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裁判年月日 令和 4年 4月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令元（ワ）２８４０３号・令２（ワ）２６４７９号・令３（ワ）５８１６号
事件名 預託金返還請求事件（本訴）、業務委託料請求事件（反訴）、損害賠償請求事件
文献番号 2022WLJPCA04268005
出典
裁判年月日 令和 4年 4月26日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令元（ワ）２８４０３号・令２（ワ）２６４７９号・令３（ワ）５８１６号
事件名 預託金返還請求事件（本訴）、業務委託料請求事件（反訴）、損害賠償請求事件
文献番号 2022WLJPCA04268005
令和元年（ワ）第２８４０３号預託金返還請求事件（本訴）（以下「甲事件本訴」という。）
令和２年（ワ）第２６４７９号業務委託料請求事件（反訴）（以下「甲事件反訴」という。）
令和３年（ワ）第５８１６号 損害賠償請求事件（以下「乙事件」という。）
東京都豊島区〈以下省略〉
甲事件本訴原告・甲事件反訴被告・ 株式会社ａ
乙事件被告（以下単に「原告」という。）
同代表者代表取締役 Ａ
東京都豊島区〈以下省略〉
乙事件被告 Ａ
上記２名訴訟代理人弁護士 松田直弘
福島県郡山市〈以下省略〉
甲事件本訴被告・甲事件反訴原告・ Ｂ
乙事件原告（以下単に「被告」という。）
同訴訟代理人弁護士 藤崎雅弘
主文
１ 被告Ｂは，原告株式会社ａに対し，１０５万７６１４円及びこれに対する令和元年１０月２８日から支払い済みまで年６分の割合による金員を支払え。
２ 原告株式会社ａ及び乙事件被告Ａは，被告Ｂに対し，連帯して，８８万円及びこれに対する原告株式会社ａについては令和３年３月２７日から，乙事件被告Ａについては同月２４日から，各支払い済みまで年３分の割合による金員を支払え。
３ 原告株式会社ａのその余の本訴請求を棄却する。
４ 被告Ｂの原告株式会社ａに対する甲事件の反訴請求及び乙事件のその余の請求を棄却する。
５ 被告Ｂの乙事件被告Ａに対するその余の請求を棄却する。
６ 訴訟費用は，甲事件本訴，甲事件反訴及び乙事件を通じ，原告株式会社ａに生じた費用の１０分の３及び被告Ｂに生じた費用の２５分の３を原告株式会社ａの負担とし，乙事件被告Ａに生じた費用の４分の１を乙事件被告Ａの負担とし，被告Ｂに生じた費用の５０分の９を原告株式会社ａ及び乙事件被告Ａの連帯負担とし，原告株式会社ａに生じたその余の費用，被告Ｂに生じたその余の費用及び乙事件被告Ａに生じたその余の費用を被告Ｂの負担とする。
７ この判決は，第１項及び第２項に限り，仮に執行することができる。
事実及び理由
第１ 請求
１ 甲事件本訴
被告Ｂ（以下「被告Ｂ」という。）は，原告株式会社ａ（以下「原告会社」という。）に対し，１５３万４４００円及びこれに対する令和元年１０月２８日から支払い済みまで年６％の割合による金員を支払え。
２ 甲事件反訴
原告会社は，被告Ｂに対し，１２０万円及びこれに対する令和２年１１月１２日から支払い済みまで年５分の割合による金員を支払え。
３ 乙事件
原告会社及び乙事件被告Ａ（以下「乙事件被告Ａ」という。）は，被告Ｂに対し，連帯して，３３０万円及びこれに対する原告会社については令和３年３月２７日から，乙事件被告Ａについては同月２４日から，各支払い済みまで年３分の割合による金員を支払え。
第２ 事案の概要
１ 甲事件本訴は，原告会社が開業を予定していたシェアハウスのプロモーションに関し，原告会社が，被告Ｂに対し，機材購入費用等に充てるために１６０万円を預託したとして，現に機材購入等のために支出された額を除いた残額１５３万４４００円の返還とこれに対する令和元年１０月２８日（甲事件本訴の訴状送達日の翌日）から支払済みまでの商事法定利率年６分（平成２９年法律第４５号による改正前の商法５１４条によるもの）の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
甲事件反訴は，被告Ｂが，原告会社から上記プロモーションに関し撮影の準備及び撮影を委託され，業務委託料月額３０万円，経費分月額６０万円（初月は１５０万円）の支払が合意されたと主張し，２か月分の業務委託料６０万円及び２か月目の経費分６０万円の合計１２０万円の支払とこれに対する令和２年１１月１２日（甲事件反訴の反訴状送達日の翌日）から支払済みまでの民法（平成２９年法律第４４号による改正前のもの）所定年５分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
