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裁判年月日 令和 3年 6月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令2(特わ)1573号
事件名 公職選挙法違反被告事件
裁判結果 有罪 文献番号 2021WLJPCA06189001
要旨
◆参議院議員通常選挙において、現職の衆議院議員であって、同選挙の候補者である妻Bの当選に向けた活動全般を取り仕切っていた被告人が、Bに当選を得しめる目的で、Bと共謀の上、県内の政治家ら4名に対し、Bへの投票や投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として、現金を供与するとともに、それにより事前運動をし、単独で、県内の政治家ら96名に対し、同様の趣旨で、現金を供与するとともに、それにより事前運動をし、同選挙におけるBの選挙運動を総括主宰した者として、県内の政治家ら8名に対し、同様の趣旨で、現金を供与した事案につき、被告人は、受供与者との関係性や受供与者の立場、地域における影響力の大きさ等を踏まえて、誰が誰にいくら渡すのか検討する等、本件犯行全体を差配し、犯行の一部はBが実行したものの、大半は自らが実行しており、供与の相手方は、選挙区となる県全域にわたり、供与した金額も合計2871万7450円と多額で、極めて大規模な選挙買収といえる等として、被告人に懲役3年の実刑を言い渡した事例
出典
裁判所ウェブサイト
参照条文
刑法60条
公職選挙法129条
公職選挙法221条1項1号
公職選挙法239条1項1号
裁判年月日 令和 3年 6月18日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 令2(特わ)1573号
事件名 公職選挙法違反被告事件
裁判結果 有罪 文献番号 2021WLJPCA06189001
主文
被告人Aを懲役3年に処する。
被告人Aから金130万円を追徴する。
訴訟費用は,証人C1(第3回及び第4回公判期日分),同C2(第5回及び第6回公判期日分),同C3(第7回公判期日分)及び同C4(第8回公判期日分)に支給した分の2分の1並びに同C5に令和2年12月23日付け及び令和3年2月17日付け各支給決定により支給した分,同C6に令和2年12月23日付け支給決定により支給した分及び同C7に令和3年1月24日付け支給決定により支給した分を除き,被告人Aの負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
分離前の相被告人であるB(以下,単に「B」という。)は,令和元年7月4日公示,同月21日施行の第○○回参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)に際し,立候補を表明した平成31年3月20日頃までには広島県選挙区から立候補する決意を有し,かつ,令和元年7月4日に立候補者として届け出た者,被告人A(以下,単に「被告人」という。)は,Bの夫であり,同届出後は,同選挙におけるBの選挙運動を総括主宰した者であるが,
第1 被告人は,Bと共謀の上,Bに当選を得しめる目的をもって,別表1記載のとおり,いまだ立候補の届出前である平成31年3月30日から令和元年5月25日までの間,広島県府中市(住所省略)C8選挙事務所ほか3か所において,C8ほか3名に対し,Bへの投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として,前後4回にわたり,現金合計160万円を供与するとともに,各々それにより立候補届出前の選挙運動をし,
第2 被告人は,Bに当選を得しめる目的をもって,
1 別表2-1記載のとおり,いまだ立候補の届出前である平成31年3月下旬から令和元年7月3日までの間,広島市(住所省略)C9選挙事務所ほか94か所において,C9ほか95名に対し,Bへの投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすること,又はBへの投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として,前後113回にわたり,金員合計2416万6980円を供与するとともに,各々それにより立候補届出前の選挙運動をし,
2 別表2-2記載のとおり,立候補の届出後である令和元年7月4日から同年8月1日までの間,広島県福山市(住所省略)Fホテルほか6か所において,C10ほか7名に対し,Bへの投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすること,又はBへの投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として,前後11回にわたり,金員合計295万470円を供与した。
(事実認定の補足説明)
第1 当裁判所の判断
当裁判所が判断した内容の骨子を説明する。
1 まず,現金授受の客観的事実(交付した現金の額)について,被告人が,①C11(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号24)に渡した現金の額は50万円であると起訴されているところ,30万円であると認定し,②C12(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号59)に渡した現金の額は20万円であると起訴されているところ,10万円であると認定し,③C13(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号60,112)に渡した現金の額は1度目が100万円,2度目が200万円であるとして起訴され,その後,1度目が200万円,2度目が100万円であるとの予備的訴因が追加されているところ,予備的訴因の公訴事実を認定した。その余の客観的事実については,公訴事実のとおり認定した。
2 次に,現金授受の趣旨及び事前運動該当性については,被告人らが選挙買収の意図があったことを争っているもの(C12〔罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号59〕,C14〔罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号30,113〕,C15〔罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号80,罪となるべき事実第2の2・別表2-2の番号4〕,C16〔罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号81,108,罪となるべき事実第2の2・別表2-2の番号8,11〕,C17〔罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号87〕,C18〔罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号92,106,罪となるべき事実第2の2・別表2-2の番号7,10〕)も含め,各現金授受は,すべて選挙買収の意図でなされたものであり,いずれも事前運動に該当すると認定した。被告人らが,買収の相手方が異なり,無罪であると主張するC19(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の11)及びC20(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の23)に対する現金授受についても,各人に対する選挙買収を認定した。
また,罪となるべき事実第2の2の関係では,被告人が総括主宰者に該当すると認定した。
3 次に,Bとの共謀によるものとして起訴されている事実のうち,C8,C21,C22及びC23に対する現金供与(罪となるべき事実第1・別表1の番号1ないし4)は,被告人とBとの共謀によるものと認定したが,C24に対する現金供与(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号93)については,Bとの共謀は認められず,被告人による単独行為であると認定した。
4 なお,弁護人の,公訴権の濫用による公訴棄却を求める主張は採用できないと判断した。
5 以上の判断をした理由について,以下,補足して説明する。
第2 罪となるべき事実第2について
1 現金授受の客観的事実について
