって,原登録商標がその本来の商標権の効力(同法36条,37条)の及ばない非類似商品又は役務に使用されたときであっても,出所の混同をきたすおそれが生じ,出所識別力や信用が害されることから,そのような広義の混同を防止するために,当該原登録商標と同一の標章について防護標章登録を受けることによって,禁止権の及ぶ範囲を非類似の商品又は役務について拡張することにあるものと解される。
このように防護標章登録制度は,原登録商標の禁止権の及ぶ範囲を非類似の商品又は役務について拡張する制度であり,一方で,第三者による商標の選択,使用を制約するおそれがあることに鑑みると,同法64条1 項の「需要者の間に広く認識されている」とは,原登録商標の指定商品の全部又は一部の需要者の間において,原登録商標がその商標権者の業務に係る指定商品を表示するものとして,全国的に認識されており,その認識の程度が著名の程度に至っていることをいうものと解するのが相当である。
イ この点に関し原告は,本件においては,原登録商標(「Tuché」)が,本願の指定商品「生理用パンティ,生理用ショーツ」の需要者と需要者層が重なる原登録商標の指定商品「ストッキング」,「婦人用ソックス・タイツ」,「女性用下着」の需要者(10代から40代の女性)の間に周知著名性があれば,「需要者の間に広く認識されている」ことの要件を具備する旨主張する。
そこで検討するに,原登録商標の指定商品は,第25類「被服,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」であるところ,「ストッキング」,「婦人用ソックス・タイツ」及び「女性用下着」は,「被服」に含まれるから,これらの商品の需要者は,原登録商標の指定商品の需要者に該当する。
一方で,例えば,「ストッキング」についてみると,2012年(平成24年)11月5日付け日経産業新聞(乙39)には,「靴下各社,若年層に照準―ストッキングおしゃれに,アツギ,グンゼ(市場リポート)」の見出しの下に,「ナイガイ」に関し,「同社のストックングはライセンスブランド「ランバン」が中心で,顧客層も60代以上が多い。」などの記事が,2013年(平成25年)7月15日付け日経MJ(流通新聞)(乙40)には,「美脚効果をねらって10~20代の女性を中心にここ数年ブームとなっているストッキング」,「アツギが20~60代に調査したところ「日常ストッキングをはく人」は平均66.8%。トップは20代前半(76%)で,2位が50代(72.5%)。透け感の好みなども20代と50代は似る。」などの記事が掲載されていることに照らすと,「ストッキング」の需要者は,10代から40代に限らず,幅広い年齢層の女性が需要者であるものと認められる。
また,商標法64条1項の「商品に係る登録商標が自己の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合」との文言及び同項の趣旨(前記ア)に鑑みると,同項の「需要者の間に広く認識されている」にいう「需要者」は,「商品に係る登録商標」(原登録商標)の需要者をいうものと解されるから,この「需要者」の範囲を防護標章登録出願である本願の指定商品の需要者と重なる範囲に限定すべき理由はない。
したがって,原告の上記主張のうち,需要者の年齢層を「10代から40代」に限定する部分については採用することができない。
そこで,以下においては,「ストッキング」,「婦人用ソックス・タイツ」及び「女性用下着」の需要者を前提に,原登録商標が「需要者の間に広く認識されている」ことの要件を具備しているかどうかを判断する。
⑶ 「需要者の間に広く認識されている」ことの要件の具備の有無について
ア 原登録商標の構成態様及び使用態様
(ア) 原登録商標は,別紙1のとおり,「Tuché」の欧文字を横書きにしてなる商標であり,その構成中の「é」は「e」にフランス語のアクサンテギュ記号を付けたものである。原登録商標は,特定の観念を生じない造語である。原告は,2000年(平成12年),ストッキング,婦人ソックス,タイツ等の女性用レッグ関連商品のブランドとして,原登録商標に係る「Tuché」ブランドを立ち上げた当時から,「Tuché」の欧文字を「トゥシェ」と称呼している。