乙事件は，被告Ｂが，原告会社の取締役であった乙事件被告Ａから送信されたＬＩＮＥメッセージ等により精神的苦痛を被ったと主張して，乙事件被告Ａに対しては不法行為７０９条に基づき，原告会社に対しては民法７１５条に基づき，連帯して損害賠償３３０万円（慰謝料３００万円，弁護士費用相当額３０万円の合計額）の支払とこれに対する乙事件訴状送達日の翌日（原告会社については令和３年３月２７日，乙事件被告Ａについては同月２４日）から支払済みまで民法所定年３分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
２ 前提事実（争いがないか証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。）
(1) 原告会社は，不動産の売買，賃貸，管理等を目的とする株式会社であり，シェアハウスなどを運営している。
乙事件被告Ａは，令和元年当時，原告会社の取締役であったものであり，令和３年１２月１日に原告会社の代表取締役に就任した。
被告Ｂは，以前に芸能事務所に所属してタレント活動などをしており，同事務所を退所後にはフリーランスとして芸能事務所などから依頼される仕事をしていた。被告Ｂは，「Ｂ１」というイングリッシュネームを使用していた。
(2) 原告会社は，兵庫県尼崎市所在のシェアハウスを令和元年１０月に新規オープンするにあたり，プロモーションのための映像制作等を検討していた（以下，同プロモーションのための映像制作等を「本件プロジェクト」という。）。
本件プロジェクトにおいては，原告会社が運営する港区麻布十番所在のアパートメント（以下「本件建物」という。）を使用して，シェアハウスでの生活の様子や，建物屋上で住人同士がバーベキュー等のイベントを楽しんでいる様子を撮影することなどが検討されていた。
(3) 原告会社の取締役であった乙事件被告Ａは，令和元年５月１７日，被告Ｂと知り合い，本件プロジェクトについて連絡をとるようになった。
(4) 被告Ｂは，本件プロジェクトの準備のためには本件建物に居住することが必要であると考えて，同年６月１日，本件建物の居室に引っ越した。
(5) 被告Ｂは，本件プロジェクトに関し，同月６日，原告会社従業員Ｃ（以下「Ｃ」という。）に対し，「予算のデータの件なのですが，ＰＣが対応しておらず，データではなく画像で送らせていただく事ご了承いただけないでしょうか。内訳は昨日お伝えした通りです。金額が１５０万円を超えての記載ですが，予定通りの１５０万円のみで結構です。」とのメールとともに，次の内容が記載された表（以下「本件予算表」という。）を送信した（甲１）。
ア 会社設立金 ２３万円
イ 人材費（目的：ＰＲの撮影時（ギャラ代），支払日：７月１日）
・ カメラマン １５万円
・ 照明スタッフ ２万円
・ モデル ２５万円
・ スタイリスト ７万円
ウ 機材費（支払日：６月７日）
・ＰＣ １台（目的：ＰＲの動画編集） ３０万円
・ＧｏＰｒｏ ２台（目的：ＰＲ用） ６万円
・ｉＰａｄ ２台（目的：ＰＲ用） ２５万円
・携帯 ４台（目的：社用携帯） ２０万円
エ 雑費（支払日：６月１５日）
・ＢＢＱセット（目的：ＰＲの撮影時，支払日：６月１５日）
オ 交通費 ３万円
カ 生活費 １８万円
キ 合計 １７９万円
(6) 原告会社は，同月６日，１５０万円を被告Ｂの銀行口座に振り込んだ（甲２。以下，この振込金を「本件預託金」という。）。
(7) 被告Ｂは，プロモーションを行うための会社として「株式会社ｂ」との名称の会社を設立することを計画し，同月１４日頃，同社の「事業計画書」（甲１７。以下「本件事業計画書」という。）を作成して，原告会社担当者に提案した。本件事業計画書には，プロモーションの企画内容が記載されていたほか，次のとおり活動予定等が記載されていた。
ア 「活動予定表（２ヶ月先分）」との項目において，６月の予定として「○○へ転居」，「必要な機器等の準備」，「会社設立準備」，「会社設立計画書の作成」，７月の予定として「撮影準備開始」，「ａ社のプロモーション会議」，８月の予定として「一つ目のＣＭ配信」，「プロモーション内容開始」，８月後半の予定として「プロモーション内容配信（ｌｉｖｅ配信）」と記載されていた。
イ 「６月１５日現在進行状況」として，「機材の確保（準備中）」，「出演者モデル及びカメラマンへの協力交渉」，「居住スペース部分撮影協力者の撮影交渉」，「撮影に必要な部屋の装飾品（準備中）」，「外部提携者への契約書作成」，「屋上部分の建設（進行中）」と記載されていた。