⑴ 関係各証拠によれば,罪となるべき事実第2記載のとおりの現金授受の事実が認められる。
⑵ なお,被告人がC11及びC12に渡した現金の額については,公訴事実と異なる認定をし,C13に渡した現金の額については,予備的訴因の公訴事実を認定したため,以下,その理由を説明する。
ア C11に渡した現金の額について(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号24)
検察官は,被告人がC11に渡した現金の額は50万円であるとして起訴しているところ,被告人は,C11に渡した現金の額は,2,30万円であったなどと供述している。
この点,C11は,現金が入った封筒の端のほうを少し開けて,中身を一部確認した際の中の様子や,封筒の厚み・重みから,30万円をはるかに超え,50万円程度の現金が入っていると感じた,被告人に現金を返すため,現金が入った封筒を被告人の事務所スタッフのC25に渡したところ,C25は,その場で,現金を数え始めた,その際の数えている様子や数えている時間の長さからして,現金は,30万円をはるかに超え,50万円であったなどと証言している。また,C25は,その供述調書(甲386)において,「封筒の中に入っていた現金の枚数を数えました。」,「具体的な枚数については,はっきり思い出せませんが,白色の封筒が分厚かったことや,1万円札の枚数を数えるのに時間がかかったという記憶があるので,白色の封筒の中に入っていた現金は,数十万円はあったという記憶です。」と述べている。
これらのC11証言及びC25供述によれば,C11もC25も,紙幣の枚数をきちんと数えるなどした記憶に基づいて現金の額を特定しているのではなく,封筒の厚さや重さ,札束を数えている時間の長さなどから,あくまで感覚的に,その金額を述べているに過ぎず,C25に至っては,「数十万円はあった」としか述べておらず,およそ現金の額を特定できていない。これらの証拠から,被告人がC11に渡した現金の額が50万円であったと認定するには,その根拠が薄弱といわざるを得ない。これらの証拠以外に,被告人がC11に50万円を渡したことを具体的に裏付ける証拠はない。C11の立場や経歴,被告人との関係,被告人の供述内容等を踏まえれば,被告人がC11に渡した現金の額は,30万円であったと認めるのが相当である。
イ C12に渡した現金の額について(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号59)
検察官は,被告人がC12に渡した現金の額は20万円であるとして起訴している。他方,被告人は,記憶ははっきりしないが,C12に渡した現金の額は10万円か20万円だったと思うと供述している。
この点,C12は,被告人から10万円を渡されたと証言している。同証言のほかに,被告人がC12に渡した現金の額を具体的に裏付ける証拠はない。
検察官は,被告人が現金供与の実績を正確に記載したものと考えられるリスト(甲334等。以下「リスト」という。)に「安佐北区 C12 30+20」との記載があることや他の広島県議会議員が受領した金額(少なくとも20万円)との比較を基に,被告人がC12に渡した現金の額は20万円であると主張するが,リストは,後述のとおり,被告人が自身やBが現金を渡した相手の名前やその金額を取りまとめたものと認められるものの,その記載のみで上記公訴事実の金額を特定するには不十分であり,他の広島県議会議員の受領額との比較を加味したところで,各人の立場や被告人との関係等それぞれ固有の事情があるのであって,被告人がC12に渡した現金の額の具体的な特定に足るものではなく,C12の証言を覆すものとはいえない。
よって,C12の証言に基づいて,被告人がC12に渡した現金の額を10万円と認定した。
ウ C13に渡した現金の額について(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号60,112)
検察官は,被告人がC13に渡した現金は,令和元年5月31日,つまり,1度目が100万円であり,同年7月3日,つまり,2度目が200万円であるとして起訴し,その後,1度目が200万円で,2度目が100万円であるとの予備的訴因を追加しているところ,被告人は,1度目に200万円を渡し,2度目に100万円を渡したなどと供述し,予備的訴因の方の公訴事実を認めている。
この点,C13は,被告人から,令和元年5月31日,A4サイズの封筒に入った現金をもらった,封筒の中身は確認していないが,手に伝わる感触からして,100万円の束が1つ入っているのがわかった,同年7月3日にも,同様の封筒に入った現金をもらった,封筒の中身は確認していないが,手に伝わる感触から,100万円の束が2つ,横並びで入っているのがわかり,異常だと感じた,その後,現金は同じ場所に保管し,まとめて知人に渡すなどしたと証言している。
C13が被告人から合計で300万円の現金を渡されたことは,C13の証言やC13が上記知人から返還を受けて検察官に証拠品として300万円を提出していること(甲501)などからして明らかである。また,C13の証言は,被告人から渡された現金について,いずれも,手の感触からその金額を推察するものに過ぎないが,100万円の束が1つであったか2つであったかは,その重さや感触等からして,大きな違いがあり,被告人から渡された現金が,100万円と200万円であったことは認められる。しかし,渡された現金の先後関係について,つまり,1度目に100万円を渡され,2度目に200万円を渡されたという部分については,C13が直接現金を確認するなどしていないことや各現金は同じような封筒に入れられた状態で渡されており,現金授受後,各現金が個別に扱われた形跡がないこと,各現金授受の時間的間隔がさほどないこと等の事情に照らせば,証言時においてC13が記憶違いをしている可能性は一定程度存するのであり,C13の証言をみても,その可能性を払拭できるほど明確な証言をしているとはいい難い。他方,被告人は,1度目に200万円を,2度目に100万円を渡したと供述しており,リストにおいても,「C13 200+100」との順で記載されていることを踏まえれば,被告人は,予備的訴因のとおり,C13に対して,1度目に200万円を,2度目に100万円を渡したと認められる。
2 現金供与の趣旨
次に,被告人が各人に現金を交付した趣旨について説明する。
⑴ まず,当時の選挙情勢についてみる。
本件選挙における広島県選挙区は定数2名であったところ,現職の参議院議員が2名(C26,C27)いるところに,Bが立候補を表明した。特にC26は,当選回数5回で,前回の選挙においても,次点で当選したC27が約19万票を獲得したのに対し,約52万票を獲得してトップ当選を果たしたという実績を有しており,本件選挙に向けても,平成30年7月の時点で既にD1党の公認を受け,広島県選出の国会議員等で構成されるD1党広島県支部連合会(以下「県連」という。)の支援を受けていた。他方,Bは,広島県議会議員を4期務め,広島県知事選挙に立候補したこともあったが,その支持地盤は,県議会議員の選挙区である広島市安佐南区に限られており,衆議院議員であった被告人の支持地盤も,後援会組織(名称「E1会」)が存在する,衆議院議員総選挙の選挙区の広島県第三選挙区(広島市安佐北区,同市安佐南区,安芸高田市,山県郡(安芸太田町及び北広島町))内にとどまっていた。Bは,平成31年3月になって,D1党の公認を受けたが,県連は,C26のみを支援するという方針を固めていたため,県連所属の県議会議員や市議会議員らからの支援をほとんど期待できない状況にあった。本件選挙は結果として,BとC27が当選し,C26が落選したが,本件当時,B陣営にとっては厳しい選挙情勢にあったことが認められる。
⑵ 被告人が現金を交付した時期は,平成31年3月下旬から令和元年8月1日までである。これは,BがD1党の公認を得た約2週間後の,本件選挙の公示まで約3か月という時期から,本件選挙の投開票日の約10日後までという時期である。
⑶ そして,被告人は,罪となるべき事実第2に記載のとおり,この約4か月の間に,本件選挙の選挙区となる広島県全域において,広島県内の地方議員ら合計98名に対し,合計124回にわたって,総額約2700万円の現金を交付している。
