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裁判年月日 平成29年 1月30日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)32207号
事件名 国家賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2017WLJPCA01308019
要旨
◆死刑確定者として拘置所に収容されている原告が、本件拘置所長が原告に対する菓子類の差入れ(本件差入れ)を認めずこれを原告に交付しなかったこと(本件不許可)は、国家賠償法1条1項の適用上違法な行為に当たると主張して、被告国に対し、慰謝料等の支払を求めた事案において、本件拘置所長は、本件差入れが実質的に、原告との関係性が不明である訴外Cを差入人とするものであることを認識しておらず、そのことが本件不許可の理由又はその前提になっていなかったとしても、本件差入れは客観的には差入制限事由に当たるものであるから、これが不許可とされても原告の権利・利益の侵害が生じるとはいえないとし、また、差入物品等を被収容者に交付することにより刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるか否かの判断を経ているものとは評価できない本件差入れにつき、その交付を求める権利・利益が原告にあるとはいえないなどとして、本件不許可の違法性を否定し、請求を棄却した事例
出典
参照条文
国家賠償法1条1項
裁判年月日 平成29年 1月30日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平27(ワ)32207号
事件名 国家賠償請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2017WLJPCA01308019
東京都葛飾区〈以下省略〉東京拘置所収容中
原告 X
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 国
同代表者法務大臣 A
同指定代理人 W1
同 W2
同 W3
同 W4
同 W5
同 W6
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成27年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,死刑確定者として東京拘置所に収容されている原告が,平成25年6月4日に原告に宛てて差し入れられた菓子類について,東京拘置所長が,差入れを認めず,これを原告に交付しなかったことが,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項の適用上違法な行為に当たると主張して,被告に対し,損害賠償金(慰謝料等)200万円及びこれに対する平成27年12月23日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実
以下の各事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により容易に認定することができる。
(1) 原告は,平成25年6月4日当時,死刑確定者として東京拘置所に収容されており,現在においても同所に収容されている者である。
(2) 弁護士であるB(以下「B」という。)は,平成25年6月4日,東京拘置所が指定する差入業者である両全会の窓口において,原告に対する菓子類の差入れ(以下「本件差入れ」という。)を依頼した。
(3) 両全会は,当該菓子類を東京拘置所の差入窓口に持参したが,東京拘置所長(以下「本件拘置所長」という。)は,本件差入れを認めないこととし,これを両全会に返戻した(以下「本件不許可」という。)。
3 争点
(1) 本件不許可が国賠法1条1項の適用上違法な行為に当たるか(争点1)
(2) 原告に発生した損害(争点2)
4 争点に関する当事者の主張
(1) 本件不許可が国賠法1条1項の適用上違法な行為に当たるか(争点1)
(原告の主張)
ア 本件不許可は,原告の生活権等を侵害するものであり,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)47条の趣旨に反する違法な行為である。
被告は,死刑確定者に対する差入れの許否は,他の被収容者に比して厳格に判断されるべきであると主張するが,死刑確定者に対する食料品の差入れが刑事施設の規律・秩序を害することなどあり得ないから,被告の主張は理由がなく,かえって,死刑確定者の心情の安定を図る見地からすれば,死刑確定者のささやかな楽しみを奪うことは許されないというべきである。