ウ 「今後の進行予定」として，「屋外への撮影機材設置」，「屋内カメラの設置」，「モデル，カメラマンの確保（６月２８日までに）」，「契約書作成（対ａ社）」，「契約書作成（対 外部提携者）」，「会社設立（今月中希望）」と記載されていた。
(8) 原告会社従業員Ｃは，同年７月１７日，被告Ｂに対し，同月１９日午前１０時までに本件建物内にある私物等を撤去して居室の鍵を返還するよう求めるとともに，本件預託金残額の返還を求める内容のメールを送信した（甲４）。
(9) 被告Ｂは，同日以降本件建物の利用ができなくなり，本件プロジェクトも打ち切りになった。この間，新規会社の設立や本件プロジェクトにおけるプロモーション動画の撮影等は行われていない。
(10) 乙事件被告Ａと被告Ｂは，上記経過の中で，ＬＩＮＥで連絡を取り合うなどしており，その中には次のようなメッセージのやりとりがあった。
ア 令和元年５月２８日
（送信者） （送信されたメッセージの内容）
乙事件被告Ａ 「ところで，Ｄさんとはレズチームかな？」
被告Ｂ 「え？笑 そんな事はありませんよ！！笑 私達お互いストレートです笑」
乙事件被告Ａ 「了解。じゃ彼女セクシーなんで食事誘いますよ。」
イ 令和元年６月１８日
（送信者） （送信されたメッセージの内容）
乙事件被告Ａ 「可愛いいＢ１」
被告Ｂ スタンプ
乙事件被告Ａ 「オッパイの写メ送って！」
被告Ｂ 「それは，ダメです。笑」
乙事件被告Ａ 「僕のも送って良いよ。」
被告Ｂ 「要らないです，大丈夫です笑」
ウ 令和元年７月７日
（送信者） （送信されたメッセージの内容）
乙事件被告Ａ 「美女だけど，へんてこカラコンやめたら，って言っといて。整形もね。」
「美形が台無しに。」
被告Ｂ 「笑笑笑」
「遠回しに伝えておきます笑」
３ 争点及び当事者の主張
本件争点は，①本件プロジェクトについて原告会社と被告Ｂとの間の業務委託契約の締結の有無及び内容，本件預託金についての合意内容，②乙事件被告Ａによる不法行為の有無（被告Ｂが主張する乙事件被告Ａの行為の有無，当該行為が不法行為となるか）及び損害の額である。
(1) 争点①（本件プロジェクトについて原告会社と被告Ｂとの間の業務委託契約の締結の有無及び内容，本件預託金についての合意内容）について
（原告会社の主張）
原告会社が被告Ｂとの間で業務委託契約を締結したことはないし，報酬の合意をしたこともない。
原告会社は，本件プロジェクトについて被告Ｂと委任契約を締結することに先行して，被告Ｂから本件プロジェクトに必要な人や物を集めるために必要な予算の申出を受けたため，同経費に充てさせるために本件預託金を被告Ｂに支払った。しかし，その後，本件プロジェクトは進行せず，原告会社と被告Ｂとの間で委任契約を締結するに至らなかった。このように，本件預託金は，上記経費に充てさせるために被告Ｂに預けられたものであるから，被告Ｂは，経費として使用しなかった分を返還しなければならない。
（被告Ｂの主張）
被告Ｂは，原告会社から，本件プロジェクトについて人員を集めること，撮影内容の計画を立てること，被告Ｂ自身も本件建物に居住して入居者らへの対応や撮影をすることなどを内容とする業務を委託され，業務委託料として月額３０万円，経費相当額の支給として月額６０万円（ただし，初月は１５０万円とする。また，実費で精算するものではなく，経費が交付額を超えた場合の超過分は被告Ｂの負担とし，経費が交付額以下となった場合でも原告会社に返金する必要はないものとする。）の支払が合意された。
本件預託金は，初月の経費相当額の支給として支払われたものである。
被告Ｂは，上記業務委託契約に基づき，令和元年５月２３日から同年７月１９日までの間，上記各事務を行った。そのため，原告会社は，被告Ｂに対し，２か月分の業務委託料６０万円と１か月分の経費相当額６０万円を支払わなければならない。
(2) 争点②（乙事件被告Ａによる不法行為の有無（被告Ｂが主張する乙事件被告Ａの行為の有無，当該行為が不法行為となるか），損害の額）について
（被告Ｂの主張）
被告Ｂは，乙事件被告Ａのアないしエの行為により精神的苦痛を受け，慰謝額は３００万円をくだらない。また，弁護士費用は３０万円をくだらない。
ア 乙事件被告Ａは，被告Ｂに対し，「Ｄさんとはレズチームかな？」（令和元年５月２８日送信）と性的志向に関する質問や，「可愛いＢ１」，「オッパイの写メ送って！」（同年６月１８日送信）などの性的な内容のメッセージを送った。また，「これからのイベントにレズ集めないようにね。半年色々やったら，レズだらけ」（同年７月９日送信）と被告Ｂが集めた人物らの性的志向がレズであると決めつけてその性的志向に問題があるかのようなメッセージを送った。（以下「本件行為１」という。）