⑷ 被告人が現金を交付した相手方をみると,まず,被告人は,①広島県議会議員や広島市議会議員らの現職の地方議員のほか,元広島県議会議員,元広島市議会議員,元東広島市議会議員,元国会議員の秘書ら(以下,まとめて,「地方議員ら」という。),広島県全域の政治家等合計42名に現金を交付している。彼らの中には,各選挙において,複数回の当選を重ねている者やトップ当選を果たしている者,各地方議会において要職を歴任している者もおり,いずれも,各選挙区において,後援会組織等支持基盤を有していたり,各地域における企業や団体等に多くの知り合いがいるような者らである。被告人からすれば,彼らの協力があれば,各地域におけるBへの支援,そして多くの集票が期待できると見込める人物であった。
また,被告人は,②広島県内の被告人の後援会員やその家族,Bの支援を約束してくれた支援者ら(以下,まとめて「後援会員ら」という。)合計50名に現金を交付している。彼らは,各職能団体における役員やD1党地域支部の支部長を務める者のほか,各地域におけるいわば取りまとめ役を担っていた者が多く,また,いずれも,普段から,被告人の政治活動を支えていた者である。被告人からすれば,被告人らの依頼に応じて,本件選挙におけるBへの支援活動をしてもらうことが十分に期待できるし,かつ,その活動において,地域住民に対し大きな影響力を発揮してもらえることが見込める人物であったといえる。
さらに,被告人は,③広島県内の被告人らの事務所において活動していた人員(以下,「スタッフら」という。)合計6名に現金を交付している。彼らは,選挙運動の経験を有し,平成31年4月22日から本件選挙の投開票日直後の令和元年7月23日頃までの間,被告人らの事務所等で活動していた,まさに本件選挙のために集められた人材であった。実際の活動内容も,被告人らの指示のもと,本件選挙に向けて,Bへの支援を広げる活動等に専念していた。
⑸ そして,被告人が交付した現金の額をみると,①地方議員らには,1回あたり10万円から200万円,②後援会員らには,その多くが5万円か10万円で,最大30万円,③スタッフらは,5万円から50万円である。相手方の立場や各地域における影響力,本件選挙において期待された役割,被告人との関係性等に照らせば,それぞれBへの投票や投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として相応に見合うだけの額といえる。
⑹ 以上みたような選挙情勢,現金授受の時期,現金授受の規模や場所的範囲,現金授受の相手方の属性や立場,金額等を総合して考えれば,特段の固有の事情がない限り,いずれの者に対する現金交付も本件選挙においてBに当選を得しめる目的をもって,Bへの投票や有権者にBへの投票の働きかけを行うなどの投票取りまとめの報酬としてなされたものと認められ,すなわち,これらの現金授受はいずれも選挙買収であったと認められる。
⑺ この点,被告人及び弁護人は,後記3及び4の8名を除いて,各人に対する選挙買収の目的があったことを認めつつも,この目的は主たる目的ではなく,それ以外の様々な目的もあったとして,地方議員らとの関係性の強化,後援会組織の組織固めの目的等縷々主張するが,たとえそのような目的を有していたとしても,上記認定を覆すものではない。
3 C12ら6名に対する現金交付について
被告人及び弁護人は,以下の人物(C12,C14,C15,C16,C17,C18)に対する現金授受について,選挙買収の意図があったことを争っているため,これらの者についても,被告人に選挙買収の意図があったと認められることを説明する。
⑴ C12に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号59)
ア C12の証言を中心とする関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) C12は,Bから,平成25年の広島県議会議員補欠選挙への立候補を打診され,広島市安佐北区より,同選挙に立候補して当選した。その際,Bは,C12のD1党公認のための窓口になったり,後援者への挨拶回りにC12を連れていったりするなど,C12を全面的に支援した。そして,C12は,当選後,Bと同じ会派に所属した。その後も,C12は,連続して広島県議会議員選挙に当選し,平成31年4月施行の同選挙にも当選した。
また,C12は,被告人の選挙において,応援演説や集会への動員を行うなど被告人を支援し,被告人も,C12の選挙において,応援演説を行うなどC12を支援した。被告人は,自身が代表を務めるD1党の広島県第三選挙区支部からC12の後援会に対し,大体1年に2度,夏と冬の時期に,10万円ずつ寄附をしていた。
(イ) C12は,平成31年3月頃,県連からの通達により,Bが本件選挙に立候補することを知った。
(ウ) 被告人は,令和元年5月中旬,秘書のC1を通じ,C12に対し,C12の支援者である安佐北区内の会社役員との面会を取り付けた上,その面会に同行してほしいなどと依頼した。C12は,その依頼に基づき,同社の会長との面会を取り付け,同月29日に面会することとなった。
被告人とC12は,同日,同社で会長と面会した。そこで,被告人は,会長に対し,Bの後援会入会申込書への記入やポスターの掲示等を頼み,会長は,「できる限りのことはいたしましょう。」と答えた。被告人とC12は,会長との面会を終え,同社の建物を出ると,被告人がC12を呼び止め,駐車場にある被告人の自動車に乗るよう指示した。被告人とC12が自動車の後部座席に乗り込むと,被告人は,運転手に対し,外へ出るよう指示し,被告人とC12は,自動車内において2人きりになった。そこで,C12が,Bのポスターの掲示が増えてきているなどと話すと,被告人は,まだまだ支援が足りない,C12の後援会会長等に対し,支援を働きかけてほしいなどと話した。その後,被告人は,「これ。」と言って,現金10万円が入った封筒をC12の方に差し出した。C12は,「いえいえ,私はやって当然の立場ですから。」と言って,封筒の受取を拒もうとしたところ,被告人は,「大丈夫,大丈夫,いつものだから。」と言って,封筒の受取を促し,C12は,封筒を受け取って,自動車から出た。
(エ) C12は,Bの家族とともに,上記会社やC12の父が経営する企業の店舗等を回り,Bのポスターや後援会入会申込書,名刺等を配布したり,Bの遊説の際のウグイス嬢を紹介したりしたほか,出陣式への参加,個人演説会での応援演説,スタッフの紹介等を行った。また,前記会長も,Bのポスターの掲示等を行った。
イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC12に現金を渡した趣旨について説明する。
まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとおりであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。
そして,現金の交付時期は,本件選挙の公示日まで約1か月の時期であった。
C12は,広島県議会議員選挙に複数回当選する実績を有し,父が経営する企業も含め,地元においてC12を支援する企業が複数存在しており,被告人らからすれば,C12の協力があれば,C12の支援者を中心に,Bへの支援,そして集票を期待できるものであった。また,C12は,Bの打診を受け,広島県議会議員補欠選挙に立候補するなど,B及び被告人と親しくしており,被告人にとって,本件選挙におけるBへの支援を強く期待でき,また,その支援の依頼をしやすい関係にあった。実際,被告人は,C12に依頼し,C12の支援者の会長との面会を取り付けてもらい,そこで,同会長にBへの支援をお願いしており,同会長は,Bのポスターの掲示等を行っているし,C12自身も,企業回り等を行っている。
現金授受の状況についてみると,被告人は,C12と2人きりになる状況を作り出した上で,現金を渡しており,被告人において,この現金授受が第三者に知られたくないものと考えていたと認められる。また,被告人がC12に現金を渡したのは,C12から紹介を受けた会社の会長に対して,Bへの支援を呼び掛けた直後のことであって,現金授受の際にも,本件選挙におけるBへの支援が足りず,後援会長に働きかけてほしいなどと頼んでいることからすれば,当該現金は,C12に対し,本件選挙におけるBへの支援を期待する趣旨のものであったと強くうかがわせる。
被告人がC12に渡した現金は10万円であり,C12の立場や被告人とC12との関係性等に照らせば,Bへの投票及び投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として相応に見合うだけの額と言える。
以上みたとおり,選挙情勢,現金授受の時期,C12の立場や被告人との関係,現金授受の状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本件選挙においてBに当選を得しめる目的をもって,C12に対し,C12自身のBへの投票及び有権者にBへの投票の働きかけを行うなどの投票取りまとめの報酬として現金10万円を供与したものと認められ,当該現金授受は選挙買収であったと認められる。