原登録商標の使用態様をみると,前記⑴ア(イ)認定のとおり,例えば,「Tuché」ブランドのストッキング(原告使用商品)のパッケージには,ストッキングを着用した女性の脚部の画像の中央のやや左上部に「Tuché」の文字(原登録商標)が表示され,上端の左隅に「GUNZE」の文字及びその横に「M~L」等のサイズが表示されているものや,ストッキングを着用した女性の脚部の画像の中央のやや上部に「黒がきわだつ」,「脚を細くみせる」,「上品な輝き」等の文字が表示され,上端の中央に「Tuché」の文字(原登録商標),上端の左隅に「GUNZE」の文字,上端の右隅に「M~L」等のサイズが表示されているものなどがある(甲13の12等)。
原告使用商品のパッケージに表示された「GUNZE」の文字は,「Tuché」の文字よりも小さいが,「GUNZE」は原告を示す著名商標であること,原告使用商品のパッケージの中央付近の目立つ位置に「黒がきわだつ」,「脚を細く見せる」,「上品な輝き」等の商品の機能を表す文字が表示されていることに照らすと,需要者は,柄,色等を示した商品の画像に着目するとともに,これらの文字にも着目するものと認められる。一方で,アクサンテギュ記号になじみのない需要者にとっては,「Tuché」の文字から「トゥシェ」の称呼は自然には生じないものと認められる。
そうすると,原告使用商品のパッケージに表示された原登録商標は,記憶や印象に強く残りやすいものとは直ちには認められない。
(イ) これに対し原告は,原告使用商品に接した需要者において,「GUNZE」の文字部分に着目することがあるとしても,「GUNZE」の文字部分は原告使用商品のパッケージの隅に小さく表示されているにすぎず,原登録商標に比して明らかに目立ちにくい表示態様であり,また,かかる需要者の大半は,「GUNZE」を商品の製造元を示す社標,原登録商標「Tuché」を主たるブランド名,「スマート裏起毛」,「ほっそり引き締め」,「引き締め美脚」等をサブブランド名と認識するといえるから,主たるブランド名である「Tuché」が需要者の記憶に強く残る旨主張する。
しかしながら,前記(ア)認定のとおり,原登録商標の構成態様及び使用態様に照らすと,「Tuché」が需要者の記憶に強く残るものと認めることはできないから,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原登録商標を使用した商品の販売状況,広告宣伝等
(ア) 前記⑴の認定事実によれば, ①原告は,2000年(平成12年)から19年以上にわたり,日本全国に店舗を有する大手量販店,大手コンビニエンスストア等,百貨店,専門店,インターネット通販(EC販売),カタログ販売等を通じて,原登録商標を使用した商品を継続的に販売してきたこと,②原登録商標を使用した商品のうち,原告使用商品(ストッキング)は,2001年(平成13年)には「A」プロデュース商品として年間約500万足を販売するなど大ヒット商品となった後,2010年度(平成22年度)から2017年度(平成29年度)までの売上高は,2010年度(平成22年度)が約32億8100万円,2011年度(平成23年度)が約25億5200万円,2012年度(平成24年度)が約22億8300万円,2013年度(平成25年度)が約17億5700万円,2014年度(平成26年度)が約16億6900万円,2015年度(平成27年度)が約18億2900万円,2016年度(平成28年度)が約12億2600万円,2017年度(平成29年度)が約10億4600万円であり,この7年間で毎年10億円を越えていること,③原告の試算によれば,2010年度から2017年度までの原告使用商品の市場シェア(日本靴下協会が公開する「品種別靴下生産推移(新統計)」記載の生産数量を分母として,原告の販売数量を分子として算出したもの)は,2010年が5.3%,2011年が4.5%,2012年が4.4%,2013年が4.0%,2014年が3.9%,2015年が5.2%,2016年が3.3%,2017年が3.0%であり,約3%から5.3%で推移していることが認められる。