イ 被告Ｂは，乙事件被告Ａと複数回にわたり打合せを行っていたところ，乙事件被告Ａは，打合せの際，被告Ｂに対し，「Ｂ１，かわいいね。」，「今度食事に行こう。仕事は抜きで。」などと言って仕事上不必要な付き合いを求めたり，令和元年５月２８日や同年６月５日の打合せの際には，被告Ｂに対し，「僕の愛人はこれくらいもらっている。君もどう」などと愛人になるように求めてきたり，「フィリピンはいい国。いい女がいっぱいいて何度も買える。君はいくらほしいの」などと，フィリピン人とのハーフである被告Ｂがお金さえ払えば乙事件被告Ａと性的関係を持つかのような発言をした。（以下「本件行為２」という。）。
ウ 乙事件被告Ａは，被告Ｂにタレントやモデルを集めてコンパを開かせた後，被告Ｂに対して，「美女だけど，へんてこカラコンやめたら，って言っといて。整形もね。」と参加者を揶揄する内容のメッセージを送った。（以下「本件行為３」という。）
エ 乙事件被告Ａは，令和元年７月９日の打合せにおいて，被告Ｂに対し，「僕はこの半年間，５０人以上の女性中心の起業家と会った。まともに仕事できるやつがいないから，へんてこりんなやつばっかり。Ｂ１だけはできるかなと思っている。思っているけど確信がない」，「僕は，５０人以上の女性に会ってきたけど，全く無能連中ですから。パーばっかし。全員パー。なんでか分かる？仕事の企画ありますと，話をするとね。ＳＮＳ使ってインフルエンサーとかそんなこと言っている。何が言いたいかっていうと。商品を持っていない，商品とかサービスを持っていない。持っていなくて，自分たちがＳＮＳの中で遊びまくっている。勘違い女が山盛りいて，全員低能だから，何もできないまま一生終わる。」「女の人はすぐ辞めちゃうから，結婚退職とかですぐ辞めるでしょ。女の人の議論ってこういう風になるから大体。経験しているから。すごい短期間で，何か成果を上げてすごいかね稼いで逃げたいと思っているだけのことで，ずっと会社にいてやろうなんて思ってないから仕方ない。組織の中で中核に入れない。」など，被告Ｂを含めた女性を揶揄する発言をした。（以下「本件行為４」という。）
（原告会社及び乙事件被告Ａの主張）
ア 本件行為１について
乙事件被告Ａが，被告Ｂに対して，「Ｄさんとはレズチームかな？」，「可愛いＢ１」，「オッパイの写メ送って！」とのメッセージを送ったことは認めるが，その余は否認する。
乙事件被告Ａと被告Ｂとは対等な個人としての関係にあったのであり，そのような関係においてＬＩＮＥの短いメッセージのやり取りだけで不法行為責任が発生するものではない。被告Ｂは，上記メッセージに対し，「笑」と返信するなどしており，乙事件被告Ａからのメッセージを不快と感じるのではなく冗談として受け止めていることがわかる。
イ 本件行為２について
否認する。乙事件被告Ａが本件行為２にある発言をした事実はない。
ウ 本件行為３について
否認する。本件行為３にあるメッセージは被告Ｂの容姿を指すものではなく被告Ｂに対するセクハラにあたらない。また，被告Ｂは，「笑」と返信するなどしており，これを冗談と受け止めて不快と感じていない。
エ 本件行為４について
本件行為４にある発言は，被告Ｂに対して向けられたものではなく，被告Ｂに対する不法行為にならない。
第３ 当裁判所の判断
１ 前記前提事実並びに証拠（事実中に記載した証拠のほか乙事件被告Ａ，被告Ｂ）及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
(1) 乙事件被告Ａは，令和元年５月１７日，被告Ｂに対して，本件プロジェクトへの協力を依頼した。
被告Ｂと乙事件被告Ａは，同月２３日，本件プロジェクトについて打合せを行い，その結果，プロモーションを手掛ける会社を設立して，同社においてプロモーション動画の撮影等を行う方針となり，被告Ｂは，本件建物に居住しながら，会社設立，機材の調達，カメラマンや出演者の確保等の準備を行うことになった。
また，被告Ｂは，上記準備のためには会社設立費用や機材調達費用等のほか，本件建物に居住しながら準備をすることになるので生活費が必要になってくることを説明し，その費用として１５０万円は必要であることを伝えたところ，乙事件被告Ａは，これを原告会社で負担とすることを了承した。
(2) 被告Ｂは，同年６月１日，本件建物に引っ越した。
(3) 被告Ｂは，同月６日，原告会社従業員Ｃに対し，本件予算表を添付して１５０万円を請求する内容のメールを送信した（甲１）。