ウ この点,被告人は,C12の政治活動を経済的に支援するなどの趣旨で,寄附として,現金を渡したと供述する。しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人がC12に渡した現金は,買収目的の金員と評価せざるを得ないし,過去に,被告人がC12に対し,C12の政治活動を支援するなどの趣旨で現金を渡したことがあったとしても,その評価が左右されることはない。
⑵ C14に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号30,113)
ア C14の証言を中心とする関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
C14は,C28広島県議会議員と40年来の知り合いであり,同人に頼まれ,平成27年4月及び平成31年4月の広島県議会議員選挙において,それぞれ候補者の選挙運動を手伝うなどした。
C14は,平成31年4月初め頃,C28からBの選挙を手伝ってほしいなどと頼まれ,同月22日から,Bの事務所において,その活動を開始した。当初,被告人から事務長の肩書を与えられ,Bの遊説の運行表作りや事務所内の事務の取りまとめ等を行っていたが,スタッフの間から,C14の仕事ぶりについて不満が出るなどし,令和元年6月中旬以降,これらの業務は他の者が行うようになり,C14は,選挙ポスターの掲示の取りまとめや,知人らに頼み,Bの後援会入会申込書に知人らの名前を書いてもらったり,知人らに出陣式等への参加を呼び掛けたりするほか,事務所における来客対応を行うなどするようになり,こうした活動を同年7月21日頃まで行った。
被告人は,C14に対し,①平成31年4月22日に50万円を,②令和元年7月3日に10万円をそれぞれ渡した。
イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC14に現金を渡した趣旨について説明する。
まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとおりであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。
そして,現金はそれぞれ,本件選挙の公示日まで約2か月半の時期及び公示日直前の時期に渡されている。
C14は,広島県議会議員のC28と長年の知り合いで,同人の依頼により,選挙運動に携わった経験を有する者であって,本件選挙においても,C28の依頼により,被告人らの事務所で活動するようになった。被告人も当初,事務長の肩書を与えているとおり,被告人にとって,C14は,本件選挙におけるBへの支援を広げるに当たり,精力的かつ実効的に動いてくれることを期待できる人物であったといえる。実際に,C14は,本件選挙の前の平成31年4月22日から,本件選挙の投開票日である令和元年7月21日頃までの間に,前記のとおり,本件選挙におけるBへの支援を広める活動に従事している。
そして,被告人がC14に渡した現金は50万円と10万円である。50万円を渡したのは,C14が事務長として,事務所内の取りまとめ等の活動を期待されていた時期であって,10万円を渡したのは,事務長としての仕事を外された後の時期であることなど,C14の立場や,C14に期待された活動,実際の活動状況等に照らせば,これらの金額が,Bへの投票やBへの支援を広めるための選挙運動をすることの報酬として相応に見合うだけの額と言える。
以上みたとおり,選挙情勢,現金授受の時期,C14の立場や活動時期,活動状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本件選挙においてBに当選を得しめる目的をもって,C14に対し,C14自身のBへの投票及び有権者にBへの投票の働きかけを行うなどの投票取りまとめの報酬として,各現金を供与したものと認められ,いずれの現金授受も選挙買収であったと認められる。
ウ 被告人は,①平成31年4月22日に渡した50万円は,Bが代表を務めるD1党広島県参議院選挙区第七支部の職員の給与として渡した,②令和元年7月3日に渡した10万円は,他の職員に対して,日頃の業務への労いの気持ちで現金を渡していた手前,C14にも同様の趣旨で渡したなどと供述する。
しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人が渡したいずれの現金についても,Bのために選挙運動を行うこと等に対する報酬であったと認めるほかない。
⑶ C15に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号80,罪となるべき事実第2の2・別表2-2の番号4)
ア C15の証言を中心とする関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
C15は,福山市内の建設会社の代表取締役を務めており,過去には,国会議員の私設秘書を3年間務めたことがあった。
C15は,平成31年4月中旬,同国会議員から,Bの選挙を手伝ってあげなさいと言われ,また,同月後半頃,Bから,本件選挙の手伝いを頼まれて,令和元年5月後半頃から,福山市内におけるBの事務所となる場所を探し始め,同事務所設立後は,同事務所の責任者となった。C15は,そこで,広島市内のBの事務所との連絡調整,元広島県議会議員のC29やC10に対して外回りの場所の指示をしたり,当時の内閣総理大臣秘書が来県し,企業等に挨拶し,Bのポスターや名刺,後援会入会申込書を配布する際の計画の立案やその際の運転手の手配をしたり,Bの演説会の準備や知人らに対する参加の呼び掛け,D1党の政策や本件選挙について広報するための自動車(広報車)の運行ルートの策定,選挙期間中,有権者にBへの投票を呼び掛けるための選挙はがきの配布,選挙期間中,有権者に対し電話で投票を呼び掛ける電話作戦の実施,D2党支援者カードの収集をするなどし,こうした活動を同年7月21日頃まで行った。
被告人は,C15に対し,①同年6月8日,30万円を,②同年7月15日,30万円をそれぞれ渡した。
イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC15に現金を渡した趣旨について説明する。
まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとおりであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。
そして,現金はそれぞれ,本件選挙の公示日まで約1か月の時期及び本件選挙の選挙期間中に渡されている。
C15は,国会議員の秘書を務めた経歴を有するほか,福山市内の企業の代表取締役を務めるなどしており,選挙に精通し,福山市内において,影響力を有する人物であった。Bらが直接,事務所の手伝いを依頼するなど,被告人らにとって,C15は,本件選挙におけるBへの支援を広げるに当たり,精力的かつ実効的に動き,同地域において,その影響力を発揮してもらうことが見込める人物であったといえる。実際に,C15は,本件選挙の前の令和元年5月後半頃から,本件選挙の投開票日である同年7月21日頃までの間に,前記のとおり,本件選挙におけるBへの支援を広める活動に従事している。
そして,被告人がC15に渡した現金は合計60万円と,前記のとおりの,C15の立場,C15に期待された活動や実際の活動状況等に照らせば,Bへの投票やBへの支援を広めるための選挙運動をすることの報酬として相応に見合うだけの額といえる。
以上みたとおり,選挙情勢,現金授受の時期,C15の立場や活動時期,活動状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本件選挙においてBに当選を得しめる目的をもって,C15に対し,C15自身のBへの投票及び有権者にBへの投票の働きかけを行うなどの投票取りまとめの報酬として,各現金を供与したものと認められ,いずれの現金授受も選挙買収であったと認められる。
ウ 被告人は,C15が支出したBの党勢拡大活動や地盤培養行為に関わる費用の補てんやこれらの活動への謝礼の趣旨で現金を渡したなどと供述する。
しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人が渡したいずれの現金についても,Bのために選挙運動を行うこと等に対する報酬であったと認めるほかない。