上記認定事実によれば,原登録商標を使用した商品のうち,原告使用商品は,19年以上にわたり継続して全国的に販売され,2010年から2017年までの売上高及びその市場シェアに照らすと,本件審決時(審決日令和元年9月19日)においては,相当数の需要者が原登録商標を原告の業務に係るストッキングを表示するものとして認識していたものと認められる。
(イ) 他方で,前記(ア)の認定事実によれば,原告使用商品の売上高は,毎年減少傾向にあり,2017年度(平成29年度)の売上高は,2010年度(平成22年度)の売上高の3分の1程度であり,その市場シェアも減少傾向にあり,2017年は3.0%にとどまっている。また,原告使用商品のパッケージに表示された原登録商標は,記憶や印象に強く残りやすいものとは直ちには認められないことは,前記ア(ア)認定のとおりである。
次に,原登録商標を使用した商品の広告宣伝については,前記⑴ウ(ア)認定のとおり,2008年(平成20年)9月から2019年(令和元年)12月までの間に,「Tuché」ブランドのストッキング,婦人ソックス,タイツ,インナーウェアの紹介記事が,「STORY」,「non-no」,「MORE」,「With」,「CanCam」,「AneCan」,「CLASSY」,「Domani」,「女性セブン」,「女性自身」等のファッション雑誌,女性雑誌,ウェブサイト(「Web Domani」,「ELLE ONLINE」,「ALL About」)等に掲載されたが(甲39,40の1ないし184),これらのうち,2017年ないし2019年に発行された雑誌における「Tuché」ブランドのストッキングに関する掲載態様は,他のブランドのストッキング等と共に紹介されているものが多く,紹介記事の中でブランド名が欧文字表記されているものは3誌のみであり,他の雑誌では片仮名で「トゥシェ」と掲載されており,原登録商標(「Tuché」)が印象に残る掲載態様であるとはいえない。また,前記(1)ウ(イ)認定のとおり,広告宣伝費は,2014年度(平成26年度)が3213万8688円,2015年度(平成27年度)が6510万6184円,2016年度(平成28年度)が5340万0587円,2017年度(平成29年度)が4259万0674円であるが,このうち,雑誌広告費は,2015年度は241万5000円,2016年度は973万5515円にとどまっていることに照らすと,広告宣伝の規模は大規模であるとはいえない。もっとも,原告使用商品は,2001年(平成13年)には「A」プロデュース商品として大ヒット商品となり,その後も売上げを伸ばしていたことが認められるものの,原告と「A」との契約は2011年(平成23年)には終了しており(甲32),その後,原告使用商品の売上げが低下していることに照らすならば,「A」とのタイアップによる広告宣伝効果は現在では限定的といえる。
加えて,2020年(令和2年)1月24日時点の「Amazon.co.jp」のウェブサイトの「レディースストッキングの売れ筋ランキング」(乙27)では,1位が「アツギ」の「アツギ ストッキング引きしめて美しい(3足組)」,2位が「セシール」の「ストッキング10足組」,3位が原告の「ストッキング サブリナ なめらかゾッキPS3足組」であり,原告使用商品は,「Tuché ガーターフリーストッキング」が63位にとどまっており,また,同日時点の「楽天市場」のウェブサイトの「ストッキングランキング」(乙28)でも,1位が「ピエールマントゥータイツ」,2位が原告の「SABRINA サブリナパンストストッキング」,3位が「弾性ストッキング 着圧ストッキングシリーズ 最高着圧」であり,原告使用商品は,「Tuché 脚を細く見せる」が63位にとどまっていること(前記(1)イ(エ)a)を併せ考慮すると,前記(ア)のとおり,本件審決時において,相当数の需要者が原登録商標を原告の業務に係るストッキングを表示するものとして認識していたものと認められるものの,大半の需要者が認識しているものとはいえず,需要者の認識の程度は,著名の程度に至っているものと認めることはできない。
ウ 本件アンケートの結果について