原告会社従業員Ｃは，同メールに対し，「本日付でＬＩＮＥで頂いた口座へ 仮払い経費１５０万円 入金予定です。」，「【機材購入について】（経理より）ａ社の資金で購入するので，所有権はａ社となります。機材を購入する場合は，本当にその商品が最安値なのかどうかを確認したいので，購入する前に事前にこの商品をこの価格で購入予定との旨，連絡ください。」と返信した。
被告Ｂは，「メール内容確認致しました。」「機材内容記載の上，連絡させていただきます。」と応じ，原告会社から１５０万円（本件預託金）の振り込みを受けた。（甲３）
(4) 被告Ｂは，必要な機材の調達，スタッフの確保，会社の事業計画書の作成などの準備にとりかかった。
被告Ｂは，本件プロジェクトに必要な機材として，同月７日，「Ａｐｐｌｅ ｐｅｎｃｉｌ」（１万０８００円），「ｉＰａｄ Ａｉｒ」（５万４８００円），「ｉＰｈｏｎｅ ｃａｓｅ」（１万４８００円），「ｉＰｈｏｎｅ」（１２万４８００円）を合計２２万１６１６円（うち消費税１万６４１６円）で購入し，また，ＢＢＱセットを１万０７７０円（税込）で購入した。
(5) 被告Ｂは，同年６月１４日頃，本件事業計画書（甲１７）を作成し，原告会社担当者に対し，新規設立予定の会社が行うプロモーションの内容として，ＣＭ撮影やイベントのライブ配信などを提案した。また，準備状況について，機材の確保や設置の準備，モデルやカメラマンへの協力交渉をしている状況にあり，今後の進行として，６月２８日までにモデルやカメラマンを確保すること，６月中に会社を設立したいこと，原告会社との間で契約書を作成することといった計画を示した。
(6) 乙事件被告Ａと被告Ｂは，同年７月９日に打ち合わせをした。
乙事件被告Ａからは，本件建物の入居者の情報をＨＰに公開して集客することなどのプロモーション案などが話された。
その中で，被告Ｂが原告会社のプロモーションにどの程度の期間関与するのかが話題になり，被告Ｂは，ほかに依頼を受けている業務もあるために半年から１年程度の期間を想定しているとの考えを示した。乙事件被告Ａは，これに対し，業務の成果が出るまでには最低でも５年くらいかかるとの考えを示し，半年から１年程度だと使えないから終わりにしようという話がされた。
被告Ｂは，乙事件被告Ａに対し，「広告に関してはどうしますか。もう打ち切りにしますか」と尋ねたところ，乙事件被告Ａからは「広告なんか何もしてないじゃない」，「そういうのはやりたいというわけですか。スポットではやるんですか。そんなの誰でもあなたではなくても撮影できるじゃないですか。なんで君がやる理由があるんですか。４階住んでいるって少し売りになりますか。」などと言われ，本件プロジェクトの実現に向けた話はされなかった。
(7) その後，原告会社従業員Ｃは，同年７月１７日，被告Ｂに対し，本件建物からの同月１９日までの退去と，本件預託金の返還を求める内容のメールを送信した。被告Ｂは，同日以降本件建物に入れなくなり，遅くとも同日には本件プロジェクトに関して被告Ｂが行っていた準備事務等は終了した。
２ 争点①（原告会社と被告Ｂとの間の業務委託契約の締結の有無及び内容，本件預託金についての合意内容）について
以下の(1)及び(2)の検討のとおり，①本件プロジェクトの業務委託については，新たに会社を設立して同社において受託することが計画されており，これに向けた準備がすすめられている段階にあったのであり，このような進行とは別途に本件プロジェクトについて原告会社と被告Ｂとの間で業務委託契約が締結されたとは認められない，②原告会社は，本件プロジェクトの業務委託に向けた準備（会社設立に関する事務，業務に必要となる機材や人材の調達）を被告Ｂに委任したといえるが，これについて報酬月額３０万円，経費相当分月額６０万円（初月１５０万円）を支給する旨の合意があったとは認められない，③原告会社と被告Ｂとの間では，被告Ｂが上記委任された準備事務を行うのに必要な期間の生活費のうち１８万円を原告会社において負担することの合意があったと認められる，④本件預託金は，同生活費負担分１８万円及び被告Ｂが原告会社から委任された準備事務を処理するのに必要な経費の前払の合計として原告会社から被告Ｂに交付されたものであり，被告Ｂは，本件預託金のうち生活費負担分１８万円については返還を要しないが，その余のうち経費として使用しなかった残金については委任事務の終了に伴い原告会社に返還しなければならないものと認められる。
(1) 原告会社と被告Ｂとの間の業務委託契約の締結の有無及び内容について