⑷ C16に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号81,108,罪となるべき事実第2の2・別表2-2の番号8,11)
ア C16の証言を中心とする関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
C16は,広島県選出の国会議員の私設秘書を務めたほか,広島県内の各級選挙の選挙運動に携わった経験を有していた。被告人とは,平成8年頃,知り合い,平成15年頃には半年ほど,被告人の事務所で働いていた。
C16は,令和元年6月7日,被告人から,本件選挙が大変なので,Bの選挙を手伝ってほしい,事務長のC14が使えないので,事務局長をしてほしいなどと頼まれ,同月8日から,Bの事務所において,その活動を開始した。C16は,広島市西区及び佐伯区,尾道市,東広島市並びに廿日市市等の地方議員や企業等のもとに行き,Bのポスターや後援会入会申込書,名刺,選挙はがき,Bを特集したD1党の機関紙等を配布して,Bへの支援を呼び掛けたり,Bの演説会への参加を呼び掛けたりするなどしており,こうした活動を同年7月21日頃まで続けた。
被告人は,C16に対し,直接又は振込により,①同年6月8日,10万円を,②同月28日,38万3490円を,③同年7月31日,38万3490円を,④同年8月1日,10万円をそれぞれ交付した。
イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC16に現金を交付した趣旨について説明する。
まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとおりであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。
そして,現金は,本件選挙の公示日まで約1か月の時期から本件選挙の投開票日の約10日後までの間に交付されている。
C16は,国会議員の秘書を務めたことがあり,広島県内の選挙運動を数多く経験するなど,広島県内の選挙に精通している人物であった。被告人が直接,C16に対し,手伝いを依頼するなど,被告人にとって,C16は,本件選挙におけるBへの支援を広げるに当たり,実効的に動いてくれることを期待できる人物であったといえる。実際に,C16は,本件選挙が差し迫った令和元年6月8日から,本件選挙の投開票日である同年7月21日頃までの間に,前記のとおり,本件選挙におけるBへの支援を広める活動に従事している。
そして,被告人がC16に交付した現金は,合計約100万円と,前記のとおりの,C16の経歴や立場,C16に期待された活動や実際の活動状況等に照らせば,Bへの投票やBへの支援を広めるための選挙運動をすることの報酬として相応に見合うだけの額といえる。
以上みたとおり,選挙情勢,現金授受の時期,C16の立場や活動時期,活動状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本件選挙においてBに当選を得しめる目的をもって,C16に対し,C16自身のBへの投票及び有権者にBへの投票の働きかけを行うなどの投票取りまとめの報酬として,各現金を供与したものと認められ,いずれの現金授受も選挙買収であったと認められる。
ウ 被告人は,いずれの現金も,D1党広島県参議院選挙区第七支部の職員の給与として渡したなどと供述する。
しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人が交付したいずれの現金についても,Bのために選挙運動を行うこと等に対する報酬であったと認めるほかない。
⑸ C17に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号87)
ア C17の証言を中心とする関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
C17は,呉市内の会社の役員を務め,また,同社の先代の社長でもある呉市議会議員の秘書を平成10年から約20年間務めていた。
C17は,平成31年4月中旬頃から,Bらから,呉市内におけるBの事務所(連絡所)の手伝いをしてほしいなどと頼まれ,令和元年6月中旬頃から,呉市内の事務所で手伝いをするようになった。C17は,そこで,有権者らに配布するBのポスターや後援会入会申込書,選挙はがき等を1セットずつにまとめる作業や,被告人らの事務所スタッフのC2が本件選挙におけるBへの支援をお願いして回る企業の紹介,Bの後援会入会申込書や選挙はがきの配布及び回収,事務所における来客対応,電話作戦の実施,Bの個人演説会に来援した国会議員の案内等を行い,こうした活動を同年7月21日頃まで続けた。
被告人は,同年6月中旬,C17に対し,5万円を渡した。
イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC17に現金を渡した趣旨について説明する。
まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとおりであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。
そして,現金の交付時期は,本件選挙の公示日まで1か月以内の頃である。
C17は,地方議員の秘書を長年務めるほか,呉市内の企業の役員を務めるなど,広島県内の選挙に精通し,また,呉市内において,大きな影響力を有する人物であった。被告人もそのことを十分に認識しており,被告人らにとって,C17は,本件選挙におけるBへの支援を広げるに当たり,実効的に動き,そして,地域において,その影響力を発揮してもらうことが見込める人物であったといえる。実際に,C17は,本件選挙の直前の令和元年6月中旬頃から,本件選挙の投開票日である同年7月21日頃までの間に,前記のとおり,本件選挙におけるBへの支援を広める活動に従事している。
そして,被告人がC17に渡した現金は5万円と,前記のとおりの,C17の立場,C17に期待された活動や実際の活動状況等に照らせば,Bへの投票やBへの支援を広めるための選挙運動をすることの報酬として相応に見合うだけの額と言える。
以上みたとおり,選挙情勢,現金授受の時期,C17の立場や活動時期,活動状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本件選挙においてBに当選を得しめる目的をもって,C17に対し,C17自身のBへの投票及び有権者にBへの投票の働きかけを行うなどの投票取りまとめの報酬として,現金を供与したものと認められ,現金授受は選挙買収であったと認められる。
ウ 被告人は,被告人の政治活動との関係で,呉市地域において人脈のあるC17とお近づきになりたいと思い,また,事務所のスタッフが食べる茶菓子代にしてもらいたいとの趣旨で5万円を渡したなどと供述する。
しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人が渡した現金は,Bのために選挙運動を行うこと等に対する報酬であったと認めるほかない。
⑹ C18に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の番号92,106,罪となるべき事実第2の2・別表2-2の番号7,10)
ア C18の証言を中心とする関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
C18は,平成7年から,愛知県の稲沢市議会議員を合計6期務め,平成29年には,衆議院議員総選挙に立候補したものの,落選し,本件当時は,議員の立場から離れていた。
C18は,令和元年6月初旬頃,友人であるC1から,選挙の経験があるスタッフが少なく,手が回らないので,事務所に来て助けてほしいなどと頼まれた。そして,同月10日には,被告人から,事務所にすぐにでも来てほしいなどと頼まれ,同月15日から,Bの事務所において,その活動を開始した。C18は,被告人から,事務局長の肩書を与えられ,被告人からの指示を各スタッフに伝え,各スタッフからの報告事項を取りまとめ,被告人に報告するほか,D2党支援者カードの集計やD2党の応援弁士をBの講演会に呼ぶ際の調整などのD2党との窓口を務めたり,Bの選挙はがきの宛て名書きや三次市長へのBの応援依頼等を行ったりし,こうした活動を同年7月21日頃まで続けた。