また,被告は,本件差入れをしたBと原告との間の人的関係が不明であったと主張するが,Bに対する懲戒処分は本件差入れ時には既に終了していたのであるし,Bは原告から受任していた民事訴訟に関する打合せのために原告と面会に来たものであり,本件拘置所長も当該面会を許可していたのであるから,被告の当該主張は失当である。
イ さらに,平成20年5月23日法務省令第40号は,被収容者に対する差入れについて,差入業者を,刑事施設の長が指定する業者に制限することを認めており,本件拘置所長はかかる規定に従う義務を負うところ,東京拘置所長の指定業者による本件差入れを不許可とすることは,服務規定違反に当たる。
(被告の主張)
本件不許可が国賠法1条1項の適用上違法な行為に当たる旨の原告の主張は争う。
ア(ア) 刑事収容施設法は,死刑確定者の収容の本質が外部交通の遮断を含む社会からの隔離にあること,死刑確定者の拘置が死刑の執行に対する前置手続であって,その拘置中の刑事施設における処遇上,死刑という刑罰に伴う制裁として,外部交通の自由をはく奪又は制限することも許され得ることから,死刑確定者の外部交通(面会及び信書の発受)について,未決拘禁者や受刑者の場合よりも厳格な要件を定めているところ,死刑確定者の外部交通が,その収容の目的及び性質に鑑み,他の被収容者よりも制限されることは当然のことといえる。
(イ) また,被収容者に対しては刑事施設の長による必要な物品の貸与・支給が保障されていることからすれば(刑事収容施設法40条,42条2項),信書・面会等の外部交通の重要性に比して,差入れの機会を保障する必要性は必ずしも大きくない。したがって,他の被収容者に比して外部交通をより制限すべき死刑確定者については,その差入れについても厳格に解さなければならないことは明らかである。
(ウ) 東京拘置所においては,差入れが広い意味で外部交通の性質を有することから,外部交通を許可する方針の者以外の者からの差入れについては,差入人と死刑確定者との人的関係が明らかでなく,死刑確定者に与える影響が不明である場合は,「被収容者に交付することにより,刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるもの」(刑事収容施設法46条1項1号)として,原則としてこれを認めない取扱いをしており,かかる取扱いは,前記刑事収容施設法の趣旨に鑑み合理的なものといえる。
イ(ア) Bは,平成25年3月26日に業務停止2か月の懲戒処分を受け,同月29日付けで原告から受任していた民事事件の訴訟代理人を辞任していたものであり,本件差入れの当時,原告との間の関係は不明であった。そこで,本件拘置所長は,刑事収容施設法46条1項1号に基づき,本件差入れを認めなかったのであって,かかる取扱いについて違法はない。
なお,本件拘置所長は,本件差入れと同日に,Bと原告との間の面会を許可しているが,前記したとおり,信書の授受や面会に比して,差入れの重要性が低いことからすれば,差入人について面会が許されるからといって,物品の差入れが直ちに許されるということにはならない。
(イ) また,原告の供述等によれば,本件差入れは,原告の友人であり,自身も被収容者であるCなる人物が,Bを介して行おうとしたものと解されるところ,同人と原告との間の人的関係は明らかでなく,同人からの差入れにより原告に生じる影響は不明であると言わざるを得ないから,本来,本件差入れは許されないものであったといえる。したがって,いずれにしても本件不許可は結論として適法であるというべきであって,国賠法1条1項の適用上違法と評価することはできない。
ウ なお,原告の服務規程違反の主張はその趣旨が判然としないが,刑事施設の長が差入業者を指定した業者に制限できる旨の刑事施設及び被収容者の処遇に関する規則(以下「刑事収容施設規則」という。)21条2項の規定は,指定業者からの差入れを全て許可すべき旨定めたものと解することはできないから,原告の主張はその前提を欠き失当である。
(2) 原告に発生した損害(争点2)
(原告の主張)
本件差入れは,原告と深い友人関係にあった人物が,原告に15年以上面会一つないという事実を知り,気の毒に思い,わざわざBを介して行ったものである。本件差入れが原告に届かなかったことにより,原告は一時的に当該友人を疑ってしまい,当該友人との友情が破たんするに至った。これにより原告の被った精神的・物理的損害は,少なく見積もっても200万円を下らない。
なお,被告は,原告の被った損害が,本件差入れの目的物の価額を大きく上回ることはないと主張するが,原告に生じた精神的苦痛の程度は,差入れの目的物の価額によって判断されるべきものではない。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