ア 被告Ｂは，その本人尋問において，令和元年５月２３日，原告会社から，ＣＭ構成の検討及び作成，出演者やカメラマンとの交渉，撮影場所のデザインとリフォーム依頼等の業務を受託し，業務委託料月額３０万円，経費相当分として毎月固定で６０万円（初月１５０万円）の支払を受けることが合意された旨供述し，同日の議事録として「本件はａ社のシェアハウスの広告の仕事を手伝うという事が決定した。」「詳細 月給３０万円 経費分６０万円 住居保証（麻布十番？） 契約書はａ社が担当，出来次第記入」などの記載がある被告Ｂ作成の議事録（乙２）を提出する。
しかし，上記合意を示す契約書等が存在しない上，前記１認定事実(1)及び(5)からすれば，本件事業計画書が作成された同年６月１４日頃の段階では，新規に設立する会社が原告会社から本件プロジェクトを受託することが計画されてこれを実行するための準備が進められていたといえるのであって，同年５月２３日の時点で原告会社と被告Ｂとの間で本件プロジェクトの業務委託契約が締結されていたというのはこのような経過にそぐわないし，被告Ｂ作成の上記議事録（乙２）の記載も将来の業務委託契約の内容についての打合せにとどまるものとみることができる。
加えて，被告Ｂは原告会社に対して１５０万円（本件預託金）の支払を求めているが（前提事実(5)，上記１(3)），その際，業務委託料を請求した様子はなく，その後も業務委託料の支払等についての具体的なやりとりがされた様子はないのであって，業務委託料の支払合意がされていたというのであれば不自然な対応といえる。
このようなことからすると，令和元年５月２３日に原告会社から本件プロジェクトを受託して，業務委託料月額３０万円，経費相当分毎月６０万円（初月１５０万円）の支払が約束された旨の被告Ｂの上記供述は採用できない。
イ 次に，被告Ｂは，会社設立の準備，機材の調達，出演者の交渉等を行い，原告会社は本件預託金を少なくとも必要な機材の調達に充てさせるために被告Ｂに支払っているのであるから（上記１(1)ないし(5)），これらの準備事務については，被告Ｂが原告会社から委託を受けて行っていたものと認められる。
そこで，同事務の委任について，業務委託料月額３０万円，経費相当分毎月６０万円（初月１５０万円）の報酬合意があったかについても検討すると，同合意を示す契約書等が存在しないことや，原告会社と被告Ｂとの間においては本件預託金の支払に関するもののほかには報酬の支払等に関する具体的なやりとりがされた様子がないことからして，本件預託金のほかに金銭を授受することの合意がされていたとは考えがたい。
このように捉えたとしても，被告Ｂは，近い将来には本件プロジェクトにおいて中心的な役割を果たすことが見込まれており，上記の準備事務は同業務の遂行に必要なものであったことや，後記(2)のとおり準備事務に必要な期間の被告Ｂの生活費の一部（１８万円）については原告会社で負担することが合意されていたことからすれば，本件預託金のほかには報酬の合意がされずに被告Ｂにおいて上記の準備事務を受託したことも不合理なことではない。
ウ ほかに，原告会社と被告Ｂとの間で，業務委託料月額３０万円及び経費相当分月額６０万円（初月１５０万円）の報酬合意をして業務委託契約を締結したことを認めるに足りる証拠はないから，同事実を認めることはできない。
(2) 本件預託金についての合意内容について
ア 前提事実(4)及び上記１(3)のとおり，原告会社から被告Ｂに１５０万円（本件預託金）が支払われるにあたっては，被告Ｂから原告会社従業員Ｃに対して本件予算表が示されているところ，原告会社からは本件予算表の内訳等について異議が述べられていない。
そこで，本件予算表の内訳をみると，その内訳に「会社設立金」，「人材費」，「機材費」，「雑費」，「交通費」とあるものについては，その名目どおりの実費としての費用が計上されたと解されるから，これらについては，被告Ｂが，委任事務を処理するのに必要な経費の前払として原告会社に請求し，原告においてこれを経費として支出することを承認したものと認められる。
本件予算表の内訳のうち「生活費」については，これ自体委任事務の処理に要する費用とはいえないが，上記１認定事実(1)のとおり，被告Ｂは，本件プロジェクトに向けた準備事務を受託するにあたり，乙事件被告Ａに対し，会社設立費用や機材調達費用等のほかに，本件建物に居住しながら準備をすることになるとして生活費が必要であると説明し，乙事件被告Ａはこれを原告会社で負担することを了承したものであり，原告会社従業員Ｃも本件予算表の「生活費」の趣旨について何ら質問等をしていない。そうすると，被告Ｂは，原告会社から受託した準備事務をおこなう期間における自らの生活費として１８万円を原告会社において負担するように求め，原告会社はこれを承諾してその支払も含むものとして本件預託金を支払ったと認めることができる。