被告人は,C18に対し,直接又は振込により,①同年6月16日,1 0万円を,②同月28日,38万3490円を,③同年7月31日,38万3490円を,④同年8月1日,10万円をそれぞれ交付した。
イ 上記認定事実を踏まえ,被告人がC18に現金を交付した趣旨について説明する。
まず,Bらが置かれていた選挙情勢については,すでに検討したとおりであり,Bらにとって厳しい選挙情勢にあったことが認められる。
そして,現金は,本件選挙の公示日まで約1か月の時期から本件選挙の投開票日の約10日後までの間に交付されている。
C18は,地方議員を長年務め,国政選挙への立候補歴もあるなど,各級選挙に詳しい人物であった。被告人も直接,C18に対し,事務所に来てほしいと依頼し,事務局長としての肩書を与えるなど,被告人にとって,C18は,本件選挙におけるBへの支援を広げるに当たり,実効的に動いてくれることを大いに期待できる人物であったといえる。実際に,C18は,本件選挙が差し迫った令和元年6月15日から,本件選挙の投開票日である同年7月21日頃までの間に,前記のとおり,本件選挙におけるBへの支援を広める活動に従事している。
そして,被告人がC18に渡した現金は合計約100万円と,前記のとおりの,C18の経歴や立場,C18に期待された活動や実際の活動状況等に照らせば,Bへの支援を広めるための選挙運動をすることの報酬として相応に見合うだけの額といえる。
以上みたとおり,選挙情勢,現金授受の時期,C18の立場や活動時期,活動状況,金額等を総合して考えれば,被告人は,本件選挙においてBに当選を得しめる目的をもって,C18に対し,有権者にBへの投票の働きかけを行うなどの投票取りまとめの報酬として,各現金を供与したものと認められ,いずれの現金授受も選挙買収であったと認められる。
ウ 被告人は,いずれの現金も,D1党広島県参議院選挙区第七支部の職員の給与として渡したなどと供述する。
しかし,既に検討したとおり,その実質をみれば,被告人が交付したいずれの現金についても,Bのために選挙運動を行うこと等に対する報酬であったと認めるほかない。
4 C19及びC20に対する現金授受について
被告人は,C19に係る買収について,同人に現金を供与したのではなく,同人が後援会幹事長を務めていたC30広島県議会議員に現金を渡してほしいと言ってC19に預けた,C20に係る買収について,同人に現金を供与したのではなく,同人が後援会会長を務めていたC31広島市議会議員に現金を渡してほしいと言ってC20に預けたなどと供述し,弁護人は,いずれも,買収の相手方はC19やC20ではなく,これらを相手方とする現金供与の事実については無罪であると主張するので,この点についての判断を説明する。
⑴ C19に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の11)
ア C19の供述(甲4)の要旨は以下のとおりである。
C19は,E1会E2支部役員であるとともに,平成15年頃から,C30広島県議会議員の後援会幹事長も務めていた。
被告人は,平成31年3月29日,C30の選挙事務所を訪れ,C19に対し,C30の所在を確認すると,C19は,C30は不在である旨答えた。そうすると,被告人は,「ちょっと,こっち来いや。」などと言って,C19を事務所の壁際まで連れていき,「これを。」と言って,現金30万円が入った封筒をC19のジャケットのポケットに差し込んだ。C19は,「これ,いけんよ。」などと言って,封筒を手に取り,被告人の手に握らせたが,被告人は,「まあ,ええけ,ええけ。」,「色々かかるじゃろ。」,「とっとけや。」などと言って,再び,封筒をC19のジャケットのポケットに差し込んだ。
その後,C19は,この現金を自宅で保管していたが,令和元年5月上旬,被告人に返そうと思い,被告人と会った際,「これ,もらうわけには,いかんけえ。」,「お返しします。」などと言って,現金入りの封筒を被告人の方に差し出したが,被告人は,「ええ,ええ。」,「ええわいの。」,「一旦出したものは引っ込める訳にはいかんよのぉ。」,「とっとけや。」などと言って,これを受け取らなかった
被告人は,令和元年5月中旬,C19と会った際に,E3地域に住んでいる女性で,誰かBの選挙運動をしてくれる人はいないだろうかと言って,C19と親交の深かったC32の名を挙げ,C19からC32に電話をかけさせ,被告人とC32の面会をセットさせた。また,被告人は,同月中旬頃から6月初め頃,C19宅を訪れ,C19に対し,Bのポスターや名刺を複数枚渡し,これらを貼ったり,周囲に配ったりするよう依頼した。
C19は,現金を自宅で保管していたが,令和元年8月下旬以降,その一部を,自動車の整備費用や修理代等の支払に充てるなどした。その後,使用した現金分について,自分の口座から現金を引き出して,充当し,現金30万円が封筒に入っている状態にした後,検察官に提出した。
イ C19の立場からすれば,被告人から現金をC30に渡してほしいと言われれば,そのように行動するのが自然であるところ,そうした行動を取った様子はうかがわれない上,被告人から渡された現金を自ら費消したと述べるところは客観的な資料から裏付けられており(甲4・資料4,5),また,充当した現金30万円を自宅に保管していたことも客観的な資料(甲4・資料6,7)の裏付けにより認められる。これらからすると,C19は被告人から渡された現金が自分宛てのものであったと認識していたものと認められる。
そして,これを前提にC19の供述の信用性を検討してみると,現金をC19のジャケットのポケットに差し込んだ際の状況や,その後,C19が被告人に封筒を返そうとした状況についてC19が述べるところは具体的で違和感を抱かせるものはない。C19は,C30の後援会幹事長というC30の支持基盤において相応の影響力を有し,被告人の後援会員でもあること,また,被告人は,C19に現金を渡した後,C19に対して,Bの選挙運動について,C32との仲介を依頼していること(この点は,C32の供述調書(甲64)からも裏付けられる。)やBのポスターの貼付(甲4・資料2,3)等の依頼をしていることなどからすると,被告人は,当初は,C30に現金30万円を渡そうと思って,C30の選挙事務所に行ったが,C30が不在であったため,C19に対し,買収の現金を渡すこととしたのだとしても何ら不自然ではない。
以上によれば,自身が現金の供与を受けたとするC19の供述は信用できるものであり,被告人は,C30ではなく,C19を買収する意図で同人に現金30万円を供与したものと認められる。
⑵ C20に対する現金授受について(罪となるべき事実第2の1・別表2-1の23)
ア C20の供述(甲6,7)の要旨は以下のとおりである。
C20は,E1会E4支部の支部長を務めるとともに,C31広島市議会議員の後援会会長も務めていた。
被告人は,平成31年4月8日,C20の自宅を訪れ,C20に対し,C31の当選を祝う言葉をかけるなどした後,ジャケットの内ポケットから現金30万円が入った封筒を取り出し,「これは気持ちじゃけえ。」,「色々と経費がかかったと思いますから。」などと言って,封筒をテーブルの上に置いた。C20は,「経費はかかっていますけど,自分持ちじゃけえ。」,「あなたからもらうべきものじゃないけえ。」,「選挙は無事に済みました。」などと言って,封筒を被告人に返そうとしたところ,被告人は,「いや,経費がかかったじゃろ。」,「わしの気持ちじゃけえ。」などと言って,封筒をC20の方に押し戻した。C20は,「私はそういうことをしてもらう必要はないけえ。」などと言って,再度,封筒を被告人の方に移動させたが,被告人は,「いや,わしの気持ちじゃ。」,「受け取ってくれ。」などと言って,封筒をC20の方に押し戻し,すぐに,「お邪魔しました。」などと言い,その場を立ち去ろうとした。C20は,封筒を手に取り,立ち去ろうとする被告人の肩に手を置いて,「これは持って帰ってください。」などと言って,封筒を差し出したが,被告人は,封筒を受け取ることなく,そのまま,C20の自宅を出ていった。
その後,C20は,被告人から渡された現金をどうするか悩み,同月中旬,C31に相談したところ,C31は,「被告人は,わしのところにも持ってきたんで返した。」,「こりゃ,選挙違反だ。」,「返せ,返せ。」,「おそらく,わしのところに持ってきたものと同じものだろう。」,「わしが受け取らんかったから,会長さんのところに持ってきたんじゃろ。」などと言い,C20は,現金を被告人に返すべきだと考えた。
そして,C20は,現金を返すに当たり,「先日申受けました封筒の件C31議員と相談結果封筒は返戻することが最善であると後援会長の立場として決断しました。」等と記載した被告人宛ての手紙を作成した。