なお,本件差入れの目的物である菓子類の価額は3000円相当であるところ,原告に生じた損害が3000円を大きく上回ることはないと解される。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実(前記第2の2),後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1) 当事者等
ア 原告は,昭和60年3月26日,強盗殺人及び死体遺棄等事件の刑事被告人として東京拘置所に収容され,平成7年7月25日に死刑判決が確定してから現在までは,死刑確定者として同所に収容されている者である。(前提事実(前記第2の2)(1),弁論の全趣旨)
イ Bは,第二東京弁護士会に所属する弁護士であるところ,原告から民事訴訟(東京地方裁判所平成24年(ワ)第20295号損害賠償請求事件)に関する委任を受け,遅くとも平成24年3月6日から複数回にわたり,東京拘置所において原告と面会していたが,平成25年3月26日,前記弁護士会から業務停止2か月の懲戒処分を受けたことにより,同月29日付で,上記事件に係る訴訟代理人を辞任したものである。(乙1~7,原告本人)
ウ C(以下「C」という。)は,刑事施設に収容されている者であり,本件差入れ以前に,原告の親族を介して,原告との間で複数回信書のやり取りがあった者である。(原告本人,弁論の全趣旨)
(2) 本件差入れ当日の原告とBとの面会
Bは,平成25年6月4日(本件差入れと同日),面会の目的を「訴訟の件」,同人と原告との関係を「弁人」として,原告との面会を申し出たところ,同申出が許可されたため,原告との間で30分間面会を行った。(乙9)
2 本件不許可が国賠法1条1項の適用上違法な行為に当たるか(争点1)について
(1) 刑事収容施設法によると,刑事施設の長は,被収容者に交付するために当該被収容者以外の者が刑事施設に持参し,又は送付した現金及び物品が,被収容者にこれを交付することにより刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるものであるときなど,同法46条1項各号の事由(以下「差入制限事由」という。)に当たるときは,これを被収容者に対して交付せず,当該物品等を持参し,又は送付した者(差入人)に対してその引き取りを求めるべきことが定められている(同法46条)。そうすると,差入制限事由に当たる現金及び物品の引渡しを受ける権利・利益は,同法上,当然には被収容者に対して保障されていないものと解される。
そして,差入れが,差入人と被収容者との間の外部交通としての性質を有することに加え,刑事収容施設法が,前記のとおり,「被収容者に交付することにより,刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるものであるとき」(同法46条1項1号)を差入制限事由の1つとして規定するほか,「差入人の氏名が明らかでないものであるとき」(同項4号)を差入制限事由に含めている趣旨等に鑑みれば,被収容者に対する物品等の差入れが同法上許容されるには,差入人が特定されていることを前提とした上で,同差入人との関係において,差入物品等を被収容者に交付することが,刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるものに当たらないことを要するというべきである。また,同法が,死刑確定者の処遇に当たり,その者が心情の安定を得られるように留意すべき旨定めていること(同法32条)や,死刑の執行に至るまでの間,社会から隔離してその身柄を確保するという死刑確定者の収容の趣旨・目的などに鑑みれば,死刑確定者に対する差入れの許否(死刑確定者に対して行った差入れが,前記「刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがある」場合に当たるかどうか)については,死刑確定者の心情の安定を図りつつ,死刑の執行に至るまでの間,社会から隔離してその身柄を確保するとともに,拘置所内の規律・秩序が害されることを防止するため,差入れを制限することが必要かつ合理的か否かという観点から判断されるべきである。
(2)ア 被告は,本件差入れを行ったBが,平成25年3月26日に業務停止2月の懲戒処分を受け,同月29日付けで原告の提起した民事訴訟に係る訴訟代理人を辞任していたことから(認定事実(前記1)(1)イ),本件差入れ当時,原告とBとの間の関係は不明であったといえ,当該差入れは「刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがある」場合に当たると主張する。