イ この点，被告Ｂは，乙事件被告Ａとの間で，経費が１５０万円を超えた場合にはその超過分を被告Ｂが負担すること及び経費が１５０万円に満たなかった場合にも残金の返還を要しないことを合意して本件預託金１５０万円の交付を受けたと供述する。
しかし，原告会社従業員Ｃは，本件預託金１５０万円を振り込むにあたり，被告Ｂに対し，機器等はａ社の資金で購入するのでａ社の所有になることや，購入しようとする商品が最安値かどうかを確認するために事前に購入する商品と購入価格とを連絡するように申し向け，被告Ｂは，これを了解するとの回答をしているのであって（上記１(3)），このような経費の使途についてのやり取りは，被告Ｂが述べる上記合意の内容にはそぐわないものであるから，被告Ｂの上記供述は採用できない。
なお，被告Ｂは，原告会社従業員Ｃに対して了解する旨の回答をした理由について，仮払いとされていた点が良く分からなかったものの，返信しないと失礼にあたるのでその点には何も触れずに返信をした旨供述し，また，同メールの後，乙事件被告Ａに相談したところ，返還を要しないものとして被告Ｂに支払うものであることを乙事件被告Ａから原告会社従業員Ｃに伝えておく旨言われたとも供述するが，原告会社従業員Ｃは原告会社の担当者として上記メール対応をしているのであり，同人からのメールは１５０万円の金銭の交付の意味に直結する内容であったのであるから，同人からのメールに対して，内容が不明なままに了解する趣旨の返信をするということは考えられず，同供述は採用できない。
ウ 以上によれば，本件預託金は，被告Ｂが委任事務を処理するのに必要な経費の前払分と，原告会社が負担することが合意された被告Ｂの生活費相当分１８万円の合計として被告Ｂに支払われたものといえる。
よって，被告Ｂは，原告会社において負担することの合意のもとに支払われた被告Ｂの生活費相当分１８万円については返還を要しないが，その余のうち各費目の経費として使用されなかった残金を委任終了に伴い返還しなければならない。
エ なお，原告会社は，本件預託金１５０万円のほかに１０万円を被告Ｂに渡したと主張するが，乙事件被告Ａは，その本人尋問において，この１０万円は原告会社が支出したものではなく，乙事件被告Ａ個人で支出したものであり返還を要するものとして交付したものでもない旨供述していることから，上記原告会社主張の事実を認めることはできない。
３ 甲事件のまとめ
以上より，被告Ｂは，原告会社から交付された１５０万円のうち，原告会社において負担することが合意された生活費分１８万円のほか，機材購入に当てられた費用合計２３万２３８６円（上記１(4)），交通費３万円（なお，交通費については，スタッフと交渉をするなどの準備事務の内容に照らして，事務処理のための交通費として少なくとも本件予算書に計上されている３万円の支出はあったと認められる。）の合計４４万２３８６円については返還を要しないが，その余の額１０５万７６１４円については返還を要する。
よって，原告会社の被告Ｂに対する本訴請求は，１０５万７６１４円とこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
他方，被告Ｂの原告会社に対する反訴請求は，その前提となる報酬合意等を認めることができないから，理由がない。
４ 争点②（乙事件被告Ａによる不法行為の有無（被告Ｂが主張する乙事件被告Ａの行為があったか，当該行為が不法行為となるか），損害の額）について
(1) 本件行為１について
本件行為１のうち，乙事件被告Ａが，被告Ｂに対して，「Ｄさんとはレズチームかな？」とのメッセージを送ったこと，「可愛いＢ１」「オッパイの写メ送って！」とのメッセージを送ったことは，当事者間に争いがない（前提事実(10)ア，イ）。また，乙事件被告Ａが被告Ｂに対し「これからのイベントにレズ集めないようにね。半年色々やったら，レズだらけ」とのメッセージを送ったことは，乙事件被告Ａがその本人尋問において認めており，これを認定できる。
これらは，被告Ｂの意に反して性的な内容のメッセージを送信し，被告Ｂに強い不快感や嫌悪感を与えるものであり，被告Ｂの人格権を侵害するものとして不法行為となる。
なお，被告Ｂが上記各メッセージに対する返信で「笑」としていることなどをもって被告Ｂが不快に感じていなかったということはできない。
(2) 本件行為２について
ア 被告Ｂは，乙事件被告Ａから本件行為２の発言内容を言われて何度か食事に誘われたことや，被告Ａがフィリピンでは売春がしやすいとの話をした上でフィリピンとのハーフである被告Ｂに対していくら出したら一緒にベッドに行ってくれるかと聞いてきたことを供述する。これに対して，乙事件被告Ａは，これらの発言を否定する。