C20は,令和元年6月7日,「B後援会結成のつどい」の終了後,被告人が乗っていた自動車に乗り込み,現金が入った封筒と上記の手紙を封入した封筒を被告人に差し出し,「先般いただいたものは,この中に入れてあります。」,「これはどうにもならんけえ,C31先生と相談して受け取ることができないということですので,お返しします。」などと言った。すると,被告人が「いやいや,もう渡したもんじゃけえ。」などと言ったため,C20は,「いやいや,お返しします。」と言ったが,被告人は,「いやいや。」などと言った。そこで,C20は,封筒を座席上に置き,「お返しします。」などと言って,自動車から出ようとしたところ,被告人は,C20が肩に掛けていたショルダーバッグのひもに手をかけ,引っ張り,自動車内の座席に座らせた。そして,被告人は,封筒を差し出しながら,「C20さん,あなたE1会の支部長でしょ。」,「そしたら,私の話を一つ聞いてくれんかいの。」,「是非ともあなたに受け取ってもらわなきゃ困るんじゃ。」などと言った。C20は,「C31先生と話して,返せという指示を受けております。」,などと言ったが,被告人は,「私の顔を潰さんでくれ。」などと言った。その後,C20は,「そうは言われても,私は,これと関係なくBさんを応援していますし,受け取れません。」などと言ったが,被告人は,「とにかく持って帰ってくれ。」などと言った。そして,C20は,「それは,一応渡しましたよ。」,「その上で,先生がもう一度『持って行ってくれ』と言うから,今日のところは預かります。」などと言って,封筒を受け取り,自動車を出た。
その後,C20は,現金を自宅で保管し,そのまま,検察官に提出した。
イ C20の立場からすれば,被告人から現金をC31に渡してほしいと言われれば,そのように行動するのが自然であるが,C20はC31に現金を渡していないこと,C20が作成した手紙も,「C31議員と相談結果封筒は返戻することが最善であると後援会長の立場として決断しました。」と,C20自身が現金の返却を決断したという記載ぶりになっていること(甲6・資料1)からすると,C20は被告人から渡された現金が自分宛てのものであったと認識していたものと認められる。
そして,これを前提にC20の供述の信用性を検討してみると,被告人がC20に封筒を渡した状況やC20が被告人に封筒を返そうとした状況についてC20が述べるところは,具体的で違和感を抱かせるものはない。C20が,C31の後援会長というC31の支持基盤において相応の影響力を有し,また,被告人の後援会員でもあり,実際にBのポスターの貼付をしたり,Bの名刺をE4地域の全ての家のポストに入れたり,Bのために選挙はがきに記入をしたりするなど(甲6・資料4ないし7),積極的にBの選挙応援の活動をしていることなどからすれば,被告人がC20に買収の現金を渡したとしても何ら不自然ではない。
以上によれば,自身が現金の供与を受けたとするC20の供述は信用できるものであり,被告人は,C31ではなく,C20を買収する意図で同人に現金30万円を供与したものと認められる。
5 事前運動の該当性について
前記のとおり,Bの立候補届出前における,被告人による各人に対する現金の授受は,いずれも,Bの当選を得しめる目的をもって,Bへの投票,投票取りまとめなどをすることの報酬としてなされたものであることからすると,これらの被告人の行為が事前運動に該当することは明らかである。
6 総括主宰者について
関係各証拠によれば,被告人は,本件選挙に向けて,事務所スタッフの担当業務を割り振り,具体的な活動内容について指示して実施させ,その結果の報告を受けていたことが認められる。また,会計担当者に対しては,詳細に会計報告をさせ,業者への支払いについて指示をするなどし,他にも,スタッフの働きぶりを見て,配置転換を行ったりするなどしており,経理や人事も掌握していたことが認められ,本件選挙の公示後もその立場は変わらないものであったと認められる。
以上によれば,被告人は本件選挙におけるBの当選に向けた活動全般を取り仕切る立場にあったことは明らかであり,Bの立候補届出後においては,選挙運動を総括主宰した者と認められる。
第3 罪となるべき事実第1について
1 C8,C21,C22及びC23に対する現金授受について(罪となるべき事実第1・別表1の番号1ないし4)
⑴ 現金授受の客観的事実について
関係各証拠によれば,Bが,罪となるべき事実第1記載のとおり,C8ら4名に現金を渡した事実が認められる。
⑵ 各現金授受の趣旨等について
BがC8ら4名に現金を交付した趣旨についてみると,当時の選挙情勢や現金授受の時期,C8らの立場,金額等を踏まえれば,選挙買収の趣旨であると認められ,かつ,これらの現金供与は,本件選挙の立候補届出前に行われた事前運動に該当すると認められる。
⑶ 被告人との共謀について
次に,これらが被告人とBとの共謀によるものかについて説明する。
ア 関係各証拠によれば,被告人は,「広島県議会議員(定数64人)」と題し,広島県議会議員の選挙区や会派,氏名等が記載された書面及び「会派別一覧(平成31年3月6日現在)」と題し,広島市議会議員の選挙区や会派,氏名等が記載された書面(甲334等。以下,この2つの書面を併せて「名簿」という。)を所持し,手書きで文字や数字等を記入していたことが認められる。
また,被告人は,「安佐南区 C33 50」の記載で始まり,同様に広島県内の地名・人名・数字が2頁・46行にわたって記載された書面(甲334等。この判決で「リスト」と呼ぶもの)を作成,所持していたことが認められる。
(ア) まず,リストの内容についてみると,その記載内容のうち,当公判廷で証言したり,供述調書が取り調べられて,現金の授受について証拠上明らかになっている者を抜き出してみると,
安佐南区 C33 50
C9 30+20
C34 30
安佐北区 C35 30+20
C36 30+20
C37 30
安芸高田市 C38 30+20
C39 20
C40 10
北広島町 C41 30+20
C7 20
安芸太田町 C43 20
C44 20
中区 C45 30
西区 C46 30 +20
C47 30+20
佐伯区 C48 50+20
C49 30
C50 20
廿日市市 C51 10
江田島市 C24 10
中区 C52 30
南区 C53 30+20
安芸区 C6 30+20
C54 30+20
呉市 C23 50+50+100
C55 30
三原市 C5 50+100
C56 30
尾道市 C57 30
C58 30
福山市 C10 30+30
C29 30+30
安佐北区 C12 30+20
安芸郡 C21 30
C59 30
東広島市 C22 50
府中市 C8 30+20
C13 200+100
と記載されている。
これらの人名は,広島県議会議員や広島市議会議員らと認められ,これらの数字に万円の単位を付すと,C12を除き,当裁判所が認定した各人への現金交付とほぼ一致する。数字が複数記載されている者についてはその順序も同じである(なお,C38については,2回目に受け取った30万円のうち,10万円を被告人の陣営に返却しているので,これを差し引いた数字と一致している。C46については,数字の順序が当裁判所の認定した順序と逆である。)。そして,このリストの電子データは,被告人による現金供与が開始された後の平成31年3月30日に作成が開始され,その後令和元年7月29日まで40回近く改訂されていること,C38への現金供与のように,現金の一部を返却した結果の金額が記載されていたり,C60やC61,C11,C62のように,被告人に現金全額を返却した者についてはリストに記載がないことなども加味して考えると,このリストの内容は,被告人が,自身やBが現金を渡した相手の名前やその金額を取りまとめたものと認められる。
(イ) 次に名簿について,その記載内容をみてみると,名簿には,氏名等が記載された列の欄の横などに,「A’」や「B’」,「50」等,被告人による文字や数字等の書き込みが複数存在する。なお,「A’」は夫婦間における被告人の呼称であり,「B’」は夫婦間におけるBの呼称と認められる。
そして,被告人が現金を渡した者のうち,C61,C46,C37,C9,C35,C49,C33,C36,C48の欄の横には,「A’」という記載がある。また,名簿の余白部分には,「C44 20 A’」,「C7 20 A’」,「C39 20 A’」,「C40 10 A’」との記載があるが,これらの者には,被告人が実際に,これらの数字に万円を付した額の現金を渡している。
Bが現金を渡した者についてみると,C8,C21,C22の欄の横には「B’」という記載があり,C23の欄の横には「50 A’ 祝」という記載がある。C23には,Bも現金を渡しているが,それに先立って,被告人が現金50万円を渡している。