しかし,① Bが,平成25年3月29日付けで辞任するまで,原告の訴訟代理人としての立場にあり,当該訴訟に関する打合せのため,本件差入れ以前から度々原告との面会を申し出ており,これが許可されてきたこと(認定事実(前記1)(1)イ),② Bが,本件差入れと同日(同年6月4日)に「訴訟の件」を目的とし,自らの立場を「弁士」として面会を申し出ているところ,Bの前記業務停止期間は同日の時点で既に経過しており,本件拘置所長も面会を許可していること(認定事実(前記1)(2)),③ Bは,本件差入れと同日の面会において,実際に訴訟について打合せを行っており,当該面会内容については東京拘置所も記録を取っていること(乙9)などからすれば,本件差入れの時点において,仮にBの代理人選任届が改めて提出されていなかったとしても,原告とBとの間の人的関係が明らかでないとは認められず,少なくとも,差入人をBと解した場合,同人が原告に対して菓子類を差し入れることにより,死刑確定者の心情の安定等を害するおそれがあるものと認めることはできない。
また,Bによる菓子類の差入れを許した場合に,原告の身柄の確保が困難になったり,拘置所内の規律・秩序が害されたりするおそれがあるということもできない。
したがって,Bと原告との間の人的関係が不明であることを理由に,本件差入れが「刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがある」場合に当たるとする被告の主張は失当である。
イ(ア) もっとも,原告の供述によれば,本件差入れは,CがBを介して行ったものであり,実質的にはCによる差入れであったものと認められる。また,Cは被収容者であり,原告とは実際に会ったことがなく,Bが双方の代理人を務める関係にあるというにとどまることからすると(原告本人),Cと原告との間の関係性は不明であるというべきである。
(イ) 前記(1)のとおりの刑事収容施設法の趣旨に照らせば,差入人として特定されるべき者は,実質的に被収容者に対して物品等の差入れをしようとした者と解するのが相当であるところ,本件差入れをCによる差入れとみた場合,これにより原告の心情の安定を害するおそれがあることは否定できない。したがって,同差入れは「刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがある」場合に当たるといえ,少なくとも,本件拘置所長が,その裁量に基づき,当該場合に当たると判断する余地のあるものであったというべきである。
したがって,本件拘置所長が,本件差入れが実質的にCを差入人とするものであることを認識しておらず,そのことが本件不許可の理由又はその前提になっていなかったとしても,本件差入れは,客観的には,差入制限事由に当たるものであり,本来であれば原告に対して交付されることが許されないものであったのであるから,これが不許可とされたとしても,原告の権利・利益の侵害が生じるものとはいえない。
(ウ) また,刑事収容施設法の趣旨に照らせば,同法は,刑事施設の長が,実質的な差入人との関係を踏まえ,差入物品等を被収容者に交付することにより刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがあるか否かを判断し,当該判断を経たもののみを被収容者に交付することを予定しているというべきところ,本件においては,本件刑務所長は,本件差入れの実質的な差入人を把握していなかったといえるから,本件差入れにつき,前記判断を経ているものとは評価できない。そうすると,かかる判断を経ていない本件差入れにつき,その交付を求める権利・利益が原告にあるとはいえない。
(エ) よって,本件拘置所長による本件不許可は,原告の権利・利益を侵害するものとはいえず,国賠法1条1項の適用上違法であるとの評価を受けるものではない。
(3) なお,原告は,本件差入れが東京拘置所の指定業者を通じて行われたものであることを理由に,本件不許可が服務規定違反に当たり違法である旨主張するが,東京拘置所の指定する業者を通じて行われた差入れについて,これを必ず許可すべきであると解すべき根拠はないから(刑事収容施設規則21条2項がそのような趣旨の規定であると解することはできず,そのほか,そのような趣旨を定めたものと解される法規等の存在は認められない。),原告の当該服務規定違反の主張には理由がない。
(4) したがって,その余の争点について判断するまでもなく,原告が被告に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権を有する旨の原告の主張は理由がないものと認められる。
第4 結論
以上のとおりであって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第18部
(裁判長裁判官 千葉和則 裁判官 藤原靖士 裁判官 西臨太郎)
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