これらの供述について検討すると，乙事件被告Ａの本件プロジェクトの経過についての供述は，証拠と整合しない点があるなど同人の記憶があいまいになっていることをうかがわせる点があるところ，その経過の中でおこなわれた被告Ｂとのやり取りに関しての記憶も同様のものと評価できることや，乙事件被告Ａが本件行為１のとおり性的な内容のメッセージを被告Ｂに複数回送信していること，被告Ｂの上記供述の信用性に疑問を抱くような事情が見当たらないことからすると，被告Ｂの上記供述は採用できる。
よって，被告Ｂの供述により本件行為２があったと認めることができる。
イ 本件行為２は，被告Ｂの容姿に言及し仕事と無関係な付き合いを求めたり愛人になることを求め，また被告Ｂが金銭を払えば性的関係を持つ者であることを前提にいくらほしいかを尋ねて侮辱するものであり，被告Ｂに強い不快感や嫌悪感を与えるものであって，被告Ｂの人格権を侵害するものとして不法行為となる。
(3) 本件行為３について
証拠（乙４，５の３，被告Ｂ）及び弁論の全趣旨によれば，乙事件被告Ａは，被告Ｂが乙事件被告Ａに頼まれて参加者を集めてコンパを開いたこと，同コンパに参加していた女性について，被告Ｂに対して，「美女だけど，へんてこカラコンやめたら，って言っといて。整形もね。」とのメッセージを送信したことが認められる。
これは，被告Ｂが乙事件被告Ａに紹介した女性について，ことさらに女性の容姿に着目して自らの好みに合わせてほしいことを求める性的な内容の発言であり，被告Ｂに強い不快感や嫌悪感を与えるものであって，被告Ｂの人格権を侵害するものとして不法行為となる。
(4) 本件行為４について
証拠（乙６の１）及び弁論の全趣旨によれば，同年７月９日の打合せにおいて，被告Ｂが原告会社の業務に関与する期間についての被告Ｂと乙事件被告Ａの意見の相違（被告Ｂが１年程度を想定していたのに対し乙事件Ａは５年程度はやらないと成果が出ないとの意見を述べていた。）が生じた際，乙事件被告Ａが本件行為４の発言をしたことが認められる。
同発言は，ことさらに女性を取り上げて無能だと述べたり，女性は結婚退職等ですぐに辞めるから組織の中核に入れないなどと女性を差別して揶揄する内容を伝えるものであり，被告Ｂが原告会社の業務に関与する期間について被告Ｂと乙事件被告Ａとの間で上記のとおり意見の相違が生じた際になされたものであることも踏まえれば，被告Ｂに強い不快感や嫌悪感を与えるものであって，被告Ｂの人格権を侵害するものとして不法行為となる。
(5) 損害額について
本件行為１ないし４はいずれも不法行為にあたるところ，乙事件被告Ａが当時原告会社の取締役の地位にあり本件プロジェクトにおける被告Ｂとの仕事上の関係を利用して繰り返し行ったものであることや，被告Ｂの人格を侮辱する内容の発言もしていることからすると，慰謝料として８０万円を認めるのが相当である。また，弁護士費用につき８万円を相当因果関係ある損害と認める。
５ 乙事件のまとめ
上記４のとおり，乙事件被告Ａは被告Ｂに対して本件行為１ないし４について不法行為による損害賠償として８８万円の支払義務を負うところ，これは被告Ｂが本件プロジェクトに向けた準備事務を原告会社から委任され，原告会社の取締役である乙事件被告Ａが被告Ｂと打合せをし連絡をとる中で行われたものであるから，原告会社の事業の執行について行われたといえ，原告会社も民法７１５条１項により損害賠償責任を負う。
よって，被告Ｂの原告会社及び乙事件被告Ａに対する請求は，連帯して８８万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
６ 以上より，甲事件における原告会社の被告Ｂに対する本訴請求は１０５万７６１４円及びこれに対する令和元年１０月２８日からの年６分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり，被告Ｂの原告会社に対する反訴請求は理由がない。また，乙事件における被告Ｂの原告会社及び乙事件被告Ａに対する請求は連帯して８８万円及びこれに対する乙事件訴状送達日の翌日（原告会社については令和３年３月２７日，乙事件被告Ａについては同月２４日）からの年３分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
よって，主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第６部
（裁判官 望月千広）
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