C63のように,名簿の同人の欄の横には「50 B’」との記載があるが,Bや被告人からの現金供与の申出があったもののこれを拒絶した者や,C62のように,名簿の余白には「C62 20 B’」との記載があるが,被告人から現金を受け取ったものの返還した者もいる。
一方,被告人が現金を渡した者でも,C12やC57,C47,C6の欄の横には「B’」との記載があるなど,名簿の記載と実際に現金を渡した者に違いがあるものも存在する。
このような名簿の内容や実際の現金授受の状況に照らせば,名簿は,被告人が,実際の現金交付に先立って,誰に対して,被告人とBのうちどちらが現金を交付するか,また,その額をいくらにするかなど検討した過程が記載されたものと認められる。
イ 以上の認定事実を踏まえ,Bが現金を交付したC8ら4名についてみると,まず,被告人が作成・所持していたリストに,Bが交付した金額どおりの記載があるのであるから,被告人がBからそれらの交付について事後に報告を受けていたことは明らかである。
そして,名簿の記載からも分かるように,被告人は,広島県議会議員や広島市議会議員への現金交付について,Bとの役割分担を含めた全体の構想を練っていたこと,また,Bが実行した現金交付について,その結果の報告を受け,自身による現金交付を取りまとめていたリストにBによる現金交付の分も記入して,現金交付の結果をBの分も含めて把握していたことからすれば,C8ら4名に対する現金交付について,被告人はBと意を通じていたと推認するのがごく自然である。特に,C8,C21及びC22は,名簿には「B’」とBの呼称を示す文字が記載されているところ,そのとおりBによって実行されているのであって,上記推認を強く裏付ける。C23については,名簿には「A’」と被告人の呼称を示す文字が記載されているが,C23に1回目に現金を渡したのは被告人であり(罪となるべき事実第2・別表2-1の番号16),また,そもそも,前記のとおり,名簿の記載どおりにすべて事を運んだわけでもなく,上記推認を覆すようなものでもない。
そして,罪となるべき事実第2の項で説明した諸事情に照らせば,C8ら4名への現金交付について,被告人において,選挙買収の意図があったことは明らかである。
以上によれば,BによるC8ら4名に対する現金供与は,被告人との共謀によるものと認められ,被告人には,C8ら4名に対する選挙買収及び事前運動の罪が成立する。
2 C24に対する現金供与におけるBとの共謀について(罪となるべき事実第2の1・別表2―1の番号93)
⑴ 関係各証拠によれば,被告人が,被告人の指示を受けたC2を介して,C24に対して現金10万円を交付した事実が認められる。
そして,既に検討した当時の選挙情勢や現金授受の時期,C24の立場,金額等を踏まえれば,被告人によるC24に対する現金の交付は,選挙買収の趣旨であり,かつ,Bの本件選挙の立候補届出前に行われた事前運動に該当すると認められる。
⑵ 検察官は,被告人によるC24に対する現金供与はBとの共謀に基づいて行われたものであるとして起訴をしているが,そのような共謀は認められないと判断した理由について説明する。
C2の証言によれば,C2は,被告人の指示に基づいて,G市民センターで行われたカラオケ大会の会場でC24に現金10万円入りの封筒を渡したこと,それに先立ち,Bに対し,被告人から預かっている封筒をカラオケ大会の日に渡すことになったと伝えたことや,カラオケ大会の会場で,Bに対し,現金の入った封筒を示しながら,被告人から預かっているものをC24に渡さないといけないと伝えたことが認められる。
これらの事実に加え,Bが,被告人と共謀の上,既にC8らに対して選挙買収の趣旨で現金を供与していたことなどからすれば,Bは,被告人の指示を受けたC2がC24に対して選挙買収の趣旨で現金を供与するかもしれないと推知していた可能性はあるが,被告人のC2に対する指示の具体的な内容や封筒の中身を了知していなかったことからすると,C24への現金供与を確定的に認識していたものとは認められない。
そして,C2は,被告人の指示に従って,C24に現金入りの封筒を渡したのであり,Bは,C2がC24に現金を渡したカラオケ大会の会場内にいただけであって,その現金授受に関し,積極的に関与したり,強い影響を及ぼしたりしたような事情も証拠上認められない。
C24への現金供与について,被告人とBとの間に共謀を認めるに足りる立証はなされていない。
よって,被告人によるC24に対する現金供与について,Bとの共謀は認められない。
第4 公訴権濫用の主張について
1 弁護人は,①本件起訴は,被告人らと対向犯の関係にある受供与者について1人も起訴されていない著しく均衡を欠くもので,憲法14条に反する差別的な訴追である,②本件起訴までの受供与者に対する検察官の取調べには,検察官が受供与者の起訴・不起訴の処分をあえて決めない状態にして,受供与者に検察官の意に沿うような供述をさせるなど極めて重大な職務違反が認められるといった理由を挙げて,本件起訴は,検察官の訴追裁量を大きく逸脱したもので,公訴権の濫用として公訴棄却されるべきであると主張する。
2 しかし,①現時点で受供与者が1人も起訴されていないとしても,被告人が行った本件犯行の性質及び内容,その規模等からすれば,被告人に対する本件起訴が不公平で検察官の訴追裁量権を逸脱するものとは到底いえない。また,②関係各証拠をみても,本件起訴に至る捜査の過程に,公訴提起の効力に影響を及ぼすような職務違反があったと見受けられる事情は存在せず,弁護人の主張はその前提を欠いている。
よって,弁護人の主張は採用できない。
(量刑の理由)
本件は,参議院議員通常選挙において,現職の衆議院議員であって,同選挙の候補者である妻・Bの当選に向けた活動全般を取り仕切っていた被告人が,Bに当選を得しめる目的で,①Bと共謀の上,広島県内の政治家ら4名に対し,Bへの投票や投票取りまとめなどの選挙運動をすることの報酬として,現金を供与するとともに,それにより事前運動をし,単独で,②広島県内の政治家ら96名に対し,同様の趣旨で,現金を供与するとともに,それにより事前運動をし,③同選挙におけるBの選挙運動を総括主宰した者として,広島県内の政治家ら8名に対し,同様の趣旨で,現金を供与したという事案である。
被告人は,受供与者との関係性や受供与者の立場,地域における影響力の大きさ等を踏まえて,誰が誰にいくら渡すのか検討するなど,本件犯行全体を差配した。犯行の一部はBが実行したものの,大半は自らが実行している。供与の相手方は,選挙区となる広島県全域にわたっており,その実人数は合計100名と極めて多く,供与した金額も,それぞれ1回当たり5万円から200万円,合計2871万7450円と多額であり,極めて大規模な選挙買収といえる。供与に当たっては,現金の受領を拒む者に対して,何度も受領を迫ったり,無理やり受け取らせたりするなど,悪質な態様に及んでいるものも少なくない。
弁護人は,被告人が犯行を認めている大半の事件について,被告人に,Bの当選を得たいという目的があったことは否定しないが,その目的は主たるものではなく,各受供与者に応じ,それぞれ別の正当な目的もあったことを量刑上重視すべきであると主張するが,弁護人の主張を前提にしても,Bの当選を得たいという目的が被告人にあったことは紛れもない事実であり,厳しい非難が向けられることに変わりはない。
以上によれば,本件は,民主主義の根幹である選挙の公正を著しく害する極めて悪質な犯行といえ,被告人が負うべき刑事責任は重く,同種の選挙買収の事案の中でも,際立って重い部類に属する事案といえる。
また,被告人は,本件犯行後,証拠を隠滅する行為に及んでおり,犯行後の情状もよくない。
被告人が,被告人質問の段階に至り,犯行の大半を認めるなど,被告人なりに反省の態度を示していることを考慮しても,被告人には,相当期間の実刑に処するのが相当である。
なお,被告人は,身柄拘束期間中に受領した議員歳費相当額(700万円)について,国庫への返納ができない代わりにH養護施設財団に寄附をしているが,上記のような寄附に至る経緯などに鑑みれば,本件犯行についての刑を減ずべき事情とはしない。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑 懲役4年,追徴150万円 弁護人の科刑意見 刑の執行猶予)
東京地方裁判所刑事第4部
(裁判長裁判官 髙橋康明 裁判官 品川しのぶ 裁判官 渋谷俊介)
(各別表省略)
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