本件アンケートは,本件審決時の7年以上前の2012年(平成24年)8月末に実施されたものであるところ,ファッションブランドには流行があり,ストッキングの分野でも,2001年(平成13年)から2013年(平成25年)にかけて,原告を含む各社から次々と新たなブランドの商品が出ていること(乙34ないし37,39,40)に照らすならば,本件アンケートは,本件審決時における原登録商標に係る需要者の認識の程度を判断する資料としては適切とはいえない。
また,前記(2)イ認定のとおり,ストッキングの需要者は,幅広い年齢層の女性であるところ,本件アンケートは,調査対象者が,「首都圏の20代ないし50代の女性」に限定されており,10代及び60代以上の女性,首都圏以外に在住する女性が調査対象に含まれていないから,本件アンケートの結果は,ストッキングの需要者の一部の認識を反映したものにとどまっている。
さらに,本件アンケートの結果をみても,「Tuché」ブランドのストッキングについては,各年代の全体では,「買ったことがある」が24.8%,「買いたい」が7.5%及び「知っているが購入したことはない」が15.0%(合計43.8%)であるのに対し,「知らない」が52.8%で,「知らない」と回答した者が過半数を占めている。
このように,本件アンケートは,実施時期が古く,アンケートの調査対象者もストッキングの需要者の一部にとどまっているため,本件審決時における原登録商標による需要者の認識の程度を判断する資料としては,適切なものではないのみならず,本件アンケートの結果においても,大半の需要者が原登録商標を認識していることを示すものとはいえないから,原登録商標の認識の程度が著名の程度に至っていることを裏付けるものとはいえない。
エ まとめ
以上によれば,原告使用商品は,2000年(平成12年)から19年以上にわたり,全国的に継続的に販売され,その売上高及び市場シェアから,原登録商標は相当数の需要者において原告の業務に係るストッキングを表示するものとして認識されていたものと認められるものの,一方で,原告使用商品の売上高は,毎年減少傾向にあり,2017年度(平成29年度)の売上高は2010年度(平成22年度)の売上高の3分の1程度であり,その市場シェアも減少傾向にあること,原告使用商品のパッケージに表示された原登録商標は,記憶や印象に強く残りやすいものとは直ちには認められないこと,原告使用商品の広告宣伝は,大規模なものとはいえず,その広告宣伝効果は限定的であること,本件アンケートは,実施時期が古く,アンケートの調査対象者もストッキングの需要者の一部にとどまっているため,本件審決時における原登録商標に係る需要者の認識の程度を判断する資料としては,適切なものではないのみならず,本件アンケートの結果においても,大半の需要者が原登録商標を認識していることを示すものとはいえないことを併せ考慮すると,本件審決時において,大半の需要者が原登録商標を原告の業務に係るストッキングを表示するものとして認識しているものとはいえず,原登録商標に係る需要者の認識の程度は,著名の程度に至っているものと認めることはできない。
また,本件においては,ストッキング以外の婦人用ソックス・タイツ及び婦人用下着の商品の関係においても,本件審決時において,原登録商標が需要者の間で原告の業務に係るこれらの商品を表示するものとして認識され,その認識の程度が著名の程度に至っていることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原登録商標は,本件審決時(審決日令和元年10月29日)において,原告の業務に係る指定商品を表示するものとして「需要者の間に広く認識されている」ものと認めることはできない。
これに反する原告の主張は採用することができない。
⑷ 小括
以上のとおり,原登録商標が本件審決時(審決日令和元年10月29日)において原告の業務に係る指定商品を表示するものとして「需要者の間に広く認識されている」ものと認めることはできないから,その余の点について判断するまでもなく,本願標章は商標法64条1項の要件を具備するものではない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。
第5 結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
(裁判長裁判官 大鷹一郎 裁判官 本吉弘行 裁判官 岡山忠広)
別紙